【春足】(2)

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その日、青山広紀は、フリルたっぷりの可愛い白のブラウスに女学生のような紺色のフレア・ワンピースを重ね着し可愛くメイクした。
 
「おお、可愛い可愛い」
と母が喜んでいる。父親は何も言わなかったものの明らかにドキッとした様子である。自分の娘(息子?)に一瞬欲情したとは、口が裂けても言えない。
 
やがて上等のメンズスーツを着た藤尾歩がRX-8で迎えに来てくれた。歩は広紀の両親に挨拶して広紀を連れ出した。
 
歩との交際は双方の両親が認めている。歩はすっかり広紀の兄たちと仲良くなり青山家に泊まっていく時は、彼らと結構飲みながらスポーツの話とか猥談!?とかまでしているようである。一方、広紀も歩の両親には気に入られてる。
 
「この子、お嫁さんには行ってくれなさそうと思ってたけど、広紀ちゃんとはお似合いね」
 
などと言っている。ただ結婚した後、子供を産むのは歩なのか広紀なのかが双方の両親も不確かなようだ!
 

ふたりはまず病院に行った。
 
この日は3回目の精子採取をして冷凍してもらった。
 
「これでいつでも去勢していいよ。何なら今から手術受けに行く?」
「今から?」
「だってヒロも25歳になっちゃったからさ。早く玉は取らないと、男っほくなっちゃうよ」
 
正直、広紀はふらふらと去勢手術を受けてしまわないか、自分が不安である。
 
「僕男っぽくなっちゃいけないんだっけ?」
「ヒロは可愛い女の子になれると思うよ。なんなら一気に性転換手術しちゃう」
「え〜!?」
 

歩が運転する車の助手席で、唐突に変なことを妄想してしまう。
 
「ヒロはもう潔く女の子になりなさい」
「やめてー助けて」
「私はヒロにちんちん無くても大丈夫だよ」
「フィアンセさんもこう言ってるなら、諦めて女の子になるといいね」
などと女医さんが言っている。
 
「手術はちんちんとタマタマを取って、代わりに卵巣と子宮と膣を埋め込むだけの簡単な手術だから。1時間もあれば終わりますよ」
「ちんちん取りたくないよぉ」
「ちんちんの代わりにちゃんと割れ目ちゃんも作ってあげるから」
「子宮もできるなら、私の赤ちゃん産んでもらおうかな」
「ああ、ちゃんと産めるから大丈夫ですよ」
「そんなの嫌だよぉ」
 
「だってこんなに可愛いんだから、女の子になるべきですよねー」
「普段からもう女の子の格好してるんでしょ?だったら本当の女の子になってもいいじゃない」
「僕は男の子だよー」
「だから女の子になるんでしょ?」
「ヒロが女の子になってくれたら、温泉にも一緒に入れるし」
「あら、それいいわね」
 
「では先生お願いします」
と歩が言う。
 
「分かりました。じゃ君、これから手術して立派な女の子にしてあげるね」
と女医さんは言うと、広紀に麻酔の注射を打った。
 
「目が覚めた時はもう女の子になってるよ」
という声を聞きながら広紀は意識が薄れていった。
 

「どうしたの?本当に性転換手術してくれる病院に連れていこうか?」
 
少し考え事をしていたふうの広紀に歩が言った。
 
「僕、本当に女の子になりたい気持ちとか無いんだけど」
「何を今更。恥ずかしがることないんだからね。女の子になるのは別に悪いことじゃないんだから。お母さんも認めてくれてるじゃん」
「母ちゃん、僕のこと誤解してる」
「理解してるんだと思うな。だって女の子の服を着るとこんなに可愛くなるし」
「僕、女の子の服を着たい気持ちもないんだけど」
「それはさすがにジョークが過ぎる」
と笑ってから、歩は言った。
 
「でも取り敢えず去勢しようよ」
「うーん・・・」
 
「来年の4月か5月に結婚するとして3月くらいまでには性転換だな」
「ひぃー」
 

示野のイオンタウンに行き、空いている所に車を駐める。マスクをして建物の中に入ろうとした時。
 
広紀は突然転んでしまった。
 
「大丈夫?」
と言って、歩が手を取ってくれる。
 
「ありがとう。結構痛かった」
などと言っていたら、27-28歳の女性が近づいてくる。
 
「大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫・・・・」
と言いかけて、広紀はその女性を認識し、穴があったら隠れたい気分になった。
 
「青山君!?」
と皆山幸花は驚いたように声をあげた。
 

パンと飲み物を買ってきて、幸花のMazda3 の中で少し話した。
 
「でも青山君、女の子の格好すると凄く可愛くなるねー」
と幸花。
「可愛いでしょ。だからいつもこういう服を着せちゃうんですよ」
と歩。
 
「でもさっき転んだのは、やはりスカートにまだあまり慣れてないから?」
と幸子が訊くと
「そんな訳無いです。この子、毎日スカートで勤務してますから」
と歩が言う。
 
「え〜!そうなの?」
 

それで双方名刺を交換した。
 
「こちら僕のフィアンセの藤尾歩(あゆみ)です」
「こちら僕が大学時代にテレビ局でバイトしてた時の同僚で皆山幸花さん」
 
と広紀が双方を紹介する。
 
「青山君の名刺が物凄く可愛い」
「私や広紀が所属している部署は女子のみで構成しているんですよ」
「じゃ、青山君は女子社員になっちゃったんだ?」
 
「社員証見せなよ」
「あ、うん」
 
彼が見せてくれた社員証では、女装の可愛い写真が貼ってあるし、性別も女と印刷されている。
 
「ついでに免許証も」
 
それで青山君が見せてくれた免許証もちゃんとお化粧した写真が入っている。
 
「もしかして、その髪は自毛?」
「そうですよ」
 
青山は胸くらいまであるロングの髪の毛にふわっとパーマを掛けている。
 

「でもゴールドなのね」
「うん。大学1年の時に免許取ったから、3年後の大学4年の時に更新してブルーになって、3年後の今年ゴールドになった」
 
「ゴールド維持は偉い」
「免許証がゴールドになったから、お股のゴールドは無くてもいいじゃん、取ろうよと言ってるんです」
「ああ、まだ去勢してないんだ?」
 
「うちの部署、男の娘が何人かいますけど、広紀以外は全員去勢してるんですよ。広紀もさっさと去勢すればいいのに」
 
「取りたくないよぉ」
「だって、タマタマがあったら、その内男っぽくなっちゃうじゃないですか」
「ああ、確かに玉は取った方がいいかもね。もったいないもん。こんな可愛いのに」
 
「ほら、元先輩も言ってくださってる(*3)。今から病院に行ってタマタマは取ろう」
「今からなの〜?」
 
(*3)実際は幸花と広紀は同学年。
 

「来年の4月か5月には多分もうコロナも落ち着いてるだろうし、そのあたりで結婚式あげようと言ってるんですけど、結婚式では私がタキシード着るから、広紀にはウェディングドレス着なよと言ってるんですよ」
と歩が言うと
「え〜〜!?」
と広紀は言うが、幸花も
「おお、それは良い。青山君のウェディングドレス姿ぜひ見たい」
などと言っている。
 

「でもスカートに慣れてるならさっき転んだのは?」
「あれ突然誰かに足首つかまれたような気がしたんですよ」
 
幸花がピクッとする。
 
「スカート穿いた女の足首をつかむなんて痴漢だから思いっきり蹴り上げるか踏んづければ良かったのに」
と歩。
 
「いやいきなりだから、蹴ったり踏む時間は無かったと思う」
と広紀。
 
幸花は一瞬“妖怪足つかみ”への対処法があったかと思ったが、確かに蹴ったり踏んだりする時間は無さそうだ。
 
「ね、ね、今『北陸霊界探訪』で“妖怪足つかみ”を追いかけてるのよ、さっきの転ぶところを再現ドラマにしたいんだけど、もう一度転んでくれない?」
 
「え〜?」
「妖怪鍋つかみ?」
「鍋つかみじゃなくて足つかみね」
 

青山は女装している所を映されるのは恥ずかしいと言ったのだが、歩が
「日常的にその格好で仕事してるんだから、今更恥ずかしがる必要ない」
と言い、結局彼(彼女?)は再度さっきのを思い出すようにして転んでくれた。それを幸花がいつも持ち歩いているLumixで撮影した。
 
なお、建物の玄関でやるとお店からクレームが来るかも知れないということで、駐車場で撮影は行った、
 
「これ結構痛いんだけど」
「万一それで地面に衝突してちんちんが折れても、ちゃんと結婚してあげるから」
 
「ちんちん折れたら痛そう」
と広紀。
 

「痛かったら、もう根元から切っちゃえばいいね」
 
「藤尾さんは彼にちんちんなくてもいいの?」
「全く問題無いです。セックスでは私が男役だし」
「なるほど。だったらちんちん無くてもいいね」
 
「結婚式までに全部取っちゃえばいいとも言ってるんですけどね。せっかくウェディングドレス着るなら、中身も立派な女の子になっておけばいいですよね」
 
(もうウェディングドレスを着ることが確定?)
 
「ああ、それもいいんじゃない」
「ちんちんは取りたくない」
「使ってないくせに。だってトイレは女子トイレだし、セックスの時も別に射精しないし」
「入れられてるとドライで逝くんだよぉ」
「じゃ無くてもいいね」
「僕が男役できなくなる」
「男役では私の中で逝けないじゃん」
「オナニーができなくなるよう」
「女の子オナニーを覚えればいいね。性転換した**君(*4)は女の子オナニーの方が男の子オナニーより10倍気持ちいいと言ってたよ」
 
幸花はこんなに赤裸々(死語?)にふたりの性生活の話を聞いていいのか?と思った。
 
(*4) 広紀たちの事務所には、男の娘が広紀も含めて6人いたが、内1人が昨年性転換手術を受け、戸籍上も女性になって男の娘社員は5人に減った。なおこの事務所では性転換手術を受けた場合3ヶ月〜半年は休職できて、その間は通常給与の8割がもらえる。手術代も半額が補助される。女子の場合も妊娠した場合出産予定日の3ヶ月前から出産後半年は休職できて、やはり給与の8割がもらえるし、出産費用の半額が補助される。
 

彼らとは1時間ほど話してから別れたのだが、ひょっとしたら、その日の内に青山君の睾丸は消滅したかも知れない、と幸花は思った。
 

今年のあけぼのテレビ秋の企画・アニメ付き朗読劇だが、次の4本が制作された。
 
9月04日(土)『どんぐりと山猫』(常滑舞音・白鳥リズム)
10月03日(日)『鶴の恩返し』(ラピスラズリ)
10月31日(日)『あべこべ物語』(水森ビーナ)
11月23日(祝)『不思議の国のアリス』(姫路スピカ)
 
『どんぐりと山猫』は舞音が熊谷でアルバム制作中だった8月14日に、白鳥リズムやリセエンヌ・ドオ、長浜夢夜、それに信濃町ガールズ関東のピックアップメンバーが熊谷に集まり、収録している。
 
このシリーズは基本的には先に朗読劇を収録し、それにあわせてアニメを制作する方針だったのだが、舞音の時間がなかなか取れず放送半月前になったので、この作品だけはアニメ先行になった。
 
『鶴の恩返し』は『どんぐりと山猫』の翌日に大田区サテライトで収録された。ラピスラズリの他には出演者は西宮ネオン(おじいさん役)と夢島きらら(商人役)のみで、4人だけで収録している。§§ミュージックには戸籍上男子のタレントは何人もいても男声の出る子が少ないので、きらら(弘原如月)は貴重な戦力である。
 
きららは、本当は女の子になりたいので、女声の練習をしているものの、なかなかうまく出せないと言っていた。今回の収録にも女子制服姿でやってきて(クロムに乗せられたらしい)、「可愛いじゃん」と町田朱美に言われて照れていた。
 
彼女は朗読劇ではバリトンボイスを使っていたが、普段の会話では同じ男声でもオクターブ上の声で話すので、女子制服を着ていたら、多くの人は普通に女子高生と思う。更にこの夏喉仏を削ってしまったので、見た目だけでは男とバレることは、まず無い。
 

『あべこべ物語』は水森ビーナ主演なのだが、彼は本当に忙しい。彼の8月以降の主なスケジュールを見るとこうなっている。
 
6-8月 毎週土曜は『シンドルバッド』の撮影
7/19-8/10 常滑真音の音源制作に付き合う
8/12(木) ビーナ自身のデビューシングル音源制作
8/15-16(日月) 小浜でアクアのネットライブの司会
8/28-29(土日) 仙台で高崎ひろかのネットライブのゲスト(シンドルバッドの撮影終了後に移動)
8/31(火) ネットフェスで山本コリン・水谷姉妹とセットで歌う。
9/03-11 『青い鳥』撮影。(ミチル役)
9/04 熊谷でガラスの家CM制作
9/13-25 『ピーターパン』撮影。(ジョン役)
 
といった感じである。結局この朗読劇『あべこべ物語』の収録は、ΛΛテレビの『ピーターパン』の撮影が終わった後、9月26日(日)に大田区サテライトで行われた。
 

『あべこべ物語』(別名『あべこべ玉』『ポンポコ玉』)はサトウハチローの1932年(昭和7年)の作品である。
 
中学2年の運平と、小学6年の千枝子の身体が入れ替わってしまうのだが、その入替えを起こした“ポンポコ玉”というのは、1973年にTBSでドラマ化された「へんしん!ポンポコ玉」の設定とは違い、人を入れ替える玉ではなく、“何でも1度だけ願いが叶う玉”という設定であった。
 
運平と千枝子はどちらがこの玉を使うについて言い争いをしている内に、「女っていいよな」「男の方がいいわよ」「ああ女になりたい」「私こそ男になりたい」などと言ってたら、その“願い”が叶って、運平と千枝子の身体が入れ替わってしまうのてある。そしてこのポンポコ玉が願いを聞いてくれるのは“1度のみ”である。つまり2人は元に戻る手段が無い。
 
ただ、他の人が2人が元に戻るようにと願ってくれたらその人のおかげで元に戻ることは可能である。しかし、ポンポコ玉で願いを聞いてもらった人は、そのことを他人にしゃべってしまうと死ぬ、という設定が入っており、2人は入れ替わったことを他の人に話すことができない。そこで2人は自分たちが変→入れ替わっていることに気付いてくれる→元に戻るようにお願いしてくれる、という可能性に賭け、わざと自分たちが変に思われる行動を取る。
 
それで様々な騒動が巻き起こるのである。つまり他の多くの作品のように、自分たちが入れ替わっていることがバレないように行動するのではなく、逆にバレるように行動している。
 
それで運平の姿になった千枝子は担任の先生に「私はあなたを知りません」と言うし、千枝子の姿になった運平は犬の喧嘩の仲裁をして三河屋の丁稚に感心される。
 
こういう作品は他に例が無いと思う。
 

この作品が書かれたのは昭和7年であり、当時の社会的な時代背景を理解しないとこの作品は読み解けない。
 
当時は男子と女子の教育は大きく異なっている。尋常小学校の6年間は男女共学だが、それでも結構男子と女子は受ける授業の内容が異なり、男子のみ、女子のみの授業がかなりあった。
 
尋常小学校を出た後は、3種類の進学先があった。
 
高等小学校 男子の8-9割、女子の7-8割くらいがここに進学する。2年間。
 
中学校 男子のみの中等教育機関。5年間。エリート養成校であり、入試も難しいし、授業料も物凄く高い。現在の私立大学なみの授業料である。当時、田舎では1つの村から中学に進学するのは1〜2人だったらしい。
 
高等女学校 女子のみの中等教育機関。5年間。そこそこ頭が良ければ入試は通る。
 
男女で中等教育機関への進学難易度に差があるのは、男子はどうせ兵隊に行くのだから、一部高級官僚や学校の先生、研究者など社会の中核になる優秀な人材以外は適当に教育しておけば良いという考え方があったからである。むしろ教育程度の高すぎる兵隊や単純労働者は有害と考えられた。
 
これに対して女子の場合は、次世代の優秀な子供を育てるには、母親がきちんとした教育を受けている必要があると考え、学ぶだけの才能を持つ女子はちゃんと学ばせるという方針があったためである。女子はどっちみち仕事には就かないから教育水準が高くても問題無いと考えられた。
 
(かくして日本では妻に頭があがらない夫が増える)
 
それで昭和7年時点の統計を見ると、中学校が全国で558校だったのに対して高等女学校は倍近い963校もあった。
 

このような時代背景なので、主人公の運平が中学生ということは、かなりのエリートだし、また中学の高額な授業料を払えるということは裕福な家庭ということでもある。
 
そして実はこの物語は、中学の授業が難しくて、突然運平の姿になった千枝子には授業内容がさっぱり分からない!というのが重要な要素になっている。つまり男女が入れ替わったことより、13歳と11歳が入れ替わったことによる不都合の方が大きく描かれている。
 
一方、千枝子の姿になった運平は「あり得ないほど粗暴な態度」と言われて学校の先生から保護者にお手紙を渡される。またごはんを5〜6杯食べようとして「女の子がそんなに食べるとは」とこれまた叱られてしまう。
 
なお原作でも今回の朗読劇でも、運平は離れた町の中学に通うため、おじさんの家に下宿しており、春休みの終わりに入れ替わってしまった後、夏休みまでは離れ離れになるので、双方の連絡や情報交換に苦労する。原作では頻繁に手紙をやりとりするが、今回の朗読劇ではスマホで細かく連絡を取り合う。
 
なお原作は昭和7年という時代なので、男女が入れ替わった時に最も重要な問題:ちんちんはどうなったか?トイレはどうした?お風呂はどうした?生理の処理は?などといった問題には全く触れていない。当時そんな内容を書いたりしたら即発禁処分をくらっていたろう。
 
最後は、運平になった千枝子が、野球の大会を前にして困っていたら、千枝子になった運平が長い髪を切って丸坊主にして駆け付け、代わりに出場して大活躍し「やればできるじゃん」と言われる。(つまり頭を丸坊主にした千枝子は運平とそっくりだったのである)
 
それで危機は乗り切ったものの、この後どうする?と2人は悩むのである。
 

今回のドラマの配役
 
運平・千枝子:水森ビーナ(二役)
運平たちの父:湯元信康
運平たちの母:高崎ひろか
千葉のおじさん:篠原倉光
千葉のおばさん:松梨詩恩
でたらめおじさん:大林亮平
運平の担任:森原准太
英語の先生:木下宏紀
野球部監督:本騨真樹
千枝子の担任:原町カペラ
家庭科の先生:石川ポルカ
音楽の先生:花咲ロンド
床屋さん:木取道雄
駅員さん:織原青治
野球部の先輩・杉山:西宮ネオン
運平の親友・福田:夢島きらら
運平の同級生・有田:花園裕紀
千枝子の親友・よし江&百合子:鹿野カリナ・山本コリン
運平の友人たち:WADO (若春・淳紀・大児・央我)
千枝子の友人たち:大仙イリヤ・鈴鹿あまめ・美崎ジョナ・宮地ライカ・知多めぐみ
 
ビーナは男声・女声の両方が出るので、
・千枝子
・運平
・女声・男言葉で話す千枝子(中身は運平)
・男声・女言葉で話す運平(中身は千枝子)
 
を全部ひとりで演じてくれた。
 

それ以外の配役は苦労している。
 
実は§§ミュージックには、男声の出るタレントさんが少ないので、配役は大変だった。「ひろちゃんは男の子みたいな声も出たはず」という情報があり木下宏紀も起用した上で、♪♪ハウスの湯元君・織原君と、更に元Wooden Fourの4人にもお願いした。(立山きらめきは声変わり前なので男声が出ない)
 
また運平の友人たちの役をWADOの4人にお願いしたのだが・・・彼らが10/16に“みんなで性転換しました”という発表をしたのに仰天した。コスモスが彼らの事務所の社長に連絡したら、社長さんが「本当に申し訳ない」と謝っていた。社長さんとの話し合いで彼女たちの扱いについてはこのようになった。
 
・WADOが男声で声を当てているのは男声のまま放送してよい。
 
・クレジットが男性名義になっているが、男性名でも女性名でもよい。そちらの都合に任せると言われたので、急遽編集して女性名に書き換えた。
 
WADO(若南・淳子・大菜・央花)と表示する。
 
しかしこのドラマはWADOの“最後の男声”が聞けるというので物凄い視聴率になった。これを聞くため、スティックレシーバー(*5)を買った人もかなりあったようである。
 
(*5) 普通のテレビに差すだけであけぼのテレビ・ジェッターTV・アロロなどの代表的なネットテレビが簡単に見られる(マイナーなネットテレビも設定さえすれば見られる)。設定されている局は、スティックに付いているチャンネルボタンにタッチするだけで見られる(スマホでも切り替えられる)。
 

今回の朗読劇の時代設定は、戦前の学校制度はやはり理解されにくいということで、現代に移すことにした。そのため、男女の授業内容にあまり差が出ないので、千枝子になった運平は、運平になった千枝子ほどは苦労しない。
 
ただし、千枝子ほど歌がうまくないという設定で、この“下手に歌う”部分はFlower Sunshineの立花紀子に吹き替えをお願いした。
 
「わあ、音痴にも需要があるんですね!」
と喜んで、音痴な歌で『みどりのそよ風』を歌ってくれた。
 
花咲ロンドが
「こういう歌い方は、音感のある人には絶対できない」
 
と呆れて?言っていたら、本人は得意気であった!
 
なお、紀子は歌は音痴だが、フルートは上手い。フルートはその指使いで息を吹き込めば、ちゃんとその音が出るから、と彼女は言う(ローズ+リリーのマリも似たことを昔言っていた)。
 

そして原作には無い部分だが、せっかく男女が入れ替わったら、これをしなくちゃ、ということで、
 
・まずはトイレネタ。
・お風呂ネタ(但し家風呂)
・身体測定ネタ
・生理ネタ
 
をやっている。
 

運平の姿になった千枝子のトイレ場面
 
「おぉ!凄い!ちんちんがある。これとうやって使うんだっけ?1度立っておしっこしてみたかったのよね〜」
と言って喜んで立って小便器を使用する。
 
千枝子の姿になった運平のトイレ場面
 
最初立ったまましようとして
「あ・・・ちんちんが無いのか」
 
などと言っていたら、母が来て
「あんた小便器の前で何やってんの?」
 
と叱られる。それで洋式便座に座ってするのだが、出し方が分からない!おしっこしようとすると、大の方も出てしまう。この初めてのトイレではそれでもいいことにしたが、どうすれば小だけ出せるんだろうと悩む。
 
(多くの男性は座ったら大をするのが条件反射になっているので、女装初心者もトイレで小だけを出すのに最初は苦労する人も多い)
 

中学通学のため、下宿先のおじさんの家に出かけようとして着替えの場面
 
「あんたスカート穿くとか、気でも狂ったの?ちゃんとズボン穿きなさい」
「あんた、千枝子の下着つけてるの?女の子の下着を着るなんて犯罪よ」
「なんで荷物にお人形とか入れてるのよ?熱でもあるの?」
 
千枝子になった運平は男物の下着をつけているが、これはすぐにはバレない。でもお風呂に入ったあとバレて
「あんたなんでお兄ちゃんの下着とかつけてるのよ」
と言われ、女物の下着をつけるように言われる。
 
「こんなの着るとか、俺変態になった気分」
 
そして悩む。
「このパンツ、どちらが前?」
 
そしてスカートを穿いたまま男みたいな歩き方をしようとして転ぶ!
 

運平の姿になった千枝子のお風呂場面
 
「これめくって洗わないといけないのかな」
などと言って洗っていると、大きくなってくる。
 
「これなんでこんなに大きくなるの〜?」
と困惑している。
 
千枝子の姿になった運平のお風呂場面
 
「これ中まで洗わないといけないのかなあ。チンコ無いって凄く変な気分だよぉ」
などと言って洗っている。
 
「ここ触ると気持ちいい気がする。なんだろう?」
 
内側はおそるおそる触っているので、最初のお風呂では“大きな穴”には気付かない。
 

身体測定ネタでは運平は女子たちと一緒に下着姿になるのを恥ずかしがるし、千枝子は男子たちと一緒にパンツ一丁になるのを怖がる。ビーナはその両者をきれいに演じ分けて、これは結構評価されていた。
 
女子の同級生たちがみんな下着姿になっているのを見て
『俺まるで痴漢でもしてる気分』
などと思う。できるだけ見ないようにする。ちんちんが大きくなりそうな気がするけど、大きくなるものが存在しないので更に落ち込む。
 
運平の姿の千枝子は
『男の子の前で上半身裸になるなんて・・・』
と思い、なかなか脱がないので叱られる。
 
川崎ゆりこはオナニーネタも台本に加えさせていたのだが(シナリオライターさんが「放送できない気がします」と言った)、コスモスが削除した!
 
おかげでビーナは男女のオナニー場面を演じなくて済んだ。
 

生理ネタは「やめましょうよぉ」とビーナ本人は言っていたが、
「小学6年生に生理が無いのはおかしい」
と言われ、羞恥心を殺して?台本通り演技した。
 
保健室に行って
「すみません。どこか怪我したみたいなんですけど」
と言って大笑いされる。ナプキンを持ってないと言うと1枚くれるが
「ナプキンくらい持ち歩いてなさい」
と言われる。
 
『しかし腹痛ぇよぉ。女って毎月この苦痛を味あわないといけないの?なんて大変なんだ』
 

演技が終わってから
 
「数ちゃん、ナプキンは何使ってんの?」
と石川ポルカから訊かれて
 
「センターインですけど」
と答え
 
「ああ、やはり数ちゃん、生理あるのね」
などと言われていた。
 
詩恩姉がニヤニヤしていた。
 

『不思議の国のアリス』は9/27-29日の3日間かけて収録された。
 
平日なので学校に行っている子たちが、放課後からしか稼働できなかったのと、もうひとつは、この朗読劇は§§ミュージックのオールスター出演となったため、まとめては日程が取れず3日間の分散収録となったのである。実際問題としてアクア・舞音・ビーナの3人については、各々の自宅・寮の自室までスタッフが行って、セリフ部分を収録している。
 
主な配役
アリス(Alice) 姫路スピカ
アリスの姉(Alice's sister LC?) 花咲ロンド
白うさぎ(White Rabbit) 白鳥リズム
ねずみ(Mouse) 恋珠ルビー
ドードー鳥(Dodo) 坂田由里
子鷲(Eaglet) 佐藤ゆか
インコ(Lory) 南田容子
アヒル(Duck) 山口暢香
羊(sheep) 高島瑞絵
蜥蜴のビル(Bill the Lizard) 中村昭恵
青いイモ虫(Caterpillar) 水森ビーナ
魚の従卒(Fish footman) 山下ルンバ
蛙の従卒(Frog Footman) 桜野レイア
公爵夫人(Duchess) 品川ありさ
料理人(Duchess's Cook) 七尾ロマン
豚声の赤ちゃん(baby) 山本コリン
チェシャ猫(Cheshire Cat) 常滑真音
三月うさぎ(March Hare) 石川ポルカ
帽子屋(Hatter) 原町カペラ
ヤマネ(Dormouse) アクア
スペードの2,5,7(庭師)三陸セレン・山鹿クロム・鈴原さくら
兵士(Soldier) 大崎志乃舞・今井葉月・鈴鹿あまめ
コーラス隊(Chorus) 甲斐姉妹・水谷姉妹
ハートの女王(Queen of Hearts) 高崎ひろか
ハートの王(King of Hearts) 西宮ネオン
ハートのジャック(Knave of Hearts) 花貝パール
首切り役人(Headsman) 川崎ゆりこ
海亀もどき(Mock Turtle) 町田朱美
グリフォン(Gryphon) 東雲はるこ
 

あらすじ。
 
アリスは姉に絵本を読んでもらっていたが、絵本のページは真っ白で絵も字も無い。何てつまらない絵本だろうと思う。そこに服を着た白うさぎ(White Rabbit) が走って来て穴の中に飛び込むので、アリスはそれに続いて自分も飛び込む。
 
うさぎを追いかけていく内、小さなドアのある部屋に入る。こんな所通れないと思ったが、飲み物を飲むと身体が小さくなった。ところがドアの鍵がテーブルの上に乗ったままで小さな身体では鍵が取れない。ケーキをかじると身体が大きくなったが、今度はドアを通れない。悲しくなってアリスは泣き出した。すると涙が池のようになった。
 
アリスは再び身体が小さくなるが、池の中に落ちてしまう。池の中でアリスはねずみたちに出会う。そして水からあがってから濡れた服を乾かすため、ドードー鳥、子鷲、インコ、羊、などと一緒にかけっこをする。
 
(ドードー鳥は1681年に目撃されたのが最後で物語の時点で既に絶滅している。“子鷲”と訳したのは eaglet, インコと訳したのは lory. Loryというのは系統的にはオウムに近いらしいが、写真を見るとオウムに特徴的な冠羽が無いようなので、ここではインコと訳した)
 

その後、蜥蜴のビル、犬などと出会うが大きくなったり小さくなったりして苦労する。やがて青い芋虫に出会う。彼はキノコの片方を食べれば大きくなり、もう片方を食べれば小さくなると教えてくれた。それで以降、アリスはそのキノコを持ち歩き自分の身体のサイズを調整できるようになる。
 
公爵夫人の家に行くと料理人が大量に胡椒(こしょう)を使っている。豚の声で泣く(人間の)赤ん坊を渡されるが、その赤ん坊は外に出ると本当のブタになって逃げて行ってしまう。チェシャ猫(Cheshire Cat)と出会い、彼と不思議な会話をする。
 
3月うさぎ(March Hare)と帽子屋、そして眠っているヤマネのティーパーティーに出席する。
 
(白うさぎは rabbit ラビットだが、三月うさぎは hare ヘアである)
 
庭に出ると、トランプカードの形をした庭師たち(スペードの2,5,7)が白い薔薇に赤いペンキを塗っていた。赤い薔薇を咲かせないといけなかったのに間違って白い薔薇を咲かせてしまったので、誤魔化すのに色を塗っているのだという。
 
しかしコーラスとともに登場したハートの女王に見つかり死刑だ!と言われる。クラブのカードの兵士たちに追いかけられるので、アリスは庭師たちを隠してあげた。
 
女王はアリスをクロッケー(ゲートボールの元になったスポーツ)の試合に連れて行くが、この試合はマレット(木槌)の代わりに生きたフラミンゴ、玉の代わりに生きたハリネズミを使うので試合はめちゃめちゃになる。
 
チェシャ猫の首だけが空中に浮かび馬鹿にするので女王は、あいつの首をはねろと言うが、首切り役人は、あの猫には胴体が無くて首だけなので、首を切ることは不可能ですと言う。
 
女王から、海亀もどきとグリフォンを紹介される。海亀もどきは「私が本当の海亀だった頃・・・」と昔話を始める。
 

裁判が始まる。誰がパイを盗んだのか?という裁判で、ハートの王が裁判官、ハートのジャックが被告人である。証人が呼ばれるが、最初の証人はお茶のカップを持った帽子屋である。ティーパーティーの最中に呼び出されたのでと言っている。2番目の証人は公爵夫人の料理人で「パイは胡椒(こしょう)でできている」などと言う。3番目の証人がアリスだった。
 
アリスは裁判官から「規則第42条では、背丈が1マイル(1600m)以上のものは退廷しなければならない」と言われる。アリスは「私はそんなに背が高くないし、そんな規則聞いたことない」と言う。裁判官は「これは最も古い規則だ」と言うが、アリスは「最も古い規則がどうして第1条ではないのか」と突っ込む。
 
裁判は結審し「判決を、その後で陪審員の評決を」と女王が言うので、その順序はおかしいとアリスが言う。女王は怒って「こいつの首をはねろ」と言う。アリスが「あんたたち、ただのトランプじゃん」と言うと、トランプのカードたちは空中に舞い上がり、アリスに向けて落ちてくる。アリスはそれを手で払いのけた。
 
ふとアリスが気付くと、アリスは姉のそばで眠っていた。
「ずいぶん長いお昼寝だったね」
と姉は優しく言った。
 
(姉の名前は原作では出て来ない。しかしアリスのモデルとなったAlice Liddellの実の姉はLorina Charlotte Liddell (通称 LC) のみなので、この物語を元にしたドラマ・お芝居・映画では、ロリーナという役名になっていることもよくある)
 

この『不思議の国のアリス』は、実は10月に撮影を行う長時間ドラマ『八犬伝』に向けて演技感覚に慣れてもらうための練習も兼ねているので、敢えて全員参加にしたのである。
 
『不思議の国のアリス』の監督は『八犬伝』の助監督を予定している矢本かえでさんにお願いしている。つまり矢本さんにとっても『八犬伝』の主要な出演者の感じを掴む助けになるようにという配慮があった。
 
『不思議の国のアリス』は色々な意味で『八犬伝』のリハーサルになっていた。
 

その八犬伝の撮影は、熊谷・郷愁村のオープンセットを使い、10月1日(金)から始まった。10/01(金)の夕方、出演者を熊谷に集めてホテル昭和に入れ、台本を配布する。Zoomを使って監督(白原さん)・制作者(コスモス)から、全体的な説明があった。
 
・八犬伝のあらすじ
・曲亭馬琴について
・主な配役紹介
・八犬士および主な登場人物に関する簡単な説明
・撮影の進め方
・撮影中の注意(主として感染対策)
 
「曲亭馬琴(きょくていばきん)という名前は、曲(くるわ)で馬琴(まこと)というダジャレで、みんな遊びで恋愛している遊郭でマジになる野暮な男という意味」と監督が説明しても半分以上の子が首を傾げているので、監督は“遊郭”とは何かを説明するはめになった。
 
ソープみたいなものと言っても、女子中学生にはソープが分からない!“売春”というものの説明までするはめになるが、女子たちが怒っている!それで江戸は男が女の1.5倍もいる圧倒的に男が多い社会だったので、結婚できない男が多く、それで遊郭が必要悪だったという説明でなんとか納得!?してくれたようである。
 
「女が少ないから陰間(かげま)もはやったんだよ。“おかま”の語源ね」
と、うっかり川崎ゆりこが口をすべらせたら、陰間の説明までするはめになり苦労していた。
 
「でも女が足りなかったら、男同士の恋愛は大いにありですよね」
などと女子中学生たちはこちらには理解を示したようである。
 
(話が八犬伝からかなり逸れた)
 

主な出演者の紹介では、犬塚信乃(アクア)、八房・犬村大角(常滑舞音)、犬川荘助(町田朱美)、犬飼現八(白鳥リズム)、犬坂毛野(水森ビーナ)、犬山道節(恋珠ルビー)、犬江親兵衛(七尾ロマン)、犬田小文吾(西宮ネオン)、伏姫(東雲はるこ)、浜路(姫路スピカ)、玉梓・船虫(坂田由里)、丶大法師(高崎ひろか)、赤岩一角(品川ありさ)と紹介されたが、居並ぶ“凄い人たち”に混じって紹介された坂田由里は
 
「私まで紹介してもらうなんて」
と恐縮していた。
 
なお、舞音は八房のぬいぐるみを着ていて、大いに受けていた。
 
(紹介された13人の内男は何人か?とポルカが質問したら「1人」(ネオン)という意見が圧倒的だった。リズムを入れて2人、アクアを入れて3人という意見もあったが、ビーナを数えた人は誰もいなかった!)
 
“丶大法師”(ちゅだいほうし)は、みんな「読めん!」と言っていた。
 

この説明はホテル赤城に入っているエキストラさんたちも聞いた(観覧オンリーで、質問などは専用SNSに書き込んでもらった)。
 
なお、アクア・葉月・舞音・水谷姉妹・ラピスラズリ・舞音・ビーナ・鈴鹿あまめといった多忙な子たちは、この日は熊谷には入らず、女子寮や大田区サテライトから接続して説明を聞いた。
 
実際の撮影作業は10/02(土)から始まる。
 

撮影は学校に行っている子たちが大量参加するので、基本的には土日と平日の夕方以降(17:00-22:00)を使って進める(今年は10月に祝日が無い!)。
 
今回の監督は大和映像の白原俊樹さんで、助監督は『白雪姫』で第2撮影者を務めた矢本かえでさん、それに撮影者として田崎潤也(主として合戦や立ち回り関係)、芳本みえこ(主としてラブシーンなど)の2名が入っている。
 
これは、実は“平行撮影”をするためである。
 
同日同時刻に、白原監督+田崎撮影者(S班)、矢本助監督+芳本みえこ撮影者(Y班)という2つのペアが別の場面を撮影する。これは八犬伝というのが、元々8人の犬士が主人公なので、出演者がダブらない場面が多いからできることである。
 
大塚村→芳流閣→古那屋→刑場破り→荒芽山、まではほぼ直線(神隠しが分岐するだけ)だが、その後、小文吾の対牛楼、現八の庚申山、信乃の甲斐物語が並行進行になる。
 

今回、熊谷に大規模なセットを建設したが、出演者の多くが東京の中学高校に通っているので、毎日熊谷に連れて行くことは困難である。
 
そのため、§§ミュージックでは、女子寮から30分!で移動できる春日部市郊外に900坪(60m×50m)の土地を3500万円!で5月に購入し、ここにサブスタジオを建設していた(町外れだから安いが、町外れだから撮影に使うのには便利)。なお、郷愁リゾートの八犬伝村は3000坪である。
 
春日部のスタジオはまずこの土地に45m×40m×14mの倉庫を建て、その倉庫内に多数のセットを造り込んだ(多くは一時的なセット:日中に組んで夕方から使う)。
 
こういう仕組みにしたのは、ひとつは天気と無関係に撮影ができること、もうひとつこちらが重要だが、平日は学校の関係で日没後からしか撮影ができないので、その時間帯に昼間の場面を撮影できるようにするには、こういう仕組みが必要だったことがある。
 
倉庫は雨音が響いてはならないので、二重屋根・二重壁にした上で内屋根・内壁の裏側(内側)に防音材を貼り付けている。外屋根・外壁はスレートの上にサウンドプルーフを貼り付けている。壁を森林に偽装するため壁の前には樹木を植えて小川も作っているが、これも防音に寄与した。
 
(樹木を維丁目3持するのに必要な光は光ファイバーで引き込み、撮影が行われない時間帯に光を当てている)
 
実際10月1日に関東地方に接近した台風16号による大雨でも倉庫内で雨音はほとんどしなかった。この日は撮影は無かったものの、セット作りの作業をしていた人たちが、あまりに静音なので、コンビニに行こうとして大雨に気づき驚いたりしたらしい。
 
陣中見舞いに来た美高鏡子さんも
「この仕様、川崎のセットにも欲しかった」
と羨ましそうに言っていた。『ピーターパン』の撮影では、大雨の間に撮影したものは、あとから声をアフレコで録り直したりしたらしい。
 
なお、川崎の“大広間”セットは30m×30m×10mで、この倉庫より狭い。
 

今回の撮影では、天気の関係で、熊谷で撮影する予定だったものを急遽春日部で撮影したものもあった。
 
基本的に平日は春日部のサブスタジオで、土日は熊谷の郷愁村で撮影する。
 
エキストラは日曜日に動員する(エキストラの人たちには水曜の夕方か木曜朝からホテル赤城に入ってもらう)ので、エキストラが必要な撮影は日曜日に行う計画である。
 
“人が揃う”ところで撮影するという方針なので、物語の順序と撮影の順序はかなり入り乱れる。それで監督からは各自、今全体のどのあたりを撮影しているかを把握してから撮影に入って欲しいという要望がなされた。
 

八犬伝・土日の撮影予定
 
10/2(土)晴
S:大塚村(信乃・浜路・荘助)
Y:伏姫と八房(伏姫・八房・丶大)
 
10/3(日)晴 エキストラ動員 日没17:24
S: 10:00 玉梓の呪い 13:00 安西合戦 16:00 八房への報酬
 
10/9(土)雨
Y:10:00 古那屋(信乃・現八・小文吾・丶大)
 
川に浮かんでいる信乃と現八を舟に揚げる所までは人形を使用した。でないと小文吾役の西宮ネオンの腕力ではとても人間の身体を持ち上げきれない。更に現八(白鳥リズム)と信乃(アクア)の胸を押して水を吐かせる演技はネオンに代わって山本コリンが演じている:リズムもアクアもネオンなら胸に触ってもいいよと言ったのだが、ネオンが恥ずかしがった:コリンはアクアが間違い無く女の子であることを確認した!
 
10/10(日)曇 エキストラ動員 日没17:14
S:10:00 芳流閣(信乃・現八) __16:00 道節の定正襲撃(道節・信乃・現八・小文吾・荘助)
Y:10:00 阿佐谷(小文吾・船虫)
__14:00 親兵衛の神隠し(伏姫・八房)
 
この日はエキストラを100人ほど使用している。赤城(80室)に全員泊められないので、一部富士も使おうかと言っていたのだが、友人や兄弟で相部屋でいいですよという人たちがあり、何とかギリギリ収納できた。ホテルが2つに別れると連絡漏れが起きやすい。
 
10/16(土)曇
S:10:00 対牛楼(小文吾・毛野)
Y:10:00 庚申山(現八・大角・船虫・一角)
 
10/17(日)雨後晴れ エキストラ動員 日没17:04
S:刑場破り(信乃・現八・小文吾・荘助・伏姫・八房)
Y:17年前の一角事件(一角)
 
この日は雨がやみそうだったので雨があがるのを待って撮影した。
 
戸田川の戦闘シーンだけは、10月に撮影するのは不可能なので、十条兄弟役の水谷姉妹、世四郎役の原町カペラ、そして多数のエキストラさんと一緒に8/28(土)に撮影済みであった(制作側としてはエキストラの使い方の練習にもなった)。
 
但し4犬士が川を渡る所は10/17に撮影している。10/17の撮影で川の中から飛び出したのは、水谷姉妹ではなく、ボディダブルの蕪島姉妹である。蕪島姉妹は「真冬でも平気ですから必要なら言って下さい」などと言っていた。10月の川に入っても本当に平気そうだったので、人間ではなくカワウソか何かなのではと思いたくなるほどである。
 
(不正解!本当はアナグマ)
 
10/23(土)
Y:荒芽山(夜)★(道節・信乃・現八・小文吾・荘助)
 
この場面は春日部のサブスタジオで収録した。水谷姉妹はここで初登場となるので、10/11-15に乗馬クラブに行って乗馬の練習をしてもらっていた。
 
10/24(日) 晴 エキストラ動員 日没16:56
Y:荒芽山(朝)
 
10/30(土)
S:ラストシーン(親兵衛)
Y:甲斐物語前半(信乃・浜路)★
 
実はこの雪景色のシーンは、出演者(犬塚信乃・四六城木工作・夏引・浜路/アクア・山本コリン・薬王みなみ・姫路スピカ)の4人と矢本・芳本などの撮影スタッフを千里のG450で北海道の女満別空港に運び、マウンテン・フット牧場(チェリーツインの本拠地)で撮影している。金曜の夜に連れて行き、土曜いっぱい撮影して、その日の夜に熊谷に帰還。でも牧場で焼肉をごちそうになった!
 
10/31(日) エキストラ動員 日没16:48
S:甲斐物語後半(信乃・浜路・道節・荘助・丶大)
 
この日は偶然にも熊谷でも雪が降ってくれたので、雪の降る中で撮影することができて昨日北海道で撮影したものと、親和性のある映像が撮れた。
 

平日の撮影予定はこのようになっている。(★は熊谷での撮影)
 
10/04(Mon)与四郎と紀二郎(信乃・荘助・浜路)
10/05(Tue)接待(信乃・浜路)
10/06(Wed)粟飯原事件
 
10/11(Mon)★古那屋2(小文吾)
10/12(Tue)雷電神社(信乃・荘助・小文吾・現八)
10/13(Wed)S:★幻術館山城(親兵衛・妙椿)Y:浜路の夜這い(信乃・浜路)
 
11日と13日の熊谷での撮影は中高生の出演者はヘリコプターで熊谷に空輸した。
 
10/18(Mon)S:一角と現八(一角・現八)Y:浜路姫の夜這い(信乃・浜路)
10/19(Tue)世四郎と音音の結婚式(道節・信乃・荘助・小文吾・現八)
10/20(Wed)S:富山の親兵衛 Y:毛野と小文吾(毛野・小文吾)
 
10/25(Mon)越後物語(小文吾・荘助・船虫)
10/26(Tue)諏訪物語(小文吾・荘助・毛野)
10/27(Wed)穂北荘(道節・荘助・小文吾・現八・大角・毛野)
 
予定表では木金に撮影日程が入っていないが、撮影の積み残しなどが発生した場合にそこで撮影されることになっている。また本当に空いた場合、出演者の予定を確認の上で前倒し撮影したケースもあり、最終的には木金もほぼ埋まった。
 
日曜のエキストラを使った撮影で積み残しが起きそうな場合はエキストラを使う場面を優先して撮影し、少人数の撮影を平日に積み残したりもした。
 

なお『八犬伝』で今回はアクアの1人2役は無いので、2人のアクアを使って撮影するシーンは無い。それで河村監督でなくても大丈夫であった。
 
当初は実はアクアに犬塚信乃に加えて浜路か沼藺をさせる案もあったのだが、山村マネージャーが
 
「1人2役はどうしても撮影時間が余分にかかります。昨年みたいに撮影が予定通りに終わらずにあちこちに迷惑をかけてはいけません。今回は1人2役はさせずにいきましょう」
 
と主張したので、アクアは信乃のみの役となった。物語の最初の方で女装の信乃がたくさん映るから、まあいいかということにした。山村としては“アクアが1人しかいないから”2人分仕事させるのはオーバーワークになると考えていた。
 
一方「女装場面と男装場面があるから、女声・男声の両方が出る人でないとできないから」と言われていた毛野役のビーナは実際には、男声を使う場面が全く無く「あれ〜?」と言っていた(男装はしたが、映像のみで声無し)。
 
(最初の台本では↑の男装場面で男声セリフもあったのだが、放送時間の問題でカットされてしまった!結果的に女声で演技した所だけが残った!それで視聴者は単にビーナの男装と思った。この物語では女子タレントの多くが男装で男性役を演じているので全く目立たない)
 
ビーナが演じる毛野は小文吾とのラブシーンがたくさんあり、抱擁場面もあって、男性との抱擁経験が無い彼はドキドキしながら、小文吾役の西宮ネオンに抱かれていた。キスシーンもあるが寸止めである。更にセックスシーン!もあるのだが、これは一緒にお部屋に入る場面のみである。
 
ネオンは
「女子高生とラブシーン演じたら、妻からネチネチと言われそう」
などと言いながら演じていた。彼はビーナが男の子である可能性は全く思いもよらなかった。
 
「でも毛野って本当は男の子なんでしょ?どうして小文吾とセックスできるんですか?」
などとビーナが訊くので
「君は覚えておいた方がいいかもね。教えてあげようか?」
と大崎志乃舞が言う。でもビーナは
「なんか覚えたら恐い気がするからまた今度で」
と言って逃げていた。
 

白鳥リズムは元気に現八役をして
「さっすが男の子!」
と(多分)褒められて得意気であった。
 
リズムは芳流閣でアクア役の信乃・・・じゃなくて信乃役のアクアと抱き合って転がるシーンがあるが
「アクアちゃん、バスト大きいからピタリと身体をくっつけるの大変だった」
などと言っていた。
 
誰もアクアが男の子である可能性など考えていない!
 
浜路役の姫路スピカはアクアに夜這いを掛けるシーンが2度あるが、特に2度目はアクアを押し倒すしキスを奪う(キスは寸止め:事故的に唇が接触したが、その接触した部分は“騒ぎになるので”編集でカットしている)が、
「女の子同士だから平気ですよ」
と彼女も言っていた。
 
「アクアは中1の夏休みに甲府の大学病院でペニスみたいに見えるクリトリスを縮小し、塞がっていた陰裂を開いてちゃんと割れ目ちゃんになる手術をして、立派な女の子になったという証言が当時の同級生から得られているし」
などと言っていた。
 
また新たな説が出てるぞとアクアは思った。甲斐絵代子と混線してないか?(甲斐絵代子は山梨出身だが、中1の夏休みに東京の大学病院で男性化を停止させる治療を受けた)
 
「でもアクア、小学校の修学旅行では女湯に入ったんでしょ?」
「それ人に言わないでー」
「ごめん。多分100人以上に言ってる」
「あはは」
 
実際は龍虎(アクア)の担任の先生が龍虎を女子と思い込んでいたので、男湯に入ろうとした龍虎を
「田代さん何やってるの?そちらは男湯よ」
と言って、女湯に放り込んでしまったのである。
 
女子の同級生たちは龍虎に“ちんちんが無い”のを確認した上で、目隠しをさせて女湯に入れた。だから、女子の同級生たちは龍虎の裸を見ているが、龍虎は同級生女子たちの裸は見ていない。
 
実際問題として龍虎が男湯に入ろうとしても、従業員さんにつまみ出されただろうし、“胸が微かに膨らんで”いて“ちんちんの無い”龍虎は男の子であることを証明できなかったはずである。(裸になれば女の子であることが証明されてしまう)
 

青葉のヒーリングを受けていた広嘴さんは9月20日に“歩いて”退院した。医者は彼女の快復速度に驚き
 
「さすがオリンピック代表は身体の造りが違いますね」
と感心していた。
 
退院後は、浦和の千里家に泊まりこみ!ここで青葉のヒーリングを毎日受けた。最初はホテルから通うつもりだったが、青葉が「うちに泊まり込んでくれた方が私自身の負荷が小さい」と言ったのである。
 
彼女は、地下のプールにも招待してもらい
「凄い!金メダル取る人は設備が違う!」
と驚いていた。むろん青葉がタロットの制作で出掛けている日中にたっぷり泳いでいた。(アクアと遭遇してサインをもらったらしい)
 
彼女は病院に運ばれた時は、退院するまで2ヶ月、泳げるようになるには4ヶ月と診断されたのである。しかしこんなに早く練習が再開できることになり、闘志を燃やしていた。
 
彼女は青葉には大いに感謝し、ヒーリングの代金を払うと言ったが、青葉は金堂さんにもらっているからと言って受け取らなかった。金堂さんは
「3月の日本代表選手選考会、お互い頑張ろうね」
と彼女に言っていた。
 
5/13-29に福岡で行われる世界水泳の選手は、4月の日本選手権ではなく、3/2-5の“国際大会日本代表選手選考会”で決定される(派遣基準に到達した選手が少なかった場合は日本選手権で追加される)。
 
彼女は宿泊代・食費も払おうとしたが、千里は
「私はお金持ちだから気にしないで。何なら自然災害で苦しんでいる人たちに寄付でもする?」
と言ったので、広嘴さんは、7-8月の集中豪雨による災害義援金に10万円寄付した。
 

青葉は9月いっぱい、常滑真音のタロット制作に付き合ったが、最終的な編集などは千里と雨宮先生にお任せして、10月頭、富山にいったん帰ることにした。10月中旬には短水路選手権があるので、また東京に出てくることになる。
 
10月1日アクア主演の日独合作映画『白雪物語』 (The story of Snow White, Die Geschichte von Schneewittchen) が12月に公開予定であることが発表され、青葉はそういう話は全く聞いてなかったのでびっくりした。
 
青葉がコスモスに尋ねると
「ロミオとジュリエットの興奮が落ち着くまで、秘密にしてたんですよ」
という話だった。撮影も既に終わっていると聞き2度驚く。
 
アクアは10月は『八犬伝』の撮影で他のことはできない。9月は『ピーターパン』の撮影があるから、8月に撮影するしかなかったという。それにしてもあの忙しいスケジュールに、よく割り込ませたものである。
 
「『ほのぼの奉行所物語』が無くなって、夏季の連続ドラマが消滅したから夏に映画を撮れるようになったんですけどね」
 
「ドラマが無くなる前から夏の映画は撮ってたような」
「でダウンしてましたからねー」
「そうなんですよね」
 
※アクアの映画(日付は撮影時期)
 
2016.7月『時のどこかで』(アクア倒れる)
2017.7-8月『キャッツアイ・華麗なる賭け』
2018.7-8月『80日間世界一周』
2019.7-8月『ヒカルの碁・棋聖降臨編』
2020.1月『気球に乗って5日間』(日独伯)
2020.7-8月『ヒカルの碁・プロ試験編』
2020.10月『君はダイヤモンド』
2021.4-5月『ロミオとジュリエット』
2021.7-8月『白雪物語』(日独)
 

「そうか。去年は映画3本も撮ったんですね。今年は?」
 
「去年の『君はダイヤモンド』は唐突に浮上したんですよね。今年は10月中は『八犬伝』を制作しているし12月からは『少年探偵団V』の撮影が始まるから、撮るとしたら11月1ヶ月しかないですけどね」
 
「何か制作するんですか?」
 
「大宮先生、11月にもしアクアで『細雪(ささめゆき)』撮るとしたら、アクアは鶴子・幸子・雪子・妙子のどれだと思います?」
とコスモスが訊くので
 
「細雪を撮るんですか?」
と驚く。
 
「あの4人の中なら、間違い無く妙子だと思いますが。雪子は東雲はることか甲斐絵代子とかがいいです」
と青葉は答えた。するとコスモスは
 
「細雪を知ってる人に初めて遭遇した」
と言った!
 
あはは、最近の若い人は多分読んでないよね?
 
しかし女の子役だけでいいの??
 
 
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【春足】(2)