【春暁】(3)

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2020年1月、〒〒テレビの石崎部長はせわしく何度も金沢と東京の間を飛び回っていた。
 
まず日本水連に行き、まだ川上(青葉)本人には言ってないが、〒〒テレビのスイミングクラブを作り、川上を含む女子のトップクラスの選手数人を所属させるとともに、現在使用している“プライベートプール”の他に一般用プールや多数の遊泳用プールも作る予定で一般会員(男女)も募集する予定であること、現在、その運営のための法人を設立準備中であることを説明して了承を得る。
 
日本水連からは、まだ公表はできない話として、川上は既に日本代表に内定していることが説明され、取り敢えず今年夏の東京オリンピックまでは勤務時間に配慮してほしいと要請される。そこでテレビ局としても、レギュラーの報道番組などでは、あまり使わず“撮りため”ができる取材番組での起用を考えていることを話して了承された。
 
その後、日本スイミングクラブ協会の事務局を訪れ、現在スイミングクラブの設立を準備中であることを説明して、加盟のための条件などを確認するとともに、登録用紙などをもらった。
 
一方金沢ではテレビ局の法務部を動かして、法人設立の準備を進めさせていた。
 

〒〒テレビのキー局である◇◇テレビ(新橋)に行き、川上を買っている響原部長と面談。腹案として持っていた、有名作曲家を川上にインタビューさせる番組の企画を提示して、協力を求めた。
 
響原は
「それ、うちで制作したいような企画だ」
とは言ったものの、川上がオリンピックまではフル稼働できないので、彼女に負荷があまり掛からないように撮り溜めできる番組が欲しいのだと説明して了承してもらう。
 
そして制作費は基本的に〒〒テレビが出すものの、撮影などで◇◇テレビや系列局でも協力してもらえないかと申し入れ、それも了承される。響原からは◇◇テレビ系列で遅れネットでもいいから全国放送したいと言われ、それは石崎は了承した。金額的な問題は後日あらためて話し合うものの、響原からは、撮影協力するかわりに無償利用という線を提示され、これは石崎も持ち帰って検討すると言った。
 

多忙なのは承知で、川上と縁の深いローズ+リリーのケイとも面会。企画している番組の趣旨を説明し、訪問する作曲家についてこちらで考えていたリストを見せて、意見を聞いた。
 
「初回、東堂千一夜さんというのは動かないでしょうね。現在の日本の流行歌業界で最高の大御所ですから」
と最初の訪問者についてはケイは賛意を示し、必要なら撮影に同行してもいいと言ってくれた。
 
石崎は2回目が東郷誠一、3回目が山本大左とリストに書いていたのだが、ケイは
「東郷誠一先生の前に、東郷先生の師匠である東城一星先生と、その弟弟子(おとうとでし)の木ノ下大吉先生をとりあげるべきです」
と言った。
 
実はその2人が、東堂千一夜の数少ない(生きていて消息の明確な)直弟子なのである。東堂先生の直弟子は全部20-30人いるはずだが、あまり名を残せなかった人もいるし、ある程度名前が知られていても、既に亡くなった人や、消息不明の人も多い。実際問題として、東城一星は世間的にはほぼ“失踪者”扱いだし、木ノ下大吉先生も昨年突然“松本花子”の窓口として注目されたものの、“元作曲家”と書かれることが多い。
 
「いや、木ノ下大吉先生はとりあげるべきかどうか悩んだんですよ」
「川上は以前、明智ヒバリも絡む事件で木ノ下先生とコンタクトを持っていますから、川上が行けば、ご機嫌でインタビューに応じてくれると思いますよ」
 
「ああ、関わりがありましたか。それは助かります。気難しい方ともお聞きしたので」
「まあ散々業界に翻弄されたから、警戒心は強いですけどね。でも礼儀を持って接すれば、ちゃんと対応してくださる方です」
 
「ではぜひ取り上げましょう。しかし東城一星先生の所在はご存じですか?」
 
「貨幣経済と無縁の所で暮らしておられます。あそこは電話も無いし、郵便も届かないんですよ。そもそも住所が無いし」
 
「なんか凄い場所ですね」
 
「私、雨宮三森先生、チェリーツインの桃川春美、そして木ノ下大吉先生の4人が場所を知っています。あとは先生の娘さんも場所を知っていますが、失踪以降1度も会ってないらしいです。かなり嫌っているようですね」
 
「それは無理も無いでしょう。家族を捨てて失踪しちゃったから」
「木ノ下先生の経済的な支援があったからこそ生きてこられたんですが、顔も見たくないと言ってますね」
 
「ああ。あれ?娘さんでした?息子さんがいたような気がしましたが」
「娘さんですよ」
「じゃ勘違いしてたかな」
と石崎部長は言った。
 
まあ勘違いということでいいだろう、とケイも思った。
 

そういう訳で、有名作曲家のお宅訪問インタビュー番組は、このような順序でおこなわれることになった(日付は放送予定日)。
 
東堂千一夜(1943) 4/05
東城一星(1954) 4/19
木ノ下大吉(1957) 5/10
東郷誠一(1965) 5/24
山本大左(1966) 6/07
すずくりこ(1966) 6/21
松居夜詩子(1962) 7/05
(東京五輪7/22-8/09で中断:五輪以降も番組を制作するかは未定)
 
女性作曲家ですずくりこが松居夜詩子より若いのに先に来るのは、すずくりこが数少ない、鍋島康平(東堂千一夜の師匠)の弟子格だからである。だから東堂千一夜の次でもいいくらいなのだが、年齢が若いので後に回した経緯がある。
 

ところで、昨年6月の株主総会でのクーデターで★★レコードの経営陣から排除された村上時二郎前社長・佐田博栄前副社長および彼らの元上司の息子・無藤鴻勝が設立した新レコード会社MSMであるが、
 
年末の決済ができず、銀行取引停止になって事実上倒産したことが年明けに報道された。MSMは、結局1枚のCDも発売できないまま消滅することになった。村上・佐田・無藤、それに営業部長・取締役の肩書きで経営に参加していた卍卍プロの三ノ輪会長は、各々個人的にもかなりの借金を抱えることになった。
 
卍卍プロも連鎖で閉鎖されることになった。これでしばしば億単位の損失を出しながらも「倒産しないのが業界の七不思議」とも言われた卍卍プロがとうとう消滅することになった。
 

佐田博栄の息子(?)は★★レコードに残留していて、営業部次長付けになっていたのだが、MSMの倒産に伴い、辞表を提出した。しかし鬼柳次長は慰留し、彼(?)も辞表を撤回して、親は親として、自分は自分で頑張ると言った。
 
「ところで、ボクを奥さんじゃなかったら愛人にでもしてもらえません?」
「すまないけど、僕は不倫はしたくないので」
 
と鬼柳は彼(?)の個人的な誘いを丁寧に謝絶した。
 
「ところで君、女装したいなら女装で勤務してもいいけど」
「女装はしませんよ。ボクは男の子だもん。知ってる癖に」
「ちょっと他人が聞いたら誤解しそうな発言しないで」
 
彼(?)が鬼柳さんを“寝取る”までの気持ちはないことを奥さんは理解しているので、奥さんも彼(?)には優しくしてくれている。可愛いアクセサリーとかをプレゼントすると、喜んでつけているようである。
 
彼(?)の性別については、本人のビジュアルを見て
「おたくは女性社員でズボンを穿いて勤務する人もいるんですね」
 
と言うお客様はよくある。
 
女子社員たちと名前で呼び合っているし、お昼も女子たちと一緒に食べていることが多いので、彼(?)のセクシャリティはかなり微妙である。しかしズボンと言うなら氷川さんなどもズボン派である。そもそも★★レコードには女子社員はスカートを穿けなどという社員規則は存在しない(男子はスカートを穿いてはいけないという規則も無い!)ので、実は制作部にはズボン派女子も数人いるのだが、営業部でズボンを穿いている女子(?)は彼(?)だけである。
 
「ボク、鬼柳さんの赤ちゃん産みたいなあ」
「そういう発言も人に誤解されるからやめてよ」
 

「だったら、私とは結婚してくれないのね?」
と氷川真友子は言った。
 
「すまない。僕は佳南と結婚することにした。彼女は妊娠しているんだよ」
と彼は言った。
 
「私も妊娠してるのに」
 
「ほんとに申し訳無い。認知もするし、妊娠中の病院代や出産費用に養育費もちゃんと払うから」
と彼は謝った。
 

ラピスラズリ(東雲はるこ・町田朱美)のデビューシングルは3月初旬に発売する方針で1月中に制作が行われることになった。§§ミュージックでは、わりと多く使われている花園光紀さんの『亜麻い雨/Red+Blue=Purple』という作品である。
 
お正月は、“回文組”のひとり、崎山マネージャーに付き添ってもらって、12月中に作っていたプロモーション用音源を持って、放送局その他に挨拶回りなどしていたのだが、1月10日、2人は事務所に呼ばれた。
 
「君たちの出演するレギュラー番組が1本決まったから」
と川崎ゆりこ副社長は言った。
 
「ほんとですか!嬉しいです。どんな番組なんですか?」
と朱美が嬉しそうに言う。
 
「地方局の番組で月2回くらいの放送なんだけどいい?」
「テレビですか?」
「うん。テレビ。実は金沢の〒〒テレビなんだよ」
「わっ。地元でしたか」
 
「作曲家の大宮万葉さんが主宰する番組」
「へー!」
「実は大宮万葉さんは今まだ大学生なんだけど、4月から〒〒テレビのアナウンサーになるんだよ。それで『作曲家アルバム』という番組を制作することになった」
 
「大宮先生、お忙しそうなのに、就職する必要あったんですか?」
「まあ色々浮世の義理があるようだね」
「へー」
 

それで川崎ゆりこは番組の企画書(まだ草案)を2人に見せて、番組の趣旨を説明する。2人は東城一星はもとより、東堂千一夜の名前も知らなかった!
 
それで50年くらい前から活躍している大作曲家さんなんだよと説明する。そして、各回で、その作曲家の作品を若手歌手に歌わせたいということで、石川県の地元出身でもあるし、ラピスラズリを使おうということになったことを説明した。
 
「それで東堂先生の回で歌う曲はこれね」
と言って、川崎ゆりこは2人に楽譜(ピアノ譜)を渡した上で、白百合花住が歌った『涙のスタートライン』の音源を聴かせた。
 
「あ、これは聴いたことがある」
と朱美は言ったが、はるこは聴いたことが無いと言った。
 
朱美はミーハー(死語)なお母さんの影響で、流行歌にわりと強いが、はるこは親があまりそういう音楽を聴いていなかったようで、知識がないようだ。
 
演奏方法については、主としてゆりこ・朱美の2人で話し合い、ピアノのみの伴奏で歌うことを決めた。それで北区の研修所(兼女子寮)内のスタジオに技師さんに来てもらい収録することにする。朱美のピアノ伴奏で、はるこがメインメロディーを歌い、朱美もピアノを弾きながら三度唱する形で演奏を収録した。朱美はまだ聴いたことがあっものの、はるこは初見だったのに、3回も歌うと、ゆりこの耳で完成の域に達したので、OKを出し、技師さんにマスタリングしてもらった。
 
これをCDに書き込んで、東堂先生の所に持ち込むことにする。また2人が歌っている所をビデオでも収録したので、放送ではこれを流してもらうことにする。
 

2回目の放送で使うのは東城一星さんの『白鳥サンパ』なのだが、これは朱美も知らなかった。しかし2人とも譜面を見ると数回の練習でちゃんと歌えるようになった。これも朱美のピアノ伴奏で2人で歌ったのだが、ゆりこは、せっかくだから、バレエ衣装をつけようと言った。
 
それでふたりにバレエのレオタードとクラシックチュチュまでつけさせる。バレエができる門脇真悠に来てもらって指導してもらう。ふたりはさすがにトゥシューズは履けないので、普通のバレエシューズを履くが、チャイコフスキーの『三羽の白鳥』の曲をCDで流しながら、それっぽく踊らせると、2人とも運動神経が良いようで、1時間くらいの練習で、かなりまともになる。真悠も「素人ならこのくらい踊れたら充分でしょう」と言ったので、その様子を撮影。これを入れてビデオを編集することにした。
 
(後日、アクアの時間が取れる時に、アクア・門脇真悠・高島瑞絵の3人に踊らせたものも収録して数秒間だけ混ぜている。この3人は全員バレエを習っていたので、ちゃんとトゥシュースで踊れる:男子だったはずのアクアや真悠がなぜトゥシューズを持っていて踊れるのかは、あまり深く突っ込まない)
 

ラピスラズリのデビューシングルの収録の方は、ちょうど時間の取れた“乙女地区”(姫路スピカのバックバンド)(*3) が演奏してくれて、1月下旬に1週間ほどかけて収録。2人がディズニーランドで遊んでいる様子を撮影したPVも編集して、2月中旬までにはビデオも完成した。発売日は3月4日(水)となることが決まった。
 
(*3)実はベース以外は、桜野みちるのバックバンドをしていたチォリーズである。2018年12月でみちるが引退したので丸ごとスピカが譲り受ける形になった。チェリーズのベースというのは、花ちゃん(山下ルンバ)で、彼女自身が2019年春にソロデビューするので、脱退することになった。
 

ところで石崎柚布部長が、作曲家の訪問リストを作っていた中で、実は最初、東堂千一夜の次の2人目としてリストアップしていたのは、上田正(まさし)先生だったが、2019年末に30年ぶりという海外に住む友人に会いに行った後、体調を崩して亡くなってしまったので、リストから外していた。
 
鍋島康平大先生の弟子で、2019年時点で存命(で消息が明確)だったのは、実は東堂千一夜、上田正、スノーベル(ゆきみすず・すずくりこ)の3組だけであった。
 
上田正(1940-2019)は時代的には1970年代に盛んに活動していたが、1980年代に入ってからは、ほとんど作品を書かなくなり(たぶん枯渇してしまった)、その後は、音楽評論家的な活動で、様々な賞の審査員になったり、音楽番組にゲスト出演したりしていて、そこそこの年収を得ていたようである。音楽学校の役員などにも名前を連ねていたりした。
 
上田正には、ひとりだけ子供がいて、上田京(みやこ 1962-)という女子である。彼女自身はあまり音楽的な才能は無かったようである。ピアノは習っていたが、人に聴かせられるレベルではなく、歌もうまくなかった。それで有名作曲家の娘ということでタレントにならないかという話はあったものの、お母さん!の上田葉子(元歌手 1938-2015)が「この子には才能無いから」と言って、全部断ってしまったらしい。
 

「女はさっさと結婚した方が幸せなんだよ」と言うお母さんの勧めもあり、京は早い時期に結婚した。1982年に20歳で、高校の先輩である八雲信幸(1960-)と結婚し、1984年4月9日に男の子・春朗を産む。ところが、春朗を産む直前!の4月5日に信幸と離婚し、出産直後の4月10日に信幸の弟である八雲信繁(1960-)と結婚して、1985年3月20日には男の子・礼朗を産んだ。
 
つまり春朗と礼朗は“同じ女性が別の夫との間に産んだ同学年の年子”という、凄い存在である。こんなケースは世界中探しても他には無いかも知れない。
 
ちなみに、産む直前に離婚したのは待婚期間を作らないためである。離婚した女性は待婚期間中に出産すると、その後はすぐに他の男性と結婚できる(民法733条2-2)。
 
だから、京は出産の時、入院時は八雲京で、出産当日は上田京だったが、退院時は再び八雲京だった!!(お医者さんが出生証明書を書くのに悩んだ)
 
更に実は、八雲信幸・信繁は単純な兄弟ではなく一卵性双生児である。京はその2人から同時にプロポーズされ、どちらか一方に決めきれなかった。それで京は実質2人と!結婚してしまったのである。京は戸籍上は最初に信幸と結婚し、その後、信繁と結婚しているが、性的な関係は一貫して双方と常時持っている。こういう関係は3人ともに最初から納得ずくである(但し3Pはしないルール:セックスの時はお互いを独占するというポリシー)。また京は自分の2人の夫のどちらにも「のぶちゃん」と呼びかける。言い間違えても大丈夫なようにである!(本当に見間違える時もあるらしい)
 
それで実を言うと、春朗・礼朗の本当の父がどちらなのかは、誰にも分からないのである。信幸・信繁が一卵性双生児なので、遺伝子鑑定で父親を判定することも不可能である。実際問題として2人の子供の養育費は、信幸・信繁が共同で出しているし、ふたつの家は実は同じマンションの別の階にあって、母はふたつの家を日常的に行き来していたので(晩御飯など両方まとめて作っちゃう)、春朗と礼朗は、従兄弟のように育った。
 

ふたりは従兄弟感覚ではあったが、法的には異父兄弟である。しかし本当は実の兄弟である可能性もある。また異父兄弟だったとしても、父同士が一卵性双生児なので、結局同じ遺伝子を受け継いでいる。
 
そしてとても面倒なことに、この2人の内、従弟の礼朗は生まれつき女性指向があり、自分のことを女の子だと思っていた。そして小さい頃からたくさん遊んでくれた、従兄の春朗が好きだったのである。
 
単純な従兄妹であるなら(礼朗が法的な性別を変更すれば)結婚可能だが、ふたりは母親が同じなので、結婚することができない(実際には父親も同じである可能性さえある)。しかし礼朗は高校時代に春朗に「好き」と告白しており、春朗も最初から彼の気持ちは分かっていたので、キスしてあげた。でも自分たちは結婚できないのだから諦めろと言った。それでも礼朗が諦めきれない様子なので、春朗は高校3年の時に、1度だけ彼を抱いてあげた。そしてこれを最後にもう自分への思いは断ち切れと言い、礼朗も納得した。(以上は春朗の見解)
 

高校を卒業すると、春朗は地元の大学に行ったが、礼朗は親の反対を押し切って東京の大学に行き、2人は離れ離れになったので、お互いの関係も希薄になった。
 
大学在学中から、春朗は詩作の才能を見せ始めた。ある時、上田正の弟子の作曲家が急いで(実は1時間以内に)曲を作らなければならなかった時にどうしても歌詞を思いつかなかった。それで「うちの孫に書かせてみよう」と言って連絡して書かせたら、それがヒットしてしまった(凄い印税をもらった)。それをきっかけに春朗は作詩家として活動するようになった。
 
一方、礼朗は大学を出ると2007年に★★レコードに就職。A&Rとして活動し始める。彼が女性的な雰囲気を持っていることもあり、上司の北川奏絵係長は主として女性アーティストを担当させてくれたが、担当したアーティストと良好な関係を持つことができた。“女心が分かる”ので、アーティスト側も快適だったし、礼朗がそばに居ても、そこに男がいるような気はせず、緊張しないのである。実際みんな平気で礼朗の前で着替えたりしていた。
 
2年目にチェリーツインを担当して、彼女たちをブレイクさせることに成功。その後も、サイドライト、ステラジオ、丸山アイなどを担当して成功に導き、いつしか“ブレイク請負人”と呼ばれるようになる。(但し女性アーティスト限定)。
 
ちょうど作詩家として活動しはじめていた春朗と兄弟であることはお互いに言っていなかったのだが、ある時2人が似ていることから兄弟であることに気づいた加藤課長が「君が春朗さんを担当する?」と尋ねたものの
 
「お互い、甘えが出るから、できれば他の方を」
 
と礼朗が言ったので、担当はしないことにした。実際春朗の書く歌詞は大半が演歌であり、ポップス歌手を主として担当している礼朗とはそもそもあまり接点が無い。
 
でも実は礼朗としては、春朗と会うと、彼への思いがこみあげてくるので、あまり会いたくないのである。
 
なお、春朗の方は、大学を出た後、公認会計士事務所に勤め、会計士の資格取得を目指していたのだが、作詞の仕事が忙しくなりすぎてそちらは退職し、作詞家の専業になっている。
 

ところで礼朗は2008年に去勢手術を受けようとして、患者の取り違えに遭い、誤って性転換手術されてしまった!
 
病院は陳謝して、損害賠償などにも応じると言ったが、自分は元々女になりたかったので全然問題無いと言って、損害賠償などは辞退した。ただ、この病院にかかる限りは、以降病院代は(風邪などの治療でも)無料ということになり、正直、礼朗は得した思いだった。
 
去勢手術のために礼朗は数日休暇を取っていたのだが、性転換手術をされた場合は、普通は最低でも半月程度の休養が必要である。
 
しかし休みの延長ができないので、礼朗は手術を受けてから、わずか3日後に新幹線で福岡まで行き、サイドライトのライブに立ち会いをしている。
 
ローズ+リリーのケイは性転換手術の3日後にライブで歌ったという話だったけど、自分も似たようなことをする羽目になるとはと、この時、礼朗は思った。
 
なお、礼朗は性転換したことを会社に報告すると、首にされそうで恐かったので何も報告していない。せっかく女の身体になったのに、ずっと男の服を着て10年以上“仮面男子”をしている。
 
もっとも女性の身体になっていることは、女子社員たちにはだいたいバレており、多くの女子社員と、礼朗は名前で呼び合う。彼(彼女)はだいたい「のりちゃん」と呼ばれるが、名前自体、女子社員たちの合議?で「礼江」と改名されてしまい、勝手に「制作部・八雲礼江」の名刺まで作って渡された。
 

「八雲礼朗の名刺は回収するから、以降礼江の名刺を使ってね」
「すみません。礼朗の名刺も使わせてください」
「根性が無いな。いいかげん男の格好で出社するのやめなよ」
「戸籍もさっさと変更すればいいのに」
 
北川さんは、会社のデータベース上で、彼(彼女)の性別を女に変更してしまった!それで実はそれ以来、八雲礼江・性別女と記載された健康保険証を使用している。実際、女の身体なので、健康保険証が女でないと、病院で面倒なことになる。それでこれは実は助かった。(礼朗は“通称”として登録されている。結婚後も旧姓を使っている女性社員や、韓国籍の人の通名などと同様の扱い)
 
社内のデータベースで女になっているので、2014年に★★レコード社内で性別移行の制度ができた時、女性のアーティストを担当していた担当者が女性→男性に移行したような場合、他の女性の担当者と交替する(及び逆のケース)というのが大量に発生した時も、礼朗(礼江)は、多数の女性アーティストを新たに担当することになった。
 
担当者が別の女性になるかと思っていた事務所側は、男の格好をした礼朗(礼江)が担当交代の挨拶に来た時は、え?と思ったものの、ブレイク請負人の異名がある彼(彼女)なので、文句は言わなかった。
 
実際その後、売れ行きが上がったアーティストが多い。
 
またアーティスト側も礼朗(礼江)をほぼ女性とみなして気を許していた。
 
礼朗(礼江)は、社内でのトイレは、女子社員たちからは女子トイレを使いなよと言われているのだが、“根性がない”ので男子トイレの個室を使っている。さすがに男子更衣室は使えないので、着替えが必要な時はだいたい誰か女子社員に連れられて行き、女子更衣室を使っている。
 

2015年、★★レコードのローズ+リリー担当・氷川真友子はイベントで偶然話したのを機会に、作詩家・八雲春朗と懇意になり、数回デートした。ふたりは結婚の可能性についても話し合ったのだが、条件面で折り合わなかった。
 
春朗は自分が育った家庭で母(八雲京)が半分しか家に居ないという環境であったこともあり、母親にはずっと自宅にいて欲しいという気持ちがあった。しかし氷川は結婚してもずっと仕事をしていたいと考えていた。そして仕事をしている以上、家に帰れない日もあると考えていた。実際、A&Rは出張も多いし、音源制作の追い込みや、ツアーの付き添いで長期間家をあけることも多い。そもそも音楽業界は一般社会と1日の時間が6時間くらいずれているので、仕事が終わるのは早い日でもだいたい夜10時すぎである。氷川は最初は音楽業界にいる八雲さんだから、そういうものを理解してくれるものと思っていた。
 
それで結局2人は破綻してしまう。
 
加藤課長からも注意されたので、お互いにわだかまりが残らないようにしようと話し、ふたりは最後に“記念のセックス”をした上で、きれいに別れ、お互い友人関係に戻ることにした。
 
心配してくれていたケイにもそう報告した。
 

しかし・・・
 
ふたりは完全に切れることができなかった。
 
2017年の秋(「郷愁」の制作混乱で氷川も精神的に参っていた時期)に旅先で偶然出会った時、ふたりはつい一緒に泊まってしまった。
 
そして、これを機会に、ふたりの関係は事実上復活してしまう。結婚はできないのだろうなとは思っていたし、八雲には別の恋人もいるようだったので、氷川は彼との結婚は考えないことにして、する時は確実に避妊するようにしていた。
 
ところが避妊に失敗してしまったのである。
 
2020年の正月、生理が来ないので、まさかと思って妊娠検査薬を使った氷川は+という表示を見て愕然とする。それで春朗に相談してみたのだが、彼のもうひとりの恋人も妊娠し、彼はそちらと結婚するのだという。
 
「私も妊娠してるのに」
とは言ってみたが、彼は認知もするし、出産費用や養育費も払うと言って謝った。
 
氷川も、元々この人と結婚できないのは分かっていたことだしと思い、彼の言葉を受け入れることにした。認知届は週明けにも書いて市役所に提出したいから、氷川に認知承諾書を書いてほしいと言うので、来週書いて送ると言ってその日は別れた。
 
(胎児認知には母親の同意が必要である。これに対して既に生まれている子供の場合は、母親の承諾が不要である!つまり赤の他人でも勝手に認知可能)、
 

2020年1月、氷川はローズ+リリーのアルバム『十二月』の来月発売に向けて、大量の作業をこなしていた。夜遅くまで会社で仕事をしていた時、氷川は急に吐き気を覚え、(女子)トイレに駆け込んだ。
 
ちょうど男子トイレから出て来た八雲礼朗(礼江)が彼女を見て心配し、女子トイレの中に入って声を掛けた。
 
この時点でまだ残っていたのが礼朗(礼江)と真友子の2人だけだったので、自分に彼女を保護する責任があると考えたのである。実際こういうケースで放置して帰ってしまえば保護責任者遺棄罪になる(泥酔して倒れている友人を見捨てて帰った後、友人が死亡したようなケースと同様)。
 
「まゆちゃん、大丈夫?」
とちゃんと女声で声を掛ける。
 
「うん。大丈夫と思う。のりちゃん、ありがとう」
 
しかし、礼朗(礼江)は、真友子が個室から出てくるまで待っていてくれた。
 
「のりちゃん、ちゃんと女子トイレに入れるじゃん。その勇気がないみたいによく言ってるくせに」
と真友子は言った。
 
「まあ会社の外では女子トイレに入ることが多いし」
「中途半端だなあ。ちゃんと加藤部長に女になりました。明日からは女の格好で勤務します、と言えばいいのに」
「ごめん。勇気が無い」
と礼朗(礼江)は言った上で
 
「でもほんとに大丈夫?過労じゃない?何か手伝えることがあったら手伝うよ」
と言う。
 
「まあ過労はあるかもね」
と言いながら、結局礼朗(礼江)に、営業のためのメール書きを少し手伝ってもらうことにした。
 
「せっかく助手の光恵ちゃんもいるんだから、どんどん彼女を使えばいいのに」
「嫁入り前の娘を深夜まで作業させるのが気の毒で」
「まゆちゃんだって、嫁入り前の娘なのに」
と礼朗(礼江)が言った時、真友子は急に自分の置かれた立場が悲しくなり、泣き出してしまった。
 
「どうしたの?」
と礼朗(礼江)は慌てて、真友子の背中を撫でてあげた。しかし真友子は涙が停まらなくなり、結局礼朗(礼江)にハグされて、やっと涙が止まる。
 

「やっぱり疲れているんだよ。今日はもう帰りなよ」
と礼朗(礼江)は言った。
 
「そうしようかな」
 
「送っていくよ」
「お願いしようかな」
 
それで礼朗(礼江)は真友子と一緒に戸締まりをしてからオフィスを出る。地下の駐車場まで一緒にエレベータで降りる。
 
礼朗(礼江)がフォルクスワーゲン・ポロ (TSI Highline 1197cc flash-red 7AT)の後部座席を開けて勧めるので、真友子は後部座席左側(助手席の後)に乗り込んだ。
 
「やはり、のりちゃん女の子だから、赤い車だよね」
「これ買った時、加藤さんから『赤なの?』と渋い顔で言われたんだけど、担当するアーティストが女性が多いから、この方がいいでしょうと言ったら納得してくれたよ」
 
「確かに、のりちゃん、男性のアーティストは担当したことないもんね」
「初期の頃はあったけど、もう7−8年担当してないと思う」
 
それで真友子も、この子ならいいかなと思ったので、川崎市内の自宅マンション前まで送ってもらった。ここは新丸子駅の近くで、東急東横線(約20分)で渋谷に出れば、★★レコードのある表参道は地下鉄で1駅だし、ケイたちが住んでいる恵比寿もJRで1駅である。新丸子のすぐ隣が武蔵小杉だから、東横線が止まっている時も500mほど離れた武蔵小杉駅まで行けば何とかなる。そして便利なわりにここは家賃相場が低い。
 
そういう訳で、ここはローズ+リリーの仕事をするにはとても便利な場所である。真友子はケイたちが2014年春に恵比寿に引っ越したのに合わせて、2014年夏にここの賃貸マンション(家賃7万)に引っ越した(それまでは八王子の実家から通勤していたが、仕事が遅くなり2時とか3時に帰宅すると親から文句を言われていた)。
 

それでマンション前に停めてもらい、真友子はお礼を言って車を降りる。そして、エントランスの方に向かおうとしたのだが、途中で急に気分が悪くなって、座りこんでしまった。
 
車を発進させていた礼朗(礼江)がバックミラーで気付き、車を再度停止させて駆け寄ってくる。
 
「まゆちゃん、病院に連れて行くよ」
「大丈夫だと思う。休んでいれば平気」
「だったら部屋まで連れて行こう。ちょっと待って」
 
ちょうどマンションの向かいにTimesの駐車場があったので、礼朗(礼江)はそこに車を入れて駐める。そして真友子に付き添って、部屋まで行った。正直、真友子も自分ひとりでちゃんと部屋まで行けるか不安を感じたので、心強く感じた。
 

礼朗(礼江)は真友子がベッドにたどりつくまで見守ってくれた。
 
「1時間くらい付いてるよ」
「でも遅いのに」
「急に具合が悪くなったらまずいし」
 
「だったら泊まっていく?女同士だし」
「そうしようかな」
 
と礼朗(礼江)は言ってから
 
「そうだ。下着だけでも交換した方がいいよ。私、部屋の外に出てるから」
と言った。
 
「そうだね」
と言って、真友子は立ち上がろうとしたか、立てずにまたベッドに座り込んでしまう。
 
「やはり病院に行ったほうがよくない?」
「大丈夫。悪いけど、リビングにある引出しから、適当な下着持って来てくれない?」
「分かった」
 
男性の友人にはこんなこと頼めないが、のりちゃんは女の子だからいいよね、と真友子は思った。
 

礼朗(礼江)はすぐに、パンティとキャミソール、それにパジャマの上下を持ってきてくれた。
 
「パンティはできるだけ布面積の多そうなの持って来た。身体を冷やさないように。それとブラジャーは締め付けるからつけないほうがいいよね?」
 
この人、なんて細かい所に気が回るんだろうと真友子は思った。布面積のことまで考えてくれるって凄い、と思ってから、この人が女性アーティストに信頼される所以(ゆえん)の一端が分かった気もした。
 
「じゅ部屋の外に出てるね。何かあったら呼んで。私今夜はリビングで休ませてもらうよ」
 
「あ、だったらそこに畳んである毛布と掛け布団を持ってって。あと暖房を掛けておいて」
 
「OKOK」
 
それで礼朗(礼江)は毛布と布団を持って出て行った。
 

真友子は服を脱ぐと、持って来てもらったパンティとキャミソールを身につけ、パジャマの上下を着て、布団の中に潜り込んだ。やはり疲れが溜まっているのだろう。真友子はすぐに眠ってしまった。
 
ふと目が覚める。スマホを見ると4時である。会社を出たのが確か2時過ぎだったから、30分でここに着いたとして1時間半くらい寝たようである。真友子はトイレに行ってからまた寝ようと思った。
 
リビングに行くと、、礼朗(礼江)がソファの上で毛布と布団をかぶって寝ていた。後でよくよく御礼を言わなきゃと思う。トイレに行ってから、部屋に戻ろうとした時、礼朗(礼江)が目を覚ましたようである。
 
「まゆちゃん、大丈夫?」
「うん。少し寝たらだいぶ調子良くなった」
「まゆちゃんいつも一所懸命だからなあ。たまにはサボったりした方がいいよ」
「そのことばはそのままのりちゃんに返す」
「ふふ。お休み」
「お休み」
 
それで真友子は寝室に行こうとしたのだが、寝室の入口でまた座り込んでしまった。礼朗(礼江)が飛び起きて駆け寄ってくる。
 
「やばいよ、病院行こうよ。それとも救急車呼ぼうか?」
 
「ごめーん。本当に大丈夫だから。実は妊娠しているだけなの。だから平気。これつわりの症状だと思う」
 
「妊娠してるの?妊婦が深夜まで仕事したらダメだよ」
 
「だって、私課長だし」
「そんなの奥山さんたちもいるし、私たちもいるんだから、どんどん仕事を投げればいい」
 
現在制作部のJPOP部門は、氷川課長の下に、奥山・佐々木という2人の上級係長、そして八重垣虎夫(FTM)・八雲礼江(MTF?MTX?)・福本深春(天然女性)という3人の係長がいる。この他に、制作部次長の南さんや制作部長付の森元さんもバックアップ可能である。
 

「加藤さんには話した?」
「まだ」
 
「あれ?だったら、まゆちゃん結婚するの?」
と礼朗(礼江)が尋ねた時、真友子は泣き出してしまった。
 
礼朗(礼江)はびっくりするが、取り敢えず真友子にベッドに行くように言い、結局、礼朗(礼江)が支えてあげて、真友子はベッドに寝た。
 
「実は、彼から結婚はできないと言われた。だからひとりで産むつもり」
 
「中絶という選択肢は無いんだ?」
 
「彼からは中絶してくれと言われるかと思ったけど、産んでいいみたいだし、出産費用とか、養育費も出すと言われてる。認知もすると言われているから、産もうと思う」
 
「そこまでしてくれるのに、どうして結婚しないの?」
 
と礼朗(礼江)は言ってから
 
「もしかして不倫?」
と尋ねた。
 
「まだ不倫ではない。でも彼には他にも恋人がいて、そちらと結婚したいらしいのよ」
 
「向こうもまだ結婚してないのなら、妊娠もしてるんだし、こちらが強いよ。結婚してくれと言いなよ」
 

「それが向こうの恋人も妊娠しているらしくて」
「あぁ」
 
「それに元々、私と彼は描く家庭像に隔たりがあるのよ。彼は奥さんにはいつも家に居てほしいと言うけど、私は仕事やめたくないし、仕事をしてたら深夜まで仕事したり、何日も家を不在にすることもあるし。だから折り合いがつかないからいったん別れたんだけど、その後、精神的にくたくたくになっている時期に偶然出会って、それで仲が復活してしまって」
 
と真友子が言ったとき、礼朗(礼江)は腕を組んで、難しい顔をした。
 
「ねえ、その相手って、まさかうちの兄貴?」
「どうして分かっちゃうの?」
と真友子は叫ぶように言った。
 
「だって以前付き合ってたじゃん」
「うん。あの時は別れたんだけとね」
「それに兄貴は今、高木佳南と付き合っているし」
「それも知っているんだ?」
 
高木佳南は東郷誠一先生の娘で、女優をしている。八雲春朗は妊娠までさせておいて振るなんてことは、絶対にできない相手であった。結果的には真友子がその割を食った形になる。
 

礼朗(礼江)はしばらく考えていたが、やがて言った。
 
「兄貴が認知するという話、断りなよ。兄貴が認知した子供をまゆちゃんが産んだら、まゆちゃん、高木佳南に睨まれて、この業界で仕事ができなくなっちゃうよ」
 
「そうかも知れない気はした。だから辞表書かないといけないかなと思った」
 
「まゆちゃんがいないと、ローズ+リリーが回らない。他に代われるような人はいないよ。ケイちゃんはいいとしてマリちゃんみたいな、とんでもない子を自由に活動させた上で、ちゃんと管理もできる人は他に居ない」
 
「それは申し訳無いんだけど」
 
そこまで会話した所で、礼朗(礼江)は決断したように言った。
 
「よし。兄貴の代わりにボクが認知する」
 
「え〜〜〜〜!?」
と氷川真友子は叫んだ。
 

ローザ+リリンは2019/2020の年末年始多忙であった。多分本家のローズ+リリー以上に多忙であった。
 
「ローズ+リリーは福井県の小浜市(おばまし)市でカウントダウンライブするんじゃないの?ここに居ていいの?」
「大丈夫。私たち、福島県の小浜町(おばままち)でカランコロンランチしてきたから」
 
「カランコロンって何?」
「牡丹灯籠知らない?駒下駄の音をカランコロンとさせて」
 
本当に彼ら(彼女ら?)が福島の小浜に行ったのかどうかは定かでない。
 
「そういえば鈴鹿美里ちゃんたちの出身地も小浜(おばま)だったっけ?」
とマリナは近くに居た鈴鹿美里に振った。
 
「すみません。よく読み間違われるんですが、あそこは“こはまじま”(小浜島)なんですよ」
と美里が答えた。
 
ヤマハが開発したリゾート“はいむるぶし”(現在は他社の運営)のある島で、20年ほど前にNHKのドラマ『ちゅらさん』で取り上げられたことから、多くの人に広く知られるようになった。
 
鈴鹿美里の両親は、予定日より2ヶ月も前に、友人に会いに小浜島を訪れていて深夜、急に産気づき、現地の診療所に看護婦さんが1人いたたけだったのに、その看護婦さんの励ましと、素人だが子供を5人も産んでいた友人のお母さんの誘導で、産気づいてからわずか5時間ほどで双子を産み落としたのである。ある意味超安産である。(出生時刻は 3:08と6:21 朝になるとすぐに石垣島に搬送され、2人の赤ちゃんは集中治療室に入れられた)
 

ローザ+リリンの1月上旬の日程
 
1/01 1:00-1:30 東京パティオの24時間ライブで演奏。
1/01 AM リレー式年始番組。PM 新春クイズ番組に出演。
1/02 大阪の新春イベントでローズクォーツの演奏(30分)
1/03 遊園地で新人歌手の前座(前説?)で登場
1/04 AM 甲府で街頭募金 PM 糸魚川市で1日署長
1/05 宮崎県日向市でNHKのどじまん収録
1/06 PM 体力番組にゲスト出演 夕方以降『少年探偵団』にローズ+リリー役で出演
1/07 PM NHKの教養番組 夜 ローズクォーツで音楽番組に出演
1/08 ものまね番組
1/09 『夜はネルネル』の撮影
1/10 全日本バスケ女子QFの中継ゲスト
1/11 アクアのライブに出演。新婚さん紹介番組に呼ばれる。
1/12 新潟でFM局主催の公開収録にローズクォーツで出演
1/13 釧路市の成人式にゲスト出演してトーク
 
毎年恒例の東京パティオでのカウントダウン&ニューイヤー24時間ライブ(12/31 12:00- 1/01 12:00) には、今年ローズクォーツは深夜1:00-1:30の時間帯で出演。2人は0:30頃まで仮眠しておいてライブ30分前に起こしてもらい、歌った後は、近くのホテルを取ってもらいシャワーを浴びて寝た。ケイナはなかなか寝付けないようでダブルベッドの隣で何か、もぞもぞしていたがマリナは疲れているので、構わず眠った。
 
起きてから1月1日は、リレー式に芸能人を呼び出す年始番組に、内野音子から呼ばれて出演。聞いていなかったのでびっくりしたが、ライブの後泊まっていたホテルから駆け付け、司会者と10分くらいトークする。誰かを呼び出してというので、うさぎょ(近藤うさぎ・魚みちる)を呼んだら来てくれたので、助かったぁと思った。午後は最初から予定に入っていたクイズ番組にゲスト出演した。ふたりは雑学なので結構な高得点を出し「またいつか出てよ」と言ってもらった。
 

翌2日は大阪で行われるイベントにローズクォーツが出演するので、ローズクォーツのメンバーと一緒に新幹線で大阪に行き、30分間演奏した。翌3日は八景島シーパラダイスで、もうすぐデビュー予定の∞∞プロの新人歌手・ビンゴ・アキちゃんの前座(というより前説かも)として出演。たっぷり場を盛り上げて、観客の前では初めて歌うというアキちゃんがリラックスした雰囲気の中で歌うことができるようにした。
 
1月4日の午前中は甲府市で繁華街に立って募金活動、午後からは糸魚川市に行き、警察の1日署長を務めた。この日はどちらもノーギャラである。それどころか、2人とも募金箱に1万円入れてきた(アゴアシは∞∞プロ持ち)。
 
1月5日は宮崎県日向市で行われたNHKのどじまんの収録にゲストとして参加した。実は∞∞プロの演歌歌手さんが出る予定だったのが、急病で行けなくなり、その代理を頼まれたのである。それで2人は夜中に雨宮先生が手配した車に乗って北陸道を走って大阪に移動(移動中はふたりとも寝ていた)し、伊丹から宮崎への朝一番の便(7:10-8:20)で宮崎に飛び、JRで日向市に入った。なかなかハードな移動であった。2人はその演歌歌手の物真似で、その歌手の代表曲を歌って、物凄い拍手をもらった。出場者へのコメントも温かいコメントが多く、この日だけでローザ+リリンのファンが200-300人はできたかも知れない。
 
1月6日は午前中の飛行機で東京に戻り、午後から体力測定番組にゲスト出演する。“女性出演者の中で最低点”を取り、
「君たち、箸より重いもの持ったことないでしょ?」
と言われる。
 
「日陰者なのでいつも端の方を歩いてます」
「話が噛み合っとらんわ」
 
宮崎への強行軍での往復で疲れていた所に、更にこの番組でくたくたに疲れていたのに、更に夕方からは『少年探偵団』の撮影にローズ+リリー役で出演する。
 
さすがにきついので
「1時間休ませて」
と言って、1時間仮眠してから、お顔の美容液パックした上で撮影に臨んだ。
 

1月7日の午後からはNHKの教養番組に出演して、司会の三宅行来さんと中南米の地理(高校生向け)の話題を話したのだが、ケイナもマリナもカリブ海の国の名前を地図を見ながら全部言えたので
「あんたたち凄いね」
と本気で褒められた。
 
「松原珠妃さんの『アンティル』を歌えますから」
「あぁ」
 
この曲のサビではアンティル諸島の国の名前が「キューバ、ケイマン、ジャマイカ、ハイチ、ドミニカ共和国、プエルトリコ、・・・」と、ひたすら歌われているのである。この曲がヒットした時には小学生の間で大流行したのだが、これを間違えずに全部歌うのも、ローザ+リリンの芸のひとつになっている。
 
実際に放送時には、ふたりが珠妃とケイ!のものまねで歌う『アンティル』が2分ほど挿入され『ナノとピコだ!』と大いに話題になった。
 
7日の夕方からは音楽番組にローズクォーツで出演して『Brass Quarts』の中でも特に話題になった『Horn Pipes』を演奏した。普段は裏方に回ることの多いホルンが主役になる珍しい曲である。この日、ホルンは山下ルンバが吹いてくれた。彼女はキーボードも打楽器も上手いが、管楽器もほとんど全ての楽器が吹ける。
 

1月8日はものまね番組に出演した。
 
一般参加者の女の子2人組がローズ+リリーの『青い豚の伝説』を歌う。それで2コーラス目まで歌ったところで、中央の階段の上の方が明るくなる。多くの人が、本物のローズ+リリーが登場するのを期待する。ところが出てきてサビを歌い出したのはローザ+リリンであった。出演者の女の子たちの物凄くがっかりした顔が見物(みもの)であった。
 
司会者が寄ってきてケイナたちに言う。
 
「おいおい、ここは本物のローズ+リリーが出てくる所やろ?なんでお前らが出てくるんや?」
 
「すみません。マリちゃんが焼肉の食べ放題に行っちゃったので、代わりに出ろと言われて出て来ました」
と言って笑いを取っておく。
 
でも最後は出演した女の子2人と握手した。彼女たちには自分たちのサインに加えて本物のローズ+リリーのサイン色紙を渡したが、物凄く喜んでいた。(ローザ+リリンのサインは捨てられたかも)
 

1月9日は『夜はネルネル』の撮影があった。疲れがピークに達しているがこの番組の撮影をしていると、ホームグラウンドに帰ってきたみたいでリラックスして、この日はダジャレなどが調子良く飛び、「お前ら今日は調子いいな」とフラフラにも言われた。
 
女装の芸人クラウドはこの日勝手に芸者クラウドと改名されてしまい、次週からは芸者の格好で出てくるように言われて「えー!?」と困ったような顔をしていた(ここで何か面白いことを言えないのがこの人の困った所)。
 
1月10日は大宮アリーナで全日本バスケットの女子準々決勝が行われたが、その第1試合のゲストとしてローザ+リリンが登場した。ネットでは最初「なんでこいつらが出てくるんだ?」と非難囂々であったが、ふたりのトークがなかなか面白く、しかもバスケット経験者であるケイナ(中学までバスケ部だった)が物凄く的確なコメントをするので次第に「こいつらなかなかうまいじゃん」という評価に変わって行く。それで試合が終わる頃には「またローザ+リリンの解説聞きたいね」という声が多数出ていた。
 

1月11日は関東ドームでアクアのお正月ツアーのラストライブが行われた。このツアーでは一貫してラピスラズリが幕間ゲストとして出演していたので、この日も多くの観客が、アクアが前半のステージから降りて休憩に入った後、ラピスラズリが出てくることを期待した。
 
実際、ラピスラズリのデビュー予定曲『亜麻い雨』の前奏が流れる。2人組の影が現れる。
 
「はるこちゃーん!」
「あけみちゃーん!」
という声が掛かる。
 
ところが出て来たのはローザ+リリンである。
 
「え〜〜!?」
という戸惑いの声。
 
「帰れ!」
「引っ込め」
「ラピスラズリを出せ」
という非難の声にあふれる。
 
むろんケイナたちはこういう非難をされるのには慣れっこである。
 

ローザ+リリンが『亜麻い雨』を歌っている最中に町田朱美が出て来て、
 
「ちょっとあんたたち何よ?」
と言う。演奏が中断する。
 
「私たちは新人女子中学生デュオのラピスラズリよ」
とマリナ。
 
「ラピスラズリは私たちよ。はるちゃん、おいで」
と言って、東雲はるこを呼び寄せる。
 
「だったら、どちらが本物か、じゃんけんで決めましょうよ」
とケイナ。
 
「いいわよ。私たちが本物なんだから、私たちが勝つに決まっている」
と言って、朱美は勝負を受けて立つ。
 
それで朱美とマリナがジャンケンをする。
 
朱美がグーでマリナがチョキだった。
 
ほっとしたような空気が観客の間に広がる。
 
「負けちゃったぁ」
「仕方ないわね。じゃ下がるから、あとはよろしく。でも私たちより上手く歌ってよ」
 
「当然よ。こちらが本物なんだから」
 
それでローザ+リリンは退場する。この時マリナは
「ちなみに今のジャンケンはマジだから」
と言い残して退場した。
 
マリナのこの発言はわりと波紋を呼んだのだが、この件は後述する。
 

1月11日の夕方には、何と新婚さん紹介番組に呼ばれてしまった。
ケイナはさすがに
「私たち同性婚なのにいいの〜?」
と訊いたのだが、
 
「ケイナちゃんは女装はしているけど男性で、マリナちゃんは本当に女性なんでしょ?だったら普通に男女の夫婦じゃないですか」
とプロデューサーは言った。
 
それで出て行った(2人とも女装)ものの、さすがに2人ともかなり恥ずかしがった。しかしその恥ずかしがっている所が可愛いと言われ、番組はわりと好評であった。
 
1月12日は新潟でFM局の公開収録番組があり、ローズクォーツは前半の演奏者として出演した(後半は松浦紗雪)。
 
1月13日は釧路市の成人式にゲスト出演してトークをした。実は釧路市は慶太の出身地なのである。このため、2人は新潟での収録が終わった後、新潟空港から新千歳空港に移動(新潟19:10-20:35新千歳 NH1115)した後、慶太の高校時代の友人が運転する車で釧路市まで移動している。彼からも結婚祝いをもらってしまった。
 
「最初、男と結婚したと聞いたから、びっくりしたけど、マリナさん、既に5年前に女性になっていたんだそうですね。それなら普通に女性との結婚だし、マリナさんすごく女らしいから、全然問題ないと思いますよ。可愛い赤ちゃん産んで下さいね」
などと彼は言っていた。
 
5年前に女になっていた?また新しい噂が生まれているようだなとケイナもマリナも思った。
 

成人式では、どうも主催者が“そういう系統の話”を期待しているようだったので、下ネタをバリバリ使ったトークをして(完全に田舎の温泉旅館での芸)、会場を爆笑の渦にした。“この後のデートで脱がせた後の”振袖の着せ方の解説に始まり、避妊具の“間違った使い方”、性行為の様々なバリエーションから、性転換・去勢のネタも随分入れたし、同性愛ネタ、SMネタも混ぜたが、ウブで意味が分からずにいる新成人も随分いるような気もした。
 
式の後で助役さんが「面白かった。もう笑いっぱなしだった」と言っていたので、あれで良かったのだろう。
 

その日は市に取ってもらった釧路市内のホテルに泊まったが、もちろんダブルルームである。ケイナもマリナとダブルベッドで寝ることにはもう抵抗感が無くなったしまった。最初は5cmと言いながら10cm近く開けていたお互いの距離も次第に短くなり、ここ数日は疲れていることもあり、お互いの身体が接触するのも気にせず寝ている。マリナは起きた時にケイナの腕が自分の下着の下まで入っているのに気づいてギョッとしたりする。でもケイナはまだ“気づいていない”ようである。
 
この日は、交替でシャワーを浴びて(順序はいつもマリナ→ケイナ)から寝ることにする。マリナはここの所のハード・スケジュールで疲れているのでそのまま寝ようと思っていたのだが、ケイナの方から“振動”が伝わってくる。ああ、オナニーしてから寝るのか、男の子って大変ネ、などと思った。
 

ところがどうもかなり時間が掛かっているようでる。
 
そしてケイナはひとこと言った。
 
「ダメだぁ。疲れすぎてて逝けない」
「大変ネ」
「学は逝けた?」
「私は疲れたからそのまま寝ようと思ってたけど」
「よくオナニーせずに眠れるな」
 
やはり男の子って大変みたい。
 
(マリナは男だった頃も、オナニーして寝るというのは経験が無い)
 

「逝かせてあげようか?」
「どうやって?」
「だって、私、慶太の奥さんだし」
と言って、マリナは毛布の中に潜り込むと、慶太のものをつかみ、自分の口に咥えてしまった。
 
「嘘!?」
と慶太が声を挙げる。
 
「女の子にされているつもりになりなよ」
 
「・・・そうしてみようかな」
 
それでマリナは“ソフトクリームを舐めるように”舐めてあげた。慶太はほんの3分ほどで逝ってしまった。マリナの口の中で発射してしまったので、マリナはその粘性のある液体を飲んじゃった!
 
かなり濃い感じがする。たぶん4〜5日出すことができなくて溜まっていたのでは?という気がした。溜まっているのに逝けないので辛かったのだろう。
 

「ごめん。お前の中で逝っちゃった」
「いいんだよ。私、慶太の奥さんだし」
 
「奥さんかぁ。お前が女だったら、○○コに突っ込んで逝ってみたいけど」
 
「じゃ逝かせてあげる」
「え?」
 
それでマリナは身体を少し浮上させ、慶太の上に乗るようにした。バスト同士がぶつかりレスビアンの気分だ。慶太の器官を手で刺激する。出したばかりなので時間が掛かったものの、やがて彼のものは大きく堅くなった。
 
「女の子に入れているところを想像するといいよ」
とマリナは言い、彼のものを自分の中に入れてしまった。
 
痛い!と入れる瞬間思ったものの、構わず中に入れた。そして自分で腰を動かして彼のものが自分に出入りするようにする。
 
「気持ちえぇ!」
「良かったね」
「まるで女に入れてるみたいだ。どこに入れてるの?」
「気にしない。気にしない。女の子に入れているつもりになりなよ」
「そうする」
 
彼は2度目であるにも関わらず、5分で逝ってしまった。
 
そして逝ってすぐにそのまま眠ってしまった。
 
「慶太、お疲れ」
と言ってマリナはそっと放出済みの彼のものを自分の身体から抜くと、ティッシュで拭いてあげた。そして眠ってしまった彼の唇に軽くキスして、自分も彼の隣でくっつくようにして寝た。
 
マリナは物凄く幸せな気分のまま、眠りに落ちていった。
 
 
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【春暁】(3)