【春化】(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-05-10
2019年春。
坂口理都は、今春から中学に進学したものの、お父さんの転勤に伴い、ちょうど進学に合わせるタイミングで、茨城県から東京の棒那市に転校してきた。
親は中学に進学する理都のために学生服を買ってあげていたのだが、理都はお祖母ちゃんからもらった進学祝いを使って、棒那市内の衣料品店でセーラー服を作ってしまった。
理都が「転校してきたので遅くなりましたがセーラー服作って下さい」
と衣料品店で言うと、お店のお姉さんは何も疑問を持たずに理都の身体のサイズを計ってくれた。お店では大急ぎで作ってくれたので、理都は入学式前日にその服を受けとることができた。
そして入学式の朝、理都は、これで通学すると親の前で宣言したのである。
「あんた本当にそれで登校するの?」
と母親が呆れたように言ったが、
「もらった生徒手帳に書かれた校則には、男子が女子制服で登校してはいけないなんて書かれてないよ」
と理都は開き直って言った(普通そんなことまで書かない)。
実際には、入学式が終わった後、教室で担任の先生は理都を見て言った。
「あれ?坂口さん、女子だね?」
「私が男子にみえますか?」
「ごめん、ごめん、書類が男子になってたよ。訂正しておくね」
それで理都の学籍簿上の性別は女に変更されてしまったのである!
理都は普通に女子トイレを使用したし、体育の時間の着替えでも普通に女子更衣室で着替え、柔軟体操も女子と組んでやっていた。
新学期早々の身体測定も堂々と女子と一緒に受けたが、この学校は女子はシャツ(またはキャミソールなど)は脱がなくてもいいので、ブラジャー(もちろん着けている)内に入れた粘着性のシリコンパッドで充分に誤魔化すことができた。
理都はいわば転校生のようなものなので知っている子はいない。しかしクラスメイトの女子たちとすぐ仲良くなった。
「リトって変わった名前だね」
「英語のリトルか何かから?」
「私、リトマス試験紙を連想した」
「なぜリトマス試験紙に?お父ちゃんが『TO LOVEる−とらぶる』の登場人物から取ったらしいよ」
「結城梨斗は男の子じゃん」
ちょっとギクっとする。
「ああ、ララと勘違いしてたらしい」
「だったら、本当はララちゃんになるはずだったのか」
「うちの姉ちゃんは、月紗(つかさ)で、『いちご100%』からとったらしい」
「マンガ姉妹か」
「それ間違って淳平にならなくて良かったね」
「女の子で淳平はちょっと可哀想だね」
理都は体育の時間に(女子にしては)高い運動能力を指摘された。
400mを62秒で走り
「坂口さん、陸上部に入って鍛えたら、これ大会で上位に入るようになるよ」
と体育の先生から言われたが
「パスします」
と答えた。
「でもリトちゃん運動神経いいね。陸上でなくても何か部活に入らないの?」
とクラスメイトから言われる。
「私、きついのきらーい」
「まあ確かに練習はきついよね」
それでもリトは春の中体連で卓球部と女子サッカー部(たまたま日程がぶつかっていなかった)から助っ人を頼まれ、卓球部の団体戦ではbest8進出、個人戦では3位になる活躍をして個人戦では賞状までもらってしまった(さすがに少し良心が咎めた)。実は小学校時代も卓球をしていたからできたのである。それでも卓球では上位の都大会には進出しなかったのでホッとした。
しかしサッカーでは元々強い中学だったので優勝して都大会に進出してしまった。
「リトちゃん、準決勝の4点取ったのとか凄かった。正式にサッカー部に入らない?」
「ごめーん、きついの嫌いだからパス」
さすがに毎日一緒に練習してたら女でないのがバレるよねと理都は思った。
少年は母親と一緒に不安げな顔で診察室に入ってきた。医師が
「何かとても困っているということですが」
と尋ねると母親は
「先生に見せてごらん」
と少年に言う。少年は恥ずかしそうにズボンを脱ぎ、トランクスを脱いだ。医師は一瞬声をあげそうになったが、何とか抑えることができた。
「生まれた時からこういう状態ですか?」
と医師は尋ねた。
「先月までは普通の男の子でした。それが先月の22日に突然無くなってしまったらしくて」
「突然無くなった?」
と医師は予想もしない答えに戸惑いを隠せなかった。
「誰も信じてくれないと思うんですけど」
と言って少年は語り始めた。
最近痴漢が出るという噂があり、この少年、H君はバレー部で帰りが遅くなる女の子2人の用心棒を買って出て、一緒に帰っていたらしい。それで3人でその日の20時頃、学校を出て2人が住んでいる集落へと歩いて行っていた時、《それ》は“出た”のである。
(2019.7.22 の東京地方の日没は18:54 日暮19:30 天文薄明終了20:36 月出22:08. この日の天気は曇りであった。そのためこの時間帯はもう日暮れも過ぎてはいるものの本来はまだ空は明るいはずが、曇なのでかなり暗い状態だったと思われる)
コートを着た男が街灯の下に現れる。女の子2人は「キャー!」という悲鳴をあげて逃げて行ってしまった。H君はガードしていた女の子たちに逃げられて、俺はどうしたらいいんだ?と思ったものの、元々正義感が強いし、スポーツ万能でバレー大会でも何度も表彰されたことがある子である。その“痴漢”に向かっていった。
噂では痴漢は、突然コートの前をはだけると、下は真っ裸らしい。そして女の子を脅してパンツを奪うという。実際、クラスの女の子でパンツを取られと言っていた子がいた。
H君は男のそばまで行ってから男に向かって言った。
「あんた何してるの?」
男はH君を見て言った。
「なんだ男か?」
「あいにくそうだけど」
「だったら気が進まないけど、チンコ寄こせ」
「はぁ!?」
「俺は女の子からはパンツをもらうが、男のパンツをもらっても仕方ないから、代わりにチンコをもらうことにしている」
「何それ?」
「おとなしくチンコを渡せば良し。さまなくば・・・・」
「チンコとか渡せる訳がない」
「そうか?だったら」
と言った途端、男はそれまで170cmくらいの背丈だったのが、突然3mくらいに巨大化した。H君は急に恐くなった。
逃げる。
彼は100mを13秒で走れる俊足だ。大抵の人は彼に追いつけない。
しかし男はすぐにH君に追いつき、彼をその場に押し倒した。
「何する?」
「あまり抵抗しないほうがいいぞ。痛い目に遭うから」
と男は言い、彼のズボンのベルトを手で引きちぎるとズボンを下げる。そしてトランクスも下げると彼のおちんちんを掴んだ。
「やめろ!」
とH君は叫んだが、男は構わずグイッとそれを引っ張った。
男は立ち上がり
「じゃな。次は可愛い女の子パンツ穿いてスカートでも穿いてきたら、パンツもらってやる」
と言うと、悠々とした足取りで去って行った。H君は何も無くなった股間を見て呆然としていた。
「それでその後、どうしたんですか?」
と医師は尋ねた。
「その場でたぶん30分くらい呆然としていたんですが、このままでは寒いし、こんな所見られたら、こちらが痴漢と思われると思って」
「ですよね」
「それで取り敢えずパンツ穿いてズボン穿いて、家に帰りました」
とH君。
「でもこの子、そのこと何にも言わなかったんですよ」
と母親は言う。
「だって恥ずかしくて」
とH君。
「それはそうだろうね」
「次の日、一緒に帰っていて逃げ帰った女の子たちから『大丈夫だった?』と訊かれたんですけど、『ああ、俺が怒鳴りつけたらこそこそと逃げて行ったよ』と言っておきました」
「なるほど。でもちんちん無いと不便じゃなかった?」
「不便です。立って小便できないから、毎回大の方に入らないといけないし」
「だよねぇ」
「あと腕力か出なくなっちゃって」
「ああ、睾丸が無いから」
「それでこないだのバレー大会では思ったようにプレイできなくて負けちゃったんですよ。普段の練習でもパッとしないから、スランプか?とコーチから言われて」
「男性ホルモンが筋肉を作るからね。マスターベーションは?」
医師の質問にH君はチラッと母親を見たが、医師も男性だしということで開き直ったのか答える。
「できなくて辛いです」
「うん。睾丸が無くなったからと言って性欲は無くならないんだよね」
と医師は同情するように言った。
3日くらい前にH君の父親がふざけて、彼のちんちんを掴もうとしたが、空振りしてしまう。それで『お前チンコどこやった?』とか言われて、彼が恥ずかしそうにしているので、母親は席を外した。それで父親と2人で話して、やっと親の知る所となったらしい。H君が泣いていたので、母親は彼をハグした。それでお前も聞いておいたほうがいいと言われ、父親が説明したものの、夢か冗談かと思った。結局、母親も彼のお股を見せてもらい衝撃を受けた。
父親は警察に届けようと言ったが、警察が信じてくれる訳が無いとH君は言った。それもそうだという気がした。でも病院に行ってみようということになった。H君は父親に付いてきて欲しそうだったが、何かムニャムニャ言って逃げるので、やむを得ず母親が付き添って病院に来たらしい。
医師は取り敢えず検査しましょうと言った。それでMRIで腰の付近のみならず身体全体の撮影をした。尿や血液なども検査した。心理的な検査?まで受けさせられた。
結果については本人を外して、医師は母親とだけ話した。
まず尿や血液の検査から、男性ホルモンの比率が極めて低く、ホルモン的にはほぼ中性状態であることが分かる。それ以外の異常は見られない。MRIで調べた所では体内には睾丸あるいは卵巣のようなものも見られず、それどころか外性器を切断したりしても残るはずの前立腺も見られず、むろん子宮な膣なども見られず内面まで完全に中性であることが分かった。
「痛みは無いんですよね?」
と医師は確認する。
「全然痛くないそうです。もし、そのぉ、おちんちんを切られたりしたら激痛がありますよね?」
「もちろんです。いちばん神経が発達している部分を切れば痛みは3〜4ヶ月続きます。でもそもそも切ったような跡も見られないんですよ。あの状態は最初から性器が欠落して生まれて来た人ででもあるかのようです。ペニスの根部なども見当たらないです」
「それで私も女なので、よく分からないのですが、例えばおちんちんを作る整形手術とか出来るものなのでしょうか?」
「それはできますよ。ペニスを事故で失った男性のためにそれを形成する手術はあります。ただ、人工的に作ったペニスはその形であるだけなので、立っておしっこしたりするのには使えますが、本来の男性のペニスのようにふだんは小さくて性的に興奮したら大きくなってという訳にはいきません。いつも同じサイズ・硬さなので、基本的には女性との性交に使用できて、普段あまり邪魔にならないぎりぎりのサイズで作ります」
「それで子供を作ることは?」
「それは無理ですね。睾丸がありませんから、精子を作ることもでききません。男性ホルモンも生産されませんから、それは内服薬などでずっと摂り続ける必要があります」
「それは何年くらい飲み続けないといけないんですか?」
「一生です」
と医師は言った。
「そんな。何て可哀想な!」
と言ってから母親は尋ねた。
「ちゃんと機能するおちんちんを作れないのなら、いっそ女の子に変
えることはできないのでしょうか?」
「昔はこういう患者さんの場合、機能するペニスを作ることが困難だが女性器なら何とかなるということで女性器を形成して女性として生きるように推奨していたらしいです。しかし今日では性別というのは、本人の精神的な発達を最も重視すべきで、その精神的な発達に合わせて身体を調整すべきであると考えられています。ですから極端な話、身体が男性に近くても精神的に女性であるなら身体の方を女性的に調整すべきだし、身体が女性に近くても精神的に男性であるなら身体の方を男性的に調整すべきだし、また身体の性別が曖昧で、本人の精神的な性別も中間であり、本人が特に男か女かにはならずに曖昧な性別のままでいいというなら、その曖昧なままにしておくべきとされています」
「曖昧なままでいいんですか?」
「本人がそれを望むなら、そのままでいいし、無理に男か女かに決めつける必要は無いと現代では考えられています。昔はそういうケースでは割と無理矢理女に変えてしまい、結果的に本人が社会的な不適合を起こして自殺してしまうようなケースも多かったんですよ。本人がどう生きたいかという意志がいちばん大事です」
医師が自殺という言葉を使ったので母親はハッとしたように言った。
「あの子、まさか自殺したりするようなことは?」
「それは御両親がよくよく見てあげていてください。必要ならいつでもこちらに連れてきてください。うちには精神的なケアをする心理士やカウンセラーなどもいますので。あるいは信頼できるお医者さんとかが他にあったら、そこでもいいですし」
自分の病院にこだわらず信頼できる病院に行ってくれという医師の言葉に、母親はむしろ信頼感を感じた。
「分かりました。ではあの子、どうしたらいいんでしょう」
「念のため精神的な発達状態も検査させて抱きましたが、H君は完全に男の子として精神的に発達しています。機能的に天然の男性器並みにはならなくても男性器の再建手術をなさることをお勧めします」
「臓器移植みたいにどなたかのおちんちんを移植とかすることは無理なんですよね?」
「移植した例は外国にはありますが、拒絶反応が起きたりして、なかなかうまく定着しないようです。そもそもペニスのドナーというのが普通無いですね。それにペニスはまだいいですが、睾丸は他人の睾丸を移植した場合、それでできる子供は遺伝子的には全く他人の子供になるので、倫理的な問題が発生します」
「あ、それは困りますよね。自分とは全然似てない子が生まれたりすると」
「ドナーがお金持ちだったような場合、遺産相続で揉める可能性もあるんですよ」
「まずいですね、それって」
「その問題があるのでペニスの移植はしても睾丸の移植には慎重な医師が多いです」
「だったらペニスだけでも移植してもらうわけには?」
「その場合、睾丸が無いと、ベニスは勃起しないんですよ」
「困りましたねぇ」
医師は母親とかなり突っ込んだ話し合いをした上で本人も呼んだ。それで基本的にはペニスの再建手術、陰嚢の形成手術をした上で、陰嚢には本物そっくりのシリコン製の睾丸を入れる方向で考えたいと説明した。本人も、たとえ形だけであってもチンコとタマが戻るなら、とりあえずそれでいいと言った。
ちなみに女の子の形にする方が簡単だけどとも言ってみたが
「女の子になるなんて絶対嫌です。俺は男です」
と本人は言った。それでいっそ女の子にするという選択肢は消えた。
次回以降は、男性器の再建方法について、いくつかの案を説明して手術の日程などについても話し合うことにした。医師は次回は父親も連れて来て欲しいと言った。この手のケースでは両親の双方の同意を取って進めないと、しばしば片方の親が治療方針に納得せず揉めたりしがちなのだと言った。母親もそういうケースありそうですねと理解を示した。
アクアは11月にドイツのロマンティック街道で写真集の撮影をすることになっていたが、このツアーの事務を統括することになる桜木ワルツ(最近彼女自身もタレントであることを周囲から忘れられつつある)が、渡航することになる、アクア、今井葉月、姫路スピカの3人に言った。
「あんたたちパスポートを確認させて」
それでアクアと葉月はいつも持ち歩いているバッグに入れているパスポートを出すが、スピカは持って来ていなかった。
「家にあるので明日にも持って来ます」
「それはいいけど、できたら常時携帯しておいて欲しい。テレビの企画とかで突発的に海外に行くことになる場合ってあるから」
「分かりました」
「スピカちゃん、パスポートの有効期限分かる?」
「2016年に作ったから、2021年までだと思います」
「だったら大丈夫ね。あ、アクア、これ来月切れるじゃん。更新しなきゃ」
「はい。更新しておきます」
3人の内誰か手が空いてる子が申請に行けばいいなとアクアは思った。
このパスポートはデビュー前の2014年11月にハワイで写真集を撮影することになり、作成したものである。あの撮影でも、女の子と思われて苦労したなあと思い出していた。あれから5年経つわけだ。あの時まさかこんなに売れるとは思いもよらなかった。
「葉月ちゃんのは2023年まであるから大丈夫ね」
とワルツは言った。
葉月はその時は今のまま、性別女性でパスポートは更新されることになるのだろうかと悩んだ。その時点で自分が男に戻っているか女の子のままになっているか、凄く微妙な気がした。高校卒業までに自分の性別をどうするか決めますと先日醍醐先生に言ったものの、本当にそれまでに決めきれるか自信が無い。女の子になるつもりなんか無かったはずが、自分はあまりにも女の子ライフにはまりこみ過ぎていると思う。
その日、テレビ局のクルーは今年度1年間(2019.4-2020.3)、ローズクォーツの“代理ボーカル”を勤めているローザ+リリンのケイナとマリナを連れて、東京都内棒那(ぼうな)市の女化稲荷(おなげ・いなり)前に来ていた。
「このあたりなんですか?」
「このあたりで出るそうです」
ケイナとマリナはいつも女装なのだが、今日は2人とも女子中学生のようなセーラー服を着せられている。テレビ局では徳大サイズのセーラー服なども用意していたらしいが、日々節制をしている2人は普通に少女タレント用のセーラー服(11A)が入ってしまい、テレビ局のスタッフが感心していた。
実は最近、この神社の付近で痴漢が出没しているという噂があったのである。普通の痴漢なら、わざわざテレビ局がとりあげるまでも無かったのだが、この痴漢は女子からは脅してパンティやブラジャーを取り上げるのだが、ここにもし男子が来て、痴漢を撃退あるいは邪魔しようとした場合、“ちんちんを取り上げる”らしいという噂なのである。
それでちんちんを取り上げられて男を廃業した人が既に40-50人居るとか、中には女として暮らし始めた人もあるとか、性別を変更した人もあるという噂であった。ただしこの“痴漢”は男性器を取ってしまうだけで女性器をつけてくれる訳ではないので、女になりたい人は女性器を形成する手術をあらためて受ける必要があるらしい。
それでもふつうの性転換手術とは違い、男性器を手術で除去するわけではないから、倫理的にはかなりゆるく、ある程度大きな病院でなら手術してもらえるらしい。それで最近は“ちんちんを取られたい”男の娘たちが、随分ここに来ているらしいが、男の娘たちからは、この“痴漢”は女の子同様パンティやブラジャーを寄こせと言い、ちんちんはなかなか取ってくれないとも言う。
今回この深夜番組“夜中のサンドイッチ”ではこの噂を聞きつけ、ネットで被害者たちに取材を試みたものの、本当に被害にあって“ちんちんを取られた”人と確信できる相手には接触できなかった。しかし取材する中でこの“痴漢”の様子がかなり分かってきたので、番組として構成してみることにした。
ローザ+リリンは、ローズ+リリーのそっくりさんの男芸人で、ローズ+リリーがデビューした直後の頃からどさまわりで売っている。2008年に彗星のごとく現れたローズ+リリーは、ケイとマリの内のケイが男の子だった!というので全国に衝撃を与えたのだが、ローザ+リリンは「実は2人とも男でした」というネタで温泉街とか、地方都市のホテルとかでショーをしていたのである。
当時は可愛く歌を歌っていたのが、最後は裸になって、何も無い胸や更には男性器まで露出させて笑いを取っていた。その存在は(ローズ+リリーと契約する)★★レコードと関連の深い◇◇テレビ以外の多くのテレビ局にも取り上げられたが、あくまで「取材」の範囲だった。ちなみに、あちこちで警察から呼ばれて、最近は男性器を露出する演出は控えるようになった。
しかし今年春に2人が今年度のローズクォーツ代理ボーカルに就任したことから、「取材される」立場ではなく、「番組の出演者」としてもお呼びがかかるようになった。多くは“体当たり芸人”的な使われ方で、バンジージャンプをさせられたり、熱湯の風呂に入れられたり、アメリカのゲイバー潜入レポートをさせられたり(貞操の危機を感じたらしい)、毒蛇と同じ箱に放り込まれたり(マジで生命の危機を感じたらしい)、さんざんな目に遭っている。それでも月収が昨年の10倍になり驚いていると言っていた。しばしば“タカ子”と一緒に3人で呼ばれて“薔薇のオカマ三姉妹”などとまで言われている。
(ローズクォーツと薔薇族を掛けたもの)
「だけど、ここの女化(おなげ)稲荷って不思議な名前ですね」
「これには伝説があるんですよ」
と案内役として出演してくれた、地元の郷土史家さんが語った。
昔、このあたりで毎年人身御供を要求する山の神が居た。それで毎年、村の中で誰か年頃の娘が人身御供に選ばれ、生きたまま白木の棺に入れられて山の神社の神殿前まで運ばれた。翌日行ってみると、棺の中の娘はいなくなっていて、棺には大量の血が付いていた。
ある年の夏、ある家の娘が人身御供に選ばれ、両親と最後の食事をしてから、棺が運び込まれるのを待ちながら泣いていた。
そこに1匹のキツネが姿を現した。
「娘よ、なんで泣いている?」
「私は今夜人身御供に出され、山の神に食べられてしまうのです」
「なぜそんな理不尽な?」
とキツネが聞くと、この人身御供の由来を娘は語った。
以前ずっと日照りが続き、多数の村人が死ぬ事態があった。その時、村に神と名乗る大男が現れ、お前達を救ってやるから、毎年若い娘を人身御供に出せと要求した。それで村長の娘が人身御供になった所、山の中腹から水が湧き出し、川となって村に流れるようになり、村は救われたのである。その川は山神川と呼ばれた。また大男のために、川の湧きだし口のそばに立派な屋敷も建てたので、その“神”はそこに住むようになった。村人たちは毎日のように猪や鹿を供えたが、夏至の日の夜には、毎年誰か村の娘が人身御供になることになったのである。
キツネは言った。
「そんなことをするのは神ではない。魔物に違い無い。私が退治してやる」
「でもどうやって?」
「娘よ。床下に隠れていなさい。私がそなたに化ける」
とキツネは言うと、娘そっくりの姿に変身した。そして床板をあげて娘をその下に隠すと娘に渡されていた白装束を身につけて死化粧をした。
やがて時間が来て、運び役の村の若者たちがくる。
「○○ちゃん、ごめんな」
と言う若者たちに怪しまれないよう悲しそうな顔で頷いて答え、泣いている両親にも別れを告げ、娘に化けたキツネは棺の中に入った。娘が怖がって逃げ出すと困るので棺はご丁寧にも釘で蓋を打ち付けられる。そして山の神社まで運ばれていった。
やがて何かがやってくるのを感じる。釘など、ものともせず荒々しく棺の蓋が開けられる。
「おお、今年の娘はきれいだ」
と感動するように言ったのは、身の丈4-5mありそうな、猿のような化け物だった。キツネは棺から自ら飛び出すのと同時に、隠し持っていた剣で魔物の心臓を一突きにした。キツネが少し離れて見ていると、魔物はかなり暴れたものの、やがて動かなくなった。
翌日、棺を回収して娘の葬儀をしようとやってきた若者たちは、巨大な魔物が倒れて絶命しているのを見て驚く。キツネは人々に言った。
「魔物は私が倒した。お前たちはこのような魔物ではなく代わりに我を祀れ。私が村を守ってやる。私は人身御供など要求しない。油揚げでよいぞ」
それで村人たちは半信半疑で魔物の遺体は建物の奥の洞窟そばに埋め、その後は山の神社はお稲荷さんに変更して、そのおキツネさんを祀るようになった。
その後、他の村が日照りで苦しんでいる年もこの村だけは、神社の所から湧き出る川のおかげで助かっていた。それでおキツネさんが村を守ってくれているんだと人々は考え、この神社を深く信仰した。人身御供になるはずが助けられた娘はその神社の巫女として奉斎し、その娘が産んだ子供の子孫が代々神社を守っていったともいう。
ここは、キツネが女に化けて娘と村を守ったので、女化(おんなばけ)稲荷と呼んだ。川の名前も山神川から女化川と改められた。そして「おんなばけ」という名詞が、時を経て音が短くなり「おなげ」と呼ばれるようになったらしい。
(別の説では、おキツネ様の名前が稲毛(いなげ)だったのが、いつの間にか「おなげ」に変化し、当て字で「女化」になったとも)
またこの神社に奉納するのにみんな油揚げを作ったので、この地の油揚げは棒那油揚げといって多摩地方に広く売られるようにもなったという。
なお地質学的な調査ではこの町の後背にある棒織山の広い森で蓄えられた地下水が、伏流水として流れているのが、このポイントで湧出して川(女化川)となっているらしい。この神社の付近より下側では地質が粘土質なので地下水が通りにくいのだという。それでこの川の流量は少なくともこの町付近では降水量とは無関係に安定している(この川は下流の玉貫で棒那川に合流する)。
そのような原理が分からなかった頃には山の上の方に大きな湖でもあるのではと調べ回った人たちが居たものの、それらしき湖や池を発見することができた者は誰もいなかった。実際には森自体が巨大な湖を兼ねているのである。
さて、番組の方である。
「では再現ドラマをしてみましょう」
とレポーター役、“おにぎり”の明太子(めんたいこ−ちなみに相棒はカツ夫)が言い、ローザ+リリンの2人は右手の方から神社前に向かって歩いて行く。神社前の街灯がある所に、痴漢役のピン芸人・“芸人クラウド”がコートを着て、サングラスに帽子をかぶって待っている。
セーラー服を着たケイナとマリナが近づいて行く。男を発見して驚くような顔。ここはなかなか演技力があるのを見せる2人。2人の内ケイナが「キャー!」と言って逃げて行ってしまった。
マリナが取り残される。
セーラー服姿のマリナは逃げて行ったケイナの背中を見送ってから、男に向かいあって言った。
「お前は何だ?」
すると男(芸人クラウド)はいきなりコートの前を開いてみせる。すると裸である。本当に裸を映しちゃうのが、さすが深夜番組である。むろん放送の時はあの付近はモザイクを掛ける。
「なんだ小っこいな」
とマリナは言った。
「小さいって誰と比較してるんだよ?」
とクラウド。
「私の方が大きいよ」
と言って、マリナは自分のスカートをめくり、あれを見せる。(ここも放送時はモザイク)。
「何と!お前男だったのか!?」
「男で悪いか?」
「なんで男がスカート穿いてる?」
「スカート穿いて暮らしますという契約書にハンコおしちゃったから」
これは事実である。もっともケイナもマリナもその契約がまさか10年以上続くとは思いも寄らなかった。
「変な契約だな。だったら、お前チンコ寄こせ」
「はあ?」
「俺は可愛い女の子からはパンティをもらうことにしているが、見苦しい男からはチンコをもらうことにしている」
「なんでそうなる?」
「いいから寄こせ」
と言ってクラウドが寄ってくるので、マリナは逃げた。しかしクラウドに追いつかれて押し倒される。そしてスカートをめくられて、クラウドにちんちんを掴まれ引っ張られる。
マリナは
「ああ、チンコが無くなってる!」
と声を挙げた。
痴漢(?)役のクラウドは、
「じゃな。次は可愛い女の子パンツ穿いてスカートでも穿いてきたら、パンツもらってやる」
と言って立ち去っていった。
(後で視聴者から「マリナちゃんこの日もスカート穿いてたのに」と突っ込まれた)
ここまでで再現ドラマの撮影は終了である。放送時は最後にCGで作った、何も無い股間の状態を映すことになっている。
(放送後、マリナさんは本当にちんちん無くなったんですか?という問合せがたくさんテレビ局に来た。実際問題としてローザ+リリンについては、最近性器を見せる芸をしていないので、実は性転換あるいは去勢しているのでは?という疑惑が囁かれていた)
「まさか本当にチンコ掴まれるとは思わなかった」
と撮影が終わってからマリナは言った。
「すんませーん。ついノリで」
とクラウド(本当はプロデューサーが唆した)。
「でもチンコ取られなくて良かったな」
とケイナ。
「お前がチンコ取られる役すれば良かったのに」
とマリナ。
(痴漢と対峙して、ちんちんを取られる役はジャンケンで決めた)
この番組が放送された後、ローズ+リリーのマリがマリナの所に電話して来て
「マリナちゃん、ちんちん無くなっちゃったのね。ヴァギナはあるの?」
などと言った。
「あれはテレビの番組ですよぉ。本当にちんちん取る訳ないじゃないですか」
「それは残念。いい病院紹介してあげるから性転換手術を受けなよ。お金無かったら貸してあげるし」
「いえ、私は性転換するつもりとかありませんから」
マリからの電話はさすがに無碍に切れないし、マリナは対応に苦労した。結局、気づいたケイがやめさせてくれたようであった。ケイは最後に電話を代わって「ごめんね。マリが変なこと言って」と謝っていた。
その夜、マリナは夢を見た。物凄い現実感があったのだが、多分夢だと思う(ことにした)。
マリナは病院に来ていて、医師の診察を受けているようである。
「では見せてください」
と言われて、マリナはスカートをめくり、パンティを下げてその付近を見せた。
医師はそこに付いているものを触って随分いじっていた。定規を当ててサイズを計ったりもしている。そしてやがて言った。
「このおちんちんはもうダメですね。手術して取りましょう」
「え〜!?」
「今から手術します。大丈夫です。簡単な手術ですから。30分もあれば終わりますよ」
「ちんちん取られたら、私はどうなるんです?」
「ちんちんが無かったら女性と同じですから、性別を女性に変更すればいいです。裁判所に提出できる診断書も書きますよ」
「困ります。私、女になんてなりたくないです」
「そうですか?でもこのちんちん取らないと命に関わりますよ」
「何か人工的にちんちんを作ることはできないんですか?」
「一応、ちんちんを無くした男性のための人工ペニスもあるにはあります」
と言って、医師はカタログを見せた。
「これはロボコップ型、これは鳥型、これは白鳥型」
「ロボコップ型は嫌です。まるで機械じゃないですか」
「ロボコップはロボットですから」
(ロボコップは正確にはサイボーグである。ロボット(アンドロイド)ではない)
「鳥形って何も無いじゃないですか」
「鳥にはペニスがないので。鳥はペニスがなくてもちゃんとセックスしてますよ。穴と穴を合わせて精液を流し込むんです」
「なんか凄く嫌です。白鳥型ってこれジョークですか?」
バラエティで、白鳥の湖のパロディで男芸人が白鳥の首が生えているチュチュで踊る時に使うような、いわゆる白鳥パンツの形である。
「機能はしっかりしているんですけどね。白鳥の頭の所だけ取り外せば、ちゃんと女性にインサートできますし」
「もっと人間らしいおちんちんがいいです」
「だったら、ケイナさんのおちんちんを移植しますか?」
「それ私はいいですけど、ケイナはどうなんるんです?」
「ケイナさんはおちんちん無くてもいいでしょ。あなたを置いて逃げたような人のこと心配する必要ないですよ。では手術を始めます」
いつの間にかケイナがそばに居て手術台に乗せられている。マリナも隣の手術台に乗って横になる。
「では手術を始めます」
と医師は言った。
「今マリナさんからもう使えないおちんちんを切り取りました。廃棄します」
と言って医師は金属製の膿盆に載った臓器っぽいものをゴミ箱に放り込んでしまった。医師がスイッチを入れるとキューンという刃が回転するような音がする。
「そのまま下水に流すと苦情がくるので細かく粉砕するんです」
などと医師は言っている。
俺のちんちん粉砕されて下水に流されちゃったの!?股間を見ると、そこには何も無くなっている。まるで人形のお股のようなツルツルの形である。
「今ケイナさんのおちんちんを切り取りました。これをマリナさんに移植します」
それでおちんちんとタマタマがケイナのお股にくっつけられた。お股が男の形になるのでマリナはホッとする。
「でもケイナはちんちん無いままですか?」
「じゃ代わりに女の形に改造しましょうか?」
「棒も穴も無い状態よりはマシかも」
「ではサービスでケイナさんは女の形に変えます」
それで30分くらい待つと
「終わりました。これでケイナさんは女と同じですから、おふたり結婚できますよ」
結婚!?ケイナと?そりゃケイナは大事な相棒だけど。あいつとセックスすることになる!?
マリナは巡業先で、ふたりが同性愛の夫婦と勘違いされてダブルルームを用意されていた時のことを思い出していた。
そこで目が覚めた。ドキドキしながら、マリナは自分のお股に手をやる。ちんちんもタマタマもあるのでホッとする。念のためトイレに行き、便器に座って(長年の女装生活でもう座ってするのが習慣になっている)、ちゃんとちんちんから排尿した。
ここでギョッとする。
明らかに、ちんちんが自分のものではない!
まさか本当に自分のは捨てられちゃって、慶太(ケイナの本名)のを
移植されたんだったりして?
トイレから出て居間で取り敢えずコーヒーを入れていたらケイナが彼の寝室から出て来た。
(2人は同じマンションで共同生活をしているが、ただの友人であり、恋人や夫婦ではないので寝室は別である。2LDKのマンションの2つのベッドルームを各々が使用している)
「変な夢見た」
とケイナが言う。
「どんな?」
とマリナは訊いた。
「痴漢に取られて、学(マリナの本名)のチンコが無くなったから代わりに俺のを移植すると言われて、チンコ取られちゃうの」
「へ、へー!」
と言いながら、マリナは内心焦っている。
「それで慶太(ケイナの本名)はチンコ取られてどうなったの?」
「棒も穴も無いのは可哀想だと学が言ったからさ、だったら女にしてやると言われて女に改造されちゃった」
「夢でよかったな。本当に改造されてたら大変だ」
「全くだよ。女の格好する芸をもう10年以上やってて、洋服なんかも男の服は全然無くなったし、彼女にも振られたし、運転免許の写真も女にしか見えないような写真だし、ヒゲやスネ毛も脱毛しちゃったし、トイレも女トイレにしか入れなくなったし、女湯にも5回入っちゃったけど、俺は男だし、女になる気なんてないから」
とケイナは言った。
マリナは、自身としてはこのまま社会的にほぼ女として暮らしていてもいいかなという気が少ししているのだが、ケイナにはそういう傾向は全く無いよなとは思っていた。彼は女装している以外は完全な男である。
マリナは言った。
「まあ取り敢えずトイレにでも行ってきたら?」
「そうだな」
それでケイナはトイレに行った。トイレのドアが閉まってから10秒もしない内にトイレから
「うっそー!!?」
という大きなケイナの声がした。
坂口理都の中学のサッカー部は5年ぶりの都大会進出を果たしたものの、1回戦で昨年の準優勝校Z中学とぶつかってしまう。健闘はしたものの1点差で敗れてしまった。しかし相手校のキャプテン・米崎さんが試合終了後に理都の所に来て言った。
「あんた強いね。またやろうよ」
「再戦いいですね」
それで2人は握手して別れたが、その後の顧問同士の話し合いで、夏休みくらいにでも練習試合をすることになった。
しかしこの試合で理都は強豪から3点も取ってハットトリックを決めたことから、試合を見ていた都中体連の幹部さんの推薦で、都中体連主催の強化合宿に招集されることになってしまった。
理都はサッカー部に正式の籍が無かったし、本当はもう登録の期限が過ぎていたのだが、特例で登録証を作ってもらえることになった。
それで理都は「坂口理都・平成19年1月21日生・女・棒那市立F中学サッカー部所属」という登録証が(電子的に)発行されたのである。
ちなみに理都は「坂口理都・女・1年1組」というF中学発行の生徒手帳も所有し、それで「坂口理都・女・12歳」と記載されたバスの定期券も持っている。
しかし理都は密かに「合宿はやばい気がする」と思った。
ところで女化神社近くで痴漢?に襲われ、男性器を喪失したH君であるが、2度目の病院での診察(というより相談)では父親もちゃんと付いてきた。父親は、かなり悩んだような顔で言った。
「先生、人工的にペニスを作ってもそれは立つこともないというし、誰かからペニスを提供してもらって移植というのも、そもそもドナーが見つからないし、たとえ見つかっても、ペニスはいいものの、睾丸までは移植するわけにはいかないと聞きましたが」
「はい」
「それで考えていたのですが、私のペニスと睾丸を息子に移植することはできませんか?私の睾丸なら、それで子供ができた場合も遺伝子的には弟になるだけで大きな問題はないですよね?」
「それは可能ですし、親子なら組織の親和性もあって定着しやすいと思いますが、お父さんはペニスや睾丸が無くなってもいいんですか?」
「私はもう子供も3人作って子作りは終わっています。女の子を守るために戦った息子のためなら、自分のが無くなってもいいですよ。どうしても無いと不便なら、それこそ私は人工ペニスでも構いませんし」
「分かりました。それではお父さんのペニスと睾丸を息子さんに移植し、お父さんは上腕部の皮膚を採取して人工的なペニスを作る方向で考えましょう」
それでH君はお父さんからちんちんとタマタマ(+玉袋)を提供してもらって移植手術を受けることになったのである。H君は泣いて父親に感謝していた。
家に帰ってから、報告を聞いた、H君の姉は言った。
「ああ、お父ちゃんのちんちんを移植することになったんだ。せっかく女の子になれるチャンスだったのに」
「俺は女になんかならないよ!」
「女の子もいいのに。あんた女になれる才能あると思うよ。わりと顔可愛いし。ちょっと女装してみない?」
「嫌だ」
「女の子になったら女湯に入れるよ」
「・・・」
「あ、悩んでる、悩んでる」
「悩んでないよ。女湯になんて入りたくない」
「入ってみたい癖に」
「それでお父ちゃんはちんちん取った後は女になるの?」
「女になってしまうと、母さんが困るだろうから人工的なペニスを付けてもらうよ」
「へー。レスビアンでもいいと思うのに」
「お父ちゃんが女でもいいの?」
と母が訊くと
「私は理解あるよ。安心して女になって。女同士の夫婦もいいと思うよ」
と姉は言った。
それで母親は夫に尋ねた。
「あんたこそ、いっそ女にしてもらう?」
深夜番組で「ちんちん取り痴漢」のネタを見た千里(千里3)は、そういえば昔旭川で“チン取り弁慶”を天津子ちゃんと一緒に退治したな、などと思い出しながら、《こうちゃん》に訊いた。
「この犯人、あんたじゃないよね?」
「俺はそんなことしないぞ。コートの前をはだけて裸を見せるなんて、もう50年くらいやってないし」
やってたのか!?
「俺はチンコ取ったらちゃんとその後、女の形に変えてやる。棒も穴も無いってオナニーもできなくて辛いじゃないか。そもそも俺は可愛くて男のままにしておくのはもったいないような男の娘しか女には変えない。マリナみたいに男にしか見えない奴は対象外だ」
「そう?ケイナちゃんはやや男っぽいけど、マリナちゃん、わりと可愛いと思うけどな。あの子たちに会って男の芸人だと思う人はいないし、女の芸人だと思い込んでる人も多いよ」
「だって、あいつら骨格が男じゃねぇか」
「へー!」
「あいつら、きっとたくさんオナニーしてたに違いない」
「それは男の子なら普通にするのでは?」
「俺は男性化が進まないようにオナニー我慢してた子がいい。男の骨盤では胎児が安定して子宮内に居られない」
「ふむふむ」
やはり妊娠させるつもりなのか。
「だいたい俺なら無理矢理身につけているパンティやブラジャーを奪うことはない。密かにタンスの中から盗んでいくだけだ。着ているのを取られたら家に帰るまで困るだろ?」
開き直ってるなぁと思う。
「それでアクアのブラジャーとか盗むんだ?」
「あいつが妊娠したらちゃんと結婚してやるから大目に見てくれ」
アクアが妊娠したりしたら多分《こうちゃん》はファンから殺される、と千里は思った。《わっちゃん》がいるから大丈夫とは思うけど。
「私の下着が時々無くなっているのもあんたのせい?」
「俺だけじゃないぞ。貴司君も時々勝手に入って持ち去ってるぞ」
「まあ貴司はいいけどね」
坂口理都の学校の女子サッカー部は7月下旬、夏休みに入ってすぐにZ中学女子サッカー部との練習試合を行った。
向こうは前回は大したことはない学校と思っていたので油断して最後は1点差だっものの、今回はかなりマジで最初から猛攻を掛けてくる。しかし理都はピッチ上でみんなを励まし、しっかり引いて守って相手をゴール近くまで寄らせないようにし、余計な失点を防ぐ。それとともに、理都とこちらのキャプテン・美那とのワンツーでボールを運び、個人技中心であまり連携プレイの無いZ中の欠点を突いてゴールを決める。それで少しずつ挽回していった。試合開始20分で4-0になっていたのを最後は6-4まで挽回してしまった。
試合に負けはしたものの、Z中キャプテンの米崎さんは
「今日は試合には勝ったけど、勝負に負けた」
と言っていた。実際、F中学のメンバーたちは強豪のZ中に善戦したことで、みんな自信を持ったようであった。
「またやろうよ」
「そうですね。またやりましょう」
「その前に来月の合宿でも会おう」
「ああ、米崎さんも都の合宿に参加するんですね?」
「うん。強い子がたくさん来るよ。ああ、苗字呼びじゃなくて、ソラでいいよ」
「それは楽しみです。では私もリトでいいですから」
などとと言いながら、理都は焦っていた。
理都と米崎ソラはまた握手して別れた。
8月上旬に都中体連の方から電話でも連絡があり、合宿の書類が送られて来た。保護者の同意欄もあったが、理都は勝手に親のハンコを押して出しておいた。同意書にも生徒本人の名前・生年月日・性別を記入する欄があるので、坂口理都・2007.1.21生れと書き、性別は女の方に丸を付けておいた。
合宿は8月19日から23日までの5日間である。会場は八王子市の合宿施設を使うということで、合宿所のパンフレットも入っていた。パンフレットでは、地図や構内図、練習用の陸上競技場、テニスコート、体育館、トレーニングルーム、などの写真、また食堂や宿舎の部屋の写真なども入っていた。どうも部屋は純粋にベッドだけで、トイレやお風呂は共同のようである。構内図にも女子用浴室・男子用浴室という表示がある。
「やばいな」
と理都は思った。さすがに女子として泊まっているのに男子浴室には行けないよね?といって女子と一緒に入ると、さすがに性別がバレちゃう。
理都は実は昨年の修学旅行の時は、みんなと入浴時間帯をずらして、ちゃっかり温泉の女湯に入っちゃったのだが、このことは親にも友人にも秘密である。まだ小学生なら胸が無くても発達が遅れていると思ってもらえるだろうが、中学生で男みたいに胸が無いのはまずい。さすがに怪しまれるだろう。あんたまさか男じゃないよね?などと言われて、お股でも触られた日には・・・
警察に突き出されちゃうかも!?
そんな時、理都は市内の女化神社の近くで出没している“痴漢”の噂を聞いた。
「ちんちん取っちゃうなんて変な痴漢!」
でもそんな奴に遭遇できたら幸いだ。女の子になれなくても、男の子でなくなったら、合宿を乗り切れると理都は思った。
それでその日の夕方、理都は夕方、自転車で女化神社の近くまでやってきた。自転車を近所のコンビニに無断駐車し、神社に向かっていく。私服だが、可愛いフリルの付いたフレンチ袖Tシャツに、膝上10cmのスカートである。要するに“痴漢に襲われやすい”服装なのである。なお、スカートで自転車を漕いできたので、理都の自転車を前方から見てしまった男性には目の毒だったかも知れない(目の保養になった可能性も?)。
「“痴漢”さん、出てくれないかなあ」
と思いながら、理都は歩いていた。
(理都は“痴漢”が可愛い男の娘からは、ちんちんではなく普通の女の子と同様にパンティを奪っていくという話を知らない)
京平は“お友達”で世田谷区内に住むゴンちゃんというおキツネさんに紹介されて、都内の神社を拠点としているトマトちゃんという若いおキツネさんから相談を受けた。
「実はうちの神社の近所でやっかいな奴が勝手なことしていて困っているんですよ」
それで話を聞いてみると、どうも妖怪か魔神なのか分からないけど、裸を見せて脅し、女の子から下着を取っていく奴が出没しているらしい。
「女の子からパンティやブラジャーを奪うなんて酷い奴だ」
と京平は憤慨する。
「更に男の子からはちんちんを取っちゃうんですよ」
「ちんちん取られたら困るじゃん」
「被害者が僕が把握している範囲で12人。その中でちんちん無くなって嬉しいと思っている子が7人だけど、残りの5人は、ちんちん無くして困っている」
「無くなって嬉しい子もいるんだ!?」
「元々女の子になりたい子だったみたい」
「ちんちん取られたら女の子になっちゃうの?」
「そういう訳ではないみたい。女の子の形にするんじゃなくて、何もない状態になる」
「それ、お婿さんにもお嫁さんにもなれない?」
「そうだけど、男にはなりたくないと思っていた子にはちんちんがあるよりもマシらしい」
「よく分からないなあ。ボクならちんちん無くなったら泣くよ」
と京平。
「それでちんちん取られて泣いている子も多いみたい」
「病院とかに行けばちんちん付けてもらえる?」
「形だけのちんちんを作ることは可能で立っておしっこできるようになるけど、いじると大きくなったりするおちんちんは作れないらしい」
「それは困るね。ちんちん大きくするの気持ちいいのに」
「気持ちいいよね」
と言って、つい2人はオナニー談義をしてしまう。
「神社の中に入ってきたら、大神様の力を借りてやっつけちゃうんだけど、神社の外では手が出せないんだよ」
「ちょっとうちのお母ちゃんに相談してみる。うちのお母ちゃん、バスケット・ボールの世界チャンピオン(京平的認識)だから強いよ。そんな変態魔神には負けないよ」
と京平は言った。
それで京平は千里を呼んでこようと思った。3番さんはたしか日本代表の合宿中だからと思い、電車に乗って!2番さんが住んでいる(東京都)葛西のマンションに行ってみた。そしたら《きーちゃんさん》が居た。
「あら、京平君」
「こんにちは、きーちゃんさん。母はいませんか?」
「今グラナダだけど何か用だった?」
「実は・・・」
と言って、京平はかいつまんで状況を話した。
《きーちゃんさん》は少し考えてから言った。
「それなら1番さんを頼るといいよ。1番さんは今経堂のアパートにいるはず」
「1番さんの力で対応できるでしょうか?」
「今1番さんは世界最強の霊能者だよ。先日は石川県で**菩薩の**大悲法を使って荒れ果てた神社を鎮めてしまったから」
「なんか凄そうですね。1番さん、そんなに回復してるんですか?」
と京平は驚いた。
それで結局、京平は《きーちゃんさん》が運転するホンダ・シャトルに乗せてもらい、経堂のアパートまで行った。
「あら、京平、よく来たね」
と千里は嬉しそうな顔をして京平を迎えた。京平は千里の様子を見てそんな“大したことない”ようにみえたので、本当に大丈夫かなと不安を覚えた。
話を聞くと、千里(千里1)は
「それはいけないね。青葉に頼むことになるかも知れないけど、取り敢えず行ってみようか」
と言った。京平も、青葉さんなら何とかするかもと思い、その前段階として1番さんに見せるのは悪くないかもと思ったので一緒にいくことにした。
《きーちゃんさん》が、早月と由美は見てるよと言うので、京平も妹たちをよしよししてから、母と一緒に出かける。千里1はヴィッツを持って来て、後部座席にセットしたチャイルドシートの大きい方(ふだん早月が使用しているもの)に座るように言い、それで棒那市まで出かけた。
そして千里たちが現地まで行き、女化神社の近くまで行った時、ふたりは夜道を走って逃げている女の子と、その後ろから追いかけている身長3mくらいありそうな男の姿を見た。
「お母ちゃん!」
「助けよう」
と言って千里はヴィッツを女の子のそばで停める。千里は左手でシートベルトを外すのと同時に右手でドアを開けて飛び出し、転んでしまった女の子をかばうようにして、男の前に立ちはだかった。
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【春化】(1)