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■男の娘とりかえばや物語・吉野の宮(3)

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伊勢は花子の所に戻り、報告しますが、
 
「何やってんのよ、あの子。自分が重職にあるという認識が無い」
と言って花子は怒っています。
 
そこに東宮が入って来たので、花子はびっくりしました。
 
「兄上に少し頼みたいことがあるのだが、休んでいると聞いた。月の物が重い?」
などとおっしゃいます。
 
「いやそれが・・・」
と言って、理由は分からないが吉野宮を訪ねていることを打ち明けました。
 
「実は明後日、上総国・常陸国・上野国の国介がこちらに来るのよ。帝や私、式部卿宮(宰相中将の父)、兵部卿宮、それに左大臣・右大臣・大納言なども一堂に会して関東の状況について説明してもらい、処置が必要なら速やかに対応しなければならない。涼道君にも出席してもらいたい」
 
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と東宮。
 
「うーん。。。どうしましょう?」
「欠席すれば涼道君がしばらく休んでいることもバレてどうしたの?という話になるよ」
 
「今、手の者を派遣して連れ戻そうとしているのですが、明後日では間に合いませんね」
と花子も困ったように言います。
 

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その時、花子の腹心の女房・式部が言いました。
 
「昔はよく橘姫様がお出かけの最中に舞や箏の先生が来ると、桜君様がその身代わりになっておられましたけどね。さすがに今回は無理ですよね」
 
「ん?」
「え?」
 
「それだ!」
と雪子が言いました。
 
「花子、お前、涼道の代理をしろ」
「え〜〜〜!?」
と花子は驚きます。
 
「だって顔がそっくりなんだから、お前が男の服を着れば涼道に見える」
「私が男の服を着るんですか〜?」
と花子は情けなさそうに言います。男の服なんて、裳着をして以来、一度も着たことがありません。
 
「でも私、漢字も分からないし、政治的なことも分かりませんよ」
「私が隣に座るから必要なことは教える。漢字はお前、かなり読めるようになっているはず。涼道は私の後ろ盾なのだから、隣に座るのは全く不自然でない」
 
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「本来なら橘様が女御子様のご助言をするはずが、その逆をする訳ですね」
「そういうこと」
 
「でも花子さんは髪が長いですよ。男装できます?」
とふたりの“入れ替わり”事情を知らない、雪子の腹心・越前が言う。
 
「大丈夫です。やり方があるんです」
と伊勢が言いました。
 

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それで伊勢が急遽、左大臣宅まで往復して来て、涼道の服を一式持って来ました。それで花子は4年ぶりに男物の服を着ることになります。
 
いったん裸にされますが、胸が偽装だったことに越前が驚いています。
 
「花子様、どうしてそんなに胸が無いんですか?」
「こいつ男だし」
「うっそー!?でも男の印は付いていませんね」
「ああ、取っちゃったからね」
「そうだったんですか!」
 
面倒なので股間の偽装のことは話しません。
 
褌を締めさせようとしたら「男物の下着なんて着けるの嫌」と花子が抵抗したので(もう何年も女装生活をしているので既に感覚が女性的になっている)、結局下着は女物のままでいいことにしました。それでいったん全部服を脱がされたものの、下着は元の女物の下着を着け直しました。その上に男物の服を着せますが、雪子の趣味で胸の偽装帯もそのまま着けました!
 
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「胸を触られたら女だと思われるかもね」
「普通は触らないから大丈夫でしょう」
 
それで髪の大半を服の中に隠し、左右の髪だけを巻き上げ、冠の巾子の中に押し込みます。それで指貫を穿き直衣を着ると普通に男の姿に見える状態になります。
 
「中納言殿に見えます!」
と越前が感心したように言いました。
 
「花子、その姿で右大臣宅に帰って、奥方を抱いてくるといい」
と雪子は言います。
 
「無理です〜」
 
「いや、涼道の方が無理なのであって、そなたは女が抱けるはず」
「でも萌子さんは涼道の奥方なのに」
「うん。だから左大臣の息子の奥方だろ?つまり君の奥方でもあるんだよ」
「えーっと・・・」
 
「涼道君が戻って来たら女装させて僕がもらっちゃおうかな」
「どうやって抱くんです?」
「やり方はあるのだよ。それを彼には伝授したいけどなあ」
 
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「何だか訳が分からなくなってきました」
 

ともかくもそれで“涼道”(実は花子)は関東の国介たちとの会談に出て、雪子の指示通りの発言などもしました。花子も雪子の助手をして色々な人との打合せに出ていたので、結構話の内容は理解し、雪子の意図を汲んで必要な発言をし、帝なども頷いておられました。
 
それで国介たちとの会談はうまく行き、関東での揉め事についても解決の方向が定まりました。その日の夜は帝が主宰して宴などもしますが、これにも花子は“涼道”として出席し、関東の人たちとの交流を深めました。
 
宴が終わった後、右大臣から言われました。
 
「婿殿、心配しておりましたよ。やっとお戻りになったんですね」
「ええ、まあ」
「娘が心細そうにしております。今夜はうちに来てお休み下さい」
 
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と右大臣が言うのに“涼道”はためらいますが東宮が背中を押します。
 
「中納言、例の書類なら私がまとめておくから。君は帰って休みなさい」
 
雪子からまで言われると仕方ありません。花子は覚悟を決めて右大臣宅に戻りました。
 

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右大臣は宴が始まる前に邸に使いをやり、
 
「掃除をしろ。調度を整えよ。女房たちは良い服を着て化粧しろ」
と指示を出しています。それで右大臣宅では四の君やその母君付きの女房たちが総出で、大掃除をして、部屋を飾り立て、待ち構えていました。
 
“涼道”は右大臣と一緒に帰宅します。それで萌子の部屋まで行きました。
 
「長く留守にして済まなかったね」
と“涼道”は言います。萌子は不安そうな顔をしています。ここで“涼道”は右大臣が裏側の部屋に入り、こちらに聞き耳を立てているのを意識していました。うかつなことは話せません。萌子と本当にふたりきりなら話せることもあるのですが、ここは無難な会話にしておきます。
 
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「疲れたので休みたいが、君の隣で寝ていいよね?」
「・・・はい」
 
それで“涼道”は萌子の帳台の中に入りました。
 

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そこには6-7年前に松尾大社の秘祭で見た時と、あまり変わらない雰囲気の萌子の姿がありました。
 
「4-5日のつもりだったのだけど、宮と話が弾んでしまってね。音楽の話も沢山したから、また落ち着いたら聞かせてあげるよ(きっと涼道は習ってきているだろうから)」
などと言います。
 
「放置して申し訳なかったが、赤ちゃんは順調?」
「はい。何とか」
「だいぶ大きくなってきたね」
と言って“涼道”は萌子のお腹に触ります。萌子がドキっとした顔をします。実は本物の涼道は直接お腹を触ったりもしなかったのです。でも花子は日常の雪子の“教育”のおかげで女性の身体に触ることに抵抗がありません。
 
「元気な赤ちゃんが生まれるといいな。男の子かな、女の子かな」
などと明るく話す“涼道”を萌子は不思議そうに見ていました。
 
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「じゃおやすみ」
と言って、“涼道”は萌子にキスをしました。これも萌子はドキッとした顔をします。以前は涼道はよくキスしてくれていたのですが、妊娠が判明した後は1度もしてくれなかったのです。
 
萌子は思いあまって涼道に小さな声で言いました。
 
「殿は私に目合(まぐわい)はしてくださらないんですか?」
 
すると“涼道”は微笑んでやはり小さな声で言いました。
 
「そうだね。目合をしないと子供はできる訳無いから、順序が後先になるけどやっちゃおうか」
「え!?」
 
それで“涼道”は妊娠中の萌子の身体に障らないように、上半身の服はそのままにして、下半身の長袴だけ脱がせた上で、彼女の身体に負担にならないように、横になったまま彼女の敏感な部分を刺激します。
 
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「あ・・」
 
これは実は宰相中将はやってくれないので、中納言との関係が途絶えてから半年ほど体験していなかった快感を感じることができました。
 
「じゃ行くよ」
と言って、“涼道”は萌子の身体を4分の1回転させてこちらに向け、こちらも横になったまま、それを入れてしまいました。
 
実はこのやり方は雪子に(実地に!)教わったのです。
 
「あ・・・・」
 
萌子は初めて自分の夫からこれをされて感動しました。
 
やはり殿は私を愛してくれているんだ。そう思うと萌子は涙が出てきました。それで結果的には自分が宰相中将とずっと会っていたこと、その子供を宿してしまったことに対する物凄い罪悪感を感じます。
 
もっとも花子は男性的な機能が完璧に未発達なので、到達するのに物凄い時間が掛かりました(実際問題としてまだ射精できない)。しかし長時間掛けてすることで、逆に萌子は自身が到達することができました。それは(本物の)涼道とも経験したことがないし、宰相中将とも経験したことのない(宰相中将は自分だけ勝手に逝ってしまう)、物凄い到達感だったのです。
 
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凄い。。。こんな凄い境地があったのかと萌子は驚き、そして涼道への愛が再度燃え上がる思いでした。萌子は夢中になって“涼道”の身体を吸いましたが、しばらくの後「お腹の子に障るからこのくらいで寝ようね」と言われ、素直に「はい」と言いました。
 
それで“涼道”は萌子の服を直し、袴も再度穿かせてあげました。
 

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萌子が少し落ち着いて昂揚も鎮まってきた所で萌子は素直に“涼道”に尋ねました。
 
「殿、私の子供のことについては責めないのですか?」
 
“涼道”はもう右大臣が傍に居ないことを感じ取ってから言いました。
 
「実は吉野でずっと考えていた。それでさ」
「はい」
「古来、婚(くながい)というものはね。女が産んだ子供は男が育てるという契(ちぎり)のことなのだよ。だから君が僕の妻である以上、君が産んだ子供は全部僕のものだから」
 
「・・・」
 
「元気な子供を産んでね」
「はい!」
 
萌子はこの一夜のできごとで、涼道への信頼を回復し、涼道から許されたのだということを認識し、精神的なバランスも回復させたのです。
 
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「まあ次は僕の種でも産んでよ」
「ごめんなさい!」
 
萌子にとっては、それは久しぶりに“涼道”と心を通わせた会話になったのです。
 
“涼道”はその後しばらく「仕事が溜まっていたから」と言って帰宅しませんでしたが、萌子の心はもはや少しも揺れることがありませんでした。
 

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一方の(本物の)涼道のほうは、兼充がやってきて、早く帰京しなければ騒ぎになりかねないことを認識しました。
 
「済まなかった。帰る」
 
涼道の気持ちはまだ定まらないのですが、取り敢えずは帰らなければならないと考え、宮にそのことを言いました。宮は
「私もあなたを長期間引き留めて済まなかった」
とおっしゃい、ふたりはお互いに贈り物を交わし、歌なども贈り合います。
 
ここしばらく友情なのかプラトニックな恋愛なのか微妙な関係を続けていた姫君もいざ中納言が帰京するとなると寂しい気持ちになるのでした。
 

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