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■十二夜(2)

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起きたら部屋の灯りが落ちていた。起き上がって服の乱れを直す。私は寝た時と同様、上半身はセーター、下半身はチェックの膝丈スカートを穿いていた。向こうにドアがあったので、開けて向こうへ行ってみる。
 
この部屋には緑色のカーベッドが敷き詰められていて、壁にV6のポスターやマリーローランサンの額絵などが掛かっている。なぜか鶏が3羽部屋の中を歩いていた。鶏は別としてこの部屋には覚えがある。これは高校時代に交際していた彼女の部屋にあったものだ。
 
甘く切ない思いが蘇る。
 
彼女は私に訊いた。
「私という女の子が好きなの?それとも私みたいな女の子になりたいの?」
私は答えた。
「ボクは女の子になりたいと思っている。でも君のことは真剣に好きだ」
 
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その後、私たちはキスをして、そしてセックスをした。私の生涯で1度だけの男としてのセックス経験だ。彼女は「女の子になりたいんなら、おっぱいを触られたら気持ちいい?」などと言って、乳首をたくさんいじったり吸ったりしてくれた。「私の女の子の部分、見てもいいよ」などと言って見せてくれて私は彼女にクンニをした。「入れるより入れられる方が好きだったりして?」
なんて言って、指にコンちゃんを付けて、後ろまで責めてくれた。
 
彼女とのセックスは結局その時1度だけで、その後は「もし良かったら女友達として付き合わない?」などと彼女に言われ、私は自分の恋心を押さえ込んで、彼女が結婚するまで、女友達として交流を続けた。彼女の結婚式には私はお化粧してドレスを着て出席した。出席者の名簿にも、私は『和菜』という女名前で記されていた。今では時々メールをやりとりしているだけの関係だ。
 
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私はもう3年前から女性ホルモンを飲んでいるので、おちんちんは既に勃起能力を喪失している。もう男性としてセックスすることはできない。そのうち手術しちゃったら、女としてセックスする機会も出てくるかも知れないけど、手術を受けるめどはたたない。みんなどうやって手術費用を稼ぎ出してるんだろうなと思う。それに手術を受けたあとすぐには仕事に復帰できないだろうし。結果的には職を失うことになりそうな気もするし。そもそも会社は自分の性別変更を受け入れてくれるだろうか。。。。難しい気がした。やはり最低1年程度の生活費を貯めてからでないと手術には踏み切れないな、などとも思う。
 
そんなことまで考えているうちにけっこうな時間も経った気がする。
 
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どこからともなく音楽が流れてくる。これは「ひいらぎ飾ろう」だ。これってミックスボイスで歌えそう。大きく息を吸い込み、喉の感覚をミックスボイスが出る状態にシフトする。
「Deck the hall with bells and holly, Fa la la la la-la la la la・・・」
 
それを歌い終わったら次は「アデステ・フィデレス」だ。
「Adeste fideles laeti triumphantes,・・・・」
 
こういう高音で歌える歌は気持ちいい。なかなかうまくこういう音域が出なくて頻繁にカラオケ屋さんに通い、カラオケは流さずに持参のポータブルキーボードで弾きながら高い音を必死に練習した時代が懐かしい。
 
私はミックスボイスでしゃべるのは苦手だが、歌うのはわりと得意で、録音して聴いてみても、ちゃんと女の人の声に聞こえるなと思っていた。
 
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その後「荒野の果てに」。これもまた高音を使う曲である。
 
「Angels we have heard on high, Sweetly singing o’er the plains And the mountains in reply, Echoing their joyous strains
Gloria in excelsis Deo, Gloria in excelsis Deo」
 
このあと私はひたすらクリスマス系の歌を歌いまくった。30曲くらい歌ったと思うが、われながらよくちゃんと歌詞を覚えているなと思った。
 
さすがに歌い疲れてちょっと休もうかと思った時、向こうにドアがあるのに気付く。私はドアを通って次の部屋に歩いて行った。
 

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そこは浴室だった。ちょっと微笑む。湯は温かく沸いているようである。浴槽に手を入れてみたらちょうどいい湯加減だ。シャワーも付いている。なぜか、浴室の中を黒い小鳥が4羽歩いていた。私は夢の親切?に感謝してお風呂に入ることにした。服を全部脱ぐ。
 
スカートを脱ぎ、セーターを脱ぎ、その下のカットソーを脱ぎ、キャミソールを脱ぐ、バストパッドを抜いてブラジャーを外し、パンティも脱ぐ。ウィッグを外した。
 
シャワーを浴びて身体をよく洗い、それから浴槽に入った。
 
お風呂もいろいろ思い出があるな、と思う。小さい頃は子供シャンプーみたいなのを使っていたが、小学5年生の頃から、父が使っているトニックシャンプーを使えと言われた。でも私は母が使っているビダルサスーンのシャンプーとコンディショナーをこっそり使っていた。特にコンディショナーを髪に塗り込んでいると、少しだけ女性の気分が味わえて気分が良かった。
 
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実家の風呂は釜で焚く方式だったので、釜から熱いお湯が出てくる部分がある。私は小学校の高学年の頃から、自分の睾丸をその噴出口のそばに寄せて熱いのを我慢しながらも、睾丸の機能をできるだけ阻害するようにしていた。おかげで?自分は体毛やひげなども普通の男性に比べると薄い方だという気がするし、肩もわりとなで肩の方である。オナニーなども中高生の頃、同級生の男子などの話を聞いていると毎日何度もしてるなどということだったが、自分は週に3〜4回くらいしかしていなかった。おちんちんの長さも高校生の頃に測ってみたのでは縮んでいる時で4cmくらい、勃起した状態で13cmくらいで、平均?よりはどうも下のようであった。
 
浴槽の中に入っている時に、おちんちんを股にはさんで無いように見えるようにするのも、いつもやっていた。そしていつか本当に無くなっちゃうといいなと思っていた。
 
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いったん浴槽からあがる。女性用カミソリの未開封のものが置いてあったので、開封して足や脇を剃った。昨日(クリスマスイブの前日)にも一応お風呂に入り体毛は剃っていたのだが、やはり1日たつと少し伸びたりしているので再度きれいに剃っておく。この浴室は明るくて剃りやすい。自宅の浴室はここまで明るくないのでけっこう剃り残しに気付き、部屋でシェービングフォームを付けて再度剃ったりする場合もある。
 
その後、シャンプーとコンディショナーがあったので髪を洗いコンディショナーを掛け、そのあとボディソープもあったので、それで身体を洗った。コンディショナーを流して、再度身体にシャワーを掛けてから、浴槽に入った。
 
そういえばしばらく公衆浴場にも入ってないなと思った。最後に入ったのは4年くらい前だろうか。ずっと昔は旅先でカプセルホテルに泊まったりしたこともあったが、今はそれはできない。個室でお風呂が付いている部屋でないと、私はもう男湯には入れない。ふだん女物の服を着ているし、仕事での出張で背広を着ていても、下着はやはり女物だから、男性用の脱衣場を利用できない。それに今女性ホルモンを3年やってきて少しだけバストも膨らんでいた。もうこの胸ではそもそも男湯には入れない。
 
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でも私はまだ下の方は手術していないので女湯にも入れない。ネットを見ているとタックして女湯に入っている人たちもいるようだが、私はそれはよくないと思っていた。頼むから誰か下手くそなタックで女湯に突撃してそれが途中で外れて大騒ぎになり、本人が逮捕されるのはいいけど、タックに対して世間の目が厳しくなったりしなければいいが、と思っていた。
 
随分長く入っていた気がしたのであがった。バスタオルがあったので髪と身体を拭いたが・・・・私は戸惑ってしまった。着替えがない。夢特有の現象だなと思う。でも裸では困るなと思う。
 
向こうに扉があったので私は裸のままそちらに進んだ。
 

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そこに白衣のお医者さんのような40代くらいの男性が座っていた。私はなんとなく裸のままその人の前に座った。ここに来てから人間に会ったのは初めてだが、私は何となくお医者さんにいろいろ聞いたりするのがはばかられる気がした。
 
お医者さんは黙って私の身体を聴診器で調べたりしたあと、私のお股にあるものを触った。棒のほうを触られるが私のは全く反応しない。玉の方もさわられる。なんか指でころころとされた。
 
「では手術していいですか?」といきなり訊かれた。
「えーっと何の手術ですか?」
「え?去勢手術を受けに来られたんですよね?」と言われる。
私は思わず頷いてしまった。
 
ではこちらへと言われて、カーテンのかげにあったベッドに寝かされた。あれ?手術室とかに運ばれるのじゃないのかな?
と思っているうちに看護婦さんのような人からその付近の毛を全部剃られた。
「麻酔を打ちます。部分麻酔ですから性器だけ感覚が無くなります」
と言われた。
 
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注射を打たれた後、その付近に触ってみると、おちんちんにもたまたまにも感触がない。しかし足の付け根とかには感触がある。へーと思う。
 
「見ていますか?目隠ししますか?」と訊かれたが
「よそを向いてます」と答える。
「そのほうが気分悪くなったりしないでしょうね」と言われた。
 
脈拍や血圧などを測る機械のようなものを取り付けられ、更に両手首、両手足と首に金色の輪っかのようなものを取り付けられた。万一パニックになったりした時に暴れられたら危険なので申し訳無いが押さえさせてもらいますと言われる。まあいいけどね。
 
どうも手術が始まったようである。レーザーメス?を使っているのか、肉が焼けるような匂いが少しした。痛みは全く無いが、時々カチャカチャと金属が触れ合うような音がする。
 
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「睾丸を今から切断しますが、よろしいですね?」と再度訊かれたので私は頷いた。
「切断しました。見ますか?」と訊かれるが
「手術が終わってから見ます」と答える。今見たら気分が悪くなりそうだ。
 
手術はそのあと自分の感覚で15分くらい続いたようであった。切断したあとの処理とか縫合とかをしているのであろう。
 
やがて「手術が終わりました」と言われ、私は別のベッドに移され、布団を掛けられた。「ここで少し休んでいてください」と言われた。私はそのまま眠ってしまった。
 

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目が覚めた時、お股の付近が痛いと思った。麻酔が切れたのだろう。しかし、これ全体が夢なのだろうけど、ほんとに長い夢だなという気がする。
 
ひょっとして自分は交通事故か何かにあって昏睡状態にあるのでは?という気がしてきた。以前、交通事故で半年間昏睡状態にあったあと目覚めたという人に会ったことがある。その人がその時ずっと夢を見ていたと言っていた。その夢は、長い夢がやがて終わると、続けて次の夢が始まるという感じであったらしい。ここで痛いと思うのも、実は実際には事故に遭って身体のあちこちが痛いし、去勢手術受けた夢というのも、実は身体があちこち怪我していて、その手術を受けたのかも、などとも思ってみた。夢から起きようとしても起きられないのは、身体が起きられる状態ではないのかも知れない。
 
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でもまあそれなら、体力が回復するまで寝ていれば自然とそのうち眠りから覚められるはずだ。焦ることはない。
 
包帯は既に取られているようであった。その付近に触ってみる。棒の下に袋がある。これまではこの中に玉が2個入っていたのだが・・・触った感触として何も認められない。ああ、やはりこの夢の中では玉はほんとに除去されたんだなと思い至る。現実でも去勢手術受けたいなという気がしてきた。
 
性転換手術は身体への負担も大きいし費用もかかるが去勢だけなら仕事もそう休まなくて済むし、費用も20万くらいで手術してくれる病院は多数ある。そういう病院に連絡を取ってみようかなと思って見る。実際3年間のホルモン投与で既に睾丸の機能は停止している。もう取っても何の問題もないはずである。
 
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しかし・・・・裸なのは困るなという気もする。洋服がどこかで出てこないのだろうか。
 
ベッドから起き上がると、向こうにドアがあったので、そこを開けて向こうの部屋に進んだ。
 

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その部屋は全体的に薄いピンク色の内装であった。ピンク色の白衣を着た30代くらいの女性がにこやかに近づいてきた。
 
「脱毛のご予約でしたね?」と訊かれる。
あれそうなんだっけ?まいっかと思い、私は「はい」と答えた。
 
「こちらにどうぞ」と言われて、椅子を勧められ、私はレーザー脱毛に関する説明を受けた。
「施術する場所は、足・脇・ヒゲでよろしいですね?」
「はい」
 
私は腕には薄い毛しか生えておらず、処理の必要性を感じたこともない。腕の毛を処理するのは水着を着てプールに行く時くらいである。プールにはここ数年毎年女性水着で行って泳いだりスライダーなどを楽しんだりしている。
 
プールではもちろん女子更衣室を使う。プールに行く時、私はスカートを穿いて行っていたので、最初に行った時、男子更衣室に入って女性用水着に着換えようとしたら、スタッフの人が寄ってきて「こちらは男性用の更衣室ですが・・・」
と言われてしまったので、女子更衣室に移動した。初めて女子更衣室に入った時はドキドキだったが、すぐに慣れてしまった。実際問題として私は女性の裸を見ても何も感じないし、むしろ中学生の頃にクラスの他の男子と一緒に水着に着換えたりする時はかなり緊張していた。胸を隠してくれない男子用水着を着るのはあの当時、物凄く恥ずかしかった。
 
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サングラスを渡され、ベッドに寝るように言われた。ベッドに寝ようとしたらそこに羽をむしられた鵞鳥が6羽置かれていた。
 
「あ、済みません。出力確認のために使っていたんです」と言ってそれをどこかに持って行く。シーツを交換してくれたので、私はその上に横になった。
 
施術してくれる人もサングラスを掛ける。何やら大きな機械を持ち、まずは足から照射をしていった。
 
ヒゲまで終わるまでにはけっこう時間がかかった。レーザーで焼けた毛が抜け落ちるまで一週間くらいかかりますのでと言われる。
「それが過ぎたら、女の子のようにすべすべのお肌になりますよ」
と施術してくれた人は笑顔で言った。
 
私はリアルでもレーザー脱毛がしたくなった。全身やるとけっこうな費用がかかりそうだが、日常の毛の処理から解放されるのは嬉しい。去勢もして脱毛もしたら、自分の身体はかなり女の子に近くなりそうな気がする。来年はそういう年にしちゃおうかなという気がした。そこまでしてしまうと、数年後には性転換手術を受けることになっていく気もする。私は可能なら30歳前に性転換してしまいたい気がしていた。
 
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「こちらのベッドで少し休んで行かれるとよいです」と言って奥の方のベッドを案内される。私はそこに横になったら眠くなったのでそのまま眠りに落ちた。
 

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目が覚めた時、かなり時間が経っている気がした。起き上がってあごとか足とか触ってみると、すべすべのお肌になっている。あれ?私って一週間くらい寝ていて、その間にレーザー脱毛で焼いた黒焦げの毛はもう落ちてしまったのかなという気がした。
 
ああこういうスベスベのお肌はいいよなと思う。思えば小学校の5年生頃に、足に毛が生えてきはじめた頃、最初は頑張って抜いてたよな、などというのも思い出してしまう。自分がどんどん男性化していく、といのうが当時ホントに悲しくて悲しくてたまらなかった。
 
この夢?の中ではさきほど去勢手術を受けたが、できたら小学4-5年生で去勢しておきたかったという気分だ。そしたら、ほんとにこんなに苦労しなくても済んだのに。
 
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ドアがあるのに気付く。私は静かにそのドアを開けて、向こうの部屋に進んだ。
 

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■十二夜(2)

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