広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■12時になったら(4)

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僕はそういうわけで、そのあと週に3回くらい鳩美の家で女の子の服に着替えては学校に大季の応援に行った。だいたい午前中に鳩美の家で着替えて少し「女の子レッスン」を受けてから、午後に練習の応援に行くパターンだった。応援に行くとき、イヤリングは付けてはいなくてもいつもバッグに入れていた。
 
一緒に応援している子たちとは仲良くなったが、みんな僕をよその学校の生徒と思っている感じであった。そのほうがこちらとしては都合がいい。同じ学校の生徒と思われたら何年何組かと聞かれるだろうし、そしたら僕の正体がばれてしまう。練習が終わった後は僕だけ残って大季が帰るのを待ち、校門までの束の間のデートを楽しんだり、時には校内のあまり目立たない所で座って少し長めの会話をしたりした。僕が個人的に大季とけっこう話しているようだというのはファンクラブの子たちに気付かれたが、容認してくれている感じだった。
 
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「でも大季、私をふつうの女の子みたいに扱ってくれるよね」
僕たちはいつしかお互い呼び捨て・敬語無しで話すようになっていた。
 
「僕、女装には理解あるつもり。僕自身、小2頃まで母の趣味でやらされてたから」
「えー!?」
「休日にスカート穿かされて遊園地なんかに行った記憶が残ってるよ」
「うそみたい」
「僕もわりとおとなしい性格だったし、背も低いから、友達に女みたいとからかわれてた。それでなにくそと思って、バスケット始めたんだよね。結果的には僕は女の子になる素質無かったんだろうなあ。サリは素質があるというか、元々女の子という感じだよね。すごくそういう格好が似合ってるし」
 
あれ?なんか僕って、いつの間にか『女の子になりたい男の子』という設定になっちゃってる?あはは。いや、こんな格好してたらそう思われて当然か?そのうちなりゆきで性転換しちゃったりして?でも、大季自身にそんな経験があったから、僕が男の子と分かっても怒ったりしなかったのかな・・・。
 
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新学期が始まると、さすがに校内で女の子の服に着替えたりするのは困難なので僕は学生服やジャージのまま体育館に行って何か他の用事をするかのようなふりをして短時間だけ練習を観ては心の中で応援していた。ファンクラブの子達には近づかないように気をつけていた。最初の土日は女の子服で学校に行きファンクラブの子たちと一緒に応援した。
 
地区大会も土日なので、ふつうに女の子の服で右耳のイヤリングを付けて応援に行った。チームは順当に勝ち進んで優勝し、県大会に駒を進めた。僕は大季のファンクラブの子たちと手を取り合って喜んだ。
 
そして翌週の県大会。この日は学校全体で応援しようということになり、僕は学生服のまま現地に行く羽目になった。1日目順調に勝ち進んでいく。チームはベスト4に進出して明日の準決勝となる。この日は朝早く出たため女の子服を用意できなかった。
 
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2日目僕は着替えをリュックに入れたまま学生服で応援に出かけた。会場は熱狂の中にあるので、ひとりひとりの行動はあまりチェックされていない。僕はそっと集団から抜け出すと多目的トイレに入って女の子の服に着替え、右耳イヤリングを付けた。着て来た学生服をリュックに入れて会場に戻る。今日の服はちょっと制服っぽい雰囲気の服だ。下着は家を出る時から実は女の子下着を身につけていた。
 
客席に行くと、ちょうどファンクラブの子のひとりと目が合った。
「こちらにおいでよ。ちょうど今からだよ」というので、その子の隣に座る。
 
準決勝の相手は春の大会で決勝で当たった学校だった。息詰まる攻防が続き、得点もシーソーゲームだった。僕は隣の子と一緒に声援を送り、手を前で組んで目をつぶり必死で祈ったりしていた。2点リードされて残り10秒を切った。相手チームのシュートを大季がブロックし、こぼれ球を拾った味方プレイヤーから大季がボールを受け取ると、そのままドリブルで走り出す。行けー!と僕は心の中で叫んでいた。相手チームのガードと一瞬対峙する。しかし大季は小さいフェイントのあと相手の脇をかいくぐって敵陣に突き進んだ。相手チームの背番号4の大柄な選手が立ちふさがっている。大季はその前であたかもドリブルで右を抜くような動作を見せ、相手がそれを停めようと横に身体を伸ばした瞬間、腰をかがめ押し出すように高いシュートを放った。
 
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会場の全員がそのボールの軌道に注目した。
 
ボールはきれいな弧を描き、バックポードにも当たらず、そのままネットを通過する。
 
審判のスリーポイントゴールの笛が鳴る。逆転!そしてそのすぐ後、相手チームが反攻を始めようと最初のパスを出したところで試合終了の笛が鳴った。劇的な逆転勝利だった。
 
僕はとなりの子と手を取り合い抱き合って喜んだ。両チームが整列し、審判がうちの学校のチームの勝利を告げる。挨拶をしてからチームは観客席のほうに手を振って声援に応えた。一瞬僕は大季と目が合った。その時大季はショートパンツのポケットから何かを取り出して僕のほうに見せてすぐしまった。イヤリングだった。持っててくれたんだ。。。。。僕は胸が熱くなった。
 
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女子の決勝をはさんで1時間後におこなわれた男子決勝戦はワンサイドゲームになり大季のチームは大差で試合を制した。大きな歓声があがり、僕は隣の子と手を取り合い、みんなといっしょに選手たちに拍手を送った。また大季と目があうと、大季は僕のほうに向かってウィンクした。僕は笑顔で応えた。
 
翌日は学校に行っても昨日の余韻が残っている感じだったが、昼休みに大季が僕のクラスの入口の所に来て僕のほうを見た。僕が出て行くと「これ」と言って手紙を渡された。大季はすぐに行ってしまった。
 
近くにいた女子たちから「何何?」ときかれる。「あれ、そういえぱこないだ王子様、サリって女の子を捜してたけどあんたサリよね。女の子じゃないけど」
僕は手紙はすぐにポケットに入れ、その場は適当に誤魔化して、授業中にそっと大季の手紙を読んだ。
 
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「今度の土曜日。昼11時。中央公園。噴水」
と書かれていた。中央公園は例のお祭りの会場になった所だ。そして噴水は・・・小さい頃に大季と出会った場所だ。
 
僕は土曜日、朝から鳩美の家にいくとできるだけ可愛い服に着替えて、右耳にイヤリングをし、10時50分に中央公園の噴水に行った。大季はもう来ていた。左耳にイヤリングをしている。
 
「ごめん。待った?」
「ううん。僕も今来たところ。そもそも約束時間より前だし」
と笑顔で言う。
「ここで座って話そう」というので、ふたりで噴水の縁に腰掛けて話をした。
 
「優勝おめでとう」
「ありがとう」
「お守り、少しは役にたった?」
「うん。心強かったよ。ずっとショートパンツのポケットに入れてたんだ」
 
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僕たちは先週の試合のことをたくさん話した。大季はとても饒舌だった。
「僕はそれまで1度もスリーポイント撃ってなかったから向こうも無警戒だったね。だから絶対決めてやろうと思って。夏休み中も毎日300本スリーポイント練習してたんだよ」「すごーい。努力の成果だったのね」
 
中3の最後の大会で優勝できたことが大季を高揚させている感じだった。この試合で3年生は引退で、キャプテンも2年生の子に譲ってきたと言っていた。
 
「それで大季ファンクラブも解散なのよね。先週の試合の後で、私もミスドで優勝祝賀兼ファンクラブ解散パーティーに参加してきたの」
「うん。代表の子から記念品もらった。いやありがたいのか何なのか・・・・」
と大季は照れている。
「パーティーの最後に私『頑張ってね』と言われたけど、どういう意味かな」
「えっと、それは・・・」
僕はこの時、ほんとに無自覚だった。後から考えてみたら意味は明確だったのに。
 
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「それでね、夏休みに言ってた話で」
「あ。優勝したら何か聞いて欲しいということだったよね」
「うん」
「何だろう?」
と僕は若干の不安な気持ちを抑えながら笑顔で尋ねた。
 
「サリさ、正式に僕の彼女になってくれないかな?」
 
「え!?」
僕はまさか自分の性別を知った上でそんなことを言われるとは夢にも思っていなかったので、本当に驚きの声をあげた。
「だって私の中身の性別は・・・・」
 
「僕はサリの中身の性別は女の子だと思う」と大季は言った。
 
「確かにその女の子の服の下に男の子の身体があるのかも知れないけど、そのまた中身、サリの内面は女の子だよ」
あれ?そんなこと鳩美にも言われた気がする・・・・
 
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「それに、サリって、女の子の服着てると、自然に女の子に見えちゃうし、こうやって会話していても、僕はふつうに女の子と会話している感覚だし。えっとね。最初お祭りで話した頃はふつうの女の子より楽に話せる気がしていたんだけど、ここ何度かサリと話しているとき、実は僕、他の女の子と話している時と同じくらいの緊張をしてるんだよ」
「え?そう。ごめーん」
「たぶん、サリ、急速に女の子らしさが増してるんじゃないかな、最近」
 
あ、それはそうかもと僕は思った。最初とても恥ずかしかった女装をこのところむしろ自分にとって自然なものとして受け入れていた。女言葉もふつうに口から出てくるので、学生服を着ている時でもうっかり女言葉が出そうになることがある。
 
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「けっこう緊張はするけど、サリだからたくさん話せるんだよね。それって結局相性がいいってことかなと思うんだ」
「私も大季と話している時、とっても楽しい」
 
「ありがとう。だから、僕はサリを女の子だと思ってるから交際したいんだ。僕もしばらくは受験勉強であまりデートとかする時間取れないとは思うけど、電話して話したりお手紙やりとりしたりとかはできるかなと思って」
 
あ、そのくらいならいいかなと僕は思った。
 
「電話したりお手紙書くくらいなら」
「じゃ、僕たちの交際成立、ね」
 
「うん」
僕は笑顔で答えた。
 
その時、公園の時計から12時のチャイムが鳴った。「ビビディ・バビディ・ブー」
のメロディーだ。
 
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「12時だけど消えたりしないよね?」と大季が言った。
「うん。お昼の12時だし」
 
そういえば「ビビディ・バビディ・ブー」って「シンデレラ」の曲だったよな、と僕は思った。
 
「じゃサリが消えないなら、一緒にドーナツでも食べに行こうか」
「うん」
僕たちは見つめ合い、やがておそるおそる手を取りあう。そしてちょっと幸せな気分になって、公園を出て商店街のほうに一緒に手をつないで歩いて行った。心の中に「ビビディ・バビディ・ブー」という変身の魔法の呪文が鳴り響いていた。
 
変身は一時的なものかもしれないけど、その魔法でシンデレラの運命が変わったように、僕も浴衣を着て女の子に変身してお祭りに行ったあの日に自分の生き方が変わっちゃったのかも知れないなという気がしていた。
 
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