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■12時になったら(2)

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「それでさ、小さい頃に1度事件があって。突然水道管が破裂して」
「あ、覚えてます。何基かの曳山が水浸しになっちゃって大騒ぎ」
「あ、その年、君も来てたんだ」
僕はその話をしながら思い出していた。もしかして、あの時の・・・・・
 
「その時、ちょっと変わった女の子に会ってね。あ、ごめん。他の子のこと話して」
「いえ、いいです」
 
「提灯を燃やしてしまって泣いてたから、僕のをあげたんだ。不思議な雰囲気の子でね。その子とはその後1度も会えずじまい。どこか遠くからたまたま来ていた子だったのかなあ、などとも思ったりもしてた。あれ?なんで僕はこんな話をし始めちゃったんだろう」
 
「ガラスのカラス」
「え!?」
 
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「合い言葉・・・」
「じゃ、サリちゃんがあの時の子!?」
 
僕はようやく、その時のことを思い出していた。
 
それは5歳か6歳の頃だった。お祭りに出かける直前に僕の浴衣にヤカンが倒れてびしょ濡れになり使えなくなってしまった。泣いていたら姉が私のおさがりのでもよければ着る?といい、僕は姉のお下がりの女物の浴衣を着て提灯を持ち、お祭りに行った。でも母や姉たちとはぐれてしまいひとりで心細けに歩いていた時、転んで提灯の中のろうそくが倒れ提灯まで燃やしてしまった。その時、ひとりの男の子が『僕のをあげる』と言って自分が持っていた提灯をくれた。
 
その子とは何となく楽しく話をしたのだけど、名前を聞かれても自分の名前を名乗るのが恥ずかしくて誤魔化してしまった。すると「じゃ名前を名乗る代わりに、今度会った時のための合い言葉を決めよう」なんて言った。そこで決めた合い言葉が「ガラスのカラス」だった。
 
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「私も小さかったから、あの頃のことはよく覚えてなくて。あの時の男の子が大季さんだったなんて全然気付かなかった」
「あのあと全然会えなかったね」
「ええ」
 
僕はその後今日に至るまで女の子の浴衣でお祭りなど行っていなかったから、会えなかったのは当然である。
 
僕たちは懐かしいねなどといって、あの当時のことなどを語り合った。今年の祭りはもう曳山が全て集結し、中央に大きな松明がともされ、曳山がその周囲を練り歩いていた。祭りはクライマックスに入っていた。
 
話は最近の学校での生活のことにも及んでいた。県大会でのバスケット部の活躍なども話していたら「わあ、あの試合見ててくれんだ」と言われる。「惜しかったですよね。あと1点だったのに」「僕が3ポイント撃てたら追いついていたんだけど」大季は最後にゴールを決めて2点取ったが、そのあと5秒で時間切れになり試合は負けて準優勝に終わったのだった。
 
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「でも不思議だなあ」
と突然大季が言い出した。
「どうかしました?」
「僕ホントはね、女の子と話すのあまり得意じゃなくて」
「うそー。あんなにもててるのに」
「うん。言い寄られるし、ラブレターとかも随分もらうんだけど、僕実際には女の子と付き合ったこと無いんだ」
「へー」
もてる人って意外にそうなのかも知れないと僕は思った。
「でもサリちゃんとはあまり抵抗感なく話せる。それが不思議だなと思って」
あはは、それは僕が女の子じゃないからかもね。
「小さい頃に会った時も、よく話がはずんだ気がするな」
「確かにそうかも」
 
祭りがクライマックスになる。燃えさかる松明に数人の男がよじ登り、まわりから大きな掛け声がかかっている。しかしやがてその松明は燃え尽きて、祭りはフィナーレとなった。
 
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「すごいですね」
「うん。僕もここまで見たのは初めて。小学生の頃はこんな遅くまで
居られなかったから」
「ええ。私も祭りの最後は初めて見ました」
大季が僕の手をそっと握った。『あ・・・』と僕は心の中で驚くような声を出す。でもそっと握り返した。大季がこちらの顔を覗いている。何か言いたげだ。
 
その時、12時の鐘が鳴った。
 
「あ、ごめんなさい。もう帰らなくちゃ。従姉のおねえさんと待ち合わせしてるから」
「あ、サリちゃん、2年何組だっけ?」
「あ、えっと・・・・そうだ。これあげる」
僕はとっさに左側のイヤリングを外すと、大季に手渡した。
「また」といって僕は走り出した。
「あ、待って」
という大季の声が耳に残った。
 
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浴衣の裾が乱れるのも構わず駐車場まで駈けていくと、鳩美はもう車内で待っていた。
「ごめん。待った?」
「ううん。大丈夫よ。帰ろう」
といって僕が乗るとすぐに鳩美は車をスタートさせた。
 
「楽しかった?」と僕は訊く。
「うん。まあね。割と盛り上がった。80点くらい。佐理はどうだった?」
「うん。凄く楽しかった」
「へー。また今度、女の子の服、着せてあげようか?」
「そうだなあ。機会があったら」
「ほほお。ハマったかな?」
 

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一週間後が登校日だった。その日はホームルームが終わってもみんな久しぶりなのですぐ帰る生徒はおらず、雑談したり中には参考書読んだり単語帳をめくったりしている人もいた。僕も何となく帰りそびれていた時、教室の入口の所に来た人物があった。
 
大季君・・・・
 
僕は恥ずかしくてそちらを見ることができず顔を机の上にうつぶせにした。
 
「え?うちのクラスの女子で『さり』って子?うーんと。いたっけ?」
たまたま入口の近くにいた女子に大季は声を掛けて、『さり』という子がいないか訊いたようであった。訊かれた子が近くにいた別の女子に尋ねるが「女子で?いないよ」と答える。「ほんと?ごめんね」といってどうも次の教室に行ったようだ。
 
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あの『サリ』を探しているんだ。きゃー。どうしよう?
 
「バスケット王子と話しちゃったよ」などと声を掛けられた女の子は
はしゃいでいる。
 
僕はしばらく考えていたが、心を決めて立ち上がった。廊下に出る。うちの組は3組だが、大季は今4組でも同じ質問をして、そんな子いないと言われた所のようであった。
 
僕は大季ががっかりした様子で体育館の方に行こうとしていた所で追いついた。
「あの、すみません」
「はい?」
「佐理を探してましたか?」
「うん。君知ってるの?」
「あの・・・これ」
 
僕はペンギンのイヤリングを出した。
「え!?」
と大季は驚いている。
「なぜ君がそれを持っているの?というかなぜイヤリングのことを・・・・ちょっと待って。君、顔をよく見せて」
 
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僕は恥ずかしいので少しうつむき加減にしていたが、大季は少しかがむようにして、僕の顔をのぞき込んだ。
 
「まさか・・・君、サリちゃん!?」
 
僕はコクリと頷く。
「ごめんなさい。騙すつもりは無かったんですが、自分の性別のこと、つい言いそびれてしまって」
 
「そっか・・・僕はさっき2年生の教室回って『女子でサリって子』を訊いてまわったから・・・・見つからないはずだ」
「ごめんなさい。私も女の子の浴衣着て祭りに行ったの、あの小さかった時と今年の2回だけで・・・」
「だから、ずっと会えなかったのか。僕は初恋の人に」
「初恋・・・」
「だったよ、あれは僕にとって」
「私ももしかしたら初恋だったかも・・・」
僕はいつしか女言葉になっていた。
 
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「じゃ、僕の夢を壊した責任を取ってくれる?」
「はい。私のできることなら何でもします」
「女の子の服、ふだんから着てるんだよね?」
「あ。えっと・・・・」
「ふだんの君の服に着替えて、バスケ部の応援に来てよ」
「着替えてくるのに時間が・・・・」
「9月に大会があるから遅くまで練習してるから」
「はい」
「じゃ、待ってるよ」
大季は手を振って、体育館のほうに行った。僕もつられて手を振った。
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