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(C)Eriko Kawaguchi 2004-01-11
「初めてだし今日はとりあえずゆっくり休んだほうがいいよ」高田さんがいうので、私はそうすることにした。ごはんとかも作ってあげるからというので高田さんのマンションに行った。車の助手席に座っていて、最近意識してするようにしている「座った時は足を閉じておく」という動作をしようとした時に、すごく閉じやすいことに気付いた。ちょっとドキドキした。
マンションに行き、お茶をもらってから「お風呂で汗流すといいよ。念のため今日は湯船には入らない方がいいから、シャワーだけにしとこうね」と言われバスルームに行く。いつものようにシャワーをして、大きなバストを洗うのはだいぶ慣れてきていたので平気だったが、股間のところに手がいくとなんだかすごく不思議な感じがした。シャワーを弱めにしておそるおそるそこを洗う。強く扱いすぎて壊れないかな?などと変なことを考えた。
その夜は高田さんと一緒のベッドに寝たが、高田さんはキスしただけで、後は何もしなかった。Hしようと言われるかなと思っていただけにちょっと安心した。まだとても心の準備ができない。ただずっと手を握っていてくれた。
翌日。高田さんはうって変わって活動的になった。「さぁ、女の子の身体でないと体験できないところを今日はたっぷり体験しておいでよ」という。私が戸惑っていると「まずはエステだね」といって有名なエステサロンに連れていかれてしまった。「ちょっとぉ。胸はニセモノだからバレるよぉ」「胸を触らせなきゃいいのよ」と高田さんは言い、さっさと足の部分トリートメントコースを申し込んでしまった。
水着を着て寝転がりエステシャンの人を待っている間はもうどこかに逃げ出したい気分だった。しかしマッサージをされ始めると、もう至福の気分。こんな気持ちいいのっていいなぁと思い、また来てみたいと思った。しかしアレが付いている状態ではこういう所に来るのは難しそうだと思うと、ため息が出る。
エステの後は銭湯だった。銭湯なんて夕方からの営業かと思っていたらちゃんと午前中から営業しているところがあった。「今度はひとりで行っておいで。私は今日は男湯にも女湯にも入れない身体だから」と言われ、タオルとシャンプーセットだけ渡されて、車の外に放り出された。入口の所で一瞬迷う。しかし今日の身体では男湯には入れない。意を決して女湯と書かれたドアを開けた。
いくらなのか戸惑っていると番台のおばあちゃんが「400円だよ」という。料金を支払って中に入ると、脱衣場には午前中だからか誰もいなかった。少し気が楽になった。
服を脱ぎタオルを胸から股の付近までに当たるようにして中に入る。中にいたのは30〜40代の女性が2人だ。正直ほっとした。おばあちゃんたちなら暇なので話しかけられてくるのではとちょっと不安だったのだ。さっさと身体を洗い湯船につかる。先に入っていた女性たちも無言で身体を洗ったり、湯船につかったりしている。私はある程度暖まると外に出て髪を洗いリンスをした。女装するようになるまでリンスなんてしたことが無かった。しかしリンスをするとブラシの通りがすごく良くなる。女性モードの生活は小さな発見の連続だった。
幸い声を掛けられることもなくお風呂は終わって脱衣場に戻ってくる。肩透かしの感もあったが、ほっとした面の方が大きかった。
銭湯が終わったあとは銀座のデパートで食事をして、そのあと下着売場に行った。「アレが付いてると着れないようなのを少し買ってあげるよ」と高田さんが言う。高田さんが選んだのはすごいハイレグのショーツだ。「きゃー、これを着せられるのか」と思うと何だか顔が赤くなってしまった。
他にも少しショッピングしたりドライブした後「今夜はたっぷり愛してあげる」
といってホテルに連れ込まれた。今日はこないだのようなファッションホテルではなくシティホテルのダブルルームだ。同性同士でダブルを申し込むと断れるホテルもあるらしいが、ここは理解のある所らしい。しかし「今夜」とは言われたもののまだ3時だった。まずはさっき買った下着を付けることを要求された。「さぁ写真に撮っちゃおうね」と言われてデジカメで撮影される。もう今更だから気にしない。
高田さんは私をお姫様抱っこしてベッドに連れて行ってくれた。何だか新婚気分。ベッドに寝かされてかなり心臓がたかまったが、キスしてもらったら気分が落ち着いた。まずは顔やバストから優しく愛撫される。私はだんだんリラックスしていくとともに、早くしてくれないかなという気分になってきた。しかし高田さんはじらす。最終的なところまで行くのに2時間くらいかかった気がした。私は基本的にはマグロのように寝ていただけなのに、もうクタクタだった。
でも女の子としてのセックスってどんなのだろうとドキドキだったが、思っていた以上に気持ち良かった。なんといっても腰がきつくないのがいい。入れられてきた時は、ものすごく不思議な気分だったが、すぐにその快感に慣れてしまった。本当の女の子なら、いつもこれを体験できるのかな、と女の子が羨ましい気がした。高田さんのセックスは(多分)優しかった。とにかく初体験だから比べようもないのだが、とてもゆっくり入れてきてくれたし、常に身体を愛撫してくれていて、とてもリラックスして楽しむことができた。
そして終わったあとでまだ私がぼうっとしていると更に指で刺激してくれたりクンニまでしてくれて、私はかなり長時間気分が昂揚したままだった。
「でも啓ちゃん。啓ちゃん自身も女の子になりたいんでしょ?男の子として、女の子とセックスすることに抵抗ないの?」と私はなんとなく感じた疑問をぶつけてみた。「うん、それはね」と高田さんは微笑みながら答える。「自分がセックスの相手の立場になっているつもりでするの。つまり入れながら、自分としては入れられている気分を想像しているのよね」なるほど。
その夜は高田さんの腕の中でぐっすりと眠った。夢の中で私は高田さんとふたりともウェディングドレスを着た結婚式をあげていた。
翌日は遊園地に行こうかなどとも言っていたのだが、なんとなくベッドから出るのが惜しい感じで、何度もHしていて、11時のチェックアウトぎりぎりまでホテルで過ごした。「2時の予約だから1時には着いていた方がいいかな。このまま早めの昼食を取ったらすぐ病院に行こう」と高田さんが言った。
食事はそのホテルの最上階にあった可愛い感じのレストランでとった。「ここは女性専用なんだよ。でもすごくおいしくて」「じゃ女の子してないと味わえないんですか?」「そう」「へぇ得した気分ですね」料理は女性向きにアレンジしてあるおかげが、そう分量も多くなく、本当においしかった。
食事が終わってから高田さんの車に乗る。目指すは神奈川の病院だ。私がため息をついたら「どうかしたの?」と聞かれる。「ううん。なんでも」と答えたが、実はなんだか男に戻るのがあまり気が進まない気がしていた。
アレが付いていない状態に、最初の1〜2時間は戸惑う感じもあったもののいざ無くなってみると、無いほうが気分が良いような気がしていた。しかも私は「女であることの楽しさ」を覚えつつあるところだった。もっと長く女の子のままでいたいな、そんな気分がしていた。すると高田さんが突然「元に戻すのが惜しくなった?」と聞かれた。見透かされた感じだ。
「うん。でも戻さないわけにもいかないし」「私も毎回戻すのが嫌だな。もっともそのうちちゃんと正式の性転換手術をうけたいとは思ってるけど」
「これ何度も何度も受けずに、その分お金貯めていたら受けられるんじゃないですか?」
「それはあるけどね。。。でもむしろ思い切りの問題よ。まだ完全な女になるだけの踏ん切りが付かないの。和ちゃんは今すぐ女の子としてやっていけると思う?」「それは。。。。」確かにそう言われると自信がない気がする。まだ女装をはじめて1月もたたないのに。やはり日常的に、完全に女として暮らせるようになってからなのかな。もしかして会社にも女として出て行く!?それを想像したら、なんだか頭が痛くなってきた。OL生活!?? 自分にそんなものできるだろうか。。。スカートはいてお化粧して、会社で仕事をしている自分。何か違和感がある。スカートはいてお化粧するのはかなり日常になってはいるが、まだそこまで自分にはできない気がする。
やがて車がインターを降りて市街地を走る。私はだんだんドキドキしてきた。ああ、せっかくならもういちどこれを鏡にでも映してじっくり見とけば良かったかな、などと思い始めた。実はこわくてあまりしっかり見る勇気がなかったのである。トイレのあとなどもそこに目をやらないようにして感触だけで拭いていた。
車がやがて2日前にも見た記憶のある一帯を通過し、こないだも通った気のする小さなスーパーの角を曲がった。「え!?」私と高田さんは同時に声をあげた。
そこは焼け野原だった。