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■ある朝突然に(4)

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そして何度も何度もなる着信音に起こされた。私はハンドバックの中から携帯を取り、ロックを外してからボタンを押す。「はい?」例の女声で答える。「あ?のりちゃん。御免ね。寝てた?」けんちゃんの声だ。「うん。こないだから御免ね」「声の調子もだいぶ良くなったみたい。ちょっと話があるんだけど出てこれる?」「えっと、どこ?」私はメモを取った。
 
できるだけ可愛い洋服を着て、あまり破綻しない程度に控えめのメイクをして出かける。待ち合わせ場所のファミレスに、彼はもう来ていた。
 
「実は急な話があって」とオーダーをするまもなく彼は話し始めた。
「なんと、ソマリア支店に転勤してくれ、というんだ」「そまりあ?えっと、何県だっけ?」「日本じゃないよ。アフリカの北東部」「アフリカ?どうしてそんなところに」
 
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「何でもソマリア支店のコンピュータ技師が爆弾で死んじゃって、すぐに後任が必要なんだって」「ちょっと待って。爆弾がそんなに飛び交っているようなところなの?」「ソマリア支店は、日本人・中国人・フランス人・アメリカ人あわせて20人くらいいるんだけど、毎年2〜3人は死んでいて、こんなのは日常茶飯事らしい」「それにしても、なんでけんちゃんが行くのよ?」私は興奮のあまり、とても自然に女言葉が出ているのが不思議な気がした。
 
「先月、俺とんでもない失敗やったろ?」私は聞いてないが、そういうことがあったのだろう。私は「うん」とうなずいた。「あれはまずかったよな。データを間違って消してしまって、復旧に大量の人員を導入して、オンラインシステムが1日乱れまくり、苦情の来まくりで、被害額は3000万円は超えている」
げっ。そんなことがあったのか。「どこか地方に飛ばされることは覚悟してたんだけど、国内じゃなくて海外だったよ」けんちゃんは苦笑している。
 
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「私付いていくよ」と私は何も考えずに言葉が出ていた。「だめ。あんな危ないところに君を連れてはいけない」「だって」「一応2年勤務すればいい、といわれてるんだ。戻ってきたら課長にしてくれるらしいし」「でも毎年2〜3人死んでいるんでしょう?」「2年の間に死ぬ確率は2割くらい。でも君も一緒に行けばどちらかが死ぬ確率は倍の4割になっちゃう。だからのりちゃんは、日本にいて僕の無事を祈っててよ」私はうなずいた。「じゃ、私毎朝神社にお参りして、その日のけんちゃんの無事を祈るから」私はほんとうにそうしようと思った。
 
「ありがとう」「ねぇ、今夜は朝まで一緒にすごせるよね」私は自分の身体のことはどうにかすれば誤魔化せるかもと思いながらそう言った。しかしけんちゃんは首を振った。「今日君を抱いてしまうとさ、それで思い残すことは無いみたいな気分になってしまうと思うんだ。だから、君を抱くのは今度ソマリアから帰国した時。それまでお預け。そうしたら、君とやらずに死ねるか、って頑張れると思うんだ」
 
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それは本当にそうかも知れない。私はそんな気がしてうなずいた。私たちはキスだけして別れた。彼が成田を発ったのはその3日後であった。私は出国ゲートの前で彼の手を自分のバストに当てて言った。「このおっぱいを忘れないでね。これをもむために戻ってきてよ」「うん」けんちゃんは明るい顔で手を振りながら出かけていった。
 
私は自宅に戻ると、どっと疲れてベッドの上に寝転がった。
 
2年間か......その間に自分の身体のことはゆっくり考えようと思っていた。その間にひょっとして元の世界に戻れたら、胸の方を再手術すればいいし、戻れずこのままだったら、彼が帰国する前に、こっちの方をどこかで手術してしまおう。そう思って私はスカートの上からそれを指で少しいじった。ちんちん取るのって何だか変な感じがするけど、女の子には付いてるべきものではないもん。それより、自分がほんの数回会っただけで、けんちゃんのことを好きになっているのに気が付いていた。
 
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さてと。
 
私は鏡に向かうとまたお化粧の練習を始めた。会社の同僚の女の子たちからも「最近お化粧の調子がおかしいよ」と言われていた。頑張って練習しなくちゃ。私は女の子なんだから。目の上にアイシャドウを丁寧に入れていると、何だかとても楽しい気分になってくる。女の子っていいじゃん!!
 
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■ある朝突然に(4)

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