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■ある朝突然に(1)

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(c) 2002.03.26 written by Eriko Kawaguchi
 
朝起きた時、私は何か不思議な違和感を感じた。最初その違和感が何なのか良く分からなかった。いつも通りの安アパートの天井が見える。何が変なのだろう。そうか、布団がなんだかフワフワしている感じがする。いつも寝ているのは何ヶ月も干していないペラペラの硬い布団だ。あれ?布団干したんだったっけ??昨夜は友人の送別会があり遅くまで飲んで帰ったので記憶が必ずしも定かでない。寝る前に自分で布団乾燥機でも掛けたのだったろうか?
 
まぁ、いいか。と思って私は布団から起きてまずトイレに行こうとして、いきなり転んでしまった。なんだ、これは? 私は変な服を着ていた。最初はガウンかとも思ったが、やがてそれが女物のネグリジェであることに気が付くと私は顔を赤らめた。こんなもの着てまともに歩けるわけがない。私はそのネグリジェのすそに足を引っかけてしまったのだった。
 
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これは誰のだ?誰か女の子の家に泊まってしまい、それで寝間着がなくて、こんなものを借りてしまったのだろうか。そう思って部屋を見回すと確かにこれは女の部屋という感じである。ピンクのカーテン、布団も可愛いキャラクターもの。壁には男性のロックグループらしいポスターが貼ってある。部屋の隅にはドレッサーがあり化粧品が並んでいる。しかし誰の部屋に泊まったんだ。やばいなぁ。
 
その泊めてくれた主がいるかと思って見回すが誰もいない。私は起きあがると、また転ばないように、おそるおそる足を動かして部屋を出て台所に行ったが、そこにも誰もいない。しかしこのアパート、自分のアパートとよく似た間取りだ、というよりもほんとにそっくりだ。ここはどこなのだろう。
 
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もしかしてトイレ?私はしばらく待っていたが動きがないので、トイレの所にいき、ドアをノックしてみた。返事がない。開けると誰もいなかった。私はとりあえず、おしっこをすることにした。
 
しかしこんな服を着ているとなんだか面倒だ。洋式の便座をあげてから、裾をまくりあげて、パンツからちんちんを出そうとして困った。どうも自分は女物のパンツを履いているようである。何かで汚してしまうかなにかで、下着まで借りたんだろうか。これは後で、よくよく謝らねばと私は頭を掻いた。しかしすそをまくったまま、パンツからちんちんを出しておしっこしようとすると、どうも裾におしっこがかかりそうで怖い。私は諦めて、座ってすることにして便座を戻し、パンツを膝下までおろして、ネグリジェのすそを腰の所まで引き上げて座っておしっこをした。一息である。
 
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さて、今この部屋の主がいないということは、どこかコンビニに買い物にでも行っているのだろうか。とすれば、それを待つしかない。私はトイレを出て、部屋に戻ったが、何か落ち着かない感じがした。
 
何かそのあたりにある雑誌でも見ながら待つことにしようと思い、探すと台所のテーブルの上にファッション雑誌が置いてある。こんなもの読んだことないが、まぁ女の部屋なら仕方ない。私はそのテーブルの所に座って雑誌を読んでしばらく過ごすことにした。
 
しかしこういう雑誌は何だか難解だ。どうも洋服の種類やアクセサリーなどを表すらしき言葉がたくさん出てくるが、何が何だかさっぱり分からない。こんなものが全部分かるなんて、女の子たちって結構頭がいいのではないか、などといったことを考えていた。
 
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新作の下着の特集のページはつい熱心に見てしまった。今時の女の子たちってこんなカラフルな下着を付けているのだろうか? 私は大学時代に一度だけ恋をして2〜3度だけその娘と寝たことがあるが、そのあとすぐ別れてしまってそれ以来、ずっとこういうものにはご無沙汰である。その時の彼女は普通に?白い下着を付けていた。そういえば自分は昨夜、この部屋の主とやってしまったのだろうか。記憶が無いというのは、なんとももったいない。
 
1時間がたった。さすがに、こんなに戻ってこないというのは変だ。私はここの住人が誰なのか、確認させてもらおうと考え、何か名前の入っているものがないか、調べ始めた。
 
ダイレクトメールの類でもなかろうかと思って、テーブルの近くや本棚などを見てみるが、それらしきものは無い。部屋の中をいろいろ見てみるが分からない。そのうちテレビのそばのフックにハンドバックが1個かけてあるのに気が付いた。さすがに、その中を開けてみるのはまずいよな。私は他にヒントになりそうなものを探したが、どうしても見付けることができなかった。やがて、最初に私が起きてからもう2時間くらいがたとうとしていた。
 
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私は意を決して、そのハンドバックを開けさせてもらった。赤い財布が入っている。その中にきっと何かあるだろう。私はそれをそっと開けた。さすがに、たくさんカードが入っている。1枚クレジットカードらしきものを出してみる。
 
「NORIE YAMAMOTO?」誰だそれ?私は記憶がなかった。しかしヤマモトというのは自分と同じ苗字だ。但し自分のは「山元」と書くのでよくある「山本」よりは随分少ない。しかし親戚か何かにでもノリエって娘いたっけ?と一瞬思ったがどうして自分が親戚の家にいなければならないのか分からない。他にもっと、はっきり分かるものがないか調べてみる。運転免許証がある。それを取り出して私は完璧に戸惑ってしまった。
 
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「山元倫英」と書かれた免許証。それは私の名前だ!まさかこれが NORIE?
 
ちがう。この名前は ノリエと読むのではない。ミチヒデと読むんだ。
そんな読み間違いなんて、今までされたことないのに。いや、それはそうだ。実物を見れば女には見えないだろうから、男性だったらミチヒデと読むんだろうと、みんな思ってくれていたのかも知れない。
 
免許証をよく見るが、そこに書かれていた住所はどう考えても自分の住所だった。そしてなによりも私を戸惑わせたのが、そこに貼ってあった写真だ。最初それは何かとてもよく知っている人の顔のように思えた。しかし、よくよく見るとそれはまぎれもない自分の写真であることに気が付いた。ただし、その写真はどうもお化粧をしているように見える。
 
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私は慌てて部屋の中にあったドレッサーに行き鏡に自分の顔を映してみたが、私は別にお化粧はしていなかった。しかし、まさか自分は女になってしまった?私は服を脱いでみることにした。ネグリジェの下に着ていたのは、下は女物のパンツ、上も女物ののシャツのようであった。それを脱いでみると、胸はそんなに大きい訳ではないし、ちんちんもタマタマもちゃんと付いている。足にはすね毛だって生えている。やはり自分は間違いなく男だ。
 
しかし一体ここはどこだ?
 
私は裸というわけにもいかないので、今まで着ていたネグリジェだけ再び身につけると、窓を開けてみた。半ばそのことは予想はしていた。しかしたしかにその景色はいつも自分の部屋から見ている景色だった。
 
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私は窓を閉めると玄関に出て戸を開けてみた。そこは防犯のため表札こそ出していないが、404というその部屋番号はまさしく自分が住んでいるはずの部屋番号だ。ということは自分は確かに自分の部屋にいる、ということなのだろう。
 
私は戸を閉めると、再び部屋に戻り、さっきの財布の中身をもう少し確かめてみた。美容室の会員証、ケーキ屋さんのスタンプカード、洋服屋さん?らしき店のカード、どれも自分には見覚えのないものだが、全部、山元倫英またはヤマモト・ノリエという名前が入っている。そして、健康保険証!! これには山元倫英の名前にちゃんと「ノリエ」とカナが振ってあって、性別欄が確かに「女」になっている。そして更に社員証!! それは自分が勤めているはずの会社のものだが、それも「山元倫英/ヤマモトノリエ」という名前と振り仮名が入っていて、運転免許書と同様に、お化粧した自分の写真が貼ってあった。
 
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私はタンスを開けてみた。そこにあるのは全て女物の服だ。女物のパンツがきれいに小分け用のケースに整理されて入っている。ストッキング、これは...キャミソール? これは少し長いからスリップ? そして大量のブラジャー、ガードル? Tシャツやポロシャツ、カットソーなとも入っているが全部女物。それにパジャマ...これも全部女物。それにネグリジェ。
 
洋服ダンスを開けてみる。ブラウス、スカート、.....ズボンも入っているが全部レディス仕様のようだ。これはいったいどういう悪夢なんだ!?
 
私はしばらく呆然としていた。しかしこれは何とかしなければという気がしてきた。今日は土曜日だが、会社にはたぶん何人か仕事に出てきているだろう。私は会社に行ってみようと思った。しかし何を着ていく?女物ばかりしかない。
 
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私はためいきをつくと、さっき脱いだパンティーとシャツを身につけた上で、ポロシャツの中でできるだけ中性的なものを着て、ジーパンを履いた。化粧?悩んだが、しないことにし、ただ丁寧にヒゲだけは剃っておいた。3枚歯のカミソリがあったので、それを使用した。
 
ハンドバッグを持ち歩くのはなんだか変な感じだ。小型のトートがあったのを取り出し、中に財布と社員証を入れた。さて出ようとしてまた困る。靴!!
 
女物の靴ばかりが並んでいる中で、できるだけ男でも履きそうな感じのするものを履いて外に出た。かかとが高いのでなんだか歩きにくい。バス停でバスを待つ間、近くの人が自分をジロジロ見ているような気がしたが開き直って何も気にしないことにした。やがて町に出て、自分の会社のあるビルに行く。日曜日なので表玄関は閉まっている。裏口にまわり、守衛さんに社員証を見せて中に入った。守衛さんは別に変には思わなかったようだ。
 
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自分の課に行き、おそるおそるドアを開けた。やはり出てきていた。田中君だ。「お疲れさま」と声を掛けて、私は自分の机の方に行った。
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