広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■桜色の日々・中学入学編(3)

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実際、その日の4時間目に体育があったのだが
「たぶん、ハルの名前、女子のほうに入ってるよ」
と言われ、女子の方に集合した。
 
着替えはもちろん女子更衣室でしたが、けっこう半ば好奇の視線に晒された。でもそういう視線にはある意味慣れっこである。ちなみに体操服はこの学校は男女共通のデザインである。サイズは男子用と女子用で違うのだが、私はそもそも男子用は合わないので、母にも言った上で、女子用のMサイズを購入していた。
 
「ハルちゃん、少し胸あるんだね」
私がセーラー服の上下を脱いで下着姿になると近くに居た菜月が言った。
 
「うん。ちょっとだけね。Aカップのブラがこんなに余ってるけど」
「そのおっぱいって、どうやって作ったの?」と麻紀。
「色々。腕立て伏せしたり、マッサージしたり、ツボ押ししたりとかも結構頑張ってるよ。あと、大豆製品もたくさん食べてる」
「へー。マッサージとか効果あるのね。私も頑張ってみよう」
 
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「でも、下も付いてないみたいに見えるね」
「それは隠してるだけ」
「ねー、それ本当に隠してるの? 既に取っちゃってたりしない?」と環。
「環、私のを見てるじゃん」
「見たのは去年の9月だもん。あの頃から後で、ハルって急に女らしくなった気がしてさ。実は取っちゃったんじゃないかって、疑ってるんだけどね」
「ふふふ。じゃ、もしこっそり取っちゃったら、環には教えるよ」
「よし」
 
「でもホントにこれなら女子と一緒に着換えても問題なさそう」と菜月。
「へへ。言われるまでこっちに居ようっと」
 
一緒に着換えた女子の友人たちと一緒に女子の集合場所に行く。5組の子たちより一足先に着換えて既に集まっていた6組の子たちの中にいたカオリが寄ってきて「ハル〜、こっちに来たの?」と聞くので
「また、私の名前、女子のほうに入ってるみたいなのよね。先生が気付くまでちゃっかり、こちらに来ようかと」と答えた。
「ずっとバレないといいね」などと同じ小学校から来ている子に言われる。
 
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やがて先生が来て、点呼されるが、やはり、私の名前はこちらに入っていた。私の名前が呼ばれて「はい」と返事した時、何人かの子がこちらを見て手を振ってくれたので、手を振り返した。
 
その日はバスケットボールをした。小学校ではポートボールはやっていても、バスケットボールは経験したことのない子も多かったので、ルールの説明などをした上で、5組vs6組で試合をした。5組の女子が18人、6組の女子が19人なので、けっこうな大人数であるが、ボールの回りが早く、多くの子がボールに触れていた。
 
ゴール下はどうしても乱戦になる。身体のぶつかり合いも結構発生し、私もボールを持ったまま、ランニングシュートを決めようと相手ゴール前に走り込むと、ガードしようとする相手の生徒と接触した。また、向こうが攻めて来た時も、ドリブルしている生徒からボールをスティールしようと近づいていって、結果的には相手にかわされてしまったものの、脇をすり抜けられる時に身体の接触が発生した。
 
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15分ほどやった所で少し休憩になる。
 
両方のクラス入り乱れて休みながらおしゃべりしていたが、何人かの子(特に違う小学から来た子)から
「ハルちゃん、身体に接触した感じも女の子だよね」
と言われた。6組で運動神経が良さそうで、ここまでに5回シュートを決めていた詩絵(うたえ)などは、私の身体にあらためて触りながら
「お肉の付き方が女の子だよね。少なくとも男の子の感触じゃないよ、これ」
などと言っていた。
 
後半コートを入れ替えて、試合を続ける。私はあまり運動神経は良い方ではないので、結局点数を入れることはできなかったが、161cmの背丈を活かしてブロックを何度か決められたし、リバウンドも3回取れて、自分としても割と充実感を得ることができた。
 
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その日の授業が終わったあと、体育館に集合して、クラブ活動の紹介があった。いろいろ楽しそうなクラブもあったが、私は足が遅いし腕力もないから運動部は無理だよなと思う。それに染色体の問題もあるから「女子選手として活躍」
することは許されない。まあ、そこまで活躍するほどの運動神経も無いけどね。
 
文化部ではコーラス部に少し興味があったが、声変わりの問題がある。今はソプラノを歌えるけど、もし声変わりしてしまったら、テノールに回されるだろう。男声パートを歌うというのは絶対にしたくない。この頃は私は多分声変わりは来ないだろうとは思っていたけど、僅かな懸念も残っていた。
 
そういう訳で、私はクラブ活動は特にしないことにした。
 
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クラブ活動紹介のあとで、入部する子はそれぞれの部に行ったが、入らない子は、そのまま帰宅する。私もその帰宅する子たちの集団に入り、校門を出た。もちろんセーラー服のままである。
 
「ハル、その格好で家に帰るの?」
「うん。台所から入るとさ、そのまま私のタンスが置いてある部屋に行けるのよね。うちって、男上位の家だから、台所に入るのは私とお母ちゃんだけなんだよね。お父ちゃんはコップひとつ取るのも、お母ちゃんか私にさせる」
「今時珍しいよ。それって」
「だから台所は、お父ちゃんに見られる可能性がないから、安心して着換える部屋まで行けるんだ」
「なるほど、それを利用して、ハルってスカートで外出したりしてたのね?」
「えへへ」
「バレないといいね」
「うん」
 
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翌日は1時間目から体重測定があった。私はもちろん女子のクラスメイトたちと一緒に、保健室に行った。昨日の体育の時間の着替えで、私が下着姿になっても女の子に見えるというのがクラスメイトたちには知れているので、みんな特に気にせず、一緒におしゃべりしながら、保健室に入り、列に並んだ。
 
例によって私はいちばん最後である。着衣のまま身長と座高を測られ、カーテンの向こうに入ってから制服を脱いで下着姿になる。そこで体重と胸囲を測られたあと、1学期の最初なので、校医の先生の検診を受けた。
 
ブラも外すように言われたので外して、聴診器を胸に当てられる。「うん。背中向けて」と言われてクルっと180度椅子を回転させ、背中の検診もされる。
「問題無いね。生理は乱れたりしない?」
と聞かれたので
「ええ、乱れたりはしません」
と答えた。嘘は付いてないよね。そもそも生理が来てないから乱れてもいない。
 
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「じゃ、いいですね」
と校医の先生が言ったので、私は「ありがとうございました」と言ってお辞儀をして席を立ち、ブラを付けて、着替えのカゴのところに戻った。6組の先頭の子がもう下着姿になっていたのでハイタッチする。彼女が校医さんの方へ行ったのを見送り、制服を着た。続けてカーテンの内側に入ってきた6組の2番目の子に手を振って外に出た。
 
保健室の外で待ってくれていた好美ともハイタッチ。
 
「お医者さんに何か言われた?」
「何も言われなかったよ。問題無いねって」
「大いに問題ありそうだけどなあ」と好美は笑っていた。
 

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その日の昼休みは、各委員の集合があり、私は一緒に図書委員になった森田君とふたりで図書室に向かった。
 
図書委員の仕事の説明があるが、主なものは貸出し・返却の受付の仕事、それから延滞している人の督促状を印刷して、各学級ごとの連絡用ポストに入れる仕事である。また図書館報の編集をしたい人いない?と言われたので、面白そうなので志願した。編集は毎月第三週の放課後にやるということだった。
 
貸出し・返却は、生徒手帳のバーコードと、本の裏表紙に貼り付けてある管理用のバーコードをハンドスキャナで読ませればいいので、基本的には楽なのだが、ハンドスキャナを扱ったことのない子もいたので、1年生の図書委員や、2〜3年でも初めて図書委員になった子は、全員その場でひととおり読ませる練習をした。私も森田君も問題無くスキャンすることができた。
 
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生徒手帳を読ませた時、氏名・クラス名・性別が表示される。私は自分の手帳を読ませた時「吉岡晴音/よしおか・はるね/1年5組/女」と表示されるのを見た。あらら、これって、担任の先生が単純に間違えたんじゃなくて、もしかして小学校から回ってきた書類上でも、私って「よしおか・はるね・女」になっているのかな? と思い至った。そういえば、6年生の時は、最後まで女子の方に名前が入ったままだったもんね。私の名前の読み方も6年の時の担任の森平先生は「はると」ではなく「はるね」と思い込んでいたみたいだしね。
 
これって申告すべきなのかしら?とも思ったが、都合良く間違えてくれているんだし、取り敢えず放置しておこうかな、と私は思った。
 
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その日の放課後、私と森田君は早速、貸出しの係になり、図書館の受付に一緒に座った。彼とは小4の時に同じクラスになって以来2年ぶりの同じクラスである。
 
「今日の身体測定、吉岡、どうするんだろう?と思ったけど、ふつうに女子のほうで受けてたよね」と森田君。
 
「うん、まあね。小6の時もそうだったし」
「でも小6の時は着衣での測定だったじゃん。ここでは下着姿になるよね?それとも女子は下着にまではならないんだっけ?」
「体重・胸囲の測定は下着姿だし、校医の先生の検診はブラも外して受けたよ」
 
「下着姿になって、ブラジャー外しても、問題無いんだ!?」
「うん」
「いつの間にそんな身体になっちゃったの?4年生の時に一緒に身体測定受けた頃はふつうに男の子だったよね?」
 
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「そのあたりは企業秘密。でも、おっぱいは、腕立て伏せしたりマッサージしたり、ツボ押ししたりしてる効果も大きいと思うよ。あと、納豆とか豆乳とかイソフラボンを含んだ食べ物をたくさん取るようにしているしね」
「へー。僕も納豆は好きだけど、おっぱい膨らんだりはしないよ」
「まあ、ふつうはそうだよね」
 
「それと不思議に思ってたんだけど、吉岡って、声変わりしてないよね?」
「そうだね。私がこんなことしてられるのも、声変わりが来るまでかなあ。ずっと来なければいいのに」
「ごく稀に、ずっと来ない子もいるらしいよ」
「私もそうだったらいいなあ」
 
「ヒゲとかは生えるの?」
「生える。でも抜いてる」
「足のスネ毛とかは?」
「それも抜いてる」
「痛くない?」
「痛いけど、ヒゲとかスネ毛とかが存在するのが許せない」
「だろうね」
 
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この時期は実は私が男性化といちばん激しく戦っていた時期であった。
 

翌日のホームルームで、中体連地区予選のために応援団を組織するので、男子の応援団員2名と、女子のチアリーダー2名を選んでくださいと言われた。
 
男子の方はさんざん押し付け合いがあった末、クラブも委員もやっていない男子の中から、原君と中島君が選ばれた。
 
「くそー、こういうことになるんだったら、何かクラブ入っておけば良かった」
などと中島君などは言っていた。
 
女子の方では真奈が「私やりたいです」と立候補して確定したあと、あと1人ということになる。お互いに顔を見合わせていた時、環が「吉岡さんを推薦します」
と言った。同じ小学校から来ていた子たちの間で「あぁ!」とい声が上がる。
「吉岡さん、ダンスもうまいし、身長のわりに体重は軽いし、180度開脚もできますし。バトンの扱いもうまいですよ」などと推薦理由を言う。
 
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「吉岡さん、どうですか?」と司会をしている菜月。
「うーん。まあ、やってもいいですよ」と私は答えた。
「図書委員と兼任になるけど大丈夫かな?」
「たぷん調整はつくと思います」
 

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その日の昼休みにチアリーダーに選ばれた子が体育館に集合した。男子の応援団員のほうは屋上に集合らしかった。何かむこうの様子が想像できて、クワバラ、クワバラ、という感じである。女の子になってて良かった、と私は思った。
 
チアの方は、2年,3年の子たちは去年もやった子が多いようであったし、1年の子も小学校の時経験している子が大半のようであった。それで、さっそく衣装を付けてあわせてみようということになる。
 
私は背は高いもののウェストが細いのでSサイズの衣装で充分行けた(Sでもウェストにけっこうゆとりがあった)。着替えは衣装を置いている用具室でしたのだが、私の下着姿を見た、3組から出て来ている典代が
「あ、ハルったら女の子下着をつけてる」
などと言う。
「ハルはもう男の子は卒業したんだよ」
と6組で選ばれて出て来ているカオリが私の首に抱きついて言った。カオリはこういうことをするのが好きである。
 
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「へー。どの程度卒業したの?」
「体育の時間に女子更衣室で着換えて、身体測定を女子と一緒に受けられる程度」
「それって、もしかしてもう100%女の子なのでは?」と1組から選ばれてきた由紗。「ハルはちゃんとお医者さんの検診も女子として受けたよ」とカオリが言うと「何〜!?」と典代も由紗も言う。
「どうやって誤魔化したのさ?」
「何も誤魔化してないよ。開き直っただけ」
「うーん。。。」
 
「でも、こういう系統の衣装を着けると、本当にハルは美人度が上がるね」と典代。「私もびっくりした」と同じ組の真奈。
「なんで、こんなに可愛くなるのよ?」
 
「この子、可愛い系の衣装が異様に似合うのよ」とカオリ。
「しかし6年3組の選出率が高いな」と私。
「全くだよね、どういう偶然なんだか」と4組から選ばれてきていた朱絵。1年生12人の内、6年3組出身者が、由紗・典代・私・カオリ・朱絵と5人もいる。
 
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2,3年生が最初に模範演技を見せて、それを見て1年生も踊るが、経験のある子ばかりなので、すぐに合わせることができた。
 
「今年の1年生は優秀だ」と3年生のキャプテン篠原さんが言う。
「去年の1年生は大半が未経験者だったもん」と2年生の人。
 

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桜色の日々・中学入学編(3)

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