■夏の日の想い出・超多忙年の夏(2)

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この年、私は正望が7年前に買ってくれていたエンゲージリングをついに受け取った。7年前の指輪はサイズを修正することなく、私の左手薬指にきれいに納まった。「これでフィアンセになるけど、結婚自体はもう少し先にしてもらっていい?」
と私が言うと正望も
「うん。今年は特に忙しいもんね。こちらもとても今は結婚とか考えられない」
と言った。この年、正望の方も大きな訴訟の弁護団に参加して、凄まじく忙しかったのである。そのため私達は婚約はしたものの、月に1度会えたら良い方という状態だった。
 
「えー?あんたたちすぐ結婚する訳じゃないの?」
と正望のお母さんからも、自分の母からも言われた。
「婚約するというから、式場の予約しなきゃと思ったのに」
 
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「だって忙しいんだもん。とても結婚して甘い生活とかできない」と私。「ごめーん。たぶん結婚するのは数年後」と正望。
「あんたたちには呆れるよ。まあ私の目が黒い内に結婚してよね」
 
「だけど今回の訴訟に勝てたら、フーコから貸してもらったお金、一気に返せるかも」などと正望はふたりだけの時に言っていた。
「そんなの気にしないで。私達の間で水くさいよ。それより無理しないでね」
と私は言う。
 
学生時代・法科大学院時代に大学と並行して法曹関係の予備校に通う費用や、司法修習生をしていた時期の生活・研究資金・就職活動資金は私が提供していた。正望は学部時代、お金が無いから予備校にまでは行けないと言っていたのだが、「使える」弁護士になるにはダブルスクールして予備校で実務能力を徹底的に鍛えるべきだよ、弁護士にはなれたけど裁判で全然勝てないというのでは話にならないよ、と私が説得して、それまでしていたバイトも辞めて、予備校に行くようになったのである。
 
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「バイトしている時間があったらコンメンタールでも読んでた方がいい」
と私は言った。
「いや。全くそうなんだけどね」
と彼は言っていた。しかし彼が予備校に行くようになったことで、学生時代、私達はますます、なかなか会えなくなったのではあったが。
 
ただ私は正望とずっと恋人であり続けられたひとつの要因は「なかなか会えない状態が継続していたこと」ではないかという気もしていた。なかなか会えないから会えた時はお互いに凄く燃える。その記憶が恋のエネルギーになっていた。実際、私は正望と会えた直後にしばしば良質の曲を書いていた。彼も自分の限界を感じたり、全てを投げ出したい気分になった時に私に電話して話をすると、またやる気が出てくると言っていた。
 
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さて、私が正望と婚約した後、プライベートな外出の際に左手薬指のリングを付けたまま出かけていくので、芸能関係の記者の目にとまり、騒がれた。私は美智子と一緒に記者会見をし、長年の恋人と婚約をしたが、お互いの仕事が多忙なため、結婚はいつになるか分からないと述べた。むろん私は指輪を受け取る時、ちゃんと事前に美智子にも町添さんにも言っておいた。
 
そういう慌ただしい日々を送っていた7月のある日、私は芸能ニュースに政子に関するスクープが載っているのを見て、ぶっ飛んだ。
「ローズ+リリーのマリ、妊娠発覚!出産予定は3月」
というものだった。
 
政子が滞在先の仙台で体調を崩したのがきっかけで妊娠中であることが記者の知るところとなったようで、本人が確かに妊娠中で予定日は3月であることを明かしたというものであった。政子はローズ+リリーのキャンペーンで仙台を訪れていた。普段は私も一緒に行くのだが、今回はローズクォーツの音源制作の追い込み中であったため、政子1人で行っていたのであった。
 
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記事の中で、政子は父親について交際中と噂されている俳優Nではないとも言ったと書かれていた。私はすぐに仙台にいる政子に電話を入れた。
「御免、御免。冬には今度ゆっくり会えた時にちゃんと話すつもりだったんだけど」
「確かにここのところ、私忙殺されてたもんなあ」
「美智子からも叱られたよ。記者に言う前に自分に言えって」
「いつ、妊娠分かったの?」
「そのあたり微妙な問題があるから、そちらに戻ってから話す」
「相手の人とは結婚するの?」
「しない、とだけ今は言っておく。その件も冬には話すから」
「分かった。無理しないでね」
「とりあえず明日・明後日の予定はキャンセルになった。後で冬にフォローしてもらうことになると思う」「うん。こちらも週末には音源制作が終わるから、それから行くことになるんじゃないかな」 
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結局、私は音源制作が終わった後、すぐに政子が行く予定だった東北方面でのキャンペーンに出かけることになったので政子とは入れ替わりになり、その週は会えずじまいになった。美智子は帰京した政子と話して、本人が相手の人と結婚しないまま出産する意志が固いということで、それを支援することにし、出産の前後半年、合計1年間を産休期間とすることを決めたと言っていた。その間、音源制作はするものの、コンサートなどは休止になる。
 
「まあ、来年の春までは冬も作曲のほうで忙しいし、ちょうどいいかもね」
と美智子は言っていた。
「でもあの子も頑固だねえ。何かあった時に対処しないといけないから、私にだけは相手の男の名前教えてというのに、どうしても教えられないって頑張るんだもん。冬にだけ言うと言ってたから、何か問題が起きたりした時は、相談にのってあげてね」「はい」
 
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しかし政子が結婚しないまま出産することを決めたというのが報道されると、ネットでの反応は擁護派の方が多数であった。特に若い世代の女性からは「かっこいー」などという意見がかなり出ていた。
 
妊娠休養中に政子の作詞ペースが落ちないだろうかというのを美智子は少し心配していたようだが、実際には逆に生産量が増えたし、品質も高くなった。私の作曲の方が追いつかないくらいであった。
「なんかお腹の子が手伝ってくれてる感じで」
と政子は言っていた。(後から思えば本当に手伝ってくれてたという気もする) 
妊娠発覚のため予定をキャンセルした政子の代わりにキャンペーンに行った先で、私は政子の妊娠に関しても随分尋ねられたが、相手が誰かというのは、本人が発表するつもりが無いと言っているので、とだけ答えた。世間では発表できないということは不倫なのではという噂が飛びかっていた。上島先生の名前も相手の候補としてあげているメディアがあったが、政子は美智子に了承を得た上で、わざわざ報道各社に直筆のFAXを送り、その噂を明確に否定した。なお、俳優のNとは既に別れているし、父親ではないことも改めて明言した。
 
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東北方面のキャンペーンに行っている間に、私は政子のお母さんからも電話をもらった。落ち着いている(というより開き直っている)感じの政子に比べて、お母さんの方はおろおろしているようであった。「冬子さんは父親が誰か聞きました?私にもあの子言わないんですよ」という。「まだ聞いてませんが、私には話すと言ってました」と答える。
 
「でも、ひとりで産んでひとりで育てていくなんて、あの子言ってるんですけど、大丈夫かしら」「子育ては、私も手伝いますから、お母さんは政子さんの妊娠中の体調を気遣ってあげてもらえますか?」「うん。ありがとう」
 
大学を出てすぐに結婚して既に3人の子供を作っていた礼美からも電話が掛かってきて、政子にも直接言ったけど、自分も手伝えることあったら手伝うから、私からも、遠慮無く友達を頼るように言っておいてということだった。私も礼美に「分からないこととか結構ベテラン・ママのレミには聞くと思うからよろしく」と言っておいた。
 
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なお、ローズ+リリーのコンサート(10周年記念ツアー)が8〜9月に全国20ヶ所で予定されていたが、それは予定通り行うことになった。ただ演出面で、政子の身体に負担を掛けないように、政子には座って歌わせることにした。ひとりだけ座っていると不自然なので私も一緒に隣に座って歌うスタイルにすることになった。 
産休前最後のコンサートになることから、コンサートが予定通り実施されることが発表されると、チケットは全会場とも即ソールドアウトした。ソールドアウトした後も問い合わせがあまりにも凄かったため、一部の会場で日程を追加したり、大きなキャパの会場に変更したりもした。
 
そしてこのツアーにあわせて発売したシングルはローズ+リリーの5枚目のミリオン、初のダブルミリオン・ヒットになったのであった。この曲は後に結婚式の定番ソングとしても定着していくことになる。この曲が発売された時にレコード会社が付けたキャッチフレーズは
『婚約したケイ、出産するマリ、があなたに贈るラブソング』
というものであった。
 
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そのキャッチフレーズを見て私と政子は「でも結婚が抜けてるね」と言って笑った。
 
★★レコードの町添さんは「僕、7年前に君に27歳になったら結婚や出産してもいいと言ったけど、ふたりとも実行するんだから参ったね」と笑っていた。 
むろん商売人なので、町添さんはローズ+リリーにブライダルやベビーをテーマにしたアルバムの制作を打診し、私は笑って快諾した。シングルがダブル・ミリオンを達成した余勢で、このアルバムも発売前の予約が40万枚も入った。そして発売された後は「胎教にいい」なんて噂まで流れて、売れに売れた。 
(妊娠中の政子がとても秀逸な歌詞を書いたので、私も刺激されて自分でもかなり良い出来の曲を付けることができた。美智子は「このアルバム収録曲を全部シングルカットして発売したい」なんて言っていた) 
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さて、結局、政子とちゃんと話すことができたのは、妊娠が明らかになってから半月も後になってしまった。
 
私が久しぶりのオフになったので、政子にうちに来ない?と誘い、ふたりでのんびりとした休日を過ごした。政子の家だとご両親もいるので私のマンションに誘ったほうがいいだろうと思ったのであった。
 
「相手が誰か教えてあげるから、私とHして」
と政子は言った。
 
私は「いいよ」と言い、交替でシャワーを浴びてからベッドに行くことにした。私が先にシャワーして、裸でベッドに寝ていたら、政子もシャワーを終えて、やはり裸で寝室に入ってきた。
 
「冬のおっぱいに触ってると、なんだか気持ちがいい」
「マーサのおっぱいも気持ちいいよ」
「冬、今更だけど、女の子になっちゃったこと後悔してないよね」
「もちろん。私は今の生き方が自然だと思ってるし毎日が充実してる」
「良かった。冬、正望さんとはうまく行ってる?」
「いってるよ。ここ数年は地方に行ってる時以外は、週に1回くらい向こうの家に行って泊まってる。逆通い婚状態」と私は笑う。
 
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「ただ今年は無茶苦茶でさ。私も正望も超多忙だから、月に1回も会えてないよ」
「だから敢えて婚約したのね」
「うん、お互いにそれで励みになると思ったし。でも少なくともこの先数年は結婚できない気がする。メールはずっと毎日10通くらいやりとりしてるけど」「それだけやりとりしてれば充分でしょ」
 
「でも冬はずっと恋人変えなかったね」
「面倒くさいだけかも。正望、私のこと愛してくれてるし、優しいし。政子はだいたい半年に1人くらいのペースだったね」 
「冬、私のこと好き?」
「好きだよ」
「私も好き」
 
政子は私に深く長いキスをした。
「今日はどちらが上になろうか?」
「どちらが上でもいけないよ。横になったまましよう。マーサのお腹を圧迫できないから」「うん」
 
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私は政子と横に寝たまま、政子の身体のあちこちにキスをする。そしてあの辺りを指で刺激し、充分濡れて来たなと思うところで足を組み合わせるようにしてふたりの曲線を密着させた。
 
1時間くらいしていたろうか・・・・・政子が満足そうな表情をしているので私は動きを止め、少し身体を離して、そっとキスをし、政子のあの付近に手を置いた。ゆっくりとした周期で刺激をして、政子の興奮が冷めていくのを待つ。 
政子はそのまま眠ってしまった。私も少し寝ることにした。
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