■夏の日の想い出・超多忙年の夏(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-09-08
 
※これは今(冬子20歳の年)から7年後の物語である。
 
この年、安定した人気と確かな実力が評価されたバンド「ローズクォーツ」のボーカルとして活躍中の私は、春先から超多忙状態にあった。
 
ローズクォーツ自体、その年は春に全国20ヶ所のホールツアーを敢行したし、FMラジオのレギュラー番組をやりつつ、アルバム制作の準備作業をしていた。一方で完全復活した「ローズ+リリー」の方も全国8ヶ所のライブハウスツアーをしていた。私はローズクォーツのコンサートをした翌日に同じ都市の別の会場でローズ+リリーのライブをやって、翌日はまた移動してローズクォーツのコンサートで歌うなどということをやっていた。
 
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政子が大学を卒業したのを機にローズ+リリーは復活したのであったが(政子は卒業しても復活させるつもりが無かったのだが、ライブ活動を休止している間に『甘い蜜』も含めて4枚のミリオンヒットが出たペアをレコード会社が放っておいてくれるはずもなく、町添さんの熱心な誘いに政子も折れたのであった)、最初はローズ+リリーのライブや音源制作をする時は、ローズクォーツが伴奏をしていたものの、次第にスケジュールが厳しくなってきたため、ここ1〜2年はスターキッズ(近藤さんのバンド)が伴奏を務めてくれることも多くなっていた。それでも私自身はどうしても両者の掛け持ちになってしまうのであった。
 
その他、私はこの頃、けっこうな数の歌手やバンドに曲を提供していた。ローズ+リリーのデビュー初期の頃からの関わりがあった「パラコンズ」には彼女達のメジャーデビュー以降、ずっと曲を提供していたし、またこの年は、スイートヴァニラズのEliseが出産のため休養していて作曲活動まで休んでいたので、私はスイートヴァニラズの曲を全部書いていた。(バンド自体はMinieがEliseのパートを弾き、MinieのパートをEliseの妹でふだん別のバンドで活動しているAnnaがサポートに入って弾き活動をしていた) 
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「お疲れ様、足揉んであげようか?」と政子に言われて私は「お願い」と頼んだ。ローズ+リリーでツアーやキャンペーンをする時、ホテルはだいたい私達はツインにしてもらっていた。それで、くたくたに疲れている時はよく政子がマッサージをしてくれるのである。政子はマッサージが巧かったが、ちょっと問題もあった。政子のマッサージはしばしば変な所まで指が行くことも多かったのである。
 
「そこは、いいって」
「遠慮しない。気持ち良くなるまで揉んであげるよ」
「もう・・・」
「冬も私のに触っていいよ」
「やめとく。Sさんに悪いもん」
「え?今付き合ってるのはSさんじゃなくてNさんだよ」
「あれ?そうだったんだっけ?」
 
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政子は頻繁に様々な俳優や歌手、文化人や実業家などと浮き名を流していた。世間的には恋多き女と思われているようで、政子のお母さんなどからも「冬子さん、この子に少し言ってやって」と、自重を促してくれと頼まれることも多々であった。
 
「マーサ、彼氏をとっかえるの、せめて1年に1度くらいにしない?」
「うーん。そのあたりはフィーリングだからね」と政子は言う。
「それにさ・・・・身体まで許したのは今まで3人しかいないよ。Sさんとは結局1度もしなかったし、Nさんともまだキスまでしかしてない」「そんなこと、前にも言ってたね」
「二股はしない主義だから、新しい彼氏作る前に前の人とは別れるし、交際中の人がいる間は他の人からいくら誘われてもデートはしないし」「妙な所で義理堅いよね」
 
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さて、その春の私の多忙状態に拍車を掛けたのが上島先生のトラブルだった。上島先生が名義貸しをしていた土地取引が違法なものであったことが発覚し、上島先生は膨大な重加算税を税務当局から課されたのみならず、そのことが元で様々な契約を解除されたり、それに伴い、損害賠償訴訟でまた凄まじい額のお金を請求されることになった。そして不祥事の責任を取って上島先生は無期限の音楽活動の謹慎をすることになったのである。
 
「まあ、そういう訳で上島君は今事実上の破産状態なんだよ」
と、内密の話があるからといわれて横浜市郊外の料亭で★★レコードの町添専務と秘密の会談を持った私は冒頭言われた。
 
「私もお電話したのですが、心配掛けて済まないとばかりおっしゃってて」
「一応、表向きには無期限の謹慎ということにしているけど、1年後に謹慎を解除することで、うちの社長や、上島ファミリーの世話人格になっている◇◇テレビの響原取締役とは意見が一致している。このことは君には必要があって話すんだけど、絶対口外しないで欲しい」「分かりました。ただ、私謹慎より先生の不調の方が心配です」
 
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「ああ、君も聞いたか。。。。実は上島君はここの所の騒動から来た精神的なものだと思うのだけど、今、全く曲が書けない状態になっているらしい」「そうなんです。ピアノの前に座っても何も思いつかないとおっしゃってました」
「うん。それで実は上島ファミリーの歌手たちに提供する曲で困っているのだよ」
「ああ」
「上島君は、お弟子さんとかを取らない主義だったからね。上島ファミリーのリーダー格になる、山折大二郎君は多少とも曲が書ける。しかし彼が書けるのは演歌だけ。上島君はほんとに多才で、演歌からポップス、ロック、フュージョン、リズム&ブルース、ボサノヴァ、といろいろなジャンルを書いていたし、上島ファミリーの中にもほんとに多様なジャンルの歌手がいる」 
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「話が見えてきました」
「うん。まあ、それで君にこういう話をしている訳で」
「私が、上島先生が1年後に復帰してくださるまで、上島ファミリーに楽曲を提供すればいいんですね」 
「うん。基本的には上島君と交流のあったクリエイターさんたちがみんなでバックアップをするという形にしたいから、他の作曲家さんにも依頼するつもりではあるけど、上島君と交流のあるクリエイターの中でいちばん多作なのが君だから、どうしても君に頼りたくなるということと、実際問題として今リストアップしている作曲家さんたちの総力合算しても、概算で上島君の創作量の半分いくかどうかなんだ。それと上島君自身からも、ケイちゃんなら最低でも自分が書いていた分の3〜4割くらいはカバーできるんじゃなかろうかと推薦されたんだけど、僕は君なら5〜6割くらいは書けそうな気がするんだよね」 
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「私、デビューの時から、とにかく代役付いてるんです。天性の代打要員なんて言われたこともありますけど。1年間限定で、上島先生の代役、やらせてください。上島先生の書いておられた量の半分は書きます」「うん、頼む」
「それとこういうのは私からより町添さんから言ってもらった方がいいと思うのですが、あまり悩みすぎないように言ってあげてください」「分かった」
 
「書かないといけない曲の、歌手と曲数と期限のリストを頂けますか?」
「作ってきた。これだ。今後の分は随時整理してそちらにメールする」
といって町添専務は紙のリストとデータカードを渡してくれた。
「このリストは君とたぶん共同作者になるマリちゃん、それに須藤君の3人だけの限定にしておいて欲しい。データカードのパスワードは後でメールする」 
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「はい。。。。で、今週末までに取り敢えず14曲ですか」
今週末といっても今日を含めて4日しかない。
 
「シングル用の曲をね。無茶は分かってるんだけど、上島君の創作スピードをあてにして企画が進んでいたものばかりでね。とりあえず延期してきたけど、限界に到達しつつある。14曲の内、せめて8-9曲くらい書いてくれると、残りは他の作曲家さんたちの分で何とかする」「14曲、書けると思います」
私は政子の書きためた詩のストックが充分あったことから確約した。
 
「それは助かる。頼むよ」
町添専務もホッとしたような顔をしていた。
 
「でも君もデビューしてから10年くらいたつかな」
「はい。この8月でちょうど10周年です」
「おお、それは記念で何かやりたいね」
「8月にローズ+リリーの全国ツアーをしますから、それが10周年記念ツアーになりますね」「よし、キャンペーンしなきゃ」
「ありがとうございます」
 
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上島先生の代わりに曲を書き始めて、私は多い日は1日5〜6曲、平均しても週に15曲以上のペースで、ひたすら曲を書いた。「上島ファミリー」と呼ばれる人達は全部で20組ほどいるので、その人たちが年間アルバム2枚・シングル3枚出すと、だいたい年間に800曲くらい書く必要がある計算になる。実際には演歌を除いて500-600曲も書いてもらったら助かると町添専務は言っていたが、前年上島先生は実際1000曲くらい書いているらしい。恐ろしい多作である。私達みたいな上島ファミリー以外のアーティストにまで楽曲を提供していたからであろう。上島先生はこのペースを既に10年以上続けて来ているのである。
 
私が書いた曲は美智子がチェックし、美智子のセンスと勘でNGを出されたり、直しを要求されることもあった。美智子の基準で一定水準に到達してないとみなされた曲は遠慮無く没にされていた。また美智子はマキともう一人、このために来てもらったFM局の元DJさん(在職時にはかなりお世話になった人である)とで、既存曲との類似チェックもしてくれていた。これは3人の記憶力に頼る部分が大きいが、「ABC譜」のデータベースでの類似検索も威力を発揮していた。 
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「これ、先月書いた『※※※』とモチーフが似てる」
「それ、どんなんだっけ?」
というと美智子は私の作品集のファイルをパソコンで開き譜面を見せてくれる。「あちゃあ、この曲はきれいに忘れてた」
「まあ、このペースで書いてたら、書いたらすぐ忘れちゃうこともあるだろうけど、気をつけようね」「うん」
 
「上島先生はそのあたり、どうしてチェックしてたんだろう」
「ノーチェックだったと思う。メジャーな曲ではさすがにそういうの無いけどアルバム収録曲の中には、これ他の歌手のアルバムにあった曲と似てるぞ、と思うもの時々あったもん」「そっか。。。。やはり大量に書いてたらそういうの出てくるか」
「まあ、自分が書いた曲と似てるのは誰も文句言わないんだけどね。怖いのは他人の作品との類似だよ。冬は今までそういうの1度も無かったけど、何か秘訣があるの?」「うーんとね。他の人の作品をうっかり真似してしまったような場合は、違和感がある。自分の『波長』じゃないと思うの」「なるほどね」
 
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私がこの時期大量の曲を書き続けることができた背景には作詞担当である政子がまた大量の詩を書いてくれたこともあった。政子は1回男の子とデートする度に2-3個は詩が書けるなんて言っていた。政子が詩を思いつく度に会話が中断する彼氏さんにも少し同情したが。
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夏の日の想い出・超多忙年の夏(1)



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