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■夏の日の想い出・修学旅行編(2)
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目次 8
時間索引 #
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2人が部屋の方に戻っていった後、ボクは少しため息を付き、そのまま少し壁にもたれかかって身体を休めた。その時「コホン」という女の子の声がした。え?と思って声がした方を見ると、琴絵だ!
「あれ?いつからそこにいたの?」とボクは男声に切り替えて訊く。
「えーっと最初からいたんだけどね。なんか出て行くタイミングを逸した。あ、無理に男の子の声使わなくていいよ。冬は女の子の声の方が自然だよ」
「ありがとう」とボクは女声に戻した。
「座っていいかな?」
「うん」
琴絵はボクの隣に座って、こちらを見た。
琴絵に女声を聞かれたのは最初女子トイレの中だった。この高2の2学期、ボクは学校には学生服で出て行くものの、放課後になると女の子の服を着てローズ+リリーとして活動していたので、女の子の服を着ているのに男子トイレにうっかり入ったり、逆に学生服なのに学校でうっかり女子トイレに入ったりといったミスを頻繁にやらかしていた。
その時は学校で少しぼーっとしていて、何も考えないまま女子トイレに入り、空きを待つ行列に並んでしまった。前に並んでいた琴絵がぎょっとした顔で「ちょっと、ここ女子トイレなんだけど?」というと、ボクは「え?それが何か」と女声で答えた後、間違いに気付き「あ、ごめん」と言って飛び出した。
その数日後、仕事の件で急な連絡が必要になり、学校のピンク電話から★★レコードの秋月さんに電話をしたことがあった。その時、秋月さんと話すのに小声ではあったが女声を使っていたところをちょうど通りかかった琴絵が耳にして、最初「え?」という顔、それから「ふーん」という顔をした。電話が終わってから琴絵は
「唐本君、そういう声が出るのね」と言った。
「うん、まあ」と女声のままボクは答える。
ボクたちは雰囲気で誘い合って校舎を出、芝生に並んで座って話をした。
「そういえばこないだ女子トイレに間違って入ってきた時も女の子みたいな声出してたな、と思って。今の電話、口調も女言葉だったし」
「うん。ちょっと知り合いで。向こうはボクのこと女の子と思ってるから」
「えー?騙してるの?」
「いや、そういうつもりは無いんだけど」
「逮捕されるぞ」
「えー!?」
「性別詐称罪、刑法第161条。5年以下の懲役」
「そんなのあったっけ?」
「無いけど」
ボクたちは笑った。
「もしかして、けっこう女装してる?」
「うん。男の子の格好してるの、家にいる時と学校にいる時だったりして」
「眉を細くしてるのはやはり女装のためだったか」
「やはりって?」
「最近女の子達の間で、唐本君が眉を細くしている理由について議論していたの」
「えー?」
「ツッパリ説、ナルシスト説、間違って細くしすぎた説、などあったけど、やはり根強い支持者があったのが女装説」
「そんなこと話してたの?」
「女子トイレに間違って入ってきたのもその影響ね?」
「そうそう。男の子の格好の時は男子トイレ、女の子の格好の時は女子トイレだから、頭の中が大混乱で。しばしばトイレの前で、自分の着ている服を見直してから、どちらに入るか考えたりする。でもそれでも間違うことある」
「あはは」
「唐本君の意識として、自分は男の子なの?女の子なの?」
「けっこうそれ揺れてるんだけどね・・・やはり自分は女の子なのかなぁって、最近思い始めた」
「ふーん。。。。私さ」
「うん」
「こないだから、けっこう唐本君と教室とかで会話が成立しちゃってるなと思って」
「そうだね。けっこう話してるよね、最近」
「でもこれ、恋愛とは違う感じがするぞと思ってたんだけど」
「うん」
「もしかして女の子同士の友だち感覚なのかもね」
「あ、そうだと思う」
「じゃ、私、唐本君のこと女友達と思っちゃおうかな」
「それ、ボクも嬉しいかも」
「じゃさ、呼び方も、苗字じゃなくて、名前で呼び合わない?」
「うん、いいね。ボクのことは冬って呼んでくれるといいかな」
「そっか。冬彦って言っちゃうと違和感あるもんな。冬子って言ってもいいのかも知れないけど、周囲が変に思うよね」
「うん」
「じゃ、私のことも琴絵か、あるいは冬に合わせてコトでもいいよ」
「じゃ、コトと呼んじゃおう」
そんな会話をしたのが先月くらいだった。その後、琴絵とはどんどん親しくなっていった感じで、政子に次ぐ大事な親友になっていった。
ボクたちは自販機で改めてジュースを買うと飲みながらベンチでしばらく話した。
「今夜の浴衣姿の冬は女の子にしか見えないよ。なんか雰囲気が完璧に女の子」
「そう?」
「う・・・今の仕草とか完璧に女の子っぽい」
「えへへ」
「今日もおっぱいあるのね」
「うん。なんか男の子ではいたくない気分だったから」
「男の子の前で脱げないね。でも今日はお風呂が個室にあって良かったね」
「うん。でも入ってる時に乱入される危険があるんだよね。それを今日はボクのこと分かってくれてる佐野君がうまく守ってくれた」
「よかったね。。。。冬、私と話す時はボクと言うんだ?さっきは私って言ってたのに」
「松山君がいたから。政子と2人の時もボクと言うよ」
「ルールが良く分からないな。でも、もしかして最近女装の頻度上がってない?」
「うん。なんか最近毎日女装してる。この連休は3日間ずっと女の子の格好のままだったし」
「政子と一緒だったんだよね」
「うん。日曜の夜はいったん東京に戻ってきたけど、土曜の夜は福岡で泊まり」
「・・・・まさか、一緒に泊まったの?」
「うん」
「着替えとかどうするの?」
「別にどうもしないよ。お互い普通に着換えるし、一緒に寝たけど別に変なことしなかったし」
「女の子の下着姿とか見ても別に何ともないの?」
「先月初めて一緒に泊まった時は、着換える時は後ろ向いてるから、って政子に言ったんだけど、そんなの面倒くさいと言って。ボクの見てる前でお風呂から上がったあと裸で歩き回るし、ホテルの暖房が少し強かったから、下着姿のままでおしゃべりしてたし」
「裸見ても何ともないの!?」
「うん。ボク、バイトではずっと女の子扱いだから、女子更衣室でふつうに着換えるし、こないだは女湯にも入ったし」
「何〜!女湯だと!?」
「ボク、女性の下着姿や裸を見ても、同性の下着姿や裸を見ている感覚だから、何も感じないよ。むしろ最近、体育の時間に男子更衣室で着換える時に緊張しちゃって、壁の方を向いて着換えてる」
「うーん。。。。じゃ、男湯に入れないじゃん」
「それはもうあり得ないと思う」
「どうすんの?明日と明後日は温泉だよ」
「体調悪いとかいってパスする」
「ふーん。でも政子と一緒の部屋に泊まって、政子の裸を冬が見て特に何も感じないのはいいとして、冬の裸も政子は見てるんだよね?」
「お互いの裸はけっこう見慣れちゃったかな。政子もボクを女の子とみなしてるから多少形が違うのは別に気にしない、なんて言ってるし。けっこうふざけて触りっこしたりもするよ」
「ちょっと待て。私、ふたりの関係が微妙に分からなくなって来たぞ」
「そう?」
「キスしたことあるの?」
「何度かあるよ。でも友情のキスだよね、と言ってる」
「・・・政子のおっぱい触ったことある?」
「普通に触ってる。政子も私の身体にあちこち触るし」
「もしかして、セックスした?」
「しないよぉ。だって女同士の友だちなんだから。でも政子との関係では、その時のノリでハプニング的にセックスしちゃう可能性もあるなと思って、念のためいつも避妊具は用意してる」
「ほほお」
「最初見られた時は、何?私とセックスしたいの?させてあげようか?なんて言われたけど、そういうつもりじゃないからと言って、ちゃんと説明した」
「ふーん」
「結局、枕元にそれ置いて寝たよ。もし何かの間違いでしたくなったら付けようねって言って」
「で、使わなかったんだ?」
「うん。別にこちらもそういう気は無いし。『ほら、使いたくならないか?』
なんて言われて、だいぷあそこを触られたけど」
「触っちゃう訳?・・・・触られたら大きくなるよね?」
「うん。大きくなっちゃう。政子も濡れちゃう」
「ちょっと待て。政子が濡れちゃうようなこと、冬はする訳?」
「触って触ってとか言うんだもん」
「それって・・・・やっぱり恋人じゃないの?」
「あくまで友だち関係だよ。だから、お互いの身体に触るのは自由だけど、気持ち良くなりすぎたら正直に自己申告して、申告されたらお互い触るのは中止する、ってルールを決めた。あくまで女の子同士の悪ふざけだからHなことしたくてしてるんじゃないし」
「うーん」
「それで中止するのが嫌で、どうしてもやりたいという気持ちになったら、お互い同意の上で枕元のコンちゃんを開封しようということで。さすがに開封したら、もう友だちではいられなくなると思うけど」
「ふたりの関係がますます分からなくなった」
「そう?でも女の子同士でふざけておっぱい触ったりしない?」
「それはするけど・・・・何なら冬、私のおっぱいに触る?」
「え?触っていいの?」と言って私は琴絵のおっぱいに手を触れた。
「う・・・ホントに触られるとは思わなかった」
「あ、ごめん」と言って手を引っ込める。
「ううん。別にいいよ。女の子同士なら。私も冬のおっぱいに触っちゃお」
などといってボクの胸に触ってくる。
「わっ、何かリアルだ」
「今日はブレストフォームっての付けてるの。裸になっても、一見ほんとに胸があるように見えるよ。実は連休の間付けてたんだけど、昨夜は疲れててて、帰ってくるなり寝ちゃって、今朝はギリギリで起きて飛び出してきたから、そのままなんだけどね」
「女湯に入った時って、それを付けてたのね」
「そうそう」
「下はどうしたの?」
「それは隠し方があるんだ。今もそれやってるよ」
「へー」
「触っていいよ」
「え?」
などと言ったものの、琴絵はおそるおそるボクの浴衣の中に手を入れてお股に触ってきた。
「まるで付いてないみたい・・・・ホントにもう取っちゃったんじゃないよね?」
「取ってないよ。政子は早く取っちゃえばいいのに、とか言うけど」
「・・・・何となくふたりの関係が少しだけ分かった気がする」
「そ?」
「それと凄くハッキリしたこと。それは冬はホントに女の子だってこと」
「自分でもそんな気がする」
「さっき、男の子と同室じゃ、ゆっくり休めないとも言ってたね」
「うん。少しでも気を抜けない感じ」
「・・・・今夜寝れる?」
「一応同室の佐野君が私のこと分かってくれてて、ガードしてやるからって言われてるけど、たぶん熟睡できないかもって気はしてる」
「確かに私も周囲が男の子ばかりのところでは安眠できないだろうなあ」
その夜はそこで琴絵と話し込んでしまって、22時の消灯時刻に見回りに来た片岡先生から、部屋に戻れといわれてボクたちは各々の部屋に戻った。
「この付近、あんまり人が通らないから、女の子だけでは不用心だよ。おしゃべりするならロビー使おうね」
などと片岡先生は言っていた。ボクが男の子だということには気付いていない風であった。
ボクが部屋に戻った時、佐野君がいなかったので、どうしようと思ったのだがほどなく戻って来てくれて、ボクは佐野君にガードしてもらう形で窓側の布団に入った。しかしなんか眠れない感じだった。疲れてるのに。そもそも男の子たちの前に自分の寝顔をさらしたくない気分だった。結局0時すぎに、他のみんなが寝静まった頃、やっと寝た。
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