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■夏の日の想い出(3)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-06-30  
お盆の14-15日はお盆の行事の設営の仕事で出て行ったのだが、公園でお坊さんがたくさん来て読経する場所を設営していたら、他のイベント会社から来ていた女性に声を掛けられた。
 
「もしかしてローズ+リリーのリードボーカルの方ですか?」
「あ、はい」
とボクは中性的な声で返事をする。むろん服装は女性仕様で、今日は動きやすいようにショートパンツとフレンチ袖のシャツだ。ちゃんとブラジャーもして、バストパッドも入れている。
 
「こないだ、水戸でたまたま通りかかった時に見かけて。いいですねー。活動し始めてどのくらいですか?全然知らなかった。仕事柄インディーズのアーティストには注意していたつもりだったのに」
「まだ結成してあまり日が経たないんですよ」
「でも△△社さんのスタッフなんですね」
「はい。ふだんはこうやって設営の仕事してます」
「フリーだったら、うちでマネージメントしたい所だなあとか思ったんだけど惜しいなあ」
「それはありがとうございます」
「そうだ!サインもらえます?」
「あ、はい」
 
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ボクは彼女の手帳にローズ+リリーのサインを書いた。一応サインに関しては、明らかに転売目的と思われる場合以外は、個人的にも応じて良いと言われていた。
 
この日は他にも3人から声を掛けられて、同様にサインに応じた。政子の方も声を掛けられたらしい。その件を須藤さんに言うと
「思った以上に注目されてきているね」
と言って少し考えているようであった。
 
翌16日、ボクたちは事務所に来るように言われ、行くと、暫定的なアーティスト契約を結びたいと言われた。
 
「どうして暫定的なんですか?」
「本当はきちんとした形で契約書を取り交わしたいのだけど、ふたりとも未成年だから、契約書を交わすには、親御さんの承諾が必要なのよね」
「ああ」
「政子ちゃんの方は説得すれば何とかなるかもしれないけど、冬子ちゃんの方はどう考えても承諾がもらえるとは思えないので」
「ボク、親にはとても言えません」
「だよね。だから暫定」
「分かりました」
 
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契約の内容は基本的には専属に関するもので、ローズ+リリーという名前の使用権が会社側に属すること、勝手にCDを作ったりダウンロード公開したりしないことなどの権利関係の問題、そしてギャラに関するものであった。
 
「このユニット、今月いっぱいのつもりだったんだけど、どうも人気が出てきているからさ、9月になっても、放課後や土日限定でいいから続けて欲しいのよ」
「それはいいと思います。ね?」と政子が答える。
「うん、学校の勉強に支障が出ないなら」
 
「で、今月いっぱいは約束通り、スタッフとしての報酬に+3割、冬子ちゃんが女の子ではないとばれなかった場合ね。ばれたら2割増しに減額」
「はい」
 
「で、来月からのギャラなんだけど、固定制で月1人2万というコースと、実際に稼いだ分のマージンというコースとを考えてみたのだけど、どちらがいい?」
「マージンの率はどのくらいですか?」と政子が質問する。
「CDは1%。ダウンロードは2%。これを2人で分けてもらう。ラジオなどのメディアに出演した場合は1回3000円、雑誌やネットサイト等の取材は1回1000円、ライブイベントの出演に関しては無料のイベントについては1回1000円、有料のものについては1回1万円。これ全部ユニットに対する報酬だから、各々の取り分はこの半分ね」
「マージン方式がいいです」と政子が答えた。
 
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「たぶん、マージン方式だと月に2000〜3000円になっちゃうと思うけどいい?」
「はい。でも売れたらそれだけたくさんもらえるんでしょ?」
「うん。まあ、売れたらね」
と須藤さんは苦笑する。
「冬子ちゃんも、それでいい?」
「はい。2000-3000円ももらえたら、充分お小遣いとして美味しいし」
 
「あと、こないだ作ったCD『明るい水』だけど、これまでに400枚売れてて。もし1000枚を越えたら、その後は1枚につき10円払うから。今日明日にもダウンロードでも売れるようにするので、その分は最初から1ダウンロードあたり2%払うね」
「ありがとうございます」
「ギャラに関しては、売れたら出演料とかも少しあげてあげるから」
「はい」
 
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そういうわけで、僕たちは夏休みが終わっても、2人で活動を続けることになったのであった。それはボクの女装もまた続いていくことになったことを意味した。ただ、この頃から、ボクは女装するのを自然なことのように受け入れ始めていた。ふだん1日男の子の格好で家で過ごしたり、図書館などに行ったりしている時は、何か物足りない感じがしたし、スーパーなどで鏡面に自分が映っている姿を見て、バストが無いのが変な気がしたりした。
 
そんなことを政子に言ったら
「女装にハマっちゃったね。癖になるっていうもんね」
などと言っていた。
「なんなら、仕事の無い日でもうちに来て着替えてっていいよ。事前に電話でもしてくれたら」
などという。
 
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政子は両親がこの春から転勤でタイに行っていて、ひとり暮らしなので、このあたりの融通がききやすいのである。転勤になる時に政子も一緒に行こうとも言っていたのだが、受験を考えるとタイには行きたくないと政子が主張し、それで時々近くに住んでいる叔母さんに様子を見に来てもらうことにして、ひとり暮らしを始めたのであった。当時既に花見さんとはよく電話したりする仲だったが、花見さんがご両親の前で、将来政子と結婚を考えているが、高校卒業までは肉体的な関係は持たないと誓ったらしい。
 
しかしそういうことで、早速翌日は仕事は無かったものの、朝から政子の家に行って、着替えて町に出てみた。帰りの時刻が分からないと言ったら、自分も出かける予定なので勝手に入って着替えていいよと言われて、合い鍵を預かった。次仕事で会った時にでも返してもらえばいいからということだった。
 
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思えばプライベートで女装するのは初めてだ。これまでも仕事に行く時、政子の家から仕事の現場までは女装で移動していたわけだけど、あくまで経路だけで、多少コンビニなどに寄ったりすることはあっても、のんびりと町を歩いたりすることはなかった。こういう格好でひとりで自由に歩き回るのも初めてだ。
 
その日は膝丈のスカートとキャミソールという軽装だった。夏の暑い日差しの中でコンクリートに暖められた熱い空気が吹き付ける。それが肌に当たると、快感だった。男の子の服ではこんな感触って味わえない。女の子の特権だなと思った。
 
しかしデパートに入ったら、急速冷凍された気分になった。きゃー。これ冷房の掛け過ぎだよ。背広の男性に合わせてない?もっと弱めでいいよなと思う。ボクはあまりの寒さにお腹がおかしくなって慌ててトイレに飛び込んだ。
 
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ひと息ついて個室から出る。ふと見回すとゴージャスな作りだ。男子トイレってこんな立派なの見たことないなと思った。女子トイレには金掛けてるのかなあ。そういえば便器もウォシュレットだったし、音姫も付いていた。こんな格好をするようになるまで、音姫なんて意識したこともなかったけど、ここしばらくの『女の子』としての行動で、トイレでは音姫を作動させるのが習慣になっていた。そういえば男子トイレって音姫付いてたっけ??? しばらくデパートとかの男子トイレって入ってなかったので、記憶が曖昧だ。
 
お昼になったので、ファッションビルの7階にあるビアレストランに入る。500円のランチがあるのでそれが目的だったのだが、席に案内されると「本日レディスセットをお得な450円でご案内しておりますが、いかがですか?」などと言われる。レディスセット……なんか食べてみたい気がした。
「じゃそれお願いします」と言った。
 
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待っていたら、小さめに盛ったチキンライスに野菜サラダ、小エビのパスタ、ステーキが3切れ、そしてドゥミタスコーヒーとアイスクリームが付いている。いろいろ種類もあるし、量も手頃でいいなと思った。レディスセットって男でも頼めるのかも知れないけど少し恥ずかしい気がする。こういう格好でいればふつうに頼めていいな。
 
昼食後ぶらぶらと歩いていてサンリオショップに気付く。こういう所1度入ってみたい気はしていたけど、男の身では入るのが恥ずかしい気がしていた。今なら入れるなと思って入ってみる。
 
きゃー。これはホント女の子の世界だと思う。頭の中の構造が破壊される気分だ。可愛いとは思うけど、ちょっとこういうグッズを自分で使うのは恥ずかしい気がするとも思ったが、女の子の格好の時はこういうの使ってもいい気がした。結局シナモロールのボールペンとけろけろけろっぴのスケジュール帳を買った。
 
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14時半を回ったので、そろそろ帰ろうかなと思って歩いていたら、ふとカラオケ屋さんに目を停めた。ボクは実は自分の発声で悩んでいた。中性的な声で出せる声域が狭くて、けっこう裏声で誤魔化している部分がある。あのあたり少し練習してみようかなと思って入った。
 
最初に楽曲は流さずに「あああ」でドレミファソファミレドを歌ってみる。半音ずつピッチを上げていくと、この発声では声が出ない所まで行った。うーん。この上をどうするかだよなあ・・・・逆に裏声で思いっきり高い音を出してみる。やはり「あああ」で歌って少しずつピッチを下げて行ってみた。うっこのあたりから苦しい。あれ?でもこの裏声の一番低いあたりってかなりいい感じに出てない?
 
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ボクは試しにそのあたりの音域の裏声でドレミフアソと歌ってみて、携帯電話のICレコーダーを使って録音してみた。
 
聞いてみる。
 
うん。ほとんど女の子の声に聞こえる!
 
これは発見だった。これって、この声の出し方をしっかり覚えて、この出し方で出る音域を広げていくと、今主として使っている中性的なボイスだけでなく、純粋に女の子の声に聞こえる歌い方ができるのではないかという気がした。
 
試しにこの声の出し方で出る音域を調べてみると、だいたい6度くらいだった。1オクターブもないというのは辛い。でも練習すればもっと出るような気がした。よし、今度からカラオケに時々来て、練習してみようと思った。
 
スタッフ報酬は「女の子でないとばれなかったら3割り増し」の部分を除いては毎回現金でもらっているので、カラオケに通う資金はある。ただ・・・・
 
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仕事の無い日に頻繁にカラオケに来るということは、ほぼ毎日女装することになったりして!?
 
そのあとは、女性ボーカルの歌で比較的高音域を使っている歌をカラオケで流して、主として裏声を使って歌い込んだ。苦しくなるあたりをできるだけ我慢して自分の声域を広げていく練習だ。
 
取り敢えずその日はけっこういい感じで歌い込みができたので、満足した気分で政子の家まで帰った。預かっている合い鍵で中に入り、トイレに行ってから、洗面台の所でメイクを落としていたら、ドアの開く音がした。あれ?政子帰ってきたのかな?
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