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■夏の日の想い出・4年生の春(2)
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目次 8
時間索引 #
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翌日日曜日、早速全員集まってもらい、顔合わせ・試演をしてみた。UTP側から参加したのは、私と政子、ローズクォーツのメンバー、スターキッズのメンバー、それに安価?に徴用することにした私の友人たちであった。
「みなさんお集まり頂きありがとうございます」
と私は挨拶する。
「思えば私が中学生の時に伯母から大量のCD/LPを頂きまして、その中で熱心に聴いたのがビートルズ12枚とポール・モーリア30枚でした。その時、ポール・モーリアがどの楽器にどこで音を出させているのかと何度も聴き直してチャート化したりしていたのが、私が今曲をアレンジする時のベースにもなっています。普段はストリングスやブラスの音はエレクトーンなどで出しているのですが、一度ああいうグランドオーケストラってやってみたいと思っていました。それが今回ローズクォーツ・プレイズのシリーズでイージーリスニングを取り上げようということになった時、本当にオーケストラ作っちゃおうかと提案したら、あんたがお金出すならやってもいいよと言われたので、やらせて頂くことになりました」
そういう訳で今回のグランド・オーケストラの費用はサマーガールズ出版から出ているのである。1回集まるのに手当・交通費・場所代・宿代で100〜150万、半年間で15〜20回(×土日の2日間)くらい集まる予定なので、3000万円程度の予算を予定している。このシリーズも何だか大型企画になってきた感もある。(赤字だが!)
それでも前回の『Girls Sound』はメンバーの女装が取り上げられてテレビにも出演依頼が相次いだこともあり(おかげでローズクォーツのメンバーはその度に女装させられた)8万枚を売るヒットとなった。過去のPlaysシリーズはClassicが3万枚を売ったのが最高だったので大幅に記録を更新した。また過去のPlaysシリーズの売上も押し上げたし、カバー元のガールズバンドなどのCDセールスも押し上げて、権利関係で協力してくれたレコード会社各社もご機嫌であった。特にリリックスやヴァニラニンジャの知名度が上がった感もあり、FMでよくこれらのバンドの曲が取り上げられたり、ローズクォーツ版との聴き比べなどもされていた。
取り合えず練習初日、譜面を配って合わせてみる。今日の楽器配置はこうなっていた。
リズムセクション(4) E.Bass マキ E.Gt タカ・近藤 Dr. サト
木管セクション (4) Fl 宝珠・風花・倫代 Cl 詩津紅
鍵盤セクション (4) Pf 美野里 Or 山森 Mar 月丘 Vib ヤス
弦セクション (13) Vn 鷹野+10名 Vla 酒向 Vc 宮本
金管セクション (11) Tp 香月+5名 Tb 5名
コーラス (2) マリ・ケイ
総勢38名、これに指揮者の渡部さん、音響技術者として参加してもらった有咲まで含めて40名という本格編成である。この他実は雑用係として仁恵・琴絵も徴用しており、仁恵はピアノの譜面めくり係もしてもらった。
配った譜面はポール・モーリアの『Penelope』(エーゲ海の真珠)であるが、まずはMIDIで作った音源を流してイメージを掴んでもらう。
その後、譜面読みの時間を10分くらい取った後、取り敢えず合わせてみた。
冒頭、トランペットとフルートがこだまするかのように歌い合う。香月さんのトランペットと宝珠さんのフルートの呼応である。その後は同じパターンを美野里のピアノと月丘さんのマリンバで繰り返す。そしてBメロはストリングスの見せ場である。総勢13人の重厚な弦楽器サウンドが鳴り響き、弱音器を付けたトランペット・トロンボーンがそれに彩りをつける。そしてサビの部分では私とマリのスキャットが透明な響きを奏でる。その後出てくるAメロでは山森さんのオルガンとタカのギターの呼応もあった。
一通りの演奏が終わった所で、思わず拍手が起きた。
「凄い。これだけの人数なのに1発で合うなんて」とタカ。
「さすが、みんなうまい人ばかりですね」と宝珠さん。
「ところでこれクォーツは埋没してない?」とヤス。
「細かいこと気にしない」とサト。
その後、録音したものを聴いてみて、渡部さん、桑村さん、私、宝珠さん、タカなどで意見を出し合う。それから各セクションに細かい指示が出され再度演奏する。この日はこういうパターンを繰り返して、基本的な音作りの方向性を見定める時間とした。
他の譜面も渡され、今後の日程についての説明をした。実際の音源制作は4月下旬から5月上旬。だいたいゴールデンウィークの時期とした。会社勤めしているメンバーや学校の先生なども多いので、休日の方が動きやすいためである。
また活動内容を指定解禁日(5月5日)までは、ブログやSNSなどで書いたり、友人に話したりしないこと、という守秘義務に関するお願いを改めてした。(一応全員、そういう誓約書にサインをしてもらっている)
4月10日。KARION、XANFUS、ローズ+リリーのコラボCDが発売された。お正月の挨拶回りの時に偶然三者が遭遇して思いつきのように出来た企画であったが、結局その後三者が一同に会することはなく、録音も同じ機材を使うために同じスタジオで録ったというだけで、各々バラバラに録音してミクシングしたものであった。しかしこの日は何とか全員都合を付けて、共同記者会見に漕ぎ着けた。
CDタイトルは『THE SEVEN』。収録曲は次の3つである。
マリ&ケイ作詞作曲『8人の天使』。ケイがソプラノとアルトの2つの声で参加しているので3組7人8声のボーカルによる多層ハーモニー(女声四重唱:ケイ・いづみ/音羽・こかぜ/マリ・光帆/みそら・ケイ)が魅力である。伴奏はスターキッズ(クレジットはSK)。
神崎美恩作詞・浜名麻梨奈作曲『Love Race』。曲頭では音羽がメインボーカルだが、その後、マイクを奪い合うようにして7人全員がメインボーカルを取り合って歌っている。まるで全員揃って録音したかのような構成で「あん、取られた」
とか「こっちに貸して」などといった声も入っているが、きちんと譜面を作ってそれに沿って収録したものである。伴奏はパープルキャッツ(クレジットはPC)。
そして森之和泉作詞・水沢歌月作曲『仲間の唄』。和泉・ケイ・音羽が順番にとても平和的に交替でメロディーを歌っている。伴奏はトラベリング・ベルズ(クレジットはTB)。
ジャケットは1月に遭遇した時に撮った記念写真を利用している。X版,R版,K版の三種類があり、X版ではXANFUSの2人が中央で写り曲順も『Love Race』が先頭。R版はローズ+リリーの2人が中央で写り曲順も『8人の天使』が先頭。そしてK版はKARIONの3人が中央で写り曲順も『仲間の唄』が先頭。しかしこれらは中身は同じなので、集計上はひとつになる。
「もしかして*KB商法ですか?」
と記者から質問が飛ぶが
「いえ。どのユニットを中心にしても他のユニットのファンからクレームが来るので。みなさん、各々好きなジャケットのものをお求めください。中身は同じですので」
と加藤課長が回答する。
「でもなんか楽しそうですね」
「はい、私たちみんな仲良しですから」といづみ。
「全員集まって収録したんですか?」
「どうしても時間が合わなくてバラバラの収録になりました」とケイ。
「ジャケ写も合成ですか?」
「お正月に偶然三組が遭遇したので、その時の記念写真を使いました。三通りのスナップを撮っておいたんです」と光帆。
「その時、この企画が浮上したんですよね」といづみ。
この日の質問にはこの3人が代わる代わる回答した。この時、テーブルに鉄道単線の閉塞用タブレットを置いておき、発言者がそれを取ってから発言した。このタブレットには、ローズ+リリー、KARION、XANFUSの似顔絵タグが付いていた。
「そのタブレット、特製ですか?」
「小道具係さんに作って頂きました」
「似顔絵は誰が描いたんですか?」
「ケイちゃんです。以前スイート・ヴァニラズの似顔絵も描いてましたね」
「でも色を塗ったのはいづみちゃんです」
「ハサミで切って、タブレットに取り付けたのは光帆ちゃんです」
「この3組集まってのコラボライブとかは無いのでしょうか?」
「今の所予定はありませんが、状況次第では話が出てくる可能性もあります」
と加藤課長。
今日は7人が同じデザインの服を着てきている。但し色が、ローズ+リリーは赤、XANFUSは黄色、KARIONは青である。
7人が円環(ケイ・いづみ・音羽・こかぜ・マリ・光帆・みそらの順)になって手を合わせている所を、真上から撮ったカメラでスクリーンに投影して、それで記念写真とした。
4月14日の夜。RQGO(ローズ・クォーツ・グランド・オーケストラ)の2度目の練習を終えて私と政子はマンションで少しゆったりしとした時間を過ごしていた。
私が疲れが出てきて少しまどろんでいたら、いきなり首筋に冷たい金属が当たる。
「何なの〜?」
「亀甲縛りがいい?逆さ吊りがいい?」
「こないだロープは捨てちゃったじゃん」
「ふふふ。予備をこのマンションに置いてたのだよ」
「もう。今日は何追求するのさ?」
「こないだ冬、言ってたじゃん。小学生の時に少女漫画みたいな怪しいレッスン受けてたって」
「あぁ」
「おとなしく白状すれば、痛い目には遭わせない」
「そうだなあ。たまには素直になるのもいいか。あれはちょっとワクワクする体験だったんだよ」
「ふーん。何年生の時?」
「小学2年生の時の担任の先生だよ。でも1年生の時も隣のクラスの担任で、その時からピアノを教えてくれたんだ」
「へー」
などと言いながら、政子は私の身体にロープを掛けている。
「私、エレクトーンは幼稚園の頃から弾いてたけどピアノは憧れの楽器で。学校には教室は電動オルガンだったけど、音楽室にグランドピアノがあって、その隣の倉庫みたいな部屋に壊れかけたピアノもあったんだよね」
「ふーん」
「音楽室のピアノはピアノ教室に行ってる子たちが代わる代わる弾いてたから私はあまり近寄れなくて。当時はピアノ全然弾けなかったし。それで倉庫にある壊れかけたピアノを私はよく弾いてたんだ」
「ふんふん」
「でも弾いてる内に音が狂ってることに気付いて」
「耳は良かったんだ!」
「それで私がどうしようと思ってた時にその先生が通りかかって『最近ここのピアノがよく鳴ってるなと思ってたけど、君が弾いてたの?』と言われたから『はい』と答えて『でも音が狂ってますね』と言ったら『直してみる?』と言われて」
「調律したの!?」
「うん。工具渡されたから、それで」
「へー!」
「私その当時は平均律というのを知らなかったから、5度の音程がきれいに響くように合わせていった。後で考えたら純正律で調律しちゃったんだよね」
「それは逆に凄い」
「それで折角音を合わせたなら実際ピアノ弾いてみようというので、その後、毎日放課後30分くらい教えてくれたんだ」
「で、女装は?」
「えっと女装って何?」
「そのレッスンの時、女装してたんでしょ?」
「なぜ〜!?」
「だってこないだは認めたじゃん。よし。このロープを引くとだね」
「痛たたた! ちょっとやめてよ」
「だから素直に白状しなさい」
「分かった、分かった。それはね。ある雨の日だったんだよ」
「ふんふん」
「話すからちょっとロープ緩めてよ。痛いんだけど」
「もう少し話したら緩めてあげるよ」
「もう。校舎がボロいもんだから、天井に水が溜まってんだよね。それで譜面を落としたのを拾おうとして、倉庫内に立てかけてあった板を倒してしまったら、それでそばにあった棒が押されて弱くなってた天井を突き破って、それで天井から水が落ちてきてずぶ濡れになって」
「ピタゴラスイッチだな」
「そうそう。まさにそれ。で11月だったから、これじゃ風邪引くから何か適当な着替えをといって」
「女の子の服を渡された?」
「うん」
「女の子の服の着替えしかなかったの?」
「多分先生の趣味。『え?女の子の服なんですか?』と訊いたら『君、これが似合いそうな気がしたから』と言われて」
「やはり、そういうオーラが漂ってたんだよ」
「それで私も女の子の服は着たい気分だったから素直に着て。それでピアノのレッスンの続きやったらさ」
「凄くうまく弾けた?」
「うん」
「例の女装するとパワーが上がるって奴だな」
「そうなんだよね。それまでどうしても引っかかってうまく弾けなかった所が女の子の服を着ているとスムーズに弾けた」
「ふふふ」
「それで翌日、ふつうに男の子の服でそこを弾こうとすると弾けないんだよね。それで先生がもしかしてと言って、また女の子の服を持って来て着てみてと言われたから着てみたら、スムーズに弾ける」
「ふむふむ」
「君、女の子の服を着るとピアノが上手になるみたい、と言われて、じゃこれから毎日、女の子の服を着てレッスンしようよ、ということになっちゃった」
「あはは」
「それでその先生が他の学校に転任しちゃった2年生の終わりまで、私ずっと毎日放課後に音楽倉庫で女の子の服に着替えて、ピアノの練習をしてたんだよね。2年生の時はその先生が担任になったから音楽の時間のピアノ係もさせてもらったんだ」
「ふーん。音楽の時間のピアノ係の時はやはり女の子の服で?」
「いや、それは普通の男の子の服」
「女の子の服を着れば良かったのに」
「ふふふ」
「冬の子供が男の子だったら、女装させて育てようかなあ」
「私の子供って、私は子供できないから」
「冬なら子供産めると思うなあ」
「子宮持ってないから無理だって」
「冬なら何とかするという気がする」
「無茶な」
「でも私が産んでも冬が産んでも子供一緒に育てようよ」
「まあそれはいいけど」
「私は一応27歳で取り敢えずひとり産むつもりだから」
「頑張ってね」
「私たぶんひとりの男性とずっと恋愛状態をキープするの無理だと思うんだよね。だから結婚はしないと思う。男の人と恋愛できない訳じゃないけどテンション続かない。女の子となら長続きするんだけど」
「道治君とも何だかレスビアンっぽくなってきてるみたいね」
「そうなんだよね。最近デートの度に女装させてるよ」
「彼のセクシャリティとしてはどうなの?」
「女の子になりたい訳じゃないみたい。でも女装して私と散歩したりセックスするのは楽しいみたい。お互いスカート穿いたままのセックスとか凄く燃えるし。嫉妬する?」
「しないよ。道治君が日常的にも女の子として生活しているなら別だけど、彼はふだんは男の子として行動してるし。私はマーサが男の子と恋することについては嫉妬を感じない」
「私も冬と正望君との関係には嫉妬を感じないしな」
「ね・・・ひょっとして貴昭君との関係もレズっぽくない?」
「・・・・彼ね・・・・小さい頃女の子になりたいと思ってたと言ってた」
「ふーん」
「でも男の子として生きる道を選んだんだって」
「そういう背景があったから、私のことも理解してくれるのかなあ」
「そうかもね」
「貴昭君って女装はしないの?」
「大学1年の時に付き合ってた彼女に面白がられてスカートとか穿かされたって」
「ふふふ」
「でも今は女物の服は持ってないらしいよ」
「ふーん。でもやっとマーサ、素直に貴昭君のことも話すようになったね」
「うん。でも私には道治がいるから、彼とは今は恋人になれない」
「まだセックスしてないの? こないだ彼が東京に出てきた時デートしてたよね?」
「セックス《は》しなかった」と政子は微妙な言い方をした。
「すれば良かったのに」
「彼との関係はもう少しゆっくり育てたいんだ」
「マーサって純情乙女だね」
「そうかもね」
「ところでロープ少し緩めてくれない?」
「そうだなあ。冬のあそこ舐めていい?」
「別に許可取らなくたって、いつも舐めてるじゃん」
「そうだけどね。ロープがじゃまだな。仕方無い。ここだけ緩めよう。ああ、でもここにおちんちん付いてた頃もちょっと懐かしいな。冬のおちんちんって立たないからロープできれいに押さえられてたし」
「おちんちん舐めたかったら、道治君のを舐めてあげなよ」
「いや別におちんちん舐めるのが楽しい訳ではない。おちんちんを弄んでこれ切っちゃおうかと言って、相手が切って欲しそうな顔をするのを見るのが良い」
「やはりマーサって、そういう子がいいんだ?」
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