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■春会(3)

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「更に、デビューに当たって、私はサックスじゃなくて歌を歌った方がいいんじゃないかとレコード会社から言われたのを、サックスの方が売れると占ったのも村山さんなんです」
 
「私は質問されたから占っただけ」
と千里は言う。
 
「確かにフロントパーソンが歌っていたら、Lucky Blossomは並みのバンドだったと思う。歌わずにサックスを吹くという玄人好みのスタイルが、日本のポピュラー音楽史上に名前を残すことになったんだよ。でも、千里、占い師なんてしてたの?」
と桃香。
 
「嗜み程度だよ。当時私、高校生だし、見料ももらってないし。Lucky Blossomのファーストライブと毎年の横浜アリーナ公演に東京ドームでのラストライブに招待してもらって、CDは毎回献納してもらったけどね」
 
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「それで千里、Lucky BlossomのCDを全部持ってたのか?」
 
「でも村山さん、当時と雰囲気が全然変わらない。あの当時は凄く長い髪の女子高生で。今もけっこう長い髪ですね」
と鮎川さんが言う。
 
すると桃香と青葉が「え?」という顔をする。
 
「さすがにあの長い髪はメンテが大変だったんですよ。このくらいなら、まあ適当にしておいても維持できるから」
と千里。
 
「千里・・・後でちょっと追求したいことがあるのだが」
と桃香が言った。
 
「でも青葉ちゃんが村山さんの妹だなんて、全然知らなかった。あれ?苗字が違うのは?あれれ?今気付いたけど桃香さんも苗字が違う???」
 
「まあ、そこは話せば長くなることなんですけどね」
「へー」
 
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空帆は思わぬ展開があり驚いていたが、本題に入り、鮎川さんは空帆の書いた曲をチェックしてくれた。
 
「確かにお友だちに言われたというように、まとまりが弱いよね。それから各楽器の特性が活かされてない。これCubaseか何かで書いた?」
「はい」
「結構打ち込みで色々作ってるでしょ?」
「やってます」
 
「エレクトーンプレイヤーとか、打ち込み系のクリエイターにありがちなパターンでね。何となく格好良いんだけど、実は各楽器の特性を充分把握できてないのよね。だから、このフルートにしてもサックスにしても、フルートの音が出るギター、サックスの音が出るギターという感じになっちゃってるの。音域はしっかり把握されてるけどね」
 
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「ええ、それも友だちから言われました」
と空帆も言っている。
 
「それぞれの楽器のイメージをもっとしっかり掴んだ方がいい。できたらその生楽器の上手な人の演奏をよく見る」
 
「なるほど」
 
「まとめ方については全体を俯瞰する力を鍛える必要があるよね。私もできないけど、オーケストラの編曲とかは凄いよ。それぞれの楽器が一緒に演奏しているところを全て把握できないといけない。将棋や囲碁で全体の戦況を見る俯瞰力というのが言われるけど、50人のオーケストラで演奏する曲を書くには50個の駒を動かしている将棋指しになる能力が求められる」
 
「そのあたりって一朝一夕にできることじゃないですね」
「そうそう。だから大編成のバンドの編曲ができる人は少ない。クラシックでもいいし、グランドオーケストラやビッグバンドでもいいけど、大編成の楽団が演奏しているところを実際に見たり聴いたりして、各々の楽器がどういう役割をしているか、そして全体の中でどういう位置付けになっているかを観察する」
 
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「ちょっと勉強してみます」
と空帆。
 
「その時、一流のものを見ることが大事だよ。クラシックなら、ベートーヴェンとかモーツァルトといった超一流作曲家の作品を、カラヤンとかマリナーとか一流の指揮者が演奏したものを聴く。グランドオーケストラならポール・モーリア、ビッグバンドならグレン・ミラーとか、やはりトップの人の演奏を聴く」
 
「そのあたりって、超一流の人とふつうの一流の人の落差、激しいですよね」
「そうなんだよ」
「そのあたりを聴いてみよう」
「ポール・モーリアみたいな楽団の演奏聴いて、それを自分でスコアに書きだしてみるのも勉強になる」
「やってみます」
 
「それで先生、今回はこの曲、先生が編曲していただけないでしょうか?細かい楽譜まで書くお時間無いと思うので、概略の指示でもいいですが」
と青葉が言う。
 
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「うん。じゃ、こんな感じでやってみようか」
と言って鮎川さんは、空帆と青葉にアレンジに関するアドバイスをしてくれたのであった。
 
桃香が言った。
「これ、私は今、物凄く贅沢な場面を見ているのではなかろうか」
 
千里が言う。
「たぶん、そうだよ。鮎川さんも、青葉も、そして清原さんも音楽家として一流だと思うもん」
 

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鮎川さんは、空帆の曲のアレンジを見てくれた後、青葉に
「サックス、どのくらい進展してるか見せてもらおうか」
と言って、演奏をチェックし、また色々アドバイスをしてくれた。その後、千里とメールアドレスの交換をして別れた。
 
遅めのお昼を食べるのに手近なファミレスに入る。
 
「まあ、それでだね、千里」
と桃香は切り出す。
 
「Lucky Blossomがデビューしたのは2006年で、私も千里も高校1年生だったはずなのだよね」
「うん」
 
「その時、千里は《髪の長い女子高生》だった訳? 私は千里は高校時代、バスケをしていたので五分刈りの頭だったとか聞いた気がするのだが」
 
「鮎川さんに会った時はロングヘアのウィッグを付けてたんだよ」
「それで女子高生の格好をしていたと?」
「まあ、そうかな」
 
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「つまり、千里って、大学に入ってから、私が唆して女装外出させる以前にもしばしば女装で人に会ったりしてたんだ?」
 
「うーん。まあ知り合いの居ない所でなら女装したことはあったよ。谷津さんとは偶然イオンのフードコートで会ったんだよ」
 
「ああ。そういうことか。でも千里の昔の写真って1枚も無いもんなあ」
「男の子の格好してる写真、残したくないから全部処分したんだけどね」
「実は女の子の格好してる写真が大量にあるから隠しているということは?」
「まさか」
 

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空帆がここで発言する。
 
「あのぉ、話が見えないんですが、もしかして千里お姉さんって、男の人なんですか?」
 
「生まれた時は男の子だったけど、もう性転換手術もして、戸籍も変更して女になったよ」
と千里は答える。
 
「えーー!? なんか凄い。じゃ、千里さんと青葉って、兄弟から姉妹への転換?」
「そうそう」
 
「でも兄弟そろって性転換って話は、わりと聞くと思わない?」
と桃香が言う。
 
「うん。兄弟って性格も似やすいから、そういう傾向も似やすいんだと思う。親は頭痛いだろうけど。もっとも、私と青葉の場合は、お互い似た境遇であったことから呼び合ったんだろうけどね」
 
「あれ?実の姉妹じゃないの?もしかして」
 
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と空帆が訊くので、青葉は自分が震災で家族を亡くして天涯孤独になり避難所でこのあと、どうしようかと思っていた時に、ボランティアで来ていた千里が自分を保護してくれたんだということを説明する。
 
「ボランティアの女性の中に、ひとり私と同じ女装者の人が混じっているのに気付いて、着替えを譲ってくれないかと頼んだんだよ。でもそれがきっかけで保護者になってくれたんだ」
 
「そういう巡り合わせがあったのか」
と言って空帆は何か考えている雰囲気。
 
すると青葉がさっと空帆の前に五線紙を出した。
 
「今、ちょっと感動してない?その感動を譜面に書いてみない?」
 
「よし」
と言って、空帆は譜面に向かって音符を書き始めた。
 
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「でも、私はちー姉が占いしてたというの、びっくりした。ちー姉と占いのこととか話したこと無かったし。どんな占いしてたの?」
と青葉が訊く。
 
「易とタロットだよ。これは中学生高校生時代の10代独特の勘があったから、できたんだと思う。もう占えないよ」
と千里は答える。
 
「うーん。確かに天才少女占い師・天才少女霊能者が大人になると、平凡になっちゃう例は凄くたくさんあるけど」
 
「だいたい、私に占い師ができるほどの霊感があったら、青葉とっくに気付いていたんじゃない?」
 
「そうなんだよねー。彪志の霊感とかもすぐ気付いたし。ちー姉は普通の人よりは霊感があると思うよ。だから、占い師ができないことはないと思うけど」
 
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「まあ、その程度の占い師だったんだと思うよ。まあ、占いハウスとか電話占いの占い師くらいなら、今でもやる自信はあるけどね」
と千里は言ったが
 
「それ充分凄いじゃん!」
と桃香は言った。
 

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昼食後は新宿区に移動して冬子(ケイ)のマンションを訪れた。桃香と千里は冬子と何度も会っているので同行するが、空帆に
 
「どこかで待ってる?付いてくる?」
と訊くと
 
「ローズ+リリーのケイさん・マリさんに会うの?行く、行く!」
と言うので一緒に連れていった。
 
「これ、私の友人の清原空帆です」
と言って青葉は空帆を紹介したのだが
 
「友人って恋人って意味?」
などと政子(マリ)から訊かれる。
 
「違いますよー! 私の恋人は彪志だけです」
と青葉は言う。
 
「男の恋人2人と女の恋人3人くらい作れば楽しいのに」
と政子。
 
「私、恋愛対象は男の人だけだし、そんなにたくさん恋人作りません」
と青葉は答えるが、空帆は呆気にとられている。
 
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「それで頼まれていた曲、とりあえず3曲書きました」
と言って青葉は冬子に譜面とUSBメモリを渡した。
 
「ありがとう」
と言って譜面を見ている。
 
「多少手直ししてもいい?」
「はい。自由にいじってください。やはり問題ありますか?」
「枝葉の部分だけだよ。凄くよく出来てると思う」
 
「この辺りを少しいじりたい」
と言って、冬子はテーブルの筆立てからサインペンを取ると、各々の譜面に微妙な修正を加えた。
 
「わっすごい」
と言って空帆がその修正作業を見ている。
 
「ヒット性を出すための変更だよ」
と冬子。
 
「意図は分かります」と空帆。
「君も作曲するの?」と冬子。
「はい!」
 
「午前中、書いた曲を鮎川ゆま先生に添削してもらったんですよ」
と青葉が説明する。
 
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「ああ。ゆまさんとは、私色々なチャンネルでつながりがあるんだよね」
と冬子は言う。
 
「古い友人だとおっしゃってましたね?」
 
「ゆまさん自身とも8年くらいの付き合いだよ。Lucky Blossomのマネージャーしてた谷津貞子さんとも8年くらい。知り合ったのは、ゆまさん自身より谷津さんの方が古い。当時は谷津さんは篠田その歌のマネージャーだったんだけどね」
「へー!」
 
「それからゆまさんの先生の雨宮三森先生とは6年ほどの付き合いだし、ゆまさんの親友の宝珠七星さんは、今私の最重要スタッフ、ローズ+リリーの事実上のサウンドプロデューサーで、付き合い自体はローズ+リリーのデビュー以来5年の付き合いだけど、実は9年ほど前から微妙にすれ違っていたんだよ」
「縁は不思議ですね」
 
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「ふむ。するとゆまさんは冬が私に隠している昔の冬の実像を知っているんだな」
と政子が言う。
 
「何も隠してないけど」
「いや、隠していることは、多分本を20冊くらい書けるほどある」
「そんな馬鹿な」
 

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そんな話をしていた所に、ふらりとその七星さんがやってきた。
 
「おお、リーフちゃんが居る!」
と青葉を見るなり言う。
 
「お世話になっております」
「青葉ちゃん、いつまで東京に居るの?」
「今日の最終便で帰りますが。東京駅8時の新幹線です」
 
「じゃさ、サックス吹いてよ。来月発売予定のスターキッズのアルバム、もうだいたい音源製作終わってるんだけど、青葉ちゃんがいたら、デュエットしたかったんだよ」
などと七星さんは言う。
 
「私、素人ですー」
「素人かどうかはCD買ったお客さんに判断してもらえばいいよ。でも今日は何しに出て来たの?」
 
それで青葉か友人の空帆が書いた曲を鮎川ゆまさんに添削してもらったのだと言うと
 
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「おお、ゆま! よしあの子も呼び出そう」
と言ってその場で、鮎川さんに電話してスタジオに呼び出した。
 

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それでその場の流れで、空帆や桃香・千里まで含めて全員、スタジオに移動する。
 
「この曲なんだよ」
と言って七星さんは現在できている『Moon Road』という曲の音源を再生する。
 
「きれいな曲ですね!」
と言って空帆が感動している感じ。
 
「ヴァイオリンの三重奏をしてますね」
「そそ。うちの鷹野とケイちゃんと、ケイちゃんの古いお友だちで松村さんというヴァイオリンの名手」
「わあ」
 
やがて鮎川さんが来て、青葉と空帆が居るのを見て
 
「あれ、奇遇だね〜」
という。
 
「お世話になっております」
 
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