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■春会(2)

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その後、不動産屋さんの事務所に行って手続きをした。
 
「土地は31.41坪、103.65uで1205万円です。お支払いはどうなさいますか?」
と不動産屋さんが尋ねるので
「現金で。振込先を教えて頂ければ今すぐ振り込みます」
と青葉が言う。
「1000万円を越える金額振り込めますか? 最近銀行はどこも振込限度額を50万円とかに設定しているので」
「大丈夫です。手続きして、限度額を1億円にしていますので」
「だったら行けますね」
 
「ところで物は相談だが、その1205万円、5万円まからんか?」
と唐突に桃香が言う。
「えーー!?」
「即金で払うんだからさ」
「ちょっとお待ちください」
 
担当者が席を立ち、奥に居た店長さんと話をしている。その店長さんが一緒に出て来た。
 
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「売買代金はちょっと変更できないのですが、印紙代を私どもが負担するというのではいかがでしょうか?」
と店長。
 
「印紙代っていくらだっけ?」
「契約書を2枚作り、それぞれに印紙を貼らなければならないので3万円です」
「じゃ、それで」
 

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「不動産屋さんが出してくれた印紙代で、千里の車が買えたな」
と不動産屋さんを出た後入ったカフェで桃香が言った。
 
「いや、あそこで値切るという発想はなかった」
と青葉。
 
「ふつう値切るだろ?」
「そうですか〜?」
 
「取り敢えずあの家屋を解体しないといけないよね?解体祓い、青葉が自分でする?」
と千里が訊く。
 
「私にもできるけど、私は正式な神職ではないので、できたら千葉市内の神社の人にしてもらった方がいいかな。地鎮祭も」
と青葉。
 
「じゃ、私の知り合いの人がいる神社でしてもらおうか?」
「どこの神社?」
「L神社なんだけどね」
「あ、そこは確かあの人とつながりがあった気がするな」
 
と言って青葉はちょっと意識を山形方面に飛ばす。美鳳さんがニコっと笑ってOKのサインをしたのを見た。
 
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「じゃ、L神社にお願いしてもらえる? 費用は振り込むから、って色々お金が必要そうだから、ちー姉の口座に取り敢えず500万くらい振り込んでおこうか?」
「了解」
 
「君たち、解体するのに神社の手配をするのはいいが、その前に建築業者の手配もしなければならないのでは?」
と桃香が現実的なことを言う。
 
「祠を建てるのに、依頼するところはだいたい目当て付けていたので、そこに解体作業もやってもらおうかなと思ってたんだけど」
と青葉は答えた。
 
「ふむふむ」
 

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それでその後、弁護士さんの所に行き、今回の祠建設にまつわる「細々とした手続き関係」の代行をお願いして快諾を得た。依頼料として前金で取り敢えず50万円払っておいた。
 
「いや、たぶんこの金額で全部できるとは思いますが、もし想定外の作業が出た場合はご相談させてください」
と弁護士は言っていた。
 
その後更に、青葉が「目当てを付けていた」工務店に行く。工務店の人はその場所を訊いて地図で確認していたが
 
「ああ、ここなら祠とか神社とか建てるのは問題無いはずです。建築確認は必要ですけど」
と言う。
 
それでそのあたりの細々とした手続きに関しては、青葉が富山県在住であることと、未成年であることから、千葉市内の弁護士さんに代行してもらいますということで、それも承認を得た。また現在ある古家の撤去もお願いし、解体祓いと地鎮祭については千葉市内のL神社に依頼するつもりであることも話して了承を得た。L神社はそこの末社の修理に関わったことがあるので大丈夫ですと話していた。
 
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(工務店の中には、そこの工務店と関わりのある神社以外での地鎮祭を拒否する所もある。大工さんには迷信深い人がよく居るので、知らない神社が関わることを不安がるのである)
 

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その後、L神社に行くつもりだったのだが、遅くなったので、その件は千里が自分がその知り合いに話しておくよということだったこともあり、今回は見送ることにした。
 
「知り合いって、神職か何かしてるの?」
「うん。ずっと巫女してる人なんだよ。もう5年くらい」
「ちー姉の知り合いなら大丈夫かな。じゃ、そちらはお願い。年末にもう1度くらい来るつもりだけど、来れなかったとしても御神体を納める時にはどっちみち来るから、その時に挨拶に行こうかな」
 
その日青葉は彪志の所に泊まり、翌日東京に出た。この春からずっと青葉にサックスを指導してくれている鮎川ゆま先生に会うためである。発端はほんの数日前のことであった。
 
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唐突に空帆が言い出した。
 
「ねぇ。今月末に金沢で軽音楽フェスタがあるんだって。それに出ない?」
「誰が?」
「Flying Soberで」
「ということは?」
「ギター私、ベース治美、ピアノ真梨奈、ドラムス須美、サックス青葉、フルート世梨奈、クラリネット美津穂」
 
「私も入るのか!」
「だから声を掛けた」
「世梨奈に連絡しなくちゃ」
 
「でも何日よ?」
「30日」
「あまり時間が無いね」
 
「曲は何をやるの?」
「こないだ作った『細い糸』。アレンジは済ませてある」
と言って空帆は五線紙をパラパラと振る。
 
「たださあ。アレンジにトランペットの音が欲しくて、それを入れちゃったのよね」
「トランペットなら治美が吹けるよね」
「でも治美がトランペット吹くとベースが居なくなる」
「あ、ヒロミがトランペット吹けばいいんだよ、ヒロミおいで〜」
 
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と言われて少し離れた席に居たヒロミがびっくりしてこちらを向く。
 
「そういえばヒロミ、とうとう女子高生していることをお父さんにカムアウトしたんだって?」
 
「うん。たいへんだったけど認めてくれた」
「よかったね〜」
「なかなか親に認めてもらえなくて揉めるケース多いみたいね」
「多いというか、ほとんどがそうだと思う。包丁持って心中してやるとか言われて追いかけられたって話もあるし」
 
そういえば、ちー姉もお父さんに日本刀で斬られそうになったとか言ってたなあと青葉は思い起こしていた。結局その後、千里は実家とは(正確にはお父さんと)絶縁状態のようである。
 
「でもヒロミ、既に性転換も済ませていることはカムアウトしたの?」
「それはまだ・・・って、私、まだ性転換してないけど」
「私たちにまで嘘つかなくてもいいのに」
 
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「でもおっぱいはあるんでしょ?」
「うん」
「タマタマは無いんだよね?」
「うん」
「おちんちんも無いんでしょ?」
「あるよー」
「でもヴァギナはあるよね?」
「ないけど」
「でも生理はあるんでしょ?」
「えっと・・・」
「否定しないんだから、あるんだよ」
「生理がある以上、ヴァギナが無いって有り得ない」
「ってか、生理があるということは、子宮と卵巣もあるのでは?」
 
「一度裸にして確認してみたいね」
「裸にしただけでは子宮や卵巣は確認できないよ」
「じゃ、CTスキャンだな」
「MRIの方がいいかも」
「やはり青葉の霊視で」
 
「そんな透視みたいなことはできないよー」
と青葉は言ってから、悪戯っぽく付け加えた。
 
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「でもヒロミ、将来、赤ちゃんを産むと思うよ」
「ほほぉ」
 

そういう訳で、その放課後から早速『細い糸』の練習を始めたのだが、メンバーから苦情が出る。
 
「この曲、曲はいいけど、アレンジがまとまってない」
「せっかく格好良い曲なのに、各パートが勝手なことしてる感じ」
「ベースラインも平凡だし、サックスやフルートにもう少し遊び心が欲しい」
「ってか、このライン、フルートの演奏じゃないよー。フルートはこんな吹き方しないもん」
 
「うーん。。。私ってこないだの曲もアレンジがあまり良くないと言われたな」
と本人も少し悩んでいる。
 
「誰かアレンジできる人?」
「青葉、できないの? 槇原愛の『遠すぎる一歩』とか青葉が書いたんでしょ?」
「私は作曲しただけだよー。アレンジは音楽大学の作曲科出たような人がしているはず」
「青葉も編曲はだめか」
 
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「そうだ。青葉の先生とかに頼めない?」
「へ?」
 
「青葉、鮎川ゆまさんからサックス習ってるんでしょ?」
「鮎川ゆまさん、Lucky Blossomの曲のアレンジほとんどやってたよね」
「クレジットは編曲:Lucky Blossom だったけど実質鮎川さんがひとりでしていたという話」
 
「鮎川先生は忙しいよぉ。それにプロがアレンジしたら、軽音フェスタの規定に反しない?」
「今回のフェスタはコピー部門、オリジナル部門が分かれてないから、コピー曲ということにすればいい」
 
「へー」
「もし見てもらえるなら、プロがこの曲をどう料理するのか見てみたいな。全部アレンジしてもらえなくても、ポイントとか教えてもらったら凄く参考になると思う」
と空帆自身も言う。
 
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「うーん。。。だったら訊いてみるけど、依頼料も高いと思うよ」
「それはお金持ちの青葉が払ってくれるということで」
「うむむ」
 
取り敢えずそれで青葉が鮎川ゆまに電話してみたところ
「今度の日曜の午前中でよければ、見てあげてもいいよ」
ということになったのである。
 
それで青葉と空帆が、日曜日鮎川先生に会いに行くことにしたのである。青葉はこれと一緒に神社の件を進めようと土曜日の朝から千葉に入り、候補地、不動産屋さん、弁護士事務所、工務店と駆け回った。空帆は少し遅れて東京に入り、土曜日は都内で楽器店や書店などを回ったらしい。
 

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そして、その日、青葉が鮎川ゆまの所に行くというと、前々から鮎川ゆまのサインが欲しいと言っていた桃香が、私も連れて行けと言ったのである。
 
それで結局朝から千里のミラに4人で乗って都内に入った。池袋のサンシャイン近くの大型駐車場に駐め、池袋駅で空帆と落ち合って鮎川先生と会う約束のスタジオに行く。彪志はそちらの用事が終わるまで池袋周辺で待機するということであった。
 
「何か人数が多いような」と空帆。
「こちらは私の姉の、桃香と千里」
「昨夜はお姉さんたちの所に泊まったの?」
「ううん。彼氏の所だよ。彼は本屋さんとか見てるって」
「うーん。。。。大人の世界だ」
 
スタジオのロビーで待っていたら、男物のトレーナーにブラックジーンズを穿いた鮎川ゆまが入ってくる。
 
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「こんにちは」
と言って挨拶する。
 
「こういう時、お早うございます、じゃないの?」
と質問が出るが、「私は取り敢えず引退して今はただのサックスの先生だから」と鮎川さん。「私はただの女子高生だから」と青葉。
 
それで青葉が、空帆を紹介した上で、桃香と千里を「うちの姉の桃香と千里です」と紹介し、桃香が熱心な鮎川先生のファンでサインが欲しいと言っているというと、
「いいよ」
と言って気軽にサインに応じてくれた。
 
桃香持参の色紙とサインペンでサインし日付を書いて「高園桃香様」と宛名書きし、桃香と握手をする。そして鮎川さんは千里を見たが
 
「あれ・・・もしかして、旭川の村山さん?」
などと言う。すると千里は
 
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「お久しぶりです、鮎川さん。よく覚えていて下さいましたね」
と言って微笑む。
 
「わぁ、懐かしい! 忘れないよ。恩人だもん。そうか。今千葉に住んでおられるんでしたよね?」
などと訊く。
 
「ええ。今千葉で大学院生です」
と千里。
 
「ちょっと待て。千里、ゆまさんの知り合い?」
と桃香が訊く。
 
「村山さんはLucky Blossom の仕掛け人なんです」
と鮎川さん。
 
「えーーー!?」
と一同が驚く。
 
「仕掛け人は大げさです。たまたまきっかけになっただけですよ」
と千里。
 
「Lucky Blossomのマネージャーを務めた谷津さんが、旭川に行っていた時、占い師をしていた村山さんに、何月何日に高崎に行けと言われたらしいんです。それで谷津さんがその日高崎のライブハウスに来たら、ちょうど私が所属していた Red Blossomというバンドと、もうひとつLucky Tripperというバンドが続けて演奏して最後、その場のノリで合体演奏したんですけど、それを谷津さんが気に入って両方のバンドをまとめてスカウトして Lucky Blossom が生まれたんですよ」
と鮎川さんは説明する。
 
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「Lucky BlossomがLucky TripperとRed Blossomの合体というのは知っていたがそこに千里が関わっていたのか?」
と桃香は驚いて言う。
 
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