【トワイライト・出発】(1)

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2012年3月11日14時46分、和実は淳・胡桃と共に、深い黙祷を捧げた。
そして、それが終わると同時に今度はシャンパンを抜いた。
「おめでとう!」
「がんばろう!」
「さあ、始まり、始まり」
 
出席している人たちの間から声が掛かる。そして「生きている人」同士で乾杯した後、早坂さんが美容室の隅に設置している慰霊碑の前にサイダーのコップを置き、早坂さんと胡桃がその前で手を合わせていた。
 
今日はここ「新・トワイライト」のオープンの日である。
 
震災前、胡桃は石巻の美容室「トワイライト」に勤めていたが、地震の後の津波でスタッフのほとんどが、たまたまその時来店していたお客さんともども亡くなってしまった。
 
スタッフの中で生き残ったのは、偶然遅い昼食に出ていた胡桃と、その日山形に住む祖母が亡くなったため帰省していたデザイナーの早坂綾花さんの2人だけであった。オーナー・店長であった出光さんも亡くなったのだが、そのお兄さんが実家で所有する山をひとつ売って、亡くなった従業員とお客さんに手厚い補償をした。その結果、その遺族たちから、美容室再開できるといいですね、という言葉を掛けてもらい、また震災後少しずつ地元に戻ってきた以前のお客さんからも、ここに美容室があると便利だという声をもらい、お兄さんは「トワイライト」
を再開する決断をしたのである。
 
新しい美容室を作るための建築費・設備導入費などは大半をお兄さんが出したが運営するための会社組織を作るのに、早坂さんと胡桃も少し出資し、出光さんのお兄さんが社長、早坂さんが副社長、胡桃が取締役、ということにして新しい会社を設立した。そして早坂さんが店長兼デザイナー、胡桃もスタイリストとして、美容院の営業を再開することにしたのである。
 
他に、以前元のトワイライトに勤めていたスタイリストの久保田さん、胡桃がこの1年東京の美容室に勤めていた間に知り合った水嶋さんという人も加わり、美容師4人での再出発となった。水嶋さんは鮎川の美容室に勤めていて、そちらも被災し、胡桃と同様に知人を頼って東京に出て来て、やはり1年間東京の美容室に勤めていたのである。着付けの講習会で知り合い、境遇が似ているので仲良くなって、新トワイライトの立ち上げに誘ったのであった。
 
「出資したから取締役だけど、経験は私がいちばん少ないから、私は実質下っ端」
などと言いながら、胡桃はお祝いに来てくれた人たちに祝杯のサイダーをついでまわっていた。
 
「でもこの美容室で唯一の1級着付け技能士だからね」と久保田さん。
「たまたま試験を受けただけのことで、久保田さんも受けたら即取れるでしょ?」
「私は怪しいや。やり方が自己流になっちゃってるから。正しいやり方で着付けしないと、合格できないでしょ」
 
久保田さんは以前ここに7年勤めていたものの結婚を機に美容師をやめて主婦をしていたが、早坂さんの呼びかけに応じて現役復帰することにしたのである。4人の中では最年長で、チーフスタイリストをやってもらうことになっていた。
 
「工藤さんも、経験は3年しかないかも知れないけど、東京の人気美容室でこの1年鍛えられてるからね。技術レベルが高いし作業が早いし、6年やってる私よりうまいと思うよ」などと水嶋さんも言ってくれていた。
 
和実も「第一号のお客」として、髪をセットしてもらった。他には社長と、地元の人2人がお客さんとして来ていて「第一号の客」になっていた。
 

「淳もパーマ掛けてもらえば良かったのに」と和実は言う。
「私は明日会社に出ないといけないから」と淳。
 
3人は石巻で新しく借りた胡桃のアパートで、夕食を食べながら話していた。夕食の後、少し仮眠させてもらってから、和実と淳はプリウスで東京に帰還する予定である。
 
「そろそろ会社にもカムアウトしちゃえばいいのに。私、ふだんは女性として生活してますって」
「まだクビになりたくないから、控えておくよ」
「金曜日オープンだったら金曜日にパーマ掛けて、日曜日にリセットする手もあったんですけどね」と胡桃。
 
「でも、淳の女装って、会社の人誰も感付いてないの?」と和実。
「・・・・と思うけど」と淳。
「気付いてるけど黙ってる人もいるかもね」と胡桃。
「夏の間、淳、けっこうブラ付けたまま会社行ってたでしょ。気付いた人もいると思うなあ」
 
「でも3人で東京のマンション借りたのに、私抜けちゃってごめんね」と胡桃。
「私と淳の2人ででも家賃は払っていけると思うし、きつかったらまたどこかに引っ越す手もあるしね」と和実。
「それに美容室の出資金、和実から借りたしなあ」
「それは出世払いで」
 

夕食後、和実と淳は仮眠していたのだが、9時頃和実は起きだした。お風呂に入っていた胡桃が出てくると、和実が何かかなり汚れたダイアリーのようなものを見ているので「何見てんの?」と訊く。
 
「これね、震災で亡くなった人の付けてた日記」と和実は答えた。
「へー」
「例の振袖の人のだよ」
「あぁ!あのユキさんね」
「うん。去年の成人式と3月18日の短大の卒業式に振袖を着るつもりだったのに、結局着れなかったというので、私が代わりに着てあげてるのよね」
 
「でもかなり汚れてるね」
「ユキさんが住んでいたアパートの近くのがれきの中から発見された。津波の土砂で汚れて読めないところもたくさんあるんだけど、顔料インクのボールペンで書かれてたから、けっこう読める部分もあるんだよね。お母さんの許可をもらって念のため全ページコピーさせてもらった。写真も撮った。この日記本体は18日にお焚き上げすることにしてる」
「なるほどね」
「年が近いし、同じMTFだし、何か読んでて他人事じゃない感じでさ」
「だろうね」
 

*月*日。
 
お母ちゃんが来たので一緒に晩御飯を食べた。おごってもらった。金穴だから嬉しい。私のスカート姿見て「お前はやっぱりそういう格好が似合ってるんだろうね」と言ってくれる。食事の後、ドラッグストアで化粧品セットを買ってくれた。私のこと、女の子として認めてくれたのかなあと思うと嬉しくなる。お化粧、毎日練習しなくちゃ。
 
ヒゲを1時間くらい掛けて毛抜きで全部抜いた。剃るとどうしても剃り跡が残るから、抜いたほうがいいよ、と女装関係の掲示板に書かれていたからやってみた。でも凄く痛いんですけど!抜くの。 そのうちお金ができたらレーザー脱毛とかしたいな。
 
うとうととしてたら夢を見た。体中に拘束器具を付けられて、
「男の癖にスカートを穿いていたから罰として去勢します」
と言われてタマタマを抜かれちゃった。中身が無くなってびらびらしている袋を手で触ると、ぶよぶよして変な感触。でもタマが無くなったことで、身体がとても清浄になった気がした。そこで目が覚めちゃった
 
ああん。本当に去勢されたいよぉ。
 

*月*日。
 
バイト探し不調。今日で12件目,13件目。12件目は書店。性別詐称だと言われて門前払い。13件目はレストラン。面接はしてくれたが、うちは客商売なので、お客さんが不快に思うと困るから、などと言われて断られる。私って、そんなに不快に見えるか?
 
夕方、△美から誘われて、マックで一緒に夕食。テキサスバーガー激ウマ。でもボリュームつらい。半分食べて残りは持ち帰り。お夜食だね。
 
女の子になりたい・女の子になりたい・女の子になりたい・女の子になりたい。
 

*月*日。
 
明日は入学式。着る予定のスカートスーツを着てみる。こういうの着るの少し気恥ずかしい。これまで女の子の服をなかなか人前で着ることができなかったから、女という状態に慣れてないんだろうな。
 
可愛い服を着るのも快感だけど、フォーマルな場所でこういうのを着るのもまたいい。女であることの責任感みたいな?
 
タックの練習してみた。全部剃って全然毛のない状態にすると、何か変な感じ。はさみで毛を切っていたら、そのまま本体も切り落としたい気分になる。でも出血の処置できないからなあ。。。。
 
仮押さえしてから包み込んで仮留めしていくのだけど、それやってる間に仮押さえしている本体が外れてしまう。なかなかうまく行かない。3度トライしたけど今日はギブアップ。バイト先が見つかるまでにちゃんとできるようになりたい。
 

*月*日。
 
入学式緊張したけど嬉しかった。教室で先生から一瞬「え?」という顔されたけど、それ以上は特に何も言われず。
 
友だち3人できた。○江、□代、◇香。○江と何となく話が合って、おしゃべりしてたら、□代、◇香も寄ってきて、みんなで携帯のアドレス交換した。高校で学生服着ていた時は、こちらも何となく女子と話す時に壁みたいなの感じてしまったのが、その壁があまり無いみたいに感じられる。やっぱり女の服を着ているだけでも違うのかなあ。
 
○江が私のことを「ユキ」って呼ぶ。この呼び方いいな。鷹行(たかゆき)なんて名前は嫌いって思って、これまでアリスとか名乗ってたけど、名前の下半分で呼ばれると、まるで女の子の名前になるって、これまで全然気付かなかった。もう私、ユキになっちゃおう。
 
兄貴から電話で入学おめでとうって言われた。何か兄貴とは話しづらい。小さい頃からだけど。なんか根本的な考え方が全然違うんだよな。今日も結局話している最中にけっこうむかついて来た。気持ち落ち着かせるのに電話切った後コンビニ行って、チキン買ってきた。美味だけどちょっと油っぽい。やっぱりケンタが美味しい。明日ケンタ行こうかな。。。
 
プレマリンのジェネリック、注文しちゃった。2週間くらいで届くって書いてある。今飲んでるエステミックスが無くなる頃届くかな。
 

淳が起きてきたのは夜23時頃だった。胡桃が入れてくれたコーヒーを飲んで一息付く。ふと和実を見たら涙ぐんでいたので、驚いて
「どうしたの?」と訊く。
 
「あ、大丈夫。日記読んでただけだから」
「ああ、あのユキさんの日記か」
「うん。何か自分が悩んでたのと似たようなことで悩んでるからさ」
「お焚き上げするの来週だっけ?その前に私にも読ませて」
「うん」
 
和実は黄色いセーターに膝丈のジーンズのタイトスカートを穿く。夜は寒いので厚手のタイツも穿いた。
「あれ?今日は被災者の人のじゃなくて、自分の服を着るんだ? それ可愛くて、好きだけどさ」
と淳が尋ねる。
 
和実はしばしば東北に往復するのに、震災で亡くなった人の服を遺族から贈られたものを着ている。
「うん。元気な時はそれで供養してあげるんだけど、今日はちょっとペシミスティックになってるから、引っ張られて事故起こしちゃいけないから」
「ずっと私が運転しようか?」
「ううん。いつものように交替で。精神が落ち込んでいる時は、かえって冷静に運転できるからいいんだよ。ハイテンションの時のほうがうっかり見逃したりして怖い」
「確かにそうだよね」
 
淳の方は白いセーターに黄色いニットのロングプリーツスカートを穿いた。ふつうにお出かけする時は、赤やピンクの服を着るのが好きなのだが、夜間のドライブでは、車を降りて外を歩く時に、赤は闇に溶け込んで目立たないので、淳は白や黄色の服を着るようにしている。和実もふだんはゴスロリが好きで黒い服が多いが、夜間のドライブではやはり黒は避けている。
 
和実は冷たい水で顔を洗ったあと、ミントのスプレーを顔に吹き付けた。これでかなりシャキッとする。
 
胡桃に見送られて、ふたりは東京に向けて出発した。最初は和実が運転する。1時間ほど走った所で交替する予定である。淳は和実が運転している間は仮眠しておくつもりだったが、少し落ち込んでいたようだったので、しばらくおしゃべりすることにした。
 

「和実って小さい頃はどんな子だったんだろ?中学くらいまでのこと、あまり話さないよね」
「え?ふつうの男の子だったよ」
「ほんとに〜?」
 
「そうだね〜。ひとりで留守番している時に、こっそりお姉ちゃんのスカート穿いてみたりとか、お母ちゃんのブラジャー付けてみたりとか、そんなことは全然してなかったよ」と和実は運転しながら答える。
 
「へー、そうか。私は女のきょうだいがいなかったからなあ。お母ちゃんの服をよく着てたよ。あと、バスタオルを腰に巻き付けてスカートみたいにしたり」
「ふーん。淳ってそういう子だったんだ」
「この傾向の子って、たいていそうじゃない?」と淳が言う。
 
「私はそういうのって、全然無かったよ。ブリーフやズボンを後ろ前に穿いてみたりとか、前開きの無い水泳パンツを女の子パンティに見立てて穿いてみたりとか、そんな経験も無いしね」
「なるほど」と言って淳は笑う。
 
「私は女の子のおしっこってどう出るんだろうと思って、和式トイレに逆向きにしゃがんてしてみたりしたこともあったかなあ。当時、女の子の構造がよく分かってなかったから、おしっこってうんこと一緒に出るんだろうか?とか思い込んでた時期もあったし」と淳。
 
「私はお姉ちゃんがおしっこしてる所を何度か目撃していたからね。ちゃんとおしっこの出てくる所があることは知ってたよ。それとちっちゃいおちんちんがあることも」
 
「年の近い姉妹がいると、そういうのって、結構目撃してるんだろうね。私は小学校の高学年でスライド見せられて女の子の性器の説明とか受けてもさっぱり分からなかった。高校生くらいになって、インターネットでこっそり夜中にHなサイト見たりして、初めて女性器ってこうなってるのか、って思ったけど、写真ではよく分からないこともあって。社会人になって恋愛して、実物を見てやっと理解した」と淳。
 
「ああ、男の子って、そういう子も多いんだろうね。男の子の性器の構造は女の子にもだいたい知られているけど、女の子の性器の構造って、男の子にはあまり知られてないよ。クリトリスから、おしっこが出てくるみたいに思い込んでいる子もいるでしょ」と和実。
「それって、男の子だけじゃなくて、女の子にも、そう思ってる子がいるよ」
「うん、いるいる。自分の構造が分かってない」
「自分のをまともに見たことないって子もいるよね」
「自分のを見ようとすると、鏡とか使わないとよく見えないからね」
 
「あれ?和実って、女の子の実物、見たことあるんだっけ?」と淳。
「高校の時、女の子の恋人がいたから。その時、たっぷり堪能した」
「それ初めて聞いた気がする」
「聞かれたことなかったしね。淳の前で過去の恋人のことあまり話したくないし」
「そっか。。。。でも、そしたら、和実って女の子に入れた経験あるんだ?」
「ううん。その頃、もう私、男の子の機能無くなってたから。彼女とはレズの関係だったんだよ」
「その子から、レズのテクを習ったのか!」
「うん。だから私のおちんちんって、性器として役割を果たしたことは無いよ」
 
「フェラとかされたことも無いの?」
「無いよ。手ではたくさんいじられたけどね。全然立たないねって言われた」
「ねえ、それ手術して取っちゃう前に、一度フェラさせてよ」
「やだ。淳には見られたくない。淳の前では最初から最後まで女の子でいたいもん。それに何度か触らせてあげたことはあるでしょ?」
「服の上からね。絶対直接触らせないよね」
「だって、私は女の子だもん、女の子におちんちんは付いてないんだよ」
 

*月*日。
 
バイト探し29件目。撃沈。面接の感触けっこう良かったんだけどなあ。採用通知も不採用通知も来ないから電話してみたら「ごめんなさい。他の人に決まったので」と言われる。じゃ、通知送ってくれ。こちらは結果分かるまで次のアクションができない。バイト決まらない子、けっこう多い。今の時期、私みたいな子でなくても、なかなか仕事が無いみたい。
 
実習用のスモッグ、少し迷ったけど、女性用Mを買っちゃった。実習の手引き見るけど、スモッグを着用と書いてあるだけで、男は男性用・女は女性用を着ろとは書いてないもんね。私は女性用でもいいよね。きっと。
 
マックにいたら◇香と遭遇。一緒に安い洋服屋さんに行ってみる。◇香に乗せられて、超ミニのワンピ買っちまったぜ。これ着て歩くの恥ずかしっ。来週の女子会に着ておいでね、と言われてしまった。うーん。夜中に少し着て歩く練習しようかなあ。でも夜中にこんな短いので歩くのは痴漢が怖いよな。
 
でも高校時代は女の子の服を着る時も、なんか無地のとか、シンプルな形のとかばかり着ていたのに、大学に入って女の子の友だちと一緒に服を選んだりして、花柄とか、レースたっぷりのとか、凄く「女の子らしい」服を着るようになった。
 
私の女の子としてのセンスが未発達だったんだろうな。私、この短大生生活でどんどん女として開花していけるのかも知れないって気がする。
 
ヌーブラ、買っちゃった。ピタリと貼り付けるとけっこう感触がいい。シリコンパッドはこれまでも時々使ってたけど、重たいから激しい動きした時にブラから外れて飛び出しちゃうことあったからね。胸に貼り付けておけば激しい運動しても大丈夫。体育の時間はこれ付けておかなくちゃ!
 
おちんちん取りたいよぉ。
 
何か今夜はもうこんなの付いてるのが我慢できない気がして、まな板の上に載せて包丁でギュッと押さえてみた。でも切れるところまで力を入れる勇気が無い。私って意気地無し。だって、これ私には要らないものだもん。要らないものは切っちゃえばいいじゃん、と自分に言い聞かせるけど、切り落としきれない。
 
でも切り落としたら痛いのはいいとして血が凄く出るだろうなあ。処置しないと死んじゃうよね? でも病院に飛び込んだらくっつけられちゃいそうだし。不便な世の中だ。でも、おちんちん切った時って何科に行けばいいんだろう?
 
産婦人科で見てくれるかなあ。女性専用の科だし、そのまま女性の形にしてくれると嬉しいんだけど。無理かな。外科?泌尿器科?
 

*月*日。
 
実習があった。先週買った女性用のスモッグを着て実習に参加。先生が「あれ?君、女性用を着てるの?」と言ったが
「いけませんか?」と聞くと
「うん。まあ、いっか」と答える。なし崩し的に女子大生しちゃおっと。
 
2時間目の後のトイレ。手洗い場にいたら、入ってきた女の子が私を見ると、わざわざいったん外に出て、男女表示を見直してから入ってくる。私のこと知ってる癖に。あれ、どう考えてもわざとやってる。でも気にしないでおこう。彼女ともそのうち仲良くなれるかも知れないし。
 
なんでだろうな・・・・
私みたいな子を、無理矢理男に分類しようとする人たちがいる。
私、男に見えますか?
 
外見だけなら絶対女に見える自信あるのに。だって子供の頃からトイレの場所聞かれて女子トイレに誘導されたこと数限りないし、中学の時も高校の時も学生服着ていて「君、なんで男装してるの?」と言われたことも何度もあるし。
 
女声の練習、かなり良くなっている気がする。○江と電話で話したが
「充分、女の子の声に聞こえる」と言われた。
自分で携帯に録音しても聞いているけど、一応初めて聞いた人は女の声に聞こえるんじゃないかなーと思う。
 
ただ、この声がとっさの時にすぐ出ないんだよね。そのあたりが課題。それともう少し響きを調整して、女の声にしか聞こえないレベルまで持って行きたい。首の運動。毎日朝晩5分。トイレの中でも1クール。携帯カラオケ、入会しちゃった。これで女性歌手の歌を、歌いまくろう。
 
今日はパンティの中にカミソリの刃を入れて1日過ごした。おちんちんは下に向けて収納しているけど、そのおちんちんと身体との間に、おちんちんの根本に向けて、カミソリ収納。
 
何かの間違いで、切れちゃったりしないかな、と思うんだけど、切れないんだよね。子供の頃から、おちんちんにカミソリとかナイフとか包丁とかを当てるって、何度したか分からない。けっこう力を入れて、皮までは少し切れたことあるけど、切り落とすことができなかった。
 
小さい頃、何か悪いことしてお母ちゃんに「おちんちん切っちゃうよ」と言われたこと何度かある。大きなハサミとか、おちんちんに突き付けられたこともあったなあ。切られるのなら嬉しい!と思ったのに、結局切ってくれなかった。切って欲しかったのに。。。。
 
小学生の頃におちんちん切られていたら、もっと楽に女の子できたろうになって思ったりもする。少なくとも声でこんなに苦労しなかったよな。
 

運転交替のため阿武隈PAで休憩する。
 
和実が神経が高ぶっている様子なので、淳は誘って後部座席に行き、服を脱がせて乳首を舐め、お股も刺激する。何だか気持ち良さそうにして、そのまま眠ってしまった。毛布・布団をかぶって、一緒に寝る。
 
30分ほどしてから、和実にはそのまま後部座席でシートベルトを付けさせて、寝てていいからねと言って淳は車をスタートさせた。
 
夜中の高速は闇の中を光だけが行き交っているような感覚になることもある。宇宙旅行って、こんな感じになるんじゃないかなという気もする。300年か400年か先に、月とか火星とかに気軽に行けるような時代になったら、案外月との間に通勤ロケットなんて飛んでたり、たくさんロケットが行き交うから、お互いを光の筋だけで認識したり。物凄く高速なロケットだと光が虹(スターボウ)になるんだっけ?
 
そんなことを考えていた淳は、先月和実を母に会わせた時のことが突然頭の中に思い起こされた。
 
お正月にこちらが和実の実家に行って挨拶したこともあり、和実をできるだけ早い時期に自分の実家にも連れて行きたいと思った。
 
最初母に電話して結婚を考えている相手が居ると言った時、母は最初物凄く嬉しがっていたが、その相手が今はまだ男の子で、今年手術を受けて女の子になる予定だと言うと、仰天した様子で、ふざけないで、などと言われた。それでも何とか会ってくれるという話にまではこぎ着け、実家に行く前にまず東京で母とだけ会うことにした。
 
立春の日、東京に出て来た母は和実を見て「可愛い!」と言って、一発で和実のことを気に入ってくれたようであった。その日は和実もいつものゴスロリはやめて、同級生の梓に見立ててもらったという、オフホワイトのボートネックのブラウスに、ふわふわっとした感じの短いスカートを穿き、ライトピンクのレース使いのカーディガンを着ていた。
 
いきなり「もしかしてまだ高校生?」などと言われた。
 
和実は元々年齢より若くみえるたちである。実際淳は初めて彼女に会った時、17歳くらいかな?と思ったが運転免許証を見せられて19歳と知った。メイド喫茶に勤めていても、お客さんから、しばしば高校生と思われることもあり、深夜に勤務していた時に、警察関係者から「高校生の深夜労働は禁止されているのだけど」と注意されたことも何度かあるらしい。
 
そういう若く見えるのを実は落ち着いたゴスロリで誤魔化して、年相応に見せているというのもあるのだが、可愛い服を着ると、ほんとに高校生、あるいは、ひょっとして中学生では?とも思われる可愛さを持っている。
 
「いえ、11月に20歳になりました」と和実は笑顔で答えた。
「あなた、声も女の子ね」と母。
「私、声変わりしなかったんです。変声障害って言うらしいですけど、私みたいな子には、とっても好都合です」
「ああ、たまにそんな子がいるって聞いたことはあるわ」
 
ふたりが中心になって募金を集め東北地方に救援物資を運ぶボランティアをしていたと言うと「偉いわねえ」と感心された。
 
「あら、それじゃあなた、大型免許持ってるの?」
「最初は2トン車を使っていたので、普通免許でも運転できたんです。念のためということで自動車学校に通って中型免許を取ったので、昨年後半は8トン車も運転していました」
「僕と一緒に自動車学校に通ったんだよ」と淳は言う。
「ああ、中型免許ってのが出来たって言ってたね」
 
「だいたい淳平さんと1〜2時間交替で運転しています。夜間の往復になるので眠気が来やすいですから」
「ああ、そうよね。ボランティアやってて事故起こしちゃ大変だもんね」
「念のため、このボランティアに参加している人全員、保険に入れてます」
「何人くらいでやってるの?」
「最高で50人まで行ったかな。一応年末で完了したんだけどね」と淳。
「すごい」
 
少し世間話などもした後で、ふたりが既に1年近く一緒に暮らしていることを言うと「呆れた」と言われる。
 
「私は仙台で被災したのですが、津波でギリギリの所を逃げ切ったんです。私の後ろで走って逃げていた人がいたはずなのに、振り返ったら誰もいなくて」
「きゃー」
「それで、私PTSDになっちゃって、誰かの傍でないと眠れない状態になってしまったんです。ひとりで寝ていると悪夢を見て目が覚めちゃって」
「それは難儀ね」
「それで、ちょうど仲良くなった淳平さんにくっついて寝させてと言って、アパートに転がり込んだんです」
 
「空き部屋になった和実のアパートを一時は、救援物資の仕分け倉庫として使わせてもらってたね。今はそちらも解約して、新しいマンションに引っ越したんだけど」
「いろいろうまく回ったのね。でも、そしたら今でもひとりで寝られないの?」
「凄く優秀なヒーラーの人にこの夏出会って、治してもらいました。今ではひとりで寝られるので、淳平さんが仕事で徹夜している日も何とかなります。それ以前は、淳平さんのいない夜は、高校の同級生の所で寝せてもらっていました」
「高校の同級生って、男の子?女の子?」
「女の子です。その子とは小学生の頃からずっと友だちだったんですが」
「へー。じゃ、もしかしてあなたは小学生の頃から、こんな感じだったの?」
「ええ。物心付いた頃から、自分は女の子だと思ってましたし、周囲からも女の子とみなされていました」
「だから、こんなに自然に女の子なのね!」
 
淳は『話が違うじゃん』と思いながら和実のことばを聞いていた。和実はあまり昔のことを話したがらないが、いつも大学に入る前はふつうの男の子で、メイド喫茶のバイトする時だけ女装していたけど、当時は女装が死ぬほど恥ずかしかったなどと言ったりしている。
 

1時間ほどお茶を飲みながら話していたのだが、その席で母と和実が、かなり意気投合した感じであったので、そのまま少し散歩したあと、自宅マンションに母を連れて行き、和実が夕ご飯を作って、ちょうど帰ってきた胡桃も入って4人で一緒に晩御飯を食べた。
 
「淳平さんのお母様ですか。御挨拶が遅れまして申し訳ありません。和実の姉で胡桃と申します」と胡桃は丁寧に挨拶した。
「いえいえ、こちらこそ、淳平がお世話になっておりまして」と母。
 
胡桃が石巻で被災して、勤めていた美容院が津波の直撃で全員死亡したものの、彼女だけたまたま遅めのお昼御飯に出ていて助かったと言うと、それは大変でしたね、と母は言った。
 
「ああ、じゃ、今は3人で暮らしているのね」
「はい。私、実は和実が男の人と付き合っているというので、えー!?と思ってちょっとこの子たちを監視しようと思って、一緒に暮らし始めたのですが、ふたりが凄く仲がいいし、お互い、同じ境遇なのでよく理解しあえてるみたいで、これなら、このふたりのことを認めてあげていいかなと思って」
と胡桃が言った。
 
「同じ境遇?」と母が訊くが、淳平は『あっ。。。』と思った。
 
「ええ、ふたりともMTFって言うんですか? 女の子になりたい男の子で」と胡桃。「あんた、女の子になりたいんだっけ?」と母。
「ごめん。それも言ってなかった。僕も、会社に行く時以外はだいたい女装してる」
と淳平は今更ながら説明した。
 
「あんたね・・・・」
と母は言ったまま絶句していたが、やがて少し思い直したように、
「あんた、自分もそのエムティー何とか? なんだったら、和実さんの性別のことだけ言うのは、卑怯じゃない」
などと言い出す。
 
「あ、えっと・・・・」
「和実さんの性別のこと話す前に、自分の性別のこと話しなさいよ」
「ごめん」
 
「でも確かにあんた、よく私のスカートとか勝手に穿いたりしてたよね」
「うんまあ」
「この子、女の子になりたいのかな、とかはチラっと思ってたよ」
「うん。僕も物心付いた頃から、女の子になりたかった」
 
「ずっと結婚しないのも、そのせいなんだろうなと思ってたけど、結婚すると聞いて、やっぱり男の子に戻ったのかなと思ったら、相手の人が男だって言うから、ひょっとして、あんたはその人のお嫁さんになるつもりなのかと思ったりもしたけど、和実さん、凄く可愛い女の子で、じゃ、やはりあんたは男として結婚するのかと思ったら、やっぱりあんた自身も女の子になりたいって、私は全く訳が分からないわ」
 
「だから、このふたり、両方ともウェディングドレス着て、結婚式挙げたいみたいです」と胡桃。
「そんな結婚式、挙げさせてくれるんだっけ?」と母。
 
「一応、表向きは僕がタキシード着て、和実がウエディングドレス着て、結婚式挙げるつもり。戸籍上の性別も、和実は手術が終わったら女に変えてしまうけど僕は手術を受けるにしても受けないにしても、戸籍は変えないつもり」
「なるほど。それなら戸籍上は男女だから、結婚できるわけね」
「実態はレスビアン婚なんだけど」
 
「はあ。。。まあ、あんたのことは最初から諦めてたから、結婚してくれるのなら、そういうことでもいいわ。和実さん、とってもいい子だし」
と母は多少投げやりな感じで言った。
 
「でも、私はあんたたちふたりのことを認めてあげるよ」
と母は笑顔になって言った。
「ありがとう、お母ちゃん」
「ありがとうございます」
 
「でも、私、あんたたちのことを何て父ちゃんに言おうかね」
 

そんなことを話しているうちに和実が肉じゃがを仕上げてテーブルに運んで来る。
 
「美味しい!」と母は言った。
「あなた、料理上手なのね」
「高校時代は、母と1日交替で夕飯作ってましたので」と和実は微笑んで言う。
「わあ、ちゃんと花嫁修業してたのね」
「はい」
「淳平は料理、適当だよね」と母。
「そうだね。和実に比べるとレパートリー少ないよ」
「じゃ、やっぱり、和実さんの方がお嫁さんなのかな」
「はい、淳さんのお嫁さんにしてもらえたらと思ってます」
「うんうん」
 
と母は美味しい肉じゃがが食べられて、満足のようであった。
 
「で、実際、あんたたち、いつ頃、結婚するつもり?」
「和実が大学を出てからのつもり。それまでは学業優先。和実は大学院まで行くつもりのようなので、あと4年かな。でも先に籍だけ入れてしまうかも」
「だって、あんたたち、既に一緒に暮らしてるんだから、籍は早めに入れちゃったほうがいいよ。赤ちゃんできてから慌てて入籍とかはやめてよね」
 
「あ、ごめんなさい。私、子供産めません」
「あ、そうか! あなたがあんまりふつうに女の子だから忘れてた。性転換手術しても、子供が産めるようになるわけじゃないのね」
「お母さんに孫の顔を見せてあげられなくて御免なさい。私、子宮や卵巣が無いから」
「うん、まあそれはいいわ。恭介の方も結婚する気無さそうだしなあ。でもしょうがないね。結婚してくれるだけ、あんたの方がマシなのかも」
「済みません」
 
「でも。。。。和実ちゃん、ほんとに赤ちゃん産めないの?」
「えっと・・・」
「何でかな。。。。私、和実ちゃんを最初見た時に、一瞬、和実ちゃんが赤ちゃんを抱っこしている姿が目に浮かんじゃって」と母。
 
「この子、何かの間違いで赤ちゃん産んじゃうかも知れないですね。この夏に知り合いの霊能者さんに会った時、このふたりの間には子供ができる、なんて言われたんですよね」
と胡桃が笑って言った。
「へー。霊能者さんに言われたんなら、ほんとにできたりしてね」
と母も笑顔で言った。
「うーん。変に期待されても困るんだけどなあ」
と和実は頭を掻いていた。
 
「お母ちゃん、和実が子供を産めなかったとしても、僕たち多分養子か何かもらって、子育てはすると思うよ」
と淳は言った。
「うん、まあ、それでもいいけどね」
と言いながらも、母は少し楽しそうな顔をしていた。
 
食事の後でもお茶を飲みながら、和気藹々と話は続き、母はその夜のサンライズ瀬戸で帰郷した。
 

和実は後部座席でかなり熟睡していたが、宇都宮付近まで来たあたりで起きて、あれこれ話しかけてくるようになった。元気そうなので、運転交替することにし、大谷PAで休憩してから、交替した。淳は助手席で少し仮眠させてもらった。
 
淳は眠りに就きながら、この1年のことを思い出していた。
 
きつい仕事が一段落したところでもらった休暇。東北方面に走って行く途中で偶然和実を拾った。同じMTF同士ということで意気投合し、一緒に金華山と松島に行った。和実が石巻の姉の所に行き、自分は青森に行き、そして地震に遭遇した。和実がmixiに「取り敢えず無事」と書き込んでいるのを見た時は、本当に良かったと思った。食べるものが無いという連絡に、伯父からもらったリンゴを石巻まで運んだ。
 
そして一緒に東京に出て、ひとりで寝られないという和実をうちに泊めて、結局そのまま一緒に暮らすようになってしまった。そしてふたりで被災地支援のボランティアを始めて。ふたりだけではできないので協力者を募ったら、たくさん来てくれて。募金もたくさんもらって。自分たちは大企業などの支援活動に比べたら小さな力しか無かったけど、それでも少しは被災地の人たちの役に立ったかな、という自負もある。
 
みんな頑張っている。でも復興はなかなか進まない。
 
政府とかの反応があまりに遅すぎるし、制度や法律にこだわって、必要なことをしてくれないことに不満はある。でもとにかく、自分たちでやれることをひとつひとつやっていくしかない。
 
でも、ほんとにこの1年、いろいろな人との触れ合いがあったよな・・・そんなことを淳は考えていた。
 

*月*日。
 
やっとバイトが決まった! 38件目。洋服屋さん。私がちゃんと女の子の声で話せることで、これなら全然問題無しと言われた。やっぱり声の練習頑張って良かったなあ。これでとりあえず学費は何とか払っていける。
 
制服に着替えて、なんて言われて下着姿のチェックされた感じもする。ヌーブラ入れてるから、一見おっぱいあるみたいに見えるし、下はちゃんとタックができてるから、付いてるようには見えないし、一応「女試験合格」って感じかな。
 
「あなた胸あるみたいに見えるね」なんて言われてブラの上から触られちゃったし。シリコンの感触って、すごく本物に近いからね。
 
ああ、でもホントの女体になりたいなあ。今は下着姿でしかパスできないけど、裸でパスできる状態になりたい。
 
この記念すべき日に、昨日届いた女性ホルモン、3錠飲んでみた。
飲んだ以上、もう男の子は卒業。バイバイ、男の子の身体。
 
タマも抜いちゃいたいけど、今はお金が無いからなあ。
足とかヒゲとかの脱毛もしたいし。
女の子になるのって、お金がかかりすぎるよ!
 

*月*日。
 
学校で職員室に呼ばれて、教頭先生から私の性別のことを尋ねられる。いつも女性のような服を着ているし、トイレや更衣室も女性用を使っているようですが、あなた男性ですよね?などと言われたが、自分では女だと思っていると主張。すると頷くようにして「分かりました。あなたは女子のグループの方に入れておきますから」と言ってもらった。体育も次からは女子の方で受けて下さいと。やった!
 
バイト1日目。とにかく自分がすべきことを見つけてしていくように心がける。でも、分からないことばがたくさんあって、何人かのお客さんから叱られた。ブックオフに行ったら、服飾用語辞典が1000円であったので買って帰った。分厚いけど、斜め読みしてみよう。
 
女性ホルモン飲み始めて3日。何か異様にしたくなって、今日は3回も出してしまった。ホルモンバランスが崩れて、したくなってしまうのだろうか?でも、こんなのできるだけしないようにしなくちゃ。だって、私、女の子なのに、男の子の機能なんて使いたくないもん。
 
タマ取っちゃえば、もうしなくても平気なようになるんだろうけど、それまでは頑張って我慢するようにしよう。
 
パンティライナーを買ってきたので、しちゃった後、ショーツを汚さないようにするのに貼り付けた。目的外使用という気がするけどなあ。本来の目的でパンティライナーが使える状態に、早くなりたい。
 

*月*日。
 
体育の時間、初めて女子と一緒にやる。○江が柔軟体操で組んでくれた。○江にはいっぱい助けてもらってる。お化粧とかもたくさん教えてもらったし。無意識に出ていた男っぽい仕草とかも注意してくれたし。友だちって、ほんとにありがたい。
 
バイト5日目。かなり慣れてきて、お客さんの対応にも、あまり悩まなくなったし「どちらがお勧め?」なんて聞かれるのにも「こちらがお似合いですよ」とちゃんとお勧めできるようになった。
 
「そばで見ていても、ちゃんと似合う方を勧めてるよ」と副店長から褒められた。頑張ろう!
 
今日は鉛筆型の消しゴム買ってきた。直径2cmくらいあるかな。ドラッグストアで買ってきたコンちゃんを付けてゆっくり入れてみた。そしてゆっくりと出し入れしてみた。こんなところにこんなもの入れたのは初めてだけど結構気持ちいい気がする。でも自分の身体にものが入ってくるというのは不思議な感覚だ。ピストン運動って抜かれる時の方が気持ちいいよ、と聞いたことあるけど、私はむしろ入れられる時の方が気持ちいい。これってもしかしたら、女の子だからこそ得られる「入れられてる」という状況に精神的な充足感を感じているのかも知れないけど。
 
ヴァギナに入れられるのもこんな感じかなあ。早くヴァギナを獲得したい。短大卒業するまでに手術できたらいいけど、さすがにお金貯まらないかな。
 

*月*日。
 
今日はコットンの下着セットを付けてみた。いつもはナイロンのばかりだけどこのコットンの下着の感触は優しくていいなあ。
 
ナイロンの下着って女の子だけのものだから、憧れみたいなのあって、3月以来ずっとナイロンばかり付けてたけど、たまにはコットンもいいかもね。
 
平日はナイロンで気合い入れて勝負! 休日はコットンでリセット・リラックスってのもいいかも知れない。
 
でも、こういうふうに色々選択の余地があるのが、女の子のいい所だよね。私、女の子になって幸せ。
 

東京に戻ってきたのは明け方5時頃であった。もらった開店祝いの品をふたりで一緒にマンションの部屋まで持って行くと、お米を研いで、タイマーで炊飯を掛けてから、ふたりで取り敢えず一緒にベッドで寝た。
 
6時頃、和実が起きだして朝御飯と淳のお弁当を作り始めた。作っている最中に御飯が炊きあがるので、おにぎりにしてお弁当箱に入れ、淳を起こして一緒に朝御飯を食べた。
 
「しかしボランティアが終わってからしばらくは東北に走らないのが変な気分だったけど、ようやく慣れてきた気がするよ」
「それでもなんだかんだでけっこう東北には行ってるね」
「美容室の開店準備もあったしね」
 
「でも和実、この1年でボランティア活動に、かなり自腹切ったでしょ?」
「うん。それはエヴォンの店長もだよ。かなりの持ち出しをしてくれた」
「それで、実家にも家の修理とかにお金渡したみたいだし、今回美容室の会社設立にも実質出資金を出したし、お金大丈夫? もし性転換手術代に足りないようだったら、私出そうか? 私、手術するの、まだ2〜3年先だと思うし」
 
「えっとね。ギリギリくらい残ってる。たぶん手術受けたらスッカラカンになる」
「スッカラカンはまずいと思うな。お金は何かの時にために少しとっておくべきだもん。やはり、手術代、私が出すよ」
「そうだなあ。借りちゃおうかな」
「うん、そうしよう」
「御免ね。来年くらいにはたぶん返せると思うし」
「返せなかったら、和実の身体でもらうから大丈夫」
「ああ、それもいいな。身体払いかあ」
と和実は楽しそうな目をした。
 
「淳のおちんちんって、まだ立つの?」
「反応鈍いけど、立つことは立つよ」
「じゃ、私が女の子になれたら、入れてね。私のバージンもらって欲しい」
「うん。もらっちゃう。でも手術してすぐは入れられないよね」
「たぶん半年くらいは待たないといけないかも」
「じゃ、年明けくらいかな」
「お正月の姫始めに、バージンあげられたらいいかな」
「あ、それ、いいね」
 

朝御飯が終わり、和実に見送られて淳は出かけた。ここは和実の学校へも割と近いので、ここに引っ越して来てからは、淳が和実に見送られて先に出るパターンが多くなった。ほんとに和実は私の奥さんみたい、などと淳は思う。料理もほとんど和実が作っているし。でも可愛い奥さんだよな・・・・
 
そう思いながら、半月ほど前の実家訪問の時を思い起こしていた。
 
淳が結婚を考えていること、実はもう同棲していること、相手は10歳年下の女子大生であること。結婚式を挙げるのは、彼女が大学を卒業してからになるとは思うが、それ以前に入籍だけは済ませてしまうかも知れないことなどまで話したら、淳の父はまあそれでも良いのではないかと言い、母が撮ってきた和実の写真を見せると「凄い美人やん」とご機嫌になった。
 
「しかし同棲してるなら、早く籍だけでも入れた方がいいんじゃないか?」
「それが今年の秋くらいまでは籍を入れられないらしいのよね」と母。「なんだ?まだ16歳になってないのか?」と父。
「年齢は今20歳よ」
「じゃ、もしかしてバツイチで離婚して間もないとか?」
「ううん。結婚した経歴は無いよ」
「じゃ、なんで?」
「まだこの子、性別が女じゃないのよ」
「は!?」
「今年の夏くらいに性転換手術受けて、手術が終わったら戸籍上の性別も女にするって。そしたら入籍できるようになるのよね」
「何〜〜〜〜!??」
 
父は話にならん、と言っていたらしいが、母からとにかく会ってみてあげてと言われ、電話で淳の兄の恭介からも「あの子、性別はまだ女になってないかも知れないけど、凄く女らしいし、淳平にはもったいないくらい凄く良い子だから」
などと言われると、じゃ会うだけは会うが、そんな結婚絶対に認めないなどと言う。
 
「でもさ、淳平自身も性転換するつもりなんだって」と母が言うと、父は「はあ?」
と言ったっきり、言葉が言葉にならないようであったらしい。
 
「淳平自身が、今はもうほとんど女として暮らしているのよ」
「そんな話聞いてなかったぞ」
 
「うん。本人の口からはこないだ初めて私も聞いたんだけどね。でも何年も前から私は、どうもそんな感じだなと思ってたよ。だから結婚しないんだろうなって。恭介の方はそもそも女の子にもてないタイプだけどさ。淳平は女の子の友だち、けっこう居たし、これまで恋人も何度か作ってたでしょ。だからあの子23〜24で結婚するかな?とも思ったこともあったけど、結婚しないでここまで来たのは、たぶん、あの子自身が女の子になりたいからじゃないかなって思ってたのよね、私」と母は父に言ったらしい。
 
「だからさ、この結婚を認めてあげなかったら、あの子、そのまま性転換して女になっちゃって、結婚も一生しないだろうね」
「その・・・和実さんと結婚したら、淳平は男のままで過ごすのか?」
「ううん。たぶん、結婚した後で性転換しちゃうんじゃない?」
「そしたら女同士になってしまうじゃないか」
「それでもこのふたり、構わないみたい」
「俺にはよく分からん話だ」
 
そんな話があった上で、取り敢えず父としても和実の顔を見てみたいという所まで母の説得で辿り着いたということであった。
 
そして淳は2月の下旬の週末、和実を伴って愛媛の実家を訪れた。

 
「お初にお目に掛かります。本来でしたら、もっと早く御挨拶に参るべきでしたのですが、遅くなりまして申し訳ありません。わたくし、淳平さんの恋人で工藤和実と申します」
と振袖姿の和実は、きちんと正座して、丁寧に淳の父に挨拶した。
 
「あ、いえ、何かうちの馬鹿息子が随分、お世話になっているようで」
と父の方が、どうも口がまめらない感じであった。
 
「しかし、立派なお召し物ですな」と父は唐突に振袖を褒める。
「和実は自分で振袖が着れるんだよ。最近の子では珍しいでしょ」と淳は言う。
「それは立派ですね。美人だし。声も女性の声にしか聞こえないのですが」
 
「和実は声変わりしなかったんだよ。たまにいるんだよね。こういう子が。元々男性ホルモンとかが弱かったみたいで。肩もなで肩だし、ウエストはくびれているし。身体の脂肪の付き方も女性的なんだよね」
「その・・・おっぱいもあるのか?」
「はい、Dカップのブラジャーを付けてます」と和実はにこやかに答えた。「父ちゃん、何聞いてるのよ?」と母がたしなめた。
 
「お前たちが、淳平の相手は男だというから、野太い声でしゃべって、がさつな動きをするオカマを想像していたら、声は可愛いし、動作も上品な、立派なお嬢さんじゃないか」
などと父は人のせいにするような発言をする。
 
「和実は小さい頃、おばあさんにかなり厳しく躾をされたみたい。だから、礼儀作法の基本ができてるんだよね。今時の若い子で、畳の縁を踏まずに歩ける子はそうそういないよ」
「何か淳平にはもったいないような人じゃないか」と父。
「だから、私もそう言いましたよ」と母。
 
結局、父もそんな感じで、実物の和実を見て、少なくともふたりの結婚に反対はしない感じになったようであった。
 

お昼頃に父の姉2人がやってきて、挨拶をし、一緒にお昼を食べた。仕出しを取っていたのだが、きれいな振袖をきちんと着こなし、銘々膳に置かれた料理を、きれいな箸の持ち方で、上品に食べる和実の様子を見て、ふたりの伯母さんたちも、和実を気に入ったようであった。
 
和実がまだ完全な女性ではなく、この夏に性転換手術を受けて、その後性別を女性に変更した上で淳平と結婚する計画であることも言ったのだが、ふたりとも「これだけ美人なら、生まれながらの女性でなくても構わない」「30歳過ぎたら結婚してくれるというだけでありがたい」などと言って、和実のことを認めてくれた。
 
「だけど、淳ちゃん、私はあんたの方が女の子になっちゃうのかと思ってたよ」
とひとりの伯母さんは言った。
「あ、いえ、僕は結婚した後で性転換するつもりです」
「あら。でも淳ちゃんのおちんちん無くなっちゃったら、和実さん困らない?」
「大丈夫です。女同士でもちゃんと楽しめますから」
 
「ああ、そういうのもいいかも知れないわね。男は出したら終わりだけど、女同士って一晩中でも楽しめるって聞いたことあるわ」
 
ふたりの伯母さんは、性別問題で文句を言う親戚がいたら、自分たちが味方になってやるからと言った。
 
何やら援軍が増えて、淳も和実も頼もしい気持ちになることができた。
 
「ね、ね、和実ちゃん、温泉に行こう」
と伯母さんたちは言い出した。
 
「えっと、和実ちゃん、お風呂に入れるのかしら?」
と母が心配したが、和実は
「あ、大丈夫ですよ。私、高校2年の3学期以降、女湯にしか入ってませんから」
などと言うので、伯母さんたちも、
「へー、凄いね。もうその頃には女の子の身体になってたんだ!」
と感心した。
 

結局、淳と和実、淳の両親、それにふたりの伯母さん、と6人で道後温泉まで出かけて行くことにした。和実は振袖ではさすがに温泉に行けないというので、普通の服に着替えたが、また「可愛い!」「まだ高校生みたい!」などと言われていた。
 
2台の車に分乗し、淳と父が運転して温泉まで行く。到着してチェックインする。伯母さんたちは女湯、淳の母も女湯、和実も女湯、淳の父は男湯である。
 
「あれ?淳ちゃん、そこで何やってるのよ?」と伯母さん。
「いや、その僕はえっと・・・・」
「淳、一緒に女湯に来ようよ。女湯に入れる状態でしょ?今」と和実。
「うん、まあ・・・」
「あら、淳ちゃんも女の子の身体になってるんなら、こちらにいらっしゃい」
ともうひとりの伯母さんが腕を引っ張る。
 
「いや、ちょっとまずいよ」と淳は抵抗する。
「少なくとも、もう男湯には入れないよね、淳の身体では」と和実。
「うん。係の人が飛んできて、女性は女湯に入ってください、って言われると思う」
「じゃ、最初からちゃんと女湯に来ようね」
「分かった」
 
淳はかなり迷ったものの、伯母さんたちや和実にうまく言いくるめられて、結局女湯の暖簾をくぐった。淳の母は笑っていた。結果的に男湯に行ったのは淳の父だけであった。
 

脱衣場に行くと、和実はさっさと服を脱いで裸になってしまう。淳の母からも伯母さんたちからも
「きれいな身体してるわね!」
と褒められていた。
 
「モデルさんができるみたいな細さじゃん」
「いえ、実は私、細すぎて、ヨーロッパだとモデルになれないんですよ。日本でなら規制がまだできてないから、できますけど」
「そんなに細いんだ! 特にこのウェストのくびれが凄いもん」
 
「くびれすぎないように注意してます。これ以上くびれると、今度は美しくなくなってしまうので」
「すごーい」
「おっぱいも大きいね。シリコン?ホルモン?」
「ちょっと違います。特殊な方法で大きくしたものです。淳さんのおっぱいもですよ」
と和実が言うと、伯母さんたちは
「淳ちゃん、さっさと脱ぎなさい」と言う。淳はまだもじもじしてた。
 
「淳、女湯に入るの初めてじゃないじゃん。開き直りなよ」
「うん」
と言って、淳はやっと脱ぎだす。
 
セーターを脱ぎ、ポロシャツを脱ぐと、淳の胸の膨らみが顕わになった。「淳、お前、かなり胸があるじゃん」と母から言われる。
「これ以上は大きくならないように、いったん停めてる。これ以上大きくなったら、男として会社に行けなくなるから」
「女として行けばいいのに」と伯母さん。
「私も唆しているんですが、まだしばらくは『男性会社員』を続けたいみたいです」
「こんなに、おっぱい大きくしておいて、それはもう無いわよね」
「いやちょっと・・・」
 
ズボンを脱ぎ、それからTシャツを脱ぐ。ブラとパンティーだけの姿になると、充分もう女性の下着姿である。
 
「パンティ、膨らんでないわね。もう取っちゃったの?」
「いえ、まだ付いてますが隠してます」
「あら、淳ちゃん、女の子みたいな声」
「だって、ここで男の声は使えませんよ」
「へー、どちらの声も出るんだ? 和実ちゃんも両方出せるの?」
「いえ、私は男の子の声は出せません」と和実。
 
周囲を見回したりしながら、おそるおそる淳はブラジャーとパンティを脱いだ。
 
「なるほど。和実ちゃんの体型の良さが分かるわ」
「淳ちゃん、少しダイエットしようか。お腹の肉が余ってるよ」
「反省してます」
 
「でも付いてないみたいに見えるわね」
「私のと同じ方式で隠してます」と和実は言った。
 
「まあ、そこら辺にこのくらいのおばちゃんは幾らでもいるわ。さあ、中に入ろう、入ろう」
と言って、一行5人は浴室の中に入った。
 

身体を洗ってから浴槽に入り、5人で固まって話したが、会話は盛り上がった。
 
2人の伯母さんが物凄く話し好きで、それに和実がよく合わせているので、話はとめどもなく展開していく。淳の母もそれにあわせていろいろ相槌を打ち、淳も時々は会話に参加するという感じで、湯船の中で笑いが絶えない。
 
おそらくは1時間以上話していたのではないかというくらいになってから、
「まだ話したりないけど、いったん上がろうか」
ということになり、外に出て、身体を拭き、服を着た。
 
「だけど東京で暮らすんでしょうから、しょっちゅうは会えないけど、こちらに来た時はまた一緒に温泉に来ようね、和実ちゃん」
と伯母さんたちは言った。
「はい、ぜひ御一緒させてください」と和実。
 
脱衣場を出て休憩室の方に行くと、淳の父がビールを3本ほど開けた様子で、待ちくたびれていた。
「あら、あんたお酒飲んだの?」と淳の母。
「お前ら、いつまでも出てこないから暇をもてあました」と父。
「ドライバーが飲んじゃいけないじゃん」と母が怒ったように言うが、「あ、帰りは淳さんと私が運転するから大丈夫ですよ」と和実が言った。
 
「あら、和実ちゃんも運転するの?」
「中型免許を去年一緒に取りに行ったんです。だから10トン車でも運転できますよ」
と淳は言った。
 
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【トワイライト・出発】(1)