【トワイライト・出発】(2)

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2人の伯母さんたちは夕飯を家族に食べさせなきゃいけないから、と言って帰って行ったが、夕方くらいに東京から淳の兄、恭介がやってきて、一緒に焼肉を食べた。
 
「お客さんをこき使って悪いけど、いちばん信頼できそうだから」
などと母に言われた和実がスーパーまで車で行って、お肉や野菜を買ってきてホットプレートで焼いた。
 
「椎茸に十字が入ってるのなんて、ここの家では初めて見た」と恭介。
「和実ちゃんがやってくれたのよ。この子、手際がいいのよ。私すっかりこの子、好きになっちゃった」と母。
 
昼間の仕出しや、温泉でのおしゃべりは伯母さんたちがいたお陰でハイテンションだったが、夕飯は、ややのんびりした雰囲気の中で進んでいった。
 
「もし向こうのご両親も良ければ、籍が入れられるようになった所で入れちゃいなさいよ。学生結婚なんて、そう珍しいものでもないしさ」と母。
「それがいいかも知れないね」と淳。
 
「まあ、和実ちゃんも学校出るまでは出産もできないだろうけど、もう1年間一緒に暮らしているんだから、籍は入れちゃったほうがいいね」と恭介。
「でも、思ったんだけど、淳のほうの女性化も進んでるみたいだから、あんたたち、子供作るつもりなら、早い方がいいかもよ。私、東京に出て行って和実ちゃんが修士課程出るまで子守してもいいからさ。でないと、淳が種無しになっちゃう」と母。
 
「あの・・・私が妊娠するってのは確定なのかしら?」と和実が言うが「和実は妊娠しそうな気がするからね」と淳まで言った。
 
「恭介は妊娠しそうにないから、淳と和実ちゃんに孫を期待するしかないし」
などと母まで言う。
「俺はさすがに妊娠しないよ」と恭介は言った。
 

淳はその先月の愛媛行きのことを思い出していると、つい思い出し笑いをしてしまいそうな気がしたが、自分たちの仲が双方の両親に認めてもらえたのは、物凄い幸運のような気がした。これも「神様からのご褒美」なのかな?などというのも思う。
 
そもそも母も言っていたように、和実と出会わなければ自分は恐らく一生結婚しなかったろうというのも思う。自分としては本当は30歳になるまでに性転換したいと漠然と思っていた時期もある。
 
多少の迷いなども生じてずるずると時期を延ばして来た気もするが、和実と出会って自分の生き方を再度考えた結果、35歳くらいまでには性転換したいと思うようになっていた。
 
会社のビルに入り、タイムカードを押してオフィスに入る。同僚たちと「おはよう」「おはよう」と言葉を交わして自分の席について、まずは端末を付け、急ぎのメールが入っていないかチェックした。
 

和実は淳を送り出した後、ベッドに寝転がってユキさんの日記を開けた。今は大学は春休みなので、10時までにメイド喫茶に行き、夕方まで勤務する予定である。メイド喫茶も、この1年間は被災地支援ボランティアの事務局代わりにもなり、喫茶店スタッフ以外にも多数のボランティアスタッフの人達が出入りしていた。彼らには和実と店長が折半の自腹をしてお茶をサービスしていた。
 
そういうので和実は貯金が目減りしていったのだが、もとより自分の貯金は全部被災者のために使いたい気持ちでいたので、その問題は気にしていない。店長には申し訳ない気持ちもあったが、店長は結果的には喫茶店メニューをオーダーしてくれる人もあったりして喫茶店の売上にもつながっていると言って、自分のことは気にするなと言っていた。店長もやはり被災者のために身銭を切って、いろいろしてあげたい気持ちだったのだろう。店長の家系が相馬市の出身なのだと言っていた。もう今は向こうに親戚はいなかったらしいのだが、それでも自分の故郷みたいな思い入れがあったのだろうと和実は思った。
 
ボランティア活動が終わって、ボランティアの人たちは当時ほど頻繁にはここを訪れなくなったものの、時々コーヒーを飲みに来てくれる人は多く、またボランティア活動を通してお店の名前がけっこう知られたこともあり食べログなどにも多くの好評価が付いていたので、新たにやってくる客も多くて、お店は繁盛していた。店長は
「これだけ流行ってるなら、後ひとつ支店を作ってもいいかな」
などと言っていた。
 

*月*日。
 
今日の体育は水泳。競泳用の水着になって、プールで泳ぐ。私の水着姿を見てこれまでちょっとわだかまりのあった☆子が
「あんた、完璧に女の子体型だね」
などと言った。
 
「いろいろ誤魔化してるけどね」
「ああ、出てない所が出てるように見せたり、あるものが無いように見せたり?」
「そうそう」
「でも肩の線とか、ウェストのくびれは誤魔化しようがないよ」
「うん。そのあたりは完全自前」
「へー。色々努力してるんだね」
 
彼女ともこの後、もう少し仲良くしていけるといいな。私、誰とでも仲良くしたい。派閥みたいなの作るの嫌い。こういうのは贅沢なのかなあ。
 
オナ禁25日目。あと少しで1ヶ月。これってもっと前からやるべきだった。中学生の頃からやってれば、私の身体もっと女の子らしい身体になってたかも。最初の数日はもう触りたくて触りたくてたまらなかったけど、我慢してればできるもんなんだなあ。男の子みたいなこと、私、しちゃいけなかったんだ。
 

*月*日。
 
バイト先で失敗。お客様の名前を読めなくて、お預かりしていた服が無いなんて答えちゃった。
 
「やまなしですけど、頼んでたサイズ調整の出来てます?」
「やまなし様ですか・・・・」
と言って、服の掛かってる所探すけど、見つけきれない。「ありませんね」と言って、お客様も「遅れてるのかしら?」ということでいったんお帰りになる。
 
お昼に行ってた店長が戻ってきてから報告したら
「やまなし様のは戻って来てるよ」と。
店長が探してくれる。「ほら、これ」と言われて見せられたのは「月見里」と書かれている。
 
「これで『やまなし』って読むんですか?」
「山が無いとその陰にならずに月が見えるでしょ。だから月が見える里には山が無い」
「きゃー、ごめんなさい」
 
すぐ先方に電話して、御自宅まで持参した。
「大変申し訳ありませんでした。私が見落としてました」
と謝ったら
「うん、いいよいいよ。わざわざ持ってきてくれてありがとうね」
と笑顔で言ってくれた。お客様は神様です。
 
でも「月見里」で「やまなし」って読めねーよ! クイズかよ? 店長が言うには「小鳥遊」で「たかなし」というのもあるそうだ。鷹がいないから小鳥が遊べるんだって! 日本語難しすぎる。「春夏冬」は「あきなし」らしいし。「なし」系苗字って多いのだろうか?
 
どうせなら「女子」と書いて「たまなし」とかダメ?
 
でも「あなた可愛いわねー。女子高生?」とまで月見里さんには言ってもらったし、感謝、感謝。
 

*月*日。
 
兄貴が帰省してきて、今日市内で会った。いきなり「お前、いつまでそんな女みたいな格好してるんだ?」と言いやがる。以前の私なら、水ぶっかけて席を立つところだけど。ぐっと我慢したよ。少し大人になったね。
 
まあ、でも兄貴とふつうの話はできる。兄貴の意見には全然同意できないけど。なんか凄い男尊女卑なんだよな、昔から兄貴って。
 
兄貴と別れた後、ストレス解消したかったら、カラオケ行きたくて、何人か電話で誘って、□代が付き合ってくれた。飲み食いしながら3時間歌いまくる。
 
カラオケ屋さんは久しぶりだったけど、高音が結構出るようになっているのに驚く。自宅で携帯カラオケしているのとは声の出方が違う。□代からも凄いねって言われたけど、自分でもびっくり。ずっと女声で話しているので、喉が鍛えられてるのもあるよね、たぶん。
 
しばらく男声は出してない。出るのかな?あまり試したくないからパスだけど。
 

*月*日。
 
プレマリンが先週で切れちゃったのに、頼んでいたの、まだ届かない。何かトラブルとか起きているのかなあ。早く届いてよう。身体が女性ホルモンに慣れているから飲まないでいるのは辛い。ちょっと鬱になりやすくなってる。今日も何でもないことで泣いちゃって、◇香から心配された。取り敢えずエステミックス買ってきて飲んでるけど、これでは足りない。
 
でも女性ホルモンのお陰かなあ。前ほど、去勢したいって気持ちが暴走しなくなった。でも年末くらいまでにはタマは取りたい気分だけどね、ただ、去勢より先に脱毛したい気分でもあるしなあ。宝くじでも当たらないかしら。ロト6とか当たりやすいって言ってる人もいるし、1枚くらい買ってみようかな。
 

*月*日。
 
やっとプレマリンが届いて、飲んだら凄く気持ちが落ち着いた。もう私これ無しでは生きていけなくなってる。切れると結局、更年期障害と同じ状態になっちゃうんだろうな。
 
バイト順調。よくやってるねって褒められる。嬉しいな。幼稚園の先生になれなかったら、洋服屋さんの仕事ずっとしてもいいかな、って気分になっちゃう。
 
※※君からまたメール来てた。どのくらい本気なのかなあ。適当に遊ばれて捨てられたら、私きっと凄く辛いから、あまり恋には積極的になれない。男の子とのデートって、ちょっとしてみたい気分ではあるけど。
 

*月*日。
 
ぎょえーと思った。何かあのあたりが変な感じだったのでトイレに飛び込んだら鮮血。げー。ナプキン持ってたから当てたけど、ショーツが血だらけ。ずっとあの付近押さえつけてるから、炎症が起きたみたい。
 
でもナプキン持ってて良かったぁ! 買う時は「持ってても使わないし」とは思いつつも、女の子の気分になりたくて買ったけど、これやはり1〜2個は常時携帯しておくべきものなのね!
 
出血はすぐ止まった。アパートに帰ってからお風呂できれいに洗ったら痛みも減った気がする。血だらけになったショーツは捨てた。今夜はコットンの下着。
 

*月*日。
 
振られたっていいじゃん。恋愛って経験しときなよって友だちから言われたから※※君にデートOKの返事しちゃった。
 
えへへ。何着て行こうかな。デートってしたことないや。どんなことするんだろう。食事して散歩してホテルだよ、なんて友だちに言われたけど、私の場合、ホテルは無いよね? 妊娠しないように避妊具持っていきなよって言われたけど私、妊娠しないと思うなあ・・・・
 
TOEIC申し込んだ。性別は「女」で申し込んじゃった。名前は男名前だけど咎められないよね? 性別変える前に改名だけでもしちゃおうかな。男名前で暮らすのが大変。しばしば「え?」って顔されるし。こないだも定期券買う時に窓口で一悶着あったしなあ。それだけ女としてパスしてるってことなのかも知れないけど。
 
胸、ほのかに膨らんでる。私、女性ホルモンの利きがいい方かも知れない。
 
調子に乗って、プロペラ(黄体ホルモン)のジェネリック、注文しちゃったい。プレマリン+プロベラって、黄金の組み合わせだよね?
 
オナ禁40日目。もう全然辛くない。我慢しているって感じがない。女性ホルモンのお陰かも知れないけど。あるいはもう立たなくなってるかも知れないな。
 

*月*日。
 
※※君とのデート。まさかまさかの、レッツ・ゴー・ホテル!
 
「あれ?おちんちん、もう無いの?」なんて言われたけど「隠してる」って答えて、私、ヴァギナ無いから、お口でしてあげた。
「こんなの初めて!気持ちいい!」
って彼、叫んでた。気持ちよくなってくれたなら嬉しい。
 
「おっぱい少し膨らんでるね」なんて言われて乳首舐められたし「男の子に揉まれると大きくなるんだよ」とか言われて、けっこう揉まれた。
 
また来週会う約束しちったよ。えー、まさかこれ交際になってる??
 
ボーナスもらった。バイトなのに。そんなのもらえると思ってなかったから嬉しい。全部貯金にした。最初から無かったと思えば問題ないしね。
 
毎月してた貯金もあわせると30万! こんな大きな数字が通帳に印字されてるの、何だか凄い。何に使おうかな。
 

専務から「ちょっと一緒に食事しない?」と誘われて高級割烹に入った時、淳は凄まじく嫌な気分になった。専務から前回こういう高い食事に誘われたのは2年前で、その時頼まれた仕事が発注先のふらふらした態度と、メーカー側の深刻なバグなどでデスマーチとなりほんとに大変な目に遭った。その仕事が一段落して東北に旅行に出かけた所で震災に遭ったのである。
 
その前に専務にこのクラスの食事に誘われた時に頼まれたのは、かなりきつい納期の役所関係の仕事のリーダーの引き継ぎであった。前任者が一週間くらい休んでいたので、ハードスケジュールでダウンしているのかと思ったら、鬱病が悪化して、作業不能になったので取り敢えず半年休職させることにしたと言われた。役所関係は納期の変更が困難なので、大量人員を投入して何とか完成させたが凄まじい赤字を出した。その赤字の責任を取れと言われて給与カットの案を示され、さすがの淳も切れた。じゃ責任取って辞めますよと言ったら、会社も折れて、折れさせた勢いで最終的に特別ボーナスまで勝ち取った。
 
「専務、今度はどんな仕事なんですか?」と淳は少し達観したような顔で言った。
「察しがいいね」
「だって、専務が食事に誘う時って、私に大変な仕事押しつける時ばかりですよ。私も鬱病になっちゃおうかな」
「君って、楽観的な性格だから、鬱病にはなりにくい気がしてるんだけどね」
「鬱病は性格で罹るものではありません」
「うん。そのあたりは僕も勉強はしているつもり」
 
「で、何ですか?」
「ね、君って女装趣味ある?」
「は?」
「夏にワイシャツ姿になってた時に、下着の線が見えてね。それに君、いつも眉毛細くしてるよね。徹夜明けでもヒゲが生えてないみたいだし、ひょっとして脱毛済みということはないかなと思って」
 
淳はため息をついたが、開き直ることにした。この会社に勤めて8年。そろそろクビになっても惜しくない気もする。
 
「そうですね。女装趣味というか、女性の服を着ていることはよくあります」
「うんうん。そのあたりは個人の生活の問題だから、とやかく言うつもりは無いんだけどね。実は、今、女性用下着の会社のシステムの話があってね」
「はい」
「先方から、できたら女性の方にシステム構築の指揮をして欲しいって言われたんだけど、この規模のシステムが作れる女性SEが全員、今手が離せないんだよね」
「確かに、○○さんも△△さんも◇◇さんも今無茶苦茶忙しいみたいですね」
 
「君が担当してるシステムはもう納品も終わって、順調に動いてるでしょ」
「ええ、多少の変更は発生しているので、それの対応をずっとしている所ですが」
「もうここまで来たら、他の人に引き継いでもらっても大丈夫だよね」
「まあ、そうですね」
「それで、君この女性用下着のシステム、やらない?」
 
「でも女性が希望なのでは?」
「うん。でも君が女装趣味あるんだったら、実質的に女性みたいな人ですからと紹介すれば向こうはそれでも構わないと言うと思うんだよね。あ、何だったら打ち合わせに女装で行ってもいいよ」
「そんなのいいんですか!?」
 
「最近はそういう人、よくいるじゃん。ほら、テレビによく出てる、春野愛?」
「はるな愛ですか?」
「そう、それそれ。他に、椿カンナ?」
「椿姫彩菜(つばきあやな)ですね」
「あとは、きさらぎ何とか」
「如月音流(きさらぎねる)ですね。彼女は実は彼女がブレイクする前からのマイミクですよ」
「ほほお。でも、どうも僕はタレントさんの名前覚えるのが苦手で」
「私も名前覚えるのは苦手です」
 
「そういう訳で、今はそういうのあまり気にされない世の中なんだよ。それにこのシステムの受注額は2億円なんだ。どうしても君ができない場合は下請けで女性のリーダーがやってくれるところに回すけど、下請けに出した場合、品質をどこまで管理できるかというのがあるし、こういう美味しい話は自分とこでやりたい気持ちもあってね」
 
「たしかに、今社内に人手の余力があるから、それならわざわざ下請けには回したくないですね」
「だろ?だからぜひ社内でやりたいんだよね。先方との契約はまだ完了してないけど、ほぼ確実に取れそうなんだ。ただ問題は開発のリーダーを誰にするかという問題でさ」
 
「私が女装で、そちらに打ち合わせに行けば良いのでしょうか?」
「うんうん。それがいちばん理想的」
 
淳はちょっと呆れていたが、この話、受けてもいい気がした。
 
「いいですよ。行きます。でもそれで向こうからオカマは困るとか言われて契約取れなかったりしても、私は知りませんよ」
「うん。その時は僕の責任だから。じゃ、取り敢えず、この後自宅に戻って女装で出てこない?」
「会社にですか?」
 
「会社に直接出てくるのが恥ずかしいなら、どこかで待ち合わせようか?」
「はい、そちらが私は気楽です」
 
「じゃ、15時に○○○駅の乗り場改札口とかはどう?」
「了解です」
 

*月*日。
 
※※君と別れちゃった。悲しい。。。。
私があんまり女の子すぎて、自分は愛せないって言われた。
 
でも「君が男の子だから」と断られるのはこちらとしても諦められるけど、「君が女の子だから」と断られるのって微妙に納得がいかない。
 
デート楽しかったし、メールのやりとりもワクワクしたのに。
 
彼、男の子が好きみたい。男の子というより、もしかして「男の娘」っての?おちんちんが付いている子の方がいいのね。
 
タックを外して、おちんちん見たいって言われたけど、私、好きな人におちんちんなんか見せたくない。だって私は女の子。女の子におちんちんなんて付いてないんだもん。
 
今日はちょっと辛い。寝る。
 

*月*日。
 
○江から慰められた。やけ食いしよって言われて、□代、◇香と4人でケーキバイキングに行った。お腹いっぱい。少し気が晴れた・・・かな? しかしケーキ、ミニサイズだけど15個も入るとは思わなかった。人間やればできるもんだなあ! ○江は8個、□代は10個、◇香は6個。でもこのカロリーは凶悪だ。これで何日節制しないといけないんだろう!? ダイエット辛そう。
 
追記。
気分が晴れたと思ったのに、夜になったら寂しくなってきた。youtubeでハードロックをヘッドホンつけてガンガン聴く。1時間もしてたらちょっと耳が頭痛?になったので、寝ることにした。寝れるかなあ。オナニーしちゃおうかなあ...
 

*月*日。
 
△美と会ってきた。悲しい気分の時は、久しぶりの友だちに会うのもいい気がした。でも、友だちっていいなあ。私が電話したら、いきなり「失恋した?」
って訊かれた。ふたりで思いっきり焼肉食べた。ちょっとお腹いっぱい。ってか、いきなりダイエット挫折〜!!
 
昨夜は結局オナニーできなかった。立たせるまで行かないまま、触ってる内にいつの間にか寝てた。結果的にオナ禁継続中。
 
でも、ずっとしてない。そもそもあまり触る気にならない。失恋したらしたくなるかと思ったけど、する気にならない。触っても何か感触が遠い。自分のものじゃない気がする。きっとそうだよね。このおちんちん、間違って私に付いてるんだ、きっと。本当は誰か他人のものなんだよ。でも、これの本来の持ち主は困ってないだろうか? 困ってる人いたら、取りに来て。いつでも返すから。取りに来なかったら、私捨てちゃうよ。私は要らないから。
 
成人式のことを考える。
 
△美から、振袖を着るつもりだったら、1年前に頼むのがいいよと言われた。買うにしてもレンタル予約するにしても、早い時期に頼んだ方が、いい柄のが安く確保できるからって。
 
振袖って、今まで考えたこと無かった。そうか。私って、女の子だから成人式に振袖着てもいいんだよね。考えたことなかったから、頭の中に少し放置しておこう。少ししてから、またよく考えてみたい。
 
でも1年前って、あと2ヶ月じゃん! 1年前に頼んで、お金はいつ払うんだろ。振袖って高そう。レンタルなら4〜5万って言ってたな。レンタルでも充分高いよ。
 
振袖、少し勉強してみよう。
 

淳は専務といったん別れると自宅まで戻り、女物のビジネススーツに着替えて、お化粧もして、筆記具とiPhoneをミラショーンの女性用ビジネスバッグ(実は和実のものを無断借用)に入れて、出かけた。約束の時間の15分前、14:45に○○○駅の乗り場改札口に着く。専務は8分前にやってきた。
 
こちらが分からないようだったので、淳の方から声を掛けた。しかしそれでも分からないようだったので、ふだん会社で使っている声に切り替えて話しかけると「月山君なの!?」と驚いたような声を出す。
 
「この格好なので、こちらの声で話していいですか?」と淳は声を元に戻した。
「凄い!女みたいな声も出るんだ。いや、これなら君が男であることをバッくれてでも受注できそうだ」
「それで後からバレるとトラブルの元ですから、ちゃんと最初からカムアウトします」
「まあ、その方がいいね。でもこれなら、先方も文句言わないよ」
と専務は言い、一緒に客先へ出かけた。
 
「でも、君、胸あるね。まさか本物?」
「はい、本物です。Bカップありますよ」
と淳はにこやかに答えた。
 

「は〜る〜か〜ちゃん」と店長が妙に優しい声で和実を呼んだ。
「何ですか?店長」
 
「ね、ちょっと外でお話しない?」
「なんか嫌な予感がするなあ。じゃ、ちょっと出てくるから、もも、後よろしく」
と和実は後事をサブチーフの麻衣に託して、店長と一緒に店を出た。
 
店長は和実を連れて、近くにある少し値段高めのイタリアンレストランに入る。
「店長、ここに私を連れてくるって、絶対変です!」
「ふふふふふ」
「何ですか? 私に何をさせるつもりですか?」
「君、勘が鋭いね〜」
「誰でも変に思いますってば」
 
「ところでまず前提の話。君、いつ性転換するのさ?」
「最初タイで8月に手術することにして予約を入れていたのですが」
「うん」
「実は国内の病院で手術してくれる所が見つかって、7月にそこで受けることにしました。タイの方はキャンセルしました」
 
「ほほぉ。国内で手術するのって、何年待ちって話かと思ったよ」
「大学病院とかはそうです。でも民間の病院なら、割と早い所もあるんです」
「でも技術は大丈夫なの?」
「それは大丈夫です。去年まで大学病院にいた先生で、アメリカの病院にいた頃に性転換手術は何度も経験しているという人なので」
 
「ほお、それは心強いね」
「昨年いっぱいで大学病院を辞めて個人病院を開いたのですが、ちょっと関わりがあって。積極的に性転換手術をする予定は無いらしいのですが、私のケースが少し特殊らしくて医学的な興味があるので、良かったら手術してあげるよ、と言われまして。むしろ手術してみたいような雰囲気でちょっと怖いですけど」
 
「へー、実験台か! でも国内で受けられると言葉の問題とか安心だよね」
「ええ。私タイ語できませんし」
「あれ、タガログ語とかできなかったっけ?」
「タガログ語はフィリピンです」
「あっそうか! じゃ、7月に手術して、1ヶ月くらいは休むよね」
「はい、申し訳ありませんけど、休ませてください」
 
「じゃ、9月くらいには復帰できるかな?」
「ええ。学校にも行かないといけないし。特急で体力回復させます」
「うん。結果的にこちらのタイミングとうまく合うな。じゃ、その前提で君に辞令」
 
「辞令って。。。。左遷ですか?」
「栄転だよ。銀座店の支店長を命じる」
「銀座店を作るんですか!?」
「そうそう。土地の賃貸契約は済ませた。今その場所で営業しているチェーンの居酒屋が6月いっぱいで閉店するんで、その後改装を始めて8月中には内装や調理設備も整備して、その間にスタッフ募集して当面は本店・新宿店で研修させて、9月に君が復帰できるタイミングで新装オープンさせようという魂胆」
 
「メイドさんはもうそちら専任にするんですか?」
「最初、全員本店・新宿店・銀座店をローテーションさせようかとも思ったんだけどね」
「それ大変ですよ」
「うん。今でも勘違いして逆の店に出て来ちゃう子がいるからね。それで考えたのが、総合職と一般職を作ろうというので」
「総合職メイドと一般職メイドですか?」
 
「うんうん。一般職メイドはその店舗の採用。普通はそこだけで勤務するけど、たまに他の店にも顔を出す。総合職メイドは基本的に全店舗を回る」
「結局はややこしそうな」
「あと、一般職はコーヒーと紅茶さえ、ちゃんと入れることができたらいいことにする。総合職はオムレツがきれいに焼けることが絶対条件」
「ああ、それはいいかも。料理下手でも接客のうまい子はいますよ」
 
「あと、出勤する店を間違わないように、各メイドに自動で毎朝メールして『今日は○○店だよ』というのを知らせる」
「ああ、それはいいですね。今すぐそれはやりましょうよ」
 
「うん。そのシステム、今制作中。というか、店が3つあって、勤務日も勤務時刻も不規則なバイトさんをうまく配置するのは人間の頭では無理。コンピュータに計算させる。休みを取られた場合は即調整しなおす。その時、どこの店にでも行ける実力のあるメイドがある程度いないと、調整できないんだよね」
「そうか。それでか。納得です。でもそれ結構凄いプログラムですね」
 
「今悩んでるよ。で、君は今、新宿店支店長の悠子ちゃんがやってるように平日は銀座店で勤務して、土日の一定時間に本店・新宿店にも来てもらえばいい」
「結局3店を回るんですか!」
 
「悠子ちゃんもね。本店のチーフは麻衣ちゃんに継いでもらう。それで土曜の朝10時から13時までは3人とも銀座店、14時から17時までは3人とも本店、日曜の14時から17時までは3人とも新宿店、とかいう感じにする」
「3人って、私と麻衣と悠子ですね」
「そうそう。君は役職上は支店長だけど、悠子ちゃんと同じように、店内での呼び方は銀座店チーフね」
「本店チーフから、支店チーフへの異動だから、やっぱり左遷かな」
 
「そう言うなよ。給料は上げるからさ」
 

*月*日。
 
夏にもらったから、ちょっとだけ期待してたら、冬のボーナスももらった!嬉しい。なんか貯金がたくさんできた。これで振袖買っちゃおうかな。
 
○江は自動車学校に行くと言っていた。運転免許、私も取らなきゃいけないだろうか? 。。。。でも振袖欲しい!こっち優先!
 
ずっと女の子してるから、男の子してた頃の記憶が遠くなっちゃった。学生服とか着て中学・高校行って、男子トイレ使って、男子更衣室使ってたってのがなんか信じられないなあ。よく我慢できたなあ。
 
ブラジャーBカップだもんね。今は。高校時代におっぱい大きくしちゃってたら「あんた女子更衣室に行きなさい」とか言ってもらえたんだろうか。もっと行動すべきだったのかも知れない。
 
小学5〜6年の頃、クラスメイトの女の子たちのおっぱいが膨らんでいって、みんなブラジャー付けるようになっていったのが、羨ましくて羨ましくて。。。。
 
って書いてたら涙が出て来ちゃった。あん、鬱になっちゃう。プレマリン飲んで元気出そう。
 

*月*日。
 
クリスマスだから、○江・□代・◇香の4人でクリスマス会した。やっぱり女の子で集まるのって楽しい。こういうのって、凄く小さい頃は経験したけど、小学校の4〜5年生の頃からずっと経験してなかった。やっぱりここの短大に来て良かった。この3人とは短大卒業した後でも、仲良くしていけるといいな。
 
夜、お布団入って横になって、胸触ると柔らかい膨らみがある。なんか幸せ。こんなに身体を改造して寿命縮めてるかも知れないけど、いいんだ。今女として充実した生活を送ることができていたら。
 
早くおちんちん切ることができますように。
サンタさん、もしいたら、私に女の子の身体を頂戴。
 

*月*日。
 
振袖買いたいってのお母ちゃんに言ったら賛成してくれた。少し出すって言われたけど、バイト代で頑張るからって断った。代わりに年明けに一緒に見に行くことにした。こんな話をしていると、ちゃんと娘と認めてくれてるみたいで嬉しい。高校時代までこの手の話ってあまり出来なかったな。
 
バイト先。ここの所お客さん多い。ボーナスが出て、少しお洋服買おうって人が多いのかなあ。忙しくて消耗激しい。ゆっくりお風呂入って寝なくちゃ。
 
追記
お風呂入ったら、一応あそこ剥いて洗うんだけど、最近剥きにくくなってる。縮んでるのかも知れないな。あまり縮みすぎるとヴァギナの材料として困るんだけど・・・・・引っ張って伸ばしたりしないといけないのかな?
 
触っても全然したくならないから、触って伸ばしたりするのは平気だけど。かなり身体が女性化してるよな、というのは思う。ホルモンの影響も大きいだろうけど、女として生活しているという精神的なものも大きい気がする。
 

淳は女装で専務ととともに女性用下着会社を訪れた。
 
「月山淳と申します。あいにくちょうど名刺が切れた所で。次回持って参りますので」と淳は挨拶する。この状況でさすがに《月山淳平》の名刺は出せない。
 
専務が淳の実績を簡単に紹介すると向こうはかなり気に入ったようで、その後先方がやりたいと思っていることをおおまかに話し、それに対して淳が、それなら、こういう感じの構造を作り、こういう道具を導入して、こんな感じでやる手がありますね、という提案をしてみると、ああ、それはいいと思います!と向こうもその方法は好みの様子であった。
 
「それで、実際システムを構築なさる場合、月山さんがやって頂けるんですか?」
と向こうの責任者である40代くらいの女性の副社長さんから訊かれた。
 
「今、それを検討しているところなのですが、ただひとつ問題がありまして」
と専務。
 
「ああ、やはり兼任しておられる他の仕事の手が空かないのでしょうか?」
「それが偶然にもちょうど、もうすぐ空きそうな所ではあるのですが・・・・実はですね」
「はい」
「月山君は、このように見た目はパーフェクトに女性なのですが、戸籍上は男性でして」
「えー!?」
「でも、ふつうに女性に見えるのに。お声も女性の声ですし」
 
「高校を出て以来12年間、学校や会社には男装で出かけて、私生活は女装という二重生活をしてきました。会社には黙っていたのですが、専務は知っていたようでして。君は以前から仕事の進め方やシステムやプログラムの組み方が女性的だと思っていたし、やってみないかと言われまして」
 
「今少し打ち合わせしていた間、全然違和感ありませんでしたし」
「どうでしょう。もしよろしければ、月山君に提案書を作らせますので、それでもし気に入っていただけたら、彼女に任せていただけませんでしょうか?」
と専務。
 
「ええ、そうですね。提案書を見てから決めましょう」
と副社長さんは言っているが、向こうは結構乗り気だと淳は感じた。
 
「でも、そしたら普段は女性として暮らしておられるんですか?」
「ええ。以前は私生活は男女半々だったのですが、最近はもう会社に行く時以外は女性の服しか着ていませんし、会社に出てくる時もちゃっかり女物の下着をつけていたりします。あ、今付けているの、こちらの会社の製品です。『エンジェルフルート・ブラ』ですよ。このシリーズ5枚持ってます」
 
「わあ、お得意様だ!」と副社長。
「身体はいじっておられるんですか?」
「胸はBカップまで大きくしました。これ以上大きくすると、背広着て男性会社員として勤務するのが困難になるので」
「あら、女性会社員としての勤務を認めてもらえばいいんじゃないですか?」
「うん。それで出て来ていいよ」と専務。
 
ああ、この数時間で自分の人生は変わってしまったようだと淳は思った。
 
「失礼ですが、戸籍の方は?」
「性転換手術は数年の内にするつもりですが、女性の婚約者がいるので、彼女との結婚優先で、戸籍の性別は変更しないつもりです」
「あら、向こうはあなたが女性の身体になってしまってもいいんですか?御免なさい。個人情報に属することまで尋ねてしまった」
「はい。実は私たちは元々レスビアンの関係なので」
 
「あら、いいんじゃありません? うちの社内にもビアンの社員、けっこういるんですよ。ビアン婚している人は、うちでは男性と結婚している人に準じる扱いして、家族手当支給している例もありますし」
「さすが進んでいますね。女性が働きやすい会社みたい」
「もし、あなたが性別を理由にそちらをクビになったりしたら、うちで雇ってもいいですよ」
などと副社長さんは笑顔で言う。
 
「そして、このシステムをこちらの社員として作るんですね!」と淳。「そうそう。2億円がロハで済む」と副社長さん。
「いや、それは困ります。月山君をクビにすることはないですよ」
と専務は明言した。
 

*月*日。
 
お正月を母と兄の3人で迎える。今年のお正月は母と2人でけっこうおせちを作った。母と一緒にこういうのしていると、凄く幸せな気分。兄貴は私の性別のことで、いろいろ文句を言っているが気にしない。
 
初詣に行こうとしたら、兄が「オカマと一緒に歩けるか」と言うので、結局母とふたりで出かけた。母も私が高校時代に女装していると、そばに寄らないでとか言ってたのに今日は一緒に歩いてくれた。嬉しい。
 
おみくじを引いたら大吉。願い事は叶うと書かれている。売買は買うよろしと書いてあるから、振袖買ってもいいよね?
 

*月*日。
 
母と一緒に仙台に出て、振袖の内覧会を見る。けっこう迷ったが、青系統の花鳥風月の模様が描かれた、古風な雰囲気の振袖を選んだ。お金は予約金だけ払っておいて、残額は受け取る時に払えばいいということだった。
 
内覧会の後、町を歩いて御飯食べて、スーパーで母にセーターを買ってあげた。少しだけ親孝行かな。私って、多分かなり親不孝者だから、できる時はこういうのしてもいいかなと思う。
 
トイレにも一緒に入り、列に並んでおしゃべりをしていたら、母が涙を浮かべていた。「どうしたの?」と訊くと、あんたと女子トイレに並ぶことがあるとは思わなかったと。「ごめんねー、こういうことになっちゃって」と言うが「うん。娘がいてこそ起きる事柄だから、少し楽しいかも」などと言われる。女子トイレに一緒に並ぶくらい、いくらでもしようね。
 

*月*日。
 
昨日は母を駅で見送り、ひとりでアパートに戻ったけど、数日3人で過ごした後、ひとりで寝るのって、ちょっと寂しい気もする。少し多めにプレマリン飲んじゃった。
 
私って、一生ひとり暮らしなのかなあ。今は法律ができて性別変えられるようになったけど、法的に女になっても、結婚してくれる男性っていそうにない気もするし。
 
女の子のパートナーとかでもできないかな。ルームシェアで暮らせたら寂しさも紛れる気がする。どこかに結婚しない予定の女の子いないかしら?
 

メイド喫茶の勤務を終えて自宅に戻った和実が晩御飯の準備をしていると、淳が帰宅したが、女装なのでびっくりして
 
「どこかお出かけしてたの?」と訊く。
「いや、会社の仕事の打ち合わせで客先に行ってきた」と淳。
「でも、その格好で?」
「それが、向こうは女性のSEに来て欲しいということで。あ、このバッグ勝手に借りた」
 
といって淳は今日起きたことを和実に説明した。
 
「ええー!? それじゃ明日から淳は女装で会社に行くの?」
「そういうことになっちゃった」
「でも良かったじゃん。頑張ってね」
「なんかちょっと恥ずかしい気がして」
「だって、普段いつも女装じゃん。会社に行く時だけ男装していたのがむしろ不自然だったんだよ」
「でも、会社のみんなには見せたことないしなあ」
「今までが仮装してたのを、本来の姿に戻るだけだね」
 
「今どこかに逃げ出したい気分」
「でもこんな凄い機会を逃したら、もう女として就職するチャンスなんて無いかもよ」と和実。
「そうだろうね」
「やってきたチャンスは確実につかんで行くのが人生を歩むすべだよ」
「いいこと言うね」
 
「それに女として会社勤めしてたら、堂々とおっぱいも、もう少し大きくできるし、おちんちんもいつだって切っちゃえるよ」
「ははは。でもこの仕事を仕上げるのに1年半くらいかかるからその間は休めないし、休めないということは性転換手術はできないね」
「まあ、おっぱい大きくしたり去勢したりするくらいだよね。でも今去勢しちゃうと、私、淳の赤ちゃん産んであげられなくなるからね」
 
「和実・・・少し妊娠する気になってきてるね?」
 

*月*日。
 
今日は短大の卒業式。2年生たちが卒業していく。来年は私たちの番だ。スーツ着ている人いるし、小紋の着物に袴という人も多い。振袖の人もいる。あ、私も来年は振袖着ようかな。せっかく振袖を買うんだから、成人式と卒業式に着れたらいいな。
 
こないだから、**君から何度かお茶に誘われてる。ちょっとお茶くらい一緒に飲んでもいいかなあ・・・ もし再度誘われたら応じてみよう。
 

*月*日。
 
最近Bカップのブラがきついような気がするのでCカップのブラ、とりあえず2枚買ってきた。うん。圧迫感が無い。今度はセットも買ってきてみようかな。
 
でも私のバスト、よく育ってるなあ。我ながら感心する。ほんと私って女性ホルモンの利きがいいみたい。
 
おちんちん、久しぶりにちょっといじってみた。全然反応無し。大きくならないから男の子みたいにしごくことはできない。女の子みたいに手で押さえてぐりぐりしてみたけど、全然気持ちよくない。既に性感帯でさえなくなっている。もうこれって、ただの肉塊だね。イボか魚の目と同じ。男性機能は完全消失。よしよし。私、化学的には完全に性転換して女の子になっちゃったみたい。
 
物理的な性転換ができるのはいつだろう・・・
 

*月*日。
 
高校の同窓会に行ってきた。私が女の子になっているので、驚いた人たちも随分いたけど、女子のクラスメイトたちは「可愛いよ」「似合ってる」とか言ってくれる。女の子同士って、こういう時、取り敢えず褒めちゃうけど、そういう習慣って、気持ちいいよね。裏では何と言われてたっていいや。気にしない。
 
でも私が女の子の声で話しているのには結構マジで感心してる人が多かった気がする。
 
男子たちからはチンコ取ったの?とか訊かれたけど「ホテルに連れ込んで、確かめてみる?」なんて言ったら「連れ込んでみたいような怖いような」
などと言われた。
 

「へー、じゃ新しい支店を作って、その責任者になるんだ?」
夕食の席で和実から話を聞いて、淳は喜ぶように言った。
「おめでとう! 大変だろうけど、頑張ってね」
 
「9月オープンだからね。私が7月に性転換手術を受けて、しばらく休養して休養明けにそちらの支店長として現場復帰」
「わあ、それはしっかり体調戻さないといけないね」
「うん。もう正直、青葉頼りだけど、今回、青葉自身が私の回復ヒーリングをしてくれる余裕があるかどうか微妙だからね。青葉は自分がもし出来ない場合は、知人の優秀なヒーラーさんにカバーしてもらうよう頼んでるとは言ってたけど」
 
「でも和実は体力あるもん。きっと大丈夫だよ」
「そうだね。でも私も淳も、今年は何だか新しい門出って感じになりそう」
「まだ明日、どういう顔して会社に出て行こうか悩んでるよ」
「ふつうに出て行けばいいじゃん。顔はちゃんとお化粧してね」
「いや、そりゃお化粧はするけどさ」
 
「でも今日は向こうの副社長さんに、私女性の婚約者がいますって言っちゃった」
「私のこと?」
「和実以外に婚約者がいる訳無いよ」
「ま、確かに婚約者が何人もいたら詐欺だね。でも、今夜はたっぷり愛し合おうね」
「毎日たっぷり愛し合ってるじゃん!」
 

3月17日土曜日早朝。和実と淳はまたプリウスに乗って東北道を北上した。その日の朝から、和実たちのボランティア活動にも参加していた石巻の人が津波で破壊された鮮魚店を再建。その開店祝いに行ったのであった。
 
その祝賀会のあとで、胡桃が勤める、先週オープンしたばかりの美容室「新トワイライト」に行く。するといきなり
 
「和実〜、いいところに来た。今日、着付けの客がたくさんいるのに、店長が風邪でダウンしてるのよ。着付け、手伝って」
などと言われる。
 
和実は結局その日、15時頃まで、多数の女性客に和服の着付けをすることになったのであった。卒業式の女子大生も結構いた。淳もお客さんにお茶を出したり、受付をしたり、お昼を買ってきたりなどの雑用をこなしてくれた。
 
「ねえ、和実、うちの着付け担当にならない?」
「無理だよ〜。片道4時間かかるのに」
「土日だけでも」
「土日も仕事してるもん。それに9月からは支店長になるしさ」
「それは凄い。でも、いっそ仙台支店作って、こちらに転勤してくるとか」
「じゃ、5年後くらいに」
と和実は笑って言ったが、なぜ今自分は『5年』と言ったのだろう?と疑問を感じた。
 
夕方淳が夕飯の買い物に行ってくれて、19時の閉店のあと、胡桃のアパートに戻って、焼きそばをホットプレートで作りながら食べた。
 
「この一週間、美容室どうだった?」
「フル回転。これはたまらんってんで、早速美容師募集の公告出したよ」
「それは良かった」
 
「震災の時に旧店にお客として来ていて亡くなった人の妹さんが昨日は来てくれたんだよね。ここに来ることで姉の供養ができるような気がするって言ってくれて。ちょっと涙が出た」
「その妹さんも、そんな気持ちになれるまで、いろいろ大変だったんだろうな」
 
「だと思う。葛藤はあったんじゃないかな。誰かのせいにしたくなりがちだし」
 
「そういえば、淳ちゃん、とうとうOLになっちゃったんだって?」
「はい。女性として勤務することになっちゃいました」
「ふふふ。どうだった?会社の人の反応は?」
 
「みんな最初は唖然としてましたよ。もうこちらは開き直りですけど」
「それは昨日まで男だったはずの人が突然女になってたらびっくりするわね」
 
「こちらも朝行ったら机の上に『課長・システム監査技術者・月山淳』って名刺が置いてあったのにはびっくりした。でも女性の同僚からは、女装してるんじゃないかなとは思ってたと言われました」
 
「ああ、それはだいたい気付かれてると思うよ」
「それと、これまで少し緊張感のある付き合いをしていた男性の中堅の同僚が妙に優しくしてくれましてね」
「へー」
「たぶん、これで私は出世競争からは脱落したと思って、ライバルじゃなくなったから親切にしてくれてるんじゃないかと思います。私はもとより、そういう競争には興味無かったんですけどね」
 
「契約はできたの?」
「金額が大きいだけに印鑑はまだ押してもらっていませんが、今月中に契約書もらえそうです。こちらが作った提案書を凄く気に入ってもらえて。細かい点は週明けにまた打ち合わせますが」
「お客さんからは何か言われてる?」
 
「あなたが男性だという痕跡を全く見つけきれないのだけど、本当に男性なんですか?と言われました」
「だろうね。元々、淳さんって、喉仏もあまり大きくないしね」
「ええ。それは女装する時に昔から助かっていた問題で。和実にはかないませんけど」
「和実が異常すぎるだけよ。和実、例の子宮問題はどうなったの?」
 
「私に子宮があるんじゃって話でしょ?ある訳無いよ。再度撮影したら写ってなかったしね」
「でも、和実は最初に診断を受けた時にも子宮と卵巣がMRIに写ってたんだよね」
「だからそれは他の人の写真と間違われただけで」
 
「ほんとかなあ。でも和実には仮想子宮・仮想卵巣はあるんだよね?」
「気の流れで作り上げた、エネルギー上の存在ね。元々自然にできあがっていたものを青葉に強化してもらったから、凄くしっかりした形になってる。でも霊体みたいなものだから、物理的に存在しているわけじゃない」
「その仮想の卵巣からリアルの女性ホルモンが分泌されているんだよね」
「うん。人間の身体の持つ代替機能が動いてるんだろうね」
 
「その仮想の子宮で、リアルの赤ちゃんが妊娠できたりしないんだろうか?」
「さすがに無理だと思うけどなあ・・・・」
 

「和実と淳さんの遺伝子を持つ子供を作ることは原理的には可能だよ」
と、和実の高校時代の友人で東北大学医学部に通う綾乃はある時言った。
 
「カエルとかマウスでは成功してるんだけどね。オスAの体細胞からIPS細胞を作り、これを細胞分裂させていると稀にY染色体が欠落した細胞ができることがある。これを未成熟のメスの胚に注入して育てると、3つのX染色体を持つメスができる。このメスの作る卵子の中には、オスA由来のX染色体を持つ卵子が存在する。この卵子にオスBの精子を受精させると、オスAとオスBの遺伝子を持つ子供が生まれる。この時オスAは遺伝子的には母親になる訳ね。それとAの精子は使わないんだな」
 
「ちょっと待って。話が難しい。絵を描いてみる」
と言って和実は図を書いていたが「なるほど!」と言って納得する。
「パズルみたいだね」と和実。
「考えた人は凄いね」と綾乃。
 
「でも、これ人間では実行できないよ。この作業の途中で出来ちゃうX染色体を3つ持つ女の子、というのどうするのさ? 卵子を取るためだけに作ってしまうけど、そんなことするのは非人道的だよ」と和実は言う。
 
「うん。トリプルXじゃなくてダブルXなら問題は少ないけどね。それなら骨髄移植のために子供つくる人たちと似たようなものだし。実際にはマッドサイエンティストか全体主義独裁国家でもなきゃ実行できない話だと思う」
 
「何とか非人道的なことせずにできないのかなあ」
「和実のX精子と、誰か他の女性の卵子を受精させて女の子を作り、淳さんのY精子と更に別の女性の卵子を受精させて男の子を作り、その子供同士が結婚してくれると、和実と淳さんの遺伝子を引き継ぐ子供は出来る。まあ孫だけど」
 
「分かった。この三倍体の女の子を使う方法って、その孫を作る方法の短絡版なんだ!」
「ああ、確かにそうも考えられるね。それか和実が自分の卵巣で卵子を作るかだよ」
 

翌日、和実は朝から胡桃の美容室で髪をセットしてもらい、ユキさんの振袖を自分で着て(帯だけ胡桃にしてもらった)、淳と一緒に仙台の短大に向かった。入口のところで、ユキさんのお母さんと落ち合う。お母さんが遺影を持ち、いちばん仲の良かった友人の○江さんと和実の3人で一緒に卒業式に参列した。
 
成人式は私は今年だったけど、卒業式はまだ私は2年先だなと思う。更に和実は修士課程2年も行くつもりだから、最終的な卒業は4年後だ。でも4年後、自分は何の仕事をするんだろう?とふと思った。ユキさんは就職先の幼稚園を見つけるのにかなり苦労したらしいと、お母さんからも、あの後会ったお友達からも聞いていたが、それは全然他人事ではない。
 
ふつうの人でもなかなか仕事がない世相である。性別を変更する自分がそう簡単に就職できるとは思えない。エヴォンが4年後にも続いていたら、取り敢えずそこで勤め続ける手はあるけど、30歳まで続けられる仕事とは思えない。ほんと喫茶店の経営にでも転じようかしら?などとも思ってしまう。
 

卒業式の後、ユキさんのお友達が集まってくれたので、一緒にファミレスでお茶を飲み、想い出話をすると、お母さんは涙ぐんでいた。集まってくれたのは、日記にも出て来ていた、△美さん、○江さん、□代さん、◇香さん、☆子さんであった。
 
「高校時代は、あの子が女の子になりたがってるって知ってた子はそういなかったんです。私は偶然女装でショッピングモールにいた所に遭遇して、その後いろいろ服の着こなしとか教えてたんですよね。同窓会に女装で来たの見て、ほとんどの人がびっくりしてました」と高校時代の同級生・△美さん。
 
「彼女にとっても私はいちばんの親友と言っていたとお母さんから聞いたんですけど、私自身もユキは一番の親友と思ってたから、彼女が死んだと聞いた時は、凄くショックでした。死んだこと忘れて、つい彼女の携帯にメールしたり。今でも突然ユキの声が聞こえるような気がする時もあるんですよね」と○江さん。
 
「男の子だってのは最初にカムアウトされたけど、ユキちゃんに男の子って要素を感じたこと無かったです。普通に女の子だから、そのあたりの遠慮とか壁とかも無かったし、私、酔いつぶれてユキちゃんちに泊めてもらったこともあったしね。彼女、料理もうまいし。こちらが見習いたい女の子でしたよ」と□代さん。
 
「私バイだから、ユキのことって、友だちでもあり、ちょっとだけ片思いでもあったんですよね。でもユキのことは女の子として好きでした。彼女を男の子感覚で見たこと無い。凄く可愛い子だし。たまにちょっと男っぽい仕草が出ることもあったけど、逆にそのくらい普通の女の子でもやっちゃうし」と◇香さん。
 
「私最初の頃、随分意地悪しちゃったんです」と☆子さん。
「何よこのオカマ、なんて思っちゃって。でもあの子、凄く素直な子だから。その内こちらが悪いことしちゃったかなと思うようになって。それで少し会話もするようになっていったんですよね。みんなあの時、逃げるのが精一杯で携帯まで構ってられなかった子とか、パソコンにデータ移してたけどパソコンがやられてって子とかで結局、ユキの振袖写真、私の携帯だけに残ってたみたい」
 
ファミレスを出て何となくみんなでトイレに行った。和実・淳も含めて全員女性なので、8人全員でぞろぞろと女子トイレに入り、できていた列に並んだ。そのまま少しおしゃべりをしていた時に、お母さんがハッとしたようにして、それからうっすらと涙を浮かべたのに和実は気付いた。和実は日記の一節を思いだし、お母さんの手を握ってあげた。
 

全員で石巻の佐藤さんの住む仮設住宅に行き、仏檀にお線香をあげた。一緒に夕食を取ってから解散する。みんなが帰ってから和実は振袖を脱ぐと、お母さんに返した。
 
「これは大事な娘さんの遺品です。押し入れの隅でもいいから、取っておいてあげてください」
 
「ほんとそうですね。私、あの子のことをちょっと恥ずかしいと思う心があったんですけど、和実さんにこの振袖を着て頂いて、△美さんや○江さんから、たくさん想い出話を聞いて、この子、たくさんの人に愛されていたんだなと思うと、何か誇りに思っていい気がしてきました」
「そうですよ。とっても親孝行な娘さんですよ」
「そうですね。私、あの子のことをやっと『娘』と言える気がします」
「美人だし」
「そうですね! 私、この振袖取っておきます。うちの娘の思い出の品です」
 
3人で庭に出て、日記をお焚き上げした。
 
「この日記は大学1年の時のものですよね。2年の時の日記というのもあったのでしょうか」と淳が訊く。
「分かりません。見つかったのはこれだけだったのですが」と佐藤さん。
 
和実はしばらく黙っていたが、やがて重そうに口を開いて普段と違う口調で言った。
「大学2年の時の日記、今年中に見つかると思います」
 
お母さんは言った。
「あなたって・・・・ほんとに不思議な人ね。あなたが言うのなら、本当に見つかるかも知れないわね」
 
「ついでに、こんなに凄い勘が働くのはこれが最後です。明日には私は普通の『勘の鋭い子』に戻っちゃうみたい。今、そう言われた」
と話す和実はもうふつうの口調に戻っている。
 
「言われたって、後ろのお姉さん?」
「ううん。斜め前の方に立ってた、どこかのお使いの人。やっぱり力を貸してくれていたみたい」
 
「後ろとか斜め前とか、よく分からないや、そういうの」と淳。
「それと『4年後』って言葉を言われた。どういう意味なのかはゆっくり考える」
「考えている内に4年たったりして」
「そうかも知れないという気がする」
 

佐藤さんの家を20時すぎに出た。そのまま三陸道に乗り、すぐに矢本PAで仮眠する。そして24時頃出発して東北道に入り、南下する。例によってふたりで交替で運転した。
 
「ボランティア活動は年末で終わったはずなのに、結構残務整理的なものがあったね」
「うん。結局、恭介お兄さんのトヨエース借りて、何度か荷物運んだしね」
「『新トワイライト』含めて、開店祝いにも随分行ったね」
「最後がこのユキさんの振袖だったね」
 
「さっき見た時、ユキさんはもう完全な女の子になってたよ」
「それは良かった」
 
「私たちは一段落だし、和実にしても私にしても、何か新しい出発って感じのものが目の前に提示されているけど、被災者の人たちは、まだまだ出発まで辿り着けずにいる人が多いよ」
 
ふたりは今日は宇都宮の上河内SAで長めの休憩をし、起きだしてからスナックコーナーで軽食を取っていたら、空が明るくなってきた。
 
「夜が明けるね」
「東北の夜もそろそろ明けるかな」
「明けていくと思うよ」
 
ふたりは天から射してくる、ほのかな光に祈るような思いを託していた。
 
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【トワイライト・出発】(2)