【萌えいづるお正月】(1)

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和実は高校1年の夏休みから女装して盛岡市内のメイド喫茶でアルバイトをしていた。最初は割りのいいバイトだからという単純な理由でしていたもので女装はそのバイトのためだったのが、次第に女に目覚めてきて、女性ホルモンなどは飲んではいないものの、高2の春頃には、男性機能も低下させ、小さいながらもバストまで獲得してしまった。そしてその頃からふだん学校に行く時でも、女物の下着を着けていくようになってしまった。
 
お店で着換える時も入店以来、ひとりだけ店長室の衝立の陰で着替えていたのだが、この春からは他の女の子と一緒に女子更衣室で着換えることになった。そちらに移動された初日は、和実はおそるおそるという感じで女子更衣室のドアを開けて「こんにちは」と言った。
 
「おお、来たね」
「ここは更衣室だけど控え室みたいなもんでもあるしね」
「和実もここに居た方が連絡事とか楽だから」
などと言われる。
 
初日に着換える時はみんなの視線がけっこう来るのを感じた。スカートを脱ぐ。
「パンティに膨らみとか無いね」
「あったらまずいよ。私たちって、時々不届きな客に触られることもあるしさ。触られても男とはバレない仕様なの」
 
上着を脱いでブラを見せる。
「Bカップくらい?」
「うん。中にヌーブラ付けてるから」
「ああ、ヌーブラの感触だったのか!」
「偽物でごめんねー」
「いや、上げ底派は結構いるよ」
「えへへ」
「でもウェスト細いね」
「というかくびれてるよね。ほんとに女の子みたいなボディライン」
「今64cmだよ。ここに入った時は69cmあったんだけど、かなりダイエットしたから」
「すごーい」
 

元々和実の女装はメイド喫茶のためで、初期の頃は着替え場所に使わせてもらっているチーフメイドの悠子のアパートと職場の間を、女装で往復するだけだったのが、高2の春頃以降はかなりプライベートでも女装で歩き回るようになっていった。その年の春休みには女装でショッピングモールに行っていて女子トイレで小学生の頃からの友人である梓にバッタリ遭遇したが、梓からはあらためて呼び出されることとなり、翌日待ち合わせて町で会った。
 
「そうしてると、ごく普通の女子高生って感じだね」
と梓は感心するように言った。その日はピンクのセーターとジーンズのスカート、薄いピンクのダウンコートを着ていて、お店の中に入ってからダウンコードは脱いだ。
「最近、こういうファッションに目覚めちゃって」
と和実は答える。
 
「ファッションに目覚めたというより、女の子に目覚めたのね」
「あ、それ適切な表現かも!」
「和実って、声変わりしてないよね。だから声は女の子だもんね」
「そうそう。授業中とかはわざと男っぽい声色使ってるけど、こういう声が私の本来の声」
 
「こういう声って女の子同士で話す時だけ使ってるよね。声は女の子だよなというのは前から思ってたし、2学期頃からかな・・・私でもドキっとするくらい、女っぽい仕草を見ることがあって、特に半月くらい前から、凄く女の子っぽい雰囲気になっちゃったよね」
 
「やっぱりバレンタインがきっかけかなあ・・・」
「バレンタインはチョコをあげたの?もらったの?」
「あげた。告白して玉砕した」
「相手は女の子?男の子?」
「もちろん男の子だよ」
「へー」
梓は楽しそうな顔をした。
 
「和実って、元々そういう傾向あったんだっけ?小さい頃のことはあまりよく覚えてなくて」
「何でもお姉ちゃんのしてること真似したがってた時代もあるからね。小さい頃はお姉ちゃんがスカート穿いてるからって自分でも穿きたがったりしたことってあったけど、その頃は別に女の子になりたいとか思ってた訳じゃないと思うのよね」
「今は女の子になりたいの?」
「うーん。むしろ自分は女の子だと思ってる」
 
「なるほど・・・最近けっこう教室で女の子のおしゃべりの輪に入ってるよね」
「うんうん。女の子とあんなに話が合うとは思わなかった」
「でも、こういう女の子の服って、お小遣いで買ってるの?」
「お小遣いでは無理。バイトしてるから」
「へー。何のバイト?」
「メイド喫茶」
「えー!?」
「いや、女装し始めたのはそれが発端なのよ」
「そうだったのか」
 
「びっくりするくらいお給料もらってるし。でももらったお給料は月1万円だけ内緒のお小遣いとして使って、残りは全部貯金してる。先輩から、そうしなさいって勧められんだよね。その先輩は実家の旅館が経営厳しくて、その足しにするのにせっせと仕送りしてるみたい」
「わあ、いろいろ大変だね」
「この携帯に付けてるキティちゃんのストラップ、その先輩からもらったんだ。思い出の品らしいけど、私がちょっと自信失ってた時に御守りにってくれたんだ」
 
「いい先輩みたいね。学校には携帯持って来ないから、気付かれないね」
「うんうん。そもそも私の女の子の服もその先輩のアパートに置かせてもらってるんだよね」
「なるほど。親にはカムアウトしてないの?」
「してない。姉ちゃんにはバレたけど、かえって協力してもらって、一部の服は姉ちゃんの部屋に置かせてもらってる」
「それは便利だね」
 
「うちのメイド喫茶ってさ、ホールスタッフとキッチンスタッフの区別が無いのよね。メイド喫茶といえば、なんといってもオムレツなんだけど、基本的に注文を受けたメイドが自分でオムレツを焼いてテーブルに持って行く」
「面白い」
 
「だから逆に誰誰ちゃんにお願いできる?とか指名されることもあるよ。指名された場合は、その子がその後の対応するけど、別に指名料とかがあるわけではない。オムレツ以外でも、コーヒーや紅茶も自分で入れるから、そういうのの基本を徹底的に鍛えられてる。サンドイッチとかスパゲティも自分で作る。トンカツとかハンバーグは得意な子が作るけどね。だから、スタッフには、将来喫茶店を自分でやりたいと思っているような子が多いんだよね」
「わあ」
 
「私も最初の一週間くらい、ひたすらオムレツを作らされて、かなり鍛えられた。コーヒーは家でもサイフォン・ペーパーフィルターともにやってたし、スパゲティも家で作ってたから最初からアルデンテにできてたから、その辺りでわりとすぐ実戦投入されたんだけどね。今ではハンバーグと焼肉・唐揚げ・フライドチキンにケーキ作りの担当もしてる」
 
「ケーキ、自家製?」
「そうそう。スポンジをスチームオーブンで焼いてるよ」
「すごーい」
「ケーキだけ買いに来るお客さんもいるんだよねー」
 
「ちょっと寄ってみたくなったな。和実のオムレツも食べてみたくなった」
「今度、梓の家にお邪魔して作ってあげようか?」
「嬉しいけど、その格好で来るの?」
「行きたい所だけど、うちの親に通報されそうだから、ニュートラルな格好で行くよ」
「ふふふ」
 
「料理の腕を鍛えたいから、最近家でも夕飯をけっこう作らせてもらってるんだよね」
「おお、すごい」
「今は春休みでこちらにお姉ちゃん帰ってきてるから楽だけど、姉ちゃんが仙台に行っている間はお母ちゃんひとりで御飯作ってたから。去年の9月からお母ちゃんと1日交替で晩御飯作ることにした」
「あ、それは偉いかも。私、全然やってないよ。女の子なんだから料理くらい覚えろって言われるんだけど、カレーとかおでんくらいしか自信無い」
 
「やってればできるようになるよ。ハンバーグとかも最初は全然だめだったけどかなり自信持てるようになったから、お店でもテストしてもらってOKもらったんだよね。きれいに形にまとめるのも、上手にジューシーに焼き上げるのも、けっこう練習が必要だもんね、ハンパーグって」
 

やがて新学期が始まったが、和実はまた梓と同じクラスになったので、教室でよく話をした。梓の他に、やはり1年でも同じクラスだった照葉、中学の時に同級生だった奈津、などともよく話をした。和実が彼女達の会話の輪に入ることもあれば、和実が梓や照葉などと話している時に他の子が寄ってきて会話の輪ができていくこともあった。
 
そういう訳でこの時期、教室では和実は女子の友人たちとおしゃべりしていることの方が多かったが、一方で男子のクラスメイトたちとも割と気軽に話していた。
 
「工藤、女の子たちと話してる時と俺たちと話してる時とで声が違うよな」
と比較的よく話す男子のひとり、近藤君。
 
「うんうん。声はすぐ切り替えられるから。でも雰囲気を切り替えるのは30分くらい掛かるから、最近は面倒くさがってずっと女子モード」
「そうそう。お前と話してると、声は男で口調も男でも、女の子と話してるような気がしてならない」
「ラブレターくれたらデートくらいしてもいいよ」
「いや、本気になりそうで怖いからやめとく」
 
この時期、和実はいつも女性用の下着を着けていたが、体育の時間がある日は少しカムフラージュをしていた。ショーツの上におとなしめのフレアパンティ、ブラジャーの上にグレイのTシャツを着て、女物の下着を隠してはいるが、男子更衣室で着換える時に、他の男子からかなりの視線を感じていた。
 
休日にはよく梓たちと待ち合わせて町で遊んだりもしていた。休日はだいたい12時頃から20時頃までメイド喫茶の勤務を入れていることが多かったので、梓たちとはだいたい午前中に遊ぶことが多かったが、映画などに行くような場合、時間を調整してその時間帯を空けていた。
 
和実は一応学校には学生服を着て出て行っていたのだが、高2の夏に自分の高校の女子制服を購入し、時々それで町を歩いたりすることもあったし、夏休み中はけっこうそれで学校の図書館などに行って本を読んでいたりすることもあった。
 
初めてその制服で学校の図書館にいた時、ちょうど梓がやってきたので和実は手を振った。
 
「誰かと思った!制服買っちゃったの?」
「うん。夏休み中はこれで来ちゃおうかなと思って」
「2学期からはこれで来るの?」
「ううん。学生服で来るよ」
「なんでー?」
「姉ちゃんと約束したんだよね。高校は一応最後まで男子の制服で通学するって。でも今日は通学じゃないからね」
「なんか屁理屈だぁ」
「2学期になってからも、休日とかにはこれで出てこようかなって思ってる」
「まあ、頑張ってね。あ、図書館済んだら、一緒に町に行かない?」
「うん、行こう」
 
そんな感じで、女子制服のまま、梓たち何人かの友人と町を歩いたりすることもけっこうあった。この日のように、学校から町へ流れる場合もあったし、最初から町で待ち合わせるのに、制服で出て行くこともあった。彼女たちとはよくお互いの携帯で写真を撮ったりもしたし、プリクラなどを一緒に撮ることもあったので、和実の女子制服の写真は増殖していった。一方で学生服で写っている写真を和実は意図的にどんどん処分してしまったので、和実が高校時代に学生服で写っている写真は、ひじょうに少ない。
 
その年、和実たちの学校の野球部は頑張って、岩手県大会の準々決勝まで進出したので、その準々決勝を学校全体で応援しに行こうということになった。別に強制でもないし、特に学級単位での行動でもないので、和実は梓たちと誘い合って会場に向かった。
 
「やはり女子制服で来たね」
「当然。学校に来る訳じゃないから」
「和実、声はもともと女の子だもんね。黄色い声援が送れるね」
「うん。頑張って応援しよう」
 
何となくクラスの女子10人くらいで固まって応援していた。途中で担任の先生が回ってきたが、見慣れない女生徒がいても、もともとクラス入り乱れて応援しているので、特に気にされなかったようであった。
 
試合は延長までもつれたが、12回の裏相手選手がホームランを打ち、サヨナラで負けてしまった。「あーあ」と落胆する一同。
 
まとまって応援していた女子10人でそのまま流れで町に出てロッテリアでお茶を飲んだ。和実の女子制服姿を初めて見たという子もいて、「似合ってる〜」とか「違和感が全然無い」とか「2学期からそれで出ておいでよ」などと言われた。
 
「下着も女の子?」
「もちろん。1学期もずっと女の子下着を着けてたよ」
「えー?体育の時間とかどうしてたの?」
「女物の下着の上にTシャツとフレアパンティ付けて誤魔化してた」
「身体はどうなってるの?」
「それは秘密〜」
「解剖してみたいね」
「あはは」
「体育の時に女子更衣室の方においでよ〜。そしたら女の子下着見られてもいいでしょ」
「でも学生服じゃ女子更衣室に入れないよぉ」
「だから女子制服着てればいいじゃん」
「あははははは」
 
2学期になると、和実は実際問題として女子制服を学校に持って行き、しばしば放課後にそちらに着換えていたりもしていた。何人かの先生に見とがめられたが「あ、ジョーク、ジョークです」などと言っておいた。
 

10月の文化祭で、和実たちのクラスと隣のクラスの女子有志でメイド喫茶の模擬店をすることになった。和実は「監修してよ」と言われて、いろいろアドバイスしていたが、オムレツがうまく作れる子が参加メンバーの中に2人しかいないということで、結局、和実も調理場に入って料理担当をすることになった。
 
ふだんの男子制服のまま調理場に入るつもりだったのだが
「だって女子の有志でやるお店だもん。学生服は無いよね〜」
「じゃ、女子制服を着ようかな」
「いやいや、ここはやはりメイド服だよ〜」
「!」
「調理だけで、お店には出なくていいから」
 
ということで、和実はメイド服を身につけることになってしまったのであった。メイド服はイベント企画会社から安価にレンタルしたが、ウェストが64cmと61cmの2パターンで、そのサイズでややきつい子はウェストニッパー付けて頑張るか、などと言っていた。
 
「和実はウェストいくつだっけ?」
「今お店で着ているメイド服は61cm。実はウェスト62くらいあるんだけどね。気合いで着ちゃう」
「細いね。体重は?」
「42kgだよ」
「羨ましい」
 
「あれ、でも和実、春頃一時期けっこう太ってなかった?」
「ああ、ちょっと体調崩して。一時期70kgまで増えちゃったけど、夏休み前には48kgまで落としたよ」
「凄いダイエット」
「身体壊すよ、そんな急激に落としたら」
「うん。その件では姉ちゃんに殴られた」
「殴られて叱られるほどシビアなダイエットしたのか」
 
「だけど和実の身長があれば70kgでも、そんな太った感じにはならないよね」
「BMIが25になるんだよね。一応標準体重の範囲。BMI26になったら肥満。一応67cmのメイド服を着ることができてたからね」
「70kgの体重で67cmが入るんだ!」
「そのあたりは気合いで」
 

当日、模擬店のメイド喫茶は繁盛して、和実はメイド服を着て会場の教室に設置したカセットコンロで、じゃんじゃんオムレツやハンバーグを焼いていた。お昼くらいの時間帯にはかなり混雑したが、14時をすぎると閑散として来たので、スタッフも1人2人と「ちょっと他を見てくる〜」といって出て行く。とうとう和実と梓と、隣のクラスの亜美の3人になってしまった。
 
お客もなかなか来ず、暇なので3人でおしゃべりをしていた。その時和実が「あれ?」
と言った。
「どうしたの?」と梓。
「今、BGMで流れている曲」
「ああ、歌うまいよね。この子たち私たちと同じ高校2年生らしいよ」と亜美。
「何ていう名前?」
「《ローズ・プラス・リリー》というユニットで、この曲は『その時』という曲だよ。曲を提供したのは上島雷太」
「へー。また上島ファミリーが増えたのかな」
「あ、そういう訳じゃないらしい。単に楽曲提供しただけでプロデュースには関わってないって。でもこのメインボーカルのケイちゃんって凄く歌唱力あるよね。きれいな声してるし」
 
「うん。歌うまいし、男の子でここまできれいな高音出せるって凄いね。アルト音域まで出せる人は時々いるけど、ソプラノ音域まで出せる人はレアだよ」
 
「へ?何言ってるの。ケイちゃん、女の子だよ。一緒に歌ってるマリちゃんも」
「え?そうなの?」
 
「このケイちゃんの声をどう聞いたら男の子の声に聞こえるのさ」
「うーん。そう言われると、そうかも知れないけど、この声、やはり男の子の声に聞こえるけどなあ」
「和実、耳を掃除した方がいいよ」と梓。
「まあ、和実の声もどう聞いたって男の子の声には聞こえないけどね」
 

そんな話をしていた時、立て続けに来客があった。最初の客に亜美が応対し、その次の客に梓が対応していた時、更に来客がある。和実は本来は料理専任で接客はしない予定だったのだか人がいないので仕方ない。出て行って挨拶する。
 
「お帰りなさいませ」と言ったが続けて「悠子!」と笑顔で叫ぶ。
「なんだ、あんただったのか!」
と向こうも笑っている。来客してきたのは、和実が勤めるメイド喫茶のチーフ・メイド、悠子だった。
 
「お帰りなさいませ、お嬢様、どうぞこちらのお席へ」
と言って席に案内する。
 
「何かさ、高校の文化祭の模擬店でメイド喫茶やってて、メイドの対応が凄くよく出来ていた上に、美味しいオムレツだったというから偵察に来たんだけど、まさかプロがやってたとはね」
「まあ、余興だから」
と和実は笑って答えた。
 
注文を取って調理場の方へ戻って行ったら、また来客である。そろそろ誰か戻ってきて欲しいなと思う。
「お帰りなさいませ、ご主人様・・・って、先生!どうぞ、どうぞ」
と席に案内する。
 
今度の来客は和実たち2年3組の担任の小比類巻先生だった。
「繁盛してる?」
「お昼時は凄く忙しかったです。今一息付いたところです」
「君は・・・・4組の子だったっけ?」
「あ、私、工藤ですよ」
「え・・・・え〜!?」
「お食事は何になさいますか?」
「あ、えっと。カフェオレとオムレツ」
「ありがとうございます」と言ってメモする。
 
「信じられない。君、そんな衣装が似合うんだね。声も女の子の声だし」
「声は私、これが普通の声です。授業中の声が実は作ってる声です」
「え?そうだったんだ」
 
そんなやりとりをしていたら梓が寄ってきて、和実の肩を抱いて言う。
「先生、和実はほんとは女の子なんですよ。授業中は男装してるんです」
「え?そうなの?」
「そのくらいにしとこうよ、梓。先生信じちゃうよ」と和実は笑って言う。
「え?でも本当のことなのに。和実、最近、ふだんも結構女子制服で校内を歩いてるよね」
「あはは、女子制服のまま授業も受けちゃおうかな」
 
先生はこのやりとりを冗談として受け取ったようであった。
 
おかげで和実はその後けっこう先生の見ている所でも女子制服を着て、放課後に校内を歩いたりしていたが、先生は笑っているだけで、特に何も言われなかった。
 

その年のクリスマスイブは水曜日という最悪の巡り合わせであった。前日火曜日が、天皇誕生日で休日なので、この日にクリスマス会をしたり、クリスマスデートするカップルなども多かったようである。和実たちの学校の終業式は24日に行われた。クリスマスの時期はメイド喫茶は稼ぎ時なので、20日から25日までは大忙しであった。26日の金曜日が臨時休業になったので、デートの予定の無いスタッフで集まって、少し遅めのクリスマス会をした。
 
20歳以上の子がお酒を安心して飲めるように、というので悠子のアパートに集まった。和実はお店のオーブンを借りてケーキを作り持って行った。揚げ物の得意な和奏と聡子が前日に材料を買って仕込んでおき、みんなが集まる30分前に悠子のアパートに行き、フライドチキンを揚げた。悠子もローストビーフを作った。お酒は自称酒豪という利夏が、ワイン好きの恵里香と2人で買い出しに行ってきた。菜々美と紀香は食器を並べたり料理を運んだりしていた。
 
悠子がシャンパン、和実がシャンメリーを「ポン!」という音と共に開けて、みんなのグラスにそそぎ、「メリークリスマス!」といって乾杯する。20歳以上でお酒が飲める子がシャンパン、車で来た子、20歳未満の子、元々飲まない子はシャンメリーである。
 
「でもこのお店も1年半弱。よく続いたなあ。私、すぐ潰れるんじゃないかと思ってたんだけどね」と悠子。
「最初からいるの、私と悠子だけになっちゃったよね」と和実。
「結局、ふつうの喫茶店としてしっかりやってるのが良かったんじゃないの?ショコラって、メイドは半ばおまけみたいなもんだもん」
と和実の次に古株の和奏。
「演出だよね。ビクトリア朝風のインテリアにホワイトブリム付けたメイドって」
と悠子。
「一般的なメイド喫茶には内装が適当で学校の教室にあるようなテーブル並べただけなんてとこもあるからね。ここは凝ってるもん。内装に凄いお金掛けてるし調理器具もビストロ並みだし」
 
「店長のお友達が東京でやってるエヴォンって店もそういう感じだったのよ。喫茶店として本格的なんだ。今はシアトル系カフェ全盛だからね。逆に本格的なコーヒーの味を求める人がこういう所に来てくれるんだろうね」
 
「悠子、そこに以前勤めてたんだよね」
「うん。とっても短期間だったけどね」
「開店当初はオムレツきれいに焼けるの悠子だけだったもん」
「すぐに和実が戦力になってくれたから助かった。私もエヴォンで鍛えられたからなあ。オムレツもコーヒーも紅茶も」
「私たちも鍛えられたね」と恵里香。
「ちゃらちゃらした子はすぐ辞めちゃうもんね。たまに風俗と間違えたような客も来るけど、スタッフ応募の方もたまにそういう子が来るね」
 
「それでさ・・・私3月くらいで辞める予定」と悠子。
「えー!?」
「実家の旅館が厳しくてね。母ちゃんが体調悪いみたいだし。私が若女将になって、実質経営しないとやばいかな、という雰囲気になってきてるのよね」
「ほんと、そちらも大変そうだよね」
「うちの父ちゃんも母ちゃんも経営センスが無さすぎるんだもん。ここ1年くらいは企画とか全部私が立てて、旅行代理店なんかへの売り込みも私が実質的にやってたんだけどね。どんどん私がやることが増えて行って」
「わあ」
 
「それで、私が辞めたら、次のチーフは和実、お願いね」
「えー?」
と和実は叫んだが、他の子たちはパチパチと拍手をしている。
「店長にはそのあたりもう言ってるから」
「でも私まだ高校生なのに」
「年齢とか関係無いよね。料理もいちばんうまいもん」と和奏。
 
「でも悠子が田舎に帰っちゃって、ここが無くなると不便だなあ。私ここにかなり着替えを置いてるし」と恵里香。
「恵里香にしても和実や聡子にしても、ここにかなり服を置いているよね。和実はここがないと女の子と男の子をチェンジする着替え場所に困るだろうし、利夏は完璧にここを宿泊所にしてるしね」と笑いながら悠子。
「だって、酔いつぶれた時、自宅まで帰るとタクシー代5000円かかるもん」
と利夏。
 
「ね、悠子、その場合、私がここ引き継げない?借りてる名義は悠子のままにしておいて、家賃は私が払うの」と和実。
「ああ、それは構わないよ。そうしようか」
 
そういうわけで、このアパートは翌年は和実、その翌年以降は利夏が家賃を払って実質、ショコラの女子寮?のような存在として続いていくのであった。悠子本人も震災後に東京に出てくるまでは、旅館の仕事で盛岡に出て来た時、泊まる場所として活用していた。
 

ショコラは年末は12月31日のランチタイムで営業終了となり、簡単な打ち上げをして解散。その場で、悠子が3月まででこの店を辞め、その後のチーフは和実が引き継ぐことも発表された。実際には悠子は年明けからは出勤率が低くなり年明けから和実が実質的にチーフのような働きをしていた。
 
ただ和実も新しい年は大学受験の年にもなるので、稼働できるのは夏くらいが限界だと思いますということは、店長や他のみんなにも言っておいた。和実は東京の某大学を志望校にしていたので、東京に行ったら、ショコラの店長・神田の友人である永井が経営しているエヴォンという店に行かないかというのも言われていた。永井は何度かショコラに来たことがあったので、和実もあれこれ話して感じのいい人だなと思っていたし、向こうも和実には(性別は承知の上で)好印象を持っているようだということを神田から聞いていた。
 
年末は仙台から姉の胡桃も帰ってきていたので、家族4人でのんびりとした年末を過ごした。ただし姉は美容師の国家試験を控えているので、問題集を必死にやっていたし「冬休み中ならいいよね」と言って、和実を練習台にしてパーマを掛けたりもした。
 
年明けには、和実は「着付けの練習」などと言われて振袖を着せられた。
「美容師の国家試験に着付けの科目もあったんだっけ?」
「ううん。カットとパーマだけ。着付けには国家試験は無いのよねー。作るという話はあるけど。そうだ。私も別の振袖着るから、一緒に初詣に行こうよ」
「僕はいいけど」
と笑って、母の方を見る。
 
「あら、可愛くなるもんだなと思って見てた。せっかくだから行ってらっしゃいよ。振袖なんて着る経験はなかなかできないだろうしね」
などと母も笑って言っていた。
 

父が目を丸くしていたが、その父から車のキーを借りて、胡桃が運転して2人で町に出る。そして駅の近くの駐車場に駐めて、少し歩いたところにある神社にお参りした。
 
「だけど和実、もうすっかり女の子になってしまった感じ」
「あ、時々自分が男の子だったかもというの忘れてる」
「身体はいじってないんだよね?」
「お姉ちゃんと約束したからね。ホルモンも飲んでないし、去勢も豊胸手術もしてないよ」
「手術はしてなくても胸はあるからなあ・・・・」
 
「最近は少し見栄張ってCカップ付けてることが多い」
「ブラ付けたまま学校に行くの?」
「うん。校外活動とかでは女子制服着てることもあるしね」
「女子制服を持っているのか!」
「夏に買っちゃった。あ、そうか。お姉ちゃんに見せてなかったね。友だちの前では披露してる。先生にも何度か見せた。先生はジョークと思ってるみたいだけど」
 
「そっか−。和実、そういう冗談とかをしそうな雰囲気持ってて、深刻さが無いから、真剣に男子制服で通うか女子制服で通うかを悩んだりしているとかには見えないよね」
「あ、そういうの、私は全然悩まない。だから平気で学校でも女子制服着てる」
 
「今の和実見てて思った。あの時約束したことで、男子制服で卒業まで通えってのは、解除してあげるよ。もう女子制服でずっと通いたいと思うようになったら、それで通っちゃってもいいよ」
「取り敢えず、家を出る時と、家に帰る時は男子制服を着ておくことにする」
「なんか、微妙だなあ」
と胡桃は笑った。
 
「お母ちゃんは、薄々気付いてるよね。和実の性別のこと」
「あ。そんな気はする。でもお父ちゃんは知ったらショックかもね」
「うん」
「お父ちゃんは、自分と同じ電気関係の仕事して欲しそうだもんね。
でも私、ハンダ付けもできないからなあ」
「理学部を志望にしてるのは、そのあたりの妥協?」
「素粒子論とかの話が好きだから」
「ああ、あのあたり私はさっぱり分からないわ」
 
お参りをした後で、境内の甘味処で、おしるこを食べていたら、ちょうど梓と奈津が店内に入ってきたのを見た。「梓〜!」と言って手を振った。
 
「和実!なんて可愛い格好してるのよ?」とふたりは近づいてきて言った。
「姉ちゃんに着付けしてもらった。あ、こちら姉ちゃんね。美容師の学校に通ってるんだ」
胡桃が2人に会釈する。奈津は「初めまして」、梓は「御無沙汰してました」
と挨拶した。
「梓ちゃん、すっかり美人に成長したね」と胡桃は言う。
小さい頃は、梓と和実はよく相互の家に遊びに行っていたのである。
 
「でも振袖凄いなあ」
「あ、これ着付け練習用らしいの。ヤフオクで1万6千円だったって」
「へー。振袖がそんなに安く買えるのか!」
「姉ちゃんが今着てるのも似たような奴だよね。姉ちゃん今年成人式だから、成人式用の振袖は別途買ってるんだけどね」
「あれは本番までは着るなって、母ちゃんに言われてるのよ。汚したら大変だからって」
「こういう人混みに出てくると確かに何かの事故で汚したりする危険あるよね」
 
「和実、もしかして自分の成人式でも振袖着る?」と梓。
「もちろん、そのつもりだよ」と和実。
「私、高校卒業したら完全に女の子生活するつもりだし」
「ああ、やはりそうだよね」
「性転換もしちゃうの?」と奈津。
「20歳まではするなって、姉ちゃんには言われてるんだけどね」
「高校卒業したらしてもいいよ」と胡桃は笑って言った。
 
「ねえ・・・和実、私たちと一緒にスキーに行かない?さっき、奈津とふたりで『行こうか』なんて、唐突に計画立てたんだけど」
「いつ?」
「土日は絶対混むよね、ということで5日6日なんだけど」
「あ、それなら行ける。3-4日はお店忙しいけど、月曜火曜なら休めるよ」
「お店はいつから営業なの?」
「一応明日から。でも明日はランチタイムの11時から2時まで3時間限定営業。3〜4の土日は通常営業になる」
 
「よし。あと照葉は当然引っ張っていくとして、弥生と美春にも声掛けてみるかなあ」
「照葉は引っ張っていくのか」
「当然。和実もそうなんだけどね」
「じゃ私が渋っても強引に連れて行かれてたのね」
「もちろん」
 

結局スキーに行くメンバーは、和実・梓・奈津・照葉・弥生・由紀の6人となった。美春は年末に体調を崩したということでパスであった。宿は取れなかったらビバークだね、などと無謀なことも言っていたのだが、幸運にも1部屋取れた。和室で、元々2人部屋らしいのだが「女の子6人で寝れますか?」と聞いたら、布団はたぶん4つくらい敷くのが限界ですが、女の子ばかりなら無理すれば寝れるかもということだったので、それでいくことにした。元々ちょうどキャンセルが1件出たのをドロップキャッチしたようで、学生さんでもあるし部屋代は3人分でいいです、などと旅館側は言っていた。
 
盛岡駅から電車で最寄り駅まで行き、泊まる旅館の送迎バスで旅館に行き、荷物を置いた。早速スキーウェアに着替えて滑りに行く。
 
みんな子供の頃からスキーはしているので、滑るのは得意である。中級コースに行って滑りまくった。由紀だけが、中学まで九州や四国にいて、高校に入る年に岩手に来たのでまだ初心者で、ボーゲンで滑っていた。
 
「町から離れていて少し不便なせいかな。人が少ないね」
「おかげで滑りやすい」
「私も転びやすくていい」
「でも新雪が多いから、みんな気をつけようね」
 
全員携帯は持っているのだが、ここはかなり電波が弱い。通話がつながらないこともあるので、ショートメールで連絡を取りあってお互いの所在を確認しつつ遊んでいた。和実は梓と一緒に初心者の由紀に付いていた。照葉は元スキー部だけあって、中級コースが物足りないと言って上級コースも1度滑ってきたようであった。
 
16時半で日没になるので16時で上がることにして予め決めていた集合場所のヒュッテに集まる。弥生が少し遅れてきたが、全員で16:20の旅館街方面のバスに無事乗ることが出来た。
 
「御飯まで時間あるし、お風呂行ってこよう」
「行こう行こう」
 

6人で、ガヤガヤおしゃべりしながら大浴場に行く。何気なく全員で姫様と書かれた方の暖簾をくぐり、ロッカーを何となく決めて服を脱ぎ始めた時「え?」と照葉が言った。
「ちょっと。和実、何でこちらにいるの?」
「え?だって、私女の子だし」と和実。
「えー?」
 
「じゃ、先に脱いじゃうよ」と言って和実は笑顔で「チャラララララ」などと『オリーブの首飾り』のメロディーを歌いながら服を脱ぎ始める。
 
セーターを脱ぎ、ポロシャツを脱ぐ。キャミソールの胸の所が膨らんでいる。ズボンを脱ぐ。ショーツのところにみんなの視線が集まるのを感じる。無論そこに盛り上がりは無い。キャミソールを脱ぐ。ブラジャーとショーツだけの姿になる。どう見ても女の子のボディラインだ。
 
「きれいな身体付きしてるね!」と弥生が感嘆したようにいう。
 
「へへへ」と言って和実はブラの中からパッドを取り出す。
周囲からホッとしたようなため息が漏れたが、続いて和実がブラを外すと
「えー!!?」
という声をみんな出してしまった。
 
「和実、おっぱいあるんだ!」
「えへへ。小っちゃいけどね」
「ホルモン飲んでるの?」
「それは姉ちゃんとの約束で高校卒業するまでは飲まないことにしてるんだよねー。エステミックスは飲んでるけどね」
「エステミックス?」
 
「あ、知ってる。プエラリア・ミリフィカが入ってるサプリだよね」
「そうそう。コンビニで買えちゃう。でもエステミックスだけではこんなに胸は大きくならないよ。これはちょっと特殊なやり方で作り上げたの。危険なんで、やり方は秘密」
「へー。なんか凄い」
 
「さーて。パンティも脱いじゃおう」
と言って、和実はあっさりショーツも脱いでしまう。
 
「えー!?」とまたみんなの声。
「ふふふ」と和実。
「おちんちん、取っちゃったの?」
「割れ目ちゃんがあるじゃん!」
 
「取っちゃいたいけどねー。それも高校卒業するまではダメと姉ちゃんから言われてるの」
「20歳までダメと言われてたのをこないだ高校卒業したらOKってことにしてもらったんだよね」と梓。
「そうそう」
「でも、それどうしたの?」
「どうもしてない。隠してるだけ」
「隠してる?」
 
「ここではあまり見せられないから、お部屋に入ってから存分に観察して。でも、これなら女湯に入ってもいいでしょ?」
「うん・・・まあ、いいだろうね」
「万一の時は警察に通報してもらってもいいから」
「いや、その時はガードして部屋まで連行してあげるけど」
「ありがとう」
 

他の子も服を脱ぎ、みんなで浴場に入る。取り敢えず和実の性別問題は棚上げにして今日のスキーの話で盛り上がった。
 
「私今日1日でかなり上達した」と由紀。
「ちゃんとクリスチャニアできるようになったもんね、由紀」と和実。
「和実も梓も教え方うまい。私去年もスキー教室行ったけど、全然覚えきれなかったのよね」
「よし、それじゃ明日は上級コースに行こうよ」と照葉。
「それは無茶−」
 
「だいたいあの傾斜を下から見ただけでも、やだーって感じだよ」
「怖くない?あんな急斜面」
「そのスリルがたまらないのよ。ジェットコースターより楽しいよ」
「上級コースはさすがにパス」
 

お風呂から上がった後は、そろそろ食事ということだったので食堂に行き、すき焼き風の卓上鍋の料理にお刺身などの食事を頂きながらまたおしゃべり。
 
「みんなもう志望校決めた?」
「私はお茶の水女子大とかだめかな〜って思ったんだけど」と和実。
「おお」
「やはり入れてくれなさそうだから、今考えてるのが東工大・△△△・□□」
 
「和実、成績上位で安定してるもんね」
「うち貧乏だから、私立は厳しいかなと思ってたんだけど、自分で学資稼げる目処が立ってるから△△△か□□もいいかなって思うのよね」
「だよねー。あのバイト、けっこう時間的な効率もいいんじゃないの?」
「そう。それが一番なのよ。物理科志望だから、あまり拘束時間の長いバイトは学業との両立が難しくなっちゃうのよね」
 
「私も東京に出たいなと思ってる」と由紀。
「子供の頃からあちこち引っ越してきたからね。もう引越ついで」
「由紀も理系だよね」
「うん。東京理科大に行きたいんだけどね。中学の時に尊敬していた先生が東京理科大の出身だったのよ」
「わあ」
「でも今の成績では厳しいのよね」
「それは頑張ろうよ」
「そうだね」
 
「私も東京に出たいんだけどなあ」と梓。
「でも東北大あたりになるかも」
 
「私は順当に岩大狙う」と照葉。
「私も同じく」と弥生。
「私まだ何にも考えてない」と奈津。
「いや、さすがに何か考えないとやばいよ」と照葉。
 

のんびりと御飯を食べ、お茶を飲んでから、部屋に戻った。既に布団が敷いてある。敷布団は4つ、2つずつ向かい合わせで、枕が中央に集まるように敷いてあるが、枕は6つ置いてある。
 
「真ん中に寝る人は、両側から布団を奪われる可能性があるな」
「けっこう争奪戦になる可能性はあるよね」
「あ、でも私奥側の真ん中に寝たい。奥の右手に和実寝てよ」と梓。
「夜中に夜這い掛けやすいように隣に寝るのね」と奈津。
「もちろん」
 
和実は自分の身体のことに配慮して、自分の隣に陣取り、他の子を安心させてくれた梓に心の中で感謝した。奈津もうまいフォローである。結局、奥側が奈津・梓・和実、入口側が由紀・照葉・弥生、と並ぶことになった。
 
「さて、それでは和実を解剖しようか?」と梓。
「あはは」
「みんなで寄ってたかって脱がされるのと、自主的に脱ぐのと選ばせてあげる」
「はいはーい。自主的に脱ぎまーす」
と和実は言うと、まずはセーターとズボンを脱ぐ。
 
「お風呂でも思ったけど、足のムダ毛とか、きちんと処理してるのね」
「ソイエしてるよ」
「あれ痛くない?」
「痛い。慣れたら痛くなくなるかと思ったけど、何度しても痛いよね」
「やはり美しくなるには涙の努力が必要なのね」
「そうそう。涙が出るよね、あれ」
 
次に和実はポロシャツを脱ぎ、更にキャミソールも脱ぐ。
 
「ウェスト62って言ったっけ?」
「60になったよ」
「ひぇー」
「凄いくびれだよね。どうしたらそんなくびれが出来るの?」
 
「徹底的にいじめるの。ウェストってね、甘やかすとすぐ態度がでかくなるんだよね。だから、ゴムウェストみたいな楽な服を着ない。しばしば少し小さめの服を着て、ボディスーツで締めて着る。ウェストニッパーだとお肉が上下に逃げるだけだから、逃げ場を作らないようにボディスーツを着る。でも最大のポイントはやはりカロリーを気をつけることだよ」
 
「やはり基本はそれかー」
「ダイエットの失敗はやはり食事をきちんと管理できないことから来るのよね」
「うーん。耳が痛い」
 
「ということでパッド抜いちゃいます」
と言って和実はブラの中からパッドを抜いてみんなに見せる。
 
「私、まだバストがAカップではきついけど、Bカップだと余る程度のサイズしかないのよね。だから、パッド入れてCカップ。このパッドはシリコン製だから、触った感触がいいのよね」
「どれどれ」
「わあ、これリアルっぽい」
「でしょ。お店の女の子たちとかなり触りっこしたよ」
「ちょっと待て。他の子は本物バストだよね」
「うん」
「女の子のバストを和実触っちゃうの?」
「触るよ。こちらも女の子の意識だから」
「そうか。和実かなりふつうに女の子だもんね」
「女の子同士なら構わないか」
 
「ということでブラ外しちゃうね」
と言って和実はブラを外して生胸を晒す。
 
「ちゃんとおっぱいだよねー」と言って梓が触る。
「私、触られたら触り返すポリシー」と言って和実は梓の胸に触る。
「うっ。まいっか、和実なら。でもこの胸、ふつうに女の子のバストだよ。感触がふつうの子と同じ」
 
「乳首も大きいよね」と奈津。
「うん。シリコン埋め込んだりした胸だと乳首が誤魔化せないね」
 
「ねえ、自分のバスト見て自分に欲情したりしない?」
「私、もう男の子の機能は無いよ」と和実は笑って言う。
「ああ、そうなんだ」
「そもそも、女の子の裸とか見ても同性の裸を見てる感覚だから、別に何も感じないしね。ただおっぱいの大きな人とかきれいな形の人見ると、羨ましくなる」
「ほんとに女の子感覚なんだね」
 
「そして最後、パンティ脱いじゃいます」
と言って、和実は全裸になった。
 
「隠してると言ったね」
「もう開脚しちゃうね」
と言って和実は布団の上に座り、足をM字開脚してみせた。
 
「わあ、大胆な姿勢」
「レスビアンでよければ夜のお相手もするよ」と和実は笑いながら言った。
 
「あ、この割れ目ちゃん、接着してある!」と奈津。
「そうそう。その接着した中に全部隠してるんだよね」と和実。
「うまいねー。ふつうに女の子のお股に見える」
「最初はガムテープで留めてたんだけどね。あれこれ試行錯誤している内にこのやり方に到達した。これ、後ろの開口部の所にあれの先が来てるから、接着したままの状態で、ちゃんとおしっこできるんだよ」
「凄い」
 
「でもこれお風呂に入ったりして、ふやけて外れないの?」
「自宅のお風呂に2時間浸かって試してみたし、夏にはプールに行って1時間半泳いでみたけど、外れなかったよ」
「わあ、プールにも行ったんだ」
「もちろん女子更衣室だよね」
「当然。女子水着を着るからね。水着を着る時は水着用のヌーブラ入れてた」
「ああ、うちの姉貴も水着用ヌーブラ使ってた。粘着するやつだよね?」
「そうそう」
 
「よし、この観察結果を踏まえて、またみんなでお風呂行こう」と照葉。「あ、行こう行こう」と弥生。
 
そういうわけで、一行はまたお風呂に行き、みんなで和実の身体を接近観察や接触観察しながら、1時間ほどおしゃべりした。
 
お風呂から戻ると「おなか空いた」と言い出したメンバーがいたので、温泉街の中にあるのを確認していたコンビニまでおやつの買い出しに行ってきた。
 
「でも女の子に見えちゃう男の子って話では、ローズ+リリーの件はびっくりしたね」
「ほんとほんと。ケイちゃんが男の子だなんて思いも寄らなかったよ」
「でも和実はケイちゃんは男の子じゃないの?って言ってたね。10月頃」
「えー?なんで分かっちゃったの」
「うーん。声を聞いた時、男の子の声にしか聞こえなかったんだけどな。たぶん、私が同類だからだよ」
「ああ、同類だから類推ができちゃうんだ」
 
「私の場合とは逆だけどね。私は元々こういう声だから、自分のこういう性質をカムアウトする前は、わざと男の子の声みたいな雰囲気の声を作って出してたけど、ケイちゃんの場合は、女の子っぽい声を作って出してる気がした。あれはミドルボイスっていって裏声の一種だよ。たぶんまだ変声期に入るか入らないかの頃から、彼女、かなり裏声の発声を鍛えてたんだと思う。あれだけ高い声は変声期が完全に終わってからはなかなかマスターできないと思う」
「相棒のマリちゃんのほうがアルトで、ケイちゃんはソプラノだよね」
「彼女はアルトボイスも持ってるね。曲によって使い分けてる」
 
「ケイちゃんのことは『彼女』と呼ぶんだね」
「だって、身体が男の子であったとしても、中身は女の子でしょ」
「そうか。それなら He じゃなくて She でいいのね」
「和実も She でいいんだよね」
「お願いします。でも私ね、ケイちゃん宛に激励の手紙出したよ」
「わあ」
「レコード会社宛に出したけど、届くといいな。自分も似た立場だから、辛いの分かるけど、めげずにまた再起して素敵な歌を聴かせてください、と書いた」
「私もケイちゃんの歌はまた聴きたいな」
「取り敢えず録音だけしてた『甘い蜜』って曲は今月下旬に発売されるみたいね」
「うんうん。私あれ2-3枚買うつもり」と由紀。
「私20枚くらい買うつもり」と和実。
 
コンビニから戻った後、一同はそのおやつを食べながら22時近くまでおしゃべりを続けて布団に入ったが、布団の中で灯りを消してからも更におしゃべりは続き、結局0時近くになって、1人2人と眠りに落ちていった。最後までおしゃべりしていたのは梓と奈津であったようである。
 

夜中、和実がふと目を覚ますと、隣に梓が居なかった。散歩でもしてるのかな?少し喉が渇いたので、自販機でウーロン茶でも買って来ようかなと思い、部屋の外に出た。廊下を少し歩いて自販機の所に行き、買ってから帰ろうとした時に、外に人影を見た。
 
「梓?」
「ああ、和実」
「風邪引くよ」
「うん。戻ろうかな・・・」
「館内に入りなよ。相談事なら乗るよ」
「うん。実はちょっと悩んでた」
「ロビーにソファーがあったし、座って話さない」
「そうだね」
 
ふたりはロピーに行き、梓は暖かいコーヒー、和実はウーロン茶を飲みながら話す。
 
「梓が悩み事って何だろうなって思ったんだけど、進路のこと?さっき微妙な言い方してたなと思って」
「和実は偉いよね。自分の意志の通りに生きてるもん」
「えー?」
「だって性別を越えるって凄まじく大変なことだろうし、重大な決断をしたんだろうけど、もう完全に越えちゃったよね」
「うん。けっこう塀の上を歩いていた時期あるけど、完全に女の子側に落ちちゃった。でも私は元々あまり悩まないたちだし」
 
「私、自分では東京に出て、△△△大学あたりに行きたいんだけどね」
「親に反対されてるの?」
「そうなのよね。東京は怖いところだ。女の子ひとりではやれないって」
「怖い所もあるけど楽しい所もあるよ。表裏一体だけどね」
「お金の問題もあるんだよね。東京は生活費高いし、さらに私立は学費も高い。もちろんバイトするつもりだけど、それがまた親としては心配みたいで」
「超危ないバイトしてる私が言うのも何だけど、ふつうのバイトもたくさんあるよ。若い女の子なら」
「だと思うのよね」
 
「ね。同じ学校に通う友だちがいたら、少し心強くない?」
「え?」
「梓が△△△に行くなら、私も△△△にしようかな。梓も理学部だよね」
「うん。私は数学だけど。情報科学の方にしちゃうかも知れないけどね」
「私は物理だけど、たぶん隣のクラスくらいにならないかな」
「和実と同じ所なら心強い」
 
「それに東京って昔みたいに一晩掛けて、はつかりで行く所じゃないもん。新幹線で一時間半だよ」
「だよね」
「お金気にしなきゃ日帰りだってできるしね。でもお父さんたちの世代だと東京は夜行列車で行く遠い所という感覚がまだ残ってるんだよね」
「うんうん。むしろ私たちの世代もお金節約で夜行バスで出たりするけどね」
 
「今度、また梓んちに行こうかな。今度は女の子の格好で」
「えー?」
 

翌日はまた朝からみんなでお風呂に行き、朝御飯を食べてから、いったんチェックアウトしてから荷物をフロントに預けてスキーに行き、お昼御飯を挟んで14時頃まで滑ってから引き上げた。電車に乗って夕方18時頃各自の家に戻った。
 
翌日和実は「梓んちに行ってくる」と言って家を出て、途中悠子のアパートで女の子の服にチェンジして梓の家に行った。
 
「こんにちは〜」
「こんにちは・・・・って、え?和実ちゃん?」と梓のお母さん。
「えへへ。最近実は私、ずっとこんな感じになっちゃってて」
「えー!?」
 
和実は梓のお母さんに自分がほとんど女の子になってしまっていることを説明した。
「和実、女子制服を着てることもよくあるよね」
「うんうん。最近放課後図書館とか、それで行っちゃってる」
「もう、なしくずし的に女子高生してる感じだし」
「実は親にはそんなことしてるって言ってないんだけどね」
「でも多分お母さんは薄々気付いてるよ。こないだそちらの家に行った時感じた」
「そんな気はするけどね」
 
梓のお母さんは「でも可愛い女子高生って感じ」などと言って喜んで?いる。梓と並んでいるところを記念写真などと言って撮られた。
 
「でもこないだからふたりで一緒にお菓子作りとかしてたもんね。和実ちゃんの作ったオムレツとかも、凄く形がよくてきれいで」
「最近、私家でも御飯よく作ってるんですよ」
「偉ーい。梓にも少し覚えさせないと」
「でも最近仲良くしてるから、ふたり、恋人になったのかなと思ってたんだけど」
「私たち友だちですよー」
「女友達だよね」
「そうだったのね」
 
「それでですね。今日この格好で来たのは、梓の援護射撃したいと思って」
「うん」
「私、大学は梓が行きたいと言ってる△△△大学の同じ理学部に行きたいと思ってるんです。私は物理学科志望で、梓は数学科志望で、科は違うけど、特に1年生の間は学科の区別がなくて、けっこう一緒に授業受けられると思いますし」
「なるほど。昔からのお友達の和実ちゃんが、同じ所に行くんなら心強いわね」
「私たちが男女だったら、よけい心配でしょうけど、女の子同士ですし」
「そうか。ありがとうね。またあらためて話し合ってみる」
 
「お願いします。今不況だけど、若い女の子のバイトなら、ファーストフードとかファミレスとか、けっこうありますから」
「そうだよねー」
 
その日は和実は梓と一緒にチョコケーキを作った。
 
「美味しい!和実ちゃんお菓子作り上手ね!」
「和実はハンバーグとかも凄く上手に、きれいな形でジューシーに焼くのよ。こないだ、和実んちに遊びに行った時ごちそうになっちゃった」
「すごいわね。和実ちゃんを梓のお嫁さんに欲しいくらいだわ」
 
「ごめんなさい。私、できたら男の人と結婚したいから」
「あ、やはりそうよね」
「一応バイだから、女の子とも恋愛はできますけど」
と和実は笑った。
 
 
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【萌えいづるお正月】(1)