【神様のお陰・愛育て】(5)

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翌週の金曜日。
 
理彩が学校から帰ってきて、一休みし、ネットでゲームをしながら晩御飯を作っている命(めい)、座敷で星をあやしている自分の母と会話をしていたら、玄関にピンポーンという音。「はーい」と言って出ていくと、まどかだった。
 
「こんばんは。珍しい所から入ってきますね」と理彩。
「うん。たまにはこういう所から来てもいいかなと思って」とまどか。
 
「あら、こんにちは。お久しぶりです」
と母も笑顔で迎え入れる。
「先週、まだお母ちゃんたちが出てくる前、高校の友達で集まって結婚と星の誕生のお祝いをしてくれた時も、まどかさん来てくれたんだよ」
「あらら、本当にいつもお世話になってます」
「いえ、お母さんたちには、なかなか挨拶ができなくて」
 
「まどかさんは忙しいからね。ほんとによくあちこち動き回ってるもん」と命(めい)。
「セールスか何かのお仕事なんですか?」
「サービス業だよね」と理彩。
「そうだね。これもサービス業の一種だよね」とまどか。
 
「でね。ちょっと命(めい)と理彩に頼みがあって来たんだ」とまどか。
「何でしょう?」
「これを友達の所に届けてきて欲しいんだけど」
と言って、持っていた紙袋の中の箱を取り出す。
 
「桃ですか?今の時期に珍しいですね」
「でしょ? ふつうは早いものでも来月くらいからだよね。私の親戚でハウス栽培で4月から桃を出荷してるところがあってね。そんな話を別の友達と話してたら、あ、食べたいというので分けてもらってきたんだけど、私自身がたまたま向こうに行くつもりだったからそのついでにと思ってたら急用ができちゃって行けなくなったのよ。それで代わりに行ってきてくれないかと思って」
 
「いいですよ。どこですか?」
「宮崎の青島ってとこなんだけどね」
「宮崎? 九州ですか?」
「うん」
 
「飛んで行くの?」
と命(めい)は転送するのかと訊く。理彩の母がいるので、あまりうかつな言葉は使えない。
「飛行機だとあっという間に着いちゃって面白くないじゃん。新幹線で行って来ない? あんたたち新婚旅行、行ってないでしょ。だからそれ兼ねて。もちろん交通費と宿泊費は出すからさ」
「ああ」
 
なるほど、それが目的だったんだ! しかしまどかにしては親切な。
 
「あら、いいお話ね。行ってらっしゃいよ」
「星はどうする?」と理彩。
「私が面倒見てるよ。赤ちゃんの世話のことは忘れて楽しんできたら?」
と理彩の母が言うので、甘えることにした。
 
「でも泊まりなら朝晩の祝詞が」
「あ、それも私がやるよ。読み上げる祝詞を教えて」
 

まどかはチケットをカードで決済したから、受け取る時にカードがいるからと言って、VISAカードを渡し、「ホテル代もこれで払ってね。他にも何か必要なものがあったらこれで決済して」と言った。
 
翌朝、日出前に家を出て理彩の母に車で新大阪駅まで送ってもらい、まどかから預かったカードを使ってみどりの券売機でチケットを受け取る。
朝一番の「みずほ」に乗る。
 
「私、グリーン車なんて乗るの初めて」
「僕も。あんまり親切すぎて、何か裏があるんじゃないかと思いたくなるくらい」
「そんなこと言ってたら、バナナが飛んでくるよ」
と言うと、ほんとにバナナが飛んできて、命(めい)の頭にぶつかる。
 
「痛っ」
「バナナ、も〜らい」
と言って、理彩は命(めい)の頭に命中したバナナを剥いて食べ始める。
「なるほど、欲しいものがあったらその手か」
「宝石とか言ってみたらどうなるかなあ」
「それやめて。請求書付きで飛んでくるから」
「あ、それは怖いからやめとこう」
 
「でも神様がクレジットカード持ってるとは思わなかった」
「クレカでないと買えないものもあるからね。作るのはどうにもでもして作るでしょ」
「確かにね〜。神様の在確ってどうするんだろう?と一瞬悩んでみた」
 
「Madoka Nishizawaか・・・・」
「西沢さんだったのね」
「たぶんお母さんの苗字なんじゃない?」
『母ちゃんの結婚相手の苗字だよ』と声が響いてくる。
「へー」と理彩と命(めい)は同時に声をあげた。
 
「だけど、こんな感じで旅をするのって、受験の時以来だね」
「ほんと。大学に入ってまもなく僕が妊娠しちゃったし。星連れてはまだ長旅できないよ」
「倍疲れるだろうね。星って、あまり手の掛からない子のような気はするけどそれでも、けっこう私たち少し育児疲れしてたよね」
「うん。けっこう夜泣きはするしね。おっぱいあげるとおとなしくなるけど」
「おっぱい欲しい泣き方とオムツ換えて欲しい泣き方は分かるようになった」
「雰囲気で分かるよね」
 
「でも命(めい)って眠りながら、無意識におっぱい出してお乳あげてるから凄い」
「理彩も自分で産んだらできるよ、きっと」
 
山陽路を西行しながら、少しずつ景色が明るくなってくる。ふたりは朝御飯用に作ってきたおにぎりを食べながら、おしゃべりを続けていた。
 
「だけど、私男の子の命(めい)と一緒に旅したことがない気がしてきた」
「そうだっけ?」
「命(めい)って、村の外に出る時はいつも女の子だったよね」
「えーっと、中学の時に四国に行った時は男の子じゃなかったかな」
 
「あの時、うちの家族と命(めい)の家族と6人で食事に行って、伝票をふと見たら、M2F4って書いてあった。うちのお父ちゃんと命(めい)のお父ちゃんがMだろうから、命(めい)は F でカウントされてたんだよ」
 
「あ、そうだ!大学受検の時は男の子だったよ」
「命(めい)、女子トイレにいたじゃん。つまり女子トイレに入っても誰も騒がないような服装だったということ」
「うーん。。。。」
 

鹿児島中央に10時前に着き、特急「きりしま」に乗り継ぐ。新幹線に乗っている間は、ずっと4時間近く座っているのは辛いので、時々交替で車内の散歩などしていたのだが、「きりしま」の中ではふたりともすやすやと寝ていた。
 
お昼過ぎに南宮崎に着き、日南線の快速に乗り継ぐ。南宮崎に着く5分ほど前に目が覚めたが、「もうすぐ南宮崎に到着します」というアナウンスが流れているのに、列車の外の景色が物凄い山の中なので、南宮崎も凄い山の中の駅なのだろうかと思ったものの、駅到着のすぐ前に開けたところに出たので、ちょっとホッとした。お昼をまだ食べていなかったが、青島まですぐなので、お届け物をしてから食べようということにする。
 
快速「日南マリーン号」に乗って20分ほどで青島駅に着いた。歩いてすぐの所に青島はあった。
 
「これ、どこで渡すの?」
「たぶん行けば分かると思う」
 
島にかかる橋を渡り、回り込むようにして青島神社の鳥居の所まで行き、境内に入る。正面にある拝殿でふつうにお参りをした。
 
「あ、こっちだ」
と言って命(めい)は右手の方にある元宮の方に歩いて行く。そこでまたお参り。すると、左側に外見30代という感じの女性が立っている。
 
「こんにちは。E村のN大神からお届け物です」
と言って命(めい)は持ってきた桃の箱のひとつを渡す。
「お疲れ様。これから鵜戸に行くよね?」
「はい。お昼を食べてから行くつもりでいましたが」
「『お昼食べる前に』、このお酒を持っていって」
「分かりました。持って行きます」
「じゃね」
と言って手を振ると、女性の姿は消えた。
 
「私、まどかさんの出没になれてるから、こういうの見ても驚かない」
「なんか普通だよね。さて、お昼はお預けで、行ってこようか」
「うん」
 

青島神社でトイレに行ってから、水分くらいはよいだろうということで自販機でお茶のペットボトルを買って、13時半の飫肥行きのバスに乗る。30分ほどで鵜戸神宮入口についた。しかしここからが結構長いのである。2km近い道のりを歩く必要がある。
 
ふたりはバス停近くの「荷物預かります」の看板が出ている商店に大半の荷物を預け、お届け物だけをリュックに入れて、約30分の行程を歩いた。
 
「やっと着いた!」
ふたりはやっと鵜戸神宮の鳥居の所まで到着した。
 
「私、とりあえずトイレ行きたい」「僕も」
と言ってふたりはトイレに行く。もちろんふたりとも女子トイレである。今日の服装は、命(めい)は水色のポロシャツに膝上スカート、理彩はライトイエローのポロシャツにショートパンツであった。神様のお使い物を持っているので、個室は充分空いていたが、交替で入り、個室の中にはお使い物を持ち込まないように留意した。
 
「公共交通機関使ってくるのが大変な場所だね」
「まあ、もともと修験者が修行してた場所だもん。やすやすと人が来れる所じゃないんだ」
「もしかして私たちも修行させられてたりして」
「ああ、あり得るね」
 
トイレで人心地ついてから、気を取りなおして、本殿までの道をまた歩く。5分ほど歩いて、本殿のある洞窟に到達する。ここは開口面積の広い洞窟の中に神社が祭られている。今でこそ、参拝のための道が作られているが、昔はお参りするだけでもかなり大変な場所であったろう。
 
拝殿でお参りしてから、裏手に回る。
 
「あ、お乳岩だって。命(めい)、お参りしなきゃ」
「うん」
 
そこでお参りしていたら、右手に若い男性が立っているのに気付いた。
 
「こんにちは」と命(めい)は挨拶する。
「こんにちは」と青年も笑顔で挨拶した。
「E村のN大神から桃、青島大神からお酒を言付かって来ました」
と言って、命(めい)は紙袋ごと渡す。
「お疲れ様です。申し訳無いですが、これを霧島神宮まで持って行ってもらえませんか?」
と言って、青年は日向夏を3個渡した。
「えっと・・・・お昼を食べる前に?」と命(めい)。
「いえ、御飯食べてから、明日でもいいですよ」
「助かります!」と理彩が言った。
 
「そうそう。かわらけを投げて行ってくださいね」
と言って青年は命(めい)と理彩にかわらけの玉を5個ずつ渡して、すっと消えた。
 
「これ、どうするんだっけ?」
「ああ、あそこから投げるんだよ」
と言って、ふたりは運玉を投げる場所に行く。
 
「ほら、あそこの岩に向かってなげるんだ。男性は左手、女性は右手で投げるんだって」
「よし。投げよう」
と言って理彩は1個目の玉を投げるが全然届かない。
「これ届かないよ〜」
 
「全力で投げないと無理だよ。けっこう本気必要」
「よし」
と言って理彩は再度投げるが、やはり届かない。
「うーん」
理彩は3個目をおおきく振りかぶってなげるが、わずかに届かない。
「あ、でも惜しい」
「よし、頑張る」
と言って投げるも4個目はさっきのより手前に落ちた。
 
「最後。もうほんとに全力で」
と言って理彩は少し下がって走りながら投げた。勢い余って手すりにぶつかり、慌てて命(めい)が押さえる。
しかしこの5個目はギリギリで円の中に落ちた。
「やった!」
「当たり〜。で、これあそこに当たると何かいいことあるの?」
「願い事が叶うんだよ。何を願って投げたの?」
「あ・・・・何も考えてなかった」
 
「まあ、そういうものかもね」
「じゃ、命(めい)やりなよ」
「うん」と言って命(めい)が左手で運玉を持つ。
「あれ? 左手で投げるの?」
「だって、僕男の子だし」
「おかしいなあ。命(めい)は女の子だと思ってたのに」
「男の子だよ」
と言って、命(めい)は左手で1個目を投げる。
 
「あぁ、届かない」
「ね、なかなか届かないよね」
2個目、3個目を投げるがかなり惜しいものの、やはり微妙に届かない。
「私みたいに走って投げる?」
「あれ、危ないよ。落ちたらどうするのさ?」
そう言いながら命(めい)は4個目を投げるが届かない。
「ねぇ、無理せず右で投げたら? 女の子なんだし」
「そうだなあ。じゃ1個だけ右で投げよう」
そう言って命(めい)は最後の1個を右手で投げる。
「当たった」
「すごーい。やっぱり、命(めい)は女の子だということなのよ」
「うむむ」
 
「命(めい)は何を願ったの?」
「うちの村が繁栄しますように」
「おっ。個人的な祈りじゃないんだ!」
 

坂道を昇って鳥居の所まで戻る。また交替でトイレに行ってからふたりは道を戻った。疲れているので40分くらい掛けてバス停まで戻る。荷物を預かってくれていた商店で御礼を言って荷物を受け取り、おやつを少し買った。
 
「ありがとうございました!」
「あ、お客さん、これを」
と言って店の人が、小さなお菓子の包みを渡してくれる。
 
「これは?」
「この辺の名物のウイロウです。お客さんたち、神様のお使いでしょ?お勤めご苦労様です。これは御接待です」
「わあ、ありがとうございます!」
「いえいえ、御接待することで、こちらも御利益(ごりえき)がありますから」
とお店のお婆ちゃんはニコニコ顔で言った。
 
「このウイロウ、生ものですから、今日中か明日のお昼くらいまでに食べてくださいね」
「分かりました」
 
お店を出て、バス停で少し待つとバスが来たので乗り込む。40分弱で、ふたりが泊まるホテルの前に到着する。バスの中ではふたりともひたすら寝ていた。
 
ホテルにチェックインする。予約が「西沢」で入っていたので、命(めい)は宿泊カードに「西沢円・斎藤理彩」と記入し、まどかのクレカで決済した。「西沢様宛に郵便物が届いております」というので受け取る。まどかが出したものであろう。しかし今日届くということは2〜3日前に投函したことになる。何を送ってきたのか知らないが、用意周到というか準備万端というかだな、と命(めい)は思った。
 
フロントで、明日霧島神宮に行きたいのだが、どうやって行くのが良いかと訊いてみる。
 
「JRで南宮崎経由で霧島神宮駅まで行くことはできるのですが、その後のバスの便があまり良くないのですよ。もし免許をお持ちでしたら、宮崎空港か宮崎駅までJRかバスで行かれた後、レンタカーを借りて行かれるのが良いですが。宮崎駅からでも空港からでも高速経由で2時間くらいで行きます」
「あ、私、日産レンタカーの会員証持ってる」と理彩。
「それでしたら、宮崎空港にも宮崎駅にも店舗がありますね」
 
理彩はホテルの部屋に入ると命(めい)のパソコンを使ってルートを確認した上でレンタカーの予約を入れた。宮崎空港店で借りて、宮崎駅前店で乗り捨てることにし、6時間借りることにした。
 
「あ、そうだ。まどかちゃんからの郵便物を見なきゃ」
と言って開封してみると、ETCカードだ!
 
「親切だね〜」
「全部計算されているのね」
 
ホテルはビーチが見える素敵な部屋だった。かなり広めのツインである。ふたりは部屋に入ると、まずベッドをくっつけた。ベッドの端に座り、夕方の光の加減が刻々と変わっていく日南海岸の美しい景色を見る。お茶を飲み、頂いたウイロウを頂く。
 
「うー、カロリー、カロリー」と理彩。
「さすがにお腹が空いたね」
「でもこれ美味しい」
「名古屋とか山口のともまた食感が違うね」
 
「でも、なぜ私たちが神様のお使いしてるって分かったの?」と理彩。
「少し見える人には分かると思うよ」
「へー」
 
「あのお婆さんには、命(めい)は男の子に見えたんだろうか?女の子に見えたんだろうか?」
「ああいう人は中身が見えちゃうから、女の子に見えたろうね。もし僕が男装していたとしても」
「ふーん。命(めい)の中身って女の子なんだ?」
「そうだよ。知らなかった?」
「命(めい)、今日は身体は男の子なの?女の子なの?」
「今夜確かめるといいよ」
「よし」
 
一息付いてからシャワーを浴びる。サッパリしたところで地下のレストラン街に食事に行く。中華の店と和食の店で少し迷った末に和食の店に入る。まずは宮崎ワインで乾杯してから、お刺身と天麩羅の盛り合わせを食べる。
 
「結局今日はお昼食べられなかったから2食分食べなきゃ」と理彩。
「うん。でもやはり海の近くに来たらお魚が美味しいね」と命(めい)。
「だけど神様たちの間でもいろいろお付き合いがあるのね。それとも今はお中元か何かのシーズンなのかしら?」
「まあ、色々あるんでしょ。気にしない、気にしない」
 
「だけど、さっきネットで見てたら、青島と鵜戸と霧島、親子孫3代なのね」
「そうだね。霧島がいちばん上で、青島はその子供、鵜戸は青島の子供。神話上の関係はね」
「いろいろ親戚関係があるんだね〜」
 
「でも今日は宿泊カードに斎藤理彩と書いちゃったけど、もし奥田理彩と書いてたら、ちょっと凄いことになってたね」
「ん?」
「『西沢円・奥田理彩』だと、彩の字の前までを読むと『西沢円・奥田理』になって、まるで神様2人で宿泊したみたいな感じ」
 
「先代神様の名前って、奥田理なの?」
「あ、知らなかった?」
「聞いてない。でも奥田って、まさかうちの親戚?」
「そうだよ。理彩の奥田のお祖父さんのお祖父さんが、理さんを産んだ人のお兄さんだよ」
「えー、なんと!」
 
「理さんには人間の妹がいて、その人が宮司さんちにお嫁に行って。今の宮司さんは、その人の曾孫(ひまご)」
「理さんも男の子から生まれたと言ってたね」
「そうそう。その人が理さんを産んだ直後に女の人と結婚して、そのふたりの間に、女の子が生まれてる」
「その女の子が宮司さんちにお嫁に行ったのね?」
「そういうこと」
 
「へー。奥田から宮司の辛島さんちにお嫁に行った人が居たというのは聞いてたけど、それが120年前の神婚に関わってたのか。でも子供を産んだ後、女の人に子供を産ませたってことは男性能力は回復したのね」
「まあ、そういうことだね。でも、その人はおっぱいは出なくて、もらい乳して理さんを育てたらしいよ」
「へー」
「男の身体で子供産むこと自体が無理なことで、おっぱいまでは出るもんじゃないらしい」
「じゃお乳が出る命(めい)はやっぱり、元々女の身体なんだよ、きっと」
「ああ、そうなのかもね」
 
「生理もあるんでしょ?命(めい)」
「そんなのあるわけない」
「じゃ、何のためにずっとナプキン持ってるの?」
「それが自分でも何故かよく分からないんだよね」
「はあ?」
 
食事が終わった後、1階に足つぼマッサージのコーナーがあったので交替でしてもらったら、今日鵜戸で歩いた分の疲れが取れていく感じだった。
 

「新婚旅行初夜だね〜」と言って理彩は命(めい)にキスした。
「もう何度目の初夜か分からなくなった」と命(めい)。
「初心忘れるべからずだよ」
「いいこと言うね」
 
「さあ、お嬢ちゃん、裸になってもらおうか」と理彩。
「ふふ、いいよ。マイダーリン」と命(めい)。
 
命(めい)のおちんちんが立たないので、基本的にふたりはレスビアンモードでセックスするのだが、そこに立たないおちんちんが付いていると、どうにも邪魔になる。そこで最近命(めい)はタックして疑似女性股間にしておくのが常態化していた。
 
最初は松葉でたっぷりとお互いの性感帯を刺激する。そのあと、理彩が上になった正常位とバック、それから1度ディルドーで理彩のヴァギナを責めた後、最後は命(めい)が後ろになった背面座位で締めた。理彩は何度も絶頂に達して大きな声をあげていた。
 
「私、やっぱり命(めい)と結婚して良かったよぉ。他の男の子とでは絶対こんな快感、得られないもん」
「そう。じゃ、**君と別れない?」
「グッ。バレてたかぁ!」
「理彩、全然隠すつもりないでしょ?」
 
「分かった。別れる。でもまだ彼とはセックスしてないよ」
「他の男の子とはセックスして欲しくないね。デートまでは許してあげる」
「うーん。でも、私もしばらく命(めい)1本で行くよ。でも不思議だ。本物のおちんちんより、どうして命(めい)が手で動かす作り物おちんちんの方が気持ちいいんだろ?」
「僕と理彩の相性がいいからだよ」
 
「そうだよなぁ。それ以外に説明がつかん。でも命(めい)はおちんちん使えなくても、ちゃんと気持ち良くなれてるの?」
「女の子はおちんちん無くても気持ち良くなれるでしょ」
「そうか。やはり、命(めい)は女の子なのか!」
「何を今更」
 

翌朝、ホテル前を8時のバスに乗り、宮崎空港前まで行く。レンタカー屋さんに電話をすると、予約していた日産ノートを持ってきてくれた。出発店に宮崎空港店を選んだのは、ホテルからそちらの方が近いことと、こちらが8時から営業なのに対して宮崎駅前店は9時からの営業で、出発が遅くなってしまうからである。
 
理彩の会員証を提示して書類を書き、まどかのクレカで決済する。
 
「念のため、西沢様の身分証明書か何かありますでしょうか?」
「あ、はいはい。学生証でいいですか?」
 
と言って命(めい)は学生証をバッグから取り出して提示する。
「はい、確認しました。ありがとうございます」
 
係員は初心者マークを車の前後に貼った上でノートのパネルの説明を簡単にしてくれた。ETCの場所を聞いて、ETCカードを挿入する。
「霧島神宮に行きたいんですが、カーナビをセットしてもらえます?」と理彩。
「はい、承ります」
 
と言って、係の人が目的地をセットしてくれる。
「高速経由でよろしいですか?ずっと下道で行かれますか?」
「高速経由で」
「かしこまりました」
 
カーナビは機種によって操作が全然違うし、走りながらは操作できないので(ノートの場合、左足で踏むパーキングブレーキと連動している)この際やってもらうのが楽、と理彩は思った。
 
「それではお気を付けて、行ってらっしゃいませ」
と係員に見送られて、理彩は車を出発させた。
 
すぐに理彩が命(めい)に訊く。
「西沢まどかの学生証なんて持ってたの?」
「ううん」
と言って、命(めい)は自分の学生証を見せる。斎藤命の学生証だ。
「でも、さっきは確かに、西沢まどかの学生証だった」
「まあ、そう思い込んだら、そう見えることもあるかもね」
「うむむ」
 
「だけど、その学生証の写真って、女の子にしか見えないよね」
「うーん。。。この頃は女装やめてたんだけどなあ」
「女の子が男の子の服を単純に着たって、女の子に見えるからね」
「うむむ」
 

宮崎ICから宮崎自動車道に乗り、約40分走って日向高原PAでいったんトイレ休憩。それから少し走って高原ICで降りる。そのあと国道223号を走って、9時半頃に霧島神宮の駐車場に到着した。
 
「運転お疲れ様」
「疲れたよ〜。やっぱり山道は辛い。うちの村の道ほどじゃないけどさ」
「少し休んでから帰ろ」
「うん。命(めい)早く運転免許取ってね」
「週明けから自動車学校に通うから」
 
参道を歩き拝殿まで行ってお参りする。
 
「桜がきれいだね」
「うん。でもどこで渡せばいいんだろ?」
「向こうは僕たちを既に認識してると思うんだけどな」
「旧参道の方に行ってみる?」
「いや、境内だと思うんだよね・・・・あ、分かった」
 
命(めい)は御札の授与所の方に歩いて行く。
「こんにちは。家内安全の御守りください」
と命(めい)は30代くらいの巫女さんに声を掛けた。
「はい。700円のお納めになります」
命(めい)は財布から700円出して渡す。御守りを頂く。
 
「それから、これは鵜戸大神からの言付かり物です」
「はい、ご苦労様でした。それではこれを申し訳ないのですが、青島に届けていただけませんでしょうか?お昼を食べる前に」
「了解です」
 
命(めい)は笑顔で巫女さんからお菓子の箱を3つ受け取ると、理彩と一緒に参道を戻る。
 
「巫女さんに変身してるとは思わなかった」
と理彩が言うが命(めい)は指を横にチッチッチという感じで振り
「違うよ。あの人、生き神様だよ。星と同じ」
「えー!?」
「神様と人間の子だよ。いづれ神様になるんだと思う」
「そんなの分かるの?」
「うん」
と命(めい)が平然として答えるので、理彩は『命(めい)って私の見てないものをたくさん見てるのかなあ』と、ふと思った。
 

駐車場に戻り、車の中で少し仮眠してから出発。国道を高原ICに向けて走る。
 
「ねー。命(めい)、ちょっと運転しない?」
「それはダメだよ。無免許で捕まると、今度は運転免許試験を受けさせてくれないからね」
「あ、それはまずいね。しかし今日もお昼抜きかなあ」
「まあ、なるようになれだね」
 
「でも授与所にいた女の人が生き神様なら、あの人がそのうち現役神様になると、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)になるの?」と理彩。
「それは違う」と命(めい)。
「え?じゃ迩迩芸命(ににぎのみこと)?」
「それは全く違う。あの人はあくまで霧島大神。ってあくまで仮の呼び名だけどね。本当の名前はごく限られた人しか知らないし、それを呼んでもいけない。失礼に当たる」
 
「え、でも霧島神宮に祭られているのは迩迩芸命と木花咲耶姫なんでしょ?」
「そのあたりはちょっと言葉では説明できない事情がある」
「むむむ」
 
ふたりの車はお昼前に宮崎ICまで戻り、それから国道220号を南下する。少し渋滞していたので青島に着いたのは1時前だった。車を降りて神社まで行く。本殿にお参りしてから元宮に行き、そこでまたお参りすると、昨日会った女性が姿を現した。
 
「こんにちは。こちらは霧島大神からの言付かり物です」
「ご苦労様」
と言って女性は紙袋を受け取ると、3つ入っていたお菓子の内1つをこちらに返して
「これはN大神に渡してください」
と言う。
「分かりました」
「残り2つは私と鵜戸だけど・・・・」
などと言うので、理彩はまた鵜戸に行くのか!と思ったが、
「今日中にどうも持って行ってくれる人が来そうだから、その人に頼もう」
などと言う。運び屋さんはけっこういるのかな?
 
「それから、これもN大神に献上してください」
と言って、女性は日向夏を1個とマンゴーのたくさん詰まった袋を渡した。
 
「かしこまりました。お菓子と一緒にお届けします」
「よろしく。じゃ、またね。お幸せにね」
と言って手を振ると女性は姿を消した。
 
「その日向夏は、私たちが霧島にお届けしたのと同じ奴だよね」
「誰かが鵜戸から青島に運んだんだろうね」
「やはりお中元シーズン?」
 

ふたりは2時頃宮崎駅前まで行き、車を返却した。ちょうど5時間半借りていたことになる。帰りのチケットは15時半の「にちりん」になっているので、駅の近くの地鶏焼きの店で遅めのお昼御飯を食べる。
 
「わあい、今日はお昼を食べられた」
などと理彩は喜んでいる。
 
その後ふたりは各々の実家へのお土産、それから自分達からまどかへのお土産を買った。まどかの好みそうな感じの甘いおやつを買う。ウイロウも買った。日本酒は売場の人に尋ねた。
 
「宮崎の地酒で人気のものってありますか?」
「焼酎でいい?」
「日本酒がいいんですが。純米酒とかあるといいのですが」
「ああ、じゃ、これかねえ」
と言って出してくれたのを2本買った。祭壇の左右に1本ずつ置くためである。
 
少々荷物が多くなったが、命(めい)が頑張って持って「にちりん」に乗り込む。ハイパーサルーンだ。グリーン車は横3列というゆとりの座席。ふたりは右側の2列並びの席に着いた。座り心地がいいし眺めが素敵だ。
 
「ああ、でも自分達でチケット取って旅行する時にグリーン車なんて多分取らないよね」
「やっぱり、これ新婚旅行スペシャルだよ」
 
列車は日豊海岸を北上する。単調だが、景色が美しい。ふたりは疲れたから寝てようなどと言っていたものの、結局「にちりん」では眠らずにひたすらおしゃべりをしていた。ちょうど大分付近で日没となる。東向きなので日が沈む所は見られないものの、刻々と空の色が変わっていく様子は美しく、ふたりは見とれていた。
 
20時に小倉に着き、「のぞみ」に乗り継ぐ。この車内でふたりは肩を寄せ合ってすやすやと眠ってしまった。
 
誰かに揺り起こされるような感覚で目が覚めると、もう新神戸だった。慌てて降りる準備をする。棚の上の荷物を降ろし、忘れ物をチェック。鏡を見てお化粧の乱れを手早く直す。そして新大阪で降りる。降りる前に理彩の母にメールしたら迎えに行くということだったので、そのまま新大阪で改札を出る。
 
理彩の母はすぐに迎えに来てくれた。ヴィッツの後部座席にはベビーシートを設置して、星が寝ているので、理彩が助手席、命(めい)が後部座席に座る。星が命(めい)を見て泣き出したので、駅を出て少し行った所で脇に駐めてしばしお乳をあげる。それからまたベビーシートに寝かせて出発。15分ほどで自宅に帰還した。
 
ふたりはまず神殿の前に行き、一緒に二礼二拍手一礼してから、左右に宮崎で買ったお酒を並べ、青島の神様から預かった日向夏とマンゴーや自分達で買ってきたおやつなども並べた。
 
「マンゴー随分あるね!」と理彩の母。
「明日、下げてから村に帰る時に持ち帰ってもらえますか?」と命(めい)。
「うん」
 
「霧島でもらったお菓子とウイロウは置かなくていいの?」と理彩。
「あ、それは大丈夫」と命(めい)。
 
命(めい)が再び星を抱いてお乳をあげながら、しばし旅の話をする。
「へー、霧島神宮まで行ったんだ!」
「なんかうちの村に入るのと似たような感じの山道だった」
「ああ、あのあたりは凄いだろうね。全部行ったの?」
「全部?」
「霧島神宮は、噴火の影響で移転を繰り返していて、その経緯で確か5つか6つに別れてるのよ」
「えー!?」
「霧島神宮と書かれた所にだけ行ったけど」
 
などという話をしていた時、玄関のベルが鳴る。理彩が出てみると、まどかだ。
 
「夜分、ごめんね」
「ううん。ちょうど良かった。さっき帰って来た所」
と言って招き入れる。
 
「最初にこれお返しします」
と言って命(めい)はクレカとETCカードを返した。
「それから、これ『お友達』からです」
と言って、霧島神宮の巫女さんからもらったお菓子を出す。
 
「薩摩大使、これ私、好きなのよ。みんなで食べようよ」とまどか。
「あ、今お茶入れますね」と理彩の母が言って、煎茶を入れてくれた。
 
これは簡単に言えば、あんこをかるかんで巻き込んだロールケーキである。命(めい)は授乳しているので、理彩が切り分けて配る。
 
「美味しい。ちょっと面白い食感ですね」
「基本的にはかるかんですね」
「うん。やはり宮崎・鹿児島に行くと、かるかんだよね。向こうで飫肥揚げとか食べた?」
「食べ損ないました。向こうで食べたローカル食は地鶏だけです」
「ふーん。じゃ、来年くらいまた行ってくる? 霧島神宮6箇所巡りとか」
「ああ、やはり」
「6つあるんですか?」
「ああ、やはり5個じゃなくて6個でしたか?」と理彩の母。
「ひとつは合体してるから、5箇所6社だよ。霧島神宮、霧島東神社、東霧島神社、霧島岑神社、狭野神社」
「廻り甲斐がありそうだ」
 
「まあ車でなきゃ廻れないね」とまどか。
「それまでには命(めい)も免許取ってるだろうしね」
「あの道、ひとりで長時間は辛いです」
 
ウイロウの方も開けて食べる。これは元々切れているので便利だ。
「青島のウイロウもいいな。私は山口のも好きなんだけどね」とまどか。
「白と黒、どちらが好みですか?」
「私は黒だな」
「私は白」
とこのあたりは意見が分かれる。
 
「あと、今回は正八幡も宮崎神宮も行ってないしね」
「正八幡?」
「鹿児島神宮とも言う。日本で2番目に古い八幡様さ」
「へー。一番は?」
 
「宇佐八幡だよ。大分の」
「はあ」
「近くにハーモニーランドとかあるよ。星が少し大きくなったら連れて行ってもいいかもね」
 
「男の子が喜ぶかなあ・・・」
「命(めい)の子供だもん、きっと喜ぶよ」
「うっ」
 
「やっぱりオカマって遺伝します?」と理彩。
「ああ、きっと遺伝すると思うよ」とまどかは笑っている。
「今一瞬命(めい)と結婚したことを後悔した」
「あはは。成人式に振袖着るような子になったりしてね」
とまどかは更に笑う。
 
「星の前に、あんたたちこそ来年の成人式は何着るの?」と理彩の母。「私は振袖着るよ、既婚だけど、そこはスルーで」と理彩。
「命(めい)ちゃんは?」
「えっ? 背広かなあ、やっぱり」と命(めい)。
「背広〜!? そんなの持ってないでしょ?」と理彩。
「うん。1着くらいは買っておくかなと思ってたんだけどね。フォーマルな服全然持ってないし」
 
「そんなの許さん。命(めい)には振袖を着てもらおう」
「えー? だって僕男だし、既婚だし、ママだし。振袖着れる条件全然無い」
「既婚でもママでも構わないと思うよ」と理彩の母。
「そうそう。命(めい)は女の子だもん。振袖着なくちゃ」と理彩。
「フォーマルな服が必要なら、女性用のフォーマルドレスとかビジネススーツとか買っておけばいいんじゃない?」と理彩の母も言う。
「だいたい結婚式で白無垢着た人が、今更何言ってんのさ?」
 

翌日。星の世話役を理彩の母と交替するために、命(めい)の母が村から出てきた。理彩が「疲れたから休む」と言って自主休講していたので、4人でお昼御飯を食べながら、成人式の話題をする。
 
「うん、理彩ちゃん既婚でも振袖でいいと思うよ」
と命(めい)の母も言うので、そちらはそれで決まりの感である。
 
「命(めい)も振袖を着ようよ、と言ってるんですけどね」と理彩が言うと「ああ、それでいいんじゃない」と命(めい)の母も言った。
「命(めい)ちゃん、以前一度振袖着てもらったことあるけど、可愛かったね」
と理彩の母。
 
「あ、これだよね」と言って理彩が棚からお花の会のパンフレットを取ってくる。「さっと出てくるところが凄い」と命(めい)は呆れて言う。
「命(めい)の可愛いショットはきれいに整理してるから。これ大元のInDesignのファイルのコピーも私のパソコンに保存してるよ」
「ははは」
 
「背広なんて必要ないですよね?」
「必要無いでしょ。命(めい)がサラリーマンやる姿なんて想像できない」
と命(めい)の母。
「お母さんもこう言ってるし、ちゃんと女として生きて行こう」と理彩。
「えーん」
「もし、大阪とか奈良とかで女として就職できなかったら、村に帰ってきて畑買って耕せばいいよ」
「あ、大阪は結構いけると思うよ。女として受け入れてくれる所あるよ」
 
「僕、男として就職するつもりでいたけど」
「無理無理」と母。
「男として履歴書出したら性別詐称ですよね〜」と理彩。
「ほんとほんと。どっちみち今年くらいに性転換手術するんでしょ?」
「しないよ〜」
「あら、妊娠中に性転換手術するわけには行かないなんて言ってたから、出産が終わったところで手術するつもりなんだろうと思ってたのに」
 
「私切ってあげようか?命(めい)は私と結婚したんだからヴァギナは不要でしょ? おちんちんとタマタマ取るくらいなら、私にもできるよ。麻酔くらい掛けてあげるから。どうせなら休学中に切れば、復学する頃までには傷もきれいに治ってるよ」
「あら、いいわねえ、お願いしたら?」
「やめて〜」
 

その夜。
 
理彩の母は夕方の電車で村に帰り、命(めい)の母は2階の寝室で寝ている。星は座敷に置かれたベビーベッドですやすやと寝ている。
 
命(めい)と理彩はリビングに布団を敷き、お風呂に入ってきて、今から愛の儀式を始めようとしていた。ふたりとも裸だ。理彩がEカップの命(めい)のバストを撫でていたら、唐突にまどかが現れた。
 
「あっと・・・今から私たち、あれなんですけど」と理彩。
「うん。それやりやすいように、命(めい)を女の子に変えてあげるね」とまどか。
「え?」
と言っているうちに、もう命(めい)の身体は女の子になっている。
 
「ん? これはタックじゃなくて、本物の割れ目ちゃんだ」と理彩。
「ちゃんと、ヴァギナもあるはずだよ。じゃ、楽しんでね〜」
「あ」と命(めい)がいう間もなく、まどかは姿を消してしまう。
 
「おお!これは素敵だ。やっぱり私の勘違いじゃなかったのね。命(めい)ってしばしば女の子の身体になってるよね?」
「うん、まあ・・・」
「それで生理用ナプキンも使うんでしょ?」
「えっとね。女の子の身体にならなくても、生理はある。僕の身体自体が実はほとんど女の子で、男性器はお義理でくっついている感じなんだよね。だから男の子の身体のまま、生理は出てくるから、生理中はナプキン付けてる。僕の生理周期は理彩の生理周期とほとんど連動してるよ」
 
「へー、ああ、生理は移るってやつか!」
「そうそう。これだけ密着してるとね。中学生の頃までは、ずれてる時もあったけど、高校になってからは、僕たち密着度が高くなったから、ほぼピッタリ合ってるよ」
「そうだったのか・・・命(めい)がナプキンを何に使っているのかというのはずっと謎だったんだ。ちゃんと生理に使ってたのか」
 
「僕って、胎児の時に男性ホルモンの分泌が悪かったんだって。生理周期って男女とも本来あるものが、男の子の場合は胎児の時の男性ホルモンの作用で破壊されてしまうのだけど、僕の場合はその破壊が起きなかったらしい」
 
「へー。生理っていつ頃からあるの?」
「理彩に初めて生理が来た日の2日後に、僕にも生理が来たんだよ」
「小学生の時からあったんだ!」
 
「僕に生理があること知ってるのは、お母ちゃんだけ。ナプキンを部屋に置いてたら当然見つかるから。事情を話して、そのあとはお母ちゃんがナプキン買ってくれるようになった。男の子がナプキン買ってたら変に思われるよと言われて」
 
「いや、命(めい)は女の子にしか見えないから問題無い」
「うーん。そうかも。でも僕が妊娠したことを自然に受け入れてくれたのは僕に生理があることを知っていたからかもね」
 
「なるほど。でも今日は純粋にレスビアンで楽しめるね」
「そうだね」
 
その夜は理彩が異様に燃えて、いろいろ体位を変えつつ結局6時間くらいやっていた。最後はもう明け方に掛かってしまったので「私、今日も自主休講」などと言って寝た。命(めい)も疲れ果てて、朝の祝詞をあげた所で寝た。
 

起きたらもう11時だった。
 
「あんたら、起こしても起きないから放っといたよ」と命(めい)の母が言う。
「ごめーん」
「星には朝1度ミルクあげたから」
「ありがとう」
「星が泣いても起きないなんて珍しいね」
「うん。僕も今日はちょっと熟睡してた」
「まあ、若いし、たくさんしたいんだろうけど、平日は少し控えた方がいいよ」
「肝に銘じます」
 
命(めい)の母が買物に出かけたら、まどかが現れる。
 
「昨夜は楽しんだ?」
「楽しみすぎです。これ凄くいい。このまま命(めい)を女の子のままにしておいてください」
「それは困る。まだ僕は男を辞めたくない」
「いや、命(めい)はとっくの昔に男を辞めている」と理彩にもまどかにも言われる。
 
「まあ、時々女の子に変えてあげるよ。そのうち子作りが終わったら、完全な女にしてあげるし」
「ああ、いいかも」と理彩。
 
「それまででも必要な時は、いつでも女の子にしてあげるから、命(めい)は性転換手術を受ける必要無いよ」
「そっかー。私、命(めい)のおちんちん切り落としたかったのに」
「理彩、あんたは一度命(めい)のおちんちんを切り落としてるよ」
「えー!?」
「小さい頃のことだから、忘れちゃったかもね」
「全然記憶無いです」
「僕、それかすかに覚えてる。おちんちんが切れて転がってて、嬉しいけど痛くて」
「やはり切られて嬉しかったのか」と理彩。
「ふふ。でも私がくっつけちゃったからね」とまどか。
 
「でも、命(めい)って、結局そもそもヴァギナ持ってるんですよね?」と理彩。
「そう。性転換手術しようとしてメスを入れたら、お医者さんびっくりするだろうね」
 
「星を出産した時も、帝王切開でお腹を開けたら子宮が存在してたから、お医者さん、驚いてました」と命(めい)。
「そりゃ、子宮が無きゃ妊娠できるわけないさ。でも子宮を見たという記憶は、お医者さんからは消してあるから」
「ふーん」
 

「成人式の服は決まった?」
「決まりです。ふたりとも振袖です」
「うん。楽しみにしてるよ。ふたりの成人式の時は、私も振袖着てこようかな」
 
「・・・・まどかさん、成人式してないですよね?」と命(めい)。
「まあね」
 
「僕たちと一緒に成人式しません? ちょっと年齢3倍だけど」
「女の年齢のこと言うと、マウスが飛んでくるよ」
とまどかが言い、テーブルに置いていたパソコンのワイヤレスマウスが飛んできて、命(めい)の頭に当たる。
 
「痛たたっ。もっと痛くないものにしてください」
「でも、それもいいかな。私も成人式しちゃおうかな」
 
「一緒に振袖着ましょうよ。まどかさん、見習い期間が終わって正式に神様になったんだもん。成人式をするのにふさわしいタイミングですよ」と理彩。
「そっかー。そういう考え方もあるよね」
 
まどかはちょっと楽しそうな表情を浮かべていた。
 
まどかは帰り際に命(めい)の身体を男の子に戻した。それと同時に、命(めい)が女体であった間の、命(めい)と理彩の記憶も消える。(正確には消去されるのではなく、その記憶を再生するための暗号鍵が分からなくなってしまうらしい)
 
理彩は、命(めい)の生理用品の謎が解け、性転換手術をさせる必要がないことも理解した記憶だけがあったが、どう謎が解けたのか、なぜ命(めい)を性転換する必要がないのかは、忘れてしまって、記憶の矛盾に悩んでしまった。
 
しかし来年の成人式に理彩と命(めい)とまどかの3人で一緒に振袖を着る約束をしたことは覚えていた。
 
 
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【神様のお陰・愛育て】(5)