【神様のお陰・愛育て】(3)
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(c)Eriko Kawaguchi 2012-07-18
出来あがったのはメイクを始めてから1時間後だった。
「ト、トイレ〜」と言って命(めい)はトイレに飛び込んでおしっこをし、ほっと溜息をついた。メイクって大変だぁ!I
10時半に命(めい)のアパートを出てモノレールで理彩のアパートに移動する。そこで命(めい)とお揃いのイヤリングを付けて、梅田に出る。少し遅れそうなので春代にメールで連絡を入れた。向こうも少し遅れそうという連絡。
待ち合わせ場所についたのは、約束の時間の10分後だったが、春代と香川君はその5分後にやってきた。4人でスカイビルに行きカジュアルなレストランに入った。
「斎藤、凄い美人になってる。最初、一瞬誰だっけと思った」と香川君。
「素でも命(めい)って可愛いけど、お化粧すると、凄い美人になっちゃうねー」
と春代。
「1時間掛けてフルメイクされた」と命(めい)は笑いながら言った。
「睫毛は100回くらいマスカラ塗ったからね」と理彩。
「バストもかなり大きいね。もう豊胸手術しちゃったの?」
「そんなのしてないよー。これはブレストフォームだよ」
「ほんとに? 触っていい?」と春代は言って、命(めい)のバストに触ってくる。
「凄いリアル。とてもフェイクとは思えないなあ。時間があったら温泉にでも連れて行って解剖したいところだけど」
「温泉なんて入れないよー」
「確かにこの身体では男湯には入れないだろうけど、女湯に入れるでしょ?」
「ああ、命(めい)は間違いなく女湯に入れるよ」と理彩。
「命(めい)きっと高校卒業したら、完全に女の子になっちゃうね、なんて拓斗と話してたんだけど、やはりそうなってるみたいね。もう学校にも女の子の格好で行ってるんでしょ?」と春代。
「まさか。行ってないよ。男の子の格好で出て行ってるよ。僕は高校卒業したら女装も卒業するつもりだったんだけど」と言うが
「それ、絶対無理と私は主張してる」と理彩。
「あ、同意、同意」と春代も香川君も言う。
「命(めい)は今年中にはおっぱい大きくして、来年には去勢して、再来年には性転換して、その翌年には赤ちゃん産む、と私は予想してるんだけどね」と理彩。
「いや、おっぱい既に大きくしてないの? マジで。おちんちんも既に無かったりして」
「どうだろう? 先週裸にしてみた時は胸は無かったし、おちんちんはあったけど、その後手術してたら分からないな」と理彩。
「普通に男の子だけど」と命(めい)が言うが
「いや。絶対普通の男の子じゃない」と3人から言われてしまった。
途中でドトールに移動して会話を続ける。ドトールで席についた時、命(めい)が持っていたシステム手帳から、挟んであった封筒が落ちた。
「何?それ」
「あ、こないだの健康診断の結果かな」
「どれどれ。私がメディカルチェックしてあげる」と言って理彩が勝手に開封する。
「あれ〜、赤血球値が低いね」
「そう?」
「うん。女子だと月経があるからどうしてもこのくらいになるけど、男子はもう少し高くなるんだよ、普通。あ、鉄分も低い」
「ねぇ、命(めい)っていつもナプキン持ってるよね」と春代。
「まさか、月経があったりして」
「まさか!」
「身長162cm 体重48kg か・・・痩せすぎだよね」と検診結果を覗き込んで春代が言う。
「ほんとほんと。BMIが18.2だもん。私が身長158cm 体重48kg で体重が同じだから、服が共用出来るんだけどね」
「理彩のBMIは?」
「えっと19.2かな」
春代はしばらくその報告書を見ていたが、突然「そのこと」に気付いてしまった。
「ねぇ。。。。命(めい)の性別が女になってるんだけど」
「え? あ、ほんとだ」
「まさか、命(めい)、女子として診断受けたの?」
「えー? そんなことないと思うけどなあ。。。多分」
「そういえば、去年1日入院した時は、お医者さんから診察とか受けていたのに女性と思われていて、診察券も性別 F で発行されてたね。病室も女病室に入れられて尿器も女子用を使っていたらしいし。健康診断くらい女で押し通せるかも」
「あはは」
「俺、前々から疑問に思ってたんだけど」と香川君。
「斎藤って、女の子みたいな男の子と思っていたんだけど、それでは説明出来ないことが多すぎてさ」
「うん」
「実は本当は女で、男のふりをしているだけ、なんてことは?」
「もし、そうだったら凄いね!」
4時頃、理彩が彼氏と待ち合わせていると言って、1人離脱した。それを見送って春代が言う。
「なんで行かせるの?」
「だって・・・・」
「命(めい)、理彩のこと好きなんでしょ? ダメじゃん、他の男とデートなんかさせたりしちゃ。セックスしちゃったらどうするの?」
「もう6-7回セックスしてるはず」
「平気なの?」
「平気じゃ無いよう。辛いよう」
と言って命(めい)は目から涙が出てくる。
春代は命(めい)をハグしてくれた。香川君がそばでポリポリと頭を掻いていた。
「命(めい)、しっかりしなよ。自分が大事なものは絶対手放しちゃダメ」
「うん」
「理彩が他の男とデートするのが許せない気持ちがあるなら邪魔しちゃいなよ」
「そうだよね」
命(めい)は涙を流しながら頷いた。
水曜日の晩。命(めい)はその日も理彩の「デート生中継メール」に悩まされていた。そして「ホテルなう」というメールにとうとう爆発した命(めい)は「帰って来い、この浮気女!!(`´#) 」と返信した。
そしてあまりの怒りに料理用に買っておいたブランデーを一気のみすると命(めい)は台所で倒れてしまった。
ふと目が覚めると23時だ。
少し眠ったことで少し気持ちが落ち着いた感じもする。シャワーを浴びてから取り敢えず寝るかと思ったら、玄関のドアを叩く音。
何だ?と思い「どなたですか?」と声を掛けると「私。入れて」という理彩の声。
ドアを開けて中に入れる。
「どうしたの?」
「帰って来いってメールされたから帰って来た」
「ふーん」
「▽▽とは別れた」
「別れ?」
「うん。恋愛関係解消」
「そう」
「こないだ土曜日にケンカしたってのは言ったでしょ?」
「うん」
「そのあと日曜日の晩に話し合って、いったん仲直りしたんだけど」
「ほお」
「今日ドライブデートしてホテルに行って、Hして休んでたところで命(めい)のメールに気付いて」
「うん」
「それ見てたら、▽▽にもその文面読まれちゃって」
「うん」
「誰だよ?これって言われて。友達だって言ったけど信用されなくて」
「そりゃ信用しないだろうね」
「それ話している内に、こないだのケンカも再燃しちゃって、もう別れようということになった」
「ああ」
「ホテルからは自分ちよりここの方が近かったから、ここまで歩いて来た。ここまでも1時間掛かったけど」
「タクシーとか呼べば良かったのに」
「お金1000円しか持ってなかったから」
「デートする時は普通もっと持ってかない?」
「いや、彼が全部払うと思ったし」
「それは男に依存しすぎ」
「そうかなあ。何だかお腹が空いちゃった。命(めい)、何か食べさせて」
「カレーでよければ」
「命(めい)の作ったカレー大好き」
盛ってあげると、美味しそうに食べている。命(めい)は甘い紅茶を入れてあげた。
「あ、紅茶も美味しい。命(めい)は料理もお茶入れるのもうまいなあ」
「そう?」
「だけどドライブデートは気持ち良かった」
「へー」
「うん。何か楽しいよ。私も運転免許取りに行こうかな」
「いいんじゃない?」
「夜の高速を走るのってきれいでさ」
「ふーん」
しばし理彩は▽▽君との「思い出」を語る。命(めい)はさすがに少しイライラしてきた。30分くらい彼氏との楽しかったことを語った上で
「でも命(めい)のメール、嬉しかったよ。やっぱり私を愛してくれてるんだなあ、と思って」
などとぬけぬけと言う。命(めい)は怒りを抑えて
「僕はいつでも理彩のことしか考えてないよ」
と言った。
「えへへ。浮気してごめんね。ああ、でも少し眠くなってきた」
などと言う。
「あ、布団敷いてるから、勝手に寝て。僕はもう少し勉強してから寝るから」
と命(めい)が言うと
「命(めい)〜。今日はセックスさせてあげるよ」
などと言い出す。
「僕は別に今日はしたくないけど」と命(めい)は言うが
「え〜ん。セックスしようよ〜」と言って理彩は命(めい)に抱きついてくる。
「理彩、さっき▽▽君とセックスしたんじゃないの?」
「だって彼とは1晩に1回しかできないんだよ〜。前戯とかもほとんど無いし。命(めい)ならたっぷり前戯してくれるじゃん」
「僕の方がいいんだったら、浮気しなきゃいいだろ?」
「だって、いろんな男を体験してみたいんだもん」
「じゃ、誰か他の男を探してみたら?」
「あ〜ん、邪険にしないでよ」と言ってキスして来ようとするので、命(めい)は拒絶した。
「他の男とセックスした直後に僕としようとするなんて信じられない!」
と命(めい)はとうとうマジで怒った。
「じゃ、どうすればいいの?」
「最低シャワーくらい浴びて。それから、ヴァギナもビデで洗って」
「え?ちゃんとコンちゃん付けさせたよ」
「カバーが付いていても他の男のを入れたヴァギナをそのまま使って欲しくない」
「分かった。じゃシャワーしてるから、命(めい)、コンビニでビデ買ってきてよ」
「いいよ」
「あ、ついでに、おやつも」
「いいよ」と命(めい)は少し呆れ気味に言った。
「下着出しとくね」と言って命(めい)の部屋に置いてある理彩の下着を渡してから、着替えてコンビニに行き、ビデと理彩の好きなおやつを買ってきた。理彩はシャワーを浴びているので、お風呂場のドアをノックして開けてからビデを渡す。
理彩はやがてバスルームから裸で出てきた。
「ちゃんと中まできれいに洗ったよ〜。すぐ脱いじゃうし、下着は朝付ければいいよね?」
「そうだね」
「あ、私の大好きなティラミスだ。命(めい)好き!」
と言ってキスする。今度は命(めい)も素直にキスを受け入れた。ティラミスが『大好き』で自分は『好き』というのは少し引っかかったが。
命(めい)がお茶を飲んでいる間に理彩は裸のままティラミスを美味しそうに食べる。命(めい)は微笑ましくそれを見ていた。
「美味しかった! 次は私を気持ち良くして」
「いいよ」
ふたりはキスをする。今食べたティラミスの味が理彩の口の中から伝わってくる。命(めい)は理彩を誘うように一緒に布団の上に横になった。
その晩は時間も遅いし短めにということで、正常位で1度やった後、指で理彩を逝かせ、その後バックで再度結合したあと抱き合ったまま寝た。
27日の金曜日は、命(めい)たち「大阪組」、春代たち「神戸組」に愛花たち「京都組」の合計8人が集まって「女子会」をした。女子会といっても香川君が入っているが、男の子1人くらいは構わない。命(めい)も「僕も男だけど」
と主張してみたが、スカート穿いてバストも大きくてお化粧までしていて男を主張されても困ると言われた。
和歌山の正美も誘ったのだが、どうしてもその日は都合が付かないということで8人での寄り合いになった。
「正美はもう女の子の服で大学に通ってるらしいよ」
「わあ。じゃ、そのうちおっぱいとか大きくしちゃうのかなあ」
「本人は身体までいじるつもり無いなんて言ってたけど、いつまで我慢出来るだろうね」
「命(めい)はもう完全性転換済みなんでしょ?」
「何もいじってないよぉ」
「嘘嘘。男の身体でその雰囲気はあり得ない」
「命(めい)が男の子の身体なのか、女の子の身体なのか、私が占ってあげる」
と言って小枝がタロットカードを取り出した。シャッフルしてから命(めい)に1枚引かせる。
出たカードは『女司祭』だった。
「やはり女の子の身体になってるね。78枚もあるカードの中からよりによってこのカードを引いちゃうところが凄いけどね」
小枝は更に補助カードを展開していく。2枚目『恋人』3枚目『女帝』4枚目『吊し人』5枚目『星』6枚目『太陽』。小枝は無言だ。
「どうしたの?」と春代が訊く。
「いや、大アルカナばかり出てくるのも凄いんだけど、このカードの展開だとさぁ。命(めい)は結婚して、妊娠して男の子を産むって感じなんだけど。それも1年程度以内に」
「えー?」
「女帝も吊し人も妊娠を現すのよ。女帝は妊婦、吊し人は胎児。ほら、胎児って頭を下にしてるでしょ。このカード胎内の子供を現してるんだ」
「へー」
「星は新しい命(いのち)、そして太陽は子供、特に男の子」
「いや、命(めい)なら、妊娠出産もあり得る気がした」
「その前提として、今は既に女の身体になっていると思うんだけどね」
「そもそも命(めい)の体臭って女の子だよね」
「あ。それは高校時代から思ってた」
「私は高校時代に既に性転換済みなんじゃないかと疑ってた」
「だって、いつも女子トイレにいたし、女子用スクール水着で泳いでたし。うまく誤魔化して女子用水着を着てるとは言ってたけど、あのボディラインって、男の子の身体ではあり得ないと私は思ってた」
「私、プールの中で命(めい)に接触したけど、どう考えてもあれは女の子の身体だった」
「私も廊下で命(めい)にぶつかった時、確かにバストの感触があって、あれ?と思った」
「命(めい)ってナプキンいつも持ってたね」
「私命(めい)からナプキンもらったことある」
「あ、私は命(めい)にナプキンあげたことある」
「命(めい)の病院の診察券見たことある。性別 F になってた。病院の診察券が F って、お医者さんに身体を見られても女の子だってことでしょ?」
「命(めい)は大学の健康診断も女子として受けたみたいなのよね」
理彩はみんなが「命(めい)が女子であるという証言」をするのでニヤニヤして聞いている。理彩も知らなかったこともいくつかあったようだ。そして理彩はおもむろに自分のiPhoneを取り出すと、中に入っていた写真をみんなに見せる。
「じゃ、命(めい)の性別判定資料としてこの写真を」
「可愛い!」
命(めい)が覗き込むと、自分の下着写真だ。
「ちょっとー、そんなの見せないでよ」と命(めい)は抗議するが理彩は「いいじゃん、可愛いものはみんなで共有」などと言っている。
「ボディラインが完璧に女の子」
「ね、おっぱいあるよね、これ」
「お股のところ、どう見ても付いてるようには見えない」
「これ高3の夏休みの写真だよ」
「じゃ、その頃はもう既に女の子の身体になってたのね」
「命(めい)、20歳過ぎたら戸籍の性別も変更できるんだよ」
「でも、理彩、命(めい)と結婚出来なくなっちゃったのね」
「あ、大丈夫。私レズだから」などと理彩は言う。
「だから、命(めい)は戸籍の性別は敢えて変更せずに私と結婚してくれるのよ」
「ああ、なるほど!」
そういうことで、命(めい)がとっくの昔に性転換済みであるというのが、このメンバーの中の共通認識になってしまった!
「以上の経緯を以て当委員会としては命(めい)は女子の身体になっていると結論付ける」と百合が言う。
「この決定に異議がある場合は、今すぐこのメンバーの中の誰かと一緒にトイレに行き、服を全部脱いで、身体を見せて男であることを証明すること」
「いや、それはちょっと」
今日は週末なので命(めい)は実際に女体になっている。見られたらむしろ女であることを「確認」されてしまう。
「では、命(めい)は間違いなく完全な女性である、ということで」
と百合は楽しそうに言った。
女子会の途中で命(めい)がトイレに立った時、個室から出てきたところでちょうどトイレに入ってきた春代と遭遇する。そのまま手洗場の前で少しだけ話す。
「ね。。。マジで命(めい)、女の子の身体になってない?」と春代。
「あ。ちょっとそれは秘密があってね。でも手術とかはしてないし、ホルモン飲んだりもしてないよ。僕は理彩と結婚出来なくなるようなことするつもりは無いから」
「そのうちじっくりと追求したいな。で、理彩とはどうなってる?」
「彼氏とは別れてくれた。僕がデートの最中に『この浮気女!』ってメールしたら、それがきっかけで彼と喧嘩別れしたみたい」
「うん、そのくらいやっていいよ」
「でも、まだまだ浮気する気満々」
「命(めい)、良い子でありすぎるのよ。もっと怒っていいんだよ」
「そうだよねー。次からはもう徹底的に邪魔するべきかなあ」
「次からって・・・・また浮気されることが前提なの?」
「えーっと」
「もっと頑張りなよ」
「うん。ありがとう」
その翌日は今度は大学の同じクラスの女子たちと、鶴見緑地プールに出かけた。その日は女子更衣室も使うしということで、リボンタイの付いた水色のブラウスにマリンブルーのフレアースカートなどという出で立ちで最寄り駅の集合ポイントまで行くと「可愛い〜」「女らしい〜」「女の子にしか見えない」という声が上がる。
「連休明けからはこれで学校に出ておいでよ」
などとも言われるが「そのうちね〜」と、かわしておいた。
一緒に入場して続き番号の女子更衣室の鍵7個をもらう。一緒に更衣室に行くが、水着は家で付けて行ったので、更衣室では上の服を脱ぐだけである。
「凄い。完璧女の子ボディ」
「ウェスト細い」
「性転換手術済みだよね? それでもここまでの体型を作るには物凄い努力したんだと思うけど」
「私も見習いたーい」
「いや、手術とかはしてないんだけどね」
「手術せずにこのボディラインは絶対あり得ない」
「手術してなくて女子として健康診断受けられる訳無いから、その主張は却下」
「万一あれが付いてて女子の健診の所にいたのなら痴漢として告訴する」
「まあその辺は企業秘密ということで」
普通のプールでしばらく遊んだ後、スライダーに行き、4回くらい滑り降りた。
「でも命(めい)って、私たちより女らしくない?」
「私なんて小さい頃から男勝りとか、雄々しいとか・・・」
「私はズバリ漢(おとこ)って言われてた」
理系女子は概して強い性格の子が多い。理彩もそうだもんなぁ、などと命(めい)は思う。
「うーん。。。確かに私、子供の頃から、女の子みたいとか女らしいとか、よく言われてたし、女の子だったら良かったのにとか、女の子になっちゃいなよとかもよく言われてたし」と命(めい)。
「それで女の子になっちゃったのね」
「あはは。自分が男という証明が困難になりつつある気もする」
「もう戸籍の性別も女に変えちゃえばいいじゃん」
「それやると、彼女と結婚出来なくなるから」
「彼女がいるの〜!?」
「うん。一応普通にセックスしてるし」
「レスビアンでもセックスできるもんね」
「う。。。確かにあれはレスビアンに近いかも」
「いや、間違いなくレスビアンだと思う」
「いっそ彼女を妊娠させたら男の証明ができるだろうか」
「いや、きっと命(めい)が妊娠して女の証明をすることになりそうな」
「うーむ。。。。」
ゴールデンウィーク明け。命(めい)は大学の近くの古本屋さんで偶然白石君と平原君に会った。少し話している内に白石君のアパートに一緒に行くことになり、コンビニで「金麦」(いわゆる「第四のビール」)とおつまみを買って持ち込む。
話題は「線形代数が分からん」という話から始まって行列→Matrix→仮想世界などと連想的に話が進展していく。命(めい)は「マトリックス」シリーズの映画は見たことがなかったが、概略のあらすじは高校時代の友人から聞いていたので何とか話について行けた。
「でもこの世界が『現実』なのか『仮想現実』なのかって見分ける方法が無いよな」
平原君が、仮想世界というと「リング・らせん・ループ」もそうだという。
「『リング』や『らせん』の物語というのは全部シミュレーター上の出来事だったということが『ループ』の物語で明らかになる。シリーズを通しての最終的な主人公は、その仮想現実の世界と現実の世界を行き来するんだよね。仮想世界と現実世界双方の危機を一気に救うために」
「英雄なんだ」
「仮想世界に行くために身体を粒子分解されちゃうからね。まさに英雄」
「きゃー」
「英雄って、しばしば生け贄とか人柱とかの言い換え語だよなぁ」と白石君。
「でも『ループ』の物語では、自分たちが現実と思っているこの世界自体も、また誰かのシミュレーターなのかも知れない、と示唆される」
「何段階にもなってるんだ!」
「何だか読んでいて、実際にこの世界って、そういう構造なのかもと思っちゃった。そしてそのシミュレーターにバグがあると、通常の科学法則と反するようなことも、たまに起きちゃうこともある」
「バグはあるだろうね。それが奇跡なのかもね」
「かもね」
「いや、奇跡にはバグに属するものとバックドアに属するものとがあると思う」
「ああ! 神様系の奇跡はたぶんバックドアだよ」
「確かにね」
「たとえば俺が突然明日女になってたとしたら、きっとバグだ。でも斎藤が明日女になってたら、きっとバックドアだ」
「なんで僕が女になるのはバックドアなのさ?」と僕は笑って言う。
「いや、斎藤ってチンコ付いてるかどうか確かめたくなる気がしない?」
「するする」
「でも確かめようとしてチンコ付いてなかったらやばいから脱がせる気にならん」
「えー?」
「何ならここで脱いでみる?」
「ごめん。パス」
と命(めい)は逃げた。実はまどかが「サービス」と称して連休突入直前からずっと命(めい)を女体にしたまま放置しているのである。まどかは呼びかけても反応しない。きっとニヤニヤしながら、命(めい)の困っている様を見ているのであろう。
「俺は斎藤の性別疑惑を強めたぞ」
「あはは」
ゴールデンウィーク中は命(めい)も理彩も短期間のバイトをしていたので、どうにも都合が付かず会うことが出来なかった。まどかは連休が終わって1週間後の月曜日、5月14日にやっと命(めい)を男性体に戻してくれた。そしていつものように男性体に戻るのと同時に、自分が女性体になっていたことは忘れてしまう。そして例によって命(めい)はここ半月ほどの様々な記憶の矛盾に悩んでいた。
そしてその「現象」が始まったのはその週の木曜日、5月17日であった。後で考えてみると「真祭」で踊った2月17日のちょうど3ヶ月後であり、またジャスト90日後でもあった。
深夜、命(めい)は誰かが近づいてくる気配で目を覚ます。泥棒か?うちには盗るようなものは無いぞ、と思ったものの、その人物は命(めい)に「怖がらなくてもいい」と言って、布団の中に潜り込んでくる。そしていきなり唇にキスした。
きぇー!と命(めい)は叫びたい気分になった。命(めい)は過去に男の子とデートならしたことがある。でもキスするのはさすがに初めてだ。やはり夕方女装でスーパーに行ったのがまずかった!? もしかして僕のことを女の子と思って尾行してきて、夜中になってから忍び込んできたとか?? でも、そしたらこの男、強姦魔で、僕はこれからやられちゃうんだろうか?
と一瞬考えたものの、途中でこちらが男だと気付くだろうから、問題無いだろうとも思う。ところがその男はこちらの服を全部脱がせてしまうと、命(めい)の股間をいじり始める。嘘−!と思うものの触られてる感じが、おちんちんをいじられているような感じではない。
命(めい)はその感触に記憶があったが、その日は何の感触か分からなかった。そして男は自分のペニスを命(めい)の中に入れて中で発射してから立ち去った。命(めい)は何をされたのかよく分からないまま放心状態であった。
その「彼」の訪問はその後、毎晩続いた。彼が来るのが毎晩1時頃なので、寝ずに起きていたらどうなるだろうと3時頃まで起きていたら、寝てすぐにやってきた。アパートにいなかったらどうだろうと思ってファミレスで一晩過ごしてみたら、明け方うとうととしていた時に、彼はやってきて、彼としている間周囲には何も無いような感じだった。
20日の日などは理彩のアパートに泊まったのだが、理彩とHして疲れて寝てしまったところでやってきた。しかし理彩はその「訪問者」には気付かなかったようであった。
そして命(めい)は10日ほどの内に自分が彼とセックスしている最中は異空間のようなところにいること、行為の最中は女の身体になっていて、彼にはクリちゃんを揉まれて、濡れたところでヴァギナに彼のペニスを入れられているということを認識するようになる。
この夜の訪問者によって命(めい)が女に変えられているのは、まどかによる女体化とは別口なので、過去に女体化していた時の記憶は戻っていなかった。そのため、命(めい)はこのセックスで妊娠する可能性があることに、まるで気付いていなかった。しかも命(めい)は元々女の子になりたいという気持ちを持っているので「彼」とのセックスが楽しくなってしまい、毎晩彼との様々なプレイを楽しむようになっていった。そしてそもそも命(めい)はこの毎晩の出来事を「夢」だと思い込んでいた。
5月中は結局理彩とは1度しか会えなかったのだが、命(めい)はこの夜の訪問者との生活のおかげであまり寂しくなかったし、自分も浮気しているという引け目から理彩がまた新しい恋人を作ってデートしているという「レポート」にも、とても寛容的であった。しかも今回の恋人とは、理彩は慎重に関係を進めているようで、6月上旬に久しぶりに会った時点で、まだセックスしていないということだった。
「ね、ね、もしかして命(めい)、恋人できた?」
と理彩は命(めい)のと会って食事をした時に言われた。
「うーん。リアルじゃないんだけどね」と命(めい)が言うと
「2次元か!」と理彩が言う。
夢も二次元なんだろうか?と疑問を持つが説明しにくい。
「理彩の方は○○君と、実際どうなの?」
「うん。3回デートしてるからなあ。次あたりでそろそろホテルとかに誘われちゃうかも知れない」
「避妊しっかりね」
「うん。私もまだ妊娠出産はしたくないから、ちゃんと付けさせるよ」
「今夜は・・・どうする?」と理彩が聞くが、その日は「排卵日」というのを認識していた。自分が排卵日なら理彩もたぶん排卵日だ。
「理彩、今日は排卵日じゃない?」
「よく分かるね」
「じゃ、避妊具付けてもしない方がいいよ。今夜は何もせずに抱き合って寝ない?」
「それもいいね。じゃ裸で抱き合って寝よう」
「うん」
そういう流れでその日はセックスせずに裸で抱き合って寝たのだが・・・・・
夜中に命(めい)は自分の性器がいじられている感覚で目を覚ます。
「理彩?」
「ねぇ、やっちゃおうよ。コンちゃん付けてたら大丈夫だよ〜」
「だって危ないよ」
「妊娠しちゃった時はしちゃった時よ」
「えー? じゃ、1回だけ」
「うん。1回だけね」
と言ったのだが、結局その日理彩は物凄く燃えていて(後で考えてみると排卵日なのだから当然といえば当然)、遅い時間から始めたにもかかわらず3回もやってしまった。
そして疲れ果てて寝たところで、「夜の訪問者」がやってくる。命(めい)はその日はもうマグロになって、もう勝手にして〜という感覚だった。
しかし翌朝、命(めい)は排卵日にしちゃって良かったのかなあと反省しながら、理彩と避妊のことを話したことを思い起こし、ふと自分は「夜の訪問者」とのセックスで避妊しなくてもいいんだっけ? ということに初めて思い至った。しかし避妊どうすればいいんだろう・・・・彼に付けてって言うの???それとも自分がピルを飲めばいいのだろうか?????
理龍神は悩んでいた。命(めい)のところへの夜の訪問を始めて1ヶ月が経過していた。神婚そのものはいにしえからのルールに従ってやっている。真祭のちょうど3ヶ月後から始めて、女性の性周期にあわせて平均で半月、最長でも1ヶ月間の訪問の内には相手を妊娠させることができる。相手が男の子である場合は性交前に女体にスイッチしてからすれば良いが、その場合、性交によって排卵することが多く、通常3〜4日以内には受精が起きると伝えられている。女性の場合でもやはり最初の性交がトリガーになって排卵が起き3〜4日以内には受精する場合も結構あるらしい。
今回男の子だから3〜4日で受精が起きると思ったのに(実際、理自身は父親である宝龍神と母親である奥田命理との間の3日目のセックスで受精したらしい)、女性の場合の最長日数である1ヶ月を経過してもまだ受精が起きない。一週間ほど前、確かに排卵が発生しているという感覚があった。それなのに受精しない。なぜだ??
「ねえ、円、排卵中にセックスしても妊娠しないってどういうケースが考えられる?」
最近日々妙に楽しそうな顔をしている円龍神に、理は尋ねてみた。
「そんな話を女に訊くなんてセクハラで訴えちゃおうかなぁ」
「どこに訴えるのさ? いや、君なら何かヒントくれないかなと思って」
「コーちゃん、間違って違う穴に入れてるんじゃない?」
「はあ!?」
命(めい)は悩んでいた。いや、毎晩の訪問者のことではない。どちらかというと彼との毎晩の行為は命(めい)にとって「浮気」であり、やはり優先するのは理彩とのことである。理彩はその日、いよいよホテルデートすると言っていた。
▽▽君と理彩がセックスしていた時は、自分はもう耐えきれないほどの嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。またあんな思いをするの? 春代とかまどかにも言われたように、阻止しに行こうか。邪魔したら理彩怒るだろうし、最悪自分との関係を解消すると言われてしまうかも知れないけど、それでももうあんなことに耐えるのは嫌だという気持ちがあった。
そこにまどかが現れた。
「やっと邪魔する気になったみたいね」
「うん」
と言ってから命(めい)は自分の身体の変化に気付く。女体になってる! と同時に過去に女体であった時期の記憶が復活する。
「協力してあげようか?」
「まどかさんの協力って微妙に怖いなあ」
「命(めい)、あんた見ず知らずの男とセックスするの平気?」
「・・・・実は最近毎晩、名前も知らない男の人とセックスしてる」
「おやおや。命(めい)も浮気かい?」
「僕を女体化させてくれてありがとう。今僕がしてるセックス、生でされてるから、妊娠の危険があることに気付いた」
「今のままなら妊娠しないよ」
「え?なんで?」
「セックスの時、あんた女体になってるだろ?」
「うん。でも不思議。あの時は女体になってるのに、女体時の記憶が復活しない」
「私と別口だからさ」
「そうか。まどかさんに女体化させられた時だけこの記憶は復活するのか」
「そういうこと」
「あの人、まどかさんのお仲間?」
「さあね」
「声の聞こえてくる方角が、まどかさんの方角に近い。微妙に違う角度だけど」
「ふーん」
「まあいいや。でも妊娠しないってのは何故?」
「あんたの女体側のヴァギナは子宮とつながってないからさ。って本当はあちらが男性体なんだけどね」
「あ、そうか! 表の身体のヴァギナが裏の身体の子宮につながっていて、裏の身体のヴァギナはダミーだったんだった」
「そういうこと。ダミーの中でいくら射精しても妊娠しない」
「ちょっと待って。それじゃ僕が中2の時に理彩と性別逆転して、理彩に生で入れられた時って・・・・あれも妊娠の可能性無かったんじゃ?」
「そうだよ」
「緊急避妊薬・・・・」
「飲ませてみたかったから飲ませただけ」
命(めい)は絶句した。あの薬すごく辛かったのに・・・・更にあのあと1ヶ月はホルモンバランスが崩れて物凄く性欲があったのに、おちんちんは女性ホルモンの影響で全く立たず、頭の中が桃色妄想でいっぱいのまま解放できず苦しんだ。
「でも生でセックスしちゃいけないということは身に染みて分かったでしょ」
「うん。勉強した。それなのに、僕って、この1ヶ月、ずっと生でやってた。懲りてないね」
「ふふふ。それで、理彩のセックスを阻止する方法だけどね」
「うん」
「こうしようか。今後理彩が命(めい)以外の男とセックスしようとした場合、その男が理彩のヴァギナに入れようとしたら、実際は命(めい)の裏ヴァギナに入る」
「わっ」
「そして、あんたのおちんちんが代わりに理彩のヴァギナに入る」
「ひゃー」
「だから、あんたは男に入れられながら、理彩に入れることになる」
「サンドイッチになるんだ!」
「そうそう。浮気相手が万一生で出したりしても、そのヴァギナは子宮につながってないから、あんたが妊娠することは無い」
「なるほど。でも理彩が浮気セックスする度に、僕がその浮気相手に入れられるのはいいけど、僕、毎回おちんちんを立てないといけないの?」
「それ大変だろうから、命(めい)のおちんちん預かってあげるよ」
「・・・・・」
「そしてそれをクローンしたダミーを代わりに命(めい)に付けてあげる」
「そのダミーを僕が理彩のヴァギナに入れたら?」
「そのダミーは実際にはあんた自身の裏のヴァギナに入る。代わりに私が預かる命(めい)の本物のおちんちんが理彩のヴァギナに入る」
「面白い。僕は三重セックスすることになるのね」
「うん」
「いいよ。僕、元々おちんちん取られちゃっても平気だし」
「クローン作るまでの間、1ヶ月ほど、おちんちん無しになるけど、いい?」
「いいよ。理彩もしばらくは○○君とセックス楽しむだろうし」
「実際には命(めい)のおちんちんとセックスするわけだけどね」
「その時、僕は入れられる感覚だけ味わうのね」
「そういうこと」
「じゃ、おちんちん切り取るのに、いったん男性体にするよ」
と言った瞬間、命(めい)は男性体に戻る。同時に今した会話の記憶が消える。そして次の瞬間、命(めい)の男性器が消滅した。
「わっ」
異変に気付いて命(めい)は慌ててズボンとパンツを脱いでみた。
「おちんちん無くなってる!」
そこには男性器が無くなり、割れ目ちゃんができていた。おそるおそる割れ目を開いて中を見てみる。尿道口と思われる穴と膣口と思われる穴がある。でもクリちゃんらしきものは見当たらない。
僕、性転換手術でもしちゃったんだっけ???
命(めい)は記憶がつながらなかったり矛盾しているのには慣れているし、記憶の切れている時間帯に自分がへんなことをしている場合もあることにも慣れている。自分はひょっとしたらイブホワイトとイブブラックみたいな二重人格なのかもという気もしていた。女の子が自慰に使う物と思われるピンクローターなんかが買ってあったし、スーパー銭湯の女湯に入ったと思われる半券が財布に入っていたことも、この春から2度あった。僕、とうとう記憶の途切れている時間帯におちんちん取っちゃったのかな。どうしよう? 理彩と結婚出来ないよ。
命(めい)はまどかと今交わした会話の内容をきれいに忘れていたので「夜の訪問者」とのセックスで自分が妊娠する可能性のあることも忘れていた。
その夜、命(めい)とセックスしに来た理龍神は命(めい)の身体を女体にスイッチしようとして、ギクっとした。
ペニスが無くなってる!?
この子、性転換手術でもしちゃったのだろうか?? よく女装してるみたいだし。
命(めい)の身体をスキャンしてみる。膣があるが、子宮・卵巣は無い。やはり人工的に作った女性器か? そういえば外性器の形も微妙に普通の女性とは違う気がする。あ、陰核が無い。やはり性転換したのか? なんて大胆な。
もしかして自分は今までも女体にスイッチしたつもりになって、この人工的な女性器と結合していたのでは? という気もしてきた。それじゃ妊娠しないよなあ。と思いスイッチを掛ける。外見上はさほど差は無い。でも陰核がある。身体をスキャンすると、ちゃんと子宮と卵巣もある。よかった。ちゃんとこちらと結合しなきゃ。理はそう思って、その日の行為を始めた。
数日後、命(めい)は生理になっていた。ナプキンを付けていたが頭の中が混乱する。性転換手術すると、月経も起きるんだっけ?? そもそも僕って前からナプキン常備してたけど、もしかして前から生理あったんだっけ???
その夜やってきた理龍神は命(めい)が生理用ナプキンを付けていて実際に経血が出ているようなので頭が混乱する。この子、生理があるの??? もしかして実は女の子だったとか。一応女体? にスイッチを掛けるとそちらは生理になっていないので、普通にセックス出来た。
しかし命(めい)の所から帰ってから、悩んでしまった。そういえば、この子、訪問し始めてすぐの頃もナプキン付けてたぞ。あの時はまだペニスがあって、その身体にナプキン付けてたから、何の遊びなんだかと思っていたが・・・・もしかして、この子、元々女の子の機能があるのでは?? それなら女体にスイッチしていたつもりが、そちらの方が実は人工的な女性器ということは?円から「違う穴に入れてない?」と言われたことを思い出す。
そこで、理は命(めい)の生理が終わってからスイッチを掛けずに、表の身体のほうにあるヴァギナに直接入れてみた。入れた感触は裏の身体のヴァギナに入れた時とほとんど変わらない。そして、セックスした後、命(めい)の身体の中に何故かあった卵子(正確には卵胞)が活性化したことに気付いた。そうだ!忘れていた。この子、去年の真祭で踊った理彩から「例の儀式」で神的にいったん活性化した卵子を自分の身体に引き受けていたんだった。もしかして、その卵子が使える??
それから理は毎晩命(めい)の身体をスイッチさせずに、表に出ているヴァギナを使ってセックスした。すると命(めい)の体内の神的卵子がその度に刺激を受けて成熟して行っているのを感知する。これ、このまま行くと成熟しきったところで排卵が起きるぞ!
また理は、不思議なことに表のヴァギナに放出した精子が裏の子宮に進入していくのも確認する。この子の身体、どうなってんの? まるで迷路だ!
排卵は7月4日の夕方頃に起きた。理は3日の訪問の際、卵子が充分に成熟しているのに気付いていたので、ずっとその日1日命(めい)の身体をモニターし続けていた。卵胞の殻を破った卵子が不思議なことに裏の身体の卵管に移動し、子宮を目指していた。卵官膨大部には既に昨夜射精した精子が待機している。行ける。これで妊娠が起きる! 念のため理はその夜も命(めい)の表の身体とセックスした。理は妊娠を確信して
「すまないけど、しばらく来れないと思う」
と言い、次は(子供が産まれるはずの)3月に来ると言い残して夜の訪問を終了した。
命(めい)と理彩のこの時期の連動排卵日(括弧内は月経日)
2.15 (2.29) 3.14 (3.28) 4.11 (4.25) 5.9 (5.23) 6.6 (6.20) 7.4
2.28 理彩の実家で理彩と命がセックス。
5.17 夜の訪問開始。
5.20 理彩のアパートに泊まるが訪問者はやってくる。
6.06 排卵日だが妊娠前最後の理彩とのセックス。
6.18 円が命の男性器を取り外し外観が女性形態に。
6.23 理が命の表の身体と性交し始める。
7.04 神的卵子が排卵(卵巣側の排卵は抑制される)・受精。
7.15 家庭教師1回目。
7.18 妊娠4週目に入る。複製した男性器を戻され外観も男性形態に戻る。
7.22 理彩が命のアパート訪問。裸エプロン。
8.01 妊娠6週目に入る。
8.02 命が理彩のアパート訪問。翌朝○○と別れる。
8.04 星が身体に飛び込む夢を見る。
8.05 理彩に妊娠したことを打ち明ける。翌6日(月)産婦人科訪問。
夜の訪問が終了した後、しばらく命(めい)は抜け殻のようになっていた。理彩に対して少し後ろめたい気持ちはあったものの、あの毎晩のセックスが自分の心を支えていたのも事実だ。まるで失恋でもしたかのように心の中に空洞ができていた。おちんちんも無いし、もう自分は理彩と結婚できなくなってしまったと命(めい)は思っていた。絶望的な孤独感にうちひしがれていた時、その心理的な危機を救ってくれたのは、やはり理彩だった。
「なんだか元気無いね。こんな時はパーっと女装しようよ」
などと言って、同級生の女の子の車に乗せてもらって、自分の服を数点と、新品の可愛いセット下着を3つ、命(めい)のアパートまで持ってきてくれた。
そうだなあ。。。。おちんちん自分が取ってしまったのなら、この先女として生きるしかないのかも知れない。取り敢えず女の子になってお出かけしてみよう。命(めい)はそう思うと、シャワーを浴びてから、理彩が持って来てくれた下着を身につけ、理彩の服を着てコンビニに行き、口紅とマニキュア、それに生理用ナプキンを買ってきた。
ちょっとドキドキしたけど、もう自分は女なのかもという意識になると少し気分が晴れる感じだった。その夜、命(めい)は(この時の身体にはクリちゃんが無かったので)、自分のヴァギナに指を入れて遊んで少し気持ちよくなったところで寝た。
翌日理彩は「お昼少し時間が取れるから一緒に御飯食べよう」と電話してきたので、命(めい)はいそいそと新しい下着を着け、お気に入りのチュニックと膝上スカートを穿き、マニキュアをして口紅も塗ってお出かけする。
ところが待ち合わせ場所に行くと、理彩の隣に彼氏がいる。何でも待っている最中に偶然彼氏と遭遇し、浮気を疑われたので「じゃ、どんな子が来るか見てみてよ」と言って、女装の自分が来るのを待っていたらしい。命(めい)は、そんなことなら男装で出てきて、ふたりの仲をぶち壊したかったと思ったが、表面的には笑顔で、「じゃ今日は○○君に譲ってあげるね」と言って理彩と別れた。
しかし命(めい)は心が収まらない。嫉妬の炎で心がいっぱいだ。それで神戸の春代を呼び出して、一緒にお昼を食べた。
「おお、可愛い服だ!」
「僕、もういっそのこと女の子として生きようかな、とかも思っちゃって」
「それもいいんじゃない。理彩とはレスビアン婚を目指しなよ」
「あ、そうか! レスビアンって手もあったね!」
「元々理彩と命(めい)って事実上のビアンだって、私は前から思ってたよ」
「そっかー。もう、おちんちん取っちゃおうかなぁ」
などと言ったが、春代はじっと命(めい)の顔を見つめ
「既に取ってしまっているということは?」
と訊く。
「えーっと・・・・どうだろうね」
などと言って命(めい)は笑ったが、春代は「去勢済み」疑惑を持った感じだった。本当に付いてないから、追求されるとやばい。
しかし春代は深くは追求しなかったので、そのまま一緒にお昼を食べながら、おしゃべりをした。香川君との交際のことをひたすら楽しそうに語っていた。時々「こういう時、男の子って、どう考えるんだろう?」などと訊かれるので命(めい)の感覚で答える。
お昼が終わった後は「命(めい)が女の子になるならお化粧の練習しよう」と言って、化粧品を買いそろえに行った。夏なら崩れにくいファンデがいいと言われて、マックスファクターのファンデを買い、ヴィセのアイカラーとチーク、デジャヴュの「塗るつけまつげ」、それにDHCのアイライナーとアイブロウを買った。またキュレルの化粧水とUV乳液も買った。
「順序は分かるよね?」
「うん。化粧水、乳液、ファンデ」
「それが分かってたらあとの順番は試行錯誤で。アイカラーは最初は変になるかも知れないけど、練習あるのみだよ」
「うん」
理彩が男の子とデートしているのには嫉妬はするが、自分はレスビアン婚を目指せばいいのかもと思うと、少しは心の暴走が抑えられる感じだった。理彩と性交できない身体になってしまった以上、むしろ理彩には他の男性との関係を認めてあげるべきなのだろうかというのも思い悩む。それにこんな身体になってしまったってこと、いつ理彩にカムアウトしよう?
しかしその理彩当人は浮気しながらも命(めい)を電話で元気づけてくれる。春代も励ましてくれるし、妙香や菜摘など女子のクラスメイト、白石君や平原君など男子のクラスメイトも「元気だしてね」と言ってくれて、少しずつ命(めい)は立ち直ってきた。
7月12日は物凄く爽快な気分だった。この時期、命(めい)は一応大学には男装で出席していたのだが、午前中の講義にだけ出て午後からはサボることにして町に出、安い洋服屋さんで、夏らしい白いブラウスと赤いプリーツスカートを買った。店の試着室で着替える(後で考えたらこれって巫女の衣装だと思った)。駅のトイレでお化粧もして、みずほ銀行の○○支店に行った。
ここで14時に宝くじを買えと「夜の訪問者」に言われていたのである。14時ジャスト、命(めい)は祈りの呪文を唱えてから宝くじを10枚・バラで買った。
7月15日。命(めい)は生協から紹介された家庭教師のバイトで、依頼のあった家に初回の訪問をした。
きちんとした格好をしなければいけないかなと思い、ワイシャツにネクタイをし、黒いズボンを穿いて出かける。
ところが訪問先の家庭で
「あら、先生ったら、まるで男の人みたいな格好」
などと生徒のお母さんに言われてしまう。思わぬ言葉を掛けられて
「あ、えっと・・・・」と焦って出した声が、うっかり女声になっている。
命(めい)は女声で話すのが基本になっているので、意識していないと女声が出てしまうのである。
「今、娘を呼んできますね」とお母さん。
娘? え?生徒は男の子じゃないの??
家庭教師の依頼はふつう、女生徒には女性講師、男子生徒には男性講師が依頼されることが多い。でもまあ何か縁があったのだろうかと思って待っていると、やがて出てきた女生徒が
「わあ、先生、まるで宝塚の男役みたい」
などと言う。
あれ〜? もしかして、僕、女の子と間違えられて依頼されちゃった?? と命(めい)は初めて「誤解」が生じているっぽいことに気付いた。
しかし、取り敢えずその日はまず生徒の学力を把握するのに、最近受けた模擬試験の結果などを見ながら、いろいろ生徒に質問して、基本的な事項の理解度やスキルを確認した。命(めい)は最初女声で話し始めてしまったので、結局、ずっと女声で話すことになってしまった。
「だいたい把握できました。では文乃さんのレベルに合いそうな問題集はこのあたりだと思うのですが」
と言って、各教科ごとの問題集の名前を書き、持参したパソコンでその紹介ページを開いて見せてあげた。
「あ、ほんとにこれなら文乃でもできそうですね」
とお母さんは感心している。
「では明日これを調達してきますね」
「ええ、よろしくお願いします。あ、テキスト代、お渡しします」
と言って、お母さんは1万円札を渡してくれたので
「あ、済みません。細かいのを持ってきてなかったので、明日お釣りお渡しするのでもよろしいでしょうか?」
と言い、
「ええ、いいですよ」
と言ってもらった。
「でも今日は物凄く暑かったですね」
「ええ、梅雨明けして夏本番って感じですね。あ、先生、汗掻かれてません?もし良かったらシャワーでも浴びていかれませんか?」
「あ、いえ。家庭教師先で、食事・飲み物、その他の提供は受けてはいけないことになっていますので」
「あら、そう硬いこと言わなくても、シャワーくらい」
などと強く勧められてしまったので、命(めい)は
「そうですね。じゃ、今日だけはお言葉に甘えて」
ということでシャワーを借りてから帰ることにした。
脱衣所で服を脱ぎふっと溜息をつく。鏡に映る自分の身体にバストは無いものの、お股の所にも何も無く、ただ縦の筋だけが見える。二重人格??の自分の意識の無い時に何かしたのだろうけど、どうせならおちんちん取っちゃう前におっぱい作れば良かったのに、などと思う。
浴室の方に入ろうとした時、突然脱衣所のドアが開いた。
「先生、すみません。ボディシャンプーが切れたので、これ使ってください」
とお母さん。
命(めい)は反射的に手に持っていたタオルで胸は隠したが、下半身はお母さんに見られた気がした。
「あ、ありがとうございます」
と笑顔で言って受け取る。お母さんも笑顔で「ごゆっくり」と言って戸を閉めたが、今おちんちんの付いてないお股を見られたよな?と思った。これで自分はここでは女子大生という扱いが確定だ! と思うと、命(めい)は少し楽しい気分になった。うん、僕ってこれから女子大生になればいいんだ!
と、思っていたのに18日の晩、命(めい)が自分のアパートで夕食を食べていたら唐突に身体の感覚が変わった。
何だ何だ?
と思って、スカートをめくりショーツを下げてみる。
おちんちんがある!
さっきトイレに行った時までは女の子のようなお股だったのに、今見ると男の子のお股の形に戻っている。どうなってんだろう?? 命(めい)は頭の中が混乱したが、おちんちんが付いてるならちゃんと理彩と結婚できる!という気持ちと、せっかく女の子になれたのに残念!という気持ちが同時に発生した。
あ・・・でも、ここ数日ずっと女物の下着付けてたけど、身体は何だか唐突に戻っちゃったけど、下着はずっとこのままにしよう、と命(めい)は思った。
結局男物の下着を着けていたのは7月7日の朝が最後である。その日の朝、理彩が女物の下着を持って来てくれて「気分転換に」と身につけた後、命(めい)はずっとブラとショーツを着けていた。そしてこのあと男物の下着をつけることは1度も無かったのである。
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【神様のお陰・愛育て】(3)