【神様のお陰・花育て】(2)

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「私、時々先代の宮司さんには会いに来てたから。で、宮司さんとこ出た時にちょうど近くで遊んでたあんたたちに会ったのが、最初だったんだよね」
「わあ、そうだったんですか!」と理彩。
 
「今、どちらに住んでおられるんですか?」
「・・・・・東京に母ちゃんと一緒に住んでたんだけどね。先月亡くなったんだ」
「それはたいへんでしたね」と命(めい)が悲しい表情で言う。
「ふーん。。。。悲しんでくれるの」
「だって、まどかお姉さんのお母さんだもん」
「私は悲しくなかった。母親に恨み持ってたから。小さい頃ひどい目にあわされたから」
 
「そうだったんですか。。。。辛かったでしょうね。でも、それでうらみ持つの、良くないです」と命(めい)が言う。
「お母さんにうらみを持つって、ほんとに色々あったんだろうけど、もう亡くなったんだし、許してあげましょうよ」と理彩まで言う。
 
「あんたたち、しっかりしてるね。小学3年生とは思えないよ」
とまどかは笑顔で言う。
 
「まだ東京にいるんですか?」
「今、和歌山県の知り合いのところにいる」
「いっそ、こちらにもどって来たりはしないんですか?」
「そうだね〜。戻って来ない? って言ってくれる人はいるんだけど。理彩ちゃんの遠縁の人でね」
 
「へー。でもまどかお姉さん、戻ってきたら、きっとみんなかんげいしますよ」
「そうかな。歓迎されるかな?」
「少なくともわたしとメイは大かんげいです」
「ふふ。あなたたちがいるなら、戻ってもいいかな」とまどかは珍しく優しい顔で言った。
 
そんな会話をしたのだが、ふたりともこの時の会話の大半はその後忘れてしまった。なお、温泉の帰りはまどかが集落まで一緒に下りてくれた。命(めい)のおちんちんは集落に戻るのと同時に元に戻った。そして、おちんちんが戻るのと同時に命(めい)が女体になっていたことも忘れてしまった。
 
命(めい)が女体になったことがあるということ自体、理彩も命(めい)も、実際に命(めい)が女体になっている時だけ(理彩はそれを見た時だけ)思い出すのである。ただそれは徹底している訳ではなく、関連する記憶と一緒に微妙に記憶が残存していることもあり、また女体化した後数時間は思いだそうとすると思い出せる時もあった。それは目が覚めた直後の、夢の内容の記憶に似ている。
 
まどかは温泉までの精密な地図を描いてくれたので、その後理彩と命(めい)はしばしばこの温泉に入りに来た。命(めい)のおちんちんが無くなったりはしなかったが「おちんちん小さくなるかも」と言う命(めい)に、理彩は「小さくなっちゃったら、私がお嫁さんにしてあげるから」などと言って、入湯させていた。
 
でも、ふたりとも、この温泉に入った後はとても体調が良くなるのを感じていた。命(めい)はおちんちんが縮まないかな、と少し不安に思っていたが、特に縮んでしまう様子は見られなかった。
 

その半年くらい後、ある場所でこんな会話がおこなわれた。
 
「え?円、村に帰るの?」
「うん。帰ってもいいかなあと思って」
 
「助かるよ。あと8年で交替しないといけないのに、君がずっとここにいるから、場合によってはあと60年、僕が神様務めないといけないかとも思ってた」
「神様やるのたいへんだからね。120年はもたないよ。コーちゃん、たぶん途中で力尽きて消滅しちゃうよ」
 
「昔、事情があって120年務めた神様いたらしい。任期終了とともに消滅したと鶴(つる)さんが言ってた」
「任期終了まで必死で頑張ったんだろうね。守り神不在はまずいもんね」
 
「でも、どういう風の吹き回しなの?」
「うん。ちょっと気になるものがあってね・・・・」
 
「何年か前から円、しばしば村に行ってたみたいだし、そこで何か見たの?」
「ふふ。私の密かな趣味よ」
「趣味? お花でも育ててるの?」
 
「お花か。そうねー。似たようなもんだな。あのお花、最初はとっても弱かったの。それをしっかり水と栄養あげて添え木したりして雨風から守ってきたから。一番やばかった時は接ぎ木して何とか持たせたよ」
 
「へー、円ってそんなマメなこともするんだね」
 

そして命(めい)たちが小学5年生の時。
 
学校からの帰り道、突然理彩がこんなことを言い出した。
 
「命(めい)、あのね。私昨日、生理きちゃった」
「わあ」
「これで私も大人の女の仲間入り」
「おめでとう・・・なのかな?」
 
「うん。お母ちゃんからおめでとうって言われて、昨夜は赤飯だったよ」
「へー」
「命(めい)はまだ生理来ないの?」
「生理って、女の子にだけ来るんじゃないの?」
「命(めい)って女の子じゃないんだっけ?」
「うーん。一応男の子のつもりだけど」
「そうなのかな?」
 
「でも、生理って、血が出てくるんでしょ? 今大丈夫?」
「ああ。ナプキンっての付けるんだよ」
「ナプキンって、レストランとか行った時に使う奴?」
「違う違う。同じナプキンという名前でも、全然別物」
「へー。どんなのだろう?」
「1枚、あげようか? ひょっとして命(めい)にも生理来るかも知れないし」
と言って、理彩は手提げかばんの中から小さなポーチを出し、そこからナプキンを1枚出して命(めい)に渡した」
 
「あ。。。これと似たの、うちのトイレにも置いてある。一度いたずらしててお母ちゃんに叱られた」
「女専用のものだから、男が触れば叱られるよ」
「でも、これ、どうやって使うんだろ?」
「包み紙取ったら、粘着テープでくっついてるから、それ剥がして、ショーツに貼り付けるの」
「ふーん。今度試してみよう」
「そうだね。生理来た時のために練習しておくといいよ」
「来るといいなあ」
と言って命(めい)はナプキンをズボンのポケットにしまう。
 
理彩は立ち止まり、急に声を小さくした。
「ねぇ、ねぇ、どうやったら赤ちゃんできるか知ってる?」
「え? 結婚したらできるんじゃないの?」
「結婚しただけじゃ、できないよ。あのさ、子供がお母さんに似るのは分かるけど、お父さんにも似るのって、不思議に思ったことない?」
「うーん。愛していたら似るのかなって思ってた」
 
理彩は命(めい)を誘って、水田の中にある、お地蔵さんのそばに行ってふたりで近くの岩に腰掛けた。
 
「あのね、性交ってのをするから赤ちゃんできるんだって」
「何?それ」
「女の子のお股に奥の穴があるの知ってるよね」
「うん。何度か触ったし」
 
「そこが子宮とつながってるのは知ってる?」
「うん」
「だから、生理もそこから出てくるんだけど」
「あ、そうか。だから生理は女の子だけに来るのか」
 
「そうだね。で、男の子のおちんちんを、その穴に入れると、赤ちゃんできるんだって」
「おちんちん? だって、おしっこするものなのに!」
「命(めい)、そこからおしっこじゃないもの出てこない?」
「あ。。。。おちんちんいじってたら白い液体が出てくる」
「その白い液体を子宮に入れると、赤ちゃんができるのよ」
 
「えー!?」
 
「ねえ、一度やってみない?」
「でも、赤ちゃんできたら、どうすんの?」
「うーん。一緒に育てようよ」
 
「でも、小学生で赤ちゃん産む人って聞いたことない」
「生理が来たってことは、もう赤ちゃん作れるようになったということなのよ。男の子もおちんちんから、白い液体が出るようになったら、女の子に赤ちゃんを作らせることができるようになったということ」
 
「多分・・・・結婚してから、したほうがいいんじゃない?」
「そうかもねー。でも性交ってしてみたいのに」
「結婚するまで待とうよ」
「でも結婚出来るのって、女の子は16歳、男の子は18歳。だから、私たち、まだ7年先まで結婚出来ない」
 
「それまで待とうよ。18になったら結婚してあげるからさ。そしたら性交しよ」
「きっとよ」
「約束する」
「じゃ。キスして」
 
「えっと。。。キスしても赤ちゃんできないよね?」
「できないよ。性交しない限り」
「じゃ、キス」
 
キス自体は昔からしていたが、愛というものを意識してしたキスは多分それが最初だ。そして中学生の頃はふたりはもうキスしまくりだった。そしてふたりは「避妊」という手段があることも知ってしまう。でもさすがに中学生の頃は、コンドームなんて買いに行く勇気は無かったから、性交もできないと思っていた。
 

理彩と生理と性交の話をした翌日。命(めい)は母と会話していて、話の流れから理彩に生理が来たことを話した。その晩は父は残業していて、まだ帰ってなかった。
 
「へー。理彩ちゃんも大人の仲間入りしたんだね。もう赤ちゃん産めるってことだからね」
「うん。僕と理彩の赤ちゃん欲しいね、なんて言われたけど、結婚してからにしようねって言った」
「まあ、それがいいね。赤ちゃんそだてるのに、お金掛かるから、命(めい)も学校出て、お仕事してなきゃだめだよ」
「そうか。お仕事しなきゃだね」
「うん。だから今は勉強頑張ろう」
 
「うん。でもいいなあ。僕も赤ちゃん、産みたい」
「そうだね。手術して女の子になっちゃったら産めるかもね」
「手術して女の子になれるの?」
 
「うん。性転換手術といってね。赤ちゃん産む穴を作ってもらうの。結構受ける人いるよ。お母ちゃんも子供の頃は男の子だったけど、中学生になる少し前に手術して女の子になって、それであんたを産んだんだよ」
 
「えー、そうだったんだ? 僕もその手術受けたいなあ」
「でも凄く痛かったよ」
「女の子になれるなら我慢する」
 
「じゃ、病院行って、女の子になる手術してもらう?」
「受けたい」
「じゃ、明日にでも一緒に病院に行こうか?」
「行きたい」
 
「でも女の子になるには、おちんちんもたまたまも切っちゃうけどいい?」
「うん。いいよ。僕、おちんちんとたまたまがあるより、割れ目ちゃんと赤ちゃん産む穴がある方が好き。おっぱいも欲しいし」
 
「おちんちん無くなったら、命(めい)が時々してる、おちんちんいじって気持ちよくなって、白い液体出てくるやつもできなくなるよ」
「あれ知ってたの? でも気持ち良くない。あれする度に悲しくなるの。こんなことしたくなかったのにって。僕、おちんちん無い方がいいのにって」
「ほんとに女の子になりたいんだね」
「うん」
 
「まあ、命(めい)なら可愛い女の子になれそうだしね」
「お母ちゃんも小さい頃から女の子になりたかったの?」
 
「・・・・えっと、ごめん。冗談だったんだけどね」
「えー?」
「軽い冗談のつもりが、命(めい)マジになっちゃうし」
「じゃ、お母ちゃんは男の子じゃなかったの?」
「うん。ごめんね」
 
「じゃ、最初から女の子だったの?」
「うん。最初から、おちんちんは無くて、赤ちゃん産む穴があったの。それに男の子が手術して女の子になることはできるけど、お嫁さんにもなれないし、赤ちゃんも産めないのよ」
「えー?赤ちゃん産めないの!?」
 
「そもそも、あんた女の子になっちゃったら、理彩ちゃんと結婚出来なくなるけど、いいの?」
「あ、それは困る!」
 

命(めい)があまり性のことを分かってないようだというので、母も少しずつ教えてあげていた。母は特に性交と妊娠のことはしっかり教えておかないとやばいと思った。理彩ちゃんを妊娠させる訳にはいかない。また女の子には卵巣と子宮があるが、男の子が性転換しても卵巣と子宮を作ることはできないので赤ちゃんが産めないのだということも説明してあげた。
 
「卵巣は赤ちゃんの卵が入ってるのよ。その卵に男の子のおちんちんの先から出る赤ちゃんの素を掛けると、赤ちゃんができるのね。命(めい)には、もともとその卵が無いから赤ちゃんは産めないのよ」
「そっかー。無いんじゃ、しょうがないね」
 
「それと、子宮で赤ちゃんを育てるけど、子宮って、ものすごく丈夫なの。これはさすがに、人工的には作れないんだ。子宮と身体の表面とをつなぐ、膣までは作れるけどね」
 
「何十年か先には作れるようになるかなあ」
「うん。子宮までは作れるようになると思うよ。でも、その頃はもう命(めい)はおばあちゃんになってるもん」
「おばあちゃんじゃ、赤ちゃん産めないね」
「さすがにね」
 
「僕の子供くらいなら、男の子に産まれても子宮作ってもらって、赤ちゃん産めるかな」
「子供か孫だったら、あり得るかもね」
「ふーん・・・・」
 
「でも、おちんちん取っちゃったら、理彩ちゃんと結婚出来ないこと忘れないように」
「女同士でも結婚出来たらいいのに」
「結婚出来るかも知れないけど、理彩ちゃんは男の子と結婚したいよ、きっと」
「そっかー。じゃ、僕は男の子でいないと、いけないね」
「そうだね。命(めい)、理彩ちゃんのこと大好きだもんね」
「うん」
 
「好きだったら、理彩ちゃんとの赤ちゃん作りたくなって、おちんちんを理彩ちゃんの膣に入れたくなるかも知れないけど、おとなになるまでは我慢しようね。今、理彩ちゃんに赤ちゃんできても、あんたお仕事してないから、赤ちゃんを育てていく、お金を稼げないもんね」
 
「うん。それは我慢する。でも、そしたら僕も、お父さんのおちんちんをお母さんの膣に入れて、生まれたの?」
「そうだよ。おちんちんって、だからとっても大事なんだよ」
「おちんちんって、おしっこするだけのものかと思ってた!」
「おちんちんは無くても、おしっこできるもん。女の子はみんな、おちんちん無いけど、ちゃんとおしっこしてるからね」
 
「そうだよね! 僕も女の子になった時、ちゃんとおしっこできたし」
「・・・あんた、女の子になったことあるんだっけ?」
「あれ?・・・・なんかおちんちん無くなって、女の子になってたことあるみたいな気がした」
「夢でも見たのかね。あんた女の子になりたがってるし」
「夢だったのかな・・・・でも、それで赤ちゃん産む穴があることに気付いたんだよ。女の子の身体でおしっこするのも面白かったし。割れ目ちゃんの付近とか、どうしても濡れちゃうから、おしっこした後拭いて」
「へー」
 

そんな会話を1時間もした頃、命(めい)は突然お腹が痛くなってトイレに駆け込んだ。何だ何だ?
 
たくさん血が出てくる!
 
きゃー! 何よ、これ!?
 
命(めい)は取り敢えずトイレットペーパーにその血を吸収させた。お腹が痛くなってからすぐトイレに入ったので、幸いにもパンツは汚さなかった。でもこれどうしよう? だいたい、この血、どこから出てくるんだ!?
 
しばらく悩んでいた時、理彩からもらったナプキンを当てることを思いつく。ズボンのポケットから出して包装を外した。
 
ああ、ふたつに分けられる。この・・・べたべたする方をパンツに付ければいいんだよね? 命(めい)は血の出てくる場所はこの付近かな?という感じに思った場所近辺にナプキンが当たるように、ナプキンを取り付けた。
 
ナプキン、自分でも買っておかなくちゃ!
 
でも、その日は取り敢えず、トイレに置かれている母のナプキンを2枚勝手に取って、ズボンのポケットに入れておいた。
 
でもたまたまブリーフ穿いてて良かった。トランクスだとナプキン取り付けられない。ほんとはブリーフよりトランクスの方が好きなんだけど。
 
でも、男の子にも、女の子の生理と似たようなのが起きるんだなあ。
これ何て言うんだろ??、などと命(めい)は考えていた。
 

ふたりが中学2年の夏休み。
 
理彩の一家と命(めい)の一家で一緒に高知まで旅行することになった。車で和歌山に出て、徳島までフェリーで渡り、更に走って、高知の海の近くの温泉まで行った。部屋は、理彩の一家、命(めい)の一家でそれぞれ1部屋ずつ。温泉は男女別なので、理彩の母・命(めい)の母と理彩、理彩の父・命(めい)の父と命(めい)、という組合せで入りに行く。
 
広い温泉で気持ちいい。地元の村の温泉にはしばしば行っていたが、浴室の広さも湯船の広さも段違いである。理彩にしても命(めい)にしても、のびのびと入浴した。
 
「ここの温泉は12時過ぎると、男女入れ替えなんだって。朝起きてから入りに行くと反対側に入れるよ」
「あ、それいいな。朝入りに行こう」
「でも、お料理美味しいね」
「なんか凄いボリュームで、お腹いっぱい」
 
理彩と命(めい)は夕食後、ふたりで散歩に出た。
「あまり遅くならない内に戻るのよ」
「はーい」
 
実はそれぞれの両親を「水入らず」にしてあげようという「子供心」なのである。ふたりはわざわざ「21時過ぎに戻る」と時刻を明言してから出かけた。
 
「お父ちゃんとお母ちゃん、Hするかな?」と理彩。
「どうだろうね? 旅先って開放的になるから、しちゃうかもね」と命(めい)。
「私たちもHしたかったね」
「高校生になったら、しちゃう? ちゃんと避妊して」と命(めい)。
「そうだね〜。コンちゃん買える?」と理彩。
「する時はちゃんと買うよ」
 
ふたりはしばらく無言で歩いていた。
 
「今夜しちゃってもいいよ。コンちゃん買ってくれるなら。商店街に薬屋さんあったよ」
と理彩が唐突に言う。
 
「・・・・僕たちまだ中学生だしね。Hするには早いかも」
「そうだねぇ」
「しちゃってる子はいるけどさ」
「うん。やはりまだ我慢かなあ」
 
ふたりは海岸を歩いていたが、途中にあった階段のところに腰をおろし、空や海を眺めていた。
 
「星がきれい」
「星の光が海に当たってきれい」
「まるで海の中に星があるみたい」
 
ふたりでしばらく見とれていると、やがて水平線から月が上がってきた。ふだんふたりにとって月というのは山から出てくるものなので、水平線から昇る月は初めて見るシーンだった。あまりの美しさに声も出ない。満月を少し過ぎている。十六夜の月だろうか。
 
「すごい、きれいだった」
「うん。ロマンティック」
「ねぇ、私たちに女の子が出来たら『月』って名前付けちゃおうか?」
「うん。美人に育つよ、きっと。理彩に似た可愛い子だよ」
 
「男の子が生まれたらどうする?」
「そうだなあ・・・・星とか空とか海とか・・・」
「命(めい)に似て美男子だといいなあ・・・・あ、でも、命(めい)みたいに女装好きだったらどうしよう?」
「ふふふ。成人式に振袖を着せちゃうコースかな」
「それでもいいけどねー」
 
何だかその日のふたりはお互いにものすごく許容的になっていた。理彩は排卵期のせいかなあ・・・などと思っていた。
 
そのまま帰るに忍びない雰囲気になり、ふたりはそこからちょうど見えていた岩陰に移動してキスをした。でもキスだけでは物足りない。
 
「胸触って」
「うん・・・・理彩のおっぱい大きい」
「まだちっちゃいよ。Aカップしか無いもん」
「でも僕より大きい」
「そりゃ、さすがに命(めい)より小さかったら、ショックで女辞めちゃうよ」
「その時は僕のお婿さんにしてあげるよ」
 
命(めい)が理彩の胸を服の上から優しく愛撫する。ふたりはディープキスをして、お互いをむさぼった。どちらからともなく相手の股間に触り刺激する。理彩は頭の中が気持ちいい物質でいっぱいになっていくのを感じた。
 
「ああん、Hしたいよお」と理彩がもう我慢出来ない感じで言う。
「高校生になるまで待とうよ」
「今したいんだもん」
「理彩・・・・・」命(めい)が無言でダメという目をするが、男の子の側に停められて、理彩の頭は暴走した。
 
「えーい。もうやっちゃうぞ」
と言って、理彩は命(めい)のズボンを下げてしまった。
「やめようよ」と命(めい)はあくまで冷静だ。
「いいの。これ、命(めい)が私を無理矢理やったことにしてね」
「そんなー」
と命(めい)は言うが、理彩は命(めい)のパンツも下げてしまう。
 
「あれ?」
「あれ?」
 
ふたりとも目をこすってみた。
 
「おちんちん無い」と理彩。
「おちんちん無いとHできないね。残念」
と命(めい)は内心『どうなってんだ?』と思いながら冷静を装って言う。そんなことをしてた時、月に厚い雲がかかって、真っ暗闇になり、何も見えなくなった。すると理彩は
「この際、おちんちん無くてもいいや」と言い出す。
「えー!?」
 
暗闇の中で理彩は自分もズボンとショーツを脱ぐと、命(めい)の身体にのしかかった。何か違和感を感じたが、構わず理彩は自分でもよく分からない衝動のままに身体を動かした。
 
「ちょっとー、これ、どうなってるの?」と小声で命(めい)が訊く。
「私も分かんないけど、なんか凄く気持ちいい」
「僕も気持ちいい。これ、僕たち結合してない?」
「結合してる気がする」
「僕におちんちん無かったし、理彩におちんちんあるの?」
「よく分からない」
 
ふたりは状況がよく分からなかったが本能的にお互い腰を動かした。
 
そして・・・ふたりは「逝った」と思った。理彩は何かを出したような感覚があったので、ああ、私におちんちんがあって、命(めい)に入れてたのかな、と思った。しかし、あまりの快感に、しばらくふたりとも放心状態だった。そして、そのまま眠ってしまった。
 

理彩は携帯の着信音で目が覚めた。
「はい? あ、お母ちゃん。うん。ごめん。遅くなって。うん。命(めい)と一緒だよ。話し込んでたら遅くなっちゃった。うん。一緒に帰るね」
命(めい)もその通話で目を覚ます。
「何時?」
「9時半。9時過ぎに帰ると言ってたもんね」
「ごめんねー」
 
といってふたりは起き上がる。ふたりともちゃんとズボンは穿いていた。雲が晴れて十六夜の月の光で外は明るい。
 
「ね・・・命(めい)、おちんちんある?」
「・・・ある。理彩は?」
「おちんちん無いみたい」
「僕たち、しちゃったのかな?」
「夢だと思う。だって、ふたりとも脱いだはずなのに、ちゃんと着てたし」
「そうだよね。僕がおちんちん無かったのもそのせいだよね」
 
ふたりは、夢だとしたら、なぜふたりとも同じ夢を見たのかという点までは深く考えなかった。
 

その晩はふたりが旅館に戻ってから、双方の家族6人で夜食に、うどんを食べに行った。夏なので、ぶっかけにしてもらう。
 
「美味しい。でもここのうどんは讃岐よりやわらかいね」と理彩の母が言うが
「土佐のうどんの硬さはけっこう店によって違うみたいですよ」
と命(めい)の父は言っている。
 
「鰹のダシがいいですね」と理彩の父。
「やはり、鰹の本場ですね」と命(めい)の母。
 
「ちょうどお腹が空いてきてたから、嬉しい」と命(めい)。
「なんかパワー充填って感じだね。さっき消耗したし」と理彩。
 
「お前たち、なんか疲れることしたの?」と理彩の母。
「あ、かけっこしたからね」と理彩。
「まあまあ」と理彩の母は笑っているが、命(めい)は冷や汗を掻いた。
 
理彩の父と命(めい)の父が少し飲んで帰るということだったので、理彩と命(めい)は双方の母と一緒に部屋に戻った。部屋の入口のところで手を振って各々の部屋に入り、おやすみを言って寝る。
 
少し経ったところで母が命(めい)に声を掛ける。
「命(めい)。あんた、理彩ちゃんと何かした?」
「キスはしたよ」
「それだけ?」
「Hは高校になるまでしない約束してる」
「そう。。。。でも、もししたくなった時は・・・」
「その時はちゃんと付けてするよ」
「それならいいけどね」
「じゃ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
 

夜中。トイレに起きる。
 
ここはトイレは部屋の外で共同である。命(めい)は周囲を伺った。
 
夜中だし・・・いいよね?
 
命(めい)はおそるおそる女子トイレに入ると、個室に入って用を達してふっと溜息を付く。命(めい)はふだんはちゃんと男子トイレに入っているが、人目の無いところではけっこう女子トイレを使っている。
 
手を洗っていたら、突然入口のドアが開き、命(めい)は肝を潰した。
「まどかお姉さん?」
「あんたね。。。。。」
「あ、えっと。トイレ入るの、間違ったかな?」
「ん? ああ。女子トイレに入るのは構わないよ。あんた半分女の子だし」
「そうですか」
「それより、さっき付けずにHしたでしょ?」
「あ・・・・」
 
「この薬2錠飲んで」
「はい」
と言って、命(めい)は素直にその場で渡された薬を飲み、洗面台の水で流し込む。
「あと2錠渡しておくから、お昼頃また飲んで」
「はい。これ何ですか?」
「緊急避妊薬・・・・って言っても分かるかな?」
「赤ちゃんを作れなくする薬?」
「今、命(めい)の女体は排卵期なんだよ。そんな時にコンちゃん付けずにセックスしたら妊娠しちゃう」
 
「僕、赤ちゃんできちゃうの?」
「中学生で、しかも男の子が、赤ちゃん産みたくないでしょ?」
「そうですね。。。赤ちゃんは産みたいけど、もう少し大人になってからかな」
「だから、これで流しちゃうから」
「赤ちゃん、殺しちゃうの?」
 
「赤ちゃんになるのは妊娠6週間後。それまではただの細胞。だから、いつもの月経と同じだよ」
「良かった」
「2週間後くらいに月経来るだろうけど、ふだんより重いかも知れないから夜用を用意しておくといい」
「はい」
 
「あと、これ強い女性ホルモンだから。しばらく、命(めい)のおちんちん立たないと思うけど我慢してね」
「ああ、そのくらいはいいです」
「男の子の身体に女性ホルモン入れると性欲が一時的に上昇するから」
「え?」
 
「性欲は強くなるけど、おちんちんは立たない」
「わあ。。。辛そう」
「付けずにやった報いよ。今度からはする時は絶対付けさせること。だいたい今日あんた1枚持ってたでしょ?」
「もしどうしてもする展開になった時に付けなきゃと思って」
「それを理彩に付けさせれば良かったじゃん」
 
「性別が逆転して動転しちゃって、というかそれ認識した時は既に入れられてた」
「まあね。あれは事故だったね」
「どうして逆転しちゃったの?」
「理彩ちゃんのパワーだよ。あの子も排卵期だったから、パワーが暴走したんだろうね。あの子物凄く強い霊的な力を持ってるのに無自覚なんだもん」
 
「へー」
「女の子同士って近くに居ると生理周期が連動しちゃうの。理彩ちゃんの排卵期は命(めい)も排卵期になりやすい。それをいつも目安にしてて」
「はい」
「取り敢えず絶対にお昼にその薬飲み忘れないように」
「分かりました」
 

まどかが「人間」ではないと気付いたのは、小学4年生頃だったろうか。
 
まどかと知り合ったのはほんとに物心付くか付かない頃だが、まどかという名前の人を自分の母も、理彩の母も知らないようであった。神社の近くで良く会うので、きっと神社関係の人なんだろうと思っていた。実際神主さんと何やら話しているのを見たことも何度かあった。
 
しかし、まどかは色々な場所に神出鬼没に現れ、時にはふたりの危ない所を助けてくれたし、時にはいたずらされて、けっこう大変な目にも遭わされた。遠足の距離を2倍歩かされたこともあるし、垂直に切り立った崖を登らされたこともある。でも理彩も命(めい)も、そんなまどかとの「少々荒っぽい遊び」を楽しんでいた。
 
最初はふたりの前に、一応人間らしい現れ方・退場の仕方をしていたまどかだったが、その内、こちらに気を許してきたのか、ふっと現れたり、ふっと消えたりすることもあり、一時期命(めい)は、まどかさんって幽霊とか、あるいは自分の守護霊とかなんだろうか、と思っていた時期もある。
 
実際、友だちや母などのそばにいた時に、まどかが現れて何か告げてから立ち去ったりした時に、他の友だちや母がまどかに気付いてないようであった。どうもまどかが見えるのは、自分と理彩だけのようなのである。先代の神主さんにも見えていたようだが、息子さんの代になってからその息子さんには見えないようである。
 
そして、まどかは時々命(めい)の身体を貸してね、といって中に入り込んでくることもあった。
 
「実体でないとできない作業があるのよ」
などとまどかは言って、命(めい)の身体に入ったまま、山奥の洞窟や崖で薬草を取って来たり、何か物を人に届けたりということをした。そんな時、命(めい)の身体は一時的に女体に変えられていた。
 
「だって、おちんちん付いてたら入れないから、入る前に女の子にするの」
などと、まどかは言っていた。
「理彩に入れば、理彩にはおちんちん付いてないのに」
「理彩ちゃんは霊媒体質じゃないんだもん。命(めい)は霊媒体質だから中に入れるのよ」
 
でも、そういう女体になっている時にしばしば命(めい)は理彩と遭遇して、更にその女体の状態を理彩に見られていた。
「あ、メイったら、今日もおちんちんが無い」
「うん、おちんちんは今日は家で寝てるんだ」
などと命(めい)は答えていた。
 
しかし理彩との遭遇はしばしばまどかの計算外のようで
「なんで、あの子、ここにいるのよ?」
などと、よく言っていた。
 
まどかが「幽霊」や「精霊」とか「守護霊」の類いではなく、もっと高位の存在だと命(めい)が考えるようになったのは、まどかの声の「聞こえる方角」
からである。
 
命(めい)は小さい頃から、狛犬さんとか、御神木さんとか、あるいは眷属さんとでもいうべき人?たちの声が聞こえていた。自分の守護霊だと思う声も時々聞くことがある。たぶん自分が生まれた時に死にかけてたので、そんな身体だから聞こえるんだろうな、と命(めい)は思っていた。しかし、まどかの声は、狛犬さんなどから聞こえてくる声とも守護霊とかから聞こえてくる声とも、明らかに違う方角から聞こえてきていた。
 
そして、まどか自身が姿を現さない時でも、その方角から聞こえてきた声には、命(めい)は絶対的に信頼を置くようになっていった。
 
ただ命(めい)も、それではまどかが何なのか、ということについては、思い起こす単語はあるものの、それを具体的な単語として口に出したり、あるいは心に浮かべたりすることはできるだけ避けていた。それはむやみに口に出すべき言葉ではないと思っていたからである。
 

旅先でふたりが初めて(男女逆転でだが)セックスしてしまった夜が明けた朝、命(めい)は目が覚めた時、何だか腕が重たいと思った。
 
変な寝方しちゃったかな? と思って、そちらを見ると、何やら物体がある。命(めい)はその物体が「顔」であり、「理彩の顔」であることに気付くのに、たっぷり30秒は掛かった。
 
「理彩」と小さい声で呼びかける。
「理彩、ちょっと起きて。なんでこんな所にいるの?」
「理彩」
と呼びかけながら命(めい)は理彩を揺り起こす。
「ん? あれ? 命(めい)、おはよー」
と理彩は大きな声で言った。
 
それで母が起きてしまった。あぁぁ、と命(めい)は心の中で溜息を付いた。
 
当然、お説教である。隣の部屋に居た理彩の両親も呼んできた。
 
「あんたたち、いつそういう関係になったの?」
「いや、別に何も関係は無いんだけど」
「でも、一緒に寝たんでしょう?」
 
「あ、ごめんなさい。私、夜中にトイレに起きて、戻る時部屋を間違えたみたいで」
「そんな馬鹿な言い訳しないで。怒らないから、正直に言いなさい」
 
既に怒ってるじゃん、と命(めい)は内心思うが、まさかそんなことは言えない。
「いや、ほんとに、僕も朝目が覚めたら理彩が寝てるからびっくりした所で」
「命(めい)、なんて無責任なこと言うの? 理彩ちゃんが他にはお嫁に行けなくなるということをしたという自覚が無いの? そもそもちゃんと避妊したんでしょうね?」
 
「お母ちゃん、天地神明に誓って僕と理彩は今夜はセックスしてない」
「ほんとにしてないの?」
「してません」
と命(めい)と理彩は声をそろえて言ったが、あまり信用していない感じだ。双方の両親が顔を見合わせている。
 
「あのね。理彩、もししたんなら、すぐお医者さんに行って、緊急避妊薬を処方してもらったほうがいいの。怒らないから、したんなら、ちゃんと言って」
と理彩の母。
 
ああ、それはむしろ僕の方なんだけど、と命(めい)は内心冷や汗である。
 
「お母ちゃん、ほんとにしてないよ」
「理彩はバージンです。もし嘘だったら、僕今すぐ自分の性器を切り落としてもいいくらいです」
「いや、命(めい)はむしろ切り落としたいでしょ?」と理彩が突っ込むので「茶々入れない」とたしなめる。
「はーい」
 
30分ほど話し合ったが最後は命(めい)が
「万一理彩が妊娠した場合は、僕、中学出たらすぐ就職して仕事して赤ちゃん育てて行きますから」
と言ったので、そこまで覚悟があるなら様子を見よう、ということで、やっと話は収まった。
 
そして命(めい)と理彩はあらためて、もしセックスするときは絶対に避妊具を使う、ということをしっかり双方の両親に約束した。
 
「とりあえず、1箱買ってきましょうか」
と理彩の母が言うが命(めい)は
「一応1枚持ってます」
と言って、いつも持ち歩いているバッグの中に入れたポーチからコンちゃんを取り出して見せる。
 
すると理彩が
「あー! そんなの持ってたんなら、昨日の夕方誘った時にちゃんとセックスできたじゃん!」
などと言う。命(めい)は微笑んで
「だって、高校生になるまでは、しない約束だよ」
と言った。
 
しかしかえってこのふたりのやりとりで、ほんとに昨夜はしなかったのかも、と両親は思ってくれた雰囲気もあった。
 
命(めい)は「例の方角」から「クスクス」という笑い声を聞いた。
 

命(めい)たちが◇◇高校に合格した月の下旬。H先生は来年の◇◇高校留任を校長から内示され、図書館の先生(司書教諭)と理科主任、バスケット部の顧問が離任するので、その中のどれかを引き受けてくれないかと打診され、一晩考えて明日回答しますといって学校を出た。
 
教師生活20年になるが、いわゆる底辺校ばかりを回ってきた。底辺校と言っても都会の高校と田舎の高校ではまるで別物だ。15年ほど都会の学校を回って精神的に疲れていた時、ほんとに何も無い山の中の高校に赴任して4年務めた。その4年の山の中の生活が、H先生の疲れた心を癒やし、また何かをしたい欲求を生み出していた。そして昨年◇◇高校に転任してきて前任校同様素直な子供たちに囲まれ、充実した教師生活を送っていた。司書教諭の資格は20代の内に何となく取っていた。しかし閑職という気もする。バスケット部の顧問なんていいかも知れない。スポーツ部の指導経験は無いが、中学時代はバスケット部でガードをやっていた。
 
そんなことを考えながら先生は自宅方面へ車を走らせていたつもりが、ふと気付くとまるで反対側の●●町に出ていた。あれ?
 
疲れてるな。こういう時は少し休んだ方がいいと思い、ちょうど見かけた居酒屋の駐車場に入れる。車だからアルコールは飲まないが、少し胃を満たしてから帰ろうと思った。メニューを見ていた時「あら?」と声を掛ける女性がいる。
 
「H先生ですよね!私、$$高校でお世話になったRです」
「ああ、久しぶり」と言ったものの、その名前の生徒の記憶が無い。確かに$$高校には10年ちょっと前に赴任していたが。
 
「わあ、懐かしいなあ。私、先生に会うまでは凄い生活乱れてたけど、先生に自分の人生なんだから、親とか教師への当てつけで自分を潰したりせずに、自分が本当にしたいことをしろ、って言われて」
 
そんなことを言ったことあったかも知れないなあ、という気はする。乱れている生徒たちに敢えて鉄拳をふるって多数の不良生徒を更生させたこともあった。たださすがに40代になると、あの時代のようなパワーはもう無い。
 
その女性は向かいの席に座ると、話を続ける。
「私、あれからほんと自分の人生考え直して、少し勉強でもしてみようかなと思って通信講座受けはじめて。結局あの学校は退学しちゃったけど、フリースクールに通って、大検受けて、大学に行ったんです」
「それは頑張ったね」
 
「人よりは遠回りの人生生きてる気もするけど。それで大学生も人より多く7年もやって」
「おお、それはたくさん勉強したね」
「でしょ? でも何とか卒業出来たから」
「偉い、偉い」
 
「それで在学中に図書館の司書の資格取って」
「へー」
「今は福井の田舎の小さな町の図書館で司書してるんですよ」
「おぉ」
 
「何か図書館って面白いんですよね。色々な人がそこに自分の可能性を探しにきているみたいで」
「ほほぉ」
 
「人より余計な経験してきた分かなあ。本棚を眺めながらゆっくり歩いている人、テーブルで何冊も本を積み上げて一所懸命読んでる人、それぞれの心の中の思いが見えちゃう感じで。時には本は半ば飾りでひたすら勉強してる学生さんとかもいますけど」
「ああ、図書室って自習にも便利だよね」
 
「都会の大きな図書館だと自習室とか設置されてる所もありますけど、田舎だと様々な目的の人がごっちゃ。それもまた面白くて」
 
Rは何だか話が止まらないようで、ここ12年くらいのつもる思いをひたすらしゃぺり続けた。H先生はその元生徒の話を聞いていて、ああ自分の指導がこの子の人生を豊かなものにしていったんだなというのを思い、嬉しくなっていた。それとともに、彼女が語る図書館でのいろいろな出来事も興味深く聞いていた。
 
彼女とは食事も一緒にとりながら結局閉店まで話を続けた。ふたりは名刺を交換し、携帯のアドレスも交換して別れた。
 
H先生はその日とてもいい気分で帰宅した。そして翌日校長に司書教諭を引き受けたいという意向を表明した。
 

命(めい)が高校2年の秋。
 
神社の宮司である和雄は、年明けの真祭で誰に踊ってもらうかを占った。
 
今年はこの神社、およびその分社の神域となる合計5つの集落の氏子の中に18歳の子はいない。まだ17歳だが、理彩と命(めい)のどちらかに踊ってもらうことになると思った。
 
ふたりの名前をひとつの紙の左右に書き、神意を問う神事をする。両手に持った筮竹をふたつに分け、左手に残った筮竹の数を数える。奇数なら左側に書いた命(めい)、偶数なら右側に書いた理彩になる。
 
筮竹の数は17本あった。和雄はそれをちゃんと17まで声に出して数えてから
「偶数か。理彩ちゃんだな」
と言った。筮竹を片付けて和雄は奥田家を訪問するため神殿を後にする。
 
その様子を見守っていた理が「は?なんで!?」と思わず声をあげた。
 
そしてその時、神殿の外で、理に見つからないよう蝶の姿に変身して柱の陰にいた、まどかが笑いをこらえきれずに「ククク」という小さな声をもらした。
 
だって、命(めい)って赤ちゃん産みたいなんて言ってたよね−。産ませてあげる。ついでに欲しがってた、おっぱいも付けてあげるねー。おまけで理彩ちゃんと結婚させてあげようかな。私あの子も好きだし。ふたりはお似合いだと思うよー。まどかはイタズラっぽい表情でそんなことを考えていた。
 

命(めい)が高校3年の5月。命(めい)と理彩は兵庫県の温泉に学習塾の合宿に行くことになった。理彩のおじ太造が積極的にふたりを応援してくれて、この講座の費用自体を2人分出してくれた。太造は申込書のフォームに、奥田理彩・高3・女、斎藤命・高3・男と記入し、パソコンから送信しようとしたところで電話が掛かってきた。少しややこしい用件だったので、席を立ち、窓際に行って相手と話し込む。
 
その時、飼い猫が部屋の中に入ってきて、テーブルの上に飛び乗った。そして飛び乗った勢いでマウスを動かしてしまう。それで命(めい)のところの性別が男になっていたのが女に変わってしまった、猫はそんなこと気付きもせずに欠伸して身体の伸びをしている。
 
やがて電話が終わった太造は机に戻ると、ざっとフォームを見て、それから送信ボタンを押した。そして理彩の父に電話して「申し込んどいたよ」と言った。
 

この講座に性別女で登録されてしまっていた命(めい)は、理彩に唆されてその5日間を女で通してしまう。命(めい)はふつうにしていても充分女に見えるので昼間の講義を受けている最中は全然問題無かったのだが、問題はお風呂だった。
 
個室にバスルームが無く、大浴場に入りに行く方式なので、外見上女に見えるが身体は男である命(めい)は、男湯にも女湯にも入れず困った。結局人が寝静まった深夜に入浴するという方針で行くのだが、最終日の夜、命(めい)が入浴している間に他の女子が4人入ってきてしまった。
 
焦っている命(めい)を見て、まどかは面白くなって、これこのまま放置したら命(めい)はどう対処するだろうか? 見てみたいという気持ちも出てしまったのだが、ちょっと可哀想かなと思い「10分だけだよ」と声を掛けて胸の付近とお股の付近を女体側にタイマー付きでスイッチした。
 
お陰で、命(めい)は同じクラスの生徒から特別変に思われることもなく、無事女湯からあがることができた。命(めい)は脱衣場で元の身体に戻ると『どこのどなたか分かりませんが、助けてくれて、ありがとう』と心の中で言った。まどかはクスクスと笑う。
 
命(めい)が脱衣場から廊下に出るとまどかが立っていた。
「どこのどなたか、は無いでしょ。今度から助けてあげないよ」
「まどかさん、僕が女の子として登録されていた件、心当たり無いですよね?」
「あ・・・・何のことかなあ・・・・」
焦っているまどか、というのも珍しい。
 
「でも、おかげで理彩と一緒に過ごせて気楽だった。僕も理彩も知らない子と同室だったら、その分で少し疲れたろうし」
「じゃ、感謝しなさい」
「いつも感謝してますよ」
「じゃ、これ1枚あげる。じゃね」
と言ってまどかはスッと消えた。命(めい)の手には避妊具が1枚残されていた。もう少し人間らしい消え方してもいいだろうにと命(めい)は微笑んだ。
 

合宿が終わった翌日、理彩と命(めい)は大阪市内のホテルに宿泊した。自分たちが志望校にしていた阪大のキャンパスを見ておきたかったのと、合宿の間に他の受講生から聞いた参考書や問題集を大阪の書店で探してみたかったのがあった。
 
ホテルに荷物を置いてからジュンク堂に行ってメモしておいた参考書・問題集を立ち読みして吟味した。取り敢えずやってみようと思ったのを2人分買ってから阪急三番街で食事をする。
 
「でも5日も女の子で通したら、随分女の子ライフに慣れたんじゃない?」
と理彩は微笑んで言う。今日も命(めい)は白いブラウスにチェックのティアードスカート、リボンタイで女子高生っぽい服装だ。
 
「何かもう癖になりそうだね。本当に女の子になりたくなったらどうしよう」
「・・・・命(めい)は女の子になりたいんだと思ってたけど」
「まさか。僕、理彩と結婚したいから、男の子でいるつもりだけど」
「それって私との結婚ってのが無ければ女の子になりたいってことなんじゃ?」
「うーん。そう深い意味は無いけどなあ」
 
「でも私、命(めい)が背広着てアタッシェケース持って『行ってきます』と毎朝出かける様とかが想像出来ないよ」
「そ、そう?」
「命(めい)はそうだなあ。ピンクのカーディガンに白いワンピ、ハイヒール穿いてハンドバッグ片手に『行ってきます』ってイメージ」
「うーん。。。。。」
「人間、自分に正直に生きた方がいいと思うけど」
「正直に生きてるつもりだけどなあ」
「正直に生きてるから、今みたいな服装だよね」
「あ、しまった」
 

ホテルに戻ってから交替でシャワーを浴びる。4日間温泉に入ったのでふたりとも今日はシャワーだけでいいみたいな感覚だった。理彩が先にシャワーし、その後、命(めい)がシャワーをしてホテルのガウンを着て出て行くと、理彩は何やら白い紙を4枚テーブルの上に並べていた。
 
「命(めい)、この中から1枚取って」
「うん」
 
と言って1枚選ぶ。ひっくり返してみる。
 
『女の子同士の悪ふざけ』と書いてあった。
 
「もう。。。。なぜ、わざわざそれを選ぶかなあ」と言って、理彩は他の3枚も表に返す。
 
『セックス』『命の後ろに入れる』『すまた』と書いてある。
 
命(めい)は笑う。
「僕が入れられるってのもあったんだ?」
「ふふふ」
 
「きっと。僕たちまだセックスしちゃいけないという、神様からのお達しなんだよ」
 
「あぁあ〜。今晩セックスしたかったのに」
「高校卒業するまでは『友だち』でいる約束だよ」
「今夜だけ、その約束忘れない?」
 
命(めい)はかなり心が揺らいだ。でも・・・・
「また、今度にしようよ」
 
理彩は命(めい)の至近距離まで寄ってから小さな声で言う。
「もし、私と命(めい)が友だちでいる間に、私が他の男の子にバージンあげちゃったらどうする?」
「悲しい。理彩のバージンが欲しい。理彩のバージンを予約させてもらえない?」
「予約なんかせずに今もらってよ」
「今日はやめとこう」
「仕方ないなあ。。。。うん、まあいいよ。予約。でも有効期間3ヶ月。それすぎたら、もう保証しないからね」
 
理彩はガウンを脱いだ。下は一糸まとわぬ姿だ。命(めい)は優しく微笑んでいる。くそー。予測されてたか? これ結構切り札のつもりだったのに。
 
「これ見て何とも思わない?」
「スタイルきれいだと思う。おっぱいはCカップだよね。ウェストくびれてるし」
「なんで、そんなに冷静でいられるのかなあ。男の子って、こういう時、我慢できなくなって、女の子を襲ったりしないの?」
「僕、半分女の子だから」
 
「あぁあ、そんな彼氏を選んだのは私自身だしなあ。私、女の子の命(めい)も好きだし」
と言いながら、理彩は下着を着け、再度ガウンを着た。
「私をちゃんと逝かせなかったら、罰としてセックスしてもらうからね」
「セックスが罰なんだ!」
 
「だって、してくれないんだもん」
と言って理彩はベッドにもぐりこむ。命(めい)も同じベッドに潜り込み、ぎゅっと理彩を抱きしめた。「あっ」と理彩が声を出す。強く抱きしめられて頭に血が上る。その時何か違和感を感じたが、そのことを考える前に命(めい)が「好きだよ」と言った。
 
「・・・・私も好き」
 
命(めい)は理彩の後ろに回り込んだ。後ろから抱きしめて、理彩の乳首を指で刺激する。理彩の脳内に陶酔物質が大量に放出される。命(めい)は理彩の首筋を舐めてあげた。
 
「あーん。気持ちいいよぉ」と言って理彩は自分の敏感な部分を最初はショーツの上から刺激していたが、やがて我慢出来ずにショーツを脱いでしまった。
 
「ねぇ、もう私今何されてもいい気分。私のを直接刺激してよ」
「これやる時は直接お互いのお股には触らないルール」
「けちー。なんで命(めい)って、いつもそうなのかなあ」
などというが、そんな命(めい)だから好きというのも事実だ。もっと簡単にセックスしちゃう男の子だったら、きっとこんなに長くふたりの関係は続いてなかった。とっくに燃え尽きて終わってしまっていただろう。
 
命(めい)からしっかり抱きしめられる。その時理彩は微妙に変な感じがしたのだが、自分が気持ち良くなっているので、そのことは深く考えなかった。
 
そして理彩は15分ほどで逝ってしまった。
「えーん。逝っちゃった。まだセックスしてないのに。どうして命(めい)ってそんな上手いの? 私自分でしてても、こんなに気持ち良くなれないのに」
「ふふ。気持ち良くなった所で寝ちゃおうか」
と言って命(めい)は理彩の唇にキスをすると、そのまま目を瞑ってしまった。結局お互い着衣のままだ。
 
「命(めい)・・・・? 寝ちゃった??」
返事が無い。
 
理彩は心では不満だったが自分は逝ってしまったので身体は満足している。寝ちゃったのか・・・・私も少し寝ようかな、と思いながら命(めい)のお股に手を伸ばす。
 
あ・・・命(めい)ったら下着つけてない! あん。じゃ、もう少し私がうまく誘ったらHできたかなあ、と少し後悔した。でも・・・・ふふふ、勝手にアレで遊んじゃおう。
 
っと思って「アレ」を探すが見つからない。もしかしてタックしてる?と考える。さわってみると、割れ目ちゃんのようなものがある。やはりタックしてるのか・・・外しちゃおうかな。。。。などと思いながら、その「疑似割れ目」を触っていたのだが・・・・え?
 
その割れ目が開けそうな気がした。タックの「疑似割れ目」は接着剤で留めるので開くことができないはずなのに。理彩はおそるおそる開いて指を入れてみる。嘘? これ本物の女の子の器官なのでは? 指先がクリトリスっぽいものに当たる。え? どうして?
 
と思ったところで、理彩のその夜の記憶は途切れている。強い睡魔に吸い寄せられるようにして眠りの世界に入っていく理彩の耳にどこからともなく「クスクス」という女性の忍び笑いの声が聞こえた気がした。それと同時にさっき命(めい)に抱きしめられた時、命(めい)にバストがあったような気もした。
 

明け方、命(めい)が起きた時、理彩はまだ寝ていた。起き出して服を着、コンビニまで行って朝御飯と飲み物、それに理彩の好きなおやつを買ってくる。ホテルに戻り、エレベータの方に行こうとした時、ロビーで手を振っている女性がいる。
 
「まどかさん、ありがとう」
「感謝しちゃうの? 私はふたりの仲を邪魔しちゃろうと思って悪戯しただけだけどね」
 
「うん。お風呂の中で突然女体化した時はびっくりした。でも、まだ僕たちはセックスしちゃいけないと思うんだ。男の身体だったら絶対昨夜は、やってしまっていたから」
 
「でも、あんまり先送りするのも良くないよ。邪魔した私が言うのも何だけど」
「そうだね・・・・」
「高校入ってすぐの時に1度一緒に寝たじゃん。あの時やっちゃえば良かったのよ」
「あの時はさすがに早すぎたと思う」
「今年中には、やっちゃいなよ」
「うん・・・・・」
 
「理彩も命(めい)のこと大好きだから、きっとあの子は命(めい)とセックスするまでは、絶対他の男の子とはしないつもりだよ。でも、今は理彩もそういう気持ちだけど、それがいつまでも続くとは限らない。先に他の男の子とセックスしたら、きっとその子と結婚する気になって、命(めい)は捨てられちゃうよ。命(めい)、理彩のこと好きなんでしょ?」
「好き」
「自分の大事なものは、絶対手放さないようにした方がいいよ」
 
「うん」と命(めい)は少し考えてから返事をした。
 
「ひとつ教えてあげようか」
命(めい)が返事に躊躇ったのを見て、まどかが意地悪そうな目で言った。命(めい)はこの表情こそがまどかの本性だと知っている。優しくしてくれたり助けてくれるのは、あくまで気まぐれの範囲だ。
 
「何?」と命(めい)は少し構えて訊く。
「理彩はもうバージンじゃないよ」
「え?」
 
と言った命(めい)の顔が青くなっている。まどかは、ほんとにこの子、理彩のことが好きなんだねと思った。
 
「誰がバージンを取ったか分かる?」とまどかは笑顔に戻して言った。
「えっと・・・・・もしかして△君、いや・・・・◇君・・・?」
 
「ふふふ。浮気性の彼女持つと大変だね」
「いや、理彩の浮気性は昔からだから」
 
「理彩のバージンをもらったのはね、命(めい)、あんただよ」
「え??」
 
「理彩だけが覚えてて、命(めい)が忘れているセックスがあるのさ」
「えーー!??」
 
まどかは楽しそうな顔をすると「バイバイ」と言って手を振り、ホテルの玄関から出て行った。
 
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【神様のお陰・花育て】(2)