【神様のお陰・花育て】(1)
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(c)Eriko Kawaguchi 2012-06-16
命(めい)は小さい頃、とても病弱だった。そんな様子を見て、村の神社の神主さん・辛島利雄は「そういう子は小学校にあがるまで女の子の格好をさせて育てると丈夫に育つんですよ」言い、それで命(めい)は小学校に上がるまで、ずっと女の子の服を着せられていた。命(めい)が女の子の服を着るようになってから、それまで毎月のように病院通いしていたのが、ほとんど病気をしなくなった。
命(めい)の持っている最も古い記憶は、その神社に隣接する公園での記憶だ。その当時公園にあったブランコ(命(めい)が小学校に入る頃にはもう撤去されていた)で、命(めい)は友人の理彩と遊んでいた。その時、30歳くらいかなという感じの朱色の和服を着た日本髪の女性が、ふたりをじっと見守っているというものであった。
それは命(めい)のお母さんとか、理彩のお母さんとは違う。知らない女の人であったが、その人はしばしば命(めい)の前に姿を見せた。命(めい)はその人のことを「まどかお姉さん」と呼んでいた。最初名前が「まどか」と聞き、うっかり「まどかおばちゃん」と言ったら「『お姉さん』と呼びなさい」と叱られたのである。
母が語ってくれた自分の小さい頃の話を聞くと、自分が女の子の服を着せられるようになり、病気をあまりしなくなった時期と「まどかお姉さん」に会うようになった時期が、だいたい同じ頃ではないかという気がする。
「まどかお姉さん」は和服が好きみたいで、いつも素敵な和服を着ていた。よく着ていたのは、朱色の地に黒い丸の模様がたくさん染め抜かれた小紋の服で、雨が降っている時は、それに朱色に白い丸が入った蛇の目傘を差していた。
「まどかお姉さん」は、小さい頃、よく命(めい)の手を握ってくれていた。握られると、そこから何かとても強い力が流れ込んでくるみたいな気がして、その力が命(めい)にいつも元気を与えてくれていた。
体調が少し悪かったりする時も、横になって、ふと「まどかお姉さん」の和服姿を思い浮かべるだけで体力が回復していったし、少し熱が出たりした時も、それで熱が下がっていたのである。
理彩はまだ物心付かない頃から、近所の子・命(めい)と遊んでいた。当時理彩は「男の子」と「女の子」の違いがまだよく分かっていなかったものの、親戚の子たちと一緒にお風呂に入ったりしていて、お股におちんちんが付いているのが男の子で、付いてないのが女の子らしいと気づき始めていた。自分にはおちんちんは付いてないから、自分は女の子なのかなとも思い始めていた。
またスカートを穿くのはどうも女の子だけらしいというのも気づき始めていた。そして、命(めい)はいつも可愛いスカートを穿いていた。だから理彩は命(めい)も女の子なんだろうと思っていた。
でも、ふたりで遊んでいて、理彩は命(めい)のお股を見る機会が出てくる。そこには小さなおちんちんが付いていた。それで理彩は、女の子の中にも、おちんちんが付いてる子もいるのかな、と頭の中が混乱していた。
ふたりは色々な遊びをしていたが、理彩が好きなのはお医者さんごっこだった。いつも患者役は命(めい)だ。実際、命(めい)は時々病院に行くようだったし、理彩は「メイちゃん、どこがぐあい、わるいのかな? しらべてあげます」
などと言って、命(めい)を裸にして「診察」してあげていた。そのころから理彩はおとなになったらお医者さんになるんだ、と思っていた。
命(めい)を裸にすると、おちんちんも目に付く。
「あら、メイちゃん、おまたにへんなのがついてますね」
などと言って、触ったり引っ張ったりしていた。理彩が触ると命(めい)のおちんちんは大きくなるので、面白ーいと思った。「注射しまーす」などと言って、おもちゃの注射器の先を、命(めい)のおちんちんの先に差し込むと命(めい)が痛がるのが面白かったし、またそうするとおちんちんが大きくなるのも不思議〜、と思っていた。
「こんなにおおきくなっちゃうのは、きっとびょうきです。このままではいけないから、きっちゃいましょう」
などと言って、ままごとセットの包丁を持ってくると、命(めい)のおちんちんに当てて切ろうとしたが、さすがにままごとの包丁では切れない。しかし、命(めい)が「きっちゃ、いや」と抵抗するのが、何となく楽しかった。
ある日、理彩は母が買い物に出かけて留守の時、台所から本物の包丁を持ちだしてきた。
「リサちゃん、それほんもののほうちょう?」
「そうだよ。これなら、きっとちゃんとおちんちんきれるよ」
「えー、きっちゃうの、いやだよ」
「だって、メイちゃんはおんなのこなのに、こんなのついてたらへんだもん。きっちゃえば、ちゃんと『おちんちんのないおんなのこ』になれるよ」
「おんなのこって、おちんちんないの?」
「そうだよ。ほらみてごらん」
と言って、理彩は自分のお股を命(めい)に見せる。
「わあ、おちんちんがなくて、なんか、われめがある」
「きっと、わたし、ちいさいころにおちんちん、きられたのよ。そのあとだとおもうな」
「じゃ、リサちゃんもおちんちんきられたんだ?」
「そうだよ。だから、メイちゃんもちゃんときってあげるね」
「でも、いたそう」
「がまん、がまん。わたし、おにんぎょうさんでれんしゅうしたからだいじょうぶだよ」
実際、理彩は命(めい)のおちんちんを切る前に、家にあった、男の子ポポちゃんのおちんちんを包丁で切断してみていたのである。(後で叱られた)
そして理彩はいやがる命(めい)をうまく言いくるめて、おちんちんをおままごとのマナ板の上に置き、おちんちんの根元に包丁を当てると、ぎゅっとそれに体重を掛けて、一気に切り落とした。
ポトっと、命(めい)のおちんちんが身体から分離して、マナ板の上に落ちる。それと同時にたくさん血が出てくる。
「いたいよ、これいたいよー」と言って、命(めい)が泣き出す。
こんなに血が出てくるのは、理彩には計算外だったので、どうしたらいいんだろうと困る。
「だいじょうぶだよ、ちはすぐとまるよ」
と命(めい)を元気付けるが、どうすれば血が止まるのか分からない。お人形さんで試した時は、血なんて、出てこなかったのに!
理彩が困っていた時、突然「まどかお姉さん」が出てきた。
「どうしたの?」
「メイのおちんちん、きってあげたのに、ちがとまらないの」
「あらあら。じゃ、私が停めてあげるね」
と言って、まどかは命(めい)のおまたのところに手を当てた。しばらくそのままにしてから手を離すと、血は止まり、理彩と同じような割れ目ちゃんができていた。
「やったー! これでメイもちゃんと、おちんちんのないおんなのこになれた」
と理彩。
「よかったね」と言って、まどかは微笑んでいる。
「メイ、いたくない?」
「うん。もういたくない。でも、おちんちん、とれちゃった」
「おんなのこはおちんちん、ないのがふつうだもん。これでいいんだよ」
「でも、おちんちん、なくなったら、おかあちゃんにしかられるかも」
「命(めい)は、おちんちん、あった方がいいの? 無い方がいいの?」
と、まどかが訊く。
「ぼくは、ないほうがいいかなあ・・・。リサとおなじかたちがいい」
「そう? でも、急におちんちん無くなったら、本当にお母さんが驚くかもね。そうだなあ。命(めい)が33歳になったら、おちんちん無くなるようにする。それまでは、おちんちん付けとくけど、時々外してあげるね」
「うん」
「でも今日は、寝るまでおちんちん無し。明日の朝、起きたらおちんちん、戻ってるよ」
「へー」
「でも、理彩、包丁で切るのは危ないから、よしなさいね」
「はい」
まどかさんは、そのあたりに大量に流れた命(めい)の血のあとを拭き取ってきれいにしてくれて、切り離した命(めい)のおちんちんは袋に入れて片付けた。
理彩も、包丁でおちんちんを切ったのは少しまずかったかなと思っていたので素直にまどかに従った。命(めい)のおちんちん、明日には戻っちゃうのか・・・ちょっと残念。
その日は、命(めい)のおちんちんが無いので、せっかくおちんちんが無いのならと言って、命(めい)に自分の水着を着せ、理彩自身も別の水着を着て、近くの川で水浴びをして遊んだ。
おちんちんが付いてると、女の子水着をつけさせた時に、お股に変なもりあがりが出来てしまう。おちんちんが無いと、すっきりしたお股になるから、やはり命(めい)はおちんちんが無いほうがいいな、と理彩は思った。
その日、命(めい)は、おちんちんを切られてしまった後、理彩と水着を着て遊んでいて、ああ、こういうおちんちんの無いのもいいなと思ってしまった。川遊びから戻り、元の服(タンクトップとスカート)にきがえて家の中で遊んでいて、おしっこに行きたくなる。トイレに行って、便器に座ってから、はて?と思う。おちんちん無いと、どうやって、おしっこすればいいんだろう?
なんとなく、お股の割れ目ちゃんを開いた方がいい気がしたので開いてみる。そして、おしっこを出すイメージを持つ。。。出た! 割れ目ちゃんの中からおしっこが出てくる。へー。おちんちんが無いと、ここからおしっこが出るのか。面白いなあと思う。
おしっこの後、けっこうその付近が濡れている。これ、このままパンツ穿きたくないなと思い、トイレットペーパーで拭いてみた。あ、これでいいよね。おちんちん無い時は、こうやっておしっこして、そのあと拭けばいいのか。何だか物凄く大きな発見をしたような気がした。
夕方近くまで理彩と一緒に遊んでから、家に帰る。
「あ、命(めい)、お帰り〜。一緒にお風呂入る?」
「あ、えっと・・・・いい」
命(めい)は母と一緒にお風呂に入ると、おちんちんが無くなっているのを見られて、騒ぎになる気がした。
「じゃ、命(めい)、お父ちゃんと入るか?」
と居間で新聞を読んでいた父に訊かれる。おちんちんの無いお股なんて、父親には絶対見せたくない。
「ぼく、おふろ、ひとりで入る」
「へー、偉いね」と母。
換えのパンツとシャツ(セーラームーンのキャラクタもの。命(めい)は下着も女の子用をいつも使っている)とピンクの花柄のパジャマを持って、お風呂場に行き、命(めい)はその日、初めてひとりでお風呂に入った。お股を洗う時にいつもはおちんちんのぶらぶらしたのを洗うが今日は割れ目ちゃんなのでかなり勝手が違う。これ中まで洗うのかなぁと思い、割れ目を開いて中にシャワーを当てながら洗った。
でも、おちんちんが無くなったことで、結果的に自立心が出てきた気がした。理彩はおちんちん切られちゃってるから、あんなにしっかりしてるのかなあ、などとも思ったりする。ふたりの関係では、いつも理彩があれこれ考えてくれて、命(めい)はそれに従っている感じだ。
御飯を食べて、テレビを見て、8時になったので、トイレに行ってから
「おやすみなさい」
と言う。
「あ、お母ちゃんも一緒に、お布団部屋行くね」
と母が言ったが、命(めい)は
「ひとりでねれる」
と言って、ひとりで寝室に行った。母と一緒にお布団に入ってて、おちんちんが無いことに気づかれないだろうかと不安だったのである。
「へー、今日は随分おりこうさんだね」と母が言った。
おちんちん無くなったから、僕も少しお姉ちゃんになれたかな、などと思った。(この時期、命(めい)も「お兄ちゃん」と「お姉ちゃん」の違いがよく分かっていなかった)
お布団の部屋に行き、自分用の小さい布団を敷いて、潜り込み、電気を消す。目を瞑ってから、そっとお股のところに手を伸ばしてみた。
ドキドキ。
いつも付いてる、おちんちんが無くなっちゃって、理彩とか、お母ちゃんと同じような、割れ目がある。この中って、どうなってるんだろう??さっきのお風呂ではあまり触る勇気が無かった。
中に指を入れてみると、上の方に何か少しこりこりした所がある。何?これ。触ってると、異様に気持ちいい。これ、おちんちん触った時の気持ちよさと同じ。いや、あれより気持ちいい。女の子のおちんちんかな?
少し指をずらしていくと、ひとつ穴があった。これ・・・多分、おしっこが出てくるところかな? という気がした。 女の子は、おちんちんと違う所から、おしっこが出るのか。
更に指をずらしていくと、おしっこが出てくる穴よりもっと大き穴があった。なんだろう? うんこが出てくるのは・・・・おしりの穴だし。何なのか、明日理彩に訊いてみようかな・・・・
命(めい)はその穴を触っていて、そこに指を入れてみたい衝動にかられた。そっと入れてみる。。。。。。なんか、たくさん入る! それに・・・・何か入って行く感覚が気持ちいい。
命(めい)はあまりやるのはよくない気がしてすぐに抜いたが、こういう場所があるの、いいなと思った。命(めい)は誘惑にかられて「女の子のおちんちん」
を揉んでみたり、また「大きな穴」にも再度指を入れたりして、今まで付いてた「大きなおちんちん」で遊んでた時より、ずっと気持ちいい感じになった。「大きな穴」の中で指をあちこち動かしているうちに、1ヶ所、物凄く気持ちよくなる場所があることも発見してしまった。理彩はこんなことして遊べるのかな・・・・いいなあ。
まどかお姉さんは、明日の朝にはおちんちんが戻るって言ってたけど・・・・戻らなくてもいいのに。このまま、理彩やお母ちゃんと同じ形のままでいられたら、いいのに、と命(めい)は思いながら、その夜は眠ってしまった。
翌朝起きて、命(めい)はお股に手をやり、おちんちんが付いているのを確認して、すごく悲しい気分になった。その日また理彩の家に遊びに行き、理彩から「おちんちん、どうなった?」と訊かれる。
「もとにもどっちゃった」と言い、パンツを脱いで見せる。
「あぁ。きのうは、おちんちんがなくて、わたしとおなじだったのに」
「うん。ぼくも、おちんちんないほうがいいのになあ」
「はやく、おちんちん、なくなるといいね」
「うん。おちんちん、なくしたーい」
その後、理彩は、さすがにまたおちんちんを本物の包丁で切ろうとはしなかったものの、何度かおもちゃの包丁や、ハサミで切るまねをすることはあったし、命(めい)によく「おちんちん、なくなるといいね」と言っていた。また命(めい)も「おちんちん、なくなるといいな」とよく言っていた。
そして理彩は、その内ちゃんとお医者さんになる勉強して、それから命(めい)のおちんちん、あらためて切ってあげたいな、などと思った。
しかし、月日がたつにつれ、ふたりは、一度ほんとにおちんちんを切っちゃった、ということ自体を忘れてしまった。
命(めい)は小さい頃から、女の子のお股の構造について、ちゃんと知っていたし、割れ目ちゃんの中に、おしっこの出る穴以外に「奥の方の大きな穴」があることも知っていて、その奥の穴に、かなり深いところまで指を入れられることも知っていた。そして、そこに実際に指を入れたことがある記憶だけは残っていた。ただ、指を入れたことがあるのは、きっと理彩についている奥の穴なんだろうと思い込んでいた。
命(めい)が時々、そんなことを言っていたので、理彩は自分でも、その穴に命(めい)から指を入れられたことがあるような気がしていた。しかし実際にはこの時期に、命(めい)が理彩のヴァギナに指を入れたことは無かったのである。
その年の11月15日、命(めい)は赤い女の子の和服を着せられて、神社で七五三のお参りをした。拝殿の前でお賽銭を入れ、鈴を鳴らして拍手を打ち、それで帰ろうとしていたら、宮司の辛島利雄さんがちょうど通り掛かり、
「おや、七五三ですか。祝詞を奏上しますよ、拝殿に上がってください」
などというので、一家3人で中に入る。
「宮司さん、しばらく寝ておられたようですが、大丈夫ですか?」と理彩の父。
「ええ。ここ数日は少し調子いいので、七五三だしと思って今日は起きてきました」
その時、宮司さんは見た目には元気そうであった。
宮司さんが太鼓の前に座って、それを打っていたら、ちょうどそこに理彩の一家も七五三のお参りに来た。理彩も赤い和服を着ている。それでそちらの一家3人も拝殿にあがり、一緒にお祓いを受けることになった。
あらためて太鼓を叩いた上で、宮司さんが祝いの祝詞を奏上する。
「今よりの先、この娘子たち、若竹のすくすく伸びるごとく栄えしめ給い、夜も昼も守り給い幸え給え」
などと祝いの言葉の糸が神前に織られていく。
理彩の母は「神主さん『娘子たち』って言ったけど、理彩はいいとして命(めい)ちゃんもいいのかな・・・」とはちらっと思ったものの、こんなきれいな女の子の着物を着てるし、まあ「娘子」でいいか、と思い直した。
この日の宮司さんは妙に調子良くアドリブっぽい祝詞が、なかなか長く、理彩や命(めい)は途中で足がしびれてくるほどだった。
お祓いのあと、拝殿前で記念写真を撮る。両親は理彩と命(めい)を並べて写真を撮ったし、両家6人が並んでいるところを宮司さんが写真に撮ってくれたりもした、
神社の後、理彩の家に6人で行き、両家合同でお祝いの料理を作って食べた。
「でも、こうして並んでたら、結婚させたくなっちゃいますね」
どちらからともなく、そんな言葉が出てくる。
「本人たち次第ですけどね」
そんなことを言っていたら理彩が
「メイは、わたしのおよめさんになるんだよ」
などと言う。
「あら。命(めい)ちゃんがおよめさんなの?」
命(めい)まで
「ぼくも、リサのおよめさんになりたいの」
などと言っている。
「うん。メイは、きっとかわいいおよめさんになるよ」
「そうかもね」
「でも、今日の宮司さんの祝詞、ずいぶん長くなかったですか?」と命(めい)の父。
「あ、凄く長かったですね」
「調子良かったのかな?」
「かなり長期間寝てたようですからね。元気になってくれるといいですね」
などと言っていたのだが、その宮司さんは七五三の翌日、また寝込んでしまい、一週間後に亡くなってしまったのであった。理彩たちにあげた祝詞は、宮司さんにとって半年ぶりにあげた祝詞であったようだが、結局それが最後の祝詞になってしまったらしい。
命(めい)が幼稚園に入る時、母は迷った。それまで2年ほど命(めい)には魔除けのため、女の子の服を着せていた。幼稚園に入れるのに、男の子の服に戻すべきだろうか? 命(めい)に女の子の服を着せるといいと勧めてくれた神社の宮司さんは先日亡くなったが、その宮司さんは「小学校に上がるまで」女の子の服を着せておくといい、と言っていた。ただ、宮司さんが幼稚園のことまで考えていたかどうかは定かでない。
どうしよう? 宮司を継いだ息子さんに聞いてみようかな・・・とも思ったものの、とりあえず、入る予定の幼稚園に連絡してみた。すると本人も含めて会って話したいということだったので、命(めい)を連れて行ってくることにした。
長い髪を三つ編みにして、お出かけ用の上品なブラウスと膝丈スカートを穿かせ一緒に幼稚園に行く。
「可愛いですね! 本当の女の子みたいに見える」などと園長先生から言われる。
「君、こういう服が好き?」
「うん。ズボンよりスカートのほうがすき」
などと女の子っぽい口調で答える命(めい)を見て、
「これなら、他の女の子に混ぜても問題なさそうですね」
などともいう。
そして、魔除けで小学校に上がるまでこういう格好をさせておくということで、本人もこういう格好が好きということなら、幼稚園は女の子の制服でいいんじゃないですか? と言われた。
そこで、命(めい)の両親は幼稚園までは女の子として通わせることを決め、女の子の制服(ピンクのスモッグと赤いスカート)を注文した。
命(めい)にこういう服を着せるようになる以前、頻繁に原因不明の病気にやられ、命(めい)自身が苦しんでいるのに、お医者さんも対処法が分からず、それをそばで見ていて親も精神的に参っていたこと、そして、女の子の服を着せるようになってからは、そういう病気に掛かるのがほとんど無くなったことは、親としてもトラウマのようになっていたのである。
今、女の子の服を着せて過ごしていて、それで命(めい)が健康でいられるならそのままの方がいい、と両親ともに思っていた。
幼稚園に通い出した命(めい)は、ほんとに女の子のように振る舞っていた。また、一緒に通っている理彩が命(めい)を連れて他の女の子たちと遊んでいたのも大きかった。大半の子が、命(めい)を女の子と思い込んでいた感じだったし、命(めい)はトイレもふつうに女の子トイレを使っていた。そもそも命(めい)はおしっこを立ってしたことが無かった。
命(めい)の名前シールは他の女の子と同様赤いシールで、下駄箱も女の子たちの並びにあった。また識別用の絵は、男の子たちはカエルさんとかウサギさんとか動物のマークだが、女の子たちは花や果物などのマークで、命(めい)のマークは桃であった。
水遊びのある日は、命(めい)はアンダーショーツを穿かされ、タマは体内に押し込んで、棒は下向きに収納して、その上に女の子用の水着を着せたので、外見上、おちんちんが付いているようには見えず、ふつうに女の子の水着姿になっていた。それで、他の女の子たちの中に居ても、全然特別な子のようには見えず、実際問題として幼稚園の先生たちでさえ、しばしば命(めい)が男の子であることを忘れていた。
お遊戯会では、シンデレラの演目だったが、命(めい)はシンデレラのお姉さん役のようだった。ただ、幼稚園のお遊戯会なので、シンデレラが5人、お姉さんは10人、お母さんが4人、などといったマルチキャスト!?である。
また、ひな祭りの時は、三人官女(が7人いるが)のひとりになって赤い和服で段に並び、にこやかにしていた。
幼稚園の年中さんの時、命(めい)の両親が、命(めい)と理彩の2人を連れて、近くの温泉に行ったことがあった。男親と女親がいるので、命(めい)は父に連れられて男湯の方に行き、理彩は命(めい)の母に連れられて女湯の方に行った。
命(めい)はふだん通り、女の子の服を着ているが、小さい子供だから女の子が男湯の脱衣場にいても別に誰も変には思わない。また、服を脱いでしまうと、身体は男の子なので、埋没してしまい全然問題が無い。
命(めい)はそういう微妙な問題のことは思いもよらないまま、単純に大きなお風呂に来て、面白いなと思い、広い湯船につかり、ガラス張りになっている窓から外の景色を眺めて、楽しんでいたりした。命(めい)があんまり長時間入っているので、しびれをきらした父が「先にあがってるぞ」と言って出てしまう。たくさん、おとなはいるし5歳なら溺れることもあるまいから大丈夫だろうということで、放置した。
命(めい)はたっぷり温泉を楽しんでから、あがり、またいつもの女の子の服を身につけてロビーに出た。そこでバッタリと理彩に会った。
「きもちいいおふろだったねー」
「うん、わたしもきもちよかった−」
「きのかおりが、きもちよくて。ひのきっていうのかな」
「えー? おとこゆはきのふろ、だったの?」
「あれ? おんなゆはちがうの?」
「こちらはいわのふろ、だったよ」
「えー? いわのふろって、みてみたい」
「わたしも、きのふろ、みてみたい」
「ね・・・・ぎゃくにはいっちゃおうか」
「うん。ぼくたちこどもだし、いいよね」
などとふたりが「いけない相談」をしていたところに、ちょうど玄関の方からまどかさんがやってきた。
「あ、こんにちは」
とふたりとも挨拶する。まどかさんは、なぜか命(めい)と理彩が一緒に遊んでいる時などに、よく現れていた。
「君たち、これからお風呂に入るの?」
「いちどはいったんですけど、おとこゆはきのふろで、おんなゆはいわのふろで、それぞれはんたいがわが、みたいねっていってたところです」
「あぁ。じゃ、君たち、ちょっと男と女を変えてみる?」
とまどかさんは言うと、ニコっとふたりに微笑みかけた。
「あ・・・」と言って理彩が自分のお股に手をやると、付いてる!
「え・・・」と言って命(めい)も自分のお股に手をやったら、無くなってる!
「これで、ふたりとも反対の風呂に入れるでしょ?」
「わーい、ありがとうございます!」
「君たちがこの温泉を出たら、元の身体に戻るから」
「はい」
命(めい)は久しぶりに女の子になれたので、嬉しくなって、女湯の暖簾をくぐり、女湯の脱衣場に入った。当然のことながら、周囲は女の人ばかりである。見回すと、おっぱいを出して涼んでいる人などもいる。わあ、おっぱいいいなあ・・・・、僕も大きくなったら、おっぱいできるのかな・・・などと思いながら、脱衣かごを取って来て、服を脱ぐ。
お股のところには、おちんちんは付いてなくて、割れ目ちゃんがある。やっぱり、これいいよねー、と思いながら、命(めい)は浴室に入った。
理彩が言った通り、こちらは岩風呂である。岩を組み合わせて作られた浴槽が、ワイルドな感じで、子供の冒険心を呼び起こす。身体を洗って湯船につかった。お湯が、岩でできた龍の口から出ているので、なんか楽しい感じ。男湯の方の、檜風呂では、竹の樋のようなところからお湯は出ていた。
見ていると、女湯なので、入っている人みんな、おちんちんが無い。理彩と母のお股はいつも見ているが、他の女の人のお股なんて、そうそう見るものではないので、今更ながら命(めい)は「女の人って、みんなおちんちんが付いてないのか・・・・いいなあ」などと考えていた。
こちらは側面のガラス窓の展望も、男湯の方とは別の向きなので、さっきとは違った景色を楽しめて、命(めい)は時間の経つのも忘れる感じだった。
「どう?こちらの身体の感じは?」
などと、いつの間にか近くに来ていた、まどかが浴槽の中で寄ってきた。
「ぼく、このからだすきです」
「ふーん。女の子になりたい?」
「うん。なりたい」
「そのうち、なれるといいね」
「えへ。おおきくなったら、おっぱいもできるかなあ」
「うん。あんたはおっぱい大きくなるよ」
その「ビジョン」は過去に、まどかは見ていたので即答した。
「ホント? うれしいなあ。ぼく、リサとけっこんして、およめさんになりたいの」
「おやおや。あんたたち、仲いいもんね」
「そして、あかちゃんうんで、おかあさんになるんだ」
「ふーん。。。お母さんにね。。。。あんたなら、なれるかもね」
と、まどかは少し遠い所を見るような目をして言った。そして「あれ?」といった表情をした。その時、まどかが何を「見た」のかは、まどかはそのことを誰にも何も言わなかったので、誰も知らないことである。
一方の理彩は、おちんちんなんて身体に付いたのは初めての経験だったので、喜び勇んで、男湯の暖簾をくぐった。脱衣場で、たくさんの男の人を見て「おお!」と思う。ちんちんをぶらぶらさせて歩いてる人がいる。きゃー。男の人って、ちんちん見せるの好きなのかなあ。命(めい)もよく見せてるし。
などと理彩は考えていたが、いつも自分が無理矢理命(めい)のパンツを降ろしていることは忘れている。理彩は基本的に自分に都合の悪いことはすぐ忘れる性格である。この付近、理彩とまどかは結構似た性格なのだが当人同士はそれをあまり意識していない。
脱衣かごを持って来て、服を脱ぐ。わーい、おちんちんだ! いつも命(めい)のをいじっているので、だいたいの仕組みは分かっているが、自分の身体に付いていると、何だか楽しい。
そのまま浴室に入る。浴槽に入る前に身体洗わなきゃだよなーと思い、洗い場の椅子に座る。シャワーを出して身体を軽く洗うが・・・・この、おちんちんって、どうやって洗うのかな? と疑問を持った。この皮の中まで洗わないといけないよなあ、と思って剥いてみると、独特のカーブをした先っぽが姿を現す。そこを洗うと、異様に気持ちいい。きゃー。おちんちんって、触るとこんなに気持ちいいのか! こんなの付けてるなんて、命(めい)ずるーい。
浴槽につかり、檜の香りを楽しむ。うん。こういう風呂もいいなあと思う。浸かって最初は窓の外の景色を見ていたが、ふと室内に目をやると、大量のおちんちんが歩いている。あはは、ちょっと壮観ってか、あまり見たくない風景という気もするな、と理彩は思った。
しかし、おちんちんも人によって随分形が違うのねー、などと思う。おとなの人のおちんちんで、皮をかぶっているタイプと、出ているタイプがあるのには早々に気付いたが、あれは「タイプ」なんだろうか「モード」なのだろうかと理彩は疑問を感じた。命(めい)のは、大きくした時以外は、かぶってるよな。
おちんちんの観察が何だか楽しくなって、理彩はずっと入っていたい気もしたが、あまり長時間入っていて、命(めい)のお父さんが見に来たりしたら大変だ。理彩はまだ名残惜しい気もしたが、あがることにし、身体を拭いて服を着た。
そして・・・理彩はやってみたいことがあったのである。幸い今日はズボンを穿いて来ている。へへへ。立っておしっこしてみよう。などと思い、男子トイレに侵入する。小便器が並んでいるのを見て、ひゃーと思った。
よ、よし、やるぞ。
と思って、理彩はズボンのファスナーを下げ、おちんちんを取り出した。理彩が少し興奮しているので、おちんちんは大きくなっている。この大きくなったり小さくなったりするのって、ほんとに面白いなあと思う。さて、おしっこ、おしっこ、と思って出そうとする。。。。。。が、出ない? 何で〜?
理彩はいったんおちんちんをしまうと、個室に入って少し悩んでみた。
男の子って、おしっこ出す時に何か特別なことしないといけないのかな・・・・たとえば逆立ちするとか? 男の子たち、幼稚園でよく逆立ちの練習してるし。でも、逆立ちした状態で、おしっこしたりはしないよね・・・・
などと考えている内に、おちんちんが小さくなってきた。あ、残念。小さくなっちゃった、と思った時に、理彩はおしっこが出るような気がした。
座ったまま、出すイメージを持つ。。。。。出た!
と思ったら、おしっこが便器から飛び出す! わっわっわっ。
いったん停めて汚したところをトイレットペーパーで拭いておそうじした。
でも、おちんちんから、おしっこするって、こんな感じなのか。何だかすごく変な気分! でも何で出たのかな・・・と思って、おちんちんが小さくなったからだ!!というのに思い至る。 そうか。きっと、おちんちんって大きくなっちゃうと、おしっこが出ないんだ。
理彩は凄く大きな発見をしたような気がして、嬉しくなった。個室を出てから小便器の前に立ち、再度出してみる。わーい、出る出る! すごーい。
立ちおしっこ初体験!!
嬉しくなった理彩はおちんちんをしまうと、手を洗って外に出た。ちょうどそこに女子トイレの方から、命(めい)が出てきた。
「メイ、おんなのこトイレのかんそうは?」
「え? ぼく、いつもおんなのこトイレに、はいってるけど」
「あ、そうか」
「リサは、おとこのこトイレ、はじめてだったんだね」
「うん。ちょっと面白かった」
「へー。ぼくは、おとこのこトイレ、はいったことないや」
「なに〜〜〜!?」
と理彩は言ったが、考えてみると、トイレに行こうという時にいつも命(めい)を女子トイレに連れ込んでいるのは自分だという気もする。
「でも、すわってやったら、おしっこがとびだしてよごしちゃった」
「おちんちんは、ゆびでおさえて、したにむけておくんだよ」
「へー! そうすればよかったのか。おぼえとこう。めいは、うまくおしっこできた?」
「うん。おちんちんなくなったの、初めてじゃないし、ちゃんとできるよ」
「すごーい」
そんな危険な会話をしていた時、あまりにもふたりが遅いので心配になり見にきた、命(めい)の両親たちが、ふたりを見つけた。
「そろそろ帰ろうか?」
「はーい」
ふたりは車の後部座席に並んで座る。見つめ合ってニコっと笑った。
車が出発する。
途端にふたりは自分の身体に変化が起きたことを認識した。
「もとにもどっちゃったね」
「うん。ぼく、あのままがよかったのに」
「わたしはたくさん、たのしんだからいいや。あのからだ、めんどくさそう」
「やっぱり、おんなのこがいいね」
と、ふたりは口をそろえて言った。
そんな日の記憶も、ふたりの頭からはいつしか消えていった。理彩の頭の中には、男の子って、おちんちんが大きくなってると、おしっこできないんだという知識だけが残った。
小学校に上がるということになった時、命(めい)はこれからは男の子の服を着るんだよと言われた。
「わあ、おとこのこのふくもおもしろいね」
「もう女の子の服は着ないからね」
「えー、どうして?」
「だって、命(めい)は男の子だから、男の子の服を着なくちゃ」
髪もそれまで胸くらいまであったのを短く切られてしまった。長い髪が好きだったので、何だかとても悲しくなった。
それで男の子の服を着て学校に出て行くと、友だちから、なんでそんな服を着ているのと聞かれる。
「男の子になりなさいって言われたの」
「へー。でも男の子も面白いんじゃない?」
「そうかなあ・・・・」
男の子たちが命(めい)を誘ってくれて、サッカーなどをしたが、女の子たちも、これまでの付き合いもあり誘ってくれたので、一緒にお絵かきしたりしながら、おしゃべりに興じていた。
結果的に小学1〜2年生頃、命(めい)は男の子とも女の子とも等しく遊んでいる感じであった。話し方や声の出し方は、それまでの流れで女の子っぽい話し方をしていたが、この年代の子の場合、その話し方で男の子と付き合っていても特に問題は無い感じであった。
トイレは最初今まで通り女の子トイレに入っていたものの、先生から、君は男の子だから男の子トイレを使うようにと言われてしまった。仕方ないので男子トイレに入るが、立っておしっこするのは変な感じだったので、いつも個室でおしっこをしていた。
小学1年生は満7歳になるので、女の子なら七五三である。両親は迷ったが、理彩が七五三をするというので、命(めい)も自分もしたいと主張したので、まあいいか、ということで女の子用の着物を作ってあげた。
先に作った理彩が青地ベースで桜に雉・打出の小槌・月の柄であったので、命(めい)は黄色地ベースで、牡丹に御所車・鼓・手鞠の柄にした。
「命(めい)はこういうの似合うなあ。また女の子に戻したくなる」
とお母さんが言うので、命(めい)も
「ぼく、女の子にもどりたい」
と言うが、
「今日だけ女の子ね。また明日から、男の子」
「じゃ、きょうは、いえにかえったらスカートはいていい?」
「うーん。まあいっか。今日だけなら」
ということで、その日だけは女の子でいていいことになった。
時刻を連絡しあっていたので、理彩の一家といっしょに神社に行く。神社にも連絡していたので、宮司の辛島和雄さん(先代宮司・利雄さんの息子)が出てきてくれていて昇殿しお祓いを受けた。そのあと拝殿前で宮司さんがカメラを持って記念写真を撮ってくれた。
「3歳の時は、お父さんが祝詞あげて記念写真も撮ってくれたんですよ」
「あれが親父の最後の仕事になりましたからね。理彩ちゃんと命(めい)ちゃんの行く末をすごく気にしてました」
「おかげで、どちらも元気に成長してます」
「命(めい)ちゃんも、あまり病気したりしないようですね」
「ええ、体質の弱さはどうにもならない面もあるみたいですが、日常生活には大きな問題はないですね。身体が弱いから夜更かしとかさせないようにしてます」
「子供は早く寝るのがいいですね」
その日は命(めい)の家に理彩一家が来る形で、一緒に夕ご飯を作り、お祝いの食事会にした。ちらし寿司、唐揚げ、などを作り、前日から準備していたケーキを食べた。もちろん、理彩も命(めい)も食事の前に着物は脱がせた。命(めい)は久しぶりにスカートを穿いていて、なんだか嬉しそうだが、理彩のほうがむしろ喜んで、命(めい)のスカートをめくり「もう、リサ、H」
などと言われていた。
命(めい)は小学校にあがってからも、昔ほど頻繁には病気しなかったのだが、1年生の6月に一度高熱を出して親を心配させ、また12月にも熱を出した。6月の時はすぐに治ったのだが、12月の時はなかなか治らないし、熱がどんどん上がっていく。不安を覚えて病院に連れて行くと、入院を勧められた。
「インフルエンザでしょうか?」
「インフルエンザではないようです。検体をラボに送って検査してますので、明後日には何か分かると思います」
と医師は言ったのだが、戻って来た検査結果を見ても医師は原因を特定することができなかった。熱はずっと39度台が続いている。それなのにこんな熱を引き起こすようなウィルスなどが見当たらない。医師は解熱剤を処方したりして対処療法を続けたが、改善が見られない。入院は一週間近くに及んだ。
「これ、月曜日の朝の段階でこのままでしたら、大学病院に移します」
と医師が厳しい顔で言った。
「お願いします」
と両親は言った。
「うちのお母さんが、今夜神社でお百度を踏むって言ってた」
と病室で命(めい)の母が夫に言った。
「そうか・・・・」
「ねぇ・・・・やはり、命(めい)を男の子に戻したの、いけなかったのかな?」
「実は俺もそれ考えていた。本人も女の子の服着たがってる感じだし、これ退院したら、女の子に戻しちゃおうか?」
そんなことまで両親は話し合っていた。ふたりともここ一週間まともに寝ていない。
夜中。
母は命(めい)のベッドのそばで添い寝している。父は近くの旅館に泊まっている。
そこに、どこからともなく、まどかが入ってきて、命(めい)の額に手を置いた。30分ほどそのままにしていたら、命(めい)が目を開けた。
「どう?」
「なんかすこし、らくになった気がする」
「とりあえず熱は下げた。でも、あんた、このままだと死んじゃうよ」
「ぼく、しぬの?」
「死なせない。助けてあげる。あんたの身体の弱い所を丈夫な女の子の身体と入れ替える」
「ぼく、女の子になるの?」
「それは今はしない。おとなになってから、してあげるよ。でも、元々命(めい)の男の子の身体って、ものすごく弱いんだ。でも、女の子の身体は健康そのものなんだよ。だから、特に弱いところだけ女の子にしてあげる。命(めい)、おちんちんは強いから、そこは男の子のままね」
「よくわからないけど、少し女の子になるなら、うれしいな」
「嬉しかったら少し頑張ろうか。この病気に勝つには、第一に命(めい)自身の病気に負けない。頑張って治す、って気持ちが必要なの」
「うん。ぼく、がんばる」
まどかは命(めい)の身体の上をずっとスキャンする。とにかく身体全体が衰弱している。胎児のころからの問題なのでさすがのまどかにもこれを丈夫にするのは難しい。女の子の服をずっと着せられていた時は女体側が活性化されて、男体側も支えられていた。でも、この子は取り敢えず男の子として生きていかなければならないだろう。
まどかは最初どこを入れ替えて、どこはそのままで・・・・と考えていたがだんだん面倒くさくなってきた。まどかは元々あまり精密なことを考えるのが苦手な性分である。(この付近も理彩と似ている)
まるごと入れ替えちゃえ! と思ったまどかは、手足と頭以外の部分を一気に女体側と入れ替えた。
「あれ?おちんちんなくなった」と命(めい)。
「あ、間違い間違い」と言って、まどかは性器だけ、男の子の方に戻す。
「あ、またできちゃった。無くてもいいのに」
「ふふふ。でも、命(めい)はこれで7割くらいは女の子になったよ」
「えー?すごい。でも、どのあたりが女の子なんだろう?」
「これで、もう今回みたいな、ひどい熱で苦しんだりすることもないと思うよ」
「ほんと? こんなにねつがでるの、ぼくもつらいの」
「辛いよね。でも頑張ろうね。死んだら元も子もないしさ」
「しんだら、てんごくにいくの?」
「そんなものがあると聞いたことはないね。死んだら消えるんだと思うよ」
「ふーん。。。きえるってのも、よくわからない」
「まあ、そんなのは、死ぬ頃までに考えればいいよ」
「ぼく、いつしぬの?」
「今は考えなくていい。少なくとも、孫が何人かできるまでは生きてるよ」
「へー。まごか・・・ぼく、リサとけっこんできる?」
「結婚出来るけど、それは命(めい)が理彩のお婿さんとして頑張ったらだね」
「おむこさんなの? リサのおよめさんじゃだめ?」
「理彩は女の子だからさ。命(めい)が理彩をお嫁さんにすればいい」
「あ、そうか」
「だから、命(めい)はお婿さんとして頑張んな」
「そうだね。がんばってみる」
翌朝、命(めい)の熱が下がっていて、いたって元気なのに、母も医師も驚いた。
「うちの母が昨夜お百度を踏んでくれたらしいし、それもあったのかなあ」
「いや、もうこれは神様のお陰としか言えませんね」と先生も言う。
「でもほんとに良かった」
母はこの一週間の心労で体力的にも精神的にも疲れ果てていたが、元気になった命(めい)を見て、そんな疲れはどこかに吹き飛んでいきそうな思いだった。
命(めい)もさすがに一週間高熱で苦しんだので、身体がよく動かないようであったが、これなら2-3日で退院できますよと先生に言われた。
「ねぇ、命(めい)、退院したら、また女の子の服着て暮らすかい? 学校にも女の子の服で行っていいよ。私、先生にもお願いするから」
「うーんと。ぼく、リサをおよめさんにしたいから、男の子としてがんばる」
「へー!」
命(めい)は月曜日には退院し、そのまま男の子として小学校に通い続けた。そして、そのような原因不明の高熱で倒れることは、その後全く無くなった。
それまで男子トイレに入っても個室でおしっこしていた命(めい)が、小便器で立っておしっこするようになったのも、それからであった。
命(めい)が入院していた時期、高熱に苦しんでいた間は意識も途切れがちだったし、尿道にカテーテルを入れて導尿されていたが、熱が下がり意識も明確になってからは、尿器でおしっこをした。この時、最初男の子用の尿器を渡されたものの、命(めい)はこれをうまく使えなかった。
「使い方分かるかな? おちんちんの先を尿器の口の中に入れるんだよ」
と言われてやってみたのだが、先を入れて出し始めると、どうしても先が外れてしまうのである。しかも命(めい)のおしっこは、おちんちんの先端からまっすぐ飛ばず、実に不思議な方向に飛んで行く。それで、毎回服やシーツを濡らしてしまうので、下に防水シーツを敷かれてしまった。
ところがそんな悪戦苦闘をしていた翌日、年配の看護婦さんがたまたま同室の他の科の患者のところにまわってきて、命(めい)と若い看護婦さんのやりとりを聞いていて
「ねぇ、君。男の子用でうまく行かないなら、女の子用を使ってみようか?」
と言った。
女の子用は口が広いので、おしっこがどこに飛んでも大丈夫である。ただし、漏れないようにぴたりと身体に密着させておく必要がある。命(めい)は教えられて、お股の付近全体を覆い、身体にしっかりとくっつけた。
おそるおそるおしっこを出してみると、確かに飛び出したりしない。一部が皮膚を伝わって流れていくが、身体に密着させているので、その密着部分でちゃんと尿器に回収される。あ、これいいな、と思った。
そういう訳で命(めい)は退院当日にやっと立ってトイレに行けるようになるまで、女の子用の尿器のお世話になったのであった。
命(めい)が小学3年生の時である。
命(めい)たちの集落には遊具のあるような公園もないし、小学校にはスクールバスに乗って10分くらい行かなければならず、あまり遊び場が無いので、結果的に裏山で遊ぶ子が多かった。裏山には畑を作っている農家も多いし、キノコや山菜・山草などを取りに入る大人も多い。そこで、裏山で遊んでいても結構大人の人と遭遇することが多かったし、結果的に子供たちが裏山で遊ぶのを、大人たちも許容していた。
ふだんはだいたい集落から歩いて登って10分程度以内の「里山」「内山」の範囲で遊んでいるのだが、その日、理彩は命(めい)を連れてかなり奥の方まで登っていた。上級生の女子から、30分ほど登った所に温泉があるという話を聞き、そこまで行ってみようと命(めい)を誘ったのである。
山歩きに慣れてない者なら大人でも迷ってしまうような場所だが、小さい頃からこの山で遊んできた理彩は、上級生から聞いた場所に辿り着けるという自信があった。命(めい)は外で遊ぶより、家の中で折り紙をしたり、お人形で遊んだりしている方が好きなのだが、活発な理彩に引かれて、付き合うことになった。
「リサ〜、そろそろつかれてきたよ〜」
「メイ、男の子でしょ。がんばりなさいよ」
「つかれるのに、男も女もないと思うけどなあ」
「わたしは元気だよ」
と理彩は言うが、実は自分もけっこう疲れている。ふたりは時計を持っていないが、たぶん1時間くらいは歩き続けているような気がした。理彩は少し前から『ひょっとしたら迷ったかも』という気が、し始めていたのだが、それを口にすると命(めい)が不安がると思い黙っていた。
「ねぇ、ぼくつかれた。すこし休もうよ」
「しかたないなあ。じゃ、ちょっとだけね」
とは言ったものの、実は理彩も少し休みたかった。
山道の途中にあった大きなブナの木の下で、ふたりは座り込んだ。ペットボトルに入れて持って来た水をふたりで少しずつ分けて飲む。
理彩は上級生に描いてもらった地図を広げて再検討する。迷ったのは明らかだ。問題はどこで道を間違ったかである。場合によっては温泉まで行くのを諦めて下山優先で考えようと思い、理彩はあたりの地形を観察した。『最悪下に下にと行けば帰れる』と理彩は思ったが、少しでも山歩きしたことのある人なら分かるように、それはわりと危険な発想である。
その時、1匹の蝶がふたりのそばにやってきた。立羽蝶かな?と理彩は思った。赤地に黒の紋が多数あるのが美しい。その蝶が何となく自分たちを誘っているような気がした。
「メイ、行くよ」と言って理彩は立ち上がる。
「えー?もう行くの?」と命(めい)は言うが、理彩はその命(めい)の手を取って歩き始めた。
蝶はゆっくりと飛んでいく。理彩は何となく蝶に付いていけば自分の分かる道に出そうな気がして、しっかりとその後を付いていった。命(めい)はさっき休んだので少し体力を回復したようで「リサ、その荷物持とうか?」などと言い出したので、理彩は遠慮無くバッグを命(めい)に預けた。
そして蝶の後に付いていくこと20分ほど。理彩は「あ、ここは来たことある」と思う場所まで辿り着いた。ただ、来たことはあっても、明確な道のつながりまでは覚えていない。理彩は更に蝶に付いていく。そしてそこから更に20分ほど歩いた時、硫黄の臭いがしてきた。理彩と命(めい)は顔を見合わせる。
「これ、きっと温泉があるんだよ」
「うん」
「あと少しだよ。頑張ろう」
蝶が更に道案内をしてくれるので、それに付いていくと硫黄の臭いは段々強くなってきた。やがて、温泉から流れ出していると思われる暖かい水の流れに辿りついた。理彩が流れに手を入れて
「わあ、あたたかい。もうおんせんはすぐ近くだよ」と言う。
命(めい)も手を入れて
「あたたかいね。気もちいい」
などと言っている。
ふたりが暖かい流れに手を入れている間に蝶はどこかに行ってしまった。しかしここからなら充分辿り着ける。理彩は流れに沿った道を命(めい)の手を引いてしっかり歩いていった。5分ほどでその温泉にはたどりついた。
「やった!」
「たどりついたね」
「入ろ、入ろ」
と言って、温泉に近づいていくと、先客がいた。
「あ、まどかお姉さん、こんにちは」と理彩が挨拶する。
「あら、理彩ちゃんと命(めい)ちゃん。久しぶりだね」
「こんにちは」と命(めい)も挨拶する。
「入っておいでよ。ここ気持ちいいよ。女三人でのんびりしよう」
とまどかは言って、ニコっとした。
その瞬間、命(めい)は身体の感覚が変わって『あれ?』と思う。
「女三人なのかな・・・・」と言って理彩は命(めい)を見るが、まどかとは旧知の仲だ。命(めい)のおちんちんくらい見ても。まどかさんは平気だよねと思い、命(めい)に
「服ぬいで、はいろう」と促す。
「うん」と言ったものの、命(めい)は何だかもじもじしている。
理彩は『ああ、やはり女の人の前で裸になるのが恥ずかしいのかな』と思い、
「ぬがないなら、ぬがせちゃえ」
と言って、命(めい)のシャツを引っ張って脱がせる。そしてズボンもぐいっと引き下げた。ブリーフを穿いているが、そのブリーフを見て理彩は何か違和感を感じた。「あっ」などと命(めい)は言っていたが、構わずブリーフも引き下げた。
「あれ?」と声を出して理彩は驚いた。
「メイ、今日はおちんちん無いの?」
「なんだかさっき無くなった」
「じゃ、ちょうどいいね。女どうしだから、もんだい無しだよ」
と言って理彩は自分も裸になり、命(めい)の手を取って、その温泉の出ている岩の窪みに浸かった。
ここまでの道のり汗を掻いたし、足も酷使したのでお湯が気持ちいい。
「ふたりとも大きくなったね」とまどかが言う。
理彩はまどかに会ったのは2年ぶりくらい、命(めい)も入院した時以来1年半ぶりである。
「小学・・・3年生くらい?」
「はい、3年生です」
「じゃ、来年くらいにはふたりとも少しおっぱいが膨らみ始めるかな?」
などとまどかはにこやかに言う。
「そうですね。私は大きくなるかも知れないけど、メイはどうかな?」
「ぼくもおっぱい大きくなるといいなあ」
「ふふふ。大きくなるといいね。この温泉はおっぱい大きくする作用もあるしね」
「へー。もし男の子が入るとどうなるんですか?」
「男の子でも、おっぱい大きくなるかもね。代わりにおちんちんは小さくなるかも知れないけど」
「わあ。じゃ、メイ今日はおちんちん無くて良かったね」
「そうだね」
と言って命(めい)はおちんちんを押さえようとして空振りする。あ、そうか。今無いんだった。
「命(めい)ちゃん、理彩ちゃん、『月経』のこと分かる。『生理』といったほうが通じる?」
「あ、何となく分かります」と理彩。
「ぼくも何となく。おとなになると毎月1回、血が出るんですよね」と命(めい)。
「まあ、そんなものだね。理彩ちゃんも命(めい)ちゃんも、たぶん5年生くらいになったら始まるんじゃないかな」
「メイもですか?」と理彩。
「うん。だって命(めい)ちゃんも女の子でしょ」
とまどかは少しイタズラっぽい目で言う。
「そうですね。メイならセイリ来るかも知れないなあ」
「その生理が辛かったりした時も、この温泉に入れば治るから」
「へー」
「ふたりとも覚えておくといいよ」
「はい」
「でもまどかお姉さん、どこか遠くに行っておられたんですか?」
「というか、私は元々遠くに住んでるからね。でも、ここに来ると、よく理彩ちゃんと命(めい)ちゃんに遭遇するんだよね。不思議だね」
「へー、そうだったんですか。村の人何人かに聞いたけど、まどかお姉さんのこと知らなかったから」
「そうだね〜。私、この村で生まれたけど、赤ちゃんの内によそに行っちゃったから。私を知ってたのは、神社の先代の宮司さんくらいかなあ。もう亡くなっちゃったけど」
「ああ・・・」
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【神様のお陰・花育て】(1)