【神様のお陰・高3編】(1)

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これは星が生まれる前の前の年、命(めい)と理彩が高校3年の時の物語である。
 
ゴールデンウィークの4月29日から5月3日まで、命(めい)と理彩は兵庫県の温泉地で大手予備校の集中講座を受けて来た。そしてその帰りに阪大のキャンパスを見学して、ふたりとも本当にそこを受けようという気になってきたのである。
 
ふたりが大阪から戻った翌々日の5月7日(土)、命(めい)たちの集落では田植えが始まった。人手が必要なので、集落みんなで協力してやっていく。命(めい)の父は村の中心部にある電器店に勤めており、命(めい)の家では田畑は持っていないのだが、高校生という貴重な労働力を放っておいてくれるはずもなく、あちこちの家の田植えの手伝いに毎年駆り出されていた。それは父が保健所の職員という理彩の場合も同様である。高校を卒業した子がみんな都会に行ってしまう田舎の村で、中高生というのは男女関係無く村の中核戦力なのである。
 
この集落では毎年田植えを始める時に、独特の「早乙女田植え神事」が行われる。昔はどこでもやっていたような行事らしいのだが、今でもやっている所は珍しいらしく、毎年テレビが取材に来ていた。
 
今年もまずはその田植え神事が行われ、理彩も早乙女として参加するというので、命(めい)もそれを見に行った。
 
理彩を含めて6人の中高生女子が白い早乙女衣装を着て古い田植え器具の前でスタンバイしてる・・・・と思ったら5人しかいない!?
 
「なんで5人しかいないの?」と命(めい)は声を掛けた。
「クーが来てないのよ」と理彩。
 
クー(来海)というのは理彩の従妹の高校1年生である。
 
「何やってんのかなあ、もう」と理彩が言っているが、理彩のお母さんがそばで電話を掛けている。様子を聞いているようだ。
 
「あらあ・・・・それはお大事に」
などと言っている。
 
「クーちゃん、病気ですか?」と理彩のお母さんに尋ねる。
「だって。本人は行くと言ってたらしいんだけど、出ようとして玄関先で倒れて。熱を計ったら39度あるってんで、今風邪薬飲ませて寝せたところだと」
「ありゃー」
 
「困ったわねえ。誰か代わりの女の子を大急ぎで調達しないと」
とお母さんが言った時、理彩が
「代わりの女の子なら、そこにいるじゃん」と言う。
 
「へ?」と思って命(めい)は理彩と理彩のお母さんを見たが、ふたりとも自分を見つめている。
「まさか・・・・」
「命(めい)ちゃん、早乙女の衣装着たことないよね。着たいよね?」
「ええっと・・・・」
 
「他の子を調達してたら時間が掛かるもん。その場にいる子は使っちゃえよ」
と理彩。
 
命(めい)は溜息をついた。
「了解。やります」
 
早乙女の衣装を出してもらい、理彩のお母さんのワゴン車の中で着替えさせてもらう。宮司の辛島さんが
「まあ、命(めい)ちゃんなら普通に女の子に見えるし神様も怒らないでしょう」
などと笑顔で言って、お祓いをしてくれた。
 
理彩の隣に行き、田植えの器具を手に持って、神事を始めた。
 

その日の夕方、命(めい)は理彩の家に行って一緒に勉強していたのだが、居間にいたお母さんから「早乙女神事をテレビでやってるよ」と声が掛かったのでふたりで居間に出て行きテレビを見た。
 
わあ・・・・自分の早乙女姿。。。
「うふふ、可愛いじゃん、命(めい)」と理彩が言う。
「でも理彩の方が可愛いよ」と命(めい)。
「お、ナイスフォロー」と行って理彩が微笑む。
 
テレビはしばらく神事の様子を流したあと、奈良大学の教授が解説をしている。
 
「早乙女という女性が田植えをするというのはひじょうに大きな意味があります。稲作をはじめとする農業というのは植物の生殖により食物を生み出す技術です。そこで生殖の成功を祈願するのに、生殖の主たる担い手である女性が、農作業を行うという必要があるのです。自ら子供を生み出す力のある女性だから米という稲の種子を生み出す稲作の中核作業である田植えをするんですね」
 
それを聞いて理彩が
「へー。そういう意味があったのか。私はてっきり男は戦に行くから残った女が農作業するのかと思ってた」
などと言う。
 
「それは昔のフェミニズム系の思想家の考え方かもね。民俗学とか最近のペイガニズムとかの考え方では、女性の社会的な役割りは昔から大きかったんだと考えている」と命(めい)は補足した。
 
「子供を産む女だからこそ、種子を付ける稲の植え付けをするのね」
「だとすると、僕の分は悪かったなあ。僕、子供産めないし」
と命(めい)は言ったのだが、理彩は少し考えるようにしてから
 
「いや、命(めい)はその内、子供を産むかも知れん」
などと言った。
「まさか!」
 

そう。ほんとにその時はまさかと思ったのだが、理彩は後でその時の会話を振り返って「あの時、何か目の前に命(めい)が赤ちゃん抱いて、おっぱいあげているイメージが浮かんじゃったのよねー」などと言っていた。
 
また命(めい)はずっと後で、神様(星の霊的な父:名前は理龍)から
「あの時、僕が現役神様だった訳だけど、早乙女の中にひとり男の子が混じっているのを見て、一瞬眉をひそめたんだよね。でもよく見たら、君の体内に卵子が1個あったので、あ、それなら神事の早乙女として問題なしと思ったんだよ」
などと言っていた。
 
(先代神様:理龍、現役神様:円龍、次代神様:星龍)
 
「どうして卵子が僕の体内にあったの?」
「その卵子は、理彩ちゃん由来のものだよ。あの年の真祭で理彩ちゃんが踊ったでしょ。その時にその卵子は神的に活性化した。もっとも理彩ちゃんは神様と結婚する年の踊り手じゃないから、その神的に活性化した卵子はふつうなら流れてしまって、通常の月経として排出される筈だったんだ。ところが、理彩ちゃんはある特殊な儀式を命(めい)としたんだ。その結果、その神的に活性化した卵子が、命(めい)の体内に移動しちゃったんだな」と理龍は説明する。
 
「え?いったい何をしたらそんな移動が起きるんですか?」と命(めい)は訊くが
「説明してもいいけど、この話は男の子にしても翌日には忘れちゃうんだ。女の子にだけ記憶される」と理龍は答えた。
「ありゃ」
 
「でも、それは命(めい)が理彩ちゃんを守ろうとして、してあげたことなんだよ」
「へー」
「だから、あの早乙女祭りの時に命(めい)の体内に卵子があったのは、命(めい)と理彩ちゃんの愛の証だね」
 
「はあ・・・・じゃ、もしかして星の遺伝子上の母は実は理彩なんですか?」
「受精するまで1年半命(めい)の体内にあったことで、染色体が一部置換されて、理彩ちゃんの卵子をベースに命(めい)の遺伝子も混ざっている。星は命(めい)と理彩ちゃん、ふたりの子供だよ」
 
「なんかいいこと聞いた」
 

早乙女祭りの翌週、命(めい)と理彩は進路指導のB先生に呼び出された。先に面談したのは理彩である。
 
「いやいや、前回の面談の時には僕も大学の名前もよく分かってなくて申し訳なかった」とB先生。
「いえ。突然進路指導になっても、なかなか覚えきれませんよねー」
と理彩も微笑んで答える。前回この先生は「阪大」が「大阪大学」の略と知らず「はんだい? 阪神大学か何か?」などと訊いて理彩を唖然とさせたのである。
 
「えっと、第一志望が大阪大学医学科、第二志望が奈良県立医科大学医学科か。お医者さんか看護婦さんになりたいのかな」
 
「えっと。看護婦になるには看護学科ですね。同じ医学部ですが医学科は医師になるためのコースです」
と答えつつ、今は「看護師」と言うんだということ知らないのか?と少し呆れる。
 
「へー。お医者さんになるんだ。女の子でお医者さんって珍しいね」
「女性の医師はたくさんいますが」
「そうだっけ? で、医学科で4年間勉強すると、医師の資格が取れるの?」
「医学科は6年です」
「え?4年じゃ卒業できないの?」
 
理彩はこの先生と面談するのは時間の無駄のような気がしてきた。
 
「医学科と薬学科は6年です。それから卒業後国家試験に合格しないと医師・薬剤師の資格はとれません」
「へー。その試験に落ちたらどうなるの?」
「合格するまで頑張るか、あるいは他の仕事探すか」
「大変だね」
「医師の場合、医師の資格を取った後、更に最低2年間の研修が必要です」
「わあ、じゃお医者さんになるのに8年かかるんだ」
「そうですね。一応国家試験に通ればもう医師ですから、研修中であっても医療上の制限はありませんが」
 
「でもそれだと研修が終わったら君26歳だよな。お嫁さんに行かないといけないから、すぐ医者を辞めることになるんじゃない?」
 
こいつセクハラって概念を知らんのか?と理彩はかなり頭にきた。
 
「私は結婚しても医者は辞めませんよ」
「そうなの? でも家庭との両立は大変じゃない?」
「家事は夫と分担してやりますから問題無いです」
「ああ、最近はそういう男性もたまにはいるかも知れないけど、実際にはなかなか、そういう男はいないよ。女性は家事に専念した方が幸せだよ」
 
こいつ殴っちゃろかと思うが、取り敢えず我慢する。
 
「ご心配なく。私は斎藤命(めい)と将来を言い交わしていますし、彼は私が結婚後も医者を続けることを勧めてくれていますし、家事もちゃんと分担してやると言ってくれていますから」
「ああ、斎藤君とそういう関係なんだ!」
 
「ええ。ずっと前からの恋人ですから。双方の家族にも私たちの仲は公認です」
「へー。じゃデートとかしてるの?」
「よくしてますし、一緒に勉強してますよ。お互いの家に行って」
「家で? でも個室に若い男女が一緒に居ると誤解を招くよ」
 
ほんっとにこいつは・・・・・
 
「ええ。ですから双方の家族公認なので、キスしようがセックスしようが自由です。セックスの時はちゃんと避妊するようにというのだけ言われています」
「ああ、そうだったんだ。ちゃんと避妊してる?」
「ええ。彼ちゃんといつも付けてくれてますよ」
 

 
面談を終えて教室に戻ってきた理彩は、命(めい)の肩をトントンと叩き「命(めい)の番よ」と言ってから、いきなり命(めい)を殴った。
 
「何するの?」
「B先生を殴りたかったけど我慢した。代わりに命(めい)を殴った」
「もう」
「私と命(めい)、もう結婚してるも同然ってことになってるから、よろしく」
「はあ?」
 
命(めい)は、全くどういう話になってるんだろ?などと思いながら面談室に入る。
 
「君は第一志望が大阪大学理学部、第二志望が奈良女子大学理学部。理学部ってそこ出たら何になるの?」
 
命(めい)は冗談で第二志望に奈良女子大学と書いたのに、そこには突っ込まれないので拍子抜けする思いであった。
 
「そうですね。企業の研究所などに勤めたり、システムエンジニアなどになったり、学校の先生になる人もいます」
「君は何になるつもり?」
「高校か予備校かの教師というのを考えています」
「おお、凄いね」
 
「そういえば医学部って6年なんだってね。全然知らなかったよ。理学部は4年でいいんだっけ?」
 
ああ、理彩が先生を殴りたくなったというのがよく分かる、と命(めい)は思った。『医学部』でも看護学科は4年なんだけどなあ。。。たぶん理彩は『医学科』と言ったんだと思うけど、などと思いながら話をする。
 
「一応4年ですが、理学部の卒業生は大半が大学院に進学します。結果的には6年行くようなものですね」
「へー。大学院って2年?」
「修士課程が2年です。博士課程まで行くと5年掛かります」
「ひゃー、そんなに長く行くと、就職するまでにけっこうな年になるね」
「そうですね。一度も浪人留年しなくても、修士課程を出た時に24歳ですから」
 
「じゃ、結婚するのも、その後2-3年経ってからになるのかな」
「そうですね。でも私は結婚相手はもう決まっているので問題ありません」
「ああ、君、奥田理彩と既に同棲してるんだってね」
 
何〜?それは初耳だ!と命(めい)は思い、おかしくて笑いたくなるのを我慢した。
 
「理彩とは子供の頃から言い交わした仲ですから」
「そういう関係を親も認めているならいいけど、高校卒業するまでは君、妊娠しないように気をつけろよ」
「そうですね、私自身は妊娠しないと思いますが」
「いや、その妊娠しないという自信はよくないぞ。確実に避妊して」
「はい、性交する場合はちゃんと避妊していますので」
 

面談室から教室に戻った命(めい)は香川君に次行くよう言ってから理彩に
 
「もう可笑しくて可笑しくて笑うのこらえるの大変だった」
と笑顔で言う。
 
「なんか理彩と一緒に住んでて日常的にHしてるって話になってるし」
「Hしてないの?」と春代。
「日常的にはしてないよね」と理彩。
「ふーん」と春代は意味ありげな顔をする。
 
「でも私は殴りたくなったけどな」と理彩。
「面白い先生だよ」と命(めい)。
「だけど、B先生、大学のことも入試制度のことも全く分かってないから、こちらでしっかりしなきゃね。だってセンター試験のことを共通一次って言ったよ。いつの時代なんだ。国立の入試が前期と後期の2回あることも知らなかったし」と春代も言っている。
 
「僕は第2志望を奈良女子大にしてたのに何も言われなかったし」
「今年中に性転換しちゃえば入れるんじゃない?命(めい)」と理彩。
「えー?」
「命(めい)なら、それあり得るね。香川君も奈良女子大にしてたけど、前回の面談の時に、男は女子大には入れてもらえないぞと言われて他の所に変更したらしいけどね」と春代が言う。
 
「あれ?香川はそれ指摘されたんだ?」
「香川君は入れないだろうけど、命(めい)は入れてくれそうな気がするよ」
と理彩。
 
「なんで〜? あ、そうそう妊娠しないように気をつけろって言われた」
「ああ。私のことね」
「いや、理彩は妊娠させないようにするけど、僕自身は妊娠しないですからと言ったら、そんな妊娠しないという自信はよくないと言われた」
「そうだね。じゃ今度から、命(めい)とする時は私もちゃんとコンちゃん付けるね」
「どこに付けるの!?」
「さあ、どこに付ければいいんだろ?」
 
「あんたたち、実際問題としてどのくらいの頻度でHしてるの?」と春代。「まだしたことないよ」と命(めい)は言ったが、理彩は少し微妙な顔をした。その表情に気づいた春代が再度問う。
 
「ほんとに一緒に寝てないの?」
「一緒に寝るのなら年に5-6回くらいだよね」と理彩。
「えーっと、確かに一緒には寝てるけど、妊娠させるようなことをした覚えはないけど」
「ああ、命(めい)としてはそういう意識なんだ?」
と理彩が言うので春代が厳しい顔をして
「命(めい)、そういう無責任な態度はよくない。避妊してるつもりでも失敗して妊娠することはあるんだよ」
と言う。
 
「いや、責任逃れするつもりは無い。理彩が妊娠したら、僕が父親」
と命(めい)がキッパリ言うと、春代はよしよしという感じで頷いている。
「そうだね。もし命(めい)が妊娠したら、私が父親ね」
と理彩も言うと、春代は「ほぉ」と言って微笑んだ。
 

そんな話をしてから半月ほどたった日。理彩の両親が県外の親戚の用事で出ているということで、理彩が命(めい)の家に泊まりに来た。命(めい)と理彩はお互いに結構これをやっていて、片方の親が居ない日は相手の家に泊まっている。
 
理彩がひとりの時は、やはり女の子ひとりではぶっそうだということで命(めい)の家に来るし、命(めい)がひとりの時は「男の子ひとりで御飯たいへんでしょ?」
などと理彩のお母さんに言われて、いつも行っていた。実際には命(めい)の方が理彩より料理は得意なくらいなのだが。
 
理彩は「こんばんわー」と言って入ってくると、まずは神棚にご挨拶をして、それから命(めい)の母にも挨拶して、一緒に部屋に入る。神棚にご挨拶するのは、命(めい)と理彩がお互いの家を訪問したときのいつもの流儀である。
 
夕飯にはまだ時間があるので、しばらく一緒に宿題をする。
 
「でももし命(めい)がホントに奈良女子大受けるんだったら、ちゃんと女の子の服着て受験に行かなきゃね」
「そうだね」
「私の制服貸してあげてもいいよ、なんなら」と理彩が冗談っぽく言う。「もしそういう事態になった場合は頼もうかな」と命(めい)も冗談っぽく答える。
 
「じゃ、予行練習でこの服、着てみない?」
と言って、理彩はバッグから可愛いマリンブルーのカットソーと黒いジーンズのスカートを取り出す。ちゃんと、ブラとショーツのセットまである。命(めい)のお気に入りの品で、白地に赤い花柄の上下セットだ。
 
「なぜそういうものを持ってくる?」
「着せたいからに決まってるじゃん」
「やれやれ」
「さあ。脱いだ、脱いだ」
 
「えっと。じゃ、タックしたいから、少し向こう向いててくれない?」
「あ、タックするところ見たい」
「理彩に見られてたら大きくなっちゃう。大きくなるとできないんだよ」
「先に抜いちゃえば?」
「・・・・じゃ、抜くから向こう見てて」
「見ててあげた方が抜きやすくない?」
「あのね・・・・」
「それとも私が手で抜いてあげようか?」
「えっと・・・お互いの肌には直接触れないルール」
 
理彩と命(めい)は進路指導の先生にはまるで許嫁ででもあるかのように言ったが、本人たちとしてはお互いの関係は「友だち」という認識だ。それで手を握るのとか以外では原則として相手の肌に直接触れないというルールにしている。
 
「それって肌なの?」
「肌じゃなかったら何なのさ?」
「命(めい)に寄生している妖怪だったりして」
「うーん。確かに男の子はおちんちんに支配されてるのかも知れないけど」
「寄生されてるなら、早々に切除した方がいいね」
 
「結局そこに行くのか。もう、いいから、向こう向いてて」と命(めい)は言った。「はーい」と理彩も素直に従う。
 
命(めい)がズボンとブリーフを脱ぎ、理彩に背中を向けて座ると、理彩は座ったまま身体をずらして、命(めい)の背中にもたれかかるように背中を合わせた。
 
「えっと・・・・振動が伝わっちゃう」
「気にしないから大丈夫。でも命(めい)だけ気持ちいいことしてずるいな」
「理彩も抜いちゃう?」
「女の子のも抜くって言うんだっけ?」
 
「もう。このままタックしちゃおう。後で気持ちいいことしてあげるからさ」
「ほんと? ちゃんとしてよね」
 
理彩は唐突にソナポケの『ラブレター。〜いつだって逢いたくて〜』を歌い出す。理彩が「今君は何してる?」という部分をわざわざ3回リピートして歌ったので、命(めい)は微笑んで「女の子にモーフィング中」と答えて作業を続けた。
 
慣れている作業なので5分ほどで完成させる。命(めい)は「できた」と言うと、立ち上がって理彩が持って来たショーツを穿き、ブラを付けて、カップの中にパッドも入れた。理彩もこちらを見て、笑顔でその様子を見ている。
 
「ブラのホック留めるの、すっかりうまくなったね」
「これだけやってたらね」
 
「でも下着姿の時点で命(めい)は完璧に女の子だよなー」
「あまり褒めないで。女装にハマっちゃうから」
「今ハマってないとでも?」
 
スカートを穿き、カットソーを着ると、少し胸の小さい女子高生の出来上がりだ。
「うん。命(めい)、可愛いよ」
「ありがとう。理彩も可愛いよ」
「うん」
 
もう宿題はほぼ終わっていたので、ふたりはそのまましばらく一緒にZ会のテキストをした。Z会のテキストはけっこう難しいので、ふたりは各々の自宅でやっている時もしばしば電話を掛け合って「これって、こういう考え方でいいけ?」
などと確認したりしていた。一緒に勉強している時は電話掛ける手間が要らず便利だ。ふたりはしばしばお泊まりでなくてもどちらかの家で一緒に勉強していた。
 
やがて5時半になったので、ふたりで夕食を作りに台所に行く。スカート姿の命(めい)を見て母が「あら?」と言ったが、理彩がすぐに「可愛いでしょ?」
と言うので「うん。可愛い、可愛い」と笑顔で答えた。
 
ふたりが楽しくおしゃべりしながら、仲よさそうに協力して夕飯を作っているので、母は微笑んで仕事をしながらその会話を聞いていた。
 
「でも命(めい)って、こういう服が凄く似合うんですよね」と理彩。
「うん。こういうの見ると、この子が娘だったらなあって思っちゃう」と母。
「本人けっこう性転換したい気分になってますよ」
「なってない、なってない」
 
「命(めい)、性転換したいなら手術代出してあげようか?」と母。
「要らない、要らない」
「お母さん、それ結構高いですよ」
「大丈夫。ローンにして金利30%で命(めい)に返させるから」
 
「でも命(めい)、性転換して女の子になったら、私のお嫁さんにしてあげようか?」
「ありがと。性転換しなかったらお婿さんにしてよ」
「そうだなあ。結婚するような年齢になったら考えてみる」
 
夕食ができあがった頃、ちょうど父も帰ってきた。父は命(めい)の格好を見て一瞬ギョッとしたようであったが、以前から時々見ているものでもあるので、気にせず食卓に着く。4人でまた楽しく会話しながら、夕食を食べた。
 
「でも今日は娘が2人いるみたいで楽しいわ」と母。
「うん、まあ女の子がいると華やかだな」と父まで言う。
「なんでしたら、女の子の服、こちらに少し置いておきましょうか?命(めい)が普段でもこういう格好出来るように」
「あら。いいわね」
「要らないよ−。僕は別に女の子の服着たいとか思ってないから」と命(めい)。「お前、嘘ついたら閻魔様におちんちん切られちゃうよ」と母。
 
「この家では、閻魔様が切るのは、おちんちんなんですか?」と理彩。
「そうそう。小さい頃から命(めい)にはそう言ってる」
「私とか、きっと嘘つきだから生まれる前に閻魔様に切られちゃったんだろうな」
と理彩。
「ああ、確かに理彩って嘘つきだよね」と命(めい)。
「女の子って、みんな割とそうかもよ」
 

夕食後はお茶を入れて、甘いお菓子など摘まみながら。またしばし話に花が咲く。命(めい)と理彩は小さい頃からお互いの家で過ごしているので本当に家族同然である。母も理彩を遠慮無く雑用で使う。
 
そのあと交替でお風呂に入った。命(めい)の方が先に入ったのでZ会のテキストをしながら待つ。やがて理彩がお風呂から戻って来て、理彩も一緒に勉強する。母が紅茶をポットでと、クッキーを持ってきてくれたので、それを食べながら、またおしゃべりしながら勉強を続けた。ふたりは着替え中や寝る時以外は部屋の障子を開けているので、母も開いてたら安心して中に入ってくる。
 
1ヶ所、どうにもふたりとも分からない所があったので、ゴールデンウィークの集中講座の時に知り合った大阪府在住の友人、千草に電話して尋ねてみた。彼女と理彩・命(めい)の間では一応夜中の0時前までなら電話していいことにしている。念のため先にメールして、OKの返事があったら用事のある側から掛ける約束である。
 
千草は東大理1(理学部)の志望だが物凄く頭が良いし、知識量も豊富だ。同じ集中講座で知り合った理3(医学部)や文1(法学部)志望の子たちよりむしろよく知っていた。その日の問題もとてもていねいに説明してくれた。彼女は数学の先生になりたいんだなどと言っていたが、彼女は教え方もうまいので、きっといい先生になるだろう。
 
「Z会でしょ?私もそこは先週やったから」と彼女は言っていた。
「ありがとう。助かった」と言って命(めい)は電話を切る。
 
「さすが千草だね」
「向こうも聞かれることでそのポイントの復習になるから遠慮せずに聞いてって言ってたしね」
「でも、命(めい)はこういう場ではちゃんと女の子の声で話すね」
「千草は僕のこと女の子だと思ってるから」
「私とふだん話す時も女の子の声で話せばいいのに。一人称も私にして」
「そういう気分になったら」
 

結局その夜は12時半くらいになって、そろそろ寝ようかということになる。トイレに行き、居間でまだパソコンを見ていた母に「おやすみ」を言って寝ることにした。布団を出してふたつ並べて敷く。お互いに相手の家でけっこう泊まっているので、事実上理彩専用の布団が命(めい)の部屋にもあり、事実上命(めい)専用の布団が理彩の部屋にもある。
 
布団は5cm離して敷くルールにしている。またお互いの布団には「できるだけ」
侵入しないルールである。今夜もふたりともパジャマに着替えてそれぞれの布団に潜り込んだ。命(めい)はブラとショーツを着けたままであった。タックもしたままである。電気を消す。
 
「おやすみー」「おやすみー」
 
それで、しばらく目を瞑って静かにしていたら、理彩が
「命(めい)?」
と声を掛けてくる。
 
「何?」
とまだ眠っていなかった命(めい)が答える。
 
「さっき私に気持ちいいことしてくれる約束だった」
「うん。約束はしたけど、遅いからどうかなと思ったんだけど」
「私はもう少し大丈夫だよ。朝までHし続けるのは明日の学校に差し支えるけど」
「僕もそこまでの体力は無い」
「じゃ、して」
「うん。そちらに入るよ」
「うん」
 
命(めい)は理彩の布団に潜り込むと、まずはぎゅっとお互い抱きしめ合った。むろん着衣のままである。こういう「少しHなこと」をする時は着衣のままというのもふたりのルールだ。
 
「ゴールデンウィークの大阪のホテル以来だね、こういうことするの」
「あれはちょっと気持ち良かったね」
 
ふたりは着衣のまま、しばらく抱き合っていたが、やがて身体を回転させて、命(めい)が理彩を後ろから抱く形になり、命(めい)は理彩の乳首の周囲を服の上から指でぐるぐると回した。理彩が気持ち良さそうな顔をしている。
 
やがて理彩は興奮してきたのか、自分のお股に手をやりセルフサービスで刺激を始めた。命(めい)はずっと乳首の周囲を刺激している。そして理彩の首筋にキスをした。こういう時、ふたりのルールは3つ。1.命(めい)が女装してタックするかガードルを着けていることが前提。2.服は脱がない。服の下にも手は入れない。3.相手のお股には触らない。理彩はこれを「女の子同士の悪ふざけ」と称していた。そう頻繁にするわけではなく、高校に入ってからこれが7度目くらいだ。
 
やがて理彩が動作を緩慢にした。ああ、逝ったなと命(めい)は思った。乳首の刺激も弱くゆっくりに変える。
 
「命(めい)は自分のしないの?乳首いじってあげるよ」
「今おちんちん無いからできないよ」
「クリちゃんあったら良かったのにね」
「そうだね」
「おちんちん切ってクリちゃんに改造する気無いの?」
 
「・・・・なぜ理彩って僕に性転換を唆すのさ?」
「だって命(めい)ったら、女の子みたいとか、女の子らしいとか、女の子になっちゃったらとか言われると嬉しがってるもん。面白いじゃん」
「もう・・・・」
「実際、私女の子の命(めい)わりと好きだよ。ほんとに可愛いし。性転換したらきっと男の子にもてるよ」
「僕、理彩以外を好きになることないから」
「ふふ」
 
その夜はその後、お互いの頬にキスしてから「おやすみ」を言って各々の布団で寝た。
 
中学生の頃には結構唇にキスしていたのだが、その後、自分たちは恋人ではないから唇にはしないようにしよう、と言って高校時代は、基本的には頬にキスしていた。

翌朝、学校に着いてから春代にチェックされた。
「今朝さ、理彩は命(めい)と一緒にスクールバスに乗ってきたよね」
「うん。昨夜、命(めい)の所に泊まったからね」
「へー。お泊まりって時々してるの?」
「うん。たまにだけどね。私の所に命(めい)が泊まる時もあるよ」
 
「そういう時って、お部屋は別だよね?」
「別の部屋じゃ寂しいじゃん。同じ部屋で寝るよ。子供の頃から」
「男女で同じ部屋でいいの? 着替えなんかどうすんのさ」
「女の子同士だから平気だよ。着替えもお互いに相手が見ている中でするの平気」
「ああ、女の子同士なのか!」
 
「そうそう。昨夜の命(めい)の服も可愛かったよ。ほら、これ」
と言って、理彩は携帯で撮った昨夜の命(めい)の写真を春代に見せる。着衣の写真だけでなく、可愛い花柄のブラとショーツを着けた下着写真まである。
「おお、可愛い!」
 
「ちょっとー!ひとには見せないって言ってたのに!」と命(めい)は抗議した。
 
春代はふたりが当然Hもしたのだろうと思っているようであったが、理彩も命(めい)もその点については特に否定も肯定もしなかった。
 

6月の頭に、命(めい)たちの学校に大手予備校の進路担当の人がやってきた。大学進学予定者の親の一部から、現状の進路指導に極めて不安を感じるという意見が出たため、校長も進路担当のB先生と話し合った結果、B先生もにわか勉強では確かに十分な指導ができないかもということであったので、大学進学希望者には、それに詳しい人に一度面談をしてもらおうということになったのである。
 
この時点で3年生約100人のうち、大学進学希望者は30人ほどいた。その各生徒と10〜15分程度を基本にして面談をお願いしたのであった。延長もありえるということで2日がかりの面談である。進学希望者は全員その予備校主催の模試を受けているので、その結果を踏まえて志望校が適正かとか、どういう勉強の仕方をすればいいか。またセンター試験の科目の選択についてもアドバイスを受けた。
 
香川君は第一志望を奈良県立医科大学看護科、第二志望を近畿大学経済学部と書いていたので「君、いったい将来何になりたいの?」と訊かれた。
 
「えっと・・・・ふつうに企業に勤めて会社員やりたいかな、と」
「じゃ、看護科は違うんじゃない? それにこれ第二志望の方が偏差値高いけど」
「いや、家庭の事情で私立は厳しいので、できたら国公立がいいので」
「君の成績なら、少し頑張れば神戸大学あたり行けると思うよ」
「ああ、神戸大学なんてのもありましたね」
 
こんなやりとりを30分近く続けた結果、香川君は第一志望を神戸大学工学部、第二志望を岡山大学工学部にした。
 
春代は第一志望神戸大学理学部、第二志望奈良女子大学理学部としていて、今の成績では奈良女子大は問題無いが、神戸は結構厳しい。しかしまだ半年あるので頑張りようでは可能性があると言われ、主として勉強の仕方についてアドバイスを受けていた。
 
理彩は第一志望大阪大学医学部、第二志望無し、としていた。先月のB先生との面談の時は第二志望に県立医科大を書いていたのだが敢えて消した。
 
「実際にはどこかの後期試験に受験票は出すと思いますが、第一志望以外は今は考えずに勉強します」
と言うと、その姿勢は問題無いと言われた。理彩も現時点では阪大はC判定だが、しっかり勉強していれば十分可能性が出てくるからと言われ、やはり勉強の仕方について色々聞いていた。また、予備校の講座の様子などについても質問したが、今回の面談では宣伝行為はしない約束なので、あとで個別に連絡してと言われていた。
 
命(めい)は第一志望大阪大学理学部、第二志望奈良女子大学理学部、という先月のままの志願票を出した。
 
それで女子大は安定、阪大はこれからの勉強次第ですね、と言われ、しばらく勉強の仕方、また1日に何時間くらい勉強すればいいのか、通学時間の活用法などといった話をしていたのだが、10分くらい話したところで
 
「ちょっと待って」と予備校の先生が言う。
「えっと・・・君、もしかして男の子だっけ?」
「あ、そうかもです」
衣替えが済んでいるので、ワイシャツ姿だ。ブラウスを着ているように見えなくもない。
 
「じゃ、奈良女子大には入れてもらえないよ」
「あ、そうですか」
「成績では問題無いから残念だけど。ここは女子大学だから女子しか採らないので。いや、僕もどうかしてるな。女子生徒の面談も何件かして女子の制服は見ていたのに、なんだか君とは最初から女子生徒と話している気になってた。変だな・・・」などと言って頭を掻いている。
 
命(めい)は「それでは第二志望としては大阪市立大学の理学部を」と言い、「そこもA判定ですね」と言ってもらった。
 
この日命(めい)は性別曖昧な声で話していた。命(めい)は男の子の声、性別曖昧な声、そして女の子の声、の3種類を使い分けることができる。性別曖昧な声は中学1年生の頃に理彩の指導で出せるようになり、女の子の声は高校1年の頃に、やはり理彩の指導で完成させた。
 
命(めい)は絶対音感を持っている癖にあまり歌がうまくないのだが、3種類の声の使い分けで声域自体は広いので、音楽の時間にはよくアルトやソプラノのパートを歌ってみせて、音楽の先生にも面白い、面白い、と言われていた。
 
「もうちょっと歌がうまかったら、女子制服を着せてコーラス部のソプラノに徴用するんだがな」などと音楽の先生は言っていた。
 
実際には、命(めい)も理彩も通学手段の問題でクラブ活動をするのは困難である。17時に学校を出発するスクールバスで帰らなかったら、親に学校まで車で迎えに来てもらうしか無いのである。
 

6月下旬の日曜日、命(めい)は急用で大阪まで行くことになった両親の車に途中まで同乗して、隣町にあるショッピングセンターに出かけた。帰りはタクシーで帰ることにしてタクシー代ももらっていた。
 
100円ショップでノートと新しいマーカーを買う。本屋さんで参考書を物色し、受験関係の情報が載っている本なども立ち見する。しかしそんなことをしている内、命(めい)は少し寒気がしてきた。朝から少し気分が良くなかったのだが、なかなかこのショッピングセンターまでは来れないので、少し無理をしていた。
 
だめだ、こりゃ。もう帰ろうと思い、取り敢えず目を付けた参考書を2冊買って外に出る。タクシーを呼ぼうと携帯を開けた時、突然ふらふらとしてその場に倒れてしまった。きゃー、と思うが立ち上がれない。
 
近くの人が寄ってきて「君どうしたの?」と訊かれるがうまく口が動かず答えきれない。
 
なんか多人数自分の周囲に集まってきているというのは認識した。
「救急車だ、救急車だ」という声。
えーん、そんな恥ずかしいことやめてー、と思うが身体が動かない。
 
結局救急車に乗せられたような感覚があったが、そのあたりで意識が曖昧になってしまった。
 

意識を失っている時、命(めい)は夢を見ていた。どうも現実と夢とが混じっている感じでもあった。
 
救急車の中に寝ていて、車がスピードを変えたり曲がったりする度に身体が動きそうになって苦しい。早く病院に着かないかなと思う。
 
やがて救急処置室に運び込まれる。
「患者は推定15-16歳、女性、意識レベル1の3」などと言われている。
 
私、17の男性なのに・・・と思うが話したりできない。
 
血圧やら脈拍やらをチェックされ、血液検査用に血を採られてから点滴の針を刺された感じであった。
 
「今、点滴してるからね。じきに楽になるからね」と言われ、頷いた気がする。
 
服を脱がされ、下着姿にされたようであった。ブラを少しずらされて聴診される。
「うん。心音とかに乱れは無いね。外見は15-16歳と思ったけど、まだ中学1-2年生くらいかな。バストがまだあまり発達していないし。君、中1くらい?」
と訊かれるが、返事をすることができない。
 
「どうもインフルエンザみたいですね。タミフルを処方しましょう。飲めるかな?」
といって、少し身体を起こされて、カプセルを口にいれてもらう。コップを当てがわれたので、なんとか水を飲み、それと一緒にカプセルも飲み込んだ。
 
「念のためCTを取っておきましょう」
と言われ、いったんストレッチャーに移されてCT室に運び込まれたようだが、そのあたりの記憶は飛び飛びである。
 
「しかし熱が高いね。座薬を入れようか」
と言われて、パンティを下げられた。
 
「あれ?変な物が付いてるね」
と言って、お医者さんが、命(めい)のおちんちんを触った。
 
「こんなものが付いてると熱が下がりにくいから切除しましょう」
えー!?
 
それで命(めい)は手術室に運び込まれたようだった。放射状に広がった無影灯の明かりがまぶしい。
 
「君、女の子みたいだから、おちんちん要らないよね? これ切っちゃおうね。おちんちんが無い方が熱が下がりやすいし、風邪も引きにくいんだよ。女の子は普通5〜6歳頃までに、おちんちん取っちゃうんだけど、君くらいの年齢まで付けてる子は珍しいね」
 
とお医者さんは言うと、命(めい)のおちんちんを手で握って動かし始めた。
「おちんちんはね。大きくしてから切った方が痛みが小さいんだよ」
などという。
 
命(めい)はへー?そうなのかと思い、されるがままにしていた。やがて大きく硬くなって、もう発射してしまいそうになる。その時、お医者さんはおもむろに電気メスのスイッチを入れた。ジーっという音がして、なんだか肉が焼けるような臭い。え?えー?えーー!?
 
「はい。切除完了」
といって、お医者さんが金属製の膿盆(のうぼん)に乗っている、大きくなったおちんちんと射精直前で縮んだ袋を見せてくれる。うっそー! 切られちゃった!?
 
「ね、痛くなかったでしょ?」
というか、今にも逝きそうだった感覚がそのまま蒸発してしまったような、不思議な気分だ。
 
「これは捨てておくね。割れ目ちゃんも無かったから作っておいたから。ついでに、ちょうど在庫のあった卵巣と子宮も埋め込んでおいたよ。これで生理も始まるし、おっぱいも大きくなるよ。すぐに立派な女子中学生になれるね。それと座薬もいれたし、少し寝ると、熱も下がるよ」
 
割れ目ちゃん?卵巣に子宮??生理におっぱい??? 命(めい)は混乱した気持ちの中で膿盆の上の男性器を見つめていた。
 

意識を回復した時、そばに理彩のお母さんの顔があった。
 
「あ、こんにちは」
「あら、目が覚めたのね。だいじょうぶ?命(めい)ちゃん」
 
状況を把握しようと少し首を動かす。どうもここは病室のようだ。
点滴されている。
 
あ、今のやっぱり夢だよね。残念・・・・と思ってから、何でおちんちんを切られたのが夢だったというのを残念と思うんだ?と命(めい)は自問自答した。
 
「私、どうなっちゃったのかな」
「倒れた時に、理彩の携帯の番号が表示されていたのよ。それで電話が掛かってきて。命(めい)ちゃんのお母さんに電話したら、大阪にいるというから、代わりに私が出てきた」
「ごめんなさい。手間掛けてしまって」
「ううん。命(めい)ちゃんも理彩も、斎藤さんちの子であり、うちの家の子でもあるからね。何かの時はいつでも頼っていいんだよ」
「ありがとうございます」
 
季節外れのインフルエンザのようだということであった。
 
「これ起きたらすぐ飲ませてと言われた」
と言ってカプセル入りの薬を渡される。
「ああ、タミフルですね」
お母さんが水をくんできてくれたのでそれと一緒に飲む。
 
「面会時間、あと1時間くらいだし、それまで付いててあげるね」
「ありがとうございます」
「お母さんたち、明日の夕方くらいに戻るらしいから、その頃までには命(めい)ちゃんも回復してるんじゃない?」
「そうですね」
 
「明日も朝1度来てあげるよ。何か欲しいもの無い?」
「うーん。ポカリとか」
「OK」
「あと欲しい物思い出したらメールしてね。持って来てあげるから」
「すみません」
 
意識はかなり明確になってきたが、どうも身体が動かない感じだ。それを言うと1日くらいここで寝てるといいよ。受験勉強で疲れがたまってたんじゃないの?などと言われた。
 
首だけは何とか動くので病室の様子をうかがう。どうも4人部屋のようである。田舎の病院なので、どうも他の患者はお年寄りばかりのようだ。
 
しかししばらくしている内に微妙な違和感を感じる。
 
「お母さん、つかぬことを伺いますが・・・・」
「なあに?」
「ここ、もしかして女性用病室ということは・・・・」
「あれ?そうなんだっけ?」
と言って、お母さんは周囲を見回している。
「あら、ほんと。他の患者さん、おばあちゃんばかりね」
「あはは」
「命(めい)ちゃん、普段着なら十分女の子に見えるもん。間違われたのね。でも若い女の人とかじゃなくて、おばあちゃんたちなら問題無いよ」
「そうかな」
 
まさかさっきの夢が本当で、私おちんちん切られちゃったから女性用病室に入れられたってことないよね?などと思う。ところで付いてるんだっけ?
 
などと思っていたら尿意をもよおしてきた。
 
「どうしよう。トイレに行きたいけど、立てない感じだし」
「ああ、そこに尿器が」
と言って、ベッドの横のかごに置かれていた尿器をお母さんが取ってくれた」
「ありがとうございます」
 
と言って受け取ったものの、あれ?と思う。
「これ・・・女性用の尿器ですね」
「あら、ほんとだ。看護婦さんに言って男性用のもらってくるね」
「あ、いえいいです。たぶん、私、こちらの方が使いやすいかも」
「へー」
 
命(めい)は小学生の頃に原因不明の熱で一週間ほど入院した時に尿器にうまくおしっこができず、何度も漏らしてしまったことを思い出していた。すると年配の看護婦さんが「いっそ、女の子用のを使ってみる?」と言い、女性用尿器を持って来てくれたら、うまく漏らさずにおしっこができたのだ。
 
布団の中で病院のパジャマのズボンとパンティを下げる。おちんちんの位置を確認しようとして・・・・え?無い!? まさか、あの夢ってやはり現実で、おちんちん本当に切られちゃった?
 
と一瞬思ったものの、今日はタックしていたことを思い出す。
 
びっくりしたー!!
 
それなら変な方向におしっこが飛ぶことは無い。尿器の口をしっかりと身体に密着させる。反対側の手で浮いているところが無いことを確認する。
 
ゆっくりと放水する。密着させてるから大丈夫だとは思っても若干の不安がある。しかし漏れてる感じはしない。やがて放水終了。ほっと溜息を付き、尿器を身体から離し、ティッシュでその付近を拭く。尿器は脇のかごに戻し、ティッシュはゴミ箱に捨てた。
 
しかし、タックしてたんなら、どっちみち男性用の尿器は使えなかったなと思って少し微笑む。そういえば今更だけど、下着も女物を着けてるし。
 
こんな下着付けてれば、自分を着替えさせてくれた看護婦さんも、僕が女の子ではないなんて思わなかったろうな、と命(めい)は思った。
 
「ねえ、命(めい)ちゃん」
とお母さんが少し考えるように言う。
「はい」
「女性用尿器の方が使いやすいって、命(めい)ちゃんのおちんちん、あまり長くないのかな」
「あ、標準よりは短いかもです。一応結婚はできる程度の長さとは思いますが。立っておしっこできるし」
とは言ったものの、最近全然立ってしてないぞ、というのも内心思う。
 
「そう。それならいいか」
と言ってお母さんは微笑んだ。
 
「理彩とは・・・・その、何度かHはした?」
「まだしてないです」
「小さい頃からお互いの家に行き来してたし、私も無頓着すぎたかも知れないけど、いつも命(めい)ちゃんと理彩って同じ部屋で寝てるよね」
「ええ。でも、もしHするような場合はちゃんと避妊します」
 
「うん。それはきっとしてくれるだろうとも思ってはいたのだけど。いやちょっとね。ふたりがけっこうよく一緒の部屋で寝てるのにHしてる雰囲気は無い気がして、もしかして命(めい)ちゃん、完全な男の子ではないなんてことはないだろうか、なんて変なこと考えちゃった。それによく女の子の服着てるし」
 
「そうですね。理彩からはよく女の子になりたくない?とか言われますけど。一応、男の子の象徴は付いてるし、EDではないですし」
「ちゃんと立つんだ?」
「立ちます。理彩が握って立たせられたこともあります」
 
「ああ、あなたたち、そのくらいまではするのね?」
「ちゃんと婚約とかもしてないのにごめんなさい。私も理彩のに何度か触ってます。処女を傷つけるようなことはしてませんが」
「あら、理彩の処女は命(めい)ちゃんが、もらってあげてよ。熨斗(のし)付けて進呈するから」
「そうですね。私も理彩の処女、欲しいです。でも無理することもないかな、と。たぶん、私たちいづれ、そういうことになる気がするから」
「うん」
 
命(めい)は翌日無事退院した。担当のお医者さんは命(めい)のことを最後まで女の子だと思っていたようで、ブラジャーを外して聴診をしてくれた時は
「君、高校生にしてはバストの発達が少し遅れてるみたいだけど、婦人科の方受診してみない?」
などと言っていた。命(めい)は「いいです、いいです」と逃げておいた。
 
命(めい)は入院中は女の子の声で看護婦さんやお医者さんと話していたので、誰も命(めい)の性別に疑問を持たなかったようであった。診察券も作ってくれたが、性別は F と刻印されていた。健康保険証では性別男になっているのに!
 

7月の上旬の放課後。命(めい)が図書館から戻ると、理彩と春代が教室に居て、「あ、命(めい)、この制服着てくれる?」と言う。
 
理彩が体操服を着ているので理彩の制服のようである。
「いいけど、何すんの?」
と言いながら着替える。着替える間、春代は向こうを向いていてくれる。
 
「はい、着たよ」
と言うと、春代が
「じゃ、撮るね」
と言って、デジカメで数枚写真を撮られた。理彩があれこれポーズを指示するので、いろんなポーズで写真に収まった。
 
「はい、お疲れ様でした〜」と春代。
「何に使うの?」と命(めい)が訊くと
「うん。卒業写真アルバム。今、制作委員で手分けして、個人写真を撮ってまわってるのよね」
と言う。
 
「ちょっと待って。女子制服着た写真を収録しちゃうの?」
「うん。命(めい)も学生服の写真より、そちらの方が嬉しいでしょ?」
 
「そんなことない。ってか、女子制服着た写真が卒業アルバムにあったら親に仰天される」
 
「だってね・・・・」と言って、理彩と春代は顔を見合わせている。
 
「命(めい)は学生服を着てる写真より女子制服着てる写真の方が絶対可愛いもん。それに、命(めい)の女装なんて、みんな見慣れてるから、誰も仰天したりしないよ」
「えーん・・・」
 

7月上旬の土日。命(めい)たちの集落の神社で、夏祭り、通称「水祭り」が行われていた。命(めい)が自宅で勉強をしていると、理彩が「お祭りに行こう」と言って誘いに来た。
 
「命(めい)の分の浴衣も持って来てあげたよ」と言う。
「その浴衣って・・・・」
「当然、女の子用だね」
「やはりそうか」
 
「あら、可愛い浴衣ね」などと言う母の手で着付けしてもらい、その白地に赤や紫の桜模様がたくさんちりばめられた浴衣を命(めい)は身につけた。
 
「私、娘を産めなかったのが残念だなと思ってたけど、ちゃんと娘に育ってくれたから、嬉しいわあ。成人式には振袖着せたいくらい」
などと母は言っている。
 
「あ、きっと着ますよ。命(めい)、成人式は一緒に振袖着ようね」と理彩は言う。「うーん。振袖は高いからなあ」と命(めい)が言うと、
「ほら、お母さん、値段の問題だけみたい。本人、振袖着る気満々ですよ」
と、すかさず理彩は言った。
 
「それは楽しみね」
「いや、満々というほどじゃないけど」
「じゃ、70%くらい?」
「うーん・・・・」
 
「成人式の頃は、きっともう、おっぱいも大きくして、おちんちんも取っちゃってますよ」
「あらあら」という母は笑顔である。
 

ふたりで一緒に神社に行く。
 
神社の裏手から流れ出す清流にたくさんの灯籠が浮かべられている。神社の鳥居の手前に3つ出店が出ている。地元の小学校、中学校、高校の生徒がやっている出店で、売る品目は昔から決まっている。小学生たちは水風船、中学生たちはフランクフルト、高校生は心太(ところてん)である。
 
命(めい)たちは高校生の屋台で黒蜜を掛けた心太を買った。
「きゃー、斎藤先輩、可愛い!」
などと見知った2年生の売り子に言われた。
 
「こうして、命(めい)の女装姿の目撃者は着々と増えていく」
「もう今更だからいいけどね」
「そのうち男装の命(めい)を知る人が減っていくな」
「あはは」
 
「でも黒蜜の心太好き」
「黒酢も悪くないけど、甘いのいいよね」
 
ふたりはしばしその近くに立ち止まって心太を食べると、容器をゴミ入れに入れ、売り子の後輩たちに手を振って、鳥居を潜った。
 
「でも、このお祭り自体はずっと昔からやってるみたいだけど、売る品目は変遷してきてるんだろうね」
「そうだね。心太は古くからあったかも知れないけど、水風船もフランクフルトも戦後くらいじゃないの?」
 
「でも、この清流ってきれいだよね。水飲んでみたことあるけど、美味しいし」
「ああ、私も時々この水は飲むよ。美味しいよね」
「湧き水かな。神社の向こう側には川は無いし」
「神社の裏手に禁足地があるでしょ。そこに泉が3つあるのよ。そこから湧いてきているの」
 
「へー」
「3つの泉は少し高い所にあって、滝になって落ちてこの清流が始まっているらしいの。その滝がここの神様たちの象徴ね」
「ああ。竜神様だもんね。滝と竜って実質同じことだから。でもよく知ってるね」
「いつだったか宮司さんが教えてくれたよ」
 
「あの宮司さん、理彩がお気に入りっぽいよね」
「私、小さい頃ここの境内でよく遊んでたからね。うちに男の子がいたらぜひ嫁に欲しかったなんて言われたこともあるし」
 
「見事に女の子ばかりだもんね、あそこ。宮司さんの子供が3人とも女で、その子供たちも今のところ全員女」
「凄い女系家族だよね。跡継ぎのことで悩んでるみたい。よそから宮司を入れると、色々秘儀の引き継ぎができないからって。この村出身の人でないと出来ない神事がいくつかあるんだよね、この神社」
「へー」
 
ふたりで神社の拝殿でお参りをし、そのあと境内の縁台に座って少しおしゃべりしていたら、さっき話していた当の宮司さん、辛島和雄さんが寄ってきた。
 
「あれ?誰かと思ったら命(めい)ちゃんか。相変わらずそういうの似合うね」
「あ、どうも。最近こういう格好に慣れてきた自分が怖いです」
「お花の会のパンフレットにも、凄く美人に写ってたし」
「あはは、お恥ずかしい」
 
昨年、理彩のお母さんがやっているお花の会でパンフレットを作った時、その表紙を振袖姿の命(めい)が飾ったのである。
 
「今年の稲は豊作っぽいよ。神様のお陰だね」
「よかったですね」
「祈年祭もうまく行ったし。田植え祭りもうまく行ったし」
「祭りの出来不出来って、何かで分かるんですか?」
「うん。祭りの後である神事をすると分かる。田植え神事は本当はあそこに男の子が混じってたら神様に叱られるんだけどね」
「えー!?」と命(めい)。
 
「でもあの時、僕は命(めい)ちゃんなら大丈夫のような気がしたから、してもらったんだ」と宮司さんは言う。
「へー」と理彩。
「結果、大吉だった。神様から見ても、命(めい)ちゃんは女の子だったんだね」
「おお、神様認定証付きで命(めい)は女の子」と理彩。
「うーん。嬉しいような嬉しくないような」と命(めい)。
 
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【神様のお陰・高3編】(1)