【神様との生活・真那編】(1)

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真那が初めて星を見たのは、小学4年生(2022年)の4月だった。
 
ゴールデンウィークに奈良市内で、真那の高祖父にあたる奥田北斗の三十三回忌と、高祖母(北斗の妻)きぬさんの十七回忌を併せた法要が営まれ、北斗の子孫にあたる人たちやその他の縁故者が一同に会したのである。
 
奥田北斗は星が生まれる120年前に“神婚”をして理を産んだ奥田命理の長兄・銀河の息子(つまり命理の甥)である。きぬとの間に(夭折した子を除いて)4人の子供を作ったが、その4人がこの時点で全員存命であった(最高齢は長女のとらで94歳)。
 
そこでその4人の子供各々の子・孫・曾孫が配偶者も含めて総勢50-60人いる感じだったし、また北斗は戦前は大きな会社を経営して議員も務め、戦後は全ての資産を失ったものの、趣味の日本画を描いて過ごし、その日本画の弟子などもいたため、親族以外でも、この法事に出席した人達がまた20-30人いた。
 
それで法事は奈良市内の小ホールを借りて行い、その後の食事会も大規模なものになった。普通は三十三回忌など、ごく内輪だけでやるものだが、親戚一同集合になったのは、やはり北斗が議員などまで務めた人であったことが大きい。
 

 
 

法要は5月1日(日・仏滅)に行われたのだが、真那は両親とともに前日に奈良市に出て行き、両親が法事の準備に忙しそうにしている中、従姉の俊子などと一緒におしゃべりをしていた。
 
田舎に住んでいるとたまに出てくる奈良は大都会である。午後には子供たちがどうも暇をもてあましているようだと感じた俊子の母・万知が小学生の数人を東大寺・春日大社・興福寺などに連れて行ってくれた。もっともこういうのは小学生が見ても、そんなに面白いものではない!本当は遊園地とかゲーセンとかに行ってみたい所だが、遊びに出てきているのではないので、仕方ない。
 
それでもおやつにおごってもらったチキン美味しかったなあ、などと考えながら晩御飯前にお風呂行っておいでと言われて大浴場に入りに行く。大浴場まで来てから「あ、俊子ちゃん誘えば良かった」と思ったものの、別に1人では寂しいという訳でもない。
 

脱衣場で服を脱いで裸になり、浴室に入る。それでそのまま浴槽に入ろうとしたら、浴槽の中に居た女の人から注意された。
 
「君、いきなり浴槽に入ったらダメ。おうちならそれでもいいかも知れないけど、ここはみんなが入るんだから、ちゃんと身体を洗ってから入りなさい」
 
「ごめんなさい」
と真那は素直に答えて、洗い場に行き、シャワーで身体を洗った。確かに少し汗掻いてたかもね〜、などとも思う。顔を洗い、胸やお腹を洗う。
 
真那は小学4年生なのでまだ胸は無い。クラスメイトにもまだおっぱいが膨らんでいる子は居ないようだが、そろそろ膨らんで来るのかなあなどと考えると、少し不安なような楽しみのような微妙な気分である。
 
そういう訳で身体をきれいに洗ってから浴槽に入る。真那に注意した人物は口調がしっかりした感じだったので、てっきり中学生くらいかと思ったのだが、見ると自分と似たような年齢っぽい。おっぱいもまだ無いし。
 
「小学・・・・3年生くらい?」
と彼女が訊いた。
 
「4年生です」
と真那は答える。
 
「あら。私も4年生。私は星」
「私は真那です。同い年だったのか」
 
「あまり大浴場とか温泉とか入ったこと無かった?」
「村にも温泉あるけど、あまり行くものでもないし、幼稚園の時に行って以来かなあ」
 
「へー。田舎ってどこ?」
「E村ってとこなんだけどね」
 
「あれ?もしかして奥田北斗さんの法事で出てきた子?」
「星ちゃんも?」
「私は大阪から来たんだよ。うちは奥田武曲さんの曾孫」
と星は言う。
「私は奥田破軍さんの曾孫」
と真那は答えた。
 
北斗の男児は2人で破軍・武曲である。これはどちらも北斗七星の星の名前(破軍・武曲・廉貞・文曲・禄存・巨門・貪狼)だ。北斗は男の子を7人作りたかったらしいが、実際には男児は早世した子を除いて2人のみで、北斗七星の柄の所の2星の名前が付けられた。きぬさんは7人の子供を産んだのだが、3人は赤ちゃんの内に死亡。男児2人(破軍・武曲)と女児2人(とら・龍子)が成人に達するまで育った。
 
「この規模で法事やるのはたぶん最初で最後とかうちのお母ちゃん言ってたし、私と真那ちゃんの出会いも凄くレアな出会いだったのかもね」
と星は言った。
 
「だとすると凄いね。私、なんか星ちゃんと気が合いそう。あとで連絡先交換しない?」
と真那も言う。
 
「うん、いいよ」
と言って、星は真那と握手した。
 

翌日、ホールにたくさんの大人が入ってお坊さんの読経が行われている間、小学生以下の子供は別室でおやつなどをもらっていた。子供たちのお世話係で来海(くるみ)さんという25-26歳くらいかな?という女性も一緒であった。真那がよく親戚とかの集まりの時に話している従姉の俊子ちゃんは中学1年生なので、セーラー服を着てホールで行われている法事の方に出ている。
 
昨夜ホテルのお風呂で会った星が黒い上着に黒いズボンを着て、小学1−2年くらいの黒いドレスを着た女の子と一緒に居るので寄っていく。
 
「そちらは妹さん?」
「そうそう。こちらは小学2年生で月(つき)。月、こちら真那ちゃんね」
「真那さん、こんにちは。月です」
と月は礼儀正しく挨拶した。真那は躾のいい姉妹っぽいなと思った。
 
それでふたりと話している内に、27-28歳くらいの女性が入ってくる。それを見て月が「あ、お父さん」と言ったのに対して星が「あ、お母さん」と言った。それを聞いて、真那は『お母さん』に続けて『お父さん』も入ってこようとしているのかな、などと思った。
 
その女性はこちらに来ると
「星、ちょっと手伝って」
と言うので、星が
「うん、いいよ。お母さん」
と言って席を立ち、一緒に出て行く。女性は
 
「月は、まだしばらくここで休んでいて」
と言う。すると月は
「分かったよ、お父さん」
と言った。
 
それで女性と星が出ていく。真那は混乱した。
 

「今のは月ちゃんのお母さんだよね?」
と真那が訊くと
「ううん。私のお父さんだよ」
と月は言う。
 
「だって。。。。女の人だよね?」
「うちのお父さんはいつも女の人の格好してるんだよ」
 
何〜〜〜!?
 
「で、でも、月ちゃんのお姉ちゃんは『お母さん』と呼んでなかった?」
と真那が言うと
 
「私、お姉ちゃん、居ないよ」
と月は言う。
 
「え?でも星ちゃんは?」
「星は私のお兄ちゃんだよ」
 
何だと〜〜〜!?
 
「星お兄ちゃんは、私のお父ちゃんのこと『お母ちゃん』と呼んで、私のお母ちゃんのこと『お父ちゃん』と呼ぶんだよ」
 
はぁ!??
 

真那が訳が分からないと思っていたら、近くに居た来海さんが寄ってきて言った。
 
「星と月の会話聞いていたら、訳が分からないよね」
と来海さんは言う。
 
「さっき入って来たのは、星ちゃんや月ちゃんのお父さんなんですか?」
と真那が尋ねる。
 
「簡単には説明できないんだけど、さっき入って来たのは命(めい)さんと言って、そのパートナーは理彩(りさ)さんで、月ちゃんは理彩さんから産まれたけど、お兄ちゃんの星ちゃんは命(めい)さんから産まれたんだよ。だから2人とも自分を産んだ人をお母さんと呼び、そのパートナーをお父さんと呼んでいる。だから2人のお母さんとお父さんは逆になるんだよね」
 
真那はやっと意味が分かった。
 
「じゃ女同士で夫婦なんですか?」
「実質そうだと思う。まあ命(めい)は戸籍上は男だから、ふたりは法律的には男女なんで法的にも結婚しているんだけどね」
 
「戸籍上男なのに子供産んだって、ふたなりとかいうやつですか?」
「そのあたりは私もよく分からないのよね〜。命(めい)ちゃんは一応学生服で中学高校には通っていたけど、よく女装していたし、大学に入ったらもう女の人の格好しかしてなかったね。それで大学在学中にふたりは結婚して、命(めい)が星ちゃんを産んで、理彩が月ちゃんを産んだんだよね〜」
 
「へー」
と真那は感心したように声を出した。
 
「それで星ちゃんは・・・・女の子ですよね?」
と真那は尋ねた。
 
「男の子だと思うんだけど・・・」
 
「うっそー!? だって私、あの子と昨夜、ホテルの女湯で会ったんですよ。まさかのぞき?」
 
「ちんちん付いてた?」
と来海が尋ねる。
 
「・・・・ついてたら、いくらなんでも気付いた気がする」
と真那は少し考えてから言った。
 
「あの子の性別は実はよく分からないのよ。お友達とかには女装好きの男の子のように思われているみたいだけど、実は女の子なのではという疑惑もあって」
 
「じゃ男装好きの女の子?」
「それもよく分からない。うちの兄貴(吉宏)は星ちゃんを男湯で見たことあるらしい。ちんちんも付いてたと言うのよね。でも私の従妹の奈津ちゃんはあの子と女湯で遭遇して、もちろん、ちんちんなんか付いてなかったというのよね」
 
「うーん・・・・もしかして星ちゃんも、ふたなり?」
「それとも違う気はするんだけどね。結局、星の性別はよく分からない」
と来海が言うと、月が
 
「お兄ちゃんは時々女の子になることもあるよ」
などと言っている。
 

結局この日は星は何やら裏方の仕事の手伝いをしていたようで、真那はこの後星と話をする機会は無かった。ただ、昨夜の内に電話番号と住所は交換していたので、その後も何度か電話で話したが、最初に会った時に感じたように、仲良くできそうな感じの子だった。ただ、星の性別問題については、尋ねるのはちょっとはばかられた。もしかして“ふたなり”とかだったら、本人悩んでいるかも知れないし、と真那は思ったのである。
 

奥田北斗の2人の息子が破軍・武曲で、真那は破軍の曾孫、星は武曲の曾孫であるが、実はふたりは血が繋がっていない。
 
破軍は物凄い巨人ファンで、2人の息子に茂雄・貞治と名前を付け娘には恒子と付けた。長嶋茂雄・王貞治・堀内恒夫に由来するものである。茂雄も巨人ファンで、息子に辰徳・聖史(たかし)と名付けている。原辰徳・西本聖に由来するものである。一方、茂雄の弟・貞治は弘法大師空海が好きで、2人の息子に夢空・教海という名前を付けた。これは空海の修業時代の名前、無空・教海に由来する。最初はそのまま「無空」と付けたかったらしいが、子供の名前に「無」という字を使うのはよくないと周囲から反対され、妥協して夢空にした(「無」は大乗仏教の中心思想なのに!とかなり抵抗したらしい)。
 
真那は教海の娘である。教海というのがお坊さんっぽい名前なので、真那はよく「お寺の娘さん?」などと訊かれるが、教海は仏教の知識は父の影響でかなり持っているものの、普通のサラリーマンだし、本人は無宗教だと言っている。家には仏壇も神棚も無い。但し、父の影響で仏教にも詳しいし、ユング心理学に若い頃にはまり(カウンセラーの資格を持っている)、そこからキリスト教・カバラから神道なども結構詳しい。
 

武曲の奥さんは真綿であるが、実は武曲は中学高校時代の親友・音吉とこの真綿を争い、結局音吉が勝って真綿と結婚した。失恋した武曲は潔く身を引きふたりの結婚式にも出て祝福したが、自分自身はもう結婚しないつもりだったという。ところが音吉は真綿が子供を妊娠中に亡くなってしまう。大きなお腹を抱えて途方に暮れていた真綿を武曲は保護した。武曲はやがて生まれて来た子供(雅博)を自分の子供のように可愛がった。そして武曲と真綿は音吉が亡くなってから5年後に結婚した。これは雅博が幼稚園に行く年になったので、どうせ結婚するなら在園中に雅博の苗字が変わるよりもということになり、入園前に真綿と決婚式を挙げ、雅博も自分の養子にしたのである。その後ふたりの間に哲春・賢治・太造の3人の男の子が生まれた。武曲は4人の息子を分け隔て無く愛した。
 
その雅博の娘が理彩で、理彩と斎藤命(めい)の間に星と月が産まれたということに戸籍上はなっているらしいが、本人たちの言うには月は理彩が産んだが、星は夫の命(めい)の方が産んだらしい。
 
命(めい)が星を産んだのが本当なら命(めい)は医学的には女であったことになるはずだ。実際、学生時代、来海は命(めい)・理彩夫婦の家の近くに住んでいたので、何度もふたりと一緒にお風呂にも入っており、命(めい)の身体は女にしか見えなかったらしい。
 
そうすると月の父親は誰なのか、また星の父親も誰なのかという問題が生じるが、命(めい)は間違い無く自分は月の父親と言っているらしい。ひょっとして命(めい)は両性体で精子を冷凍保存した後男性器を除去して純粋な女の身体になり星を産み、月は冷凍保存していた精子で理彩が妊娠したのではと想像してみるも、両性体だった人が男性器を除去したからといって、妊娠出産が可能になるのかは甚だ疑問がある。
 
そのあたりの話を真那は来海と交わしていた。
 
なお来海は武曲の三男・賢治(*1)の娘である。
 
(*1)法的には賢治は武曲と真綿の間の二男。しかし武曲の家では雅博を長男と称し、法的に武曲と真綿の長男である哲春を次男と称する。
 

星の“お父さん”(月のお母さん)である斎藤理彩は大阪大学医学部を出て医師の資格を取り、そのまま府内の病院で研修医をしていたのだが、あの法事があってから間もなくして、奈良市内の病院に異動し、一家も奈良市郊外の家に引越した。元々、命(めい)の方はE村で果樹園の経営をしているらしく、頻繁にE村に通っていたので、奈良市内の病院に欠員ができたので誰か来て欲しいという話に乗ったのだそうである。
 
それで真那は星と電話で時々話すだけでなく、真那が奈良市まで買物や遊びで出て行く度に星と実際に会う機会も出てきた。
 
星は会う度に男の子の格好をしていたり、女の子の格好をしていたりした。実際男の子の格好の時は男子トイレ、女の子の格好の時は女子トイレを使っているようである。そして男の子の星と女の子の星は話し方や、話の話題まで違うことを真那は認識した。男の子の星は女の子アイドルが好きで、サッカーとかバスケとかの話題を好む。女の子の星は男の子アイドルが好きで、お菓子作りやアクセサリーなどの話題などを好むし、まるで実は同じ顔の男の子と女の子の双子なのではと思いたくなるほどである。
 
その「双子説」を彼女(彼?)に話してみると
 
「ああ、それ友だちからも言われたことある」
などと言っていた。
 
彼女(彼?)は、ミニバス、少年サッカー、調理部に入っているらしい。
 
「そんなに兼部してたら忙しくない?」
「ミニバスとサッカーは試合の時に出て行くだけで練習には参加してない。だからふだんは調理部に居ることが多いよ」
 
「そのミニバスとサッカーって・・・・男子チーム?女子チーム?」
と真那は一度訊いてみた。
 
「うちのミニバスは男女混合なんだよ。サッカーは一応男子リーグに登録しているけど、女子選手も何人か入っているよ。サッカーって女子リーグには女子しか参加できないけど、男子リーグには女子でも参加できるんだよね〜」
 
「へー!」
 
この星の回答は何だか肩すかしを食わされた気分であった。
 

小学6年生の夏休みに、真那は再度星と一緒にお風呂に入る体験をした。
 
真那と星がよく連絡を取っていることから、7月27日(土)、真那の一家が奈良に出てきた時、星の一家と会って、市内のレストランで一緒に食事をした。
 
この時出たのは、真那と両親の教海・禎子、星・月の姉妹(兄妹?)と母(父?)の命(めい)、それに命(めい)の親戚でE村に住んでいるものの、たまたま出てきていた、西川まどか(*1)という50歳くらい?の女性であった。星と命(めい)の性別が曖昧なのだが、この日星は女装だったので、命(めい)さんも見た目通りに女性とすれば、女性6人と男性1人(真那の父)という組合せである。(*2)
 

(*1)まどかは息子である西川環貴の要請に応えて2014年夏に環貴の父・春貴との婚姻届を出した。それで西沢まどかから、西川まどかになった。ふたりは1991年から30年以上実質的な夫婦を続けていた。環貴が生まれたのは1993年でこの時点で31歳だが、春貴(60)には前妻との間に2人の子供がいて、その2人は42,40歳であった。春貴はその2人に離婚後全く会っていない。
 
(*2)実はこの女性6人の中で染色体的にも女性なのは、真那、真那の母、月の3人のみであった。
 

真那たちが食事しながら話している内に、真那が6月の修学旅行の時、風邪を引いてしまって行きそびれた話が出た。すると
 
「じゃ、修学旅行代わりにちょっと卒業旅行しましょうよ」
とまどかが言い出した。
 
「修学旅行はどこに行く予定だったの?」
「岡山・広島です。倉敷の美術館見て、広島は原爆ドームと宮島かな」
「よし。今から行こう」
「今から!?」
 

何でも、まどかさんが今月いっぱいで期限切れのJR西日本の優待券を持っているらしい。そこでそれを使おうということなのであった。
 
「まどかさん、そんな急に言われても、みんな旅支度が無いよ」
と命(めい)が言ったが
 
「あら、着替えとかは私が買ってあげるわよ。私はお金持ちだし」
などとまどかさんは言う。
 
「奥田さん、明日・日曜日はお休み?」
 
「はい。休みではありますけど、あのぉ、西川さんは、どんなお仕事をなさっているんでしたっけ?」
と真那の父が遠慮がちに訊く。
 
「東京で長年医者をしていたのよ。数年前(*1)に辞めて奈良に戻ってきたのよね。当時年収2000万円ほどあったけど仕事は忙しいから使い道が無くて、その時代のお金が貯まりすぎて使うのに困っているのよ」
 
「はぁ。。。。。」
 
真那の父もお金持ちのきまぐれなら、まあ付き合ってもいいかと思ったようである。
 
(*1)まどかが実際に東京の病院を退職したのは1994年で、既に30年前である。しかしこのあたりの年数を誤魔化さないと、まどかの「見た目年齢」を説明できない。
 

それで結局、真那の父の車(ラウム)とまどかさんの車(RX7-FD3S)に分乗して、新大阪まで出た。星が「真那ちゃん、子供3人はまどかさんの車に乗らない?」と誘ったので、結局星・月・真那がRX-7に乗り、ラウムに真那の両親と命(めい)が乗った。
 
「この車格好いい!」
と真那も初めて乗ったRX-7に少し興奮していた。
 
それで新大阪駅近くの駐車場に車を泊め、新幹線に乗り込む。宿は大阪までの移動中に命(めい)さんが宮島口のホテルに予約を入れたらしかった。
 
それでまずは新幹線で倉敷まで行き、美観地区を散策。色々文化財になっている建物を見るが、これはどういういわれのある所というのを、まどかさんが詳しく解説してくれて、なかなか楽しかった。大原美術館も見学した。
 
夕方くらいにまた新幹線で広島に移動し、市内で有名なお店らしい《みっちゃん》という所のお好み焼きを食べてから、市内のスーパーで着替えを買った上で、広電で宮島口に移動し、そこのホテルに泊まった。
 
(いったん広島駅か西広島駅に移動してJRに乗り換えた方が早いことが多いが、市電に乗るのも風情でしょうと言って、宮島口まで広電を使った。但し広電も西広島〜宮島口間は市電ではなく専用軌道になる)
 
お部屋は、斉藤家+まどかさんで1部屋、奥田家1部屋である。まどかさんが真那の父を「ナイトキャップと行きませんか?」と言ってお酒に誘いに来た。父もお酒は好きなので「いいですね。じゃここは私に出させて下さい」と言ってホテル内のバーに飲みに行ったようである。真那の母もふたりの年齢を考えて、まさか浮気とかもあるまいと考えたようで、真那と一緒に「お風呂行こう」と言って、大浴場に行った。
 
すると(女湯の)脱衣場で、星・月の姉妹と遭遇する。
 
「あら、あなたたち子供だけ?」
 
「母は突然こっちに来ることになったもので、何か仕上げておかないといけない作業があるとかで、パソコン開いてお仕事してました」
と星が言う。
 
「たいへんね〜!」
と真那の母は同情するように言った。真那の母は命(めい)が現在村で大規模な果樹園を経営していることを知っている。
 

それで星が服を脱ぐ所を真那は自分も脱ぎながらじっと見ていた。
 
星はブラジャーを着けていた。そして、おっぱいが・・・私よりあるじゃん!と真那は思う。パンティを脱ぐが、そこにはおちんちんのようなものは見あたらない。もう毛が生えていてその付近を隠しているが、割れ目ちゃんらしきものがあるように見えた。いや、“あれ”が付いてたら、この毛の中に隠れきれるわけが無いだろうと真那は思う。
 
星はどうも自分の胸やお股を真那が注視しているのを楽しんでいるかのようであった。
 
4人で浴室に入り、各自身体を洗った上で浴槽に入った。
 
「真那、あんた何、星ちゃんをじろじろ見てるの?」
と禎子(真那の母)が真那の視線に気付いて注意する。
 
「あっと、おっぱい大きいなと思って」
と真那が言うと、星は
「真那ちゃんもすぐ大きくなるよ」
と言う。
 
「星ちゃんは生理は?」
と禎子が訊く。
 
「去年の秋から始まりましたよ」
「なるほどー。やはりその差じゃないの。あんたも生理来たら、もっと大きくなるよ」
と禎子は言った。
 

お風呂では浴槽内で20分くらいおしゃべりをしてからあがる。そしてお風呂から戻ると、今日のハードな行程の疲れが出て、真那はすぐ眠ってしまった。
 
翌日は朝一番の連絡船で宮島に渡り、厳島神社にお参りする。ここでも、まどかが色々詳しい解説をしてくれた。戻ってから原爆ドームを見る。その後、広島駅に戻り、新幹線で新尾道に移動してから、ここでレンタカーでエスティマを借り、7人で乗り込んで、しまなみ海道を走った。
 
美しい眺めに星も真那も思わず声を挙げる。禎子も「ここ凄いね!」と言っていた。大浜PAで休憩して、お昼御飯を食べ(命が払った)、おやつにじゃこ天を買った後、大三島で下に降りる。
 
ここで大山祇神社に参拝する。
 
「一般的な観光ツアーでは、お隣の生口島(いくちじま)の耕三寺が人気あるんだけど、あそこはまあテーマパークみたいなものだから」
 
とまどかは言っていた。
 
「ここが全国の山祇(やまずみ)神社・三島神社の中心地ですよ」
「へー!」
 
「山祇神社って、山の上にばかりあるものかと思った」
と教海(真那の父)が言う。
 
「山祇って《山住み》ですからね。でも山祇神社・三島神社の神である大山祇神(おおやまずみのかみ)は、最初大阪の高槻(たかつき)市にある三島鴨神社に上陸して、三島神社・恵比寿神社・鴨神社の神である事代主神(ことしろぬしのかみ)と出会い、その後、この瀬戸内海の大三島に移動したんです」
と、まどかは説明した。
 
「事代主神って、どこが発祥でしたっけ?」
と教海が訊く。
 
「奈良県の葛城ですよ」
「おお、意外に近くだ!」
 
「大国主神(おおくにぬしのかみ)と宗像(むなかた)の姉妹神との子供たちですね」
と言って、まどかはメモ帳にこのように書いて教海に渡した。
 
辺つ宮の高降姫との子:事代主神(下鴨神社)・高照姫(中鴨神社)
奥つ島の田心姫との子:鴨大神(高鴨神社)・下照姫(長柄神社)
 
「葛城ではこの4つの神社が四角形の形に配置されているんですよ」
「それは一度行ってみたいなあ」
 

「あれ?神奈川県の熱海(あたみ)の近くにも三島神社とかありませんでした?」
と禎子が訊いた。
 
「あの付近は静岡県」
と教海が訂正する。
 
「あれ〜〜!?」
 
「伊豆の三嶋大社はちょっと複雑で、事代主神が畿内から出雲に移動して、そこで国譲りに遭い、出雲(いずも)に居られなくなったので、伊豆(いず)に移動して、ここに島を多数出現させて、最初三宅島に鎮座したのだけど、火山の噴火が強すぎるので、白浜に移動し、更に広瀬を経由して現在の三島市に移動したのよね」
とまどかは簡単に説明したが、出雲の国譲り神話を知っている教海は感心したように頷いているものの、その知識が無い禎子は、よく分からない〜という感じの顔をしていた。
 

大三島神社でお参りしてから境内を歩いていたら、30歳くらいの男性が一行に近づいて来た。
 
「これはこれはN大神様、何か用事でした?」
と彼はまどかに声を掛けた。
 
「ご無沙汰しております。M大神様。今日はただの観光なんですよ。こちらの女の子が修学旅行で広島岡山を訪れる予定だったのが、直前に風邪を引いて、行けなくなったということだったので、代わりに連れてきたんですよ」
 
「そういうことでしたか。じゃお土産に伊予柑でも差し上げましょう。後でそちらのお車に届けますから」
と彼は言った。
 
「ありがとうございます。じゃこちらは桃か何かでも後で届けさせますね」
とまどかは彼に言っていたが、命(めい)が何だか渋い顔をしていた。
 

その後、隣接する道の駅でお土産物などを見てから駐車場に戻ると、車のそばに17-18歳くらいの少年が立っている。
 
「こちらM大神よりN大神様へのお土産です」
と言って、伊予柑がどっさり入った袋を差し出した。
 
「ありがとうございます」
とまどかが言い、命(めい)が受け取って、車に積んでいた。少年は会釈して去っていった。
 
この後、尾道方面に戻り、レンタカーを返して、新幹線で大阪に戻り、そのあと2台の車に分乗して奈良に帰還した。
 
まどかがE村まで戻るということだったので、真那はまた、まどかのRX-7に乗せてもらった。月は眠たそうにしていたので、真那の父が運転するラウムに命(めい)と一緒に乗って奈良市まで寝ていたようである。RX-7の後部座席に真那は星と並んで座った。
 

「奈良市まではいいけど、その先の道がなかなか厳しいよね〜」
とまどかが言うが
 
「それもあと3日の辛抱だよね」
と星が言っている。
 
「ああ、8月1日開通の吉野東道路ね?」
と真那もその話に思い至って言う。
 
「うん。今は奈良市とE村の間は1時間半くらい掛かっているけど、あの道ができたら半分で済むかもと言っている人もいた」
と星。
 
「だったら凄く便利になるね」
と真那は言いつつも心配する。
 
「でもこんな田舎にそんな立派な道を造る意味あるのかなあ」
「急病人が出た時とかに、奈良市に転送するのに凄く助かると思う。今まで助からなかった人が助かるようになるかも」
「それはあるかもね〜」
 
「実際、あの道はE村やU村だけじゃなくて周辺のX町やM村・S村の人も助かるし、何と言ってもG市から奈良市への交通も劇的に改善されるからG市の人も凄く喜んでいるみたいだよ」
 
「なるほど〜。でも有料道路になるという話だったのに結局無料なんですね」
 
「係員を置いて料金徴収するための費用が、どう考えても徴収できる料金より大きいというので、料金は取らない方がましらしい」
 
「やはり利用者があまり見込めないんだ!」
 

「そういえば大三島で伊予柑をくれた人はお知り合いですか?」
と真那はこの時、何気なく訊いた。
 
「真那ちゃん、あの人見えていたんだ?」
と星が訊く。
 
「へ?」
 
「なるほどねー。君、なかなか面白そうな子だ」
と運転しているまどかも楽しそうに言っていた。
 
真那はさっぱり訳が分からない気分だった。
 

この日、奈良市で星が降りる直前、彼女は真那に言った。
 
「真那ちゃんだから、触らせてあげる。ぼくの胸を触ってごらんよ」
「え?」
と言って、真那はおそるおそる星の胸を触る。
 
「あれ〜〜?」
 
星の胸は男の子のように平らだったのである。ブラジャーは着けているもののその“中身”が無い。スカスカである。
 
「さっき有効期限が切れちゃって、男の子に戻っちゃった」
「それどうなっているの?」
「ぼくは男女どちらにもなれるけど、一度変更すると半日くらいは再度の変更ができないんだよね〜」
と星は言っている。
 
「まさか今ちんちんある?」
「あるよ。触ってもいいよ」
「遠慮する!」
と真那は言う。さすがにおちんちんに触るなんてできない。
「友だちなんだから別に構わないのに」
などと星は言っている。
 
「じゃそれ本来は男女どちらなの?」
と真那は訊いた。
 
「ぼくには元々性別というものが存在しないんだよ」
と星は笑顔で言うと
 
「じゃ、またね〜」
と言って、手を振って降りていった。
 

2025年春。
 
真那は中学生になった。そしてこの年の3月末に、星たちの一家が真那が住んでいるE村に引っ越してくると聞き、真那はワクワクする思いであった。
 
理彩の勤務先は奈良市内の病院のままで異動した訳ではないのだが、命(めい)の果樹園の事業が本格化して、村に住んでいないと仕事に支障を来す状況となってきたので引っ越すことにしたらしい。理彩は村から車で40分ほど掛けて奈良市内の病院まで通勤するが(昨年開通した吉野東道路経由)、自動運転システムを搭載した車を使用するので、特に高速を走行中は、ほとんど運転席に座って景色を眺めているだけだという話だった。奈良市内・E村村内は何かあったら怖いから手動運転すると言っていた。
 
「でもそれ自動運転中は寝たりしないんですか?」
と真那が訊くと
「うん。大丈夫。景色がきれいだし」
と理彩が言うが、命(めい)は
「公式見解ではそうみたいね」
などと言っていたので、やはりうとうととすることもあるのだろう。
 
一家には今年2月、光という妹も生まれて子供は3人になっていた。理彩は出産の前日まで医師として仕事をし、出産後一週間で職場復帰したらしい!
 
そういう訳で一家が引っ越してくるので、当然、同じ学年の星も真那と同じ中学に行くことになる。星とは引越の時にも会ったが、引越の作業中は男の子の格好をして「ぼく」と言っていたのに、一段落して汗を掻いた服を着替えてきた時はスカート穿いて「わたし」という自称を使っていた。
 
真那は星が学校には果たして学生服を着て出てくるか、セーラー服を着て出てくるか、考えると、わくわくした気分になった。本人に訊いてみたが
 
「うーん。。。どっちだろうね」
などと言っていた。
 

入学式当日、真那が真新しいセーラー服に身を包み、中学校に出て行くと、学生服を着た星がこちらを見て手を振った。真那はちょっとホッとしたような残念なような微妙な感情になった。
 
男の子の星も好きだけど、女の子の星も好きなんだけどな〜、などと思う。女の子の方が気軽にお友達としてつきあえるもん。
 
小さな村の中学なので新入生25人で1学年1クラスである。
 
ほとんどが真那と同じ小学校からの進学だが、2人、山奥の分校の小学校に通っていた子がいた。その2人と奈良市内から引っ越して来た星の3人が、いわば「転入生」に近い感じであった。
 
星は最初のホームルームでもふつうの男の子としてふるまっていた。星のことを知っている子が少ないので、誰も彼の性別には疑問は持っていないようである。真那が星に視線をやっているので
 
「斎藤君、けっこうな美形だよね。真那の好み?」
などと友人の想良(そら)が訊く。
 
「親戚なんだよ」
「あ、そうだったのか」
「三従姉妹(みいとこ)になるのかな」
「み?」
「又従兄妹(またいとこ)の子供同士、言い換えると従兄弟(いとこ)の孫同士」
「かなり遠いね!」
「しかも途中で養子が入っているから血のつながりはない」
「ああ、だったら結婚可能なんだ?」
「え〜?」
 
真那はそれまで星を“恋愛”とか“結婚”といったチャンネルで考えたことが無かったので、そういう指摘は想定外であった。
 
だって女の子同士だし・・・などとも内心思う。
 
まあ男の子になっている時もあるけどね。
 

その日は給食を食べて掃除をしたら終わり、というコースであった。全員で机・椅子を教室の後ろに寄せた上で、生徒25人が5人ずつ5つのグループに分かれ、教室、教室前の廊下、階段、階段下にある生徒玄関、トイレという5ヶ所を掃除した。トイレ担当の班は男2人・女3人だったので、実際には男2人で男子トイレ、女3人で女子トイレを掃除した。真那や想良は階段の所、星は玄関の担当になった。
 
それで真那はモップを持って階段の所を拭いていたのだが、おしゃべり6割・掃除4割くらいの感覚である。しばしばモップが停まってしまう。実際モップを動かすのは結構な筋力を使うので、休み休みでないと辛いというのもあった。
 
それで掃除よりおしゃべりの割合がかなり多くなってきたあたりで、何気なく、真那は階段上の手摺りの所にもたれかかった。
 
「あ、そこダメ!」
と想良が声をあげる。
 
「え!?」
と真那は言ったが、その時は既に遅かった。
 
手摺りは真那の身体を支えてくれず、ベキッという音と共に真那は後ろ向きに身体が半回転して、頭を下にして落下してしまったのである。
 
真那は声もあげることができなかった。
 
そもそも事態を把握できなかった。
 
しかし真那は3秒ほどの後、がっちりとした腕で抱き留められた。
 

正確には、真那は最初柔らかいクッションか何かで受け止められたような感じがした。そして身体が停止した所を腕に抱かれたのである。
 
「真那大丈夫!?」
と言って覗き込むようにする想良の声。こちらに寄ってくる数人の足音。
 
真那は一瞬意識が飛んだ気もしたが、想良や泉美が心配そうに自分を見ている。
 
「真那立てる?」
という星の声がして、真那はゆっくりと床に降ろされた。真那は星に抱き留められていたのである。
 
真那は自分の身体をあちこち触ってみた。どこか痛いところあるかな?と考えてみたものの、特に問題は無さそうである。それでおそるおそる身体を起こし、やがて立ち上がった。
 
「斎藤ナイス!」
という男子の声もする。
 
「かなり距離離れていたのに、よく間に合ったな」
というのは桜井君の声だ。
 

ちょうどそこに1年担任の南原先生が駆けつけて来た。
 
「どうしたの?」
「奥田さんが、そこの手摺りの所から落ちたんです」
「あそこ危ないから触るなって大きく書いた紙貼ってたのに」
「後ろ向きに近づいたから、彼女気付かなかったみたいで」
「でもそれをちょうど下にいた斎藤君が受け止めてくれたんです」
「ほんと?良かった」
と先生も安堵した様子である。
 
「ふたりとも怪我は?」
「大丈夫みたい」
「ぼくは平気です」
 
「とりあえず保健室で見てもらおう」
「奥田さん、歩ける?」
 
真那は少し足を動かしてみる。
「歩けるみたいです」
 
それで南原先生が真那と星を保健室に連れて行った。保健室の先生は真那に服を脱ぐように言って身体を見ていた。触ったりして痛みは無いか?と尋ねている。むろん南原先生と星はカーテンスタンドのこちらに居る。見た感じは大丈夫そうということになり、次に星が見てもらったが星も大丈夫そうである。しかし保健室の先生は、念のため病院でもCTか何か撮ってみた方がいいと言ったので、結局南原先生が自分の車にふたりを乗せて、吉野東道路を走り、G市の市立病院まで行った。20分ほどの行程である。E村の村内にはCTまで撮れる大きな病院は無い。
 

「でも偶然下に斎藤君が居て良かったね」
と運転しながら南原先生は言った。
 
「ダメ!という声を聞いて、そちらを見たら、真那が落ちる所だったので駆け寄ったんですよ。間に合って良かった。手摺りが折れる時間だけ、落下が遅れたおかげだと思います」
と星は言う。
 
「なんか私まだ事態がつかめてない。でも星、ありがとう」
と真那は言った。
 
「真那が軽かったからぼくでも受け止められたね」
と星。
「星が男の子だったから、私助かったのかなあ」
と真那は言ってみた。
 
たぶん星は男の子の時と女の子の時で筋力も違う気がする。先日の引越の時も筋力を使うから作業中は男の子になっていたのではないかと今更ながら思い起こしていた。
 
「真那の体重なら、ぼくが女の子でも受け止められるよ」
「ふーん・・・」
「まあ瞬間的に男の子に変わる手もあるけどね」
「なるほど」
 
先生にはどうもふたりの会話の意味がよく分からないようで首をひねっている。
 
「あそこの手摺りは去年の秋頃からぐらぐらして危ないというので、予算が取れ次第修理しようという話になっていたのよね。一応貼紙は貼っていたんだけど、みんなにもあらためて言っておくべきだったね」
と先生は言っていた。
 
それで病院でふたりともCTを撮ってもらったものの、問題は無いですということになった。ちょうどそこに、禎子と命(めい)も病院に駆けつけて来て、「何事もなくて良かった」とふたりとも言っていた。また禎子が、星に助けてくれてありがとうと言い、あらためて何か御礼の品でも持ってくるなどと言っていた。
 
「でも星ちゃん、なんで学生服とか着てるの?」
と禎子は訊いた。
 
禎子は星を女の子だと思っている。
 
「ああ、これコスプレです」
「へー。びっくりした。でもよく女の子の腕力で真那を受け止めきれたね」
と禎子もその点を指摘した。
 
「真那ちゃん軽いから。体重35kgくらいしか無いでしょ?それに私はバスケとかサッカーとかやるから筋力はあるんですよ」
「なるほどー。スポーツ少女だったね」
と禎子が言うのを南原先生はまた首をひねりながら聞いていた。
 
それで真那は禎子の車で自宅に戻ったものの、帰って夕飯を食べてから改めて今日の事件を考えていたら、男の子の星もたくましくていいのかも、と考えてしまった。そしてその時想良が言っていた『だったら結婚可能なんだ?』という言葉が脳裏にエコーするかのように響いた。
 
でも・・・・今日落下した時の動き、何か変じゃなかった???
 

真那は小学5年生の時からコーラス部に入っていたので、中学でもそのままコーラス部に入った。
 
「星は何部に入るの?」
と真那が訊くと
「そうだなあ。どうしようかなあ」
と星は悩むように言っていた。
 
「斎藤君、なんか運動神経良さそうだよね?野球部に入らない?」
と誘いに来た子がいる。
「野球はルールがよく分からなくて」
と星は言っている。
 
星の所はお父さんもお母さんも女だからテレビの野球中継なんか見てないかもね〜と真那は思う。
 
「小学校の時、何部だったの?」
「えっと、調理部」
「文化部かぁ〜?」
 
「助っ人でバスケとかサッカーもしてたと言ってたね」
と真那が言うと、星は一瞬嫌そうな顔をした。あちゃ〜、まずかったかなと少し後悔するが、星は
 
「人数合わせだけどね」
と言った。
 
「あ、だったら今度の日曜のサッカーの試合に出てくれない?うち選手が11人ギリギリだから、交代ができなくてさ」
とサッカー部の佐藤君が言う。
 
「うーん。まあいいかな」
と星。
 
「あ、だったらうちは土曜日にバスケの試合が出てくれない?うちも選手が5人ギリギリでさあ。小学校の時はミニバスは10人居ないと出られないからE町の小学校と合同チームだったんだよ」
とバスケ部の馬場君が言った。
 
「ま、いっか」
というので、結局、星は土曜日にバスケの試合、日曜日にサッカーの試合に出ることにした。
 

真那は自分の発言がきっかけで、星が試合に出ることになったので、責任を感じて、2つの試合を見に行くことにした。
 
土曜日、バスケの大会がK町の中学校の体育館で行われるので、真那は母に頼んで送迎係をしてもらい、結局真那の母の車に真那・星、バスケ部の須藤君まで乗って1時間ほど掛けてK町まで行った。ここは「町」ではあるものの、人口も2万人を越えており、私立大学のキャンパスもある大きな町である。マクドナルドやミスタードーナツにファミレスもあり、田舎暮らしの真那たちにとっては「プチ都会」という感覚であった。
 
真那はマネージャーとか頼めない?と言われたものの、スコアの付け方が分からない!というのでパスさせてもらい、客席から応援することにした。
 
1回戦はS村の中学だった。真那は客席から見ていて「どっちも弱〜い」と思ってしまった。ドリブル失敗する、パスが通らない、シュートが全く入らない。ファウルも無駄に多いが、それで得たフリースローが全く入らない。それで前半終わっても18-20というロースコアである。
 
第3ピリオドで星が出ていく。
 
スローインのボールをもらったのでドリブルしながら攻めていく。相手ディフェンスが来て目の前で手を広げて防御している所で、星はそちらに視線をやらずにバウンドパスで馬場君に送ったが、馬場君は虚を突かれたようで、取りきれずボールはアウトオブバウンズになる。うーむ。。。
 
ピリオド終了間際、須藤君がボールを取られ、相手選手がドリブルで走り出したのをたまたま近くに居た星が回り込んできれいにスティールする。そしてそのままターンオーバーして攻めていく。相手の選手が防御に来る。そこはちょうどスリーポイントラインの外側だった。
 
星がシュートする。
 
相手選手はそんな遠距離からシュートに行くとは思ってもいなかったようで、かなり遅れてブロックにジャンプした。むろんボールはとっくにゴールに向かって飛んで行っている。
 
きれいに入る。
 
この3点でE中学は逆転。そこで第3ピリオドは終わった。
 

インターバルでは
 
「斎藤、よくやった」
「あんな遠い所からよく入ったな」
 
などと言われている。星も
「まぐれ、まぐれ」
 
と言っていたが、星がシュートした時の表情を見たら確信して撃った感じがあった。たぶん星はロングシュートが上手いのだろうと真那は思った。実際、星は運動神経は良さそうだが、(男子としては)体格が無いので、ゴール近くの乱戦には弱そうな気がした。
 
いい感じのシュートを決めたので、星は第4ピリオドも出ることになった。
 
そしてこのピリオドで星はミドルシュート2本とスリーもまた1本決め大活躍。おかげでE中学は1回戦を突破した。
 
「やったやった」
「対外試合でうちの中学が勝ったのって、たぶん5年ぶりくらい」
などと言っている。
 
まあ、あのレベルじゃ勝てないよなあ、と真那は頬杖を突きながら思った。
 

2回戦は地元K町の中学であった。ここは、そう強い訳でもないものの、「まともに」プレイするチームで、E中学は全く歯が立たなかった。途中から星も出たものの、結局90-18の大差で負けた。ただし18点のうち星が入れた点数が半分の9点である(スリーとミドルシュートが1本ずつ、フリースロー4本)。
 
「ああ、残念」
「せっかく1回戦勝ったのに〜」
 
などと言っている。
 
「でも斎藤君、バスケうまいね〜」
「ロングシュートがうまいんだね!」
「また出てくれない?」
 
「じゃ、時間があったらね〜」
と星は気乗りしない感じで答えていた。
 

翌日はG市にサッカーの試合を見に行った。この日も真那は真那の母の車に真那、星と、サッカー部の塚田君、葛城君を乗せて5人乗りでG市まで行った。
 
この日も、うちマネージャーが居ないんで、やってくれない?などと言われ、サッカーなら何とかなりそうだったのでベンチにも入った。開始前の各チームへの伝達事項なども聞いてきて、みんなに伝えた。
 
この日はそもそも部員の金田君が風邪を引いてしまったということで、星を入れて11人という状態でスタートした。
 
「斎藤君が来てなかったら10人でやらないといけなかった」
と佐藤君が言っていた。
 
「11人そろってなくてもいいんですか?」
「サッカーは最低7人いれば試合成立するんだよ」
「へー!」
「でも人数が相手チームより少ないと、圧倒的に不利だけどね」
「たしかに」
 
それで試合をやっていたのだが、バスケ部とちがって、こちらはわりとまともなチームという気がした。それでも相手も似たようなレベルなので、ゲームは互角に進む。
 
0-0で前半を終わり、後半になって途中相手ゴール前で激しい乱戦になった時、3年生の道山君が足を抱えて倒れた。
 
審判が試合を停める。
 
顧問の先生や真那なども行き、様子を見るが、星が
 
「これ骨折してる」
と言った。
 
「病院に運ばなきゃ!」
 
ということで、星が、あり合わせの板を、真那の持っていたタオルとハンカチで足に巻き付けて固定した。担架を持って来て、まずはフィールド外に出し、顧問の先生が自分の車を場内に入れ、みんなでそっと乗せた。それで先生が病院まで連れていくことにした。
 
真那は
「私も付いていきましょうか?」
と言ったのだが、部長の元原君が
「奥田さん、むしろ道山の代わりに選手で入ってくれない?」
と言った。
 

「え〜〜!?でも私、女子ですよ」
と言うと、元原君は
「サッカーでは男子の試合には女子選手が出てもいいんだよ」
と言う。
「逆はダメだけどね」
と佐藤君。
 
「ああ、真那は運動神経わりと良さそうだもん。ぼくも女子なのに男子の試合に出ているから大丈夫」
などと星は言っている!
 
それで金田君用に持って来ていたユニフォームを借りて、真那は道山君と交代で試合に参加することになった。
 
この間10分近く中断したが、これは長いロスタイムとして処理されるはずである。
 
(本当は試合開始前に提出した名簿に載っている人しか出られないはずだが、この大会はそもそも名簿提出が行われなかった。アバウトな大会のようである)
 

それで真那はフィールドに出て行ったが、むろんサッカーなら、だいたいルールが分かるし、真那は走るのはわりと得意なので、たくさん走ってパスを受けたら誰か他の選手に回したりして、結構楽しくプレイした。
 
星が相手選手に取り囲まれたが、その時、星がチラっとこちらを見た。真那は佐藤君へのパスが通る場所に走り込む。そこに星が相手選手の頭の上を越える弓なりのパスを正確に送ってきた。真那はそのボールを身体に当てて停めると、すぐ佐藤君にインサイドキックで送る。相手選手が運動神経の良い星の居る側に集まっていたため、佐藤君の居た側は手薄になっていた。そこで彼がそのままドリブルでゴール前まで持ち込みシュート。
 
これが入ってE中学は貴重な1点を得た。
 
その後、両者とも攻めあぐねる展開が続き、45分が経過。更に12分ものロスタイムを経て試合終了。
 
E中学が1-0で勝った。
 
「佐藤の点数が効いたな」
と部長が言うが
 
「あれは斎藤・奥田の連係プレイからボールもらえたおかげです」
と佐藤君は少し照れ気味に言っていた。
 
なお、道山君は星が言ったように骨折していたものの、しっかり固定して病院に運んだことから1ヶ月程度で退院できるという話であった。ただサッカーができるほどまで回復するには2〜3ヶ月掛かるだろうということである。
 
 
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【神様との生活・真那編】(1)