【神様との生活・真那編】(2)

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週明け、星がセーラー服を着て学校に出てきたので
 
「うっそー!?」
「斎藤君、どうしてセーラー服?」
 
などという声があがる。
 
「えー?だって、私女の子だし」
などと本人は言っている。
 
しかし真那はセーラー服姿の星を見て、むしろホッとした気持ちであった。だって、その方が仲良くしやすそうだもん。
 
「星は、男の子の服を着ていると男の子にも見えるけど、女の子の服を着ていると、ふつうに女の子に見えるんだよね〜」
と真那が発言すると、
 
「女の子になりたい男の子?」
という質問が入る。
 
「星は男になったり女になったり、変身するんだよ」
と真那は言った。
 
「何それ〜?」
 
みんなは真那の冗談と思っているようである。
 

まだ新学期早々で、そもそも生徒の顔を全部覚えていない先生も多く、この学校は男女混合名簿であることもあり、「斎藤」と呼ばれて、セーラー服の星が返事するのを、多くの先生が全く気にしなかった。
 
担任の南原先生は、星を生徒相談室に呼び出して、セーラー服を着てきた意図を尋ねたようである。そしてその話し合い内容は伺い知れないもののその後、南原先生は星のセーラー服について特に何も言わなかったので、結局是認されることになったのだろうと真那は思った。
 
真那はセーラー服の星を数日観察していて、どうも星がこういう格好で出てきた意図は「部活の勧誘を断る」のが理由ではないかという気がしてきた。
 
実際、週末に星がバスケの試合でもサッカーの試合でも活躍したという話が広まると、月曜日に野球部でも、柔道部でも、卓球部でも、陸上部でも
 
「斎藤君、うちに入ってくれないかなあ」
「斎藤君、試合だけでも出てくれないかなあ」
という声が出ていたのである。
 
ところがセーラー服を着て学校に出てきた星を見ると、勧誘の声がピタリと停まってしまった。
 
唯一、星に声を掛けたのはサッカー部の佐藤君である。
 
「斎藤さんさぁ、道山先輩の怪我が治ってまたプレイできるようになるのに3ヶ月くらい掛かるみたいなんだよ。それまででもいいから、試合に出てくれないかなあ。こないだの試合で奥田さんにも出てもらったけど、サッカーは男子チームに女子が参加しても構わないんだよ」
 
星が女子かもということで「斎藤さん」と呼びかけている。
 
「そうだね。試合の時だけなら」
「うん、それでいい」
 
ということで、結局、星はサッカー部の試合にだけ出るようにしたのであった。
 

星は体育はどうするのだろう?と思っていたのだが、どうも南原先生とお話した時に、着替えはここを使ってと指定されたようで、1階の多目的トイレを使って着替えて来た。
 
この日の体育は男子対女子でサッカーをしたのだが、友芽(ゆめ)が
 
「斎藤さん女子だよね?」
と言って、星を女子チームの方に引っ張ってきたので、これでなかなか良い勝負になった。
 
女子にもテニス部のリンダとか、バスケ部の友芽とか、結構運動神経の良い子がいる。真那もわりと運動神経は良い方である。それに星が加わったことでハンディとして女子チームに入っている鳴海先生も含めて男子に充分対抗できたのである。
 
最初男子はサッカー部でもある佐藤君が1点取るが、女子もコーナーキックを星が蹴って、それをバスケ部の友芽がきれいにシュートを決める。更に鳴海先生からのパスを星がゴールの隅に蹴り込んで女子は逆転する。
 
その後、星からのパスで真那までゴールを決め、終了間際に葛城君が1点取ったものの、そこまで。3-2で女子が勝った。
 
「斎藤を女子に取られたのが痛かった」
と佐藤君などは言っていた。
 
しかしこの日の授業で星が女子チームに加わったことから、星は他の女子とも打ち解け、休み時間はだいたい女子たちとおしゃべりしているようになる。実際、星は女の子の話題にちゃんと付いてくるので
 
「星ちゃん、充分女の子だね〜」
とみんなから言ってもらっていた。
 
トイレも「星ちゃん、一緒にトイレ行こう」などと他の子から声を掛けてもらって、一緒にトイレに行く。星は列に並びながら明るく他の子とおしゃべりしているので「星ちゃん女子トイレに慣れてるんだね〜」と半分感心したように、半分は呆れているように言う子もあったようである。
 
ともかくも星は女子トイレに受け入れられてしまった。
 

「ねぇ、星ちゃん、女子なんだったら、今週末の女子のバスケの大会に出てくれない?」
と友芽が言った。
 
「土曜日?日曜日?」
「土曜日に4回戦と準々決勝があって、勝ち上がれば日曜日の準決勝と決勝」
「うーん。日曜日の男子サッカーに出るって約束しちゃったしなあ」
 
先週勝ったので今度は3回戦があるのである(1回戦は不戦勝だった)。ちなみに女子のバスケも先週、1回戦不戦勝の後、2回戦と3回戦を勝って今度の週末の4回戦に進出している。
 
「土曜日だけでもいいよ」
と友芽は言う。
「じゃそういうことで」
と星。
 
それで今週末は星は土曜日に女子のバスケに出て、日曜日には男子のサッカーに出ることになったようである。
 
星は何だかためいきをついていたが、運動神経のいい子は勧誘されるよね〜と真那は思っていた。
 

ところが・・・
 
木曜日、星は何だか調子が悪そうであった。
 
「風邪引いちゃったかなあ」
などと言ってマスクをしている。
 
「病院行った?」
と心配そうに泉美が訊く。
 
「行ってない。お父ちゃんがお医者さんだから、薬もらった」
「星ちゃんのお父さんってお医者さん?」
「うん。奈良市の病院に勤めているんだよ。外科だけどね」
「まあ外科でも風邪くらいは診るかもね」
 
「手術で治そうとしたりして」
「風邪の手術って何するのよ〜?」
 

「ああ、うちのお父ちゃん、人の身体を切るのが大好きみたい」
「外科の先生にはそういう人、よくいるよね〜」
 
「星のお父ちゃんって、手とか足とか首とか切ったりするの?」
「首を切ったら死ぬよ!」
「あ、そうか」
 
「むしろ胴体を切るのが専門みたい。胃や腸を切ったり、腎臓を摘出したり、肝臓の癌とかになっている所を切ったり、盲腸とかヘルニアとか前立腺の手術、卵巣や子宮の摘出とか睾丸の摘出、陰茎の切除」
 
「最後の方で凄いもの聞いた気がした」
「性転換手術もするよ」
「じゃ、星、そのうちお父ちゃんに手術してもらう?」
「ああ、性転換したかったら、いつでも手術してあげるよとは言われている」
「ほほぉ」
 
真那はそれって、男から女にするのか、女から男にするのか、どちらなんだろうと疑問を感じた。
 

ともかくもそれで星は学校にも薬を持って来て、飲んでいたようであるが、給食の後で薬を飲んでいた星が、その薬のシートを落としたので、近くの席にいた真那が拾ってあげた。
 
「ありがとう、真那」
と言って星が受け取る。しかしその時、真那は気付いた。
 
「ね、この薬、2018.3.31って印字があるけど大丈夫?」
「え? あれ〜。ちょっと古すぎたかも」
 
現在は2025年4月である。
 
「でもお医者さんしてる、お父さんからもらったんじゃないの?」
 
「そうなんだけど、うちって結構古い薬が転がっていることあるんだよね〜。お母ちゃんが見つけたら捨ててくれるんだけど、お父ちゃん、わりと無頓着で。元気な時なら私も気付いたと思うんだけど」
 
「いや、薬というものは元気でない時に飲むものだ。これ危ないと思うよ」
「だよなあ。帰ったらお父ちゃんに文句言おう」
 

授業が終わった後、スクールバスの時刻まで図書館で待つ。真那も星も本を読みながら、スマホでチャットしつつ待っていた。
 
その時、星にメールが入ったようである。
『友芽ちゃんからか。今日体育館が確保できたんだけど、バスケの練習に出られない?だって?』
と星がひとりごとのようにつぶやいたような気がした。
 
「今日の体調じゃ無理だよね」
と真那が言うと
 
「え!?」
と星は驚いたような声を出した。何だろう?と真那は思ったのだが、そこにまたメールが入ったようである。
 
『今度は佐藤君か。今から1時間くらい校庭がサッカー部で使えるんだけど、来れない?か・・・』
 
と星はまたつぶやくように言った気がした。
 
「サッカー部からもお誘いか。ほんと星、人気だね」
と真那は小さい声で言った。
 
星は少し困惑したような顔をしていたが、やがて真那の顔を見てつぶやいたような気がした。
 
『真那、この声が聞こえる?』
 
「聞こえるけど。あれ?今、星、唇動かさなかったね。腹話術?」
 
『真那、声を出さずに強く“思って”ごらんよ』
 
『へ?思うってどんな感じ?』
と真那は考えたのだが、それが星に『聞こえた』ようである。
 
『うまい、うまい。真那、心の声が使えるんだ?』
『何それ〜?』
『今私たちがしてるような会話だよ』
 
『え?よく分からない。私、声出してないのに、ちゃんと星と会話ができてる』
『いわゆるテレパシーに近いね』
『うっそー!? そんな超能力みたいなのって』
『まあ相手が私だからかもね』
 
と星は優しい微笑みで言った。
 

『でも女子バスケ部と男子サッカー部の両方からお誘い来ちゃったけど、どうしよう?』
『風邪気味なんだし、帰った方がいいと思うけど。あと20分くらいでスクールバスの第1便が出るよ』
 
『そうだなあ』
『身体が3つくらい欲しいかもね』
と真那が言うと
『ほんとほんと。まあ風邪は治そうと思えば自分の力ですぐ治せるんだけどね』
などと星は言っている。
 
『身体は1つなんだから、帰るというのに1票』
と真那は言う。
 
『身体が3つあればかぁ』
と星は言ったのだが、その瞬間、まるで分身の術でもするかのように、星が3つに分かれてしまった。
 
『え〜〜〜!?』
と真那は驚く。
 
『あれ?3つになっちゃった。まあいいや。このまま1人は体育館でバスケ、1人は校庭でサッカー、1人は帰ろう』
などと3人の内、真ん中にいる星が言っている。
 
『じゃ君は男の子になって校庭行ってサッカーしてよ。風邪は治しちゃうね』
「OK」
『君は女子のまま、体育館でバスケね。君も風邪は治しちゃうね』
「いいよ」
 
真那はその“心の声”で話すのが真ん中の星だけだというのを認識した。他の2人は話しかけられてもふつうに耳に聞こえる声で返事している。
 
『私は真那と一緒に帰って家で寝てようかな』
『うっそー』
 
「じゃ、真那、そろそろスクールバスの所に行こ」
「あ、うん」
 
それで星はあと2人の星に手を振って、真那と一緒に図書館を出るとスクールバスの所に行ったのである。
 

真那は夢でも見ているのかと思った。だって・・・・人間が3つに分裂するとかある?? スクールバスに乗った星はごくふつうに、真那と話したり、想良の問いかけに答えたりしている。
 
それで、さっきの分裂のことについては、真那もあまり深くは考えないことにした。
 

真那とセーラー服姿の星が乗ったのがスクールバスの帰宅第1便だが、帰宅第2便には、体操服姿の星が乗っており、バスケ部の友芽たちや、同じくらいにあがった吹奏楽部の子たちとおしゃべりしていた。
 
そして、その頃、理彩は星からの電話を受け、車を脇に停めてスマホを取り出し電話に出た。
 
「お父ちゃん、もう帰った?」
「今帰る途中だけど」
「だったら、中学でぼくを拾ってくれない? 部活してたら、うっかり帰りのスクールバスに乗り遅れちゃって」
「OKOK。あんた何部に入ったんだっけ?」
「どこにもまだ入ってないんだけどね〜。今日はサッカー部の子に試合に出てくれない?とか言われて、一緒に練習してたんだよ」
 
「へー。それ男子サッカー部?女子サッカー部?」
「うちは女子のサッカー部は無いみたい。男子サッカー部だよ」
「ふーん」
 
理彩はなんか怪しい気もしたが、特に深くは考えずに高速を途中で降りると、中学に寄って、学生服姿の星と、チームメイトという葛城君という子も乗せ、彼を自宅まで送り届けた後、自分の家に戻った。葛城君は集落の入口まででいいと言っていたのだが、もう暗くなってきたし変なのが出たら怖いよと言って、ちゃんと自宅まで送り届けた。
 
「女の子じゃないから大丈夫ですよ」
「いや最近は男の子も危ない」
「そうなんですか!?」
 

翌朝、命(めい)が朝御飯を5人分(命・理彩・星・月・まどか:光はおっぱいだけで離乳食はまだ)用意してから、果樹園の巡回に行くのに家を出ようとしていたら、セーラー服を着た星が階段から下りてくる。
 
「お母ちゃん、今出る所?」
「そうだけど」
「よかったら、中学まで乗せてってくれない? 朝練しようというメールが来ていたの、見落としてた」
 
「ありゃ大変だね。御飯食べる時間ある?」
「時間無いから、パン持ってく」
と言って、星は食パンを2枚取ると、ハムとチーズを挟み、各々2つ折りにして、ビニール袋に入れた上でサブバッグに放り込んだ。
 
「でもお前、何部に入ったの?」
「どこにも入ってないんだけどね〜。今日はバスケ部の朝練」
 
それでヴィッツに乗り込んだ。命(めい)が車を出し、中学の方に向かう。
 
「でもお前、入学式の日は学生服で出たのに、やはりセーラー服で通うことにしたの?」
と命(めい)が星に訊く。
 
「お母ちゃんも、セーラー服だったんでしょ?」
「学生服だよぉ」
「でもお父ちゃん(理彩)がこないだそんなこと言ってたよ」
「お父ちゃんは歴史的事実を改変しているなあ」
 

ふたりが出て少ししてから理彩が起きてくる。用意されている焼き魚の数を数えて、命(めい)以外はまだ誰も食べてないなと判断する。
 
「星〜!月〜!学校だよぉ!」
と2階の廊下で響くインターフォンに向かって言う。お味噌汁を温め直している内にパジャマを来た月が出てきて、少し遅れてワイシャツだけ着、学生服を手に持った星が降りてくる。
 
「卵でも焼く?」
と理彩が訊くと
 
「私、目玉焼きがいい」
と月は言い
「ぼくは要らない。納豆食べよう」
と星は言った。
 
それで月の分だけ目玉焼きを焼く。星は納豆を出してきて、混ぜている。
 
「お兄ちゃん、よくそんなの食べるなあ」
などと月は納豆を見て言っている。
「美味しいのに。イソフラボンたっぶりだから、おっぱいも大きくなるよ」
と星。
「うーん。。。おっぱいは大きくしたいな」
と月は悩んでいる。
 

やがて2人は御飯を終えると、各々ランドセル、学生鞄を持って飛び出して行った。理彩はそろそろ来るかなと思い、焼き魚を温め直すとともに、再び目玉焼きを焼いていたら、まどかが到着した。
 
「おっはよー」
「おはようございます。今目玉焼きできますから」
「さんきゅ、さんきゅ」
 
と言って、まどかはテーブルに就く。焼き上がった目玉焼き、レンジで温めていた焼き魚をまどかの前に置く。
 
「なんか納豆の臭いがする」
「星が朝御飯に食べてから出かけたので」
「よくあんなもの食うなあ。あれは人間の食べ物じゃない」
などとまどかは言っている。
 
「まどかさん、東京長かったのに」
「東京暮らしは長いけど、納豆には染まらなかった」
「星は好きみたいですよ。おっばいにもいいしとか言ってましたけど」
 
「あの子、おっぱいかなり大きくなってるよね?」
「みたいですね〜。今の所は男の子として通学しているようですが」
「すぐ我慢できなくなってセーラー服着て通い出すよ」
 
「一応学生服、セーラー服、どちらも用意したんですけどね」
「あの子には女の子の魅力をたくさん教えて、男の娘への道に誘惑しよう」
 

まどかはのんびりとテレビなど見ながら食べているが、理彩はもう出る時刻になったので
 
「先に失礼します。食器はもしよかったらシンクに放り込んでおいて下さい」
と言って出かける。
「OKOK。水に浸けておくよ」
とまどかは言って、テレビの『今日の占い』など見ていた。
 
「土田さんとこの願いを叶えてやるかどうかはこの占いで決めよう」
などと大胆なことを言っている。神様も悩みが多いのだろう。
 
理彩が出かけてからかなりして、星が起きてきた。体操服を着ている。
 
「あんた、まだ行ってなかったの?」
と言いながら、まどかは何か違和感を感じている。
 
「風邪引いちゃって、調子よくないんですよ」
「あんた風邪くらい自分で治せるでしょ?」
「そういうのに神様の力使っちゃいけないと言われているし」
「めんどくさいね〜。じゃ私が治してあげるよ」
 
「あっ・・・」
 
「早く行かないと遅刻だよ」
「ほんとだ! どうしよう?もうスクールバスに間に合わない」
「それも学校に転送してあげるよ。はい、いってらっしゃーい」
 
と言って、まどかは星を学校の校門近くに転送してしまった。その後でまどかは、あれれ?星はさっき納豆を食べて学校に行ったとか、理彩が言ってなかったっけ?と悩んだ。
 

その日最初に教室に入って来たのは、月と一緒にスクールバスで学校に来た、学生服を着た星である。
 
「おはよう」
などと言って教室に入ってくると
 
「あれ?星ちゃん、今日は学生服なの?」
と女子生徒のひとりが驚いたように言う。
 
「なんかこれしか見当たらなかったんだよね〜」
などと言って席に鞄を置き、学生服のまま他の女の子とおしゃべりをしている。
 

一方女子バスケ部の朝練に出た星は、この子たち結構やるじゃんと思っていた。男子バスケ部は、基本がなってない子ばかりだったのだが、こちらはちゃんとまともにプレイできる。部員は7人しか居ないものの、7人全員がちゃんとドリブルができるし、レイアップシュートもきちんと決める。バウンドパスをしっかり取るし、全然別の方角を見ている状態(ノー・ルック)でパスを出しても、きちんとキャッチしてくれる。
 
2年生の佐代はミドルシュートが得意で、制限エリアの外側から半分以上の確率でシュートを決める。この子は筋力付いてきたらスリーを入れるようになるだろうなと星は思った。星は彼女たちと一緒に汗を流していて、結構良い気分であった。
 
朝練が終わった後は、ちゃっかり女子更衣室で一緒に着換える。
 
「星、けっこうおっぱいあるね〜」
などと下着まで交換していた星を見て言う。
 
「そう?でもまだBカップなんだよ」
「中学1年でBカップは充分大きい部類」
「まだブラジャーの着けようもない子だって多いのに」
「ほら、菜香部長なんて、男みたいな胸」
などと好鈴が菜香の胸に後ろから手をやるので
「ちょっと、何すんのよ〜!」
などと菜香は声を挙げていた。
 

それでセーラー服に着替えて教室に戻り
「おはよう」
と星が声を出したら、教室がざわめく。
 
「星!?」
「セーラー服着てる」
 
「じゃ、こちらの学生服を着ている星は?」
 
ふたりの星は手を振り合ったりしている。
 
その2人が並ぶ。
 
「もしかして双子だったの?」
「そうか。元々男の子の星と女の子の星がいたのか」
という声があがる。
 
真那はそのふたりを見て困惑している。やはり分裂していたのか?でもこの先どうなるの?
 

「ねえねえ、男の子の方の斎藤君。君、凄く運動神経いいでしょ?こないだルール分からないと言ってたけど教えるからさ。今度の野球の試合に出てくれない?君ならすぐうまくなると思うよ」
と野球部の子が勧誘する。
 
「斎藤君、なんか気合いとかが凄いよね。こないだの体育のサッカーでも気合いで近寄れなかった。君、あれなら剣道とかもすぐ強くなると思うんだよね。今度の試合に出てくれない?うち4人しか居ないから、5組対戦するうちの1つは自動的に不戦敗になって、不利なんだよ」
 
と剣道部の子が勧誘する。
 
一方、女子の星もたくさん勧誘される。
 
「ねえ、斎藤さん、今度の女子のバレーの試合に出てくれない?」
「あれだけ運動神経よかったらテニスとかもできるよね?今度のテニス大会に出てくれないかなあ。部員が奇数でペアが1つ余っちゃうのよ」
 
などなど星は女の子たちからもたくさん勧誘された。
 
星が学生服を着たりセーラー服を着たりしていたので「本当に女なのか」疑問を感じて勧誘をためらっていたのが、男女の双子ということなら安心して、女子の方を勧誘すればいいということになってしまったのである。
 
それで男の子の星は5人の男子に、女の子の星は6人の女子に勧誘される。
 
「え〜?そんなに勧誘されても、ぼく1人しかいないし」
「え〜?そんなに勧誘されても、私、1人しかいないし」
と双方の星が言っている。
 
そして・・・
 

そこに「遅れた遅れた」と言って体操服を着た星が飛び込んでくる。
 
「うっそー!?」
「三つ子だったの!?」
とみんなの声。
 
そしてそこに担任の南原先生が入って来た。
 
「はい、朝礼を始めるよ。遅くなってごめん。朝から用事がたくさんあって。身体が5つくらい欲しいよ」
などと言って、教壇に就くのだが、
 
3人の星は先生の言葉にお互い顔を見合わせる。
 
「そうか」
「男の子5人と、女の子6人くらい居たら、何とかならない?」
「あ、それはいい手」
 
などと言ったかと思うと、いきなり学生服を着た星が5人に、セーラー服を着た星が6人に増えた。
 
「きゃー!?」
という声があがる。
 

南原先生も異変に気付き、寄ってくる。
 
「き、君たちは何!?」
と言ったまま絶句している。
 
同じ顔をした人物が、全部で12人(体操服の1人を含む)も並んでいる。
 
「何なの〜?これ」
と多数の声があがる。
 
「このくらいいたら、誘われた全部の部に行けるかな?」
などと星たちは話している。
 
「で、誰が何部に行く?」
「あんたバレーしたら?」
「君、剣道に行きなよ」
「待って。誘われたのは女子バレーだから、ぼくは行けない」
 
などとがやがやと星同士で話している。周囲の人は呆気にとられている。
 

真那はため息をついた。
 
ガタンとわざと大きな音を立てて立ち上がり、つかつかと傍に寄る。
 
「星も全く悪戯(いたづら)の度がすぎる」
と大きな声で言う。
 
「悪戯(いたづら)なの〜?」
と周囲の声。
 
「これ手品なんだよね〜」
と真那。
 
「手品!?」
「イリュージョンね」
「嘘!?」
 
「星ったら、教室でこういうのやったら、みんな驚くじゃん。この中の11人は偽物のホログラフィー。本物は1人」
と真那は言った。
 
「ホログラフィ!?」
「いつの間にそんな装置を」
 
「どれが本物?」
と先生も戸惑いながら見ている。
 
「みんなおんなじ顔してる。これじゃ、本物も偽物も分からないよ」
「でも私は本物分かるよ」
「どうやって見分けるの〜?」
 
「今から私がキスする人が本物」
と真那。
 
そして『星』と心の中で呼びかけた。12人の星の中の1人だけが『何?真那』と返事した。
 
「星、ちゃんと1人に戻りなさい」
と言って、真那はセーラー服を着た星の1人にハグするようにして、その唇にキスした。
 
すると他の11人が消えて、真那がキスしたセーラー服の星だけが残った。
 

「この子が本物」
と真那は笑顔で言った。
 
しかしそのことより、女子たちからも男子たちからも声があがる。
 
「キスした!」
 
「これってあれ?」
と真那の親友の想良が言う。
 
「魔法に掛かった王子様に、愛するお姫様がキスしたら魔法が解けるってやつ?」
 
「それに近いかもね〜」
と真那。
 
「じゃ愛してるの?」
 
「そうだなあ。こないだ落ちて大怪我する所を助けてもらったし、恋人になってもいいよ」
「女の子同士で?」
「私は構わないけど」
と真那は大胆に言う。
 
「すごーい!」
「レスビアン!?」
 

「いや斎藤さんは男の子だという疑惑もあるから、男の子であれば普通の組合せだよ。奥田さんが女の子であるなら」
と吉野君が言っている。
 
「真那、女の子だっけ?」
「とりあえずちんちん付いてないし、生理あるし、たぶん女の子」
 
「じゃカップル成立?」
 
すると星が照れるようにして言った。
 
「私も真那のこと好きだけど、取り敢えずお友達ということでいい?」
「うん。いいよ」
と真那は微笑んで答えた。
 

昼休みに星(結局セーラー服である)と真那は校舎横の芝生の所に座って話した。ふたりが並んで座っているので、教室の窓から見てなにやら話している子たちもいる。
 
「古くなっていた風邪薬の副作用だと思う。自分でも分裂してびっくりした」
「でも分裂した1人1人の記憶と意識もちゃんとあるんでしょ?」
「よく分かるね」
 
「ずっと考えていたんだよね。こないだ私を助けてくれた時も、私の落下のしかた異様だった。たった4mくらいの距離を落ちるのに、あんなに時間が掛かる訳ない。h=(1/2)gt2 つまり h=4.9t2 だから t=√(4/4.9)=√0.81=0.9 でもあの時は0.9秒どころか3〜4秒時間があった」
 
「ああいう時って、凄く長く感じるものだよ。人生が走馬燈のように思い起こされるなんて言うじゃん」
「走馬燈は死ぬ時だよ!」
「うふふ」
 
「そもそも抱き留められてすぐに想良が私を覗き込んだ。あの子は階段を降りてきたのに。それに星に抱き留められる前に身体がクッションで抱き留められる感じになって停止した。そのあと星が受け止めてくれたから、私衝撃が全く無かった」
 
「ふーん」
 
「だからあれって星が私を空中停止させてくれたんだと思う。その上で合理的な説明が付くように星は抱き留めてくれた」
「真那って想像力が豊かだね。そんなこと起こりえないよ」
「星にならできると思う」
「僕、魔法使いでもないし」
 
「うん。魔法使いでもない。超能力者でもない。星はそういう類いのものではない。それに星って性別が自由自在じゃん。だから星って、もしかして・・・・」
 
と真那が何かを言おうとしたら、星は真那の唇に自分の右手人差し指を立てた状態で当てて停めた。
 
(教室の窓からふたりを見ている子たちは「間接キスだ!」と騒いでいた)
 
「その単語は、ここでは言わないで」
「うん。言ってはいけない気もした」
 
それでふたりは微笑んで握手した。
 
真那はここはキスじゃないのかなあと思ったものの、あまりキスする勇気がないので(さっきはそれしか手段が無いからキスしたけど)、握手で妥協した。
 

「でも部活どうしよう?」
と星は本当に困ったように自問する。
 
「ごめんねー。私がよけいなこと言っちゃったから」
「いや、どうせ体育の授業に出たらバレることだったから」
 
「どこか1つに入ってしまえばいいと思う。そしたら、○○部に入っているからと言って、他の勧誘を断れるよ」
と真那は言った。
 
「そっかー」
「今関わっている男子サッカー部か女子バスケ部かに入っちゃったら?」
「それもいいかなあ。じゃ、女子バスケ部にしよう」
「ふーん。男の子なのに女子バスケ部に入るの?」
「だって男の子ということにしたら、男子サッカー部にしか出られないけど、女の子ということにしておいたら、どちらも出られるでしょ?」
 
「じゃ、女の子を基本にするんだ? でも星って男の子が7くらいで女の子が3くらいじゃない?」
「よく観察してるね〜。実はそのあたりに近いと思う。ぼく本当は女装好きの男の子なんだよ。でも女の子たちとガールズトークするのは純粋に好き」
 
「そうみたいね。だから、服装も学生服でもいいんじゃない?」
「そうだなあ。部活勧誘問題が決着したらそれでもいいかも」
 
「学生服を着てても、女の子たちは星とおしゃべりしてくれるよ」
「それは感じた」
 

それで結局、星は女子バスケ部に入部届を出して、正式に女子バスケ部員になった。バスケ協会にも早急に登録することにした。
 
男子バスケ部の馬場君が
 
「斎藤君、女子の方に入るの〜?」
と言ったが、
「ごめんね〜。なりゆきで」
などと星は言っていた。
 
実際、弱すぎる男子バスケ部では星もやる気が起きないだろうが、そこそこのプレイをする女子バスケ部なら、けっこう星も気合いが入るだろう。星が女子バスケ部に入ったついでに、真那は女子バスケ部のマネージャーをしないかと誘われた。
 
「スコアの付け方が難しそう」
「あ、それは私が教えるよ」
と友芽が言った。
 
「真那ちゃんもバスケ協会に登録していい?」
「うん。まあいいよ」
 
ということで、ついでに真那まで名前をバスケ協会に登録しておくことになった。真那はてっきりマネージャーとしての登録と思ったのだが、あとで会員証をもらったら、選手として登録されていた!
 

土曜日。バスケ大会の4回戦と準々決勝が行われる(先週1〜3回戦が行われた。但し1回戦は3つしか行われなかった。参加校が67(=64+3)校だったためである)。
 
星と真那は、真那のお母さんの運転する車で、大会が行われる天理市まで行った。友芽と麻季も乗って5人乗りであった。
 
それで大会が始まる前に練習していたら、事務局の人から、部長の菜香と星が呼ばれた。別室に入る。
 
「斎藤星さんって、先週、男子の方に出ていませんでした?」
「すみませーん。頭数が足りないので、顔貸してと言われて出たんですよ」
「あなたは男性ですか?女性ですか?」
「女です」
と星がごく平常な顔で言い切るので、菜香は内心「ほほぉ」と思った。星は実際女の子の声に聞こえるような声で話しているので疑義はもたれないのではないかと思った。
 
「女子なのに男子の試合に出たんですか?」
「いけませんでした?申し訳ありません」
 
「一応女子は男子の試合に出てもいいことにはしているのですが、ひとりの選手が複数のチームに所属してはいけないことになっているんですけど。あなた、バスケ協会への登録は男子チーム?女子チーム?」
 
「すみません。現在女子バスケチームに登録申請中で、まだ会員証来ていませんけど、これ一応彼女のidです」
と菜香が言って登録番号の控えを見せる。
 
「id番号が女子の番号ですね。1年生?」
「はい、そうです」
 
「それでは斎藤さんが女子チームに登録されるのであれば、女子の試合にだけ参加するということでいいですか?」
「はい」
「では先週の男子チームの試合は登録されていない選手を出したということで失格扱いにしますけど」
 
「仕方ないですね。どっちみち負けましたし」
「そうですね。本来なら20-0で負けという形にするのですが、既に90-18という試合結果が確定しているので今回はそのままにしますが、今度からは気をつけてください」
 
「はい。申し訳ありませんでした」
 
と菜香と星は一緒に頭を下げた。
 
「あ、そうそう。斎藤さんが女性であるというのを何か確認する書類とかありますか?」
 
「えっと・・・保険証でいいですか?」
と星は言った。
 
「いいですよ」
「こちらです」
と言って、星はバッグの中から保険証を出して事務局の人に見せた。
 
「確かに女と印刷されていますね。ありがとうございました。確認しました」
と言って、事務局の人は保険証を返してくれた。
 
「まあ、実際この子、おっぱいも大きいし、男の訳ないですよね」
と菜香は言う。
 
「確かにですね」
と事務局の人も笑って言った。
 

そういう訳で、性別疑惑(?)も晴れて星は女子選手として通すことになってしまったのだが、チームの所に帰る途中、菜香から聞かれた。
 
「星ちゃん、本当に女の子だったのね」
「今はですね〜。バスケの試合やる時はちゃんと女の子にしておきます」
 
菜香は首をひねる。
「でも保険証も女になっていたし」
「ああ。どっちの保険証も持ってますよ」
 
と言って、星は2つの保険証を出してみせた。
 
「男になっているのと女になっているのとがある」
「私の性別が不安定なので、トラブルを避けるために、うちの父が保険証を2つ作ってくれたんですよ。実際、私自分でも意識しない内にいつの間にか性別が変わっていることもあるんですよね〜」
 
「何それ〜?」
 

午前中に行われた4回戦ではE中学は桜井市内の中学と接戦の末6点差で勝利した。星はこの試合でスリーを3本も入れて勝利に貢献した。これでE中学はベスト8に進出した。
 
真那が悩んでいる。
 
「どうしたの?」
「スコア上の得点を数えても合計点数と一致しない」
 
「ああ、それはよくあること」
と好鈴。
 
「スコア付けている間に次の点数が入ったりするし」
「2ポイントと3ポイントの聞き違いとかもあるし」
「だからこそ公式記録はスコアラーとアシスタント・スコアラーの2人がかり。1人で全部把握するのは無理」
 
「慣れれば“あまり”ズレなくなるよ」
などと佐代は言っている。
 
しかし勝ったので楽しい気分でおしゃべりしながらお昼を食べた。
 
午後3時から準々決勝が行われたが、相手は橿原市内の中学であった。昨年の夏の大会で準優勝しているチームである。
 
「明日もここに来るぞ!」
と気勢を上げてから出て行ったものの、実力差を見せつけられる。結局15点差で敗れた。
 
「ああ、最初は結構行けるかなと思ったんだけどなあ」
「まあまた頑張ろう」
 

翌日は星のお父さん(理彩)が車を出してくれてそれに乗り、男子サッカーの3回戦が行われる御所市まで行った(行程の大半は自動運転だったのでこれもちょっと面白かった)。今日は先週休んでいた金田君が出てきていて、ちゃんと11人いるので、真那は選手としては出なくて済んだ。
 
試合はお互いなかなか点が取れない状況で進み、このままだとPK戦か(この大会では延長は行わずに引き分けになったらPK戦ということになっている)とも思われていた後半44分。相手コーナーキックから向こうの11番を着けていた選手がヘディングでゴール。
 
このまま試合終了。1-0で敗れた。
 
「ああ。惜しかったなあ」
「また夏の大会で頑張ろう」
 
「ね、ね、斎藤君。春の大会はわりとアバウトなんだけど、夏の大会はidカードのチェックがあるんだよね。斎藤君の名前、選手登録しておいていい?」
 
「うーん。まあいいよ」
「性別はどうする?」
「どっちでもいいよー」
 
「奥田さん、奥田さんも念のため選手登録させてもらえない?」
「え〜!?」
「だって奥田さん、けっこう運動神経いいんだもん」
「んじゃまあ登録するだけなら」
 
「性別はどうする?」
「私は女でお願いします」
と真那は答えた。
 
すると部長の元原君が言った。
「奥田さんを女子として登録するなら、斎藤君も女子にしておいていい?そしたら、遠征とかする時、女子同士まとめて扱えて便利」
「うんいいよ」
 
この問題では数ヶ月後に真那は思わぬ事態に遭遇して焦ることになる。
 
ともかくもそういう訳で、星は女子バスケ部にも男子サッカー部にも女子として登録されてしまったのである。
 

5月中旬の土曜日、星が「うちに遊びに来ない?」と誘ったので、真那は行ってみた。真那の母も
 
「うん。行ってらっしゃい」
と気軽に送り出してくれた。
 
お母ちゃんは星のこと女の子と思っているだろうしね〜と真那は思う。
 

星の家は築後70-80年経ってそうな古い民家である。斜面に立っているのでこの地域特有の、横長の構造だ。但し2階を持つので部屋数が多い。1階に台所の他に5部屋(客間・居間・座敷・書斎・奥)、2階にも4部屋ある。
 
客間は本当に応接用で、しばしばお母さん(命)が職場の人や取引先の人を連れて来て接待しているらしい。
 
居間が家族や友人との団欒の間、座敷はお父さん(理彩)の居場所、書斎はお母さん(命)の仕事用スペースで物凄い量の本棚が置かれている。そして入居前に増築して作られたという真新しい奥の部屋には大きな祭壇が作られていて、いつも奉納の品が置かれていて朝晩祝詞をあげるのだと言っていた。
 

 
 
なお、理彩の部屋には現在、光のベビーベッドが置かれ、日中光を世話するのに、理彩のお母さんか命(めい)のお母さんがよく来ているという。
 
2階の4つの部屋は客間・居間・座敷・書斎の真上に配置されている。つまり1階の奥の部屋の上は何もなくて屋根である。2階の4つの部屋の中でいちばん奥にある部屋を星、その次の部屋を月が使っている。要するに理彩のいる部屋の上が理彩の子供である月、命(めい)のいる部屋の上が命(めい)の子供である星の部屋なのである。実は月の部屋からハシゴ!で理彩の部屋に降りることもできる。あと2つの部屋は現在は未使用である。
 

「広い家だね〜」
と真那は言った。
 
「元は1階と2階を別の家族が使っていたらしい。今兄妹3人だけど、たぶんあと1人できると思うんだよね。だから8部屋ある家を買うといいよとお母ちゃんに勧めた」
と星は言う。
 
「星が言うんだったら、実際あと1人できるんだろうね〜」
 
「お母ちゃんは今は男の人だけど、その内完全な女の人に変えてあげようと思っているんだよね〜。だって、ぼくにとってお母さんだもん。お母さんは女の人であってほしいから」
 
「それお母さん自身の意志は?」
「本人はけっこう揺れている気がする。でもぼくの希望」
 
「星ってわりとわがままだよね」
「よく言われる」
 

「でも今『ぼく』って言っているよね。今は男の子なの?」
と真那は訊いた。
 
「真那だから見せてあげる」
と言って、いきなり星はズボンとトランクスを脱いでしまう。
 
「ちょっとぉ!」
と真那は抗議する(逃げるべきかと一瞬悩んだ)が、否が応にも、お股にある男の子の器官が目に入る。男の兄弟が居ない真那は、こんなのをまともに見るのは、小さい頃、お父ちゃんのを見た時以来だ。真那の父は真那が小学校に入った頃から、決して真那の前でこの付近を見せることがなくなった。たぶん母に注意されたのだろうと思う。
 
「必要だから見せた。触ってみて欲しいんだよね。ちゃんとお風呂に入って洗っておいたから」
と言って星は真那の手を取って、それに触らせる。
 
うっそー!? こんなのに触るなんて!!!
 
「柔らかいね」
 
と真那はドキドキしながらも、少し意外な気がして言った。そして、これ・・・・小さいよね?と思う。とてもそんなこと言えないけど。たぶんこれ、小学1〜2年生くらいの子のおちんちんのサイズという気がした。
 
「ぼくの男性機能は封印されている。だからこれふつうの男の子みたいに大きくなったりしないし、実は感覚自体ほとんど無いんだよ。大きなイボみたいなもの。そもそもこれサイズも小さいでしょ?」
 
「いや、実はそう思った」
「多分3〜4歳くらいの子供のサイズ」
「へー!」
「だから実はこれが付いている状態でも女の子パンティ穿くと、股間に膨らみが無くて女の子の股間に見える」
「あのねぇ・・・」
 
「ぼくたちは120歳になった時、その年に村の祈年祭で踊った子と“神婚”をして、その人に次の世代の神様を産んでもらう。男性機能はその時だけ使えるんだよ」
 
「祈年祭、再来年くらいに私踊るかも。私も星と結婚するの?」
「今の神様は、以前会ったまどかさんだよ」
「あの人が!」
「それに神婚するのは壬辰の年だけ。次は2072年」
「それなら、私たちの子供か孫くらいの時代か」
「そんな感じだと思う。その時に、まどかさんが神婚をする。ぼくが神婚をするのは、2132年」
「私生きてないと思う」
「ぼくたちの種族はだいたい400-500年生きる人が多い。長生きの人は1000年くらい生きる。でも力を使いすぎて200年も経たない内に消滅する人もある」
「個人差があるんだろうね」
 

「ただ・・・」
「ただ?」
「祈年祭で踊った後って、卵子が活性化するから、その後1年くらいは妊娠しやすい状態が続く。その間にボーイフレンドとセックスするとかなりの確率で妊娠する」
 
「あははは」
と言ってから真那は星のおちんちんを見ながら小さい声で言う。
 
「実は私、セックスってよく分かってないんだけど」
 
なんか男の人と女の人が抱き合って・・・と思うのだが、具体的なイメージがつかめない。
 
「まあその内分かると思うよ〜」
と星は笑顔で言った。
 

「じゃ女の子に変わるね」
と星が言うと、一瞬にして星のお股にあった男の子のものは消えて、そこには薄い毛に覆われた女の子の器官が出現した。
 
「すごーい」
「おっぱいも出来たよ」
「どれどれ」
と言って、真那は星の胸に触って確認した。女の子の身体に触るのは真那としても平気だ。これまでの緊張が一気に解ける気がした。
 
「女の子になった時だけおっぱいがあるんだね」
「男の子におっぱいがあっても困るし」
「確かに確かに」
 
「性別を変えると心理的にもかなり変わるんだよ」
「男の子の星と女の子の星はけっこう雰囲気も違うよ」
と真那は言った。
 
星は最初トレーナーにジーンズのパンツだったのだが、女の子に変わるとロングスカートを穿いた。下着も女の子パンティとブラジャーを着けた。
 
「男の子の服を着ている時は中身も男の子で、女の子の服を着ている時は中身も女の子?」
「うん。だいたいそんな感じ。まあ男の子の身体でスカート穿いてる時もあるけど。男の子の時も私、結構スカート好きだし」
 
「ふーん。まあ男の子でスカート穿く子も時々いるよね」
「でも真那なら雰囲気で区別付くでしょ?」
 
「区別付くような気がする」
 

その日は星が女の子になってしまったので、一緒にクッキーを作り、お茶など入れて飲みながらおしゃべりをしていた。真那はやっぱり女の子の星のほうが付き合いやすい気がするなぁと思う。
 
お昼は光のお世話で来ている理彩の母・眞穂(57)がスパゲティを作ってくれて一緒に食べた。(この日、理彩は病院でお仕事。命(めい)も果樹園の仕事で、月は命(めい)に付いて行っていたらしい)
 
「親戚でもあるし、いつでも遠慮無く来てくださいね〜」
と眞穂は笑顔で言っている。
 
「私のお父さんとお母さんは、大学生時代に私と月を産んだから、私と月は赤ちゃんの頃は、日中、眞穂お祖母ちゃんと淑子お祖母ちゃんに面倒を見てもらっていたんだよ。今は同じ方式で光の世話をしてくれている」
と星は言う。
 
「うん。淑子さんと2人で交替で大阪に出てはこの子たちの面倒を見てたのよね。まあ半分は都会に出られるのが楽しかったけどね」
「ああ」
 
「冷凍しているお乳を解凍して飲ませたり、おむつ替えたり、色々遊んであげたり。まあ孫の世話って、責任感が希薄な分、純粋に楽しい」
「そう言いますよね〜」
 
「私のお股見て悩んでいたとか言ってたよね」
と星が言うので、眞穗は一瞬、それ言っていいのかと考えたような気がしたが、どうも構わないようだと判断したようである。
 
「そうなのよ。星ったら、おしめ替える度(たび)に男の子のお股だったり女の子のお股だったりするんだもん。最初の頃は『え〜!?』と思ったけど、そのうち慣れた。むしろ『今は男の子かな?女の子かな?』と予測しながらおしめ外したりしてた」
 
「予想、当たりました?」
「全然。むしろ外れることの方が多いような気がしてた」
「確率2分の1のはずなのに」
「なのよね〜。わざとこちらの予想と逆の性別にしてるんじゃないかという気もしたよ」
と眞穗は笑顔で言っていた。
 
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【神様との生活・真那編】(2)