【女たちの親子関係】(2)

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披露宴が終わった所で、阿倍子の母は彼氏と一緒に名古屋に帰っていった。
 
30分の休憩をはさんで二次会をしたのだが、これには桃香も早月・由美と一緒に出席するし京平も出席する。晴安の3人の子供も出席する。そして晴安の(女性の)友人も3人出席したのだが、彼女たちに唆されて晴安は青いウェディングドレス(ちゃんと用意してあった)を着せられ、白いウェディングドレスの阿倍子と並んだところを記念写真を撮られていた。桃香は晴安に女装趣味?があるとは知らなかったので仰天していたが、持って来ていたルミックスで写真を撮っていた。
 
その後、阿倍子は普段着に着替え、晴安も普通の女物の服!を着て、二次会は始まった。
 
京平は女装の晴安を見て
「ハルちゃんきれいだよ」
と言ってあげて、晴安は照れていた。
 
「ありがとう。京平もスカート姿可愛いよ」
「えへへ」
 
しかし二次会で京平がスカート穿いてたら、賢太と仲良く話してた!何なんだ?この2人!?
 

京平との生活が始まってから、京平は結構早月と由美の面倒を見てくれた。早月の遊び相手になってやっているし、ひらがな・カタカナが読めるので絵本を読んであげたりもしている。でもおやつの取り合いで喧嘩したりもする。
 
また由美のおむつを替えてくれたりもしていたが、由美のおむつを替えてあげていると、当然見ることになる「女の子のお股」にも興味津々な様子である。
 
「この割れ目の中におしっこでてくる所あるの?」
「そうだよ。でもあまりじろじろ見るもんじゃないよ。京平だって女の子におちんちん、じろじろ見られたくないでしょ?」
「見られたくなーい!」
「だったら、あまり見ないようにね」
「でも目を瞑ってはおしめ替えられないよ」
「あまりじろじろとは見なきゃいいんだよ」
「そっかー」
 
「でも、うんこしてた時に、割れ目ちゃんにうんこが少し付いてたりしたら、それは取ってあげてね」
「うん、その時は、割れ目ちゃん、開けてもいいの?」
「開けていいけど優しくね。京平がおちんちん触られるのと同じくらい感じるから、荒々しくは触られたくないでしょ?」
「うん。ボク優しく開けてあげるよ」
 
優しく開けるんじゃなくて、優しく拭くのだけどと思ったが、まあいいかと思った。
 

2020年7月4日(土)は信次の三回忌であった。
 
法要は一周忌の法要と同じくお寺でおこなった。コロナの問題もあるので、ごくごく身内だけでおこなった。出席したのは、康子、千里&由美、太一、波留&幸祐の6人だけである。高岡に住む優子には
「危険だから移動しない方がいい」
と告げた。亜矢芽(太一の元妻)にも、
「人数が多くなるのはヤバいから」
と言って、出席は無用と伝えた。
 
由美と幸祐の“名前問題”では太一が
 
「それホントに男と女で良かったな」
とあらためて言っていた。
 
「全く全く。同性だったら同名になってる所だった」
「万一の時は性転換させて」
「どちらを性転換させるかはじゃんけんかな」。
 

お坊さんの読経がおこなわれ、その後、風通しの良い部屋で、“充分な距離”を空けた状態で、お互いに近況報告や世間話などをした。むろん全員マスクをしているし、エアコンはかけずに、窓を開けて扇風機を掛けている。
 
普通は故人の想い出を語り合う所なのだが、困ったことに喪主の千里にしても兄の太一や母の康子にしても、信次との想い出がほとんど無い。結局この三回忌では羽留が最も多く信次のことを語り、
 
「あの子、そんなことしてたんだ!」
と母の康子が驚く場面もあった。
 
康子は
「七回忌は多分しないと思う。やるとしても仏檀にお花とか供えるだけ」
と言った。つまり今回の三回忌で実質打ち上げにする。
 
実際問題として七回忌に出席可能なのは康子と太一・由美・幸祐・奏音の5人くらいだろうなと千里は思った。自分は間違いなく出席できない。少なくとも喪主にはなれない。羽留や優子も4年後までには新たなパートナーを見つけている気がした。
 
太一が亜矢芽の再婚を報告した。
 
「へー。再婚したんですか?」
「うん。実は妊娠中なんだよ。翔和の妹か弟が来年お目見え予定」
「おめでとうございます!」
「まあ俺は関係ないけどね」
と太一は言ってから、
 
「千里さんも今、子供3人いるよね?」
と確認する。できるだけ集まる人数を減らすという観点から京平と早月は今日は連れてきていない。由美だけは信次の子供なので連れてきている。
 
「うん。由美と早月には去年も会ってるかな?その後、ふたりのお兄ちゃんの京平が加わったんだよ」
「へー、もしかして、子連れ再婚?」
と羽留が尋ねる。
 
「いや何というかちょっと複雑で」
と千里がどう説明していいか悩んでいたら
 
「そもそも川島家は複雑すぎる」
と太一が言った。
 
「うん。私も時々訳が分からなくなる」
と康子まで言った。
 
「信次さんの純粋な遺族って、由美と幸祐ちゃんと奏音ちゃんにお母さんだけかも」
と千里は言う。
 
「私も三百箇日が来たところで信次の妻を辞めてしまったし」
 
「あ、籍を抜いたんだっけ?」
と羽留。
「まだ抜いてない。でも霊的に切れてしまった」
と千里。
 
「なんか良く分からないけど、信次との関わりを切らないと仕事に復帰できなかったと言ってたね」
と康子が言うと
 
「あ、何となく分かる」
と羽留も言った。今羽留は週に3回パートに出ているらしいが、パートに出始めた頃から、信次のことをやっと思い切ることができたらしい。
 
「でも千里さんも俺と信次の関係、知ってるよね?」
と太一が言う。
 
「信次と結婚していた当時は気付いていなかった。でも今は分かるよ」
と千里。
 
「ん?」
と羽留が訊く。
 
「太一さんと信次は全く血が繋がってないんだ」
と千里。
 
「え?そうなんですか?」
と羽留は驚いている。
 
「信次は康子さんと亡くなったお父さんとの間の子供だけど、太一さんはそのお父さんが別の愛人に生ませた子。でも実は他の男性のタネ」
 
「今一瞬意味が分からなかった」
と羽留が言うので、太一が図に描いてみせて、やっと羽留も納得したようだ。
 
「前の奥さんは戸籍上は太一さんと信次を産んだことになってるけど、本当はどちらの母親でもないんだよね」
と千里が言うと
 
「なんか複雑ですね」
と羽留も言っていた。
 
「藁の上からの養子ってのですか?」
 
「それそれ。だから俺は実はこの家の相続権がない。母さんが亡くなった後は、遺産は由美、幸祐、奏音の3人で分けてくれ」
と太一が言うと
 
「勝手に殺さないでくれ。私はコロナを生き抜くからね」
と康子は不快そうに言った。
 
「ほんとに川島家は複雑すぎるよ。彼や信次の結婚式の時は親族水増しして義理の親族のそのまた義理の親族みたいなのまで呼んだけど、本当の親戚は母さんの兄さんの成政さんくらいなんだよ」
と太一は言った。
 

話ながら食べるのは良くないということで、いったん会話を中断して台所に移動して仕出しを無言で食べたあと、また仏間に戻って少し会話をした。むろん全員またマスクをしている。
 
「ああ、お母さん、運転免許取ったんですか?」
と羽留が言う。
 
「先月取ったばかり。五十の手習いで頑張ったよ」
と言って、康子はグリーンの帯の入った運転免許証を見せる。
 
「まだ若葉マークだけど、車何買おうかと悩んでいるんだよね。キューブもいいなあ、ブーンもいいなあ、スイフトもいいなあと」
「コンパクトカー狙いですか」
 
「軽も試乗してみたけど、150で走ろうとするとエンジンが変な音立てて」
「お母さん、日本の道路に150出してよい道は無いはずです」
 

「でも引っ越してから買おうかなと思って。あれ違う県に移動する時は手続きが面倒みたいだから」
「お母さん、引っ越すんですか?」
 
「実はこの家の場所に新しい道路通すらしくて、結果的には立ち退かないといけないんですよ」
と康子は言った。
 
「そういうのは、やっかいですね」
と羽留。
 

「すみません。だったら、私がこの家に置きっぱなしにしてる和服、引き上げますから」
と千里。
 
「ああ、少し広い所に引っ越したんだったね」
 
「今までの1Kでは収納不能だったから、ついこちらに置かせてもらっていたんですけどね」
 
(本当はこの家があまりにも良くない場所に建っているので雑霊が寄ってこないように、千里の気配がある和服をわざとここに置いていたのである。また千里は眷属たちに命じて定期的に“クリーニング”をさせている)
 
「でもお母さん、どこに引っ越すんですか?」
と羽留が訊く。
 
「今考えているのは、桶川なんだけどね」
「へー!」
 
「実は私が生まれた土地なんだよ。もう生まれた家とかは残ってなくて今はスーパーが建ってるけど」
 
「桶川ならうちと近くですね」
と千里(浦和)。
 
「亜矢芽の住んでいる所とも近い」
と太一。亜矢芽は新しい夫と一緒に、今熊谷市に住んでいる。
 
「もしかして、由美の住んでる浦和と翔和の住んでる熊谷のちょうど真ん中に住もうという魂胆なのでは?」
と太一が指摘する。
 
「うふふ。亜矢芽さんの旦那さんが優しい人で良かったわ」
と康子は言う。
 
「桶川なら、うちにも近い」
と羽留。
 
確かに桶川なら、波留と幸祐の住んでいる久喜にも近いなと千里は思った。
 
桶川から久喜までは圏央道ですぐだ。免許を取ったのも、幸祐に会いに行くのが目的ではないかという気がした。3人の孫の中で、実際問題として康子がいちばん気兼ねなく会いに行けるのは幸祐のようである。しかし、桶川からは、翔和のいる熊谷と由美のいる浦和へは高崎線で20分、幸祐のいる久喜へも圏央道で20分で行ける。孫たちに会いに行くための場所として最高のロケーションである。
 
「家も買うんですか?」
「うん。マンション買おうかと思ってる。ここを立ち退くのにもらう補償金で」
「一戸建てはやはり年取るとメンテが辛いですよね」
「そうなんだよねー。若い人が一緒に住んでくれてたら何とかなるんだけど」
 
「すみませーん」と千里。
「ごめーん」と太一。
 
「太一、保証人にだけなってくれない?年寄りひとりで保証人が無いと契約してくれないんだよ」
「うん。それはOK。契約する時呼んで」
 
しかし信次との想い出がまた1つ消えてしまうんだなと千里は思った。
 

法要が終わった後、帰ろうとしていた時、太一が千里の乗ってきたセリナを見て言った。
 
「千里さんの車、チャイルドシートが3つも取り付けてある!」
 
「あと1人までは増えても大丈夫かな」
と千里。
「それ以上増えたらマイクロバスが必要かもね」
と康子。
「これ以上増えたら、私はもう保母さんですね」
と千里は面白そうに言った。
 

 
青葉が仕事で東京に出て来たので、こちら(浦和のマンション)にも顔を出してくれた。
 
早月と由美は、青葉と昨年随分一緒だったので、結構じゃれついていたが、京平がもじもじしているので
 
「京平君、こんにちはー。久しぶりだね」
と声を掛ける。
 
「青葉おばちゃん、こんにちは」
と京平も挨拶したが、少し怖がっている感じ?
 
「だいじょうぶだよ。取って食ったりはしないから。京平君、稲荷寿司とか大好きでしょ?」
 
「うん。ボク大好き!」
 
「京平が来てから週に1回は稲荷寿司作ってるよな」
と桃香が言うと、千里は優しく微笑んでいた。
 

「でもこのマンション凄いね」
と青葉は言った。
 
「何が凄いの?」
と桃香が訊くと
「絶妙な風水バランスの場所に建っている」
という。
 
「ほほぉ、さすが千里が選んだだけのことはある」
「地震とかで危険な断層からも離れているし」
 
「そういうの私、全然分からないなあ」
と千里が言うと
「ちー姉、素人を装うのは今更やめようよ」
などと青葉は言った。
 
千里も笑っている。
 

「でもまあ、千葉の川島家は風水ひどかったね」
と千里は言う。
 
「あ、そうなの?」
と桃香。
 
「桶川の新しいマンションは風水良好だよ」
「千里、お母さんのマンション選びに付き合ってたね」
「うん。お母さんの運気、きっと上がる」
「ほほぉ」
 
「私も気付いたのは去年の夏頃なんだけどね。あそこは、川のカーブの内側、T字路の正面、周囲から1段低い土地、玄関の真正面に電波塔があった。あんなに悪い土地を見つけるのも難しい。霊道は通ってなかったけどね」
と千里は言ったが
 
「霊道は通ってたんだよ。私が最初にあの家に行った時に気付いて動かした」
と青葉が言う。
 
「あ、そうだったんだ!」
「当時は千里は霊感を失っていたから気付かなかったんだな」
 
「なんかお母さんも、言ってたんだよねぇ。あの家に居るとなんか落ち着かないから、それで厳蔵さんと結婚した後、それまで行ったこともなかったカルチャースクールとか行くようになったって、華道と着付けの免許まで取って。お陰で今はお花の先生で食べて行ってるんだけど」
 
「あの家は厳蔵さんが買ったの?」
「そうそう。1985年頃に600万円で買ったらしい」
「あんな市内なのに?」
「有り得ない!」
 
「今思えば前の奥さんが息子2人を虐待するようになったのも土地のせいだったかも知れない気もするんだよ。ああいう土地は人の神経をおかしくするんだよね。それに源蔵さん、ブラックマンデーの時、株で数億円失って、その後、会社もうまくいかなくなって倒産したというし」
 
「数億円の資産を持っていたのに、そんな異様に安い土地を買うのは問題がある」
「何でも安ければいいという人だったらしいよ」
 
「うっ」
と桃香がギクッとしたような声を挙げる。
 
「桃姉とちー姉が大学生・院生の頃暮らしてたアパートも酷かったね」
と青葉。
「でもあれは強制改良したから」
と千里。
 
「あそこ何かしてたの?」
と桃香。
「まあ何もしなきゃ人が住めない場所だったよ」
と千里。
「ああ、やはりちー姉がしたんだったんだ?」
「ふふふ」
「ちー姉たちが出てから半年後にあそこ火事で全焼したからね」
 

青葉は彪志のアパートに滞在しているのだが、近くなので結構顔を出した。
 
「ちー姉、ごめーん。私今月中に2曲書いて山下先生(スイート・ヴァニラズのElise)に送らないといけないんだけど、無茶苦茶忙しくて」
とある日青葉が言った。
 
「いいよ。私が大宮万葉っぽい感じで書いて送っておくから」
「ごめーん。よろしくー」
と言って青葉は千里に歌詞を書いた紙を2枚とメモリーカードを渡した。
 
「ああ、作詞は岡崎天音さんか」
「まあ、だいたい彼女の詩につけることが多い」
「あの人は信じがたい多作だからなあ」
 
などと会話をしていたら桃香から質問が入る。
 
「青葉が大宮万葉だというのは知っていたが、千里は何という名前で曲を書いているんだ?」
 
「私は実はゴーストライターが主なんだよ」
「ほほぉ」
「いろんな作曲家の名前でその人っぽく曲を付けるのが私の得意技」
「へー!」
 
「というか、ちー姉は、本人より、本人っぽい曲を書くよね」
「うふふ」
 
「ゴーストライターさんには、作曲料をもらうタイプの人が多いけどちー姉は基本的に印税方式でしか受けないしね」
 
「うん。だいたい名前をクレジットする人と印税山分けにする。それから無名な作曲家のゴーストはしない。年間400万円程度以上稼いでいる人からしか受けない。でないと、それが突然ヒットした時に、絶対揉めるし、その本人が自力でその後の楽曲品質を維持できないんだ。私は基本的に、ずっとその人のゴーストを続けるということもしないから。でないと、私がその名前の主体になっちゃうから」
 
「そのあたりもよく分からんな。自分の名前では書かないの?」
 
「自分の名前で書くのは、醍醐春海とか鴨乃清見といったところかな」
「うっそー!?」
 

青葉は桃香−千里家の3人の子供を並べて言った。
 
「よくよく見ないと分からないけど、ほんとにこの3人、兄妹なんだね」
 
「分かる?」
と千里。
 
「桃姉のこどもが2人・ちー姉のこどもが2人」
「ふふふ」
 
(早月と由美は桃香の子供、早月と京平は千里の子供である)
 
「すごーく昔に、私、ふたりの子供の人数をそう予言した記憶があるけど、その通りになってる」
「まあ、青葉の予言能力も大したもんだよ」
と千里。
 
(もっとも実は桃香の子供はあと2人、小空・小歌がいるし、千里の子供もあと緩菜がいる)
 
「すまん。その人数の数え方が分からんのだが」
と桃香が言うが
 
「気にしない方がいいよ」
と青葉は笑顔で言った。
 

8月26日(水)大阪に住む阿倍子が京平に会いにやってきた。晴安に車で送ってもらったらしい。子供たちは大阪に留守番である。晴安はホテルで待機である。せっかく東京に来てもどこかで遊んだりはできない。SAとかのレストランに入らなくてもいいように、ちゃんと往復分の食料を持って来たという話だった。
 
しかし阿倍子と京平は、結婚式以来、半年ぶりの再会である。この日は会うなりふたりとも泣いていた。
 
「ごめんねー。なかなか会いに来られなくて」
「ぼくだいじょうぶだよ。にんじんもたべられるようになったし」
「おお、偉い!」
 
京平が幼稚園の制服を持って来て、早速その場で着てみせると、阿倍子がまた涙を浮かべていた。ふたりを並ばせて、桃香が写真を撮ってあげた。
 
取り敢えずお茶を入れて、阿倍子が大阪で買って来たシュークリームを頂く。
 
「ぼくこのシュークリームだいすき」
と京平はご機嫌だし、早月も
「おいしい!」
と喜んでいる。由美はクリームと格闘しているが楽しそうである。
 
「でも阿倍子さん、ちょっと顔色が悪い。大丈夫ですか?」
と千里が言ったのに対して、阿倍子は驚くべき発言をする。
 
「実は、つわりが酷かったもので。それでなかなか来られなかったんですよ。なんとか落ち着いてきたのですが」
 
これに対して桃香は
「おお、おめでたですか!」
などと明るく答えたが、千里は悩んでしまった。
 

「阿倍子さん、まさか自然妊娠?」
「そうなんですよ。自分でもびっくりした」
「自然妊娠できたの!?」
 
「お医者さんに以前にやった不妊治療の話とかもしたんだけど、恐らくは一度妊娠したことで、それまでちゃんと機能していなかった生殖系統が働き始めたのではないかと。ただ次の妊娠があるかどうかは何とも言えないと」
 
「わあ。でもだったら、京平が生まれたおかげで、阿倍子さん、次の子を妊娠できたんだ!」
「ええ」
 
すると京平が
「ママ、あかちゃんができるの?」
と訊く。
 
「うん。京平の妹か弟ができるよ。それも京平のお陰だよ」
と阿倍子は笑顔で答える。
 
「わあ」
と京平は少し感動している。
 
「でかしたぞ、京平」
と半分も事情を理解していない桃香も京平を褒めると
「えへへ」
と言って本人は照れているが、やや悩む顔をする。
 
「それ、ぼくのいもうとかおとうと? けんたのいもうとかおとうとじゃなくて?」
「賢太の妹か弟でもあり、京平の妹か弟でもあるね」
「だったら、さつきやゆみのいもうとかおとうとにもなるの?」
「早月ちゃんや由美ちゃんとは関係無いかな」
 
「なんかむずかしくてわからない!」
と京平は音を上げたが、大人でも1度聞いただけでは理解できない話だよなと千里は思った。
-

そんなことを考えていたら、その日の夕方、高岡から朋子が突然出て来た。朋子も新幹線を避けて実は千里のドライバー・矢鳴さんの運転するアテンザで出てきたのである。
 
「何か用事でした?」
「ううん。孫たちの顔が見たくなっただけ」
などと言って、取り敢えず寄って来た早月の頭を撫でている姿は、本当に普通のおばあちゃんという感じである。
 
「桃香が高校生、そして大学1−2年の頃は、この子には孫はできないんだろうな、って思ってたから、こうやって3人も孫の顔を見れるとなんかもう信じられない気分だね」
などと朋子が言うので
 
「私もこないだ同じようなこと考えました!」
と千里は言った。
 
おばあちゃんサービスで京平は幼稚園の制服を着てみせるので、早月も並ばせ、由美は朋子自身が抱いて、桃香が記念撮影をした。こういう時、カメラを扱うのは千里ではなく、桃香でなければならないのはこの家のお約束である。
 
「でもこの子たちの親子関係が私は何だかよく分からないよ」
と朋子は言う。
 
「法的な親子関係、遺伝子的な親子関係に分けて考える必要はありますけど、結論からいえば、全員、桃香さんか私かどちらかの子供です」
と千里は言った。
 
「その辺がさっぱり分からない」
と朋子。
「いや、実は私もよく分からん」
と桃香。
 
「由美が生まれた時に、私たち一度言いましたよね。『育てる人が親だ』って。3人とも私たちが育てますから、私たちが親です」
と千里は明解に言う。
 
「京平と私の間にも親子関係があるんだっけ?」
と桃香が訊くと、千里は微笑んで
「桃香は京平のお父さん」
と千里。
 
「そうなんだよなぁ」
と桃香。
「何それ?」
と朋子。
「京平は桃香のことをお父さんと呼ぶからね」
と千里。
「うん。ぼくのお父さん」
と京平は嬉しそうに言う。
 
「まあ、あんた小さい頃、おちんちん欲しいと言ってたからね」
と朋子は桃香に言う。
 
「ああ。おちんちんはあると結構便利なんだ」
と桃香は言った。
 
なお帰りは千里がオーリスで高岡まで送って行った。
 

9月下旬。
 
貴司の所属していたチームが突然その月限りで廃部になってしまった。その日突然業務部長が会議室に全員を集め、今日限りで解散というのを宣言したらしい。選手全員呆然としていたという。
 
貴司は2月にこちらの会社に移ってきてチームにも4月から正式に登録したものの、コロナの影響でチームは試合どころか練習もできない状態が続いていた。それで会社としては経費ばかりかかるので、廃部することになったという。
 
貴司としては前の大阪のチームが廃部になってこちらに移ってきたのに移籍後全くチーム活動できないまま、半年での廃部で、取り敢えず行き先が見当たらない。
 
「コロナの影響で、どこの会社も生き残りに必死で、スポーツ関係の予算を減らしているんだよ。そもそもどこのチームも活動できない状態が続いている。今は移籍とかも難しい」
 
と貴司は電話口で言っていた。
 
「取り敢えずどうすんの?」
「今入っている会社の一般社員になることは可能らしい。僕は選手契約じゃなくて社員契約だから」
 
実業団の選手には、選手としてチームと契約しているプロ選手(登録I種)と、社員としてその会社に所属している社員選手(登録II種)が混じっている。貴司は大阪の会社に入って以来、社員選手としてやってきたし、今の会社にも社員として所属している。チーム解散でプロ選手は全員契約解除になるが、社員選手は社員としての籍が一応残る。
 
「じゃふつうの会社員になるんだ?」
「頑張ってみようかと思ってる。給料は今より少し安くなるけど」
「まあバスケ選手を60歳までは続けられないからね」
「うん。それは最初から考えていたことではある。だから、TOEICも毎年受けていたし、簿記2級とか、危険物取扱者とか、大型二種免許とか、情報処理技術者とか中小企業診断士とかの資格も取っているし」
「そのあたりは勉強嫌いな貴司にしては偉いと思ってた」
「ははは」
 

11月4日(水)。
 
京平を幼稚園にやった後、桃香と千里が早月や由美と遊びながら、部屋の掃除とかをのんびりやっていたら、突然の訪問者があった。
 
緩菜(2歳2月)を連れた美映であった。
 
取り敢えずお茶を出して、先日友人からお裾分けにもらった山口のウイロウを出す。由美や緩菜には喉につまらせないよう薄くスライスして与えたが、2人とも食べてみて変な顔をしていた。早月は「このようかん、あまくない」などと言っている。
 
「ね、5000万円で買ってくれない?」
と美映は言った。
 
「5000万円って一体何ですか?」
「貴司」
「は!?」
 
「私、バスケット選手の貴司に憧れて結婚したんだよねぇ。でも貴司バスケ辞めちゃったじゃん。そしたら、私冷めちゃってさ」
と美映。
 
「貴司さん本人を好きじゃなかったの?」
と千里は尋ねた。
 
「あくまでバスケしている貴司が好きだったんだよ」
「でも貴司さん、社員選手だったから、今までも営業したり、事務作業したり、してましたよね?」
「それはあくまでバスケの練習の合間にやってるイメージだったんだよね。この春以降もチーム練習はできないけど、千里さんが作ってくれた練習場で毎日4−5時間練習していたし」
 
「ああ、あれ知ってた?」
「貴司のチームの人たちみんな感謝してたよ」
「それはよかった」
 
実はコロナ問題でチーム練習ができない貴司たちのために、千里が1000万円出して、アクリル板で完全に区切られたプレハブの練習場を建てたのである。ひとりひとりの空間が仕切られていて空気の行き来がないので感染のおそれがない。換気扇で強制換気される。1人分のスペースは幅2m 長さ14m(ハーフコートサイズ)で、バスケットのゴールがある。アクリルなのでお互いが見えるから、連帯感が出る。ゴールはリモコンで回転して向きを自在に変えられるので、様々な角度からのシュート練習ができる。同様のものを千里は川崎のレッドインパルスの練習場そばにも建てている。こちらは半額チームが出してくれたので千里の負担は500万円で済んでいる。
 
なお9月で貴司のチームの活動が終了し、この練習場も貴司の会社から撤去を求められたので、千里はその施設を深川アリーナに移設し(正確には《こうちゃん》とお友だちの《じゅうちゃん》の2人で「よいしょ」と持ち上げ、運んできてポンと置いた)、現在は40 minutesや江戸娘などのメンバーが使用している。建蔽率オーバーなのだが、コロナ対策の一時的なものとして、都は黙認してくれている。
 

しかし千里が貴司のために何かしたと聞き。桃香が厳しい顔をしている。
 
「でも貴司この1ヶ月は、一度もバッシュ履いてない」
 
「今は新米社員だからそちらに集中しているんだと思う。きっと仕事に慣れたら趣味でバスケ再開するよ」
 
「趣味でバスケやってるおじさんには興味無いなあ。あくまで現役バリバリのバスケ選手が好きだったから」
 
「美映さんの愛情ってそんなものだったの?」
千里はちょっと怒って彼女に言った。
 
「まあそんなものかもね。だいたいあいつインポだしさ」
と美映は言う。
 
千里は思わず桃香と目を合わせた。
 
(“この”千里はこの事情を知らない)
 
「それって、いつから?」
と桃香が訊いた。
 
「最初から。全然立たなかったよ。だから貴司とは実は一度もセックスしてないんだよ」
「ちょって待て」
「セックスせずに、なぜ子供ができる?」
 
「結合はできなかったけど、貴司のペニスを立たないまま私の割れ目ちゃんの中でコロコロしてたんだよ。そしたら緩菜ができちゃってさぁ。入れる前に付けるつもりだったから、コンちゃん付けてなかったんだよねぇ」
 
「ねえ、緩菜ちゃん、ほんとに貴司さんの子供なの?」
と桃香が訊いた。
 
「だと思うけどなあ」
「DNA鑑定した?」
 
「してない。別にいいじゃん。貴司は認知してくれたんだし」
 
DNA鑑定するとやばいよなあと千里は思った。実は緩菜は美映の子供ではなく千里の子供である。この時点で千里は父親は貴司だと思い込んでいるが、実は父親は貴司ではなく信次である。緩菜は“かっこうの子供”である。
 
「だから相談なのよ」
と美映は言う。
 
「私、貴司と別れて大阪に帰るからさ。実際この半年の関東での生活も、凄いストレスだったのよ。食べ物は何だか味の辛いのばっかりだし、加入したバスケチームのチームメイトと世間話とかしてても、考え方とかから違って話が合わないしさ。私の感覚じゃ物は安く買えたことを自慢したい。でも東京の人は高い物を買ったのを自慢するんだよなあ」
 
確かに関東と関西の気質の違いはあるだろう。しかしこの人の場合、それ以前の問題があるような気もした。私この人ともお友だちになれそうな気がしていたけど見込み違いだったのかなあと千里は考えていた。
 
「それにコロナの騒動で私疲れちゃって」
「あれは国民全員疲れ果ててるよね」
 

「だから貴司を5000万円で買い取って欲しいのよ。貴司の口座残高調べたら残金70万円。株の口座も屑株しか残ってないし。あれじゃ離婚の慰謝料も取れないしさ。でも千里さん、あんた有名な作曲家なんでしょ?あんたがいつか大阪のマンションに来た時に書いてた曲、あとで遠上笑美子が歌ってたもん。5000万円くらい出せるよね?」
 
そう言って、美映は、署名捺印済の離婚届、貴司の署名・捺印があり妻の欄が空白の婚姻届けを千里の前に出した。
 
桃香が「ちょっとあんたね」と言ったが、千里はそれを制した。
 
「分かった。買い取る。5000万円出すよ。その代わり、二度と同種のお金の請求はしないし、貴司とも関わらないという念書を書いて」
と千里は言った。
 
「うん。書くよ」
 
「千里、5000万あるの〜?」
と桃香。
「うーん。ぎりぎりくらいかな」
と千里。
 
それで千里は音楽関係でお世話になっている顧問弁護士を呼んだ。弁護士は「夫の買い取り」は《公序良俗違反》で無効な取引(民法90条)とみなされる可能性があるので、美映が貴司の家で使用していた家財道具を含む「夫婦の共有財産」の美映が権利を持つ部分(半分)を買い取るという名目ではどうか?と提案した。一般人ではその程度の家財道具で5000万円はありえないが、写真集が発売されたこともある元日本代表のスポーツ選手の家の家財道具が5000万円というのは有り得なくもない金額である。
 
「ああ、その程度あげるよ。私の服とかも自由に使って。私も身一つで大阪に戻って、取り敢えず友だちの家にでも転がり込むつもりだったし」
 
と美映がいうので、そういう名目にすることにして、売買契約書を作成した。
 
「あ、ところで緩菜はどうする?」
と美映は訊いた。
 
桃香は目をパチクリさせる。
 
「緩菜ちゃんは美映さんと一緒に大阪に戻るんでしょ?」
と桃香。
 
「どうしようかなあと思ってさ。私、この2年間の育児で疲れちゃったのよね。この子、よく泣くしさ。つい叩いてしまって。それに再婚考える時に子供がいると面倒だしさぁ」
 
千里は何か言おうとしたが、今度は桃香が制した。
 
「だったら、緩菜ちゃんも私たちが育てようか?」
と桃香。
「あ、そうしてくれると助かるかも」
と美映。
 
桃香が弁護士さんに訊いた。
 
「この場合、離婚届の親権者の欄で、親権者を貴司さんにしておけばいいですよね?」
「ええ、そうすれば問題ありません」
 
それで、美映は離婚届の「夫が親権を行う子」の欄に細川緩菜と記入した。
 
そして川口市役所の窓口に行き、離婚届を提出する。弁護士がいたこともあり窓口の人はそのまま受け取ってくれた。それを見て千里はその場で美映の口座に5000万円振り込んだ。
 
「すごーい。桁を数えちゃった!」
と自分のスマホを見て、はしゃいでいる美映を見て、千里も思わず微笑んでしまった。
 
その後、弁護士さんと別れ、みんなで東京駅まで行き、明るく手を振って新幹線に乗り込む美映を見送った。
 
「ママ、どこいくの?」
と緩菜が訊く。
 
「うん。お仕事なんだよ。大変なお仕事で何日もかかるんだって。だからママが帰ってくるまで《お姉ちゃん》たちと遊ぼうね」
と桃香が言ったが
 
「うん、いいよ。《おばちゃん》」
と緩菜は答えた。千里が苦笑していた。
 

京平を幼稚園に迎えに行った後、取り敢えず緩菜ちゃんの着替えとかを取ってこなければと言って、川口市の貴司のマンションまで行くことにする。この時初めて、セレナに4個のチャイルドシートをセットした。
 
夏までは京平・早月・由美3人ともチャイルドシートを使用していたのだが、身体の大きな京平はこの秋からジュニアシートに変更した。それでちょうどチャイルドシートが1個余っていたので、それに緩菜を乗せた。
 
2列目に京平・早月、3列目に緩菜・由美と乗せ、助手席に桃香が乗り、千里はセレナを運転して貴司のマンションに行く。美映から預かった鍵で部屋を開け、タンスの中から緩菜の着替えを出す。
 
「千里、今迷わず、緩菜の服が入っているタンスを開けた気がしたが?」
と桃香。
「気のせい、気のせい」
と千里。
「千里、その前に駐車場のドアを難なく開けたよな?千里って機械に弱いのに」
「気のせい、気のせい」
「よく考えたら、このマンションに来るのに全く迷わなかった」
「カーナビがあるし」
「なぜカーナビに登録されている?」
「しまった!」
「あとでおしおきだな」
「勘弁して〜」
 

「でも美映さん、ブランドものが好きだったみたいね」
と桃香が言う。
 
実際女の子向けのブランドの洋服がかなりある。下着もサンリオとかディズニーだ。大手スーパーや衣料品店の自主ブランドの類は入っていない。
 
「これ生活費、かなり掛かっていたのでは?」
と桃香。
 
「それでお金かかりすぎて、阿倍子さんへの仕送りが困難になっていたんだったりしてね」
と千里は取り敢えず言っておいたが、実際には緩菜が宝くじを当ててくれるので、そのご褒美に可愛い服を買ってあげていたのである。高卒1年目レベルの貴司の給料だけでは、とても一家の家計はまかなえなかった。本来はそれにスポーツ手当が加わってまともな給料になるのだが、コロナの影響でチーム活動が停まっていたことから、スポーツ手当は支給されていなかった。
 

服をあり合わせの段ボールに詰めていたら、貴司が帰宅した。
 
「お帰り。今日は残業無かったの?」
と千里は笑顔で貴司に言う。
 
「水曜日は残業は無いよ。ってか、千里、何してんの?」
と戸惑ったように言う。
 
「ああ、貴司さん、大変だったね。でも緩菜ちゃん、私たちがちゃんと面倒見るから安心してね」
と桃香が言う。
 
「美映に、まさか、何かあったの?」
と貴司が言うので、千里と桃香は顔を見合わせる。
 
「貴司、美映さんと離婚したんだよね?」
と千里が訊くと
「はぁ〜〜〜!?」
と言って絶句する。
 

取り敢えずLDKのソファに座って話をすることにする。子供たちは何だか鬼ごっこをしている。緩菜もすっかり由美たちと仲良くなっている。
 
「ちょっと話を整理してみようか?」
と桃香が言う。
 
「千里の所に今日美映さんが来て、貴司さんを5000万円で買い取ってくれと言ったんだよね。それで千里は同意して、5000万円と交換に、貴司さんと美映さんの離婚届、妻の欄が空欄で貴司さんの署名捺印だけがされた婚姻届を受け取った」
 
「嘘!?僕って売られちゃったの?」
「金銭トレードだな」
 
「交換トレードってのもあるんだっけ?」
と千里が言うと
「それはママレード・ボーイという名作が」
と桃香。
 
「あ、確かに」
 
「この話、貴司は全然知らなかった訳?」
「そんなの聞いてない。美映はどこ?」
「もう大阪に帰ったけど」
「えーーー!?」
 
「で緩菜ちゃんは私たちで育てることにしたし」
「なぜ、そういう話を僕が知らない!?」
「それは私たちが聞きたいことだ」
 
「離婚届って・・・提出したの?」
「提出済み」
「僕と千里の婚姻届は?」
「私の分の記入はしたけど、桃香との協議が必要だから提出については保留」
と千里。
「個人的には破棄したいが、私には5000万円は出せんから協議だな」
と桃香。
 

貴司がこの件を知らなかったということは、離婚届・婚姻届の貴司の分の署名は美映が貴司の筆跡を真似て書いたのだろう。貴司の本当の筆跡と違うことに千里が気づかなかった訳が無いが、おそらく自分に都合の良い進行をしていたので気づかないふりをしたのだろうな、と桃香は想像した。
 
貴司は美映に電話をしたが、かなり激しいやりとりをしていた。やがて向こうが勝手に切ってしまったようで、貴司は疲れたようにスマホを脱いだ背広の上に放り投げた。スマホが「痛い!」と声に出して文句を言う。
 
「何て勝手な女なんだ。結婚する時も結婚してくれなかったらマスコミにたれこむし1億円の慰謝料と月額100万円の養育費を要求するとか言われて・・・・それで突然こんな形で離婚して」
 
「貴司が馬鹿なだけだと思うけど。結婚しているのに他の女とホテルなんかに行くのが悪い」
と千里は言いながら、若干後ろめたい。それ私のことじゃん。
 
しかしあの時期、千里としては信次との結婚を決めて長年の貴司への思いも断ち切ることができていた。それで、それまで貴司に寄ってくる女をことごとく排除していた(結果的に貴司と阿倍子の結婚を維持していた)のも、しなくなった。そのタイミングで美映は貴司に急接近したのだ。
 
「ほんとに僕は馬鹿だ。阿倍子にも本当に申し訳ないことをした」
 
「でもこれで貴司さんも美映さんと離婚する気になったのでは?」
と桃香。
 
「うん、いいよ、もう離婚で」
と貴司は疲れたように言う。
 

「おかあちゃん、おなかすいたー」
と京平も早月も言うので、千里があり合わせの材料でカレーを作ったら、子供たちは
「おいしい、おいしい」
と言ってたべてくれた。牛乳を加えて超甘口にしているので、由美や緩菜も美味しそうに食べている。貴司も疲れたような感じながら何杯もお代わりしている。
 
「これママのカレーよりおいしい。また食べたいな」
と緩菜がいう。
 
「カレーくらいいつでも作ってあげるよ」
と千里も微笑んで緩菜に言った。
 

「だけど緩菜ちゃん、今日1日で早月や由美と随分仲良くなった。やはり女の子同士はすぐ仲良くなるんだね」
と桃香が言う。
 
「本当の兄妹であるはずの京平の方が緩菜にはちょっと遠慮がちだったね。やはり男の子と女の子だと少し壁があるのかな」
と千里も言う。
 
(緩菜は京平の同母妹。また由美の同父姉。早月の“ツイスト妹”になる。つまり緩菜はこの3人全員の姉妹である)
 
「だけど、美映さんが美人だから、緩菜ちゃんも美人に育ちそうな感じ」
と桃香が言った所で
 
「ちょっと待って」
と貴司が言う。
 
「千里も桃香さんも勘違いしてる」
「ん?」
 
「緩菜は男の子なんだけど」
と貴司。
 
「何ですと〜〜〜〜!?」
 
「だって、男の子だったら、どうしてロングウェーブの髪で、スカート穿いてるのよ?」
と千里。
 
「下着も全部女の子のだったけど」
と桃香。
 
「いや、本人がこういうの好きだから」
と言って貴司は頭を掻いている。
 
「でも千里も僕と初めてあった時はロングの髪で、女の子の和服着てたし」
と貴司が言うと
「なるほどー。こういうのが貴司さんの理想なのか」
と桃香は勝手に納得している。
 
「あれ?かんなちゃん、おとこのこだったの? でもスカートくらいぼくだってはくし、いいよね?」
と京平。
 
「あれ、かんなちゃん、おとこのこなの?でも、おちんちん、とっちゃえば、おんなのこになれるんだってよ」
と早月。
 
千里は頭が痛くなってきた。
 
 
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【女たちの親子関係】(2)