【女子バスケット選手の日々・2017オールジャパン編】(1)

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その日なぜそういうメンツが揃っていたのかはよく分からない。
 
「何かその内さあ」
と暢子(40 minutes)は言った。
 
「女子バスケ界には男の娘枠とかが創設されたりしてな」
 
「何それ?」
と愛沢国香(Rocutes)が訊く。
 
「いや、やはり多くの場合、男から女になってIOC基準によって女子選手として認められた選手、特にホルモン状態の経過観察で女子と同等と認められた選手の場合、筋肉は女子並みでも、骨格が男子じゃん。だから、外国人枠と同様に、選手登録2名まで、オンコート1名の制限」
 
「それはあっていいと思う」
と自分自身がその《男の娘選手》である湧見昭子(Joyful Gold)もいう。
 
「私とか、千里さんとかは体格的に元々男の子としては華奢な類いだったから、そうでもないけど、例えばロッドマン(203cm 105kg)みたいな人が、性転換して2年間女性ホルモン優位の状態にあったからというので女子バスケ選手として登録してきたら、そういう選手を受け入れたとしても、せめて最大1人にしてくれと言いたくなりますよ」
と昭子は言う。
 
「女の子になったロッドマンというのは、あまり想像がつかんな」
 
「しかしそれを言い出すと、生まれながらの女だが、男の娘枠に入れてくれと言いたくなる選手もいる」
 
「それ、凄く心当たりはあります」
と高梁王子(Joyful Gold 182cm 90kg)が言っている。
 
「そんな選手いたっけ?」
と森下雅美(40 minutes 186cm 82kg).
 
「外国には多いよ」
と松崎由実(40 minutes 178cm 80kg).
 
「まあ国内にも若干いるかもね」
と母賀ローザ(Joyful Gold 184cm 86kg).
 
「まあ正直、あんたは身体が女子だから、女子の試合に出てくれといわれて男子バスケ部から女子バスケ部に移籍させられた当初は、けっこうな罪悪感を感じながらプレイしていたんだけどね。日本代表活動で凄い体格の外人選手をたくさん見た後は、性別なんて関係無いと思うようになった」
 
と少し離れた席にいた千里は言っている。
 
「でも男の娘枠はあってもいいかもね。変なことをしようとする国を出さないためにも」
と千里。
 
「確かにどうかした全体主義国家なら、女子の部で金メダルを取るために、男子のトップチームを全員強制的に性転換させたりしかねん」
と暢子。
 
「金(メダル)を取るために金(玉)を取るんだな」
と星乃(40 minutes)が言うと
 
「ステラ、絶対それ言うと思った」
とみんなから言われていた。
 
「ご期待にお応えして」
と星乃。
 
「でも外国人でも日本国内の小中学校を出ている人は外国人枠ではなく日本人扱いじゃん。だから男の娘でも、小中学校の時点で既に女の子だった人は、男の娘枠外で、純粋に女子選手扱いでいいかもね。実際そういう人は体格的な優位は全く無いはずだし」
と水嶋ソフィア(Rocutes)が言うと
 
「それは千里のようなケースだな」
と暢子は言った。
 
「確かに。千里さんはそもそも中学時代は女子バスケ部に入っていたんだし」
と原口揚羽。
「結局千里ちゃんって、小学4年生の時に性転換したんだっけ?」
と近江満子が訊く。
「いや性転換そのものは小学2年生の頃で、4年生の時に卵巣移植したんじゃなかったっけ?」
と前田彰恵。
 
すると留実子(Snow fairies 184cm 96kg)が言う。
 
「千里のちんちんを目撃した人は存在しない。つまり千里は生まれてすぐに性転換したとしか考えられない。実際小学生の頃、千里の病院の診察券を見たけど性別は F になっていた。卵巣移植は4年生の秋だよ。当時千里、そういう手術を受けたと言っていた。中学の頃はナプキンも一緒に買いに行っていたし」
 
この《証言》で
 
「おお、やはりそのくらい早期に性転換していたのか!」
と声があがっていた。
 
千里は投げ遣りな表情で苦笑していた。
 
「でもサーヤ、私サーヤと一緒にナプキン買ってない。いつも私が自分のとサーヤのと両方買って渡してた」
と千里は微妙な点を主張する。
 
「だって僕が生理用品売場に居たら、店員さんから『男の子はこの付近を見たらだめ』と注意されるんだもん」
と留実子。
 
「なるほどー!!」
「納得」
という声があがっていた。
 

12月31日の夕方から1月1日の0:20に掛けて、ローズ+リリーのカウントダウンライブが宮城県M市で行われたが、このイベントの前座トップに出演したのが近日中にメジャーデビューを予定しているボニアート・アサドである。彼女たちは宮城県栗原市の女子高生3人組だが、出番前に会場に出店を出していた和実のお店クレールのコーヒーとオムライスを食べにきたことから、クレールで定期的にライブをやろうという話がまとまる。
 
「じゃ、取り敢えず1回ライブやってみましょう。いつやりますか?」
とその場で和実は彼女たちに尋ねた。
 
「そうだなあ。1月2日とか無理ですよね?奏和の誕生日なんだけど」
と美穂が言ったのに対して
 
「おお、誕生日とはめでたい!やろうやろう」
と和実もノリで答えて、ボニアート・アサドの“初単独ライブ”が公演のわずか2日前に決まってしまったのである。
 
それでボニアート・アサドもこの日の前座のステージの最後に
 
「私たちの単独ライブが1月2日、仙台市内であります。詳しくは今夜中にホームページに掲載しますから、よかったら見に来て下さい」
 
と言ってしまったのである。
 
マネージャーさんとレコード会社担当者が慌ててその情報を記載する。淳も頑張ってその夜のうちに
 
「1月2日13:00女子高生トリオ《ボニアート・アサド》on stage」
 
という記事をできたてのクレールのホームページに掲載した。写真は彼女たちのマネージャー米長さんから送ってもらった。
 

「ところで何人くらい来るものでしょうか?」
と淳が1月1日の午前中に米長さんに尋ねた。
 
「全く見当が付きません。ほとんど来ないかも知れないし100人くらい来るかも知れないし」
 
「何人くらい来るかによって、通常のカフェの配置にするか、テーブルを取り払って椅子のみにするか、オールスタンディングにするかというのがあるのですが・・・」
 
「じゃ、念のため椅子席ということにしておいて、お昼くらいの人の集まり加減を見て対応お願いできませんでしょうか?」
と米長さんが言うので
 
「いいですよ」
と淳も了承した。
 
クレールが仙台市中心部からけっこう外れた場所にあるので、仙台駅から臨時バスを運行することにし、これはプロダクション側が手配してくれた。その情報も追加で各々のホームページに記載した。
 

カウントダウン・ライブの出店を運用したクルーはライブ終了後和実の家に寝泊まりして、翌朝お屠蘇とおせちに雑煮を食べ、お昼に焼肉をしてそれから解散したのだが、そのお昼の席で翌日1月2日に女子高生トリオのライブをすることを言い、出てきてくれる人がいないか尋ねた。
 
「何時から何時くらいですか?」
「ライブは13時から1時間くらいになると思うんだよね。でも準備と後片付けがあるから11時から16時くらいまで。5時間拘束。報酬は時給1200円で6000円の所をお正月相場で1万円」
 
「だったらしますよ」
と6人のメイド全員が言うので、6人もは必要無いかもと思ったが、念のためお願いすることにした。
 
「その中で2人くらい可能だったら9時くらいから出てきてくれると助かるんだけど」
 
「ああ、だったら私、来ますよ」
とマキコが言うと
 
「だったら私も」
とライムが言い、この2人が早めに出てきてくれることになった。
 
「ねえ、男手が欲しいんだけど、伊藤君も来れない?」
「ああ、いいよ。休み中だし」
「僕も手伝おうか?」
と紺野君が言うので
「うん。お願い」
と和実は照れるような顔で言った。
 
淳が軽い嫉妬の視線を送っているのだが、気付いたのは若葉と伊藤君くらいであった。もっともふたりとも過去の和実と紺野君のいきさつを知っているのでふたりの間に恋愛関係ができることはあるまいと踏んでいる。
 
ともかくもそれで結局紺野君と若葉はその日も和実の家に泊まり2日のライブの手伝いをして、そのあと東京に戻ることにしたのである。
 

2017年1月2日。オールジャパン(皇后杯・全日本総合バスケットボール選手権)が開催される。
 
ちなみに「全日本総合バスケットボール選手権」の名前で開催されるのは今年が最後で来年度からは「全日本バスケットボール選手権」という名前に変更される。
 
千里がオールジャパンに出るのは今回で4度目である。しかし千里はここまで毎回違うチームのメンバーとして出場している。
 
2008年1月には旭川N高校のメンバーとして出場。3回戦まで勝ち上がってプロの強豪・ビューティーマジックと激戦を演じて敗れ、BEST16に留まったものの、得点女王・スリーポイント女王を獲得している。
 
2012年1月には千葉ローキューツのメンバーとして出場。三木エレンを擁するサンドベージュを倒して準々決勝に進出する快挙をあげるも、レッドインパルスに敗れ去り、BEST8に留まった。しかし千里はまたスリーポイント女王に輝く。
 
2016年1月には東京40 minutes(フォーティーミニッツ)のメンバーとして出場。1回戦で九州代表、2回戦でWリーグ9位のシグナス・スクイレル、3回戦でWリーグ7位のブリリアント・バニーズを倒して準々決勝まで勝ち上がる。ブリリアント・バニーズの監督は2010年に千里が日本代表のフル代表候補に召集された時の代表監督・田原幸次郎さんであるが試合終了後、千里の肩を叩いて「完全に復活したね」と言ってくれた。
 
そして40 minutesは更に千里を知り尽くしているレッドインパルスをも倒して準決勝まで進出した。レッドインパルスとは日々一緒に練習しているのだが「サン、ずるい。普段の練習では手を抜いてたろ?」と彼女たちから言われるほど、千里は進化していた。
 
なお、トッププロチーム以外が準決勝まで出たのは1999年の日本体育大学以来17年ぶりの快挙であった。しかし準決勝ではエレクトロウィッカの花園亜津子との死闘に敗れ、あと少しで決勝進出の夢を逃した。
 
3位に終わったものの、千里は三度スリーポイント女王を獲得するとともにベスト5に選ばれた。この年のベスト5は、千里と亜津子という2人のシューティングガードが選ばれるという異例のラインナップとなった。
 

そして千里は2016年春、オールジャパンで自らが倒したレッドインパルスに移籍。プロチームは自動的にオールジャパンに出場できるので、4度目のオールジャパン出場を果たしたのである。
 
■千里の在籍チーム
2003.4-2006.3 留萌S中(女子)
2006.3-2009.3 旭川N高校(2006.4-11は男子.12以降女子)
2009.6-2012.3 千葉ローキューツ
2013.10-2016.3 東京40 minutes
2016.4- レッドインパルス
 
 
今年オールジャパンに出てきたのは次の32チームである。
 
Wリーグ(12) 1.サンドベージュ 2.レッドインパルス 3.ビューティーマジック 4.エレクトロウィッカ 5.ブリッツレインディア 6.ブリリアントバニーズ 7.フラミンゴーズ 8.ステラストラダ 9.フリューゲルロースト
10.ハイプレッシャーズ 11.シグナススクイレル 12.バタフライズ
 
大学(8) 1.栃木K大 2.東京MH大 3.大阪HS大 4.東京W大 5.愛知AS大 6.川崎C大 7.茨城TS大 8.西宮KG大
高校(1) 愛知J学園(インターハイ優勝)
 
社会人(2) 1.ジョイフルゴールド 2.東京40minutes
 
地域代表(9) 北海道.クロックタワー 東北.山形D銀行 関東.千葉Rocutes 北信越.金沢H大学 東海.岐阜F女子高 近畿.和歌山K銀行
中国.岡山H女子高 四国.愛媛みかんず 九州.福岡W大付属高校
 

この1年間を振り返ってみる。3月までは40 minutesの一員として活動し、全日本クラブ選手権で優勝(2連覇)して自らの花道とした。4月からレッドインパルスの一員にはなるものの、実際には8月までは日本代表としてリオ五輪に向けての活動に終始する。
 
5月にはオーストラリア代表を迎えて強化試合をおこない、5月後半から6月頭に掛けてはヨーロッパ遠征(フランス・ベラルーシ)で5ヶ国と対戦。更に6月下旬にもチェコ遠征。7月下旬には南米に渡り、アルゼンチンで調整した上でブラジルに入り、オリンピックに出場した。
 
オリンピックでは、予選では3勝2敗となるも、極めて複雑な順位付けルールのため準々決勝でアメリカと当たることになる。ユニバーシアードで日本に苦戦していたアメリカは最初から超本気で、ダブルスコアで日本を下した。日本はこの大会ではBEST8に留まることになった。
 
一方4-5月には40 minutesの運営会社、選任ドライバーさんたちの会社、体育館の運営会社と、続けざまに会社設立に関わっている。
 
体育館の建設は★★レコードの内紛に伴い株価が激しい上昇と下落を繰り返したのに乗じて、雨宮先生が盛大な株の売買をして巨額の利益を得たので、その株売買の資金を提供した冬子と千里に、利益の分け前をくれたので、その資金で建設したものである。それで千里と冬子が主として資金を提供。上島雷太とKL銀行も巻き込んで(40 minutes, Rocutes, Joyful Gold, 江戸娘の)4者共同の建設となった。冬子が関わったことから音響的にもかなり良い設計をしており、ライブ会場としても優秀なものに仕上がった。この体育館は11月に竣工した。
 
春から秋にかけては、千里や玲央美たちが中心になって創設したクロスリーグも実施された。参加したのは40 minutes, Rocutes, Joyful Gold, Red Impulseで、近くに存在するのに対戦する機会の少ない、クラブチーム、実業団、プロの垣根を越えてお互いを切磋琢磨することを目的としている。11月からはここに江戸娘も参加することになった。これは冬季はレッドインパルスがWリーグで忙しいこともあって、代わりに参加する形になったのだが、来春からは東京W大学も参加する意向を表明している。
 
2018年からはクラブ協会、実業団連盟、教員連盟、家庭婦人連盟が社会人連盟として統合され、地域リーグが創設されることにはなっているが、それでもプロ・社会人・大学生の交流試合は少ないので、2018年以降も形を変えて継続しようと、玲央美や広川さんとは話をしている。
 

オリンピックが終わった後、9月はバスケット活動は実質お休みのようなものであったが、この間北海道に2度、沖縄、仙台などとあちこち飛び回っている。
 
10月からはいよいよWリーグが開幕。レッドインパルスは最初のサンドベージュとの連戦こそ落としたものの、その後は順調に白星を重ね、優勝を狙える位置に付けている。
 

今年のオールジャパンは1月2日スタートで、1回戦の結果は下記の通りである。
 
W11(シグナス)×−○中国(岡山H女)
四国(みかんず)×−○北海(クロック)
北信(富山T大)×−○関東(Rocutes )
大6(川崎C大)×−○九州(福岡W付)
大5(愛知AS大)×−○東海(岐阜F女)
W12(バタフラ)×−○大4(東京W大)
大8(西宮KG大)×−○東北(山形D銀)
近畿(和歌K銀)×−○大7(茨城TS大)
 
岡山H女子高校は「岡山3強」の一角で、ウィンターカップ出場は逃したものの、オールジャパンの方に出てきてプロチームを倒して1勝をあげた。
 
ローキューツは2012年以来5年ぶり2度目のオールジャパン出場だが、当時の選手で残っているのは薫と国香だけである。取り敢えず大学生チームを倒して2回戦に駒を進めた。
 
岐阜F女子校はインターハイ3位、ウィンターカップ4位であったが、オールジャパンでも取り敢えず1勝である。これで今日登場した高校生チームは3つとも勝利をおさめた。
 
東京W大は青葉の友人・奈々美がいるチームである。今日の試合ではベンチスタートであったものの、2〜4ピリオドに出場してひとりで25点をあげる活躍。勝利に貢献した。W大に千里は2015.04-2016.03の1年間、同大学主宰のクリニックに参加するという名目で毎週1度行き、一緒に練習をさせてもらっていた。奈々美は2016年4月入学なので、千里とは入れ替わりになっており直接手合わせはしていない。
 

和実は1月1日の午後、★★レコードの仙台支店(先日から何度も行っているTKRの仙台支店と同じビルの中にある)に行き、ζζプロの米長と打合せをした。
 
昨日はほぼノリで2日後の公演を決めて発表してしまったものの、何も条件面を打ち合わせていない。
 
まずは飲食店営業許可証を見せ、反社会的勢力(暴力団のこと)との関わりがないという誓約書にサインする。
 
当日はボニアート・アサドの専用イベントとすること(ノルマ&バック制(*1)ではない)。開演1時間前の開場。入場無料だが、1ドリンク制にすること(*1). ミュージックチャージ(*1)は課さないこと。ボニアート・アサドにクレール側が出演料として5000円払うこと(但し入場者が100人を越えた場合は入場者数×100円)。仙台駅からのシャトルバスの運行費用はプロダクション側が持つことを決める。出演料の額に関しては今後適宜見直す。
 
なおドリンク代は400円均一とし、飲み物の種類はドリップコーヒー、カフェオレ、エスプレッソコーヒー、カフェラテ、オレンジジュース、アップルジュース、ミルク、豆乳の8種類。コーヒー類は各々本来の点てかたで入れること。ジュースは実際のフルーツからミキサーで作ること。なお開演後の混乱を避けるため、開演前20分を過ぎてから入場する客は、ドリップコーヒー、カフェオレ、ミルク、豆乳からの選択とすること。ドリンクの容器はテイクアウト仕様である。
 
また入場時にドリンク代と交換にドリンク引換券を渡し、会場内で作りたての物を引換券と交換していく方法を採ることを決めた。またフードは、当日はオムライス、ハンバーガー、フライドポテト、唐揚げ、のみの販売とし通常価格、テイクアウト仕様(手提げ袋付き)で渡すことにした。サンドイッチも検討したのだが、生っぽい料理は避けようということになった。
 
またゴミ回収にライブ中、スタッフが巡回することにした。
 
座席については一応椅子席(max240)を基本とするが当日、開場1時間前の様子を見て、入りきれないかも知れないと思われたらオールスタンディング(max500)とすることにした。万一定員に達した場合は、そこで満員御礼、入場できないものとする。
 

(*1)一般的なライブハウスでは、ノルマ&チャージバック方式を採る。これは例えば入場料が1500円なら10枚などといったノルマを課し、入場者がこれに満たなかった場合は、不足額を出演者がライブハウスに支払うものである。ノルマを越える入場者があった場合は、チャージバックといって越えた分の入場料の一定の割合を出演者にバックする。バック率は50%くらいの所から100%バックする所まで様々である。
 
ライブハウスでは来場者はチケット代とは別に最低1ドリンクは買わなければならないシステムになっている。ライブハウスは飲食店営業なので、客に音楽を聴かせるのはそのサービスの一環として認められるものの、飲食代金を取らずにチケット代だけで入場させた客に音楽を聴かせると、飲食店としての営業ではなく、コンサートホールとしての営業許可が必要になる。
 
概してコンサートホールの営業許可を取るのは条件がひじょうに厳しい。そもそも食事をする場所と観客席を壁で隔離する必要がある!
 
「飲食の客」と「ライブの客」は、法的にはその店で飲食したかどうかで判断されることになる。
 
それで入場者はライブを聴きに来たのではなく、飲食をしにきた客であるという建前が必要なので、チケット代とは別にドリンクを買ってもらうことにするのである。
 
この事情を知らない客は「ドリンク代もチケット代に含めればいいのに」と不満を言うが、法令上の問題でどうしても分ける必要がある。最近は経営状況が厳しいことから「2ドリンク制」にしているライブハウスもある。昨今ライブハウスは軒並み経営状態が悪化しており、オーナーが建設作業員のバイトをして赤字を補填しているなどといった涙ぐましい所まであるらしい。
 
ミュージックチャージ制というのは、飲食店としての傾向が強い一部のライブハウスで導入されているもので、通常はふつうの飲食店として営業されていて、ライブ演奏をする時だけ、その時間帯に「ライブ席」に座っている客に300-500円程度のチャージをさせてもらうものである(こういう所では店内がライブ席とレストラン席に分けられ、間に扉付きの壁がある)。このチャージの一定額が出演者に渡される。概して還元率は高く、100%バックというお店も結構ある。
 

和実は★★レコードでの打合せを終えると、まず若葉に電話して、エスプレッソ用の豆が明日のお昼までに入手できないか訊いてみた。
 
「手配できるよ。うちの叔母さんの会社が扱っているから、神戸の倉庫からこちらにすぐ持って行かせる」
 
どうも無理の言える社員さんに、車で神戸から仙台まで持って来てもらうということのようである。社員さんにはお正月早々気の毒だが、こちらは助かる。エスプレッソ用には普通の豆より深煎りの豆を細挽きにして使用するので、まだまだ大量にあるモカブレンドの普通煎り中挽きの粉は使えない。
エスプレッソマシンも1台しか用意していなかったので、念のため(和実の好みのメーカーのものを)4台とスチーマー・ミルクフォーマーを5台ずつ、そちらの会社に頼むことにした。
 
ハンバーガー用のバンズも知り合いのパン屋さんに打診してみたら焼いてくれるということであった。牛乳も知り合いの農場に打診したらすぐに出荷してくれるということだった。和実は東北地方のボランティア活動を通してこういう系統の知り合いが大量に居る。
 
パテ用の牛肉の挽肉などなど細々とした食材は伊藤君と和実の母が元旦から営業している市内のスーパーを回って調達してくれた。リンゴについては実は淳の叔父がリンゴ園を経営していて、1箱お歳暮代わりに送って来てくれていたので、それを使用することにした。
 
しかし和実はこのような手配関係の作業で20時近くまでかかった。
 
「和実、仕込みは私がやるから寝てなさい」
 
と淳が言い、和実もそうさせてもらうことにした。ただ、妊婦の若葉も深夜作業はできないので、淳と紺野君だけでは不安がある(胡桃は美容室がお正月は超多忙なので頼めない)。
 
そこで和実は《身内》に近いマキコに電話してみた。すると「やりますよ〜」と言って、Ninja-H2に乗って出てきてくれたので、その日の深夜の仕込み作業(ハンバーガーのパテ作り、トマトのスライス、レタスのちぎり、豆乳作り)は、マキコを中心に、淳、紺野君、伊藤君の4人で進めてくれた。ちなみにマキコは法的には女性労働者ではないので、深夜作業には何の縛りも無い!
 
こうして1月2日の《こけら落とし》の準備作業は進められたのである。
 

1月2日早朝。紺野君は若葉と一緒の布団から抜け出すとトイレに行った。おしっこをしようとしていた所に伊藤君が入って来る。
 
「お疲れ〜」
「お疲れ〜」
と声を掛ける。
 
「何人くらい来ると思う?」
と伊藤君が訊く。
 
「200人くらいだと思う」
と紺野君。
 
「万一さ」
「うん?」
「想定以上に来た場合、客が興奮して前に押していこうとしたような場合、危険だと思わない?」
 
紺野君は少し考えた。
 
「椅子に収まる程度の人数なら、椅子が移動防止の役目を果たすから問題ない。でも立見になった場合は・・・」
と言ってから、自分で
「何か停めるものがないとやばいね」
と言う。
 
「ふつうそういうライブってどういう対策取るんだっけ?俺ライブとか行ったことないから分からないや」
と伊藤君。
「僕もクラシックのコンサートしか行ったことないから分からない」
と紺野君。
 
ふたりはトイレを出てからその前でしばし話す。
 
「ちょっと小野寺に電話してみる。あいつAKBだかSUPER☆GiRLSとかのライブ行っているみたいだし」
 
それで伊藤君が高校の時の同級生、小野寺君に電話してみた。伊藤・小野寺・近藤・江頭の4人は高校を卒業した後もしばしば一緒に遊んでいる。実は麻雀のメンツでもある。
 
「俺も小さい会場は分からん。俺は乃木坂46のファンでだいたい大きな会場のライブにしか参戦してないから」
 
と小野寺君は言っている。
 
「でも小さなライブハウスとかだと、フェンス立てて客がステージに上がったりするの防いでいるみたいだよ」
「フェンスか!」
「工事現場に立てておくような奴」
 
伊藤君と紺野君は顔を見合わせる。
 
「どう思う?」
 
「お金、若葉に出させるからさ、そういうフェンスをホームセンターとかで買ってきてもらえないかな」
と紺野君。
 
「よし。頼もう」
それで伊藤君は朝ホームセンターが開いたら、フェンスを買ってきてくれないかと頼んだ。
 
「すまん。金が無い」
「だったらこっちに寄ってくれない?現金を渡せると思う」
と伊藤君は紺野君の顔を見て言った。
 

それで小野寺君はクレールに寄ってくれた。彼がクレールに来るまでの間に2人はネットでどういうタイプのフェンスがあるのか調べていたのだが、結局フェンスよりロープがいいのではないかという結論に達した。
 
銀行のATMとかスーパーのレジの前に“1列並び”させるために張っているようなロープである。
 
「つまりさ。フェンス置いておいてそれが倒れたら危険じゃん」
「確かに!」
「それならロープの方が安全度が高い」
「だったらロープを通すポールを買ってくればいいのかな?」
 
しかし、それなら、ひょっとして★★レコードさんが持っているんじゃないか?という話になって電話してみたら、あるから持っていくということだった。
 
「だったら買物は?」
「無し」
「まあ借りられるものは借りた方がいい」
 
「じゃ俺は?」
「ついでだから、イベントが終わるまでいてくれない?この店、男手が全然無くて」
「まあいいよ。何か食わせてくれるなら」
「オムライスとかハンバーガーとかでよければ」
 
それでこの日は小野寺君もイベントに付き合ってくれたのである。
 

一方、この日の朝から、パン屋さんがハンバーガー用のバンズを、農場の人が牛乳を持って来てくれる。バンズはどんどん半分にスライスしていく。この作業は伊藤君がやってくれた。彼は割と料理がうまい。
 
御飯を炊いてケチャップライスを作る。長時間の作業が続くので交代で1-2時間ずつ仮眠を取りながら作業を続けた。
 
8時半頃、若葉の叔母の会社の人がエスプレッソ用のコーヒー豆を持ってきてくれた。既に挽いてあるものなので、助かる。社員さんは結局、新幹線の乗継ぎで持って来てくれた。道路は混雑して時間が読めないからということだった。昨夜一晩東京に泊まって朝一番の東北新幹線でこちらまで来たらしい。
 
和実は往復の交通費を商品代金に上乗せして払おうとしたがサービスの範疇ですと言って辞退された。
 
「いや、ちょっとブラジルまで行ってきてとか突然言われること、しょっちゅうですから」
と彼は言っていた。
 
「似たようなことを千里が言っていたな」
「ああ、どこにでもそういうビジネスマンがいるんですね〜」
「いつでも鞄にパスポートと現金、しかもドルやユーロを入れていると言っていた」
「ああ、私もそうですよ」
 

9時にライムが出てきてくれたが、マキコが深夜から作業していたというと「私も呼んでくれたら良かったのに!」と言っていた。
 
「メインの2人がどちらも疲れているとまずいし」
「だったら、マキちゃん、少し仮眠してなよ。あと私がやるから」
「そうする!」
 
それでマキコは9時から11時頃まで、和実の自宅の方で仮眠していた。
 

ライブは12時開場13時開演で、シャトルバスも1台のバスで11:20と12:20の2回運行する予定だったのだが、実際にはお店の前には10時頃から人が集まり始める。仙台駅前も人数の増え方が予想以上なので、急遽バス会社と話し合いバス2台にして、10:20 10:50 11:20 11:50 12:20 と5回運行することにした。この時点で椅子席は無理と判断。昨日の午後並べていた椅子を、淳・紺野君・伊藤君・小野寺君・和実の父、の5人で搬出してもらった(和実の自宅に運び入れる)。
 
「工藤〜、ベルトコンベヤが欲しい」
と伊藤君が言う。
「すぐ検討する!」
と和実も答える。
 
そして★★レコードから貸してもらったロープを張る。
 
「そんなものがあったんだ!」
と和実が驚いている。
 
「★★レコードさんから借りた」
「それは素敵だ」
 

外は雪が降っていて、この状態でお客さんをお店の外に待たせておくのは問題なので、予定よりずっと早く、10時半にはお店を開けた。
 
開店した時点では、メイドは和実とライムだけである。その2人が接客に専念することにし、調理は若葉と紺野君・伊藤君で対応する。紺野君と若葉がエスプレッソを作れるが、スチームミルクを使っていわゆるラテアートを入れるのは若葉にしかできない。若葉はローズ、リーフ、(レイヤー)ハートなど10種類くらいの模様を入れられるのだが、後で他の子が混ざっても違和感が出ないように、もっと簡単なデザインのものを含めて多様な種類の模様を作って行った。
 
(後で和実の父が撮影していた写真を見ると実際には若葉は21種類の模様を作っていた)
 
この模様が好評で、いったんドリップコーヒーやカフェオレを頼んでいたのをカフェラテに変えて欲しいという要望が沢山きた!取り敢えず「今日は特別に対応します」と言って変更に応じる。既に1ドリンク飲んでいた人まで追加でカフェラテのオーダーをする。開演5分前までは携帯・スマホの使用を制限しないことにしていたので、これをたくさんSNSに投稿していたようである。
 
10:40頃にクロミが出てきてくれて、すぐ参戦する。彼女に接客を代わってもらい、和実もカフェラテ作りに回る。和実は20種類ほどのラテアートが入れられる・・・と言っていたがこちらもあとで確認すると38種類作っていた。
 
10:50頃、ルシア、リズ、コリンがルシアの車に相乗りして出てきてくれたので、ちょうど第1便のバスが10:55頃到着したのにうまく対応することができた。この3人に接客を任せて、ライムとクロミもカフェラテに回った。ライムは6種類のラテアートが入れられるし、クロミも(普通の)ハートとリーフなら作れる。
 
「なんかカウントダウンライブの時より忙しい気がする」
「メニューが多いからね」
 
やがてマキコが起きてきたので、カフェラテ担当は和実・若葉・マキコ・ライムにして、クロミもオムライスとハンバーガーに回ってもらった。クロミも半熟の卵を焼けるので、こちらの生産能力がかなり上昇した。
 
11:20くらいからフードの注文が結構増え始める。唐揚げとフライドポテトは見かねて参戦した和実の母が揚げ、オムライスとハンバーガーは紺野君・伊藤君・クロミの3人で作る。もっとも半熟で卵を焼いてライスの上に乗せられるのは紺野君とクロミの2人である。オムライスの上に文字を書くのはコリンの担当にした。第1便のバスで来た人たちまでは希望を聞いて単語や絵を入れることができたものの、その後は個別対応困難になり、全て焼き芋の絵(ボニアート・アサドにちなむ)にさせてもらったが「可愛い」といって、結構好評であった。一方小野寺君にはエントランスの所に立っていてもらった。いかめしい顔の男性が立っているだけで、結構トラブル防止の効果がある。
 

12:30にフード類はオーダーストップとなる。12:45にカフェラテをオーダーストップにする。本当は12:40に停めるつもりだったが、仙台駅からのシャトルバス最終便が12:42くらいに到着したので、その人たちのオーダーまでは受け入れた。12:52くらいにエスプレッソとジュースもオーダーストップにして、その後はドリップコーヒーとカフェオレ、ミルクと豆乳にさせてもらった。10代の子が多いだけに、オーダーの大半がカフェオレになった。
 
12:45以降手の空いた子がゴミ回収に回る。この時間帯はトイレに行く客も多い。列が凄いので2階のトイレも開放した。2階のトイレはこういう場合に使えるように1階からアクセスしやすい位置に設置している。共用だが表側に小便器、裏側に個室が並んでいる(メイド控室から利用しやすいようになっている)ので、アコーデオンカーテンを閉めて男女を分離する。そして女性客は通常は開放していない裏側の階段から誘導した。
 

 
客がメイド控室に入り込まないように、リズが階段そばに立って見ていたのだが、性別が微妙な感じの客にも声を掛けたりする。
 
「ごめんなさい。私、ニューハーフなんです」
「でしたら、問題無いですよ。ごめんなさいね」
などという会話を5回もしたらしい!
 
1人、ニューハーフではない単純な女装者さんがいて、その人には申し訳ないですが、1階の多目的トイレをお使い下さいと誘導した。
 

予定より5分遅れて13:05に開演する。
 
入場者は365人に達している(希樹が「1年の数だ!」と喜んでいた)。
 
カウントダウンライブではカラオケで歌ったのだが、この日は彼女たちの友人で作っているガールズバンドが友情出演して伴奏してくれることになった。このバンドはまだ名前が無かったのを急遽、エンパナーダと命名した。エンパナーダとは南米の具入りパンである。よくミートパイと紹介されるが、見た目は巨大な餃子である。
 
なお今日の音響と照明は★★レコード仙台支店の技術者さんがしている。社員なのでタダで使えるのが良いところである!
 
ボニアート・アサドは元々実はももクロのコピーをしていたので、この日の演奏も、最初に自主制作で制作していたCDの曲『リオデラプラタ−銀の川』と『やきいも』を歌った後は、ももクロの曲を多く歌う。
 
ももクロの『Z女戦争』『行くぜっ!怪盗少女』と10代ならではの歌を歌い、Dream5の『キラキラ Every day』『ハッピーデー』で元気よく、Perfumeの『願い』(ヴァイオリン付き)と『Night Flight』で聴かせて、Baby Metalの『ギミチョコ!!』『おねだり大作戦』で盛り上げてから、ももクロに戻り『GOUNN』『天手力男』で戸惑わせる!?。
 
デビュー予定曲で東城誠一さん(実際に書いたのは樋口花圃さん)から頂いた『暖かい心』、賀茂&大裳(葵照子&醍醐春海)の『六合の飛行』を歌った上で最後はももクロの『ワニとシャンプー』で笑いを取って締めた。
 
アンコールで再度『リオデラプラタ−銀の川』を歌った。
 
MCを交えた1時間半ほどのステージは物凄い盛り上がりようであった。既にこの日が奏和の誕生日と知っていたファンも結構いたようでアンコールの時にプレゼントを渡す子もあり、奏和本人が受け取って「ありがとう!」と言って握手していた。
 
(混乱防止と安全のため、次回からはプレゼントする人は事前申告制ということにさせてもらい公式サイトとクレールのサイトで告知した)
 

観客の男女比は男子7:女子3という感じで、
 
「意外に女性ファンが多かったですね〜」
 
と和実は米長さんと話したが、この女性比率の高さは、このユニットがデビューした後も続き、女性ファンの多い女性アイドルユニットとして、ボニアート・アサドのひとつの特徴となっていく。
 
なお今回のギャラは365人入ったので事前の取り決め通りなら36500円であったが、和実はケイに電話して許可を取った上で「こけら落とし記念」と称して48000円払った(3分割できるように3の倍数にした)。ケイは人気があがったらもっと払っていいよと言っていた。プロダクションではマージンを取らずに全額を3人に還元したので
 
「お年玉!お年玉!」
と言って喜んでいた。
 
彼女たちは実際には、伴奏者3人とあわせて8000円ずつ6分割したようである。
 
なお、会場で販売した自主制作CDやグッズの売上げは通常の規定通り処理することになる(自主制作なので売上げの約4割を本人たちを含む制作者グループがもらえる)。これについてはクレールはマージンを取らない。逆に最初の1ドリンク以外に客が注文したフードやドリンクの売上げはクレールが全額取りマージンの計算対象外である。
 

オールジャパンは1月3日に2回戦の8試合が行われた。社会人選手権から勝ち上がった玲央美たちのジョイフルゴールド、暢子たちの40 minutesは今日の登場である。結果は下記の通りである。左側が1回戦を勝ち上がったチームで右側がこの日初登場のチームである。
 
中国(岡山H女)×−○高校(愛知J学)
北海(クロック)×−○社1(JoyfulGo)
関東(Rocutes )○−×大2(東京MH大)
九州(福岡W付)×−○W10(HighPres)
東海(岐阜F女)○−×W09(フリュゲ)
大4(東京W大)○−×大3(大阪HS大)
東北(山形D銀)×−○社2(40minute)
大7(茨城TS大)○−×大1(栃木K大)
 
今年は勝上り組と不戦勝組の対戦は4勝4敗であった。
 
第1試合は高校生同士の対決となったが、インターハイ覇者の愛知J学園の貫禄勝ちとなった。
 
ジョイフルゴールドもクロックタワーに圧倒的な実力差を見せのて勝利である。クロックタワーには札幌出身の選手が多く、札幌P高校のOGも入っており、やはり北海道出身の選手が多いジョイフルゴールドとはお互い旧知の者も多い。試合前に手を振り合っていたし、終了後もハグしたり握手したりする姿が多数見られた。
 
ローキューツは大学2位の強豪東京MH大と激しい戦いをしたものの僅差で試合を制した。
 
福岡W大附属高校(旧福岡Q女子高)とプロのハイプレッシャーズの試合は白熱した試合となった。途中まではW大付属がリードしていたのだが、後半ハイプレッシャーズは控えポイントガードの松前乃々羽が意表を突くようなトリックプレイを連発。心理戦の経験が浅い女子高生チームを自滅に導いてしまった。
 
乃々羽は「高校生相手におとなげないと非難されそうだけど、横綱相撲ができる相手ではなかった。彼女たちは強かった」とインタビューに答えて厳しい表情で語っていた。
 
岐阜F女子高はプロ下位のフリューゲルローストに快勝した。
 
東京W大と大阪HS大の大学生対決。この日奈々美はとうとうスターターに指名された。そして短い休憩をはさんで全ピリオドに出場。途中からマッチアップしてきた相手エースを翻弄。ひとりで30点あげる活躍で勝利をもぎとった。
 
40 minutesと山形D銀行は日常的に交流を持っており、お互いに選手を留学させたり、練習試合もたくさんしている。お互い手の内を知り尽くしている相手だけに実力と実力をぶつけあう試合となったが最後は4点差で40 minutesが勝利した。
 

そして3日目の1月4日。とうとう千里が所属するレッドインパルスが登場する。
 
12:00,14:00からの試合はこのようになった。左が勝ち上がりチーム、右がプロ上位である。
 
愛知J学×−○W01(サンドベージュ)
JoyfulGo○−×W08(ステラストラダ)
岐阜F女×−○W03(ビューティーマジック)
東京W大○−×W06(ブリリアントバニーズ)
 
高校女王の愛知J学園もプロ女王のサンドベージュには全く歯が立たなかった。ビューティーマジックも岐阜F女子高校の挑戦を退けた。これで高校生チームは全部消えた。
 
ジョイフルゴールドはステラストラダを粉砕した。実際問題としてジョイフルゴールドや40 minutesはプロ中位くらいの実力を持っている。ステラストラダには千里の弟子・神野晴鹿がいるが、同じく千里の弟子で、晴鹿のことをよく知っている湧見昭子が張り付いて仕事をさせず、晴鹿のスリーはわずか2本に留まった。
 
東京W大は恐らくプロ側がノーマークであった奈々美の活躍でWリーグ6位を倒し、BEST8に進出した。大学生チームがBEST8に進出したのは2013年の茨城TS大学以来4年ぶりである。ブリリアントバニーズの田原監督が「参った!」という顔をしていた。
 
16:00からの試合は次のようになった。
 
ローキューツ×−○W05(ブリッツレインディア)
ハイプレッシャーズ○−×W04(エレクトロウィッカ)
 
ローキューツはプロ5位のブリッツレインディアの横綱相撲に敗れた。今年のローキューツはBEST16で終わった。中心選手の須佐ミナミが悔しそうな表情でコートを見つめていたのが印象的であった。
 
そして・・・Wリーグ下位常連のハイプレッシャーズが上位常連のエレクトロウィッカに勝ってしまった。
 
前半、乃々羽は昨日のW大付属で見せたような相手の意表を突くトリックプレイをどんどん繰り出し、まだ充分エンジンが掛かっていたとはいえないエレクトロウィッカの若手選手たちを翻弄。思わぬ大差が付いてしまう。エレクトロウィッカは後半ベストメンバーを投入して全力で追いかけるも、最後1点届かず、まさかの3回戦敗退となった。
 
エレクトロウィッカは昨年の準優勝チームであり、昨年もハイプレッシャーズと当たって、その時は76-44のダブルスコアで勝っていたのに、今年は61-60で敗れ去ってしまった。
 
試合が終わった時、花園亜津子も武藤博美も馬田恵子も顔面蒼白であった。加藤絵理も中丸華香も呆然としていた。一方勝ったハイプレッシャーズの乃々羽はこうコメントした。
 
「プロの試合運びじゃないと非難されそうだけど、まともにやって勝てる相手ではないから、とにかく引っかき回した。多分同じ方法は2度は通じない」
 

そして今日最後の時間帯、18:00からは次の2試合が行われる。
 
40 minutes − W07(フラミンゴーズ)
茨城TS大学 − W02(レッドインパルス)
 
この時点で千里は大いに意欲が減退していた。決勝で戦おう、スリーポイント女王争いしようと言っていた花園亜津子が、目の前でまさかの初戦負けしてしまった。
 
それで腕を組んでコートを見つめていたら、いきなり頭の上から冷たい感触がある。
 
「きゃっ」
と声をあげる。
 
広川キャプテンがペットボトルの冷水を千里の頭から掛けたのである。
 
「おい」
「はい」
「余計なことは考えるな。勝てばいい」
「はい!」
 
それで千里もスイッチが入る。
 
この日の試合では千里はひたすらスリーを撃った。2ポイントでもいいようなところでもわざわざスリーポイントラインの外側まで出てスリーを撃つ。それで試合が終わってみると1人で30点取っていた。大学生チームにダブルスコアで勝って準々決勝に駒を進めた。
 
なお、40 minutesも古豪フラミンゴーズを1点差で倒して勝ち上がり、準々決勝に進出した。2試合連続の僅差勝ちである。
 
これで明日の準々決勝はこのような組合せになった。
 
ジョイフルゴールド−サンドベージュ
東京W大−ビューティーマジック
40 minutes−レッドインパルス
ハイプレッシャーズ−ブリッツレインディア
 

1月2日のボニアート・アサドのライブが終わった翌3日、和実はボニアート・アサドのマネージャーの米長さん、TKRの山崎さんと3者会談をして、当面クレールでは土日限定でライブを実施することにした。ボニアート・アサドは学校の試験前の時期(2.18)を除いて土曜日の昼に登場することにし、また日曜日にはTKRの東北在住アーティストを呼んで無料ライブ(但し1ドリンク制)をさせたいというのである。
 
実はクレールのような条件でライブができる所が存在しないというのである。
 
普通のライブハウスだと、そもそも夕方から夜9時くらいの運用が多いが、セミプロのアーティストは交通の関係もあり、むしろ昼間やりたい(夜やると自宅に帰られなくなり翌日出勤できない)。ノルマ&バック制だとチケットを売らなければならないので無料イベントができない。貸し切りにすると無料でもできるが、結構な使用料金を取られる。正直、TKRが抱えているアーティストの多くは有料ライブをしようとするとチケットが10枚売れるかどうかも微妙なので、販促と割り切って無料ライブにした方が集客できて良いのだが、その場合、会場使用料がネックだったのだという。
 
「だいたいライブハウスの貸し切り料金って200-300人クラスの所で10万円くらい掛かるんですよ。公共のライブホールの場合も基本使用料は2万円くらいの所がありますが、楽屋使用料、ピアノ使用料、音響や照明の使用料とかを入れると結果的には6−7万掛かってしまうんですよね。ところがクレールさんは、楽屋も音響・照明もタダで使わせてもらえるし。逆にギャラまで頂いてしまって。それにあそこは普通のライブハウスよりずっと音響がいいですよ」
 
と山崎さんは言う。
 
「まあ音響や照明の設備の多くはケイさんのコネで安く譲って頂いたものですしね。それにライブハウスは一般にそういうのの使用料は取りませんよ」
 

音響に関しては、ケイ(冬子)から色々言われたからなあと和実は思う。
 
実は昨年9月に、だいたいの設計をした後で音響のことではやはり音楽家の意見を聞いた方がいいかもと思い、東京に出て冬子に相談したのである。それで客席の形を末広がりにし、天井を透かし天井にして、床にはスロープを付け、壁・天井・床に吸音素材を使用するという設計になった。
 
ついでに末広がりにした結果、建物の大きさまで変わった!
 
そしてその結果2階のレイアウトも変わったのである。
 
なお、スロープ床はテーブルを置いて通常の飲食店として営業する時は取り外す。そうしないと、そのままテーブルを置いてしまうと、テーブルの上に置いた物が転がり落ちる(あるいは滑り落ちる)からである!
 
床交換という考え方は、当時冬子や千里たちが建設中であった体育館のフロアを、使用する競技(バスケかバレーかテニスか)によって交換する(タラフレックスというらしい)仕様にしたので、そこからこちらも考えたらしい。
 
スロープ床の設置・撤去は5人くらいの男性がいれば、1時間で設置できるし、30分で撤去できるというシミュレーション結果が出ていた。1月2日は疲れていたのでスロープにしなかったが、次はするつもりである。
 
そういう訳でクレールの客室は、余計な反響が起きず、広い空間で演奏しているように聞こえる響きになっているのである。
 
エヴォンは既存の建物を使ったので電気的に音響調整をしたが、こちらは建物の構造的に音響が考慮されている。騒音問題にしても、建物が完成した所で町内会の人たちを招いて、中で大音量でエレキギターを鳴らしても外に全く音が漏れないことを確認してもらい納得してもらっている。
 

この日の仙台支店での打合せでは、
 
「取り敢えずグランドオープンまでと、それ以降で条件を変えさせて下さい」
と和実は言った。
 
実は紺野君から2日のイベントについては「これでは採算が取れないよ」と苦言を呈されたのである。一応単純な収支では黒字になったのだが、本来なら計算に入れるべき《内輪》の人間の労賃まで入れると実は赤字であった。さすがに和実も今回はアバウトすぎたと反省したのである。
 
「グランドオープンした後でしたら、通常営業の中でのBGM演奏として演奏してくださる場合は、こちらの評価ランキングによって1000円から1万円程度の範囲でギャラは考えさせて下さい」
 
「それってノルマとかは無いんですよね?」
「ありません。うちは基本的に飲食店ですので、ミュージックチャージのようなものは想定していません。ですからあくまでお客様へのサービスとしての演奏ですね。だから逆にお客様に聞かせるレベルに到達していないアーティスト、またパフォーマンス内容がカフェには馴染まないものはお断りするかも知れません」
 
「なるほど、なるほど」
 
「取り敢えず、ボニアート・アサドの専用イベントは彼女たちが期末試験直前になる2月18日以外の毎週土曜日13:00-14:30にやることにして、日曜日の12:00-18:00くらいに、他のアーティストさんのジョイント・ライブができるといいかも知れないですね。実はこちらのクルーに女子大生が多いので土日でないとクルーが使いにくいんですよ」
 
「その場合、全部で何回できますかね?」
「今週からやるとすると、1.08 1.15 1.22 1.29 2.05 2.12 2.19 2.26 3.05 3.12 3.19 3.26 と全部で12回ですね」
 
「そのくらいやれるといいなあ。12:00-18:00というと、アーティストとしては5組ですか10組ですか?」
「それはお任せします。1時間場を持たせられるアーティストなら1時間、30分くらいが適当な人なら30分」
「30分持たせられるアーティストなら大量にいますから、声を掛けますよ」
 

「それで今回のイベントは採算を考えなさすぎといって経理担当から叱られまして」
と和実は言う。
 
「やはり、チャージを掛けられます?」
と山崎さんが訊く。
 
「これちょっとパソコンで計算してみたんです」
と言って、ノートパソコンの画面で計算表を見せる。
 
「この表の上の方が日曜日のイベントを想定したもの、下の方が土曜日のボニアート・アサドを想定したものです」
 
「なんかいい感じの数字が出ていますね」
と言って山崎さんはミニマムチャージ額と、ペイバック率の所を見ている。
 
「そういう訳で結果的には日曜のイベントは予想客数を100人としてクルー2人で乗り切れます。すると労賃込みのドリンク原価が293円になるので、販売価格を500円にした場合、ミニマムチャージが19300円、バランスラインが94人で、それに満たない場合は不足人数1人あたり207円のチャージをお願いし、越えた場合は1人あたり68円ペイバックできます」
 
「わりとペイバックが出ますね」
 
「ボニアート・アサドの場合は、労賃込みのドリンク原価は175円になるので販売価格を先日と同じ400円にしても、ミニマムチャージ22725円、バランスライン101人になります。これに満たない場合は1人あたり225円のチャージをお願いし、越えた場合は1人あたり74円ペイバックできます」
 
「さすがに1人あたり100円は出ませんでしたか!」
「すみません。この数字が限界です」
「いやいいですよ。こないだはもらいすぎた気もしましたから」
と米長さんも言っている。
 
「ちなみにこれはドリンクを提供するためのスタッフなので、それ以外にフードを提供するスタッフも出てきますから、多少の忙しさの増減はそちらをクッションにして調整可能だと思います」
 

「でもボニアート・アサドの方がドリンク原価が安くなるんですね?」
「クルーの稼働時間が短いので」
「あ、そうか!」
「それとたくさん来てくださるので、売上げが大きくなる効果もあります」
「なるほどー!」
 
「ボニアート・アサドについては学割を適用するという話にしてもいいですね」
「あ、その言い訳は使える」
 
「学生割引については、身分証明書で学生であることを確認しますか?」
と米長さんが言うが
 
「心が10代であればいいことにしましょう。心がおとなの人は自主的に500円払ってもらうということで」
 
と和実は言う。本当はいちいち身分証明書を提示させるなんて面倒くさいと和実は考えている。和実はアバウトな性格である。
 
「ああ、それでいいですね」
「心が10代なら10代扱い、心が女の子なら女の子扱いということで」
 

「昨日のイベントではけっこうそういう子がいたみたいですね?」
と山崎さんが言う。
 
「たぶん10人以上いましたよ。逆に心は男の子という子も私が気付いた範囲で3人居ましたね」
「まあ、そういう時代なんでしょうね〜」
と米長さんも言っていた。
 
「そういえば、ひょっとして、月山さんの共同経営者の方も・・・・」
「ええ。戸籍は男だけど心は女という人ですね。戸籍が男だから、私と法的にも婚姻しているんですよ」
 
「そうだったんですか!最初はふつうの女性かと思っていたのですが、途中であれ?っと思って」
「まあ女子トイレで悲鳴をあげられたことはないそうですけどね」
「へー。まあ心が女なら、女子トイレ使ってもいいんでしょうね」
 
「一応不自然ではない女の格好であればですね。見るからに男という格好で心は女だからと主張されても困りますけど」
 
と和実は言う。
 
しかし・・・淳が性別を疑われるおかげで、自分は全く疑われない!と和実はやや心に冷や汗を掻きながら考えていた。
 
 
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