【△・男はやめて女になります】(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-04-26
タイトルは高橋留美子『うる星やつら』の中の『デートとイルカと海辺の浮気』に出てくるイルカ♂のセリフ。イルカは海辺で楽しそうに遊ぶ人間たちを見ていいなあと思い、ラムに人間に変えてもらったものの、人間の男があまりにも大変な生き物であることを痛感して、↑のセリフで女の子に変身してしまう。
『うる星やつら』には竜之介みたいなキャラもいるし、性転換銃が出てくるし、更には『らんま1/2』は丸ごと性転換キャラの話だし、高橋留美子さんって、こういうのお好きですよね。
「いわゆるMTFと呼ばれる人たちは、男だったのが女に変わるのではないと思う。元々女だったのが、生まれる時に間違って男みたいな身体で生まれてきてしまっただけ。それを本来の女に戻すだけだと思う」(山吹若葉・談)
1952年にデンマークで性転換手術を受けて女性に生まれ変わり、その後の性転換ブームを引き起こしたクリスティーヌ・ヨルゲンセン(1926-1989)は「神様がうっかり間違ったのを訂正するだけ」と自分の手術について手術前夜に書いた母への手紙で語ったという。
2019年5月1日、12人の眷属と8人の“乙女”たちに会う旅を終えて東京に戻った千里1は長い髪をバッサリ切ってしまった(ヘア・ドネートした)。
そして都内の不動産屋さんに行くと、板橋区で25坪の台形状の土地(角地)を衝動買いし、そこから紹介された工務店に行って、建坪10坪程度のバスケット練習用の家(用途は住居)を建てて欲しいと言った。
ここは土地が台形状で11.2m x (7.2m・8.4m)なので、広さは
(7.2+8.4)×11.2÷2=87m
2になる。建蔽率40% 容積率60% なので、建て面積34m
2, 延べ面積52m
2の建物を建てられるので、
1階9.8m×3.3m(=32.34m
2)
2階4.9m×3.3m(=16.17m
2)
の家を建てて欲しいと言ったのである(建物は敷地境界から50cm以上
空けて建てなければならないので9.8mの家を建てるには最低10.8m以上
のスパンがある土地が必要で、千里はそういう土地を探したのである。それはいいのだが、千里が
「1階の天井の高さを14mにして欲しい」
と言ったら、
「ここは住宅地なので、そんな背の高い家は建てられないんですよ」
と橋池という名札を付けた27-28歳くらいの、不動産屋さんのお姉さんは言った。女性のスタッフにはスカートを穿いている人が多いが、彼女はズボンだ。どちらも許容されている会社って、いいよねと千里は思った。ついでなら男性のスカートも許容したらいいのにと思うが、そういう会社はさすがに少ないだろう。
橋池さんは説明した。
法的な高さ規制があり、
(1)道路の向こう側の端から勾配125%で引いた斜線より下までしか建てられない。
(2)北側に隣接する土地との境界線から、5m立ち上がった線から始めて、勾配125%で引いた斜線より下までしか建てられない。
この土地は北側に道路があるので(2)の北側斜線規定は考えなくてよい。(1)についてだが、北側の道路の幅が6mなので、道路から例えば0.5m下がった場所に家を建てる場合で、6.5m×1.25= 8.125m, 1m下げて建てると
7m×1.25=8.75mで、屋根がこれ以下になければならず、天井と屋根の間を50cmとして、境界から1m下げた場合でも8.25mが限界だという説明であった。
それで彼女と色々話していて、地下室を作ることにした。屋根までの高さは8m程度として、地下室を作る場合、延べ床面積の1/3までは容積率に算入しないので、結果的に1階9.8m×3.3m, 地階9.8m×4.5mの家を建てられることになる。
「そんな広い地下室作ってもいいんですか?」
と千里は驚いて尋ねる。
「建築費は割高になりますが」
と橋池さん。
「それは全然構いません」
と千里は答えた。1500万円の土地をポンと現金で買ったことはこの工務店にも伝えられているようで、向こうもこちらをお金持ちの奥様と思っている感じだ。
実際には、地下室との階段1.0m×3.0m、および工務店さんが絶対つけた方がいいというので(長期ローンで買おうという人には多分勧めない)付けることにしたエレベータ1.2m×1.2mを含めて次のような構成にすることにした。
階段(1F) 1.0m×3.0m = 3.0m
2
階段始端 1.0m×1.0m = 1.0m
2
階段終端 1.0m×1.0m = 1.0m
2
Elevator 1.2m×1.2m = 1.44m
2
階移動部分 6.44m
2
1階居室 9.8m×2.9m = 28.42m
2
1階合計 28.42+6.44= 34.86 (39.9%)
地階居室 9.8m×4.3m = 42.14m
2
延べ面積 = 34.86+42.14=77.00
容積率計算用延面積 = 77.00 ×2/3 = 51.33 (58.8%)
それで↓のような家を建ててもらうことにしたのである。
結構微妙な計算が必要なので、橋池さんはExcelを使って何度も数値をいじりながら、千里が満足するレイアウトを作ってくれた。結局3時間くらい店頭で話していた。
千里は長時間対応してくれた橋池さんによくよく御礼を言い、握手をして別れた。
橋池真澄は、その日、お金持ちそうな若奥さんが建てたいという一風変わった家(?)の商談をまとめた後、急にお腹の調子が悪くなったので、店長に言って定時で帰らせてもらった。
何か変な物でも食べたかなあ、などと思いながら、夕食も取らずに正露丸を飲んで寝る。
最近残業が多かったせいか、真澄は朝まで一度も起きずに眠っていた。
翌日、なんだか爽快に目が覚めた。エネルギーが満ちあふれてくる感じだ。「よし、治った。やはり正露丸効くなぁ」と思い、かなり強い尿意があるのでトイレに行き、便器に座る。
おしっこの出る感じが変だ。
へ?
と思って、自分のお股を見た真澄は
「うっそー!?」
と叫んだ。
その日真澄は病院に行ってきたいので、午前中休むと会社に連絡をしてから、午後になって、スカート姿で会社に出社した。
「もう大丈夫?」
と店長が心配して尋ねる。
「はい、もう問題ないです」
「良かった。何だったの?」
と尋ねてから、真澄がスカートを穿いてることに気づく。
店長は顔をしかめて言った。
「君、お化粧とかまでは許してるけど、スカートはやめてって言ってたじゃん。一応君、男性なんだからさ」
「それが私、医学的に女性なんだそうです。これ病院で頂いてきた診断書です」
と言って真澄は午前中に病院でもらってきた診断書と、自宅のPCで勝手に作ってきた「性別変更届け」を店長に渡すと、驚愕している店長を放置して、自分の席に行き、書類入れに入れてある書類の処理を始めた。
隣の机の眉香ちゃんが
「これからはスカートで勤務するの?応援するよ」
と言ってくれたので
「ありがとう。午前中、私宛ての電話とか無かった?」
と尋ねた。
千里1の“暴走”がいつ始まったのかについて、後で千里2・3および、きーちゃん、こうちゃん、くうちゃん、たいちゃん、いんちゃん、すーちゃん、などで話し合ってみたのだが、どうもはっきりしない。
(2018年)12月に千里1が和実のお見舞いに来た時、強そうな妖怪を一目見ただけで粉砕したのを《すーちゃん》が見ていたのが、おそらく最初の霊力行使ではないかというのが有力な説である。千里1が正気を取り戻したのは、2018年8月23日に緩菜が生まれた時からなのだが、その時点では、まだかなり弱々しい感じだったと、きーちゃんは言う。
しかし12月に妖怪粉砕とかしていたのなら、その頃既に暴走が始まっていたことになり、2019年4月に千里1が**の法を使って人を性転換するのを千里2と3が相次いで見て、たいちゃんに警戒させるようにするのより前に、既に“犠牲者”が出ていた可能性もあるものの、調査不能なので放置することにした。
「羽衣さんが千里1の霊的エンジン(羽広が言う所の“天女の羽衣”)を修復して戻したのはいつだったっけ?」
「あれも12月だったはず」
「だったら、その天女の羽衣が帰ってきてから霊的な力が回復するのと同時に暴走し始めたのかも」
「パワーだけ戻って来て、まだ制御能力が回復してなかったからかな」
「要するに羽衣のせいか?」
「まあ制御でききないのが悪い」
「じゃ制御できるほど霊力が回復したら停まる?」
「それって神仏の助けが必要な気がする」
「巡礼でもさせるか?」
「その手はあるよね。信次君の菩提を弔うのにとか言って」
「どっちみち、これ2番・3番の各々に、毎回説明するの大変だよ。あの2人手打ちさせない?」
「もうそろそろ手を組んでもらっていいよな。お互い勝手に相手のふりして周囲を混乱させているし」
「タヌキとムジナの化かし合いだよな」
「それ普通、キツネとタヌキの化かし合いって言うんだけど」
「そうだっけ?」
「結局いつ会ったのがどちらの千里なのか、考えてみるとさっぱり分からん」
と、みんな言っている。あの2人にはほぼ全員欺されている。
「じゃ、私がセッティングするよ。2人ともそろそろ頃合いだと思っていると思う」
それで《きーちゃん》が千里2、《すーちゃん》が千里3に、この話をし、双方ともこれからは協力することに同意した。
「まあ和実の妊娠維持では実質協力してたけどね」
と千里。
「確かにそうだった」
と《すーちゃん》
「でも1番にいい所持っていかれた」
「暴走してる霊能者は凄いね」
「私は霊的な力とか無いから、そのあたりよく分からないけど」
「あのさぁ。話が面倒になるから、今更そういう嘘は言わないでよ」
と《すーちゃん》は文句を言った。
ふたりは5月17日の深夜、釈迦堂PAにアテンザとオーリスで乗り付け、会うとハグして握手した。むろん性転換はしない・・・・・と思ったら
「あ、3番、女の子になってる」
と抱き合った時の感触で気づいて2番が言った。
「ふふふ。1番と接触したから」
「よく気づかれずにやったね」
「取り敢えず私たちが接触しても対消滅はしないことが確認できた」
「それはいいことだ」
「ところでミューズ1・2ってどこにあるの?」
「知ってるくせに・・・それより松本花子の本体はどこにあるのさ?」
「知ってるくせに・・・」
お互い意味ありげな笑顔で相手を見る。
「でもこれからは協力してやっていこうよ」
「それは同意だ」
「お互い生理中に、相手のリーグの試合に出たりとか」
「いいんだっけ?そんなの」
「私たち同一人物だし」
「私たちの生理周期ってずれてる?」
と《いんちゃん》に尋ねる。
「最初は同じだったんだけど、今は、ずれてる」
「じゃそれできるね」
「取り敢えず20日からの合宿、たまには2番が出てみない?」
「それもいいかな。2年ほど代表には参加していなかったし。代わりにマルセイユのチーム練習に顔出してよ」
「いいよ」
千里3は5月6-12日にNTCで今年の第3次合宿をしていた。次は5月20日から6月3日まで第四次合宿に入り、5月31日と6月2日には、茨城県の“アダストリアみとアリーナ”でベルギーとの友好試合をすることになってる。それで2番は久しぶりに日本代表の試合に出場することになった。
「取り敢えず1番の暴走のアフターフォローについては手分けしてやっていくということで」
「じゃ、きーちゃん・たいちゃんが共有しているGoogle Keepを私たちも共有できたらいいけど。あれ他の人も共有できるんだっけ?」
と千里2が尋ねる。
「共同編集者に指定すればできるよ」
と《きーちゃん》。
「じゃ設定よろしく」
「後で共有に使うスマホを私に貸して。今はお互い見せたくないだろうし」
「了解。じゃ後で」
「フォローに行く時も『今から行くよ』って予めKeepに書こうよ」
「それがいいね。何度か無駄足した」
「うっかり2人とも性転換しちゃって、1番が女に変えたのに、いったん男に戻ってからまた女になっちゃった人は、結局やはりこの方がいいと言ったね」
「あれどうしても男に戻りたいと言ったら、悔しいけど羽衣さんか虚空に頼むしかないと思ったけど、他人に頼まずに済んでよかった」
「羽衣さんはどこに居るか天津子ちゃんとかにも分からないみたいだし、虚空はきまぐれだし」
「その場合は1年待ってもらうしかない」
(2人はこの段階では1番なら1年経たなくても再度性転換できることを知らない)
「でも結局、元の性別に戻してって人は居ないね」
「みんな喜んでいるよね」
「もう戸籍上の性別を訂正した人も何人か」
「今年は裁判官、忙しくなるね」
ともかくもそれで2番と3番は2017年4月以来の「キツネとタヌキの化かし合い」を終えたのである(建前的には?)。
5月13日に1番が、かほく市で性転換させてしまった依田怜については2番がフォローすることにし、5月29日に金沢市で千里2が依田夫婦をキャッチ。依田を男に戻すとともに、奥さんは女に変えてあげた。
依田から彼の生徒に霊障が出ている子がいると聞き、東京に戻るとその子の除霊もしてあげた。千里2がこの作業をしている間は3番が合宿に出ており、玲央美が顔をじろじろ見て
「やはり交替で合宿してる」
と指摘された。
「レオちゃんもたまにアキを代役にしてるじゃん。あの子もその内代表候補合宿に呼ばれたりしない?」
「男子では女子合宿には参加できない」
「そのくらい女の子に変えてあげてもいいけど」
「女の子にしてあげるなら、まずハルちゃんの方を」
(そのハルは9月に千里1と接触し、性転換されてしまうのだが、千里たちは話し合いの末、放置することにした!ハルは、ちんちんが無くなっていたのでびっくりしたものの「無くなって嬉しい」と言って、放置していた。彼女は半陰陽のケースでは20歳になる以前にも性別の訂正ができることを知らない)
きーちゃんは、康子の友人を唆して康子に坂東三十三ヵ所の巡礼を勧め、5月下旬千里もこれに同行した。それで千里の霊的能力はあがったように見えたが、暴走は止まらなかった。
そこで西国三十三ヵ所にも行かせ、千里1は音楽能力も霊的能力も更に高まる。ここまで能力があがれば充分自分の能力をコントロールできるはず、と《くうちゃん》も言ったが、やはり暴走は止まらなかった。
5月31日と6月2日のベルギーとの試合には結局千里2が出場した。
ベルギー代表には、フランスリーグで知っている選手もいるので、千里2も玲央見も手を振っておいた。試合は日本が2戦とも勝ったが、千里が普通ならスリーを狙いそうな所で、敵陣にペネトレイトしてレイアップで確実に叩き込むというプレイを見せるし、大型のベルギー選手と身体のぶつけ合いも厭わないので
「今日はプレイスタイル変えてきたね」
と監督から言われていた。ベルギー側はフランスリーグでのそういう千里のプレイを知っているので、むしろスリーを撃たれた時に「あっ」と声を出したりしていた。
6月上旬、美映は唐突に緩菜の(性別に関する)精密検査を受けてと言われて紹介状も(昨年8月に)もらっていたことを思い出し、緩菜を病院に連れていった。
焦ったのが《こうちゃん》である。緩菜は実は生まれた直後に去勢しており、本物の睾丸の代わりにダミーが入れてある。更に少々“悪戯”して、陰裂も形成しており、尿道は陰茎(既に陰核程度のサイズに縮小)から分離して、陰裂内に普通の女子のような尿道口として開くようになっている。つまり、ほとんど女子にしか見えない股間形状になっている。
「こんなの医者に診せたら面倒なことになる」
と言っていた時、市川ドラゴンズの青池が
「こんな子がいるよ」
と言って、停留睾丸の男の子を見つけてくれた。名前も環和(かんな)と言って、読みが緩菜と同じである。
「よくそんな子見つけたね」
「これ、母親は女の子として育てようとしている」
「好都合じゃん!」
それで《こうちゃん》はドラゴンズの前橋も巻き込み、緩菜身代わり作戦をすることにしたのであった。
千里1は6月上旬、中古車屋さんに行くと、ヴィッツの2013年型を40万円で買った。
建設中の板橋の練習場に行く時、ミラだとチャイルドシートを2個つけることができないという問題があった。これまでしばしば早月を置いて由美だけ連れてあちこち出かけていたのだが、早月は千里がいないと、桃香からも放置されて御飯を食べられずにお腹を空かせて泣いていたりすることがよくあった。
それで早月も連れていかなければと千里は考えたのである。駐車場も今ミラを置いている月極駐車場にもう1枠借りることができたので、そこに普段は置いておくことにする。
最初はアテンザを使うつもりだったのだが、きーちゃんに尋ねると
「ごめん。今使用中」
と言われることが多いので、眷属の誰かが使っているのだろうと考え、適当な車を1台買うことにした。
この車は1週間ほどの後に受け取ることができたが、その時期千里1はムラーノを使って西国三十三ヵ所をやっていたので、きーちゃんから連絡を受けた千里2が代わりに受けとって、確保している駐車場に入れた。
なお、ムラーノはふだん康子の家近くの駐車場に置いていたし、この時点では6月いっぱいで廃車にするつもりだった。それを譲り受ける手も考えたのだが、貴司との再婚を考えた時、前夫の車を使い続けるのはまずいというのもあった。
1番は西国三十三ヵ所の道中の6月22日、パソコンのバッテリーが全部切れてしまったので、貴司に電話して、そちらの家で充電させてと言った。貴司がおいでというので千里(せんり)のマンションに寄る。美映が敵対的な視線を送ってきたものの、千里(ちさと)が赤ちゃん連れだったので警戒を緩めた。
「作曲家さんなんですか。どんな曲を書いておられるんです?」
などと訊くので、制作中の遠上笑美子に渡す予定の曲を聴かせると
「いい曲書きますね〜」
などと言っていた。
千里が赤ちゃん連れで車中泊で西国三十三ヵ所を巡礼していると言うと
「赤ちゃんが辛いですよ」
と言って、今夜ひとばん泊まっていくように美映は勧めた。千里も疲れが出ていたのでぐっすり眠ってしまったが、千里が熟睡している間、美映は由美にミルクをあげたりしてくれていたようである。
翌朝、朝御飯まで頂いて千里たちが出発する時、美映は荷物を車まで運ぶのも手伝ってくれた。そして、その時、美映は千里の手に接触した。
たいちゃんからの連絡で、千里2と千里3は直接電話で話し合った。
「どうする?」
「放置してもいいんじゃない?美映が男になっちゃったら、貴司も離婚するでしょ?」
「いや、むしろ男の娘は貴司のストライクゾーン」
「そういえばそうだ」
「理想の相手と思われて、本当に好きになられたら困る」
「仕方ない。女に戻すか」
美映は夜中に起きてトイレに行くと、ちんちんがあるのでびっくりする。でも元々男らしい性格である。
「きっとこれ夢だろうし、立ち小便やってみよう」
などと言って、便座に座っていたのをわざわざ立ち上がり、便座を上にあげて立ち小便をしてみた。
「これ楽でいいなあ。男だけこんな簡単におしっこできるってずるい」
などと思う。
さらにちんちんがあるのをいいことに、ベッドに戻ると、貴司を誘惑した。貴司は焦ったものの、ちんちんがある美映は積極的である。貴司を押し倒して、やっちゃった!
貴司の中で射精したら物凄く気持ちいい。
「男っていいなあ。こんな気持ちいいことできるなんて」
とは思ったものの、腰を動かすのは結構しんどいと思った。スポーツウーマンの美映だからできたが、普通の女子はこんなに腰を動かせないかもという気もした。
「レスビアンの子とか、よくこんなのやるよ」
とも思った。
実を言うと、これは貴司と美映が結婚していた期間の唯一の性交である。
千里3は美映がいる時に貴司宅に無断侵入するのは気が引けたものの、緊急事態なので、きーちゃんに転送してもらい、美映と貴司が一緒に眠っている寝室に入り美映にタッチして再度性転換させた。
2人がくっついて寝ている所は、さすがに物凄く不愉快だったので、貴司のヴァギナにキュウリ!を突っ込み、更に1発殴ってから姿を消した。
貴司は殴られて思わず「痛いっ」と声をあげて目を覚ます。お股を触ったらキュウリが刺さってるのでびっくりして抜く。そして“偽おちんちん”が外れていることに気づいたので、慌ててトイレに行って消毒の上再接着した。シンナーやアルコールの臭いがするので、トイレの換気扇を掛け、トイレのドアは開けたままにしておいた。
一方、美映は朝起きたら、ちんちんが無くなっていたので「やはりあれは夢だったかと思う。まあでもちんちん無くなったよかったかも。気持ちよかったけど、あんなのあると面倒そう」などと呟く。ついでに貴司の股間に触って、貴司が男であることを確認した。
「どうしたの?」
「ううん。何でも無い」
貴司も美映にやられたのは夢だと思っている、美映にちんちんがある訳無いし!
この件では眷属たちがこそこそと話し合っていた。
「貴司君ってヴァギナあったの?」
「よく分からない。でもあれは後ろではなく確かに前に入れた」
「千里も間違いなくキュウリを前に突っ込んだ」
「じゃ、やはりあるのか?」
「そんなの付けた覚え無いのに。私はちんちんとタマタマを取っただけだよ」
「それ冷凍保存とかしてるの?」
「それだと組織が壊れかねないから培養液に漬けてるよ」
「培養中に2本に増殖したりして」
「その時は2本とも戻せばいいね」
「しかしそもそも貴司君は千里以外とはセックスできないんじゃなかった?」
「それはあくまで男としてだから、女としてするのは制限に掛からない。女はそもそも立つようなもの無いし」
「貴司君妊娠しちゃったらどうする?」
「産めばいいと思うよ」
「まあそれでもいいか」
ということで放置したものの、貴司は妊娠しなかったので、《きーちゃん》はホッと胸をなでおろした。《こうちゃん》はつまらなそうな顔をしていた。もし子供ができていたら、貴司と美映の間の唯一の子供になるところであった。
ただしその場合、貴司の性別は強制的に女に変更され(子供を産む以上女だと推定される)、千里は貴司と結婚できなくなった可能性もある。
「でも卵巣も子宮も無い(と思う)のに妊娠することはないのでは?」
「そもそも膣が無いはずなんだけど」
「いや、和実みたいな例もあるし」
「あの子は非常識だね」
「千里も非常識だけどね」
《くうちゃん》が可笑しそうにしていたが、その意味は《きーちゃん》や《こうちゃん》には分からなかった。
西国三十三ヵ所を回っている最中の千里1は、6月22日の昼頃から翌朝まで貴司のマンションに滞在したのだが(それで23日夜に美映にトラブル?が発生した)、その23日。夕方、神戸のショッピングモールで食料品の補充をしていたら、阿倍子・京平の親子に遭遇した。結局京平のリクエストで夕食をおごってあげることになる。
ショッピングモール内のトンカツ屋さんで食事をしてからお店を出た所で、阿倍子が知り合いに会ったようであった(本当は待ち合わせていた)。
「あ、お友達?」
「ええ。近所に住んでいるんですよ」
と会話を交わしたが、その女性が何か焦ったような顔をしているのは何だろうと思った。近所ということで、私の車に乗って帰られない?と彼女が阿倍子を誘い、阿倍子も「お願いします」と言っていた。京平もその女性に慣れているようだ。
「私が荷物も持つよ。阿倍子さん、ほんとに腕力無いから」
と彼女は言って、阿倍子が持っていた買い物袋を手に取ったが、その時、そばにいた千里とも接触した。
「あ、ごめんなさい」
「いえいえ」
「だけど阿倍子さん、お友達できてよかった」
と千里は言った。彼女は全く友人がいないのも問題だったのである。
千里1は阿倍子たちと別れた後は、軽く休憩したあと宮津市まで移動してから車中泊した。
「これどうする?」
「晴安を別の千里に会わせる訳にはいかないよな」
「俺に考えがある。千里を呼んでくれ」
「じゃ2番が空いてるから呼ぶよ」
晴安は阿倍子を神戸の自宅まで送っていった後、その夜は阿倍子の家にそのまま泊まった。この時点で晴安は既に妻とは別居しているが、さすがに妻不在中の家に阿倍子を引き入れる訳にはいかないので、ふたりはしばしば阿倍子宅でデートしている。晴安は妻とは現在離婚(条件)交渉中で2人は10月に離婚することになる。
阿倍子が夕食を作るが
「時間かかるからお風呂に入ってて」
と言った。
「うん。先にもらうね」
と言って着替えを持って脱衣室に行く。そして服を脱いだ時、ギョッとした。
「なんでこうなってるの〜〜〜?」
個人的にはこういうことになっているのは嬉しい。でもこれだと阿倍子さんと“できない”よぉ。
取り敢えず浴室に入り、身体を洗うが、大きくなったバストとか、全く形が変わってしまった“あそこ”とかを洗う時、ドキドキした。つい敏感な部分を自分で揉んでみる。女体を充分研究しているので、どうやったら気持ち良くなるかは知っている。でもここを揉んだ時の気持ち良さは想像を超えていた。
こんなに気持ちいいなんて。女の人はいいなあ。
それで結構気持ちよくなった後、髪を洗ってから、今度はあそこにそっと指を入れてGスポットも探ってみた。なんかとても感じやすい部分がある。
いいなあ。なんでこんなことになっているのか分からないけど、個人的にはマジでこういう身体でずっと居たいよぉと思った。
身体が冷えてきたので、湯船に10分近くつかってからあがり、身体を拭いて、洗濯済みのブラジャーとパンティを身につけた。更にスカートタイプのルームウェアを身につけ、着替えた服は洗濯機に放り込んだ。
阿倍子の夕食作りの方は後は煮込むだけになっている。それで交替で阿倍子が入浴した。
晴安は平静を装っているものの困っている。当然今夜は一緒に寝ることになる。それなのにこの身体では・・・・
と思っていた時、ピンポンが鳴る。自分が出るのはまずいかなと思ったものの、阿倍子は入浴中だし、宅急便を受けとる程度なら構わないだろうと思って玄関に出た。
ドアスコープから覗くと、黒い背広を着た中年の男性である。
「はい。どなたでしょう?」
「あなたは神を信じますか?」
とその人物はドア越しに言った。
「すみません。うちは仏教ですから、お帰り下さい」
「あなたは今日身体に異変が起きませんでしたか?」
晴安はドキッとした。
「信じるものは救われます。もしあなたが元の身体に戻りたければ、ドアを全開する必要はありませんから、ドアを少しだけ開けて手を出して下さい。もし今の身体のままで良ければ、私はそのまま帰りますし、あなたは一生女の身体のまま過ごすことができます」
晴安は悩んだ。自分としては女になりたい。というか女の身体のままで居たい。でも阿倍子のことも好きだから彼女と結婚するには男の身体が必要だ。
「戻りたいです」
「では手を出して」
「はい」
それで晴安は鍵を開けてチェーンを掛けたままドアを少しだけ開き、左手を出した。その左手を向こうの人がつかむ。男性だと思ったのに、晴安の手を掴んだ手は女性の手のような感触だった。
「しばらくこのままで。途中でやめると、ペニスもヴァギナも無い身体になります」
それは困ると思って晴安はじっとしていた。
「終わりました。もう男に戻りましたよ」
と向こうの人物は言って、手を離した。
「それでは失礼します」
晴安は胸とお股を触り男に戻っていることを確認したが、凄く惜しい気がした。せっかく女の子になれたのに・・・。
「あの」
「はい」
「どちらの教会の方ですか?後でお礼参りに行きます」
「ではこちらで礼拝を」
と言って、男は郵便受けから小さな紙を差しこんだ。
それで男は去って行った。
晴安が見ると、○○稲荷大明神と書かれた御札だった。
翌日、晴安は○○稲荷に行くと、1万円の初穂料を払って昇殿祈祷を受けた。
(宗教勧誘を装ったのは《こうちゃん》だが、手を握ったのは千里2である)
貴司は6月25日(火)が誕生日だった。その日貴司はちょっとだけ期待し、会社の用事で姫路まで行ったついでに、会社には直帰すると連絡を入れ、姫路駅から播但線に乗り甘地駅まで行く。そして市川ラボに行った。
居室(ここは実は一貫して貴司と千里のスイートホーム)に入ると
「お誕生日おめでとう。でもプレセントは美映さんからもらってね」
という張り紙がしてあった。
張り紙のそばに明治ミルクチョコレートが置いてあったので、それを
食べてから1時間ほど汗を流した。
それから居室に戻り、汗を掻いた下着などを着替える。
(汗を掻いたアンダーシャツなどの洗濯物は洗濯籠に入れておけば千里が洗濯しておいてくれる)
部屋を出ようとしたら、ドアの内側に揚げたての鶏の唐揚げの入った袋がさがっていて、そのそばに
「練習お疲れ様。28日は京平の誕生日だよ」
という張り紙があるのに気づく。それで貴司は
「ごめん。うっかりしてた。明日から週末まで出張なんだよ。代わりにプラレールか何かでも贈ってあげてくれない?」
と声に出して言う。たぶん千里は自分から見えない場所に居て聞いているはずと貴司は思っている。
それで貴司はテーブルの上に1万円札を置いた。
それから貴司は播但線・新幹線で大阪に戻った(唐揚げは甘地駅で電車を待っている最中に食べた)が、乗車中に貴司のスマホに「プレゼント代行はOKだから、貴司の字で伝票書いておいて」というメッセージがある。
それで新大阪駅で新幹線を降りると近くの佐川急便の営業所に寄り、伝票を1枚もらって宛名を書いた。それをコンビニで買った封筒に入れ、市川ラボ宛に送った。
マンションに戻ると、美映がケーキを買ってきてくれていたので、ワインで乾杯した後、ケーキを食べ(緩菜もケーキと取っ組み合っていた)、美映の手作りのビーフシチューを一緒に食べた。
美映は貴司にナイキのバッシュをプレゼントとして用意してくれていた。
「ありがとう。そろそろ買い換え時かなと思っていた」
と言って喜んで受けとった。
6月27日、★★レコードでは株主総会が行われ、村上社長や佐田副社長が株主提案により解任され、町添専務が社長に就任した。しかし高利益をあげている子会社TKRの吸収も否決されたことから、株価は暴落する。直前に所有株を全部売っておいた千里2は暴落したところで大量に買い、結果的に100億円ほどの利益を得た。
この利益が実は若林公園開発の原資となった。
同じ日、MM化学の株主総会も開かれたが、ここまで順調に会社の再建を進めていた鈴木社長が解任され、守旧派の高縄氏が新社長に就任した。MM化学の大混乱の始まりであった。株価が暴落したことから、千里2は下がりきった所で50万株ほど買い、年明けにコロナ騒動の前に売り抜けて、この相場でも10億円ほどの利益を得ている。
(千里3はこの手の“危険な遊び”には興味が無い。但し千里2が通常の取引の際に使用しているのは千里3が作ってくれたプログラムである)
6月28日、神戸の阿倍子の家に「篠田京平様」宛名の荷物が届く。
「京平、パパからの荷物だよ」
と言うと、京平が喜んでいる。開けて見るとプラレールのセットだった。
「わあ。これでまたレールを広げられる」
と言って、今持っているものにつなぎ、一緒に入っていたサンダーハードの列車セットを走らせて楽しんでいた。ポイントを切り替えたりして遊んでいる。
「京平、特急電車好きね」
「うん。サンダーバードは、まだぼくがうまれるまえに、ちさとおばちゃんにのせてもらったことあるんだよ」
「へ、へー!生まれる前に」
子供って時々不思議なこと言うなと阿倍子は思った。
この日は晴安がケーキとコーラを買ってきてくれたので、3人で食べて京平の4歳の誕生日を祝った。
千里1は西国三十三ヵ所巡りに信次の遺品となったムラーノを使用したのだが、このムラーノは6月いっぱいで車検が切れることになっていた。信次が2012年に買った車で、距離は5万kmくらいしか走っていないが、年数が経っているし廃車にしようかと言っていた。しかし千里1は優子がこの車に思い入れがあるようなことを言っていたことを思いだし、康子に打診の上、優子に電話してみた。
すると優子も譲ってもらえるのなら欲しいと言ったので、千里は車検をしてから渡すことにする。ユーザー車検にしようと検査場にネットで予約を入れ、西国三十三ヵ所が終わって6月26日に東京に戻ると、翌日《こうちゃん》にユーザー車検をさせた。そして28日に検査場に車を持ち込み、無事合格した。
それで29日に信次の一周忌があって優子が千葉にやってきた時、優子に車を引き渡したのである。千葉ナンバーのまま乗ってもいいし、富山ナンバーに変えるなら、手続きの費用も出すよと千里は言ったが、このままの方が信次の想い出にひたれるからと言って、優子は千葉ナンバーのまま乗ることにした。(本当は手続きが面倒だっただけ)
それで千葉からの帰りは優子は奏音を後部座席のチャイルドシートに乗せ、自分でムラーノを運転して高岡に帰還した。
(千里が乗っているアテンザは元々優子が買って1ヶ月ほど乗っていたのを勤務先の倒産で泣く泣く手放したものだったので、結果的に千里と優子は、お互いの車を交換したようなものである)
なお一周忌が終わった後で、信次の子供をこの4月に出産した水鳥羽留が、その子供(信次の忘れ形見)幸祐を伴って川島家を訪れて仏檀にお線香をあげさせてもらった。本人は信次の恋人であったことを名乗った訳では無かったのだが千里が気づき、康子にも会わせて、康子は3人目の孫と対面することになった。
今回は優子と羽留はすれ違いになった。3回忌(2020.7)ではコロナの影響で優子が千葉まで来られなかったので、2人の対面はしばらくお預けになる。
ちなみに羽留を唆して川島家に行かせたのは、羽留をずっと支援している《びゃくちゃん》である。結果的に羽留は優子同様、信次名義で毎月20万円の養育費を送金してもらえることになった。その手続きをしたのは例によって太一で、資金を提供するのは千里である。結果的に千里は信次の4人の子供(府中奏音・細川緩菜・川島由美・水鳥幸祐:この4人も苗字がバラバラ!)全員の養育費を負担することになった。
さて、羽留は川島家から帰る時
「奥さん(千里)も妹さん(青葉)もお母さん(康子)もいい人だったなあ」
などと呟きながら、車(姉の借り物のフィット)を運転していたら急に気分が悪くなった。これはまずいと思い、ちょうど通り掛かった湾岸幕張PAに駐め、運転席と助手席に掛けて横になった。
お腹の中が動き回っているような感覚である。胃や腸の痛みではない。生理系の痛みである。まるで妊娠中に幸祐が子宮の中で暴れていた時みたいな苦しさ、と羽留は思った。
しかし30分くらいで収まったので「ああ、なんとかなったな。良かった」と思う。幸祐が泣いているので、オッパイをあげよとして服のボタンを外して胸を出したら・・・・
胸が無い!?
まるで男のように胸が平らになっているので、ぎょっとする。
なんでバストが無いの〜〜〜!?
羽留は取り敢えず水筒のお湯でミルクを作ると幸祐に飲ませる。それで幸祐は落ち着いたので、自分も取り敢えずトイレにでも行って少し落ち着こうと思った。それで幸祐を抱っこひもで抱くと、トイレに行く。
女子トイレに入ったところで、掃除のおばちゃんがこちらを見て
「あんた、ここは女子トイレだよ。男トイレは向こう」
という。
これは羽留は慣れっこである。
「私、女です」
と答えたが、なぜ自分の声はこんなに低いんだろうと思った。
いつものことなので、マイナンバーカードをおばちゃんに見せる。性別確認にはマイナンバーカードが良い。運転免許証では性別が記載されていない。
「あら、女だったのね。御免ね」
「私、元宝塚の男役してたんです」
「ああ、それで雰囲気が男っぽいんだ」
元タカラジェンヌであることを言うと、多くの人が納得してくれる。
「あんた、声も低いね」
「それで男役してたんですけどね」
「へー。あ、呼び止めてごめんね」
「いえ」
それで羽留は幸祐を抱いたままベビーベッド付きの個室に入った。幸祐をベッドに寝かせて、ズボンを下げ、パンティを下げて便器に座ろうとした時、パンティを脱いで目に飛び込んできたものに驚愕する。
羽留は危うく悲鳴をあげるところだった。しかし悲鳴をあげていたら警察行きだったろう。
「なんでこんなものがあるの〜〜〜?」
羽留は困惑したものの、とりあえず便器に座っておしっこをする。
しかしそんなものつけたことが無かったので、おしっこが前方、便器の外に飛び出してしまう。
「きゃっ」
と小さな声をあげていったん止める。少し考えてから、その世にもおぞましい物を指で押さえて下に向けた。それでちゃんと便器の中に放出されるようになる。ホッとしたもののの、男の人っていつもこれ指で押さえてしてるのかなぁ。大変そう、などと思った。出終わった所で、トイレットペーパーで汚
してしまったところを拭き、便器内に捨てた。
その後、いつものようにトイレットペーパーで自分のお股を拭こうとして悩む。これどこを拭くんだろう? よく分からなかったが、先端の付近を拭いた。
立ち上がってパンティを穿くと、先が飛び出してしまう。
困る〜。これどうすればいいのよ? 男の人はどうしてるんだろう?と一瞬悩んだが、信次が女装する時、ちんちんは後ろに向けるんだよと言っていたことを思い出す。そうか、ちんちんって後ろ向きに納めないといけないのかと気付き、そうしたらちゃんと収納できた。ズボンも穿き、個室内にある手洗いで手を洗ってから幸祐を抱き、ベッドを戻して水を流し個室を出る。
自販機で午後の紅茶ミルクティーを買い、車に戻って紅茶を一口飲んでから考えた。
「これはきっと夢だ。もう一度寝よう」
それで羽留はまた眠ってしまった。
トントンという窓をノックする音があり、羽留は目を覚ました。
「千里さん!?」
慌てて窓を開ける。
「これお母さんが羽留さんに渡してって。お土産」
と言って千里は《楽花生パイ》を1箱渡した。
「ありがとうございます!」
「うっかり渡し忘れたというから、ご実家まで持って行きますよと言って出かけてきたんだけど、ちょうど羽留さんの車を見つけたから」
「わあ、済みません。頂きます」
それで千里は帰っていった。
羽留は眠っていた所を急に起きたので、10分くらいボーっとしていたが、幸祐の泣き声にふと我に返る。午後の紅茶を再度一口飲んでから、おそるおそる自分の胸に触ってみる。
バストがある!
それでお股にも触ってみる。
「おちんちん無くなってる!よかったぁ」
念のため下着の中にも手を入れてみて、おちんちんが無くなり、割れ目ちゃんがあることを確認した。
あれはやはり夢だったんだろうな。私、男になっちゃったら、幸祐がオッパイ飲めなくて困るよね、などと思いながら、後部座席に行き、幸祐にオッパイを飲ませた。
バスケット女子日本代表は、7月1-5日に第五次合宿、13-19日に第六次合宿をいづれも東京北区のNTCでおこなった。この第五次には千里3、第六次には千里2が出た。
玲央美も疲れがピークに達したのか、1日だけアキを代役に使っていた。千里は彼に声を掛けた。
「アキちゃん。何なら女子代表になれるように女の子に変えてあげようか?」
「ボク、おちんちん無くなったら困ります!」
と彼は焦ったように言った。
アキは常時女装していて、バストも偽装しているが、女の子になりたい訳ではないようだ。もっとも彼は性転換させても、そもそも人間ではなく“猫”なので人間の女子バスケ代表になれるのかは微妙な気がする。
7月4日、千里1が青葉の彼氏・鈴江彪志から電話を受けた。
「実は明日、青葉さんが南米に日食を見にいっていたのが帰国する予定なのですが、何時の飛行機で到着するかとか、あいつ全然教えてくれないんですよ。千里さんは到着予定とか聞いてませんか?」
「明日帰ってくるんだ?」
千里はそういえば、信次の一周忌法要に青葉が出てくれた後、チリまで日食を見にいってくると言って出かけたなと思った。
タロットを引いてみる。
聖杯の6(Childfood)が出た。
「明日じゃないよ。明後日6日に帰ってくる」
「ほんとですか?」
「私も一緒に行こうか?どこから出てくるかとかも分かると思うし」
「お願いします!」
「指輪でも渡すの?」
「よく分かりますね!そのつもりだったんです」
「結婚式はいつ?」
「それは青葉さんと話し合ってみないと」
「大学卒業前に結婚しちゃったら」
「でもそれだと通学が」
「毎日新幹線で大宮から金沢まで通学すればいいよ」
「それはさすがに辛い気がします」
7月5日、建築中であった板橋区のバスケット練習場(名目上は住宅)が完成し、工務店の橋池さんが立ち会って千里に引き渡してくれたが、この人、契約の時に会った時より凄く女っぽくなってる。恋人でもできたんだろうかと思った。この日はスカート穿いてたし!
千里は引き渡しを受けた後で「この程度の家、俺に頼めば3日で建ててやったのに」などと言っていた《こうちゃん》に頼んで、いくつかの改造をしてもらった。
(1)1階の東側(道路に面する)の壁の前にもうひとつ別の壁を立て、そこにバスケットのゴールを設置して欲しい(別の壁を作るのは振動が建物に伝わりにくくするため)
(2)ゴールはバックボードごと回転して角度をリモコンで自由に変えられるようにしてほしい。
(3)フリースローライン、3Pラインをフローリング上にペイントして欲しい。
(3)1階から地階へ降りる階段の所に、跳ね上げ式の床を作り、ボタン操作で跳ね上げたり降ろしたりできるようにする。この部分と1階の部屋との間は、壁ではなくアクリルの透明ボードに変更する。
実はこの階段の上に床を置いた1m×4mのスペースで早月と由美を遊ばせておこうという魂胆なのである。むろんここに人がいる時は絶対に床がはねあがらないようにセンサーでチェックする。この仕組みは結局《せいちゃん》がやってくれた。千里も《せいちゃん》に頼んだと聞いて安心した。
7月6日、千里1は「青葉は19時到着の飛行機で帰国する」と予測して彪志に伝えたので、ふたりは17時に成田空港で会い、軽くお茶でも飲んでから青葉が出てくると千里が予測したゲートの前で待った。
19:30頃、青葉が出て来て、こちらを見て驚いている。
「荷物は私が持って行くね。今夜はホテルでふたりでゆっくり過ごしなよ」
と言って、千里1は青葉の手から荷物を取ると、彪志と青葉を残したまま帰っていった。荷物はもちろん彪志のアパートに持って行った。
彪志は青葉に婚約指輪を渡し、青葉も喜んで受けとった。それで2人は交際開始から8年も掛けて婚約者になった。その夜ふたりはホテルに一緒に泊まったのだが、青葉がお腹が痛くなったため、何もせずに寝た。
千里2たちは話し合った。
「どうする?」
「放置で」
と千里3。
「青葉は元々女の子なのだから、あらためて肉体も女の子になっても何も問題ないと思う」
「本人に訊く必要もないよね」
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【△・男はやめて女になります】(1)