【△・Who's Who?】(3)

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アクアはその日、事務所で打ち合わせした後、ドラマのロケで川崎に行くことになっていた。ところがアクアを搬送できるようなスタッフが誰も居ない。
 
「大丈夫ですよ。電車でいきますよ」
「あんたが電車に乗ったらファンに取り囲まれて予定通り移動できない。タクシー使いなさい」
と言って、コスモスがタクシー券を渡した。
 
それで事務所のビルを出たらちょうど千里と遭遇する。
「どこ行くの?放送局かどこか?」
「川崎でドラマのロケがあるんです。タクシーで移動しようと思ってました」
「山村も高村さんも居ない?」
「偶然誰も居ないんですよー。緑川さんなら30分くらいで来られるんですが、時間が惜しいので」
 
「だったら私が送って行くよ」
「いいんですか?何かご用事があったのでは?」
「平気平気。1番に行かせる」
と言って千里は赤いガラケーを出して誰かに電話している。たぶん《きーちゃんさん》(天野貴子)に連絡して、1番さんに行かせるんだろうなとアクアは思った。
 

千里と一緒に近くの駐車場に行くとオーリスが駐まっている。
 
「乗って乗って」
「お邪魔します」
と言って、アクアは助手席に乗り込んだ。千里が車をスタートさせる。
 
「川崎のどこ?」
「ちょうど千里さんのマンションの近くなんですよ。スノーヴァ溝の口って屋内スキー場なんです」
 
「ああ、3番のマンションの近くね」
「千里さん、3番さんですよね?」
「え?私は2番だよ」
「だまされませんよ」
「何で分かるの〜〜?」
「ガラケーを使ってみせても、オーリスに乗っていても、オーラをふだんより大きくしていても、見れば分かりますよ」
とアクアは言う。
 
「ほんとに?」
「ちなみにボクが誰かも分かりますよね?」
「君はFでしょ?」
「正解です。こないだから3人で話していたんですよね〜。最近、2番さんも3番さんもわざと自分が誰かを誤認させるようにしているよねって。昨日は2番さんがアクオス使ってアテンザ使ってましたよ。オーラも小さくしてたし」
 
「うむむ。アクアにはバレていたか。鱒渕さんも《こうちゃん》もケイも気づかなかったのに」
「鱒渕さんって元々ボンヤリさんだし。こうちゃんさん、ボクたち3人の区別も全然できてないですよ。わっちゃんさんはちゃんと見分けてくれるのに」
 
「まああいつは割とテキトーだしね。多分デートの途中で相手が変わっていても気づかない」
「こうちゃんさんは女なら誰でもいい気がします」
「ああ。するする。代わりにコンニャク置いといても気づかない」
「コンニャク?コンニャクで何するんですか?」
「知らない子は気にしない!」
 

アクアを川崎に送り出したコスモスはそのすぐ後にTKRから呼び出しがあり、タクシーで北新宿のTKRまで行った。
 
三田原部長と打ち合わせをしていたら、千里が入ってくる。宮川課長のところに来たらしい。コスモスは会釈をしておいた。打ち合わせは夕方まで掛かったが、結局TKRを出たのは千里と一緒になった。
 
「コスモスちゃんは車で来たの?」
「いえ。タクシーで来ました」
「だったら送っていくよ。自宅?事務所?」
「赤坂の##放送とかいいですか?」
「いいよー」
 
それでTKRの提携駐車場に行く。アテンザが駐まっている。
「乗って乗って」
「では失礼します」
と言ってコスモスは赤いアテンザの助手席に乗り込んだ。
 
「そうだ。鱒渕さんに連絡しておかなくちゃ」
と言って千里はピンクのアクオスを取り出すとローズ+リリーのマネージャー鱒渕に電話する。
 
「今どこですか?」
「ああ、移動中でしたか。だったら好都合です。TKRの宮川さんから、そちらにドラマ『青い旅路』の主題歌の依頼があると思うんですが、松本花子を使ってください。ケイにはこの件は言わずに処理を。はい、歌詞だけマリちゃんに書いてもらって。ええ。五島にも連絡しておきますから」
 
それで千里は五島(せいちゃん)にメールを書いて送信したようである。
 
「お待たせしました」
と千里はコスモスに言う。
 
「いえ、大丈夫ですよ」
 
それで千里はアテンザを発信させる。TKRからもらった無料券を精算機に通して駐車場を出ると車を赤坂に向けた。
 
「そうだ。醍醐先生、うちの川崎ゆりこが久しぶりにCDを出すことになったんですよ。こちらはドラマ『みんなの弁護士』の主題歌で本人も出演するんですが。申し訳無いですが、夢紗蒼依でいいので1曲、書いて頂けませんか?ドラマの企画書は後でメールしますから」
 
「あ、夢紗蒼依の件は2番に」
「醍醐先生、2番さんですよね?」
「え、私は3番だよ」
「醍醐先生、31×29は?」
「えっと・・・902くらい?」
「先生、奇数と奇数の掛け算は奇数ですよ。31×29 = (30+1)×(30-1) = 302 - 12 = 900 - 1 = 899 です」
「あぁ、私その手の計算法がよく分かってない」
「3番さんなら2桁同士の掛け算を5-6秒で暗算なさいます」
「そこだけは誤魔化しが効かないなあ」
 
「それ以前におふたりの性格が違うから分かりますけど」
「そうだっけ?」
「わざわざスマホを使ってみせたり、アテンザを使ってみせたり、更にわざわざオーラを小さくしてみせても、私とかアクアとかは見分けると思います」
とコスモスは笑いながら言った。
 
「ああ。アクアも使えんと思った。ケイとかは簡単に欺されるのに」
「ケイちゃんは純粋すぎるんですよ」
「そうそう。だからあの子は名義貸しの闇の世界には関わらせたくなかったんだけどね」
「昨年は緊急事態でしたからね」
「ほんとに大変だったね」
 

アクアは、アクア自身の名義で(2019年)3月13日に『鍛冶橋から呉服橋まで/白い霧の中で』をリリースしたが、、北里ナナ名義で5月1日に『招き猫の歌/白雪姫』をリリース予定である。小林芳雄名義のCDを出す企画も出たのだが、“男装のアクア”なんて需要が無い、と言われて企画ボツになった!
 
ゴールデンウィークには平成から令和に掛けての“元号またぎ”ツアーをしようという話は、明仁天皇の御譲位が決定した2017年12月の段階で提案があり、1年前の2018年4-5月には会場も押さえて企画が進行していた。
 
次の楽曲制作はそのツアーの後にすることになるが『鍛冶橋から呉服橋まで』の歌詞違いの曲『常磐橋から数寄屋橋まで』は確実に入れて、その他に2曲入れた三A面のCDにすることにし、1曲は岡崎天音・大宮万葉(マリ+青葉)、1曲は加糖珈琲+琴沢幸穂(蓮菜+千里の後輩!?)にお願いしようという方針が、コスモス、和泉(アクアプロジェクトの事実上の指揮者)・三田原部長(TKR)の話し合いで決まっている。
 
コスモスはこの方針を、マリ、青葉、蓮菜、天野貴子(きーちゃん:琴沢幸穂の代理人)に伝えて、了承をもらっている。制作がツアー明けになるということで、楽曲もそれまでに用意してもらえることになった。青葉は水泳の合宿などもしているのだが、合間を見つけて書いてくれるということだった。むろんこのメンツにケイが入っていないのは、ケイが現在絶不調の状態にあるからである。ケイ名義の『鍛冶橋から呉服橋まで』は実際にはマリが書いた歌詞をベースに、松本花子作曲/岡原世奈編曲の作品をゴールデンシックスの花野子が調整したものである。多くの人がいかにも「ああ、ケイの作品だよな」と感じる作品に仕上がっている。
 
(岡原加奈・岡原世奈の“姉妹”は松本花子のケイ風作品を生み出すバリエーション・システムで、加奈はリズミック系、世奈はアコスティック系を得意とする。Yamada-17, Yamada-18(小樽ラボ)で動作している。各々のメインプログラマは鮎川ゆま・イリヤ。ゆまはケイの長年の親友だし、イリヤはケイの作品の編曲を何十曲も担当してきていて、ふたりともケイ作品を熟知している)
 

アクアは今年も『アクアちゃんの性別を確認する!』という番組に出ることになった。BPOから過去に何度も警告を受けているので、なんだか“確認”の仕方が曖昧になって来ている感じもある。
 
いつものように中立な第三者と思われる病院の先生にアクアの身体を見てもらって、確かに男性器が存在することを確認してもらい、その後、アクアには今年はバレエの男性役を踊ってもらった。
 
アクアは元々バレエを習っていたのでこれは難なくこなす。女性のバレリーナと組んで、『白鳥の湖』第3幕、王子とオディールのグラン・パ・ド・ドゥを踊ったが、完璧な踊りに協力してもらったバレエ団のメンバーから拍手が沸き起こっていた。
 
但しアクアの衣装は、王子様っぽい半ズボンを穿いた衣装になっていて、股間の形が分からない。
 

それで番組が流れた後
「本当に男の子なら、普通のバレエダンサーみたいにお股の形が分かる衣装を使った方が“男の証明”になるのでは?」
という声がネットであがる。そして
 
「それはやはりお股の形が分かる衣装だと、お股に突起物が何も無いことが分かるからじゃない?」
「実際には、お股には何も付いてないよね?」
「普通の男性バレリーノの衣装ならサポーターが踊っている最中にずれちゃうよね。止めるようなものが無いから」
といった話になっていく。
 
更に、アクアがデビュー前に通っていたバレエ教室の発表会で、アクアが黒鳥の衣装を着けて32回のグラン・フェッテを踊っている所の映像がネットにはアップされ
 
「やはりアクア様は王子よりお姫様よね」
という意見が圧倒的となったのであった。
 

アクアが黒鳥を踊ったのは中学1年の時なので、今でも32回転できるのか?という質問が多く寄せられた。それで結局バラエティ番組で披露することになる。
 
チュチュは勘弁してもらったものの、結局レオタードにブラウスとシフォンスカート(司会者がうまく乗せて穿かせてしまった)を着けた格好で、アクアは32回のグランフェッテをきっちり踊ってみせ、男子ファンからも女子ファンからも感嘆と称賛の声があがっていた。
 
(実際に踊ったのはFである。MもNも32回維持できなかった)
 
「ちんこで回転が止まる」
などとMが言うのでFから
「だったら取っちゃえば?」
と言われ
「それだけは絶対嫌」
とMは言っていた。でもNはドキドキした顔をしていた。きっとちんちんを取られたいのだろう。
 

2019年4月9日(火)、千里1は7日に“コスモス”から頼まれた楽曲の編曲を集中的にしようと思った。昨日から始めたかったのだが、昨日は菊枝に会いに岡山に行っていたのである(それでルキアを2度性転換させた)。それでこの日9日の夕方、桃香に言った。
 
「ちょっと頼まれた仕事があって集中してやりたいんだよ。1週間くらい留守にするから、早月の面倒みててくれない?由美は一緒に連れて行く」
「分かった」
「ちゃんと毎日3度、ごはん食べさせてよね」
「面目ない」
 
それで千里がキーボードやパソコンを持ち出かけようとしたら、桃香はその千里に後ろから抱きつくようにして、首筋にキスをした。
 
「一周忌がすぎるまではダメって言ってたじゃん」
「ごめん。千里のことが好きで好きでたまらなくて」
「次こういうことしたら殴るからね」
「うん。もうしないから」
 
それで千里は由美をムラーノの後部座席にセットしたベビーシートに乗せ、出かけて行った。
 

桃香はその日の夕方は千里が作っておいてくれた豚汁を早月と一緒に食べたが、急に不安になった。
 
1週間って言ってたぞ。その間、ちゃんと早月に御飯を食べさせてあげる自信は・・・・無い! しかし早月が餓死したら大変だ。千里にしこたま殴られるよな(そういう問題ではない)。何とかしなくちゃ。
 
そこで桃香は「季里子の所に行こう!」と決断したのである(早月の命を守るには英断である)。
 
そこで早月(もうすぐ2歳)をミラにセットしたチャイルドシートに乗せ(これを使わずに乗せたことがバレると千里から5−6発殴られるのは経験済みなので、最近は忠実に千里の指示に従いチャイルドシートに乗せている)、千葉市の季里子の家に向かった。
 
季里子の家では、季里子も両親もびっくりしたものの、1週間くらい千里が留守と聞くと季里子は「早月ちゃんの命を守るために滞在を許可する」と言ってくれた。それで桃香は季里子の家で1週間ほど過ごすことになったのである。季里子の娘たち、来紗(年中) ・伊鈴(来紗の1つ下)は
「パパぁ」
と言って、桃香に抱きつき
「早月ちゃん、一緒に遊ぼうね」
と言って、早月も2人の姉たちを見て喜んでいた。
 

その夜、子供たちが寝静まった所で桃香は季里子を誘い、季里子もまあいいかと言って応じる。ただし桃香が“生”で入れようとしたら手で遮り
「ちゃんとコンちゃん付けて」
と要求した。
 
「私は精子なんか無いんだから、付けなくてもいいだろう?」
「それ絶対信用できない。桃香は絶対あちこちの女に生ませた子供が10人はいると思う。ちゃんと付けなかったら、ちんちん切り落とすよ」
 
「季里子には過去に10回近く、ちんちん切り落とされたからなあ」
と言って、桃香はしぶしぶ避妊具を付けてから突入した。
 
この日桃香は物凄く気持ちがいい気がした。季里子の中でまるで射精でもしたかのような感覚があった。一方の季里子も「今夜のおちんちんはリアルだなあ」と思った。しかし季里子の側も気持ちが良かったので、この件は深く考えなかった。
 

翌日(4月10日)の朝、季里子の家に千里が訪問してきたので、季里子は千里に敵対的な視線を向ける。しかし千里は申し訳無さそうな顔で
「季里子ちゃん、ごめーん。桃香が財布を入れたバッグを忘れて行ってたから困ってるだろうと思って」
と季里子に言った。
 
「あの子らしいね!」
 
それで桃香を呼び出す。桃香は「あ、ほんとだ。バッグが無い」と気づいたようで、玄関に出て来て千里の手からバッグを受けとる。
 
この時千里2はわざと桃香の手に直接触って、昨日、千里1がキスされた時に無意識に掛けてしまった**の法を再度掛ける(男から女に変える)とともに、**の法がもう掛からないようにするロックを掛けた。もっともそもそも1年間は千里1にも**の法は掛けられないはずと千里2は思った。
 
(千里1がルキアを2度続けて性転換させたことで、本当は、たいちゃんはこれが**の法ではないことに気づくべきだったが、彼女もあまり深く考えていなかった)
 
そういう訳で桃香は自分が一晩男になっていたことには全く気づかなかった。桃香はこの後、千里1の暴走が止まるまで100回くらい性転換することになる。
 

千里2が季里子の所に行ったのは4月10日であるが、青葉はこの時期、水泳の日本体表合宿をやっていた。最初はJISSでやっていたのだが、JISSでは多人数でプールを共用するので、長距離陣は1回の泳ぎに時間が掛かることもあり、なかなか自由にプールを使わせてもらえない。それで青葉はコーチに提案し、青葉・ジャネ・コーチの3人で深川アリーナのプール(25mプール)に移動してきた。
 
そこに千里が泳ぎに来た。ジャネは千里に言った。
「どうせなら50mプールとかを作ったりしないよね?」
すると千里は
「いいよー」
と答え、深川アリーナでは容積率の問題で新たなプールは設置できないので、若葉に電話し、彼女が所有する、埼玉県熊谷市の郷愁村に土地を借りて50mプールを設置することを決めてしまった。
 
そしてこの時、千里(千里2)は青葉に千里1と接触しても**の法には掛からないガードを掛けてあげたのである。この時点で千里2にも、青葉に**の法が掛かった場合、青葉が男になるのか女になるのか、微妙な気がした。八重垣さんの例を見れば完全な女になりそうな気はするが。
 

一方、千里1は江東区内のビジネスホテル(作曲や編曲の作業のためにわりと定宿にしている所)に入り、由美はベッドに寝せ、時々おむつを替えたりおっぱいをあげたりしながら、作業をしていた。
 
食事はこのホテルの1階に中国人一家がやっている中華料理店があり、近くには和食ファミレス、吉野家、モス、数軒のコンビニもあるので全然困らない。交換したおむつは適宜、天野貴子さんにお願いして経堂のアパートに持って行ってもらった。
 
「貴子さん、ごめんねー。こんなの頼んで」
「全然問題無い。こういう時は女同士助け合わなくちゃ。必要な楽器とかも、あったら言ってね。名古屋のマンションに置いていた楽器を置いている倉庫から取ってくるから」
「ありがとう。だったらクラリネット持って来てくれる?」
「OKOK」
 
この時点で1番はまだ彼女が自分の眷属であることを思い出していない。
 

4月13日(土)、気分転換にパソコンを持って由美と一緒に少し歩いたモスまで行き、バーガーやポテトを食べながら1時間ほど作業した。それでホテルへ戻ろうとしていた時、橋の上に人だかりがある。
 
「どうしたんですか?」
「子供が転落して」
「え?」
下を見ると5-6歳の女の子が必死に泳いでいるが、今にも沈んでしまいそうである。千里は荷物を置くと由美の載っているスリングを身体から外し、近くにいた女性に「この子、お願いします」と言って渡すと、川に飛び降りる。
 
水深が浅いのでギャッと思ったが、このくらいは平気である(実際には《りくちゃん》が支えてソフトランディングさせてくれた)。泳ぐというよりほぼ歩いて子供のそばによると、その女の子をしっかり抱え上げた。
 
「もう大丈夫だよ」
とその子に言ったが、女の子は大声で泣き出す。千里は子供をよしよししながら川の端まで歩き、橋のたもとの所で走り寄ってきた母親に渡した。
 
「ありがとうございます!」
「大したことないですよ。まあ溺れるような深さでは無かったんですけどね」
と千里は言うが、近くに居た初老の男性は
「いや人は30cmでも溺れてしまうもんだよ」
と言う。
 
「特に子供はパニックになるし。僕が助けにいこうかと思った所で君が飛び込んだから」
「ごめんなさい、横から」
「いや、僕はカナヅチだから」
「それは飛び込んではいけません」
「でもあんた運動神経いいね」
「取り敢えずバスケット選手なもんで」
「それは凄い!」
 
「でもずぶ濡れ」
と心配する女性がある。
「ホテルがすぐ近くだから部屋に戻って着替えます。それよりその子を早く着替えさせないと風邪引いちゃう」
と千里はその母子のほうを心配する。
 
「ええ。でもどうしよう?私たち電車で来てたんですよ。タクシー乗せてくれるかなあ」
「取り敢えずダイエーまで行きましょう。それで服を買えばいいですよ。私、車で来てますからお連れしますよ」
と近くに居た30代の女性が言う。
 
「でもお車のシートを汚してしまう」
「平気です。私も子供がいるから、お互い様ですよ。車持ってきますから」
「いえ、駐車場まで、ご一緒します」
 
「あなたはホテルに戻った方がいい」
「そうですね」
「だったら私も同行しますよ。その身体で抱いたらこの赤ちゃんまで濡らしてしまう」
「すみません」
それで千里は由美を抱いてくれている女性(荷物も持ってくれた)と一緒にホテルに戻った。
 
一方、車で運びますよと言った女性は近くの公園まで母子と一緒に行き、2人を赤いアテンザに乗せた。
 
「お疲れ様〜」
「いや、臭い演技でバレないかとヒヤヒヤだった」
「僕、早く着替えたい」
「とりあえず服脱いで」
 
それでその子はずぶぬれになった服を脱ぐと、身体をバスタオルで拭き、用意していた着替えを着た。
 
「女の子の服を着るとか恥ずかしかったぁ」
「貴重な体験ができたね」
「でもお風呂入って温まった方がいいね」
「北千住の琴沢幸穂事務所に行こう。経堂より近いし」
 
それで3人を乗せたアテンザは発進した。
 

ここで実は最初に千里1から由美を受けとったのは千里3自身である。それで3番はまんまと1番と身体的接触を持った。しかしすぐに《わっちゃん》と交替した。それで《わっちゃん》は由美を連れて千里1とともにホテルに戻った。アテンザを持って来ていたのは《えっちゃん》で母子を演じたのは《えっちゃん》の友人とその息子であった。女装させたのは母親の趣味である!焼肉20人前で手を打ってくれた。
 
3番は由美を《わっちゃん》に渡した後、すぐにホテルの、1番とは別途で確保してもらっていた部屋に行き、そこで1時間ほど身体が性転換していく苦痛に耐えた。
 
性転換が終了した所で自分の体内を透視してみて卵巣や子宮が存在しているのを確認。
 
「やったぁ。これで本当の女の子になれた!」
 
と思わず声に出して喜んだ。卵巣の存在は強いエネルギー源が体内にあるのを感じさせてくれた。
 

アクアたちの今年(2019)のスケジュールだが、3月上旬に『少年探偵団II』の撮影が終わったが、それより少し前から『ほのぼの奉行所物語II』の撮影が始まっている。このドラマは8月に撮影完了予定だが、7月からは映画『ヒカルの碁・棋聖降臨編』の撮影が行われる予定である。ヒカルの碁は埼玉県熊谷市の郷愁村にセットが作られ、そこで撮影されることになって、現在セットの日本棋院やヒカル・美奈子などの自宅、“マクテリア”の店舗などが建設されている最中である。
 
アクアは二段の免状を持っていたのだが、この企画ができてからあらためて丸山アイの知り合いのプロ棋士に打ってもらったら
「四段の免状を申請しなさい」
と言われたので申請した、申請料が71,500円(四段66000円+飛付料5500円)で、むろんアクアにとっては大したことのない金額ではあるものの、結構するなと思った。
 
(日本棋院の免状は四段まではまあまあなのだが、五段は11万、六段は22万、七段55万、八段110万、と倍々ゲームになる)
 
もらった免状には
「貴殿棋道執心修行 無懈怠手段愈熟依 之四段令免許畢猶 以勉勵上達之心掛 可為肝要者也仍而 免状如件」
と書かれていたが、読めん!と思った。
 

葉月の方は、ルールも知らないということだったので、その“棋力”を利用して、物語冒頭近くにある、ヒカルと祖父との対局の部分の撮影をした。
 
黒と白が交互に打つのだということだけを教え、祖父役の紅川会長は普通に打つが、葉月はイヤホンで指示された所に打つという方法で対局させる。するとコスミとかツケ・ノビといった基本的な用語も分からないし、右から何番目の上から何番目と言われて数えて打ち、しかも場所を数え間違うという美味しいミスなどもして、監督の意図通りの映像が撮れた。
 
でも葉月は「さっぱり訳が分からなかった!」と言っていた。
 
このシーンは葉月と紅川が対局した後で、アクアが再度今葉月が打った通りに打って再度対局し、後から撮ったののアクアの顔と、先に撮った葉月の手とを組み合わせて繋ぎ合わせることで、初心者のヒカルが祖父と対局するシーンになるというしくみである。
 
映画公開後「あ、ここは葉月ちゃんの手だ」と気づいたファンも多かったようである。
 
「会長も、アクアさんも、なんでそんなにさっきと同じ所に打っていけるんですか?」
「まあ音楽家が聴いた曲をピアノで再現してみせられるのと同じだね」
「それなら葉月ちゃんもできるでしょ?」
「5分程度以内の曲なら。そうか、それと同じなのか」
「もっとも葉月ちゃんの打ち方は理論から外れた場所に結構打っちゃったからそこを間違いそうになる」
「ごめんなさい!」
「いや、それでいかにも初心者という感じになったからね」
「囲碁分かる人なら『なぜそこに打つ〜〜〜!?』と思って楽しめると思う」
「これ囲碁の分かってる人には絶対できない」
「初心者だからできることか」
「そうそう。お芝居では割とそういうものって多い」
 
「野球で打って3塁に走るみたいなのは割と誰でも思いつく。でも野球知ってる人なら、打ってからピッチャーに向かって走るなんてのは普通思いつかない」
 
「なるほどそういう斜め下を行く打ち方だったんですね」
「まあ今はそれが欲しかったんだけど、本格的な撮影が始まるまでには10級程度になっててね」
「頑張ります!」
 

さて、4月5-7日に葉月がプーケットで撮った写真集用の写真だが、写真の選択と配列を検討している内に、どうしても満月の下での葉月という写真を追加したいという要望が編集をしている写真家サイドから出てきた。
 
田中さんとしては1日でもいいから今度の満月の日(4.19)に再度プーケットに行ってきたいということだったが、コスモスは葉月の体力が持たないとして拒否する。そこでプーケットと似た雰囲気の国内のどこかで撮影できないかという妥協案が出て来て、伊豆の三戸(みと)海岸がよいということになった。
 
そこで地元の自治会に協力を求め、4月13日にはファンクラブの会員からボランティアを募って海岸清掃。4月19日(金)の満月に水着を着たアクアの写真を撮影した。4月の夜中に水着というのは寒いのだが、役者根性のある葉月は、あたかも常夏の国にいるかのような笑顔で撮影を敢行した。
 
「寒くないの?」
と地元の人が心配して尋ねたが、葉月は
「お仕事なので頑張ります」
と言って、地元の人たちを感心させていた。一応カメラの視界に入らない場所で焚き火をして扇風機で温風を葉月に送ってはいるが、結構寒かったと思う。撮影が終わった後は、すぐに地元の旅館でお風呂に入って温まった。
 
むろん女湯である!
 
旅館の人が女湯を葉月専用に開放してくれたので、葉月はこの撮影に付き添ってくれた原田友恵マネージャーと一緒に、のんびりと1時間くらい入浴して身体を温めた。原田友恵はこの時点で入社して半年ほどなので、葉月は普通の女性タレントと思い込んでおり、葉月と一緒に入浴しても何も疑問を感じなかった。
 
「葉月ちゃん、おっぱい大きーい」
などと言われて触られ、恥ずかしがるので
「可愛いー!」
などと言われていた。
 
この日、葉月は念のため葛根湯を飲んで寝たが、翌日以降特に体調のおかしな所などは無かった。
 

4月9日からホテルに籠もって編曲作業をしていた千里は、13日(土)に3曲とも仕上げ、“依頼したコスモス”に送信した。コスモスは自分が頼んだ覚えが無かったので驚いたものの、千里にはよくあることなので、あまり気にせず、§§ミュージックの歌手に割り当てた。それと同時に楽曲が送られて来た千里のアドレスにメールし、
 
「調子がよいようですね。今度は1曲、作曲をお願いできませんか?川崎ゆりこに歌わせる曲で、タイトルは『波路をたどって』。今年後半に制作されるドラマの主題歌で、伊豆大島フェリーの女性船長の物語なんですよ。まだ主役を誰が演じるかは決まってないのですが、うちの誰かがやる予定で」
 
とメールした。千里は了解し、ホテルの滞在予定を延長して、作曲に取り組むことにした。しかし曲を書く前に一度伊豆大島フェリーに乗って来ようと思い、翌日14日(日)東京竹芝から行きは客船で6時間、帰りはジェットフォイルで1時間半を掛けて往復してきた。
 
この往復で結構着想が得られたので、あとはホテルの部屋に籠もって作曲作業をした。歌詞は仮の歌詞を自分で書いてある程度組み立てたところで、楽曲のmp3とともに蓮菜の所にメールし、新たな歌詞を書いてもらって差し替えた。蓮菜から
「だいぶ調子が戻って来てるね」
という添え書きがあったので、千里としても結構自信が持てた。
 
何しろ千里1が作曲するのは昨年8月に信次が亡くなって以来8ヶ月ぶりである。
 

この曲は4月18日(木)の朝仕上がり、コスモスに送信。楽曲を聴いたコスモスも「1番さん、かなり復調している」と思った。
 
この日、千里は久しぶりに経堂の自宅に帰って休んだが、桃香は居ない。季里子ちゃんの所かな?と思ったが、こちらも桃香の夜のお誘いを“断る”のはけっこう精神を消耗するので、この日はのんびりと休ませてもらった。
 
19日は雨宮先生からの呼び出しで出て行く。由美も連れて行こうと思ったのだが《ヤマゴ》(**)が
「由美ちゃんは季里子ちゃんに預けるといい。しばらく帰られなくなるから」
と言ったので、朝から千葉まで行き、桃香が滞在している季里子の家に行く。
 
(**)ヤマゴは羽衣が千里1に付けてくれている眷属。千里の携帯のストラップに擬態している。誰かがヤマゴにテレパシーで語ると、その内容をヤマゴが千里1だけに聞こえる声で伝えてくれる。今回ヤマゴに指令を送ったのは《くうちゃん》である。
 
そして千里の訪問に不快そうな顔をしている季里子に
「どうも数日留守にしないといけないみたいなの。悪いけど由美を預かってくれない?」
と頼んだ。
 
「桃香だと不安だけど、季里子ちゃんなら大丈夫と思ったから」
と千里が付け加えると
 
「桃香に子供預けたら餓死させるよね!」
と言って預かってくれた。
 
もっとも季里子が仕事に行っている間4人の子供の世話をすることになった季里子の母は大変だったようである!
 

そして千里1は電車とタクシーで指定された料亭まで行った。
 
そこに居たのはこういうメンツである。
 
★★レコードの町添・氷川、KARIONの和泉、マリ・七星・Elise・鮎川ゆま・葵照子(田代蓮菜)・雨宮三森。
 
話は昨年1年間、上島雷太が謹慎していて楽曲が書けなかったので、その代わりを務めたケイがハイペースで楽曲を書いていたら今度はケイが不調に陥ってしまったので、ケイが回復するまでみんなでケイの代替をしようということだった。
 
千里は自分が“復活”しなければならないと思った。そして会合の帰りに偶然迷い込んだ東京体育館で見つけたお人形さんの鏡がヒントになって、信次の遺品のムラーノを使い全国を走り回って、千里は自分の眷属たちとのコネクションを回復した。
 
4.22
伊勢 りくちゃん
潮岬 たいちゃん
加太 いんちゃん
4.23
珠洲 きーちゃん
新潟 てんちゃん
4.24
鮎川 こうちゃん
渥美半島 びゃくちゃん
4.25
竹生島 げんちゃん、すーちゃん、せいちゃん、とうちゃん
長浜 くうちゃん
 
いったん千葉まで戻った千里は今度は自分の車アテンザに乗り換え、福島・宮城の各地で八乙女のひとりひとりに会って各々から珠をもらう。そして湯殿山で八乙女のリーダー・恵姫と邂逅。更に羽黒山まで行って、自分の指導者である美鳳と再会。千里1は巫女としての力を取り戻した。
 

千里が美鳳と別れて羽黒山の駐車場に駐めているアテンザの所に戻ると、燃料も切れていて、バッテリーも上がっていることに気づく。実はバッテリーをあげてしまったのは、アテンザを借りて富山から東京まで走って来た優子で、ライトの消し忘れだったのだが、この時、千里1は緩菜が生まれた時以来、ずっとこの車を数ヶ月使っていなかったのであがってしまったのだろうと思った。
 
バッテリーもあがり燃料も切れている車が、東京から羽黒山まで動いていたのは、美鳳の力である。
 
困っていた所に偶然貴司が美映・緩菜と一緒にランドクルーザー・プラドを運転してやってくる。貴司はゴールデンウィークを利用してバスケット上達に御利益(ごりやく)があるという噂の出羽三山まで来た所だった。ここで千里1としては貴司と会うのも、昨年緩菜が生まれた時以来という認識である。そして千里が美映の前に姿を見せたのは、貴司と美映の結婚以来初めてであった。初めてではあったが、美映は千里が“何”なのかを一瞬で認識し、敵対的な視線を送る。しかし千里が窮状を説明すると、貴司は燃料を少し分けてくれて(千里のアテンザも貴司のプラドもどちらもディーゼル車)、電気もブースターケーブルで繋いで、アテンザのエンジンを起動してくれた。
 
千里は貴司と美映に御礼を言って、車を鶴岡市内まで走らせ、オートバックスでバッテリーを交換してもらい、その後近くのGSで軽油を満タンにした。
 
千里1は東京に戻ると長い髪の毛をバッサリ切ってしまった、こんなに短くするのは、父との約束で丸刈りにしていた高校1年の時以来である。千里はこの髪が伸びるまで自分を徹底的に鍛えようと思ったのである。
 
千里が東京に戻ってきたのは5月1日で、4月19日以来、12日間の旅であった。
 
そして千里は経堂のアパートから近い練習場として、板橋区内の土地を衝動買いし、そこにシュート練習場を建てる契約を結んできた。これができるまではバイク(YZF-R25)で常総ラボまで通って練習する。
 

ところで能登の曲木町という所に、天狗岩・饅頭岩というのがあったのだが、実際には前者は男性器の形、後者は女性器の形をしていて、一種の陰陽石であった。(2019年)3月上旬、石川県内の中学の合唱部(女声合唱)の一行が、近隣の珠洲市で行われた合唱大会に出た後、ここを見学に来た。
 
この一行の中に、顧問の依田怜、部員の落合茜・月乃岬、ピアニストの平野啓太らが居た。岬はこの時点では学籍簿上男子なのだが、ソプラノが出るので、この遠征にソプラノとして参加していた。啓太は本来部員では無かったのだが、本来のピアニストがお休みだったため、急遽徴用されて参加していた。
 
ところが彼らが行ってみると、饅頭岩は見られたものの、天狗岩は崩れていて見ることが出来なかった。「残念だね」などと言いながら帰る。
 
それから半月ほどした3月下旬、青葉を含む〒〒テレビの“霊界探訪”取材班が天狗岩を訪れ、天狗岩が崩壊していることに気づくが、この時、青葉は天狗岩が崩れた後にできた穴から、あやしい霊気が漏れ出していることに気づき、(電話越の)千里の協力で霊気を穴の中に押し込み、穴も塞いで応急処置をした。
 

4月26日、依田はここしばらく急に男性器が縮み、胸が膨らみ始めていたことから、病院を受診した。医者は肝臓疾患などを疑ったが、精密検査をしてみることになり、連休明けに検査を受けることになった。
 
一方、啓太は3月下旬頃から、ペニスの根元付近に違和感を感じるようになり、やがて明確なしこりになってきた。最初恥ずかしくて誰にも言えなかったのだが、親友の茜が気付き(**)、啓太のお母さんにも話して、啓太は4月上旬、大きな病院の泌尿器科を受診した。
 
(**)なぜ茜が気づいたのかはプライバシーに配慮して詳述しない!
 
すると陰茎の根元に腫瘍ができていて、命に関わるので、すみやかに陰茎ごと腫瘍を切除しなければならないと医者は言った。
 
啓太はショックで気を失った。
 
ペニスを切らなければならないなんて、いっそ自殺しようかと啓太は思い詰めたが、茜は啓太とセックスまでしてあげた上で
「ちんちん無くなっちゃっても啓太と結婚してあげる。啓太が死んじゃったら、私悲しい」
と言ったので、啓太は手術を受ける覚悟ができた(**)
 
(**)まさか半年もしない内に結婚の約束を反故(ほご)にされるとは、啓太は思いも寄らない。
 

そして手術当日、憂鬱な気分で手術時間が来るのを病室で待っていた啓太の所に岬がやってくる。岬は言った。
 
「手術受けるの代わってくれない?」
「はぁ!?」
「平野君、ちんちん切られたくないよね。ボクはちんちん切られたい。だから交替しようよ」
「でも・・・」
「この病気には化学療法が使えるはず。それで腫瘍が完全に消失しなくても、腫瘍のある部分だけを切除して、おちんちんの前後を繋ぎ合わせる手術法もあるんだよ。だからもっと大きな病院で診てもらった方が良い」
「でもあと少ししたら、俺、手術されちゃう」
「だから交替しようよ。平野君はどこかに隠れているか逃亡するか」
 
啓太は考えた。そして
「逃亡しようかな」
と言った。
「逃げるなら今すぐだよ」
「よし。祖母ちゃんのところに逃げ込む。後は頼む」
 
それで啓太は逃亡し、埼玉県の祖母のところに行った。岬は病室着を着て、啓太の振りをして寝ていた。
 
それで岬が啓太の代わりに陰茎の切断、睾丸の摘出の手術を受けたのである。
 
一方、啓太の方は埼玉県の祖母に状況を説明し、祖母はすぐに啓太を腫瘍の治療で定評のある大病院に連れて行く。そして医者は岬が言っていた内容を追認。啓太はこの病院に通って、まずは化学療法を受けることになった。
 

啓太の両親は交通渋滞に巻き込まれて手術開始に間に合わなかった。そして手術が終わって手術室から出て来た“啓太”を見て
 
「誰です、これ?」
と声を挙げた。
 
病院では岬の両親も呼ばれて大騒動になる。岬の父はただちに復元手術をするよう病院に要求したが、病院側はそれは困難だと説明した。
 
ここで岬の兄が提案をした。
 
「啓太君はちんちんを切らない別の治療法が受けられることになった。岬はちんちんを切ってもらって喜んでいる」
と状況を確認した上で
 
「だから、何も起きなかったことにしませんか?」
 
と言ったのである。医者たちと啓太や岬の家族との間で激論が交わされるが、確かに何もなかったことにするのが、本人たちにとっても一番いいということで、岬の兄の提案が採用されることになる。
 

但し病院側は追加の提案をした。
 
岬の外陰部は現在、“ペニスと睾丸を取っただけ”の状態に近いので、これを性別適合手術に慣れた病院に連れて行き、普通の女性の股間に見えるように形成手術をしてもらうのがいいというものである。ただちに射水市にあるクリニックに連絡する。クリニックの松井医師は
 
「そういうことならすく連れてきなさい」
と言い、岬は松井の手で、ごく普通の女性の股間を持つ“女の子”に生まれ変わることができた。
 
病院では、岬は半陰陽だったので、出生時には男児と誤認されていたが本当は女子で、性器の形も本来の性に合わせて調整したという診断書を書いた。それで岬はこの診断書を元に性別の訂正を裁判所に申請することになった。
 
これが4月中旬のことだったのである。依田は4月から別の学校に転任していたので、啓太や岬たちと依田先生はお互いの状況を知らないままであった。
 

ゴールデンウィーク十日間(4.27-5.6)にアクアは、平成から令和への“元号またぎ全国ツアー”をおこなった。例によってハードスケジュールなので、山村マネージャーこと《こうちゃん》は、リハーサル役はもうひとり入れてくれとコスモス社長に申し入れた。その結果、姫路スピカもリハーサル役として参加することになった。これで葉月の負担は随分小さくなった。アクアの代理は歌唱力のある子にしか務まらないので、スピカの起用となったものである。むろん、アクアの方は3人で分担してやっている。
 
連休明け、スピカは山村マネージャーや写真家さんと一緒にタヒチに飛んだ。アクアの写真集をタヒチで撮影する予定なので、予めスピカを使ってロケハンをしておき、撮影がスムーズに済むようにするためである。
 
一方、アクアと葉月は連休明け、リセエンヌ・ドオと一緒に長野に行き、アクアの新曲『ラブ・キャンディ/集団旅行』のPV撮影を行った。その後、アクアと葉月は石川県に足を伸ばし、クイズ番組と旅番組の撮影をする。
 
5月13日はかほく市のイオンタウンでクイズ番組の撮影をすることになっていた。
 

岬はゴールデンウィークの十連休の間、射水市の病院に入院していて、連休明けに退院。自宅療養に切り替えた。実質的な性転換手術を受けたので、痛みはかなりのものである。それで5月いっぱいくらい自宅で療養し、週に1回通院して傷の状態を診てもらうことになった。一方、岬の母は弁護士も伴い学校を訪れて、岬は半陰陽だったので、性器の調整をする手術を受けさせて女の子になったこと、戸籍上の性別も現在訂正を申請中であることを説明し、自宅療養が終わったら女生徒として通学させて欲しいと申し入れた。校長も「半陰陽なら仕方ないですね」と理解を示し、すぐに女子制服(とりあえず夏服)を作ることになった。
 
啓太は埼玉の祖母の家から当面東京の病院に通院し、石川県の方の中学はお休みということにしたが、担任が岬にも啓太にも宿題を送ってくれたので、2人ともそれを書いて学校に送り返していた。
 

さて依田は連休明けの5月13日に病院に行って精密検査を受けたのだが、帰りにイオンタウンかほくに立ち寄った。するとアクアが居て、変な女性レポーターに絡まれていた。目に余るので注意しようと思ったら、ベビーカーに子供を2人乗せた女性(千里1)が来て、排除してくれた。彼女は作曲家でバスケット選手でもあるということで、依田は「頑張って下さいね」と言って千里と握手した。一方、千里1はアクアにまとわりついているレポーターにアクアを追わせないよう彼女の手を握って引き留めた。
 
千里1はその女がそれでもアクアの撮影中に寄ってきたので、《こうちゃん》に連絡した。《こうちゃん》は、タヒチでアクアの写真集撮影の準備をしていたのだが、こちらに飛んできて(本当は国内に居る自分のエイリアスを急行させた)強引に彼女を排除。宇奈月温泉行きのタクシーに乗せてしまった。運転手に充分なお金を渡して絶対に行き先変更させないようにした。レポーターも諦めて、取り敢えず今晩はここに泊まるかと考え、一軒の温泉旅館に入る。そしてお風呂に浸かってこようと着替えを持って大浴場に行き、女湯に入ったところで・・・女性客たちから悲鳴をあげられ、痴漢として逮捕されてしまった!
 
《たいちゃん》はこのレポーターと依田が千里1と接触したことを認識したので、Google Keepを通して《きーちゃん》に通報するのと同時に、自分は依田の方を追って、レポーターの方は《てんちゃん》にフォローを頼んだ。
 
《てんちゃん》から連絡を受けた《きーちゃん》はこの件を千里2に相談したが・・・
「留置場に入っている人は接触不能だね。取り敢えず放置で」
と千里2が言ったので、Google Keepの“処理保留中”というメモに移動して、取り敢えず放置することにした。
 

依田は5月13日にイオンタウンかほくで千里と接触した後、30分ほどで性転換して女になってしまった。帰宅してパートナーのサトミ(MTF PreOp)に話すと仰天される。
 
「私の方が性転換したかったのに!」
 
翌週、5月20日に精密検査の結果を聞きに行った時、医師に性が変わってしまったことを言うと、医師も仰天し、全身MRIを取ったりして検査される。医師は依田に言った。
 
・あなたは完全な女性である。
 
・たぶん半陰陽で本来女性だったのが何らかの理由で男性的な外観が発達していた。それが本来の女性の形に戻ったのだと思う。
 
・先日から陰茎(のように見えた本当は陰核)が縮小し、胸が膨らんできていたのは、その前兆現象。
 
それで医師は下記のどちらかを選んでくれと言った。
 
・半陰陽だったという診断書を書くので、それで裁判所の審判を受けて法的な性別を女性に変更し、今後は女性として生きて行く。
 
・男性の身体に変更する手術(性転換手術)をして男性に戻す。
 

依田怜はパートナーのサトミと話し合い、怜が法的な性別を女性に訂正した上で、サトミと婚姻しようということにし、5月27日(月)に病院に行き「半陰陽だが女性」という診断書を書いてもらった。そして書類を揃えて29日、金沢に出て家庭裁判所に行こう・・・とした所で千里(千里2)に呼び止められる。
 
千里2は依田が性転換してしまったのは、双子の姉(ということにしておく)が昨年新婚早々に夫を亡くしたショックから回復中の霊的暴走によるものであるとして謝った上で、自分が男に戻すことができると説明した。
 
それで怜は男に戻してもらった。ついでにサトミは女に変えてもらった、この後は、サトミの方が半陰陽の診断書をもらって性別訂正をした上で婚姻しようという話になった。実際にはサトミは妊娠してしまい、性別訂正認可後すぐ婚姻届を出し、続けて母子手帳も受けとることになる。つまり男→女→妻→母と劇的な変化を遂げた。
 

依田たちと会った時、千里は彼から、実は千里の姉(1番)と接触する以前から身体が女性化しつつあったことを話す。彼と話していて、それは3月上旬に、曲木町の天狗岩に行った時に、変な霊障を受けたのかも知れないということになる。実際、依田には“除霊された跡”が残っていた。おそらく姉が性転換させる法を掛けた時に同時に除霊したのだと思うと千里は言った。
 
その時行ったメンバーの中に他に男性は居なかったかと聞かれ、依田は女声合唱で遠征したので女生徒ばかりだったが、ピアニストが男の子で、平野啓太というと答えた。
 
そこで依田が前職の学校に問い合わせてみた所、平野君はペニスに腫瘍ができて、一時はペニスを切断しなければならないと言われたものの、その後、切らない治療法が見つかり、現在東京の病院に転院していると聞いて依田はびっくりした。
 
そこで千里は、そういう呪いの系統の除霊は自分にはできないが、妹で金沢ドイルという子が居るので行かせて除霊させますと行った。依田も金沢ドイルは知っていたので「あなた、ドイルさんのお姉さんですか!」と驚いていた。依田は彼がそんな病気になったのは自分のせいだと言い、除霊の依頼料として暫定的に50万円千里に払ってくれた。
 

しかしこの時期、青葉は都内で合宿をしていた。それでこの程度は青葉の手を煩わせることもあるまいと、千里2は翌5月30日(木)、新幹線で東京に戻ると、《くうちゃん》に頼んで、青葉に擬態させてもらった上で、平野啓太の病室を訪問し、天狗岩の所で男性が女性化される呪いに掛かっていたことを説明、彼に確かにまとわりついていた妖怪のようなものを《こうちゃん》に除去させた。更に《びゃくちゃん》にもこの腫瘍の治療を少しさせたので、この後、啓太は急速に腫瘍が小さくなった。化学療法の効果もあったので
 
「ここまで小さくなれば、陰茎を切断する必要はなくなりましたよ」
と主治医から言ってもらった。啓太と茜は思わず喜んでセックスしてしまった。
 
啓太のペニスは彼が自分で刺激しても立たないが、茜にされると挿入可能なギリギリの堅さまで行く。実際には射精はできないものの、お互い精神的に深い満足感と一体感が得られる。但し、2人が何度も“付けずに”セックスしていたのは、岬が6月上旬に気づいて注意し、避妊具も渡してあげたので、それ以降はちゃんと付けてするようになった。
 
依田自身も6月1日(土)には自ら新幹線で東京に出て来て、啓太と祖母の前で土下座して謝った。依田はお詫び料として暫定的に100万円払いたいと言ったが、啓太も祖母も「先生も大変だったから」と言い、辞退した。
 
「でもチンコ切られなくて済んで良かったな」
「先生も男に戻れて良かったですね」
 
この時点で、依田も啓太も、天狗岩の所には岬も行っていて、彼も女性化の呪いが掛かっていることに、全く思い至らなかった。岬が除霊されるのは、7月21日に行われたロックギャルコンテスト本選の直後である。
 

さて、5月13日(月)にイオンかほくでクイズ番組の撮影をしたアクアは、夕方には和倉温泉に移動して、有名旅館“加賀屋”で旅番組の撮影をした。この日は豪華な夕食を片原元祐さん、アクア・葉月・桜木ワルツの4人で頂き、そのあとお風呂の撮影もあったのだが、これは片原さん単独の撮影になった。
 
「いくらなんでも女の子3人を男湯に一緒に入れる訳にはいかないからね」
などとプロデューサーさんは言っていたが、どうもアクアも“女の子”扱いのようである。
 
片原さんは豪華な部屋、アクアもわりと豪華な部屋、葉月とワルツは普通の部屋に泊まったが、この普通の部屋でも一般的なホテルの部屋より充分豪華だった。
 
翌日は能登島大橋を渡り、能登島で、のとじま水族館・ガラス美術館を訪問、ひょっこり温泉に泊まる。片原さんはこの日の夕方で東京に戻ったので、この日はアクアがひょっこり温泉の露天風呂に入っている所を撮影された。
 
ちなみにこの日は男性の団体客が入っていて、女性の客は少なかったので、女湯を1時間借り切って、そこでアクアの入浴シーンを撮影している。一般客の裸が映り込まないようにするため貸し切りで撮影したことはテロップでも説明しているのだが、このアクアの入浴シーンでは、テレビ局の女性レポーターがカメラの傍から声を掛けて感想を聞いたりしていたので、
 
「やはりアクアは女の子だから、女性レポーターに取材させたんだよな」
とネットでは言われていた。
 
(アクアが脱衣場で服を脱ぎ、浴室で身体を洗い、浴槽に浸かってから、スマホ連絡で、撮影スタッフ(全員女性)は中に入っているので、撮影スタッフはアクアの裸を見ていない。アクアは胸やお股はタオルで隠していた−“女の子の胸”とかが写ると放送できないと言われた。入浴したのは実際にはNである。Nは実は微かに胸が膨らんでいる。ペニスは付いているがタックしているので付いていないように見える。要するにNのヌードは発達しかけの女の子のヌードに見える!)
 
実際、アクアのことを知らない視聴者は多くが、女の子の入浴シーンを撮っていると思ったようであった。
 

アクア・葉月・桜木ワルツは15日は能登島の北側に架かるツインブリッジのとで本土に戻り、能登空港(NTQ)から羽田(HND)に飛ぶ。成田(NRT)に移動し、ニュージーランドのオークランド(AKL)経由でタヒチのパペーテ空港(PPT)に飛んだ。
 
NTQ 5/15(Wed) 10:40 (NH748 A320) 11:45 HND (1'05)
(車で羽田から成田へ移動)
NRT 5/15(Wed) 18:30 (NZ090 787-9) 5/16 8:05 AKL (10'35)
AKL 5/16(Thu) 16:10 (TN0102 A340-300) 5/15 23:00 PPT (4'50)
 
5月15日に出発し一度は5月16日になったのに最終的に到着したのは5月15日という不思議な旅だが、タヒチとは19時間の時差があり、タヒチの5/15 23:00は日本時間では5/16 18:00であり、合計31時間ほどの旅であった。
 
《こうちゃん》と《わっちゃん》は移動はアクアNと《かぶちゃん》にやらせて、アクアMとFに葉月本人は転送した。
 

タヒチでは、事前に現地入りしていた姫路スピカと、アクア・葉月の3人で撮影作業を進めた。ここで実際には、アクアはMFNの3人、葉月は本人と《かぶちゃん》の2人でやっているので、スピカは
 
「アクアも葉月も、本当に体力あるね」
と感心していた。
 
かえってスピカのほうが夕方くらいには疲れてきていた。それで山村はスピカに度々仮眠を取らせ、部分的にはワルツにも代役をさせて、作業を進めた。
 
ローズ+リリーのプロジェクトでタヒチ“留学中”のHavai'i 99とも引き合わされ、彼らの演奏をバックにアクア・葉月・スピカが並んで踊るというシーンも撮影した。
 
タヒチでの撮影は5月18日まで3日間続けられ、19日の便で日本に戻った。
 
(PPT 5/19(Sun)7:15 (JL5078 A340-300) 5/20(Mon)14:05 NRT (11'50)
 
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【△・Who's Who?】(3)