【少女たちの初めての体験】(2)
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(C)Eriko Kawaguchi 2018-09-16
「美輪子姉ちゃんは大学出たらどうするの?学校の先生?」
と千里は尋ねた。
「それ狭き門だからなあ。一応単位は全部取っているし、来年は母校で教育実習させてもらえることになっているから、それで中学と高校の教員免許は取れる予定。でも教員採用試験は物凄い高倍率。更に合格しても採用候補者の名簿に登録されるだけだから、実際にどこかの学校に登用されるかどうかは不明。私が取っている科目の場合、元々の採用枠が少ないから、ひたすら待機して結局声が掛からないということも多い」
「たいへんそう」
「それで結構コネが横行しているとは言われるけど、私コネなんて無いしね」
「うーん」
「もしかしたら塾の先生とかを目指すかも。塾なら純粋に指導力のある人は採用してくれるから」
「わあ」
「本来の担当科目以外でも教えられる科目は教えさせてくれるし。私、免許は取らないけど、英語・数学・物理・化学・日本史とかなら教えられるよ」
「すごーい」
「ただし塾の先生って、ほとんどパートタイマーみたいなものだから、物凄く身分も収入も不安定だけどね」
「むむむ」
「千里は将来何になりたいの?」
「お父ちゃんは漁師になれって言ってるけど、私には無理だと思う」
「千里、漁船に女子は乗せないよ」
と美輪子は言った。
「あ、そうだよね!」
と千里は虚を突かれたように言う。
「千里は女の子でしょ?」
「うん」
「だったら漁師になる道は無いな」
「そっかー」
「だったら何になりたい?」
「・・・私分かんない」
「それを考えるのが、千里のこれから数年間の課題かも知れないね」
と美輪子は優しく言った。
「まあ女性の場合、専業主婦という道もあるが」
「うーん・・・」
父から清酒「男山」を買ってきてくれるよう頼まれたことを言うと
「未成年には売ってくれないよ」
と言って美輪子は自分で男山の五合瓶を買って千里に持たせてくれた。
「一升瓶買ってもいいけど、千里の父ちゃん飲み過ぎだから、このくらいでやめといた方がいい」
「そうそう。お父ちゃん、お酒に弱いくせに飲みたがるんだよ」
案の定帰宅してお酒を渡すと「なんで一升瓶じゃないんだ?」と父は言ったが「私、腕力無いから一升瓶なんて重くて持てない」と答えておいた。
元日は一家4人でP神社に初詣に行く。千里は普通のセーターとジーンズのパンツにコートを着たが、昨日着た振袖で初詣できたらよかったのに、などと思っていた。
しかし参拝客が多い。
小春が忙しそうである。
「千里〜。いったん家に戻ってからでいいから手伝って〜」
などと言われる。
「分かった」
千里としてはあまり父に関わりたくないので好都合である。それで帰宅すると
「神社に手伝い行って来まーす」
と言って出かけていった。
「でも私生理中なんだけど、巫女とかしてもいいんだっけ?」
と千里が言うと
「きれいに洗っちゃえば平気。おいで」
と言って小春は社務所の中のトイレに千里を連れ込むと、ビデを使ってきれいに洗浄してくれた。
「これで問題無いよ」
「へー」
「でも念のためナプキンはつけておいた方がいい」
「そうする!」
それで巫女の衣裳に着替えて、お祓いや物販など、また昇殿して舞などもしたが、あとでトイレで見てもナプキンは全く汚れていなかった。小春が洗ってくれたので全部洗い流してしまったようである。
この年の1月、千里や蓮菜たちのグループではバレンタインのチョコ作りをしようというので盛り上がった。最初に練習しようというので、1月20日、みんなで集まり生チョコ作りの練習をした。この時点で千里は特にバレンタインを送るような男の子の心当たりはなかった。
その翌日21日。千里は漁協の網のメンテに駆り出された。もっとも千里の腕力で網の補修をしてもすぐ解けてしまう、ということで戦力外なので、もっぱら作業をしている人にお茶などを配る仕事をしていた。
この時、千里は網の補修作業のまさに戦力になっていた、逞しい身体付きの青沼晋治という6年生と知り合う。彼は野球部のエースで女子にはひじょうに人気があった。千里はその翌日、晋治からキャッチボールに誘われる。千里が投げるボールが物凄くコントロールが良いことに気付いた晋治は千里の投球能力を更に鍛えてくれたのである。
それで千里はせっかく作ったチョコを晋治にあげてもいいかなと思い、渡すことにする。晋治には美那もチョコを渡した。また恵香は同じ野球部の赤坂君にチョコを渡した。また蓮菜はミニバス部の田代君に、留実子は同じくミニバス部の鞠古君にチョコを渡した。
2月12日、千里・美那・恵香・晋治・赤坂の5人は一緒にグループデートをした。
デートなるものは千里も初体験だったが、グループデートだったので心理的な負担もわりと小さかった。この時、千里の性別は友人たちの口から晋治にバレてしまい、千里はこれで彼との関係は終わったかもと思った。
しかし晋治は週明けにはまた千里をキャッチボールに誘った。
「私の性別を知っても誘ってくれるの?」
「千里は女の子だろ?」
晋治が千里を見詰める。
千里はこくりと頷いた。
「じゃ、問題無し。今日も少し頑張るぞ」
と晋治が言って、ふたりはその日もまたキャッチボールをするのであった。
千里と晋治のキャッチボールは、晋治が中学進学のために旭川に行ってしまった4月上旬まで更に1ヶ月半続くことになる。
千里の3度目の生理は1月27日、4度目は2月24日、5度目は3月24日に来た。普通この年代の少女の生理はけっこう周期が乱れがちなのだが、元々成人女性である母の卵巣を体内に入れているせいで、きわめて規則的に生理は来ているようであった。
千里も2度目くらいまでは結構ドキドキだったのだが、3回目くらいからは慣れてきて、日常の一部になってきた。そして生理中、千里は学校でも女子トイレを使用していた。
2001年4月、千里は5年生になった。
5年生からは必修クラブの時間が週1回授業に組み込まれる。ただしN小ではスポーツ少年団に入っている子は、その時間には入っているスポーツ少年団の活動をすれば、それでこの授業を読み替えるということになっていた。
ただしこのクラブ活動の時間は、自分が所属しているスポーツ少年団と別の競技のクラブに参加してもいいことになっていた。
千里は4年生の時から籍だけ剣道部に置いていたので(練習はサボりがち)、それでいいかと思ったのだが、もう卒業して中学生になった晋治が
「この子、凄いピッチャーだから使ってやってよ」
と言って、千里を自分が3月まで所属していたN小野球部に連れて行った。
もしこの時千里が野球部に入っていたら、後の日本代表バスケット選手の村山千里は生まれていなかったかも知れない。
しかし野球部の顧問の先生は言った。
「野球部は男子だけなので、女子は入れられないんだよ」
「でも村山は戸籍上男子なんですよ」
と晋治は言うものの
「戸籍は戸籍として実態は女の子だよね?ソフトボール部に行ってくれる?」
それで晋治は千里をソフトボール部に連れて行った。
「私も男の子に混じって野球するより、女の子と一緒にソフトする方がいい」
と千里は晋治に言った。
「そうか。そうだよね。ごめんね、野球部に連れて行って」
それでソフトボール部に行ったのだが、ソフトボール部の顧問は言った。
「村山さん、確かにほとんど女の子だけど、戸籍上は男子だよね。悪いけど、男子は女子の試合に出られないんだよ」
これには千里も困惑した。晋治が千里に代わってソフト部の顧問に言う。
「この子、野球部に連れて行ったら、実質女子だから野球部には入れられないからソフトボール部に行ってくれて言われたんですけど」
「うっ」
と顧問は声をあげた上で、急遽野球部の顧問と話し合ってくれた。それで千里は言われた。
「向こうの先生と話し合ったんだけどさ。村山君、そしたら確かに君はほぼ女子みたいだから、やはり男子たちと一緒に野球をやらせるのは危険ではないかということになった。それで女子のソフトボール部に入っていいけど、戸籍上男子だから、公式戦には出さないというので勘弁してくれない? 練習だけ女子部員たちと一緒にやる」
「はい、それでいいです」
と千里は答えた。
「公式戦ではなく練習試合でなら、もしかしたら村山君が参加できるような試合を設定できるかも知れない」
「それはそういう機会があったらラッキー、というくらいに考えた方がいいですよね?」
と晋治が言う。
「うん。そんな感じで」
それで千里は女子ソフトボール部に加入したのだが、男子なのでスポーツ少年団に正式登録できない。
「これ万一試合中に怪我とかした場合にまずいな」
と顧問は悩んでいたのだが、晋治が言った。
「この子、剣道部にも入っているんですが、そちらのスポーツ保険が流用できませんかね?」
「おお!それはいけるかも」
それでソフト部の顧問と剣道部の顧問が話し合った結果、千里がソフトボール部の活動をする場合は、剣道部から助っ人として派遣しているという建前を取ることにした。それで“たぶん”怪我した時の保険はきくのではないかと顧問の先生は言った。
でも何か怪しい気はした。
それでやっと千里はソフトボール部の練習に参加したのだが、晋治が
「この子ピッチャーとして優秀ですよ」
と売り込んでいたので、紅白戦のBチームの先発ピッチャーに指名された。
まずは投球練習ということで、千里はピッチャーズサークルに立ち、ゆっくりとしたモーションからウィンドミルで投げる。
「おお、ちゃんとウィンドミルができるんだ」
と顧問が感心したように言う。
ボールは推定50km/hくらいの遅い速度でキャッチャーのミットに収まった。
「なるほどぉ、これは男子の速度ではないな」
などと顧問の先生が言う。
「実際この速度なら男子の野球部では使い物になりませんよ」
とキャプテンの6年生紀子さんが言った。
しかしBチームのキャッチャーを務める5年生・麦美は
「ナイスピー」
と言って千里にボールを返す。また千里が投げる。ボールはゆっくりとした速度でミットに収まる。
この時、麦美は何か考えるようにした。更に3球投球練習してから紅白戦が始まる。
千里が投げる。
ボールは内角低めに来る。バッターはバットを振らずに見送る。
「ストライク」
と審判を務める6年生の副部長・友恵さん。
「え〜?今の入ってた?」
とバッターが言うものの
「入ってた」
と友恵さんは言う。
次の投球。今度は外角高めに来る。バッターがバットを振るが空振りである。これでツーストライクだ。
3球目。ボールは外角低めである。バッターは振るかどうか一瞬悩んだものの見送った。
「ストライク、バッターアウト」
と審判。
「え〜〜?今の外れてなかった?」
「入ってた。ちゃんとベースのギリギリ内側を通過したよ」
「うっそー!」
と言いながらも、素直に下がる。
そして・・・・
この後千里はAチームの1〜3番打者を全員三振に取ったのである。
1回裏はBチームの1〜3番がAチームエースの敏美さんの剛速球を打てず三者凡退となる。
しかし2回表、千里はAチームの4〜6番を全員三振または凡打に討ち取った。エースで4番の敏美さんも、内角低めにピタリとボール決められ、三振になってしまい天を仰いでいた。
そしてこのあと5回まで千里と敏美さんの息詰まるような投手戦が展開されたのであった。
「終了〜。今日は0対0の引き分け」
と顧問の先生が宣言した。
「村山さん、凄いね」
「球威はないけど、物凄くコントロールが良い」
「村山さんの球を受けるのに、私はミットを動かす必要が全く無かったです。ミットのある所にピタリと投げてくれるんですよ」
と麦美は言った。
「青沼さんが『優秀なピッチャーだから』と言ってた訳が分かった」
「村山さん、これで球威が出れば本当に凄いピッチャーになれるよ」
「ああ、でもそんなに優秀なのに公式戦に出せないって残念」
「ねえ、村山さん、女の子になりたいんでしょ? ちょっと病院に行って手術受けて女の子になってきてくれない?」
「手術受けたいですー」
と千里も言った。
4月中旬に身体測定が行われた。
昨年度1年間の身体測定では、最初我妻先生が千里のカルテを女子の方に、留実子のカルテを男子の方に入れていたのだが、保健委員の蓮菜と田代君でその2つのカルテを交換し、千里は男子の測定が行われる理科室に行ったのだが、男子たちに追い出されてしまう。
困ってしまった千里が女子たちの身体測定が行われる保健室の方にくると女子たちから「なぜこちらに来る?」と非難された。しかし蓮菜は「私に任せて」と言って、千里を先頭に並ばせ、結果的に他の女子と接触しないようにして、乗り切ったのである。女子の中で唯一、出席番号の女子先頭である大沢恵香だけが、下着姿を千里に見せることになるが、恵香は千里の親友で、もともと過去に何度も千里とはお互いに下着姿を見ているので問題は無かった。
我妻先生は昨年1学期の終わりに、やっとふたりの性別を勘違いしていたことに気付いたのだが、先生はわりと適当なので、学校のデータベースで千里は女子、留実子は男子に分類されたままであった。それで身体検査のカルテも毎回、千里は女子の並び、留実子は男子の並びで出力されていた。
保健委員のふたりは話し合い、留実子のカルテは女子の方に移すこと、千里のカルテはそのまま女子の方に入れておくが、必ず先頭に置くことを決めた。実際ふだんの月の身体測定は体重と身長だけが測られ、(女子の場合)着衣でよいので千里はふつうに女子と一緒に受けても問題無かったのである。
しかし4月の学年初めの身体検査では、内科検診も行われる。
今年も保健委員になっている蓮菜と田代君は再度話し合って、千里と留実子のカルテはいつも通りに処理することにした。それで留実子は女子の並びで受けるし、千里は女子の先頭で受ける。
いつものように、女子は保健室に行き、男子は理科室に行って、まずは着衣のまま並ぶ(男子はこの段階でパンツ一丁にされてしまうらしい)。
「最初の人こちらに来てください」
とクロススクリーンの向こうでテーブルに就いている蓮菜が声を掛ける。
千里がこちらに来て身長と体重を測り、今年新任の保健室の先生・祐川先生がデータをパソコンに入力する。
その後、服を脱ぐように言われるので千里は着ていたトレーナー・ポロシャツ・Tシャツ、ズボンと脱ぐ。それでもうひとつのクロススクリーンの向こうに行くように言われるので千里はそちらに行く。お医者さんが居る。ブラジャーを外してその前の椅子に座る。お医者さんは聴診器で千里の診察をする。
「体調の悪い所とかありませんか?」
「ありません」
「生理は・・・来てるよね?」
と医師は千里の胸を見ながら言う。
「はい。来ています」
と千里は答える。
「前回の生理は?」
「3月下旬に来ました」
「その前は?」
「2月下旬です」
こんな受け答えをするのは千里にとっては初体験のことである。
「規則的に来てる?」
「はい。ほぼ28日おきに来ています」
「だったら問題無いですね。はい、もういいですよ」
それで千里は一礼して席を立ち、ブラジャーを付けてクロススクリーンの向こうに戻るが、その会話を結果的に聞くことになった蓮菜は頷くようにしていた。
既にブラとパンティだけになっていた恵香と手を振り合う。恵香がお医者さんのいる方に進む。千里は下着姿のまま、今身長・体重を測っている出席番号が女子で2番目の木村美那とも手を振り合う。
千里が服を身につけるのと、美那が服を脱ぐのが同時進行になるが、美那も千里のヌードを見たことがあるので気にしない。むしろ美那は千里の胸に触って
「けっこう膨らんで来たね」
と言った。
「小春、千里の体内に放り込んでいる卵巣と子宮だが」
とその日大神様は言った。
「移植してから半年ほど経ったが、いつ母ちゃんに戻す?」
小春は言った。
「お母さんの放射線と抗癌剤の治療はまだ続いているんですよ。ですから終わってからでいいですか?」
「うーん。その状態なら戻す訳にはいかんな。分かった。まだしばらくそのままにしておくか」
「はい」
小春としては、今自分自身の体内で育てている本来の千里の女性生殖器がちゃんとできあがるまでは、あまり戻す気が無い。現在その女性器はまだ生まれたての女の赤ちゃんの女性器くらいのサイズである。
「だけど千里から預かっているこのちんちん、結構楽しいなあ。これも千里には戻さず、ずっと私が持ってようかなあ。どうせあの子、要らないよね?」
などと小春は独り言を言っていた。女性器を移植しているので邪魔になるため取り外し中の千里のおちんちんは、実は小春が自分の身体に接続しているのである。それで実はしようと思えば、立ち小便もできる(女湯に入る時は割れ目ちゃんの中に入れて隠しておく。小春はバストはあるから女湯に入れる)し、そのほかに“個人的な楽しみ”にも使用していた。
もっとも小春は自分自身が女(メス)だし、更に千里の女性器まで育てているので女性ホルモン優位であり、千里のちんちんは少しずつ縮んで行っているような気もした。このおちんちんは千里が中学に進学した時の“グラフティング”の結果千里の身体に戻ることになるが、その時のサイズは外に出ている部分が2cm程度であった(毛の中に隠れてしまうので、一見ついてないようにも見える)。
なお千里の中学時代の睾丸の出自、つまり成人式翌日の千里と桃香のセックスによって受精し、谷山宏香が代理出産した子供・谷山小空の遺伝子上の父については、多分来年くらいに語ることになるだろう。
(千里と桃香が保存した冷凍精液の方は実際に射精したのは武矢なので本物の千里の精液である。従って桃香が産んだ早月の遺伝子上の父はやはり千里である)
※遺伝子上の両親の一覧
2012.04.15 _0:20:29(長崎) 谷山小空 ????/高園桃香
2013.02.14 22:22:22(長崎) 谷山小歌 細川貴司/高園桃香
2015.06.28 15:30:00(豊中) 篠田京平 細川貴司/村山千里
2016.08.19 19:09:25(高岡) 府中奏音 川島信次/府中優子
2017.05.10 11:12:13(東京) 高園早月 村山千里/高園桃香
2018.08.23 15:02:12(豊中) 細川緩菜 川島信次/村山千里
2019.01.04 _8:58:11(仙台) 川島由美 川島信次/高園桃香
2019.04.01 _8:46:00(久喜) 水鳥幸祐 川島信次/水鳥波留
桃香は4人の子供の遺伝子的母だが自分で産んだのは早月だけである。また、桃香は女性同性愛で、男性との性交経験は少ないが、小空はその数少ない男性との性交でできた子供である。しかし桃香はこの子の存在を2018年5月になるまで知らず、流産したものと思っていた。
信次は男性同性愛で女性恐怖症なのに4人の子供の遺伝子的父になった。しかも由美だけが体外受精であとの3人は母となる女性との性交で作った子供である。信次は女性とのP→V型性交は数えるくらいしか経験していないのに、それが高確率で子供の誕生につながっている。何とも命中率の高い男である。
男の娘である千里は1人の子供の遺伝子的な父となると同時に2人の子供の遺伝子的母になった。もっとも2人とも本当に人間なのか、微妙に怪しい。
“谷山光太郎”の名前は実は小空・小歌の姉弟が共用している《ブランド名》である。2人はほとんど同程度の霊的なパワーを持っている。但し得意分野は全く異なる。
小空は男装が好きだし小歌は女装が好きで、2人は顔立ちも似ているので、しばしば入れ替わって遊んでいる。入れ替わらなくても服を共用しているし、お揃いのスカートを買ってもらったりもしている。戸籍上の母、そして実際に出産した母でもある谷山宏香は、しばしば上の3人の娘と一緒にこの2人にもお揃いの女の子の服を着せて連れ歩き
「うちは女の子ばかり5人なのよ」
と言って
「なるほどー。次は男だろうと思って作っている内に5人女の子ができちゃったパターンですか?」
などと言われている。
小空と小歌は年子だが、同じ学年なので、よく双子と思われているし本人たちも「私たち双子だよ」と言っている。
ちなみに「双子の男の子」と思っている人が3割くらい、「双子の女の子」と思っている人が5割くらい居て「男女の双子」と思っている人は少ない。(本当は男女の年子)
なお、小空は結構男の子になりたいがGIDではない。普通の女子が持つ「男の子だったらよかったのに」程度の気持ちである。小歌は女の子になる気はないが、女装している時は平気で女子トイレを使う。小空がしばしば
「女の子するんだったら、私にちんちん譲ってよ」
と言うが、小歌は
「いやだ。ちんちんはあげられない」
と言っている。
しかし小歌はしばしば朝起きてトイレに行った時に仰天させられる。
4月下旬。
N小女子ソフトボール部は連休明けの春季大会を前に、K小学校女子ソフトボール部との練習試合をおこなった。事前の話し合いで、実質女子ではあるが戸籍上は男子である千里を使ってもいいことを認めてもらっている。向こうとしては、男子ならきっと凄いボール投げるだろうから、良い練習になるという思惑があったし、N小としてもエースの敏美を大会前にあまり曝したくないというのもあった。
向こうの5年生ピッチャーと千里の投げ合いで試合は始まった。
千里がとても遅いボールを投げるので、向こうは、期待外れだという顔をしていた。
最初は。
「その子、ほんとに男子なの?見た目女子にしか見えないんだけど?」
と向こうから言われる。
「ほとんど女子です。実はちんちんも無いらしいです(と5年生の子たちから言われて監督は信じている)。それで野球部には入部を拒否されたんですよ。でも戸籍上は男子なんで、公式戦に出せないんですよね」
とこちらの監督は説明した。
向こうの監督は試合後、
「いや、こういうボール投げるピッチャーなら、女子の試合に出しても全然問題無いと、最初は思ったよ」
と言っていた。
ところが、この遅いボールを投げる千里を、相手チームは全く打てない。
正キャッチャーの6年生亜美が、ストライクゾーンぎりぎりを要求し、千里がそこに正確に投げ込むので、向こうはつい見逃してしまうのである。そういう投球を見せておいて、しばしばストライクゾーンのぎりぎり外側にも投げて空振りさせカウントを稼ぐ。
それでK小は4回まで1人ランナーを出しただけで完全に千里に抑えられてしまったのである。一方N小側はフォアボールで出たランナーをバントで2塁に進め、今日打者専任で出場している敏美がタイムリーを打って貴重な1点を取っている。
試合は5回表まで終わった所でこの敏美が取った1点のみが入った状態、1−0であった。
5回裏、千里は先頭の5番打者を三振に取る。
そして2人目の6番打者にはかなり粘られたもののセカンドゴロに打ち取った。
そして3人目。代打が出る。柔道でもやっているのかと思うような大柄な女子である(後で聞くと本当に柔道部からの助っ人だった)。初球外角高めの球に手を伸ばして強引に当てる。
しかし当たりそこないである。ファースト方面に転がったので千里も追うが、ファーストの由姫も出てくる。セカンドの啓子がカバーのためファーストに走っていく。
結局ファーストの由姫が取ってカバーに入ったセカンドの啓子に送球したが、僅かに送球がそれた。啓子は飛びつくようにしたが届かない。
ボールが転がる。
一瞬バッターランナーは1塁を蹴って2塁に向かおうとした。
しかし、ライトの柚花が物凄い勢いで前進してきてボールを抑えたので、すぐに停止し、急いで一塁に戻る。柚花から一塁カバーに入った千里にボールが送られたが、帰塁のほうが早い。セーフの判定である。
由姫が「ごめーん」と手を合わせて謝っているが、みんなで「ドンマイ、ドンマイ」と声を掛ける。千里も彼女にドンマイと声を掛け、指1本を立て「あと1人」とみんなにあらためて示す。
そして気を取り直してピッチャーズサークルに就く。
K小は8番の打順だが、再度代打を出してくる。今度は背の低い選手である。130cmくらい。2年生くらいだろうか。しかし左バッターボックスに入る。左打ちの選手のようである。
しかし小さいとストライクゾーンも狭いので狙いにくい。最初に投げた外角高めギリギリの球をボールと判定される。
うーん。。。入れたつもりだったけどなあとは思うものの、すぐに忘れて新たな気持ちでバッターに向かう。キャッチャーの亜美は内角低めギリギリのボールになる玉を要求する。そこに投げ込む。
ところが投げた次の瞬間、1塁ランナーがスタート。バッターは空振り。キャッチャーの亜美がすぐに二塁に投げるがセーフの判定。
千里のボールは遅いので、実は盗塁に弱いのである。
「ランナー気にしないで。さすがにホームスティールはされないだろうから、3塁盗られても気にするな。バッターに集中しろ」
とピッチャーの所まで来た亜美が言う。
「うん」
と千里は頷いてピッチャーズサークルに就く。
カウントは1−1である。一度2塁ランナーを見てから、プレートを踏んでキャッチャーとサインを交換する。2秒静止してからボールを投げる。
要求された内角高めに外す球を投げる。
バッターはバットを強振。
快音がしたものの、ボールはゴロである。元々あまりパワーのある子では無いようだ。
打球は1・2塁間に飛ぶ。セカンドの啓子が飛びつくようにして停める。そして1塁に送球しようとしたが、ファンブルしてしまった。
慌てて握り直して1塁に投げるが、バッターランナーは1塁に滑り込む。
判定はセーフ。
左打者だったので走るべき距離が短かったのも打者側に有利に働いたようだ。それに身長は無いのに物凄く足の速い選手だったようである。
これで2アウト1・3塁になってしまった。
啓子が「ごめんなさい」というポーズを取っているが
「ドンマイ、ドンマイ」
「ツーアウトだよ」
と声を掛ける。
打順は9番だが、三度(みたび)代打が出る。千里はその選手を見ただけで強そう!と思った。
亜美が駆け寄って千里に言った。
「このバッターは本来のエース・4番なんだよ」
「温存してた?」
「いや。足を引きずるようにしてるからきっと怪我してるんだと思う」
「じゃ長打に気をつけないとね」
「うん。シングルヒットなら最悪でも同点だから」
亜美はベンチにいる監督と視線を交換した上で、押し出すような仕草をし、後退守備をみんなに指示した。長打を防止するためである。
2人のランナーを見てからピッチャーズサークルに入り、プレートを踏んでから、サインを交換する。亜美は初球、外角低めを要求した。
最も長打しにくい(と特にアマチュアでは言われている)コースである。
ところがこの投球の直後、1塁ランナーが走った。
亜美は捕球後、2塁に投げるポーズをした。
が投げなかった。
投げてしまうと3塁ランナーがホームに走り込んでくる危険がある。だから亜美はわざと3塁ランナーを見ずに2塁に投げようとした。
それでもし3塁ランナーが飛び出したら三本間に挟んでやろうという魂胆でもある。しかし3塁ランナーはひっかからなかった。
このあたりはさすが強豪である。
盗塁成功で2アウト2・3塁と変わる。
「気にしない、気にしない」
と声を掛け合う。
「どうする?満塁にしちゃう?」
と集まった内野手で話し合う。
満塁にすればフォースプレイになるのでアウトにするのにタッチが不要になる。
「じゃ、千里ギリギリに外すボール中心にして、フォアボールでも構わないということにしようか」
「うん、分かった」
それで各自守備位置に戻る。亜美は次の投球、外角高めギリギリに外す球を要求した。千里が投げる。
バッターは手を伸ばすようにして思いっきりバットを振った。
カーンという高い音がした。
芯で捉えられた!?
千里はボールの行方を見て外野の方に振り返りながら三塁方面にダッシュする。
ボールは左中間でワンバウンドしてから、そのまま場外ラインを越えてしまった。
千里はこういう場合、どういう扱いになるのか知らなかった。
K小の子たちが物凄く喜んでいる。千里はそれを呆然として見ていた。
「これどうなるの?」
と千里は駆け寄ってきた亜美に訊いた。
「エンタイトルド・ツーベース」
「それって?」
「2塁打扱い。バッターは2塁に行ける。ランナーは安全に2つ進塁できる」
「ということは?」
「2塁ランナーまで帰って、逆転サヨナラ」
千里はショックでそのまま座り込んでしまった。
そんなぁ。ここまで1安打に抑えてきたのに・・・。
「大丈夫?」
と言って亜美も座り込んで肩を抱くようにしてくれた。
「ごめん。最後の最後に打たれちゃって」
と言いながら、千里は『悔しいーー』と思っていた。心の中に激しい怒りの炎が燃え上がるが、その炎を向ける対象が無い。
こんな思いをするのは千里は初めてであった。
試合終了後のミーティングで、あらためて千里は最後に打たれたことをみんなに謝ったが、その前に送球ミスした由姫と、ファンブルした啓子が「いや、私がミスしていなければ」と謝った。
「千里ちゃんはK小の強力打線をほとんど抑えていた。充分よくやった」
とキャプテンの紀子は言った。
「でも最後の最後で打たれて負けました」
と千里は言った。
「私、どうしたらもっと強くなれますか?」
と千里は紀子を見ながら訊いた。
「練習だな。特にボールのスピードを上げることが課題だと思う。ボールに速度が無いから、目の良いバッターはボールのコースを見て芯に捉えることができる。それにランナーがいると容易に盗塁される」
「どうやったらスピードが上がるんでしょうか?」
「千里ちゃん、腕が細いからなあ」
と言って紀子は千里の腕に触る。
「腕立て伏せとかで鍛える手もあるけど、腕だけ鍛えると腕投げになってしまうと思うんだ。それよりも今はまず足腰を鍛えた方がいい」
と紀子は言う。
「足腰ですか!?」
と千里は驚いて言った。
「ボールは腕で投げるものではない。身体全体で投げるんだよ。だから足腰を鍛えて発射台を強くする。その方が千里ちゃんの場合は効果が大きいと思う」
とエースの敏美も言っている。
あれ?そういえば去年ボウリングに行った時に留実子もそんなこと言っていたなというのを千里は思い出していた。
「だったら、ジョギングとかした方がいいですか?」
「うん。千里ちゃん、打撃練習とか当面はノックとかも免除するから、その間に校庭をひたすら走りなよ」
「分かりました!」
千里の場合、どっちみち腕力が無く、打撃でジャストミートしても内野ゴロにしかならない。だから、この時期、監督にしてもキャプテンたちも千里は守備専門プレイヤー(FP)にして、打撃は打撃力はあるが足の遅い路代さんを指名選手(DP)として使えばいいと考えていたのである。それで千里は5年の時はほとんど打席に立っていない。
(プロ野球の指名打者(DH)に相当するシステムとしてソフトボールにはDP/FPの制度がある。野球は投手だけだが、DP/FPの場合は投手以外にも適用できる。実際問題としてアマチュアでは野球でもソフトでも、投手が一番の強打者というチームがわりと多いのでプロ野球のDHは馴染まない)
「でも千里ちゃんの肩を抱いた時、千里ちゃんって普通の女の子と同じような身体の感触じゃんと思ったよ」
と亜美が、ミーティングが終わった後で言った。
「どれどれ」
と言って、副主将の友恵が千里を後ろから抱きしめる。
「きゃっ」
「ほんとだ。これは普通に女の子の感触」
「ほんと?」
と言って、みんなから千里は抱きしめられた。
「普通に華奢な女の子だね」
「というか脂肪が女の子みたいについてる」
「だいたい丸みを帯びた体型だという気がした」
「細いわりに脂肪が付いてるんだよね」
「霜降り肉っぽい」
千里も「女の子になって」から半年経つので、その間にかなり体型の女性化が進んでいるのである。
「ねえ、男の子だってのは嘘ということは?」
という声も出るが、千里と同じ5年1組の初枝が言う。
「千里は噂によると、おちんちんやタマタマは2年生の時に取っちゃって、既に女の子の身体になっているらしい」
「え?そうなの?」
「生理もあるという噂がある」
「へー!」
それは千里が月に1度くらい数日間女子トイレを使う時期があることから経った噂のようだが、噂というより真実である!
「でも日本の法律では戸籍上の性別を変更できないらしいんだよね」
「女の子なのに男扱いされるって可哀相」
「そういうの何とかならないんですか?」
と監督に訊く子もいる。
「スポーツの世界では性染色体で性別を判定するんだよ。だから手術して女になっても元々男だった選手は女子の競技には出られないんだよね」
と監督は言う。
「可哀相」
「まあ公式戦以外の練習試合をたくさん取ってくるよ」
と監督は笑顔で言っていた。
IOCが性転換した選手を一定条件の下で女子選手として認めるようになったのは2004年アテネ五輪直前である。ただしゴルフのミアン・バッガー(Mianne Bagger)はそれ以前の1999年頃から各競技団体の判断で女子ゴルファーとしてプレイすることを容認されていた。むろん彼女のような人は特殊な例外であった。
そういう訳で千里は5年生の頃、昼休みは音楽室で合唱サークルの活動をし、放課後は女子ソフトボール部の練習に出て、実際にはほとんどの時間、ひたすら走っていた。剣道部にも在籍しているのだが、基本的に晴れている日は外でソフトボール部をして、雨の日は体育館で剣道部をしていた。もっとも11月以降は積雪でソフトボールができないので剣道部の方に行っている確率が高かった。
千里が経済的な問題で自宅ではあまりお肉を食べられないので、小春は宮司に言って、バイトついでに結構ごはんを食べさせてあげるようにした。それで千里は女性的に脂肪がつくと同時に最低限の筋肉も発達した。この小学5〜6年生の間に後のスポーツ選手としての基礎的な身体が作り上げられるのである。(心臓が大きくなっていわゆるスポーツ心臓になるのもこの時期)
神社のバイトは千里に経済的なゆとりも与えており、それで千里はやっと自前の竹刀を買うことが出来た。防具に関しては結局先輩の小さくなった防具を譲ってもらった。
神社の作業は主としてお祭りや行事の前くらいの期間によく手伝いに行っていた。また、しばしば夜間に大神様から呼ばれて出て行き、様々な作業のお手伝いをしたり、お留守番!をしたりもしていた。こちらはお金にはならないものの、ご褒美がかなり美味しいことが多かった。
今年の運動会は5月20日(日)であった。
千里たち5年生は集団パフォーマンスでソーラン節を踊る。この踊り自体は小さい頃からみんな踊って知っているので、練習も簡単にしかしていない。
近年は高知県のよさこい祭で使用する鳴子を持って踊る「YOSAKOIソーラン」とかアップテンポの音楽で西洋ダンス的ふりつけの南中ソーランとかが随分有名になってしまったが、N小のソーラン節の振り付けは伝統的な民謡調のものだし、歌も地元の民謡を歌う人たちが集まって制作したレコードを使用している。4年前までは1970年代に制作したドーナツ盤のアナログレコードを使っていたが、3年前に地元の三味線の先生が中心になって、新しい録音を吹き込んでCDを制作したので、それ以降そのCDを使用している。
実際のパフォーマンスでは黒いハッピを着た太鼓係が前方に5人並び、それ以外の子がCDの音楽と太鼓に合わせて踊る。留実子はその太鼓係になっていた。実は紅一点なのだが、誰もそうは思っていない。多くの保護者たちも
「太鼓を叩いている男の子たち、5人とも格好良いね〜」
などと言っていた。
踊る子供たちは男子は青いハッピ、女子は赤いハッピを着たのだが
「千里はもちろんこっちだよね」
と玖美子に言われて、赤いハッピを着せられた。本人としても男の子のハッピは着たくないなと思っていたので、玖美子から渡された時は嬉しかった。
この集団パフォーマンスの他に、運動会では各組ごとに、応援のチアリーダーも選抜されている。千里は「去年もやってるから」と言われてチアになり、短いスカートを穿き、ボンボンを持ってパフォーマンスした。
「千里ちゃん、去年私がやったバク転を今年は千里ちゃんがしてよ」
と6年生の麻美子さんから言われている。
「私運動苦手ですよ〜。逆上がりもできないし」
と千里は言ったのだが
「こないだ剣道大会で地区準優勝した人が何を言っている?」
「こないだのソフトボールの試合ではノーヒットノーランをやったというし」
などと指摘されてたじたじとなる。
「バク転って筋力でするものではなくて、要領なんだよ。千里ちゃん身体が柔らかいしできると思うよ」
と言って、マットの上で模範演技も見せてくれて、丁寧にやり方を教えてくれた。
「欺されたと思って飛んでごらんよ」
「下はマットだから落ちても痛くない」
それで言われたような感じに後ろ向きに飛んでみる。
きれいに1回転して着地。
「できた!」
とみんなから声を掛けられる。
「嘘みたい!」
と千里自身が言った。
そういう訳で、今年千里はパフォーマンスのクライマックスでバク転の技を披露することになったのである。
当日、父は例によって(月曜早朝から仕事なので)「俺は今日疲れたら困るから寝てる」と言って自宅に残って母だけが出てきたので、千里は安心してチアの赤いスカートを穿いて応援のパフォーマンスをしていた。
「お兄ちゃん、なんでスカートなの?」
と3年生の玲羅は言うが
「チアはみんなスカート穿くんだよ」
と千里は言って開き直っていた。
今年も千里は徒競走(今年は5年生なので150m)は女子と一緒に走ることになった。ふだんから女子と一緒に体育をしているので、自然とそういう組になってしまった。しかし4人で走って4位なので、誰からも苦情は出ない。
「千里、わざと遅く走ってないか?」
と留実子から言われたが
「え?何のこと?」
としらばっくれておいた。
千里は午前中ラストの障害物競走でも女子のグループで走ったが、こちらは前を走っていた子がゴール寸前でスプーンに乗せていたピンポン球が風で飛んで行ってしまったので、千里は3位になった。それで賞状と記念品の鉛筆をもらう。鉛筆は《おジャ魔女どれみ#》のキャラクター商品だったが、男子は《仮面ライダー・クウガ》だったらしい。
(2001年の仮面ライダーはアギトである。おジャ魔女も「も〜っと!おジャ魔女」である。クウガ・#は2000年に放送されたものであり、要するに残り物を安く買ってきたのだろう)
午前の部の最後に応援合戦が行われる。例によって留実子は学生服を着て鉢巻きをして、太鼓係である。彼女の威勢のいい太鼓に合わせて、千里たちチアチームはパフォーマンスをする。
このパフォーマンスは安全のため「1.5段まで」という規制がされていたので、隣り合う2人が手をつなぎ、そこに別の子が登ってジャンプして降りるというところまでやった。千里はこのジャンプする係である(体重が軽いので)。千里は実は運動神経がいいので、これもきれいに決めた。
そして最後は前面でバク転をして、4年生の美波ちゃんに支えてもらう。
大きな拍手が行われる中、千里は美波ちゃんに言った。
「じゃ来年はこのバク転は美波ちゃんがしてね」
「え〜〜〜!?」
と彼女は言っていた。
お昼ごはんは、最初から留実子に一緒に食べようよと言っていたので、一緒に4人で食べた。
「すみませんね。ごちそうになって」
「ううん。千里が大して食べないから、ルミオ君がたくさん食べてくれるようにと思って、いっぱい作ってきたから」
と言って、母はニコニコしていたし、『彼』の食べっぷりに喜んでいた。
(千里の母は留実子は《ルミオ》という名前の男の子と思い込んでいる)
留実子の両親は共働きで日曜も仕事があるので来ていない。留実子はお昼はお店で買ってと言われて1000円もらっていたものの、千里が最初から誘っていたので何も買わずに千里たちの所に来た。もらった千円については留実子は「山分け」と言って、千里に500円渡そうとしたが、千里が「サッカーシューズ買うのの代金の一部にしなよ」と言ったので「じゃ、そうする」と言っていた。
昨年使っていたサッカーシューズは千里が留実子にプレゼントしたものであるが、それも1年間使ってかなり傷んできているのである。
午後1番に学年ごとのパフォーマンスが行われる。出し物はだいたい毎年固定である。6年生が鼓笛隊で出てきて『ヤングマン』と『ちょこっとLOVE』を演奏した。その後、5年生が出て、威勢良くソーラン節を踊る。留実子は午前の部の最後・応援パフォーマンスでも太鼓を叩いたが、ここでは黒いハッピに鉢巻きを巻いて太鼓を叩く。
「あの右側で太鼓叩いている男の子かっこいいね」
などと保護者たちから言われていたらしい。
留実子は2月のバレンタインの時は鞠古君にチョコを渡したのだが、留実子自身、他の女の子から5個もチョコをもらって困惑していたようである。
千里はもちろん赤いハッピを着て、女子の列の中でしっかり踊った。
(留実子は本当は女子の赤いハッピを着たくないので太鼓係に名乗りでたというのもあったようである)
運動会は男女の学年縦断リレーで終了する。
昨年は我妻先生の勘違いのおかげで男子のリレーに出た留実子だが今年は女子に出たので「花和、いつの間に女子に性転換した?」などと言われていた。実際の競技では留実子は200mの間に3位から1位まで上がる快走を見せ、青組の優勝に貢献したが
「女子の競技に男子を出すのはズルいのでは?」
などと保護者席からは言われていたようである。
男子の方は白組が優勝した。
運動会があった週、千里たちN小学校の5〜6年生は留萌市内の温水プール“ぷるも”にやってきた。
ここは今年7月にオープンする予定で建設が進められていたのだが、工事が遅れ、現在のオープン予定は9月2日である!もう夏が終わってしまってからのオープンという困ったことになってしまったのだが、プール本体は既にできあがっているということで、小中学生の授業に解放されることになったのである。
まずは更衣室で着換えるのだが、千里が蓮菜とおしゃべりしながら服を脱ごうとしていたら、一部の女子から
「千里、こちらに来たの?」
という声が掛かる。千里は何か言おうとしたのだが、先に蓮菜が言った。
「千里はこちらで問題無いと思うよ。千里、脱いでごらんよ」
「うん」
それで千里が服を脱ぐと、その下に既に女子用スクール水着を着ている。
「女子用スクール水着を持っていたのか!」
「おこづかいで買った」
「へー!」
正確には神社のバイトでもらった報酬で買っている。
「おっぱい少しあるね!」
「ってか、私より胸あるじゃん」
「お股に盛り上がりがない」
「そりゃ当然。千里にはちんちんなんて無いから」
「まあ完全ヌードも見たけどお股には何もついてなかったよ」
と穂花が言う。
「やはり女の子になる手術は済んでいたんだ!」
「それならこちらに来てもいいかもね」
といった声があがった。
それで千里はそのままシャワーを浴びてプールの方に行った。
北海道の5月下旬は「早春」という感じでまだけっこう寒いのだが、室内の温水プールは寒くもないし冷たくもないので、みんな楽しそうに泳いでいた。
千里は昨年の夏、桜井先生の個人レッスンを受けて取り敢えずクロールができる所までは来ているのだが、まだとっても遅い。
「千里、ソフトボール部やってるし、運動してたらもう少し腕も太くなって泳ぎも速くなるよ」
と他の子から言われていた。
1時間半ほど泳いでからあがる。
シャワーを通って女子更衣室に戻る。千里は蓮菜・穂花とおしゃべりしていたのだが、他の子たちは千里にさりげなく視線をやっていた。その視線に蓮菜は気付いているのだが、千里は無邪気で、全然気付いていないかのようである。
千里が水着を脱ぐ。
瞬間的に千里はフルヌードを女子の同級生たちに曝した。
しかしすぐにバスタオルで身体を拭くので、千里の身体はなかなか見えない。そして千里はパンティを穿いてしまうし、すぐにブラジャーも着ける。更にTシャツも着てしまうので、千里のヌードはもう見えなくなってしまう。
みんなが緊張感を解くのを蓮菜は感じた。
しかし千里は全く同級生たちの雰囲気に気付かないような感じでおしゃべりしながら、更に服を着ていった。
「一瞬見たけど、千里、微かにおっぱい膨らんでいた」
「確かにあれはジュニアブラつけてないと乳首が痛いと思う」
「お股にはやはり何も無かった」
「千里はやっぱり女の子の身体なんだね」
と同級生たちは後で噂していたのだが、千里はそんな会話がなされているとは知らない。
ともかくもこのようにして千里たちの温水プール初体験は平和的に終わったのである。
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【少女たちの初めての体験】(2)