【娘たちのリサイクル】(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2018-06-16
「何の役をするって?」
と幸恵は訊き直した。
「『サウンド・オブ・ミュージック』の主人公のマリア」
と龍虎は少し恥ずかしそうに言った。
「なんであんたが女の子役をするのよ?」
「だって主人公やりたい人って言われて『はい』と手を挙げたら、それがマリアだったんだもん。ボク、てっきりピーターパンだと思ったのに」
幸恵は少し考えていた。
「あんた女の子役をするの嫌じゃないよね?」
「去年は白雪姫やったしね」
「あれ可愛かったね」
と幸恵は吹き出しそうなのをこらえながら言う。
「ボク、いっそ女形(おやま)を目指そうかな」
「あんたなら平成の玉三郎とか言われて人気になるかもね」
「たまさ?」
「ああ。あんたは知らんか」
夏休みに入る前の学活では、龍虎が到着する前に、増田先生が物語の概略をみんなに話していた。
「物語のあらすじを簡単に説明します」
「1940-50年代にアメリカで評判になったトラップ一家合唱団(Trapp Family Singers)という実在の家族合唱団の物語なのよね。一家はオーストリアに住んでいたんだけど、当時ドイツがオーストリアを併合して、戦争が起きそうな雰囲気になってきたので、それを嫌って亡命してアメリカに行き、そこで音楽活動をしたの。最初は《トラップ一家聖歌隊(Trapp Family Choir)》という名前で聖歌ばかり歌っていたので客が入らなかったけど、アメリカのフォークソングを歌うようになって名前も聖歌隊(Choir)から合唱団(Singers)と変えてから大人気となったのね」
と先生はまずはトラップ一家の物語を語った。
「まあ要するに技術は最初から評価されていたんだけど、歌っていた曲が人気を取るような曲目じゃなかったんだな」
と先生はわりと重要っぽいことを言った。
「でもオーストラリアって太平洋にあるのに、それをドイツが併合したんですか?」
という質問が出るのは想定範囲!であるが、先生が答える前に
「オーストラリアとオーストリアは違う!」
と大勢の児童の声があがっていた。
念のため先生は教室に貼られている世界地図上で、オーストリアの位置を示した。チェコの南、イタリアの北東、ドイツの南東、ハンガリーの西である。
「このお話の前半は修道院で落ちこぼれだったマリアがトラップ一家の家庭教師としてやってきた所から、奥さんを亡くして子供7人を抱えていたゲオルクと結婚するまでの話、そして一家がオーストリアから脱出する時の話を描いています。色々史実とは違う内容もあるんだけど、そのあたりは物語としての演出ということで」
(映画『サウンド・オブ・ミュージック』より世界名作劇場『トラップ一家物語』のほうが、より史実に近い)
「今回の劇ではその前半のマリアがゲオルクと結婚するまでを描いて最後に本来は一家が脱出する時に歌う『さようなら、ごきげんよう』を歌います」
と先生は言った。
「『さようなら、ごきげんよう』というのは、歌いながら1人ずつ退場していくという歌なのよね。ところが、実は退場した子はそのまま逃亡していて、まんまと全員逃げ出してしまう」
と先生が説明すると、興味を持った子が多かったようである。
こういう説明があった上で、まずは主役をやりたい人?と学級委員が尋ねて誰も手を挙げず、どうしようか?という空気になった所に龍虎が到着。主役に立候補しなさいよと先生から言われていたことを思い出して立候補したら、それがマリア役だったのである。他の役はこのように立候補や他薦で決まった。
■メインの10人
マリア(家庭教師)田代龍虎
ゲオルク(トラップ一家の父)西山拓郎
リーズル(長女)入野桐絵
フランツ(執事)内海光春
シュミット(家政婦)北山宏恵
ロルフ(リーズルのボーイフレンド)伊東鉄平
マックス(音楽プロデューサー)立石柚季
エルザ(ゲオルクの恋人)若林麻耶
ツェラー(地元の政治指導者)藤島正浩
修道院長 南川彩佳
■それ以外の役
リズール以外の子供たち:男2女4(*1)、シスター:女5(*2)、ナチス親衛隊:男6、コンサートの観客:男5女2
(*1)映画『サウンド・オブ・ミュージック』では子供たちは7人で、名前は
Liesl(F), Friedrich(M), Louisa(F), Kurt(M), Brigitta(F), Marta(F), Gretl(F),
リーズル、フリードリッヒ、ルイーザ、クルト、ブリギッタ、マルタ、グレーテル
の7人となっているが、実際のトラップ一家は前妻の子供7人とマリアが産んだ3人の合計10人の子供たちであった。
Rupert, Agathe, Maria Franziska, Werner, Hedwig, Johanna, Martina/ Rosmarie Erentrudis, Eleonore, Johannes
最後のJohannesは亡命中に生まれた子である。つまり彼だけがオーストリアでの生活を体験していない。
(*2)シスターは映画『サウンド・オブ・ミュージック』では5人になっていて名前はMargaretta, Berthe, Sophia, Catherine, Agatha
マルガレータ、ベルタ、ソフィア、カタリナ、アガタ
龍虎の学校では夏休み中の登校日というのは特に無いのだが、学習発表会の劇で主な役になった人だけで集まって少し練習しようよということになり、何度か龍虎は学校などに出て行った。
メインの10人(男6女4)と増田先生で1回2時間くらいの練習を夏休み期間中に2回おこなったが、それ以外にセリフの読み合わせを、学級委員の麻耶の家に2回、もうひとりの学級委員・藤島君の家にも2回、集まってやっている。
学校で練習する時は教室の机を片側に寄せてやるので結構なスペースがあるのだが、麻耶や藤島君の家でやる時は、結構狭い。どうしても身体の接触が発生するので、男女に分かれて、だいたいこんな感じの並びでやっていた。
藤島−伊東−内海−立石−西山−龍虎−彩佳−桐絵−宏恵−麻耶
(日によっては欠席者があり並び順も微妙に変動している)
男子と女子の境界は藤島君と麻耶、龍虎と彩佳の所だが、藤島君と麻耶はどちらも学級委員で、個人的にもわりと仲が良い。但しこの2人の間は30cmくらい空いていた。龍虎と彩佳の所はとても気安い関係なので全く問題無い。この2人の間はくっついていた!そしてむしろ龍虎と西山君の間が10cmほど空いていた!
「やはり龍ちゃん、セリフ言うのが凄くうまい」
という声が出ていた。
「本職の俳優さんみたいだよね〜」
「でも普段話しているのと全然違う。ちゃんと女の子が話しているように聞こえる」
と内海君が言うが、彩佳は
「龍は私たちとおしゃべりしている時は女の子の話し方なんだよ」
と言う。
「誰と話しているかによって話し方が変わるのか」
「実は教室ではどちらを使うか悩むことが多い」
と本人は言っていた。
「これ衣裳はどうするんだろう?」
「シスターの衣裳は、B女学院に進学したOGから制服を借りられるらしい」
「へー。あそこの制服は確かにシスターっぽいよね」
「ナチス親衛隊の衣裳は、中学に進学したOBから学生服を借りて、百均の金色テープとかで装飾しようという話」
「なるほどー」
「家政婦のシュミットさんはおばあちゃんの割烹着を借りる」
とシュミット夫人を演じる宏恵が言っている。
「リーズルの服とロルフの服は適当に。ロルフの軍服は借りる学生服を利用して」
とリーズル役の桐絵。
「執事のフランツ、政治家のツェラー、音楽プロデューサーのマックスは子供用の背広を借りられるみたい」
とツェラー役で学級委員の藤島君。
「ゲオルクは普段着は適当に。軍服はやはり借りる学生服の利用で」
とゲオルク役の西山君。
「エルザの服はピアノの発表会で着たドレスを使う」
とエルザ役で学級委員の麻耶。
「マリアの服だけど、普段着は適当に持っている服を持ってくる。ディアンドルはボクのサイズに合うものを伯父ちゃんが用意してくれることになった」
と龍虎。
これは増田先生と田代母が電話で話した結果、こちらで用意できますよという話になり、田代母が上島茉莉花(春風アルト)に照会して、そちらのルートで確保してもらえることになったのである。実際には放送局のストックを借りてきたようである。
「普段着って、マリアの普段着は女の子用の服が必要なんだけど」
と内海君が言うと
「田代さんは女の子用の服を大量に持っている」
と龍虎の事情をかなり知っている西山君が言う。
「なんで?お姉さんか何かの服?」
「ボクの身体に合うサイズの女の子用の服をいつも大量に買って持ち込んで来る知り合いのお姉さんがいるんだよ」
と龍虎は困ったように答える。
「何のために?」
「ボクに女の子の服を着せたがっているみたいで」
「何のために!?」
「女の子の服を着たら可愛いと言われて」
と龍虎が本当に困ったような顔で答えると
「うん。龍が女の子の服を着ると可愛い」
と龍虎の女装(?)をいつも見ている彩佳・桐絵・宏恵が同時に言った。
千里は貴司とのことについては、阿倍子の妊娠を知ったことで、婚約破棄のショックは激しい怒りに変わって結果的に傷心から回復した。手術後の身体の傷については美鳳のおかげで画期的に痛みが減り、更に毎日青葉が1〜2時間のヒーリングをしてくれるおかげで、日増しに回復して行っていた。(実際には青葉が《千里の女性器》に掛けているヒーリングは小春の操作で近い時期に手術を受けた《和実の女性器》に掛かっている)
しかしまだ手術前ほどに動き回ることはできない。
今は買物に行くのに近くのスーパーまで往復30分ほど歩くのがせいぜいである。
大学の試験については、千里が「持病の手術のため療養中なのでレポートに代えることはできないか」と大学側に照会したら認められた。このレポートは実際には《きーちゃん》が書いてくれている。
ローキューツの事務処理については純粋に“持病の治療で手術を受けて療養中”と称して、玉緒と電話やメールでやりとりしながら進める。彼女には仮払金として少額の現金を渡した上で、フェニックストラインの法人カードも渡して、通常の決済はそれでやってもらった。この処理に関しては多少の現金過不足が出ても気にせず絶対に自腹は切るなと言ってある。
「何でもできるようにしたら私自分が不正行為しないか怖い」
と玉緒が言うので、帳簿とチーム名義の通帳を必ず司紗に確認してもらうことにし、また法人カードは結局、司紗が持っておくことにし、カード伝票は必ず玉緒に渡すことにして相互監視できる状態にした。
なお、遠征旅費などの大型の決済は千里が自身で処理する必要があるので、これは《きーちゃん》に代行してもらった。
この時期のローキューツの遠征はAチームが来月9月8-9日の全日本クラブ選抜(前橋)、Bチームは今月8月前半のシェルカップ(土浦)、月後半の時計台カップ(札幌)といった予定が入っている。
作曲関係については、49鍵の中型キーボードと作曲支援システムの入っているパソコンを葛西のマンションから持って来てもらい、青葉が部活に出ている昼間と、寝ている夜間とに主として作業を進めた。
青葉は手術から間もないというのに8月18日の全国大会に向けて毎日部活に出て行っているのである。
C大学の試験期間は8月7日までなので、それが終わった所で桃香も帰省してきたし、彪志もこちらにやってきた。
彪志が来ているというのに青葉は日中部活に行っていて彪志は放置である。それで日中は桃香・千里・彪志の3人でおしゃべりしたり、トランプなどをしたりして過ごしていた。
青葉が彪志を放置しているのに見かねた桃香はふたりを強引に海王丸パークに連れて行って遊覧船の切符も買ってふたりを乗せ、デートさせた。帰りは桃香と千里で迎えに行き4人で一緒に御飯を食べた。
彪志はバイトがあるので、9日には千葉に戻っていった。桃香は夏休みが終わるまで高岡に滞在する。
8月6日(月).
龍虎は夏の定期検診を受けるためにいつもの病院に入院した。例によって2日掛けて様々な部屋を回り、様々な検査を受けた。
身長・体重なども測られるが、身長も体重も3月の時から全く変わっていなかった。そしておちんちんのサイズだが3.4cmと言われた。3月に計られた時は4.0cmと言われたのでそれより数値的に0.6cm小さくなっている。
「おちんちん小さくなっているような感覚ある?」
と訊かれたが
「特に感じません。変わらないと思いますが」
と龍虎が答えると
「じゃ測定誤差か興奮度の差かな」
と主治医の加藤先生は言っていた。
《コウフン》って何だろう?と龍虎は思っていた。
最も心配な腫瘍の再発については、最新鋭で導入されたばかりの3テスラ型MRIで時間を掛けて詳細に検査したものの、再発の兆候は見られないということだった。
この手の病気では寛解(ほぼ症状が消えた状態)から5年経過しても問題なければ治癒したものとみなされる。龍虎の場合、あと1年はまだ油断のできない状態である。
3月の時は主治医の加藤先生が海外出張していて若い須和先生という人が代わりに診察してくれたのだが、今回は加藤先生が在院しており、直接診てくれた。MRI画像なども見て、検査の数値なども見て「うん、問題無いですね」と言ってくれる。
「お薬はちゃんと飲んでますか?」
と主治医が訊いたので
「はい、ちゃんと毎日1錠飲んでます」
と龍虎は答えた。
「1錠?」
「え?毎日1錠飲むように言われたので」
先生は難しい顔をすると、モニターで何かチェックしている。
「須和君」
と奥の方に声を掛けると、龍虎を3月の検診の時に見てくれた若い医師・須和が出てきた。
「これお薬出し忘れてるじゃん」
と文句を言っている。
うっそー!?
「あ、見落としていました。申し訳ありません!」
それで龍虎と長野支香に向かい直って謝る。
「大変申し訳無いです。お薬を出すよう指示しないといけないのを忘れていたようです」
「えっと、12月の時もお薬無かったんですが」
「え!?ほんと!?」
それでチェックしていたら、どうも12月の時も出し忘れだったようである。
「本当に申し訳無い。これは僕のミスです」
と先生は頭を抱えている。
「でも先生、お薬無しでも龍虎の経過に問題が無かったのなら、実は本当にお薬は不要なのでは?」
と長野支香は言った。
「そうかも知れないね。じゃ念のため、軽いのに変えて出しますから、それを飲んでもらえますか」
「分かりました」
「あれ?でもそしたら3月には何の薬を出したの?」
と加藤先生は須和に訊く。
「出してません」
加藤先生はこちらに訊く。
「ほんとうにお薬出た?」
「はい」
「その薬持ってる?」
「いいえ。一昨日最後の1個を飲んでしまって。ちょうどまた検診だからいいだろうと思って」
加藤医師は考えていた。
「すみません。御自宅に行って、その薬の殻(から)が無いかチェックしてもらえません?」
「電話してみます」
それで自宅に電話してみると、田代幸恵がゴミ箱から殻を発見してくれたのでこちらに持ってくるということであった。
そういう訳で、龍虎の入院はとりあえず1日延びた。
夕方になって龍虎の病室に主治医が来た。
「この頂いたお薬の殻ですが、この薬を長野さんに出したはずは無いのです」
「でしたら、ひょっとして誰か他の人の処方箋と取り違えたとか?」
「その可能性はあります」
その時ふと龍虎は3月に自分が似た名前の患者と間違えられそうになったことを思い出した。
「あのぉ、3月の検診の時にですね。ボク、ナガノユウコさんという患者さんと間違われそうになったんですが」
「ナガノユウコ?」
それで加藤先生はすぐに調べてくれた。
「永野夕子さんという小学生の子が確かに同じ日に検診を受けているね」
その子が・・・おちんちんを切って女の子の形のお股にしてもらったのだろうかと龍虎は考えた。ちょっとドキドキする。
「永野夕子さんなら、この薬を処方されておかしくないです」
と加藤。
「もしかして、その人用の処方箋を間違って受け取ってしまったのかも」
「ちょっと御本人に連絡を取ってみます。少し待ってて下さい」
加藤は30分後にやってきた。
「ちょっとお話したいのですが」
「はい」
「永野夕子さんのお母さんと話したのですが3月の検診の時、いつまでたっても処方箋が出て来なかったので、どうなっているんですか?と訊いたら、出したはずですがと言われたらしいです。しかし受け取っていないというので再発行してもらって、薬局に行ったそうです」
「だったら、やはり間違ってうちがその処方箋を受け取ってしまったのでしょうか?」
「どうもそういうことになるようです」
「あの、その処方された薬は?」
「実は微量の女性ホルモンと、抗男性ホルモンの混合薬なのです」
「え〜〜〜〜!?」
あはは、“やはり”この所おちんちんが縮んで、乳首が立っている感じだったのはそのお薬のせいかと龍虎は思い至った。
「龍虎はどうなるんでしょうか?」
「この薬は本来は月の半分だけ飲んで半分は休むようになっていますが、それだと半月経った時に飲むのを再開し忘れることがあります。それで実は半分はダミーのお薬なんですよ」
「へー!」
「ですから睾丸のある人がこれを飲んだ場合、効果はとても限定的です。ただ若干、思春期の到来を遅れさせるかも知れません」
「遅れるだけ?」
「むしろ種々の事情で思春期の到来を抑制させるためにこの薬を使います。ですからこの薬をやめれば、じきに思春期はちゃんと来ると思います」
「よかった。だったら実害は無いですね」
と支香が言うので、加藤医師は少しホッとしたような顔をした。この場合誰に責任があるのか微妙ではあるが、ひとつ間違えば裁判沙汰になりかねない問題である。
「念のため、再度龍虎君の身体の検査をさせてください。特に生殖器関係に異常が出ていないかを確認したいのですが。この費用は病院持ちにします」
「お願いします」
「それで問題がありそうなら、男性ホルモンの補充をしましょう」
と先生は言ったのだが、龍虎は言った。
「先生、ぼく身体自体がまだ小さいし、思春期はもう少し先でもいいと思っています。ですから男性ホルモンは要らないです」
「そう?まあ本人がそう思うなら、無理に男性ホルモンを入れなくてもいいかな?」
と主治医は支香に訊く。
「そうですね。それでいいと思います」
と支香は微笑んで言った。
そういう訳で龍虎の5ヶ月間にわたる性的モラトリアム!は一応終了したのである。
しかし支香は後で龍虎と2人だけになった時に訊いた。
「あんた、女性ホルモンと気付いてて飲んでたんじゃないよね?」
「え?そんなことないよ」
と龍虎が焦ったような顔をして言うので、支香は腕を組んで考えていた。
なお1日掛けて生殖器関係を検査されたものの、特に問題は無いと言われた。睾丸に針を刺して組織を採取して検査するなどという、とっても痛い検査もされたが「睾丸の組織は小学3〜4年生の子相応には存在しますよ」と言われた。それでボクはやはり男の子なんだなというのを龍虎は再認識する。
また乳首が立っていて、胸の付近に少し脂肪が付いている感じなのも、半年も経てば消えてしまうでしょうと言われた。龍虎はそれも惜しいような気がした。別におっぱいが女の子みたいに大きくなって欲しいという訳ではないけどね。。。
自宅に戻ってから、龍虎はそっと机の引き出しを開けた。教科書の一番下に入っている“辞書の箱”の中にある“お薬”のシートの束を見て「このお薬どうしようかなぁ」と考えた。
龍虎はお薬の中に「本物」と「ダミー」があるのにはすぐ気付いた。それで、この数ヶ月はわざとダミーの方ばかり飲んでいて「本物」はキープしておいたのである。だから実は初期の頃を除いては「本物」は週に1回くらいしか飲んでいない。自分で実は似た感じの錠剤を調達してきて、それで飲んでいる振りをしていた。
加藤先生は「半分がダミー」と言っていたが、実は1シート28錠の内の21錠が本物で7錠がダミーである。
そういうで実は龍虎は「本物」をまだ80個ほどキープしているのである。
貴司の次の合宿は8月7日(火)から10日(金)までであったが、今回貴司は、いつもの東京北区味の素ナショナル・トレーニング・センターではなく、愛知県刈谷市のステラ・エスカイヤの体育館にやってきた。今回は近くなので朝から出ても間に合う。それで6日(月)は普通に勤務し、久しぶりにチームの練習にも参加してから7日朝、新幹線と名鉄を乗り継いで刈谷にやってきた。
今回体育館を借りることになった、JBL所属のステラ・エスカイヤは Wリーグ所属のステラ・ストラダと兄妹チームである。元々エスカイヤの母体企業とストラダの母体企業が兄弟会社(どちらもグループ内主要6社の一つ)という関係にある。但しステラ・ストラダの本拠地は愛知県安城市(最寄駅:南桜井)、ステラ・エスカイヤの本拠地は愛知県刈谷市(最寄駅:富士松)で両者は16kmほど離れている。
今回は実は現在17名居る代表候補者が14人まで絞り込まれる前の最後の合宿である。この合宿の後で3人落とされるので、やや緊張感があった。
貴司は今回も刈谷市の富士松駅で降りた所でバストが消失したので、例によって下だけ誤魔化してブラジャーは着けずに!プレイしていた。
休み時間にまたまた龍良正蔵(たつよし・しょうぞう)がやってきて声を掛ける。
「細川君さ、トイレはいつも個室だよね?」
「そうですね。トイレに入るとボーっとしてたりするので個室の方が楽なんですよ」
「ふさがっているとずっと空くの待っているようだし」
「ええまあ」
「立ってすることないの?」
「立ってもしますよー」
それで龍良と一緒に(むろん男子用)トイレに入って連れションをした。龍良はわざわざ覗き込んでくる!
「ほんとにちんちんあるんだなあ」
「ありますよぉ。こないだも触ったじゃないですか!」
「残念だなあ」
しかし貴司は龍良に気に入られているお陰で、彼とも随分1on1をやり、そう簡単には勝てないものの、かなり鍛えられた。それで貴司の技術はどんどん上昇していた。
8月10日の夕方、練習していた選手たちが集められ、ウィリアム・ジョーンズ・カップの登録メンバー14名が発表された。落とされた3名、前山・田宮・藤谷はだいたい感じ取っていたようで、
「みなさん頑張ってきてください」
と言っていた。
貴司は自分と同様に今回初参加だった前山君が落とされたのは驚き
「また来年頑張ろう」
と握手をして送り出した。
「僕が入ったから彼が落ちたのかなあ」
などと貴司が小さな声で呟くと、それを耳にした龍良が言った。
「誰が入ったからとかは関係無い。代表チームはいつも激しい競争だ。代表の予備軍は100人くらい居てそのひとりひとりが代表になれるよう必死で努力している。今代表になっている者はそれ以上に練習していないと、チームに居続けることはできんぞ」
「・・・龍良さん、僕はもっと強くなりたいです」
「うん。お前は強くなれる」
「次の合宿まで3日空きますけど、龍良さんはチームに戻って練習するんですか?」
「うん。そうだけど」
「そこに僕がお邪魔したりしてはいけませんよね?」
「おお、歓迎歓迎。細川はJBLにもbjにも所属していないからうちの練習場に入れても苦情が出ないから」
「わぁ」
それで貴司は11-13日は大阪に戻らず、龍良と一緒に東京に向かい、彼が所属する東京リングビーツの練習場(渋谷区にある大学の体育館を借りている)に行って、リビングビーツの選手たちと練習させてもらった。
「細川君、来季うちに移籍してくる気は?」
と言われる。
「いえ、なかなか今のチームに義理があるもので」
と貴司は答えておいた。
なおこの間の宿泊は、龍良が自分のマンションに泊まっていいよと言ったが、どう考えても“貞操の危機”を感じるので、ホテルに4日間泊まった。
8月11-12日、龍虎は学校の宿泊体験に参加した。
学校に集合して、クラスごと3台のバスに乗り、1時間半ほど走った所にある青少年交流の家という所に行く。
参加者は、5年生の男子58人・女子44人の内、男子52人・女子40人の合計92人と、先生は1組の担任増田先生♀、2組の広橋先生♂、3組の竹川先生♂、保健室の佐藤先生♀、体育の小林先生♂、教頭の棚井先生♂の6人である。
宏恵は先日買った可愛い服を着てきていて、みんなから「可愛いね」と言われて得意そうだった。龍虎はごく普通の(?)ライトブラウンのTシャツに8分丈のブルージーンズである。
「このジーンズの前開きはダミーだ」
と優梨から指摘されている。
「まあ龍は着ている服の95%がガールズだ」
などと彩佳は言っている。
「ボーイズは5%?」
「残りの5%はレディスだ」
「うーむ・・・」
と優梨は考え込んでいた。
「そもそもボーイズの8分丈なんて無いでしょ?」
「これ7分丈と書いてあったんだけど、穿いてみたら8分丈の感じだった」
と本人。
「それは龍は背が低いから仕方ない」
「そうなんだよね〜。ボク、フルレングスのズボン買うと、裾を引きずってしまうんだよ」
「大変ね〜」
バスは55人乗り(定員は運転手を入れて56名)の大型バスで補助席を使わない場合、1列4人×10列+最後尾5人で45人の乗客が乗ることができる。1組の参加者は男子17人・女子13人の30人だが、実際には最前列の右側に教頭、左側に増田先生が各々1人で陣取り、その後に「男子4人×4列」「女子4人×4列」と並んだ。男子は4×4では1人余るので、余った龍虎は次の女子の列に組み込まれて(龍虎的解釈)、龍虎の隣は仲の良い彩佳、通路を挟んで向こう側に宏恵と桐絵が並んでいた。女子の最後尾は2人だけ(学級委員の麻耶と彼女と仲の良い真智)になる。
つまり座席は9列使用しているので、後ろの2列は空いており、ここは荷物置き場となっていた。
今回の宿泊体験のスケジュールはこのようになっている。
11日午前 陶芸体験
11日午後 オリエンテーリング
11日夕方 キャンプファイヤ
12日午前 山歩き教室(登山装備の説明・テントの張り方など)
12日午後 男子は登山体験/女子はバスケットボール教室
(女子でも体力に自信のある子は登山の方に参加してもよい)
可愛い服を着てきていた宏恵は、陶芸体験の前に
「その服ではやめときなさい。汚れてもいい服に着替えておいで」
といきなりだめ出しを食らった。
それで更衣室(むろん女子更衣室)に行き、安物のTシャツとジーンズに着換えて来た。
お昼は「おっきりこみ」で、みんな美味しい美味しいと言って食べていたが、その昼食の席で部屋割り表が先生から渡され、各自荷物(取り敢えず集会室に置いていた)を部屋に置いておいでと言われる。
龍虎は部屋割りを見て困惑した。
男子はA棟2階、女子はA棟3階と言われたのだが、男子の部屋割り表を見ても田代の名前が無いのである。
「ボクの部屋どこだろう?」
と龍虎が声に出して言ったが、彩佳は
「龍は3階の私と宏恵と桐絵の部屋に入れられている」
と言う。
「え〜〜〜!?」
「前から疑問に思っていたんだけど」
と桐絵が小さい声で言う。
ここから先の会話は他のテーブルに聞かれないように小声で進行した。食堂にはクラシック音楽が流れているので内緒話がしやすい。
「増田先生ってさ、龍のことを女の子だと思い込んでない?」
「ああ、それはそんな気がしていた」
と彩佳。
「それでバスの座席も女子と一緒だったんだよね?」
と宏恵。
「あれ、男子が1人余ったからだと思ってた」
と本人。
「その場合は私と並べないで龍の横を空けるよ。実際、2組は男子1人そういう配置になってたみたい。私は龍と仲良しだから全く問題無かったけど」
「そうだったのか」
「それに女の子だと思い込んでいるから、龍に劇の主役に立候補しなさいと唆したんだと思うし」
とも彩佳は言っている。
「あれ先生から言われてたの?」
と宏恵が訊く。
「ボク、ピーターパンやるというから、ピーターパンならいいかと思ったのに」
「多分先生の言うピーターパンの主役ってウェンディのこと」
「うっ」
「でもその部屋割りで問題無いんじゃない?龍、実際女の子になりたいんでしょ?」
と宏恵が言うが
「違うよぉ」
「それは違う」
と龍虎本人と彩佳がほぼ同時に言った。
「龍は女の子扱いされるのも、女の子の服を着るのも、女の子みたいで可愛いとか言われるのも好きだけど、女の子になりたい訳では無い」
と彩佳は鋭い分析をした。
「男の子には2種類あるんだよね。女の子みたいと言われて怒る子と喜ぶ子。龍虎は典型的な後者なんだけど、女の子になりたい男の子ではないんだよね」
「そのあたりがよく分からない」
「でもこれどうする?」
と桐絵が言うが
「問題無い気がする」
と彩佳。
「うーん・・・」
と宏恵も悩んでいたが
「確かに問題無いね」
と言った。
「だって私たち3人とも龍虎のヌードを見たことある」
「あははは」
「ちんちん付いてなかったよね?」
と宏恵が言うが
「凄く小さくて、ほとんど皮膚の中に埋もれているんだよ」
と龍虎は説明した。
「それなら無いのと同様に扱ってもいい気がする」
と宏恵。
「まあそもそも龍は女の子が恋愛対象ではないし、女の子に欲情を持つこともない」
と彩佳が言う。
龍虎は《ヨクジョウ》って何だろう?と思った。どうもお風呂場のことではないようだし、などと考えている。
「龍ってやはり男の子が好きなんだっけ?」
「違うよ。龍は男の子も女の子も恋愛対象じゃないんだよ」
「じゃ誰が好きなの?」
「龍虎はお婿さんになる気も、お嫁さんになる気も無いんだな」
「まだ成長が遅いから?」
「成長の遅れとは関係無く、恋愛をする気が無いのよね」
と彩佳は微笑んで言うが、ずっと龍虎をそばで見ていたから分かることである。実は何度か誘惑しているのだが、龍虎は全くそのことに気付かなかった。
「実はボク、その恋愛というのがよく分からない」
と龍虎本人も言っている。
「だから私たちが着換える時に龍には目をつぶっていてもらえばいいだけ」
と彩佳は言った。
「ああ、それなら問題無いか」
と宏恵。
「私は龍には見られても平気な気がするけどね」
と桐絵。
彩佳は微笑んでいるが、龍虎は彩佳のヌードは見たことがある。
ということで、この問題はそのままになってしまい、龍虎は彩佳たちと一緒に宿泊棟の3階に行って、同じ部屋に荷物を置いたのである。
なおクラスメイトの他の子たちは「田代さんはきっと女の子になりたい男の子だから女の子に準じて女子の部屋割りなのだろう」と思っていたようである!
午後からは小グループ(4〜6人)単位でオリエンテーリングになる。方位磁石と地図、非常用にGPSおよび発信器も持ち、定められたルートを歩いて行く。グループは予め編成しておいたが、各グループに1人は携帯電話を持っているようにし、誰も持っていない所にはレンタルの携帯電話を渡してある。これで先生たちが各グループに30分単位で連絡を入れて全員無事であることを確認する。
龍虎は結局部屋割りでも一緒になっている彩佳・桐絵・宏恵という4人で歩いたが、宏恵が磁石と地図を持ち、方向音痴っぽい桐絵にGPS発信器を付けさせ、GPS表示装置は彩佳が持つが、できるだけそれは使わずに地図と磁石で歩く。携帯電話は龍虎が持っている。
「龍の携帯、ちょっと変わってるね」
と菜美が覗き込んできた。
龍虎が持っているのはAU AquosPhone IS11SH (Strawberry Pink)である。龍虎は習い事が多いので、そこから帰る時に母か父に迎えに来てもらうための連絡用に持っている。学校では電源を切ってランドセルのポケットに入れており、基本的に使用しないので、学校の友人の多くはこれを見たことが無い。
「これスマートフォンなんだけど、普通のフィーチャフォンみたいにボタンでも操作できるんだよね」
と言って、龍虎はタッチパネルの下にあるボタン部をスライドして引き出し、それで操作してみせる。むろん普通にタッチパネルだけでも操作できる。
「あ、何か面白そう」
このタイプの「スライド型スマホ」(OSは普通にアンドロイド)はこの時期には結構あったのだが、その後、見なくなってしまった。
「でもピンクなんだね」
「龍の持ち物って可愛いものが多いよね」
「やはりそういうのが好きなの?」
「これ選んでくれたお姉さん(川南)が、これがボクに似合ってると言って押しつけた」
と龍虎は言っているが、龍虎は本当に、こういう可愛いものが好きである。(川南の「教育」のせいという気はする)
オリエンテーリングは、何組かチェックポイントの通過漏れをした組があったものの、行方不明者が出ることもなく無事に終了した。夕食は屋外でバーベキューとなり、身体を動かした後なので、みんなたくさん食べていた。
夕食が終わった後、入浴して、20時からキャンプファイヤと言われた。この日の天文薄明終了は20:15である。
それで龍虎は夕食後、彩佳たちと一緒に、いったん3階の女子の部屋が並んでいる所の31号室に一緒に行き、着換えのバッグとタオルを持ってお風呂に行く。お風呂は宿泊棟とは少し離れた場所に独立した建物となっている。浴室棟の入口から入っていくと、左右に男湯と女湯が分かれている。
この時、龍虎は途中でタオルが着替えのバッグに入っていないことに気付いた。
「もうひとつのバッグの方に入れてたの忘れてた」
「龍も荷物が多すぎたもんなあ」
『も』というのは宏恵も山のような荷物を持ってきていたからである。
「ごめーん。取ってくる」
「じゃ先に行ってるね」
と言って彩佳たちは先に行き、龍虎は1人で宿泊棟の3階まで往復してきて、やっと浴室棟に戻ってきた。
龍虎が建物の中に入って行った時、エントランスの所で増田先生が施設の職員の人と何か話していた。龍虎が男湯の方に行こうとしたら
「田代さん、そちらは男湯!」
と増田先生が大きな声で言う。
「え?でもボク男の子だし」
「そういう冗談はやめてよね。小学生の子の混浴は禁止だから。そもそも、ちんちんの付いてない子が、ちんちんの付いてる子たちの中に入っていったらみんな困っちゃうよ」
などと言って、龍虎の身体を捉まえて
「はい。女の子はこちらね」
と言って、女湯の脱衣室の戸を開けて中に押し込んでしまった。
え〜!?と思いながら、龍虎は女湯脱衣室の中に入ってしまったが、その瞬間、目をつぶった。
「龍、何をしている?」
と声を掛けてきたのは桐絵のようである。やや怒っているようだ。
「だってボク、向こうに入ろうとしたら増田先生が・・・」
と龍虎は目をつぶったまま言い訳をする。
「増田先生がいたから、こういう事態になる可能性は想定していた」
と彩佳の声がする。
「どうする?」
と桐絵。
「田代さんの性別をきちんと説明すべきだというのに1票」
と言っているのは学級委員の麻耶のようである。
「このまま龍を女湯に入れてもいいと思う」
と言いだしたのは彩佳である。
「え〜〜〜!?」
と真っ先に声をあげたのは龍虎である。
「その方が問題無い気がする」
と言っているのは穂ノ佳だ。
頭のいい彼女もこのような事態を考えていたようである。
「今田代さんの性別を明確にすると、田代さんは男子の部屋に組み込まれて明日は登山体験になる。登山とか田代さんの体力じゃ無理。田代さんを男子の部屋に泊めるのも貞操の危険があるし、男子も安眠できないと思う」
と穂ノ佳。
「貞操?」
「だって田代さんって、実は女の子だよね?」
「えーっと」
「脱がせてみれば分かる」
と彩佳が言っている。
「じゃ、田代さん、脱いでみてよ」
うっそー!?と思ったものの、龍虎は目をつぶったまま、服を脱いでみせた。
「田代さん、なんで女の子用のシャツを着ている?」
「これしか見つからなかったから」
「パンティも女の子用じゃん」
「これしか見つからなかったから」
実は数少ない男の子用の下着を母がうっかり(?)洗濯してしまって、お陰で龍虎は大量にある女の子用下着を着けてくるハメになったのである。
それでパンティまで脱いでしまうと、女の子たちが寄ってくるのを感じる。
「ね、胸があるよね?」
という声がある。
「龍虎はA60のブラジャーを時々つけてる」
と彩佳がバラすと
「すごーい!」
という声があがっていた。
「どっちみち、ちんちん無いじゃん」
「小さいのがあるんだけど」
「ん?」
目をつぶっているのでよく分からないのだが、大量に女の子たちが近づいて龍虎の股間を見ている感じがする。
「割れ目ちゃんは無い」
とまず確認される。
「これちんちん?」
「やや大きめの、おマメさんでも通る気がする」
「どっちみちタマタマは無い」
「一応あるんだけど」
「いや、無いように見える」
(睾丸も陰嚢も小さいので、ほぼ身体に張り付いていて、龍虎の陰嚢は垂れ下がったりしない。昨年末にタックした時は無理矢理引っ張って処理している)
そういう訳で、龍虎は学校の女子たちの多くに股間の状態を見られてしまったのである。
「やはりおちんちんが無いから、いつも女子トイレ使っているのね」
と、龍虎の女子トイレ使用に若干の疑問を持っていた感じの子も納得したようだ。
「実はこれ握れないから男の子みたいに立ってできないんだよね」
「まあ確かにこれは握れない」
「そもそもズボンの前開きから出ないんじゃない?」
「引っ張っても無理っぽいね」
と言って本当に引っ張ってみているのは彩佳である!ちょっとぉ!!
「した後は濡れるからちゃんと拭いてる」
と龍虎が言うと
「じゃホントに女の子と同じなんだね」
とみんなは納得しているようだ。
「この程度なら、女の子のバリエーションということでいいんじゃない?」
と学級委員の麻耶が言っている。
「うん。全然問題ない」
「これ、この付近に毛が生えてきたら、女の子のお股にしか見えなくなるよね」
「じゃ、龍ちゃん、私たちと一緒に女湯に入ろうよ」
と多くの子たちから声があがった。
そんなぁ・・・・
(これ以降龍虎のことを「田代さん」ではなく「龍ちゃん」と呼ぶ女子が増えた。だいたい男子の多くが「○○君」と呼ばれるのに龍虎だけ「田代さん」という女の子に準じた呼ばれ方だったのである)
「だって龍ちゃん、女の子になりたいんでしょ?心が女の子なら女の子の仲間でいいと思う」
という声まである。
えっと、何と言い訳しよう。
「女の子になりたいから、劇でも女の子役に立候補したんだよね?」
何か変な話になってきてない??
「でも男の子かもという疑いもあるから、龍は目を開けないこと」
と彩佳が言っている。
「そうする!」
この彩佳の提案で、女子たちの空気が変わったのを龍虎は感じた。いくら女の子と似た感じだからといっても・・・と思っていた子も龍虎に見られないのなら構わないかという雰囲気になったのであるが、そこまで龍虎は理解していない。
「目をつぶっていたら危ないから私が手を引いてあげるよ」
と彩佳が言って、手を握ってくれた。
そういう訳で龍虎はクラスメイトたちと一緒に女湯に入ってしまったのである。
しかし目をつぶったままでも何とか入浴できるもんなんだなあと龍虎は思った。移動する時は彩佳が色々注意してくれたので危なげも無かった。
浴槽の中では多数の女子たちとおしゃべりする。他のクラスの女子たちとも随分仲良くなった気がした。おっぱいやお股にも随分触られた!しかし最初はかなり居心地の悪い思いをしていた龍虎も20分近く女の子たちと裸の付き合い?をして「ボクここに居てもいいのかな」という気分になってしまった。
脱衣場に戻って服を着る時、目を開けられないので服が分からない。
「私が取り出してあげるね」
と言って彩佳が勝手に龍虎のバッグを開けている。
「まずパンティ、こっちが前だよ」
「ありがとう」
どうも自分の着替えはみんなに見られているようなだなあと思いながら龍虎は普通にパンティを身につける。あ、コットンのパンティだ、と思ったら
「水玉のパンティ可愛い」
という声があがっている。うっ・・・これ水玉のか。
彩佳が次に取り出したものにざわめきが起きる。
「ブラは難しいだろうから私が着けてあげるね」
「それ要らない!」
やはりブラだったのか。
「いや、龍には必要だと思う」
「そもそも着換えにブラジャー持って来たということは着けるつもりだったんでしょ?」
「お母ちゃんが用意してくれたんだけど、なんでブラジャーとか入っていたんだろう」
「5年生にもなったらブラジャーくらい着けてもいいと思うよ」
と宏恵が言っている。
たぶんこの場にいる女の子でブラジャーを着けているのは、宏恵を含め数人しかいない。
「あまりカップが余ってないね」
と何人かの女子がわざわざ龍虎のブラの中に指まで入れている!
「龍はたぶん近い内に生理も始まるね」
と彩佳。
「そんな馬鹿な」
と龍虎は言うが
「いや、龍ちゃんなら生理が来ても驚かない」
などという声がしている。
「あ、スカートも入っている」
「これ穿いたら?」
「恥ずかしいよぉ」
「何を今更」
「龍、小学2年の頃は何度かスカート穿いて学校に来たじゃん」
「あれ、ズボンが全部洗濯中だったんだよ。梅雨時で乾かなかったし」
「下手な言い訳してる」
「これロングスカートだからキャンプファイヤでも穿いてていいと思うよ」
ともかくもそれで龍虎は結局ロングスカートと、可愛いカットソーを着るハメになった。
他の女子と一緒に荷物を部屋に置いてから営火場に行くと、龍虎の格好を見た西山君が「可愛い!」と言った。
「何かこれ着る羽目になった」
と龍虎は情けない顔をして言うが
「でも持って来ていたんだろ?」
と西山君。
「そうそう。着る気満々だったと思う」
と桐絵が言っていた。
キャンプファイヤに点火された後、みんなでキャンプやジャンボリーっぽい歌をたくさん歌う。『アルプス一万尺』『キャンプファイヤの歌』『おお牧場はみどり』『おおブレネリ』『森の熊さん』『踊ろう楽しいポーレチケ』などといった所である。
龍虎のそばで歌を聞いていた西山君が
「田代さん、ほんとに歌が上手いよね」
と言っていた。
「やはり龍は歌手になるべきだよね」
と彩佳。彩佳はどさくさ紛れに龍虎に身体をくっつけて座っている。
しかし龍虎は
「ボク、実は歌手より俳優になりたいなあと思っている」
と言った。
「へー」
「いや、龍虎は俳優ではなく女優になると思う」
と向こうから宏恵が言うと
「確かに」
とみんな、納得する声があがっていた。
歌をたくさん歌った後は男子と女子で二重の輪を作り、フォークダンスを踊った。増田先生と小林先生がお手本を見せるので、それを見ながら、ジェンカ、マイムマイム、タタロチカ、コロブチカ、そしてオクラホマミキサーなどもする。むろん龍虎は最初から女子の輪の中に居る。「ボクどうしよう?」と言ったら「スカート穿いてる子は女子の輪」と言われた。
タタロチカまでは各々の輪で完結するがコロブチカは男女の絡みがあり、オクラホマミキサーになると完璧に男女ペアになる。ここで男子の輪から数人女子の輪の方に移動した。西山君や立石君はいつものことなので自主的に女子の方に移動している。龍虎は西山君とペアになりそうだったので、彼とならペアでもいいかなと思っていたら、彼が女子の方に来たことで藤島君とのペアになった。彼はわりと格好いいので女子の人気が高い。案の定、龍虎が彼と組むと嫉妬のような視線を感じる。もう!
龍虎が背が低くて長身の藤島君とは組むのがけっこう大変だったのだが、彼が長い腕でしっかりサポートしてくれたので龍虎は踊りやすかった。もっとも藤島君も後から「田代さんが上手いから踊りやすかった」と言っていた。彼の後は金野君、内海君・・・と続いて最後は伊東君だった。
そこで音楽が終わったが
「田代さん、触ると普通に女の子の手の感触だね」
と彼が言っていて、また龍虎を悩ませるのであった。
8月4,11,12日に土浦市の水郷体育館と新治体育館で第10回シェルカップが行われた。
この大会にローキューツは“1.2軍”で臨んだ。元々は気軽なオープン大会だったのが、最近どんどんレベルが上がってきていることから、やや本気で行こうかということになったことと、もうひとつは実は来月の全日本クラブ選抜の“選手枠選考”大会とすることを事前にメンバーに告知したのである。それで今回の登録メンバーは下記である。
選手(16名) ★主将
8.原口揚羽(C) 9.松元宮花(PG) 11.水嶋ソフィア(SG) 15.東石聡美(SF) 17.杉山蘭(PF) 18.岡田瀬奈(SG/SF) 19.沢口葉子(SF) 22.五十嵐岬(PF) 23.愛沢国香(PG/SF) 24.岸原元代(PF) 27.深山三葉(SF) 30.後藤真知(SF) 31.真田雪枝(SF) 35.長門桃子(C)★ 36.鴨川絵美(PF) 37.宮中春江(PF)
桃子を玄海カップに続いて主将として登録した。身長の高い桃子は、キャプテンと言われると物凄く説得力がある。
参加しないメンバー(5名.クラブ選抜出場確定)
4.歌子薫(SF) 6.森田雪子(PG) 7.風谷翠花(PF) 16.馬飼凪子(PG) 33.森下誠美(C)
参加しないメンバー(3名.クラブ選抜不出場確定!)
20.島田司紗(GF) 25.長居茜(PF) 26.弓原玉緒(SF)
3月31日に送別会&新人歓迎会をした時にはまだ居なかったメンバーが4人増えている。いづれも4月に加入したメンバーである。括弧内は生年度と身長。
9.PG.松元宮花(1992 162cm)東京U学院→SK化学
27.SF.深山三葉(1993 169cm)旭川L女子高→都内の企業
36.PF.鴨川絵美(1993 172cm)茨城K高校→千葉S大学(元代の後輩)
37.PF.宮中春江(1993 173cm)前橋B高校→千葉J大学(岬の後輩)
結局今年の新加入は11名になった。26名の登録者の内11名が新人である。
松元宮花はソフィアと一緒にSK化学にいた人だが、湘南自動車の松元ツバメの妹でもある。SK化学の解散で姉のチームにも加入を打診したもののどうしても枠に入れなかったらしい。それでどこか入れそうな適当なレベルのチームを探していたのをソフィアが勧誘したのである。マクドナルドのバイトをしながらチームに参加することになった。
深山三葉は旭川L女子高の出身で、麻依子・翠花らの勧誘で加入した。鴨川と宮中は今年大学に入ってキャンパスを歩いていた所を長身なので、各々元代・岬が勧誘したのである。
今回の選手選考方法は下記の指標の高い人から順に8名を当確とし、残り3名はバランスを考えて決めると司紗が!宣言した。
指標計算方法
加算分 45.75×得点 + 22.55×リバウンド + 32.8×アシスト + 58.2×スティール + 38.37×ブロック数
減算分 48.65×ターンオーバー + 39.73×シュート失敗数 + 20.6×フリースロー失敗数 + 18.68×ファウル数
指標=(加算分−減算分)÷出場分数
これは waynewinston.com というサイトが提案している選手評価指標である。単純な計算式なのに、評価は高いものの計算が複雑すぎて分かりにくいPER(Player Efficiency Rating)ととても近い数値になるらしい。
この指標では(PERでもそうだが)ゴールを決めると91ポイントもらえるのに失敗しても40ポイントしか減点されない。それでこれはゴール確率の低い「数撃てば入る」系のプレイヤーに有利である。またこの指標はどうしてもガード系選手の点数が高くなりフォワード系選手の点数が低くなる傾向がある。またこの手のスタッツに現れないもの、たとえばディフェンスやボール運びのうまいプレイヤーは必ずしも活躍内容と指標が連動しない。また出場分数で割るということは体力があり出場時間の長い人より、出場時間が短くその間に集中してプレイする人の方が有利になる。
そのあたりの欠点を追加3名の協議選考(選考者は薫・翠花・司紗)で補おうという趣旨であると司紗は全員に説明した。
ローキューツはこれまでの実績から4日の予選は免除で11日の2回戦から参加した。まずは午前中に行われた2回戦では栃木のクラブチーム、つくもレーサーズに快勝する。そして夕方近くに行われた3回戦で茨城県内の高校生チームに10点差で勝って本戦に進出した。
そして今回最終日に残ったのはこの4チームである。
ローキューツ、TSブライト、江戸娘、伊豆ホットスプリングス
「何これ、むっちゃ強い所ばかり残ってるじゃん」
と桃子が言ったが、
「きっと他の3チームも同じこと言ってる」
と岬は言った。
なおTSブライトはTS大学の2年生のチームなのだが、この大会には1年生のチームTSコーヒーメイトも出場していた。しかし3回戦で江戸娘に敗れている
(4年生チームがフレッシャーズ、3年生チームがマリーム。コーヒーメイトというのは、日本でクレマトップを売っているネスレが欧米で販売している商品でいわば姉妹品。香り付きのものが多い。実はこの分野の商品の草分けである)。
それで準決勝の相手はそのコーヒーメイトを破った江戸娘である。1月の関東クラブ選手権の決勝で戦って以来だが、お互い結構メンバーが入れ替わっていた。
「あれ?秋葉さんは?」
「どうも辞めたみたいね」
「向こうも何で村山さんが居ないの?とか言ってるよ」
江戸娘との試合は激しい戦いになった。
「マチが欲しい〜!」
と桃子が声をあげていたが
「モモちゃんが頑張りなさい」
とチームベンチのすぐ後ろの応援席に座る誠美は言っていた。
「ボクが性転換したら、後はモモちゃんがやるしかないし」
「マチ、男の子になるの?」
「男の子になりたい気もするけど、男でやっていく自信はあまりない」
などと誠美は言っている。
ゲームは追いつ追われつ、点を取りつ取られつのシーソーゲームであったが、最後は深山三葉のブザービーターでローキューツが逆転勝利を収めた。試合後あちこちでハグしあう光景が見られた。
そして決勝の相手はTSブライトである。伊豆ホットスプリングスを接戦で下して勝ち上がってきた。
2月の大会でもここと当たり、ローキューツは大敗している。それもあって、向こうは何だか明るいムードであった。
ところが試合が始まると、向こうは「うっそー!?」という顔である。最初ローキューツが一方的に攻めてあっという間に4-12などというスコアになる。すぐに主力を投入して何とか挽回していくものの、なかなか追いつけない。結局第1ピリオドは14-29というダブルスコアになった。
「まあ2月に戦った時とは勝手が違うだろうね」
「こちらも気を引き締めて行くよ」
それで第2ピリオドはかなり競った展開になり、18-18の同点で終える。
第3ピリオドも激しい攻防が続く。こちらは疲れが溜まらないようにどんどん選手を入れ替えながら戦ったが、結果的に向こうはこちらの誰に付くかが混乱していた感じもあった。第3ピリオドが16-24となり、ここまで48-71である。
第4ピリオド、向こうはオールコート・プレスを使って何とか挽回しようとするが、これは激しい消耗を伴うプレイである。最初の3分で12-6とリードするも、疲労が出てくるとどうしても動きが遅れがちになり、足が停まり始めると、ローキューツの攻勢に耐えられなくなる。
タイムを利用したり、何度かファウルも使って時間を取り疲労を何とか抑えようとするも、たまらず通常の守備に戻してしまった。
結局このピリオドは22-16で終え、70-87でローキューツが勝利した。
これでローキューツは1年半ぶり2度目の優勝を成し遂げたのである。
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【娘たちのリサイクル】(1)