【娘たちの世界挑戦】(2)

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7月7日(木)。
 
七夕なので、全員に短冊が配られ、願い事を書こうということになったが、みんなだいたいこの大会での成績を書く。
 
彰恵は「U21世界選手権優勝」、江美子も「金メダルGet」と書いた。千里は「残り全試合勝利」、玲央美は単に「Vitory」である。
 
若手3人は、絵津子が「必勝」、純子が「win win win win win」、そして王子は「ステーキ食べ放題」と書いた。
 
「なんでステーキ食べ放題なの?」
「いや、高校の理事長から優勝したらステーキ食べ放題と言われたんで」
 
「ああ、それは頑張らなきゃね」
 
「性転換したいというのは書かなくてもいいの?」
「うーん。それはもしちんちんが生えて来たら受け入れるということで」
 

この日、U21世界選手権の予選リーグは4日目を迎える。今日の日本の相手はウクライナである。試合は11時からである。この日は日本もわりと楽な気持ちで臨むことができた。
 
ウクライナとしては今回の予選リーグでラトビアに負けてしまったので、残りどこかに勝てるとしたら日本しかないというので必死に掛かってきたものの、こちらはかなり精神的な余裕のある試合運びをすることができた。
 
68-90の大差でウクライナに勝利する。
 

この日の結果はこのようになった。
 
UKR68×−○90JPN RUS79○−×64LVA AUS77○−×74BRA
 
暫定順位 1.RUS(4勝) 2.AUS(3勝) 3.BRA(2勝) 4.JPN(2勝) 5.LVA(1勝) 6.UKR(0勝)
 
これでロシアの1位、および、ウクライナの6位と予選リーグ脱落が確定した。
 
オーストラリアが明日勝って4勝になってもロシアに負けているので1位にはなれない。ウクライナが明日勝って1勝をあげても、ラトビアに負けているのでラトビアの順位を上回れない。
 
そしてオーストラリアの決勝トーナメント進出も確定した。
 
ラトビアが明日勝っても2勝にしかならないのでオーストラリアはそれを上回っている。
 
つまりB組はロシアとオーストラリアが決勝トーナメント進出確定で、残りの2枠を、ブラジル、日本、ラトビアが争う形になる。
 

A組の結果。
CHN57×−○88FRA CAN81○−×35EGY USA89○−×72ESP
 
暫定順位 1.USA(4勝) 2.FRA(3勝) 3.ESP(3勝) 4.CAN(1勝) 5.CHN(1勝) 6.EGY(0勝)
 
こちらもアメリカの1位、および、エジプトの6位と予選リーグ脱落が確定した。
 
フランスもスペインも既にアメリカに敗れているので、明日勝って4勝になってもアメリカを上回れない。エジプトは明日勝って1勝にしても中国に既に負けているので中国を上回れない。
 
またフランスの決勝トーナメント進出も確定した。
 
カナダ・中国は明日勝っても2勝にしかならないので、フランスの成績を上回ることができない。
 
つまりA組ではアメリカ・フランス・スペインが確定で、残り1枠をカナダと中国で争うことになる。明日両者は直接対決するので、その試合に勝った方が決勝トーナメント進出である。
 

3ポイント成績
日本・村山 27本
アメリカ・フィオリーナ 21本
オーストラリア・ハモンド 16本
スペイン・フェルナンデス 14本
 
フィオリーナは昨日2本しか入れられなかった分を挽回しようとかなり撃ったようである。それで成功率も落ちたものの7本入れた。しかし日本は今日は実力差のあるウクライナとの試合だったので千里は8本放り込んでおり、両者の差は6本に拡大している。
 
このまま行くと千里の勝利が有力だが、日本がもし決勝トーナメントに進出できなかった場合は、試合数が異なるため、アメリカ有利になる。また日本も問題のガスレスタの居るフランスとの対戦がある可能性もある。
 
(予選リーグは5試合である。決勝トーナメントに進出するとその先3試合ある。しかし決勝トーナメントに行けず9-12位決定戦に回ると2試合しか無い)
 

「明日は勝てばいいんですかね?」
と、この日の夕食をロサンゼルス市内の寿司レストランで取りながら誰ともなく質問が出る。
 
「うん。明日とにかく勝てば、日本は決勝トーナメントに行ける」
と高田コーチは言う。
 
「日本は勝てば3勝になるから、現在1勝のラトビアも0勝のウクライナもそれを上回ることができない」
 
「なるほど」
 
「もし負けた場合は?」
 
「その場合、もしラトビアがブラジルに勝った場合は、ブラジル・ラトビア・日本で3〜5位を争う得失点率の勝負になる。ブラジルが勝てば、日本が4位」
 
「ブラジルに頑張ってもらえばいい訳か」
「ただし4位通過になると、準々決勝でアメリカとぶつかる」
「わっ」
 
「だからとにかく勝つことを考えよう」
と高田コーチは言う。
 

「明日私たちが勝った場合、何位で通過できるんですか?」
 
「ラトビアがブラジルに勝った場合は、日本は2位、オーストラリア3位、ラトビア4位でブラジルが落選」
 
「ブラジルはこの成績から落選してしまうのか!」
「暫定3位なのに」
「だったら必死になるでしょうね」
 
「ブラジルがラトビアに勝った場合はラトビアの落選。オーストラリア、ブラジル、日本の3ヶ国で2〜4位を得失点率の勝負で争う」
 
「うーん」
 
「その場合に、日本がブラジルを得失点率で上回って3位になるためにはオーストラリアに2点差で勝つ必要がある。1点差勝ちなら4位」
 
と高田コーチはメモを見ながら言った。
 
「要するにオーストラリアに5〜6点差くらいで勝てってことですね」
と純子が言う。
 
「まあそのくらいで勝てたらスッキリするね」
 
「どうせなら10点差くらいで勝ちましょう」
とお銚子者の絵津子が言う。
 
「オーストラリアさん、自分たちはもう決勝トーナメントに行けるんだから手を抜いてきてくれませんかね?」
 
「それはありえない。自分がオーストラリア選手の立場ならどうする?」
「そりゃアジアの弱小なんかに負けたら恥ずかしいから全力で来ますよ」
 
「2年前のU19世界選手権の時も、オーストラリアは日本に勝ちはしたものの、かなり本気だったよ」
 
「あの記憶があるだろうから、きっと今回は前回以上に本気で潰しに来ると思う」
 
「でも日本はそれに勝たないと、アメリカと準々決勝でぶつかるハメになる」
 
「頑張って20点差で勝ちましょう」
 

玲央美は夜寝る前に喉が渇いたので、自販機でAQUAFINA(水のペットボトル)でも買おうと階下に降りて行った。そこでバッタリ、高田コーチに会う。
 
高田コーチは札幌P高校のコーチ(現役)なので、玲央美とは高校1年の時以来、5年3ヶ月の付き合いである。
 
「コーチ、明日2位になるケースを言いませんでしたね」
「まあ今の段階では言わない方がいいでしょ」
と高田コーチは苦笑して言う。
 
「多分自分で計算してみて気付いているのは私とアキ(前田彰恵)くらいだと思いますよ。千里とかキラ(鞠原江美子)とかは計算が苦手だもん」
 
「まあ、あそことやるのも楽しいんじゃない?」
「ええ、楽しみにしています。だから明日は3点差以上で勝ちますよ」
と玲央美は笑顔で言った。
 
「うん、頑張ろう」
 

7月7日。平良真紗(たいら・まさ)は導尿が終わり、初めてトイレに行ってきた。
 
飛び散るよと言われていたので、慎重に出したのだが、幸いにもあまり飛び散らずに済んだようである。
 
しかし真紗は感動していた。
 
おしっこする感覚が全然違う!
 
だいたいタックしていたので、おしっこが出てくる位置は以前と同じなのだが《抵抗感》が無いのである。尿道がとっても短くなっているので、抵抗なく身体から直接落ちていく感覚である。
 
傷跡が全然治ってないので、しみて痛いのだが、それよりも真紗は幸福感を感じていた。
 
おしっこした後は、しっかり消毒液で拭いてからガーゼなども当て直したがこれ早く傷が治ってふつうにできるようになるといいなと真紗は思った。
 

病室に戻ってから母に訊かれた。
 
「おしっこどうだった?」
「幸せな気分」
「良かったね。飛び散らなかった?」
「それは大丈夫だった」
「それは良かった。この先生うまいみたいだしね。どうかするとおしっこする度に全身ずぶ濡れなんて人もあるみたいだよ」
「それは辛いなあ」
 
と言ってから、真紗は訊いた。
 
「お母ちゃんも女になった時はどう思った?」
「やはり私も手術が終わってから3日目くらいに、初めておしっこした時が凄く感動したよ。出てくる感覚が全然違うじゃん」
「そうそう。全然違うんだよ。お母ちゃんは飛び散らなかったの?」
「全身ずぶ濡れになるほどではないけど、わりと飛び散ったよ。方向も定まらないから2〜3ヶ月は指で蛇口をおさえてコントロールしてた。その後は安定して、大丈夫になったけどね」
 
「そうか、あれは蛇口か」
「まあ手術前はホースだったからね」
「これってホースを蛇口から取り外す手術だよね?」
「まあ簡単に言うとそういうことだよね。あれってゴムみたいに伸びるでしょ?」
「ゴムホースだったのか」
 

7月8日は9時からの第1試合でそのブラジルとラトビアの試合が行われ、ブラジルが88-82でラトビアを下した。この結果、ラトビアの落選が決まり、日本とブラジルの決勝トーナメント進出も決まった。
 
日本チームは練習場所の中学校の体育館で練習している時にこの報せが入り、思わず歓声があがっていた。これで少なくとも前回のU21(10位)よりは良い成績になることが確定した。残りの試合全てに負けたとしても8位である。
 
11時からの第2試合ではロシアとウクライナの試合が行われ、86-62の大差でロシアが勝利した。この2チームは既に順位が確定していたので、この結果は順位表に影響を与えない。
 
13,15,17時からはA組の試合が行われた。結果は下記である。
 
ESP84○−×78FRA CAN82○−×70CHN USA98○−×38EGY
 
確定順位 1.USA(5勝) 2.ESP(4勝) 3.FRA(3勝) 4.CAN(2勝) 5.CHN(1勝) 6.EGY(0勝)
 
A組はきっちりと勝点(かちてん)で順位が付いた。
 
そして19時から、予選リーグ最後の試合、B組のオーストラリアと日本の試合が行われる。
 

さて、この時点で1位ロシア、5位ラトビア、6位ウクライナは順位が確定している。しかし2〜4位はこの最終戦の結果次第である。
 
もし日本が負けた場合は、2位オーストラリア・3位ブラジル・4位日本で、日本は準々決勝でA組1位が確定しているアメリカとぶつかることになる。
 
日本が勝った場合は3勝で3ヶ国が並ぶので「相互得失点率」の勝負になる。つまりこの3ヶ国同士の対戦成績のみで得失点率を計算し、その上位から順位が付くことになる。
 
現時点では3者の対戦成績はこのようになっている。
 
AUS____ JPN____ BRA____ 得点_ 失点_ 得失点率
AUS ------- ◇xx-yy ○77-74 77+xx 74+yy
JPN ◇yy-xx ------- ×80-82 80+yy 82+xx
BRA ×74-77 ○82-80 ------- 156__ 157__ 0.993
 
ここで日本がブラジルを得失点率で上回るためには常識的な点数の範囲では2点差以上で勝つ必要がある。たとえば1点差の76-75で勝った場合、80+76=156, 82+75=157で、ブラジルと得失点が同じになり、その場合直接対決でブラジルが勝っているので、ブラジルが上位になるのである。
 
2点差であれば日本の得失点率は1.000になるのでブラジルを上回り3位になる。
 
ところがここで日本が3点差以上で勝った場合を考えてみる。例えば76-73で勝った場合、日本の得失点率は 156/155=1.006、オーストラリアの得失点率は150/150=1.000 となって日本はオーストラリアを上回り2位になってしまう。
 
日本敗戦→2.AUS 3.BRA 4.JPN
1点差勝→(同上)
2点差勝→2.AUS 3.JPN 4.BRA
3点差勝→2.JPN 3.AUS 4.BRA
4点差勝→(同上)
5点差勝→2.JPN 3.BRA 4.AUS
 
さて2位になった場合と3位になった場合の違いは何かというと、決勝トーナメントのどこに組み込まれるかである。
 
USA(A1)┓
BRA(B4)┻□┓
FRA(A3)┓ ┣□┓
___(B2)┻□┛ ┃
ESP(A2)┓   ┣□
___(B3)┻□┓ ┃
CAN(A4)┓ ┣□┛
RUS(B1)┻□┛
 
予選リーグを3位通過した場合、準々決勝ではA組2位のスペイン(ESP)と当たる。そこに勝った場合は、ロシア(RUS)とカナダ(CAN)の勝者と当たるがたぶんロシアになるであろう。予選リーグの再戦になる。
 
ところが予選リーグで2位になった場合、準々決勝の相手はフランス(FRA)で、そこに勝った場合は、アメリカ(USA)とブラジル(BRA)の勝者と当たることになるがたぶんアメリカであろう。
 
つまり3位通過なら準決勝の相手がロシアであるのに対して2位通過だと準決勝の相手はアメリカになる訳で、より絶望度が高い。
 
昨夜玲央美が高田コーチに言っていたのはこのことである。
 
つまり2点差で勝って3位になれば準決勝でロシアに勝ち決勝に進出する可能性が少しはあるのに、3点差以上で勝って2位になると準決勝でアメリカに勝つのはほぼ無理である。つまり2位になるより3位になった方が良いという不条理な仕組みになっている。
 
しかしアメリカと本気の対戦をする機会は少ないので、楽しみだと玲央美は言っていたのである。玲央美の本心としては、アメリカや“本気の”ロシアに現在の日本の実力でかなう訳がないので、どうせ準決勝で負けるなら、アメリカともやっておきたいという所である。
 
なお2年前のU19では日本はアメリカに109-68で大敗している。
 

さて、この最終戦はどうも奇妙な戦いになった。
オーストラリアはこのようなメンツで始めたのである。
 
11.ミラー/12.トロ/10.ホワイト/14.ボーガー/15.サドラー
 
明らかに控え組でのスタートである。
これに対して日本はこのような“マジ”なスターティング5であった。
 
11.早苗/7.千里/14.絵津子/9.王子/10.サクラ
 

オーストラリアのスターターを見た朋美が高田コーチに訊いた。
 
「これもしかしてオーストラリアさん“あれ”を狙ってませんか?」
 
しかしコーチが答える前に彰恵が言った。
「その件、この試合中は口にしないこと」
 
玲央美も言う。
「うん。それを知ると、プレイに影響が出る子が多いよ」
 
「たぶん・・・これ分かってるの、私たち3人だけじゃない?」
と彰恵。
 
「そんな気がする」
と玲央美。
 
高田コーチが苦笑していた。百合絵や江美子は「何だろう?」という顔をしている。
 

この試合は、彰恵や朋美たちが想像した通りの展開となった。
 
オーストラリアは明らかに手抜きしていた。
 
出ている選手は頑張っているのだが、主力をなかなか投入しないのである。日本が頑張って少し点差がつき始めたりすると投入するが、追いつくと下げてしまう。
 
出ているオーストラリアの控え組選手たちが必死に頑張るのに対して、日本側では絵津子、純子、王子の3人も、江美子やサクラもよく得点し、千里もどんどんスリーを放り込む。
 
それで最後は日本が1点リードしている局面から、千里がスリーを放り込み、97-93というハイスコアで日本が勝利した。
 
ハイスコアなのでみんなの得点も凄い。千里は結局12本もスリーを放り込み、オーストラリアのハモンド(U19の時にベストファイブに選ばれている)も出場時間こそ短いものの5本放り込んで、スリーポイント競争の3位にしっかり付けていた。
 

試合が終了した時、コート上に居た、千里や絵津子、王子たちが物凄い歓喜で抱き合って喜んでいた。
 
一方、オーストラリアは最後の93点目を入れた主将のマーティンがホッとしたような表情をしていたのが印象的であった。実はマーティンにとっては最後の日本の得点は2点でも3点でも良かったのである。ただシュート失敗が非常に少ない千里がボールを持ったので、うまく行った!という感じだった。
 
「97 to 93, Japan won」
と主審が告げ、双方握手する。どちらも笑顔で握手し、ハグしたりもした。
 
この時、絵津子や純子はなぜオーストラリアが負けたのに明るいのか、首をかしげていた。
 

本日の結果。
BRA88○−×82LVA RUS86○−×62UKR AUS93×−○97JPN
 
確定順位 1.RUS(5勝) 2.JPN(3勝) 3.AUS(3勝) 4.BRA(3勝) 5.LVA(1勝) 6.UKR(0勝)
 
2-4位の相互得失点表
 
___ JPN__ AUS__ BRA__ for agt average
JPN ----- 97-93 80-82 177 175 1.011
AUS 93-97 ----- 77-74 170 171 0.994
BRA 82-80 74-77 ----- 156 157 0.993
 
この結果、決勝トーナメントはこのような組合せで行われることになった。
 
USA(A1)┓
BRA(B4)┻□┓
FRA(A3)┓ ┣□┓
JPN(B2)┻□┛ ┃
ESP(A2)┓   ┣□
AUS(B3)┻□┓ ┃
CAN(A4)┓ ┣□┛
RUS(B1)┻□┛
 
3ポイント成績
日本・村山 39本
アメリカ・フィオリーナ 30本
オーストラリア・ハモンド 21本
スペイン・フェルナンデス 16本
 

「え〜〜〜!?準決勝でアメリカと当たるんですか!?」
 
と多くの選手が声を挙げた。
 
「準々決勝でフランスに勝ったらだけどね」
 
この日の夕食は試合が終わって着換えた後、韓国プルコギのお店に行ったのだが、食事をしながら決勝トーナメントのことを話していた時、確定した組合表を見た選手たちの間から驚きの声があがった。
 
むろん千里も
「うっそー!?」
と言った組である。
 
選手の中でこれを知っていたのは、やはり朋美・彰恵・玲央美の3人だけであったようだ。
 
「アメリカとまともに勝負するなんて、なかなか無いから頑張ろうよ」
「2年前はダブルスコアで負けたから、今回はこちらがダブルスコアで勝つということで」
 
と彰恵や朋美が言う。
 
「ひぇー!?」
と大半の子が悲鳴をあげるが
 
「じゃ50点差くらいで日本が勝ちましょうよ」
と王子が言うと
 
「さすがに50点差は無理だから20点差くらいで」
と絵津子が言い
 
「よし、まずは準々決勝のフランスに30点差勝ちして、その勢いでアメリカに20点差勝ちしましょう」
と純子が言う。
 
絵津子と王子はかなり本気で言っているが、純子は冷静ではあるもののそれに合わせている感じでもある。しかし若手3人が盛り上がったので、千里たちの世代も
「よし、このままアメリカにも勝って、決勝戦でロシアを倒して優勝だ!」
 
などという話になり、この日は大いに盛り上がったのであった。
 

なおこの日オーストラリア側としては、このまま2位になると準決勝でアメリカと当たることになり、かといって4位では準々決勝でいきなりアメリカと当たるので3位になるのが理想であった。そのためには日本に3点差または4点差で負けることが必要だったのである。
 
2点差負けだとオーストラリアは2位、5点差負けだと4位になってしまう。
 
それでオーストラリアは控え組に主として試合をやらせて、時々主力を少し入れて点差の調整をしていたのである。オーストラリアとしては、とっても上手に負けることができた。それが最後のマーティンのホッとした表情だった。
 
心配していたのは、あまり手抜きして八百長を疑われることだが、控え組は自己アピールの場なので頑張ったし、日本はこの問題を知ってか知らずか必死に戦っていた(実は朋美・玲央美・彰恵は「全ての手の内をさらけ出さないように調整」していた)ので、結構熱戦になってくれて安心した所であった。
 

7月9日は休養日で試合が無い。しかし日本は朝から夕方までみっちりと練習をした。但しこの日は18時で練習を打ち切り、その後エステに行って筋肉を揉みほぐしてもらった。
 
例によって幾人かが
 
「すみません。うちは女性のみ(Ladies only)なんですが」
と言われていた。
 
王子の筋肉はあまりにも硬くて若手のエステティッシャンが音を上げベテランの人に交代していた。しかし王子はマッサージしてもらった後、
 
「何か身体が軽くなった気がします」
などと言っていた。
 
「だったら高く飛べるし、ダンクも楽々決められるね」
「ええ。どんどんダンクします」
 

7月10日(日)。
 
この日はまず9時と11時から、9-12位決定戦が行われた。
 
LVA88○−×34EGY CHN78○−×68UKR
 
勝ったラトビアと中国は明日9-10位決定戦、負けたエジプトとウクライナは11-12位決定戦に回る。
 
その後、準々決勝が行われる。
 
13:00 FRA-JPN 15:00 ESP-AUS 17:00 CAN-RUS 19:00 USA-BRA
 
日本は準々決勝の1番手、13時からの登場であった。
 

さて今日の相手のフランスだが、2年前のU19世界選手権の時は予選リーグで当たり、85-84の1点差で敗れている。1月の海外合宿の時にフランスのユースチームと対戦してこの時は72-54で負けているが、この時は絵津子・純子・王子の3人を使っていない(この時向こうはU24に近かった。またガスレスタは入っていなかった)。
 
さて、今大会でのフランスの登録選手(Roster)は下記である。
 
PG 8.ミロ169 13.ギレ172
SG 7.ルダン178 14.ガスレスタ166
SF 5.シャルピー184 9.イザール185
PF 4.ドゥ・デーメル186 10.ポワトロー185
C 6.バラ190 11.サルボ190 12.マルタン189 15.プティ197
 
「プティというけど大きいですね」
「197cmだからね。まあ名前と背丈は関係無い」
「きみちゃんも王子(おうじ)と言うのに女だし」
「まあ本当に女なのかについては若干の疑義があるが」
 
「でも15番ということは、それほど強いという訳では無いのかも」
「チーム内では強くないかも知れないが、フランスのナショナルチームに召集される以上、我々よりは遙かに強いと考えた方がいい」
 
「でも背の高い選手とやり合うのもかなり慣れましたよ」
「結局私たちが手の届かないような高い所でボールを運ばれても、その選手の足は床に着いているから、背の低い私たちにも、それを止めることができるんですよね」
 
「そうそう、それを忘れてはいけない。相手が長身であっても、スピードでこちらが勝っていれば、対抗できる」
と篠原監督はまとめた。
 

実際この試合では、日本は
 
朋美/千里/彰恵/江美子/華香
 
というメンツで始めた。華香以外は全員160cm代(朋美は159cm)である。
 
すると実際相手は、かなりやりにくそうであった。特に初期段階でフランスは日本からかなりボールをスティールされた。しかも「え!?」という感じの顔をしているのである。
 
人間の頭の縦サイズはだいたい25cmくらいなので、190cm台の選手の視界に160cm台の選手の顔は見えにくい。それで近くに居ることに気付かずボールを奪われてしまうのである。これは特に最も身長の低い朋美がかなりやってくれた。千里や玲央美も気配を殺して近づき、さっと斜め後ろからボールを取ってしまう。
 
その結果、第1ピリオドは12-24というまさかの大量得点差で日本がリードした。
 

第2ピリオド、フランスは向こうも身長の低い選手5人でメンバーを揃えてきた。
 
ミロ169/ルダン178/ガスレスタ166/シャルピー184/マルタン189
 
これでこちらの姿が相手の視界に入りにくいという問題は解消される。しかし身長差が無いとなると、こちらは「普通に」戦うことができる。このくらいの身長の選手が揃ったチームなら、日本国内にも普通にいる。そしてこの場合、スピードと瞬発力ではこちらが上回る。
 
それで第2ピリオドも3分過ぎた所で4-10で日本がリードしている。
 
会場がかなりざわついている。ここまでフランスが日本にやられるというのは多くの観客にとって想定外であろう。
 
相手のマルタンが何とか2点取って6-10とし、日本が攻め上がる。この時点でマッチアップはこのようになっている。
 
ミロ−早苗
ルダン−千里
ガスレスタ−絵津子
シャルピー−純子
マルタン−華香
 
絵津子と純子が同時に制限エリアに侵入し、早苗は絵津子にパスした。絵津子が華麗なステップでシュート。
 
ところが入ったかと思われたボールがリングの内側に当たって跳ね返り、外に飛び出してしまった。
 
リバウンドをシャルピーが取ってターンオーバー。マルタンが決めて8-10と2点差に迫る。
 
千里は後ろの子たちに尋ねた。
 
『見た?』
『もちろん。でもあいつがシュートする所まで見たい』
『うん』
 
日本側が速攻で攻め上がり、今度は華香がシュートしたが、千里の目にはゴールの直前で誰かがタップでもしたかのようにボールの軌道が変わり、ボールはリングにも当たらずバックボードで跳ね返って落ちてくる。マルタンがリバウンドを取って攻め上がる。
 
この時、千里は絵津子を掴まえて囁いた。
 
「ガスレスタから少し離れて守って」
「はい?」
 
それでボールを運んで来たミロは、千里がルダンに激しい近接ガードをしている一方で、ガスレスタと絵津子の距離が空いているのを認識する。それでガスレスタにパスする。
 
ガスレスタがスリーを撃つ。
 
このシュートはゴールに届かないと千里は思った。
 
ところがボールがゴールの直前で不自然に浮き上がり、ゴールネットに飛び込んでしまったのである。
 
これで11-10とフランスが逆転。
 
フランス側の応援団が沸く。
 

千里は再度後ろの子たちに訊く。
 
『どう?』
『見た。後は俺たちに任せろ』
『よろしく』
 
日本側が攻め上がる。
 
今度は早苗から純子にパスが行き、純子がシャルピーを振り切って中にカットイン。そのままシュートの態勢に行く。
 
ガスレスタがそれをじっと見守る。
 
ゴールに入りかけたボールが唐突に浮き上がって、滑るようにして向こうへ行ってしまうかと思われたのだが、そこから急に戻ってきて、結局ゴールに入ってしまった!
 
審判がゴールのジェスチャーをしたものの、フランスのキャプテンマークを付けているマルタンが抗議する。
 
「ボールの動きがおかしかった。どうなってるんですか?」
 
すると、日本側の早苗も審判に
 
「さっきから、何かそのボールの動き変です」
と言った。
 
審判が3人で協議している。
 
千里は、ガスレスタが真っ青な顔をしているのを見た。
 

「ボールを交換する。今のゴールは有効」
と主審は言った。
 
フランスはゴールを有効とされたのには不満があるようだったが、ボール交換で良いことにした。
 
11-12でフランスのスローインから再開される。
 
ミロがボールを運んで来る。絵津子がまたわざとガスレスタから離れて守っている。そこでパスが行く。ガスレスタがスリーを撃つ。千里はこのシュートは強すぎると思った。
 
実際ボールはバックボートのかなり上の方に当たりそうになったのだが、急に鋭い角度で落下して、バックボードのサポートエリアの四角形内部に当たり、ゴールネットに入る・・・かと思われたのだが、そこから更に微妙に角度が変わり、結局リングの手前側の端に当たって、物凄い速度のボールが撃ったガスレスタの所に飛んできた。
 
そしてガスレスタの顔面に衝突した。
 

ガスレスタが倒れる。
 
審判が笛を吹いてゲームを停めた。
 
ガスレスタが起き上がらない。
 
千里が後ろの子たちに訊く。
 
『片付いた?』
『全部片付けた』
『なかなか手強かった』
『まあ多人数で掛かればイチコロだな』
 
ふーん。多人数で掛からないといけないほど強い相手だったのか、と千里は思った。
 
どうも、かなり激しい戦いがあったようなのだが、千里にはそういうのが全く見えないのである!
 
フランスのチームメイトたちが声を掛けているが、ガスレスタは意識を回復しないようである。結局担架で運び出された。
 
試合はヘルドボール扱いになり、オルタネイティング・ポゼッションに従い、フランスのスローインで再開される。ガスレスタの代わりにはイザールが入った。
 

そして・・・この後は、やはり日本優勢の状態で進行した。結局第2ピリオドは18-23で終了した。前半合計で30-47である。なんと17点差だ。
 
ハーフタイムの休憩中に玲央美が千里に言った。
 
「凄い戦いだったね」
「レオ、見えた?」
 
「完全に見えた訳ではないけど、最初のバトルでは2匹の大蜘蛛みたいなのと龍のようなのが4体で戦って、大蜘蛛みたいなのはバラバラにされてしまった。2度目のバトルでは、蜂みたいなの3体が龍とか虎・亀みたいなの7体と戦って蜂みたいなのは全部動かなくなった」
 
「なんか特撮映画でも作りたいような戦いだね」
と千里はまるで他人事のように言った。
 
「でも千里、えっちゃんにわざと離れて守るように指示したでしょ?」
と玲央美が言う。
 
「相手の“お道具”が姿を現すようにね」
と千里は答える、
 
「あれ結局何だったんですか?」
と絵津子が訊く。
 
「相手が邪法を使っていたから、それをやめさせただけだよ。スポーツはあくまで人間の勝負。超能力バトルじゃないから」
と千里は言う。
 
「こないだ、アメリカの選手たちと言っていた話か」
と高田コーチが訊く。
 
「はい。全部処理しましたから、ガスレスタも、もうおかしなことはできないと思います」
と千里は言った。
 

ハーフタイムが終わった時、ガスレスタはベンチに座っていた。どうにか意識を取り戻したようだが、顔色がよくない。というよりも不安げな表情である。
 
第3ピリオド、彼女は出てきたが、精彩を欠いた。千里はみんなにガスレスタのシュートはどうせ入らないから好きなように撃たせればいいと言った。実際彼女はスリーを3回撃ったものの、方向がまるで違ったり、距離が合わなかったりで全く入らない。それで早々に代えられてしまった。
 
しかしこの第3ピリオドでは、フランスはポイントガードを2人使い、ミロが司令塔、ギレは背の高い選手に日本選手の位置を報せる役目と割り振ったようであった。それで190cm台の選手たちが、容易にはスティールされなくなった。
 
これで何とかゲームは均衡して進むようになる。
 
実際、第3ピリオドは18-16とフランス側が2点リードで終わったのである。ここまでの点数は48-63と15点差である。
 
第4ピリオド、ずっと出ていたミロを下げて、172cmのギレの他は、背の高い選手を4人入れて、総攻撃態勢で来た。ギレは司令塔ではなく、単に注意係である。それでフランスが猛攻を見せ、一時20-8まで行き、3点差に迫る。
 
しかしここで日本側も千里/玲央美/絵津子/純子/王子という点取り態勢で対抗する。それで結局このピリオドは 32-24という大量得点がマークされたのであった。
 
試合終了のブザーが鳴った時、プティが遙か離れたゴール目掛けて思いっきりボールを投げたものの、バックボードにも当たらずボールはフロアを転々とした。
 

整列する。
 
「87 to 80, Japan won」
と主審が告げた。
 
FRA 12 18 18 32 | 80
JPN 24 23 16 24 | 87
 
そういう訳で、日本は前半の貯金のおかげで、フランスの猛追を振り切り、BEST4に進出することができたのであった。
 

試合終了後、体育館のトイレで!フランス側のキャプテン、エリゼ・ドゥ・デーメルに遭遇した。彼女とはU19の時も1月のフランス遠征の時も会っているのでこれまで何度も言葉を交わしたことがあった。
 
「2年前にも接戦だったけど、今回は完璧にやられた」
とドゥ・デーメルがややドイツ語っぽい訛りのあるフランス語で千里に言うので
 
「まあ勝負は時の運だけどね(Ce n'est pas toujours la plus forte gagne). 実力ではまだまだかなわない。でもそちらが日本をまだ舐めてると思ったから、そこを突いた」
 
と千里は少し日本語っぽい!?フランス語で答える。
 
千里は幼い頃にフランス語を話す友人(フランス系日本人)がいたのでフランス語は実は英語よりも得意である。但し発音はわりと適当である。
 
「うん。私たちはここは注意しないと怖いと言ったんだけど、監督はU24チームが1月に対戦して、このチームは大したことないことが分かっている。日本ごときにお前ら負けるつもりか?とか言って。序盤でやられてしまったから、あとから挽回できなかった。うちはもっと背の低いチームとの練習もしなければならない」
 
そういう練習をしたフランスは怖いよなと千里は思った。
 

「ガスレスタ、大丈夫そう?」
と千里は尋ねる。
 
「ありがとう。実際医務室に運んだらすぐ彼女は意識を回復したんだよ」
と彼女は言う。
 
そして少し困惑するような顔をして言った。
 
「ところがさ、あの子意識を回復したら、ここどこ?なんて言うのよ」
「へ?」
「それで話をしてたら、自分がナショナルチームに選抜されて世界選手権に出ていたということを全然知らないという話で」
 
「え〜〜〜!?」
「今日来ていた観客の中に、彼女の中学時代の同級生がいて、その子が様子を見に来てくれたんだけど、その子と話していて分かったのが、あの子、ここ1年ほどの記憶が飛んでいるらしい」
 
「うーん・・・・」
「それであんたはU21世界選手権のフランス代表なんだけどと言ったら、『うっそー!(Ce n'est pas possible!!)』と驚いていた」
 
「もしかして、何かに精神を乗っ取られていたとか?」
と千里は言ってみた。
 
するとドゥ・デーメルは少し考えるようにしてから言った。
 
「あの子、この大会の前まであまり目立ってなかったんだよね。直前に怪我した子がいて、交代で急遽メンバーに入れたんだけど」
 
と彼女は言葉を選ぶようにして言う。
 
「あの子のシュートはどうも不規則な動きをするのが不思議だという声があったんだよ。何か物理法則に反するような動きで。しかもあの子と対戦するチームの選手のシュートが不思議な外れ方をすることも多くて。あの子、ひょっとしてサイコキネシスか魔法でも使っているんじゃないかという噂があってさ」
 
「きっとその魔法が破れたんだよ。というよりも、悪魔か何かにでも憑依されていたのが抜けたんじゃないのかな?あのボールが顔面に当たった時に」
「ああ、そうかも知れないね」
 
「そうだ。彼女の御守り代わりにこれあげるよ。日本の神社で出しているものなんだけどね」
と言って、千里はポーチの中から水晶の勾玉を出すと、ドゥ・デーメルに渡した。実は強い悪魔避けの念が込められている。ついでに本人の潜在能力を引き出すパワーも込められている。
 
「わあ、きれいだね!じゃ渡しておくよ」
 
「まあ今日がガスレスタにとっては、新しいバスケットボール・プレイヤーとしての第一歩なのかもね。悪魔の力が無ければ、今までのようには行かないだろうけど、一度ナショナルチームに入った経験は、きっと本人を成長させるだろうし」
 
「シサトは性善説なんだね」
とドゥ・デーメルは笑顔で言った。
 
「エリゼもだいたいポジティブ思考だよね」
「まあ、私は楽天的すぎると言われるけどね。次はアメリカ戦、頑張れよ」
「ありがとう。そちらもこの後は全勝で」
 
それで千里とドゥ・デーメルと堅い握手を交わした。
 

夕食後、アメリカチームのフィオリーナから千里の携帯に電話があった。
 
「千里、ガスレスタの魔法を破ったんだね?」
「それあまり他人には言わないで。バスケットはあくまで人間と人間の戦いだからさ。超自然的な力は排除するだけ」
 
「あの時の会話から、千里は魔法を打ち破る力があるんじゃないかと思ってた」
 
「基本的に私は試合中はその手の能力を全て閉じている。でも相手がそういう力を使ってきた場合だけは例外。相手のそういう操作をやめさせるために必要なことだけはするよ」
 
「なるほど〜。ホワイト・ウィッカだね」
「まあ私はウィッカじゃなくて、シャーマンだけどね」
「千里、仏教の祈祷師(witch doctress of Buddhism)か何か?」
「私は神道の霊媒(psychic of Shinto)なんだよ」
「そっちか!」
 
「でも明日は直接対決だね」
「うん。楽しみ〜」
「試合の勝敗とは関係無く、私たちの勝敗はスリーの成功数でということで」
「OKOK」
 

準々決勝(Quater Final)の結果。
 
FRA80×−○87JPN ESP72×−○76AUS CAN68×−○80RUS USA90○−×64BRA
 
この結果勝った日本・オーストラリア・ロシア・アメリカが準決勝に進出し、負けたフランス・スペイン・カナダ・ブラジルは5-8位決定戦に回ることになった。
 
3ポイント成績。
日本・村山 48本
アメリカ・フィオリーナ 40本
オーストラリア・ハモンド 22本
スペイン・フェルナンデス 19本
 

7月11日(月)。
 
この日は9時からまず11-12位決定戦のエジプト対ウクライナ、11時から9-10位決定戦の中国対ラトビアが行われた。
 
EGY58×−○74UKR CHN75×−○85LVA
 
この結果、9-12位の順位が確定した。
 
9.ラトビア、10.中国、11.ウクライナ、12.エジプト
 
更に13時と15時からは5-8位決定戦が行われた。
 
FRA81○−×73BRA ESP84○−×70CAN
 
勝ったフランスとスペインが5-6位決定戦へ、負けたブラジルとカナダが7-8位決定戦に回ることになる。
 
そして17時と19時から、準決勝(Semi Final)の2試合が行われた。
 
RUS-AUS USA-JPN
 

先に行われたロシア対オーストラリアの試合は83-69の大差でロシアが勝った。そして19時からアメリカ対日本の試合が行われる。
 
アメリカとの対戦はなかなか機会が無いのだが、2年前にU19世界選手権では109-68、昨年のU17世界選手権でも133-71で大敗している。
 
今の時点で日本にとってアメリカは雲の上のチームである。
 
それで篠原監督は選手たちに、
「今日はもう勝敗は考えないこと。自分たちのプレイをしなさい」
と言った。
 
それで各々が思いっきり開き直り、笑顔でプレイした。アメリカが何点取ろうと全然気にしない。こちらは各自の実力を思いっきり出していくだけである。
 
すると第1ピリオドは30-14という完璧なダブルスコアになった。しかし日本選手たちはみんな笑顔であった。
 
この試合で千里はフィオリーナのスリーを敢えて停めなかった。停めた所で試合に勝てるとは思えないので、むしろお互いにフリーに撃って競争したいと考えたのである。
 
それでこの試合では千里もフィオリーナもたくさんスリーを撃った。
 

アメリカチームが、日本のこれまでの試合を見て、絶対にあなどれないと思い全力で叩きに来ているのに、日本側の選手たちが明るいのでアメリカ側にかえって焦りが出てくる。
 
それで第2ピリオドはアメリカ選手たちにミスが目立ち、ミスがあればすかさず日本はそこを攻めるので、このピリオドは22-24と日本が2点リードする展開となった。前半合計は52-38で14点差である。
 
ハーフタイムが終わって出てきたアメリカ選手の表情が厳しい。アメリカは日本に対して複雑なコンビネーションプレイを仕掛けて来た。このような戦い方をするのは、この試合は勝てたとしても、ラフなプレイで決勝戦に響くとまずいという考えからであろうと、玲央美や彰恵は考えた。
 
しかし日本はスクリーンに対しては、スイッチせずにしっかり元のマーク相手を追いかける方法で対処するし、千里や玲央美がどんどんスリーを放り込む。また相手が仕掛けたトラップには、彰恵や玲央美が注意して、なかなか引っかからない。
 
それでこのピリオドをまさかの18-22と日本の4点リードで終えた。ここまでの合計は70-60で、10点差に迫る。
 
アメリカはお尻に火が付いてしまった。
 
それで第4ピリオド、アメリカは総攻撃態勢で日本を叩きに来た。アメリカの物凄い猛攻で、一時は16-4という凄いスコアになるが、ここから日本は千里や玲央美、彰恵・江美子といった冷静さを失わないメンバーを投入して、24-18まで盛り返してしまう。
 
アメリカはますます必死になる。しかしその必死さが災いして、副キャプテンのカーターが5ファウルで退場になってしまう。
 
終わってみれば28-22と6点差しか付いていなかった。総得点では98-82で、アメリカの圧勝ではあるものの、点差は16点。本来ならもっと点差があって良いはずの所を、これだけしか点差を付けられなかったことで、アメリカはあらためて日本の成長の度合いを感じることとなった。
 

試合終了後、負けた日本選手たちが笑顔だったのに対して、勝ったアメリカ選手たちは一様に厳しい表情だった。
 
試合後の握手もキャプテンの朋美とサミット、そしてフィオリーナと千里が握手しただけであった。
 
フィオリーナが千里と握手した時
「私たち叱られる〜(They will scold us)」
と小声でもらしていたので
「あんたたちも大変ね〜(I'm sorry to hear that)」
と言っておいた。
 
きっと今夜は遅くまで厳しい練習が行われるのだろう。
 
なお「スリーポイント競争」はこの日千里は14本撃って12本決め、フィオリーナは16本撃って11本決めたので、千里の勝ちであった。
 
準決勝の結果。
 
RUS83○−×69AUS USA98○−×82JPN
 
勝ったロシアとアメリカで明日の決勝戦は戦われる。負けたオーストラリアと日本は3位決定戦に回る。
 
3ポイント成績。
日本・村山 60本
アメリカ・フィオリーナ 51本
オーストラリア・ハモンド 28本
スペイン・フェルナンデス 24本
 

7月11日、平良真紗は午前中に医師の診察を受け、この日退院して良いという診断をもらった。それで母が帰りの航空券を手配したが、明日12日の成田行き(LAX->NRT)が取れなかった。それで病院と相談した結果、今日まで病院に泊まり、明日12日朝に退院して日中の便でロサンゼルスに向かって、一泊し、13日のお昼の便で帰国することにした。
 
7/12 SFO 13:20 (SQ1337) 14:40 LAX
7/13 LAX 15:45 (SQ11 11h30m) 7/14 19:15 NRT
 
真紗は自分のiPhoneを病室のベッドで見ていて、その12日にはロサンゼルスでU21女子バスケットの世界選手権が行われ、日本が決勝戦(19:00)か3位決定戦(17:00)に出場することを知った。
 
「お母ちゃん、これ見られないかな?」
「明日でしょ?チケットあるかしら?」
 
それで母が旅行代理店に問合せてみた所、
 
「日本からわざわざ来られた方で、入院もしていたのでしたら何とかしますよ」
と言ってくれた。1時間ほど後に確保できましたよという連絡があり、実際に病院まで航空券と一緒に持って来てくれた。見るとアリーナ席なのでびっくりする。
 
「チケットは売り切れていたんですけどね。日本人や日系人の応援団とかサポートチームが結成されていて、そこに照会したら2枚譲ってもらえたんですよ」
 
「わぁ!それは申し訳無い」
「サポートチームの人が、できるだけ一般の人に見てもらいたいからと言ってました」
「ありがとうございますと言っていたとお伝え下さい」
 

翌日朝、真紗は再度医師に診察してもらい、順調に回復していることを確認してもらった。
 
「2〜3ヶ月は痛くてたまらないだろうけど、無理せずに静養してね」
と医師は言った。
 
「はい。日本は今から8月末まで夏休みなので、その間ずっと自宅で寝ています」
 
「だけど、今この部屋にいる人、全員性別を変えているんですね」
と真紗はふと言った。
 
「ああ、確かに」
「そうだね。あんたも男の子に生まれて女の子になったし、私も男から女になったし」
と母。
 
「私も性別変更しているし、この病院の看護婦は全員性転換者ですからね」
と医師も笑って言う。
 
「ええ。でも皆さん経験者だから、色々細かい所が分かって親切にサポートしてもらえました」
と真紗は笑顔で言った。
 
この病院では、性別変更した人がやはり職を得にくいのをサポートする目的もあり、性転換している看護婦を積極的に採用しているのである。
 

7月12日(火)。U21世界選手権最終日。
 
この日は13時から7-8位決定戦が行われ、15時から5-6位決定戦が行われた。
 
BRA66×-83○CAN ESP77×−○78FRA
 
これで5-8位の順位が確定した。
 
5.フランス 6.スペイン 7.カナダ 8.ブラジル
 
スペインとフランスは接戦になったが、最後の決勝点を入れたのはガスレスタである。スリーではなく2ポイントのミドルシュートであったが、ガスレスタは自分が決勝点を入れて、みんなから抱きつかれたり肩や背中を叩かれたりしているのに、自身は物凄く厳しい表情をしていた。千里は玲央美と後でビデオでその試合を見たが、彼女が邪法を使わず自力でシュートを決めたのを確認して、玲央美と握手した。いつか・・・“自分の力”でまた這い上がってくるよね?
 
一方この試合でスペインのシューター、マリア・クララ・フェルナンデスは6本もスリーを放り込んで、スリーポイント競争の暫定3位に浮上した。
 
(スペインにはマリア・サラ・フェルナンデスという名前の似た選手も居る)
 
そして17時から3位決定戦の日本対オーストラリア、19時から決勝戦のロシア対アメリカが行われる。
 
 
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【娘たちの世界挑戦】(2)