【女の子たちの高校入学】(1)

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2006年3月。千里は留萌のS中学を卒業した。この中学では男子の髪は、耳や襟に付かない程度に短くしておかなければならなかったのだが、千里は結局3年間、腰近くまであるような長い髪のままで過ごした(入学した時は胸くらいの長さだったのが、そのままほとんど切らなかったので卒業の頃には腰くらいまで長くなっていた)。
 
しかし千里が進学予定の旭川のN高校では規則で短くしなければならないことになっている。千里はバスケット部推薦の《スポーツ枠》特待生でN高校に入る予定なので、特待生は他の生徒のお手本にならないといけないということで、スポーツ選手らしく五分刈りにする予定である。
 
母など「千里が丸刈りにした所なんて想像しただけで可笑しくて可笑しくて」
などと言っていたが、千里としては結構気が重かった。
 
しかし千里の家は貧乏で、しかも父が3月いっぱいで失業するので、最初はそもそも公立高校にもやるお金がないと言われていた。それが私立の特待生という話が舞い込んできて、千里はその道を選ぶしか無かったのである。
 

「私はどうなるのかなあ」
と今度中2になる玲羅が不安そうに言う。
 
「あんたが高校に行く時までには何とかうちの経済状態を立て直しておくよ。でもあんたは公立に行ってよね。あるいは物凄く勉強して私立の特待生になるか」
「それは無理ー」
 
玲羅は学校の成績はあまり良くない。だいたいテストも60点とか50点とかばかりである。
 

千里はこの長い髪を束ねて、神社で巫女のバイトをしていた。千里が神殿で笛を吹いたり、舞を舞ったりしていると、『神様のご機嫌が良い』と、上司の細川さんや先輩の循子さんなどは言っていた。
 
「千里ちゃん辞めちゃうと寂しくなるなあ」
と細川さんは言う。
 
千里は3月いっぱいでこの神社を退職する予定である。
 
「千里ちゃんの将来を占ってみたんだけどね」
と細川さんは言った。
 
「1年ごとに1枚、タロットを引いてみたんだよ」
 
と言って、カードを並べてくれる。
 
「1枚目。高校1年。法王。これ髪を切っちゃうからお坊さんということかも」
「あはは」
 
「2枚目。高校2年。吊し人。これ棒からぶらさがっているのがバスケットのゴールのような気がしたんだよ」
「ああ、そうも見えますね」
「だから2年生頃にバスケットで大活躍するんだね」
「なるほど」
 
「3枚目。高校3年。女司祭。たぶん千里ちゃん、高3くらいになると女の子に戻っちゃうんだ」
「うーん・・・」
 
千里が男の子であることは、実はごく最近になって打ち明けたのだが、細川さんは全然気付かなかった!と言って驚いていた。
 
「でも、千里ちゃんと一緒に何度か水垢離したけど、その時、おちんちんとか見てない。胸は無いなと思ったけど」
「えっと・・・」
 
「それに、あんた、泊まり込みの研修とかの時、女湯に入ってなかった?」
「あはははは」
「だいたい、あんた体臭が女の子だし」
「えへへへへ」
 
「それに千里ちゃん、魂は確実に女の子」
「ああ、それはそうかも」
 
当時はそんな会話もした。
 

「4枚目。大学1年。聖杯の王女。もう大学に入ったら完璧に女の子生活ってことだよね」
「そのつもりです。高校3年間だけ我慢します」
 
細川さんも頷いている。
 
「5枚目。大学2年。恋人。好きな人ができるんだろうね」
「ああ」
 
「貴司とは、なんで別れるの?」
と細川さんは訊いた。
 
貴司というのは細川さんの息子で、そして千里はこの3年間、彼と恋人関係を維持していた。
 
「元々声変わりが来たら別れることにしていたんです。彼も男の子と付き合う趣味はないから、私が女の子でいられなくなったら、そこまでかなというので。声変わりはまだ来てないけど、髪を切ることになっちゃったから、五分刈りではやはり女の子と認められないということで。彼もその気になれないだろうし。私もそういう姿を好きな人の前に曝したくないので」
 
「でも声変わりしても、丸刈りにしても、多分千里ちゃんは女の子だよ」
「そんなこと言ってくれる友人もいますけどねー」
 

細川さんもあまり息子の恋愛に深くはちょっかいは出したくないようで次に進む。
「6枚目。大学3年。愚者。この年、何か凄く大きな出会いがあるみたい」
 
「これ、多分子供ですよね?」と千里。
「千里ちゃんよりずっと年下の子だろうね」と細川さん。
 
「恐らく、その子との出会いが、人生を大きく変えるんでしょうね」
「たぶん、千里ちゃんの人生も。そしてその年下の子も人生も」
 
千里はそのカードを見詰めていて、海の向こうから太陽が登ってくるシーンを見たような気がした。どこだろう?これ何かの映画か何かで見たような気がするけど、と千里は思ったものの、思い出すことはできなかった。
 
「7枚目。大学4年。剣の4。これどう思う?」
 
使用しているのがバーバラ・ウォーカーのタロットなので絵柄は地面に4本の剣を刺した洞窟の中に若い男性が座っている図で、タイトルは seclusion(引き籠もり)となっている。
 
「これライダー版では、戦士がベッドに寝ている絵ですよね」
「そうそう」
 
「私、この年に性転換手術を受けるのだと思います。seclusionというのも多分手術を受けたあと数ヶ月安静にしておかなければならないからではないかと思います」
 
細川さんも頷いている。
 
「そもそも大学出る前に自分の性別は決着つけておきたいですし。戸籍上の性別を変更するには性転換手術を済ませておくことは必須条件ですし」
 
「うん。社会に出てから変更するのは大変だし、そもそもあなた男性として就職したくないでしょ?」
「それ、絶対嫌です」
「だったら大学在学中にやっちゃうしかないよね」
 
「でも性転換手術はお金掛かるから、それを貯めるのにこの時期になっちゃうんでしょうね」
「かも知れないね」
 

4月から千里は旭川に住む美輪子叔母の所に下宿させてもらうことになっており、2月にN高校の推薦入試分の合格発表があって、入学手続きをする時にも叔母の所に寄った。
 
「千里ちゃん、可愛い服着せてお化粧とかも教えてあげようと思ってたのに髪切っちゃうなんて、悲しいよ」
と美輪子は言った。
 
「あんた、この子の女装のかなりの共犯だよね?」
と母が言う。
 
「だって千里は可愛い可愛い女の子なんだから、女の子らしくさせなきゃ」
「まあいいけどね」
 
「でも千里、丸刈りにしたって、スカート穿きたきゃ穿けばいいんだよ」
と美輪子。
「変なこと唆さないで!」
 
「だけど、美輪子、浅谷さんとはどうなってるの?」
「付き合ってるよ」
「この子、置いといても大丈夫?」
「まあ、私が寝室でHしてる時は、千里ちゃんは聞こえないふりをしておいてもらうということで」
 
「もちろんです」
と千里。
 
「私も千里が彼氏を連れ込んでHなことしてても、聞こえないふりしてあげるから」
「ちょっとぉ!」
 

「でも彼氏なんだっけ?彼女じゃなくて?」
と母。
 
「千里、女の子と恋愛したことある?」
と美輪子が訊く。
 
「私、レズじゃないよー」
 
と千里が答えると、母は「ん?」と言って美輪子の顔を見ていた。美輪子はおかしくてたまらない様子であった。
 

入学手続きでは、入学金と前期授業料を納入する必要がある。が千里は特待生で授業料は(成績が良ければ)無料だし、入学金はこの日の段階では3万円だけ納入しておいて、残りは入学式までに払えばよいということだった。
 
千里はこの3万円を都合付けるのも大変だったろうな、と思いながら母が手続きしてくれるのを見ていた。それでパンフレットを渡されて「視聴覚教室に入って下さい」と言われた。母と一緒にそちらに行く。
 
この日の入学手続き(推薦での合格者対象)は15時までにすることになっていて、15時過ぎから説明会があるということだったが、千里たちが行ったのは13時くらいで、視聴覚教室では学校紹介のビデオが流れていた。
 
この学校は「科」としては普通科のみなのだが、中で「進学コース、特進コース、ビジネスコース、情報処理コース、外国語コース、音楽コース、福祉コース、という《コース》が設けられていて、各自自由に選択して授業を受けることができるようになっている。(受ける授業は各学期ごとに事前申告制。但し人数や成績で調整される可能性はある)ビデオではこの各コースの詳しい紹介が行われていた。
 
千里は国立大学上位(留実子に色々教えてもらって結局千葉大学を志望校にすることにした)狙いなので基本的には特進コースを選択するのだが(特進コースと進学コースの生徒を集めたクラスに入れられる)、特進コースの基本時間割に加えて、情報処理コースの中のプログラミング実習や、音楽コースの中の何かの楽器の授業を受けたいと思っていた。
 
その他、クラブ活動の様子、上級生や卒業生からのメッセージなどが流れる。生徒会長とかした人かなあ、などと思いながら千里はビデオを眺めていた。
 
14時くらいになった時、母の携帯のバイブが鳴る。
 
「あ、ちょっとごめん」
と言って母は視聴覚教室を出た。
 
ほどなく戻ってくるが
「千里、ごめーん。お父ちゃんが腹減ったから戻ってきてくれと言っているから先に帰る」
と言う。
 
「うん。いいよ。説明会はボクが聞いてるから」
「ごめんね。じゃ、よろしくね」
 
と言って母は帰ってしまった。
 

ビデオは繰り返し流されているようで、千里はこのビデオを1回と3分の2ほど視聴した。
 
15時10分から説明会が始まった。特待生・推薦入学の話をしにS中までも来てくれた教頭先生が前に立ち、この学校の基本的な方針や校風、また有名な卒業生の紹介などをする。その後、生徒指導主事の先生が前に立ち、学校生活での心得や校則の要点などについて説明した。また進路指導主事の先生が大学受験に関する基本的な話(センター試験など:実は千里はこの試験のことを知らなかった!)や最近の合格実績などを語った。
 
説明会は1時間ほど掛かり、16時過ぎから、生徒手帳に貼る写真を撮りますと言われた。男子は別館1Fの美術室、女子は本館2Fの被服室でと説明があり、「受験番号順に案内します」と言われたので、自分の番号が呼ばれるのを待つ。
 
受験番号5個単位で案内されているようである。千里は特待生候補で番号が若いようで、早めに呼ばれた。教室を出ようとしたら出口近くに蓮菜が居たので手を振ってから外に出た。
 
男子は別館だったよなと思い、そちらに向かう。ところが渡り廊下を通って別館の方に入ろうとしたら
「君、新入生?」
と別館入口の所に立っている先生から訊かれる。
 
「はい。そうです」
「写真撮影は本館2Fの被服室だよ」
「あれ?そうでした?」
「間違わないで。すぐ行きなさい」
「はい、済みません。ありがとうございます」
 
と言って千里はあれ〜?男子が被服室だったっけ?と思いながら、そちらに向かう。
 
「失礼します」
と言って中に入ると
 
「受験番号と名前を言ってください」
「28番・村山千里です」
 
「はい、確認しました。それではこのブレザーを着て」
と言って服を渡される。
 
まだ入学手続きの段階ではみんな制服ができていないから、撮影用のを使うのだろうと千里は考えた。渡された服に袖を通し、前のボタンを4つ留める。
 
「はい、そこに立って。撮ります」
と言われた次の瞬間にはフラッシュが焚かれて撮影されていた。
 
うっそー。これじゃ笑顔とか作る時間無いじゃん!
 
「お疲れ様でした。制服は入学式までに作っておいてくださいね」
「はい、間に合うと思います。ありがとうございました」
 
と言って千里はブレザーを脱ぎ、スタッフの人に渡すとお辞儀をして被服室を出た。
 

なお推薦で入った生徒の中で、特待生を希望する子については、2月中旬に一般入試を受ける生徒と一緒に、筆記試験を受けることになっていた。この成績次第で「特待」のレベルが変わるのである。
 
千里はできるだけ高いレベルの特待を受けたいので、秋頃から、かなり勉強をしていた。進研ゼミなどのテキストを、自分ちでは受講するだけのお金が無いので、やっている子から使用済みのテキストを譲ってもらってそれを見ながら頑張って勉強した。問題集なども他の子から譲ってもらったものをたくさん解いていた。
 
一般の生徒の合格発表は、公立の試験が行われるのより少し前の3月初めなのだが、この特待生枠の子については結果がすぐに通知された。
 
千里は特待生候補者の中で成績5位だったということで、授業料全免に加えて入学金も全額免除ということであった。既に納入されている入学金の内金3万円については、3月17日までに返金しますと通知には書かれていた。
 
「よかったぁ。入学金の分は一応用意はしてたんだけどさ、それを払わなくて済むなら、滞納してる家賃とか電話代とか水道代とかNHKとかを払おうかな」
と母は言った。
 
「うん。そちらを払って。でもボクの制服代とか引越代とか美輪子叔母ちゃんに払う下宿代とかは残しといてね」
「それは大丈夫だよ」
 
と言ってから、ふと考えるようにして母は訊いた。
 
「あんたさ。制服は男子制服?女子制服?」
「男子制服だよー」
「だよね。女子制服着たいと言われたらどうしようかと思った」
 
と母は言ったが、千里は内心、女子制服着たいよーと思った。
 

その制服については、支払いは受け取る時でよいということであったので、3月に入ってすぐに注文しに行った。このタイミングで頼むと、出来上がるのが中旬になり、入学金の返還分が入った後で払えるのである。
 
いくつかの洋服店が列挙されていて、どこででも作れるということだったが、美輪子が調べてくれた情報で、いちばん安く作れるお店を訪れた。まずは採寸してもらう。
 
「あなた背が高いわね」
と係の人から言われた。
 
ん?と考える。千里はこの当時身長169cmである(この後身長は伸びなかった)。男子としてはそんなに背が高いほうではない。千里は嫌な(?)予感がした。メジャーを当てられる所を観察していると・・・やはり。
 
「バスト75、ウェスト58、ヒップ88、肩幅42、袖丈56、身丈50、スカート丈70かな」
と係の人は言っていた。
 
千里は「うーん・・・」と思ったが、気付かなかったことにした!母は本当に気付かなかったように見えた。
 

3月の中旬。千里はバイト先の上司である細川さん(千里のボーイフレンド貴司の母)とこういう会話をした。
 
「筆記試験の成績が良かったんで入学金も免除になりました」
「良かったね」
「入学金のお金は用意した、と母は言っていたのですが、実際には払わずにいると電気とか電話とか停められそうな状況でその分のお金を取り敢えず回すつもりだったみたいだったから、入学金はこちらのバイトで貯めたお金で私が自分で出すつもりだったんですが、私も助かりました」
 
「だったら千里ちゃんさ、そのお金を定期にしちゃわない?」
「はい?」
「普通預金のままにしておくと、たぶんそれ2ヶ月もしない内に、あれに使いこれに使いで無くなっちゃう」
「そうかも!」
 
「だからそのお金は入学金を払うのに使ったんだと思うことにして、無いものと思うのよ」
 
「・・・・そして、本当にどうにもならない時のために取っておくんですね」
「そう」
 
「その手続き、私と一緒に銀行に行ってしてもらえませんか? 多分おとなの人を連れて来なさいと言われそう」
「OKOK」
「関係を聞かれたら、義理の母とでも言って下さると」
「うん、それでいいよ」
と細川さんは笑顔で言った。
 

「トモのおちんちんが立ったんだよ」
と留実子は嬉しそうに言った。2月の下旬頃だった。
 
「わあ、鞠古君、男性能力回復したんだ?」
と千里は友人の恋人の回復を喜ぶ。
 
鞠古君はおちんちんに腫瘍ができる病気で中1の時にその部分を切って前後をつなぎ合わせる大手術を受けたのだが、再発防止のため2年間にわたって女性ホルモンの投与を受けていた。しかし春に投与の中止をした後、様子を見ても再発の兆候は無いので、秋から男性ホルモンの投与に切り替えたのである。一時期女の子のように膨らんでいた胸も少しずつ縮んできているということも聞いていた。
 
「まだ本格的に堅くはならないけどね。大きくなるし、熱くなるし」
 
「・・・セックスしたの?」
「まだあの硬さではできない。でもフェラしてあげたよ」
 
「フェラって何?」
 
千里がどうも本当に知らないようだというので留実子は教えてあげる。
 
「おちんちんを舐めてあげるんだよ」
「えーーーー!?」
 
「凄く気持ちいいらしい。男の子の中にはセックスよりフェラの方が気持ちいいという子も多いみたい」
 
「うっそー! だって、おしっこ出てくる所なのに。それを舐めちゃうわけ?」
 
「凄く敏感な所でしょ。だから舐められると物凄く気持ちいいらしい。もうそのまま死んでもいいくらいに気持ちいいって」
 
「ひゃー」
「千里こそ、そういうテクは覚えておくべきだよ。ヴァギナにおちんちんを受け入れてあげられないのなら、代わりにフェラをしてあげるというのは、凄く大きな恋愛上の手段だよ」
 
「どうやって舐めるの?」
「おちんちんの先っぽの柔らかい所を舐めてあげる。棹の部分は舐められてもそんなに気持ち良くないみたい。ただ、じらすために、わざとそちらを舐めたりもする」
「うむむむ」
 
「舐める時の要領はね、ソフトクリームを舐めるようにと言うんだよね」
「ソフトクリームか・・・・」
 
「千里、ソフトクリームで少し練習しておきなよ」
「うーん・・・・」
 
千里はあまりショックなことを知ってしまったので、やや思考が停止ぎみであった。
 

「そうしてると、女子に見えるね」
 
とN高校の男子バスケ部キャプテンの黒岩さんは言った。3月上旬、千里はN高校を訪問して、バスケ部の部長に挨拶した。
 
「いや、私はてっきり女子と思ってたから男子と知ってがっかり」
と女子バスケ部キャプテンの蒔枝さんは言う。秋に訪問した時に千里を誘ってくれた2年の久井奈さんもいて、同様の表情である。
 
「入学までには髪を切りますので」
「うんうん。それでいいよ。声も女の子みたい」
「声変わりがまだなんです」
 
「まあ、そろそろ来るだろうね。じゃちょっと撃ってみてよ」
 
と言ってボールをパスされるので、それを受け取り千里はゴールを狙って全身をバネにしたきれいなフォームでボールを押し出す。
 
ボールは山なりの軌跡を描き、バックボードにもリングにも当たらずにそのままネットに吸い込まれた。
 
「美しいフォームだ」
と黒岩さん。
 
「この子、このフォーム自体をお手本にしたいくらいだよね」
と宇田コーチも言う。
 
「30本撃ってみて」
「はい」
 
ということでその後、30本、場所を黒岩さんの指示に従って移動しながら3ポイントシュートを撃つ。30本撃った内26本入った。
 
「すげー」
「この子のバスケ部の先輩の子と話していたんだけど、この子が試合で外したのを見たことがないというんだよね。実戦になると成功率が上がるタイプみたいなんだよ」
 
「たくさん外してますけど、たまたま彼が見ていなかったんだと思います」
「でもこれは貴重な戦力になりそう」
 
「ただ体力が無いよね」
「はい。だから後半はあまり走り回らずにディフェンスにも参加せず相手コートに居てひたすらシュートを撃つだけで」
 
「なるほど。そこが少し課題か。じゃ取り敢えず毎日早朝ジョギング5kmだな」
「ひゃー」
「あ、入学までは2kmでもいいよ」
「それで頑張ります」
「筋肉痛が残らないように水泳とかするのもいい」
「わあ」
 
「・・・・君泳げる?」
「泳いだことないです」
「小学校や中学校の水泳の授業は?」
「いつも見学してました」
「うーん・・・・。取り敢えず水中歩行でもいいよ」
 

この年のN高校の入学式は4月11日(火)の午後である。それでその日の午前中に、留実子のお兄さん(お姉さん?)敏数さんに髪を切ってもらうことにした。敏数さんはこの春に美容師専門学校を卒業。無事国家試験にも合格して、4月から札幌市内の美容院に勤めている(実際には研修と称して3月から勤めている)。
 
しかし火曜日は美容室がお休みなので、旭川まで来て髪を切ってくれるのである。留実子もN高校に入学するので、妹の入学式に参列するのも兼ねてということであった。
 
それで11日に髪を切ってしまうということで、その直前の9日(日)に貴司と「最後のデート」をすることになった。貴司の高校は10日(月)から新学期が始まるので、10日にはデートできないのである。
 

待ち合わせ場所に来た千里を見て、貴司は思わず
 
「可愛い!」
と言ってしまった。
 
千里はピンクのキャミソールの上に青いジーンズのジャケットを着ており、下も裾が大きく広がるジーンズのスカートである。髪は左右に分けてツインテールにしており、ミニーマウスの赤いカチューシャを付けている。なお防寒のため、キャミの下にカットソーを着込んでいる。靴下も膝まであるロングサイズだ。そして靴はパンプスである。
 
「活動的な少女という感じだね」
「うん」
 
笑顔で頷いて、取り敢えず町を散歩する。
 
「パンプスなんて履いてるの初めて見た」
「私も初めて履いた!」
「足痛くない?」
「慣れたら平気だと思う」
「転ばなかった?」
「転んだ!」
「やはり・・・」
 

「しかしS高男子バスケ部は、田代が札幌に行くのはいいとして鞠古は来てくれると思っていたから、旭川に出られたのはちょっと辛かった」
 
「ふたりとも行った先でレギュラー取れるといいけどね」
「大変かもね。でも強い奴らに揉まれた方がもっと強くなれる」
「貴司はS高で良かったの?」
「まあ、僕は勉強嫌いだから」
「それは問題だけどなあ」
「千里が練習嫌いなのと似たようなものかな」
「あはは」
 
「でも千里、筋肉付けたくないから練習サボってたろ?」
「まあね。でも毎日2km走ってる」
「5kmくらい走るべきだと思う」
「入学までが2kmでその後は5kmと言われた」
「うんうん。それで頑張って筋肉付けよう」
「やだなあ」
 
「女子アスリートを目指せばいいんだよ」
「そうだけどねー」
 
「だけどこの年まで声変わりが来ないというのは珍しいよね」
「うん。お母ちゃんが病院に掛かってみる?と言ったけど、男性ホルモンとか絶対に処方されたくないから逃げてた」
 
「それとも女性ホルモンとか摂ってるわけ?」
「まさか。そんなの摂ってたら、おっぱい大きくなってるよ」
「ああ。千里、胸無いからな」
「もう少しバスト欲しいけどなあ」
 
千里は何度か「おっぱいの大きな」姿を貴司に見せているが、それはフェイクだというのも教えてある。それで貴司は千里の胸が実際には全く無いと思い込んでいる。
 
「千里オナニーとかすんの?」
「そうだなあ。Hなこと想像したりして気持ち良くなることはあるよ」
「気持ち良くなって、あれをいじる訳?」
「たまに。指で押さえて少し悪戯しちゃう」
 
貴司は少し悩んだ。
 
「指で押さえられるんだっけ? 掴むんじゃなくて」
「え?男の子じゃあるまいし、あれは掴めないよぉ。指ではさむのが限界」
「千里、もしかしてあれ取っちゃってないよね?」
「クリちゃんは取ったりしないよ」
「チンコは無いんだっけ?」
「そんなのある訳ないじゃん」
「性転換手術しちゃったの?」
「私、男になるつもりはないから性転換手術なんて受けないよ」
 
「うーん・・・・・」
 
貴司はマジで悩んでいた。
 

千里がマクドナルドにでも行こうかと言ったのだが、貴司がラーメンがいい!というので、手近なラーメン屋さんに入った。2つ頼むが、千里は
「半分食べて〜」
と言って、麺を半分貴司の丼に移す。ついでにチャーシューは全部あげる。
 
「チャーシュー食べないの?」
「脂こくて苦手〜」
「ふーん。だいたい千里って少食だよなー。マクドナルドとかでもポテトは食べないし」
「うん。とてもポテトまで入らない」
 
「スポーツやってる少女とは思えない食欲だ」
「私、効率のいい身体みたい」
 
「まあ確かに男の身体は燃費が悪い。女は燃費が良いけど、千里はほんとに女みたいな身体だ」
「私、女の子だもん」
 
貴司は微笑んで、ラーメンを食べていた。
 

ラーメン屋さんを出て、商店街を歩いていた時
 
「済みません」
と声を掛ける人がいる。振り向くと何だか大きなカメラを持っている。
 
「私、ファッション雑誌の『シックスティーン』の記者なんですが、街で見かけた可愛い子の写真を撮ってるんです。良かったら、被写体になってもらえませんか?」
 
「あ、いいですよ」
と千里は笑顔で答える。
 
「あ、良かったら彼氏も一緒に並んで」
「あ、はい」
 
ということで、千里は貴司と並んでいる所を写真に撮られた。
 
「お名前教えてください。誌上ペンネームでいいですから」
「じゃ、チサとタカで」
「了解です。あ、ちなみに編集の都合でカットされることもあるので必ず載るとは限りませんから」
「ええ。全然構いませんよ」
 
と言ってその記者さんとは別れた。
 
「でもその雑誌、もしかして中高生とか読む?」
と貴司が訊く。
 
「中高生女子に人気の雑誌だよ。友だち同士で回し読みしてる」
 
と千里が答えると、貴司は何か考えている。
 
「あ、私以外のガールフレンドに見られたら何か言われると思ったんでしょ?」
 
「え、えっと・・・」
 
千里は貴司が焦っているのを初めて見た気がした。
 

ゲームセンターに入る。
 
太鼓の達人をしたり、クレーンゲームをしたりする。千里は全然取れなかったが、貴司は綾波レイと九条ひかりをゲットした。
 
「じゃ、どちらか千里にあげる」
「じゃルミナスもらっちゃお」
「じゃレイを持ち帰るか」
「理歌ちゃんか美姫ちゃんにあげるの? だったら2個とも持ち帰る?」
 
貴司には妹が2人いる。
 
「あ、いや・・・・」
「彼女にあげる?」
「まさか。出所を追及されるとやばい」
「貴司、自分の部屋に飾るの?」
 
「えっと・・・・千里とのデートの記念に」
「ふーん。思い出の品にするのか。まあいいけどね」
 
バスケットゲームがあったのでやったが、千里も貴司も高得点をマークするので、近くで見ていた人が「すげー!」とか声を出していた。
 
60秒間に千里は42本決め、貴司は51本決めた。
 
「負けた〜。体力の差だ」
「筋力の差だよ。千里、筋力トレーニングもしなきゃ。腕立て伏せとかも頑張れ」
「そうだなあ」
 
「でも今かなりマジだったろ?千里」
「貴司に勝つつもりでやった」
「僕も千里には負けんと思ってやった」
 
ゲームセンターで最後は一緒にプリクラを撮り、半分ずつ持った。
 

ゲームセンターを出ようとしたら雪が降っている。
 
「わあ、寒そう。千里、その格好寒くない?」
「うーん。ホッカイロ入れて来たんだけどな」
「なるほどねー」
「どこか屋根のある所に移動しようか」
 
などと言っていた時、千里の携帯(高校生なら要るでしょ?と言われて買ってもらった)に美輪子からメールが着信する。
 
《雪が凄いけど、あんたら大丈夫? 何ならうちに来る?》
 
千里はメールを見せて「どうする?」と訊く。
 
「そうだね。街中にいるとどんどんお金使うし、お邪魔しようか?」
 
ということで、行きますと連絡したら、車で迎えに来てくれた。
 

「お邪魔します」と貴司が言い、「ただいま」と千里が言って中に入る。
 
すると見知らぬ男性がいるので、慌てて「こんにちは」と挨拶した。
 
「ああ、この人のことは気にしないで。居ないと思って、あんたらはあんたらで好きにしてて。コンドーム持ってる?」
 
「あ、はい。持ってます」
「じゃ、する時はちゃんと使いなさいよ」
「大丈夫ですよー」
と千里は返事したが、貴司は恥ずかしそうにしている。
 
その時、千里はふとテーブルの近くにある楽器ケースに気付く。
 
「あれ、ヴァイオリンケース?」
「うん。そうそう。この人と私は趣味のオーケストラで知り合ったんだよ」
「ヴァイオリン弾くんですか?」
 
「私もこの人もね」
と美輪子。
 
「あ、僕のヴァイオリン、千里にあげれば良かったかな」
と貴司が言う。
 
「あ、君もヴァイオリン弾くの?」
と男性。
 
「自己流です。こちらの貴司の方が上手いです」
「僕はもうかなりやってない」
 
「やってなくても楽器って覚えてるもんだよ。ふたりで弾いてごらんよ。私たちの楽器を貸してあげるから」
と美輪子が言うので借りることにした。
 
「なんかこのヴァイオリン、凄くいい!」
と貴司が言っている。
「そうでもないよ。200万円くらいだから」
と美輪子の彼氏。
「充分良いじゃないですか! 僕が昔使ってたのなんて15万円くらいのですよ!もう5年以上放置ですけど」
 
「千里はどんな楽器使ってるの?」
「母が昔使ってたのを勝手に借りて弾いてたんです」
「ああ、そういえばお姉ちゃん(千里の母)、一時期やってたね」
「通販で買った、弓・ケースに教本・カセット・松脂・調子笛のセットで3万円のヴァイオリンだったそうです」
と千里が言うと
 
「そんな安いのがあったんだ!」
と美輪子の彼氏は驚いている。
 
「その楽器はどうしたの?」
「近所の男の子に壊されちゃったんですよ」
「へー」
 

美輪子の方が使っているヴァイオリンは50万円くらいのもののようである。彼氏のを貴司が借りて、美輪子のを千里が借りることにした。
 
「でも何を弾こう?」
と貴司。
 
「ふたりとも『パッヘルベルのカノン』は弾けない?」
と美輪子。
 
「弾けると思いますけど、あれヴァイオリン3つですよね?」
「私が3番目のパートをキーボードで弾くよ」
 
貴司が念のため両方の楽器の調弦を確認・調整した上で(貴司は絶対音感を持っているが、ここは素直に美輪子が使用する電子キーボードにピッチを合わせた)、貴司がパート1、千里がパート2、美輪子がキーボードでパート3を弾くことにして、演奏を始める。
 
千里は貴司が調弦をしているのを見て、そうだ。私たちの出会いはヴァイオリンを貴司に調弦してもらったのがきっかけだったんだと、3年前の遊園地での出来事を思い出していた。その後、千里がバイトしている神社に貴司が自分のヴァイオリンを置いていて、自由に使っていいと言われていたので借りて時々弾いていた。しかし神社では空き時間があったら龍笛やピアノを練習していることが多く、ヴァイオリンはあまり弾いていない。
 
ミーレードーシー、ラーソーラーシーと貴司が弾いた所で千里が同じミーレードーシーという旋律を弾く。その後、美輪子がやはり同じ旋律を弾く。
 
3つの楽器が追いかけっこをしていく。カノンというのは追いかけっこをする音楽であり、これを合唱でやれば「カエルの歌」のような輪唱になる。もっともカノンは輪唱ほど単純なリピートではなく、複雑な展開になる所がある。
 
貴司は途中で譜面がよく分からなくなったようだが、何とか適当に形を整えて、うまくエンディングまで持っていった。
 
美輪子の彼氏がパチパチパチと拍手してくれた。
 
「貴司、途中でオリジナルになった」
と千里が言う。
 
「千里は全部覚えてた?」
「ううん。何か違うぞとは思ったけど、私も怪しい」
「まあ、こういうのは破綻しなければいい」
「クラシックに詳しくない聴衆だったら適当に弾いたこと気付かなかったりしてね」
と美輪子の彼氏も笑って言っていた。
 
「僕が弾いた通りに千里も叔母さんも付いてきてくれたから、何とかなりましたね」
と貴司。
 
「でも演奏を停めないというのは大事だよ。それができるのはパフォーマーとして重要な素質なんだ」
と美輪子が言う。
 
「貴司はその素質があるということだね」
と千里。
 
「ミュージシャンになる?」
「でも僕はヴァイオリン以外の楽器ができないからなあ。ギターやってみたことあるけど、物にならなかったよ」
 
「ヴァイオリンの弾き語りでストリートライブやろう」
「ヴァイオリンの弾き語りは無茶!」
 

その後「お互い不干渉で」ということにして、美輪子と彼氏、千里と貴司は、各々の部屋に移動する。
 
千里は自分の部屋に貴司を招き入れながら、3年前にここに晋治を連れてきた時のことを思い出していた。ああ。私って無節操なのかなあ。ここは晋治との思い出の場所だったのに、貴司を入れちゃったよ、などと思ったが、美那が
「男の子の恋愛は《名前を付けて保存》だけど、女の子の恋愛は《上書き保存》」
と言っていたのを思い出した。
 
そうだよね。私、ここに貴司との思い出を上書き保存しちゃう。晋治ごめんねー。
 
そんなことを思いながら、そんなことを考えているとはおくびにも出さず、笑顔で貴司を部屋に入れた。
 
美輪子が御親切にもお布団を《ひとつ》敷いてくれていて、ファンヒーターも点いている。部屋は暖かいので、千里は「靴下脱いじゃおう」とか、「ジャケット脱いじゃおう」と言って軽装になる。上はキャミソール、下はスカートだ。ただしキャミの下に長袖のカットソーを着ている。千里はお腹の所に入れていたホッカイロも外してしまう。
 
3年前、千里と晋治はこのお布団を挟んで座った。しかし今日の千里は布団を前にして、貴司と並んで座った。貴司がドキドキしている様子が感じられる。ふふふ。私を押し倒したかったら押し倒していいからねー。
 
「紅茶入れるねー」
と言って、千里は電気ポットの再沸騰ボタンを押し、リプトンの缶入り紅茶の茶葉をティーサーバーに入れる。お湯が沸いた所でポットのお湯を注ぐ。茶葉がサーバーの中で舞う。この茶葉が落ち着いた頃が飲み頃だ。
 
「貴司、お砂糖は要らなかったよね?」
「うん。コーヒーも紅茶も砂糖・ミルク入れない」
 
白磁のペアのティーカップに千里は紅茶を注いだ。
 
「どうぞ」
「ありがとう」
 

今日で貴司とは最後なのに、3年前に晋治とここで話した時みたいな悲壮感が無いなと千里は思った。貴司とは友だちでは居続けることで合意しているし、バスケの関係で実際いろいろ連絡を取り合うことも多いだろう。それもあるのかなとも思う。ふたりの会話はバスケットの話、友人の噂話などで盛り上がった。いつものふたりの会話だ。
 
やはり失恋も2度目なら1度目ほど辛くないのかな、などと千里は思ってみる。でも別れちゃった後は、やはり辛くなるのだろうか。取り敢えず今日明日までは自分は貴司の恋人だ。千里はその時間をたっぷり楽しむ気持ちを持つことができた。
 
2時間近くおしゃべりした所で、突然貴司の言葉が停まる。
 
「どうしたの?」
「いや、こんなこと千里とできるのもこれが最後なのかなと思ったら急に寂しくなっちゃって」
「ごめんねー。私、明日までしか女の子で居られないから」
 
「・・・・髪切った千里なんて見たくないという気がしてたけど、髪切った後でも千里とおしゃべりしたい気がしてきた」
 
「お友だちだもん。おしゃべりくらいするのはいいよね」
「そうだよね」
 
「キスできるのは今日までだけどね」
と千里が言うと、貴司は沈黙している。
 
千里は無言で貴司を見た。
 
貴司が真剣なまなざしで千里を見る。千里が目を瞑る。貴司の唇が千里の唇に接近し・・・・接触!
 
貴司とのキスはもう何度もしているけど、その度に千里の心臓は物凄い速度で脈を打つ。体内に何かの刺激物質が拡散していくのを感じる。その時の感覚が女性ホルモンの注射をされた時の感覚に似ているので、千里はこれは本当に体内で女性ホルモンが大量分泌されているのでは?と想像していた。
 

しかし千里にキスしたことで貴司は心のタガが外れてしまったようだ。
 
キスに続いて千里を抱きしめる。抱きしめられたのは5回目くらいかな・・・などと思いながら、千里も貴司を抱き返す。再度キスをされる。千里が少し身体の位置を調整したら、貴司は千里を布団の上に押し倒す形になってしまった。
 
「千里・・・」
「貴司・・・」
「えっと・・・・」
「ふふふ。しちゃおうよ」
と言って千里は布団をめくって、中に入ってしまう。貴司は一瞬迷った感じだが一緒に布団の中に入って掛け布団をふたりの上に掛ける。3年前の晋治との時はここで止まってしまったが、止まらずに先に進んでしまうのが、やはり中学生と高校生の差かな、と千里は思った。
 
キスし合う。抱きしめ合う。お互いの理性は既に吹き飛んでいる。
 
「千里好きだよ」
「貴司好き」
とお互いに言い合う。
 
貴司が千里の服を脱がせ始める。千里も貴司の服を脱がせる。
 
それはお互いに初めての体験なので時間が掛かったが、やがて2人とも下着だけになってしまった。
 
貴司の手が千里のブラをまさぐる。女の子の下着に触れて貴司は明らかに興奮している。千里が彼のお股に手を伸ばすと、既におちんちんが堅く大きくなっている。すごーい!こんなに大きくなった物を私、受け入れられるかしら?と少しだけ不安になる。
 
貴司が千里のブラのホックを外してしまう。ちょっとだけためらったようだがブラ自体を撤去した。
 
「千里、おっぱい少しある気がする」
「気のせい」
「舐めて良い?」
「うん」
 
貴司が千里の乳首を舐める。きゃー感じる! いやん。私もう暴走するよぉ。
 
「私も貴司の舐めてあげるね」
と言うと千里は身体を布団の中に潜り込ませ、貴司のおちんちんを両手で捉えた。
 
「え? まさか」
「私これするの初めてだから、痛かったら言ってね」
 
と言って千里は貴司のおちんちんを舐めてあげる。貴司がもだえているのを感じる。気持ち良くしてあげるね。千里はそう思いながら舐める。でも千里は実は自分のおちんちんで気持ち良くなる感覚を知らない。
 
そして・・・・千里が貴司のを口に含んでいた時、突然何かが飛び出してきた。
 
え?これもしかして射精? きゃー。おちんちんって舐めてても射精するんだ?と千里は凄い発見をした気がしたが、それで驚くのが千里の非常識な所である。
 
千里の口の中に貴司の先から出て来たものが流れ込んでくる。えっとこれどうしたらいいのかなあ、と思ったが、えーい、飲んじゃえと思って、ごっくんと喉の奥に入れてしまう。きゃはは。私、貴司を食べちゃったよ。これ貴司の身体の一部だよね。カニバリズム〜!
 
放出はしばらく続いたが、千里は何度かに分けて飲んでしまう。そして出終わった後のおちんちんの先をまたきれいに舐めてあげた。
 

「縮んでいく」
「だって出したら縮むよ」
「へー、そうなんだ?」
「千里、ほんとに射精経験が無いんだね?」
「あ、それ私、全然分からない」
 
貴司が今舐められると痛いかもと言うので、代わりに手で弄んであげる。すると気持ち良さそうな表情をしている。へー。男の子って、おちんちんをいじってあげるだけでこんなに気持ち良くなるのかと千里はまた新たな発見をしたように感じていた。
 
その内少しずつ貴司のおちんちんはまた大きく堅くなってくる。
 
「大きくなってきたよ。おちんちんって面白ーい」
などと言うと貴司が何だか苦笑している。
 
「ね、ね、コンドーム付けるのやってみていい?」
「いいけど」
「私、自分のでは練習できないから」
 
と言うと、千里は自分のバッグの内ポケットから避妊具を取り出し、1枚開封する。
 
「こっちが表かな?」
などと言いながら貴司のおちんちんの先に当てる。
 
「うーん。このあとどうするんだろう?」
「そのまま押せばいいんじゃない?」
「こうかな?」
 
というので何とか装着が完了する。
 
「でもすごーい。おちんちんって、こんなに大きくなるんだね」
と千里が本当に感心した風に言うので、貴司も
 
「千里のも触ってあげようか?」
と言って、千里のお股に手を伸ばす。この時、貴司はもう最後だし千里のペニスに触っても構わない気がしていた。しかし・・・
 
「あ・・・」
「どうしたの?」
「千里、おちんちん、やはり無いの?」
「そんなの無いと思うなあ」
「千里、やはり性転換してたんだ?」
「私は最初から女の子だよ」
「うっそー!?」
 
千里はしっかりと貴司を抱きしめる。そして身体を密着させる。
 
「入れていいよ」
「えーーー!?」
 
それで千里は貴司のおちんちんを握り、その場所へ誘導した。
「嘘・・・これどこ?」
「ふふふ」
と言っただけで千里は答えない。貴司は恐る恐るそれを入れて来た。きゃー。これ私もけっこう気持ち良いかも。
 
貴司は更に恐る恐るピストン運動を始める。千里はぎゅっと貴司を抱きしめる。貴司が千里の唇を求めるが千里は逃げる。
 
「キスしようよ」
「でも私、このお口で貴司のおちんちん舐めたよ」
「平気だよ」
 
それでキスすると、またまたお互いにHな気分が高まる。さっき一度千里の口の中で出しているので少し時間が掛かったものの、やがて貴司は千里の中で果てた。
 
貴司がどっと脱力して千里の上に体重を任せる。千里は貴司を抱きしめながら、背中を優しくさすっていた。
 

「ね、僕、どこに入れたの?」
と貴司が訊く。ふたりは裸のまま、横に並んで寝ていた。
 
「内緒」
「後ろの穴じゃないよね?」
「うん。違うよ。後ろにはあの角度では入らないでしょ」
「うん。そう思った。でも、それならどこ?」
「前の穴だよ」
「千里、やはり前の穴があるの?」
「内緒」
「でも、千里確かにおちんちんが無い」
「ふふふ」
 
「うちの母ちゃんが言ってた。千里、女子の泊まり込み研修会でお風呂とか入ったはずなのにって。おちんちんが無いから、女子と一緒にお風呂に入れるんだ? これやはり、おっぱいもあるみたいだし」
 
「ふふふ。そのあたりも内緒。でも私、貴司の童貞をもらっちゃった」
「千里の処女も僕がもらった」
「じゃ、あいこだね」
 
「何だか眠くなった」
「一緒に寝ようよ。私も眠たい気がする」
 
それで2人は睡眠の中に落ちていった。
 

貴司が目を覚ました時、千里は隣に居なかった。
 
「お早う」
と部屋の隅で交換日記を読んでいる千里の姿を認める。
 
「千里、その服は・・・・」
「N高校の制服だけど」
「女子制服作ったの?」
「お友だちのお姉さんが、ここの出身なんだよ。それでもらっちゃった」
「その制服で通学するの?」
「通学したーい」
「通学すればいい」
「ふふ。その内、やっちゃうかもねー。はい、今日の分書いたよ」
 
と言って千里は交換日記を貴司に渡した。ふたりはこの3年間、この交換日記を通して主として交際してきた。この日記も既に3冊目の終わりの方になっている。そしてその交換は明後日で最後だ。最後は千里が入学式の様子を書いて貴司に郵送することにしている。
 
「ね、4冊目の交換日記を買っちゃわない?」
「でもどうやって交換するの? 日々郵送するのはお金が掛かりすぎるよ」
 
以前一度日記を郵送した時は400円くらい掛かった記憶があった。
 
「ルーズリーフのタイプにするんだよ。それで1枚ずつ郵便で交換」
と貴司。
 
「それなら定型の80円で済むか」
と千里。
 
「メール交換でもいいけど、千里のイラストも楽しいからさ」
「それぞれの字で読むのがいいよねー」
 
「そうだ。ミニレターを使えば60円で済む。あれ25g以内なら紙を同封できるんだよ」
「あ、だったらいっそ直接ミニレターに書けばいいんだよ。それでパンチ穴を開けてファイリング」
「あ、それでもいいか」
 
「そうだねー。まあ恋人でいられるのは明日までだけど、お友だちととして交換日記くらいしてもいいよ」
「よし。じゃミニレターたくさん買って来よう」
「じゃ私もー」
 
「そうだ、千里その制服着ているところ記念写真」
「うん」
 
それで貴司が持って来ていたコンデジをタイマーモードにして、N高校女子制服の千里と貴司が肩を組んでいるところを写真に納めた。
 

夕方近くになって、双方のカップルとも居間に出てきた。千里がN高校の女子制服を着ているのを見て、美輪子の彼氏が
 
「へー。N高校なんだ」
と言う。
 
「志望校に千葉大学と書きました」
「おお。それは凄い頑張ってね。N高校は凄い進学校だからね」
と言ってから彼氏は
 
「だけど、美輪子、甥を同居させるとか言ってた気がしたけど、姪御さんだったんだね」
「姪だと言ったら、賢二、その子にちょっかい出したりしないかと思ったからね」
 
「いくら僕でも未成年には手を出さないよー」
「酔ってこの子の前で裸になったりしないでよね」
「僕がそんなことしたことある?」
「やってる。やってる」
「そうだっけ?」
 
「大丈夫です。おちんちんをブラブラさせていたりしたら、チョキンと切り落としますから」
と千里が言うと、彼氏と貴司が一緒に
「こわぁ〜〜」
と言った。
 

「ゆっくりとお見送りしておいで」
と言って、美輪子叔母さんが駅までの往復タクシー代をくれたので、貴司とふたりで旭川駅まで行った。叔母さんたちもこれから車を使って夜のデートだと言っていた。
 
千里はN高校の女子制服のまま駅まで出て来た。近くのレストランに入って軽食を取りながら、またおしゃべりする。
 
「千里、普通に女子高生だよなあ」
「明日まではね」
「じゃ、明日もそれで少し出歩けばいい」
「うん。そのつもり。明後日以降はとても着られなくなるから」
「五分刈りにしても着ればいい」
「そう思う?」
「思う」
「ほんとに着ちゃおうかなあ」
と千里は本当に悩んでいる風に言った。
 
ふたりでのんびりと会話している内に留萌に帰れる最後の汽車の時刻になる。
 
「深川まで私も乗っていくよ」
と言って千里は深川までの切符を買い、旭川から深川まで30分、貴司と並んで座席に座った。
 
何となくお互い身体を密着させる。
 
さすがに無言になったが、お互いを愛しむ気持ちは伝わってくる。
 
やがて深川に汽車が着く。留萌行きが出るまで24分の待ち時間がある。ふたりは留萌本線のホームに移動し、そこでたわいもない話をした。やがて発車の時刻になる。貴司が千里を見詰める。
 
そして二人の唇が接触した。
 
たっぷり10秒くらいの接触の後、唇は離れる。微笑みあう。
 
「じゃ、また」
「うん。また」
 
まるで普通の友だち同士のさよならの挨拶のようにふたりは言葉を交わし、貴司は車中の人となった。
 
貴司の汽車が去りゆくのを千里はずっと見送っていた。
 

11日の午前中。留実子の兄(姉?)の敏数が千里の下宿先の美輪子の家にやってきた。
 
「お友だちのお兄さんとか言ってなかったっけ?」
と美輪子。
 
「はーい。千里ちゃんの友だちの留実子の兄でーす」
と敏数はソプラノボイスで答える。敏数は長い髪をワンレン風にし、作業しやすいように、ジーンズの上下を着ているが、お化粧しているし、明らかにバストがある。
 
「あのぉ、お兄さんの性別は?」
「あら、私が女に見える?」
「女にしか見えません」
「私、男よ。もっとも既に玉は無いけどね」
 
「千里。私、類は友を呼ぶということわざを噛み締めている」
と美輪子は言っていた。
 

「じゃ、切るよ」
と敏数。
「お願いします」
と千里。
 
「覚悟はいい?」
「覚悟は決めました」
「辞世の句は?」
「死ぬ訳じゃあるまいし!」
 
それで敏数はまず千里の長い髪の根元を大雑把にハサミで切っていく。長い髪が下に敷いている新聞紙の上に落ちていく。千里はちょっと涙を浮かべて、その髪を眺めていた。
 
「この髪、私にちょうだいね」
と敏数。
「ええ。その約束ですから」
 
「私にも何本かちょうだい」
と美輪子が言うので
「だったら何本か」
 
それで美輪子は一束、髪を拾っていた。他の髪は敏数がていねいにまとめて、持参の袋に入れていた。
 
「鏡を見る?」
「できあがってからでいいです」
「了解〜」
 
それから敏数はバリカンを取り出すと、それで千里の頭を五分刈りにして行った。わあ。バリカンって、やな感じだなあ、と千里は思った。これから高校の3年間、何度もこの感覚を体験しなければならない。
 
 
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【女の子たちの高校入学】(1)