【女の子たちの国体・少女編】(上)

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千里たち国体の少女(少年女子)北海道代表(旭川選抜)チームは9月25-26日(木金)の2日間学校の授業は休んで旭川近郊の施設で合宿を行った。実際の練習は27日(土)の午後まで続けられ、17:05の旭川空港発のJALに乗る。羽田で乗り継いで22:05に北九州空港に到着。そこから連絡バスとJRで移動して夜0時前に中津に到着した。
 
一行はこういうメンツである。
 
4.若生暢子(N3.PF) 5.溝口麻依子(L3.PF) 6.中嶋橘花(M3.SF) 7.日枝容子(R3.PF) 8.村山千里(N3.SG) 9.森田雪子(N2.PG) 10.花和留実子(N3.C) 11.登山宏美(L3.SG) 12.藤崎矢世依(L3.C) 13.大波布留子(L2.SF) 14.鳥嶋明里(L2.C) 15.石丸宮子(M2.SF)  
監督を務める宇田先生は26日日中に会議があるので合宿も25日の午後3時まで顔を出してから同じルートで大移動をしている。代わりに選手の移動には瑞穂先生が付き添ってくれた。
 
「私が参加できる確率は半々くらいかなあと思ってたから参加できて嬉しいよ」
と、薫に代わって本大会に出場する宮子が言う。
 
「薫ももし出られなかったら宮子ちゃんに悪いからって、ほんとに頑張ったみたい」
と千里は答える。なお薫は平日で学校の授業があっており公休にはならないため大分には同行していない。
 
「結局、あの子、もう性転換してるんだよね?」
と暢子が千里に訊く。
 
「本人は睾丸を取っておっぱい大きくしただけと言ってるけど、本当はもうおちんちんも取ってるし、割れ目ちゃんもあると思う。ヴァギナをまだ作ってないだけなんじゃないかなあ」
と千里は自分の想像を言う。
 
「ヴァギナってどうやって作るの?」
と橘花が訊く。
 
「おちんちんを切るのと一緒にやる場合は、おちんちんを裏返してヴァギナにするんだよ」
「ほほお」
「ヴァギナがあるべき場所にお医者さんの指とか棒とかを使って穴を掘って、そこに裏返したおちんちんの皮を埋め込む」
「へー」
「すると、おちんちんで作るから、ちょうどおちんちんが入るサイズのヴァギナができる」
 
「面白ーい」
「合理的!」
といった声があがる。
 
「おちんちんの中身は?」
「捨てちゃう。女の子の身体には興奮すると大きくなる器官が無いから」
「やはり捨てるのか」
「あれ、何かに再利用できないかなあ」
「何に再利用するのよ?」
「海綿体というくらいだから、切手とか濡らすのに使う海綿としては使えないのかな?」
「ちんちんで作った海綿で切手を濡らすのは嫌だ」
 
「でも取り敢えずおちんちん切っちゃって、後からヴァギナ作る場合は、S字結腸という腸の一部を切り取って使う」
と千里はもうひとつのやり方を説明する。
 
「へー」
「元々発生的にヴァギナは腸が別れて出来たものなんだよね。だから腸を素材にすると、感触とか内診された時の見え方がヴァギナと似たものになるんだよ。それにおちんちんで作ったヴァギナは後から縮みやすいけど、腸で作ったヴァギナは縮みにくい」
 
「だったら腸で作った方がいいのでは?」
「腸で作ると、おりものが多くなるんだよね。ナプキンが常時必要。それに腸を切り取るのは大手術になるから」
 
「一長一短があるわけか」
 
「千里はどちらで手術したの?」
「それが私もよく分からないのよねー」
 
「千里ナプキン持ってるよね?」
「うん。でも使うのは生理の時だけで、ふだんはせいぜいパンティライナーだよ」
 
「性転換した人って生理もできるんだっけ?」
「うーん。あまりそういうの聞かないなあ」
 
「でも術式とか、手術前に説明されなかったの?」
「私、タイ語はサワディ・カーくらいしか分からないし」
 
「なんか芳香剤みたい」
「このサワディから来たんだよ。こんにちはって意味。実はラジオのDJさんが流行らせた最近できた言葉」
「へー」
「カーというのが付いてる」
 
「タイ語は男性語と女性語の語尾が違うから。男性はクラップ、女性はカー」
「じゃ、男性はサワデー・クラップ?」
「そうそう」
 
「韓国語も男性語・女性語という訳ではないけど、男性はアンニョンハシムニカ、女性はアンニョンハセヨと変わるよな?」
 
「うん。シムニカと言った方が堅い表現、セヨというのは柔らかい表現だから、男性は堅い表現を好み、女性は柔らかい表現を好む」
 

そんなことも話しながら、千里は「貴司は今頃大分市かなあ」と思い、もう半年近く会っていない貴司のことを思っていた。彼は大阪府の成年男子代表として大分市に行っているはずだ。今年の国体バスケット競技は、成年男子・少年男子が大分市、成年女子は宇佐市、少年女子は中津市である。中津市は大分県でも福岡県との県境にあり、大分市とは70kmほど離れている。特急ソニックでも1時間ほど掛かるようだ。むろん選手としての立場上、チームを離れて会いに行く訳にはいかない。
 
一応彼とは「別れた」ことにはしているものの、「別れた」というのは自分と貴司の間で決めたことで、そのことを双方の母にも言っていない。それどころか「貴司の妻」として、法事にも出たり、お花を送ったりした。また、別れたにしては随分たくさん電話してるし、メールはかなりの頻度で交換しているし、毎日ではないものの結構ミニレターを使った交換日記もお互い書いている。私たち本当に別れたんだっけ?と疑問を感じる日もある。
 
でも一応「別れた」ことにしているから彼には「彼女作ってもいいからね」と言ってはある。でも本当に貴司に彼女ができたら私、嫉妬するかなあ、などとも考えていた。
 
そんなことを考えていたら、自分の後ろで《きーちゃん》と《こうちゃん》が何やらひそひそ話している模様。何なんだこの子たちは? どうもこの子たち貴司にちょっかい出してる雰囲気だけどね。貴司、いつの間にか私のヌード写真をゲットしていたみたいだし!
 

到着したのが深夜なので、みんなもうすぐ寝るように言われたものの麻依子は衛生用品を買ってきたいと言ってコンビニに行ってきた。みんな「ついでに」と言って飲み物や、おやつなども頼んでいた。その麻依子がエコバッグを両手に持って戻って来てから言った。
 
「コンビニにいたらさ、どこの県の子か知らないけど、こんなこと言ってたのよ」
「うん?」
「今年の国体はインターハイ優勝の札幌P高校が来てないんだね。がっかりだってさ」
「ほほぉ」
「確かに今年のインターハイではP高校は圧倒的な強さで優勝した感があったからなあ」
暢子が言う。
 
「まあ、私たちががっかりするようなものかどうか、見せてやろうよ」
と橘花。
 
「今年の北海道はすげーと言われるようになりたいね」
と暢子も言った。
 

 
9月28日(日)国体は初日を迎える。
 
朝会場に行ったら山形選抜(東北ブロック代表)で出てきている早苗とばったり合った。
 
「お疲れ様ー」
「お疲れ様ー」
と言い合う。
 
「早苗ちゃんたち、今日は愛媛とだね」
「うん。まず勝てない」
「戦う前からそんなこと言ってちゃだめだよ」
「ここだけの話さ」
と早苗は小さい声で言う。
 
「Y実業のチームで来ていたら江美子ちゃんたちに一泡吹かせてやる可能性もあると思うんだよ。だけど選抜チームだからさ。確かに各々の個人能力は高いんだけど、連携とかをうまくやる自信が無いんだよね」
 
「ああ、それは大変だよね」
「メンバー表見たけど、北海道も混成チームなんだね」
「うん。私たちは旭川選抜」
「ああ、だから玲央美ちゃんとかが居ないのか」
「最初から北海道全体で選抜してたら玲央美を入れない訳無いよね。でも私たちも混成チームだから6月からずっと合同練習をしてたんだよ」
「すごーい」
「昨日まで3日合宿したし」
「それは本当に凄い!」
 
と言ってから早苗は少し思い出したように言う。
 
「ところでさ。こないだ月山に行ったあと何だか身体の動きが違うのよ。凄く調子いい」
「それは良かった。お参りした御利益かな」
 
「そんな気がする。まあ今日は勝てないだろうけど頑張るよ」
 

少年女子の国体本戦参加チームは12チームである。昨年優勝した愛知(=J学園)と準優勝の東京(実質T高校)がシードされており、ほかに抽選で大阪(近畿代表)と福井(北信越代表)が不戦勝になっている他は、8チームが1回戦に臨んだ。
 
千里たち北海道代表の初戦の相手は中国ブロック代表の山口県選抜である。こちらと同様、向こうも幾つかの高校からのピックアップメンバーのようであった。試合は15時スタートであった。
 
雪子/宏美/布留子/暢子(主将)/明里というメンツで始め、その後適当に交代しながらプレイしたが、84対58で快勝した。宮子はインターハイ道予選以来3ヶ月ぶりの本格的な実戦だったこともあり、最初少し戸惑っている感じもあったが、すぐに本調子になった。
 
橘花は昨年のインターハイ以来1年ぶりの全国大会に燃えていたし、麻依子は高校バスケを2年半やってきて初めての全国大会でこちらも最初はむしろ感激していたが、すぐにふたりともふだん通りのペースを掴むことができた。どちらも天性の点取り屋さんだ。むろん暢子もその2人には負けじと頑張っていた。 
84点の内、千里が21点、暢子が18点、橘花と麻依子が16点ずつで、この4人で71点取っている。
 
今日この他の試合では、神奈川が大分を倒し、愛媛が山形に勝ち、福岡が兵庫に勝った。愛媛は実質Q女子高、山形はY実業が中核、福岡はC学園とK女学園を中核にしたチームである。
 

「勝利おめでとう」
「そちらも勝利おめでとう」
 
千里は貴司と会うことはできないものの、夕方電話で少し話した。
 
「結構接戦だったんだけどね。何とか勝てたよ」
などと貴司は言っている。
「貴司何点取ったの?」
「20点かな」
「頑張ってるじゃん」
「千里は?」
「21点しか取ってない」
「僕より多いじゃん!」
「だってゴールの数ではそちらが多いよ」
 
「バスケットはゴールの数を競うスポーツじゃないから」
と貴司が言う。
「まあ、そうだけどね」
と千里も答える。
 
「貴司、夜寂しくない?」
「こんなに近くに来ているのに会えないって辛い」
「ひとりで慰めていていいからね」
「そりゃ心配しなくてもやってる」
「あれってどのくらいの頻度でやるものなの?」
「別に数えてはいないけど」
「月に3〜4回?」
「もっと多いよ」
「飽きないもの?」
「飽きた時は、男を卒業した時だと思う」
「なるほどねー」
「千里は性欲無いの?」
「そりゃあるよー。貴司とのHは私も楽しいよ」
「千里としたいよー」
「まあ来年の春くらいまでお互いに恋人ができなかったら、また恋人になってもいいよ」
と千里が言った時、貴司が一瞬何かにためらったような雰囲気があった。千里は何だろう?と思った。
 
「僕たち今恋人じゃないんだっけ?」
と貴司はすぐに答える。
「別れたはずだよ」
「今僕たちの関係って何なんだろう?」
「うーん。友だちだと思うよ。だからほんと貴司、彼女作っていいんだよ。私も彼氏作るかも知れないし」
 
「ね。今すぐまた恋人にならない?」
 
千里は彼の言葉の中に何か微妙なものを感じた。
 
「ね、怒らないから教えて。もしかして貴司、彼女できた?」
「あ、えっとその・・・」
と貴司は焦っている。
 
「なーんだ。彼女できたのか?」
と言いながらも、千里はショックだった。
 
「だったら、彼女に夜は慰めてもらったら?」
「まだそんな関係じゃ無いよ」
「ふーん。彼女とそういう関係になるまでは私で間に合わせておく訳?」
「いや、そんなつもりはない。僕は千里のこと好きだ」
 
「二股はお断りだからね」
「それは分かってるつもり」
 
「まあ私たちは友だちだから、貴司が恋人を作るのなら、私も応援してあげるよ」
「千里が恋人にはなってくれないの?」
 
「二兎を追う者は一兎をも得ずということばを浮気者の貴司にはあげるね」
「千里、言葉がきつい」
「当然。彼女の夢を見ながらおちんちんいじってるといいよ。そのおちんちんが立つのならね」
「ほんとに千里、言葉がきつい!」
 
「私も彼氏作っちゃおうかなあ」
「その件はさ、国体が終わってから、また話し合いたいんだけど」
「だから、貴司の恋は応援してあげるって言ってるのに」
 
その晩の電話は決裂気味に終了した。
 

翌日。2回戦の相手は北信越代表の福井県チームである。インターハイ常連校である福井W高校を中核とするチームだったが、この日の試合では千里のスリーが炸裂した。
 
千里は序盤から可能な限り出して欲しいと宇田先生に訴え、宇田先生は1,2,4ピリオドに出してくれた。そして出場していた30分の間に千里は実に16本ものスリーを放り込み1人でフリースローまで入れて51得点というとんでもない記録を出した。千里はこの日1本もスリーを外さなかった。第3ピリオドに出た同じシューターの(登山)宏美が
「すげー。鬼気迫る感じだ」などと言っていた。
 
「千里何かあったの?」
「ううん。何でもない?」
 
暢子から訊かれても千里は何も答えなかった。試合はこの千里の大活躍(?)で110対48という大差で北海道が勝った。
 
なお、この日の他の試合は、愛知が神奈川に勝ち、愛媛が大阪に勝ち、東京が福岡に勝っている。愛知はJ学園の単独チーム、愛媛は実質Q女子高、大阪はE女学院とH高校を主体とするチーム、東京はT高校を中心とするチーム、福岡はC学園とK女学園を主体とするチームであった。今回の国体で単独チームで参加したのは愛知J学園のみである。
 
愛知────┬愛知
大分・神奈川┘
山形・愛媛─┬愛媛
大阪────┘
東京────┬東京
兵庫・福岡─┘
山口・北海道┬北海道
福井────┘
 
東京と福岡の対戦では、T高校の誠美とC学園のサクラの、U18代表同士の激しいリバウンド争いがあった。これに本当はT高校の星乃とC学園の桂華というフォワード対決もある予定だったのだが、星乃の怪我離脱でお預けとなる。しかし星乃の離脱で危機感を持った東京側が本来はC学園のお家芸である集団戦法で頑張り、接戦を制して準決勝に進出した。
 

その日の夕方、千里は敢えて電話せずにいたのだが、貴司から電話が掛かってくる。千里は出なかったが、暢子が「喧嘩したの?出てやりなよ」と言ってホテルの部屋のベランダに押し出した。千里は結局着メロが2分くらい鳴ったところで、やっと電話を取った。
 
「最初に勝手に恋人を作ったことを謝りたい」
と貴司は言ったが
 
「別に謝る必要はないよ。私たちは友だちだし、お互い恋人を作っていいと言い合ったはずだし」
と千里は答える。
 
「僕は今この問題について変な言い訳をして誤魔化すようなことはしたくない。でも僕にとって千里は大事な人であることは動かない」
 
「都合のいい女になるつもりは無いからね」
「だったら、取り敢えず、親友という線で僕との関わりを続けてくれない?」
「いいよ。でも次会ってもセックス無しだよ」
「それは構わない」
「親友として貴司と関わり続けるのは私もむしろそうありたいと思う」
 
「それにバスケ仲間だしね」
「あ、それだけど私、バスケは今年でやめるつもりだから」
「うそ。なんで!?」
「中学高校の6年間もすれば充分かなと思うんだよね」
 
「それはいけない。千里は物凄い才能を持っている。千里がバスケやめるなんて日本にとっての損失だよ。絶対続けるべきだと思う。たとえ僕との関係を解消したとしても」
 
「へー。私と貴司の関係より、私にバスケ続けろと言うんだ」
「そりゃそうだよ。千里はバスケの天才だもん」
 
「そんなことないよ。春からU18のチームに参加していて、自分にいかに才能がないかというのを思い知ってるよ」
 
「それは千里の才能がまだ充分には開花してないからだと思う。たぶん千里は自分の才能の1−2割でプレイしている。千里、大学の有力チームに入って鍛えたら、きっとバスケットの歴史に名を刻むプレイヤーになる」
 
「それはさすがに褒めすぎ」
 
「それにさ、バスケのことは置いておいても、僕は千里と話していると、ほんとに心が洗われる思いだし、僕は千里からたくさんエネルギーをもらっている。そして僕も何か千里にできることがあったら、していきたい」
と貴司が言う。
 
「うん。親友というのはそういう関係だと思う」
と千里も答える。
 
1晩寝て、そしてストレスを試合にぶつけて少しはスッキリしたこともあり、この日の千里は貴司のことばをある程度冷静に聞くことができた。そして貴司と親友としての関係を続けることで同意した。
 
「じゃ夫婦関係を解消して親友関係に移行したことをお母さんにも言う?」
「それは待って」
 
「じゃ、私たち、お母さんの前では夫婦を装い続ける訳?」
「もし良かったら、千里に彼氏ができるまではそうさせて欲しい」
「まあいいけどね。でもほんとに私も彼氏作るかもよ」
「うん。それは仕方ないと思う。あとクリスマスとかにプレゼント贈るくらいいいよね?」
「まあ友だち同士そのくらい贈ってもいいかもね」
「バレンタインとかホワイトデーに贈り物してもいいかな」
「まあ友チョコということで」
 

 
9月30日。少年女子は準決勝になる。(貴司が出ている成年男子は3回戦と準々決勝が行われる。1日2試合である) 
千里たちの準決勝と、貴司たちの3回戦が同時刻スタートであった。ふたりは試合前に「そちらも頑張ってね」というメッセージを交換してからフロア入りした。
 
今日の千里たちの相手は関東代表の東京チームである。東京T高校を主体として、東京のもうひとつの強豪校U学院およびE学園,I学園の生徒が入っている。昨日福岡選抜(C学園とK女学園を中核としたチーム)に勝って上がってきた。東京チームのメンバー表はこうなっていた。
 
PG 山岸(T) 青池(T) SG 萩尾(T) 松元(U) SF 千葉(U) 近藤(I) 甲斐(T) PF 池田(T) 大島(T) 手塚(E) C 森下(T) 藤田(U)
 
本来はこれにT高校のSF.竹宮星乃が入っていたものの、直前の怪我で国体代表からも脱落。代わりに同じT高校の2年生・甲斐さんが入ったようである。 
試合前から留実子と(森下)誠美が睨み合っている。ふたりは「センター・メーリングリスト」の仲間であるが、取り敢えずこの試合では敵同士だ。 

こちらは雪子/千里/橘花/麻依子/留実子、向こうは山岸/萩尾/千葉/池田/森下というメンツで始める。
 
ティップオフは留実子と誠美で始めようとしたものの・・・・
 
ふたりがジャンピングサークルで凄い視線で睨み合っていたことから、いきなり双方ともテクニカル・ファウルを取られるという波乱(?)の幕開けとなった。 
なお、ふたりの身長は「公称」では誠美184cm, 留実子180cmであるが、先日のインターハイ直前の練習試合の時に竹宮さんが「君たちは絶対嘘ついてる」と言って2人の身長をメジャーで測ったところ、誠美は186cm, 留実子は184cmであった。しかしふたりとも登録情報を訂正するつもりは無いようである。 
留実子は高校に入った頃は確かに180cmだった。実はこの子、ドーピング検査に引っかからない程度、そして生理が止まらない程度に微量の男性ホルモンを摂取しているのではと千里は疑っている。こないだなど
 
「僕のおちんちん、長さ測ったら1.1cmあった」
なんて言ってたし!
 
(「そんなに大きくして、鞠古君、嫌がらないの?」と訊いたら「あいつは僕に穴があれば充分と言ってる」などと言っていた) 

この試合のジャンプボールは結局留実子が勝って雪子がボールを確保。北海道が攻め上がるものの、誠美は随分悔しがっていた。
 
試合は千里と萩尾さんのスリー対決、暢子・橘花・麻依子といった北海道の強烈フォワード陣と、千葉・池田などの東京のフォワード陣、そして留実子と誠美のリバウンド対決が主軸となった。
 
スリー対決では、まだ貴司のことでイライラしている千里が昨日ほどではないものの10本のスリーを放り込んでフリースローも入れて33点をあげた。暢子が16点、麻依子が14点、橘花が12点取る。一方、萩尾さんもスリーを6本放り込んで18点、竹宮不在の穴を埋めるべく頑張る同じT高校の池田さんが14点、千葉さんが12点など取ったが、結果的にはやはり得点能力のある選手の数の差が出た感もあった。 
結局85対68の大差で北海道が勝った。
 
リバウンドは留実子・誠美ともに10本取って、痛み分けとなった。ふたりは握手しながらまた視線をぶつけていたが、審判が寄ってくると笑顔に切り替えてハグしたりしていた。
 

「残念だったね」
千里はこの日は自分から貴司に電話して言った。
 
「うん。僕の力不足だった」
「スコア見たけど、貴司24点も取ってるじゃん」
「26点取っていたら勝てたんだけどね」
 
千里はその言葉を重く受け止めた。バスケットは1点でも相手を上回った側が勝つゲームである。貴司はこの日午前中の3回戦には勝ったものの、午後の準々決勝で山形代表に1点差で敗れてしまったのである。
 
「それでさ」
「うん」
「チームの解散式は明日大阪で16時半からやるんで、それまでに大阪に戻ればいいんだ。他の選手は明日朝から帰るけど僕はお昼の便に振り替えて、そちらの試合を見に行く」
と貴司は言った。
 
「え?」
 
「選手の規律上、会う訳にはいかないだろうけどさ。明日僕は千里の試合を観戦するから頑張れよ」
 
「うん」
と答えて千里はぽぉっと顔が赤くなった。
 
そんな様子を窓ガラス越しに見ている暢子・留実子・雪子が顔を見合わせて何か話していた。
 

『貴司君がさあ、浮気しようとしていた訳よ。それでそれを阻止しようとしたんだけどね』
とその夜、ひとりで夜空を見ていた千里に《きーちゃん》が言った。
 
『あんたとこうちゃんで何かしてるなとは思ってた』
 
『それを阻止した時に怒った彼女が飲み物を貴司君に投げつけてさ。そしたらそれが隣のテーブルに居た女の子に当たっちゃったわけよ』
 
『それで貴司、そっちの子を好きになっちゃった訳?』
『彼女の洋服とか髪とか飲み物でひどいことになって。それでお詫びしたり、髪や服を拭いたりしてあげている内に』
 
『まあ貴司ってそういう奴だからね』
『だけど千里、おとといの晩はけっこうきついこと言ったね。そのおちんちんが立つのなら彼女の夢見ながらいじってればいいとかさ』
 
『私だって怒るよ』
『結果的に貴司君は・・・』
『貴司は?』
 
《きーちゃん》は少し考えたようだったが
『まいっか』
と言った。
『何よ?』
『いや。千里はあまり気にしなくていいと思うよ』
 
何なんだ!?
 
『千里って自分の能力に無自覚だもんなあ』
『へ?』
 

その夜、大分市内のホテルの個室に泊まっている貴司は、千里と少し落ち着いて話せて、かなり気持ち的には楽になっていた。貴司は浮気もするが千里のことが好きというのも不動だ。しかし千里のことを思う一方で、スタバで飲み物を掛けてしまった女の子との今後のこともわくわくと考えていた。次はどこでデートしよう。食事の後にドライブとかもいいよな。レンタカー借りておこうかな? 
千里のことも、あちらの女の子のことも考えていたら、つい何気なく触っていた手が、いつしか規則的な動きになっていく。
 
千里と過ごした熱い時間の記憶が蘇る。千里〜。千里の身体が欲しいよぉ。あれスマタだと本人は言ってるけど、あれ絶対ヴァギナだよなあ。でも結局千里っていつ手術したんだろう?そんなことを考えながら貴司は手を動かしていた。 
しかし・・・・
 
その日貴司は逝けなかった。
 
あれ〜。疲れが溜まっているのかなあ。
 
貴司は結局30分近くやっていたものの、どうしても逝くことができないまま試合の疲れが出て眠ってしまった。
 

 
2008年10月1日。国体は少年女子・少年男子・成年女子の決勝と、成年男子の準決勝が行われる。千里たち少年女子の決勝の場所は中津市のダイハツ九州アリーナである。
 
相手は愛媛代表。実質愛媛Q女子高である。準決勝で愛知代表(=J学園)を倒して決勝に上がってきた。パワーフォワードの鞠原さん以外スターターに180cm台の選手が並んでいる「天井チーム」だ。昨年のウィンターカップでは札幌P高校がこの背の高さにやられてしまったのだが、今年のインターハイではP高校はプレイ速度を上げた「ブーストアップ作戦」に加えて2人のシューターがスリーを積極的に撃つ「ダブル遠距離砲作戦」の組合せで打破した。
 
今日の試合でも北海道代表はスターターを雪子/千里/宏美/橘花/暢子とした。センターを入れずにシューターを2人入れる布陣で、スリーをどんどん撃つよと宣言しているようなものである。
 

昨夜。暢子たちは千里の貴司との電話をさんざん冷やかした上で、選手12名と宇田先生・瑞穂先生とで集まり、今日の試合の作戦について話し合った。 
「サーヤ(留実子)の存在感は圧倒的でゴール下でサーヤと対抗できそうなのは向こうの大取さん(186cm)だけだとは思うけど、それでも180cm台の選手に取り囲まれると、こちらは橘花(182cm)以外は、かなり厳しい。やはり遠距離砲中心に攻めるのが定跡だと思う」
という意見が出る。
 
「村山さん、先日オーストラリア遠征やってきたよね。向こうのチームどうだった?」
と瑞穂先生が訊く。
 
「ポイントガードがそもそも170cm台なんですよ。フォワードもシューターも180cm台ばかりでセンターは190cm台。でもみんな言ってたんです。要するに男子チームと試合しているつもりでやればいいと。U18に出てきている子たちは、みんな普段から男子大学生チームとかとの練習試合を経験しているから。一番まずいのは背丈の差にびびって、気合い負けしちゃうことなんです」
と千里は言う。
 
「まあ、去年のウィンターカップでのP高校がまさにその気合い負けした状態だったよね」
と宇田先生も言う。
 
「今年のインターハイまでのQ女子高は背丈は男子並みにあったけど、スピードはそれほどでもなかった。むしろP高校の方が男子並みのスピードで戦っていた。あれから2ヶ月、どう強化してきたかは分かりませんけどね」
と雪子が言う。
 
「国体のここまでの愛媛チームの戦い方を見ると、そんなに速度は感じられない。ただ決勝はうちか東京だろうとみて、スピードを隠していた可能性はあるけどね」
と偵察してくれていた瑞穂先生が言う。
 

そして10:00試合開始。ティップオフは大取さんと橘花で争うが、高校ナンバー1身長の大取さんが貫禄勝ちで、愛媛側が先に攻めて来る。北海道側は鞠原さんに千里が付くほかは4人でゾーンを敷いて守る。こういう臨時編成チームでもゾーンが運用できるのは6月にこのチームを結成してずっと練習してきた成果である。
 
ポイントガードの海島さんからシューティング・ガードの菱川さんにボールが渡り、菱川さんはそのまま強引に中に突入しようとするものの、その付近を守っていた雪子・暢子に阻止される。特に158cmの雪子は180cmの菱川さんにとっては真下からボールを盗られそうになる感じで、かなりやりにくそうな顔をしていた。
 
いったん海島さんに戻された後、雪子・暢子が寄ってきたことでできた間隙を狙ってスモールフォワードの今江さん(181cm)にボールが送られ、彼女が中に入るものの、182cmの橘花がその前に瞬発力で飛び出してゴールそばまでの接近を阻む。今江さんはそのまま一瞬のフェイントの後シュートしたものの、橘花にフェイントを読まれて、きれいにブロックされてしまう。
 
こぼれ球に雪子が飛びついて、そのまま速攻に行く。俊足の鞠原さんが頑張って戻るが、雪子は彼女に行く手を阻まれると、まるで鞠原さんの左側を抜くかのような動きをして、ボールは鞠原さんを抜く瞬間に真後ろに放り投げる。するとそこに千里が走り込んできて、そのままシュート。
 
北海道側の3点先行で試合は始まった。
 

北海道は先取点は取ったものの、やはり愛媛チームの背の高さに攻めあぐむ。180cm台の4人が高い位置でボールを運んでいくと、上空を飛行機が飛んでいる感じで、パスカットもブロックもできない。こちらの攻撃の時、千里には今江さんが付くのだが、181cmの彼女が手を伸ばすと215-220cm程度あり、168cmの千里にとっては目の前に巨大な壁がある感じである。
 
こういう巨大な壁に対抗していくので、橘花にしても暢子にしてもかなり強引な進入を試みたので、ふだんファウルの少ない暢子が第1ピリオドだけで2つファウルを取られたし、橘花も2つ取られた。一方、愛媛側もゾーンへの進入には結構苦労して、180cm台の4人が全員1回ずつ、鞠原さんも2つファウルを取られていた。
 
千里は先日U18のオーストラリア遠征でも背の高い選手とたくさん対決したのだが、向こうは背が低くて素早い日本人プレイヤーに慣れていなかった面もあった。Q女子高のメンツはむしろ、いつも自分たちより背の低い選手と戦っている。同じ180cm台でもオーストラリア人選手以上にやりにくい相手だ。 
それでこのピリオド、千里はスリーを1つしか入れることができず、第1ピリオドは22対18と愛媛の4点リードで終えた。
 

第2ピリオド。愛媛は第1ピリオドで頑張った180cm台の4人を休ませて、PG.小松(165)/SG.岡村(174)/SF.越智(172)/PF.鞠原(166)/C.伊瀬(175) というメンツで来た。
 
鞠原さんだけが連続で出る。
 
こちらは矢世依/宏美/布留子/麻依子/明里という「オールL女子高」というメンバーで始めた。
 
愛媛側は第1ピリオドでもっと点差を付けたかったようである。しかし思った以上にこちらが長身選手に食らいついてきたので、スタイルを変えて、恐らくシューターの岡村さんと点取り屋の鞠原さんとで勝負を掛けてきたと思われた。 
これに対してこちらは、いわゆるマッチアップゾーンで守った。ボールマンにいちばん近くにいるメンバーがマッチアップし、残りの4人でゾーンを敷いてパスの受け手の侵入に警戒する方式である。コミュニケーションの綿密さが求められるものの、いつも一緒に練習しているL女子高のメンバーのみで構成しているゆえにやりやすい守備方式であった。
 
鞠原さんは点取り屋でもあるがふだんの試合ではP高校の玲央美同様、アシストもひじょうに多い。「For the team」に徹しているので、決して無理をせず、最も得点確率の高いメンバーを使って点を取っている。しかしこのピリオドの鞠原さんは、恐らく本来の彼女の性格であろう、貪欲な点取り屋に変身した。 
岡村さんのスリーもあるにはあるが、やはり向こうは鞠原さんにボールを集め、鞠原さんはかなり強引にこちらのゾーンを破ってゴール近くまで入って得点する。こちらが「ここはパスだろう」と思う場面でも、強引にシュートを撃つ。その代りファウルもかさむ。このピリオドで彼女は2つファウルを取られて第1ピリオドと合わせて4ファウルになってしまったものの、それでもスタイルは変えない。パワフルなプレイを続けた。
 

千里はこのピリオド、ベンチに座って愛媛のプレイを見ながら、また第1ピリオドでのプレイを思い出しながら、どうやれぱこの相手とまともに戦えるのかをずっと考えていた。
 
ふと視線を感じて目を客席にやると貴司が居た。貴司とは4月1日の朝、心斎橋駅で別れて以来会っていなかった。千里の胸の中に熱いものがこみあげてきた。視線で会話を交わす。貴司、私、貴司が恋人を作ってもいいと自分で言ったから、取り敢えず恋人を作ることは許してあげるよ(本当に作るとは思ってもいなかったけどね)。セックスもそうだなあ2回くらいまでは許してあげる。でもまたいつか私だけのものにしちゃうからね。覚悟しといてね。千里はそう心の中で思うと、試合に対する闘志を燃え上がらせた。
 
千里はその時唐突に疑問を感じた。
『ねぇ、きーちゃん、貴司の恋人って女の子?』
『女の子に見えたけど』
『ホモに目覚めた訳ではないよね?』
『目覚めるも何も元々貴司君はそっちだと思うけど』
『うーん・・・』
『千里が初めて好きになった女の子だよ。小学生の頃は何度か男の子に憧れたりしてるらしい。ある筋から聞いた話』
『へー!』
『千里を好きになったことで、女の子との恋愛に味をしめたんだよね』
『じゃ貴司の中で私は女の子なんだよね?』
『もちろん』
 
試合は鞠原さんのプレイで愛媛がじわじわと点差を広げていく。こちらもしっかり守ってはいるのだが、千里が居ない分どうしても得点力が落ちていることもあり、第2ピリオド9分まで行った所で48対40と8点差を付けられていた。そして終了間際、鞠原さんがシュートすると見せてインサイドから遠くに居た岡村さんにボールを送り、こちらがつい無警戒になってしまっていた彼女がきれいなフォームでスリーを放り込んで51対40と11点差にして前半を終了した。 

「ごめーん。点差広げられた」
と麻依子が謝っているが
 
「いや、(鞠原)江美子が本気を出したらあのくらい行くでしょ。最後の岡村さんのスリーはおまけみたいなものだし。江美子は実際問題として今高校界で(佐藤)玲央美と並ぶ、最強のフォワードだと思う。江美子1人で2人分くらいのパワーがあるかも知れない。でもこちらも次のピリオドは暢子と橘花で行くから、ふたりが1.6人分ずつくらい頑張れば上回れるよ」
と千里が言う。
 
「うん。鞠原さんは天才だと思うけど、こちらは凡才2人で対抗しよう」
と暢子。
「植木の盆栽だったりして」
と橘花。
 
「第3ピリオド、例の作戦で行くよ」
と宇田先生が言う。
 
「若干不安はあるけど、あれしか無いですよね」
と雪子。
「暢子、パスキャッチをミスるなよ」
と橘花が言う。
「それはこっちのセリフ」
と暢子。
 

それで雪子/千里/麻依子/暢子/橘花というメンツで出て行く。向こうは180cm台の4人を戻す。鞠原さんはお休みで海島/菱川/今江/屋敷/大取というオーダーである。鞠原さんの代わりに入っている屋敷さん(愛媛H商業)も178cmの長身で、この高さは第1ピリオド以上に「天井チーム」となった。 
千里は1年生の時に男子の試合に出て、こういう長身の相手とのマッチアップもたくさんやったことを思い出していた。あの頃の自分はまだまだマッチアップが下手だった。そして、あの頃はほんとにスリー以外の能力が無かったから、しばしばフィジカル面で負けていたし、スリーも随分叩き落とされていた。 
旭川選抜チームは、愛媛チームと当たった場合、インターハイでP高校がやってみせたように素早く動き回り、パスも速く回して相手が対応できる前に攻撃するしかないと話し合った。この作戦は国体チームの練習でけっこうやったのだが、やはりパスのキャッチミスも多数発生して諸刃の剣という面もあるのは自覚していた。
 
一応、雪子・橘花・麻依子・暢子・千里の5人はお互いに相手を全く見ずにパスを通せるので、いかにも進入するかのような動きを見せて相手を引きつけては他の子にパスするというプレイを見せる。
 
また雪子以外の4人は、とにかく立ち止まらずに常に走り回ること、そしてボールを2秒以上は保持しないことを話し合っていた。すぐに攻撃できないなら、他の子に回すか雪子に戻す。
 
すると、愛媛チームはP高校とのインターハイでの対戦の時以上にボールを追うのに苦労する。あの時はまだ鞠原さんがしっかりボールを見てみんなに指示を出していたのだが、今彼女がいないのでポイントガードの海島さんが必死にボールの位置を追うものの、こちらは5人ともフェイントがうまい。まるでボールを持っているかのような動きをするので、海島さんでも見失うことがあり、全然ボールの無い所にうっかり守りを集中させては「あっ」と言う状況が生じた。
 

愛媛は途中で菱川さんに代えて沢田さん(松山A高校)を入れて来た。彼女は動体視力が高い上にフェイントなどを見破るのもうまいようで、彼女の投入で、愛媛チームの混乱はかなり小さくなる。それでも、どうしても向こうの高い壁にほころびが生じがちである。そこを旭川は攻めていった。
 
千里も誰かにパスしたかのような動作をしてはまだ自分が持っているというプレイで結構今江さんを翻弄する。こちらの「スピードプレイ」でボールを見失ってはいけないという意識があるだけに、パスされたら誰がパスを取ったのかを確認しようとする。それで一瞬意識が他に行くのである。
 
このピリオドで旭川はけっこうキャッチミスは発生するものの、落としたボールをそのままドリブルに移行したり隣の子にバウンドパスしたりして、あまり破綻が無いように何とかプレイした。
 
そして橘花・暢子・麻依子はお互いに競争するかのように点を取った。 
一度は暢子がゴールそばでシュートしようとしている所を手の中から橘花がスティールして自分がシュートした。向こうの大取さんが「えぇ!?」と思わず声を出していた。
 
(あとで橘花は「ごめーん。敵としてプレイしていることが多いから」などと言っていた。要するに間違ったようであるが、暢子は全く気にしていなかった) 
リバウンドに関してはこちらが留実子を下げているので186cmの大取さんの存在が大きい。しかし4人とも高精度でボールをゴールに放り込むので実際問題としてリバウンドはこのピリオドはあまり意味をなさなかった。
 
そして第3ピリオドを終えた所で70対68と2点差まで詰め寄った。
 

そして第4ピリオドが始まる。向こうは鞠原さんを戻す。こちらは雪子の消耗が激しいので矢世依を入れ、またフォワード陣の中で消耗の激しかった麻依子を下げて留実子を入れる。
 
基本的にはこちらは第3ピリオドと同様のスピードゲームである。向こうはやはり天井方式ではあるが、それに加えて鞠原さんのディフェンスをかいくぐっての得点もある。点数は完全にシーソーゲームとなった。開始早々こちらが同点に追いつくが、すぐに向こうが突き放す。いったんこちらが逆転しても、また向こうが逆転する。
 
3分経ったところで向こうの大取さんが5ファウルで退場になる。このゲームは堅い守備を無理矢理押し開ける攻撃が多いため、どちらもファウルがかさんでいるのである。向こうは代わりに菱川さんを戻す。そして4分経ったところで今度はこちらの暢子が5ファウルで退場になる。暢子の退場は1年生の時に地区大会で1度やっただけで、ひじょうに珍しい。代わりに麻依子を入れるが麻依子もインターバルと合わせて6分休んで少しは体力が回復している。そして5分経った所で向こうの鞠原さんが5ファウルで退場になってしまった。 
退場者が続けて3人も出たことで審判がプレイヤーを集めて警告した。全員素直に「気をつけます」と答える。
 

試合再開。向こうは鞠原さんの代わりにシューターの岡村さんを入れる。こちらも雪子を再投入する。しかしやはり審判に警告されたことから、このあとはどうしてもお互いに無理なプレイを避け、そのため攻めあぐねる展開となり、得点のペースも落ちる。鞠原さんが退場になった時点で得点は84対85だったのが、残り1分を切った時、まだ90対90であった。ここで向こうの攻撃から、岡村さんのスリーが外れたのを今江さんがリバウンドを取り、自らシュートを決めて92対90となる。
 
旭川が攻め上がる。残りは38.6秒である。こちらの攻撃のあと確実に向こうが1度攻撃するので、ここはできたら3点取りたい。向こうもそれが分かっているので千里に今江さんと菱川さんの2人がついてダブルチームする。 
それを見た雪子は相手の警戒の薄い麻依子にボールを送る。麻依子がフォローに来た海島さんを押しのけるようにして中に進入しシュートを撃つ。ゴールは入ったものの、審判はシュートを撃つ前に海島さんのファウルがあったとしてゴール無効とする。シュート動作に入る前のファウルだが、チームファウルが既に5つを越えているのでフリースローになる。
 
麻依子が審判からボールを受け取る。
 
1投目。きちんと決める。92対91。
 
2投目。リングの端で跳ね上がる。
 
そこに留実子が飛び込んで行きタップしようとしたのだが、菱川さんがその前でジャンプして妨害する。ゴールよりも上のラインでふたりの手の先が争う。ボールは結果的に下にそのまま落ちてきたのだが、審判が笛を吹く。
 
審判は菱川さんのファウルを取った。
 
留実子のフリースローとなる。
 
1投目。外れる!
 
留実子はフリースローはあまり得意ではないのである。
 
2投目。慎重にセットする。撃つ。
 
入る! 92対92。
 

しかし愛媛の攻撃である。残り時間は18.2秒。
 
旭川は強烈なプレスに行くが、愛媛は長身のポイントガード海島さんが最後の力を振り絞って単独でこちらのプレスを突破。そのまま攻め上がる。プレスに参加せずにひとりで先に自陣に戻っていた留実子とのマッチアップ。
 
複雑なフェイント合戦の末、海島さんは留実子の右を抜いた。
 
そして誰もいないゴールめがけてシュート!
 
と思ったのだが、いつの間にか俊足の雪子が目の前に走り込んで来ている。留実子とマッチアップしていたほんの2−3秒の間にここまで戻って来たのである。
 
しかしふたりの身長差は24cmもある。海島さんは構わずそのままレイアップシュートに行く。しかし雪子は思いっきりジャンプすると、海島さんの手からボールが離れた瞬間を指で横に弾いた。
 
こぼれ玉に留実子が必死で飛びつく。そして走り込んで来た麻依子に体勢を崩しながらパス。麻依子はセンターライン近くにいる千里に素早いパスをする。千里はボールを受け取ると、そのままドリブルで走り出した。
 
残りは4.1秒!
 
目の前に岡村さんと菱川さんが居る。
 
一瞬の対峙の後、岡村さんの左側をバックロールターンで抜く。
 
今江さんが目の前に居る。手を広げてガードしている。長身の彼女は千里にとっては大きな壁を目の前にしているようである。ゴール近くでは橘花と沢田さんがポジション取りで争っている。
 
「千里!撃てぇーーー!」
という貴司の声が聞こえた気がした。
 
意識の端で時計がもう1秒を切ったのが見える。
 
千里はシュート動作のために腰を落としたが、その腰を完全には伸ばさないまま、低い姿勢で撃った。
 
一方今江さんは千里が腰を伸ばし始めたところでシュートタイミングを予測してジャンプしている。
 
千里がボールをリリースした直後、試合終了のブザーが鳴った。
 
今江さんはタイミングも軌道も予測を外されてしまったものの根性で手を下に伸ばす。しかし間に合わない。ボールは彼女の指の下の方を通過した。 
そしてボールは長時間の山なりの軌道を描いてバックボードに当たり、そのままゴールに飛び込んだ。
 

審判が3点を認めるジェスチャーをしている。
 
千里は駆け寄ってきた橘花・麻依子にボコボコ頭を殴られる。痛いってば!雪子は嬉しそうな表情で傍で見ており、留実子は放心した顔で、割れるような拍手をしている客席を見上げていた。客席で北海道旗を振る人、旭川N高校の校旗を振る人(昨年唐津でのインターハイをサポートしてくれた真鍋さんだ)、旭川L女子高の校旗を振る人も見られた。
 
ゴールを通過したボールを沢田さんが悔しそうにつかんで、名残惜しそうに審判に返す。整列が促される。
 
双方のメンバーが(アバウトに)整列する。
 
「95対92で北海道代表の勝ち」
「ありがとうございました」
 
お互い握手しあう。
 
こうして旭川選抜チームは国体を制したのである。
 

旭川選抜のメンバーは、ベンチに座っていたメンバーも含めてまずは対戦チームのベンチ前に集まり、愛媛チームの監督(Q女子高の監督の田里さん)に挨拶する。それから声援を送ってくれた観客席に向かってお辞儀をした。千里は客席の中に貴司の顔を探したが、見付けきれなかった。
 
試合終了後すぐに表彰式が行われる。
 
千里たちが束の間の休憩をしている間に会場には表彰台が持ち込まれ、横断幕やプラカードを持った地元中津市の女子高生が入って来た。国体のマスコット《めじろん》の着ぐるみまで居る。
 
橘花が「監督を胴上げしようか?」と言ったものの、宇田先生は「やめて!落とされると怖い」と言ったので、胴上げは無しとなった。
 
中央に「第63回国民体育大会/チャレンジ!おおいた国体」という横断幕を持つ2人の地元女子高生が立ち、その隣に「少年女子」のプラカード、「1位」のプラカード、「北海道」のプラカードを持つ女子高生が立ち、その隣に千里たち旭川選抜チームの12人が並ぶ。反対側には「2位」のプラカード、「愛媛県」のプラカードを持つ女子高生が立ち、その隣に鞠原さんたち愛媛県代表チームの12人が並ぶ。
 
「1位北海道、2位愛媛県」
 
とあらためて成績が発表され、北海道チームから2名、前に出るように言われる。キャプテンの暢子と副キャプテンの麻依子が前に出る。暢子が大会長から優勝の賞状をもらい、麻依子が副賞の賞品カタログをもらった。
 
そのあと2位の表彰があり、大会長のメッセージの後、国旗・北海道旗(七光星)の掲揚がおこなわれる。千里は「君が代」を歌いながら、道旗が揚がって行くのを見ていて、初めて涙が出てきた。
 
そうか。全国優勝したんだ。なんか私たちってすげぇ?
 

国旗掲揚の後は選手退場である。国体の横断幕、1位のプラカード、北海道のプラカードに続いて12人の戦士たちは退場した。それに続いて2位のプラカード、愛媛県のプラカードに続いて愛媛県チームも退場する。ロビーに出てから千里たちはまた愛媛県チームのメンバーと握手したりハグしたりした。千里は鞠原さん・今江さんとハグした。留実子は大取さんと殴り合ってる!?鞠原さんは暢子・橘花・麻依子ともハグしている。悔しそうな顔ではあるものの取り敢えず今は笑顔である。
 
そんな様子を見ていたら、鞠原さんが千里の所に寄ってきた。
「取り敢えず優勝おめでとう」
「ありがとう」
「千里ちゃん、ウィンターカップ出られそう?」
「出る気満々」
 
「そうこなくっちゃ。このまま勝ち逃げされたくないし。ねね。千里ちゃん。出羽は実はかなり歩いてるんでしょ?」
 
「うん。実は毎年100日歩いている」
「やはり。私も少しあそこで修行したい。私、自分の体力の無さをいつも痛感してるんだよ。今日も最後の方はクタクタでついファウルしちゃった。年間100日は無理だと思うけど、せめて30日くらい参加できないかな」
 
「うん。じゃ話しておくよ」
と千里は笑顔で答えた。
 
会場では、少年女子の試合が全て終了したこと。来年は新潟市で開催されることがアナウンスされる。その後、北海道チーム、愛媛チームともにフロアに戻り、客席で見ていた瑞穂先生、そしてチームに随行している役員さんも一緒に入って記念撮影をする。ついでに《めじろん》もフレームの中に入った。 
記念撮影が終わって再度フロアを出た所で瑞穂先生が千里に30cmほどのサイズの箱を渡した。
 
「これ千里ちゃんのボーイフレンドから」
 
周囲から「おお、すごい」という声が掛かる。
 
「電車の時刻があるからもう行かないといけないけど、優勝おめでとう、よく頑張ったねって伝えて欲しいと言ってたよ」
 
千里は箱を胸に抱えて胸が熱くなった。
 
「大会中の不純異性交遊で千里は罰金として打ち上げの費用を持つこと」
などと暢子が言っている。
 
「うん、いいよ」
と千里は笑顔で答えた。
 

用意してもらっていたマイクロバスで中津駅まで行き日豊線に乗る。試合は午前中で表彰式も12時半くらいには終わるのが分かっていたので、今日の便で帰ることになっている。
 
「千里、何もらったの? 見せて見せて」
と言うので、箱を開けてみせる。
 
「バッシュ?」
「なんて色気の無いプレゼントだ」
「そのサイズならお洋服か首飾りでも入っているかと思ったのに」
 
千里は戸惑った。
 
「私、今年いっぱいでバスケやめるつもりだって貴司に言ったのに・・・」
と言ったのだが
 
「千里がバスケを辞めることはないと思うよ」
と、ふだん無口な留実子がいつものようにポーカーフェイスのまま言った。 

朽網(くさみ)駅で降りてシャトルバスに乗り、北九州空港に入る。空港に到着したのは14:30で、ここで遅めの昼食を取ったが、それ以前に随行スタッフさんが用意してくれていた大量のおにぎりやハンバーガーなどが既に選手たちのお腹の中に消えている。
 
16:35の羽田行きに乗って羽田に18:00に着く。18:50の新千歳行きに乗り継ぎ、新千歳に20:20に到着した。ここで千歳市内の焼肉屋さんに入って夕食兼打上げをした。
 
千里は少し心配になって宇田先生に訊いた。
「ここ、お勘定いくらくらいになりますかね?」
 
「ああ、異性交遊の罰金で打ち上げ費用をって話ね」
と言って先生は笑い
「この食事の費用は学校から出ているから心配しなくていいよ」
と言う。
 
「千里、デザートくらいおごってくれてもいいぞ」
と近くで橘花が言うので
 
「じゃ、みなさんにケーキでも」
ということで、千里が四千円ほど出して、全員にショートケーキが配られた。 

打ち上げは21時半で終了し、頼んでいたバスに乗り旭川周辺の各選手の自宅前まで全員を送り届けた。千里がアパートに戻ったのは23時半頃であった。 
「ただいまあ」
と言って家に入ると、美輪子が
「お疲れ様、優勝おめでとう」
と言う。
 
「ありがとう。なんか優勝って素晴らしい。バスケやってて良かったぁと思ったよ」
「全国優勝って凄いね」
 
「インターハイで1位になりたかったけどね」
「国体だって凄いでしょ」
「まあ、そうだけどね」
「金メダルは?」
「国体はメダルが無いんだよ」
「あら、残念」
 
「なんか副賞で後から大分の名産品をもらえるらしい」
「ああ、国体ってそういうノリか」
 
「選手より役員の方が多い感じだったし」
「ああ、まあそういう大会なんだろうね」
 

美輪子がケーキを買ってくれていたので、紅茶を入れて一緒に食べた。 
「美味しい。ここのケーキいいよね」
と千里が言うと
「うんうん。特にスポンジが美味しいのよね。しっとりしていて」
と美輪子も言う。
 
「向こうで貴司君と会えたの?」
「こちらの決勝戦を見に来てくれた。けっこう力づけられたよ。直接話はできなかったけどね。こちらは決勝戦のあとすぐ表彰式だったし、向こうは電車の時間があったし」
 
「残念だったね」
と言ってから美輪子はその問題について尋ねた。
 
「あんたさ、貴司君とはどういう状態になってるんだっけ?」
 
千里は微笑んで答えた。
「実をいうと3月でいったん別れたんだよ」
 
「なんかそんな気がしてたよ」
「3月31日に大阪まで会いに行ってきたでしょ。あれでサヨナラだったの」
 
「でも電話とかメールとかよくしてるよね」
「うん」
「誕生日のプレゼントも贈ってなかった?」
「贈ったよ。テンガ付きで」
 
「面白いもん贈るね!」
 
「私と貴司の関係は今はただの友だち」
「ただの友だちには見えないけど」
 
「まあ縁があったら恋人に戻ることがあるかも知れない」
「恋人じゃなくて夫婦でしょ?」
 
「そうだねぇ」
と言って千里は遠い目をする。
 
「でも今、貴司、彼女がいるんだよね」
と千里は言う。
 
「ふーん。でも貴司君って、たくさん浮気しているから恋人が何人かいてもあまり関係無いんじゃない?」
と美輪子。
 
「うん。ほんっとに浮気症なんだよなあ。たぶん今できている恋人も1年はもたない気がするよ」
 
「1年もしない内にあんたが壊しちゃえばいい」
と美輪子は煽る。
 
「そうだね。大学に入ったら、取り敢えず壊しに行こうかな」
「うん。頑張れ」
 
「そうだ、これ、その浮気者さんから優勝のお祝いってもらった」
と言って、千里は貴司からもらった真新しいバッシュを出す。
 
「すごーい。これ高そう」
 
「今履いてるのがけっこう傷んでるからね」
 
千里の最初のバッシュは貴司のお母さんが買ってくれたもので中学1年の時から約3年間使った。現在使っているものは高校1年の時に占いのお礼でもらったお金で買ったもので2年ちょっと使用している。
 
「でも私12月でバスケは辞めるつもりだったんだけどなあ」
 
最初はインターハイまでのつもりが、その後の国体にも出ることになり、そのあとU18にも行くことになり、そしてとうとうウィンターカップにも行く可能性が出てきている。
 
「大学でまたバスケ部に入ればいいじゃん」
「それは全然考えていなかった」
「あんたの志望校のC大学ってバスケ強いの?」
「確認したけど関女(関東大学女子バスケットボール連盟)では3部にいるみたい」
「微妙かな。もっと強い所に志望校変えたりしないの? どうせあんた大学であまり勉強する気無いでしょ?」
 
「えへへ」
「そもそも東京方面に行きたいというの自体が、親の目の届かない所で女の子ライフを満喫するつもりだったでしょ?」
「そうなのよねぇ。男子高校生生活を3年間するつもりだったから」
「早々に女子高生になっちゃったけどね」
 
「うふふ」
と千里は笑ってから
「実は教頭先生から□□大学の医学部を受けろって言われてるんだよね。もっとも□□大学も関女3部」
 
「そこ無茶苦茶難しいのでは?」
 
「ウィンターカップに出ることになる3年生4人に全員課題の大学が指定されたのよね。ここより難しい所を受けてもいいらしいけど、ここより難しい所って、東大・京大・阪大・名大・東京医科歯科大の医学部くらいって話」
 
「あんた通るの? 今年はまともに勉強できてないでしょ?」
「そうなのよねー。ほとんどバスケ一色だもん」
 
「落としたらどうなるの?」
「4人のうち2人落としたら、来年からはこういう特例処置は一切認めないという話。だけど、留実子は絶対落とす」
 
「ああ」
「となると、私、頑張らなくちゃ」
 
「Z会でもやる?」
「進研ゼミくらいにしとこうかな」
 
 
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