【女の子たちの辻褄合わせ】(下)

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両軍整列して挨拶する。ティップオフはN高の留実子とM高の葛美で争い、留実子が勝って久井奈さんがボールを確保。攻め上がる。M高は千里に葛美がマークに付く。
 
右側に居た穂礼さんが敵陣に走り込む。久井奈さんがそちらにボールを投げる。が受け取ったのは左側からワンテンポ遅れて走り込んだ千里である。葛美がチェックに来る間もなくそこから撃つ。
 
入って2点。
 
試合はN高校の先制で始まった。
 
この試合、第1ピリオドでは、とにかく千里も暢子もよく走り回った。走り回ることで相手のマークを外すのである。毎日練習試合をして、お互いに手の内を知り尽くしている相手なので、相手を欺くような手はあまり通用しない。だからこの試合は運動量勝負だと千里と暢子は試合前に話し合った。
 
千里のマークは葛美、暢子のマークは橘花がしているが、どちらもいつもより動きが鈍い気がした。あるいは厳しい戦いだった午前中のL女子高とのブロック決勝の疲れが残っているのかも知れないが、こちらは容赦はしない。相手が弱い所に付け込むのが、誠実さである。
 
結局第1ピリオドを終わって24対18とN高校がリードを奪う。
 
するとM高校は第2ピリオド、葛美・橘花・友子の主力を下げてしまった!? 
「この試合を捨てて残り2試合に全力投球?」と暢子。
「まさか。何かの作戦だよ」と千里。
 
向こうは、PG.茉莉奈 C.月乃(本来PF) SG.伶子(本来PG) PF.蒼生 SF.宮子 というラインナップである。こちらも次の交替できるタイミングで千里と暢子をいったん下げて、透子と揚羽を出す。揚羽が点取り屋さんなので、点差は広がっていく。第2ピリオド終わって56対32とダブルスコアに近くなる。
 

そして第3ピリオド、葛美・橘花・友子の3人がコートに戻る。すると、3人の動きが違う! どうも3人ともまだ疲れが残っているようだったので敢えて第2ピリオドを休ませて体力の回復を図ったということのようであった。 
こちらも千里と暢子を戻すが、向こうがこちらの動きに結構付いてくる。 
またこちらがディフェンスの場合、葛美−留実子、橘花−暢子、友子−千里、茉莉奈−久井奈、宮子−穂礼、とマッチアップしていたが、宮子がしばしば穂礼さんを振り切ってフリーになり、得点を奪っていくケースが見られる。あっという間に点差が縮んで、第3ピリオド半ばまでで66対52とぐっと詰め寄る。 
そこで疲れが目立つ穂礼さんの代わりに雪子を入れる。雪子は巧いのでマークを簡単には外させない。しかし橘花・友子が練習試合では見せていなかったたくみな連携プレイで暢子・千里を振り切ってフリーになるケースもあり、第3ピリオド終了時点で72対62と、どちらに転んでもおかしくない点差となる。 
しかし向こうも必死だが、こちらも勝てばインターハイに行ける確率が高いので必死である。第4ピリオドは取りつ取られつのゲーム展開になる。
 
そして第4ピリオドはM高校がかなり追い上げたものの、それまでの貯金が利き89対84でN高校が逃げ切った。ほんとに辛勝という感じであった。
 
試合終了後あちこちでお互いにハグし合う姿が見られる。千里も相手主力全員とハグした。
 
ともかくもN高校は決勝リーグ第一戦で貴重な1勝を挙げたのである。 

「今日の試合はどちらも気合い入ってたね」
「全力戦だった。第1ピリオドを見て、主力3人を敢えて休ませたのは監督の英断だと思う。やはりL女子高との試合が激しかったから、体力が足りなかった感じ。第4ピリオド最後まで走り回れるように敢えて休ませたんだと思う。最後は試合が終わったら倒れてもいいという感じで全力出してた」
 
「こちらも必死だったけどね」
 
「試合終了後、いっぱいハグした」
「まあキスはしないのが、女同士だね」
「ああ。誰かさんはS高校男子との試合に出てたらキスしてたな」
「いや感動してセックス始めてたかも」
「コート上でセックスというのは前代未聞だな」
「チームが除名処分くらったりして」
「こわー」
「やはり千里を女子チームに移動させて正解だ」
 
などとみんな勝手なことを言っている。
 
「でも疲れたぁ」
「これでインターハイ行けるかな?」
「明日午後のC学園戦に勝つのが絶対条件だけどね」
「C学園戦に賭けて、P高校戦は捨てる?」
「まさか。全力勝負」
「明日も頑張ろう」
 
「とにかく今夜は寝よう」
「うん。食べて寝るに限る」
 

宿舎は男子が帰ってしまって、今日は女子だけである。北田コーチは男子生徒と一緒に帰ったが、白石コーチは力仕事の必要なものがあるかもということで残っている。なお、男子の部屋は午前中にキャンセルしたので、キャンセル料は不要であった(大会参加の中高生を受け入れる宿には、そういうルールの所が多い。午後にキャンセルすると9割のキャンセル料を取られるので夕方の試合で敗退が決まったりすると、お金も辛い)。
 
そして今日の晩御飯はスキヤキ(食べ放題)だった。
 
「お、今日も千里は積極的に食べている」
「お肉食べます!」
 
「家でも食べてる?」
「食べてるよ。叔母ちゃんが、どうしたの?って驚いてる」
 
「でも何か心境の変化あった?」
「うん。色々ね。でもやはり、筋肉付けても男みたいな身体にはならないと確信が持てたのもあるかもねー」
 
「そりゃ睾丸が無いんだから、男みたいな身体になるわけない」
「筋肉付けて男みたいな身体になるんだったら女子スポーツ選手はみんなお嫁に行けなくなる」
 
「私、もうお嫁に行っちゃったしね」
「・・・・」
「細川君と結婚したの?」
「うん」
「すごーい!」
 
「このストラップが実はマリッジリング代わりなんだよ」
と言って千里は携帯に取り付けた金色のリングの付いたストラップを見せる。 
「おぉ!」
「細川君とお揃いなの?」
「うん」
「やるなぁ」
 
「実は1月に結婚したんだよ。その時点でまだ17歳と15歳だったから、年齢が足りないけど、自分たちは恋人というより夫婦という意識でいようと」
「へー!」
「18歳と16歳になったら入籍すんの?」
 
「それは自分たちが今のまま26歳と24歳になるまで恋人同士であったら入籍してもいいと細川君の両親からは言われた。でもさすがにそこまで恋人関係を維持する自信は無い」
「8年は厳しいかもね」
 
「でも、うちの学校、在学中に結婚してもいいんだっけ?」
「そのあたり微妙だったけど、忍ちゃんの奮闘で、今後は問題無く認められる可能性が高い」
 
「でも千里、妊娠しないように気をつけろよ」
「そうそう。今妊娠されたら困る」
「ちゃんと避妊してるから大丈夫だよ」
と千里は微笑んで答えた。
 

「そういえば結婚といえばさ」
と暢子が言う。
 
「私の従姉がこないだ結婚したんだけどね」
「それはおめでとう!」
「いや、それが色々問題あってね」
「お姑さんとうまく行かないとか?」
 
「そういうこと以前の問題。実は赤ちゃんができたんで結婚することにしたんだけどね」
「まあ、多いよね、最近そういうの」
 
「結婚した相手と付き合い出したのは5ヶ月前。でも従姉は実は妊娠6ヶ月なんだよ」
「は?」
「でも旦那には妊娠5ヶ月ということにしている」
 
「それって・・・」
「うん。旦那の子じゃない」
 
「えーーー!?」
 
「でも1ヶ月程度の早産はよくあるからさ。このままばっくれるつもりでいるみたいだ」
 
「うむむむむ」
 
「まあ1ヶ月の誤差だから、辻様合わせも何とかなるんだけどね」
「いや、そのくらいの時間差が限界だと思うよ」
 
「でも生まれた後で、血液型とかで、バレる可能性もない?」
「あ、それはうまい具合にどちらも同じ血液型なんだって」
「ほほぉ」
 
「でもこの社会、実際には7人に1人は旦那の子じゃないらしいよ」
「そんなに!?」
「いろんな国でDNA検査してみた結果というのがだいたい、どこでもその程度の数字になってる」
 
「今みたいに生殖技術が発展してくると100人に1人は奥さんの子じゃない、なんてことも起きうるかも」
 
「それ、どうやったら、そうなる!?」
 

道大会は最終日に入る。
 
午前中は決勝リーグ第2試合である。最初9時から、橘花たちM高校とC学園の試合が行われる。この試合、橘花がC学園の武村さんのマークに付いた。C学園との戦い方は昨日P高校がやったように「武村さんに仕事をさせない」というのがポイントである。他の選手から武村さんにボールが渡らないようにする。ボールを持たれても中に入れないようにする。橘花は激しい運動量で完全にボールのパス筋を塞ぎ、武村さんを封じ込んだ。
 
一方で友子は快調にスリーを入れるし、相手の守備にちょっとでも隙間があるとすかさず宮子が侵入していって着実にゴールを奪う。
 
それでM高校はC学園に83対27の大差で勝った。
 

 
続いて10時から千里たちN高校と《女王》P高校の試合が行われる。昨年秋の道大会でも、2月の新人戦でも決勝で当たって負けた相手である。佐藤さんはやはりまだ怪我の状態が良くないのかベンチにも入っていないが、それ以外の主力組は全員揃っている。向こうとしてはインターハイの前哨戦くらいの気持ちかも知れないが、こちらは全力戦になるだろうと覚悟して臨んだ。
 
整列して挨拶して試合開始。ティップオフは向こうが取って即攻めて来る。こちらは最初敢えてゾーンで守る。するとシューターの尾山さんがスリーポイントラインの外側から撃つが入らない。リバウンドを留実子が確保して反攻。 
千里のマークにはC学園の武村さんのマークにも付いていた片山さんが付く。向こうはこちらの動きをかなり研究してきているようだが、千里の運動能力が新人戦の時からは格段に上がっている。それで片山さんはしばしば千里に振り切られていた。
 
それで第1ピリオド途中から、片山さんと交代で1年生の猪瀬さんが入り、千里に付いた。彼女は身体も大きく身体能力があるので、千里の動きに何とか付いてくる。
 
しかしこういう相手には千里は相手の一瞬の意識の隙を狙って、相手の眼前から消えてしまう。それで「あれ?あれ?」と向こうがこちらを探している間に、久井奈さんからのパスを受けて、千里はもうシュートを撃つ体制である。 
結局、第1ピリオドを終わって、20対24とN高校がリードする展開となった。24点の内15点は千里がスリーで稼いだ点数である。
 
第2ピリオドになると、佐藤さん不在の中でP高校の得点の多くを稼いでいた宮野さんが千里のマークに付いた。向こうとしてはとにかく千里を封じないことには、下手すると負けるというので必死だ。しかし千里はほんとにグレードアップしていて、スピードもあるし気配のon/offも進化しているので、宮野さんでも完全に封じることはできない。それでも第2ピリオドは千里のシュートを3割は叩き落とし、千里の得点は9点に留まった。しかし宮野さんが千里に付いていると暢子が片山さんのマークを振り切って得点するので、結局第2ピリオドが終わっても、38対44とむしろ点差が開いてしまう。
 
第3ピリオド、とうとうP高校は、千里に片山・猪瀬のダブルチームを付けて暢子に宮野さんが付くという体制で来た。残りの2人でN高校の残りの3人に対抗するというリスキーな戦略である。
 
ここでN高校は穂礼に代えて体力に余裕のある雪子を投入する。すると千里・暢子の2人が封じられていても、久井奈−雪子のラインで得点を稼ぐので、N高校の勢いは止まらない。それでもやはり第2ピリオドまでほどの差にはならず、向こうも必死で得点していく。尾山さんのスリーも調子良く決まる。 
それで第3ピリオド終了時点で60対62と2点差に詰め寄られた。
 

「ね、もしかして勝てたりして」
という声も控え組からあがるが
 
「無心!」
と久井奈さんがひとこと言い、スポーツドリンクを一気飲みして最後のピリオドに出て行った。
 
最終ピリオド、やはりP高校は千里を片山・猪瀬でマークし、暢子に宮野さんが付く体制でディフェンスする。ポイントガードは疲れの目立つ竹内さんに代えて2年生の徳寺さんが入り、とにかく速攻で攻めて来る。徳寺さんは純粋なポイントガードというより、スモールフォワード的な性格も併せ持っていて、自らドライブインして上手にフェイントを入れて撃つので、得点能力が高い。
 
第4ピリオド5分経過した所でとうとう72対70と逆転されてしまう。
 
久井奈さんがドリブルで攻め上がるが、千里にも暢子にもしっかりマークが付いている。左手に居る留実子にパスするが、すぐ尾山さんがチェックに来る。それを見て留実子は反対側に居る雪子にバウンドパス。即雪子が飛び込んで行くが、徳寺さんが出て来て、雪子と一瞬のマッチアップ。ゼロコンマ数秒の心理戦の末、雪子はシュートを選択。
 
うまくタイミングを外したのでブロックできない。しかしボールはバックボードに当たっただけで落ちてくる。リバウンドを猪瀬さんと留実子で争い、留実子が獲得する。そのまま誰も居ない所にボールを投げる。
 
そこに千里が走り込んでキャッチし、即撃つ。
 
スリーポイントラインの外側である。
 
入って72対73。再逆転でN高リード。
 

P高校の徳寺さんがドリブルで攻め上がってくる。尾山さんに誰もマーカーが付いていないので、尾山さんにパスして、即スリーを撃つ。
 
が外れる。
 
リバウンド争いで猪瀬さんが勝ち、そのままシュートするが留実子のブロックが決まる。そのこぼれ球を宮野さんが確保。うまくタイミングを外してシュート。これが決まって 74対73。再逆転でP高リード。
 
この時点で既に千里は相手コートに向かって走り出している。暢子が長いパスを投げる。例によって到達直前に千里は振り向き、ボールをキャッチして2歩で停止する。相手ディフェンスはまだひとりも戻っていない。必死で追いかけて来た片山さんが千里の所に到達する前に、千里はシュートする。
 
バックボードにも当たらずネットに飛び込み、74対76。再逆転N高リード。 
残り時間は60秒を切る。P高校が攻めて来る。尾山さんがスリーを撃つ。きれいに入る!再逆転。77対76。P高リード。
 
N高校が攻め上がる。久井奈さんがパス相手を探すが、全員にマークマンが付いている。それで自ら飛び込んで行く。千里に付いていた片山さんが防御に行く。千里のマークが弱くなるので、すかさず千里にパス。
 
というのを向こうは読んでいた!
 
猪瀬さんが千里の前に立ちふさがってパスカット。
 
そしてその時には既に尾山さんが走り出している。先行する尾山さんへパス。尾山さん自らドリブルしてスリーポイントラインの直前で停止する。
 
暢子と千里が必死で追うがふたりが戻る前に尾山さんは撃つ。
 
入って80対76。
 
P高のリードが広がる。
 

残り時間は28秒。必死でN高校が攻め上がる。久井奈さんから暢子へのパス。暢子がマーカーの宮野さんを押しのけるようにしてキャッチし、そのまま中に飛び込んでシュート。
 
しかし外れる。
 
リバウンドを留実子が取り、自らシュート。
 
しかしブロックされる。
 
こぼれ玉を雪子が取り、外側に居る千里にパス。
 
シュート。
 
しかし片山さんのブロックが決まる。
 
こぼれ球を徳寺さんと久井奈さんが追うが、僅かの差で徳寺さんが確保。そのまま攻め上がる。そして自らシュート!
 
しかし外れる。
 
リバウンドを暢子が取り、千里にパス。そしてそのまままだ戻りきっていなかった留実子にパス。留実子が中に入ってダンク。
 
と思ったものの、ボールはリングに当たって跳ね返り、そのまま下に落ちてくる。 
落ちてきたボールを暢子と猪瀬さんが取り合う。
 
そこでブザー。
 
試合終了。
 
千里も暢子も天を仰いだ。
 

整列する。
 
「80対76で札幌P高校の勝ち」
「ありがとうございました!」
 
この試合でも、またあちこちでハグし合う姿が見られる。千里も、宮野さん、片山さん、猪瀬さん、尾山さんとハグした。
 
「あとちょっとだったけどなあ」
「やはり女王は底力が凄い」
「消耗した〜」
「200分くらい走り回った気分」
「いや、ほんとに普通の試合の5倍消耗したよ」
 
「私、寝る!」
と暢子は宣言して、汗を掻いた下着だけ交換すると、タオルケットをかぶって寝てしまった。
 
「私も寝ようかな」
「私、御飯食べてくる」
 
千里も500ccのスポーツドリンクを3本飲んでから着替えて、やはり少し寝た。 

目が覚めると、もう13時であった。おにぎりを1個食べる。水分が欲しいので烏龍茶を1リットルくらい一気に飲んだ。
 
決勝リーグの第三戦、1試合目のM高校対P高校の試合が始まる頃である。暢子や久井奈さんはまだ寝ている。千里は夏恋や敦子など、起きているメンバーと一緒に観戦に行った。
 
「千里、疲れ取れた?」
と敦子から訊かれる。
 
「まだ少し残ってる。やはり女の身体になってから少し疲労回復遅くなった気がするよ」
「へー。そういうのも変わるもんなんだ?」
「自分としてはあまり男っぽくない身体のつもりだったんだけど、身体のシステムが変わった気がするんだよね」
「やはり男の身体と女の身体って違うんだね」
 
観客席に座る。ここまでの勝敗をまとめると、こうなっている。
 
P−C  73-26

N−M  89-84

M−C  83-27

P−N  80-76

 
勝敗表にまとめると、こうである。
 
女子の勝敗表

_P N M C

P− ○ _ ○ 2勝

N× − ○ _ 1勝1敗

M_ × − ○ 1勝1敗

C× _ × − 2敗

 
現時点で数字の上では全ての高校にチャンスがある。現在2敗のC学園も、この後の試合で千里たちのN高校に勝ち、M高校がP高校に負けると、3校が1勝2敗となって、得失点差の勝負になるのである。但しP高校にもM高校にも大敗しているから、N高校にかなりの大勝をしないと厳しい。
 
千里たちN高校の場合は、C学園に勝てたらインターハイに行ける確率が高い。逆に橘花たちのM高校はこの試合P高校に勝てないと難しいが、P高校に勝つのは、かなり大変である。
 

ところが見ていると、M高校はP高校に結構良い勝負をしていた。
 
「P高校の主力が、うちとの試合で無茶苦茶消耗したんだよ」
「うん。片山さんも宮野さんも、私たちと対戦した時の切れが無い」
「M高校の方は午前中はC学園戦だったから、あまり消耗してないんだよね」
「武村さんのマークをしていた橘花が、さすがに動きが鈍いけど、その分、宮子ちゃんが頑張ってるね」
「今年のM高校って、凄い充実してるもん」
 
P高校は層が厚いので、疲れの見える主力を適宜休ませては、バックアップメンバーを入れているが、今のM高校の力だと、P高校の控えレベルの選手では、主力選手ほど相手を圧倒するまでの力は無い。
 
「ね、これもしM高校が勝ったら、どうなる?」
「えーー? そういう事態は考えてなかったよ」
 
第3ピリオドまで終わって、48対48と同点であった。
 
「ちょっと待って。これ万一M高校が勝った場合のインターハイ進出条件を計算してみる」
と言って、南野コーチがノートパソコンを開けて、計算し始めた。
 

「この試合に、もしM高校が勝った場合は、M高校、代表確定」
「えーー!?」
「だって、P高校もM高校も2勝1敗になりますよね?」
「得失点差でM高校が有利なんだよ。ここまでの得失点差がP高校もM高校も、どちらも同じ+51。つまりここでM高校が勝てば、M高校はP高校を得失点差で上回ることになる」
「なんと」
 
P−C  73-26(47)

N−M  89-84(5)

M−C  83-27(56)

P−N  80-76(4)

 
(P高校は47+4=51, M高校は56-5=51, N高校は5-4=1)
 
「その場合、うちはどうなるんですか?」
「うちのここまでの得失点差は+1。だからC学園に50点以上の点差で勝てたらインターハイに行ける」
「激しい点差勝負ですね」
 
「要するに今回の決勝リーグは、各高校がC学園に何点差で勝つかというのが鍵だったんだな。P高校はC学園に47点差で勝ってるけど、M高校は56点差で勝ってる。この差が出たんだ」
「うむむ」
 
「でも得失点差って時々不合理だと思うことあるよ。だってP高校相手に取った点もC学園相手に取った点も同じ1点なんだもん」
「P高校相手の点数は2倍して欲しい気分だね」
「まあ、スポーツはゲームだからして」
「得失点差の勝負って、辻褄合わせだよね〜」
「だけど、実力で代表が決まるんだったら、私たちはそもそもここに居ない。L女子高やH学園が来てますよ」
「それも言えてる」
 
「P高校がC学園に47点差しか付けられなかったのは、直前のZ高校との試合で消耗してたからだと思う」
「そのあたりも運だな」
「まあその前にまさか点差勝負になるとは思ってなかったろうな」
 
「ちなみに、この試合にP高校が勝った場合は、もちろんP高校代表確定」
「そのケースしか考えていませんでした!」
 
「P高校が勝てば、P高校3勝・M高校1勝2敗になるから、私たちはC学園に勝ちさえすればインターハイに行ける」
 

試合は第4ピリオド、抜きつ抜かれつの激しい勝負となる。
 
どちらも疲労限界を超えているのを、気力と根性で戦っている感じである。両チームとも、第4ピリオドは交代要員を使わずに、本来のベストメンバーで戦っている。そうしないと悔いが残るだろう。
 
最後59対58と1点P高校がリードしている状況でN高校はフリースローを得た。 
撃つのは葛美である。センターの彼女はゴール下からのシュートは得意なのだが、フリースローはあまり得意ではない。残り時間は0.9秒である。外したリバウンドを取って撃つにしても急がないと間に合わない。
 
一応左側にはP片山・M宮子・P猪瀬、右側にはP宮野・M橘花と並んでいる。 
審判がボールを渡す。気持ちを集中させるようにボールを1度2度、床にバウンドさせる。セットする。
 
撃つ!
 
入った。同点!
 
2本目。審判がボールを渡す。葛美はもうボールに床を打ち付けない。じっとゴールを見詰めている。セットする。
 
撃つ!
 
同時に全員動き出す。
 
がボールはきれいにネットに飛び込んだ!
 
逆転!
 

P高校の片山さんがスローインする。センターラインの向こうでそのボールを尾山さんが受け取ったが、即試合終了のブザーが鳴る。尾山さんはブザーと同時に遥か彼方のゴール目がけでボールを投げたが、ボールはバックボードにも当たらなかった。尾山さんはそのまま座り込んでしまう。
 
《女王》札幌P高校がまさかの敗戦を喫した瞬間であった。
 
両者整列する。
「60対59でM高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
あちこちで握手したりハグしたりする姿があった。大激戦だったがファウルのひじょうに少ない試合だった。P高校としてもZ高校との試合で注意されているのでこの試合では気持ちを抑えて戦ったようである。しかし最後のフリースローにつながるファウルを犯してしまった竹内さんが泣いているのを片山さんが抱いて慰めていた。
 
「私たちはC学園に50点差以上で勝たなければならない」
と南野コーチが、千里たちに言った。
 

 
やっと起きてきた暢子が試合結果を聞いて驚いていた。
 
「P高校が負けるなんて、何十年に一度の出来事だろうに、それを見られなかったのが悔しい」
などと暢子は言うが
 
「その代わり、暢子ちゃん次の試合で50点取って」
と南野コーチは言った。
 
南野コーチがインターハイ代表校の決まり方を解説する。
 
「私たちはC学園に勝つという前提で話す。その場合、P高校・M高校・N高校の3者が2勝1敗で並んで、得失点差の勝負になる。なお、現時点で既にC学園は2敗しているからインターハイに行けないことが確定している」
 
「M高校は得失点差+52、P高校は+50だから、これでM高校のインターハイ進出は決まった。N高校はここまで得失点差は+1。だから、私たちがC学園に49点差で勝った場合は+50でP高校と並ぶけど、その場合直接対決でP高校が勝ってるから、P高校が代表になる。50点差で勝てば得失点差は+51となって、P高校の得失点差を上回り、私たちが代表になる。ちなみに50点差だと1位M高校で2位N高校だけど、51点差なら1位N高校、2位M高校になる」
 
「まあ100点差で勝てばいいってことだよね?」
とあまり考えるのが得意ではない暢子が言う。
 
「うん。そのつもりで頑張ろう」
「私は武村さんのマークに入るから、千里150点取って」
「うん。200点取るよ」
 

整列する。挨拶して試合開始する。ティップオフは向こうが取って攻めて来るが、いきなり雪子がスティールを決める。そのままドリブルで攻め上がり、追いついてきた千里にパス。そこからスリーを撃つ。
 
入って3点。
 
N高校が先制してゲームは始まった。
 
こちらは相手に大差で勝たなければいけないので、積極的にプレスに行く。この試合では雪子はスティール、パスカット要員である。雪子はそういうのが本当に巧いので、相手はボールを盗られたことに一瞬気付かず、ドリブルを続けようとしたり、あるいはシュートしようとして「あれ?」となるシーンが多かった。
 
C学園のシューター武村さんには、ピタリと暢子が付いて一切仕事をさせない。P高校では片山さん、M高校では橘花がやっていたポジションを、暢子はこの試合でしっかりとやりとげた。とにかく武村さんへのパスが通らないし、最初から武村さんがドリブルで運んで来た場合も、雪子や千里が忍び寄ってスティールしてしまう。C学園はこういう強いチームとの対戦経験が今回の決勝リーグにあがって来るまでは、あまり無かったようで、このあたりが無防備であった。 
雪子は本当にスティールが巧いし、千里も相手に近づく時は気配を消しているので、相手はこちらに全く気付かないことが多かった。
 

試合は前半を終わって30対10とトリプルスコアだが、点差は20点しか無い。50点差以上にしなければならないので、もっとペースを上げる必要がある。 
観客席で、M高校、P高校のメンバーが自分たちの試合を見ている。P高校は佐藤さんの姿もある。自分が出られなかった試合で負けて、出場した選手以上に悔しい思いをしているだろう。P高校がインターハイに行くためには、この試合の点差が49点未満であることが条件である。
 
「点数取られるのは気にしないことにしよう」
「うん。相手の4倍取ればいいことよ」
 
それで、守りの要の留実子を下げて、点取り屋として揚羽を入れる。そもそもこの試合では守備重視の穂礼ではなく、攻撃重視で雪子を入れているので、これで久井奈・千里・雪子・暢子・揚羽と、超攻撃的布陣になる。
 
後半、暢子がとにかく相手の武村さんをしっかりマークし、残りの4人で試合を進める。千里はどんどんスリーを撃つし、雪子はどんどんスティールを決め、揚羽が積極的に敵陣に侵入してゴールそばからシュートを決めるし、リバウンドを取る。揚羽はリバウンドを取るのがひじょうに巧い。
 
武村さんに警戒する以外は守備は不熱心になったことで、相手の点数も前半よりは入るが、こちらの得点ペースはもっと上がった。
 
第4ピリオド、残り2分の時点で74対26と48点差。あと2点差を付ける必要がある。ここでやや疲れの見えた暢子のマークを振り切って武村さんがスリーを決め、74対29(45)。しかし速攻で反撃して、こちらも千里のスリーを入れて77対29(48)。相手が攻めてくるが、ここで再び武村さんが暢子のマークを外してパスを受け・・・・ようとした所を千里がカットする。
 
実はこちらの「マークを外される」こと自体がフェイントで最初から代わりに千里が入ることにしていたサインプレイである。
 
千里が空中で体勢を崩しながら夏恋にパス。夏恋がドリブルで運ぶ。頑張って走って奥深い所まで行っている揚羽がいる。そちらにパス。そのボールをドライブインしてゴール近くからシュート。
 
入って79対29(50)。
 
やっと50点差!
 
相手が攻めて来る。残り1分。向こうのフォワードが強引に中に持ち込んでシュートするが外れる。リバウンドを揚羽が取って速攻。揚羽から雪子、雪子から千里へとパスをつなぎ、千里がそのまま勢いでゴール下まで走り込んでレイアップシュート。入って81対29(52)。
 
残り28秒。相手が攻めて来る。向こうのポイントガードが攻めあぐねて自らスリーを撃つ。これが入っちゃった! 81対32(49)。残り5.2秒。
 
暢子から千里へロングスローイン(時計は千里がボールを受け取った所から動き出すので時間が稼げる)。そこからスリーを撃つことも考えたが、夏恋が走り込んできたのを見てそちらにパス。そしてシュート。しかしブロックされた 
・・・かに見えたが、ファウルを取られた。
 
フリースローになる。残り1.4秒である。夏恋は大きく息をしながら審判からボールを受け取る。じっとゴールを見詰める。
 
1本目。リングには当たったものの入らない。
 
「落ち着いて、落ち着いて」
「入れたらカツサンドおごってやるぞ」
「クォーターパウンダーでもいいぞ」
「入れたら彼氏紹介してもいいぞ」
「何も考えるな」
と味方から声が掛かる。
 
心を落ち着けるようにしてシュート。
 
ボールはバックボードに当たり、そのままネットに吸い込まれる。
 
82対32(50)。
 
やった!!
 
相手チームがスローインするが、すぐにブザー。
 
試合終了!!!
 

整列する。
「82対32でN高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
この結果、N高校は得失点差で+51となり、道大会2位でインターハイ進出が決まったのであった(M高校+52、P高校+50)。最後のフリースローを決めた夏恋がみんなにもみくちゃにされていた。
 
観客席に目をやると、M高校の生徒たちは冷静だが、P高校の生徒たちは悲痛な表情で引き上げていく。しかしその中で佐藤さんだけが、まだ立ったまま、こちらを見詰めていた。千里がそちらに目をやると、両者目が合う。
 
その佐藤さんの熱い目に、千里はインターハイでの健闘を誓った。
 
最終的な勝敗表

_P N M C 

P− ○ × ○ 2勝1敗

N× − ○ ○ 2勝1敗

M○ × − ○ 2勝1敗

C× × × − 3敗

 
_P N M C 得 失 差

P− 80 59 73 212 162 +50

N76 − 89 82 247 196 +51

M60 84 − 83 227 175 +52

C26 32 27 − _85 238_-153

 

着替えて、帰ろうとしていたらロビーでM高校の橘花・友子・伶子の3人に会う。あらためてハグし合い、「インターハイ進出おめでとう」「佐賀でも頑張ろう」と言い合う。
 
「そうだ、そうだ、千里。千里に関するまた新しい噂を仕入れたぞ」
と友子が楽しそうに言う。
 
「今度は何ですか?」
「N高男子で活躍していた子とN高女子のシューターは一卵性双生児だったというのだよ」
「へ?」
「それでふたりとも男だったけど、兄弟そろって性転換した」
「へー!」
「兄弟から姉妹への性転換か」
「ほんとにそれやられると親は頭が痛い」
「いや実は兄弟から姉妹へってのは割とよくある」
「やはりそういう傾向も多分遺伝なんだよ」
 
留実子が何だか居心地の悪そうな顔をしている。
 
「まあそれで、妹になった元弟は1年早く性転換したので、療養期間も終えて、性転換後1年経過したというので女子としての出場が認められてN高女子チームに参加しているが、姉になった元兄の方は去年の秋に性転換手術を受けたので、まだ療養中だというんだな」
 
「なんか微妙に真実に近づいている感じもしますね」
と暢子が楽しそうに言う。
 
「でも性転換手術なんて受けたら実際に1年間くらい療養・リハビリに掛かるだろうなあ」
「性転換してすぐには練習できないだろうね。最低半年くらいは休まなきゃ」
「その間に体力も技術も落ちるだろうから、その感覚を取り戻すのに更に3−4ヶ月は掛かると思うよ」
 
「まあ、実際には千里は小学生の内に性転換済みだったからね」
と友子。
 
「なんかもう、そういう話でいいやと、最近思うようになりました」
と千里。
 
「だって、中学1年夏のバスケ部の合宿の時、一緒にお風呂に入ったもんね」
「友子さんたちにはバッチリ、裸を見られましたね」
 
と千里が言うと、暢子は「ふーん」という顔をしていた。
 

男子の方では貴司たちのS高校は今年は決勝リーグ3連勝でインターハイ出場を決めた。千里は試合終了後、S高校のチームが引き上げてくる所に待ち構えていて
「インターハイ出場おめでとうございます」
と声を掛けた。
 
「ありがとう」
と貴司は笑顔で言って、千里と握手をする。
「そちらもインターハイ出場おめでとう」
「ありがとう」
 
「細川、村山、コート外だからキスしてもいいぞ」
「会場では控えておきます」
 
「ああ、会場から出た後、セックスするんだな」
「ふたりだけ別便で帰るんだっけ?」
「既にホテルを予約しているという噂が」
「佐賀でもふたりだけで別宿舎とか」
 
などという声が掛かるが、千里と貴司は笑顔で見つめ合っていた。
 
「じゃ、また連絡するから」
「うん。これから佐賀に向けて頑張ろう」
「うん。お互い頑張ろう」
 
ふたりは再度握手をして別れた。
 

「だけど千里、今回の大会では何か達観したような雰囲気を感じた」
と帰りのバスの中で千里は穂礼さんから言われた。
 
「地区大会まではまだ自分の中で納得していないものがあったんですよ。自分は実は男なのに、こうやって女子の公式試合に出てていいのかってのが」
 
「千里は実は女のはず」
と横から暢子が言う。千里はそれに頷いた。
 
「でも実は私、本当に女の子になっちゃったんです。だから何の迷いもなく、全力でプレイできました」
 
「えーっと、女の子になったって、初潮が来たとか?」
「ああ。生理なら、ちょうど中間テストの時にありましたから、道大会には全く影響無かったです」
 
「・・・・・」
 
「千里、生理あるんだっけ?」
「女の子だから、あるのが普通だと思いますけど」
 
と千里が笑顔で言うと、穂礼さんは何だか悩んでいた。
 

M高校とN高校が、ここ1ヶ月ほど毎日練習試合をやっていたというのを聞いてL女子高の溝口さんが「私たちも入れて」と言ってきた。
 
「おお、歓迎、歓迎」
「去年も今年も決勝リーグに残れなかったし」
「でも実力的には、やはりL女子高さんが旭川では最強」
「実力より結果だよ」
 
「だけど3チームだと1チームは見学?」
「それはもったいないよね」
「どこか、あと1校引き込もうよ」
 
「A商業さんか、R高校さんあたりに声掛けてみる?」
「いや、それより男子入れない?」
「え?」
 
話し合いの結果、M高校とN高校の合同男子チームがこのプロジェクトに参加することになった。M高校・N高校・L女子高ともに、バスケット部が練習している体育館は2面コートが取れるので、そこで毎日19時から20時までふたつの練習試合を同時並行で進める。組合せは毎日変えていくので、同じ相手とは3日に1度当たることになる。
 
練習試合は道大会が終わった後、1日置いて6月26日から始めた。
 
合同男子チームはM高校とN高校から5人ずつ出すことにした。これにN高校では、新チームの中心となる北岡(C)・氷山(PG)に、1年生の水巻(PF),大岸(SF),湧見(昭一,SG)という5人で初日はやってきた。
 
「あれ〜、昭ちゃん、なんで男子チームに入ってるの?」
などとM高校女子の選手たちから言われる。
 
昭ちゃんはこれまで毎日N高女子チームに入って練習試合に出ていたのである。おかげで、両チームの女子たちのアイドル(=おもちゃ)みたいになっていた。 
「僕、男子なので」
「えーー? 性転換しちゃったの?」
「最初から男です〜」
「だったら再度性転換して、女の子に戻ろう」
「女の子になると可愛い服とか着れるよ」
「そういうの好きだよね?」
「えっと・・・好きですけど」
 
「おお、そういう子はどんどん女装して、その内手術も受けて本当の女の子になるべきだよ」
 
などと言われて、またまた昭ちゃんは俯いて真っ赤になっていた。
 
「でもインターハイに行けなかったので、男子バスケ部の練習は当面他の部と同様に18時終了と言われてしまったから中核メンバーだけでも遅い練習に参加できるのは助かる」
 
と新キャプテンに予定されている北岡君は言う。
 
バスケ部は絶対インターハイに行くからと言って特例で19時までになっていた練習時間を4月から男女とも20時までに超特例で伸ばしてもらっていた。女子の方はインターハイに行けたことでこの超特例が持続するが、男子の方は2ヶ月半にわたって1時間延長していたので、1学期いっぱい(10月上旬まで)は18時終了で夏休みも練習は週に1回までと言われた(本当は夏休みは練習自粛の約束だったのをそこまで許してもらった)。しかしこの練習試合については「インターハイに出場する女子の練習に協力する」という名目で、参加者だけ20時までの活動が学校側から認められたのである。
 
「それにこの女子チームは3つとも男子並みに強いから、ほんとにこちらの練習にもなるし」
 
「この5人が秋の大会の中核になるんだろうね」
「うん。シューティングガードは落合を連れてくるか湧見を使うか悩んだんだけどね。湧見は4月に比べると、かなり体力付けてきているみたいだし。落合は別途毎日600シュートを課してる。あいつは試合に出すより、そういう練習の方が良い」
 
「うんうん。バスケって各々のポジションの専門家が必要なスポーツだから」
「そのあたりが、ラン&ガン派と、いつも議論になる所だけどね」
 

「だけど、男子チームさん、相手が女子だからといって遠慮しないでよね」
「こちらは身体の接触とか何にも気にしないから」
「でも、おっぱい掴んだりしたらぶん殴るから」
 
「ああ、千里は男子チームに入ってた時、まともにおっぱい掴まれたことあるらしい」
「それでつかんだ男子が『ぎゃっ』て声あげたらしい」
「まあ、男かと思ってホールディングして、女だったら驚くよね」
 
「やはり千里は女なのに男子チームに無理に入って、色々問題を引き起こしてたんだな」
 

この練習試合が始まる前日の6月25日、女子バスケ部は臨時で休みとなった。さすがにまだみんな疲れが残っていたのである。
 
その日千里は学校が終わった後、旭川駅17:38の列車に乗って留萌に行った。駅で母が待っていてくれた。千里は女子制服姿だし髪の毛もショートヘアのウィッグだが、その件に関して母は何も言わない。
 
「お母ちゃん、これお土産」
と言って、旭川で買ったお菓子を渡す。そして母の車に乗り込む。
 
「お前、次帰って来られるのはいつ?」
「インターハイに行くことになったから、8月上旬までは全く時間の余裕が無い」
「だったら、お盆には帰れる?」
「それがお盆も用事が入っているんだよ」
 
実はお盆に旭川に来る予定の美空に合わせて、DRKの音源制作をする予定なのである。 
「どこかで一度帰れるとは思うんだけどね」
 
母の車は貴司の家の前に停まる。家の中から貴司とお母さんが出て来て、母同士挨拶のやりとりである。
 
「それではよろしくお願いします」
と母は言って、車で帰っていった。
 
千里は貴司と貴司のお母さんと一緒に家の中に入る。
 
「あ、千里ちゃん、いらっしゃい」
と貴司のお父さんは言ったが、
「いや、お帰りと言った方がいい?」
と訊く。
 
「はい、おかえりでいいです。ただいま戻りました、お父さん」
と千里は笑顔で挨拶した。
 
「でも髪、伸びたんだね」
「はい。少し伸びました」
「千里ちゃんは中学時代は腰まである長い髪だったんだけどね」
とお母さんが言う。
「それを丸刈りにしちゃうなんてもったいない」
 

「まあ、それで貴司、18歳の誕生日おめでとう」
と言って、千里は貴司に誕生日プレゼントを渡す。今日6月25日は貴司の誕生日なのである。
 
「ありがとう。何だろう?開けていい?」
「もちろん」
 
「おぉ!G-SHOCKだ!」
 
「3月にお財布もらったから、そのお返し。ハミルトンのジャズマスターとどちらにしようかと迷ったんだけど、貴司、ハミルトンなんか持ってても練習の時には使わないだろうし、G-SHOCKなら、いつでも付けててくれそうな気がしたから、こちらを選んでみた」
 
「ああ、僕は格好良いのより、実用性が高いものの方が好き」
「うん。そのあたりの好みは多分私と同じかと思った。これ世界各都市の時刻も表示できるから、貴司日本代表になって世界選手権に行った時も使えるよ」
「行ってみたいな」
 

最初にデコレーションを施した生クリームのホールケーキに大きなロウソク1本と小さなロウソク8本を立て、火を点けて貴司が一気に吹き消す。
 
「Happy Birthday!」
 
ケーキを千里が6等分に切って、皿に載せて配った。
 
道大会に行った帯広で買って来たぶどうジュースを開ける。
 
「あれ?2本あるんだ?」
「そうそう。僕も千里も偶然同じものを買ったんだよ」
「気が合うね!」
 

食事はお母さんがビーフシチューと唐揚げ・サラダを作ってくれている。 
「お肉が凄く軟らかくて美味しいです」
「3時間煮込んだから」
「すごーい」
 
「唐揚げも食べてね」
「食べてまーす」
 
「でもふたりともインターハイに行けて良かったね」
「貴司さんとこは実力ですけど、うちは運が良かったです」
「後でゆっくり状況を聞いたけど、P高校は不運が重なったみたいだね」
「トーナメントの組合せもあったと思う。うちは比較的楽できたから」
 
「でも千里、男子チームに居たら、インハイ行けてない」
「かもねー」
「N高は男子と女子のレベル差が大きいから」
 
「でもなんで男子チームに入ってたの?」
とお父さんから訊かれる。
 
「実は貴司さんと戦いたかったからなんです。1勝1敗でしたけど」
 
「だけど、こいつ協会から性別を疑問視されて、それで調査されたら、そもそも戸籍も女だし、念のため病院で精密検査受けさせたら、やはり医学的にも女だというので、女子チームに移籍になっちゃったんですよ」
 
「いや、精密検査も何も、千里お姉さん、ふつうに女の子にしか見えないよね」
と妹たちからも言われる。
 
「すみませーん」
 
「だいたいこいつ中学では女子バスケ部に入っていたのに」
「えへへ」
 
貴司・貴司の母と話し合い、お父さんには、千里は実は普通の女の子であるということにしておくことにしたのである。
 
そしてふたりがまだ現実的に結婚を考えられる年齢ではないことは承知の上で、これまで4年間も交際してきていることを配慮して、お互いに『お嫁さん』と『お婿さん』に準じて扱ってもいいということにした。但しセックスは禁止はしないが、やりすぎないこと、する時は必ず避妊することは大前提である。 

御飯の後で、千里が旭川で買って来た洋菓子をみんな食べる。千里がお土産に持って来た紅茶の封を開けて、ティーポットで煎れる。
 
「なんかインドの文字が書かれてるね」
「ええ。知り合いがインドに出張で行って現地で買って来たらしいです。これはケララと書いてあるらしいです」
と言ってから、千里は一瞬後ろの方に《気》をやって
「こちらの小さい文字はカンヌールと書かれているそうです」
と言う。
 
千里が後ろの子と交信したのに気付いたのはお母さんだけである。
 
「このお土産をくれた人は、ケララは南インドの紅茶・緑茶の生産地で、カナンデバンなんかのある州だと言ってました」
 
「ケララカレーとか売ってるよね」
「あ、スパイスのセットですね。あれ自分でブレンドしてカレー粉作れるんで美味しいカレーが作れるんですよ」
「千里、今度来た時、それ作ってよ」
「いいよ」
 
「カナンデバンといったら2000m級の山の上で作ってる紅茶だよね」
「ええ、癖が無いのでミルクティーに良いそうですよ」
 
「ミルクティーにいいというと、ニルギリも南インドだよね?」
とお母さん。
「あ、近いそうです。ニルギリは何と言ってたかな・・・タミール・ナドゥー州です」
 
「よくそういう外国の固有名詞が頭に入るね」
「あ、私、割と記憶に残りますよ〜」
 
「千里ちゃん、人の顔を覚えるのも得意だし」
「そうですね。一度見た人の顔と名前はだいたい一致します」
 
「スナックのママさんができる」
とお父さんが言うと
「別にスナックのママさんしなくてもいいと思うけど」
とお母さんは言う。
 

お茶を飲みながら歓談しつつ、交代でお風呂に入る。そして夜11時頃には各々の部屋に引っ込む。
 
なお、明日は朝1番5:53留萌駅発の汽車に乗ると7:30に旭川に着くので0時間目(補習)には間に合わないものの、通常の授業にはちゃんと出席できる。むろんその前にしっかり朝練をやってから駅まで送ってもらう予定である。
 
部屋の中でふたりきりになると、千里と貴司は、まずはディープキスをする。 
春休みはバスケの練習で帰れず、ゴールデンウィークは帰省しようと思っていたら雨宮先生に呼び出されたので、お正月以来5ヶ月ぶりの甘い時間である。 
「何度か旭川に出ようかと思ったけど、ずっとバスケの練習してたから」
「私もひたすらバスケの練習してた」
 
「千里、何だか凄く大人っぽくなった気がする」
「かもね〜。私実は今17歳なんだよ」
「え!?」
 
「ついに本当に性転換手術しちゃったから。その後1年療養してたのよね。バスケの勘を取り戻すのにも時間掛かったけど、気合い入れて頑張ったから」
「意味が分からないんですけど」
 
「その後で元の時間に戻してもらったから、実は1年留年したようなもの」
「まあ確かに性転換手術したら、1年くらい棒に振る気はするよ」
「棒を取って、棒に振るのね」
「千里がそんな下ネタ言うなんて」
「少しおとなになったから。それに私、今、排卵期だから性欲強いのよ」
 
と言って千里は再度貴司にキスする。
 
「千里、生理あるの?」
「秘密」
 
そして千里は貴司の股間のものを掴んで強く弄ぶ。
 
「痛痛・・・」
 
「私を満足させてくれないと、これ私が食べちゃうぞ」
「食べられたーい。でもその前に普通に逝きたい」
「いいよ」
 
千里は灯りを消す。カーテンも引いているので真っ暗だ。服を脱ぐ。暗闇の中に千里の裸体がほんのりと浮かぶ。
 
「千里、おっぱい成長してる気がする」
「女の子になったからね。今日は普通に入れていいよ」
 
「えっと、普通って・・・スマタ?」
「ヴァギナに決まってるじゃん」
と言って千里は貴司に抱きつく。そして自ら貴司に押し倒されるようにした。 
「やはり千里、ヴァギナがあるんだよね?」
「日によってはね」
「日替わりなの〜?」
 
「貴司がインターハイに行けたお祝いにさせてあげる。それから私がインターハイに行けたお祝いに、貴司私としてよ。更に誕生日のお祝いで1回。だから3連発」
 
と言って千里は避妊具を3枚貴司の手に握らせた。
 
「よ、よし!」
「3発行ける?」
「頑張る!」
 
ふたりは微笑んで本能を全開にした。
 
「でも妹さんたちに聞こえないように音立てずにね」
「努力する!」
 
 
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