【女の子たちの初体験】(2)
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(C)Eriko Kawaguchi 2014-07-19
千里が意識を回復した時、そばに蓮菜だけでなく、雨宮先生も居る。
「あ、目が覚めた? お医者さんを呼ぶね」
と蓮菜が言い、ナースコールのボタンを押した。
「雨宮先生まで済みません」
「いや、どうもよく分からない状況みたいだから」
「へ?」
と千里は言ってから
「手術・・・・終わったんだよね?」
と蓮菜に尋ねる。
「手術はキャンセル」
「えーー!?」
やがて医師がやってくる。何だか難しい顔をしている。
「君は去勢手術する必要が無いようなので、身体にメスは入れなかった」
と医師は言った。
「え? どういうことでしょうか?」
「手術しようと思って、君の下着を下げて患部を露出したのだけど・・・どう見ても、女性の外陰部で、睾丸どころか、陰茎も陰嚢も無かったので」
「へ?」
「患者の取り違えをしてないか? と騒ぎになって、付き添いのお姉さんにも手術室の中に入ってもらって確認して、君本人というのは確認が取れたのだけど」
「千里、私も千里のお股を見たけど、普通に女の子のお股だと思った。先生が割れ目ちゃんを開いて中を確認したけど、クリちゃんもヴァギナもあった」
と蓮菜。
「そんな馬鹿な」
と千里。
「だって、先生、手術前の診察で私の男性器を見られましたよね?」
「うん、だから分からない」
と医師。
「看護婦さん、看護婦さん、私の剃毛してくださったから、触ってますよね」
「ええ。私もどうなっているのかさっぱり」
と看護婦さん。
「君、双子で、ひとりが男でひとりが女ってことはないよね?」
と医師。
「私に双子のきょうだいがいるなんて話は聞いたことないです」
と千里。
「私もこの子に双子の兄とかは居ないかって訊かれたけど、いませんって答えたよ」
と蓮菜。
「とにかく、君は睾丸摘出の手術などしようがないから」
と医師は言い、
「もう病院代はいいから帰って」
ということになってしまった。
「あのぉ、診察代・検査代に麻酔代とかは?」
「それ処理しようとすると書類がややこしくなるから」
ということで、結局お金も払わないまま、病院を出ることになる。
「結局どういうことなんだっけ?」
と蓮菜がホントに訳分からないという顔をする。
「蓮菜は席を外してくれたけど、看護婦さんが私の剃毛しにきたの自体は見ているよね」
「うん」
「私のおまたが既に女の子の形をしていたら、その時看護婦さんが何か言ってるよね?」
「だと思う」
「で、結局、あんた今付いてるの?」
と車を運転している雨宮先生から訊かれる。
それで千里は自分でも自信が無かったので、服の中に手を入れて確認する。
「付いてます」
「触らせて」
と蓮菜が言うので服の上から触らせようとしたのだが、蓮菜は服の中に手を入れて直接触ってしまった。小学生の頃に留実子には触られたことがあるが蓮菜に触られるのは初めてだ。
「付いてるね。棒も玉もある。すっごくちっちゃいけど」
「私も訳分からない!」
と千里は言ったが、蓮菜は
「これ作り物じゃないよね」
と言って、強く引っ張る。
「痛たたたた!」
「本物っぽい」
「なんか11月に女の子の身体だという診断書が出たという理由が分かったような気がするよ」
と雨宮先生は言った。
「あんた、自分では付いているような気がしているけど、実はもう付いてないんだよ」
「えーーー!?」
「考えてみると、秋に確かに私もあんたのお股に触ってるいるけど、あの時は付いてると思った。でもきっと医師がきちんと診察すると付いてないように見えるんだよ」
「そんな馬鹿な」
「だってそれしか考えられない」
「どういう状態なんですかね?」
「普通の人なら有り得ないけど、フルートや龍笛が吹けるのにリコーダーが吹けない千里ならあり得る気がする」
と雨宮先生。
「ああ、確かに。激しい練習毎日しているのに凄い少食な千里ならあり得る気がする」
と蓮菜まで言う。
「だから、あんたは医師が診たら女の身体にしか見えないんだから、第三者的には既に睾丸も無ければ、お股はちゃんと女の形をしている、ということなんだよ。男の器官が付いてるような気がするのは、ただの気のせい。だから堂々と女子選手としてインターハイに出ればいいよ」
と雨宮先生は言った。
「なんか、もう気にするだけムダな気がしてきました」
「うんうん。そんなの気に病むだけムダ。純粋に練習のこと考えればいい」
「そうしましょうかね」
と言って千里は疲れたように大きく息を付いた。
雨宮先生が空港までふたりを送ってくれたので、千里は
「余計なお手数お掛けして申し訳ありませんでした」
と謝り、蓮菜と一緒に新千歳行き最終便に乗り込んだ。
「先生にご迷惑掛けたし、頑張って楽曲を仕上げよう」
と言って千里は機内でもパソコンを広げて、譜面の入力を進めた。
「頑張るね。千里って、いつ休んでいるんだろ?って時々思うよ」
と蓮菜。
「蓮菜にも手数掛けさせちゃってごめんね」
「ううん。去勢手術のやり方とか聞いただけでも勉強になった」
「確かに普通聞く話じゃないかもね。何だかもう訳が分からないけど、自分の性器のことはもう考えないことにするよ」
「それがいいよ。実際問題として、お股の形がどうなっていようと、千里が女の子であることは、私も、みんなも良く知ってるよ」
「そうだなあ」
「明日からは女子制服で出て来なよ」
「うーん。どうしよう?」
「インターハイに女子代表として出るのに、自分の身体が後ろめたいと考える前に、男子制服で学校に出ていることのほうがもっと問題という気がするぞ」
「うっ」
「だいたい2年生になってからの出席日数22日間の内、千里18日は女子制服で出て来ている」
「よく数えてたね!」
「まあ適当に言っただけだけど」
「びっくりした」
「でもそのくらい出て来ていると思うよ」
「そうなんだよねー。なんか自分でも随分女子制服着ている気がする。最近さあ、練習が結構きついじゃん。それで朝まだ疲れが残っているんだよね。それでよく、私が朝御飯作っている間に、おばちゃんが『ここに制服出しておくよ』などと言って準備してくれているんだけど、まず女子制服が出ている気がするんだよね」
「するとそれをそのまま着て来てるんだ?」
「うん。朝ぼーっとしてるもんだから」
「千里のおばちゃんって良き理解者だなあ」
と言って蓮菜は笑い
「もう男子制服は廃棄しちゃったら」
と言った。
「えー?もったいないよぉ」
千里は蓮菜とおしゃべりしながら機内でまず今日書いた『See Again』という曲をCubaseに入力し、時々蓮菜に確認しながら調整を掛けていった。昨日書いた『黄昏の海』の方は帰宅してからだ。
千里は新千歳から旭川までのバスの中では寝ていたものの、帰宅してから夜2時までCubaseへの入力作業を続けた。明日再度中身を吟味してから送信するつもりである。
翌朝、千里がさすがの強行軍の疲れで半ばボーっとしたまま朝御飯とお弁当を作っていると、美輪子が
「千里〜、新しいブラウスと制服ここに出しておくよ」
と言った。
「ありがとう」
と答えた千里は朝御飯を食べると、叔母が出してくれたブラウスを身につけ、そのままブレザーとスカートを身につけて、通学鞄にスポーツバッグに自転車の鍵を持ち
「行ってきまーす」
と言って玄関を出て行った。美輪子はおかしくてたまらないという表情をしていた。
その日、千里がさすがに疲れていたので練習を18時で切り上げさせてもらい、女子制服に着替えて帰宅していたら、校庭のそばを通りかかった時に目の前に野球のボールが転がってきた。
「すみませーん。取ってもらえますか?」
と声を掛けたのは、先日廊下でぶつかった子だ。向こうも千里の顔を見て「あっ」という感じの顔をしている。千里はボールを拾うと「行くよ」と言って、彼のグラブめがけてボールを投げた。
ボールは彼のグラブの位置にストライクで納まる。バシッという鋭い音がした。彼が驚くような表情をしている。
「頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます」
と彼は笑顔で言った。
野球部のレギュラー組・控え組は、校舎から3kmほど離れた所にある野球場で練習しているはずだ。学校の校庭で練習しているのは、控え組からも漏れているいわば三軍以下の子たちだろう。千里はホントに君たち頑張れよ、という気持ちで彼らを眺めながら、自転車置き場の方に歩いて行った。
その日(月曜日)は結局帰宅してから0時頃まで仮眠をし、その後楽譜の整理作業に取りかかった。ヘッドホンを付けてMIDIを鳴らしてみて、小さな声で自分でも歌いながら、違和感のあった所などを微調整していく。この作業は3時頃まで掛かりそれでデータを雨宮先生に送信して、その日は寝た。
火曜日はやはりまだ少し寝不足で頭がボーっとしている。それで美輪子が「ここに制服置いとくね」という声に「ありがとう」と答えると、出された制服をそのまま着て、千里はあくびをしながら学校に出かけて行った。
その日の昼休み、千里がピアノの練習をするのに音楽練習室に行こうと1階の廊下を歩いていたら、ちょうど向こうから、例の野球部の子がこちらに来る所だった。一瞬目が合ったので会釈すると、向こうも何だか恥ずかしそうに会釈した。
その時、ちょうど職員室から出て来た暢子が
「あ、千里、ちょうど良かった。バスケ部の女子、全員今から南体育館に集合だって」
と言う。
「服装は?」
「制服のまま」
「OK」
それで千里は暢子と一緒に今来た方角と逆向きに歩き出す。何だか背中に熱い視線を感じた気がした。
その日の放課後、千里がいつものように南体育館(朱雀)でバスケットの練習をしていたら、何だか視線を感じる。見ると2階で野球部のユニフォームを着た男の子がこちらを見ていた。
「おーい、練習サボってないか? 頑張れよー」
と声を掛けると、彼は何だか照れたようにお辞儀をし、それから体育館を出て行った。
金曜日の練習の後、千里が更衣室で着替えていたらM高校の橘花から電話があった。
「明日、札幌P高校と愛知J学園の親善試合があるの知ってる?」
「え?そんなのあるの? どこで?」
「札幌P高校の体育館。見に行かない?」
「行きたい! って私たちが見てもいいの?」
「一般に開放するって。但し先着順だから早く行ってないと入場できない可能性もある」
「早朝から行かなくちゃ!」
それで、その場に暢子と雪子も居たので2人にも声を掛けて3人で早朝の高速バスに乗り、見に行くことになった。
翌朝、旭川のバスターミナルでM高校の橘花・友子・伶子の3人に会う。向こうも実は昨夜結構遅くに知ったらしく、この3人だけになったらしい。
「わあ、その情報をこちらに教えてくれたんだ。ありがとう」
「だって高校女子バスケの最高峰同士の戦いじゃん。見なくちゃね」
「宮子ちゃんたちも行くかもと言ってたけど、このバスじゃないみたい」
札幌に到着し、P高校の体育館に入ると、これまでに対戦した強豪チームの中心選手を何人も見る。旭川L女子高や帯広C学園、釧路Z高校、函館F高校などの選手が居て、何人か目が合って会釈した子もいた。
両チームの選手が整列する。本来はベンチ人数は15人だが練習試合だからだろう。双方20人以上居る。試合が始まる。
「あれ?花園さんは?」
「居ないね。どうしたんだろ?」
「主力外してきた訳じゃないよね?」
「そんなことない。ウィンターカップ決勝で30得点したフォワードの日吉さんが居るし、正PGの入野さんが入ってるし、ほぼベストメンバーだと思う」
「花園さん、ベンチにも居ないね」
「風邪でも引いたのかも」
「彼女を見られないのはちょっと残念だな」
そんなことを言っていたものの、次第にみんな口数が少なくなる。
「凄いね」
と暢子が言った。
「これが全国トップのレベルだよ」
と橘花が言う。
「もし1回戦でこことぶつかっちゃったら、ここに勝たない限りBEST8とかは望めない訳か」
と暢子。
「そういうこと」
と橘花。
そんな会話をしていたら、伶子が言う。
「ふたりとも凄い」
「何が?」と橘花。
「だって当たったら勝たなきゃとか、私、そういう発想しなかった。インターハイに行けたら、ここと違う山になりますように、と思っちゃった」
と伶子。
「相手だって同じ女子高生なんだから、勝つ道はあるはずだよ」
と暢子が言った。
「まあNBAのチームと戦えというんじゃないからね」
「NBAってもっと凄いんですか?」
「まあ今ここに出てる10人に更に花園さんが加わって11人でNBAの5人と戦っても、全く歯が立たないだろうね」
「400対0の世界だろうね」
「なんか、もう想像が付かない・・・」
「1歩1歩昇っていくしかないよ」
と橘花が言った。
試合は70対60で愛知J学園が勝ったが、とにかくハイレベルな試合だった。M高の3人とN高の3人で一緒にマクドナルドに入った。お茶でもという話だったのだが、ビッグマックとか頼んで食べている子もいる。
「花園さん、札幌までは来たらしいんだけど、お祖母ちゃんが倒れて危篤になったというので試合を欠席して釧路に行ったらしい。トイレでL女子高の浜川さんとバッタリ会って聞いた」
「あらあら」
「無事だといいね」
「だけど娘を愛知なんかまでやってると、両親も色々不安だろうね」
「大都会は誘惑も多いしね」
「特待生で都会の高校に行って、悪い遊び覚えちゃってダメになる子も時々いるみたいね」
「特にレギュラーに入るのが厳しい状況の子は危ない」
「やはり精神的に辛いよね。そういう状況は」
「地元に居たら中心選手だったろうって子も多いだろうし」
「でも今日は、どちらも全開じゃなかった気がする」
「まあ無理して怪我でもしたら、いけないし」
「でも凄かった」
「思ったけど、チームプレイ以前に各々の個人技が凄いよね」
「やはり頂点に立つチームってそういう傾向だと思うよ。チーム内がお互いにライバルだろうし」
「熾烈な争いなんだろうなあ」
「J学園でスターティング5になる子は実質プロ・レベルだと思う」
千里が何か考えている風なので橘花が「どうしたの?」と訊く。
「私は間違っていたよ」
「ん?」
「ウィンターカップ見た後で、あんな凄い選手に対抗するにはどうすればいいんだろう?と疑問を投げかけて、うちの監督はゾーンディフェンスでかなり対抗できるというのを教えてくれた。確かにゾーンを使うと相手の攻撃を相当抑えることができる」
「うん。地区大会でも新人戦でも使ってたね」
「だけどそれ根本が間違っているんだよ。そんな作戦の前に、個々の能力が高くなければ、どうにもならないんだ」
「まあ、それはあるね。ただ個々の能力はどうしてもすぐには高められない。各々の素質の問題もある。だからこその作戦」
「でもNBAでは以前ゾーンは禁止されてたね。そんなの使う前に個人の技を磨くべきってことで」
「やはりインターハイに行くには、自分の能力をもっとあげなければいけない」
「何するの?」
「少し考える」
「私も考えよう」
「だけどトイレって、なんかその手の情報交換の場所って感じでもあるね」
「ああ。情報も流れるけど、噂も流れる」
「千里の噂も色々ぶっとんだものがあって楽しい」
などと友子が言う。
「こないだ友子さんから聞いたと言われて、男子の試合に出てたのは私のお兄さんで癌で亡くなったという話を聞いて、私びっくりしました」
と千里は言う。
「ああ、その噂、まだ生き残ってたのか」
「なんか癌の治療のために睾丸もペニスも除去して女みたいな外見になっていたとか。いったい、どこからそんな話が出て来たのか」
「癌の治療じゃないけど、実際既に睾丸もペニスも取ってるよね?」
と橘花が訊く。
「その件なんですけどね。11月に協会から精密検査受けてくれって言われて病院に行ったんですけど、なんかお医者さんが、私には陰茎も睾丸も無くて、大陰唇・小陰唇に膣もあるという診断書を書いたんですよね。それで私女子の方に出てよということになったんですよ」
と千里。
「お医者さんがそう診断したということは、やはり性転換手術済みということなのでは?」
と伶子。
「でも私、本当は何も手術とかしてないんですよね。それで、この状態で道大会、インターハイと行くのは許されないと思って、実は先週、道外に出たときに去勢手術を受けに行ったんです」
と千里は告白する。
「それは知らなかった。あれ去勢手術受けに行ったのか?」
と暢子が言う。
「いや、別件の用事だったんだけど、そのついでにと思って」
「なるほど」
「で、手術台に載せられて、麻酔打たれて。それで目が覚めてとうとうやっちゃった・・・と思ったんだけど」
「うん」
「お医者さんが手術不能だったと言うんですよ」
「それはまた何で?」
「私には睾丸どころか陰茎も無いって。それどころか膣もあると言われて、私どうなってるんだろうと悩んでしまって」
「・・・・」
「それは結局、千里はやはり本当に性転換済みということだと思うが」
と橘花が言う。
「千里、そういう話、あまり人前でしない方がいい」
と友子。
「うん。頭がおかしいと思われるから」
と暢子も言う。
「うむむ」
「11月と今月と、2人のお医者さんが診て、千里は女の身体だと診断したということは、やはり女の身体なんだよ」
「手術を受ける以前に、男の身体が嫌だ嫌だと思っていたから、きっと未だに男だった頃の夢を見ちゃうんじゃないかな」
「ああ、そうかも、そうかも」
「まあ、私は中学時代に、千里を女湯の中で見ているからね。その時既に、おちんちんなんか付いてなかったもん」
と友子が言う。
「あ、私も合宿で千里さんと一緒にお風呂に入りました」
と雪子まで言う。
「実際、千里の体格は第二次性徴発現前に性転換したとしか思えない身体つきなんだよね。どこにも男の痕跡が無いもん」
と暢子。
「同意同意」
と友子。
「私、11月の精密検査で骨盤の形も女の子だと言われた」と千里。
「美術の先生も千里の骨格って女の子だと言ってたよ」と暢子。
「やはり小学生の頃に性転換したとしか」と橘花。
「そうでなければ最初から女の子だったかだよね」
と暢子。
「少なくとも、まだおちんちんが付いてるなんてのは、嘘か妄想か幻想かしか有り得ないな」
と友子。
「もう自分でも開き直るしかないかなとは思ってる」
と千里。
「うん。それでいい。道大会、全開でこないと怒るぞ」
と橘花は言った。
「そうそうトイレでの噂といえばさ」
「うんうん」
「こないだ聞いた話では、千里のお母さんは全日本の凄いシューターだったというのがあった」
「何ですか、それ〜!?」
「千里のお母ちゃんってバスケするの?」
「運動苦手な人だよ。中学は英語部、高校は茶道部だったらしい。バスケはこないだ話してたらゴール1回で2点入ることも知らなかった」
「お父さんは?」
「漁師だから体格はいいけど、運動はどうなんだろう。そういう話はしたことが無いなあ。私、お父ちゃんとはまともに会話したことがないんだよ。ずっと船に乗ってて留守だったし」
「あ、うちも同じ〜」
と伶子が言う。
「伶子のお父さんは海上自衛隊だったね」
と橘花。
「うん。たいてい出港してたから、お父ちゃんが家にいることって、めったになかったよ。たまに休みの日でも緊急招集掛かって、映画を途中で抜け出したことも何度かあった。だからお父ちゃんと映画見に行くの嫌だった」
と伶子。
「ああ、自衛隊はそれがある」
「だけどトイレでの噂って、勝手な憶測に、それっぽい情報源が適当に付加されて伝搬するっぽい」
「うん。誰とかから聞いたけど、というその前文自体が怪しい」
「女子トイレって待ち時間が長いからね」
「暇だから、いろいろ話している内に、話している本人もどこまで本当でどこからが憶測だったかが分からなくなるよね」
「ついでに誰から聞いた話かも忘れてしまう」
凄い試合見た後で、何もしないのは不満だねなどと言って、市民体育館に行き、バスケットのボールを借りて1時間半ほど軽く汗を流した。
「暢子、かなりグレードアップしてる」
「橘花、また上手くなってる」
「千里、かなりパワーアップしてる」
「友子さん、また精度が上がってる」
「雪子ちゃん、物凄く巧い」
「伶子さん、ドリブルに隙が無い」
終わってから、ファミレスに入って遅い昼食を取ったが
「お互いに手の内を見せすぎたかな」
「まあ、今からまた道大会までに鍛えるから」
などと言い合った。
「友子さん、中学時代はホントにスタミナ無かったのに高校に入ってから凄く体力付きましたよね」
「まあ高校に入ってから毎日10km走るようになったからね」
「すごーい!」
「千里も毎日5kmとか言われてけど最初だけだったね」
と暢子。
「えへへ」
「ああ、千里は何でも最初だけ頑張ってすぐ飽きるんだ」
と友子。
「だけど千里もかなりパワー付けてるよ」
「やはりウィンターカップ見た後で、気合いが入ったよ」
「ひょっとしたら手が届くかもというレベルの目標を実際に見るのは良いよね」
6人でおしゃべりしていた時、近くのテーブルに高校生カップルが案内されてくる。見ると、蓮菜と田代君である。蓮菜は凄く可愛い服を着ていた。一瞬目があったものの、軽く会釈だけしておいた。
しかし蓮菜は田代君を置いたまま、こちらのテーブルに来る。
「千里、今日はこちら何の用事だったの?」
「バスケの試合を見に来たんだよ。もう終わったんだけどね」
「だったら夕方時間ある?」
「うん」
「良かったらチケット買って」
「何のチケット?」
「雅文の入っているバンドのライブをやるんだよ。4バンド合同なんだけどね」
「お、すごい。蓮菜、歌うの?」
「うん」
「へー、高校生バンドなのか?」
と暢子が興味を持ったふうなことを言うと
「あ、もしよかったら、そちらも買ってください」
「いくら?」
「1人500円です」
「安いね」
「それ以上の値段付けたら売れないから」
「確かに」
結局その場に居た6人がみんな行くことになる。田代君もこちらのテーブルに来て、「すみませーん、よろしくお願いしまーす」などと挨拶していた。
ライブまでは時間があるので、各自自由行動ということにして、ファミレスを出たところで解散する。
それで本屋さんで立ち読みをしていたら携帯に着信するが発信元を見てびっくりする。父からだ。父が携帯に電話してくるなんて滅多に無いことだ。そもそも父は携帯の操作の仕方がよく分かっていない雰囲気だったのに!アドレス帳の10番に掛けようとして何故か110番に掛かったと言って騒いでいたこともある。
「千里、今日札幌に来てるんだって?」
「あ、うん」
「実はNHK学園のスクーリングで出て来たんだけど、帰りに旭川に寄ってお前に会おうかと思っていたんだけど、美輪子さんに電話したら今日は札幌に行っていると聞いたから、だったらこちらで会えばいいかと思って」
「ボク、夕方からも予定が入っているんだけど」
「何時から?」
「18時に東区の某所集合だから、市の中心部なら17時半くらいが限界」
「こちらの授業は今日は16時に終わるんだよ。それから駅に出るから16時半に駅前で待ち合わせて一緒に軽く晩飯食わないか?」
「そ、そうだね」
ということで父と会う約束をしたものの、千里は慌てる。
「男物の服買わなくちゃ!」
結局、ユニセックスなトレーナーと、普通の(レディス)のスリムジーンズを買って着替え、ウィッグは外して父との待ち合わせ場所に行った。一緒に近くのラーメン屋さんに入る。
「ジャイアントラーメンがうまいぞ」
「それボリュームありそうだから、普通の醤油ラーメンで」
ラーメンはすぐ出て来たが、ジャイアントラーメンのボリュームが凄い。千里が頼んだ醤油ラーメンだって、かなりの量だ。
「これボク食べきれないや。お父ちゃん半分食べてよ」
「お前相変わらず少食だな。じゃ食べられる所まで食べろ。その後もらうから」
「うん、ありがとう」
「今日は何しに札幌に来たの?」
「バスケの試合を見に来たんだよ。去年のインターハイ優勝校が来てたから」
「へー。でもお前もバスケ続いてるよな。あまり頑張らないお前にしては偉い」
「えへへ」
「でもバスケも俺が昔やってた頃とは随分ルールが変わったみたいだ」
「あれ?お父ちゃん、バスケしてたんだっけ?」
「体育の時間にな」
「ああ、なるほど」
「今、遠くから投げて入ったら3点になるんだって? 昔はそんなルールなかったのに」
「ああ。お父ちゃんたちの時代はまだスリーポイント無かったのかもね」
「昔は20分ハーフだったと思うんだけど、最近は10分クォーターなんだな」
「あれは激しいスポーツだから少しでも休憩時間を入れようというのが趣旨だけど、本音はテレビ中継のコマーシャルを入れたいからだと思うよ。アメリカではサッカーも一時クォーター制になったけど、不評だったんでハーフ制に戻したみたいね」
「俺の頃は6人でやってたと思うのに、今は5人みたいだし」
「いや、お父ちゃん、バスケは100年くらい前から5人だよ」
「お父ちゃん、新しい仕事はどう?」
「まあ何とかなってるかな。俺は理屈はよく分からんが、実体験はいくらでもしてるから、それで指導してる」
「うん、お父ちゃんはそれを期待されていると思うよ」
父はこの春から、地元の高校(貴司たちが通っている高校とは別)の水産コースの生徒たちに、操船や漁法などについて教える、臨時講師の仕事をしている。嵐に遭った時や、船の上で非常事態が起きた時の対処などの話もしているが、生徒たちにはとても好評らしい。
「しかしいまだに背広を着て歩くのが変な気分だ」
「お父ちゃん、そんな服って着たの見たことないもん。でも少し慣れた方がいいよ」
「お前、五分刈りの頭には慣れたか?」
「そうだね。最初は違和感あったけど、まあ何とか」
「お前もいまだに声変わり来ないみたいだし。病院に掛かってみなくていい?」
「大丈夫だよ。そろそろ来ると思うんだけどね」
「お前、オナニーはしてるか?」
「してるよー」
「そうか。してるなら安心だ」
男の人ってオナニーとかすぐ言いたがるのかなあ。貴司もよくそんな話するし。まあだいたいスルーしてるけどね。
父と話している内にトイレに行きたくなる。トイレはこの客席から見える位置にある。さすがに女子トイレには入れないかなと思い、千里は男子トイレに入ろうとした。しかしドアを開けようとしたら、中からスタッフの制服を着た男性が出てくる。
「お客様。こちらは紳士用トイレでございます。ご婦人用はそちらです」
「あ、すみません」
ということで千里は父が見てませんように、と祈りながら結局女子トイレに入った。
中で用を達して、手を洗い外に出る。すると目の前に隣の男子トイレに入ろうとしている父が居る。ぎゃっと思う。
「千里、そちら女便所だぞ」
「あれ?間違ったかな」
「痴漢で捕まるぞ」
「ごめーん」
テーブルに戻って水を飲んでいると父が戻ってくる。千里はラーメンを食べきれなかった分を父の方に差し出して「ごめーん。後食べてくれる?」と言う。父はそれも美味しそうに食べる。
「ところで千里、志望校はどこにしてるの?」
「千葉県のC大学」
「そんな遠くまで行かなくても、北大とかじゃだめなの?」
「うん。そこにちょっと習いたい先生がいるんだよ」
「ああ、そういうことか。しかし遠いなあ。それに向こうは家賃が高いぞ。あまり仕送りしてやれないと思うけど」
「大丈夫だよ。バイトしながら通うよ。奨学金も受けるし」
そもそも今だって仕送りゼロなんですけど!?
「北大なら、弾児のうちとかに下宿させてもらえるだろうし」
「無理だよ。あそこ2DKのアパートだもん」
弾児叔父さんは父の弟だが、そこには従弟がいる。男の子が住んでいる家に女の子である千里は同居不能だ。札幌には母の兄・清彦も住んでいるが、そちらも男の子が3人いる。
「清彦さんの家には頼めないかな」
「あそこ子供が多いから、あれ以上の収容は無理」
「そっかあ」
父としては何とかできるだけ近くの大学に入れたいのだろうが、千里はできるだけ遠くの大学に行きたいと思っていた。
結局17:20頃にラーメン屋さんを出たが、タクシーに乗っていけと言われて五百円玉をもらった。初乗り料金にも足りないが、父らしいなと思った。父は自販機でジュースが100円で買えなかったのにも驚いたらしい。千里はその五百円玉を触っていて少し涙が出た。使わずに取っておくことにし、バッグのサイドポケットに入れた。
タクシーの中で取り敢えずウィッグだけ装着して、会場近くで降りる。暢子たちと落ち合うが
「あれ?着替えたんだ?」
と言われる。
「うん。お父ちゃんから急に呼び出されて焦った。一緒にラーメン食べてきた」
「あ、ラーメンいいなあ」
「ライブ終わったら一緒に食べに行かない?」
「バスは最終何時だっけ?」
「菊水元町7条を22時。ライブ終わってからラーメン屋さんに行くなら30分以内くらいに食べないと」
「そのくらい行ける行ける」
「でも千里のお父ちゃんって、千里が女子バスケ部に移籍したこと知らないよね?」
「うん。まだ男子バスケ部だと思ってる」
「女子高生になってることも知らないよね?」
「私、男子高校生だけど」
「それは間違い無く嘘」
ライブは4つのアマチュアバンドが共同で開いたもので、田代君たちのバンドはその3番目ということであった。最初のバンドはGt/B/Dr/Keyという4ピースバンドで、ベースの人がボーカルなのだが、かなりの音痴だ! しかし演奏自体のノリはいいので、みんな手拍子を打ちながら聴いていて、結構盛り上がった。
2つ目のバンドは同じく4ピースバンドだが、Gt1/Gt2/B/Drという構成だ。田代君たちはGt/B/Dr/Voの4ピースだし、4ピースバンドにも色々あるんだなと思いながら千里は聴いていた。
その演奏が終わりの方まで来た頃、肩をトントンされる。
「おはようございます、毛利さん」
「おはようございます、醍醐さん」
それは雨宮先生の関係者(大学時代の後輩らしい)毛利さんだった。
「お仕事ですか?」
「うん。今日のライブの4番目に出てくるバンドが有望らしくてね。偵察」
「毛利さん、スカウトとかもするんだ?」
「毎年たくさんスカウトしてデビューさせてるよ」
「ほんとかなあ」
暢子が首を傾げているので
「こちら作曲家の毛利五郎さん」
と紹介する。
「有名な人? 私、ポップスの方はあまり知らなくて」
と暢子。
「ああ、無名な人だから心配しなくてもいいよ」
「今無名だけど、その内有名になるから」
などと言って毛利さんはその場に居た5人全員に半ば強引に名刺を配った。
「君たち、もし歌を歌った録音とかあったら送ってよ。君たちみたいな美人ならデビューできる可能性あるよ」
などと言っている。
「毛利小五郎じゃないんだ!?」
「あれは名探偵」
「いや迷う探偵」
「毛利五郎さんは迷う作曲家」
「醍醐さん、言葉がきついなあ。こないだはおごってあげたのに」
「話の聴き賃で」
「だいご?」
「うん。私のペンネーム」
と説明した上で、
「相棒の葵が、次のバンドのボーカルやりますよ」
と千里が言うと、毛利さんは
「お、それは見なければ」
などと言っている。
やがて田代君たちのバンドが出てくる。ギター・ベース・ドラムスの3人の演奏をバックに蓮菜が歌っているが、千里はドラムスがもう少しうまければいいのに、と少し惜しい気がした。ハイハットやバスドラの打ち方が不安定なのである。それでどうもベースの人がリズムキープしている雰囲気であった。このバンドではドラムスを聞いてしまうと歌えない!
「あのボーカルいいね」
と毛利さんが言う。
「可愛いし、結構うまいし、スカウトしちゃおうかな」
「葵はスカウトには応じませんよ。彼女、東大医学部の志望だから、歌手とかにはなりませんよ」
と千里が言うと
「ひぇー。東大医学部って、そんな才媛なんだ?」
と言っている。
「うちの学年でもいつも成績でトップ争いしてますから」
「あんなに可愛いのにもったいない」
もったいないのか!?
「歌より美貌ですか?」
と暢子から質問が出る。
「当然。歌唱力より顔が重視されているのは、今の歌謡界見たら分かるでしょ」
「でも美人だからといって売れてる訳でもない気が」
「むしろ凄い美人はまず売れない」
「まあ実際には売れる子に法則性は無い」
と毛利さんは言う。
「絶対に売れないパターンは幾つかあるけどね」
と更に付け加える。
やがて田代君たちの演奏が終わり、最後のバンドの演奏が始まる。
「なるほどー。これは毛利さん、わざわざ札幌まで来た甲斐がありましたね」
と千里は言った。
「うん。この子たち凄くいい」
Gt1/Gt2/B/Dr/Key/Vo という6ピースバンドなのだが、演奏者がみな上手いしボーカルもとてもうまい。プロですと言われても信じるよなと千里は思った。ポップスは分からないと言っていた暢子も
「私、このバンドは凄くいいように聞こえる」
などと言う。
「いや、この人たち上手いよ」
と橘花も言う。
「ボーカルの人の音域が広いですね」
と雪子。
「うん。2オクターブ越えてる気がする」
と千里。
「よし。この子たちを楽屋に戻ってきた所でキャッチしよう」
と言って毛利さんは千里たちに別れを告げ、バックステージの方に行ったようであった。
この最後のバンドの演奏があっていた最中に蓮菜も千里たちを見つけて客席にやってきた。
「お疲れ様〜」
「そうそう。東京のスカウトさんが、蓮菜をスカウトしたいと言ってたよ」
と言って暢子が自分のもらった名刺を蓮菜に渡す。
「えーー!? でも私、勉強があるから無理」
と蓮菜。
「そう言って私が断っておいたから」
と千里。
「親切だな」
と蓮菜は少しがっかりしたように言う。
「雨宮先生の後輩だから、連絡はいつでも取れるよ」
「なーんだ」
「多分雨宮先生以上に連絡が取りやすい。雨宮先生にこちらから連絡が取れないのは、どうも業界では有名みたい」
「へー」
千里たちがラーメンを食べて帰るというと、蓮菜も一緒に行くと言う。
「田代君とデートするんじゃないの?」
「うん。別に私たちは恋人じゃないし」
「え?」
「恋人だとばかり思ってた」
「恋人にしか見えんかった」
「じゃただのバンド仲間?」
「うーん。セフレかなあ」
と蓮菜が言うと
「えーーー!?」
という半ば驚き、半ば非難の声があがる。
それで結局蓮菜も入れて7人でラーメン屋さんに入り、オホーツクラーメンというのをみんなで頼む。千里は最初から蓮菜や暢子に少し麺を移させてもらう。
「だけど最後に出て来たバンド、ほんとに上手かったね」
「みんな良く練習してる感じだった」
「あれ、やはり、たくさん練習してるのかなあ」
「元々上手いのかも知れないけど、それでもたくさん練習してると思う」
「やはり上手な人がたくさん練習するから、それだけ上手くなるんだよ」
「それと、多分良い音楽を聴いてるよね」
「あ、それあると思う。やはり良いものを吸収するから自分たちのセンスも上がる」
そんな話をしていた時に、橘花が何か考えているようである。
「どうしたの?橘花」
「いや、今の話ってさ、そのままバスケにも置き換えられない?」
と橘花。
「うん、私も思った」
と暢子。
「ね、N高とM高で定期的に練習試合やらない?」
「私もチラッとそれ考えた」
「やはりJ学園・P高校みたいな所だって、ああやって強い所と練習試合やって自分たちを鍛えてる訳じゃん。私たちはとてもあのレベルには負けるけど、私たちなりに高めあえるものはあると思う」
「よし、持ち帰って顧問に相談しようよ」
「でも定期的にってどのくらい?」
「毎日だな」
と暢子。
「えーーー!?」
「私も毎日というのに賛成」
と橘花。
「でもいつから?」
「明日から」
「えーーーーー!?」
それでその翌日の日曜日から、N高校とM高校は毎日夕方7時から練習試合をすることになるのである。
インターハイ予選(道大会)は1ヶ月後である。
月曜日、練習疲れでまたまた千里は女子制服を着て学校に出て行った。お弁当を食べた後、その日も音楽練習室に行こうと廊下を歩いていたら、また野球部の男の子がいる。何だか緊張した顔をしている。千里は笑顔で「こんにちは」と挨拶した。
すると彼は何やら封筒を千里の前に出して「あのぉ、読んでもらえませんか」と言う。へ?と思い受け取ると、なんとラブレターであった。
「ごめーん。私、恋人がいるから、これは受け取れない」
「わあ、そうなんですか。彼氏もここの生徒ですか?」
「ううん。別の高校だけど、中学の時のバスケ部の先輩なんだよ」
「そうだったんですか。バスケうまいですか?」
「うん。全然叶わない。君も今はまだ控え組にも入れないみたいだけど、練習しっかりしてれば甲子園に行けるかもよ」
「そうですね。頑張ります」
「うん。頑張ってね」
彼はお辞儀をしてとぼとぼと去って行った。
それをどうも見ていた風の蓮菜が寄って来た。
「頑張って勇気出して告白したんだろうけど残念だね」と蓮菜。
「まあ恋愛は先着優先だから」と千里。
「横取りはあるけどね」
そう言った蓮菜の言葉に千里は何か引っかかりを感じた。
「だけど、ああやって告白できる子自体が実は少数だよね」と千里。
「うん。中高生の恋愛って、告白もできずにただ片想いって子が大半。私たちみたいなのは、むしろやりすぎ」と蓮菜。
「そうなんだよね。小学校の頃から私たちのグループって恋愛に積極的だったから、そのあたりの感覚が他の子とずれてるのは感じる」と千里。
「私も小学3年生の時、初めて2つ上の男の子に告白した時は凄い勇気が要ったよ」
「私は小学3年生の時に近所のカナダ人の男の子から告白された」
「私たちって早熟だったのかもね」
「かもねー」
「でもあの子、千里の性別は知らないんだろうね」
「私の性別、3年生でも知ってる人少ないみたい」
「もっとも2年生でも半分くらいの子は千里は女の子だけどなぜか男子制服を時々着てると思っている感じ」
「うーん・・・」
「今日で11日連続女子制服だね」
「うむむむ」
「昭ちゃん、可愛いよ」
「似合ってる、似合ってる」
「そうですか?」
と答える昭一はもう真っ赤になって恥ずかしがっている。彼は一応男子バスケ部の部員なのだが、シューターの素質があるので千里のシュートをたくさん見て覚えたほうがいいというのと、これまであまり運動をしていなかったので体力が無く男子の練習に付いてこれないというのもあり、現在暫定的に女子と一緒に練習をしている。
彼はしばしば女子部員たちのおもちゃにされていたのだが、今日はとうとう女子更衣室に連れ込まれて、スカートを穿かされてしまったのである。
「そのスカート貸してあげるから、このままおうちに帰ってもいいよ」
「勘弁してください!」
と言いつつ、昭一は顔は嬉しそうな顔をしている。元々そういう傾向のある子なのだろう。
「でもスカート穿くの別に初めてじゃないでしょ?」
「初めてです!」
「じゃスカートに慣れよう」
「最初は恥ずかしいかも知れないけど、すぐ慣れるよ」
「誰でも最初のスカートは緊張するかも知れないけどね」
「スカート初体験なら、次は女の子パンティ初体験かな」
「その次はブラジャー初体験で」
「お化粧初体験もいいよね」
「やめてくださいよぉ!」
言葉では嫌がっている風でも顔は明らかに期待に満ちている。それで女子たちの言葉(妄想)も暴走する。
「それにハマると脱毛初体験」
「その内、去勢初体験」
「去勢は初体験もなにも1度しかできないのでは?」
「2度去勢した人を知ってる」
「それはまた不思議なことを」
「最後は性転換初体験」
「性転換こそ2度はできないでしょ?」
「世の中には3度性転換したなんて人もいる」
「それは無茶しすぎ」
女の子たちのそういう暴走気味の発言の中でスカートを穿かされた昭一はほんとに恥ずかしそうに俯いていた。
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【女の子たちの初体験】(2)