【桜色の日々・小6編】(1)

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小学6年生ではクラス替えが行われて、私は男子の友人では荻野君や伊藤君などとは別のクラスになってしまったが、女子の友人で令子やカオリなどとは同じクラスであった。担任は今年の春、他校から移ってきた女の先生で森平先生と言った。まだ20代の若い先生で独身である。
 
最初の朝礼で先生が自己紹介した後、点呼が取られる。私は苗字が「吉岡」で、しばしばクラスの男子の最後になっていたが、このクラスでも多分最後のようであった。しかし男子のほうで、「山崎君」と呼ばれたあと、次は女子の方に行き「我妻さん」と呼ばれる。
 
「はい」と返事をした令子は、私の後ろの席だったのだが、鉛筆でツンツンと私の背中を突いた。私は『まただよ〜』という顔をして令子を見た。果たして、女子の方で「雪下さん」と呼ばれて好美が「はい」と返事をした後「吉岡さん」
と呼ばれたので私は「はい」とわざと男の子っぽい声で返事した。
 
「あれ?吉岡さん、のどの調子が悪いのかな?まるで男の子みたいな声に聞こえたよ」と森平先生は言うと、そのまま今日の『お話』を始めた。
 

「ねえねえ、『私、男子です』って言わなくて良かったの?」
 
朝礼に引き続きクラス会で学級委員や各種係が決められた後、2時間目との間の休み時間で、私はカオリからそう言われた。
 
私の名前は「晴音」と書いて「はると」と読むのだが、この字はしばしば「はるね」と誤読され、女の子と思われることも多い。実際、名簿で女子の方に入れられていたのも今回が初めてではない。
 
「うーん。性別違ってても、特に何か問題があることもないような気がするし、先生もそのうち気付くでしょ」
「ああ、確かに性別なんて大した問題じゃないかもね」と令子。
 
2時間目は体育だったが、着替えを男女交替でする以外は、体操服は男女ともハーフパンツで、同じ格好しているし、特に大きな問題もなかった。もちろん私は男子たちと一緒に着換えたが、昨年も同じクラスだった坪田君が
 
「吉岡、お前女子の方に入ってたじゃん?男と着換えていいの?」
と言ったが
「女子の方から出張サービス」と答えておいた。
「女子から出張サービスなら、ブラジャー付けろよ」と言われるが
「おっぱい大きくなったら付けるよ」と返事した。
 
実際小6の1学期の段階では、まだブラジャーを付けていない女子も結構いた。
 
翌日は体重測定があったが、直前に県下の他の地区の小学校で破廉恥な教師が逮捕されたなどというニュースが流れたばかりで、学校側が過敏になってしまい、今年の体重測定は着衣でおこなわれることになった。
 
私が男子の測定が行われる体育館の方に行こうとしていたら、カオリから腕を掴まれた。「ハルは女子でしょ。こちらに来なきゃ」と言われて女子の測定が行われる保健室に連行される。「着衣だから、女子に混じっててもいいって」
などと令子まで言う。「だいたい多分ハルの書類、こちらに来てるよ」
 
そういう訳で、私はその月の体重測定を女子たちと一緒に受けてしまった。保健の先生が私を見て「あら?」と言ったが「ま、いっか」と言って笑って、ふつうに体重・身長を測られた。体重は服の分をおよその重さとして男子は1.5kg, 女子は1kg を引くということになっていたが、その子の服を見て、若干勘案している感じだった。保健の先生は私を見て「吉岡さん、ふつうの女子と同じで1kg減算で良さそうね」といい、体重計の数字から1kg引いた数字を書類に書き込んでいた。
 
胸囲はひとつ前の子が測ることになっていて(ただし名簿先頭の子は次の子に測ってもらう)、私は名簿ひとつ前の好美に測ってもらった。
「名簿最後だから、私は誰も測らなくていいのね」
「何なら私の再度測る?」と好美。
「いや。いい」と私が慌てて言うと
「照れなくてもいいのに」と好美は笑って言った。
保健の先生も笑っていた。
 

何となく、誰もその問題を指摘することもなく、先生も気付くことなく、私が女子のほうの名簿に入れられたまま1ヶ月ほどが過ぎてしまった。
 
女子の方に入れられているので、私を含む女子5人で6週間に1度、女子トイレの掃除もすることになり、4月の下旬にその当番に当たった。普段、私は一応男子トイレの方を使っているのだが、その週は好美たちと一緒に女子トイレの掃除をした。
 
手分けしてブラシやモップを持ち、便器や床を掃除する。
 
「ハルが女子トイレに居ても、全然違和感無いなあ」
「ハル自身は、女子トイレに入るの、抵抗感無いんでしょ?」
「うん、まあ」
「だったら、普段も男子トイレ使わずに、こっちに来ればいいのに」
「それはさすがに」
「誰も文句言わないよねー」
「ほんとほんと」
 
「でも、ハル、男子トイレで立っておしっこするの?」
「ううん。個室を使うよ」
「へー。なんで?」
「いや、それは・・・・」
「やはり、おちんちん付いてないからじゃない?」と環(たまき)。
「ああ、その問題はちょっと追求してみたい気がしていた」と美奈代。
「令子やカオリは、ハルには一応、おちんちん付いてるけど、偽物だって言ってたね。付いてないのと同じって」
「へー。どういう意味なんだろう?」
 
「でも、男子トイレに入っても個室使うんなら、女子トイレに来てもいいんじゃない?」
「うーん。。。そのあたりは。。。。」
 

6年生は毎年運動会などで鼓笛隊をすることが恒例となっていて、私たちもクラス会の時間などを使って練習をすることになった。私はファイフ(横笛)を吹くことになった。ファイフ自体は去年ちょっとクラスメイトの間で流行したのでその時に買ってもらっていて、一応音階は吹けていたのだが、半音を出すのは苦手だったので、この機会にかなり練習しようと思った。
 
「あれ?ファイフ組はよく見たら全員女子だね」と一緒に練習していた典代。
「そういえばそうだね。リコーダー(縦笛)組は全員男子みたい。男女で分けたんだね」と隣で練習していたリコーダー組の木村君。
 
などといった話をしていたら、リコーダー組にいた笹畑君が
「あれ?僕もファイフ組はみんな女子かと思ったけど、吉岡がいるじゃん」
などという。
 
「あぁ、そういえば」と木村君は言ったが
「でも吉岡は女子でもいいんだよ」と続ける。
「え?そうなの?そういえば、なんで吉岡は名簿で呼ばれる時、女子の最後で呼ばれてるんだろう?」
「きっと性転換したんだよ」と木村君。
 
「えー?吉岡って、性転換して女子になっちゃったの?チンコ取っちゃった?」
「どうだろ?吉岡、チンコ付いてる?」
「うーん。あんまり自信無い」と私は答えた。
 
「ハルは女の子だよ。私ちゃんと確かめたから」などと言って、カオリが私の後ろから首に抱きついた。それを見て木村君が
 
「わあ、なんて羨ましいことを。西本〜、俺にもそんな感じで抱きついてよ」
などと言う。
 
「えー。そんな恥ずかしいよ。ハルとは女の子同士だから出来るけどね」
「うん。まあ」
「吉岡はこの瞬間、男子の敵を5〜6人は作ったな」と高岡君が笑って言った。
「でも、西本、吉岡が女の子だと確かめたって、どうやって確かめたの?」
「ひ・み・つ」とカオリは笑顔で答える。
「気になるなあ」
 

鼓笛隊の最初の披露は5月になった。地元でサッカー大会が開かれることになり、そのオープニングに私たちが出場するのである。
 
鼓笛隊の正式の衣装を身につけて1度練習することになった。衣装は学校にストックされているのだが、私が男子用の服を着て集合場所に居たら、先生から声を掛けられた。
 
「吉岡さん、なんでズボン穿いてるの?」
「あ、えっと・・・・」
「スカート嫌い?でもファイフのセクションは全員女子で揃えてるから、女子の衣装着てもらいたいんだけど」
などと言われる。
 
私が今更だけど何と説明すればいいのかと思っていたら、カオリが
「ハル、女子の衣装着ておいでよ。ハルなら着れるでしょ?」
などと言うので
「うん。じゃ、着換えて来る」
と言って、私は用具倉庫に行って、自分のサイズに合う女子の鼓笛隊衣装を取ると、(教室まで戻る時間が無いので)その場で着換えて集合場所に戻った。
 
「ハル、スカート似合ってるよ」と典代から言われる。
「うーん。何となく予感はしてたけど、やはりこれ着ることになったか」
「アピールする機会はあったはずなのにアピールしなかったんだから、元々女子の衣装着たかったんでしょ?」などと、みちるからは冷たく言われる。
「ファイフは吹きたかったから」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるね」とカオリは笑って言っている。
 

本番衣装を着けての練習が終わったあと、普通の服に戻るのに男子用の更衣室に入ろうとしたら、私は入口のところで追い出された。
 
「女子は教室が違うだろ?」と数人の男の子から言われた。
「えー?でも私の服、ここにあるんだけど」
 
ふだんの体育の時間は時間差で同じ教室で着換えているのだが、このように学年全体で着換える場合、1組と3組で男子が、2組と4組で女子が着換えることになっていた。私は3組なので自分の教室でもある3組の教室で、普通の服から男子の鼓笛隊衣装に着換えていたので、ここに服があるのである。
 
「じゃ、持ってきてやるよ」と言われて、ひとりの男の子が私の机の上から服を持ってきてくれた。
「はい。女子はちゃんと4組で着換えてよね」と言われて渡される。
 
渡されたものの、どうしよう?と私は困ってしまった。
そこに4組で着換えて出て来た好美が声を掛けた。
 
「ハル、どうしたの?」
「お前、ここ教室が違うって言われて、追い出されちゃった」
「あぁぁ。ハルは女子の方で着換えても苦情出ないよ。おいで」
「えー?」
 
などということで、私は好美に手を引かれて、まだ女子達が着換えている最中の4組の教室に連れ込まれてしまった。
 
「ねえねえ、みんな」と好美が声を上げる。
「ハルが、男子の方から追い出されちゃったらしいんだけど、ここで着換えてもいいよね?」と訊くと、あちこちから
「ハルならいいんじゃない?」
「問題無ーし」
などと声が掛かった。
 
「ほら、いいって。ハル、だいたい体重測定は、先月も今月も女子と一緒に受けたじゃん」
「うん、まあ」
 
というこで、私は女子たちと一緒に4組で着換えることになってしまった。
 
着換えていたら朱絵から、いきなり胸を触られた。
「ハル、胸無いねー」
「それは仕方ないよお」
「でも、胸大きくなったら、ブラ付けられるよ」
「うーん。付けてみたい気はするけど」
 
「ほーら、カオリのに触ってごらん」と言って、朱絵は私の手を取って、隣でのんびりと着換えていたカオリの胸にタッチさせる。
「きゃっ」
「わっ、ごめん」
「いや、ハルなら別に構わないけどね」とカオリ。
「でもカオリ、胸大きい。いいなあ」と私。
「Bカップのブラ付けてるよ」
「すごーい。小6でBって大きいよね」
 
「ハルも腕立て伏せとか、バストマッサージとかすると、大きくなるかも」
「うーん。やってみようかな・・・・」
「がんばれ、まだ全然胸が無い子もいるしさ。ほら、令子みたいに」
「なぜ、私を引き合いに出す?」と令子。
「ほら、令子のも触ってみよう」と言って、朱絵は私の手を取って、令子の胸にタッチさせた。
「あ、でもちゃんと膨らんでる」と私は羨ましそうに言った。
 
「ハル、本気で胸大きくしたいんだったら、女性ホルモンの注射とか、お医者さんに行ってしてもらうといいんだって」と令子は言う。
 
「でも、ハル、下着は男の子の下着着けてるのね」
「え、それが何か?」
「女の子の下着付ければいいのに」
「そんなの持ってないもん」
 

翌週のサッカー大会が本番であった。私たちはふつうの服で会場まで行き、会場に隣接した体育館で着換えた。体育館にパーティションが置かれていて、左半分が男子更衣室、右半分が女子更衣室になっていた。
 
「私。。。やはり、こっちかな?」と私が右の方に行くのをためらっていたら「今更、何言ってるの?」といって、朱絵から手を取られてそちらに連れ込まれた。
 
高校生の大会なので、私たち以外は選手らしい高校生のお姉さんたちがたくさん着換えている。
 
「胸、凄く大きい人いるね」などと思わず好美が言う。
「羨ましいね」と私が言うと環が
「ハルの感覚として、胸の大きい人見たら、『こういう女の子を抱きたい』と思うの?それとも『自分もこういう胸が欲しい』と思うの?」
と訊く。
 
「抱く?」私は意味が分からなかったので聞き直した。
「ああ、ハルはウブだから、分かってないよ。性交したいと思うかってこと」
「えー?そんなの考えもしなかった。自分もこんなおっぱいあったらなって、思ったけど」
「やはり女の子感覚だ」
 
「ハルは女の子と性交したいの??男の子と性交したいの?」と訊く。私が答えを迷ったが
「ハルは男の子と性交するだろうね」とカオリが代わりに答えた。
「ハルのおちんちんは偽物だから、女の子とのセックスには使えないもん」
と令子も言った。
 

やがて開会式が始まり、私は女子の衣装でファイフを吹き、鼓笛隊の行進をした。スカートなんて、そうそう穿くものでもないので、こういう体験は快感だ。しかも校外行事だから親は見に来ていないので気楽である。
 
行進した後、グラウンドの端のほうに留まり、開会式が進むのを待つ。そして、30分くらい掛けた開会式が終わってから、また退場する選手の先頭を鼓笛隊で歩いた。
 
お役目が終わってから先生たちは
「ご苦労さん。このあと6月の野球大会、それから9月の運動会でもやるから、よろしくね」などと言っていた。
 
「でも長時間立ってたから、トイレ行きたくなった」と好美。
「あ、トイレ行こう行こう」とカオリ。
「あ、ハルも行かない?」と典代。
「うん。実はトイレ行きたいなと思ってた所。でも・・・」と私が言うと「じゃ、行こう、行こう」とカオリに腕をつかまれ、女子数人で一緒にトイレに行くことになってしまった。当然女子トイレである。たくさん人がいるのでトイレも長い列が出来ていて、私たちはトイレの外で列に並んだ。
 
「かなり長い列だなあ」
「我慢するのが辛くなる時があるよね」
「男子トイレも列ができてるみたいね」と好美が体育館の通路の少し先の方を見て言う。
「でも男子の方は回転率がいいんじゃない?」
「どうしても女子の方が時間かかるよね」
「女子トイレの個室、もっと作ってくれたらいいのに」
「だいたい男子トイレの小便器の数と、女子トイレの個室の数が同じらしいよ」
「それじゃ女子トイレに列ができる訳だよね」
「こういうの設計するのがだいたい男だからね。女のこと分かってないよね」
 
「だけどハル、こういう場になじんでる感じ」と典代。
「あ、それ私も思った」と由紗。
「学校では男子トイレ使ってるみたいだけど、学校外では女子トイレも結構使ってるんでしょ?」と、みちる。
「うーんと・・・」と私は答えに窮した。
「あ、否定しないし。図星だね」とカオリ。
「学校でも女子トイレ使っていいのにね。ハルったら、まだ名簿が女子の方に入ったままだし」と好美。
「先生、すぐ気付くと思ったのに、まだ気付かないね」と私も笑って答えた。「本人、特に困ってないみたいだし、私たちから言うことないよね?」と令子。
 

サッカー大会のあった次の月曜日、先生が予定が変わったことを告げた。
 
「来月の野球大会でも鼓笛隊をする予定だったのですが、他にもやりたいという学校が出たので、そちらに譲って、うちの学校ではチアリーダーをすることになりました」と先生。
 
「チアリーダーなら女子だけですか?」
「いえ、それでは人数が半分になってしまうので、男子もショートパンツで、やってもらいます」
「男子もボンボンとか振るんですか?」
「男子は銀色系、女子はピンク系ね。バトンも男女混合」
 
以前はけっこう男子と女子の扱われかたが凄く違っていたのに、去年くらいから男女共通でいろいろさせられることが多くなった気がしていた。私みたいな性格の子には生きやすい時代だよな、と思ったりもする。
 
「ハル、バトン回すのうまいね」と好美が言うので
「あ、去年令子とカオリと3人でかなり練習したんだよね」と私は答える。
「へー。でも令子、あまり回せてないじゃん」
「言ってくれるな」と令子は言いつつ、またバトンを落としてしまう。
 
「ハル、カオリ、典代、はバトン組だね」と、学級委員のみちるが言う。私たちは放課後、バトン組、ポンポン組、と分けるのに、バトンがどのくらい使えるかをテストされていた。
 
「でもさあ、チアって聞いたのに、なんでバトントワリングまであるの?」
「サービスじゃない?」
「先生たちもごっちゃになってるよね」
「ヨサコイとソーランがごっちゃになるのよりマシな気がする」
「ヨサコイは北海道でソーランは徳島だよね」
「逆!」
「ついでに、徳島じゃなくて高知!」
「え?あれ、徳島の踊りって何だっけ?」
「阿波踊りだよ」
「あ、そうか!」
 
「でもさ、チアの衣装のスカートの下、私何穿けばいいのかなあ」
と私が言うと
「やっぱり、ハルはスカート穿く気満々だ」とカオリから言われる。
「え?」
 
「さっき先生、女子はスカートタイプでもショートパンツ・タイプでも、どちらでも好きな方着ていい、って言ってたよね」
「あれ?そんなこと言ってた?」
「言ってた、言ってた」
 
「でも、ハルはスカート穿けばいいと思うよ」
「うんうん。スカート似合うもん、ハルって」
「あはは・・・」
「私はスカート好きだからスカートタイプの衣装着るつもりだけど、下はブルマ穿くよ」とみちる。
「私のブルマ、貸してあげるよ」と令子が言うので
「ありがとう。助かる」と私は言った。
 

チアの隊列としては、バトン組とポンポン組が交互に並び、各々何種類かのアクションをしていくことになった。男子の一部はポンポンもバトンも持たずに女子の方より動きの大きなアクションをすることになった。
 
また、最初の頃は男女ともダンスだけの予定だったのだが、みんなが順調に踊りを覚えていったので、先生が「スタンツ(組体操)もやってみようか」と言い出した。
 
クライマックスで学年全体から5〜6組のチームが出て来て、ピラミッドを作ることになる。
 
「ハルって体重、何kg?」とみちるから聞かれたので「38kgだけど」と答える。
「軽〜い。ピラミッドの最上段に乗ってよ」
私は当時は身長159cm, 体重38kgくらいであった。
 
「うん。まあ、いいけど」
「ハル、180度開脚とかできる?」とみちる。
「え?できるよ」
と言って、私は左右に足を開き、ぺたんとお股を床に付けてみた。
「すごーい。楽々やっちゃうね」
「去年、カオリと令子と一緒に練習したんだよね」
「じゃ、カオリと令子もできるの?」
 
「私はできるよ」とカオリは言って、やはり180度左右に足を開いてみせる。
「令子は?」
「できないよ、悪かったね」
 
「じゃ、ハルとカオリは180度開脚してトップね」
「ちょっと待って。どういうスタンツなの?」
「えっとね。こういうの」
と言って、みちるが絵を描いてみせる。普通に2段に重なったスタンツが2組並びその各々の頂点に180度開脚して両足を乗せる大技である。
 
「ハイ・スプリットというんだよ。最下層は男子にやってもらう」
「無理〜、こんなのできる訳無い!」と私もカオリも言う。
「やってみなきゃ分からないじゃん」などと、みちるは言っている。
 
ともかくも、私たちはバトンやポンポンを持って踊る練習と、この組体操のアクションとを毎日放課後に2時間くらい練習した。ポンポンはテープを渡されて女子が手分けして男子の分まで作ることになり、私も4個作ってといわれてテープを渡された。
 
家で作っていたら、風史兄が「面白いもん作ってるな」と言った。
「うん。月末の野球大会でチアリーダーやるんだよ、うちの学校の6年で」
「へー。今時は男子もチアやるのか?」
「ああ、男女共同なんとか言って、最近は男女同じことをするのが多いよ。フォークダンスでも去年からオクラホマ・ミキサーは無くなって、代わりにマイムマイムやってるし」
「しかし、チアって、男子もミニスカート穿く訳じゃないよな?」
「まさか。男子はショートパンツだよ。女子も半分くらいはショートパンツ」
「ああ、最近の女の子って、そもそもスカートあまり穿かないもんな」
「うん。クラスの女子でも、スカート穿いてる子って少ない」
 
風史兄が私の耳元で小さい声で訊いた。
「でハル、お前はチアでどっち穿くの?ショートパンツ?それともミニスカ?」
「あ、えっと・・・・」
風史兄は私が答えをためらったのを見て笑い、「まあ、母さんとかが見に行くんでなくて良かったな」と言った。
 

来週が本番という時になって、チアの衣装を着て、練習をしてみることになった。市の方から予算が出たらしくて、おそろいのトレーナーに、ショートパンツやミニスカートが搬入されてきた。男子はもちろん全員ショートパンツだが、女子もショートパンツ派が多くて、ミニスカートは私も含めて6人だった。
 
私はもちろん!女子と一緒に着換えた。こういうシチュエーションでは、私も女子と一緒に着換えるのは何だかふつうになってしまった。わいわいガヤガヤとおしゃべりしながら着換えていたが、好美が
「でも、ハルもそろそろ女子の下着をつけてもいいんじゃない?」
などという。
「ハル、お小遣いとかもらってないの?お小遣いで買えばいいのに」
などと典代も言っている。
「うーん。お小遣いは今4000円ほどストックあるけど」
「だったら買えるじゃん。今度、一緒に見に行かない?」
「えー? でも洗濯とかに困るし」
「あ、それ私がやってあげるよ」と令子。
 
スカートを穿いているのは、私の他にはふだんからスカート派のみちる、潤子、など。カオリはふだんはパンツ派で、めったにスカートを穿いている所を見ないのだが、スタンツのトップになる子はできたらスカート穿いてと言われて、ミニスカの衣装を着ていた。私は令子から借りたブルマをミニスカの下に穿いていた。
 
「だけど、吉岡って、ブルマなんか穿いても、チンコ付いてないみたいに見えるな」
などと集合場所で少し練習していたら、坪田君が言う。
 
「ああ、私が今預かってるから」とショートパンツ姿の令子が言った。
「え?我妻がチンコ預かってるの?じゃ、今、我妻はチンコ付いてる?」
「うん。付いてるよ」
「どれ、触らせて」などと言って手を伸ばして来たので、坪田君は令子のキックを顔面にくらっていた。
 
「だけど、チアの衣装の吉岡って、ちょっと可愛いよな」と山崎君。
「ああ、可愛いよね。さっき着換えてた時も『なんでそんなに可愛くなる』ってみんなに言われてたよ」とカオリ。
「ほんとにハルって、こういう可愛い系の服が似合ってるよね」とみちる。
「ふだんの服装では、こんなに美人になるようには思えないのに、女の子の服を着ると、突然美人になるんだよね」と令子が言う。
「女装美人なんだな」と木村君が言うが
「いや、たぶんハルは本来女の子なんだよ」とカオリは言った。
 

その週の週末、私は令子とカオリに誘われて町に出た。
 
「そろそろ覚悟決めた?」とカオリ。
「うん。覚悟決めた」と私。
「まあ、おちんちん切れって話じゃないからさ。でも、ホントに女の子下着、1枚も持ってないの? もし持ってて隠し場所に困ってるんなら、それも一緒に預かってあげるよ」と令子。
「うん。1枚も持ってない」
「ホントかなあ」
 
その日、私はふたりに付き添われて、女の子下着を買いに出て来ていた。今週の水曜日から始まる野球大会の開会式で、私たちはチアリーディングを披露するのだが、その時、ブルマの下に女の子パンティ穿きなよ、とカオリたちに唆されて結局、一緒に買いに行くことになったのである。
 
「でも持ってなくても、女の子の下着を付けたことはあるんでしょ?」とカオリ。
「小学1年の時、ハルをよくうちで女装させてたけど、その時は私の下着を貸してたよ。その後は分からないけどね」と令子。
「えっと・・・・」
「ああ、否定しない所見ると、やはり時々付けてるね」とカオリ。
「私も絶対そうだと思う」と令子。
 
そんなことを言いながら、スーパーの女性用下着売場に来た。
「ハル、自分のサイズは分かってるの?」
「うん。ショーツは大人用のSでいい。ブラはA70」
「なるほど。そのサイズを普段付けているということね」
「いや、そんなことは無いんだけど・・・」
 
「でも女の子の下着って可愛いよね」と私は売場で、胴体だけのマネキンが着ているブラとショーツを見ながら言った。
 
「うん。そういうの可愛いよね」とカオリ。
「可愛いのは、それなりにお値段も可愛いけどね」と令子。
 
ふたりはついでに自分たちの下着も選びたいようで、3人で「これ、いいね」
「これも可愛い」「これ、似合わない?」などと、けっこう言い合っていた。私は、ああこういうの楽しいなと思い、ほんとに自分もこのまま女の子になりたい気分になっていた。
 
結局カオリは薄い黄色地に緑のハートマークがたくさん入っている上下セットを、令子は少し大人っぽいレース使いのベージュの無地上下セットを、私は白地に赤い星のマークがたくさん入ったジュニアっぽい上下セットを選んだ。
 
「じゃ、これ私が一緒に洗濯して持っておくね」と令子。
「うん。ありがとう」
 

野球大会の日は、朝から現地集合だった。私は早めに家を出て令子の家に寄り、令子の部屋で、女の子下着を身につけた。
 
「ああ。なるほど、そうやって穿くのね」
私がショーツを穿くと、令子が感心したように言った。
「ちゃんと、下に向けないと、飛び出しちゃうから」
「そうだろうね。でも、そうやって穿くと、まるで付いてないみたいに見える」
「うん。そうなるのが割と好き。でもブラはほんとに付けたことないの。後ろのホックを留めてくれない?」
「いいよ」
 
と言って、私がブラの肩紐を腕に通すと、令子はホックを留めてくれた。
「ブラだけでも家に持って帰って、毎日練習するといいよ。やってれば、ちゃんと自分で留められるようになるよ」
「そ、そう?」
 
「じゃ、行ってまーす」と令子のお姉さんたちやお母さんに挨拶して、ふたりで出かけた。私たちは歩きながら小声で話した。
 
「だけど、ハルも今の所、まだ声変わりしてないね」
「うん。男の子っぽい声も出せないことないけど、とりあえずこうして令子たちと話している時は、そんなに男っぽくない声で話せてるし。でも声変わりしちゃったら、自分でもショックだろうなという気がする」
 
「今の内にタマタマ取っちゃえば、声変わりしなくて済むんでしょ? というかハルのタマタマも実は偽物なんじゃないの?」
「偽物かもしれないけど、私をどんどん男に変えて行くんだろうな・・・・」
「偽物なら取っちゃえばいいのに」
「そうだね・・・」
 
私は令子から、そんな感じで煽られて、少し遠い所を見ていた。
 

令子と一緒にバスに乗って会場に向かう。バスには既に知っている子が何人か乗っていたので、そばに行っておしゃべりをしていた。そのあとバスにはどんどん女の子の友だちがたくさん乗ってきて、会場に着くころは、かなりの人数になっていた。
 
みんなでおしゃべりしながら、更衣場所に指定されている卓球場に入った。今日の会場では女子は隣接する卓球場で、男子は武道場で着換えることになっていた。
 
「でも、今日はハルも素直にこちらに来たね」と好美。
「うーん。さすがに少し慣れたかな」と私は言う。
「もう、男子とは一緒に着換えられないだろうね」とカオリ。
 
「そうかも知れない・・・」などと言って、私が着ていた服を脱ぐと
「おぉ、女の子下着を着けてるんだ!」と好美が嬉しそうに言った。
 
「こないだ、一緒に買いに行ったんだよ」と言うカオリも、その時に一緒に買った下着をつけている。
「へー。とうとう、ハルも下着は女の子になったのね」
「いや、今日だけ特別」と私は照れるように言った。
 
「胸が無いのはまあいいとしても、下も無いみたいに見えるけど」
「有るように見えるのに、ここに居たら、痴漢でつかまるよ」
「でも、こないだのサッカー大会の時は男子下着なのに、女子と一緒に着換えたじゃん」
「あの時はね・・・・でも、こういう状況では今度から多分ちゃんと女子下着をつけておくよ」
「うん。それがいい、それがいい」と好美は笑顔で言った。
 

開会式が始まる。
 
他の学校の鼓笛隊が先頭を歩き、私たちの学校のバトン組がそれに続いて、鼓笛隊の音楽にあわせてバトンを回したり振ったりしながら行進した。バトン組以外は控えていて、選手たちが入場した後、入ってくる予定になっている。選手たちの入場が続いた。サッカー大会は選手が男女いたが、野球の選手は男子だけなので、少し雰囲気が違っていた。何か硬い感じの空気が流れている。
 
選手が皆入場すると、開会式の式次が始まる。私たちはいちばん端で、鼓笛隊の人たちと一緒に待機していた。サッカー大会の時は、何となく開会式もアバウトな雰囲気で短かったのに、野球大会はピリリとした雰囲気で時間もかかる。結局1時間くらい私たちはそこで待機していた。
 
やがて、鼓笛隊と選手団が退場し、私たちのパフォーマンスの時間となる。
 
バトン組以外の生徒が走って入場してくる。音楽が流れ、私たちはこの1ヶ月間練習したアクションをした。ふたつの大きな輪の形に整列して、音楽に合わせてバトンやポンポンを使って踊る。男子たちの中の数人が輪の中で走ったり、トンボ返りしたりしていた。
 
やがて音楽がクライマックスになると、女子の中でスタンツに参加するメンバーが輪の中から走り出る。最初3〜4人の単位で1.5段や2段のスタンツを作った。その間も残った輪の中のメンバーはずっとダンスしている。
 
そして最後のクライマックス。スタンツをしていた子たちが全体で2つの集団になった。私とカオリが180度開脚して、左右の子の肩の所に足を置いた状態になり、その私たちを支えている子たちが、他の子たちに各々支えられて持ち上げられる。
 
ハイ・スプリットの大技の完成だ。観客席から思わずどよめきが漏れる。
 
私とカオリはそのままジャンプして降りて、下で待機していた子たちに受け止められた。そしてそのままスタンツを崩して元々居た輪の中に戻ると、全員駆け足で退場した。大きな拍手が鳴っているのを背中に聞いた。
 

「成功したね!」と言って私たちは更衣室に戻ると、みんなで手を取り合って喜んだ。あの大技は、さすがに成功率が悪くて、昨日の段階でも2〜3回に1度しか成功しない感じであった。本番でやるかどうか、指導してくれていた1組の桜下先生もかなり迷ったようであったが、失敗してもいいからやってみようということでやったのである。
 
私の方とカオリの方と、両方が同時に成功したのは、初めてだったので、本当にみんな喜んでいた。思わずハグしている子たちもいる。私もたくさんハグした。
 
一緒に更衣室まで来た桜下先生も
「両方成功したのは凄いね。またやりたいね」
などと言っていたが、カオリは
「もう2度と成功しない気がする」などと言う。
「私もそう思う!」と私も言った。
 
そんなことを言いながら着換えていたのだが、先生が私の着替え途中を見て
「あれ?ハルちゃん、今日は女の子下着なんだね」
などと言う。
「ハルは女の子だもん。下着も女の子ですよ」などとカオリが言った。「ああ、そうだよね!」と桜下先生も笑って言った。
 
「でも、ハルちゃん、先月鼓笛隊の衣装を着てた時も可愛いって思ったけど、今日のチアの衣装付けた姿は、物凄く可愛かったね」と先生。
「でしょ?私もちょっと嫉妬しちゃう」などとカオリ。
「トップ(スタンツで一番上に乗る役)になる子は顔で選んだと思われたろうな」
とみちる。
「うんうん。カオリとハルはうちの学年の2大美人だもんね」と2組の学級委員の稀代美も言った。
 

私の性別のことに担任の森平先生が気付いたのは、1学期も終わろうとしていた7月の初旬であった。何でも通知表の準備をしていて、だいたいの成績を付けて教頭先生と話していた時に「何で吉岡君は女子の方に入れられてるの?」と言われ「へ?」となったらしい。
 
「えー?でもあの子、鼓笛やチアで普通にスカート穿いてましたし・・・」
「ああ、あの子、そういう服を着るのが嫌いではないみたいだね」と教頭先生。
 
それでも信じられなかったようで、先生はその日のクラス会の時間、教室に入ってくると
 
「あの・・・・もし私勘違いしてたら、ごめんなさい。吉岡さんって男の子なんだっけ?」とみんなに聞いた。
 
「戸籍上の性別は男みたいですが、実態は半分女の子みたいなものです」と学級委員の木村君が言う。
「そうだったの?御免なさい!名簿、男子の方に移しておくね」
 
「先生、本人は女子の方に入れられても、全然問題無いみたいですし、むしろ女子の方に入れられていたいみたいですから、良かったらそのままにしておいてください」と、もうひとりの学級委員である、みちるが言う。
 
「えっと、そうなの?」と先生に訊かれたので、私は
「はい。それでいいです。女子のほうに入れられてる方が好きですから」
と答える。
「そう?じゃ、このままにしておこうかしらね・・・」と先生は言った。
 
そういう訳で、1学期の通知表の表紙で、私の名前の横にある性別欄は、プリンタで「女」と印刷されたのが、手修正で「男」と書き直されていた。それを見て母は「あら、ここの性別、先生ったら、間違えたのね?」と言った。
 
「よくあるミスだよ」と私は答えたが、そばで風史兄がニヤニヤと笑っていた。
 

2学期が始まってすぐ、6年生は修学旅行があった。行き先は1泊2日で広島方面であった。私の班分けに関しては、先生が学級委員の2人と相談した結果、女子の班に入れた方がいいということになったらしく、私はカオリ・令子・みちる・好美と同じ班に入れられた。この5人で同じ部屋に泊まる。令子は「ハルの女の子下着持ってくるね」と言い、私も「うん」と頷いた。
 
朝、バスに乗って国道54号を南下し、三次でお昼を食べる。そのあと高速に乗って、広島まで行き、その日は広島城と原爆ドームを見て、宿に入った。明日は宮島に渡る予定である。
 
私は当時、男の子のクラスメイトでは、木村君や山崎君など仲の良い子たちとはもちろん、何かときつい事を言う坪田君などとも、ふつうに会話はできていたが、やはり令子やカオリなど女子の友人たちとの方が気楽におしゃべりできたので、バスの席も令子と隣同士にしてもらえて、ほんとにこの旅行を楽しむことができた。
 
この旅行の間、トイレに関してはみちるから「基本的に女子扱いにしてるし、女子トイレ使いなよ」と言われた。ふだんの学校生活では、みんな私の性別のことを知っているから、私が男子トイレを使っていても何も言わないが、知らない人がたくさんいる所では、私の男子トイレ使用は無用の混乱を招く、と言われた。
 
「だって、ハルって、ふつうにそういう男の子の服を着ていても、女の子に見えちゃうからさ。観光地とかで、女の子が男子トイレに並んでいるの見たりしたら変に思われるよ」とみちるは言っていた。
 
「普段でも女子トイレ使っていいのにね」とカオリなども言う。
 
実際、この旅行中の休憩時間には、私は女子の友人たちに「さ、さ、トイレ行くよ」
と言われて腕を取られて女子トイレに一緒に行った。私も女子トイレを使うこと自体は何の抵抗も無いので、連れて行かれるのをいいことに、おしゃべりしながら女子トイレの列に並んでいた。
 

宿でそれぞれの部屋に入って少しくつろぐ。
 
「そういえば、そろそろ学芸会の出し物決めなきゃいけないよ」
と学級委員をしている、みちるが言った。
「また、何か劇をやるの?」
「うん。その線だと思う。何がいいかなあ?」
 
4年生の時は、白雪姫・シンデレラ・裸の王様・浦島太郎で、私たちのクラスは白雪姫をし、私は白雪姫の母親役のつもりが当日、白雪姫役のカオリが風邪で休んだため、急遽代役で白雪姫をした。
 
5年生の時は、アリババと10人の盗賊・アラジンと魔法のランプ・セロ弾きのゴーシュ、青い鳥、で私たちのクラスはアリババと10人の盗賊をし、私は最初出る予定は無かったのだが、直前になってモルジアナを演じることになって、またまた母は「穴があったら入りたい気分」で私の演技を見ることになった。
 
「今年はどんなのが演目の候補になってるの?」
「こないだ各クラスの学級委員で集まって話したのではね、アルプスの少女ハイジ、十五少年漂流記、小公女、秘密の花園、オズの魔法使い、不思議の国のアリス、杜子春、ライオンと魔女、ピーターパン、。。。。とかいったあたり」と、みちる。
 
「長い話ばかりだ」とカオリ。
「うん。それは適当に短くまとめる」
「小公女なんて、登場人物が女の子ばっかりじゃん」と好美
「それは男子を女装させればいいよ」
「なるほど」
「スカート穿かせてあげるなんて言ったら、やりたがる男の子たくさんいるよ」
などとみちるが言うので
「そうか?」と令子と突っ込む。
 
「そんなの私だけじゃないの?」などと私が言ったら
「ハルは女の子だから当然スカート穿いてもらう」と言われた。
「ラビニア役とか希望者がいないと思うから、してもらうと助かるなあ」
「うん、いいよ。でも、カオリ、当日休まないでよね」と私は言った。
 

やがて夕食の時間になり、みんなで大広間に行った。ちょうど給食当番になっている子たちで部屋の端の方に置いてあるご飯やおかずを持ってきて、みんなに配ることになる。私も当番だったので、御飯の入っている容器を持ってきて盛り始めたのだが。。。。同じ当番の山崎君に肩をトントンされる。
 
「どうしたの?」
「なんかさ、あのあたりで『男に盛られるより女に盛られたい』って言うんで、僕は女子の方に盛って回るから、吉岡、男子の方に盛ってやってよ」
「えー?私も男なのに」
「いや、充分可愛い女の子だよ。じゃ、よろしく」
 
ということで、私は男子の方のテーブルに行った。
 
「吉岡、なんか今日は特に可愛いじゃん」と坪田君。
「そう?普通だと思うけど」
「いや、普段より明らかに可愛い。スカート穿かないの?」と田崎君も言う。
「そんなの持ってないよ−」
などと私は言いながら、男子たちに御飯をついでまわった。
 
その後で自分の席(カオリたちのそば)に戻り、御飯を食べる。
 
「でも、さっき向こうの方で男子たちにも言われてたけど、今日のハルはなんか凄く女っぽいよね」と好美。
「えー?」
「あ、私もそれ言おうと思った」と、みちる。
 
「多分、女の子下着をつけてるからだよ」と令子。
「へー。あ、そういえばチアやった日も女の子下着つけてたね」
「ふだん、令子に預かってもらってるの」と私は言った。
「ああ、親には内緒なのね?」と美奈代。
「うち、けっこうハードな男家系だからなあ。テレビでニューハーフのタレントさんとかが出てると『化け物だな』とか、お父ちゃん言ってる」
「わあ、カムアウトしづらそう」
 
「でも、それならこんな日には思いっきり女の子して、スカートとかも穿けばいいのに」
「今日はスカート持ってきてないの?」
「スカートなんて、そもそも持ってないよ」
「あれ?そうだっけ」
 
「確かにハルが自分のスカートを穿いている所は見たことないけど、本当に持ってないかどうかは私も知らない」と令子。
「いや、持ってると思うなあ。私たちにまで隠さなくてもいいじゃん。ね、持ってるんでしょ?」
「持ってないよぉ」
「ほんとかなあ」
「私が少し余分に服を持ってくれば良かったね。こういう機会だし、ハルにはスカート穿かせてあげたかったね」と令子。
「いや。別にいいよ」と私は言うが
「え?でも、ハルはスカート好きだよね?」などと好美からも言われる。
 

御飯の後はいったん部屋に引き上げたが、お風呂に行こうということになる。みんなと一緒に出て大浴場の方へ歩いて行った。
 
「ハルも女湯に入るよね?」
「まさか!男湯に入るよ」
「なんでー?」
「なんでと言われても」
「女湯に入ればいいのにね」
「ハル、今日は女の子下着つけてるでしょ?男湯に入ってもいいの?」
「下着の問題は平気。ふだん、男の子下着つけて女子と一緒に着換えてるし」
「そういえばそうだ」
「なんか話が違うような気もするけど」
 
などとやりとりはしたものの、おしゃべりしながら歩いていて、私はふと忘れ物に気付いた。
「ごめーん。ヘアブラシ忘れてきたから取ってくる」
「ヘアブラシくらい、私の貸そうか?」と令子。
「でも男湯から女湯に借りに行けないもん」
「不便ね」
「だから女湯に来ればいいのに」
 
などとは言われたものの、みんなと別れて部屋に取りに戻った。
荷物からヘアブラシと、一緒に入っていた髪を早く乾かすのに使うスーパー吸水タオルを取り出し、また大浴場の方に行く。途中で環と美奈代に会ったので、おしゃべりしながら浴場の方へ行き、入口のところで「じゃね」と言って私は男湯の方に入ろうとした。が、ガシッと腕を環につかまれた。
 
「ハル、なんでそちらに行くのよ?」と環。
「えー?だって私、男だし」
「嘘つきは良くないよね」と美奈代。
「うん。ハルは女の子でしょ」
「でも身体にちょっと余計なものが付いてるし」
「大した問題じゃないと思うなあ」
「大した問題だよお」
「ともかくも、女の子が男湯に入ってはいけません」
と環は言うと、美奈代とふたりで、私をしっかり掴んだまま、女湯の暖簾をくぐってしまった。ひぇー。
 

「あれ?どうしたの?」と中にいた同じクラスの女子がこちらに声を掛ける。
 
「ハルがね、女の子の癖に男湯に入ろうとしていたから、こちらに連行してきた」
と環が言うと
「それはいけないね、女の子なのに、男湯に入るなんて痴漢だよ」
「女の子はちゃんと女湯に入ろうね」
などと、その場にいた子たちが言う。
 
女湯はこの時間帯はうちの学校の貸し切り状態に近い感じで、脱衣場にいるのも、みんなうちの学校の生徒だ。
 
「でも、私ちょっと変なのが身体に付いてるから」と私は言うが
「そんなの気にしない気にしない」などとみんな言っている。
「確か、ハルは名簿でもちゃんと女子に入ってたはずだよ」
「だったら、ちゃんと女湯に入るべきだね」
「さあ、一緒に入ろうよ、ハル」
 
私が困っていると、「あれ?脱がないの?」などと言われる。
 
「だって・・・」
「じゃ、脱ぐの手伝ってあげるね」
「えー?」
「あ、解剖だね!」
「よし、みんなで解剖してあげよう」
「えーん、助けて〜」
などと言ったものの、私はみんなに身体をつかまれて、無理矢理服を脱がされてしまった。
 
「あれ、ちゃんとブラ付けてるんだ」
「女の子だもんね」
「私、まだブラ付けてないのに」
「パンティも女の子パンティだ」
「おちんちん付いてるようには見えないね」
「それはちょっと隠す穿き方してるだけで」
 
「じゃ、もっと解剖していいね」
「ひゃー」
 
更にみんなから脱がされる、ブラを取られ、パンティも脱がされてしまった。
 
「胸無いねー」
「それは仕方ないよお」
「女性ホルモンが足りないんじゃない?婦人科行って、少し女性ホルモン補充する注射してもらうといいよ」
「うー、それとっても注射されたい気分」
「なんで、お股の所、手で隠してるの?」
「ちょっと、さすがに見せたらまずいものが・・・・」
 
「女の子同士だし、お股見られたっていいじゃん」
「そうだ、そうだ、手をのけよう」
などといって、みんなから手をつかまれてそこを露出させられてしまった。さすがに一瞬みんなの言葉が止まった。
 
数秒間の沈黙の後、環が言う。
「ねえ、これひょっとして、小さくない?」
「うん。小さい。うちの弟のは小さい時でもこの倍くらいあるよ」
「それに私たちに見られても大きくなったりしないね」
 
などと言っていた時、騒ぎに気付いて浴室の方から、みちるとカオリがこちらにやってきた。
「何の騒ぎ?」と、みちる。
「ああ、みちる。ハルの解剖してたところ」
「あらあら」
「ハルったら、男湯に入ろうとしてたから、拉致って来たのよ」
「なるほど」と言って、みちるは笑っている。
「まあ、せっかく女湯の脱衣場まで来たことだし、このまま女湯に入っちゃったら」
「だよねー」
 
「でもさ、これだけされたら、ふつう、これって大きくなったりしないのかな?」と環。「ああ、それは大きくならないよ。偽物おちんちんだから」とカオリ。
「偽物?」
 
「だって、以前私と令子でハルを解剖してみたことあってさ」
「なんだ。やられたことあるんだ?」
「私たちも、それが大きくならないの不思議に思って触ってみたんだけどね」
「わあ、大胆!」
「私と令子がどんなに触っても、大きくならなかったよ」
「へー」
「令子は『やっぱり。これ偽物おちんちんだ』って言ってた」
「ああ、偽物なのか」
「付いてるように見えるけど、偽物だから、付いてないのと同じ」とカオリ。
 
「付いてないなら、やっぱりハルって女の子なんだね」
「そうそう」
「じゃ、女湯に入るの決定。さ、ハル、浴室行くよ」
「えーん」
 

ということで、私はみんなに連行されて、そのまま女湯の浴室に入った。仕方ないのでこちらも開き直り、あのあたりを洗ってから浴槽に入る。あの付近はお股にはさんで隠しておいた。
 
「あれ、こちらに入ってきたんだ?」といって好美や令子も近づいてくる。
「拉致られてきた」
「だって男湯に入ろうとしてたんだもん。女の子が男湯に入っちゃいけないよね」と環。「ほんとね」と令子は笑っている。
 
「あれ?おちんちん、取っちゃった?」と好美が浴槽の中の私の身体を見ながら言った。
「お股にはさんで隠してるよ」
「取っちゃえばいいのに」
「うーん。そのうち考える」
 
「何なら切り落としてあげようか?」
「今、切っちゃえばセーラー服着て、中学行けるよ」
「うーん。とってもセーラー服着たい」
 
などといった過激な会話もしたが、私たちは浴槽の中で普通のおしゃべりもたくさんした。話は盛り上がって、私はこの時は女湯に来て良かったなあと思っていた。
 
話が盛り上がりすぎて、1時間ほどすると、ぼつぼつと一般のお客さんたちもお風呂に入ってきた。そして、うちの生徒も少しずつあがっていく。私は会話が楽しくて、つい長湯してしまったが、ふと気付くと、私と好美と令子の3人以外は、みんな一般客になってしまっていた。
 
「なんかこれ・・・・あがりにくい感じ」
「脱衣場まで、ガードしてあげようか?」
「でも脱衣場で服を着るまでの間にあのあたりを見られると」
「騒ぎになるだろうね」
「私、少しお客さんが少なくなるまで、このまま入ってるよ」
「のぼせない?」
「水を汲んできてくれる?」
「OK」と言って、令子がコップに水を汲んできてくれたので、それを飲む。
 
「今7時半だし、たぶんいちばん人が多い時間帯じゃないかな。30分もしたら人が少なくなるだろうから、それからあがるよ」
「そう?じゃ頑張ってね」
 
と言って、好美と令子も上がっていった。
 

私はそのまま、あそこをお股にはさんで隠してまま、ずっと浴槽に入っていたが、ひとりで入っていると、けっこう一般のお客さん、特におばあさんたちに声を掛けられた。
 
「あら、あなた小学生?」
「はい。修学旅行で来たんです」
「どちらから来たの?」
「島根県です」
「あら、あちらはいい温泉多いわよね」
 
などという感じで、私はおばあさんたちとも結構会話がはずんでしまった。私は30分もいれば人が少なくなるかと思っていたのだが、むしろ人は増えてくる感じだった。さすがにこれはもう限界と思ったので、私は思いきって出ることにした。
 
タマを体内に押し込み、おちんちんもぎゅっと押し込んでその上を指で押さえて隠す。こうすると、押し込んだ付近に縦にすじが出来るので、それが一見割れ目ちゃんに見える。私のおちんちんはどんなに触っても大きくなったりはしないので、指1本で私はそのあたりを隠すことができる。
 
こちらを見てる人が居なさそうと思うタイミングでさっと浴槽から上がり、浴槽のそばに置いていた桶に掛けていたタオルを取ってお股の付近を隠し、脱衣場に移動した。とにかく見られたら通報だから、けっこう緊張する。浴室備え付けのバスタオルを取り片手で身体を拭きながら(片手は指先であそこを押さえて隠している)自分の脱衣カゴを見つける。充分身体を拭いたところで、まずは新しいパンティを取って穿いた。この時、ふつうにおちんちんは下に向ける。体内に押し込んだ状態はパンティでは押さえきれないので、押さえやすい状態にするのである。取り敢えずパンティを穿くと、ちょっとホッとした。
 

ブラジャーを付け(ホックは留めきれないので部屋に戻ってから令子に頼もうと思った)、ポロシャツを着たが、ズボンを穿こうとして困惑する。
 
ズボンが無い。。。。
 
代わりにスカートが置いてあり「ハルちゃんへ。スカート貸してあげるね(ハート)」
というメッセージの書かれたメモ用紙が安全ピンで留められていた。この字は環だ!
 
参ったなと思ったが、他に穿くものは無い。仕方ないので、私はスカートを穿いて大浴場を出た。
 
お風呂に2時間入っていたので、さすがにちょっと頭がくらくらする感じもあったが、旅館内のエアコンの入った空気で少し涼みながら、私は部屋の方へ歩いて行った。途中ロビーの付近を通りかかると、同じ学校の子たちから
 
「あれ、今日はスカート穿いてるのね」
「可愛いね!そういう格好」
「やっぱりハルちゃん女の子なんだね」
などと言われた。私は彼女たちに手を振って、歩を進めた。
 
環たちの部屋に行く。
「環〜」
「ああ、ハル、お風呂上がったのね」
「ズボン返して〜」
「ハルはスカートの方が好きなんじゃないの?」
「それは好きだけど」
「だったら、そのままでいいじゃん」
「うーん」
 
環は笑っているが
「じゃ、返してあげるから、スカートはそのまま穿いておきなよ」などと言う。
 
「まあ、それならいいかな」
「そのスカートは明日まで貸してあげるから」
「えー?明日もスカートなの?」
「穿きたくないの?スカート」
「・・・穿きたい」
「じゃ、明日もスカートでいようね」
「うーん。じゃ取り敢えず借りておくね」
 
環も私のズボンを返してくれた。
 
「女湯、どうだった?」
「えへへ。楽しかった。みんなでおしゃべりできたし。上がる時に少し勇気が要ったけど」
「まあ、あそこさえ見られなかったら、ハルは女の子にしか見えないから」
「でも、みんなにあそこ見られちゃった」
「素直に脱がないからよ」と言って環は笑っていた。
「でも、令子がよく『ハルのは偽物おちんちんだから』と言ってた意味が少し分かったよ」と美奈代。
 
「みんな、ハルが少なくとも男の子ではないことが分かったと思うね」と環は言う。
 

ズボンを手に持ったまま自分の部屋に戻ると、みんなが「お帰りー」と言ってくれた。
 
「あれ?スカート穿いてるの?」
「いや、その件はいろいろあって」
 
みんなジュースを飲みながらおしゃべりしていたので、私もウーロン茶の缶を買ってきて、飲みながら話の輪に加わった。令子がブラのホックを留めてくれた。
 
「ああ、ズボンを隠されて、スカートが置かれてたのか」
「それで、環には返してもらったけど、今日はスカートそのまま穿いておきなさいよって言われて、それもいいかなと思って」
「明日もそのまま借りておいたら?」
「環には、そう言われたんだけど」
「そうしちゃえばいいじゃん」
 
とみんなから言われて、私はかなりその気になってきた。
 
「ハルのスカート姿は、鼓笛隊でもチアでも見たし、違和感とか無いもんね」
「学芸会でも、白雪姫とモルジアナやったしね」
「白雪姫の可愛い衣装も良かったけど、モルジアナのセクシー衣装も良かったね」
「ハルって、女の色気があるんだもん」
 

翌日。私は一応ズボンを穿いて、朝御飯に行ったのだが、クラスの女子からも男子からも突っ込まれた。
 
「ハル、どうして今日はスカートじゃないの?」
「スカートの方が可愛いのに」
「俺、昨夜吉岡のスカート姿って見逃した。今朝見れると思ったのに」
 
そんなことを言われてしまったので、カオリたちから煽られたこともあり、私は朝御飯が終わって部屋にいったん戻ると、環から借りたスカートに穿き替えた。
 
「うん、ハルはそちらの方が似合ってるよ」と好美から言われる。
 
そういう訳で、私は小学校の修学旅行の2日目をスカートで過ごしたのであった。
 
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【桜色の日々・小6編】(1)