【八犬伝】(3)
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(C) Eriko Kawaguchi 2021-10-10
現八は茶屋の夫婦の忠告を聞かず、夕方庚申山を越えようとしていました。
しかし秋の日は茶屋の主人が言ったように、急速に落ちます(*30). 現八は何とか暗くなる前に山を越えてしまおうと思いましたが、こんな時に限って道に迷い、気がつくともう真っ暗になっています。そして目の前に、庚申山の胎内竇(たいないくぐり *31)がありました。
(*30) 文明12年9月7日は、グレゴリウス暦では1480年10月19日になります。この日の日光市の日没は筆者の計算では17:04です(日暮は約30分後)。またこの日の月入は19:32なので結構早く真っ暗闇になります。
日没時刻は季節により2時間半くらい変動します。例えば2021年の場合、日光市の日没時刻は夏至だと19:03ですが、冬至だと16:29です。10月下旬だともうかなり冬至に近い日没になっています。
(*31)“竇”という文字は、音読みは“トウ”、訓読みは“あな”。JIS 6365. 信じがたいことに第2水準です。こんな難しい文字はJIS外だろうと思ったのですが。この文字を入力できる人が少ないので、八犬伝関係のネット文書の多くが“胎内潜り”にしちゃってますね。一般に“竇”(くぐり)というのは洞窟(トンネル)や、物凄く狭い谷間をくぐり抜けるような場所です。ここでは少し先を読めば分かるように後者です。
現八(白鳥リズム)もさすがに、店の主人の好意に甘えればよかったと後悔します。後悔すると疲れもどっと出て、現八は腰を下ろして一休みします。こういう時は気持ちが後ろ向きになるので、あれこれよからぬことを考えてしまいました。
しばし休んで、もうこのあたりで野宿しようかと思います。そして狭い谷間から見えるわずかな星を眺めていたら、異様な妖気を感じます。何だ何だ?と思い、現八は引き返し胎内竇を出、木陰に身を隠しました。
すると向こうから微かな灯りが幾つか見えてきました。
「あれは鬼火か?天狗火か?」
と思って見ていると、その灯りと思ったのは、何とも奇怪な風体の者の両眼が光っているのでした。
先頭に立っているのは、“馬に乗った侍”に見えるのですが、その顔は虎のようで、口は大きく裂けています。手も獣のような手です。それを除けば、身なりだけは普通の侍のようなのですが、現八は何か違和感を覚えました。彼はその時はその違和感の正体に気付きませんでした。
またこの侍?が乗っている馬が奇妙で全体的に痩せこけていて骨と皮だけのよう。苔まで生えています。
後方左右に従者?が従っていますが、片方は真っ青、片方は真っ赤で、青鬼・赤鬼という感じでした。
(先頭に立っているのは化猫のマスクをかぶり、猫の手手袋をした品川ありさ。後方の青鬼・赤鬼は同様にマスクをかぶり手袋をした三陸セレンと山鹿クロム。馬は足が馬の動きをする造り物:C大学ロボット工学研究室の院生さんの試作品(制作の材料費を§§ミュージックが負担)。性別はどちらがいいですか?と言われたが、付いてたらガールズたちが騒ぎそうなので女の子にしてもらった)
現八は考えました。こういう時、向こうが自分を見つけたら、それから攻撃態勢に移っても、後(おく)れてしまうものだ。機先を制して、あの妖怪の親玉を射れば手下共は親玉ほどではあるまい。
それで現八は木の上に登ると、弓矢をつがえ、気配を殺して待機します。相手との距離を測り、向こうが石門を出て、こちらにかなり近づいた所、50mくらいで、親玉に向けて射ました。
矢は妖怪の左目に当たりました。
すると親玉は落馬。手下の1人が親玉の手を取り、1人は馬を引いて、引き返していきました。
現八は妖怪たちが去るのを少し待ってから木を降り、胎内竇を通過しました。更に“ものすごーく心細い”石橋を2つ越えて進みます。かすかな星明かりを頼りに様子を伺うと、多数の岩窟があります(*32)。これは茶屋の主人が言っていた、古代の遺跡だなと思います。それを横に見ながら歩いていると、その岩窟の中に、灯りがともっているものがありました。
しまった。妖怪の根城だったか?と思い、弓に矢をつがえて近づいて行くと、そこに男(品川ありさ)が1人居て、焚き火をしていました。
「勇士よ。私は妖怪ではありません。それどころか今日、私の仇敵を射てくださったことに感謝しています」
などと彼は現八(白鳥リズム)に語りかけました。
現八は警戒は緩めないものの、弓矢はいったん戻して彼の近くまで行きます。
「こんな人里離れた山の中で、妖怪でないのなら、あなたはどなたです?」
と尋ねますが、
「申し訳無い。私から少し離れて、そのあたりに座っていただけませんか?あなたは神聖な珠をお持ちだ。その珠が近すぎると、私はこの状態ではいられなくなってしまいます」
珠で自分を保てなくなるというのは、やはり妖怪変化の類いであることを自白したか?とも思ったのですが、男の話はそうではありませんでした。
「あなたが先ほど射たのは、齢(よわい)数百年の山猫の化け物です。身体の大きさは雄牛のよう、猛々しさは虎のようです。彼はその神通力で、この付近のキツネ、タヌキ、アナグマ、貂(てん)などの動物たちや、土地神たちまで従えています。今夜従者のように従っていたのも山の神と土地の神です。彼らは山猫の力が強すぎて抵抗できないので従っているだけで、山猫の手下とかではありません。だから山猫か怪我した時、敵を探すとかもせず、引き上げたのです」
「なるほど」
「私はこの世の者ではありません。元々はこの近くに住む郷士で、赤岩一角と申しておりました。それが不慮の死を遂げ、その恨みがここに留まり、仮に姿を現したのです。私は代々武士の家で、今は郷士になっていますが、武芸には自信があり、人に武芸を教え多数の弟子を持っていました」
「寛正5年初冬(1464.10のこと。新暦:11/9-12/7)、私は武芸に誇って名を表そうと、昔から人が恐れるここの奥の院を見ようと門人たちに言いました。しかしみんな恐れて、結局3-4人の高弟と従者だけを連れ、山深く入りました。やがて第2の石橋を越える所で、みんな怖じ気づいて帰ってしまいました。みんな私にもう帰りましょうよと言うのですが、私はみんなの忠告を聞かずに先に進みました」
「そしてこの岩窟群のある所で物凄い風が吹いてきて、私は思わず弓矢も手から放し、身体を縮めていました。そこに山猫が現れて、私の背中に爪を立てたのです。私も反撃して相手の喉に短刀を立てようとしましたが手元がくるい、奴の前足に傷を与えただけでした。奴はそれでも襲ってきて、私は急所をやられて命を失い、奴に食われてしまったのです」
「門人たちは私が帰らないので翌日捜索隊を出します。すると山猫は私の姿に化けて、門人たちの前に姿を現しました。見た目は私そっくりに見えるので、門人たちはてっきり私だと信じ、一緒に帰ったのです」
「勇者よ、願わくば、我が息子・角太郎と共にあの山猫を倒してくれないでしょうか」
と一角の霊は言い、自分の短刀、そして髑髏を現八に託して消えました。
(*32) この場面、胎内竇や凄ーく心細い石橋(さすがのリズムが渡るのを怖がった)、一角の居た洞窟はセットだが、岩窟群はCGである。
サンシャイン映像制作の今年春に美術系大学を出たばかりのCG技術者・緑川ルミさんの力作。静岡県函南町の柏谷横穴群、愛媛県の岩屋寺の甌穴群を実際に見学してきて!(松山空港までHonda-Jetで運んだ)、いかにも怪しげな横穴群を1ヶ月掛けてリアルに描いてくれた。データは3Dで作られているので視点が移動すると見え方も変わっていく。とてもCGには見えないので、放送後、あの横穴群はどこでロケしたんですか?という問合せが多数寄せられた!
現八はこの洞窟で仮眠を取り、朝になってから石橋・胎内竇(たいないくぐり)を戻って、足尾側に戻りました。犬江家を訪ねてみたのですが、雛衣(木下宏紀)が1人居ます。そして、角太郎はずっと返璧(たまがえし)という所に行って修行をしているということでした。
雛衣(ひなぎぬ)が「義父(ちち)のお知り合いでしたらご案内します」と言うのですが、彼女がお腹を大きくしているので現八は
「妊娠中の女性に遠出させるのは申し訳無いです。道だけ教えて頂けないでしょうか?」
と言いました。すると雛衣はいきなり泣き出します。
「どうなされた?」
と尋ねると「旅の方に言う話ではないのですが」と言って、雛衣はその問題について語りました。
角太郎がこの家を出て返璧(たまがえし)に行ったのは1年ほど前で、自分は毎週のように彼に会いに行き、必要な物などを調達したのを渡していた。しかし彼が修行中なので、男女の交わりは控えていた。ところが、半年前から月の者が停まり、自分のお腹が大きくなり始めた。それで角太郎は自分が他の男と通じたのだろうと疑っていて最近、口も聞いてくれないと。
「失礼ですが、他の男性とは」
「決して交わってはいませんし、そもそも他に親しい男もおりません」
現八は考えました。
「だったら、それは妊娠ではない」
「そう思われますか?」
「むしろ病気の可能性がある。子を孕んでなくてもお腹が大きくなる病気があるのですよ。できたら薬師(くすし:医者のこと)に見せた方が良いのだが」
「そのような方は、こんな田舎にはおりませんし」
雛衣が歩くのは平気と言うので、結局現八は彼女に案内してもらって、角太郎の修行の場まで一緒に行きました。角太郎(常滑舞音)が座禅をしているので、現八たちはそれが終わるのを待ちました。
雛衣には聞かせたくない話なので、彼女を庵の外に座れる場所を確保して待たせておいて、現八は角太郎に昨夜、赤岩一角の霊から聞いた話をしました。そして一角から預かった短刀と髑髏を渡すのですが、角太郎は半信半疑です。ただ角太郎も“一角”についてはやや疑いを持ってはいるようでした。
角太郎は言いました。
「犬飼殿。大変失礼ながら、そなたの頬の痣はけっこう目立ちますね」
「まあこれは私の表札代わりみたいなものですね」
「これを見てください」
と言って、角太郎は着物の上半身をはだけます。
「胸に痣が・・・」
「そなたの痣と形が似ている気がします」
「確かに」
と言った上で現八はハッとしたように聞きます。
「犬村殿、ひょっとしてこのような珠をお持ちではありませんか?」
と言って現八は自分が持つ“信”の珠を取り出して見せました。
「持っていました」
と角太郎は言った上で
「実は半年ほど前からそれが行方不明なのです」
「行方不明?」
「実はその直後から雛衣のお腹が大きくなり始めて、もしかしたら何か関係あるのかも知れない気がしています」
「ひょっとして、雛衣殿の体内に飛び込んでしまったとか」
「その可能性はあると思っています」
「でしたら、角太郎殿は、雛衣殿の操(みさお)を信じておられますか」
「当然です。あの女は密通などする女ではありません。密通したのではと言っているのは“一角”の家に女房面して居座っている船虫という女ですよ」
「だったら、雛衣殿に『お前を信じる』と言ってあげましょうよ。雛衣殿はかなり思い詰めていますよ」
「いや、私も口下手なもので」
と照れるように言ってから、角太郎は付け加えました。
「それと“一角”と“船虫”は私の命を狙っている気がしているので、雛衣を巻き込まないように遠ざけているのです。そのことを話したら、あの子は絶対私が危ないのなら、なおさら傍に居ると言い出すでしょうから」
「そういうご事情でしたか」
と現八も角太郎の考えが分かり、溜息をつきました。
そんな話をしていた時、庵を訪問する者があります。“一角”の妻ということになっている船虫(坂田由里)です。
小文吾が船虫には欺されかけたのを危うく難を逃れたのですが、現八はそのことを知りません。船虫はあの時、馬加の手の者に逃がされてから、ここに流れてきて“一角”の妻になっていました。それ以前の“一角”の人間の妻がみんな早死にしたり、食われたり、(勘のいい者は)逃げ出したりしたのに、平気で妖怪と2年も夫婦をしているというのは、船虫自身が妖怪ではと思いたくなるほどです。
船虫は現八を見て怪訝な顔をしていますが、一角から角太郎と雛衣に話があるので来て欲しいと言います。それで角太郎は何事だろうとは思ったものの、結局、現八も連れて3人で赤岩家に行くことにしました。
赤岩家に行くと“一角”(品川ありさ:二役)が左目を怪我しています。角太郎はさっきの現八の話を思い出して、現八と視線を交わしました。これで角太郎は現八の話を信じる気になったのです。またこの時、現八は“一角”が着物の前を左合わせに着ていることに気付きました。そして昨夜妖怪を見た時に覚えた違和感の正体にも思い至ります。あの妖怪も服を左前に着ていたのです。
“一角”は現八を見ると、こう言いました。
「かなり腕の立つ方とお見受けする。私の門人たちと手合わせ頂けないだろうか」
それで出て来たのが、こういう面々でした。
玉坂飛伴太(たまさかひばんた)(豊科リエナ)
月蓑団吾(つきみのだんご!)(三陸セレン)
八党東太(やっとうとうた)(山鹿クロム)
屹足溌太郎(きったりはったらう *33)(箱崎マイコ)
そして“一角”の息子・牙二郎(夕波もえこ)。
現八(白鳥リズム)は5人全員を叩きのめします。“一角”が腕を組んで悩んでいます。
(リズムは剣道二段の免状を持っているので上手い!)
(*33) この人の苗字は正確にはニンベンで“仡足”。この文字は山偏の“屹”と同じ意味。“仡立”(=屹立きつりつ)の“仡”。
しかし“つきみのだんご”なんて名前はお月見しながら団子食べてて思いついた名前だろうか?“切ったり貼ったろう”って Cut & Paste ? 昔は小説を書いていると原稿を相当切り貼りしたはずです。(私も手書き時代は原稿用紙をセロテープだらけにしていました)
しかし小説を書く時は実在の人物とぶつかると面倒ですし、昔なら万一有力大名御家人などとぶつかると大変なので、有名人の名前に通じた人に確認の上で、現実にはまず居ないだろうという名前を考えたのでしょう。
「それより父上、話は何だったのでしょうか?」
と角太郎は尋ねます。
「実はこの目の怪我なのだが」
と“一角”は話し始めます。
「昨夜山中で修行をしていたら、何者かが私に矢を射て目に当たった。目の怪我を治すには、4-5ヶ月の胎児の胆と、その母親の心臓が必要なのだ。だからそなたの妻・雛衣の心臓と胎児を私にくれ」
角太郎が
「そんな馬鹿な話は聞いたことがない。父上殿はご乱心なさったか」
と言います。
しかし船虫は
「そなた、親の恩を忘れて、不義の妻をかばうのか?雛衣も孝行のため、自分の心臓と胎児の胆くらい差し出せ」
と雛衣に迫ります。
するとずっと“不義”を責められ思い詰めていた雛衣(木下宏紀)は
「分かりました。どうぞ、私の心臓と赤子の胆、お取り下さい」
と言って、懐刀(ふところがたな)を取ると自分の腹に突き立てようとします。
しかし一瞬早く、現八の刀が雛衣の懐刀を叩き落としました。
止めようとしたものの出遅れた角太郎が
「すまん」
と現八に感謝します。
しかし船虫は
「えーい、この親不幸者め。私が胎児の胆を取ってやる」
と言って刀を抜き、雛衣を斬ろうとしました。が、これは角太郎が船虫を殴り倒し!船虫は刀を落とします。そしてその勢い余って船虫の身体は雛衣にぶつかりました。
この時、船虫の刀で角太郎は腕を少し切りました。その血が、角太郎が持っていた髑髏に掛かりますと、髑髏から赤岩一角の姿がうっすらと現れます(立体映像)。そして角太郎に
「我が子よ、仇敵を必ず倒してくれ」
と言って、ニセ赤岩一角を指さしました。ここで角太郎も現八の話を完全に信じることにしたのです。
雛衣の方ですが、ちょうど船虫の頭が雛衣のお腹を直撃した形になり(*34)、雛衣は思わず「うっ」と声を挙げます。その時、雛衣の口から1個の珠が飛び出します。そしてその珠はそのまま“一角”の方に飛んで行きましたが、ニセ赤岩一角にぶつかると、ニセ一角の姿はたちまち、山猫の姿に変身しました。
「本性を現したな!」
と角太郎は言い、刀を抜いて、一角に化けていた山猫に対峙します。
山猫は刀は持てないもののその鋭い爪を出して角太郎と向かい合います。しかし片目なので距離感がつかめないようで空振りします。
それでも牛のように大きな“山猫”はその大きさ自体が武器です。突進してこられると脅威ですが、角太郎は冷静に山猫の首筋に刀を当て倒します。そしてその首を切り落としたのです。
(巨大なぬいぐるみにセレンとクロムが入って動かしている)
首を切り落とされた山猫はしばらくは鋭い爪を出した四つ足を動かしていましたが、やがて動かなくなります。こうして角太郎は、父の仇を討ったのでした。
そして!山猫が倒れると、“門弟”たちの姿が変わります。
玉坂飛伴太(豊科リエナ)の姿はアナグマに、屹足溌太郎(箱崎マイコ)の姿は貂(てん)に、そして月蓑団吾(三陸セレン)の姿は赤鬼、八党東太(山鹿クロム)の姿は青鬼になり、ついでに赤岩牙二郎(夕波もえこ)の姿も若い山猫になりました。みんなニセ赤岩一角の神通力が消滅したことから、本来の姿に戻ったのです。
いきなり5人(3人+2匹?)相手にするとなると大変だと思い、現八も刀を抜きます。
が、意外なことが起きました。
赤鬼・青鬼がアナグマと貂を捕まえ!(*36)
「角太郎殿、ありがとうございます。これで長年の山猫の支配から解放されました。私たちは山の神と土地の神です。こいつらは連れて帰っておしおきします」
と言うと、角太郎に一礼して出て行きました。
残るは山猫の姿になった赤岩牙二郎のみです(夕波もえこがかぶりものをして演じている)。
現八は刀を納めました。角太郎は山猫を斬り、事件は解決したのです。
角太郎は雛衣に謝りました。
「そなたが、不義などしていないことは私は分かっていた。ただ、船虫と父の偽物が私の命を狙っているようだったので、お前を巻き込まないように遠ざけていたのだよ」
雛衣は珠を吐き出した後、お腹が平らに戻っています。その珠“礼”はニセ一角を倒した後、角太郎の手元に戻りました。
角太郎の言葉を聞いて彼女は泣き、角太郎(常滑真音)は雛衣(木下宏紀)を抱きしめました(*38)
「あれ?そういえば船虫は?」
と現八があたりを見回しますが、姿が見えません。
「あいつも本性を現して、山の神殿、土地神殿に捕まったのでは?」
「そうかもしれん。あいつはきっとキツネか何かだろう」
「キツネ七化け、ムジナ八化け、貂(てん)九化けというからなあ」
(ムジナは、タヌキ・アナグマの類いを指す。地域によって、言葉の使い方に混乱がある。アナグマをムジナと呼ぶ地域、ハクビシンをムジナと呼ぶ地域、ムジナはタヌキの別名とする地域、タヌキとアナグマをまとめてムジナと呼ぶ地域などがあり、それを背景に大正13年には“タヌキ・ムジナ裁判”(*37)が起きた)
語り手:ところが船虫(坂田由里)はどさくさ紛れに逃げ出していました。
それで
「参った、参った。妖怪の女房も面白かったけどなあ」
などと言いながら、歩いていたら、向こうから思いがけない人物が来ます。
籠山逸東太(花貝パール)でした。
「貴様!小笹・落葉を返せ」
「あ・・・・」
(嵐山が千葉家に戻ったことは伝え聞いている)
それで船虫は籠山に捕まり、連行されていったのでした(でも途中で籠山を欺して逃亡する!)。
(原作では籠山もニセ一角の門弟になっていたことになっているが、それなら船虫を放置していたのはおかしい。それでこの翻案では今来たことにした)
犬村角太郎はこの機会に名前を犬村大角と改めることにしました。そして雛衣と久しぶりの夫婦の語らいをした上で、現八とともに、犬士たちの集まりに参加することにしました。
1ヶ月後。
「しばらく留守にするが、必ず役目を果たしてからお前を迎えに来るから」
と出発する犬村大角は言います。
「はい。お待ちしております」
と雛衣は笑顔で夫を送り出しました。
雛衣が大角の子供を産んだことを大角は10ヶ月後に手紙で知ることになります。
(*34)雛衣には最初は原町カペラ、その後、鹿野カリナがアサインされていたが、最終的に木下宏紀になった。それは次の理由により“女性ではない”人に演じさせることにしたからである。
・雛衣が受ける要求が胎児の胆を寄こせという女性に対してあまりに過酷なものであり、それを女性に演じさせるのは可哀想であること。
・原作ではその要求に応じて雛衣が腹を切ってしまうこと。ここで角太郎も現八も居て雛衣を止めきれないのはおかしいと思う。今回のドラマ化では船虫が雛衣のお腹に衝突して珠が飛び出す展開にしたが、お腹にぶつかる演技も女性にさせるのはよくない。
ということで、本人が「子宮は無い」と主張している木下宏紀にやってもらうことにして、カリナは糠助に回り、糠助にアサインしていた三田雪代は金碗八郎に回った。
「でもボク、信濃町ミューズは卒業したのに」
と木下君は言ったが
「あら、知らなかったの?信濃町ミューズを卒業した人は信濃町エルフに自動的に所属するんだよ」
と川崎ゆりこ。
「初耳です!」
ということで木下君が使われることになったので、“ついでに”篠原君も出演することになり、彼には泡雪奈四郎がアサインされることになった。泡雪に最初アサインされていた中村昭恵は手束に回ったが、中村は演技力はあるものの(多分アクア・葉月・ビーナの次に上手い)、立ち回りは自信が無いと言っていたので、結果的にはうまくまとまった。
彼女は『源平記』では阿野全成(*35)を演じており、指揮官なので戦闘シーンは無かった。
(*35) 阿野全成は、義経の同母兄で平家打倒に功があり、頼朝による幕府成立後も有力御家人となる。頼朝死後に、頼家・実朝が対立すると、実朝側に付き、その争いの中で死亡した。子孫は公家の阿野家となり、後醍醐天皇の側室(中宮内侍)で後村上天皇を産んだ阿野廉子はその子孫である。
(*36)原作では「猯(まみ)と貂(てん)」と書かれている。猯(まみ)は基本的にはアナグマの異称とされるので、ここではアナグマと書いた。
撮影で使用したアナグマと貂(てん)は山村マネージャーが
「飼ってる人を知ってる」
と言って連れて来たが、その飼い主の指示に従って演技?してくれたので、スムーズに撮影ができた。
「この子たち、人間のことばが分かるみたい」
などと花ちゃんが不思議そうに言っていた。
なぜかアクアがおかしそうにしていた!
(*37)完全に物語から脱線するが、「タヌキ・ムジナ裁判」というのはこういう事件である。
・栃木県の猟師が1924年2月29日、“ムジナ”2匹を洞窟の中に追い込んで閉じ込め、3月3日にその穴を開いて射殺した。
・この行為が3月1日以降は“タヌキ”の狩猟を禁じた狩猟法に違反するとして告発された。
被告側は「自分が狩ったのはタヌキではなくムジナだ」と主張した。またムジナは既に2/29に確保していたのだから、狩猟をしたのは2/29であり、3/3ではないとした。
こんなアホな裁判を大審院(現在の最高裁判所)まで争ったのである。大審院の判決はこうである。
・“タヌキ”と“ムジナ”は動物学的には同じ動物を指すとされるが、そのことが国民一般に認識されているとは言いがたい。従って被告人がそれを認識していなかったとしても不思議ではない。つまり「事実の錯誤による故意責任阻却」(刑法38条)が認められる。
・被告人は2/29にムジナを既に占有しているのだから、狩猟日は2/29と認められる。
ということで被告人側の全面勝利だったのである。
つまり被告人は禁猟動物である“タヌキ”を狩る意志は無かったのだから、“犯罪の故意”は無かった、というものである。つまり被告人はムジナとタヌキは似ているが別の動物だと思っていた(錯誤)。これが同時期の“むささび・もま事件”との決定的な違いである。
この裁判は、刑法38条に関する法解釈の問題として現在でも法学生が必ず教えられる事件である。
おなじくムジナと呼ばれるタヌキとアナグマは外見がひじょうに似ているので、狩猟者でも両者の区別が付いていない人も多い。ただ昔から「タヌキには美味いタヌキと不味いタヌキがある」と言われてきた。
実はその“美味いタヌキ”が草食性のアナグマであり、“不味いタヌキ”は肉食性のタヌキである。
筆者は田舎に住んでいるので車を運転していると年に3〜4回はタヌキあるいはアナグマを見かける。一度はタヌキの家族!(親ダヌキの横に子ダヌキ3匹)が道端に並んでこちらを見ていたこともある。
私もタヌキとアナグマの区別がつかないが、1度だけ、確実にアナグマのような気がしたものもあった(顔が普通のタヌキと違った)。タヌキは車が近づくと驚いて“固まってしまう”(狸寝入り)ので、こちらが停止しないと轢いてしまいかねず、神経を使う。これがキツネだと、さっと逃げる。
(*38)木下宏紀は、本人は「ボクは男の子ですよ」と主張しているものの、今回常滑舞音が彼(彼女?)を抱きしめても、普通に女の子の感触なので「やはり」と言われた。女子寮の寮生たちの間では、木下君は既に性転換手術済みという認識がされており、この春には川崎ゆりこに欺されて、男子寮の“女子エリア”に部屋が移動されてしまった。しかし本人は性転換どころか去勢もしていないし、女性ホルモンも飲んでいないと主張している。
「ホルモンは飲まなくても注射とか貼り薬もあるよね」
「注射も貼り薬も使ってません!」
「分かった!卵巣を移植したんだ」
「手術とかしてません!」
彼は男声も出るが、ふだん女声で話している。こちらの方が楽なのでと本人は言っていた。男子寮の“女子エリア”の住人には生理用ナプキンが無料で支給されているが、木下君もそれは受け取っているようである。
なお彼(彼女?)は放送局などでは“かなり注意されたので”女子トイレを使用している。
町田朱美は彼はアクアと同様に、睾丸の機能不全なのではと推測している。
語り手:富山(とみさん)の奥深く、1人の少年(七尾ロマン)が、剣術の練習をしていました。相手をしているのは、曳手ですが、この日は初めて少年が曳手に勝ちました。
「おぉ勝った勝った」
と単節(美崎ジョナ)が手を叩いて喜んでいます。
「だいぶ強くなった。私にも単節にも勝てるようになったら、そろそろ音音様に相手してもらわないといけないかな」
と相手をしていた曳手(大仙イリヤ)が言うと
「まだまだ。1回勝ったくらいではね。半分は勝てるようになったら相手してやる」
と音音(石川ポルカ)が言っています。
「そして音音にも勝てるようになったら俺が相手だな」
とお茶を飲みながら姨雪世四郎(原町カペラ)が言いました。
単節のそばには、幼い子供2人、姨雪力二郎・尺八郎がいます。“あの夜”の交わりにより、曳手と単節は各々男の子を産んだので、父親の名前を継がせたのです。あの夜の(先代)力二郎・尺八郎は幽霊だった筈ですが、幽霊が子をなすのは、古い伝説にもある、と世四郎は言い、自分の孫たちを可愛がっていました。
荒芽山でバラバラになった後、信乃(アクア)は、未発見の犬士を探して信濃、越後、陸奥、出羽と旅をしていました(8人全部見つかったことがまだ情報共有されていない)。
3年後の文明13年(1481)10月下旬。信乃は甲斐国の現在の笛吹市付近に来ていました。ここで彼は泡雪奈四郎(篠原倉光)という男から弓矢を射かけられます。反射神経の良い信乃は飛んできた矢を刀で叩き落とし、命に別状はありませんでした。信乃は奈四郎を捕らえ
「貴様何者だ?追い剥ぎか?」
と問い詰めます。しかし奈四郎は
「猪と間違っただけだ。済まなかった」
と主張します。
そこに四六城木工作(よろぎ・むくさく)(山本コリン)が通り掛かります。彼はこの揉め事(?)を仲裁しました。
奈四郎はあらためて謝罪し、信乃も彼の言い分を認めて彼を解放しました。
木工作は信乃に
「もう暗くなります寒いですから、よかったらうちに泊まりませんか(*39)」
と誘いました。彼は猿石の村長をしていました。
(*39) 原作で木工作は「今年は閏月があるので普段の10月より寒い」と言っているが、実際には文明13年には閏月は無い!馬琴の時代に350年前の暦を知ることは困難だったかも。あるいは最初は別の年、例えば閏月のある文明14年の予定だったのが予定が変わったのかも。
文明10年(1478) 芳流閣の決闘
文明11年(1479) 対牛楼の仇討 閏9月有
文明12年(1480) 化猫退治
文明13年(1481) 甲斐物語
文明14年(1482) 越後物語 閏7月有
文明15年(1483) 幻城館山城
村長の家には奥さんの夏引(薬王みなみ)と娘がひとり居ました。奥さんも信乃を歓迎してくれたのですが、信乃は娘の顔を見て驚きます。
「浜路!?」
と信乃が声をあげると、娘(姫路スピカ:二役)の方が驚いて
「お武家様、どうして私の名前をご存じなのです?」
と尋ねました。
「すまない。他人の空似だったようだ」
と信乃が言いますが、
「でもその人も“はまじ”という名前なのですか?」
と興味を持ったふうの娘が尋ねます。
「もしかして、あなたの名前も“はまじ”なのですか?」
「そうなんですよ」
「その方は・・・お武家様の奥様?」
と浜路が尋ねると
「許嫁(いいなづけ)だった。しかし結婚する前に亡くなってしまったのだよ」
と信乃は答えます。
「それはお気の毒に」
と木工作が言いましたが、浜路は信乃を見ながら何か考えているようでした。
猿石郷はその夜、雪が降ってきてかなり積もった上に翌日は吹雪いていました。
「これは危険ですよ。雪が収まるまでここに逗留なさってください」
「確かに無理するのもよくないかも知れない」
それで信乃は木工作の言葉に甘えて、滞在が一週間、二週間と延びます。
すると浜路は明らかに信乃に興味を持ち、何かと声を掛けてきますし、信乃が木刀で素振りなどしていると、
「もし良かったらお手合わせしてくれない?」
などと言って、自ら木刀を持ってきます。
信乃も逗留させてもらっている御礼も兼ねて彼女と手合わせするのですが、彼女が意外に強いので驚きました。
「浜路殿は、なかなか筋が良い。私が出発した後も誰か先生について習ったほうがよいかも」
「出発する時に私を連れていってくれない?」
「えーっと・・・」
「私こんな素敵な殿方と一緒になれたらなあ、と思ってしまって」
と言って、スピカはアクアの手を握りしめた。
ではなくて!
浜路は信乃の手を握りしめました。
(放送時に「こらぁ離れろ!」という声多数)
「ちなみに殿方よね?娘子じゃないよね?」
「私は男だ」
「今度確認しよう」
「何する気だ!?」
信乃は、許嫁だった浜路(以下浜路1)と、ここの浜路(以下浜路2)は、名前が同じで顔もそっくりではあるものの性格はまるで逆たなと思いました。
ある夜、信乃が部屋でまどろみ掛けた時、物音がするのでさっと刀を手に取るのですが、部屋に入ってきたのは、浜路でした。
「どうなされた?」
「私をあなたのものにして」
「まて、祝言(しゅうげん)もあげていない女を抱く訳にはいかない」
「では今夜私を抱いて明日祝言というのではどう?1日くらい前後しても平気よ」
と言って、信乃に抱きついてくるので
「こら、よせー」
と信乃は言います。
(放送時も「こらぁよせぇ!」という声多数)
信乃は大塚村を出る前夜に、浜路1にも言い寄られたことを思い出しました。思えばあの時は、彼女を抱いてやるべきだったのかも知れないと後悔の念が心に押し寄せてきます。
取り敢えず自分を押し倒した浜路2は撥ね除けたものの、その時突然浜路の様子が変わります。
「浜路殿、どうなされた?」
「信乃様、会いとうございました」
と涙を浮かべて語る様子は、普段の浜路と全然違います。
信乃はハッとしました。
「そなた、もしかして浜路か」
「はい。そうです。信乃様と一緒になりとうございました。でも私はもうこの世のものではないので、信乃様と夫婦(めおと)になることができません。代りにこの浜路姫様と夫婦になっていただけませんか?」
信乃は、浜路2が自分を口説き落とすために、浜路1のふりをしているのでは?と疑いましたが、浜路2は浜路1のことは知らないはずですし、その口調なども知らないはずです。だいたいこちらの浜路は自分に敬語など使いません(使っていたのは最初の日だけ)。
信乃は念のため、浜路1しか知らないことを目の前の浜路に尋ねてみました。その答えで、信乃は目の前にいるのが、間違い無く浜路1であるという確信が持てました。
「信乃様がまだ女の子だった頃は、本当に可愛かったです。私信乃様と結婚しろと言われて、私、女の子と結婚するの〜?と思ってたし」
「その話は、よしてくれ〜」
「実は私は天より命じられて、この浜路姫様の守護に入っているのです。ですから信乃様がこの浜路姫様と一緒になられたら、結果的には私と夫婦になったのと同じことなのですよ」
「ちょっと待て。“浜路姫”とはどういうことだ?」
「この姫様は、里見義成様の四女・浜路姫様にございます」
「何だと!?」
と信乃は驚きます。
(里見義成は伏姫の弟で里見義実の跡継ぎ。浜路姫を含めて5人の姫がおり、後に他の4人が4犬士と結婚した。道節−3.竹野、荘助−2.城之戸、現八−5.栞、親兵衛−1.静峯:角川映画の静姫の元ネタ)
「なぜ里見家の姫君がこんな所で村長の娘ということになっているのだ?」
だいたい領主の姫君が、こんなお転婆でよいのか?と信乃は思います。
「浜路姫は赤子の頃“おくるみ”ごと大鷲に攫(さら)われたのです。そのおくるみが木の枝に引っかかっているのを、四六城木工作と麻苗の夫婦に拾われました。最初は餌漏(ゑもり)と呼んでいたのですが、近くにある“浜路”という市場町の名前を聞くと明らかに喜ぶので、この子の本当の名前は浜路かも知れないといい、その後、浜路と呼んで育てたのです」
「ん?夏引(なびき)殿ではないのか?」
「夏引は元々浜路姫の乳母でした。麻苗(あさなえ)殿は4年ほど前に亡くなられ、その後、夏引も夫を亡くしていたので木工作と再婚したのです」
「そうであったか」
信乃は考えました。
「浜路殿が里見の姫君なのであれば、私はこの方を安房に送り届けなければならない」
「それはいいですけど、その前にちゃんと抱いてあげてくださいね。私は信乃様に抱いてもらえなかったことが死ぬ時、心残りでたまりませんでした」
「その件はすまない」
と信乃は素直に謝りました。
浜路1の霊はそれで去ったようで、浜路(浜路2)は信乃の布団の上で眠ってしまいました。信乃は取り敢えず彼女に布団を掛けてあげたものの、困ったなあと思って眺めていました。
なお、浜路1はそのことまで言いませんでしたが、浜路2の実母・盧橘(はなたちばな)は、信乃の母・手束の又従姉妹なので、信乃と浜路2は三従兄妹の関係にあります。
しかし、浜路が信乃の部屋に一晩泊まったことから、木工作はふたりが“成った”ものと思い、ニコニコ顔でした。浜路は信乃にべたべたするので、信乃は本当に困った困ったと思うのでした。
しかしその日、信乃は木工作と話し、確かに浜路はおくるみごと木の枝に引っかかっていたのを拾った娘であること、また名前も最初“えもり”だったが、浜路という言葉に反応するので、きっとそれが本名だろうと言って、その名前で育てたことを語り、昨夜の浜路1の言葉が正しかったことを信乃は知ることとなります。
ところで、木工作は、信乃を見込んで、ぜひ自分の娘と結婚させようと早い内から思っていたのですが、夏引の方は実は浜路を武田信綱公(*40)の側室にしたいと思っていました。そのことで木工作と夏引は争いになります。そしてついに夏引は木工作を石で殴ってしまいました。
(*40)当時の武田家当主・武田信昌(信玄の曾祖父:少し先で登場)の嫡男・信縄のことと思われる。遠慮して、縄(なわ)を綱(つな)に変えたのだろう。
語り手:夏引が石で殴った結果、木工作が倒れます。夏引は狼狽し、愛人の泡雪奈四郎!を呼んできました。奈四郎は「この罪は信乃になすりつけよう」と言い、夏引に鶏を1羽持ってくるように言います。信乃の脇差しにその鶏の血を付けておこうという魂胆なのです。
ところが夏引が鶏を捕まえに行っている間に木工作がうめき声をあげます。彼は死んでいたのではなく、気を失っていただけでした。奈四郎はここで木工作に生き返られると話が面倒だと思い、彼を再度石で殴って絶命させてしまいました。
そして2人はそういう工作をしてから夏引が役人に届けます。奈四郎は取り敢えず身を隠します。
信乃と浜路はしばらく外に出て川の傍で話していたのですが(デート!)、家に戻ると木工作が死んでいるので驚きます。浜路が父にすがりついて泣きます。
するとそこに数人の役人が来て、信乃だけでなく浜路まで「お前も共犯だろう」と言い、一緒に連行していってしまいました。その後で眼代の甘利兵衛(恋珠ルビー!)がやってきて、木工作の遺体を検分します。
「これは何か硬いもので殴り殺している。刀傷ではない」
と指摘するので、夏引はギョッとします。
「つまり、下手人は犬塚ではないな。女、お前が怪しい。こいつを連行しろ」
と眼代が命じるので夏引は
「殺すつもりは無かったのよぉ、言い争いになってつい」
などと叫びながら連行されていきました。
眼代は、夏引と一緒に居た泡雪奈四郎も共犯の疑いがあるとして手配しましたが、彼はすぐには捕まりませんでした。
一方、信乃と浜路は石禾の守護所ではなく指月院に連れてこられましたが、そこの住職が丶大法師(高崎ひろか)なので仰天します。
更にここには、荘助も来ており、信乃は彼との再会を喜びました。しばらくしてから戻って来た、“余利兵衛に変装していた”道節は、信乃の疑いは晴れ、夏引が真犯人として捕まったことを報せます。
実はそもそも夏引と奈四郎が話している所を偶然指月院の小者(信乃の様子を探っていた)が耳にして、それで道節が眼代に変装して助けに行ったのです。
「夏引さんがお父さんを殺したの?」
と浜路は絶句します。
「何か言い争いをしたらしい」
「夏引さんは後妻さんだよね?」
と信乃が確認します。
「うん。私の養母・麻苗さんは4年前に亡くなったの。でも夏引さんも優しい人だったのに」
と浜路は困惑しています。
「そちらの事件は事件として処理するとして、浜路殿はどうする?」
と荘助が訊きます。
腕を組んで考えていた信乃は言いました。
「浜路は実の親のもとに連れて行こうと思う」
と信乃は言いました。
「実の親!?」
と浜路が驚きます。
「しのりん、私の実の親を知ってるの?」
(その呼び方は人前でやめろーと信乃は思う)
「浜路は、いや浜路姫は、里見義成公の御息女なのだよ」
と信乃(アクア)が言うと、浜路本人(姫路スピカ)、荘助(町田朱美)、道節(恋珠ルビー)、そして物事に動じない丶大法師(高崎ひろか)までが仰天しました。
「だったら、信乃、そなたが浜路姫を安房まで送っていけ」
と丶大法師が言います。
「そうしようと思う」
「私が里見公に手紙を書くからお主はそのまま里見公に仕えろ」
「それでもいいかも知れない」
「そして浜路殿と夫婦になれ」
「それは無理だと思う。里見公の姫君なのに」
「なあに、里見公の息女とは知らずに結婚してしまったが、その後で出自が分かったと言えばいい。既にお前たち夫婦なのだろう?」
と丶大法師が言いますので
「いえ、私はまだ・・・」
と信乃が言い訳しようとしたものの、浜路は信乃に抱きつき
「私はもう身も心も信乃様と一緒です」
などと言います。
それで
「何でも奧手の信乃さんにしては珍しい」
と荘助が笑いながら言いましたし、道節も
「うん、それでよいよい」
と言います。
それで、なしくずし的に、信乃は浜路と既に夫婦であるということになってしまったのです。
(丶大法師の手紙を読んだ里見義成公も笑って信乃と浜路姫の婚姻を認めた)
なお数日後、戻って来た“本物の”眼代(溝口ルカ)は不在中に自分が事件の裁きをしたことになっているので仰天しますが、あらためて書類を確認し、夏引を再度取り調べて、眼代の代理?の処理で問題無いとしました。
また本物の眼代は木工作の遺体を再検分し、石で殴った跡が2ヶ所にあることに気付きます。夏引の供述とあわせて、夏引は致命傷を与えておらず、夏引が殴って気絶させた後、何者かが再度殴って殺害したものと判断しました。それで夏引を尋問した結果、犯人は奈四郎と断定します。それで夏引は死罪を免じられて、剃髪の上、開桃寺(*41)お預けとされることになりました。
(*41)開桃寺(“かいとうじ”現在の海島寺:読み同じ)は1380年に創建された古い寺だが、尼寺に変わったのは1500年頃と言われ、実は八犬伝の時代の少し後である。
なお、剃髪というのは女性のみに適用された刑罰である。軽い罪の場合は剃髪されただけで後は自由というのもあった(男性なら百叩きとかに相当する)。寺院預かりになる場合は、一般に期限が定められたが(期限経過後はそのまま居てもいいし還俗してもよい)、重い罪の場合は、永久に出られない永預りというのもあった。
語り手:浜路と信乃は木工作の葬儀をしました。夏引(なびき)の実子で、浜路の乳姉にあたる星子(宮地ライカ)も来て、浜路に
「私、浜ちゃんに死んでお詫びしなきゃいけないと思った」
と泣いて謝っていましたが、
「星ちゃんには責任はないよ」
と言いました。彼女は結婚しているので、その夫・奈倉電三郎(滝沢小股)(*42)も一緒に来て謝っていました。
浜路は信乃および星子夫婦と一緒に、開桃寺に移送される前の夏引にも面会しました。夏引は泣いて浜路に謝りましたが、浜路はこれまで自分を育ててくれたことを感謝し、何か不自由したら連絡をくれるよう伝えました。
「浜路と、しのちゃんも幸せにね」
と夏引。
「うん。ありがとう」
「女同士の夫婦というのも、あっていいよね。しのちゃんきっと浜路のいい奥さんになるよ」
なんか誤解されてる!?
面会が終わってから、浜路も星子も笑いが止まらないようでしたが、信乃は憮然としていました!奈倉電三郎は
「もしかして、しのさんって男の人?」
などと訊きます。
「男ですけど」
「俺も浜路ちゃん、女の人と結婚したのかと思った!」
と電三郎は言っていた。
(*42)今回の長時間ドラマでは、サワークリーム食パン(旧:ザマーミロ鉄板)から、マリナ&ケイナの他に、遠下美笑干と滝沢小股が参加した。
現在、サワークリーム食パンは全株をマリナが所有しており、マリナは同社の会長になっている。ただし経営は社長の板付中将に全てお任せし、マリナは基本的には口を出さない。
マリナが全株を取得した結果、サワークリーム食パンはオフィス・キロメートルの事実上の子会社になった。またオフィス・キロメートルには主として《乗っ取りに対する防衛》のため、§§ミュージックが10%出資したため、両社が§§ミュージックの関連会社になった。今回の出演はこういう背景もある。
遠下美笑干は遠上笑美子のそっくりさんだけど男!
滝沢小股 (komatta) は、スカイロードの komatsu のそっくりさんだけど女!
というタレントである。滝沢小股(本名滝沢小鞠)は最近はそっくりさんの仕事より、マリ・ベーカリー(ここもマリナが34%の株を所有する)の店長としての仕事がメインになっている。彼女は見て女と思う人はまずおらず、普通に男性の店長と、お客さん(“彼”のファンのリピーターが結構いる)にも、お店のバイトさんたちにも信じられている。彼女は本当は女なのに男にしか見えないので、不本意ながら男子トイレを使用している(女子トイレに入って痴漢として捕まりそうになったこともある)。本人はFTMでもレスビアンでもないと言っている。(でも女の子からしばしばラブレターをもらう)。
語り手:甲斐国守護・武田信昌公(藤原中臣)はこの事件を伝え聞き、指月院を訪れ、犬士たちに
「そなたたちは、このままここに留まって良い。何か不自由なものがあったら遠慮無く言ってくれ」
と言いました。
それで犬士たちは初めて安住の地を得ます。この後(穂北荘に移動するまで)2年ほど、犬士たちはここを拠点に活動することになりました。
信乃と浜路は木工作の四十九日が終わってから、安房に旅立ちました。浜路はもうすっかり信乃の奥さん気分です(それとも信乃が浜路の妻?)。
ところで奈四郎は手下の媼内(吉沢蕾美)と一緒に逃亡していたのですが、お金のことで言い争いになり、ふたりは斬り合いになります。
ちょうどそこに信乃たちが来合わせて、奈四郎は媼内かと思って信乃に斬りかかります。ところが信乃(アクア)が刀を抜くより早く浜路(姫路スピカ)が自分の刀を抜いて、奈四郎を斬り倒してしまいました。
(媼内は逃亡して越後で船虫と組むことになる)
「しのりんを襲う族(やから)は私が許しません」
などと言っています。信乃はすっかり“しのりん”にされています。
しかし信乃は、自分より早く浜路が刀を抜いたので、もしかしてこの子は、自分と手合わせする時、手を抜いてないか?本当は物凄く強いということは?と思ったのでした。
「これは先日私を襲った、追い剥ぎではないか」
と信乃は奈四郎の死体を見ていいます。
「だったら斬っても問題無いですね」
「うん。もし役人に訊かれたらそれできちんと説明する。しかし埋葬しよう」
と言って、信乃たちは穴を掘り、奈四郎の遺体を埋めて、一緒に念仏を唱えました。
かくして浜路は図らずも自分の養父の仇を討ったのですが、そのことには浜路も信乃も全く思いも寄りませんでした。
語り手:その後のことです。
小文吾は鎌倉で毛野を探した後、越後に向かったのですが、ここで山賊をしていた船虫と遭遇。船虫は捕らえられて町民たちに手足を縛って放置する刑に処されます。ところが船虫が息絶える前に荘助が通り掛かり、刑罰を受けているとは知らずに助けてしまいました。
越後で領主の母・箙大刀自(えびらのおおとじ)が小文吾と荘助を捕らえます。実は箙大刀自の娘が1人は大塚の大石家、1人は千葉介自胤の妻になっていたので、荘助は刑場破り、小文吾は馬加大記殺しの犯人として捕らえたのです。
しかし2人は稲戸津衛(本騨真樹)に助けられ、ニセの首(船虫の一味の者)を双方の使いに渡し、小文吾と荘助は密かに逃がしてもらいました。そして2人は諏訪で毛野と遭遇。最初毛野と荘助が剣を交える展開があったものの、小文吾が止めに入り、事なきを得ます。
「荘助待て!これは俺の許嫁だ」
「毛野も待て。こいつも俺たちの仲間だ」
小文吾は3年ぶりの毛野との再会に涙を流し、2人は抱き合います。その夜、小文吾は毛野と一夜を過ごしましたが、毛野は翌朝姿を消していました。置き手紙に「もうひとりの仇である籠山逸東太を討ってから戻ります」と書かれていました。
更に同年9月には、大角と現八が武蔵国穂北荘で道節と出会います。この地には結城合戦の残党などもおり、犬士たちの味方の多い所でしたので、ここに本拠地を移動することになります。
そしてここで小文吾が辻強盗をしていた船虫と遭遇し、とうとうこの女を捕らえました。そこに道節・荘助・現八・大角も現れ、船虫はついに彼らに殺害されます。(ナレ死!)
一方、毛野は、扇谷定正夫人・蟹目前(川崎ゆりこ)に気に入られ、彼女から奸臣・竜山免太夫の殺害を依頼されますが、この竜山免太夫こそ、毛野がもうひとりの父の仇として狙っていた籠山逸東太(花貝パール)の変名でした。彼女はこれを美事に討ち果たして、本懐を遂げます。
それで毛野も道節たちに合流し、ここに親兵衛以外の7犬士が揃ったことになります。ただ、毛野は自分を熱く見詰めている小文吾に(こないだの夜はうまく誤魔化して“結ばれた”ように見せたけど、ずっと誤魔化し続けるのも難しいし)どう自分の性別を打ち明けようかと悩むのでした。
でもしばらく誤魔化し続けます!
ほかの犬士たちも、小文吾と毛野を夫婦として認めていました。
文明15年(1483)1月、蟇田素藤(森原准太)と妙椿(坂田由里!)は館山城を幻術にて守り、里見家ではその対処に苦慮していました。
この月、年老いた里見義実(伏姫の父)(桜野レイア)は伏姫の墓参りに富山(とみさん)を訪れていて3人の刺客に襲われます。彼らは麻呂信時・安西景連・神余光弘の遺臣(遺族?)ということでした。
義実公の従者たちが倒され、もう終わりかと思った時、颯爽と乗馬にて現れ、刺客たちを倒し、老侯を救った若武者がいました。
それがこの年まだ9歳ながらも外見は15-16歳に見える犬江親兵衛(七尾ロマン)だったのです。
親兵衛は老侯を助け起こし、自分は八犬士のひとりであると名乗り“仁”の珠を見せてから
「ではまた」
と言って去って行きました
そしてここに
“僕たちの戦いはこれからだ”
という表示があり、ドラマはタイトルロールに移る。
孝 犬塚信乃:アクア
礼 犬村大角:常滑舞音
義 犬川荘助:町田朱美
信 犬飼現八:白鳥リズム
智 犬坂毛野:水森ビーナ
忠 犬山道節:恋珠ルビー
仁 犬江親兵衛:七尾ロマン
悌 犬田小文吾:西宮ネオン
伏姫:東雲はるこ
八房:常滑舞音
浜路1・浜路2:姫路スピカ
玉梓・船虫・妙椿:坂田由里
千葉介自胤:秋風コスモス
蟹目前:川崎ゆりこ
麻呂信時:日野ソナタ
赤岩一角・山猫:品川ありさ
丶大法師:高崎ひろか
安西景連:山下ルンバ
里見義実:桜野レイア
犬塚番作:今井葉月
馬加大記常武:花咲ロンド
十条音音:石川ポルカ
姨雪世四郎:原町カペラ
手束:中村昭恵
籠山逸東太:花貝パール
妙真:甲斐波津子
沼藺:甲斐絵代子
十条力二郎:水谷康恵
十条尺八郎:水谷雪花
卒川庵八:大崎志乃舞
古那屋文五兵衛:佐藤ゆか
扇谷定正:南田容子
依介:山口暢香
簸上社平:高島瑞絵
網乾左母二郎:大林亮平
犬村蟹守:木取道雄
蟇田素藤:森原准太
稲戸津衛:本騨真樹
●♪♪ハウス
品七:城崎綾香
巨田助友:坂出モナ
畑上高成:羽鳥セシル
山中の童子:松梨詩恩
山林房八:湯元信康
粟飯原胤度:広沢ラナ
妻の水澪:水野雪恵
背介:神田あきら
犬江親兵衛(幼少時):白雪めぐみ
媼内:吉沢蕾美
本物の甘利:溝口ルカ
里見義成:中町リサラ
古河成氏:阪口有菜
女田楽:米本愛心・田倉友利恵・花咲鈴美・栗原リア・木原扇歌
綺麗所:桜井真理子・安原祥子・立花紀子・竹原比奈子・神谷祐子・山道秋乃・水端百代
●サワークリーム食パン
亀篠:マリナ
蟇六:ケイナ
竃門五行:遠下美笑干
奈倉電三郎:滝沢小股
●信濃町ガールズ(登場順)
杉倉氏元:青木由衣子
堀内貞行:斎藤恵梨香
神余光弘:安原祥子
山下定包:桜井真理子
金碗八郎:三田雪代
糠助:鹿野カリナ
簸上宮六:太田芳絵
軍木五倍二:今川容子
執権・横堀在村:左蔵真未
曳手:大仙イリヤ
単節:美崎ジョナ
鴎尻並四郎:夢島きらら
戸牧:直江ヒカル
鈴子:古屋あらた
鞍弥吾:直江アキラ
渡部綱平:長浜夢夜
白井貞九:鈴原さくら
坂田金平太:立山きらめき
卜部季六:花園裕紀
茶店の主人・鵙平:鈴鹿あまめ
その妻・雀女:知多めぐみ
雛衣:木下宏紀
玉坂飛伴太:豊科リエナ
山神・月蓑団吾:三陸セレン
土地神・八党東太:山鹿クロム
屹足溌太郎:箱崎マイコ
赤岩牙二郎:夕波もえこ
泡雪奈四郎:篠原倉光
四六城木工作:山本コリン
夏引:薬王みなみ
星子:宮地ライカ
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語り手:明智ヒバリ
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武田信昌公:藤原中臣(起こし表示)
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【八犬伝】(3)