【夏の日の想い出・新入生の初夏】(上)熱い夜

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5月最後の土曜日の午後、私と政子は、琴絵・仁恵・小春と5人で埼玉県内の屋内プールに向かった。
 
この場所を選んだのは、ここがローズ+リリーのメジャーデビューの場であったことと、都心から離れていて、私と政子に気付く人が少ないと思ったことであった。また、この日取りになったのは、元々琴絵が5月にプールに行こうよと言っていたものの、この日まで私のスケジュールが空かなかったためであった。仁恵は当然ながら乗ってきたが、礼美はバイトで来られなかった。そして5人で電車を待っていたら、ちょうどそこに風花が通り掛かり、プールに行くというと、私も行く !というので一緒に行くことになり、結局一行は6人となった。
 
「風花、大学はどう?やはり凄い人たちばかり?」
「超絶凄い人ばかり。これだけ音楽の天才がいるのかって。もう私、上の方ばかり見てて首が痛くなる感じだよ」
 
風花はこの春から調布市内の音楽専門の大学に通っている。
 
「わあ、でも凄く鍛えられそう」
「うん。物凄く刺激になるよ。もちろん才能的には全然かなわないけど、やはり凄い人たちの間で揉まれるのは自分の力を引き出す原動力になる。冬たちもさ」
「うん」
「実力のある人たちと、たくさん交流するといいよ」
「そうだね。ありがとう」
 
今回は豊胸後のリアルバストの初披露となったので、更衣室でみんなに触られた。
 
「えーっと以前と全然変わらない気がするのですが」と仁恵。
「うん。まあ要するに、シリコンのバッグを体外に貼り付けてるのか、体内に埋め込んでいるかの違いだからね」
「そのために、わざわざ痛い手術を受けるわけか・・・・」
「まあ、これで女湯にも入れるということで」
「以前にも入ったことある癖に」と政子と琴絵。
「あはは」
 
「でもプールとか入って良かったの?」
「先生に確認したけど、水に入るのは構わないって。でも激しい運動はもう少し待った方がいいと言われたから、今日はあまり泳がないで、水浴びに徹するよ」
「なるほど」
 
私が今回はあまり泳げないので、政子は風花を誘って25mプールに行き、泳いでいた。政子は風花と話したのは今日が初めてだったのだが、けっこう意気投合した感じであった。
 
私は仁恵・琴絵・小春とボール遊びをしたり、流れるプールでゆっくり歩きながらおしゃべりしたり、ゴムボートに乗ったりしていた。その内、泳ぎ疲れたといって風花が戻ってきて、小春を誘ってシューターの方に行った。
 
「でも、とうとう体にメスを入れたんだね」と仁恵。
「うん。やっちゃった。ついでに来週には玉も抜くよ。もう事前診察受けて、予約済み」
「わあ、改造まっしぐらだ」と琴絵。「おちんちんも取るの?」
「それはまだ。でも股間形成までするから、見た目は完全に女の子になっちゃう」
「おちんちんが付いてる内にいちど冬と寝てみたいな」
 
「そんな私みたい子じゃなくて、ふつうの男の子を狙いなよぉ」
「いや、政子とあまりに仲がいいから邪魔してみたくなるだけ」
「あはは」
「たぶん、政子以外で冬とキスしたことのある女の子は私だけだよね?」
「女の子ではコトだけかなあ。。。。。中学の時に付き合った子とはキスまで行かない内に別れちゃったから」
 
「えー?キスっていつの間に」と仁恵。
「ふっふっふっ」と琴絵。
 
「あ、ごめん。もうひとりいた。関西で活動してるパラコンズという女性デュオのくっくという子にキスされた。ステージで歌って袖に引き上げてきた所で感動した!とか言われて、やられた」
「おお」
 
「あれ?女の子ではと言ったよね」
「男の人では2人かな」
「おお」
「一人は友だちだけど、もう一人は実はレイプされかけ」
「うむむ」
「やられかけた所にちょうど人が来て助かったけど」
「冬って、少し無防備な所あるもんね」
「そう?」
 
「でもその友だちの男の子とはキスした後、どうなったの?」
「いや、その別に・・・ふつうに付き合ってたよ」
「付き合うって、恋人になったの?」
「違ーう。そういう意味じゃなくて、ふつうの友だち付き合いだよ」
「怪しいね」
「うんうん、怪しい」
「もう・・・・」
 

プールで4時間遊んだ後、みんなで都心に戻り、シダックスに入ってカラオケをしながら夕食にした。
 
「冬ちゃん、高い声、今どこまで出るんだっけ?」と風花。
「ふだん使ってるミックスボイスではG5まで。コーラス部に入った頃はE5までしか出てなかったのを、ずっとみんなと一緒に歌っている内にそこまでは出るようになった」
「冬ちゃんの声、個人的に少し指導してあげたかったんだけどねー。冬ちゃん、いい指導者に付いて練習すればたぶんC6まではすぐ出ると思うんだけどなあ」
 
「うーん。どこかにそういう指導者いるかなあ・・・」
「元男の子でここまで高音が出るだけ凄いんだけど、うーん。この手の発声を指導できる人か・・・うちの大学にもいなさそうだなあ。でも基本的には裏声を鍛えることで、ミックスボイスも声域広がると思うのよね」
「裏声の発声か・・・・何か適当な歌がないかな?」
 
「There must be an angel とかどう?先頭のスキャットの所、かなり高音だよね」
と仁恵。
「あれはD#まで使ってるよね」と風花。
「あそこ、私は裏声でないと歌えない」と私。
「裏声でもいいよ。一緒に歌ってみよ」
と言ってカラオケを呼び出す。
前奏を聴いて、私と風花は『あれ?』と顔を見合わせた。
 
「キーが半音高い!」「うん」
「ティラリラリラリラー」というスキャットを、風花はミックスボイスで、私は裏声(ヘッドボイス)で歌った。
「ふたりともすごーい」と仁恵と政子が感心している。
 
歌本体の所は、私と風花にくわえて政子も一緒に歌った。他の3人は手拍子を打っている。最後にまた、私と風花でスキャット部分を歌って終了。拍手。
 
「けっこうちゃんと出てるじゃん、裏声」と風花。
「でも響きが少なすぎる感じで不満なのよねー」
「確かに声量は小さいよね」
「そうそう。それもある」
「裏声が純音に近くなるのは仕方ないと思うなあ。『夜の女王のアリア』のコロラトゥーラとか、一流のソプラノでも、響きの少ない機械的な声になっちゃってるよ。あのピッチの音に更に倍音まぜるのは難しいもん。でも声量は少し練習すればもう少し出るようになると思う」
「ほんと?」
「ちょっと今練習してみよ」
 
などということになって、その日私は風花と一緒に裏声の声量を出す練習を『There must be an angel』のスキャットを使って、ひたすらやったのであった。この短時間の練習で裏声の声量が飛躍的に増えた。風花はさすが教え方がうまいと思った。更に!G5までしか出ないと思っていたミックスボイスも、G#5まで出るようになってしまったのであった。
 
「あとね、今日はポイントだけ教えたんだけど、やはり高い音域出すには、喉の筋肉を鍛えないといけないのよ。今冬ちゃん、出そうなのに我慢できずに音が壊れちゃってるところあるでしょ」
「うん」
「あそこが筋肉鍛えることで壊さずにちゃんと出せるようになるの。首を回したり上下左右に曲げたりとか、舌を出したり左右に動かしたりとか、あと肩の上げ下げとか、顔全体のマッサージとか、そういうの毎日やって、とにかく首の付近の筋肉を鍛えるといいよ」
「分かった、頑張ってみる」
 
「でも時々一緒に練習しようよ。私もいい勉強になる。学校ではクラシックばかり歌ってるから、ポップスの発声を鍛える機会が少ないんだ」
「うん、やろうやろう」
 
「でもさ、冬、来週タマタマ取っちゃったら、高い声出るようにならないの?」
と琴絵。
「え?冬ちゃん、取っちゃうの?」と風花。
「えへへ。取っちゃう。でも取ったからって声には影響しないよ。小学生の頃に取っちゃってたら、高音が出てたんだろうけどね」
「カストラートだよね。もう現代ではあり得ないよね」
「うん」
 
そう。現代にカストラートはあり得ないと思っていた。青葉や春奈に会うまでは。
 
その日はカラオケ屋さんで解散の予定だったのだが、カラオケ屋さんを出て、みんなで駅のほうに向かって歩いていたら、政子が「おなか空いた。何か食べてから帰ろうよ」などと言い出した。
 
「えー?今食事してたんじゃないんだっけ?」
「でもけっこう歌ったし」
 
という訳で、私たちは駅の近くのファミレスで軽い食事をしてから別れた。政子はステーキセットを頼んで、みんなに呆れられていた。なんだかんだ言いながら琴絵も大きなイチゴパフェをたいらげた。私はチキンバーを3本とサラダを食べていた。
 

駅で琴絵と仁恵は千葉方面に、風花は調布方面に、小春は新宿方面に帰る。私と政子は一緒に、政子の家に帰った。
 
私たちは家の中に入るなり、抱き合いキスをした。
「ベッドに行こう」
「シャワーを浴びてからね」
「うん。それとタック外してよ」
「いいよ」
 
ここのところ政子は私に毎日夜間はタックを外すよう要求していたので、私はしばらくテープタックをしていた。ただ今日はプールに行くので接着剤タックにしていた。テープの時は政子が自分でテープを開封していたが、接着剤は剥がし液を使う必要があるので、その作業をしてから入浴した。
 
私が先にベッドに入り少し待っていると政子もシャワーを終えて部屋に入ってきた。ベッドに潜り込み抱きついてくる。いつものように枕元には避妊具を1枚、お守りに置いている。そのまま1時間ほど、私たちは睦み合っていた。
 
「冬のクリちゃんは少し大きいですね。邪魔でしょ。こんなに大きいとお嫁さんに行った時、お婿さんがぴっくりしますよ。もう少し小さくしなきゃ」
「はい。お医者さんに切ってもらって小さくします」
「いつ切りますか?」
「もうちょっと先」
 
「あら、クリちゃんの下になんかごろごろするものが付いてますよ」
「それは今度の金曜日にお医者さんに取ってもらいます」
「よしよし。こんな変な物、お股に付けてちゃいけませんね。冬は女の子なんだから」
「はい。割れ目ちゃんも作ってもらいます」
「うん。素直ですね。ご褒美におっぱいを吸ってあげます」
「あう・・・」
 
この時期、政子は言葉責めに燃えていて、私のを毎晩いじりながら、いろいろな言葉で私を興奮させていた。脳逝きになってしまうことも何度もあったが、脳逝きは「気持ちよくなりすぎたらストップ」のルール外と言って、政子は止めなかった。
 
少し疲れたので休憩して暖かいココアを飲む。
 
「ねえ、ここ数日、完璧に一線を越えてる気がするんだけど、お守り開封しなくていいの?」
「うーん。わたし的には、開封一歩手前の感じ。冬ったら、私のグリグリしてくれないし」
「開封したらするよ」
 
「でも確かに、ここのところ毎日だね」
「私たちまるで新婚さんみたい」
 
「ね・・・・恋人になっちゃう?」と私。
「ううん。まだ友だちでいい」と政子。
「私、金曜日には男の子の元を取っちゃうけど」
「うん。取っちゃって。冬は女の子なんだから。あ、金曜日に金を取るって少し面白いかも」
 
「何を突然オヤジギャグみたいなことを。。。。でもマーサは反対しなかったね。お母ちゃん説得するのには半日掛かった。もう子供作れない状態になっていることは以前言ってたのに」
「そりゃ、お母さんとしては冬のこと大事だから、慎重にって言うよ。子供はたぶんもう1年前から諦めたんじゃないかなあ。私はちょっと無責任かも」
 
「ううん。マーサも私のこと大事にしてくれるから反対しないんだと思う」
「まあね」
「琴絵やお姉ちゃんからは煽られたけど、それもやはり私のことを真剣に考えてくれてるからだろうなって、少し涙が出た」
 
「でも、冬にまだ男の子機能があった内に1度しておけば良かったなあ」
「ごめんね」
「考えてみれば、金沢のホテルでの一夜が唯一のチャンスだったのかなあ」
「そうかも」
 
「やはり物事って、やれる時にやっておかないとチャンスは消えるのね」
「・・・・それって色々な意味でそうだと思う」
「また今度ってのは、絶対来ないのよ」
「同感」
 
「でも冬がもしヴァージンもらってくれないなら私悩んじゃう。誰にあげるか」
「そんなの彼氏作ったら、その彼氏にあげればいいじゃん」
 
「彼氏作る前に誰か特別な人にあげたいのよ」
「変なの!」
私たちはまたキスしてベッドに潜り込み、1時間くらいイチャイチャしていた。
 
こんな感じの夜は、私の去勢手術の前日まで続いた。その手術前日、手術を受ける予定の病院の近くのホテルで、政子は私に初めてフェラをして、その初体験の感覚のせいか、私のは大きくなってしまった。大きくなったのを見たのはホントに久しぶりだったので私自身驚いたが、政子はそれをそのまま自分のヴァギナに入れてしまった。
 
そうして私は政子のヴァージンをもらってしまったのだけど、その時の精液を政子は私が寝ている間にこっそりスポイトで吸い出し病院に持ち込んで冷凍保存してもらった。そして、8年後政子はその精液を使って妊娠し、あやめが生まれた。
 
ずっと後になって(その妊娠のことを私に言ってから)政子は、去勢前に何とか私と一度セックスできないかと思って、半月くらい前から、毎晩私にタックを外させ、夜間は解放された状態にするとともに、勃たなくてもいいから毎晩刺激することで、私の男性能力を回復させようとしていたのだと語った。その時期、手術を受ける前ということで血栓防止のため一時的に女性ホルモンの服用を中断していたのも良い方向に作用したのだろう。
 
それにしても、やはりあの日、あれが大きくなり射精まで起きたのはほんとに奇跡だと思う。あるいは、あやめが自分が生まれてくるために、あの奇跡を起こしたのかも知れない。あやめには、そういう不思議なパワーを感じることがあった。
 
「でも意外にあの日プールに行って長時間水冷したので機能回復したのかもね」
などとも政子は言っていた。だとするとプールに行こうと誘った琴絵も、あやめ誕生の影の貢献者なのかも知れない。
 

プールに行った翌日、私たちは一緒に中古自動車屋さんに車を見に行った。
 
「これにするの?」
「第一候補。契約は手術が終わって少し身体が落ち着いてから」
「ふーん。落ち着くまもなく、性転換手術受けたりして」
「あはは。ありそうで自分が怖い」
「だって、豊胸手術の傷がまだ癒えないうちに去勢ってんで、正直私もびっくりしたもん」
「いやー。バストが出来ちゃったら、女の意識が強くなっちゃって。もう自分に男性機能が付いてるのが我慢できなくなったんだよね」
「それなら、この夏休みに性転換手術かな。だって性転換した後1ヶ月くらいはほとんど休んでないといけないでしょ」
「確かに夏休みというのはひとつのチャンスだよね」
 
実際このすぐ後に須藤さんと再会してアーティスト契約を結んでいなかったら、私はその年の夏休みに性転換手術までしてしまっていたかも、という気もする。急に忙しくなって、そこまで考える余裕が無くなってしまったのである。
 
係員の人が寄ってきた。
「先日から何度もありがとうございます。お友達ですか?なんでしたら一緒に少し試乗してみられませんか?」
「あ、そうですね。じゃちょっと運転させてもらおうかな?」
 
係員の人が若葉マークを持ってきてくれたので、それを付けて、私が運転席に、政子が助手席に、そして係員さんが後部座席に座って、各々シートベルトを締め、車を発進させた。
 
「お客さん、初めて買う車ということでしたけど、運転うまいですね」
「春先からレンタカー何度か借りて合計1000kmほど走りましたから」
「おお、それは凄い」
その走行距離の半分は、インサイトで政子と日光まで往復してきた時のものである。
 
「マーサ、助手席の乗り心地はどう?」
「こないだ千葉まで往復した時に乗った車よりは良い」
「あれはコンパクトカーだったからね。コンパクトカーもヴィッツ・フィットと乗ってみたけど、やはり乗り心地の問題と高速を走る時のパワー不足の問題でパスかなと思ってるのよね。日光に行ってきた時の車とはどう?」
「ああ、あれは快適だったよ。これとそう変わらないかな」
 
「おふたりはよく一緒にドライブなさるんですか?」と係員さん。
「はい、恋人ですから」と政子。
私は咳き込んだ。
 
「あ、そうでしたか。ではぜひよく話合って決めてくださいね」
と係員さんは動じない。
「はい、ふたりでよく話合って決めます」と平然と政子は答える。
「私、やっぱりこのくらい、ゆったりした感じの車がいいな」
 
「ゆったりした車が良ければ、ご予算次第ではアベンシスなどもご用意できますが」
「ええ、それも考えたのですが、駐車の便を考えると、5ナンバーがいいんです」
「なるほど」
 
「だけど、音楽するので、楽器などが乗せられる程度に広い荷室が欲しいし、雨が降っている時に外に出ずに楽器を取り出して室内で弾いたりできるのがいいとなると、まずセダンは消えて、5ナンバーのステーションワゴンかなと。するとこのカローラ・フィールダーか、ウィングロードあたりが最有力候補になっていて。モビリオスパイクも大学の先輩の彼氏が持っていたので見せてもらったのですが、若干微妙な気がしました」
 
「ウィングロードは確か隣の支店に在庫があったはずです。もしよろしければそちらにも試乗なさいますか?」
「あ、じゃ、お願いします」
 
係員さんが電話で在庫を確認し、私たちは試乗コースを変更してその支店へと行き、続けてウィングロードにも試乗した。
 
「どう?マーサ」
「うーん。私、さっきの車のほうが好きかも」
「じゃ、フィールダーで決めちゃおうか」
「うん」
「おお、ありがとうございます」
「ちょっと今週は忙しいんで、契約は来週でもいいですか?駐車場も確保しないといけないし」
「はい。問題ありません。あの車体はキープしておきますので」
 
私は手術のあと退院してから駐車場の確保などはするつもりだったのだが、それを始める前に須藤さんと会いアーティスト契約をして、その際、再デビューの前にセキュリティ付きマンションに引っ越してくれと言われた。そこでまたマンション探しに奔走することになるのだが、車の契約を放置しておけないので、取り敢えず政子の家のガレージに駐めさせてもらうことにし(長期の海外出張なので政子の父は車を売却してからタイに行っていたため、ガレージは空いていた)、車庫証明もそこで作成することにした。
 
ところがそうなると、私の現住所から政子の家までの距離が2kmを越えているので、車庫として登録できない。そこで私は自分の住民票を政子の家に移動してしまった!そのため、7月末に私がマンションに引っ越すまでの間、私は住民票上は、政子と同居(同棲?)していることになっていたのである。この件は琴絵から、かなりからかわれた。そもそも納車の時、政子は
「私たちここに一緒に住んでるんです」
などと言っていた。
 
自動車屋さんは私が車の代金を現金で払うと言うと、それじゃサービスしますといってETCも付けてくれ、カーナビも最新の機種と交換してくれた。これは色々と助かった。
 

その後しばらく私は忙しい日々が続いた。その週の金曜日に私は去勢手術を受け、翌週水曜日に退院した。退院後は政子の家で静養していたが、2日後、須藤さんと会い、私たちは須藤さんとアーティスト契約を結ぶことにした。再契約の際、須藤さんは、私の母と政子の母の双方に電話して、一昨年の不手際を謝罪するとともに、私たちやその家族・友人との接触もこれまで禁じられていたことを説明し、その件も謝罪していた。
 
私の契約書は翌日母に会ってハンコをもらい提出(母と私と須藤さんの三者会談となり、この時母が私の契約書に学業優先という事項を追加するよう要求。須藤さんは承諾。その事項を政子の契約書にも追加した)したが、政子の契約書はタイのご両親のもとに郵送(EMS)しハンコをもらい返送してもらってからの提出になったので、ローズ+リリーが再契約したのは6月18日となる
 
その前日が政子の19歳の誕生日であった。
 
政子の家には、私と小春、仁恵と琴絵、が集まってきて5人での誕生日パーティーとなった。礼美はまたもやバイトで来れず、誕生日パーティー用にと、前夜作ったというパウンドケーキを託された。
 
「礼美、昼間はマクドナルドで、夜間はデニーズだもん。勉強してる時間あるの?なんてこないだ訊いたけど、本人乾いた笑いをしていた」
「でも授業はちゃんと来ているから偉いよね」
「まあ、大学に入っても授業に出ないんなら意味無いもん」
 
「まずは誕生日ケーキにロウソクだよ」
といって、私が荷物の中からケーキを取りだしてテーブルの上に置き、ロウソクを立て、火をつけた。政子が一気に吹き消す。私がケーキを5つに切り分けて、みんなに配る。
 
「ジュース類は各自好きなのを自分でついで飲むように」
「はーい」
「このケーキは須藤さんからのプレゼント。お友達だけでパーティーした方が盛り上がるだろうから遠慮しておくと言って、代わりにとこのケーキをもらった」
「わあ、でも美味しいケーキだね」
 
みんながケーキをだいたい食べ終わった頃、私は予め作っていた鶏の唐揚げやオードブルを台所から運んできた。お皿と箸も配る。礼美のパウンドケーキも薄く切って自由に取れるようにした。
 
「ファンから贈られてきたプレゼントもたくさんあるから、みんな食べてよね」
と私が言うと、「なんか冬、政子の奥さんみたい」と小春。
 
「ふふふ。今ふたりは同棲中なのよね」と琴絵。
「えー?」
「だって、冬の住民票、今この家にあるんだもん」
「そういう関係になっちゃったの?」
「いや、実は・・・・」と私は車の登録の都合で住民票を移したことを言った。
 
「でも実態的にも冬、ここに住んでない?もしかして」
「うーん。。。4月以降、実はほとんどこちらに泊まってる」
「おお」
「アパート契約しただけ無駄だったね」などと政子。
「私の服もかなりこっちに持ってきちゃってるしなあ。エレクトーンも結局ここに置いてるし」と私。
 
「やっぱり同棲中だ」
「で、やはりふたりの関係では冬のほうが奥さんなのね?」
「御飯はいつも冬が作ってくれてるよ」と政子。
「冬がここにお嫁さんに来たのね」
「えーっと」
 
「実際、冬、もう身体も女の子になっちゃったんでしょ?」
「6割くらい女の子かな」
「もしかしてお嫁さんに行ける身体?」
「まだアレが無いからお嫁さんにはなれないよ」
「政子のお嫁さんなら問題ないよね」
 
「冬はもう女湯に入れる身体だよ」と政子。
「わあ、見たい見たい」と琴絵。
「そんな、見せるようなものじゃないよぉ」
「じゃ、このあとみんなで温泉にでも行くとか」
「待って。まだ手術の傷が充分治ってないから、来月にして。まだお風呂も入れなくて、もうしばらくはシャワーなんだもん」
「じゃ来月温泉」
 
「もっとも冬は高校時代にも女湯に入ったことあるんだけどね」と政子。「えー!?」と仁恵と小春。
「たぶん、政子が知ってる冬の女湯入浴と、私が知ってる冬の女湯入浴は別」
と琴絵。
「何何?私が知らない件があるのか?」と政子。
私は視線をそらして笑う。
 
「そっか。ブレストフォーム付けててタックしてれば、一応女の子の裸に見えるもんね」と仁恵。
「冬は元々ウェストがくびれてるし、なで肩だし、足も細いからね」と政子。
 
「うん。でも基本的にはそれで女湯に入るべきじゃないよ。マーサと一緒に入った時はうまく乗せられちゃったし、琴絵が知ってる件は、やむを得ない状況だったけどね」と私。
「ふーん。後で詳しく追求してみたいな」
 
「そうそう。おふたり、須藤さんと会ったんでしょ」
「会った。契約した」
「おお」
「正式には私の親のハンコもらうのに書類をタイに郵送したから、それが多分明日か遅くても月曜日には戻ってくると思うから、それを提出して正式契約」
 
「じゃ、これでローズ+リリーが復活するのね」
「復活しない」と私と政子。
「えー?」
「私の契約書は、観客のいる所で歌わない、テレビやビデオに出ない、なんて条項が入ってるから」
「何それ?」
「だから、音源制作にだけ参加するんだよ、マーサは」
「ああ、なるほど」
 
「じゃコンサート活動はもうしないの?それとも冬ひとりで?」
「バンドと一緒に活動しないかって言われてるの。ちょうどボーカルの人が辞めちゃったバンドがあるらしくて。近いうちに引き合わせたいという話」
「へー。でもそれ多分、ローズ+リリーとは違った方向性だよね」
「うん。それでローズ+リリーは年に1枚程度アルバムを出して行く活動で行こうかと」
「そういうのもありかもね」
「最初のアルバムは秋にも制作を開始する予定だけど、発売は来年の夏くらいになるかも」
 
「随分ゆっくりした制作だね」
「実際には9月か10月で事実上の制作作業は終わると思うんだけど、凍結」
「へー」
「でタイトルも、ローズ+リリー・メモリアルアルバム、なんてしようかと」
「なに、それ。追悼版?」
「そ、そ。ローズ+リリーは復活しませんというメッセージ」
 
「でも毎年作っていくんだ!」
「うん。メモリアル2, メモリアル3, と。私たちが死ぬか喧嘩別れするまで」
「新曲で構成するんでしょ?」
「もちろん」
「悪趣味だなあ」
「そのアルバム制作の件、友だちとかにしゃべってもいい?」と仁恵。
「いいよ。噂として流してもらったほうがいい」
 
「でもライブはもうしないの?」
「そうだなあ。300年後くらいには」と政子。
「そう広めちゃうぞ」と琴絵は笑って言った。
 
この後、ローズ+リリーがライブ活動を再開するまでの4年間、仁恵と琴絵はローズ+リリーの噂の発信源として、けっこう情報を流す役をしてくれた。この情報はファンの間では『千葉情報』と呼ばれ、その信頼度の高さが評価されていた。
 
レコード会社の公式筋から流されていた「メモリアル・アルバム」などというタイトルにローズ+リリーのファン、特にマリのファンが動揺しなかったのも、ひとつには私がFM放送で新曲で構成したアルバムにすると明言していたことと千葉情報で「毎年『メモリアル・アルバム』は出る」という情報が流されていたためである。この情報は事実上「ローズ+リリー制作委員会」には黙認されていて、町添さんなどに至っては、私にしばしば「この話、千葉に流しといてね」
などと言っていた。
 

政子の誕生日の後の一週間も慌ただしかった。
 
土曜日に私はマキたちクォーツのメンバーと引き合わされ、一緒に活動していくことが決まった。翌月曜日には△△社に行って津田社長に挨拶。翌日には★★レコードに行って加藤課長や町添部長に挨拶(4月以降、私たちの担当は決まっていなかったのだが、結局5月のFM放送の件を担当した南さんが、ローズ+リリー、ローズクォーツともに担当してくださることになった)。更にその翌23日には上島先生の家を訪問して翌朝まで私たちはつもる思いを話していた。
 
24日はさすがにしんどかったので午前中の講義を自主休講して仮眠を取り、お昼から大学に出て行った。
 
「重役出勤だね」と政子。
「だって朝8時まで上島先生の所に居たんだもん。あの先生、話し始めるともう止まらない。こちらがことばをはさむ間も無いんだよ」
「ああ、そういうタイプか」
「今度何か機会があったら、マーサも一緒に連れてきてと言ってた」
「うーん。徹夜覚悟で行かないといけないわけか」
「そうかも」
「だけど上島先生の所に朝まで居たという発言は、あらぬ誤解を招くかもよ」
「あー、それは考えなかった」
 
「ケイさんの次のご予定は?」
「週末は与論島に行ってくる」
「へー」
「写真集作るんだって」
「お、水着写真撮るのね」
「うん、かなり撮られそう。ふつうの服の写真も撮るけど」
「でも発売は来年だって」
「全て来年か。。。来年の夏から本格攻勢ということかな」
「どうも、そういう作戦っぽいね」
 
「週末奄美なら、今夜は時間あるかな」
「うん。マーサんちに行くよ」
「むしろドライブしない?」
「OK。じゃ講義終わって帰ったら、一息ついて出かけよう」
「うん」
 
車は政子の誕生日の前々日に納車されていたのだが、その後、全然時間が取れず、買物に行ったりするのに少し使ったくらいで、本格的にドライブするのはその日が最初になった。
 
「行きたい所ある?」
「海が見たい」
「じゃ、久里浜にでも行こうかなあ」
「もっと遠くがいい」
「うーん。浜松、松島、新潟、・・・・」
「じゃ、新潟」
「了解」
 
そういう訳で私たちは関越に乗り、高速を一気に北上した。
 
16時頃、上里SAで休憩し、夕食を取る。
 
「新潟に着く頃には日が落ちちゃいそう。夜の海を見て帰る?それともどこかで一泊する?」
「じゃどこかで一泊して朝の海を見てから帰る」
「了解」
 
私は携帯から宿泊検索サイトにつなぎ、長岡市内のホテルを予約した。政子のリクエストでダブルルームにした。
 
「ああ、でもこんなことしてると、私たちホントに恋人同士みたい」
などとボリューム感のあるカツ重を食べながら政子が言う。私はスパゲティを食べている。
 
「でも私もう政子と結婚できない身体になっちゃったからね」
「それは大丈夫。私ちゃんと普通の男の子と結婚するから」
「だったらいいけど」
「冬もいい男の子見つかるといいね」
「まだ今の身体では恋人作れないよ」
「全部手術終わってからか・・・・」
「そうだね」
 
「でも冬と一緒にいると、私、本音で食事できるなあ」
「こないだ男の子とデートしてたよね」
「うん。付き合うには至らなかったけどね。でもミチルから少食にしときなよって言われたからデート中は我慢してたんだよ」
「帰ってからお茶漬け3杯くらい食べてたね」
「もうお腹空いて、お腹空いて」
「あはは。たくさん食べる彼氏とかできるといいね」
「そっか。そういう路線もいいなあ」
「スポーツマンとかは?」
「うーん。乱暴だったら嫌だなあ」
 
私たちは1時間ほど休憩して車に戻り、予約したホテルをカーナビに設定し、更に関越を北上。19時頃に長岡市内のそのホテルに到着した。まだホテル付属の駐車場が空いていたのでそこに駐め、私たちはいったん部屋に入った。
 
「わーい、ダブルベッドだ」と言って、政子がベッドの上で跳ねている。
 
「なんなら、マーサの部屋のベッド、ダブルに交換する?今使ってるベッドを来客用の寝室に移動して」
「あ、それいいな。少し激しいプレイしても大丈夫だよね」
「ははは」
「冬、新しいマンション契約したら、そこにもダブルベッド入れてよ」
「いいよ」
「いい所、見つかりそう?」
「こないだから何件かチェックしてきてくれてありがと。だいぶ絞れてきたから、今度一緒に最終候補を見に行かない?」
「行く行く」
 
私は政子にキスし、着衣のまま30分ほどベッドの上でイチャイチャしていた。
「さ、御飯食べに行こう」
「・・・・・4時頃食べたあれは・・・・」
「おやつだよ」
「カツ重がおやつか・・・ま、いいや。行こうか」
 
ふたりで長岡の町を散策していたら、ライブハウスがあったので入ってみることにした。
 
その日は4組のミュージシャンが出演する予定だったようで、入っていった時はその中の3番目のバンドの演奏中だった。
 
「わりと良い雰囲気じゃない?」と政子。
「うーん。。。」と私。
「何か問題がある?」
「えっとね。ドラムスが下手。それで全てが壊れてる」
「そんなに下手?」
「このドラマーさん、あまり腕力無いんじゃないかなあ。ハイハットを叩く位置が乱れてるんだ。ちゃんとしたドラマーさんなら正確に同じ場所を叩けるし、曲調に合わせて、盛り上がる所とか逆に静かに聴かせる所とかでは叩く位置を変えて音質を変えていく。それが、この人、適当に叩いてるもん。曲自体の盛り上がりとかとも無関係。これならリズムマシンの方がまし。それにあの人、腕がかなり細いでしょ。たぶん腕力が無くてコントロールできないんだ」
 
「うー、そういうのが私はよく分からないなあ。でも確かにドラマーさんって腕の太い人多いよね。クォーツのドラマーさんも自衛隊出身って言ってたね」
「うん。腕凄く太いよ。私、腕にぶらさげてもらった」
「おお」
「女の子バンドとかもドラムスは大変だよね。腕力のある女の子が少ないから、ガールズバンドでしっかりしたドラマー持ってる所は少ない。こないだ政子に歌詞書いてもらった曲を提供したSPSのドラマーさんには毎日腕立て伏せ100回やろうねなんて言ってきた」
「わあ」
「ついでに腕立て伏せしてると、おっぱいも大きくなるよ、と言ったらやる気出してた」
「なるほど」
 
今演奏しているバンドが1曲終える度に起きる拍手もまばらである。私たちは冷製パスタ、ほうれん草の和え物、フライドチキン、海鮮サラダ、ピザ、などなど料理を注文しながら演奏を聴いていた。
 
「女の子バンドで、****とかもドラムスが微妙とか言ってたね」
「あのバンドは生で聴くのとテレビとかダウンロード音源とかで聴くのとで、ドラムスが明らかに違う。男性ドラマーをサポートメンバーに入れてると思う」
 
「スイート・ヴァニラズとかは?」
「あそこのCarolさんは凄い。女の子バンドでは例外的にしっかりしたドラムス・ワークをするよね。Carolさん、中学高校と剣道やってたらしいから、それで腕力があるんだよ」
「へー」
「ベースのSusanさんもしっかりしたベースライン弾くんだよね。Susanさんは中学時代にバレーボールしてたらしいから、それが基礎になってるんだろうね」
「詳しいね、冬」
「けっこう好きだよ。スコア譜出る度に買ってきてエレクトーンで弾いてるし。秋に受ける予定のエレクトーンの6級試験で、スイート・ヴァニラズの『祭り』
を弾くよ」
「おお」
 
やがてそのバンドが退場し、その日最後のバンドが登場した。いきなり華麗なドラムスワークで観客を魅了し、店内のあちこちから「わー」とかいった声が上がっている。
 
「冬、このドラマーさんは?」
「最高!」
 
バンドはクィーンの「I Was Born To Love You」を演奏しはじめた。私たちはノリの良いそのバンドに手拍子を打ちながら聴き始めた。それまで、ひたすら食べていた政子のお箸も止まっている。
 
ドラムス、ベース、ギター、サックス、キーボード、にボーカル、と6人編成のバンドだが、曲に合わせて、みんな身体を揺すったり飛び回ったりしながら楽しそうな顔で演奏している。間奏のところではギターの人が背中に楽器を回して背中弾きのパフォーマンスまでしてくれた。ひときわ大きな拍手が鳴り響く。
 
ボーカルの人もステージを端から端まで走り回りながら歌っているし、何度も客席の中に入ってきて、観客にマイクを向けたりしている。バンドはやがてMCも挟まずに2曲目ビートルズの「I wanna hold your hand」を歌い出す。どうもこのバンドは一昔前の洋楽を得意としているようだ。1コーラス目の終わり付近の「I wanna hold your hand!」というところでボーカルの人が私たちの席の所に走り込んで来ると、政子の方に手を伸ばした。
 
政子がノリでその手を握ると、ボーカルの人は少し驚いたような表情を見せながらも、ついでに?私の方にももう一方の手を伸ばし、私もノリでその手を握る。するとボーカルの人は「Hey, girls, Come on!」と言って、私たちを連れてステージに戻った。
 
「You sing?」などと言うので、私たちは「Yeah,Yeah」と言い、2コーラス目以降をその人と一緒に歌い始めた。少し歌ったところで「君たち上手いじゃん、この子たちにマイク持ってきてあげて」などというので、お店のスタッフさんがマイクを2本持ってきて、ステージ上にいる私たちに渡してくれた。
 
ボーカルの人はまた走り回っているのだが、私たちは少し端の方に移動して静止したまま、この曲のメロディーをユニゾンで歌った。一部私がカウンターメロディーを歌うと、ベースの人が「へー」という顔をしている。
その曲が終わった所で
「君たち、ほんとうまいね。君たちに経緯を表して All the things she saidとか、どうだろ?」
などと言う。
 
「英語歌詞でもロシア語歌詞でもいけます」と私が答える。
「よし、英語で行ってみよう。俺ロシア語分からんし」などといって、演奏が始まる。ボーカルの人はステージ脇からリリコンを持ってきて吹き始めた。どうも歌はこちらに任せた、ということのようである。
 
私がメインメロディーを歌い、政子がカウンターメロディーを歌う。
「This is not enough!」と叫ぶところでは、店内から大きな拍手が起きた。盛り上がっているので、私たちはサービスで、間奏の時にステージ上でキスしてみせた。「わー」とか「きゃー」などという歓声が上がる。店内は最高の盛り上がりを見せている。バンドの人たちも笑顔で首を振ったり、手を広げたりして、喜んで?いる。
 
「じゃ、次は Dancing Queen! 行ける?」
私がOKのサインを出すと演奏が始まる。この曲ではボーカルの人もまたマイクを持ち、私たちと一緒に3人で歌った。
 
この後、私たちはマイケル・ジャクソンの「Thriller」、シカゴの
「Hard To Say I’m Sorry」、カーペンターズの「Jambalaya」、カルチャークラブの「Karma Chameleon」、と歌い、また私たちふたりだけで、マドンナの「Papa don’t preach」を歌う。サービスで私がオナニーのポーズを取ろうとしたら政子に停められたが、それだけでも観客は沸いた。
 
そしてまた3人でワム!の「Careless Whisper」を歌ったあと、最後にダスティ・スプリングフィールドやエルヴィス・プレスリーのヒットで有名な「You Don’t Have To Say You Love Me」(元々はカンツォーネで、原題 Io che non vivo)をしっとりと歌い、終幕となった。
 
ボーカルの人、そしてリーダーらしきギターの人、そして他のバンドメンバーとも硬い握手を交わして、私たちは自分たちの席に戻った。席に戻る途中、たくさん拍手を受け、何人かの客から握手を求められ、たくさん握手もした。お店の人が「お疲れ様でした」といって、ピーチティーを持ってきてくれた。「水割りの方が良いですか?」と訊くが「私たち未成年ですから」と答え、私たちがさすがに喉がかわいたのでピーチティーを一気に飲み干すと、「お代わりお持ちしますね」といってお代わりを持ってきてくれた。
 
ステージには白いドレスを着た女性のピアニストが上がり、ムーディーな音楽を奏で始める。私たちがお代わりしてもらったお茶を飲みながら、残っていた料理を食べ終わったころ、お店の人が「カナディアン・ボーイズの人たちが、ぜひお話したいと言っているのですが」というので、誘導されて控え室の方に行った。
 
あらためて6人と握手をしたが
「えーっと、プロですよね?」と言われる。
「はい」と私たちは笑顔で答えた。
「いや、素人ではあり得ないと思ったもん、途中から」
 
「若いのによく古い曲を知ってるね」
「前奏少し聞いただけで何の曲かすぐ分かってたみたいだよね」
「ケイの頭の中にはたぶん1万曲くらいの曲が入ってます。それに、この子、一度聴いたことのある曲なら歌えちゃうんです」と政子。
 
「へー。そこまで歌えるなら、売れなかったらリハーサル歌手でもやれるね」
「あはは、そうかも。マリもカラオケが好きで自宅にサウンドカフェ入れて歌ってるから多分2000-3000曲は頭に入ってますよ」と私。
 
「あ!君たちはローズ+リリーか!」とベースの人。
「はい」
他のメンバーの中の数人が「ああ!」という感じの顔をしている。
 
「一昨年だったかに彗星の如く現れた女子高生デュオでさ、CD3枚リリースしたところで、ちょっとスキャンダルがあってね」
とベースの人が他のメンバーに説明するように言う。
 
「ええ、私が実は男の子だったと週刊誌にスクープされて、凄い騒ぎになっちゃって、結果的にそれで活動停止を余儀なくされたんです」と笑顔で私。
 
「え!?じゃ、君、本当は男の子なの?」
 
「今月初めまではそうでしたが、もう男の子ではなくなりました」
「わあ、手術しちゃったんだ」
「最後の手術はまだですけどね」
「へー。でも、どこをどう見ても男の子には見えないもんね」
 

話が長くなりそうだったのとライブハウスの閉店時刻も迫ってきたので、私たちは一緒にファミレスに移動することにした。お店の人は「お勘定はいいですから」
と言ったのだが「結果的に報酬をもらって歌ったとなると、契約違反になるので払います」と言って、きちんと代金を払った。「ではこのくらいならいいですよね」
と言ってお店のサービス券をたくさんくれた。(このサービス券は新潟市内の姉妹店でも使用できたので、後に新潟の民謡教室に通った時、生徒さんに配った)
 
ファミレスで私たちはピザとかポテトとかをとってつまみながら話をした。
 
「4月にはラジオの番組で司会しながら歌ってたよね。俺、鍋島康平わりと好きだったから聴いてたよ」
「わあ、ありがとうございます」
「ひとつひとつの作品の解説がしっかりしてて、感心した。あれは台本?」
「ええ。台本も私たちで作って、添削してもらいました」
「それは凄い」
「マリのお父さんが鍋島作品のファンだったので、いろいろ聞き出したんです」
「ああ、お父さんたちの世代だよね、熱心に聴いてたのは」
 
「でも例の騒動の後、大学受験もあって休養してたんだよね」
「ええ。無事大学は合格して、今は女子大生してます」
「じゃ、復帰するんだ?」
「えーと、当面は音源制作だけしていきます。秋頃からゆっくりとアルバム制作をして、来年の夏くらいに発売しようか、なんて言ってるんですが」
「ずいぶんゆっくりした制作だね」
 
「ええ、その後は毎年1枚くらいアルバムを出して行きます」
「ライブ活動はしないの?」
「ローズ+リリーとしては当面予定が無いです」
「というより、私がステージに立たないと言ってるもんで。ケイは別のバンドと組んで、そちらでライブ活動していく予定です」
 
「へー。何てバンド?」
「クォーツというのですが」
「あ、知ってるかも。リーダーがマキ?」
「そうです」
「マキともサトとも、俺、一緒に飲んだことあるよ」
「わあ」
「でもマキって変人だろ?」
「はい」と私は笑って答えた。
 
「いや、イベントの打ち合わせで何人かのバンドリーダーでの寄り合いやった時さ、他のみんながもう色々オーダーして食べ始めてる中で何か悩んでる風だったから、そっとしてたんだけど」
「はい」
「10分くらい経ってから、『俺もやっぱり水割りにしよう』って」
「ありそうだ・・・」
 
「でも、じゃあマリちゃんの方は表舞台には出てこないの?」
「ええ。私は高校の時の4ヶ月でステージで歌うことに関しては燃え尽きちゃったかな、と」
「でも、今日のステージ気持ちよくなかった?」と私。
「気持ちよかった」
「また、そのうちやろうよ」
「そうだなあ、気が向いたらかな」と政子。
 
「しかしt.A.T.u.の曲とか、よく舌が回るよね。俺なんかまともにあの歌詞歌えないから『オニクマセー』とか適当に歌ってるよ」
「あれ、ほとんど早口言葉ですよね」と言って、私も笑う。
 
「でも本家並みにステージ上でキスしてたね」
「あれ、前やった時に叱られたんですけどね。それでなくても私たちレスビアン疑惑が前々からあるのにって」
「あはは」
「でもキスすると盛り上がるんですよ」
「そりゃ盛り上がるよね」
「でもオナニーは止めようね」と政子。
 
「ふたりは実際、恋人ってわけじゃないんだよね?」
「友だちです」と私と政子が同時に答える。
「息が合ってる」
「どうもこの件はあまり深く追求しない方がいいみたいだ」
 
「こちらへは今日は仕事とかじゃなかったんでしょ?」
「ええ。プライベートなドライブです」
「高校卒業してから、けっこう一緒にドライブしたよね」
「そうだね。横浜行ったり、千葉行ったり、日光行ったり。今回がいちばんの遠出になったね」
「今日は、こないだケイが車を買ったんで、実質的な初乗りを兼ねて長距離ドライブしたんです。これまではレンタカーだったんですが」
「へー」
 
「レンタカーでいろいろな車種に乗って、乗り心地とか見てたのよね」
「ああ、なるほど」
「何買ったの?」
「カローラ・フィールダーです。ウィングロードと最後まで迷ったんですが、マリがこちらが好きと言ったので決めました」
「わあ、渋い選択。女子大生ならモコとかキューブとか、あるいは車が好きならGT-RとかZとか」
 
「軽はタントとパレットに乗ってみましたし、コンパクトカーもフィットとヴィッツに乗ってみましたが、やはり非力で高速走る時に辛いなというのともう少し室内に余裕があるのがいいかなという話になって。スポーツカーも実用性からいうと微妙だったので」
「確かに実用性は低いかもね」
「フェアレディZで近所のスーパーまでお買い物とか、やってみたい気はしたけど」
「あはは」
 
「でもフィールダーは新車?」
「いえ。中古です。2005年モデルのAT車。もともと中古を買うつもりだったし、それにカローラ・フィールダーの今のモデルはCVTだから。CVTの操作感って、いまいち好きになれなくて。町中はいいけど、郊外がちょっと。坂道の直前にシフトダウンしたいのに、坂道に掛かってから下がるから気持ち悪くて」
「あ、俺もそれでCVT嫌い。でもいっそMTにしたら?」
「中古であまり出回ってなかったんですよね〜。4年後くらいに買い換える時、もしお金あったら、MTか2ペダルMTの新車にしようかな」
 
その夜は結局、夜中1時頃まで、私たちは音楽談義や、他に車や旅のことなど、さまざまな雑談などもして盛り上がった。私たちは携帯のアドレスと番号を交換して別れた。
 

カナディアン・ボーイズの人達は夜中に女の子だけではぶっそうだと言って、ホテルまで送ってくれた。途中コンビニに寄って飲み物とおやつを仕入れた。
 
ホテルの部屋に戻ると私たちはキスして抱き合った。シャワーを浴びてから裸でベッドに入り、再度抱き合う。いつものようにコンちゃんを1枚枕元に置いた。
 
「今日は開封しなくくていいの?」
「そうだなあ。今日はステージで歌ったからね。あれってさ、セックスの快感に似てると思わない?」
「ある意味似てるかもね」
「そちらで結構満足したから、今日は冬を少し苛めるだけ」
「お手柔らかに」
 
手術の傷がこの時期にはかなり回復してきていたので、政子はけっこうその付近に触ってきた。
 
「せっかく割れ目ちゃん出来たんだから、しっかり閉めておく練習するといいよ。とりあえず中に隠したものをこぽさない程度にはね。それやってれば、ヴァギナ作った時に、それをぎゅっと締める練習にも通じるから」
「なるほど」
「冬は女の子になりたてだから、私がいろいろ教えてあげるね」
「そう?ありがと」
 
「おしっこの仕方は分かるかなあ?」
「分からなかったら大変だよ」
「オナニーの仕方は分かるかなあ?」
「研究してみる」
「おっぱいの揉み方は分かるかなあ?」
「そんなの揉むもの!?」
「じゃ、お姉さんが揉んであげるね」
 
豊胸手術からもまだ1ヶ月半しかたってないこともあり、政子は優しく私のバストを揉んでくれた。乳首をいじったり、しゃぶったりもする。私はちょっと感じてしまった。
 
「気持ちいいかも・・・・」
「濡れる?」
「それは無理」
「濡れる機能付いてないの?」
「だってまだヴァギナも無いし、バルトリン腺とかも無いし」
「じゃ冬が気持ち良くなってるって、どうやったら分かるの?クリちゃんは全然反応しないし」
「うーん、難しいなあ・・・」
 
私のおちんちん(政子は去勢手術以降、それを私のクリちゃんと呼んでいた)は去勢前は小さいのは小さいなりに、通常3cmくらいのが政子に触られると5cmくらいにはなっていたのだが、去勢手術後は、全く反応しなくなった。政子はたまにフェラ(政子的には「クンニ」)もしてくれたが、ほとんど反応は無かった。また、この頃、私は自分の性欲が消失しているのを感じていたが、政子とイチャイチャするのは気持ちいいので、仕掛けられると、お互い気持ち良くなりすぎない範囲で応じていた。私たちの行為は明確な「終わり」が無いのでしばしば3時間も4時間も続いていた。
 
その日の日出は4:23だったので、私たちは3時頃ホテルを出てどこかの海岸まで行き朝日を見てから東京に帰ろうと言っていたのだが、そもそも1時までカナディアン・ボーイズの人達と話していて、そのあとホテルでふたりで愛し合っていたので、眠りについたのが4時すぎで、起きたのはもう8時だった。
「今日は学校は休みだね」
「礼美と小春にノート頼んでおこう」
 
寝過ごしたのは仕方ないということで、ふたりでホテルの朝食を食べに行き、それから部屋でまた少しだけ愛し合って、10時頃出発した。ホテルからそのまま海を目指した。
 
「よく見えないけど、この向こうに佐渡があるはずだよ」
「へー。でもなんかこういう景色見ると気持ちいいなあ」
「久里浜とかの明るい海もいいけど、こういう少し沈んだ色の海もいいね」
「うん。こういう感じの海を私見たかったの。ありがとう」
 
私たちは砂浜に座り、肩を寄せ合って、かなりの時間そこで黙って海を見つめていた。
 
「ずっとこうしていたい気分」
「時間なんて経たなきゃいいのに」
「でも時間が過ぎていくことで感じられる幸せもあるよ」
「お互い結婚しちゃうと、なかなかこんな時間持てなくなるかも知れないけどこの海の景色は私忘れない気がする」
「ひとつひとつのシーンを私たちは記憶のアルバムに収めていくんだろうね」
 
私たちはそこでキスをした。お互いに唇を離しがたい気がして、5分くらいキスしたままでいた。
 
「そろそろ御飯食べて帰ろうか」
「そうだね。明日は冬は与論島だしね。早く帰って寝なきゃ」
 
私たちはここに来る途中見た郷土料理の店によって昼食を食べた後、スーパーに寄り、食材を調達してから(「えご」など地元の食材も調達した)、また高速に乗って、夕方6時頃、東京に戻った。もちろん、車は政子の家のガレージに収めるので、そのまま私たちはその夜も一緒に過ごした。
 
 
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【夏の日の想い出・新入生の初夏】(上)熱い夜