【夏の日の想い出・6年間のツケ】(上)

前頁次頁時間順目次

1  2 
 
南相馬から仙台までは直線距離で70kmほどである。今回使用しているユーロコプター社製 AS350B エキュレイユで約20分のフライトである。着陸する時に時計を見たら18:18であった。ここに加藤課長が★★レコード仙台支店の車で待機してくれている。そちらに乗り込む。市内が少し渋滞していて、会場に到着したのは18:35であった。
 
既にお客さんを入場させている最中である。ほどなく、政子を乗せた花枝のNSXも到着する。楽屋でキスする。
 
「道は混みました?」
と花枝さんに訊く。
 
「仙台市内に入ってからは逆方向なので、渋滞には引っかからなかったですよ」
「良かった、良かった」
 
郡山から仙台に新幹線で直行していたスターキッズのメンバーと開演前に簡単に打ち合わせる。
 

19:00。仙台スタープラザ。ローズ+リリーの公演の幕が開く。私たちはいつものように『幻の少女』から歌い始めた。
 
約1時間のステージ前半最後はお玉を振って歌う『ピンザンティン』である。会場でも多数のお玉が振られ、盛り上がって歌を終える。
 
「それでは私とマリはここで少しお休みを頂きます。その間、今日のゲストの方に歌って頂きます。今日のゲストはKARIONの4人です」
 
と私が言うと、
「えーーー!?」
という会場の声。
 
「それではKARIONさん、どうぞ」
と言って、私とマリは舞台上手に下がる。細かいことを言うとまず私が下がり、それに続いてマリが下がる。それと入れ替わりに、下手からKARIONが和泉を先頭に、美空、小風、そして蘭子の順に出てくる。
 
「うっそー!?」
という声が聞こえた。
 

ちなみに上手に下がった時のケイの衣装はバラの模様のシャツに赤いティアードスカート。そして下手から出て来た蘭子の衣装はピンクのドレスである。
 
実は今日着ていたケイの衣装は、しつけ糸1本切ると、一瞬で脱ぐことができるように作られている。その上にこのドレスをかぶったのである。着替えは5秒で終わった。私が上手に下がった後、マリが客席に手を振ったりしながら、ゆっくりと下がり、和泉・美空・小風がゆっくりと出て来たので、その間の時間は15秒ほどもあった。その間に私は舞台裏をダッシュで下手の方に行き、5秒で着替えて息を整え、小風の後から、普通の顔をして出て行ったのである。(さすがにメイクはそのまま)
 
(でもこの練習を昨日の午前中に何度もやったので、私はダッシュ・ダッシュで足が痛かった。ちなみにこの会場は昨日KARIONのライブをした会場である)
 

「みなさん、こんばんは。KARIONです!」
と4人で挨拶する。
 
「ローズ+リリーとKARIONはライバルということで、私たちのこと、あまり好きではない方もおられるかも知れませんが、少しだけ私たちの歌を聴いてください」
と和泉は笑顔で言う。
 
「ずっと昔、KARIONのライブにローズ+リリーがゲストで登場したこともあったよね」
と小風。
 
「そうそう、あの時期はローズ+リリーは建前上ライブをお休みしていたのでゴスロリ着たゴース+ロリーとか言って登場したんだよね」
と私が言う。
 
「あれは金沢で、楽屋では、私とマリちゃんで芝寿し(しばずし)の食べ比べしちゃった」
と美空。
 
これには会場で笑いが起きる。美空の大食いはローズ+リリーのファンにも比較的よく知られている。
 
「蘭子はあの日は前半サボってて、後半だけヴァイオリンを弾いたね」
と和泉。
 
「何個か歌も歌ってるよ」
と私。
 
「まあ蘭子はよくステージをサボっている」
と小風。
「ごめーん」
 
「やっぱ罰金じゃない?」
と美空が言う。
 
「まあ遅刻した美空が度々罰金を払ってるからねー」と小風。
「1回遅刻する度に5万払ってるよ」と美空。
 
「今まで蘭子が欠席したのって、どのくらいあったっけ?」
と小風が和泉に訊く。
 
「こないだの記者会見では突然質問されたんで勘で7割くらい出席してるんじゃないかと答えたんだけどね。その後で社長と一緒にきちんと計算してみたんだよ。すると昨年までKARIONがやったライブで、キャンペーンの類いをのぞくとライブは167回やってるんだけど、その内134回に蘭子は出席している。8割だね」
 
と和泉が言うと、客席はかなりどよめく。みんな、そんなにたくさん出ていたとは思っていなかったようである。
 
「すると欠席したのは?」
「33回。但しその内の11回は手術を受けててその療養中のと、震災のボランティアしてての欠席だから、この分は勘弁してあげる。実質欠席は22回かな」
 
「だったら1回につき罰金10万円で220万円罰金」
と小風。
 
「私、それ2008年11月のツアー以降、ギャラはもらってないんだけど」
「もらってなくても罰金」
「えーん」
「6年間のツケを払おう」
「220万円、震災復興の基金に寄付しなさい」
「まあいいや。寄付するよ」
「よし」
 
すると客席から拍手が湧いた。
 
「蘭子だけじゃ可哀想だから私も20万寄付するよ」
と和泉が言う。
「じゃ私も10万寄付するかな」
と小風。
「じゃ私も10万」
と美空。
 
また拍手が湧く。それで4人で合計260万円寄付することになったのである。
 

その後、やっと歌に入る。この会場で歌ったのは『四つの鐘』『鏡の国』『恋のブザービーター』『魔法のマーマレード』と4曲である。『鏡の国』ではドレスの上に、この曲用のシンメトリーな衣装を着て歌った。
 
小風は赤・白、和泉が青・黄、私が黄・青、美空が白・赤である。
 
また『恋のブザービーター』を演奏した時に、バスケットウェアを着た男性が出て来てリズムに合わせてひたすらボールをドリブルしたので、会場はかなりざわめいた。
 
歌い終わった所で和泉が
「高校時代にバスケットをしていた、櫛紀香さんでした」
と紹介すると、大きな拍手が湧いていた。
 
最後は『魔法のマーマレード』で可愛く締めた。
 

「今日はもうひとかた、ゲストをお呼びしています」
と私がマイクに向かって言う。
 
「南藤由梨奈ちゃんです」
と言うと、この時点で彼女の知名度はかなり上がっていたので、凄い歓声が湧く。
 
そしてKARIONは彼女にステージを譲って退く。
 
「こんばんは!南藤由梨奈と申します。よろしくお願いします」
と可愛く挨拶する。
 
「ゆりゆりー!」
という声がかかる。由梨奈は手を振る。
 
そこにエレキギター、ベース、ショルダーキーボードを持った人が入ってくる。更にサックスを持った人が3人入ってくる。
 
このサックス演奏陣に声がかかった。
「ゆまくーん!」
「ナナちゃーん!」
「リーフちゃーん!」
 
ここに出て来たのは南藤由梨奈のプロデューサーである鮎川ゆま、その親友であり、今日はスターキッズとしてローズ+リリーの伴奏をしてくれている七星さん、そしてこの週末岩手に行くとうっかり私との電話で口をすべらせたので、だったら仙台にちょっと来いと言って連れて来た、青葉である。
 
鮎川ゆまはLucky Blossom として売っていたので顔を知っている人も多いであろうが、リーフこと青葉にまで声がかかったのは正直驚いた。後でネットを検索してみたら、今回のローズ+リリー・ツアー会場だけで売っているビデオクリップに、青葉が巫女衣装で舞を舞い、それをバックに私とマリが『女神の丘』
を歌うものが入っていた。昨年の富山公演でリーフがサックスを吹いたのを見ていた人で、このビデオを見た人が
 
「この巫女さんのコスプレしてるのがリーフだよ」
とネットに書いたので、それでリーフの顔が多くの人に知れ渡ったという経緯だったようである。
 
なお、ここでギター・ベース・ショルダーキーボードを持っているのは、鈴木和幸、貝田茂、幣原咲子というLucky Blossomの元メンバー(実はLucky Blossom以前に鮎川ゆまと一緒に4人でやっていた Red Blossomの元メンバー)で、ゴールデンウィークに敢行した南藤由梨奈のツアーでは、この3人がバックバンドを務めたのである。
 
この6人の伴奏で南藤由梨奈は3曲歌を歌った。
 
結局この日のゲストコーナーはKARIONと南藤由梨奈で合計7曲、30分ほどを消費した。
 

南藤由梨奈と伴奏陣が下がる。そして私とマリがステージに出て行く。
 
「ゆっくり休ませて頂きました。南藤由梨奈ちゃん、うまいね。あとKARIONの蘭子ちゃんも結構うまいね」
と私が言うと、会場で爆笑が起きていた。
 
後半最初はヴァイオリン6重奏をフィーチャーした『花園の君』である。鈴木・松村・鷹野・香月・宮本・七星と6人のヴァイオリンが後ろに並ぶと、なかなかインパクトがある。七星さんはサックスを持って下がってヴァイオリンを持って出て来た。なかなか忙しい。
 
美しいストリングスの音をバックに私とマリはこの歌を歌う。背景には春先の植物園で撮影した、桜の花の下を私とマリが歩いている映像が映される。後半のアコスティックタイムは、その優しい音に観客が酔っている感じであった。
 

■この日の各自の行動。
 
私:郡山から福島へ新幹線で移動。KARIONの公演(1300-1550)
 染宮さんのバイク、ヘリコプター、花枝の車でRQの会場へ(16:25)
 RQのオープニング(16:30-16:40)にケイとして出る
 幕間(1725-1740)にKARIONの蘭子として出る
 その後、悠子の車とヘリコプター、加藤さんの車で仙台へ(1835)。
 RPLの公演(1900-2130) (幕間には蘭子として出演)
 
政子:郡山から花枝の車で南相馬に入る。
 RQのオープニング(16:30-16:40)に出た後花枝の車で仙台へ(18:45)
 1900-2130 RPL公演(1900-2130)
 
和泉・美空・小風 仙台から福島へ新幹線で移動。
 KARION公演(1300-1550)。その後氷川さんの車で南相馬へ(1710)
 RQの幕間(1725-1740)。その後更に氷川さんの車で仙台へ(1940)。
 RPLの幕間(1950-2010)。
 
櫛紀香 KARION公演の福島からRPL公演の仙台へ移動
スターキッズ 昨日公演した郡山から仙台へ。
トラベリングベルズ 昨日公演した仙台から福島へ。
 
南藤由梨奈とRed Blossom 仙台で昼間ライブした後、夜RPLのライブにゲスト出演。
 
青葉 土日は大船渡で仕事。日曜日の昼過ぎに仕事を切り上げ仙台に移動。
 

アコスティック楽器の音を背景に、この後『花の女王』『あなたがいない部屋』、『雪の恋人たち』、『花模様』、『言葉は要らない』『坂道』『君待つ朝』
『A Young Maiden』『100時間』『夏の日の想い出』『天使に逢えたら』『ネオン〜駆け巡る恋』『アコスティック・ワールド』と演奏してステージ本編は終了する。既に時計は21:20になっている。
 
いったん幕が降りるがアンコールの拍手で幕は上がる。
 
そしてここに居るのはお約束通りゴールデンシックスである。今日のカラオケ対決は、和泉が袖から出て来て
「私が今日はピンチヒッター」
と言って、カノンと対決した。カノンは初めて90点を超える91点を出したが、和泉が100点を出して思わず会場から「すごーい!」という声が出た。
 
1Hzとも狂わない正確な音感を持つ和泉ならではである。
 
ふたりは「また挑戦するぞ」と言って走って退場。暖かい拍手が送られた。
 

その後の本当のアンコール曲、『夜宴』では和泉がグロッケンを打ってくれた。CD音源ではマリが打っているパートである。スタースキッズ&フレンズには専任のグロッケン奏者がいない(月丘さんが実は元々マリンバ弾きだが彼にはキーボードを弾いてもらわないといけない)ので、これまでのライブでは省略していたのだが、この日は和泉が入ってくれたおかげで、CD音源に近い演奏が再現できた。
 
しかし和泉がマリのパートのグロッケンを打っていると、マリの目が何だか燃えていた。そちらを気にしすぎたのか歌詞を間違ったが、マリの歌詞間違いはそう珍しいことではないので、あまり気にする人はいなかったようである。
 
そして最後の『あの夏の日』を私とマリの2人だけで歌う。時刻はもう21:40になっている。お客さんには「21時を過ぎることもあります」とは最初から告知しているが今日は大幅オーバーである。更にこの会場は22:00までに撤収する必要がある。楽屋では既に片付けを始めて譜面や楽器、着替えなどの荷物をどんどん車に運んでいる所だろう。
 
スタインウェイのピアノの上を踊る私の指が終止和音を弾く。私とマリの声がそれに合わせて長い音符を歌う。そしてピアノの音の余韻が消えるとともに、私たちの歌も終わった。
 
割れるような拍手とともに幕が降りる。私とマリは客席に向かって深くお辞儀をした。
 

幕が下りて客電が付き、ホール内では
「公演終了が伸びまして申し訳ありません。順序よく退場してください」
とスタッフの人がアナウンスする。
 
みんな帰りのバス・電車の時刻気にしてどんどん退場するが(会場前に仙台駅行きの臨時バスがたくさん待機している)、ところどころに2時間半のライブで燃焼し尽くしたのか席に座り込んでいる客がいる。
 
「すみませーん。ホールを閉鎖しますので、お帰りください」
と言って声を掛けて退場させる。掃除は20人も投入して人海戦術できれいにゴミを拾い、汚れた所を拭いていく。
 
私と政子はスタッフと一緒に楽器や機材を車に運んだ。和泉たちやゴールデンシックスの2人も手伝ってくれている。
 
そして撤収が終わったのは、21:59、ギリギリであった。
「遅くなって申し訳ありませんでした」
と加藤課長と花枝、それに私も会場の管理者さんに謝ったが
「なーに。10分オーバーくらいまではいいですよ。書類では22:00に終わったことにしておきますから」
と60歳を過ぎた感じの守衛さんはニコニコ笑顔で答えてくれた。このあたりは地方ゆえの緩さもあるのだろう。
 

今日東京に帰るのは、★★レコードのスタッフの大半、ゴールデンシックス、伴奏者の大半で、私と政子、和泉・美空・小風、そのお世話係を兼ねて窓香と花恋に氷川さんは仙台泊まりである。南藤由梨奈ちゃんとRed Blossomのメンバーは自分たちの出番が終わった時点で東京に戻っている。青葉も富山行きの高速バスに既に乗り込んでいる。
 
私はゴールデンシックスの2人が会場を出てから美空と何だか親しそうに話しているのを、意外に思った。それで声を掛けてみる。
 
「これからローズ+リリーとKARIONで打ち上げするけど、君たちも来る?私が今夜はおごってあげるよ」
と言うと
「わあ、いいんですか! じゃちゃっかり参加します」
と嬉しそうにしていた。
 
それで結局私と政子、和泉・美空・小風にカノン・リノン、まだその辺に居たのを小風が呼び止めた櫛紀香さん、それに氷川さんの9人で、予約していた中華料理屋さんの個室に入る。
 
「なんか僕以外みんな女性で、ひとりだけ男で申し訳無い」
などと櫛紀香さんは言うが
 
「紀香ちゃんは女名前だから、女の子の一種ということでいいよ」
などと政子が言う。
「なんなら女装する?」
「いや、それは勘弁してください」
 
「でも予約してたのに人数増えても大丈夫ですかね?」
とカノンが心配するが
 
「ああ。ひとりで5〜6人分食べる人が2人もいるから15人前で予約してたから、3人くらい増えても全然平気」
と私は答える。
 

カノンたちはこの後、車を交替で運転して東京に戻るということだった。
 
私は氷川さんと顔を見合わせる。
 
「ね、ね、君たちさ、今日は泊まって明日朝の新幹線で帰らない?君たちの車は★★レコードのスタッフに東京まで回送させるよ。ホテル代も回送代も取らないよ」
と氷川さんが言う。
 
「うん。公演で疲れているのに夜通し車を運転するのは危ないよ。事故を起こさなくても白バイにつかまりやすいよ。注意力落ちるから」
と私も言う。
 
「あ、その白バイの方が怖い」
「じゃ、お願いしちゃおうかなあ」
 
それで氷川さんがホテルのフロントに電話して、ツインの部屋を取ってくれた。
 
「えー!? そんな一流ホテルに部屋を取ってくださるんですか!?」
「すごーい。全日空ホテルなんて、一生泊まらないかも」
などとカノンとリノンは、はしゃいでいる。
 
「売れたら、いつでも泊まれるようになるよ」
と私は微笑んで言う。
 

料理が運び込まれてきて、サイダーも配られる。氷川さんが音頭を取って乾杯する。このメンツでお酒を飲むのは櫛紀香さんだけのようだが、この日は紀香さんもアルコールは遠慮していた。
 
「今日はみなさんお疲れ様でした。特に和泉ちゃんたちは車で長時間の移動、大変でしたね」
と氷川さんは労をねぎらう。
 
「いや、運転している氷川さんの方が大変だったと思います」
と和泉。
 
「あれって、少し考えたんですけど、私たちもヘリで移動したらいけなかったんですかね?」
と小風が訊く。
 
「あっとそれは・・・」
と氷川さんが言いよどんだので、私が答える。
 
「万一ヘリが墜落した時の被害を最小限に留めるためだよ」
 
「ああ!」
 
「私が死んだ場合に★★レコードに打撃があるのは承知してるけど、和泉たちも乗ってたら、100億稼いでくれるアーティストも一緒に失うからね。私が死んでも、残りの3人でKARIONの継続は可能だもん。作曲は孝郎さんや広花・照海などに頑張ってもらって。マリだってソロ歌手として充分なセールスは見込める」
と私は言う。
 

「プロ野球の選手が飛行機で移動する時に、必ず2便に分散させるのと同じだよね」
と和泉。
 
「うん。昔実際にヨーロッパのサッカーチームが飛行機事故で全滅したことがあったからね」
と私。
 
「きゃー」
「イタリアのACトリノですね。スペルガの悲劇」
と櫛紀香さんが言う。
 
「アメリカのチェイスってバンドも飛行機事故でメンバー全員死亡してます」
と氷川さんが言う。
 
「うーむ」
「まあ普段の飛行機での移動は4人一緒に乗っているけどね」
「単発機やヘリはやはり怖い面もあるから」
 
「ヘリを2機用意する案もあったのですが、時間的に車でも間に合うことと、車の方が事故確率は低いから、和泉さんたちは車にしました」
と氷川さん。
 

「でも今日のケイさんの移動、どうやったんだ?って、また議論されそうですね?」
と櫛紀香。
 
「まあ、ケイと蘭子が別人であれば、楽々車で移動できる行動でしたけどね」
「ヘリが飛んでいたのは多分気付いた人いたと思うから、割と簡単にバレると思う」
 
「上手にケイが消えてすぐ下手から蘭子が出て来たのも、え!?って感じの反応でしたね」
 
「ヘリコプターというのがバレたら2008年11月の例の名古屋から金沢まで1時間で移動したのもヘリでは?と言われたりして」
 
「まあ、あれはヘリでは無理なんですよ。気流が難しい所がけっこうあるから、ルート確保が難しい。天候次第では待機を迫られる。いっそ琵琶湖・福井県側から回り込む手もあるけど、それだと距離が長くなって間に合わない」
 
「しかもあの日、名古屋は雨だったよね」
「うん。特にあの天気の中をヘリでアルプス越えするのは無謀でしょうね。あれは実際に使用したドラえもんのどこでもドア以外には方法がないんだよね」
 
「どこから、どこでもドアなんて借りたんですか?」
「ああ。放送局から」
 

氷川さんが話題を変える。
 
「『恋のブザービーター』のバスドラ代わりにバスケットボールのドリブルするって面白いですね。あれCDの第2版(KARION側が主導権を取って作り直した版。通称Another版)もあんな感じになってましたけど、あの時の音源製作でも櫛紀香さんがバスケットボール打ったんですか?」
 
「あれ、小風さんが私がバスケットしてるのを知ってたので、やりませんか?と声を掛けられてやってみたんですけどね」
と櫛紀香。
 
「正確なビートが刻めないので首にさせてもらいました」
と小風が笑って言う。
 
「それで美空の知り合いのバスケ選手に頼んだんだったよね?」
 
「うん。彼女、震災ボランティアとかまでしてて忙しかったんで、録音技師さんと一緒に彼女んちの近くまで行って、やってもらった。さすがインターハイBEST4まで行ったチームのガードだけあってすっごい正確だった。久しぶりだから自信無いとか言ってたのに身体が覚えてるんでしょうね」
 
「そうそう。下手な人は下手なまま身体が覚えている」
などと櫛紀香さんが言うので、みんな吹き出す。
 
「でもインターハイかぁ。いいなあ。僕は同じBEST4でも最高で福島県大会のBEST4でしたよ」
と櫛紀香さん。
 
「いや、県BEST4もかなり凄い」
「でも櫛紀香さんはフォワードでしたね」
「そうです。スモールフォワード。ドリブルはあまり得意じゃなくて、ひたすらシュート撃つ係」
「スモールフォワードって、でも器用な選手が多いのでは?」
「いや、チームメイトが僕以上に不器用だったから、僕がやってただけで」
 
と櫛紀香さんは照れていた。
 

「カノンちゃん、リノンちゃんって、何か楽器はするんだっけ?」
「私はピアノとか大正琴とか。リノンはギターですね」
「ベースがいたらバンドできるね」
「いや、ゴールデンシックス結成した時は、ベースもドラムスもいたんですけどね」
「1人減り2人減りで」
 
「ああ。じゃ最初は本当に6人いたんだ」
「そーなんですよ」
 
「音源作る時だけ、元メンバーで出てこれる子に声掛けて手伝ってもらってるんです」
「ああ、でもそういうのっていいね」
 
「でも大正琴って珍しい」
「友人のお母さんのものなんですけど、借りたまま7年くらい返してない」
とカノン。
 
「ああ、そろそろ時効だな」
「向こうはきっと忘れてるよ」
「大正琴って通販で買ったまま死蔵している人が多い」
 
「私の持ってるギターも本来姉の物なんですけどね。借りっぱなしです」
とリノン。
 
「お姉さんのものなら、なしくずし的に」
「もう名前を書いといてもいいレベル」
 

「元メンバーというと、南藤由梨奈ちゃんのバックバンド、もしかしてあのメンバーで固定になるんでしょうかね?」
とカノンが訊く。
 
「あり得る、あり得る」
と小風。
 
「鮎川ゆまが、唐突に南藤由梨奈のプロデュースしてと言われて、それで今回のゴールデンウィークのツアーも突然決まったから、ゆまが無理の言える昔の仲間に声を掛けて伴奏をさせたというのが実際の所なんだけどね」
と私は内情を説明する。
 
「あれ、私はLucky Blossomのメンバーの一部と把握していたんだけど、詳しい人に聞いてみると、Lucky Blossomを作る前のRed Blossomのメンツなのね」
と和泉。
 
「そうそう。あの4人でバンドしてたんだよ。もっとも最初は木管四重奏だったらしい」
「えーー!?」
「フルート、クラリネット、バスクラリネット、サクソフォン。でもそのうちポップス系も演奏するようになってギターとかベースとかも持って、リズム感のいい咲子さんがドラムスやって」
「ほほぉ」
 
「鮎川さんはこの2年ほどサックス教室の先生やってたみたいだけど他の人は何してたんだろう?」
 
「咲子さんは何もせずに新潟の実家に帰ってぼーっとして過ごしてたらしいですよ」
「ああ、燃え尽きた後ってそうなりがち」
「今回のツアーでは空いた日は鮎川さんちに泊まり込んでたらしい」
「なるほどー」
 
「貝田さんはスーパーの店員をしてたみたいですね。今回の話あった時に後先考えずに辞めちゃったとか」
「潔い」
 
「鈴木さんはLucky Blossom解散後陸上自衛隊に入ってたらしい」
「それはまた凄いというか」
「2年間の任期が終わって退職して、さて次は何しようかと思ってた所にちょうどこの話があったらしいですね」
 
「おお」
「ということは3人ともすぐミュージシャンとして稼働できるんだ?」
「2年間の休養でみんな精神力は回復させてるみたいですよ」
「ただお給料は大したことないでしょうけどね」
「うん。バックバンドだから、Lucky Blossomが売れてた時ほどの収入にはならないだろうけどね」
「若い内はそれでも楽しいですからね」
 

「リーフちゃんは今日2度目のローズ+リリー公演への出演を果たしましたね」
「歓声が飛んでたけど、堂々と演奏してた」
「彼女あがったりしないみたいですね」
「櫛紀香さんも堂々としてた」
「まあ僕は鈍感だから」
 
「リーフさん、音楽のプロになるのかなあ?」
「彼女、アナウンサー志望らしいですよ」
「じゃアナウンサー兼アーティストで」
 
「アナウンサーって兼業できるんでしたっけ?」
「普通ダメでしょ」
「契約の形態にもよるかも」
「フリーアナウンサーで番組単位で契約するとかなら、その番組に影響が出ない限りは何してもいいでしょうね」
 

「『女神の丘』の背景に流れてたビデオでは巫女さんのコスプレしてましたね。何かすごくハマってた」
「まあ、あれは本職だから」
 
「あ、巫女さんのバイトとかしてるんですか?」
「いや。本職の巫女さん」
「へー!」
「あれはコスプレじゃなくて彼女の仕事着なんだよ」
 
「すごーい」
「どこかの神社にお勤めですか?」
「むしろ彼女が主宰者だね」
と政子。
 
「おぉ」
「教祖様に近いよね」
と和泉。
 
「宗教法人を設立するのも考えたみたいだけど、20歳以上でないと設立できないらしい。彼女はあれ、物心付くか付かない頃からしてるから」
「それは年季が入っている」
 
「彼女のひいおばあさんが凄い人だったらしい」
「でも幼稚園の頃にはそのひいおばあさんの仕事を実質代行してたらしいから」
 

「それであの神社は彼女が設置した神社なんだよ」
「へー」
 
「そういや、あのビデオを見た友人が、ここの神様、神格が高いとか言ってた」
と小風が言う。
 
「ああ、本人も言ってた。凄い女神様だから、どこかにお祭りしてあげなければというので、場所を探して、あの場所を見つけたと」
 
「じゃ、ほんとにあそこ、いい場所なんですね」
「あそこに招き猫を置こうよ」
と唐突に美空が言う。
 
「招き猫?」
「なんとまあ唐突に」
 
「招き猫って、白い子?黒い子?」
「左手あげてる白い子と、右手あげてる黒い子がいい」
と政子。
 
「ほほお」
 
「あそこ狛犬ちゃんとか居ないから、その代わりに招き猫を置いてもいいかもね」
と美空。
「よし、その設置費用は私が出してあげよう」
と政子。
 
「やはり常滑焼がいいよね」
「確か、氷川さんの親戚に常滑焼の窯元の人いましたよね?」
「ええ、まあ」
「その人、招き猫は作ってないんですか?」
「本人は皿とかだけど、招き猫作ってる知り合いはいると思いますよ」
「ではその人に頼んで」
 
「ちょっと君たち、本人抜きでそんな話進めていいの?」
と私は心配して言ったが
 
「奉納するんだから、いいよねー」
「うん。女神様だもん。可愛く祭ってあげなきゃ」
と美空と政子はすっかり乗り気である。
 

「美空さんとマリさんって仲がいいんですね」
と櫛紀香が言ったら
 
「うん」
と本人たちも言っている。
 
「まあ食べ仲間だよ」
「そうそう」
「こないだは飲茶食べ放題に挑戦して、私は45個、まぁりんは60個だった」
「まぁりんになったんだ?」
 
「それって時間は?」
「1時間半」
「恐ろしい」
 
「あ、そうそう。冬、引っ越し先のマンション見つけたよ」
「おっと」
「金曜日にふたりで見て来た」
「恵比寿駅から歩いて8分。実測値」
と美空。
 
「なるほどー。恵比寿か」
「★★レコードまでGoogle Mapで測ると2kmくらいなんだよね」
「だったらゆっくり歩いても30分あれば着くかな」
「タクシーだと、うまくすると初乗り料金」
「自転車なら10分かも」
「そこ、恵比寿駅のどちら側? 明治通りより西?東?」
 
「西とか東とかいうのはよく分からんな」
「駅から歩いて行った時、確か明治通りを越えたよ」
「ということは★★レコードに近い側かな」
「不動産屋さんは渋谷駅から歩いて15分ですよと言ってた」
「それは22-23分掛かるな」
 
「取り敢えず仮押さえだけしてるから、今度時間取れた時に一緒に来てよ」
 
「新築?中古?」
「中古だけど、築後まだ5年なんだよ」
「この不況で、ローン払いきれなくなる人、続出してるみたい」
 
「なるほどー。面積は?」
「何て言ってたっけ?」
「4LDK+2S, 42坪と言ってた」
「結構広いね」
 
「うん。部屋が多いから、私たちが遅くなった時に泊まるスペースも充分ある」
と美空。
 
「まあ。それはいいけど。でも、それ、お値段もかなりしない?」
と私は訊く。
 
「本来は2億円だったらしい」
「ぶっ」
「金利2.5%で計算して、自己資金5000万円、40年ローンで毎月23万円、ボーナス加算160万円くらい」
と政子が大雑把な計算をする。
 
「どういう給料もらってる人が買うんだ?」
「いやローンで払える金額ではない気がする」
 
「でもそれが中古で1億7千万円」
「それでも高い!」
 
「いや、その場所でその広さなら、しますよ。むしろ安いかも」
とリノンが言う。
 
「おお、専門家」
と美空が言う。
 
「専門家?」
「ああ、リノンは###不動産に務めてるんですよ」
「あ、この物件も###不動産」
「おっ」
 
「ねー、美空さん、今度良かったらそこに私も連れてってください」
とリノン。
 
「OKOK」
「ああ、専門家の目でチェックしてもらうのもいいね」
「同じ###不動産なら、それ仕事として出て来られるのでは?」
「どうでしょう。どっちみち聞いてみます」
 
「でも、梨乃ちゃん、他の人がいるからと言って『美空さん』なんて言わないで。敬語もやめて。気持ち悪い」
と美空。
「じゃ、いつものように、みーちゃんで」
 
「あれ?知り合いですか?」
と氷川さんが訊く。
 
「そそ。もう8年近い付き合い」
と美空。
「へー!」
 
「いや、みーちゃんの従姉が私やカノンの親友なんです」
「ああ!そうだったんだ?」
 
なるほど。それで親しそうにしてたのか、と私は納得した。氷川さんも頷いている。この業界は言葉遣いには厳しいが古い個人的な知り合いなら良いか、と容認してくれるということだろう。
 
しかしほんとに近い内に引っ越しすることになるようだ。
 

「こんなこと聞いていいですか? よそでは言いませんから」
と櫛紀香さんが私に言う。
 
「ケイさんというか蘭子さん、KARIONとローズ+リリーを6年間並行してやってこられたわけでしょ? それなのになぜローズ+リリーとローズクォーツは掛け持ちできなかったんですかね?」
 
「うーん。私にも分からない。確かにローズクォーツが実質起動した2010年10月から、実質辞めた2011年7月までってのは、ローズ+リリーの活動もKARIONの活動もまともにできなかったんだよ」
 
「やはりローズクォーツを本当にしてたのはその期間だけだよね?」
「うん。8月以降は完全にローズ+リリーがメインになった」
と私。
 
「ひとつはやはり体力の問題もあるんだけどね。10月から2月までは消耗品のアイドル歌手並みのハードスケジュールでドサ周りをやらされている。それで実は私を含めたローズクォーツ側と須藤さんとの信頼関係が壊れてしまったんですけどね。あの時代マリは休業して良かったですよ。マリがあのハードスケジュールで動いていたら、マリはもう復活不能でした」
 
「更に4月に私が性転換手術を受けたので、その後5月くらいまではまともに動けなかったんですよ。そして6月に1ヶ月で避難所300ヶ所を巡るツアーをやってますからね。これもとても他に何もする余裕が無かった」
 
少し考えていた風の氷川さんが言う。
 
「そのあたりの問題もあるけど、もっと大きいのは、やはり制作に関する負荷の問題だと思いますよ。ローズクォーツは演奏能力は高いけど、ケイさん以外にクリエイティブな作業のできる人が居ないんですよ」
 
「ローズ+リリーの場合はマリちゃんが詩を書いて世界観を明確にしてくれる。マリ&ケイで書いた曲の中で、どれを自分たちで歌い、どれをどの人に提供するかというのをマリちゃんが全部決めちゃう。サウンドに関しても雨宮三森さん、松原珠妃さん、大守清志さん、立川ピアノさん、近藤七星さん、といった人たちが関わっているし録音とまとめに関しても、山鹿さん、麻布さん、にケイちゃんのお友だちの有咲さんといった人たちが関わっている。ケイちゃんの負荷は意外に小さいんです」
と氷川さん。
 
「他では言わないで欲しいんですが、実はサマーガールズ出版はプロダクション8社の連合体で運営されているから、色々な人が動けるんですよ。だからローズ+リリーの各CDの実質的なディレクターはクレジットはしてないけど、毎回色々な方にお願いしているんです」
と私は言った。
 
「KARIONに関しては泉月の曲は半分くらいだし、こちらも和泉ちゃんが詩を書いて世界観を明確にする。和泉ちゃんは作詞だけのクレジットにしてるけど、実際には曲にも多少関わってますよね。編曲に関してはふたりの共同作業でしょ?」
と氷川さん。
 
「基本的には私がスコアを書いてから和泉に見てもらうんですけど、曲によっては結構和泉にほとんど投げていることもありますね」
と私。
 
「私がローズ+リリーの曲の編曲したこともあったね」
と和泉。
 
「うん。あれは助かった」
「そんなこともあったのか」
 
「サウンドの管理についても、ちょうどKARIONが初期の路線から方向転換した頃からずっと菊水さんにお願いしているので、だいたい安心してお任せしておけますね」
と和泉。
 
「ローズクォーツの場合は、最近までまともな録音スタジオを使ってなかったからね」
「ケイが関わっていた時代は実質ケイがサウンドの管理までやってたから負荷が凄まじかったはず」
 
「あの時代は★★レコード側も南が担当してましたが、南は100以上のアーティストを担当しているので、ローズクォーツまできちんと手が回らなくて申し訳なかったと言ってました」
 
「今氷川さんはローズ+リリーとスリファーズだけだもんね」
「ええ。ローズクォーツは外してもらいましたから。スリファーズも鷲尾ちゃんがサブで付いてくれているから活動日程がダブっても問題無いですし」
 
「KARIONも滝口さんが専任だし」
と美空が言ったが、小風は知らんぷりしている。滝口さんが担任になって初期の頃、小風は滝口さんと深刻な対立をしていたので、きっと今でも嫌いなのだろう。滝口さんもそれを気にして何かにつけて色々小風を立ててくれてはいるようだが。
 
「鷲尾さんはスリファーズの他は今、遠上笑美子ちゃんくらい?」
「です。他にも何人か入ってますが、活動量の小さい人ばかりで。でもスリファーズが今年の後半は休業するので、その間は実質、遠上笑美子ちゃんの専任になりますね」
 
「遠上笑美子ちゃんが売れると、そちらの専任になってスリファーズには更に新しい担当が必要になったりして」
「あり得るあり得る」
「あの子は売れると思う」
 
「でもやはりこのクラスは専任の担当者がいないと無理でしょ」
と櫛紀香さんも言う。
 

「ローズ+リリーさんは、新しいアルバムはいつ頃出すんですか?」
と櫛紀香さんが訊く。
 
「夏頃出すつもり。一応曲の選定は終わってアレンジもだいたい固めたんだけどね。ツアーが終わってから制作に入る」
と私は答える。
 
「去年みたいに何ヶ月も掛けて収録ってのはやはり無理だよねー」
と政子。
 
「うん。今年は忙しい。去年の前半はアルバム制作以外、ほとんど何もしてなかったからね」
 
「楽曲は、ほとんどマリ&ケイ?」
「上島先生から1曲頂いている。あとこないだのパーティーで東堂千一夜先生が僕にも書かせてよと言っていたので、1曲頂くことになりそう。他はマリ&ケイになるかな」
 
「東堂千一夜先生か」
「私たちのデビューCDに入ってた『明るい水』が鍋島康平先生の作品だったからね。東堂千一夜先生は鍋島先生のお弟子さんで、木ノ下大吉先生のお師匠さんでもある。すずくりこさんが昨年歌を歌う気になったのも東堂先生の説得が大きかった」
 
「そうか。スノーベルの曲も書いてたね」
「鍋島先生亡き後の、歌謡曲界の重鎮だよね」
「関沢鶴人先生もいるけどね」
「ああ、関沢鶴人先生、最近結構ポップスを書いてるよね」
「ピューリーズに書いたのが当たって以来ね」
「若い子に歌ってもらえるから楽しいとか、こないだ言ってたよ」
 
「鍋島先生は亡くなってから今年で5年でしょ? また特集番組やるの?」
「命日は16日だけど、特集は18日の日曜日に放送するんだよね。でも私たちは当日ライブでできないから、今年は川崎ゆりこちゃんと桜野みちるちゃんにお願いした」
 
「ああ、川崎ゆりこちゃんはトークが上手い」
「先輩の浦和ミドリちゃんのステージでも川崎ゆりこちゃんが司会してたね」
「あれは浦和ミドリにしゃべらせると、失言するからなんだよ。動物愛護団体から凄まじい抗議が来て、事務所の電話が3〜4日使えなくなったなんて事件もあったしね」
「ああ、例の発言か」
「**さんと**さんの交際をバラしちゃったこともあったし」
「ミドリちゃんの前ではうかつなこと話せないと私思った」
「まあ、昔から知ってる人はみんな気をつけてた」
 

「冬があの事務所からデビューしてたら川崎ゆりこの名前になる予定だったんでしょ?」
と政子が私に言う。
 
「そうそう。私がKARIONに入るのを決めてあちらは断ったから彼女にその名前が行っちゃったんだよ」
 
「あれ、ケイさん、§§プロからのデビューの話もあったんですか?」
とカノンが訊く。
 
「そそ。私の性別のことを承知の上で、可愛いアイドル歌手として売ってあげるからと言われて、かなり気持ちが揺れた」
 
「可愛いアイドルしてる冬って、少し気色悪いかもしれない」
などと政子が言う。
 
「08年組はみんな少し純粋なアイドルとは違ってたもんね。最初から」
「AYAがいちばんアイドルしてたね」
「あそこは大手だけあってイメージ戦略がしっかりしてるから」
 
「そういえば浦和ミドリちゃんも08年組なんだよね」
「ある意味では08年組でアイドルとしては一番売れた子」
「ライブの動員は凄かったからね」
「KARIONのマネージャーの北島花恋も実は08年組のアイドル歌手」
「でも全く売れなかったらしい」
「まあほとんどの子はデビューできても、そんなもの」
「アイドル歌手なんて毎年40-50人はメジャーデビューしてるからなあ」
 

「そういえば、うちはいつアルバム出すんだっけ?」
と小風が和泉に訊く。
 
「去年はローズ+リリーに対抗しようと少し頑張りすぎたけど、今年はローズ+リリーもあそこまで凝ったことはしないみたいだから、こちらも少しのんびりやるかと。でもやはり夏には出したいね。こちらもツアー終わってから制作に入るよ」
と和泉は言う。
 
「ソングライト陣は?」
「広花さん(広田純子・花畑恵三)さん、照海さん(葵照子・醍醐春海)からは既に1曲ずつ提示してもらってる。櫛紀香さんからも既に詩を3篇提示してもらってるから、そのどれかを使うつもり」
 
櫛紀香さんが頷いているが
「実は今日のライブに参加してて思いついた詩があるんですが、今夜推敲するので、それが終わったら見てもらえますか?」
と言う。
「うん、歓迎、歓迎。よろしくー」
 
「福留さんは?」
「どうも今少し調子悪いみたい。場合によっては櫛紀香さんのを2個使うか、広花さんや照海さんにあと1曲くらいお願いするかも」
 
「残りは泉月(森之和泉+水沢歌月)?」
 
「樟南さん、書けるかどうか訊いてみてよ、蘭子」
「了解〜」
 
「Londaさんに打診してみたら、ケイちゃんに訊いてと言われた」
 
「じゃリーフに」
「ああ。またリーフさんか」
「なしくずし的に音楽業界に引き込もう」
 
「スイート・ヴァニラズでは、マリ&ケイ+リーフ、槇原愛では鈴蘭杏梨絵斗だけど、KARIONではまた別の名前を付けてあげよう」
と美空が言う。
「じゃ、大宮万葉(おおみや・まんよう)」
と小風。
 
「どっからそんな名前が?」
「彼女、大宮生まれで、今は高岡に住んでいるということだから。高岡は万葉の里」
 
「でも作詞はマリちゃんだから、諫早も入れよう」
「マリちゃんは長崎県の諫早から福岡・東京だっけ?」
「うん」
 
「だったら岡崎天音(おかざき・あまね)作詞・大宮万葉作曲」
「長崎と福岡で岡崎?」
「天音はどこから?」
 
「マリちゃんは天から降りてくる音を綴るように詩を書くから。和泉はむしろ深い所から湧きだ出してくるイメージを綴るんだよね」
と小風。
 
「それは当たってるかも」
と和泉が言う。
 
「岡崎天音、悪くないかも」
と政子も言う。
 
「じゃ、それで決定」
 
「リーフの意向は?」
「無視。押しつけちゃおう」
 
「自分の知らない所でここまで話が進んでいるとは思いもよらないだろうな」
 

5月13日(火)。私と政子、美空にゴールデンシックスのリノンこと梨乃は、渋谷の不動産屋さんを訪れた。結局、梨乃はこのために有休を取ってくれた。彼女は同じ不動産屋さんの本社社員ではあるが、社員として来ると話がややこしくなるし、中立的な立場になれないのでということで、梨乃の上司の課長さんと渋谷店の支店長の間で話をして、休暇を取ってクライアントの友人としていくのであれば問題ないということになったのである。
 
「悪いね。休み取らせちゃって」
「いえ、大丈夫です。CD売上が今3500枚まで来てるんですよ。マジ5000枚行くかもという感じになったので、メジャーデビューして会社辞めるんなら、有休は消化できるだけ消化しておきたいですし」
 
「今入社2年目だっけ? それだとなかなか有休もとりづらいよね」
「そうなんですよ! 昨年は風邪で休んだ1日だけしか使ってません」
「日本の企業って、有休取るのに渋い顔するからねぇ」
 
不動産屋さんの車で現地に行く。マンションの中に入る前に、周囲をひとまわりぐるっと歩かせてもらった。
 
「環境はいいですね」
「近くに小学校とかもありますから、変なものは建てられない地域なんですよ」
 
「通学時間帯に車を使うときに子供に気をつけないといけないくらいかな」
 
エントランスを通って中に入る。
 
「鍵はKabaですか?」
「そうです。ビルの入口は電子キーです」
「じゃ今住んでいる所と同じか。基本の発行本数は何本ですか?」
「一応3本ですが、必要に応じて作らせます」
 
「何本要るんだっけ?」
と政子が訊く。
 
「礼美からは結婚するからというので返してもらったから今4本使ってるんだよね。私と政子、うちの姉ちゃんと真央。その他に美空たち3人にも1本ずつ渡したいから7本かな」
と私が言うと
 
「事務所には渡さないの?」
と美空が訊く。
 
「ああ。みーちゃんは事務所にも渡した?」
「うん。2日の日は花恋に起こされた」
「引越初日からか!?」
 
美空はこの5月1日に実家を出て中央線の通勤特快・中央特快が停車する某駅の駅から歩いて1分のワンルームマンションに引っ越したのである。実家から出てくるよりは、かなり短時間で都心に出てくることができる。また元々美空は仕事で深夜帰宅になることが多く、生活時間帯が両親や姉妹と違っていて、お風呂・洗濯・食事などで、色々不便なこともあったようであった。トイレの水を流すのも気が咎めると言っていた。
 
引越手伝う?と訊いてみたのだが、寝具や服に愛用のベースくらいだから、お父さんが軽トラで運んでくれるという話だったので、誰も手伝いには行かなかった。
 
「みーちゃん、遅刻魔だからなあ」
「私、この6年間に遅刻の罰金を100万以上払ってるみたい」
「ああ」
 
「こちらは確定している渡す人が7人の他に、予備1本で8本かな」
「冬、彼氏には渡さないの?」
「うーん。。。彼氏って渡すもんだっけ?」
「わりと渡す人が多い」
「その発想は無かったな」
「念のため10本作っておいた方がいいよ。スペア作ろうとすると一週間以上かかったりするし」
と美空が言う。
 
「そうだね」
 

1階のレセプションルームなどを見た上でエレベータホールに立つ。
 
「きれいですね」
「まだ築5年ですから」
 
エレベータで32階まで上がる。
 
「これ停電でエレベータ停まったら歩いて登るの辛いね」
と政子が言ったが、梨乃が
「停電したら自家発電に切り替わりますよね?」
と言う。
 
「はい。最大20秒程度で自家発電に切り替わりますから、エレベータに閉じ込められたりとかもないですよ。ちなみに非常灯などは無停電電源装置を使ってますから停電でも消えません」
と不動産屋さん。
 
「こんな所で閉じ込められたらさすがに嫌だな」
 
「今住んでいる所は何階だったっけ?」
「21階。32階だとさすがにエレベータでも時間がかかるね」
 
 
前頁次頁時間順目次

1  2 
【夏の日の想い出・6年間のツケ】(上)