【夏の日の想い出・公然の秘密】(下)

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「冬はローズ+リリーとKARIONで、それぞれ200万円出したんだ?」
と政子は楽しそうに言う。
 
「そういえば去年の08年組のCDでも、冬って1人で2パート歌ってたよね」
と音羽が言う。
 
「ああ、その件、ファンサイトでも結構書かれていた」
と小風。
 
「色々伏線は出しておいたんだよ。そもそも本格的四声の曲を頻繁に出していた、というか2012年以降の楽曲はほとんど本格的四声にしていたのも伏線。『優視線』はマリといづみのライバル意識を歌った歌、『FUTAMATA大作戦』
は私がふたつのユニットを掛け持ちしていることを歌った歌。それからローズ+リリーの『恋座流星群(koiza ryuseigun)』とKARIONの『白猫のマンボ(shironeko no mambo)』のタイトルには karion, rose の文字が両方隠れている」
 
「そのあたりの話も2chで一瞬見た。大量のログの中に紛れて、私も再度は見つけきれなかったけどね」
と小風。
 

この日の実際のイベントの進行は、最初トップバッターで赤い衣装を着たローズ+リリーが出てきて、パープルキャッツ(XANFUSのバックバンド)をバックに40分間演奏した。
 
『君待つ朝』『花園の君』『雪の恋人たち』『私にもいつか』『花の女王』
『夜宴』といった珠玉の名曲を歌い、最後は『影たちの夜』で締める。
 
その後、黄色い衣装を着たXANFUSが登場して、トラベリングベルズをバックに40分演奏するのだが、この時、ピアノ/キーボードを蘭子、グロッケンを和泉が弾くという「トラベリングベルズ完全版」を初お披露目した。
 
本来は蘭子はピアノとヴァイオリンを弾くのだが、同時に2つは弾けないので、それは勘弁してもらい、ヴァイオリンはスターキッズの鷹野さんに代理で弾いてもらった。
 

そして3番目にはスターキッズをバックに青い衣装を着たKARIONが登場する。ここで私は数年ぶりに観客の前で和泉たちと並び
「こんにちは! KARIONです!」
という挨拶を言った。
 
2007年11月にKARIONを結成した時と同じように、小風・和泉・蘭子・美空の順に並ぶ。
 
2009年以来ずっと、幕の後ろだとかセットの中とか、どこか隠れた場所で演奏し歌っていたので再び和泉たちと並んで挨拶できるのが、感無量だった。
 
観客は「いづみーん」「かぜぼー」「みそっちー」といったコールと一緒に「らんらーん」などというコールもしてくれる。
 
そのコールを聞いたら、感極まって私は涙を流してしまった。すると小風から指摘される。
 
「らんこ、泣くのは男の子に振られた時だけにしなよ」
「女の子に振られて泣いたことはあるけど」
と私が言うと
 
「それは、らんこが女の子のくせに男の子の振りをしていて、性別詐称がバレて振られたのでは?」
と返される。
 
観客が爆笑してくれたので、それで私も元気になった。
 
『アメノウズメ』『コスモデート』『スノーファンタジー』『雪うさぎたち』
『僕の愛の全て』『星の海』と演奏する。
 
幾つかあるピアノの超絶プレイは、ステージ前面に設置してもらったキーボードYAMAHA CP4 STAGE で弾く。その弾いている様子をスタッフがカメラで写し、背景に投影する。それで超絶プレイを本当に私が弾いていることが会場の全観客に分かった。
 
そして最後は『海を渡りて君の元へ』で締める。
 

KARIONが40分間のステージの最後の曲を演奏した後、黄色い衣装のXANFUSの2人、そして赤い衣装のローズ+リリーの2人が入ってくる。それで
 
「えーー!?」
と会場が驚きの声。この時、一瞬、やはり蘭子とケイは別人?と思ってしまった人が大勢いたようである。
 
がよく見ると、マリのそばにいるケイは、誰かがケイのマスクを付けているのだということが分かる(中身は実は夢美)。私の顔から直接型取りして作ったシリコン製のマスクである。
 
伴奏陣は全員入って来て、適当に楽器を持ち、好きなように演奏している感じ!
 
それで8人でまずコラボ曲『8人の天使』を歌う。8つの声が交錯する。ケイのパートは実際に夢美が歌っている。夢美はオルガンの道に進んでしまったが、元々歌もとても上手い。
 
更に同じコラボ曲『Love Race』を歌った上で、KARIONの『歌う花たち』を8人で歌い、ローズ+リリーの『Long Vacation』、XANFUSの『The Ball Lover』、と歌い、最後はコラボ曲『歌姫』で締めた。
 

客席からアンコールが掛かる。
 
それでまた8人で出て行くが、今度はマリの隣に赤い衣装を着て並んでいるのが本物の私で、和泉たちと並んで青い衣装を着ているのはマスクをかぶった夢美である。アンコールの拍手の間に大急ぎで衣装を交換したのである。
 
ファーストアンコール曲はKARIONの『愛の鐘を鳴らそう』。KARIONの4人を中心に、右側にローズ+リリー、左側にXANFUSが並ぶが、全員で歌う。(但し蘭子のパートは私が歌っている)
 
セカンドアンコール曲はXANFUSの『Pray for Love』。XANFUSの2人を中心に、右側にKARION、左側にローズ+リリー。
 
そしてサードアンコール。ローズ+リリーの『神様お願い』。私とマリを中心にして、右側にXANFUS、左側にKARIONが並び、震災復興の思いを胸に歌い上げた。最後は会場全体が合唱になった。
 

そして4月1日、私たちはローズクォーツのボーカル問題について記者会見を開いた。
 
この背景として3月に出たローズクォーツのアルバムで桜の歌をたくさん歌っていて、桜の歌というのは別れの歌・卒業の歌が多いので、このアルバムを聴いたファンの中から
「これはケイちゃんがローズクォーツを卒業する記念のアルバムですか?」
などという声が出たというのがあった。
 
それまで私たちはその問題についてコメントを控えていたのだが、UTPの大宮副社長が「4月1日に記者会見しよう」と言い出し、シナリオも書いてくれたので、私とマリ、タカとサト、花枝, Ozma Dreamの2人、★★レコードの氷川さんと加藤課長・町添部長が出席する。
 
最初に、大宮副社長の企画であちこちの関係者に頼んで収録したコメントのビデオを上映した。
 
だいたいみんな思わせぶりのコメントをする。
 
上島先生。
「元々ローズクォーツの結成は営業サイドの読み違いの産物。このユニットを作ったことでふたりが大学入学後にすぐ再開するはずだったローズ+リリーの活動が1年遅れてしまった。でも、ケイちゃんはここまで何とか両方のユニットをうまく回すように良く頑張ったと思う。これ以上頑張り続けるのは消耗してローズ+リリーとローズクォーツを共倒れさせるだけ。そろそろ決断の必要があったね」
 
雨宮先生。
「まあケイは何でも言われたことをそのままやろうとする癖がある。良く言えば頑張る子、悪く言えば流されやすい子。でもローズ+リリーとローズクォーツの両立は無理。こういう子は周囲が気をつけてあげてオーバーフローしないようにしてあげないといけないんだよ」
 
サウザンズの樟南。
「ケイは凄いパワー持った子。多分10年後には日本のポピュラー音楽界の中心になっいると思う。だから大事に使ってあげなくちゃ。まあ、アルバム作る度に雑用で呼び出してる俺が言うのも何だけどな」
 
サウザンズのアルバムにはここ数年、制作スタッフのクレジットの中にYoko の名前がある。それでこの樟南の発言は、柊洋子とケイが同一人物であることを示唆したものとして注目された。
 
スカイヤーズのYamYam。
「ローズクォーツ始めて何年だっけ?3年? それだけやれば充分ご奉公したんじゃない?もう良いでしょう」
 
スイート・ヴァニラズのElise。
「ケイー、マリー。一度一緒にベッドの上でいいことしようよぉ」
 
酔ってんじゃないか!?授乳によくないぞ。
 
若山鶴音大先生!
「冬ちゃん、ローズクォーツとか売れないバンドやってるくらいなら、うちの会派に入って若山流の民謡教室を開いてよ。冬ちゃんなら、生徒さんいっぱい来てくれるよ」
 
確かに民謡を志す人は増えるかも知れないが町添さんが青くなりそうだ。
 
AYAのゆみ。
「バンド形式では私とフィールドが違うと思ってた。でもケイちゃん実質的に既にローズクォーツから離れているよね。マリちゃんと二人、ボーカルユニットのローズ+リリーなら私のライバル。正々堂々と戦おうよ」
 
XANFUSの光帆。
「ケイちゃんって頼まれたら断れない性格だし、物を捨てない性格だし。結局それでどこか無理が行って破綻する。マリちゃんは切るの得意だからマリちゃんとよく相談して一緒にやっていけばいいと思うな」
 
KARIONのいづみ。
「ケイとは中学3年生の時以来、もう7年の付き合いになるね。でも考えてみると、私と会った時もう既にバリバリこの世界で稼いでいたんだよね〜。だけどさ、ケイ、男の人に囲まれて仕事するのもいいかも知れないけど、女の子同士でワイワイと楽しくやるのもよくない?」
 
普段から時々レスビアンっぽい発言のある和泉なので、変な意味に取る人もあったものの、男の人に囲まれてより女の子同士でというのは、ローズクォーツよりローズ+リリーを優先しなよという意味ではある。ただ、KARIONのことを言っているように聞こえる意味深な発言だった。
 
渡部賢一さん。
「ケイちゃんを初めて見たのは彼女が高1の夏なんだけど、凄く柔軟な歌い方をする歌手だと思った。何にでも合わせられるのが彼女の良い所。でも合わせすぎて無理しがちな面もある。本当はきちんと仕事のコントロールができる人が傍に居るといいのだろうけど、彼女と接しているとついついたくさん仕事を頼みたくなっちゃうよね。でも今回は潮時だよね」
 
みんなのメッセージが、ケイがローズクォーツを辞めることを示唆している。
 
それをたっぷり見せた後で私は笑顔で言った。
 
「お集まり頂きありがとうございます。メッセージをくださった方々にもこの場を借りて御礼を言いたいと思います。それで本日の記者会見の内容ですが、これをわざわざ4月1日という日付で開いたというので、趣旨をご理解頂きたいのですが」
私の発言に爆笑が起きた。
 
「やはりケイさん、卒業しないんですね?」
「私もマリも大学は卒業しましたが、私はローズクォーツからは離れません」
と私は言う。
「ケイは多分あと5年はローズクォーツのボーカルを続けると思います」
と町添さんも発言した。
 
それで私はローズクォーツのボーカルを続けるものの、実際には多忙でライブなどに付き合えないので、これまで半年間、ローズクォーツの代理ボーカルを務めてくれた《覆面の魔女》の後任として、Ozma Dream の2人に1年間、代理ボーカルをお願いしたことを明らかにした。
 
「Ozma Dreamさんは、ケイさんとお知り合いだったんですか?」
 
「2008年の1月に、実は私とジュリア・ミキの3人で、KARIONの全国キャンペーンのコーラスを務めたんです」
と私が言うと、記者の間でざわめきが起きた。
 
私のこれまでの発言では、KARIONの結成前にメンバー候補者であったことだけを述べている。しかしここでデビュー後もやはりKARIONに関わっていたことを明言したのは、やはりケイ=柊洋子を示唆する発言と取られたようである。
 

その後記者会見では、ローズクォーツの次のシングルが『セーラー服とさくらんぼ』
というタイトルになること。そしてゴールデンウィークに全国ツアーをすることを発表した。
 
「全国ツアーのボーカルはどなたが務められるのでしょう?」
「はい、Ozma Dreamのおふたりにお願いしました」
 
これまでローズクォーツのツアーはケイの知名度頼りだったけど、あれだけテレビに出ているのだから、ケイ抜きでも充分客を呼べるはずというのが大宮さんの考えで、私もタカもその方針に賛成した。
 
「ケイさんは出られないのですね?」
「私は同時期にローズ+リリーのツアーもやるので両方は無理です」
 
「同時期にKARIONのツアーもあると思うのですが、そちらには出られますか?」
とダイレクトに訊く記者もいるが
 
「KARIONは別に関係無いと思いますが」
と私はにこやかに答える。
 

ローズクォーツの記者会見の翌日、4月2日。KARIONの22枚目のシングルが発売された。このシングルに関しては事前にタイトルもジャケ写も、また収録されている曲名も公表されないという異例の扱いになった。
 
しかしそのことで噂が噂を呼び、このシングルは予約だけで50万枚入る熱狂となった。
 
当日朝4時以降にテレビスポットが流れタイトルが『四つの鐘』であることが明かになると、やはり!という声が上がる。しかもそのテレビスポットでは、いづみ、みそら、らんこ、こかぜの4人が歌っていたのである。
 
今回、収録された5曲全てのスポット動画が作られており、それがランダムに流れるので、全部を見ようとテレビにかじりつく人もあった。
 
またこの日、これまでyoutubeなどの動画サイトに掲載されていたKARIONの公式PVが一斉に削除された。そして∴∴ミュージックのサイトで「新しいPVを数日中に公開します」というメッセージが掲載された。
 
午後から新曲発表記者会見が行われるた。
 
「休養明けということと、私たち4人とも大学を卒業してふつうの社会人になりましたので、新たなスタートということで、その記念に今回は特別に5曲構成としました。お値段が普段より少し高くなってしまいましたが、曲数が多いということでご理解を頂ければと思います」
と和泉は述べる。
 
「あのぉ、新たなスタートというと、今回蘭子さんが入って4人になられた訳ですが、その件についてコメントを頂けませんか?」
 
「蘭子はKARIONのデビュー以来、ずっと居ましたし、いつも一緒に歌っていましたから、特に変わりはないかと思いますが」
と和泉は笑顔で言い切る。
 
「蘭子さんって、ローズ+リリーのケイさんですよね?」
「蘭子は中学3年の時以来の私の親友ですが、彼女がKARIONの活動以外で何をしているかまでは私は知りません」
 
などといった感じで、この日の記者会見では、記者の質問と和泉の回答が噛み合わないまま進行したのであった。和泉が落ち着いて笑顔で答えているのに対して、かえってそばに付いているだけの滝口さんの方が緊張した面持ちであった。
 

ネットでは今回のCDの曲名について議論がなされていた。
 
「全部4人を象徴している」
というのが結論であった。
 
「『愛の三角錐(Love Tetrahedron)』だけど、本来三角錐の英語は triangular pyramid. Tetrahedronは四面体ということ。確かに三角錐と四面体は同じものだけど、わざわざこういう英語を添付するというのが憎い」
 
「『NEWS』というのは歌詞の内容を見たら確かにニュースなんだけど、NEWSという単語自体が4つの方角(North, East, West, South) を表している」
 
「『ビートルズのように』って、ビートルズは4人じゃん!しかもデビュー前に1人交替している所もKARIONと同じ」
 
「08年組でやってた楽器を考えると、和泉がリードギター、小風がリズムギター、美空がベースで、蘭子がドラムス。ビートルズでデビュー前に交替したのも、ドラムスのリンゴ」
 
「『時空を越える恋』だけど、時空というのはつまり4次元だよ」
 
「『四つの鐘』はそのまんま。元々KARIONは四つの鐘という意味。要するに今回は本当に新しいスタートということなんだろうな」
 

過去のCDのことも結構話題になる。
 
「2008年9月のアルバムに含まれる『Phantom Singer』。幽霊歌手って蘭子のことなのでは?」
 
「2009年4月の『恋愛貴族』は二股してる女の話」
 
「2010年4月のシングル『FUTAMATA大作戦』って、それ蘭子がKARIONとローズ+リリーを掛け持ちしてるってことだろ?」
 
「そのシングルに含まれる『ぼくらのラプソディ』だけど『ボヘミアン・ラプソディ』へのオマージュと、作詞者自身が言ってた。『ボヘミアン・ラプソディ』
を歌ったQUEENも4人」
 
「2010年8月のアルバム『春夏秋』だけど、当時からこの題名は不思議に思っていた。今思えば冬が欠けているんだ。つまり冬子が表に出てきていないという意味」
 
「2011年12月のシングルに含まれる『Earth, Wind, Water and Fire』はEarth Wind and FireのMaurice White (b 1941.12.19) の70歳の誕生日に捧げるという名目だったけど、KARIONの4人の星座の要素を並べたものにもなってる。美空が乙女座で地の星座、蘭子が天秤座で風の星座、小風が蟹座で水の星座、そして和泉が獅子座で火の星座」
 
「2010年8月の段階では1人隠れていたけど2011年12月では4人揃ったということ?」
「性転換手術を終えるまで表立った参加を控えていたとか?」
「むしろマリちゃん問題だと思う。その頃からマリちゃんが復活してきたから、安心してこちらにも露出するようになったんだと思う。マリちゃん2011年の8月に金沢ライブで復活してるから」
「ゴース+ロリーだよな?」
 
「2009年夏の『大宇宙』に含まれるタイトルも同じだよな。『天文クラブ』はクラブが蟹、『十六歳の誓い』は四四十六で獅子に掛けてる。『葡萄を摘む乙女』
はそのまま。『愛のバランス』はバランスって天秤のことじゃん」
 
「そのアルバムには4人の名前も読み込まれている。『マルスに吹く風』は小風、『アフロディーテの洋行』は洋子。『マーキュリーの白き影』は少し考えたけど、マーキュリーは水星で、白水で『泉』だよ」
「美空ちゃんは?」
「『宇宙戦争』。宇宙戦争といえばウエルズ。ウエルで『空』の字になる」
「すげー!」
 

記者会見では、今回のCDに封入した投票券についても触れた。
 
「現在6月か7月の予定なのですが、KARIONのベストアルバムを発売します。それでそこに収録する曲目をファンの皆さんの投票で決めようということで、今回のCDに投票券を入れることにしました」
と和泉が説明する。
 
「投票券の封入はこのCDだけですか?」
「はい。ダウンロードの場合も、★★チャンネル、gSongs storeなどからダウンロードした場合は投票できるIDが表示されます。ダウンロードストアによっては対応していない所もありますので、投票なさる方は対応しているかどうかを事前にご確認の上でお買い求めください」
 

記者会見の最後にひとりの記者が質問した。
 
「蘭子さんはこれまでのKARIONのライブには実際どのくらい参加していたのですか?」
 
「蘭子はこれまでのKARIONの公式ツアーで、最低でも1日以上、どこかの公演に必ず出演しています。実際の出席率は計算していませんが7割程度はあると思います」
と和泉は明言した。
 

新しいPVは週末の4月4日(金)夕方にアップロードされた。2008年1月のデビュー以来の主な楽曲のPVが掲載されたが、全て4人で歌っている映像だった。しかも新たに撮り直したものではなく、それぞれの時期の4人の映像であった。
 
つまり、これらのPVは当時、3人版で公開されたPVと同時に撮影されたものであることが確かだった。そして、旧版のPVをローカル保存していた人が新版と比較してみたところ、歌は全く同じであることが判明する。つまり純粋に映像のみを差し替えたものであった。
 
更に過去の全てのシングル・アルバムのジャケ写やブックレットの写真も刷新されていた。その全てに、こかぜ・いづみ・らんこ・みそらの4人が並んでいる。
 
「デビュー当初から、毎回3人版と4人版の両方のPVを作っていたのか!」
「ジャケ写も毎回3人版と4人版を作っていたんだ!」
 
「でも2014年4月4日に4人の映像を出すというのはダジャレか?」
「オカマの日にオカマの蘭子を露出させたんだよ」
「2014.4.4は、蘭子がKARIONに加入してから2301日目で4つの数字が並ぶ日数なんだって、和泉ちゃんが言ったらしい」(この件はソース不明)
 

さて、世間でローズクォーツからケイが卒業するのかとか、蘭子のこととかで騒いでいた4月1日から4日まで、ローズクォーツの新しいCDの制作を行った。
 
「ローズクォーツの陰のプロデューサー」などと記者会見で自称した政子は「私寝てる〜。冬よろしく〜」などと言って出て来なかったので、私ひとりでスタジオに出て行く。使用するスタジオは『魔法の靴』などを録った渋谷のLスタジオである。
 
「マリちゃん出てきてないの? だったら女装しなくてもいい?」
とタカが言ったものの
 
「いや、それが証拠写真をちゃんと撮ってこいと言われているので」
と私が言うと、渋々全員セーラー服に着替える。
 
ボーカルのOzma Dreamのふたりと覆面の魔女のふたりも当然セーラー服を着てもらったが、こちらはキャッキャッと楽しそうにしていた。
 
大宮副社長まで「僕もセーラー服着てみようかな」などと言ったものの「いえ、着なくても大丈夫です」と全員の声。
 
それでセーラー服を着た、タカ・サト・マキ・ヤスがそれぞれの楽器の所に就き、その前にOzma Dream と覆面の魔女(当然マスクをしている)が並び、その前に私がやはりセーラー服を着て立っている所を、専門のカメラマンに撮影してもらった。これをジャケ写に使う予定である。
 

RQPシリーズはシンプルな音作りをしたが、こちらは多彩な音を使用する。
 
Ozma Dreamのジュリアはギターが弾けるので、リズムギターに入ってもらう。ミキにはパーカッション類をお願いした。覆面の魔女(中の人はシレーナ・ソニカ)の穂花にはグロッケンシュピールを打ってもらい、優香がヴァイオリンを弾く。そして私がウィンドシンセを吹いて、ジャケ写には載らないのでセーラー服を着ていない七星さんがフルート、ひとりだけ男装のままの香月さんがトランペットを吹く。
 
総勢11名による演奏で、スコアは下川工房のフュージョン系のアレンジャーさんにお願いして作ってもらっている。
 
技術的に難しいものは無いので、初日は主として楽曲の解釈に関する確認をしながら練習し、2日目から演奏−収録に入る。2日掛けて楽器演奏の収録をして最後の1日でボーカル部分を収録した。
 
今回の制作指揮は基本的に大宮副社長が行ったが、だいたい私や七星さんに確認しながらやっていたので、実質的な音作りの好みは私や七瀬さんの趣味になっている。
 

4月9日(水)。ローズ+リリーの16枚目のCD『幻の少女/愛のデュエット』が発売された。4月4日からFMで掛けてもらったりしていたので『幻の少女』というタイトルが、かなり憶測を呼んだ。
 
「幻の少女って、それ蘭子=ケイのことじゃないの?」
 
しかし発売日当日からテレビに流され始めたスポットを見て「え?」という反応になる。
 
スポットの動画では、大学生っぽい青年がヴァイオリンケースを抱えて川縁を歩いている。そしてひとりの少女に出会うが、彼女もヴァイオリンケースを持っている。そしてふたりで一緒にヴァイオリンを合奏するのだが、演奏を終わってふと青年が隣を見ると、そこには誰もいなかったのである。
 
「このストーリーって、もしかしてワンティスの『恋をしている』?」
 
わざと1日遅れで発売記者会見をした。
 
「ワンティスの『恋をしている』が生まれたエピソードを聴いて、高岡さんが会った少女は実は幻で、本当は高岡さんご自身の心の中の少女に出会い、歌を生み出す力を蘇らせた、などというストーリーをマリが描いたんです。でも高岡さんが会った人って、実在したようですから、この空想は空振りでしたね」
 
と私は笑顔で説明した。
 
この記者会見を見た、某テレビ局のプロデューサーがそのストーリーでドラマを作りたいと言ってきたが、そういう話は上島先生にしてください、と振っておいた。
 
「むしろ『時間の狭間』の方が、物凄く意味深だという意見もあるようですが」
と記者さんは質問をしてくる。
 
「どういうことでしょうか?」
 
「こちらの物語では、短い時間の狭間を利用して、女の子が2人の彼氏と同時デートしてますね?」
 
「そうですね。コンピュータのマルチタスクのようなものです。ですから時間の狭間というのは、タイムスライスとかハイパースレッディングですね」
 
「ローズ+リリーのケイさんとKARIONの蘭子さんがタイムスライスで動いているとかは?」
「蘭子さんを知りませんので、お答えできません」
 
記者さんたちも、この件に関しては追求しても私も和泉も口を割らないようだという空気になってきつつあった。
 
『時間の狭間』のテレビスポットではひとりの少女が、清楚な服装からセクシーな服装にブロック状に切り替わって変身して、スーツ姿の青年と、ヤンキーっぽい若者の両方と同時デートしている様を描いている。
 
なお『幻の少女』と『時間の狭間』のPVで主演している少女は○○プロから売り出し予定の南藤由梨奈ちゃんという高校新1年生の子で、このPVのお陰で彼女のデビューCDの予約がかなり入ったようであった。(『幻の少女』の青年役はアイドル歌手で俳優の大林亮平、『時間の狭間』では大林が雰囲気をガラリと変えヤンキーな若者を演じている。スーツの青年は高橋和繁というモデルさん)
 

4月9日はKARIONのライブDVD第三弾『KARION 2010 風』とローズ+リリーのライブDVD第二弾『Rose+Lily 2010&2011』が発売された。
 
ここに至ってKARIONのDVDの副題が最初に『鐘』を提示した上でメンバーの名前にちなんだ副題になっていることに多くの人が気付いた。前回の『空』はアルバム『大宇宙』にちなんだものかと思われていた。
 
「次は『泉』?」
「いや、多分リーダーの和泉は最後。次は『蘭』か『洋』か」
 
『KARION 2010 風』に収録されているのはKARION の2010年ゴールデンウィークのツアー、夏のツアー、そして年末の四大都市ライブの映像である。例によってリハーサル版が添付されていて、リハーサルでは、小風・和泉・蘭子・美空が4人並んで歌っており、本番映像ではその蘭子が、あるいはコスプレして、あるいはどこかに隠れて演奏している姿が映っていた。
 
ローズ+リリーの2010,2011年の映像は次の5つのライブと2つのスタジオ演奏が中心であった。
 
・2010.2.27 どこかのホールでふたりが歌っている映像(約1時間)
・2010.5.16 FMの鍋島一周忌特集で、スタジオで生演奏している姿(7曲・約40分)
・2010.6.24 長岡のライブハウスでカナディアン・ボーイズと一緒に、ふたりが古い洋楽を熱唱している姿(10曲・約1時間)
・2011.3.9 スタジオでふたりが歌っている映像(約1時間)
・2011.8.2 KARION金沢公演のゲストコーナーで歌っている映像(3曲)
・2011.8.13 KARION大阪公演のゲストコーナーで歌っている映像(3曲)
・2011.9.3 富山市内のホテルでひらかれた歌謡ショーの映像(約1時間 10曲)
 
2010.5.16は音自体は放送を録音保存しているファンも多かったが映像は初公開となった。2010.6.24は、このライブの存在に一度KARIONのいづみがFM番組で触れたことがあったので、ごく一部のファンは知っていたが、映像も音源も多分存在しないのではと言われていたので出てきたのは驚かれた。
 
実はその時の様子をたまたまお店のスタッフさんが買ったばかりのビデオカメラのテストを兼ねて撮影していたのが、その人が最近引越の際に荷物を整理していた時に出てきたので寄贈してくれたものである。
 
2011.8.2-13は、MCをしていた小風が「ローズ+リリーの、そっくりさんでゴスロリを着た、ゴース+ロリーです」と紹介して歌わせたものだが、当時から観客の間では、もしかして本物では?という噂があったのを公式に本物であったことを認めたものである。
 
2011.9.3は「ゴース+ロリー・ショー」と称してチケットを売って公演したもので、宣伝はポスターのみ、チケットは富山市内のプレイガイドでのみ発売したのに1日で売り切れている。KARION金沢公演のゴース+ロリーを見ていた人たちと口コミで知った人たちが、ひょっとしたら本物かもというので買ってくれたのである。当時富山市内の知人に買ってもらい、東京や九州とかからまで来たファンもいた。サイン会までして「Rose + Lily」のサインに酷似した「Goth + Loli」のサインを300枚ほど書いている(後で希少価値が出たようである)。
 
2010.2と2011.3の演奏はファンの間でも全く知られていなかった。
 
この他下記のような短時間の映像が収められていた。
 
・2010.12.11 ロシアフェアで花村唯香のバックでピアノとヴァイオリンを弾いている姿
・2010.12.24 ★★レコードの内輪のイベントで、XANFUSと二人羽織している姿
・2011年とだけ記されたもので、仙台市内の街頭で、ケイがギターを弾きながらふたりで歌っている映像
・2011.7.20 民謡酒場でケイとマリが『斎太郎節』を歌っている姿。
・2011.12.10 マキの結婚式でふたりが歌っている映像
 

4月13日(日)。私はヴァイオリンケースを持って、**市の市民会館に出かけた。この日行われる、国際***音楽コンクールに出場するためである。
 
昨年11月に、アスカの仕事先確保のため!?ヴァイオリンのコンクールに出場し「上位に入賞してくれ」とアスカからは言われていたのだが、思いがけず優勝してしまった。すると、その主催者さんが、私をこの国際的なコンクールに推薦してくれたのである。
 
私は一応ポプュラーミュージックのミュージシャンとして名前が通っている。そういう私がクラシックのコンクールに出場すると「からかいで出場しているのでは」とか「話題作りでしょ」と言われる可能性がある。
 
それで推薦された以上、辞退したら「やはり本気じゃ無かったんだ」と言われてしまうので、ここは出ざるを得ないところであった。
 
先日は結構普段着に近い服装に申し訳程度のメイクで出かけたのだが、さすがに今日は黒のビロードのドレスを着ていった。メイクも一応しっかりしている。
 
このコンクールは3日間掛けて行われており、1日目は声楽部門、2日目はピアノ部門が既に行われていた。今日は最終日弦楽器部門である。弦楽器といっても、ほとんどの参加者がヴァイオリンだ。
 
今日の参加者は20名。いづれもどこかのコンクールで優勝した人や、これまでの実績から特に推薦された人たち。多くが音楽大学や音楽系高校の学生さんでホントに私は場違いな気がして、さすがに居心地が悪かった。私の素性に気付いた人もあり、何だか冷たい視線が刺さるが、こういう視線は嫌いではない。むしろ気が引き締まる。
 

今日の予選では弦楽四重奏をバックに課題として指定された幾つかの協奏曲の中のどれかを演奏することになっている。
 
最初にステージに上がった人は私も名前を知っている。昨年ローズ+リリーの公演に協力してもらった凜藤更紗さんが、ライバルだと言っていた同級生で竹野さんという。実際に演奏している所を生で見たのは初めてだったが、ほんとに凄い演奏だと思った。使っている楽器もG.B.ガダニーニだ。さすがに良い音を出している。いきなりこういう演奏を聴かされると、少なくとも自分が優勝することは無いなと思い、気楽になれる。
 
その後数人演奏した後で、私の番である。私は課題曲の中からモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第二番(K211)を選択していた。これもアスカと一緒に結構弾いた曲である。練習ではピアノ伴奏で弾いていたので弦楽四重奏をバックに弾くというのはちょっと勝手が違う。でも今日私は参加するために来ているので、上位を狙う必要もないし楽に弾こうと思っていた。
 
私がヴァイオリンを持ってステージに登ると、一瞬ざわめきが起きた。
 
今日はアスカから「リース」してもらっている購入価格6000万円の古楽器《Angela》を持って来ている。この楽器、雰囲気や楽器が持つオーラが有名なグァルネリ・デル・ジェスに似ているので、とんでもない楽器を持ってきたかと思われた気もした。(但しアスカは、どうかしたグァルネリ・デル・ジェスより良く鳴ると言っていた)
 
今日の伴奏をしてくれる弦楽四重奏の人たちは、私の素性は知らない雰囲気でどちらかというと好奇心の入った視線。なんか凄い楽器を持ってきているみたいだけど、お手並み拝見という雰囲気だ。
 
伴奏者とアイコンタクトで、タン・タッカ・タタ♪というリズムで同時に弾き始める。
 
伴奏者との緊張があったのは最初の1分くらいであった。その後はむしろお互いに視線をやらなくても、空気でタイミングがきれいに合う(こういう「合わせる」
のは私は割と得意)。まずは10分ほどの第一楽章をしっかりと演奏した。
 
その後、すぐに第二楽章に入る。これは7分40秒ほどある。調子良く弾いていたが、途中唐突にちょっとタイミングを変えられた。でも即応して何事も無かったかのように弾き続ける。おそらく伴奏者たちの悪戯であろう。ポップス系のセッションでもたまにあることなので全然気にしない。
 
そして最後は第三楽章。約4分30秒ほど。この楽章は私と第一ヴァイオリンの人が先行して弾きだし、他の人が少し遅れて演奏し始める。細かい音符が多くてたいへんだが、わりとメロディアスで楽しくなる曲だ。モーツァルトらしいよなと思いながら私は演奏した。
 
全曲弾き終わり、会場から大きな拍手をもらう。最初ステージに上がった時とは空気が違うのを感じた。私は会場の人たちと伴奏者にお辞儀をして下がった。
 

1人20〜25分くらいの時間が掛かるので20人の演奏に7時間半ほど掛かる。朝9時から始まって最後の人の演奏が終わったのは夕方4時半であった。途中会場を抜けて食事をしてくる人もあるが、私は1度だけトイレで中座した他は食事も取らずにずっと出場者の演奏を聴いていた。みんな本当に上手いので、今日のこの演奏を聴いただけで自分の心の中のヴァイオリン演奏力が進化した気さえした。
 
この大会では上位6名が本当にオーケストラをバックに演奏する2ヶ月後の決勝に出場することになる。審査結果が発表される。
 
1位は先頭で弾いた、更紗のライバル、竹野さんだった。でも「当然」という感じの顔をしている。やはりトップになる人はこうだよなと私は思った。
 
2位になった人、3位になった人も聴いていてうまいなと思った人だったが、やはり竹野さんの演奏からは1ランク落ちる気がした。おそらく竹野さんはダントツの1位だったであろう。
 
4位、5位と発表が進む。このあたりはやや微妙かなという気もした。ズバ抜けて上手かった訳ではないが、充分上手いレベル。そして静かな気持ちで最後の入賞者の名前が呼ばれるのを待つ。
 
「6位、唐本冬子さん」
というコールがある。
 
私は微笑んでヴァイオリンケースを持ちステージに上がる。そして表彰状を受け取り、主催者代表さんと握手をした。
 
1位の竹野さんから6位の私までステージ上に並び、客席にお辞儀する。暖かい拍手が送られる。
 
しかし・・・・2ヶ月後の決勝って! スケジュール再調整しなきゃ!!
 

帰ろうとしていたら、初老の男性に呼び止められた。この人はアスカの♪♪大学での指導教官だった人である。
 
「君、蘭若アスカちゃんのお弟子さんだったよね」
「はい、中学の時からご指導を受けていました」
「面倒臭がり屋のアスカちゃんが指導してあげようと思っただけのことあると思った。でもその《デルジェスもどき》の楽器、良く鳴っていたね。本物のデルジェスじゃないかと思いたくなる」
 
「過去に本物として取引されたこともあるらしいです。でもまだ全然この楽器の能力を引き出せてません。この子はアスカさんが弾くと、私が弾くのの20-30倍の力を発揮しますから」
 
「そりゃ、君がアスカちゃんくらいに鳴らすことができたら、歌手なんか辞めさせて君を強引にクラシック界に引き込みたいよ」
 
まあ頑張ってね、という感じで軽く激励されて別れた。
 

ヴァイオリン・コンクールの翌週。4月20日(日)。
 
私は都内のホールで「若山冬鶴・名取り披露目演奏会」なるものを開いた。
 
私の従姉兄たちの中で民謡をやっている子はみんな既に若山流の名取りになっている。「大先生」若山鶴乃の孫世代の中では、私が最後に名取りになった。
 
他の従姉兄たちは、現在の「若山流鶴派」の代表である若山鶴音の長女で後継者第一候補である若山鶴朋(埼玉在住の友見:槇原愛の母)の時を除いては、みな数十人の招待客で、あるいは合同でお披露目をしている。
 
しかし、私については「あんた有名人なんだから、こじんまりとしたお披露目は許されない」と言われ、友見の時より凄いんじゃないかという演奏会になった。
 
母の姉たち(鶴音・鶴風・鶴声・鶴里)が、各地で民謡教室を開いている。そこの主なお弟子さん・生徒さんを招待する。また当然従姉兄たちやその家族も招待する。また、私が実際に小学5年の時から民謡の基礎的なことを教えてくれていた津田アキさんとその教室の主な生徒さん、それから新潟の民謡教室で私に佐渡おけさを指導してくれた先生、岐阜で民謡教室を開いている先輩。
 
更には私の個人的な友人たち、私が楽曲提供している歌手やユニットの人たち、その他交友のあるミュージシャンたち、08年組のメンツ、私が過去に関わってきた芸能事務所の幹部さん、などなど。
 
ということで、定員600人のホールがほぼ満杯になったのであった。
 
私はこの人たちの招待費用(特に遠隔地から来てくれる人の交通費と宿泊費)だけで、2000万円以上払うことになった!
 

演奏会は司会を政子が買って出てくれて、豪華な振袖を着て楽しそうに司会進行をしてくれた。ただ脱線が酷い。
 
私は最初、伴奏無しで「鶴派流めでた」を唄った。(「めでためでたの若松様よ」
で始まる全国的な祝い歌だが、鶴派の本拠地高山の高山めでたより、富山の福光めでたに近い旋律とテンポ)
 
それから挨拶をして次の曲に行くという時、政子は
「それでは次は『女の子になりたい』です」
 
などと言い出す。
 
「ちがーう!」
「ああ、そうだよね。冬、もう女の子になっちゃったし。じゃ『おっぱい節』」
「もしかして『ホーハイ節』?」
「そうも言うかも知れん」
 
「予定には無かったけど、いいよ。唄うよ」
 
ということで、全然予定と違う形で演奏会は進行する。
 
伴奏をしてくれるのは、三味線:鶴朋・鶴星・鶴宮、太鼓:若山鶴里、尺八:若山鶴声・鶴歌、胡弓:若山鶴風、お囃子:若山鶴純・鶴鳴・鶴芳、ということで、伯母や従姉たちであるが、リーダー格で胡弓を弾いている鶴風こと風帆伯母が、笑いながらみんなに指示を出していた。客席からも終始笑い声が出ていたが、おかげで楽しい演奏会になったようであった。
 
『キュピパラ・ペポリカ節』も唄ったし(マリのパートを、鶴鳴=明奈が唄ってくれた)、『ピンザンティン踊り』(お玉が出てきた:計画的!)、『イエローサブマリン音頭』に『マテリアルガール音頭』まで唄わされた。
 
実際今日の出席者の半分は民謡にあまり馴染みの無い人たちなので、政子の脱線司会は怪我の功名であった気もする。
 
演奏会の最後は『越中おわら節』を、私と鶴鳴(明奈)・鶴芳(佳楽)の3人で唄と囃子を回しながら、様々な歌詞で10分くらい唄い続けた。
 
「浮いたか瓢箪、軽そに流れる。行く先ゃ知らねど、幸せをみんなに届けるため」
 
と瓢箪の歌の最後の言葉だけ改変して終了した。
 

演奏会の後はホテルの大部屋を借りてお食事を兼ねたパーティーをした。こちらにも演奏会に来た人たちの大半が来てくれた。この費用も1200万円ほど掛かった。ほんとに恐ろしい。
 
若山流の本家家元さんも来ていたので、私の両親、若山鶴音・鶴風・鶴声・鶴里・鶴朋に、若山千萬雀(槇原愛)も加えて、挨拶をした。特に重要な人にはこのメンツで挨拶した後、後は各々であちこち挨拶してまわったが、ひたすら挨拶して回るだけでパーティーの時間3時間を使い切った(ひたすら歩いて疲れた!)。
 
「これ幾ら食べてもいいんだよね?」
などと途中で遭遇した美空は言っていた。
 
「その振袖を途中で脱ぐハメにならない程度にね」
と私は言っておいたが、
 
「大丈夫。帯はゆるめにしてもらったから。マリちゃん、一緒にこのパーティーを制覇しよう」
などと言っていたが、政子は
 
「待って。もうひとり強力な味方がいるから」
と言って、私の携帯を借りてシレーナ・ソニカの穂花を会場内から呼び出す。
 
「美空ちゃん、この人も強力だから」
と政子が紹介すると美空は
「それではお手並み拝見」
 
などと言って、美空・政子・穂花の3人でタグを組んで楽しそうに食べ回っていた。
 
「あの人(穂花)も凄いの?」
と小風が訊く。
 
「かなり凄い。みーちゃんといい勝負だと思う」
と私は答える。
 
「するとあの3人が通った後には鶏の骨さえも残らないな」
などと小風は言っていた。
 

「こんな大規模なパーティーやるのは、次はケイちゃんの結婚式くらいかな」
などと忙しいはずなのに出てきてくださっている上島先生が言う。
 
「そんなもの挙げられるといいですけど」
と私は返事をしておく。
 
「彼氏は居たよね、たしか?」
「ええ。今日も来ていますが、さっき見たら東堂千一夜先生に捕まってました」
「東堂先生来てた? 見つからないようにしなくちゃ。あの人、話が長いから」
などとおっしゃる。
 
上島先生の話も長いが、東堂先生も長話の伝説が多い。
 
「でも結婚するのはたぶん10年以上先です。別れなかったらというか、捨てられなかったらですが」
「ケイちゃんを捨てる男性なんて居ないよ」
 

4月23日(水)。連休前の水曜日ということで、この日は新譜の発売が集中した。
 
ローズ+リリーのPVに出演して話題になった○○プロの南藤由梨奈のデビューCDが発売される。楽曲は何と、1曲を上島雷太、1曲をヨーコージ(蔵田孝治)が提供していた。
 
ライバル同士のこの2人が同じCDに名前を並べること自体が異例だが先日ワンティスの新譜のボーカルに蔵田さんが加わったこともあり、取り敢えず1年間限定で、この形で楽曲提供することになったらしい。
 
同じ○○プロの中堅歌手、といえば聞こえが良いが、ややピークを過ぎているかと思われていた歌手、貝瀬日南も新曲を発売した。こちらは、これまで篠田その歌にのみ楽曲を提供していた作曲家、秋穂夢久(あいお・むく)が楽曲を提供していた。
 
篠田その歌が引退したことでその動向が注目されていた秋穂夢久だが、貝瀬が○○プロ上層部に、あの人の歌を歌いたいと直訴し、打診してみたら承諾が得られたということで、こちらも取り敢えず1年間限定で提供してもらえることになったらしい。
 
貝瀬の新譜のカップリング曲は昨年のアルバムに楽曲を提供してくれて大きな単独ダウンロード数を挙げたスターキッズの近藤七星さんの楽曲で、両A面扱いになっていた。
 
大学受験のために半年間休養していた槇原愛も新曲を出した。こちらは槇原の曲をずっと提供してきている鈴蘭杏梨が特別に3曲提供していて、休養前のシングルでも一緒に演奏していた、シレーナ・ソニカの2人と、やはり一緒に演奏している。このCDのクレジットも、槇原愛 with Sirena Sonica になっていた。
 
そして、ローズクォーツの11枚目のシングル『セーラー服とさくらんぼ』も発売になった。例によって、マリ&ケイの曲と上島雷太の曲がカップリングされている。
 
「今日発売になったこの4枚のシングル、ソングライト陣が豪華ですね」
などと新譜を紹介したFMのナビゲーターさんが言っていた。
 

「要するに全部ケイちゃんだね」
と町添さんは笑いながら言った。
 
そのことを知っているのは、私以外には町添さんだけだ。
 
ヨーコージというのは蔵田さんと私の共同ペンネームである。もっとも作曲の主体は蔵田さんにあり、私は蔵田さんの創作を、きれいな形にまとめる作業をしているだけである。このことを知っているのは、松原珠妃・谷崎潤子らの一部のζζプロの歌手と、ドリームボーイズ関係者、それに加藤課長、△△社の甲斐涼香さんなどほんとに一部の関係者に限られる。これはまだ政子にもバレてないはず。
 
鈴蘭杏梨が私と政子の共同ペンネームであることは、ローズ+リリーの熱心なファンの間では「公然の秘密」とみなされている。
 
秋穂夢久もまた私と政子の共同ペンネームであることは、丸花さんと町添さん以外には知る人がいなかった。ただ篠田その歌が、引退前にどうしても挨拶したいと言ったので、彼女にだけは政子と2人で会って「秋穂夢久」としての御祝儀も渡してきた。その歌は全然気付かなかった!と言って、物凄く驚いていた。
 
他にワンティスの『フィドルの妖精』の作曲者FKの正体を知っているのも、上島先生・雨宮先生・蔵田さん・加藤課長・町添部長とほかには松原珠妃くらいである。
 
「上島先生も篠田その歌の引退で、少し仕事量を減らすことができるのかと思ったら、新たに南藤由梨奈ちゃんへの楽曲提供ということで、また仕事を増やしてしまいましたね」
と私が言ったら
 
「そのことば、そのままケイちゃんにもあげるね」
と言って町添さんは笑っていた。
 
「だけど高校時代、ケイちゃんさ」
と町添さんは言う。
「はい?」
 
「性別曖昧な自分がKARIONのメンバーだと分かると、KARIONの清純なイメージに傷が付くから明らかに出来ないなんて言ってたけど、KARIONもこの年齢になれば今更清純とか関係無い。むしろ本気で実力勝負の世界になる。そういうタイミングで水沢歌月の秘密を明かしたのは、意図を感じるよ」
 
「私もさすがにそこまでは考えていませんよ」
と言って私は笑っておいた。
 
「だけどELFILIESの解散、パラコンズの活動休止、SPSの自立で、ケイちゃんの負荷はだいぶ減ったよね」
 
私は微笑む。
「それが無かったら貝瀬日南の件は引き受けてませんでした」
「そうだよね!」
 

そしてこの日発売されたローズクォーツのシングルを見て、「タカコちゃん」
のファンはジャケットのセーラー服写真に騒いでいたが、一方、ローズ+リリーのファンたちは中身を見て納得の声を上げた。
 
今回のCDに含まれる曲はいつものように5曲だが、価格が従来の800円(単独DL 200円)ではなく1200円(単独DL 300円)に改訂されている。従来が有名アーティストの作品にしては安すぎる価格設定だと言われていたが、大宮副社長が「適正な価格にすべき」と言って、この値段に改定された。
 
曲目は
『セーラー服とさくらんぼ』(マリ&ケイ)Vo.ケイ(overdub)
『女学生の嗜み』(上島雷太)Vo.Ozma Dream
『Back Flight -逆飛行-』(マリ&ケイ)Vo.覆面の魔女
『敦煌への道』(A-Girl作詞作曲)Vo.Ozma Dream
『Diamond Storm』(Two Voice作詞作曲)Vo.Ozma Dream
 
となっている。全てツインボーカルでアレンジしているが、ケイがボーカルを務める曲は5曲の中の1曲にすぎず、大半を「代理ボーカル」のOzma Dream が歌っている。
 
これを見て世間の多くの人は「ああ、やはりケイちゃん参加しているんだ」と思ったようであるが、ローズ+リリーのファンたちは、やはりケイは事実上ローズクォーツを去ったのだと考えたようであった。
 
発売の記者会見にも私は出席していない。出て説明したのはタカである。記者たちからもその点について質問されたが、タカは
 
「ケイの時間が取れないことから、ライブ活動だけでなく音源制作もなかなかできない状況になっていましたので、今年はこのメンツでアルバムの制作なども頑張っていきたいと思っています」
とだけ回答し、記者の質問にはストレートには答えなかった。
 
また5曲の中に2曲、見慣れない名前の作家作品があることについては限定的なコンペを実施したことを明らかにした。
 

「A-GirlとかTwo Voiceとかいうのが、実は冬たちだってことは無いよね?」
と私は和泉から訊かれた。
 
「それは無い。負荷的に通常のシングルに4曲も出すのは辛いので、シングル自体を今後は3曲入りにできないかと打診したんだよね。タカもその意見に賛成だった。でも須藤さんが3曲では寂しいと強く主張してね。それで大宮副社長がコンペで2曲補うというのを決めた。そして価格は1200円にすることにした」
 
「1200円でも安いと思うな。5曲入っているのなら1500円でいいと思う」
「要するに安い方がたくさん売れるという、安い物好きな須藤さんの考え方が背景にあったんだよね」
 
「マキさんが作曲できればいいのにね」
と美空は言う。
 
「そうなんだよ。候補作を提出させたけど、全く駄目だったらしい。花枝さんの話だけど」
 
「昨年、クリエイティブ休暇とか取ってなかった?」
「書いた作品を花枝さんが見ていたけど少なくともローズクォーツのシングルに入れるクォリティではないと言っていた」
「なるほどねー」
 
「まあバンドの演奏能力が高くて、リーダーの作曲能力が高くて、なんてバンドがそんなにゴロゴロあったら大変ではある」
と小風は言った。
 

「でもさ、ローズクォーツって実は中心人物はタカさんなんじゃないの?」
と小風。
「それは公然の秘密って奴」
「なるほどー」
 
「ワンティスの中心がリーダーの高岡さんよりはむしろ上島さんだったとか、ドリームボーイズの中心がリーダーの蔵田さんではなく実は大守さんだとか、スイート・ヴァニラズの中心がリーダーのEliseさんではなくLondaさんだとかいうのも公然の秘密だよね」
と美空。
 
「ローズ+リリーも中心はリーダーのマリちゃんではなく、ケイちゃんだしね」
と和泉。
「KARIONの中心も実はこーちゃんだよね」
と私は言ってみる。
 
「えーー!?」
と小風は叫ぶが
 
「それも公然の秘密だね」
と和泉は言った。
 

「やっぱり冬は嘘つきだよなあ」
と政子はベッドの中で私を愛撫しながら言った。
 
「ん?」
「4月1日の記者会見では、さんざんみんなが冬にローズクォーツ辞めなさいと言っているビデオを見せた上で、ローズクォーツは辞めませんと言った」
 
「うん」
「ところが実際には辞めたも同然だから」
「ふふ」
 
「つまりあの時はエイプリルフールだから、ローズクォーツを辞めるというのが嘘だとみんな思った。みんな去年のエイプリルフールに、ももクロの れにちゃんが卒業しますっていう嘘ビデオを流したのを連想したよね。ところが冬はエイプリルフールに、ローズクォーツを辞めませんという嘘をついたんだ」
 
「ふふふ。大宮さんに言われた時、最初私も意味が分からなかったよ」
「でも大宮さんから言われてなかったら、無理してローズクォーツ続けるつもりだったでしょ?」
「そうだね」
「大宮さんって、ちょっと面白いよね。私もあの人とは8年くらいの付き合いかなあ。人を動かすのがうまいのよね」
 
私は同意した。
 
「でもマーサ、マーサも4月1日の記者会見では私はローズクォーツの陰のプロデューサーですとか言ってたのに音源制作に出て来なかったね。あれも嘘?」
 
「嘘じゃないよ。陰はあくまで陰。表に出ないのさ」
「ふーん・・・・」
 
「でも蘭子は6年掛けてやっと表に出られたね」
「そうだね。t.A.T.u.のカーチャよりマシ。彼女は表に出る前に辞めた」
「誰それ?」
「t.A.T.u.は実は3人だったんだよ」
「えー?知らなかった」
「私もカーチャみたいに消えようかと思ってた時期もあるけど小風が許さないと言うから」
「小風ちゃんあってのKARIONだよね。あの子が4人の団結のコアだと思う」
「ふふふ」
 
「でも冬ってカムアウトが苦手なんだ」
「そうかも」
 
「美空から聞いたけど、冬って自分の性別のこと、お父さんに言おうと決めてから実際に言い出すまでに1年掛かったんだね」
「うん」
 
「ほんとに意気地が無いね」
「うん。私、意気地が無い」
 
「もうひとつついでにカムアウトしなよ」
「何を?」
「冬は生まれた時から女の子だったって」
「それはないけど」
「でなかったら生まれてすぐお医者さんに、おちんちん切ってもらったんだ」
「まさか」
 
「こんな写真があっても?」
と言って政子が自分のiPhoneの中から呼び出した写真を見て私は微笑んだ。それは、5歳頃の私の写真だった。私は裸で映っていた。そして・・・
 
でも私がその写真について何か言おうとした時、iPhoneの電源が落ちた。
 
「え!?」
 
「しゃぶしゃぶ賭けてもいい。そのiPhone多分壊れた」
「うっそー!まだ4ヶ月しか使ってないのに。次はAQUOSにしようかな」
「同じことだって気がするけど」
 
 
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【夏の日の想い出・公然の秘密】(下)