【夏の日の想い出・高2の春】(1)

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高校1年の3月。卒業式が終わりボクたちは書道部の卒業生4人を見送った。部長は秋に2年の静香先輩が継承していたし、秋以降は本当にたまにしか3年生たちは顔を出していなかったが、特に谷繁部長にはこの1年けっこう字の書き方の指導を受けて、ボクもかなり上達して、日本教育書道連盟の三段に合格することができたので、部からの記念品として渡したマグカップの中に、個人的に手作りのクッキーを入れて渡した。
 
「あれ?谷繁のにはクッキーが入っているのに俺には無い」と花見さん。「それは中田さんに焼いてもらってください」とボクは笑って言う。
「谷繁先輩は村沢先輩からももらっているはず」
「うんまあ。昨日もらった。ガトーショコラだけど」
 
「俺、政子にクッキーとか焼いてもらった記憶が無い」
「私お菓子作り苦手だもん」と政子は素っ気なく言う。
 
卒業式が終わった後で何となく部室に行っていたら、政子も部室に入ってきた。ボクたちは他の部員たちが来るまで少し遊んでようと言って、化学教室の引出しになぜか置かれている囲碁セットを持ってきて、打ち始めた。ボクは囲碁は二眼(2つ眼を作った石の集団は殺されることは無いという原理)が分かる程度だが政子はお父さんから習ったということで、結構囲碁は強い。ボクたちはいつもボクが5つ石を置いてから打っていた。
 
「・・・中田さん、何か悩み事?」
「あ、うん」
今日の政子はどうも上の空という感じで、イージーなミスを繰り返していた。
「花見さんとのこと?」
ボクは花見さんと政子が最近どうも微妙な関係を続けているっぽいことをいつも心配していた。
「それは割とどうでもいいんだけどね」
「どうでもいいの!?」
 
「あのね、冬」
政子がボクを校内で名前で呼ぶのは珍しい。ボクたちは当時はどちらかの家を訪問した時や、町などに一緒に買い物に行ったような時は「政子」「冬」と呼び合うものの、他に人がいる時や校内では(この頃までは)たいてい「中田さん」
「唐本くん」と苗字で呼び合っていた。
 
「どうしたの、政子」
政子がボクを名前で呼んだということは、何か大事な話なんだと思った。
 
「お父ちゃんが4月から転勤になるのよ」
「え?」
 
ボクは手に持っていた石の動きを停めた。政子を見つめる。ボクたちはしばらく見つめ合っていたが、政子はやがて笑顔になり「冬の番だよ」と言う。ボクは政子の石の攻めに対して逃げる手を打とうとしていたのだが、思い直して受けて立つ1手を打った。
 
「お、積極的。で、私も付いて来いと言われてるんだけど」
「転校しちゃうの?」
「でも行き先がタイなのよ」
「タイ?外国?」
「うん。バンコク」
「それはまた・・・遠いね」
 
この頃、政子はこの高校で作った友人の中でもいちぱん心を割って話せる相手だったので、彼女が外国に転校してしまうというのは正直ショックだった。
 
「私がタイに行っちゃったら寂しい?」
「寂しい。辛い」
「私を停めたい?」
「でも停められるの?」
「言い訳は何か思いつきそうなのよね。私にキスしてくれない?そしたら私、頑張って日本に留まる」
「キスは花見さんにしてもらってよ」
とボクは笑って言う。
 
「啓介とはいつもたくさんキスしてるもん。私、冬とは女の子の親友同士みたいな感覚なのよね」
「性別は置いといて、ボクも大事な親友のつもりだけど」
「女の子同士なら別にキスくらいしてもいいよね。親愛のキス」
「ボクが政子にキスすることで、政子が勇気を出せるなら、キスするよ」
「じゃ、唇にして」
「唇はさすがに花見さんに悪いよ」
「じゃ頬でもいいよ」
 
ボクは政子の両肩に手を置いた。キスなんてするのは初めてだ。中3の秋に好きだった女の子にキスしようとしていた時直前で振られてしまった時のことを少し思い出す。あの時、キスってどうやるんだっけ?と思って、結構研究したっけ。政子が目を瞑った。ボクはそっと唇を寄せて、彼女の左頬に接触させた。政子もボクの左頬に唇を付けて吸っている。あれ?どのくらいの時間すればいいんだっけ?10秒くらい?30秒くらい?よく分からない。こういう時ってどのくらいするものなんだろう?
 
そんなことを考えていた時に化学実験室のドアがガラっと開いた。
「ああ、疲れた」と言って入ってきたのは琴絵だった。
ボクたちはさっと離れた。
 
「あ、えっと・・・・お邪魔だったかな」
「うん。問題無いよ。琴絵もいっしょにおしゃべりしようよ」
と政子はふだんの顔に戻っている。
 
「いいのかな・・・」などと言いながらも寄ってきて、ボクたちは卒業していった先輩たちの話などを始めた。その日は結局化学実験室に来たのはボクたち3人だけだった。囲碁の方はボクのやや無謀な攻めが咎められて劣勢になったものの、終盤で政子が信じがたい大チョンボをして、ボクが久々に勝った。そんなボクの顔を琴絵がなぜかしげしげと眺めていたので「どうしたの?」と訊くと琴絵は「別に」と言って微笑んでいた。
 
その晩、家に帰って晩御飯の準備をしていた時、姉が小声で言った。
「冬彦、付き合ってる女の子とかいたの?」
「え?そんな子いないよ」
「あ、付き合ってる男の子だっけ?」
「ボク男の子と付き合ったりしないよー」
「だって頬にキスマーク付いてるよ」
「え!?」
「鏡見てごらんよ」
ボクは自分の鞄から手鏡を出した。
 
「わあ・・・・・」
琴絵がボクの顔を眺めていたのはこれか!
 
「2〜3日消えないかもね」
「お姉ちゃん、明日の朝消えてなかったらファンデ貸して」
「いいよ。かなり熱烈にやられたね」
「あいつ・・・絶対ワザとだ。今日はお風呂にゆっくり入らなくちゃ」
「あはは」
 

政子がお父さんの転勤の話をした週の土曜日。ボクは絵里花の家に行き、久しぶりの人前での女装を楽しんでいた。その日は貞子も来ていて3人でのガールズトークが盛り上がった。
 
「でも冬はもうてっきり女子高生してるかと思ってたのに」と貞子。
「猫かぶってるから」とボク。
「だけど女子高生風の服は持ってるんだよね。まるでどこかの制服に見える奴」
と絵里花。
「あれで出歩いた?」
「まだやってないんだよねー。自分の部屋では着てるけど。というか、そもそもボク、女の子の格好で外を出歩いたことが、実際問題として、ほとんど無い」
 
「いまだにクローゼットやってるというのは、信じがたいなあ」
「強制性転換でもしなきゃダメかもね。これ」
「あはは」
 
「春休みか、時間取れなかったらゴールデンウィークにでも、一緒にどこかに行かない?冬はフル女装で」
「そうだね・・・・・」
 
「ところで、うち引っ越すことになりそう」と絵里花。
「えー!?どこに?」
「うちのケーキ屋さんのある場所が区画整理に引っかかっちゃって」
「わあ・・・」
 
「それでちょうど◆◆駅前の商店街に空きができたのを買わないかって話が父の古い友人から来ていて」
「今の場所よりはかなり人通りが多いよね」
 
「そうなのよね。でもその分競争も厳しい。それに食べ物屋さんの移転って、なかなかうまく行かないから。とはいっても、今の場所にいられないなら、その話に乗るかと。一応◆◆商店街にある既存の洋菓子屋さん2軒には挨拶してどちらの店からも『もし来られるのならお互い切磋琢磨して頑張りましょう』
とは言ってもらったらしいけどね」
 
「よかったね」
「で、そこが店舗兼住宅なのよね。だから、この家も売ってそこの購入資金にして、住まいもそこに引っ越そうかと」
「そうか」
 
「あっち行っちゃうと、気軽に冬ちゃんが着替えに来れないかも知れないけど」
「うん。それは何か考えるよ」
 
ボクは、ああなんかみんなどこかに行ってしまう、と少しせつない気持ちになってしまった。政子はどうなったろうか?
 

卒業式の日の一週間後、政子が昼休みにボクを図書館の裏手の芝生に呼び出した。
「私、日本に残ることになったよ」
「おお、頑張ったんだ!」
ボクは喜びのあまり思わず政子をハグしてしまった。
 
「あ、ごめん」と言って離すが
「仲良しだもん。ハグ問題無い」と言って向こうからあらためてハグされた。ふたりで芝生に座って話した。
 
「私、△△△大学に行くって言ったの」
「今の政子の成績からはけっこうきついね。かなり頑張らなきゃ」
「うん。だから、たくさん勉強したいから日本に留まるって主張したんだ」
「わあ」
 
「冬は志望校どこだったっけ?」
「名大の経済学部って出してたんだけどね、ちょっと訳あって**大学に変更予定」
 
ボクが1年生の間、志望校を名古屋大学にしていたのは、母の実家が岐阜なのでそこと近いというので親を説得しやすかったこと、大学に入ったら一人暮らしをしてたっぷり女装したいと思っていたので、東京から離れた方がいいかと思っていたこともあった。しかし政子と仲良くなっていったことから、ボクは東京の近くの大学にして、大学に入ってからも政子と時々でも会えるようにしたい気持ちが出て来ていた。それだけに政子が海外に行ってしまうという話はショックだったのだが。
 
「**?どうせなら、私と一緒の所にしない?レベル大差無いよね」
「ごめん。うちお金が無いから私立は無理。バイトだけで学費払える自信無いし」
「そっかー。でも**か・・・。都内の国立大学には経済学部無かったっけ?」
「東大と一橋にあるけど、ボクの頭じゃ無理」
「頑張ればいいじゃん」
 
「・・・えっとさ。2年生は志望校のランクと成績でクラス分けがされるじゃん」
「うん」
「東大とか名大とか一橋とか、そんなところを志望校に書いてたら、ボク今の成績なら間違いなく、9組に入れられちゃう」
「男子クラスか!」
 
1年生は芸術と男子の格闘技の科目選択をベースにクラス分けがされていたのだが、2年生は進路別・成績別のクラス分けだった。1〜3組が専門学校進学コースで4〜10組が大学進学コースなのだが、専門学校進学コースは女子が圧倒的なので1〜2組は女子クラスになっている。そのバランスを取るのに大学進学コースの中で9〜10組は男子クラスになっていた。ボクは当時成績が全体で80位だったので、当時志望校ということにしていた、名古屋大学の経済学部のままでは男子クラスに放り込まれる危険が高いと思った。そこで敢えて大学のランクをぐっと落とす作戦に出るつもりだった。
 
「男子クラスじゃ誰とも話せないから。孤独な高校生活は嫌だもん」
「なるほど・・・男女クラスに行くための偽装工作なんだ?」
「うん」
「で、実際に狙うのは?」
「内心考えてるのは、東京外大。将来の仕事として、まだ漠然とだけど、翻訳の仕事とかできないかなと思ってて。ボク、背広着てサラリーマンとか、できそうもないから、服装規定の無い仕事がいいなと思ってて」
 
「府中か・・・・私も冬が背広着て毎朝『行ってきます』と出かける姿とか想像できない。会社勤めするなら、冬はOLだよね。スカート穿いて通勤」
「あはは」
「それか、冬は出かける彼氏を『行ってらっしゃい』と見送る側」
「うーん。。。。」
 
「ね、いっそ大学に入ったら、私と共同生活しない?」
「へ?」
「なんなら私の家に同居してもらってもいいし。私の家からは府中(東京外大)や国立(くにたち:一橋大学)に通うの、比較的楽だよ」
「それは便利だろうけど、花見さんに殺されるよ、そんなことしたら」
「やはり性転換だな。冬が女の子になったら、同居してても啓介には嫉妬されなくて済む」
 
「あはは。でも、政子は来月から取り敢えず一人暮らし?」
「そうそう。私あまり料理得意じゃないけど頑張る」
「必要に迫られたら覚えるよ」
「そうだね。カップ麺とかばかり食べてるようだったらタイに召喚するからって毎日何を食べたかのレポート提出を義務づけられた。毎日メールで報告」
「頑張ってね」
 
「それと啓介のことなんだけどね」
「うん」
「親がいないのをいいことに、Hしまくるんじゃないかとお父ちゃんが心配して」
「親は心配するだろうけど避妊ちゃんとしてれば問題ないでしょ」
「とお母ちゃんは言ってくれたんだけどね。でも私自身、少なくとも高校生の内はセックスするつもりない。できたら結婚するまでしたくない」
「前から言ってたね」
 
「みんなから時代遅れだとか言われるけどね。それで啓介と、啓介のご両親とも会って話したんだ」
「うん」
「それでね・・・・冬、ショックじゃないかなあ・・・・私、婚約しちゃった」
「おお。おめでとう!」
「ふーん。。。おめでとうなんだ」
と政子は何か考えているような顔で言った。
 
「だって友だちとしては祝いたいよ。政子最近花見さんとの関係が微妙なような気がしてたから心配してたよ」
「そうか。私と冬って親友でいいんだよね」
「もちろん。そのつもりでいるけど」
「うん。じゃ、いっか」
 
「でも婚約したら、セックスくらいするんでしょ?」
「それをしないと約束させたんだ」
「えー!?」
「私が高校卒業するまではセックスしないと啓介は約束した」
「なんでー?」
「だってしたくないもん」
「あ・・・・・」
 
「ん?」
「政子もしかして女の子が好きだから、男の子とはあまりセックスしたくないの?」
「それはあるかもね」
「いつか言ってた、政子の可愛い思い人の女の子、あれからどうなったの?政子その話も全然しないから少し心配してたんだけど」
「ふふふ。彼女とはこないだキスしたよ」
「へー。ちゃんとそちらはそちらで進展してるんだね」
「まあね」
「しかし4月からいろいろ大変だね」
 
「うちの近所というか隣町におばさん、お母ちゃんのお姉さんが住んでるからさ。そのおばさんが私の監視役。乱れた生活をしてないかという」
「それって食生活と性生活だよね」
「そうそう」と政子は笑う。
 
「啓介は一応婚約者だから、うちの鍵は渡すけど、門限を17時にした」
「へー」
「で、おばさんにも鍵渡して、昼でも夜でも予告無く訪問してもらう」
「おー」
「これだとうかつにHなんかできないでしょ」
「確かに。でも花見さん可哀想」
 
「でもこれって、私家の中を散らかしたりできないし、カップ麺とか、ホカ弁のからとかを積み上げてたりもできないのよね」
「あはは、頑張ろうね」
「でもさ、私自分で御飯作ったことないのよ」
「えー?」
 
「少し本を買って勉強したいから、冬、買い物に付き合ってくれる?」
「いいよ。じゃ、今晩はボクがうちの夕食担当だし、料理の本を見たあとで、ボクの買物も見学するといいよ。夕飯の買物とかもしたことないでしょ?」
「全然」
「じゃ、放課後行こう」
「うん」
 
そんなところまで話して、芝生から立ち上がり、何となく手をつないで一緒に図書館の表側へ出て行った時、図書館の中から出て来た琴絵とバッタリ遭遇した。
 
「あ」「あ」
「あ、えっと、頑張ってね」と琴絵は笑顔で手を振って歩いて行った。
 
「うーん。こないだもたまたまキスした場面見られちゃったし、山城さんにはボクたちの関係をきっと誤解されてるよなあ」
「ふふふ、そうかもね」
と政子は何だか楽しそうな顔をした。
 

4月になって新学期になる。ボクたちは2年生になった。
 
ボクは「進学先ランク落とし作戦」が功を奏して、無事男女共学クラスの7組になることができた。しかしボクが**大学と志望校を書いて出したら1年の担任から呼び出しをくらった。
 
「唐本、これまで名大だったろ?ランク落としすぎでは?」と先生。
「いえ、自分の今の成績から無理のない大学に変更するだけです」
「しかし目標は高く持ったほうがいいぞ」
 
などというやりとりはあったものの、無事、国立中堅狙いの6〜7組に入れてもらったのである。仁恵はお茶の水女子大の文学部志望で8組になった。ボクと同じ7組には、1年でも同じクラスだった紀美香、書道部で一緒の理桜、そして科学部なのでよく話している琴絵(当時は静岡大学理学部志望)が来て、これをきっかけにボクは琴絵と話す機会が増えていく。政子は6組になった。
 
政子の方は2月まで都内のもっと易しい(というより特に勉強しなくても合格できそうな)大学を志望校にしていたのだが、3月中旬に両親が学校を訪れ親の海外転勤に伴いひとり暮らしをさせることと、志望校を△△△大学に変更することを告知したので、最初は4組に入れられていたのが急遽6組に組み替えられた。そのため1学期の間は政子の名前は4組の名簿では横線で消されていて、6組の名簿の最後に手書きで書き加えられていた。
 

谷繁部長と花見さんが抜けた後、活動が停滞していた書道部では、1年生に新たに入ってきた翠が、毎日しっかり古典作品の臨書をやっていたので、それに刺激される形で、ボクと政子と理桜も作品を書き、この春からはこの4人で活動していることが多くなった。1年生には4人の入部者があったのだが、実際にはよく出て来ているのは翠だけであった。たまに圭子や1年の美也も来ていた。1年生の時はいつもペアだった理桜と圭子は、2年生では別のクラスになったこともあり、バラバラの参加になることが多くなったが、仲の良さは相変わらずであった。
 
「だけど書道部って、男子部員が全然いないね。というかあんたたち4人以外に部員が来ているところもめったに見ないけど」
と科学部の実験の合間に雑談しにきていた琴絵が言った。
 
「ほんとほんと。一応男子部員は3年生に1人、2年生に3人、1年生にも1人いるはずなんだけど、姿を見ないね」と政子。
「石川先輩も全然来ないよね」とボク。
 
そんな会話をしていたら1年生の翠がキョトンとした顔をした。
「え?男子部員がいないって・・・唐本先輩は?」
「あ」「え?」
「あ、そういえば冬ちゃんって男子部員だったっけ?」と理桜。
「あんまし自信無い」とボクは笑って答えた。
 
「でも男子だけじゃなくて女子も少ないよね」
「だいたい部長も来ないし」
 
書道部の部長は一応3年生の静香先輩なのだが、谷繁部長の卒業で静香先輩は書道部に出てくる意義が薄れてしまったようで、めったに顔を見せなかった。
 
この年は、書道部はいくつかの大会に参加したが、そういう時は政子が部長代行と称して様々な手続きをすることが多かった。政子は2学期に部長を継承するつもりだったようだが、実際には文化祭の少し前の時期から超多忙になりとても書道部まで手が回らなくなったので、結局、理桜が部長を務めることになった。2年生の2学期は理桜と翠の2人でひたすら書を書き、理桜は五段の免状、翠も四段の免状を取った。
 

2年生最初の体育の時間、体操服に着替えて授業が始まるのを待っていた時、「あれ?君女の子?」と声を掛けてきた子がいた。
「一応男の子だけど」と答えると
「あ、そうだよね。女の子は向こうで集合してるし」と彼は言った。
 
「でも雰囲気が一瞬女の子かと思った。ごめん」
「ううん。ボクはこんな感じだから。あまり男として扱われるより曖昧な感じで扱われるほうが好き」
「あ、そういうのもいいんじゃない?あるがままでいればいいと思う。無理に男っぽく振る舞う必要もないだろうし。あ、俺、佐野ね」
「ボクは唐本」
 
彼とは何となく並んで準備体操をし、一緒に組んで柔軟体操もした。
「触った感触も何となく女の子っぽい」
「あ、わりとボク脂肪が付きやすい体質みたい。それでけっこう身体柔らかいほうだし」
 
その日はサッカーをした。7組対8組でやっていたが、ひたすら校庭を走り回った。「なんかたくさん走るなあ。けっこうきついや」と佐野君。
「あ、ボク走り回るのは平気」とボク。
「へー。すごいね」
「中学時代に陸上部してたから。中2の秋でやめたけど、身体がなまるから、その後もずっと時々早朝ジョギングとかしてたし。持久力だけはあるよ」
「おお、それは偉い」
 
8組の子がひとりドリブルでこちらの守備陣を突破してきた。巧みなボールさばきだ。この子は最初からひじょうにいい動きをしていた。サッカー部の現役或いは経験者だろうか?
 
ちょうどボクはゴールの近くにいたので全力でその進路に向かって走り、彼の前に立ちはだかるようにした。彼は近くに誰もいないと思っていたようで、ボクが進路を遮ったの見て、え?という顔をして一瞬停まり、それから左手に向かって走り抜けようとするかのような振りを見せたかと思ったら、そのままボールをシュートした。ボクはとっさにジャンプして身体でそのボールを停めようとしたが、ボールのスピードがあまりにも凄かったので、思わず胸の所に両手を組むように持ってきてしまった。その手の甲にボールがぶつかって、ボールは横にそれた。それを味方の生徒がゴールラインにクリアした。
 
「コーナーキック?」
「いや。今手でボールをそらした。ハンドでPKだよ」
「ちょっと待って」と体育の先生。
 
「今のはなぜ手を胸の所に持って来たの?」と先生がボクに訊く。
「すみません。ボールのスピードが凄かったので思わず胸を守りたくなって」
 
先生は少し迷うような表情をした。その時、1年でも同じクラスだった菊池君がこんなことを言った。
「先生、勘弁してやって。唐本、女だからおっぱい守りたかったんだよ」
すると先生は納得したような顔をして
「意図的に手で軌道を変えた訳ではなく、また手は身体にくっついていたので、ハンドにはならない。よってコーナーキック」
と判定をした。
 
シュートをした子も仕方ねえな、という顔をしている。菊池君が手を挙げてこちらにサインを送る。ボクは彼に会釈を返してから頭を掻いた。
 
ちょうど近くまで来ていた佐野君が言う。
「『唐本は女だから』ということばで、みんなが納得しちゃうんだ!」
「うーん。。。。」
 

翌週、身体測定があった。ボクはちょっと困ったなと思った。1年生の時の身体測定では、みんなパンツだけになって並んで、身長・体重・座高を測られた。ちょっとパンツだけになるのは問題あるよな・・・・いくつかの点で。
 
そこでボクは身体測定の日を仮病で休んでしまった。それで翌週あらためて呼び出されて保健室で測定をされた。
 
「もう風邪は大丈夫なの?」と保健室の先生。
「はい。すみません。ご心配お掛けしまして」
「あの・・・・Tシャツ脱がなくてもいいですか?」
「あら?まだ少し調子悪い?」
「いえ、そういう訳ではないのですが」
「うん。いいわよ。Tシャツの分、これ厚手だから300gくらいかな。引いておけばいいし」
「はい、済みません」
 
「身長166.8cm, 体重46.9kg, 座高85.1cm。痩せすぎ。この身長なら60kg欲しい」
「ええ。でも以前体重が50kgあった時は、身体が重くて辛かったです。どちらかというと、もう少し落としてもいいかな、という感じで」
「そう?まあ、それぞれベスト体重には個人差あるだろうけどねー。あれ?」
「はい?」
「あなた、足の毛が無いのね」
「あ・・・剃ってるので」
「へー。確かに最近男の子でも剃る子ときどきいるみたいね」
「はい」
 
「ね・・・・そのトランクス・・・・もしかしてトランクスじゃなくて・・・」
「フレアパンティです、すみません」
「ううん。別に構わないけど・・・・ね?もしかしてブラ付けてないよね?」
「あ・・・えっと。今日は付けてません」
「今日はか・・・ま、いっか。いや。引き算する下着の重さがほんとに300gで良かったのかな?と思っただけだから」
「あはは・・・500gくらい引いておいてもらえますか?」
「うん。いいよ。じゃ46.7kg BMIが16.7だな。BMIが18未満だとヨーロッパではファッションモデルになれないんだよ」
「じゃ、ボクは無理ですね」
とボクは笑った。
 
「唐本さん。ひょっとして自分の性別で悩んでいるんだったら気軽に相談してね」
「あ、はい。ボクの場合『悩んで』はいないと思います。でも何かの時は相談させてください」
「うん」
 

ゴールデンウィーク前半の日曜日。ボクは絵里花と貞子・美枝に呼び出されて遊園地に出かけた。ボクがなかなか「カムアウト」しようとしないので、度胸付けなさいよということで、ボクに女装させて一緒に遊園地でたっぷり遊ぼうという趣旨であった。ボクが着る服は絵里花が選んで持って来てくれていて、ボクは女物の下着だけ着けて、ふつうの服装で出かけていき、途中落ち合ったマクドナルドのトイレで着換えた。
 
トイレが男女別なので一瞬迷ったが、
「冬だったら、そのままの格好で女子トイレに入っても問題無い」
などと煽られて、ボクも「まあいいかな」と思い、女子トイレで服を着替えた。
 
ライトブルーのパーカーに膝丈スカート、ニーソ、というスタイルである。
「可愛いなあ」
とみんなおだててくれる。
「さ、今日は女4人でたっぷり遊ぼうね」
 
ゴールデンウィークなので混むだろうということで、朝1番に遊園地に入ると、まずは人気のアトラクションを攻めまくる。当然コースター系が多い。
 
「ちょっと平衡感覚が・・・・」
「あ、男の子の方がこういうの弱いんだって」
「でも冬は男の子じゃないと思うけどなあ」
「でも一応付いてるし」
「取っちゃえばいいのにね」
「あはは。。。。今すごく取っちゃいたいかも」
 
しかしさすがに11時くらいになると、どうしても待ち行列に並ぶ時間が増えて行った。
 
「休日に遊園地に来ると、待ってる時間の方が遊んでる時間の数倍あるよね」
「これに乗った後は、早めに御飯食べて、2時くらいで上がっちゃおうか」
「それもいいかもね」
 

お昼は遊園地内のスナックコーナーで、唐揚げ、フライドポテト、たこ焼き、などを適当に取って分け合って食べた。
 
「でもさ、見てると、冬って、女の子の服を着て出歩くことを全然恥ずかしがってないよね」と貞子。
「ああ、それは私も思った。ごくふつうに着こなしてるし」と絵里花。「ねね、実はいつも女装外出してたりしないの?」と美枝。
 
「えー?してないよ。女装外出は、去年の夏休みにうちの高校の書道部のキャンプで余興でやらされて以来だし、その前は中学の卒業式の翌日、中学の制服で町に出た時かな。ほんとに年1〜2回って感じだよ」
 
「それにしてはね。。。。」と美枝。
「どうもこの手の問題については、冬は正直に話してない気がしてならないね」
と絵里花。
「やはりどこかに拉致して、拷問して白状させてみたいね」と貞子。
 
「でもホント、こんなにふつうに着こなして出歩けるなら、高校にも女の子の服持ってって放課後にそれに着換えるとかさ、そんなことしたっていいのに」
「そうそう。女装してるところをどんどん友だちに見せて、理解者や協力者を増やして行ったほうがいいよ」
「うーん。。。。そうだなあ。。。」
 
そんなことを言っていた時、近くの席にカップルが来て座った。そのカップルを見て、ボクは心の中で『ぎゃっ』と思い、思わず彼らに背を向けた。
 
が、遅かった。
 
カップルの女性の方がこちらに寄ってきて
「あの・・・すみません」と声を掛ける。
「どうしました?」と貞子。
「いや、何か知ってる人のような気がして」
 
ボクは覚悟を決めて振り返った。
「こんにちは、村沢先輩」
「やっぱり唐本ちゃんだ!」
カップルの男性の方も近づいてくる。
「こんにちは、谷繁先輩」
 
「可愛い!唐本ちゃん、やっぱりこういう格好するのね?」と静香。
「それに、そんな女の子みたいな声が出るんだ」
 
仕方ないのでボクは相互を紹介する。
「こちら、ボクの中学の時の先輩の絵里花、同じ学年の貞子と美枝」
「こちら、ボクの高校の書道部の先輩で、谷繁さんと、静香さん」
 
「いや、去年うちの部でキャンプに行った時、女装させたら、凄く可愛くなったから、きっとふだんも女装してるんだよね、なんて陰で噂してたんだけどね」
と静香。
 
「こちらもその件は聞いてたんですが、本人は今日の女装はその時以来の女装だと主張してるのよね」
と絵里花。
 
「それって・・・・・」と静香と絵里花は顔を見合わせて言う。
「絶対嘘だよね」
 
「あはは・・・・」
 
「冬はやはり普段から女装で外を出歩いていると思うなあ」と貞子。
「ほんとにそんなことしてないんだけどなあ」とボクは頭を掻く。
「やはり、一度どこかに拉致監禁して、拷問して吐かせましょう」と美枝。
 
「あ、でも谷繁先輩と村沢先輩のこと、少し気になってたからホッとしました」
とボクは言う。
「うまく行っているみたいですね」
「うん。まあまあ、やってるよ。あ、部活全然出てかなくてごめんね」
「今度の地区大会、政子が出場手続きしておきました」
「わあ。じゃ、作品だけでも書いておくね」
「よろしくです。政子は部長代行だね、って理桜が言ってた」
 
「あ・・・・唐本君って、女の子たちと呼び捨てなのね?」
「あ、えっと・・・こちらも冬と呼ばれてます。いつも出てきてるメンバーの中に男子部員がいないね、今年は、とか言われちゃってるし」
「んじゃ、私も『冬』と呼んじゃおう。私のことも名前で呼んでよ」
「了解です。静香先輩」
 
「こちらも冬とは名前呼び捨てですよ。中学の時から冬のことは、ほぼ女の子と思ってたから、お互い女友達感覚」と貞子。
「やっぱり冬って中学の時から女の子だったんだ」
 
「私の家でけっこう女装させて着せ替え人形にして遊んでたんですけどね。でも確かに私も冬が女装外出したのって、3回しか見てないことは確かなのよね。今日で4回目か」
「実際、今日も含めて4回しかしてないんだけどなあ」とボク。
 
「そんなの信じられない」と絵里花と静香。
 
「だいたい男の子に無理矢理女の子の服を着せたりしたら、凄く恥ずかしがったりしそうじゃん。冬って、それ全く無かったもんね。最初から」
「あ、えっと・・・・」
「初めてスカート穿いて歩いたら転んだりしそうなのに普通に歩いてたし」
「それどころか、うちで初めて女装させた時、冬は後ろ手でブラのホックを留めたのよね。あり得ないでしょ?」と絵里花。
「おお、それは絶対女装慣れしてる」と静香。
 
「やはり、冬はかなり前からこっそり女装していて、かなり頻繁に外も出歩いているとしか思えないね」と貞子。
 
「結論としては、唐本は連休明けから、女子制服で学校に出てくるべし、だね」
と谷繁先輩も悪のりして言っている。
 
ボクはその場でけっこう追求されたものの、ボクが過去の女装外出歴をあくまで否定するので、この件はまたあらためて追求してみましょう、などという話になる。そして静香先輩たちのデートのお邪魔してはいけないから、また今度、などといって別れ、ボクたちはまたあちこちのアトラクションをしに行った。
 

昼食後はあまり長い列ができているところは避けて、比較的すぐに乗れるものを中心に乗るようにした。それでもかなり楽しむことが出来た。たっぷり遊んだ感で2時頃遊園地を出る。近くの飲食店が集まっているミニモールの中にあるドーナツ屋さんで少し休んだ。
 
ボクはとりあえず普通の服に着替えさせてもらった後、適当に頼んだドーナツを摘みながら、コーヒーを飲みながら、ガールズトークで盛り上がっていた時、お店に静香先輩と谷繁先輩が入ってきた。こちらと視線が合ったので、軽く会釈する。向こうも手を振って、ボクたちと少し離れた席に座った。
 
そしてまたしばらくこちらはこちらでおしゃべりに夢中になっていた時のことであった。ドーナツ屋さんのドアを荒々しく開ける音があった。見ると政子だ!服が乱れている!?靴も履いてない。ボクは思わず「政子!」と呼びかけた。政子はその声にこちらを見ると、凄い勢いで走ってくる。ボクも立ち上がって駆け寄る。政子は勢いよくボクの胸に飛び込み、抱きついて「助けて」と言った。その時、ドアを開けて入ってくる花見先輩の姿を見た。
 

あとで自宅まで送っていってからゆっくり政子から聞いたのではこういう話だった。
 
花見さんは2月中に入る大学が決まったので3月に卒業式のあと自動車学校の合宿に行き、4月初旬に免許を取得。さっそくローンで車を買い、しばらく練習も兼ねて慣らし運転をしていたが、その日は連休でもあり、政子をドライブに誘ったらしい。
 
花見さんはどこか静かな所までドライブしないかと言ったらしいが、政子はあまりふたりきりになりたくない気分だったので、某大型アウトレットモールに行きたいと言い、一応そこまで行って、ショッピングを楽しみ、お昼も食べて楽しく会話などもした。花見さんからホテルに行かないかと誘われたらしいが、例によって高校を卒業するまでそういうことするつもりはないからと断ったという。
 
それで、海でも見に行こうかと行ってそこを出てドライブしている途中で花見さんが少し疲れたから仮眠したいというので、ちょうど見かけたミニモールの駐車場に駐めて花見さんは仮眠をしはじめた。それで政子も少し眠くなってきたので、うとうととしていた時、身体に触られる感触で目を覚ました。
 
下着が少し下げられていて、指で触られている。「やめてよ」と言ったが、やめてくれない。「ね。こういうことしないって言ったでしょ」と言うが、「いいじゃないか。少し楽しもうよ」などと言う。政子は少し怒って「私が嫌だと言っているんだから、やめてくれない?」と言うが、向こうは全くやめる気配を見せず、上の服まで脱がされそうになる。
 
政子は本格的に抵抗したが、花見さんは強引に押さえつけてくる。政子は完璧に気持ちが覚めて、全力で抵抗する。花見さんの顔を平手打ちしたが逆に殴られた。一瞬くらくらときたが、ひるまずに暴れて、顔を引っ掻いたりもしたが、腕力でかなわない。政子は(自分を押し倒すために)シートベルトが外されているのに気付き、とっさの作戦を思いついた。ドアロックの位置を目で確認する。
 
政子は「分かった。自分で服を脱ぐから。乱暴なことしないで」と言った。
 
それで花見さんが手をゆるめた瞬間、片手でドアのロックを解除するのと同時に、思いっきり股間をキックした。
 
さすがに向こうがキックされた所を手で押さえてうめき声をあげたので、政子は急いで助手席のドアを開け、転げ落ちるように車から飛び出した。そしてそのまま全力で走って、手近に見たお店に飛び込んだのであった。
 
唐突に名前を呼ばれて、見たらボクがいたので、地獄に天使を見た思いだったなどと政子は言っていた。
 

花見さんは、政子がボクに抱きつくようにしているのを見ると、少し驚いたようであったが近づいてくると
 
「あ、いや。唐本。ちょっと行き違いがあってさ。政子、何もしないから行こうよ」
などと妙に優しい声で言う。ボクは
「何があったのか知りませんが、政子さん嫌がってます。今日はお帰りになりませんか?」
と言った。
「いや、ちょっとふざけてただけなんだよ。な、政子。今のは謝るからさ。ね、洋服か何かでも買ってあげるから、行こうよ」
などというが政子は無言でボクにしがみついている。
「な、唐本。政子を渡してくれないか?ちょっとした男女のあやって奴でさ」
 
「今日は政子さんをお渡しできません。日をあらためて出直されませんか?政子。今日はボクがずっと付いてるから」
「ありがとう」と政子は初めて言葉を出した。貞子が寄ってきて政子の服の乱れを直してあげた。
 
「あのなあ、唐本。こういうのに首を突っ込むのは野暮ってやつなんだぜ」
などと花見さんは開き直ったことを言い始めた。
「花見さん。何なら警察を呼んでもいいんですけど」
とボクはキッとして言った。
「警察?ふざけんなよ。さっさと政子を返せ」
などと怒ったような声で言いにらみつけるが、こちらもしっかり見返す。ボクは本気で警察を呼ぼうかとも思った。
 
その時、離れた席にいた谷繁先輩が寄ってきて言った。
「おい、花見、そのあたりでやめとけよ」
と声を掛ける。花見さんは谷繁先輩には気付いていなかったようで
「あ・・・」
と声を上げると、
「分かった」
と言って不満そうに店を出て行こうとする。
 
「あ、谷繁先輩。私の荷物が車の中に」
と政子が言うので、ボクと貞子、谷繁先輩・静香先輩の4人で政子に付き添い、車のところまで行き、確認しながら、中にある政子の荷物を取り出して渡した。靴も履いた。花見さんは、無言で車で去って行った。
 
谷繁先輩が自分の車で政子を自宅まで送っていくというので、ボクは絵里花たちに別れを告げて、政子に付き添い、一緒に政子の自宅まで行くことにした。静香先輩も政子をハグしてあげた。そのあと後部座席に座ってくれて、ふたりで政子をはさむようにした。
 

政子が放心状態だったので、ボクが道案内をして、やがて車が家に到着する。谷繁先輩と静香先輩にお礼を言って、政子に付き添い家の中に入る。
 
政子を座らせて、ボクは物を探しながらお茶を入れた。冷蔵庫に牛乳があったので甘いミルクティーにした。
 
「ありがとう」と言って政子はそのお茶を飲む。
 
政子はしばらく無言だったが、「私、シャワー浴びてくる」というので「うん。それがいいよ」と言って、政子の額にキスをしてあげた。
「あ・・・」と、言って、初めて笑みを見せた。
 
しばらく待っていたら、政子はシャワールームから裸で出て来た。ボクはびっくりして後ろを向き、「服着てよ」と言った。
 
「あ、ごめん。着替え持たずに行っちゃったから。ふだんの癖が出ちゃった」
「たしかにひとりで暮らしてたら気にすることないかも知れないけど」
「でもシャワー浴びたら少しすっきりした」
「よかったね」
 
政子はボクのそばに寄ってくると、後ろから首のところに抱きついてきた。さすがにドキっとする。政子のバストの圧力を背中に感じる。でもボクは優しく政子の腕を撫でてあげた。
 
「冬も、女の子と2人きりになったら、押し倒しちゃう?」
「それは相手との関係次第じゃない?そういうこといつもしている間柄ならするかも知れないけど、相手の同意無しに押し倒したら、ただのレイプだよ」
「私・・・レイプされかけたんだなあ・・・・」
「無事で良かったね」
 
「・・・・ね、私のバージンあげようか?」
「なんで、そうなるの!?」
「なんか突然冬にあげたくなった。避妊具は持ってるよ」
「結婚するまではセックスしないんじゃなかったの?」
「うん。恋人とはしない」
「変なの」
 
「ね、もらってくれない?」
「バージン捨てる気になったんなら、花見さんにあげたら?」
「嫌だ。当面あいつとは話したくもない。電話にも出ない。メールは全部捨てる」
「お、ふだんの政子に戻った感じだ」
「うん。ちょっと怒りのパワーで少し自分を取り戻せた気がする」
「うん。政子は強気でなくちゃ」
「あ、でも少し寝ようかな」
「それもいいかもね」
 
「でも心細いから、一緒に寝てくれない?」
「・・・H無しなら」
「うん」
 
政子が裸なので、ボクはちょっと目のやり場に困りつつも、手をつないで一緒に政子の部屋に行った。政子は裸のままベッドに入ってしまう。こちらを切ない表情で見つめるので、ボクは少しためらいはしたものの、そのままその横に寝ようとしたが
「上着脱いで、下着だけになってよ」
と政子は言った。
 
ボクは微笑んで、トレーナーとジーンズを脱いだ。
「わーい。思った通り。女の子下着を着けてる」
「うん。まあね」
と言って、ボクはブラとショーツだけの姿で政子の隣に身体を横たえた。
 
「えっと背中合わせがいいかな・・・・」
「しがみついて寝たい」
「いいよ」
というと、ほんとに政子はこちらにしがみついてくる。ボクのブラを左手でつかんで安心したような顔をする。ボクの左頬に軽くキスをした。
 
「じゃ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
と言って政子は目をつぶった。ボクも少し眠ってしまった。
 

目が覚めると、政子がボクのあそこをいじっていた。
「あ、えっと。おはよう」
「おはよう。冬。おちんちん付いてたんだね」などと言っている。
「付いてるけど」
「私、おちんちんに触るの初めて」
 
「花見さんとはBもしてなかったの?」
「うん。Aまで。それ以上、する気になれなかったから」
「でもボクの触っていいの?」
「冬とは女の子同士だもん」
「そ、そう?」
 
「でも面白いなあ。おちんちんって。最初触り始めた時は柔らかかったのに触りだしたらすぐ硬く大きくなっちゃったよ。冬まだ寝てたのに」
「そういうふうに出来てるからね」
「そうだ。コンちゃん付けてみよう」
「えー?」
「練習。練習。一度付けてみたかったのよね。でも啓介ので練習したら、間違いなく、そのまま入れられちゃうじゃん」
政子は机の引き出しから避妊具を取りだした。ボクもそれを見るのは初めてだ。
「これどうするのかなあ。冬、使ったことある?」
「いや、そもそも見たのも初めて」
 
「うーん」とうなりながら政子は説明書を見ている。
「とりあえず開封」
政子は封を切って1枚取り出した。
「こうするのかな?」
と言って政子は棒の先に避妊具を当てた。ひんやりとした感触がする。そして政子はそのまま脇の巻いてある部分をくるくると伸ばしていき、全体にかぶせた。(結果的に避妊具を付けたのはこれが最初で最後の経験になった)
 
「余るな」
「たぶん、ボクのが小さいからだよ」
「ふーん。他の人のはもっと大きいの?」
「いや、しげしげと他人の見たことはないけど。ボクのは大きくなっても10cmくらいだから。16cmとか18cmとかになる人もいるらしいよ」
「へー。この倍くらい大きいのもあるんだ!」
「18cmだと途中までになっちゃうかもね」
「確かに」
 
「ね。。。。これ、私のにこのまま入れてもいいよ」
「いや、そういうことしたいなら、好きな人としなよ。花見さんが嫌なら、別れて他の恋人作ってからでもいいからさ。優しい人はいるよ」
 
「そうだなあ。別れちゃおうかな。いい機会だし。。。あれ?縮んでいく」
「興奮状態が少し落ち着いてきたのかもね」
「信じられない。女の子に見られていても縮むものなの?」
「ボクたぶん、男性機能弱いから」
「そっかー。冬は女の子だもんね。しかたないか」
「ごめんね」
 
その時、政子はむくりとベッドから起き上がると、裸のまま、机の中から可愛いシナモロールのレターセットを取り出すと、いつものバッグの中から見覚えのあるボールペンを取り出し、何か書き始めた。
 
ボクは自分のあそこから避妊具を外すと元の袋の中に押し込み、まるめてからティッシュにつつんでゴミ箱に捨てた。そして自分のもティッシュで拭いた上でベッドの上にいったん寝て、あのあたりを処理した上でパンティを上まであげた。
 
「ああ、なるほど。おちんちん、そうやって収めると、まるで付いてないみたいに見えるんだ」
と政子は詩を書きながら言う。
 
「うん。これ立ってはできないんだよね。寝てしないといけない。それとこうできるのは、こういうきっちり押さえてくれるタイプのショーツだけ。ハイレグとか穿くには、もう1枚中にインナーショーツしないとだめだよ」
「ふーん。やはりかなり女装してるな」
「部屋の中だけね。外出はしないけど」
「すればいいのに」
「いや、ちょっと」
 
政子はどうも今日の怒りを詩にぶつけているようで、筆が速い。10分もしないうちに書き上げた。タイトルの所には「男なんて死んじまえ!」などと書いてある。
 
「それで今日のことなんだけどね」
と政子はペンを置くと話し始めた。ボクは下着姿のままベッドに腰掛け、じっと余計な口ははさまずに政子の話を聞いていた。できるだけ見ないようにはしていたが、均整の取れた政子の裸体がまぶしく思えた。
 
「そういうわけで、あそこで冬の顔を見た時はほんとに救われる思いだったよ」
「役に立てて良かった。でも谷繁先輩たちにもまたお礼言っておかなくちゃ」
「うん。そうだね。でもありがとう」
 
政子はまだ少し放心状態のような顔をしていた。ボクは何とか彼女を元気づけてあげられないかと思った。
「政子」
と呼びかけると、切なく何かを求めるような顔をした。ボクは彼女の肩に手を置いた。見つめ合う。自然に吸い寄せられるようにボクは唇を彼女の唇に重ねた。
 
強く吸われた。ボクも吸った。政子が舌を入れてくる。ちょっと驚いたがボクも政子の口の中に舌を入れた。そのまま強く抱きしめ合う。彼女のバストがボクのブラのところに当たる。こちらもパッドを入れてるので、バスト同士で圧力を掛け合うような感じになった。
 
5分くらいそのままキスして、やがて自然に離れた。政子が微笑みをたたえていた。さっきまでとは雰囲気が違う。
 
「さて、そろそろお互い服着ようか?」とボクは言った。
 
「そうだねー。。。。ね、今日は私の服貸すから、女の子の格好でいない?」
「え?」
 
「私、レイプされそうになった心の傷で、今日は男の子の姿を見たくないから」
「棒読みだ」
「いいじゃん。いつも女の子の服、着てるんでしょ?」
「うーん」
「よく見たら冬、眉を細くしてるし。それって女装のためじゃないの?」
「あっ・・・えっと連休だしいいかなと思って細くしたんだけどね。まあ自分の部屋の中では女の子の服着てることあるよ」
「じゃ、ここもうちの中だからいいよね。これ内緒にしとくからさ」
 
と言って、政子はタンスの中からまずは自分の下着を出して身につけ、その後
「これ着てみて」
と言って、可愛いチュニックと長めの丈のタイトスカートを渡してくれた。
「うん」
と言って受け取ると、その服を身につけた。その間に政子のほうも服を着る。
 
「でも、冬って、女の子の服を着たらほんとに可愛くなるなあ」
「ね・・・・五線紙ある?」
ボクは今日の午前中、貞子たちと一緒にいた時に使っていたアルトボイスで訊く。
 
「あれ?冬ってそんな女の子みたいな声も出るんだ」
「まあね。1年の時の同級生の女の子たちの前では時々使ってたんだけど。女の子の服を着てるとこちらを使いたくなる」
「去年のキャンプの時はふつうの男の子の声で話してたね」
「あまり突っ込まれたくなかったからね」
 
「ふふふ。あ、五線紙ね」
といって政子は押し入れを開けると、古い音楽のノートを取り出し、その後ろの方のページを破いて、こちらに渡してくれた。
 
「ありがとう。そのボールペンも貸して」
「うん」
ボクは政子からボールペンを受け取ると、携帯のピアノ・アプリを起動し、音を探りながら、五線紙に音符を書き入れて行った。
 
「あ・・・この詩に曲を付けるのか」
「そうそう。ふたりで曲にして、今日のことには決着を付けようよ」
「そうだね」
 
ボクは政子と雑談をしながら、20分ほどで曲を書き上げた。歌ってみてというので、歌ってあげると喜んでいた。政子も一緒に歌い、最後のフレーズ「男なんて、男なんて、絶滅しろ!」という歌詞を絶叫していた。
ボクたちは笑って、一緒にベッドに並んで腰掛けた。
 
「ボクね・・・」
「うん」
「実は作曲ができるのは女の子の格好してる時だけ」
「へー!」
「最低でも女の子の下着付けてないと何も浮かばない」
「面白い。じゃ、お正月に私の詩に曲を付けてくれた時も女装して書いたのね」
「うん。ちょうど新年を迎える時刻だったから、ボク女の子の服で新年を迎えちゃった」
「わあ。じゃ今年は冬がほんとの女の子になる年なんだよ」
 
「テストなんかもね。下着だけでも女の子のを付けてないと調子出ないから、実は中間テスト・期末テスト・実力テスト、いつも試験受ける時は女の子の下着付けて学校に出て来てる」
「おお」
 
「家で勉強してても、分からないことがあった時に女装すると、パッと分かっちゃうことがよくあるんだ」
「じゃ、やっぱり学校に女子制服で出ておいでよ。きっと学年トップになるよ」
「その勇気が無いんだよね」
「ふーん」
 
「でも昨日受けた模試、実は女子高生っぽい服で受けて来た」
「わあ」
「受検する教室を同じ学校の生徒と変えるのに、わざとみんなと別に申込書が出るようにしたんだよね。忘れてきたので別途自分で郵送します、なんていって学校のハンコが押してある紙を先生からもらって、記入して投函した」
「どんな服で行ったの?」
「スクールブレザーとチェックのスカート。どこかの高校の制服かなと思ってもらえるようなの」
 
「そんな服を持っているのか。やはり、女装外出してるんだね、ふだんから」
 
「してない、してない。模試は特別。今回は特に自分の最強の実力を一度測っておきたかったからやってみただけで、次の模試からはふつうの服装で受けるつもり。大学受験の本番は女の子の服で行くけどね」
 
「やはり冬って、私が思っている以上の子みたい」
と政子は楽しそうな顔をしていた。
 
その日はその後ふたりでクッキー作りなどをして楽しんだ。夕方伯母さんが「突然訪問」をしてきたが、政子が『女の子』と一緒にお菓子作りをしているのを見て安心したようであった。
 
政子が引き留めたので、伯母さんは夕飯まで一緒にいてくれて、一緒に晩御飯を食べてから帰宅した。その日の晩御飯は、ボクと政子が一緒にトンカツを揚げて食べた。
 
「温度が分からない。180度ってどのくらい?」
「衣を箸の先から落として、すぐ浮かび上がってくるのが180度」
「ほら。これは鍋の底まで行ってから浮き上がってくるでしょ。140度くらい。・・・・・今中くらいまで行ってから浮き上がってきたから160度。野菜とかはこの温度で揚げる」
「うんうん」
「ほら、すぐ上がってきた。これが180度。お肉やお魚を揚げる温度」
政子がパン粉を付けたトンカツを油にそっと投入する。パチパチパチと音がする。
 
「なるほど。こうやって温度を見るんだ」
「うん。揚物用の温度計使う人もいるけど、衣を落とすので判断できるよ」
「冬はいろいろ知ってるなあ」
「政子、料理の得意なお友達がいて良かったね」と伯母さん。
「うん。ゴールデンウィーク中は毎日来てもらおうかなあ」
「うん。いいよ。毎日来ようか」
 
ボクは花見さんの件で、花見さんが強引にここに押しかけてきて変なことをしようとしないだろうかというのが心配でもあったので、連休中は毎日ここに来たほうがいい気がした。
 
政子は夕飯を食べながら、伯母さんに、今日は花見さんとデートしていてレイプされそうになり、隙を見て逃げたところでボクと遭遇して助けてもらったということを話した。伯母さんも驚いていた。それでしばらく彼とは会いたくもないし話したくもないから、ということを言い、その不安もあるので、ボクにしばらく毎日きてもらうと助かると思っていることを語った。
 
「そういうことだったんですか。じゃ、冬子さん、お願いできますか?」
「はい。こちらはおしゃべりしながら一緒に勉強できる相手が確保できていいですし」
「私も毎日顔を出すからね」
 
ということで、実際にボクは毎日ここに通ってくることになるのである。それは結果的に毎日政子の家で女装させられることにもなったのではあったが。
 

政子はしばらく花見さんからの電話にも出ない、などと言っていたが、本当に連休明けまで、いっさい出なかったらしい。家電に掛けてきてもガチャンと切っていたという。
 
政子は連休明けに、伯母さんを通して、花見さんのお母さんに連絡を取り、婚約を解消したいと申し入れた。しかし、この時は花見さんとお母さんが一緒に伯母さんの家を訪れ、政子の機嫌をそこねることをして申し訳なかったと謝り、二度とそのようなことはしないので、関係を続けさせて欲しいと頼んだ。
 
政子も伯母さんからの連絡で今回は納得し、花見さんとの婚約は継続されることになった。4ヶ月後、8月に花見さんが浮気をしていた上にボクをレイプしようとした件で、政子が婚約解消を譲らなかったのはもう2度目だったからである。
 
「私、携帯からも削除してたからね。再登録。でも以前は1桁のところに入れてたけど、わざと3桁のところに登録した」
などと政子は言っていた。
 
「デートした?」とボクは訊いた。
 
「したよ。土下座して謝ったから、今度だけは許してあげると言って、一応握手はしてあげた。しばらくキスもしない」
「なんか、ほんとにハラハラさせるなあ」
「でもこれで啓介も二度と私とHしようなんて思わないだろうから結果オーライかな」
「Hくらいすればいいのに」
「したくないもん」
 
「ほんとに政子って変な子」
「冬も変な子だけどね」
 
「あ、そういえば、例の政子が好きな女の子の方とはどうなってんの?」
「ふふふ。こないだ一緒のベッドに寝ちゃった」
「へー。政子も女の子となら、そういうことするの平気なんだ」
「彼女の秘部に触っちゃったよ。Hまではしなかったけどね」
「大胆だなあ。じゃ彼女とも相思相愛なのね」
 
「だとこちらでは思ってるんだけどなあ」
「まだ告白してないの?」
「そうなんだよね。キスも何度かしたし、ハグも何度かしたし」
「そこまでしてて、一緒に寝て少しHなこともしてるんなら、向こうも政子のことかなり好きなんじゃないの?女の子同士で向こうも戸惑ってるのかもしれないけど」
「そうだね。今年中にはちゃんと気持ち言えるかな」
「頑張ってね」
「うん」
 
ボクはそちらの女の子との関係が進展すると、政子も心に余裕ができて花見さんとの関係もうまく行ったりしないだろうか、などと思いながら、政子とガールズトークに入って行った。
 
 
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【夏の日の想い出・高2の春】(1)