【夏の日の想い出・Xデーと復活】(1)

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2022年12月初旬、あまり売れていない女性タレントAが突然死した。警察の調査で薬物の過剰摂取による急性中毒死と発表された。私は嫌な気持ちになった。彼女は、少なくとも一時期、百道大輔と付き合っていた。つまり大輔は政子と実質結婚し、子供まで作っておいて(本当は彼の子供ではないが)一方ではAと浮気をしていたのである。そのAが薬物死したということは・・・・
 
大輔が政子と付き合い始めた時、私は彼に言った。
「政子を辞めるかクスリを辞めるかどちらかにしてほしい」
 
彼はクスリをやめると誓った。だから私は彼と政子の関係を認めた。それなのに・・・
 

百道良輔・大輔の兄弟はどちらもロックシンガーだが弟の大輔(1981) は高校で生徒会長を務め国立大学に現役合格し大学でも卒業式の総代になるなど、優秀で品行方正な性格で知らている。作成する音楽も明るくポップス寄りのロックである。
 
一方で兄の良輔(1973)は高校を退学処分になり、その後は建設作業員やトラック・ドライバーをしていた(免許取得費用は親が出してあげた)。しかしそういう生活の中から労働者フォークに近いロック作品を発表し始め、一時は高い人気を得る。音楽の品質についてもとても評価が高かった。彼の経歴から収入の低い人たちに特に人気で彼の作品はCD売上は少ないものの有線やカラオケでの収入が凄まじかった。
 
しかし彼自身が裕福になってくると生活が派手になり、銀座豪遊伝説なども出るようになり、やがて女性タレントとのスキャンダルを連発。そして18年ほど前に覚醒剤で捕まって以来、レコード会社から契約を切られてしまった。
 
執行猶予にはなり、作品は自主制作してディストリビューター経由で販売し、またyoutubeの閲覧数でかなり稼いでいるものの、その後も黒い噂は常にあるので放送局などは彼を絶対番組には出演させない。
 
良輔の書いた曲を聴くと、私の耳には明らかな薬物の影響を感じる。そう思っている人も多いようで、しばしばネットで噂になる。しかし明るくポップな大輔の作品にも同様に薬の影響を私は感じていた。多分良輔から薬をもらっているのだろうと想像していた。
 
それで私は彼に「政子」か「薬」かの二者択一を迫った。彼は政子と交際?している間、かなりの量のタバコを吸っていた。おそらく薬を我慢するのにタバコで気を紛らわせているのだろうと私は想像していた。
 
それで薬はずっと我慢していると思っていたのだが、タレントAが薬物死したということはその入手先は大輔ではないかと思った。だったら大輔自身も・・・
 

それで私が大輔と話をしてこようと思い、恵比寿のマンションを出ようとしていたら電話が掛かって来た。千里である。
 
「忠告。大輔さんには関わらない方がいいよ」
「えっと・・・」
「考えてみてよ。大輔さんが薬物で捕まったとする。その時、冬が彼がクスリをやっていたのは知ってたけどやめるように言ってたとか言ったらさ」
「うん」
「冬も犯人隠匿罪。起訴猶予にはなるだろうけど、音楽活動1年自粛。冬が書いた作品が使えなくなり、上島先生の時以上の衝撃。日本の音楽界に大打撃。ローズ+リリーは当然活動停止。★★レコードも、冬が会長を務める§§ミュージック、またあけぼのテレビも大打撃を受ける」
 
「うっ・・・」
 
「だからここは一切関わらないことだよ。警察に何か訊かれても知らない、聞いてないで押し通すしかない」
「うーん・・・・」
「冬は自分ひとつの身体ではない。ポピュラー音楽界・芸能界の重要キーパーソンであるという自覚を持ってほしいね。だからくれぐれも軽はずみな行動はしないこと、下手なことは言わない」
「分かった」
 
「この事件は行くところまで行くしかない気がするよ。今マリちゃん、大輔さんとどのくらいの頻度で会ってるの?」
「それがほとんど会ってないみたいなんだよ」
「はあ?なんで?」
「知らないけど、マリはデートの約束をことごとく忘れてしまうみたい」
「マリちゃんらしいなあ。でもそれなら好都合だよ」
「それに大輔さんは今アルバムの制作やってて、それでも時間が取れないみたい」
「だったらあまり会えないでいる間に話が済んでしまうといいんだけどね」
「それを願いたいね」
 
ここで“話が済んでしまう”の意味を私は彼の逮捕と思ったのだが、千里は実は別のことを考えていた。
 

この時期、私と政子はローズ+リリーのアルバムの制作をしていた。コロナの折基本的には伴奏と歌は別録りなので、私と政子はだいたい夕方から深夜2時くらいまで政子の実家隣に作った“小平スタジオ”で録音作業を進めていた。
 
『星の銀貨』を見た後だったから12月11日頃だと思うのだが政子が言った。
 
「12月24日はクリスマスイブだからさ、クリスマスパーティーをするから冬も来てよ」
「私は20日くらいから1月10日くらいまで無茶苦茶忙しい」
「あやめ・大奈・夏絵・かえでと大輔も呼ぶからさあ、冬も出てほしい」
 
大輔さんも呼ぶということで私は結婚式の日取りとかを決めるのかと思った。それでコスモスに打診してみたのである。
「多忙な日に本当に申し訳無いのだけど」
「いいてすよ。いつも忙しくしておられますもん。こちらは何とかします」
「ごめん」
 
ということで私はその日18時で上がらせてもらい、政子の実家に行くことにしたのである。
 

2022年12月24日(土).
 
私はここしばらく恵比寿のマンションではなく信濃町の§§ミュージック事務所で仕事をしていた。コスモスがかなり多忙なので、川崎ゆりこ副社長はもちろん、川内峰花音楽部長も、更には米本愛心音楽部長代理?までこちらに来てサポートしている。
 
15時頃政子から
「今夜は楽しいガールズパーティー」
というメールが来る。
「ガールズパーティって男性もいるのでは?」
「父ちゃんは今夜はスカート穿くこと承諾してくれた」
 
あまりその状況は見たくないな。
 
「最初妃登美ちゃんに月花ちゃんも連れて亮平も女装させて連れてきてよと言ったんだけどさ、妃登美ちゃんは面白がってたみたいだけど、亮平が拒否と言うのよ。だから代わりに大輔呼んだ。女装やってみてーと言うから」
 
それで大輔さん呼んだのか!??彼はスリムな体型だし女装行けそうな気がした。
 

私は18時に信濃町の事務所を出るつもりだったが、コスモスが本当に多忙にしている様子なので結局18時半頃に佐良さんの運転するアコードで事務所を出た。
 
この車内で青葉(妊娠中?)から電話が掛かって来た。
「ケイさん、ここ1〜2日中に百道大輔さんのことで警察に何か訊かれるかもしれませんけど、何も知らなかったで押し切ってくださいね」
「あ、うん」
 
「間違っても大輔さんがクスリをやっていたのは知ってたけど、やめるように言ってたとか言わないでくださいよ。そんなこと言ったらケイさん、刑法103条、犯人隠匿罪に問われて、起訴猶予になったとしてもケイさん、音楽活動を半年くらい自粛するはめになりますよ。そしたらマリ&ケイの曲が使えなくなって芸能界が大パニックになりますから」
 
「それ千里からも言われた」
「さすが姉ですね。ケイさんってその手の“計算”ができないから心配で」
「ありがとう。やはり大輔さん逮捕されそう?」
「分かりません。剣の6が出てるんですよ。もしかしたら海外逃亡しちゃうかも」
「剣の6か・・・」
「ケイさんなら意味分かりますよね」
「うん。旅立ちだよね」
 
「クスリをやってトリップしちゃうという意味にも取れますが、それとは別の意味のような気がして」
「分かった。気をつける」
「くれぐれも軽はずみなことは言わないでくださいね。万一警察に事情を聴かれるような事態があったら弁護士呼ぶ手もあります。でもそれだと疑いを残すことになるから、ご自身で疑いもされないように演技してください」
 
「うん、ありがとう」
 
しかしこの姉妹は・・・・と思ったのであった。
 

19時半頃小平市の政子の実家に到着した。大輔が20時頃来るということだったので、それまで待っていたが来ない。
 
それで子供たちにはフライドチキンとかローストビーフとかを食べさせ、ケーキだけ切るのを待っていた。しかし21時すぎてもこないのでシャンメリーを開け、ケーキを切って子供たちに食べさせ、そして寝かせ付けた。
 
「メール送るけど返事無い」
と政子が言う。
 
「アルバム制作中だから何か中断できない作業をしてるんだろうね」
と私は言う。
 
ついに夜23時を過ぎたところで、私が
「取り敢えず先に始めてましょう」
と言って、シャンパンを抜き、私と政子、政子の両親の4人で乾杯し、ケーキやクリスマスの料理を食べながら歓談する。それで24時過ぎに両親にも休んでもらった。
 

私と政子は徹夜態勢で、ずっとふたりでおしゃべりしながら大輔を待っていた。
 
「大輔、なんかにハマっちゃったのかなあ」
と政子。
 
「何かでホットな状況になってるんだよ」
と私は答える。
 
楽曲の制作をしていると、そういうのは割とよくあることである。どうかすると数日不眠不休で作業を続けて、やっとひとつの曲が完成することもある。途中で食事などにも出られないので、スタッフの人に買って来てもらったり出前を取ったりすることもある。
 

2022年12月25日の午前4時過ぎ。
 
車が停まる音がして玄関でベルが鳴る。
 
「やっと来たみたいね」
と私はホッとした。政子は少し怒った顔をして玄関へ出て行く。
 
私はてっきり政子が大輔といっしょに入ってくるものと思っていた。ところがどうも様子がおかしい。
 
「どうしたの?」
と言って私も玄関の所に出て行く。
 
玄関の所に立っていたのは大輔ではなく、スーツ姿の男性2人であった。そして政子が私に抱きつく。
 
「大輔が・・・・」
と言ったまま政子は泣き出してしまった。
 
「どうしたんです?」
私は男性2人に尋ねた。
 
「新宿署の者ですが、百道大輔さんと良輔さんが亡くなられたので少しお話を聞きたいと思いまして」
と男性は警察手帳の身分証明書欄を見せて私に言った。
 

何かあったようだと気付いて出てきたお母さんに政子を預け、代理で私が知っている範囲のことを刑事さんにお話しした。
 
刑事さんたちは「非常識な時間に来訪して申し訳無い」と謝った上で実は遺体の引き取り手を早急に探しているので訪問したと述べた。良輔の恋人が大輔が政子と付き合っていたはずと証言したかららしい。大輔のカーナビにこの家が設定されていたので来てみたという。
 
「私は中田政子とペアを組んで歌手をしております唐本冬子と申します。中田は百道大輔さんと2021年の4月頃から付き合っていたようです。入籍しないまま子供もできちゃったんですが、今日大輔さんがうちに来るから私にも来てくれと政子から言われたので私はやっと結婚することにしたのかと認識しておりました」
 
「ああ、結婚なさるご予定だったのですか」
「私はそう認識していました。ただこれまで政子本人は結婚するつもりはないし子供も大輔の子供ではないと言っていました」
「中田さんには他にも恋人はおられたのでしょうか」
「そんな気配は無かったですね。それ以前の恋人とは、大輔さんと付き合い始めるより前に別れていますし」
「なるほどですね」
 

「あのお、百道大輔さんはどのような亡くなり方をしたのでしょうか。お兄さんと一緒に車に乗ってて交通事故にあったとかですか?」
 
2人の刑事は顔を見合わせた。
 
「病死と思われます」
「2人ともですか!?コロナか何かですか?」
 
と私は驚いた顔をした。
 
2人の刑事は再度顔を見合わせた。
 
「実は薬物中毒の可能性があり、現在医師が死因を調べているところです」
「薬物中毒って風邪薬の飲み過ぎとか?」
「いや、違法薬物の過剰摂取の疑いがあります」
「え〜〜〜!?」
と私は驚いてみせた。
 
「あなたは百道大輔さんが例えばコカインとか例えばLSDとかを使っていたような話は聞いたことありませんでしたか」
 
「そんな話聴いたことないです。大輔さんは他の人にも訊いてみれば分かりますが品行方正なタレントとして名前が通っていました。お兄さんの良輔さんはこれまでも何度か警察のお世話になっていたようですが、大輔さんは兄とは縁を切っていると言っていましたし、よくお金の無心をされていたようですか、一切耳を貸さなかったようです」
 

警察が政子と直接話がしたいというので、本人が強いショックを受けているようなので私が付いていてもいいならというので応じた。
 
スマホで呼ぶと政子は1人で出て来た。泣き顔だが足取りはしっかりしている。
 
「あなたは百道大輔さんと交際してましたか」
「いいえ」
「交際してなかったんですか!?」
「一時期は付き合ってましたけど、去年(2021)の夏頃に別れましたよ」
 
「えっと、でもお子さんを作られたんですよね」
「子供は産みましたけど大輔さんの子供ではないです。血液型を調べてもらったらハッキリしますが、生まれた子供の血液型はAB型です。大輔さんはO型ですから、彼の子供ではありません」
 
政子は自分で血液型のことも認識していたのかと私は少し驚いた。だったらもしかしてやはり松山君の子供?(←にぶいって)
 
「それでは誰か別の男性の子供なんですね」
「そうですよ。大輔さんとは別れたから彼とセックスすることもあり得ません。それにしても何度もデートを迫るから適当に返事してましたけど、一度も行ってません」
 
セックスはしてた気がするけど!?むろん私はそんなことは言わない、
 

刑事が私を見る。
「確かに中田は何度も大輔さんとデートの約束をしていたようですが、最近は全部すっぽかしていたようです」
 
「でも今日は一緒にクリスマスパーティーをなさることになってたんですよね」
「他のボーイフレンドを誘ったんですけど、都合が悪いと言ってきたので代わりに呼んだだけです。あくまでボーイフレンドのひとりとして」
 
刑事さんが私を見る。
「確かに女装パーティーにすると言ってました。大輔さんは女装面白そうと言ったらしいですね」
 

「それで大輔さんは何で死んだんです?やはり崖から落ちたとか車に轢かれたとかですか?あいつよくお酒飲んで夜遅く出歩いてたから。危ないよと言ってたんですけど」
「薬物中毒の疑いがあるのですが」
「薬物中毒というとやはりタバコの吸い過ぎ?」
「は?」
「あいつ1日にタバコ7-8箱吸ってたんですよ。さすがに吸い過ぎだからやめろと言ってたんですけどね」
「いえ、タバコではなくて違法薬物のようなのですが」
「そんなものに手を出してたんだ。馬鹿だなあ」
 
「あなたは百道大輔さんが例えばコカインとか例えばLSDとかを使っていたような話は聞いたことはありませんでしたか?」
「いいえ、それって高いのでは」
「確かに結構高い値段で取引されてるようですね」
「あいつタバコ代で月に10万くらい使ってたみたいですよ。その上にそんな高いものを買う余裕なんて無かったと思うのに。何かの間違いではないですか?」
「お兄さんと一緒だったのですが」
「それがおかしいですよ。あの人、兄貴とは一切関わらないようにしてると言ってました。一緒に居たというのも間違いということは?例えば偶然遭遇しただけとか」
 
刑事たちは顔を見合わせていた。
 

遺体の引き取り手はお母さんがいいと思うと言って政子はお母さんの住所と電話番号を刑事さんたちに教えてあげた。
 
「お母さんの住所・電話番号をご存じなんですね」
「ええ。3ヶ月ほど付き合ってましたし」
「なるほどですね」
「それで大輔さんの子供も預かってますし」
 
刑事たちは驚いたようである。
 
「それはまたどうして」
「大輔さんは去年コロナに罹って長期入院し、その後も長期間自宅療養していたんですよ。それで娘に移したくないから頼むと言われて預かりました。その子が私にもなつき、私の娘とも仲良くなったのでそのまま置いています。あちらはお母さんも身体が弱くてなかなか孫のお世話が出来ないようだっだし。こちらは子供が既に2人居たから。友だちのよしみですよ」
 
「そのお子さんのお母さんは亡くなられたか何かですか」
「あの子はお母さんと元々折り合いが悪かったんです。それに彼女再婚してしまったから元夫の子供を置くのははばかれたみたいだし」
「ああ、再婚に伴って前の夫との子供を人に預けるのは割とあることですね」
と刑事さんは理解を示した。
 

政子があっさり大輔との交際を否定し子供も他の男性とのものであると語ったことから、警察のそれ以降の捜査は簡易なものになったようであった。一応、政子それに私も任意の薬物検査を求められ応じたが、むろん陰性であった。
 
その後の情報は主としてテレビなどから得られたものである。
 
結局2人はLSDの大量摂取によるショック死ということであった。2人の発見者でもあった良輔の恋人は大輔はしばらくクスリをやめていたが、今回のアルバム作りで行き詰まり、そこに兄から勧められて再度クスリをやったようだということだった。薬をやめていた理由は、政子との結婚を考えてのことらしく、それを我慢するためたくさんタバコを吸っていたと言った。このあたりが政子の証言と一致した。
 
また彼女の証言から大輔が今月初めに薬物死したAと政子の二股をしていたのでは思われた。
 

警察は25日の午後にも良輔のパソコンを調べた。良輔の彼女がパスワードを知っていたのでそれで開いて中を調べる。その結果、良輔がLSDやコカイン、大麻やヘロイン、覚醒剤やMDMA(エクスタシー)などを売った人のリストが見付かった。彼はかなり大物の売人と思われた。
 
このリストには今月初めに死亡したAも含まれていた。ほかに大量の芸能人・スポーツ選手等の名前が捜査線上に浮かぶ。12月26日、大量の捜査官を動員して、それらの人に任意で薬物検査を求めたところ軒並み陽性になり大量の逮捕者が出て芸能界もスポーツ界もパニックになる。お正月を海外で過ごそうと日本から出る直前を成田などで拘束された人も居た。
 
スボーツ選手は今年度の成績が全て取り消された。属していたチームの成績まで取り消される騒ぎとなる。
 
芸能人ではテレビ番組やドラマに出演している人も多く、撮影済みのビデオが使えない事態が多発する。アクアの『少年探偵団』も何本かで撮り直しが発生した。
 
かなりメインの出演者が抜けてしまい、打切りに追い込まれる番組も多く、テレビ各局は代替番組の確保に追われた。主力選手が逮捕されて戦力がガタガタになった球団などもあった。
 
良輔・大輔の交友関係、過去の交際相手まで調べられた。大輔の前妻・青島リンナも事情聴取され「政子さんのことを考えて、今、クスリは我慢している」と大輔が言っていたという証言をしたので、政子がクスリのことは知らなかったと言っていたのを警察は信用してくれた。
 
リンナ自身は大輔が薬を使っていたことを知っていたことで犯人隠匿罪が疑われ任意で取り調べを受けたものの、検察は犯人隠匿罪は成り立たないとして不起訴にした。ただしリンナは社会的な責任を取るといい、向こう半年間の音楽活動自粛を発表した。
 
私ももし大輔がクスリをしていたことを知っていたなどと言ったら私も半年ほど活動自粛することになり、ほんとに大騒動が起きるところだった。千里・青葉が忠告してくれたお陰でそのような事態は避けられた。心の痛みは残るけど(千里や若葉から「冬はナイーブすぎる」と言われるゆえんか)。
 

取り敢えず出演者が多い年末・年始の特番(撮影済み)がほぼ使えなくなり(高額の制作費が掛かっていたのに)、若手芸能人を起用した生バラエティや長編映画の放送などに切り替えられた。3年前に放送された§§ミュージック制作の「The源平記」まで再放送された。
 
(使えなくなった番組の多くは代替出演者で一部を撮り直してゴールデンウィークなどの特番として再利用されたが、メインの出演者が逮捕された結果完全に使えなくなったものもある。テレビ局は大損害である)
 
コスモスは12月30日夕方!になってNHKの部長さんからの電話を受けた。
「出演者が足りないんです。そちらから男女1名ずつ推薦して頂けませんか」
「それでは紅組は白鳥リズム、白組は立山煌で」
「分かりました!それでお願いします」
 

コスモスはすぐ本人達を呼んで告げたが昨年に続き2度目の出演となった白鳥リズムは「やります、やります」と張り切っていた。一方デビュー年にいきなり紅白出場を告げられた立山煌は
「え〜〜〜!?」
と驚いていたが
「頑張ります」
と厳しい顔で言った。コスモスは彼のバックダンス&コーラスとして三国舜と沢村明美、鈴原さくらと長浜夢夜を一緒に付けて行かせることにした。男女2人ずつなのでフォークダンス風の踊りを踊ってもらう。
 
経験豊かなさくら・夢夜がいればだいぶ心強いだろう。女子ばかりでは(2人とも女子のはず)煌と同じ楽屋に居られないので、三国舜と沢村明美を付けることにした。沢村明美は信濃町ガールズ関東のメンバーで今年は『黄金の流星』・『竹取物語』にも出演した。コスモスが直接本人に電話したら「ぜひやらせてください」と言って飛んできた。彼は先日の昇格試験では関東予選の段階で僅差で大館蒔乃に敗れ、関東代表になれなかったのである。それで悔しい思いをしていたところに大抜擢で大喜びしていた。
 
他の紅白組はこうなる
北里ナナ with 金平糖(セレン・クロム・花園裕紀)
ラピスラズリ with 甲斐姉妹・直江姉妹
常滑舞音 with CAT sisters
薬王みなみ with ATG
白鳥リズム with 北陸組(入瀬姉妹・麻生ルミナ・紺青セイラ)
 
リズムが紅白の方に出ることからカウントダウンの出場順は少し調整されることになった。0時前のカウントダウンが姫路スピカで、ニューイヤーはアクアで行く。
 

紺青セイラは12月10日の昇格オーディションに合格したばかりの川本浜菜にコスモスが付けた芸名である。彼女は射水(いみず)市の出身で射水市には初代・海王丸が展示されており、“紺青”とはこの海王丸が付けていたフィギュアヘッドの名前である。
 
日本丸(横浜)“藍青”祈る女性像
海王丸(射水)“紺青”横笛を吹く女性像
 
但しこのフィギュアヘッドは現在2代目海王丸に移設されている。
 
また川本浜菜はフルートが上手いことからこの名前になった。“セイラ”はセイラー(水兵さん)に由来する。また実は彼女のお父さんが海上自衛隊の出身であった(護衛艦に乗っていた)。最終的に1等海曹(他国で言うと一等軍曹)まで行っているがセーラーさん時代の写真もたくさん残っている。
 
「これが父さんのセーラー服姿だ」
と言って楽しそうに見せてくれるらしい。
 
合格したばかりでいきなり紅白の舞台というので「すごーい!」と興奮していた。今年の春くらいの段階で、入瀬ホルン・麻生ルミナ・紺青セイラが北陸支部でトップ争いをしていたらしい。またこの4人は次の楽器が得意である。
 
入瀬コルネ:ヴァイオリン
入瀬ホルン:ホルン、ギター
麻生ルミナ:クラリネット、ピアノ、エレクトーン
紺青セイラ:フルート、ベース
 
(入瀬姉妹もフルートをわりと吹く。ただセイラが一段高いレベル)
 
それで何となくこの4人でバンドも組める感じである。音域はルミナだけがアルト、他の3人はソプラノである。
 

ラピスラズリ主演の『占い女子高生みつる』はいったん12月で終わる予定で12月最後の放送(12/26)では最終回っぽい展開だったのに“玉突き”の結果急遽延長されることになり、バタバタと放送前日!(1/8)に撮影が行われた。2日前の1月6日に発注された台本が完成してなくて、最後の5分くらいを朱美と敵役の木崎望夢演じる“螺旋大魔王”のアドリブで撮影するなどという凄いことになった。でも2人とも即興演技が得意なので何とかなった。
 
(木崎の役名は最初の台本では“羅切大魔王”だったが田代プロデューサーが「さすがにその名前はやめろ〜」と言って“螺旋”に変更された。衣裳はハイレグ+厚手タイツでちんちんが無いことが一目で分かる。この上半身にDNAみたいな二重螺旋の絵を描いた。この衣裳が着られるのは多分彼だけ)
 
この番組は結局4月以降も継続されることになった!主人公?の東雲はるこがあまりにも演技力が無いので打ち切りしようという声はあるものの、代わりの番組が作れないのである。
 
本当は1月から倉田ミチコ主演『有閑女子高生の事件簿』をこの枠でやる予定がそちらは火曜日夕方の枠に入れられた。
 

百道良輔・大輔の葬儀は結局1月5日になり都内の葬儀場でひっそりと行われた。出席者は下記である。
 
喪主:百道和子(73)
葬儀委員長:須藤美智子(54)
桜川悠子(31)・美季(4)
青島リンナ(35)
中田政子(31)・夏絵(4)
大輔の事務所の元社長(引責辞任)
大輔のレコード会社の元部長(引責辞任)
 
私は「関わるな」という複数の人の忠告から欠席させてもらった。
 
良輔の彼女は自らも薬物所持で捕まって拘置所の中なので出席できない。
 
須藤は良輔の元恋人で悠子は良輔との娘。美季は悠子の娘。青島リンナは大輔の元妻、夏絵は大輔との子供。中田政子は大輔の元恋人。
 
悠子は良輔の子、夏絵は大輔の子だから2人は従姉妹。夏絵と美季は同い年だが、従姉妹違いということになる。
 

その夜政子は私に“姫始め”を求めたので、私たちは約2年ぶりのセックスをした。
 
「最初妃登美ちゃんに電話してさ。亮平を一晩貸してと言ったら妃登美ちゃんは『いいよー』と言ってくれたのに亮平が『悪いけど私とはセックスしない』と言うからさ。貴昭に電話して『セックスしたい』と言ったけど、大輔の四十九日までは遠慮すると言うし」
 
つまり私は3番目のようだ。
 
「やはり大輔さん好きだったの?」
「まあ少しは好きだったかもね。既に別れていた人ではあるけど。でも本当に去年の夏大輔とは別れたんだよ。私はその後で妊娠した。そしてそのあと再度大輔から言い寄られてさ。まあデートくらいはしてもいいよと言ったけど、実際は1度もしなかった」
 
なるほどそのタイミングで松山君としたのかと私は思った(←にぶすぎるよ)
 
でも時間を置いて松山君と結婚するんだろうし、今彼は独身なのだから誰に咎められることもないだろうと私は思った。
 

政子はボーってしていることが多く、ローズ+リリーのアルバム制作はあと少しになってから停滞していた。私は政子のお母さんに言い、敢えてかえでの世話を政子にさせるようにした。
 
「ごめんねー。お母ちゃん頑張るね」
と言って、政子もかろうじて自分が母親であったことを思い出し、子供の世話をしていた。
 

大輔と青島リンナの間の子供、夏絵については、常識的には青島リンナに託すべきかも知れなかった。しかし何よりも夏絵自身が「リンナ母ちゃんの所より政子母ちゃんの所に居たい」と言った。そもそも青島リンナ自身が今は別の男性と結婚してその間に子供(敦子)もいることから、リンナは「もし可能ならマリちゃんに預かってほしい」と言った。それで2人の話し合いで夏絵は政子が養女にすることになった。
 
「子供が実の母親のところに行きたくないというのはよほどのことでは」
と政子の母は夏絵がリンナに虐待されていたのではと想像したようだが、リンナ曰く
「私楽曲の仕上げしている時期とか子供の世話忘れちゃってさ」
ということのようであった。それで数日御飯も食べられないなどということもあったようである(半分想像)。
 
しかし政子の家にいれば政子の母が確実に御飯をくれるから、夏絵にとっては快適だろう。それにあやめと意気投合していたのもあると思う。
 

百道良輔・大輔の兄弟は莫大な借金も遺していた。政子が保証人になってあげていた分もあったので、私は婚約者で弁護士の木原正望に同伴してもらい全ての借入先に完済して回った。中には法外な利子を提示した所も会ったが弁護士バッジを見ると素直に法定利息で計算し直した。
 
リンナもかなり保証人になっていた。彼女にも正望に同伴してもらい借入先を回って完済させた。その返済資金は夫の高橋俊郎さんに借りたがリンナは数年で完済した。
 
良輔・大輔のお母さんの場合は返済資金が無かったし、どこかからそれを借りたとしても返せる見込みが無いので自己破産を勧めた。金額が巨大でもあったことから、その手続きには1年近く掛かった。
 

政子は大輔が亡くなった後、とても詩が書ける精神状態では無くなっていた。政子がこんなに落ち込んでいるのを見たのは初めてであった。
 
しかし政子は大輔の四十九日(2023年2月10日だが実際には2月5日(日)に行った)が終わり、納骨も済ませた後、私に言った。
 
「私、そろそろ復活しなくちゃ」
「そうだね。そろそろ復活してもいいかもね」
と私も言う。
 
「私、また宮古島に行きたいな」
「ああ、いいね」
 
以前宮古島に行った時(2019.6)にお世話になった、元§§プロ社長の紅川さんに連絡したところ「いつでもおいで。好きなだけ居ていいよ」と言うので、政子とあやめ・大奈!・かえで・夏絵、政子の両親、それに世話係として雇った小平市内の女性2人(後藤令美・江川花凛)(*1) で宮古島に向かうことにした。千里の Gulfstream G450 で宮古空港まで飛んだ。
 
(私は多忙なのでさすがに同行できない)
 
(*1) 後藤さんは元料理人(洋食屋さんに勤めていた)だがコロナでお店が潰れたらしい。江川さんは元看護師でコロナ以降仕事が増えて感染防止に神経を使って疲れて退職したらしい。後藤さんが主として食事を作り、江川さんが主として子供たちを見ているが、ふたりの役割は固定せず、どちらも料理・子供の世話お願いしますということで了承を得ている。茶碗洗うのなどはあやめ・夏絵などにたくさんやらせてくださいと言っておいた。
 

現地では前回同様紅川さんの家の離れで政子一家は過ごした。付き添いの女性2人は紅川家の近くの空き家を私が買い取り、鱒渕水帆マネージャー、千里の友人男性2人が先行して宮古島入りしてもらい(Honda-Jet使用)、一週間掛けて整備してそこに泊まってもらえるようにした(通称“宿舎”)。
 
また千里の友人たちは紅川さんの許可を得て紅川さんの家の庭に防音壁に囲まれたスタジオ・ユニットも置いてくれた(ユニットハウス)。こちらは大阪で整備したものを船で?運んでくれたらしい。
 
(抱えて飛んでったということは?)
 
千里の友人男性たちはすぐ戻ったが、鱒渕は“宿舎”に後藤・江川と一緒に泊まって政子の練習などを見てもらう。
 
政子は大輔の戒名をお坊さんに書いてもらった紙を広げ毎日夏絵と2人で「なんまいだぁ、なんまいだぁ、1枚だぁ、2枚だぁ、3枚だぁ」??などとやっていたようである(10枚まで行く)。
 
また毎日2時間くらいスタジオに入り、発声練習などをしていた。それ以外にもスタジオに置いたクラビノーバをかなり熱心に弾いていた。スタジオには空いている時はあやめも入り、クラビノーバを弾いたり自分の10分の1ヴァイオリンを弾いたりしていたようである。あやめの練習はけっこう毬藻さん(紅川の娘さん)が見てくれていた。
 

4月2日(日・とず)は大輔と良輔の百ヶ日であった。
 
この日東京では須藤美智子が主導してお寺で法要をしてもらったのだが、政子は宮古島のお寺に夏絵と2人で行ってお経をあげてもらい、戒名の紙も納めて、それで“おしまい”にして、毎日のお祈りもやめてしまったらしい。
 
「もういいの?」
とお母さんが訊くと
「うん。もう大輔との縁はこれで完全に切れた」
「相変わらずドライだね!」
「千里も前の旦那が死んでから百ヶ日で仕事に復帰したらしいし、私もこれから仕事に復帰するよ」
「へー」
 

4月3日(月・たつ).
 
松山貴昭は車(アクア)に2つのチャイルドシートをセットし、娘の紗緒里(5)・安貴穂(3)を乗せて“母娘3人”で東京に移動。親友の佐野敏春を通して借りていた小平市のアパートに入居した。
 
「松山が女の格好してるから俺が愛人囲うみたいだ」
と佐野君。
「僕までいると男ふたりで共同愛人を囲うみたいに見えたりしてね」
と一緒に引越を手伝ってくれた麻央(*2).
 
「一応基本的な食料品も買い揃えておいた」
「すまない。幾ら掛かった?」
「唐本(冬子)がお金は出したから気にするな」
「すまん」
「直接聞いてるだろうけど今中田(政子)は沖縄の宮古島なんだよ。帰ってきたら会いに行くといいよ」
「そうする」
 
(*2) 佐野君と麻央は多くの人に男性同性愛の夫婦と思われている。
 
佐野敏春:外見男、体は男、心は男、恋愛Act女,Recバイ
佐野麻央:外見男、体は女、心は女?、恋愛Act/Rec共にバイ
松山貴昭:外見女、体は男、心は女、恋愛Act女,Recバイ
 

4月3日、政子はこんな詩を書いたぁと言って私にFAXしてきた。『お空にバイバイ』という詩である。大輔さんのことかなと思った。念のため八雲さんに詩を見てもらったが「公開は問題無い」という意見だったので曲を付けた。この歌に関しては Havai'i 99 (タヒチアン・バンド)(*3) の伴奏でというマリの指定だったので、中橋さんに照会し伴奏OKの返事をもらえた。
 
伴奏音源を作ってもらいマリに送ったら「ここをこうしてほしい」というコメントがある。私ももっともだと思ったので直してもらった。これを3回繰り返した上で伴奏完成とした。
 
(*3) Havai'i はポリネシアン民族の自称である。ただ各方言により少しずつ発音は異なる。
 
マオリでは Hawaiki
クックでは 'Avaiki
ハワイでは Hawai'i
サモアでは Savai'i
タヒチでは Havai'i
 
むろん「ハワイ」の語源。ここで「'」は《声門閉鎖音》、喉を一瞬閉じて息の流れを止めるような音である。日本でも琉球方言や薩摩方言には見られるほか他の地域でも例えば“柿”を ka' と発音する人がいる。
 

2023年4月7日(金).
 
私は伴奏音源がほぼ完成した時点で、録音技術者の長山海音(24) とともにHonda-Jetblueで朝から宮古島に飛び、『お空にバイバイ』のボーカル録音をすることにした。
 
ちょうどお昼くらいの段階で、鱒渕マネージャーの感覚で“完成”と思われる伴奏音源ができていたし、政子もちょうど目覚めたところだったので、午後いっぱい練習し、夕方19時前(宮古島のこの日の日没は18:58)の録音で完成とした。
 
ただちにこのデータを東京に送り、マスタリングに着手してもらった。これは七星さんに監修してもらったが曲順については私と七星さんが電話で話しあって決めた。
 
マリ&ケイ『空に祈る』
マリ&ケイ『気球に乗って行こう』
マリ&ケイ『スパイラルコーン』
鴨乃清見『つばさを駆って』
水野歌絵・醍醐春海『虹の隙間』
森之和泉+水沢歌月『草原に寝転がって』
 
未来居住・福沢聖子『ソランラソラ』
大宮万葉『雲と風の歌』
蜂矢仁美・波斯魔琴『傘を忘れる法則』
マリ&ケイ『星のふるさと』
マリ&ケイ『ふわふわのお布団』
マリ&ケイ『お空にバイバイ』
 
緊迫した感じの『空に祈る』から始まり底抜けに明るい『お空にバイバイ』で終わる。けっこういい感じにまとまったなと思った。
 
なお舞音ちゃんが書いてくれた曲名は一見「そらそらそら」に見えるが実は「そらんらそら」である。ダジャレ女王?の舞音ちゃんらしい曲である。
 
しかしこれで4ヶ月制作がストップしていたアルバムがやっと完成した。八雲課長もホッとしたようである。
 

この日、私は紅川家の離れに、長山さんは“宿舎”に泊まる。“宿舎”は5人まで泊まれる(無理すれば最大20人くらい泊まれる)。ただし女性専用とさせてもらう。後藤さんは「男の娘さんまでは泊めてもいいよ」と言っていた。
 
政子は私にセックスを求めたので夜中にスタジオの方で睦みごとをした(オフィスラブ)。
 
「これで帰る?」
「なんか日食があるらしいからそれを見てから帰る」
 
私と長山さん、それにアルバムリリースのための作業がある鱒渕マネージャーは翌日(4/8)朝、宮古空港から熊谷に帰還した。
 

4月9日(日).
 
この日は松山貴昭の妻であった露子の一周忌であった。貴昭はこちらのお寺に娘2人と一緒に行き、お坊さんにお経をあげてもらうつもりだったのだが、なんと妹さん一家が東京に出て来てくれたので一緒にお寺に行くことにした。
 
「どうしよう?私男物の喪服持ってない」
と思い、佐野君に借りようかと思ったのだが
 
「“お義姉さん”のことはよく分かってます。女物の喪服でいいですよ」
と妹さんもその旦那さんも言うので、開き直って女物の喪服を着た。
 
「大きなお花がある」
「友達が送ってくれたんですよ」
 
(「友人一同」の名義にしてある)
 
「へー。ありがたいですね」
 
それで娘たちにも黒い服を着せて一緒に予約していたお寺に行った。
 
一周忌の後はお寺の食堂で精進明けを一緒に食べ、その後は2家族で一緒にTDLに行くことにした。貴昭とふたりの娘、それに露子の妹さんとその娘さんは女性用更衣室で普段着に着替えた。貴昭は春物のワンピースに着替えた。
 
「可愛い。レディスを着こなしてますね」
「お恥ずかしい」
「恋人さんは・・・男の人?」
「いえ、向こうも女性です。私、恋愛対象は女性なんです」
「なるほどー」
 
妹さんは露子との結婚は偽装結婚ではと少し疑っていた感もある。
 

TDLの入場料は「貸し借りが面倒だからそれぞれ出しましょう」という妹さんの夫の提案でそうした。両家族ともたっぷり遊んだ。子供たちが大喜びだった。
 
(昨年USJに行ったので東西2大テーマパーク制覇)
 
「明日甑島(こしきじま)(*4) に帰られます?」
「明日夕方の羽田発福岡行きを予約しています」
「福岡から車ですか」
「いえ、私たち福岡に引っ越したんですよ」
「ホントですか!」
 
やはり子供たちの教育を考えると移住は早い方が良いと言って今年の1月に福岡の企業に転職したらしい。現在は福岡市中央区の公団に住んでいるものの、早良区あたりに家を建てるかもと言っていた。
 
妹さんは最後に言っていた。
「去年も言ったけど、もう一周忌終わったし再婚していいですからね」
「はい、ありがとうございます」
 
(*4) 甑島は公式には「こしきしま」だが、地元では「こしきじま」と読まれている。
 

2023年4月9日(日)は復活祭(イースター)であった。
 

2023年4月9日(日).
 
23:59.
 
政子のスマホに着信があった。
「はい」
「お花贈ってくれてありがとう」
「まああまり表面には出たくなかったけどね」
「でも滞りなく済ませられたよ。ありがとう。あいつ女の友だちが皆無だったし。いつも誰かと戦ってた子だったから」
「mixiやLINEの友だちは?」
「ほとんど発信してなかったし」
「ふーん」
「一応報告だけと思って」
「了解」
「いつ東京に戻るの?」
「なんか近く夜食があるらしいのよ」
「・・・・・」
 
電話相手は、しばし考えた。
 
「もしかして日食?」
「あ、それそれ。それを見てから帰ろうかな」
「だったらさ、日食が20日だと思うけど、その2日後の22日・土曜日に高校の同窓会があるから、そこで会わない?」
「ホテルで会ってもいいけど」
「いきなり〜?」
 

「生セックスさせてあげるよ」
「・・・・(妄想中)」
 
「まあ同窓会の会場なら私たちが話してても誰も咎めないよね?」
「(理性を振り絞って)だからそれまでに帰ってこれたら。あ、でも飛行機は日食見た人で混むかも」
「大丈夫と思う。自家用機あるから」
「さすが凄いもん持ってるね!」
「同窓会にはレディス着て来るよね?」
「メンズだよぉ」
 
「無理しなくていいのに。もう性転換手術も終わったんでしょ?新しいヴァギナに入れてあげるよ」
「そんな手術受けてない」
「料金必要なら出してあげるけど」
「(一瞬悩んでから)まだ10年は遠慮しとく」
 
「じゃ40歳になる前に性転換手術ね。そしたら人生の半分を女で過ごせる」
「・・・・・(妄想中)」
 
この日政子は「電話代かかるから」と言って政子から掛け直し3時間ほど話していた。
 

マリは4月20日の日食を見てから帰ると私(ケイ)に言ってきた。それで千里が政子を迎えに行ってくれることになった。ついでに桃香および自分の子供たち(京平・早月・由美・緩菜)も連れて行った。夕月はまだ小さいのでお留守番である。
 
この日食は東京では見られない。房総半島の館山で0.009, 紀伊半島の潮岬で0.025, 鹿児島で0.029, 那覇で0.149, マリの居る宮古島では0.155まで欠ける。そのため宮古島まで日食を見に来る人が大勢集まって来ていた。オーストラリアまで行くと皆既が見られるので皆既を見たい人の多くがオーストラリアに行ったようである。コロナもだいぶ落ち着いて来たことから海外渡航もしやすくなってきている。
 
この日、テレビの日食取材班が乗る観測隊第1群は3機のジェット旅客機で南アフリカのヨハネスブルグを日本時刻7時(現地時刻で午前0時)頃に離陸して一路観測地へ向かった。時速1100km程度のいわゆる遷音速で4時間ほど飛行し、インド洋の南、ケルゲレン諸島(les iles Kerguelen) 付近に到達する。
 
ケルゲレン諸島は地図で見ると一見、紅葉の葉のような形をしたひとつの大きな島に見える。実は元々はケルゲレン微少大陸と呼ばれる小さな大陸だったのが海に沈んで(海面上昇で)現在は諸島と化している。とても小さな島が多数で構成されており、島と島を区切る水路はまるで川のようである。現在の面積7215km2.四国の3分の1程度の広さである。
 
↓iles Kerguelen (from fr.wikipedia, 但し雲を少し消した)

 
日食が始まるポイントはこのケルゲレン諸島の北西、48゜27.1'S、63゜37.5'Eの位置である。日出直後で最初は金環食で始まる予定だったのだが・・・・
 
雪である。
 
観測ポイントに浮かべた船の上でリポートするNHKの人気女子アナが悔しそうな表情で風雪に荒れる夜明け空の中継をしていた。
 

しかしジェット機は雲の上を飛ぶので雨も雪も関係無い。安全間隔ギリギリの10km程度の間隔をあけて飛ぶ3機の飛行機は、各々アメリカ・日本・NATOに所属していて、共同で取材をしている(パイロットはアメリカ空軍・航空自衛隊・NATO空軍所属の熟練パイロット)。テレビにはこの3つの飛行機から太陽を映した映像が並んで表示されている。
 
日本所属の観測機に乗る神奈川の民放テレビ30代ベテランアナウンサーが「雲の上は晴れです。東の海から欠けた太陽が登ってきました」と報告する。この第1群の観測ポイントはケルゲレン諸島の北東、南緯46.5度・東経71.6度付近、日食開始ポイントから600kmほどの距離の場所である。
 
そして日本時間の11:37(現地時刻6:37)、日食はこの地点で金環食から一時的に部分食に変化した後、皆既食に変化した。テレビの画面では最も西を飛ぶNATOの飛行機の画面が金環食から部分食に変化し、そのわずか2秒後に最も東を飛ぶアメリカの飛行機の画面が部分食から皆既食に変化して「ハイブリッド食」というのがどういうものか中継されている各国の一般家庭に伝わったようである。この変化する間、真ん中の日本の飛行機の映像は部分食のままであった。
 
この様子は日本とアメリカ・ヨーロッパ諸国はもとより、オーストラリア・ニュージーランド、韓国や台湾・中国・東南アジア・インド、などにも中継されているのだが、幻想的な天体ショーにかなり沸いたようである。
 

中継はその後、オーストラリア北西端(12:29)、東ティモール(13:15)、ニューギニア島北西部(13:49)の定点観測地点から、##放送、◇◇テレビ、ΛΛテレビの女子アナがレポートをし、幾つかの洋上観測ポイントでの中継もあった。
 
宮古島に居るマリたちは13:25頃、全員日食グラスを持って表に出て南から少し西の方にある太陽を見る。
 
「まだ欠けてないよ」
と政子が言う。
 
「もう少しだよ」
と千里は答える。
 
「あ、左側が少し欠けてきた」
と最初に声をあげたのはあやめであった。
 
宮古島での日食は13:28に始まった。
 
「これもっと欠けるの?」
「いや、ここではちょっと欠けるだけ。一応最大食は14:16くらい」
 
「なんだつまらない」
などと政子は言うが、あやめ・夏絵・緩菜・由美の4歳児連合、京平や美優・早月・哲夫などは太陽が少し欠けているのを見て、充分大騒ぎをしていた。
 
「でもけっこう長時間継続するね」
と桃香が言う。
 
「終了は15:01かな」
 

この天体ショーを、太平洋上からレポートするマッハ8の特別機(白浜友紀レポーター(*5) )の中継まで見てから、マリたちは宮古空港に移動し、帰途に就いた。
 
(*5) このレポーターのオーディションは青葉が欺されて参加し優勝したものの「まだ現役続けます」と言って辞退したので、2位の横川(♂バレー)、3位の白浜(♀卓球)、4位の水崎(♂テニス)が1年間NASAで訓練を受けた。しかし2位の横川がコロナに罹り3位の白浜が搭乗した。
 
青葉をあのオーディションに参加させたのは青葉にまだ水泳選手を続けて欲しい誰かの陰謀という気がする。
 

紅川さん一家が空港まで見送りをしてくれたが、すっかり仲良くなった子供たちが別れを惜しんで泣いたりするので、
 
「また来るよ」
と言ってマリたちは千里のGulfstream G450(定員14名+Babybed)に乗り込んだ。
 
乗った人
(7)政子・あやめ・大奈(*6)・夏絵・かえで・政子の両親
(2)後藤・江川
(6)千里・桃香・京平・早月・緩菜・由美
 
定員ジャストである。かえでをベビーベッドに収納した。但し離着陸の際は、8ヶ月児のかえでは千里が抱っこひもで抱いていた。この中でいちばん安心な人である。(来る時は政子のお父さんが抱いた)
 
2時間ほどの飛行で熊谷の郷愁飛行場に戻り、そこから政子たちは小平市の自宅に、千里たちは浦和の自宅にそれぞれ戻った。
 
(*6) 大奈(大輝)は宮古島に居る間ずっと女の子の服を着ていた。それでプールに行ったり(女子更衣室を使う)、スパに行ったり(女湯に入る)していたが、誰も彼女(暫定的に“彼女”でよい)の性別には疑問を感じなかった!政子の母・恵美は「まだ小さいし、いいか」と思っていたようである。
 

実家に戻った政子に私は連絡した。
 
「同窓会の案内が来てるよ」
「どの同窓会?」
 
(白々しい)
 
「高校の時の。今週末。土曜日、つまり明後日(4/22)」
「ふーん」
「佐野君が幹事だよ」
「だったら行くしかない」
 
(なんて白々しい)
 

夏絵とあやめは市内の幼稚園に通わせるべく昨年秋に入園試験を受けさせ、4月10日から通園するととになっていたのだが、宮古島に行っていたので東京に帰ってきた翌日、4月21日(金)から政子の母・恵美(めぐみ)に連れられて初登園した。
 
「双子?でもあまり似てないね」
「私たち同い年の姉妹」
「なるほどー」
「時々そういう子いるよね」
 
なお、ふたりは最初から政子の娘として幼稚園には登録している。だから夏絵は本当は“百道夏絵”なのだが“中田夏絵”の登録。あやめは本当は“唐本あやめ”なのだが、やはり“中田あやめ”の登録である。
 

2023年4月22日(土).
 
政子はその日佐良さんの運転するアコードで都心に出て来た。そして恵比寿で私を拾ってもらい。一緒に同窓会会場になっている深川アリーナに行った。
 
会場で政子は松山貴昭と遭遇(?)した。
 
貴昭はこんなことを言った。
 
・妻が亡くなった後、父子家庭では子供の世話が物凄く大変。保育所に娘2人を入れているが、時間までに迎えに行くことができず「こういうのは困ります」と度々注意された。
 
・子供の世話を自分の親に頼みたい、降格してもいいからと言って何とか東京に転勤させてもらった。こちらの保育所に預けておき、時間までに自分の母に迎えに行ってもらっている。そして自分が会社を終えたらそこに迎えに行っている。
 
・しかし子供たちと自分の母が合わず、また東京と大阪の生活習慣の違いからいきなり難しい状況になってきている。また兄の奧さんがかなり迷惑そうな顔をしている。
 
政子は言った。
「その子たち、昼間はうちの家に連れてこない?こちら子供4人いるからさ。あと2人くらい増えても大差無いよ」
 
そうだね。政子は大差無いだろうな。政子のお母さんが悲鳴あげそうだけど。
 
でも貴昭は
「そしたらそちらにお邪魔させてもらおうかな」
 
と言って、貴昭の2人の子供は保育所に行かせず、政子の家に来ることになった。
 
(もう既に2人でそういう話になっていたのでは?私も佐野君も呆れていた)
 
私は沖縄でお世話係をしてくれていた女性2人、後藤さん・江川さんに、こちらでも昼間から夕方に掛けて子供の世話をお願いできないかと頼み、了承を得た。
 

4月24日(月).
 
政子の母・恵美(めぐみ)は早朝から大量のサツマイモと格闘していた。実は桃香が「千葉の伯父さん(高園洋彦“きよひこ”と読む)から大量にサツマイモをもらい、とてもこちらだけでは食べきれない」といってお裾分けなのである。
 
恵美は政子のリクエストでその大量のサツマイモをどんどんロースターで焼いて焼き芋にしていた。政子はもりもり食べていた。
 
そこに貴昭が(男性用スーツ姿で)来訪する。
 
「済みません。お世話になります」
と言って彼は紗緒里(5)と安貴穂(3)を連れてきた。
 
「いらっしゃい」
と恵美が2人を笑顔で歓迎する。
 
「おはようございます。私が紗緒里(さおり)、こちらが妹の安貴穂(あきほ)です」
 
と姉の紗緒里が代表してしっかりと挨拶する。
 
「おお、偉いねえ、ちゃんと挨拶できるんだね」
と恵美。
 

すると焼き芋を食べていた政子は
 
「サホちゃんもアキちゃんも、ほら、お芋食べなさい。美味しいよ」
と言った。
 
紗緒里は一瞬ためらったようだが、3歳の安貴穂が
 
「わあ、おいしそう。まぁおばちゃん、どのくらいまでたべていい?」
などと政子に訊く。(*7)
 
「10本でも20本でも100本でも食べていいよ。足りなくなったら、誰か買いに行ってくれるから」
などと言う。(きっとお父さんが買い出しに行ってくれる)
 
それで安貴穂が
「いただきまーす」
と言って、食べ出すと、紗緒里も最初遠慮がちに1本小ぶりのを取って食べ出す。
 
「おいしい!」
とふたりとも笑顔になる。
 
「これほんとに美味しい芋だよ。ふたりともどんどん食べなさい」
「はーい!」
 
それを楽しそうに見て、貴昭は出勤して行った。
 
(*7) 政子は実はこのふたりに何度も会っており「まぁおばちゃん」と呼ばれている。敏春は「としおじさん」、麻央は「まぉ兄さん」!
 

そしてこの日から、政子(のお母さん!)は6人の子供を育てることになったのである。
 
7時半頃にあやめたち3人が起きてきたが、すぐに2人と仲よくなった。そして一緒に焼き芋を朝御飯代わりに食べた。8時半頃、恵美が夏絵とあやめを幼稚園に連れて行く。その間は政子の父・晃義が子供たちを見ていた。
 
11時になると後藤さん、14時になると江川さんもやってきたが
「戦力が増強されてる」
「きっと破壊力も増強されてる」
と子供たちを眺めていた。
 

私は恵美さん・貴昭と3人で話しあい、もうすぐ6歳の紗緒里については幼稚園に入れることにし、夏絵・あやめが通う幼稚園に「急に転勤になったので」と言って転入を申し入れた。それで紗緒里は早朝この家に来ると朝御飯を食べてから9時前に恵美さんが夏絵・あやめと一緒に連れて幼稚園に登園し、午後3時頃迎えに行って3人を連れ帰るようにした。
 
保護者は一応松山貴昭ではあるが、送迎は親族(面倒臭いのでそういうことにした)の中田恵美が主としてします、と届けている。
 
貴昭はこの時期は会社を退勤後だいたい午後8時頃この家に来る。娘2人は既に夕食を終えているので彼もここで夕食をもらってから、一息ついた後一緒にアパートに帰ることにしていた。しかし少し遅くなった場合は娘たちはもう寝ているのでそのまま寝せておき、貴昭だけ帰宅していた。
 
この時期の部屋割
 
1F LDK
1F MBR 両親+かえで(2022.8)
1F 10J work room, マリ
2F 6J あやめ(2019.2)・夏絵(2018.8)・大奈(2020.10)
2F CL
2F4.5J 紗緒里(2017.5)・安貴穂(2019.9)
離れ1F Garage
離れ2F
Studio Piano(S6B) 楽器類
 
このパターンが5月23日までは続いた。
 
 
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【夏の日の想い出・Xデーと復活】(1)