【夏の日の想い出・いろはに金平糖】(5)

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水森ビーナはその日、“新しい高校”での3日目の授業を午前中だけ受けた。ラピスラズリの2人及び、同じクラスで、何となく話の合う本坂愛菜ちゃん(Cats Five)と一緒に早退する。生徒玄関の所に行き、川世マネージャーが迎えに来てくれるのを待った。
 
玄関の所には1つ上の学年の、白鳥リズム・ビンゴアキ・羽鳥セシルも居て
「お早うございます」
と挨拶する。
 
「でもお互い大変ネ」
「去年はセシルは11月頃から5月頃までひたすら午前中だけで早退というのが続いていたね」
とリズムが言っている。
 
「あれはちょうど2学年にまたがったからギリギリ進級できたんだよ。学年の真ん中であれやってたら留年してた」
とセシルは言っている。
 
「ビーナちゃんも前の学校に居たら出席日数足りなかったでしょ?」
と朱美が言う。
 
「微妙な所だったみたい」
「この学校なら、あのアクアだって卒業できたんだから大丈夫だよ」
とリズムは言っていた。
 
「アクアはこの高校だったの?」
「そうだよ」
「女子校に通ったんだ!?」
「アクアは女の子なんだから女子校に入るのに何の不都合も無い」
「へー!」
 
じゃ、やはりアクアさん性転換してたのか、とビーナは思った。
 

1月10日(祝)に大阪から戻ってきたら、自分の部屋が男子寮から女子寮内の天羽家に引っ越していて仰天したビーナだが、1月11日からは、女子寮から比較的近い、北区のC学園に通うよう言われた。
 
ちゃんとC学園の制服も用意されていたので更に仰天した。
 
むろん用意されているのは女子制服である!彼の採寸表は姉のひろかが持っていたので、そのサイズで制服を頼んでいたらしい。
 
編入されたクラスに、ラピスラズリの2人、およびテレビ番組などで何度か会ったことのある、キャッツファイブの本坂愛菜ちゃん(作曲家・本坂伸輔の“娘”)が居たので、少しホッとした。東雲はるこちゃんとも、本坂愛菜ちゃんとも何となくセンスが合う感じで仲良くなれた。朱美が
「はるこの仲間がまた1人増えて嬉しい」
と言っていたのは、どういう意味だろう??
 
1つ上の学年には、上述のように白鳥リズム・ビンゴアキ・羽鳥セシルも居て、この時期はこのメンツは、午前中だけ授業を受けて、午後からは早退して仕事をするという日常を送っていた。リズムちゃんによれば忙しい芸能人高校生はだいたい12月に入る頃から、2月上旬の節分前後まではこの状態になる人が多いという話だった。
 
他に、ColdFly5の花崎律子(ColdFly20/ColdFly5では花咲鈴美と名乗っている:実は有名歌手の娘なので騒がれないように別名を使っているらしい)などもいるが、彼女は授業が終わってから仕事に出掛けるので済むらしい。
 
この年のC学園高等部の主な在校生:−
6年 大崎忍★・田中宏佳☆(成美の妹)・佐藤小百合(WindFly20)
5年 白鳥リズム・羽鳥セシル★・ビンゴアキ・中村明恵・栗原リア・松元蘭
4年 東雲はるこ★・町田朱美・本坂愛菜△・花咲鈴美(ColdFly5)・水森ビーナ・田中慶子☆(宏佳の妹)
 
異様に男の娘率が高い!(★☆△には深い意味は無い、多分!)
 

ビーナは転入学した後で、ここが女子校であることを知ってまたまた仰天したのだが、これまでも昨年6月以降、学校に女子制服で通い、実質的に女子高生していたので、女子校に入っても、そんなに何か変わったような気はしなかった。
 
ただ、これまで様々な場面で男子と女子を分けられて行動していたような所で生徒が全員女子なので、その男女に分けられるというステップが無いことに最初は戸惑った。身体測定も全員で一緒に行くし、体育の着替えも教室でそのままみんな着替える。また女子校だからトイレも女子トイレしか無い。トイレに男女表示が無い。そのことにも最初は違和感があったが、すぐ慣れた。
 
もう女子トイレを使うのに慣れてしまって、自然にクラスメイトの女子たちと一緒にトイレに行って列に並ぶし、自分はもう男子トイレには入れないなあと思う。
 
そういう訳で、1月11日以降、数紀は、女子寮に住み、女子高に通う、女の子アイドルになってしまったのであった!
 

2022年1月15日(土).
 
ΛΛテレビの昔話シリーズの最終回となるアクア主演『ピーターパン』が放送された。アクアが“主人公”!のウェンディと、フック船長の二役をするという、前代未聞のダブルロール(*17)に関心が集まり、同局歴代10位以内に入る記録的な視聴率になった。
 
この物凄い高視聴率を見て、ΛΛテレビの経営陣は、このシリーズの続編制作を決めた。
 
(*17)既出だが、ピーターパンの舞台公演で最近は、ウェンディの父役の俳優さんがフックを演じるのが定着している。しかし初期の頃は、ウェンディの母役の女優さんがフックと二役していた。だからこの物語はウェンディの成長物語なのである。フックはウェンディが「現実世界に戻る=大人になる」のを阻止し、いつまでも子供でいて欲しいと願う存在だった。だから母親が演じた。そういう意味でこの物語の主人公はウェンディだという考え方は充分成り立つ。
 

主な配役:−
 
ウェンディ:アクア
フック船長:アクア(二役)
ピーターパン:七浜宇菜
ティンカーベル:坂田由里
ジョン:水森ビーナ
マイケル:羽田小牧
タイガーリリー:恋珠ルビー
人魚メルリン:花貝パール
スミー水夫長:岩本卓也
スターキー:大林亮平
語り手:元原マミ
 
アクアについては、あくまで可愛いウェンディと、あくまで凶悪なフックの演じ分けはさすがだと言われた。『キャッツアイ』(2017)で、来生愛と内海俊夫刑事をきれいに演じ分けたのを思い起こさせると言っていた人もあった。
 
宇菜のピーターパンについては
「かっこいい!」
「しびれる」
「宇菜様のお嫁さんになりたい」
という女子たちからの憧れの声が凄かった。
 
ルビーのタイガーリリーについては
「シンドルバットのノリだよね」
という意見も多い。確かにシンドルバット(男装のシンデレラ)とタイガーリリーは似た性格のキャラかも知れない。
 

人魚役の花貝パールが人魚の尾びれを付けたまま、負傷したピーターパン役の七浜宇菜を背負って泳ぐところは、リアルでパールが宇菜を背負って泳いだという情報を事前に流していたのだが、
 
「よくこれをスタント無しでやるなあ」
「人魚衣裳で足の自由が利かないのに」
と感心されていた。この演技は背負う側も、背負われる側もかなりの筋力を使うのである。もっとも花貝パールは『3×3大作戦』でも遠泳大会で入賞するなど泳力が高いところを見せているので
「さすがパールちゃん」
という声も多数あがっていた。
 
先日『セロ弾きのゴーシュ』でチェロの腕前を披露した岩本卓也がこの物語でもチェロを弾いていて、彼の音楽能力が再度注目されることになる。
 
坂田由里のティンカーベルについては
「嫉妬の表情が真に迫っている」
として、これも評価が高かった。
 
ピーターパンの身代わりになって死にかけるところもほんとに死にそうに見えると言われた。むろんdボタンによるテレビ投票では圧倒的多数で「妖精の存在を信じる」という投票が多く、ティンカーベルは無事生き返る。鳥山さんは万一の場合は投票数を操作するつもりでいたが、そのような作為は、せずに済んだ。
 
『青い鳥』のティレット、『八犬伝』の玉梓・船虫、そして今回『ピーターパン』のティンカーベルと、複雑な性格の役を演じたことから、彼女を性格俳優と捉える人たちも出て来始めていた。
 

なお、このドラマの主題歌はジョン役の水森ビーナが歌う『夢の国ネバーランド』で、挿入歌の『君を守るために』とカップリングして1月19日(水)に発売された。ビーナ3枚目のシングルである。放送局としてはアクアが舞音に歌わせたかったのだが、どちらもスケジュールが埋まりすぎていて無理だった。
 
同じ日にやはり劇中挿入歌の『あなたのハートは私のもの/夕闇に刻む影』がルビー&パールの名義で発売された。恋珠ルビーにとっては5枚目のシングル、花貝パールにとっては初めてのCDである。『あなたのハートは私のもの』ではルビーがリードボーカルでパールがコーラス、『夕闇に刻む影』ではパールがリードボーカルでルビーがコーラスを務めている。コーラスにもう一声聞こえるのはノンクレジットだが、夕波もえこで、実は“宮古八重山トリオ”になっている。
 
なお、§§ミュージックのアーティストのCD発売が続くので、ついに売上上位5組(現時点ではアクア・常滑真音・ラピスラズリ・白鳥リズム・姫路スピカ)の発売日さえお互いに重ならなければ他の人は同じ日の発売もあり、とルールが改訂された。現在5位のスピカも「水谷姉妹かビーナに抜かれるのは時間の問題」と悟りきったように言っていた。
 

1月17日(月).
 
この日発表された売上統計で、12月1日に発売された常滑真音『12345678急急ニャー律令』、12月8日に発売されたラピスラズリ『山の呼び声』、1月12日に発売された北里ナナ『金銀ハート』がいづれも100万枚を突破した。これを一部のスポーツ紙は“トリプルミリオン”と表現した。
 

1月20-23日(木金土日)、東京辰巳国際水泳場で北島康介杯水泳競技会が行われた。これは東京都の大会なので、都内の(水泳クラブに所属する)選手が参加する大会である。しかし東京五輪に出たメンバーは招待されるので、津幡組で青葉のほか、南野里美・竹下リル・金堂多江・福山希美・広島夏鈴および男子の筒石君康が参加する。
 
それで、津幡プライべートプールで現在練習している6人とスタッフを1/19にG450で熊谷に連れてきた。
 
青葉はローズ+リリーのライブから戻った後、ずっと浦和の家の地下プールで泳いでいたのだが、この大会に参加した後、他の津幡組の選手と一緒に1/24にG450で高岡に戻る“予定”だった。10月29日から、3ヶ月弱の首都圏滞在となる“予定”だった。
 
そして次は3月上旬に行われる、国際大会日本代表選手選考会(5月の世界水泳などの代表を決める大会)で東京に出てくることになる“予定”だった。
 

しかし“予定は未定”だった!
 
大会が終わった所で私は青葉に電話した。
 
「金メダルおめでとう」
「ありがとうございます。多江ちゃんが凄かったんですけどね。今回は何とか勝てました。3月はどうなるか分かりませんが」
 
「明日高岡に帰るんだっけ?」
「そのつもりですが」
「だったら申し訳ないけど、それを3-4日、延期してもらえないかなあ」
「何をするんです?」
「ミュージシャン・アルバムの取材に付き合って欲しいんだよ」
「ミュージシャン・アルバム??」
「作曲家アルバムが4月からリニューアルして、作曲家だけでなく広く様々なミュージシャンの御自宅を、大宮万葉とラピスラズリが訪問する番組になる」
 
「え〜〜〜!?」
と青葉は、あからさまに嫌そうに言った。
 

そういう訳で、1月24-26日(月火水)に『ミュージシャン・アルバム』の第1回取材が行われたのである。
 
§§ミュージックとしても、ラピスラズリのスケジュールが立て込んでいるので、もし続編を作るとしても他のアーティストで、と放送局側には申し入れていた。
 
ところがラピスラズリが主演する◇◇テレビのドラマ『占い女子高生・みつる』が4月から放送されることが発表されると『作曲家アルバム』と同じ系列局なので、ラピスがドラマ出演のために『作曲家アルバム』は降板するので番組も終了するのでは?という噂がネットに流れた。
 
それで◇◇テレビに「ラピスラズリの『作曲家アルバム』を続けて下さい」という嘆願メールが大量に届くようになったのである。
 
コスモス、◇◇テレビの響原部長、〒〒テレビの漆野部長が、リモートで会談した結果、番組の継続とラピスラズリの続投が決まった。他に決まったのは、こういうことである。
 
・付き添い役は“オリンピック金メダリスト”の川上青葉で定着しているからそのままで。どっちみち、青葉は日本水連との約束で、2024年のパリ五輪まではニュース読みなどの普段の業務には使えない状況が続く。
 
・作曲家はネタ切れに近いので『ミュージシャンアルバム』と改題して広く音楽家を取り上げていく。
 
・自宅を訪問する形式もこのままで。自宅と制作環境が分離している人の場合は制作環境の方でもよい(あまり多くないと思われる)。
 
・様々なアーティストや事務所とのコネの多さで、ケイさん以上の人はたぶん居ないので、ケイさんにも続投を。ステラジオのように、ごく少数居る相性の悪いアーティストでは醍醐春海さんなどに代理を。
 
放送時間帯は、日曜日の午前中に移動する。制作局は〒〒テレビだが、4月からは全国同時放送とする。但し◇◇テレビの系列外のテレビ局を中心に別の時間帯での放送になる所、遅れネットになる所はあると思われる。放送はこれまで通り月2回。遅れネット解消のために4〜5月は月3〜4回の放送になる局も出ると思われる。
 

そういう訳で、今回下記のアーティストを取り上げることになった。
 
長沼清恵 (2021年YS大賞)
XETIMA (2021年RC大賞)
富士川32 (2021年CD売上1位)
アクア! (2021年著作権使用料1位)
 
作曲家アルバムは元々3ヶ月だけの短期間の番組の予定だったので“大物作曲家”を訪問する番組として企画され、取材対象がリストアップされた。それで番組が延長されても、活動期間の長い人から順に取材していった。しかし歌手・バンドの数は膨大でたぶん尽きることはない。だったら、今話題を集めている人から順に取材していったほうがいい。というところから、まず最初はこのようなラインナップになったのである。
 
XETIMAと聞いて、人気男子アイドルグループだけに、町田朱美が
「きゃー!」
と言って喜んでいた。
 

1月24日(月)は、長沼清恵さんを、都内福生市(ふっさし)の御自宅マンションに訪問した。
 
取材陣はこれまでの『作曲家アルバム』同様、ラピスラズリ、青葉、私、〒〒テレビの長江ディレクター、それに◇◇テレビのカメラマンである。今日は石坂さんという30代の女性カメラマンが同行した。
 
つまり男性は長江ディレクターのみである!
 
女性アーティストということも考慮したものと思われる。
 
なお、RC大賞のXETIMAではなく、演歌部門の賞であるYS大賞の長沼さんから始めたのは、“御自宅訪問”というのが、XETIMAではできないからである。人数が多くてリーダーの米山君のマンションを使うにしても、かなりの密が発生してしまう。それで御自宅訪問が可能な長沼さんから始めたのである。
 
長沼さんに楽曲を提供しているのは、吉野鉄心さんで、私は個人的に繋がりがあるので、前もって電話して「よろしくお願いします」と言っておいたら鉄心さんから長沼さんにちゃんと伝わっていたようである。
 

作曲家アルバムでは、結構自宅外観とかも放送したのだが、ミュージシャンアルバムでは、ストーカーなどに狙われると危険ということで、原則として外観は映さない方針となり、マンションのエントランスなども映さず、部屋の玄関から撮影する。
 
長沼さん自身がドアを開けて取材陣を中に入れてくれた。LDKの応接セットに案内される。
 
「まだ新しい感じですね」
「実はあの曲が売れたんで、20年ローンで買っちゃったんですよ」
「おお、凄い!」
「去年の夏までは1DKの木造アパートに住んでました」
「あ、うちの寮は1Kです」
「仲間仲間」
「でも大枚はたいて家を買っちゃったんですけどね」
「それもお仲間お仲間」
 
と、思わず朱美と長沼さんはリアル握手していた。
 
長沼さんは独身だが、この日は付き人の女性が来ていて、私たちにお茶を入れてくれた。もう5年ほど長沼さんの付き人をしているらしい。
 
「じゃ付き合い長いんですね」
「長沼さんは優しいからやりやすいです。この業界、付き人が続かないという歌手さんも多いですけどね」
「それ歌手さんが付き人さんに当たるから続かないというケースと、歌手さんがあまりに忙しすぎて体力がもたないというケースがありますよね」
 
「ですよね。アクアちゃんの初代付き人さんは過労死したんでしょ?」
「それ付き人じゃなくてマネージャーだと思いますが、生きてますよ」
「そうだったの!?」
「自宅で倒れてるのを発見されて病院に運び込まれて、一時は危篤状態でしたけど、やはり若いからそこから回復して、今は私のマネージャーやってますよ」
「そうだったんだ!良かった」
 
私も「松原珠妃のヴァイオリニストは死亡したらしい」と噂を立てられたからなあと昔のことを思い出した。
 

「でも私は基本的に暇だから付き人さんが体力もたないというのは多分無い」
「でも昨年はかなりお忙しかったのでは?」
「マンスリーの全ての日付に予定が入っているっての初めて経験した」
「あれって最初は凄いと思うけど、やってると疲れて来ますよね」
「そうそう。あんたたちも空いてる日付が無いでしょ?」
 
「私たちはまだマシな方で、うちのアクアはヨーロッパの縦列駐車と同じと言ってました」
 
「何それ?」
 
「日本では縦列駐車って、空いてる所を見付けてその間に駐めますよね。ところがヨーロッパでは、前後の車にぶつけて動かして空きを作ってからそこに入れるらしいんです」
「なるほどー!」
 
「だからヨーロッパではバンパーは当てるためにあるという考え方らしいですね」
「それは吉野鉄心先生から聴いた気がする。だから日本の一部の車みたいに、バンパーがボディと一体化している車はおかしいって。でもそうか。アクアちゃんの場合は、予定というのは、無理矢理空けて入れるものなのか」
 
「それで弾き出された予定がこちらに回ってくることもあるんですが」
「なるほどー!!」
 

まずはLDKで、長沼さんの経歴などを確認し、デビュー以来の様々なエピソードも町田朱美がたくみに聞き出す。長沼さんは元々はあまり饒舌な方ではなかったようだが、朱美は相手を乗せるのがうまい。長沼さんは気持ち良く語ってくれた。
 
リビングである程度お話を聴いてから、マンション内に作られた練習室にお邪魔する。壁と天井が穴あきボードで包まれている。床も実は穴あきボードを敷いた上にOAフロアを敷き詰めたらしい。
 
長沼さんは楽器は苦手らしく、キーボードやギターの類いは無いが、DVDカラオケのセットがあり、数百曲のカラオケが再生できるということだった。ここで、作曲家アルバムでは、ラピスラズリがその作曲家さんの書いた曲を歌っていたのだが、歌手の場合は、その方式では、下手なら失礼だし相手より上手かったらやばい!。そこでラピスが伴奏して、御本人に歌ってもらう方式になった。
 
それで町田朱美が持参のポータブルキーボードで長沼さんのデビュー曲『赤坂25時』の伴奏をすると、長沼さんは少し懐かしいような表情でこの歌を歌唱してくれた。
 
「この曲はカラオケには無いのよ。今の伴奏の録音とかくれない?」
「じゃあらためて録音してDVDに焼いてお届けしますよ」
「ありがとう!」
 
「でも朱美ちゃん、凄く歌いやすい伴奏だったよ。あんた演歌の心が分かってる。演歌歌手に転向しない?」
 
「すみませーん。うちの社長が心臓麻痺起こしそうだからやめときます」
と朱美は言っていた。
 

1月25日(火)はXETIMAの取材だったが、前述のように個人宅が使えないので、所属事務所が所有するスタジオを訪問した。XETIMAはここで音源制作やライブ前の練習をするらしい。
 
泊まり込みになることも多いので宿舎が付属しており、インタビュー前にそちらの内部の様子もリーダーの米山さんの案内で見せてもらった。コロナ以降、増築して部屋は固定制で運用しているらしい。米山さんの指定ルームの中を見せてもらったが
 
「すごーい、美しい」
と朱美が感心していた。
 
部屋はバストイレに3畳ほどのフローリングの部屋があり、ビジネスホテルのシングルくらいの広さである。部屋はきれいに整頓されている。ワーキングテーブル、ベッド、本棚、衣裳ケースが並ぶ。本棚にはCDや楽譜集が並んでおり、最上段にはギターケースが載っている。アームライトの付いたワークテーブルにはノートパソコンとペン立て・A4の五線紙帳が載っていて、パソコンにはマウスとMIDIキーボード、外付けディスクがつながっている。
 
基本的に無駄な物が無い!
 
「ゴミ一つ落ちてない。凄い」
「お洋服、そのロッカーだけで足ります?」
「まあ泊まり込み期間中の着替えだけあればいいから。衣裳とかは自宅だし」
「なるほどー」
 
「ちなみにHな写真集とかも無いんですね」
「それは今朝隠した」
「あはは」
 
「でも部屋の中身を映せるメンツは少ない」
と米山さん。
「男の人の部屋なら仕方ないですよ」
とはるこ。
 
「いや女の子の部屋でもやばい子は結構いる」
と朱美が言うと、米山さんは笑っていた。
 

インタビューでは、24名のXETIMAのメンバーが千鳥式に並べられた椅子に座り、取材陣は透明のアクリル板を介して向かい合う形で取材した。撮影は20代の男性カメラマンで彼自身XETIMAのファンで、カラオケでよく歌っているという話だった。
 
個人宅訪問とは、少し勝手が違うものの、朱美が
「XETIMAの大ファンなんです」
と言って、限定版CDも含めて多分9割くらいのCDを持っていると言うとメンバーから「じゃ***歌える?」と質問が飛んでくる。割と無名な歌である!
 
しかし朱美が自分でキーボードを弾きながら歌ってみせると
「すげー。キーまで正しい」
と言って、彼らが感心していた。
 
XETIMAの中にも、ラピスラズリが好きというメンバーが数人居て、即興でその場で2人組でラピスの曲を歌ってみせるパフォーマンスも出る。東雲はるこが「すごーい!」と言って拍手する。
 

そのようなやりとりを経て、デビュー以来の軌跡を辿りながらインタビューは進み、話は盛り上がった。
 
「だけどWADOの性転換にはびっくりしたね〜」
「びっくりしましたね。ファンの間で阿鼻叫喚だったみたいです」
「全然そういう予兆無かったしね」
「彼らの女装は見たこと無かったし」
「きっと事務所が禁止してたんですよ」
 
「僕事務所に呼ばれて、君は性転換しないよね?と聞かれた」
と正田君が言っている。
 
「性転換するんですか?」
「しない、しない。僕は女の子が好きだよ」
「ああ、女の子になりたいんですね」
「そういう意味じゃないって」
「でもレスビアンという道もありますよ」
「あまり唆さないでよ」
と言ってるが、全然嫌がってない!
 
こういうのを言われ慣れてる感じ。彼はテレビ番組で何度か女装させられたことがあるが、美人だった。本人も多分女装するのは、まんざらでもないのだろう。スカートくらい持ってるかも?
 
話は盛り上がり、一段落した所で、ラピスの伴奏でXETIMAに歌ってもらうコーナーとなる。朱美はこの日はスタジオに搬入していたエレクトーンを弾いて伴奏した。ノリの良い伴奏をするので、XETIMAも気持ち良く歌えたようであった。彼らの歌は生で聴いてもけっこう上手かった。
 

この日は、もう1件、富士川32の取材もした。これは所属レコード会社のスタジオにお邪魔した。普段は土日に(中核メンバーのみ!)このスタジオに来て練習しているらしいのだが、今日は特別に平日の夕方、ほぼ全員に集まってもらった。富士川32のメンバーは現在56名だが、この日はその内49名が来ていた。
 
XETIMAは24名のメンバーが椅子に座っていたのたが、富士川32は人数が多いので、スタジオに壇も並べた上で“立ち位置”を示すマスキングテープを貼り、そこに立ってねということになっていた。千鳥状に立たせたので壇は5段あり、最後尾は1.2mほどの壇に立っているので万一転落すると怪我する可能性もありそうだ。
 
彼女たちが立っているので、こちらも立ったまま取材した。一応椅子を勧められたのだが、被取材者を立たせたまま、こちらが座る訳にはいかない。
 

この子たちとは、私もラピスたちも接点が無く、どこから話を始めようかと悩んだのだが、富士川32のメインボーカル(最前面中央に立つ)山崎あゆみちゃんが
 
「私、東雲はるこちゃんが優勝した時の§§ミュージックのオーディションに参加した」
と言って、そこから話が動き始めた。
 
「私けっこう歌には自信があって、このオーディションの前年の優勝者(*18)よりは自分の方がうまいという自信あったし、東京都区・西部予選ではトップだったけど、東京都予選で、太田芳絵ちゃんに圧倒的大差で負けて、こんな凄い人がいるのかぁ!と思って、一応本選にも行ったけど、東雲はるこちゃん・七尾ロマンちゃん・町田朱美ちゃん・太田芳絵ちゃんの4強の歌をもう、雲を見上げる気分で見てて、結局25人中15位で、信濃町ガールズ関東には入れるという話だったけど、根本的に鍛え直そうと思って、芸能学校に入って1年鍛えてから、誘われて富士川32の結成に参加したのよね」
などと、あゆみちゃんは言う。
 
文章の長い子だ!
 
(*18)前年2018年の優勝者は原町カペラ!
 

「あ、山崎あゆみちゃん、『青空天国』歌った子だ!」
「そうそう。よく覚えてくれてましたね!」
「いや、結構上手い子だと思いましたよ」
「でも上が凄すぎて」
 
「あの年は激戦でしたよね。私、絶対太田芳絵にも左蔵真未にも負けて5位か6位くらいかなと思ってたから3位と言われてびっくりしたんですけどね」
と朱美が言う。
 
そのあたりから始まって、色々なオーディションを受けた話があちこちから出て来た。それで話が盛り上がっていき、楽しい会話になっていった。しかしみんなたくさんオーディション受けてるんだなあ、なとど朱美は会話しながら思った。最初に受けたオーディションで合格した自分と岬(東雲はるこ)は物凄く運が良かったのだろう。
 
最後に今日は東雲はるこがスタジオのピアノ(Yamaha C3) で伴奏して、富士川32が、先月リリースして発売即ダブルプラチナになったらしい曲を歌ったが、朱美は内心「聞いたことねー」と思っていた。今回は、長沼清恵・XETIMAを朱美が、富士川32とアクアをはるこが、伴奏することにして、伴奏譜面を2枚ずつもらったので、この曲の譜面は見ていなかったのである。
 
歌唱が終わってから笑顔で拍手したが、この歌の感想をもし聞かれたら、どこを褒めたらいいのかというのを、かなり悩んだ。
 

取材が終わった後で、あゆみちゃんを含めて向こうの選抜ボーカル6人とサイン色紙を交換し、メンバー全員とエア握手した。
 
でも、太田芳絵ちゃんの話が出てたなあ。あの子3月で辞めるらしいけど、もったいないよなあ、才能あるのに、と朱美は考えていた。
 
“遙か上”の人たちの争いは置いといて、自分やルビー、スピカ、ビーナ、葉月、夕波もえこ、鈴原さくらあたりが第3か第4グループで争ってる感じだけど、太田芳絵もその一角を占めていると朱美は思っていた。
 

1月26日(水).
 
この日はアクアを代々木のマンションに訪ねた。女性アーティスト?なので◇◇テレビは女性のカメラマンを付けてくれた。今日は27-28歳くらいの人で赤原さんと言った。
 
マンションの前でアクアに連絡し、エントランスを開けてもらう。発行されたカードをエレベータでタッチするとゴンドラは18階まで行く(つまりロック解除した住人のフロア以外には行けない)。1803号の前に行く。部屋番号の所を白い紙で隠してから撮影スタート。高級マンシヨンだけあってドアからして凄い。普通のマンションのドアのイメージではない。両開きで、豪邸のドアという感じ。多分このドアだけで数百万する(放送時もさすが!と言われていた)。
 
ピンポンを鳴らすとアクア自身がドアを開けてくれた。
 
「どうぞどうぞ、お待ちしてました」
と言って笑顔で中に入れてくれる。
 
アクアはノーメイクで、紳士物のスーツを着ている・・・ように見えたが、よく見ると、カルバンクラインのマニッシュスーツである。つまりレディスである!(アクアの身体に合う紳士用スーツなど存在しない)
 
だいたい明らかに、おっぱいがあるし!
 
ズボンは身体にフィットするフォルムだが、お股には何も突起らしきものは無い!むろんこのズボンに前開きは無い。
 
それでも放送時には
「どうして女の子の服を着てないの〜?」
と非難する声が圧倒的だった。
 

しかし私たちは彼の服装には特に突っ込まず、
 
「お邪魔しまーす」
と言って、中に入る。LDKの低いテーブルのソファ(脚無し)に、アクア−青葉−朱美−はるこ−私、と5人で座った。ディレクターさんは少し離れた所の椅子に座り、カメラさんは床に座り込んで撮影している(腰より下を絶対映さないよう気をつける:このあたりは女性カメラマンでないと難しかった)。
 
竜崎由結が出て来て、みんなに紅茶を出す。ディレクターとカメラさんには、お盆に載せて出した。朱美はお砂糖とミルク、はるこはスリムシュガーとミルクを入れていた。
 
「こちらはボクの個人マネージャーの竜崎由結ちゃん。ボクはATMとかに行く時間が取れないから、ボクに代わってお金を下ろしてきたりとか、郵便物のチェックしてくれたり、車の給油や充電をしておいてくれたり、あと日常の買物をお願いしたりとかしてるんですよ」
 
とアクアは説明する。
 
「付き人に近いけど、彼女は業務には関わりません。家政婦にも似ているけど、むしろ家政婦は関わらないようなセキュアな作業が多いんですよね。たから個人マネージャーと呼んでいます」
 
「まあアクアがスーパーで買物してたらサイン求める大行列ができちゃうね」
と青葉が言う。
 
「ええ。だからそういうことはしないように言われてます。うかつにコンビニとかも行けないです」
「不便だね」
 
「竜崎さんはここに住んでるの?」
「住まいは八王子です。このマンションの鍵は持ってますけど、日中しか来ないから、実はアクアちゃんと1ヶ月くらい顔を合わせないことがあります。連絡はメールで」
 
「アクアが日中自宅に居るという事態が希(まれ)だよね!」
 

竜崎由結はお辞儀して下がる。彼女に関わる部分はカットしたので彼女の顔は放送には流れない。彼女の仕事内容から考えてもテレビで映すのはよくない。
 
「でもここ床が暖かい」
「ホットカーペットですから。食事している内にうっかり眠ってしまうこともあるんですけど、これのおかげで風邪を引かなくて済みます。ちなみに、ロー・ソファー使っているのは、脚のあるソファだと、うとうとした時に転げ落ちてしまうからです」
 
「なるほどー!」
「それ切実」
「家の中で骨折しかねない」
 
「それにアクアは、風邪引いてる暇も無いよね」
と朱美が言う。
 
「全く全く。スケジュール表がびっちり埋まってるから、とても休みなんて取れない。ボクが風邪引いたら、きっとセシルちゃんとかビーナちゃんとかが悲鳴をあげる」
 
「だよねー」
 

「でも同じ事務所の人にインタビューするのは何か変だ」
と朱美は言っている。
 
「ラピスラズリに取材する時は、アクアちゃんに代わってもらおうか」
「ああ、それでもいいですよー」
 
「ちなみに、うちの事務所では“先輩”とか“後輩”というのは無し。お互いに“ちゃん”付けで呼び合うというのがルールになってるんだよね」
 
とアクアがカメラを向いて視聴者向けに説明する。
 
これを説明しないと、朱美が事務所の大先輩に対してため口で話すなんてと思う人があってはいけない。
 
「私も最初入った頃は、“高崎ひろかさん”とか“品川ありささん”とか、つい言っちゃって、叱られた」
と朱美が言うので、離れていた席に座っていた長江ディレクターが
 
「叱られるんだ!?」
と声を挙げる。
 
「芸能界では“ちゃん”が一般社会での“さん”に相当する敬語だから、先輩後輩関係無く“ちゃん”で呼び合うんだと言われました」
と朱美は言う。
 
「アメリカでは会社でも“先輩”“後輩”というのは無くて、全員“同僚”なんだとコスモス社長が言ってました。やはり“先輩・後輩”って、年功序列社会の産物なのかも、さすがに他の事務所の年上や若くてもキャリアの長い人には“さん”で呼びかけますけどね」
 
「そしてボクだけはなぜかみんなから“アクア”と呼び捨てされる」
と言ってアクアは笑っている。
 
「なぜそうなったのかは分からないけど一説によると“アクア”ということば自体に敬称が含まれているんだとか。“社長”とか“部長”という言葉に敬意が含まれているのと同じだって」
と朱美。
 
「この後、イグニスとかテラとかアエルとか(*19)いう人が入ってきたら同様に呼び捨てされるかもね」
とアクアは言っていた。
 
(*19) アクア(Aqua)はラテン語で“水”の意味。ignis(火), terra(地), Aer(空気) と合わせて古典的な“4元素”(Quattuor elementa).
 

アクアの生い立ちや、子供の頃の病気については触れず、主としてオーディション以降のことを話す。
 
「元々オーディションは、友だちが応募して、その子が自分1人では不安だからと言って、ボクの分まで勝手に応募しちゃったんだよね。埼玉県予選はその子と一緒に合格したんだけど、本人は親の芸能活動許可証をもらえなくて関東予選を辞退しちゃって。え〜〜!?と思ったけどね」
 
「でも芸能人って、わりとそういう形で出て来た人多いですよね」
「そうそう。本人の妹とか友だちとか、中には通りがかりとか」
 
アクアの初期の出演作、ときめき病院物語、ねらわれた学園などのスティル写真を朱美が提示する。セーラー服姿が可愛い。
 
「ちょっと懐かしいなあ」
 
「どちらも1人2役することになったのは緊急事態への対処のためだったんでしたね?」
 
「そうなんだよ。『ときめき病院物語』は元々、神田ひとみちゃんがお姉さんで、ボクが弟を演じる予定だった。ところがひとみちゃんが突然結婚引退して、それでもう撮影スケジュールが迫ってて代役を確保できなかったんで、ボクに兄と妹の2役をやってくれという話になって」
 
「姉と弟から兄と妹になったんだ?」
「うん。神田ひとみちゃんの役は女子高生だったんだけど、さすがに当時のボクには女子高生を演じるのは無理だった」
 
「あれは女子小学生で通る感じだったよ」
と私はコメントした。
 
「『ねらわれた学園』も、本当は高見沢みちるは榊森メミカちゃんがする予定だったんだけど、メミカちゃんが急病(*20)で降板して、ボクに関耕児と高見沢みちるの2役をしてくれと言われて。当時は男の子みたいな声を出せなかったから、ボイスチェンジャー使って。でもお陰でクラス会での対決まで高見沢みちるを誰が演じているかを秘密にすることができたね。あれで演じてるのは誰かって凄い盛り上がったし」
 
(*20)実は“声変わり”という病気!
 

「今ならサプライズになりませんね」
「ボクのダブルロールが定着しちゃったからね」
 
「あの番組は横川れさとちゃんの降板もあったよね」
と私は言う。
 
「そうなんです。れさとちゃんが収録前夜にストーカーの男に刺されて重傷を負って、それで西沢響子を青山玲子役の予定だった馬仲敦美ちゃんがして、青山玲子は名も無い生徒役だった今井葉月がするという玉突きが起きたんです。セリフ覚えるのも大変だったけど、役作りに苦労したんで、初回では役のキャラがやや不安定になったんですよ」
 
「役作りまで辿り着かないよね!」
 

「それで1人で男女2役するのが2回続いたら、その後も男女2役の話ばかり来るようになっちゃって」
とアクアは言っている。
 
「まあそれでボディダブルの今井葉月(ようげつ)の重要性が出てくるんだよね」
と私は言う。
 
「葉月(ようげつ)とは背丈や体型が近いし、雰囲気も近いし、あの子、ボク以上に演技力があるから、代役として最高だったんですよね」
とアクア。
 
「でも今後はやはり女性役が中心になりますよね?」
と朱美。
 
「できたら男役がしたいんだけど」
「まあ若い内は男役もできるかも知れないですね」
 
朱美はワザと言ってるなとアクアは思ったもののスルーしておく。
 

今年7月に発売された写真集『鏡迷宮のアクア』の中の写真もいくつか提示する。アクアが眠り姫に扮した写真、白雪姫に扮した写真、シンデレラに扮した写真、人魚姫!に扮した写真。
 
わざとこういう写真を選んだなとアクアは思う。
 
特に人魚姫に扮した写真は、明確に豊かなバストが見える。
 
「大人の女になりかけの様子がすごくよく出てますよね」
などと朱美が言うので
「まあフェイクですけどね」
とアクアは言っておく。
 

現在公開中の映画『白雪物語』についても話す。
 
「もう白雪姫は母と戦って勝つものというイメージが定着しましたね」
「やはり今はそういう白雪が好まれるようになったんだと思います。王子様が全部してくれるという時代じゃないんですよ」
「やはり女は強くないといけないですよね」
「同感です」
 
ということで、ここでアクアと朱美は意気投合する。
 
「『ロミオとジュリエット』に続いて大作になりましたね」
「さすがにああいう大きな作品を年に2つ撮ると消耗も大きかったけどね」
「精神力使うでしょうね!今年の出演作の予定とかはまだ決まってないんですか?」
 
「私のスケジュール表の4月から7月が空いているんですよ。仕事の話が来ても全部舞音ちゃん、ラピス、リズム、セシル、ビーナに振り分けてるみたいで」
 
「こちらは4月から12月までのスケジュールが全部埋まりました」
 
「何を撮るのかはまだ聞いてないんですけどね」
「今度はぜひ女の子役オンリーで」
「そういう話はお断りします」
 
(この会話部分は放送時に「これは1月に取材したものです」というテロップが入った)
 

ある程度話したところで、LDKに隣接するピアノルームに移る。
 
「広いですね」
「このピアノを弾くには最低この広さが必要なんですよ」
とアクアが言うと、朱美もはるこも頷いている。
 

 
「ここは和室2つを改造したものですか?」
と朱美が部屋の真ん中に鴨居があるのを見て言う。
 
「そうです。襖で区切られていたんですが、その襖を取り外して、2部屋まとめて防音・音響工事をしました。畳も取り外して、床にも防音と音響の仕組みを造り込んでいます」
 
ここは元々6畳の和室と同じ広さ6畳のサービスルームがあったのだが、アクアが言ったように、間の襖を取り外し、2部屋を一体化した音響工事をしている。畳も取り外して代わりに防音板を敷いた上にOAフロアのブロックを置き、壁・天井も防音板から5cm空けて木製の壁板・天井板で覆っている。壁板・天井板は優しい響きを生み出すスプルースを使用している。
 
「いいピアノですね〜」
と言って、はるこが置かれているグランドピアノに触っている。ここに置かれているのはYamaha S3X である(*21).
 

東雲はるこがS3Xを弾いて伴奏し、アクアは『白雪物語』から『白い恋の物語』を歌った。その美しい歌唱に、私たちは笑顔で拍手を送った。
 
「ついでに『金銀ハート』とかも歌いません?」
「あれは北里ナナちゃんの歌だからね」
「今日は北里ナナちゃんは出てこないんですか?」
「ボクは男の子のアクアだからね」
 
と朱美とアクアは軽くジャブをかわした。
 

(*21) 2019年11月に代々木のマンション(10階のほう)を買った時に、田代母と話しあい、このピアノを買った。当時はLDK内に“置いた”ヤマハの“防音室”(屋内設置型防音ルーム)に入れておいた。1年後の2020年11月、彩佳たちが自分たちのマンションが崩れそうと言ってここに避難してきた時、彼女たちが生活するのに邪魔だろうと考え、同年8月に買っていた18階の部屋(今居る所)に防音室ごと移動した。その後、和室とその隣のサービスルームが空いてるしと思い、そこを改造してピアノルームにしたのである(衣類など大半の荷物は八王子に移動したので、ストックルームが不要になった)。
 

1月26日(水).
 
新人の立山煌(きらめき)が『山に登りましょう、娘さん』でCDデビューした。今年の新人2人目のデビューである。CDの収録曲は下記。
 
『山に登りましょう、娘さん』
『立山の美女平』
『山に登りましょう、娘さん(hi-ho version)』
『山に登りましょう、娘さん(off vocal version)』
『立山の美女平(off vocal version)』
 
『山に登りましょう、娘さん』というタイトルはむろんポーランド民謡『森へ行きましょう、娘さん』を意識している。このポーランド民謡の原題は『Szla dzieweczka(娘は行った)』で、娘が森に行ったら男の子と遭遇し、彼が娘を口説くという歌である。つまり日本語歌詞では男の子が「森へ行こう」と誘っているのに対して、元歌ではそもそも娘はひとりで森へ行き、そこで男の子と遭遇して口説かれるという筋立てになっている。
 
立山煌が歌う歌は、漫画家としての方が有名な登山家の平野鉄郎さんが詩を書き、奧さんでピアニストの峰京子さんが曲を付けた作品である。hi-ho versionはヨーデルを組み込んだアレンジで、煌は格好よくヨーデルを歌っている。
 
登山家が書いた詩なので、娘さんを山に誘うのは、一緒に山の自然を楽しみたいだけであり、スケベな下心は無い!だいたい中学生にそんな不純な歌を歌わせる訳が無いが、心の汚れたおとなはタイトルで変なことを想像するらしい!?
 
なお曲の2サビとして「まんまるちゃん、まんまるちゃん」の歌の一部が取り込まれている。これは上記ポーランド民謡の中の「ランラララン、ランラララン」というコーラス部分の替え歌(作詞者不明)の絵描き歌で、完成すると子豚ちゃんの絵になる。
 
まんまるちゃん、まんまるちゃん、まんまーるちゃん
まんまるちゃん、まんまるちゃん、まんまーるちゃん
インドのお船に連れられて、父ちゃん、母ちゃん、さようなら
 
ろくろくちゃん、ろくろくちゃん、さぶろーくちゃん
ろくろくちゃん、ろくろくちゃん、富士のー山
 
(歌詞は微妙なバリエーションが多数ある。「インドのお船」は、人によって「大きいお船」や「小さなお船」になったりする。「連れられて」は「乗せられて」の場合も。「さぶろくちゃん」は「さんじゅうろく」も。また「ろく・かける・ろくは、さんじゅうろく(6×6=36)」と歌うバージョンも。「富士の山」は「山登り」も。上記は峰京子さんのお父さんが記憶していたものらしい)
 
もっとも煌の歌では「さようなら」までしか歌っておらず、歌のコーダで煌が完成させた子豚の絵が披露される。

 
「きらちゃんって歌は上手いけど絵は下手なのね」
とネットでは随分言われたようである!
 
「ブタじゃなくてクマに見える」
という意見もあった!
 

2月1日(火).
 
諸田望美(太田芳絵)はP女子大からの郵便を受け取った。開封してみると合格通知であった。ここは共通テストの成績だけで二次試験も面接も無しで合否が決定される。
 
しっかし・・・・
 
私のあの共通テストの成績で合格させてくれるって・・・・この大学ほんとに大丈夫か?願書出しておいて言うのも何だけど!
 
コスモス社長からは行く大学決まったら連絡してねと言われていた。それで、社長に連絡しなきゃと思い、取り敢えずメールを打とうとした(コスモス社長への直接の電話は繋がる確率がとても低い)。
 
ところがそこに当のコスモス社長から電話が掛かって来たのである。
 
「ちょっと相談したいことがあるの。受験で大変な時期に申し訳ないけど、ちょっと信濃町の事務所まで来てくれる?」
 
「はい」
 
芳絵はこの電話で社長に大学に合格したことを伝えてもいい気がしたが、社長と会うのなら、その場で言えばいいしと思い、言わなかった。
 
一応合格通知をバッグに入れて1階まで降りて行き、女子寮にいつも待機しているSCCの車に乗ると、
 
「信濃町の事務所までお願いします」
と言った。
 

事務所にやってきた芳絵に、コスモスは申し訳無さそうな顔で言った。
 
「実は4月から9月まで、2クール全24回くらいの予定で、常滑真音主演『アイドルを探せ』というドラマをやるのよ。ΛΛテレビ」
「はい」
 
「物凄い大雑把なあらすじを言うと、お金持ちの家から指輪が盗まれる。この指輪というのが、指輪自体はそう高価なものではないけど、奥様のお母様が、香淳皇后(昭和天皇の皇后)から頂いた大事な指輪だった。そして1ヶ月後に、その家のお嬢様がお見合いをする席に着けていく予定だった。お見合いの相手の奥様にその指輪のことを話していたから、付けてないと縁談にも影響が出る」
 
「はい」
 
「盗んだ犯人は、家の庭師だったんだけど、すぐバレる。実は物理的に彼以外には盗むことのできる者が居なかった」
 
「だったらバレますね」
 
「庭師も反省して奥様に謝る。それで奥様はとにかく返してと言うんだけど、彼はその指輪を、ロビーに置かれていたギターの中に隠していた」
 
「そのギターが持ち出されてたんだ!」
「そうそう」
 

「奥様はその指輪さえ返ってきたら警察には訴えないと言う。期限はお見合いのある1ヶ月後。表沙汰になると、家の揉め事と思われて、やはりお見合いに影響が出るから、あくまで秘密に探さなければならない。それで彼は協力してくれるメイドさんと2人で、そのギターの行方を追って日本全国を駆け巡ることになる」
 
「ああ、何となくストーリーラインが見えてきました」
 
「事実上の主人公である、そのメイドに常滑真音、庭師には吉永浩」
「とんでもない豪華組合せですね!」
 
メイド役が本来はアクアだったとは言わない方がいいかなとコスモスは思った。
 
「ここで、この事件を察知して、このお見合いを邪魔し、自分ちのお嬢様をそのお相手と結婚させようとする2人組が出てくる。この2人組も全国を駆け巡る。双方は、指輪の行方を追って抜きつ抜かれつ、どちらが先に指輪に到達するか競争することになる。こちらの配役は、今キャスティング作業中なんだけど、その2人組の片割れを芳絵ちゃんにやってくれないかなというオファーが来てるのよ」
 

「え〜〜〜〜!?そんな重要な役を!?」
 
「結局、舞音ちゃんが物凄く元気な子だから、そのライバルもそれに負けないくらい元気な子でないといけない。そして、こういうストーリーだけにライバルの子というのは、プライベートでは舞音ちゃんと仲良くしてるというのを局としては演出したい。それで同じ事務所の子を使いたいという意向があったのよ」
 
芳絵は声も出せずに聞いている。
 
「うちの事務所でそういう元気な子というと、真っ先に浮かぶのは白鳥リズム、次いで町田朱美、恋珠ルビーだけど、3人とも予定が取れない」
 
「無理でしょうね。ルビーちゃんも取れません?」
「実はルビーは『シンドルバッド2』を撮る。だからビーナも」
「わっ」
「これまだ非公開だから誰にも言わないでね」
「分かりました」
 
「それで、(和田)プロデューサーは『少年探偵団』で小林少年が変装するメイド役をした太田芳絵ちゃん、使えないですか?と言ってきた。プロデューサーさんは、あけぼのテレビのクリスマス特集も見たらしい。そこでくるみ割り人形を演じて、ねずみ軍団と戦う演技をした芳絵ちゃんも見て、この子、凄く動きがいい、と惚れ込んだらしくて」
 
「えー?」
 

「八犬伝では、簸上宮六の役をしてたけど、この子、殺陣(たて)が上手いと思ったって。くるみ割り人形でもやはり剣を扱うのが様になってたしと」
 
「よく、そんな端役まで見ていてくれましたね。小学3年の時まで剣道してたから。あまり好きじゃなくて辞めちゃったんですけど」
「ああ、それは聞いたことあった。でもやはり剣を扱う基本ができてたんだね」
「それはあるかも」
 
「どうする?やる?何なら大学に通いながら出演してもいいよ」
 
「私やります。大学には行きません」
と芳絵は決意したように言った。
 
「分かった。じゃ退団するのはキャンセルでいいね?」
「はい、辞める辞める詐欺みたいで申し訳ないですけど」
「私も花ちゃんも、芳絵ちゃんを買ってたよ。才能があるって。ただこれまでなかなかチャンスを与えてあげられなくて申し訳無かったんだけど」
 
「いえ。せっかくのチャンスですから頑張ります」
「うん」
 

それで芳絵はコスモスと握手した。
 
最近はたいていエア握手だけど、ちゃんと手を握るのもいいなあと芳絵は思った。来年くらいにはもう普通に握手できるようになるかな?
 
「そうだ。まだ辞めないなら『少年探偵団』で小林少年がメイドに化けるというエピソードのある話をまた撮りたいらしいけど、行く?」
 
「行きます!」
「じゃ7日の日よろしくー。正確な時刻は後で(美咲)瞳ちゃんからメールさせる」
「分かりました!」
 

太田芳絵が事務所を出る際、何か大きな封筒をゴミ箱に捨てるのを見たが、コスモスは気にしないことにした。
 
しかし瞳から連絡させると言ったけど、瞳ちゃん、大丈夫かな?
 
コスモスは最近、スケジュール管理の元締めをしている美咲瞳もオーバーワーク気味だし、誰か助手を雇わないといけないなあと考えていた。
 
本来デスクは沢村朋代(29)なのだが、彼女が忙しいので2019年秋に助手として美咲瞳(当時高卒の18歳)を雇い、サブデスクとした。その後、会社はラピスラズリが売れ、スケジュール管理を実質委託されていたローザ+リリンも売れたことにより大いに忙しくなる。結局、おっとりした沢村に代わり、頭の回転の速い美咲が事実上、マネージングの中心になってしまった。更に2021年は羽鳥セシル、常滑舞音、水森ビーナ、と超多忙な人が続出。調整が難しい上にミスが許されないので、美咲の負荷も大きくなってきている(念のためシステム課の吉原・紀ノ本にプログラムも援用してダブルブッキングと移動手段の手配漏れについて1日2度チェックさせている。瞳もシステムからの警告に随分救われている)。
 
それで本来は沢村の助手だったはずの美咲に助手が必要な状況になってきているのが現状である。
 

そんなことを考えていたら、当の沢村が深刻そうな顔をしてコスモスの所に来た。面談室で話を聞く。
 
「どうしたの?」
「私、デスクとして全く役に立ってない気がして」
「そんなことないと思うけど」
「みんなが瞳ちゃんを頼りにしています。彼女を私の代わりにマネージング部長にしてやってください。彼女はそれだけの仕事をしています。私は今担当が居ない、大崎忍ちゃんかヴァンドールのマネージャーにでも」
 
「大崎忍とヴァンドールの件は誰か適当な人を入れないといけないと思ってるけど、マネージング部長は朋代ちゃんでいいと思うよ」
「そうですか?」
 
「瞳ちゃんも、あれだけ忙しくしてたら、絶対作業の漏れも発生する。そんな時、彼女がマネージングの最高責任者なら、向こうに謝る人が居ないでしょ。そんな時が朋代ちゃんの出番だよ」
 
「私が先方に謝ればいいんですね!」
「朋代ちゃんは穏やかな性格だから、怒っている相手もある程度怒った所で鉾を収めてくれる」
「あ、それは高校時代にも言われたことある」
 
「ということで、今後もマネージング部長お願いね。瞳ちゃんの負荷問題はまた考えておくし」
 
「分かりました!頑張ります」
 
正直、瞳(21)は部長職にするにはまだ若すぎるのである。本人も部長になればその重責がプレッシャーになる。サブという立場の方がやりやすい。
 
「でも大崎忍とヴァンドールの営業、もし片手間にでもできそうなら見てあげて」
「はい!それも頑張ります」
 
そういうことで、大崎忍とヴァンドールに(村上麗子が常滑舞音で忙しくなってこちらまで見られなくなって以来)約8ヶ月ぶりに担当が付くことになった。
 
 
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【夏の日の想い出・いろはに金平糖】(5)