【主役】(1)

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来生瞳・平野猛刑事 フェイ(レインボウ・フルート・バンズ)
来生泪・武内刑事 ヒロシ(ハイライト・セブンスターズ)
ねずみ・浅谷光子刑事 丸山アイ
木崎信彦刑事 本騨真樹
課長 大林亮平
 
これ以外のキャストは後日発表ということであった。
 
アクアが瞳役ではなく愛役になった理由としては、アクアはさすがに瞳を演じるには若すぎるという製作側の判断があった。また、瞳=内海・愛=平野ではなく、瞳=平野、愛=内海という「ねじれ配役」になった理由は、瞳と内海の絡みのシーンがひじょうに多いので、これを1人の俳優で演じようとすると、ボディダブルを使って倍の時間の撮影が必要になる。そこで別の俳優を当てて1回の撮影で済ませようという判断があった。
 
結局瞳と内海のシーンでは、フェイとアクア、泪と平野のシーンではヒロシとフェイ、愛と武内のシーンはアクアとヒロシで撮影できるのである。ねずみと浅谷のシーンのみ、丸山アイの2役なのでボディダブルを使っての2回撮影になる。アイのボディダブルは、身長と体重が彼女に近い城崎綾香と岩本和也が務める。アクア、フェイ、ヒロシのボディダブルは、今井葉月、モニカ/マイク、アリス/ポール、と今井葉月以外はレインボウ・フルート・バンズのメンバーが務める。男女役双方のボディダブルを1人で演じるのは結局葉月だけである。ボディダブルを務める7人は皆、顔を出す役も当てられている。
 
そのあたりまでが制作側のコメントで明らかになった。
 

「要するに全員自分の本来の性別で刑事側を演じて、逆の性別で盗賊側を演じるんだな」
とネットには書かれていた。
 
男性と考えられる、ヒロシは武内刑事・泪、フェイは平野刑事・瞳、アクアは内海刑事・愛で、女性と考えられる丸山アイが浅谷刑事・ねずみである。フェイはこの春に赤ちゃんを産んではいるが、実態は間違いなく男の子というのがネットの意見の大勢であった。
 
「本騨真樹は男女2役しないのか?」
「いや、木崎刑事は女装が趣味だから」
「そうか。だから結局本騨真樹も女装する訳か」
 
「大林亮平は女装しないの?」
「来生姉妹のお母さん役だったりして」
 
「しかし・・・アクアの女の子レオタード姿は想像しただけでハァハァしてしまう」
「フェイのレオタードまではいいが、ヒロシのレオタードは大丈夫か?」
「ヒロシは女装すると女にしか見えないから」
「そういう写真は何度か出回ったけど、レオタードでも行ける訳?」
「うーん・・・その内出てくるだろうスティルの公開を待つしか」
 

「そういえばアクアのマネージャーがダウンしたらしいな」
「ダウン?」
「鱒渕さんだっけ?」
「そうそう」
「過労で倒れて。しばらく入院が必要らしい」
「いや、あれだけ多忙なアクアのマネージングなんて、死ぬほど忙しいだろう」
「去年はアクア本人が倒れたくらいだもん。マネージャーが倒れても不思議ではない」
 
「じゃマネージャー交代するんだ?」
「やはり1人では無理だろうから3〜4人付けるのではという話」
「うん。そのくらい必要だと思うよ」
 

6月中旬。アメリカで話題沸騰中の手品師レフ・クローガーが来日。まずは6月17日に札幌公演を行った。この日の公演は大部分が録画され、ダイジェストが放送されたが、アメリカでの公演の録画でも大いにこの手品師に注目していた政子は番組を録画して食い入るように見ていた。
 
私はステージが残酷すぎて、抵抗感があるので、それは見ずに防音室に籠もってスコアの調整作業を進めていた。
 
政子はコネを駆使して入手困難であった6月24日の横浜の公演を実際に見に行って
「凄かったぁ。感動した」などと言っていた。
 
「アメリカでもそうらしいけど、日本でも気を失う観客が相次いでいてさ」
「へー」
「札幌で10人、仙台で8人、今日の横浜でも20人、気を失って会場から搬出されたらしい」
「そんなのよくわざわざ見に行くなあ」
などと私は言っている。
 
それで政子はまだ興奮冷めやらぬ感じで、先日のテレビで放送された公演をまた見ていた。そして「あれ?」と言った。
 
「どうかしたの?」
「この胴体切断マジックでさ、箱の中に入った美女が、札幌公演と今日の横浜公演では違う人だなあと思って」
 
「へー。そういうのは見せ場だから、弟子の中で有力な人が交代で務めるんじゃないの?」
 
すると政子はなにやらネットで検索していたが、やがて言った。
 
「アメリカのSNSや掲示板で話題になっているらしい。このクロガーの胴体切断マジックに登場する美女は毎回違う人で、同じ人が2度登場したことは無いんだって」
 
私は少し考えた。
 
「それ何か怖い話のような気がするんですけどー」
「これ本当に切断しているから、同じ人は2度と登場できないんだったりして」
「うそ−!?」
 

レフ・クロガーの日本公演は6月17日札幌、18日仙台、24日横浜、25日京都、7月に入って1日静岡、2日名古屋と続いていたが、それとともに変な噂がネットに流れていることに私は気付いた。
 
この日本公演には日本の手品師やタレントさん(いづれもあまり有名ではない人)が多数協力しているらしいのだが、その中から複数の行方不明者が出ているというのである。その内、警察が動くのではとか、実はもうFBIが動いているらしいといった噂まで流れていたものの、ソースは見当たらず、どうも憶測の域を出ないもののようであった。
 

7月4日のお昼頃。東京駅で謎の爆発音と発光現象があったことをニュースが報道していた。爆発音のあった場所と発光現象のあった場所は300mほど離れていて、両者は関係があるのかないのか、警察は調査中であるとしたが、爆弾か何かの爆発であれば怪我人なども出ているはずなのに、そういう被害は届けが出ていないとして、原因は謎であるということであった。
 
この発光現象がクロガーと関わりのあるものであることを後で青葉が教えてくれたものの、詳細については人に言える性質のものではないと青葉は言っていた。
 

この日の夕方、アジアカップに臨むバスケット日本女子代表12名が発表されていたが、千里の名前がそこには無かった。同じシューターの花園亜津子がWNBAに参戦中でそちら優先ということで今回は代表選手として登録されていない。それゆえに、千里は絶対入れられるだろうと思っていたので私は驚き、彼女に電話してみた。すると千里は
 
「ここの所どうも調子を落としていて。期待してもらったのにごめんね」
と言っていた。
 
代表活動から外れることになったので、休職していたJソフトの方には明日7月5日から復職するという話であった。
 

クロガーの公演はこの後、8日東京、9日大阪、15日広島、16日福岡と続く予定だったのだが、主宰者は7月6日、翌々日に迫った東京公演、およびそれ以降の公演を全て中止すると発表した。
 
それと同時にネットでは、クロガーが失踪したようだという噂が流れた。この騒動は噂が噂を呼び、憶測のような投稿が大量にあって訳が分からなくなっていたのだが、6月下旬、某週刊誌が、クロガーは大量殺人犯として、FBIが逮捕に向けて周辺調査をしている最中であったことをすっぱ抜いた。
 
あらためて取材されたFBIはこの件を認め、クロガーを国際指名手配したことを発表した。また日本公演の最中にも10名ほどの公演協力者の女性が行方不明になっていて、その女性らの所持品がクロガーの部屋で見つかったことを日本の警察が認めた。女性たちの行方は、ようとして知れなかった。しかし1人だけクロガーに拉致されそうになり無事生還した女性がいたことが明らかになる。彼女は危ない所を、霊能者・山川春玄に助けられたということであったが、その山川本人は意識不明の重傷で、病院に入院していることも分かった。命には別状はないということで、警察は山川氏が意識を回復するのを待って事情聴取する方針であるということであった。
 

この件に関しても青葉は
「この件に付いては申し訳ありませんがお話できません」
と言っていた。
 
「ただですね」
と青葉は言った。
 
「千里姉が代表落ちした件と、今回の発光現象は絡んでいるんです」
「どういうこと」
「姉は・・・あの事故に巻き込まれたんですよ」
と青葉は物凄く厳しい顔をして言った。
 
「あれで怪我したの!?」
と私は訊いた。
 
「実は死んだんです」
「え!?」
「クロガーと相討ちしたようなものです」
「・・・・・」
「でも姉は蘇生しました。ただその時、色々なものが壊れてしまったみたいで」
と言う青葉の表情はむしろ悲しそうであった。
 
「姉はたぶん体力回復に数年かかります」
 
数年・・・。それではもうスポーツ選手としての旬が終わってしまうのではと私は思った。
 
「作曲能力や演奏能力もかなり落ちると思います」
と青葉は更に続ける。
 
そんなぁ・・・・・。
 
私は彼女を最高のライバルと思っていたのに。
 
しかし今年千里は落雷に遭うわ、こういう事故に巻き込まれるわ、厄年ではないかという感じだ。
 
「でクロガーは?」
「一瞬にして蒸発しました・・・って私最初に言いませんでしたっけ?」
「聞いてない。千里が倒したの?」
「千里姉と羽衣さんの2人がかりで何とか倒しました」
「羽衣?」
 
「私の師匠、瞬嶽が亡くなった後、日本の霊能者のトップに立っているのが、この羽衣さんと虚空さんなんです。今回の戦いでは、羽衣さんも結構なダメージをくらいましたが、2〜3ヶ月で回復しそうだと言っておられました。虚空さんは私も直接は知りません。謎の多い人です」
 
「うーん・・・」
 
「今回は霊能者側の被害も甚大です」
と青葉は言った。
 
「山川春玄さんは重傷。たぶん回復に2-3年かかります。完全には回復しないかも。千里姉もそれに近い状態かも。私の姉弟子の山園菊枝も重傷。こちらは多分半年くらいの入院で済みそうです。***さんは前頭葉をほぼ破壊されています。生命体としては生きていますが一生介護が必要です。****さんは死亡しました」
 
「それ全部クロガーにやられたの?」
「千里姉と羽衣さんがいなかったら、日本の主な霊能者が全滅していたかも」
と言って青葉はため息をついた。
 

青葉とそんな話をした数日後のこと。その千里からまた電話があった。
 
「冬に頼まれていたアルバムの曲なんだけど」
「え?何か?」
 
千里は3曲書いてくれることになっていた。しかし3曲とも5月中にもらっている。こちらでは様々な楽器を組み込むアレンジを進めている所だ。
 
「2曲までは書いて5月に送ったけど、もう1曲がなかなか思いつかなくて」
「なんか体調崩しているんだって。あまり無理しないで、療養していた方がいいと思うよ」
 
千里にはできるだけ早く復活して欲しい。そのためには無理はして欲しくない。
 
「それで、このままでは冬が困ると思ってさ。同じ雨宮グループの作曲家さんで、まだ自分の名前では曲を書いていない人で、琴沢幸穂(ことさわ・さちほ)ちゃんって人がいてね」
「うん」
 
「この子の試作品を見たんだけど、かなりいい出来なんだよ」
「へー」
「良かったら、私の作品の代わりに彼女の作品を使ってもらえないかと思って。とりあえず譜面とCubaseのデータ、そちらに送っていい?」
 
「うん。それは聞いてみてから」
 

すると千里はすぐに譜面とCubaseのデータをメールしてきてくれた。
 
それで聞いて見たが、ひじょうに素敵な作品である。
 
タイトルは『フック船長』。ピーターパンに出てくる海賊の船長を題材にした曲だが、若い作者さんだろうか。色々意欲的な作りがなされている。私はこの作品を使いたいと思った。
 
しかし千里が書いていてくれたはずの『縁台と打ち水』も今回の『郷愁』というタイトルにふさわしい作品で、しかも40-50代の人にアピールする作品なので、そちらも使いたい。それで私は千里に電話した。
 
「これ素敵に作品だね。ぜひ使わせて。この人の作品利用の許諾はどうすればいいの?」
「JASRACに琴沢幸穂で登録しているから通常通りに。JASRACの登録番号もその譜面に書いていたと思うけど」
 
「わっ。書いてあった。ありがとう。じゃそれで。ところでさ」
「うん」
「千里からは私風の作品2つと、もうひとつ醍醐春海名義の『縁台と打ち水』という作品ももらっているんだけど、こちらも使っていいんだっけ?」
 
「あれぇ?そんな作品書いてたっけ?」
「うん」
「ごめーん。最近私、物忘れが酷いんだよ。でも私が送った作品で気に入ったのあったら、自由に使って」
「うん。じゃ使わせてもらうね。でもほんと千里、身体大事にね」
「ありがとう」
 
そういう訳で、既に青葉と七星さんからも各々名義の曲を1曲ずつもらっているので、アルバム用の曲は13曲も揃ってしまったのである!私は忙しいのを承知で町添専務に電話をして、アルバムの曲数の問題について打診した。
 
「ごめんね。サポートしてあげられなくて。どうも意図的にそういう会議から排除されている感じで」
「そちらも大変ですね」
「でも安心して。そのアルバムの曲数については、僕がしっかり話を社長に通しておくから。だからケイちゃんは、好きな曲数でアルバムを制作して」
「分かりました。曲数に変動があったら逐次、専務にお伝えします」
「うん。そちらも大変だと思うけど、よろしくね」
「はい。専務もお身体に気をつけて頑張ってください」
 

7月上旬、アクアの水着写真集《Double Green Sea》が発売された。プーケットの青緑色の海を背景に、男の子“佐斗志”の水着姿と、女の子“友利恵”の水着姿がひとつの写真集になっている。分量的には佐斗志が60ページ、友利恵が80ページくらいで、“遷移部”が10ページほどある。
 
佐斗志の写真では、多くの写真がラッシュガードやTシャツを着て、上半身も何かの服で覆っているが、上半身を裸で曝しているものも5枚だけ混じっていた。それでアクアには、おっぱいが無いことが確認できる。
 
こういう写真を敢えて入れたのは、アクアが実は女性ホルモンを飲んで声変わりを防止すると共に、おっぱいも大きくしているのではという疑惑がずっとくすぶっているので、それを否定しておきたかったことによる。
 
それで実際巷では
「あぁ、やっぱりアクア様、おっぱいは無いのかぁ」
というため息のような残念がる声が、主として女性ファンから!出ていた。
 
「でもちんちんの形も確認できない」
「やはり去勢疑惑はあるよなあ」
 

しかし写真集を買った人が熱狂したのは、後半の友利恵の水着写真の方である。
 
多くの写真はワンピース水着を着けており、スクール水着っぽいものもある。このスクール水着っぽいものが、一部のファンを狂乱させていた。しかしそれより多くの人にインパクトを与えたのが、ビキニの水着を着けた10枚の写真である。
 
「アクアを俺の嫁にしたい!!」
「今すぐアクアと結婚したい!」
という暴走する書き込みが大量発生しているのはいつものことである。
 
私はこの写真集を見て道を誤る若い男性が随分出るのではと心配した。
 
「これ、絶対男の子の身体じゃない!」
という書き込みがわりと冷静なファンからも出る。
 
「まさか首から下は別の女の子モデルの身体だとか?」
「それはさすがにないだろう」
「そういう合成は不自然になるよ。そういう不自然さは無い」
「拡大してみたけどつなぎ合わせたような跡は見られない」
 
そのうちこういう投稿がある。
 
「身体のラインを佐斗志の写真と重ねてみたけど完全に重なっている。だから佐斗志の写真と同一人物であることは確か」
 
こういうテストまでしてみた人が実際、複数あったようである。それでともかくもアクア本人の写真であることが確定した。
 
「佐斗志の写真撮ったあとで豊胸手術したとか」
「まさか」
「アクアは女になるつもりはないはず」
「うん。アクアは単に女装するのが好きなだけであって、男をやめる気は毛頭無い」
とけっこうアクアを理解した(?)書き込みがある。
 
「でもそれなら、このおっぱいはどうなっているんだぁ!」
 
「『時のどこかで』で使っていたブレストフォームだろ?たぶんあれはアクアの肌の色に合わせて作ったオーダーメイドだろうから、それを装着して撮影したんだと思う」
 
「そうか、あれか!」
 
あのブレストフォームの制作費は10万円以上したことを、『時のどこかで』の制作チームのサイトで明かされている。
 
ともかくもこの写真集はこのあと1ヶ月間にわたって書籍の売上げ統計のトップを占め続け、その後、週間ランキングでは1位から陥落したもののランクインを続け、2017年内に100万部を突破してしまったのである。
 
歴代のアイドル写真集の売上統計で、宮沢りえのSanta Fe(150万部)に次ぐ売上成績であり、ヌード以外の写真集としては、広末涼子のH+R(50万部)を抜いて、歴代1位となった。
 
そしてこの写真集は、アクアに必ずしも注目していなかった30-40代の男女に大きくアクアというタレントを印象付けたのである。
 
もっとも30-40代の購入者の中には、男女双子のタレントの写真集と思い込んだ人もあったようである!
 

「まあそういう訳で私がアクアの新しいマネージャーになったから、よろしくね」
と言って《アクア専任マネージャー・四谷勾美》という名刺を渡した人物を見て、アクアは顔をしかめた。
 
「こうちゃんさん、何の冗談ですか?」
「いや、千里のお世話は2年ほど休みになったんだよ。だからその間、お前に付いてて色々助けてやるから」
 
と《こうちゃん》はすぐに男言葉になってしまった。
 
「でもどうして女装なんです?」
「だってスカート穿くの気持ちいいじゃん」
「女装趣味ですか〜?」
「いいじゃん。龍虎、お前も女装好きだろ?」
「別に僕は女装しませんよ」
「嘘つくとチンコ引き抜くぞ」
「どうせこのおちんちん偽物だし」
「だったら俺が管理してる本物のほう捨てちゃうぞ」
「それはやめて」
「やはり男に戻りたいんだ?」
「20歳になったら」
 
「まあいいや。とにかく鱒渕は流されやすいから充分アクアを守ってやれなかった。板挟みになってストレスを溜め込んだ。俺は簡単にはめげない。お前を守るために全力を尽くす。俺、結構弁も強いから。マジで海千山千だしさ」
と《こうちゃん》は言った。
 
アクアはため息を付いた。
 
「ちょっと自分だけでこれキープしていくのは結構大変だと思い始めていたんですよねー。こうちゃんさんに助けてもらうと、もっとうまくできそう」
 
とアクアは言うと、続きの部屋のドアを開けて声を掛けた。
 
「出ておいでよ」
 
それで出てきた2人を見て《こうちゃん》は驚愕した。
 
「お前ら誰!?」
 

7月14日(金)、バスケットの日本女子代表の選手が1名交代することが発表された。合宿中に怪我をした大野百合絵に代えて、先日の15人→12人に絞られた時に落とされた村山千里を追加招集することになったということであった。
 
私はまた千里に電話した。
 
「うん。びっくりした。今年の夏はゆっくり休めるかも知れないと思ったんだげとねぇ。またハードな夏になることになった。でもごめん。結果的に、そちらの音源制作に協力できない。取り敢えず平日なら林田風希さんが動けると言ってた。あと8-9月は青葉が動けるはず。アクアの制作に関わっていない時は使えると思うからたくさんこき使ってあげて。必要な交通費は私が全部出すから」
 
「あはは。それで青葉には頼むことにするよ。交通費はもちろんこちらの制作費から出すよ。そちら大会頑張ってね」
「うん。ちょっと優勝してくる」
「その意気、その意気」
 
千里たちはこの日14日から18日まで国内で合宿をした後、19日にはアジアカップが開催されるインドに旅立つということであった。
 
私は電話で話した千里が物凄く元気な雰囲気であったこと、そして何よりも日本代表に再招集されたということは、運動能力もかなり回復させたのではないかと考え、青葉が思っていた以上に急速に千里は体力を回復させているのだろうと思った。作曲や楽器演奏なども回復する・・・かな!?
 
ともかくも千里から紹介してもらった琴沢幸穂さんの作品まで入れて13曲、アルバムに入れる予定の曲が揃っているので、私は7月中旬以降、学生ミュージシャンが動けるタイミングを使って、一気に制作を進めたいと考えていた。
 
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