【春草】(1)

前頁次頁目次

 
そのトラックは幌が掛かっていて、一見自衛隊のトラックのようにも見えた。空き地の前で停まると軍服のようなものを着た一団が降りてくる。戦闘用マスクもしていて顔が分からない。男か女かも分からない。投光器が空き地を照らす。
 
「セイタカアワダチソウ確認!」
「成敗!」
という声が掛かると、軍服姿の者たちが持つ火炎放射器が一斉に火を噴く。空き地に多数咲いていたセイタカアワダチソウが燃えていく。充分燃えた所で
「放水!」
という声が掛かり、今度は消防車のようなホースで空き地に水が掛けられる。センサーのようなものでチェックしている男がいる。
 
「完全消火確認」
「撤収」
 
それで軍服姿の者たちはトラックに乗ると、どこへともなく去って行った。
 

「雑草殲滅隊?何それ?」
 
日本代表の活動で忙しい青葉はその日は珍しく大学に出て来ていたのだが、お昼休みに学食でクラスメイトたちと一緒にランチを食べていて、その話を聞いた。
 
「夜中にどこからともなくトラックでやってくるんだって。セイタカアワダチソウの茂っている空き地とか川辺とかで、火炎放射器使ってセイタカアワダチソウを根こそぎ焼いてしまって、ちゃんと水を掛けて消火した上で、どこへともなく去って行くんだって」
 
「セイタカアワダチソウを燃やすのが目的なんだ?」
「どこでも地域住民の多くから喜ばれているらしいよ。放置されている空き地とか休耕田とかにセイタカアワダチソウが生い茂って、花粉症に苦しむ人たちから役場に何とかしてくれという陳情があっても、役場は私有地ではどうにもならないと言って何もしてくれないらしい」
 
「ああ」
 
「だから撲滅してもらって助かるという意見多数。誰からともなくネットで雑草殲滅隊と名付けられている。偶然作業を目撃した人によれば軍服着て顔も覆った男たちらしいよ」
 
「男なの?」
「それは分からないよね。顔も隠しているし。女かも知れないよね」
と冴子が言うと
「男の娘だったりして」
と真奈美が言う。
 
「まあ性別は不明ということで」
 
「だけど法的にはかなり問題があるよ。不法侵入、放火罪、火気乱用」
 
「火気乱用には当たらないと思う。軽犯罪法第1条の九。『相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者』。充分な注意をして実行しているもん」
 
さっと条文が暗誦されるのがさすが法学部の学生である。
 
「不法侵入も該当しない。建物じゃないから刑法130条は対象外。軽犯罪法第1条の三十二は『入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者』。田畑ではないし、特に立入禁止とかの看板が出てない限りこれには当たらない、そもそも立ち入らずに外から燃やしてるから侵入してない」
 
「放火罪さえ微妙。刑法百十条『放火して前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の懲役に処する』。公共の危険を生じさせてない。これは確か判例があったはず。放火罪ではなく器物損壊に問われた事件もあったと思うけど、雑草を“器物”とみなすのは無理がある。更に損壊とは、その物の効用を害する一切の行為を言うけど、セイタカアワダチソウにそもそも価値や効用が存在したとは思えない。むしろ土地の価値を高めたかも」
 
「じゃ何の法律にも違反しない訳??」
 
「いや“公共の危険”について検察は争うと思うよ」
「でも判決は微妙だね」
「優秀な弁護士がつくだろうから無罪を勝ち取るかも」
 
「だけど完全に消火したつもりでいても、ひょっとして火種が残っていて延焼したら危険」
とひとりが言っていたら、実際に火事が起きてしまった。
 

それは富山県南砺市の空き地で、あきらかに雑草殲滅隊が入ったと思われる空き地の隣にあった民家が燃えてしまったのである。幸いにも怪我人は出なかったものの、焼け出された人は報道機関を前に、雑草殲滅隊を「連続放火魔のテロリスト」と激しく非難した。マスコミの論調も、概ね、彼らはやり過ぎだし、違法な活動だと評した(しかし何に違反するか明記したマスコミは存在しなかった)。
 
すると翌日、雑草殲滅隊を名乗る人物が、海外のドメインからツイッターに投稿した。
 
「私たちの活動で、消火が不十分であったために延焼して民家にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びする。写真や想い出の品などは返ってこないだろうが、せめてものお詫びと被害額の補償として、家の再建費・家財道具の再購入費および御見舞い金として5000万円を払いたい。テレビ局に届けるので渡して欲しい」
 
ということで、実際に富山のローカルテレビ局に5000万円の振込があった。テレビ局は警察・税務署などとも相談の上、全額を被害者に渡した。税務署も、これは贈与ではなく損害賠償とみなすとコメントし、税金は掛からないことになった。
 
ネットでは「雑草殲滅隊かっこいい」「男らしい!」とますます評判が高まることとなった。
 
しかしこの事件で雑草殲滅隊がかなりの資金力を持っていることも判明した。
 
「しかし活動内容からして元々お金は掛かっているでしょうね」
「花粉症に悩むお金持ちとかがバックについているのかも」
などとテレビの情報番組のコメンテーターたちは述べていた。
 

ところで、“デファイユ津幡”の地鎮祭をしなければと青葉は思った。
 
ここの霊的な処理をして『霊界探訪』で放送した時も青葉は「ここは地鎮祭もされていませんね」と発言している。
 
が、青葉は仏教系の人なので、神社系のことがさっぱり分からない(実はお寺が地鎮祭をするケースもあるらしいが、青葉はこのことを後から知った。祭壇ではなく仏壇を作り、玉串奉奠ではなく焼香をする!むろん祝詞ではなくお経をあげる)。
 
しかし青葉は地鎮祭なら神社だろうと思ったので、神社系のことならと、千里2に電話して訊いてみた。
 
「基本的にはその土地の地元の神社に頼むものだけど、工務店との相性があるんだよ」
「相性?」
「大工さんたちって、迷信深い人が多い。やはり建築作業してたら事故ってどうしてもあるからさ。その工事中の無事を担保するには、その工務店の人たちが信頼している神社に地鎮祭をしてもらわないと、納得しない」
 
「そういうのがある訳か」
 
「まあ施主が希望する神社がその工務店ともお付き合いのある所だったら、最も問題無い。実際は、津幡町や金沢市のある程度大きな神社に頼みたいと言えば、工務店もそことの付き合いはあると思うよ、特に何か宗教やってるような工務店以外は」
 
「なるほどー」
 
「今回は、播磨工務店とムーラン建設の並行作業になったけど、地元の工務店で萬坊工業という所に下請けさんたちの統括をしてもらうことにしたから、そこに照会してみようか?」
「あ、言ってたね。今度萬坊工業の社長さんとも引き合わせるとは言われていたんだけど、私も忙しくて。じゃその件よろしく」
「OKOK」
 
「これ初穂料はいくらくらい包むもん?」
と青葉は尋ねた。
「さぁ、分からないけど、初穂料なら1万円くらいじゃない?」
と千里。
 
「さすがに1万円は無いと思うよ!?」
 
青葉は安物好きの千里に聞いたのが間違いだったかとも思ったが、桃姉などに訊いたら、きっと「5円じゃダメか?」とか言いかねないなと思いながら、ノンアルコール・ビールを飲みながらゲームをやっている桃香を見た。桃香は千里1がお遍路を終えるまで高岡に滞在予定である。
 
それで青葉は母に尋ねてみたのだが、母も悩んだ上で
「こんな大きな施設作るんだから、20-30万円包まないといけないんじゃないの?」
と言った。
 

萬坊工業の社長・野村さんという人から月曜日に電話が掛かってた。挨拶などしてから、地鎮祭については播磨工務店さんからも、神主さんの手配とかは地元の企業であるこちらに委託されたからというので詳細について打ち合わせた。
 
野村社長は、お姉さんも不確かな所が多かったのでということで、こちらに直接質問してきたようでもあった。千里姉、特に2番さんはアバウトだからなあ、と思う。それで状況を説明した。こちらが手配すべきもの、向こうで手配してくれるもの(費用は一時的に播磨工務店が出して最終的には施主に請求されるはず)の区分けがなされる。祭式を行う場所として関係者が多数座れるような紅白の幕を張り、椅子を並べたテントを立てるというのは言われて気付いた。そういえばそんなテント張ってるね!神主さんに渡す初穂料についても尋ねてみたら、社長は「たぶん10万くらいでいいと思う」と言っていた。
 
(テントは雨の日だけ立て、晴れの日は露天で行う流儀もあるが、晴雨に関係なくテントを使う流儀もある)
 

それで結局10月16日(水・十二直は“たつ”−地鎮祭や上棟式などは十二直を重視する)に“起工式”という形で行うことになった。
 
「地鎮祭と起工式って何が違うんですか?」
と青葉は素直に社長に訊いてみた。
 
「他に安全祈願祭というのもありますね」
「それも聞いたことあります!」
 
「基本的には地鎮祭というのは“工事を始める前”に、土地の神様にここで工事をしますが、よろしくお願いしますと施主と施工者が一緒にご挨拶する行事で、起工式というのは“工事を始める時”に、いよいよ工事に取りかかりますので、無事でありますようにと施主と施工者が大工の神様と土地神様に祈る儀式、安全祈願祭となると工事関係者の内輪の儀式という色彩が強くなりますね」
 
「あ、少し分かりました。ではその3回やらないといけないんですかね?」
「いえ。もうこれらは完全に一体化してます。もう区別が付いてない人が多いですよ。まあ地鎮祭は土地の神様へのご挨拶だから、大地の守護神と土地神様に祈り、起工式は工事での無事を祈るから、工匠の守護神と土地神様に祈る。祈る相手が違うくらいで、やることはほぼ同じ。子供を保育園にやるか幼稚園にやるかみたいな違いじゃないですかね」
 
(地鎮祭の祭神は大地主神・産土大神、起工式の祭神は手置帆負命・彦狭知命・および産土大神である)
 
「なるほどー」
 
そう考えると、土地神様への挨拶や結界作りは、自分と千里姉でやってしまえばいいから、工事の無事を祈るというのが中心になる“起工式”の方がいいな、と青葉も思った。
 

それで青葉はその日(10月7日)の夕方再度千里姉(千里2)に電話してみた。夜間はフランスでの練習とかにぶつかるだろうと思いその前に電話した。
 
「10月16日ね。OKOK。試合にもぶつかってない」
「それで私もよく分かってなくて混乱していたんだけど、起工式ってのは、いよいよこれから工事を始めますって時に工事の安全を祈願するのに主眼を置いた儀式みたいなんだよね。だから、その前に私とちー姉とで、地鎮祭に相当する、土地神様へのご挨拶と結界作りをやっちゃわない?」
 
「OK、いつやる?」
「いつでもちー姉の都合のいい日で」
「だったら明後日9日でもいいよ」
「明後日ね。こちらもOK」
 
「今日も明日も基本的に平日は試合が無いから、こちらの練習は日本時間の午前1時頃終わるんだよ。それから一眠りして、朝6時頃以降ならいいよ」
「せめて8時にしようよ」
「了解」
 
「そうだ。今思い出したけど、駐車場の南側はまだ木を伐採してないでしょ?あれそのまま起工式やっていいのかな」
 
「ああ、だったらあの部分の木は明日中に処理させおくよ」
と千里。
 
「1日でやっちゃうの!?」
 

それで青葉と千里は10月9日(水)、ちょうど起工式予定日の1週間前、デファイユ建設予定地に朝8時にやってきた。青葉は7:40くらいに来たが、駐車場の南側一帯の、まだ未伐採だった部分がきれいに木が無くなっていて、地ならしされているのを見て感心していた。
 
(今回伐採したのは9月30日に買った270m×270mの領域で、288×328mの範囲の処理は年末にあらためておこなった)
 
千里姉は8:00ジャストに播磨工務店の南田社長と一緒にやってきた。
 
「あ・・・・」
青葉は周囲を見回した。千里姉が車を降りた次の瞬間から、この土地の空気が変わり始める。
 
「凄い」
 
「15分待って。雑魚まで全部駆逐するから」
「うん」
 
そして実際15分後には、敷地内は、きれいに“クリーニング”されてしまった。
 
「まあ今日は20人がかりでやったからね」
「そんなに動員したんだ!」
 
青葉は、千里姉の眷属って、一体何人いるんだろう?と疑問に感じた。
 
確かに多数の“何か”が動き回っている感じだったが、青葉には見えなかった。(実は《くうちゃん》の力で、青葉に霊的な目隠しをしていたのだが、青葉は気付いていない。《くうちゃん》の動きにも気付くことができるのは、羽衣・虚空・紫微クラスである)
 
「でも森林の伐採もきれいに終わってたね。凄いね。多分400-500本はあったと思うのに」
と青葉が言うと
 
「木は全部で665本でした。あと1本あれば666本・悪魔の数だったのに」
と南田が言う。南田さんの会社がやっちゃったの?
 
「そんなにありましたか!」
「全部抜いて敦賀にある、うちの製材所(*1)に運び込みました」
 
「抜いて!?」
 
青葉は一瞬巨人が多数の木をぐいっ、ぐいっ、と引き抜いていく様を想像した。(実は正解である)
 
「ああ、いや木は切って根っこを抜いたんですよ」
「よく1日でやりましたね!」
「4つのチームに分けて競争させましたから」
「なるほどぉ!」
「1番になったのは男の娘チームでしたね」
「へー!!」
 

ムーラン建設には性別の曖昧な社員がかなり居ると聞いている。ミューズ・アリーナの建設で大量に作業員を募集したので、その中に結構そういう人がいた。建設が一段落して大半は新幹線の建設現場などに移動したが、引き続き小浜市内での開発が続くので残りたい人を募集した時、その人たちの大半が残留を希望したためである。ムーラン建設本社のトイレには、このようなマークが並んでいるらしい。

 
M, F はMale, Female だが M を MAN と思い込んでいる人は結構いるらしい。N は Neutral の N でもあり Non-Binary の N でもある。敢えて曖昧にしている。これはトランスの人はNを使ってくれという意味ではなく、むしろFに入る勇気のない人、Fに入ると苦情の出る人に使ってもらうためであり、“パス”している人は普通にFを使ってもらってよい。
 
ムーラン建設ではNのトイレには誰でも入れるが(男性と女性の連れション!もOK)、MとFのトイレは社内の面接で合格しないと使用できない!らしい。それで天然女性なのに初回Fの審査に落ちちゃって開き直り次回の審査まで堂々と男子トイレを使った豪快な女子社員もいるとか!?逆に天然男性なのにMの審査に何度も落ちて、友人たちから女装を唆されたり男性から交際を申し込まれた人もいたとか!??(同性愛者の社員も多い。ちなみに同性婚でも家族手当が出る。また性転換手術休養制度まである)
 
そんな話を聞いていたので、青葉は数十人の作業員が集まり、一斉に森林の木を切り始めた様を想像した。(でも実は不正解である)
 
(*1)千里が所有する2番目の製材所である。小浜で大規模な開発をするのに栃木県塩谷町の製材所だけでは処理能力が足りないし遠いので、向こうと同様に良い職人さんは居るものの資金力が無く経営が行き詰まっていた所を買い取ったのである。塩谷町のと同様に、社長さんには所長として残ってもらった。小浜の開発ではここだけでは足りないので若狭周辺の多数の製材所にも依頼しているが、自前の製材所では“非常識”なこと(一晩で樹木を100本庭に積み上げるなど)ができる。今回も100本(だいたい2ヶ月分)積み上げて、塩谷町にも同様に100本持って行き、残りは福井県内に所有する山林(製材所を買うのと同時に買ったもの)に取り敢えず置いた。
 

青葉は千里姉と“地鎮祭”をするのに来ていたのだが、千里姉が車を降りた瞬間から、この領域の“清掃作業”が始まり、15分ほどで雑霊の類いが駆除されて、きれいな空間になるのを見た。
 
「ここまで出来たら、後は結界作りかな」
「それを私と青葉でやろうよ」
「うん」
 
それで青葉は千里姉と一緒に土地の外周(270m×270mの範囲)を見て回った。既に境界線には縄が張られているので、それに沿って歩いて行くが、青葉たちが歩く所が霊的にも境界として定まっていき、その外側の“もの”は中に侵入することができなくなる。一周回って結界が作動した後、千里姉は敷地の四隅(境界標の内側)に行って、何か袋に入ったものを埋めた。
 
「領域を拡張したら、これも埋め直さないといけないなあ」
と南田さんが言っている。
 
「取り敢えず体育館を建てる間の御守りということで」
 
体育館の基礎は今あるものを流用するので、すぐ建設に入れるが、アクアゾーンの方は敷地の一部が新たに町から購入することになった領域に掛かるので、現在の境界線に暫定的な山留めをしてから、現在の敷地の部分の地下を16mくらい掘り下げるのだということだった。
 
体育館を播磨工務店、アクアゾーンをムーラン建設が担当するのだが、この地面を掘る作業が大変なので、暫定的にその作業は播磨工務店が行い、ムーラン建設はその間に、体育館の基礎にかぶせてある保護用の土を取り除くという話であった。そこまでやった所で担当交換である。
 

4つ目の袋を埋めて土を被せた所で「ブーン」という音がした気がした。青葉が見回してみると、わりとアバウトな結界が敷地全体に作動している。
 
こんな結界で大丈夫か?
 
と青葉が思ったら、千里姉が“答えた”。
 
「あまりしっかりしたものを作ると後で移動させる時に面倒だから軽く掛けたんだよ」
 
「袋に入れたまま埋めたのもそのせい?」
「そうそう。四獣に土が付かないようにするため。いったん土が付いてしまったら、もうそこから動かせないから」
「へー」
 
そうか。四獣の置物か何かだったのか、と青葉が思ったら
「見えてたくせに」
と千里姉が言う。
 
「何が入っているかは分からなかった。というか、私しゃべってないのに」
と青葉が答えると、
 
「そんなにハッキリ“思えば”しゃべっているのと同じ」
と千里姉は言った。
 
後ろで《姫様》も呆れたような顔をしている。
 

「取り敢えず結界もできたしこれで地鎮祭は終わりですな」
と南田は言っている。
 
「神様へのご挨拶は?」
と青葉が尋ねると、
 
「青葉が心の中で『よろしくお願いします』と言えばいいよ」
と千里姉は言った。
 
それで青葉は“こちらかなぁ”と思う方角を向いて
 
「ここで工事をして体育館兼ライブ会場、プール&スパ、テニスコートやグラウンドゴルフ場などを建設させて頂きます。よろしくお願いします」
と大きな声で言った。
 
《姫様》が頷いているので、これで良かったようだな?と思った。
 
(千里は「心の中で言えばいい」と言ったのだが!)
 

§§ミュージックのタレント、研修生大量出演の『The源平記』は、アクアの時間が比較的取れる9-10月の平日の夜に主として撮影が進められた。どうしてもふつうのドラマの撮影は土日に集中しがちなので、平日を使うのである。
 
但し、9月中旬に伊豆半島付近のいくつかの場所を使用して野外ロケを敢行している。実はまだ他の場面をあまり撮っていない中での撮影になったので、出演者もストーリーを把握しておらず混乱していたが、季節的にこれ以上遅い時期には寒くてできなかったのである。11月下旬とかに撮影していて水に落ちたりすると心臓麻痺などの事故も起きかねない。特に今年は寒くなるのが早かったので、この判断は結果的に良かった。
 
どうしてもこのロケで撮影したものとストーリーが矛盾してしまったものについては実は11月になって熊谷市のアクアリゾートの50mプールにセットを組み撮影したものもある(壇ノ浦の船上の戦いは実はかなり撮り直している)。その時期は、オリンピック候補組が湯の丸の標高1750mの高原プールに移動していたので、一週間ほど借り切ることが出来た。
 
源平の合戦を描くと、出てくるキャラのほとんどが男性である。ところが§§ミュージックのタレントはアクアと西宮ネオンを除くと、ほとんどが女子である。それで多くのタレントが男装して演じることになった。
 
弁慶は長身の品川ありさで、格好いい弁慶を演じてくれた。高崎ひろかは最初、源頼朝を演じる予定だったのだが、諸事情から北条政子に回り、頼朝は秋風コスモス社長が演じることになった。白鳥リズムは前半最も目立つ役である木曽義仲である。豪快な雰囲気のリズムは野生の男・義仲が似合う。逆にいかにも儚い感じの平敦盛を、本当に儚い雰囲気の東雲はるこが演じる。
 
「葉月ちゃんは佐藤忠信をしてくれる?男装で申し訳無いけど。今回は殆どの女子タレントが男装なのよ」
と川崎ゆりこは言った。
 
「ええ。いいですよ。佐藤忠信って、おキツネさんでしたっけ?」
と今井葉月は逆に尋ねた。葉月は小さい頃、両親が『義経千本桜』を上演していたのを見た記憶があった。
 
「まあそのあたりは曖昧な部分あるね」
などとゆりこは言っていた。
 
「男装ね・・・」
と言って桜木ワルツは腕を組んで悩んだ。ワルツは佐藤継信を演じることになる。佐藤行信は姫路スピカである。ただこの付近は微妙に複雑なことになっている。
 

さて青葉の方である。
 
千里2・南田社長と3人で“地鎮祭”をした1週間後の10月16日(水)、今度は多数の関係者を集めて起工式をすることにする。
 
播磨工務店の南田社長、ムーラン建設の石田社長、萬坊工業の野村社長、青葉と千里(千里2)に〒〒テレビの神谷内ディレクターと森下カメラマン、幸花。銀行の頭取、など関係者が揃う。萬坊工業の人が連れて来た近所の神社の宮司さんが起工式を執り行うことになった。この様子は〒〒テレビとNHKが撮影し、NHKは夕方のローカルニュースで放送したらしい。
 
(明恵と真珠については『平日だし学校に行きなよ』と言ってパスさせた)
 
テントも前日の15日に張り、祭壇が作られ椅子が並べられた。仮設トイレまで置かれている。このあたりの準備は萬坊工業が播磨工務店と連携しながら、やってくれている。出席者は下請けの主な会社の社長なども入り、更には津幡町の助役さんまで来てくれて、50人ほど!に及んだ。
 
9:00ジャスト。神職さんがテントの北端に作られた笹竹による四角形の結界の前に進むと、いつも青葉の後ろに居候している《姫様》がすっと祭壇の所に移動し、ジロッと宮司を睨んだ。
 
宮司がビクッとした。
 
宮司が固まっているので、野村社長が
「どうかしました?」
と尋ねた。すると宮司は言った。
 
「申し訳ありません。本宮の神職を呼んでもいいですか?」
 
野村さんはこういう事態は初めてのようで困惑しているが、播磨工務店の南田社長が笑いながら言った。
 
「どうもこの土地は“特殊”なようですね。神職3〜4人居ないとダメかもね」
 

それでいったん起工式は休憩となり、出席者にお茶とお菓子(千里姉が用意していて、南田さんに渡していたもよう−つまりこの事態を予測していた??)が配られる。神社の宮司は白山市にある大きな神社の宮司さんに来てもらった。宮司さんだけでなく、他にも神職さんが4人に、巫女さんが3人も来ている!
 
その宮司さんも祭壇に陣取っている《姫様》の方角を見てギョッとしたようである。土地のオーナーである青葉が呼ばれる。
 
「今日は取り敢えず起工式を致しますが、ここはきちんとお社を建ててお祭りした方がよいです」
「分かりました。祠のようなものでいいですかね?」
 
「取り敢えずはそれでもいいですが、正式の神社を建てた方がいいですよ。物凄く神格の高い神様がいらっしゃるようです」
 
「分かりました。早急に検討します」
 
《姫様》が指でOKサインをして青葉を見ている。
 
もう!
 
また“別宅”を作れという要求なのかね〜。しかもかなり大きなものを!
 

それで宮司は11時から2時間!掛けて、念入りな起工式を執り行った。もっとも普通行うような降神の儀・昇神の儀は省略された。神職が降神の儀をしようとしたら《姫様》がギロッと神職を睨んだので、神職も「これは不要のようです」と言って、次の手順に進む。実際、わざわざ降ろさなくても神様は居るもんね!神様を降ろさなかったので、当然お帰り頂く儀も不要であった。また、四方清め祓いも省略された。神職は「これは既に完了しているようです」と言った。
 
儀式で使用する鎌(かま)は播磨工務店の南田社長、鍬(くわ)は施主である青葉、鋤(すき)はムーラン建設の石田社長、が持って、各々「えい!えい!えい!」と声をあげて、草を刈る仕草、土に鍬を入れ鋤でならす仕草をした。
 
(誰がどれを持つかは地域によってまた神社によっても様々なパターンがあるが、石川県はどうも設計者=鎌、施主=鍬、施工者=鋤という東京方式が多い模様。なお今回は播磨工務店とムーラン建設が並行して工事をおこなうので、両者で鎌と鋤を分け合った)
 
玉串奉奠(たまぐしほうてん)は、宮司、青葉、千里(千里2)、若葉の代理の永井麻衣さん、冬子の代理の佐野麻央さん、〒〒テレビの石崎部長、播磨工務店の南田社長、ムーラン建設の石田社長、萬坊工業の野村社長、の順に行った。
 
祝詞がやたらと長く、笛・太鼓に巫女さんの舞まで入る。その間、《姫様》はどこから出てきたのか、6-7歳くらいの童女と遊んでいた。ひょっとしたら、ここの地主神様かなぁ〜?という気がした。
 
《姫様》は儀式の最中に唐突に千里姉の所にくると何か言う。すると千里姉のバッグから小さなバスケットボールが出てくる!後で聞いたら小学校低学年用の4号球というサイズだということだった。
 
でもなんでそんなの持ってるのさ!?
 
《姫様》がそのボールを童女の所に持って行くと、童女は嬉しそうにボールで毬撞きをしていた。
 
ここはバスケットの聖地になるかもね!?
 

神職さんたちの儀式は続く。
 
青葉は『こんな仰々しくしてもらって10万という訳にはいかないよぉ』と思った。すると千里が青葉のバッグの中に何か押し込む。札束のようだが、分厚い!ちゃんと祝儀袋に入っているようである。
 
それで青葉は式が終わった後、平然とした顔でその祝儀袋を神職さんに渡した。
 
後で千里姉に尋ねてみると「念のためと思って200万用意しておいた」と言っていたが、道理で神職さんたちのご機嫌がよかった訳である!でも祝儀袋は100円ショップの5枚100円って感じだった!さすがちー姉だ!むろん受け取る側は、外側より中身である!!
 
起工式は13時過ぎにやっと終了し、神職さんに初穂料と御車代(大人数になったので初穂料として用意していた10万円をこちらに入れ直した!)を渡した上で、神職さんたちを含めて全出席者に菓子折・お弁当にお茶を紙袋に入れて渡した。実はお弁当とお茶は、時間がずれ込んだので幸花に買ってきてもらったものである。
 
なお施主から出席者への祝儀については事前に野村さんに相談したら不要と言われたので入れないことにした(個人経営の工務店と違って大手では受け取りを禁止している所も多いらしい)。
 
菓子折の袋を渡す作業は、青葉・千里・幸花の3人のほか、永井さんと佐野さんも手伝ってくれた。遠くから来てくれた永井さんと佐野さんには交通費・宿泊費も渡した。
 
「交通費・宿泊費は若葉からもらっているんだけど」
「交通費・宿泊費は冬子からもらっているんだけど」
 
「では二重取りということで」
 

この起工式の様子はNHKではその日の夕方のニュースで、石川県および富山県のローカルニュースのコーナーで流れたのだが、ニュースの直後、青葉に電話が掛かってきた。
 
水泳部の先輩・桜池布恋(桜池裕夢の姉)である。
 
「青葉、面白いもの作るのね」
「なんか成り行きで」
「プールも作るんでしょ?」
「ええ。アクアリゾートの地下に公式のを作りますが、それだと完成が春頃になるので、その前から使えるように暫定プールも作るんですよ」
「その管理人とか雇った?」
「いえ。どこかの会社に委託しようかと思っていた所なんですが」
「私を雇わない?」
 
「布恋さん、今の仕事は?」
 
確か布恋は愛知県の映像機器会社に就職したと思った。この話もニュースを見た弟の裕夢から聞いたのかなと思った。
 
「先週倒産した」
と布恋。
 
「ありゃあ」
「お父ちゃんからは富山に帰ってこいと言われてるんだけど、帰ったら結婚させられそうな気がしてさ。だから帰ってもいいけど何か仕事したいのよ。でも女子の仕事ってなかなか無いじゃん。バイトは男子より多いけど」
 
青葉は考えた。
 
「だったら、プール衛生管理者か何かの資格を取って下さい。受講費とかはこちらで出しますから」
 
「了解!受講できる所、探してみるよ」
 
そういう訳で、臨時プールの管理人は布恋にお願いすることになったのである。
 

起工式の後で、播磨工務店とムーラン建設の人たちが最初にした作業は敷地内に仮設の工事事務所・宿舎・建材置き場を建てる作業だった。
 
(この手の建築作業用の仮設建築物については建築確認等は不要−建築基準法85条2項)
 
ムーラン建設の設立の元になったミューズパークの建設には1300人ほどの大量の職人・作業員が関わっている(延べ人数では12万人ほど)のだが、その内、工事終了後に小浜に残留してムーラン建設に参加した人は150人ほどで、実は若葉の目論見より多かった。小浜ではミューズタウンの整備や“風光台”のアパート建設が続くものの、そちらはこれほどの人数は不要である。それで若葉は、彼らにしてもらう作業を探していたので、青葉がスポーツセンターの土地を買ったという話に飛びついたのである。埼玉県熊谷市の郷愁リゾートの開発にも20人ほど行ってもらっていたのだが、津幡町は“福井県と同じ北陸”ということで、人を動かしやすかった。
 
そこで若葉は小浜から30人ほどの職人さんを連れてくることにし、彼らが住む仮設アパート(小浜と同様の1K×10室仕様)を敷地内に念のため4棟設置した。例によってユニットハウスなので現場で部品を組み立てるだけである。
 
ちなみにムーラン建設に入った人には「小浜に定着したいから」入った人と、
「ムーランの社風あるいはオーナーの若葉や播磨工務店の人たちが気に入ったから」入った人とがあり、熊谷や津幡への派遣は後者の人たちが中心である。結果的にこの組には性別の曖昧な人が多い!津幡の現場には仮設トイレもMFN3棟建てたので、萬坊工業の人たちが「Nって何ですか?」と尋ねていた。
 
「男性でも女性でも中性でも無性でも両性でも使っていいトイレですよ」
「最近はなんかそのあたり複雑だよね?」
「ちなみに男性と女性の連れションもOK」
「やってみたい!」
 
ムーラン建設の大矢副社長(実はミューズパーク建設時の自警団団長)もここに泊まり込んで指揮をすることになっている。彼はこの道20年のベテラン職人である。自衛隊出身・元ボクシング選手なので腕力も凄い。玉掛け技術も天才的で若い作業員たちから歓声があがっていた。現場にはこの他に、播磨工務店社員用の仮設住宅1棟(これもムーラン建設で一緒に建てた)、両社の共同建設事務所も建てている。
 
なおムーラン建設はムーランが70%, 播磨工務店が20%, サマーガールズ出版が7%, 小浜市の中山開発が3% の株を所有する会社である。関連企業になっているので連携がやりやすい。
 

ところで、青葉が土地の売買契約をしたのは9月30日で、その日の内に50m臨時プール、体育館、アクアリゾート、と3つに分けて建築確認の申請をしている(アクアリゾートは建てる場所が10m移動したのでその時点でそこだけ修正して出し直した)。その内、まずは条件が最も緩やかな50m臨時プールの建築確認は10月14日(月)、起工式の前に取れた。青葉が播磨工務店の南田社長に伝えると
 
「では起工式の後で池の移動とプールの基礎工事をやりますね」
と言う。
「どのくらいかかりますかね?2ヶ月くらい?」
と青葉が尋ねると
「まあ3日ですね」
と南田社長は答えた。
 
「3日でできるんですか!?」
「できますよ。ですからプール屋さんには、21日の週から作り始めていいと伝えておいてください」
「分かりました」
 
と返事したものの、3日でどうやって仕上げるのさ?と青葉は思った。
 

しかし実際に青葉は10月18日(金)の夕方には南田社長から
「できましたよ」
という連絡を受けた。
 
それで行ってみると、池は移動されていて!その北側に浄水施設が作られており、その浄水施設の北側に幅40m, 長さ80m, 深さ20mほどの穴が掘られていてその底にはコンクリートの基礎らしきものが作られていた。穴の周囲は山留めのような処理がなされていた。浄水施設には福井県の会社のシールが貼られていた。
 
↓池の暫定場所(再掲)

↓最終的な場所予定(再掲)

 
「播磨工務店さんって、動員できる人数が凄いんだろうな、20-30人でなら最低でも1ヶ月かかるだろうし」
などと青葉はそれを見て言っていたが、全然分かっていない!
 
ともかくもそれでヤマハの人たちが10月21日(月)から入り、11月上旬までにFRP製の50mプールは完成。浄水施設を通して水が入れられる状態になった。実際には金沢地方は11月11-20日に断続的に雨が降っており、川の水が増水したので遊水池に結構な水が溜まっていた。それでそこから水を吸い上げて浄水施設に通し、この臨時50mプールにいっぱいの水を溜め、青葉たちが合宿から戻って来る頃には使えるようになっていた。
 
ちなみにこれを水道から溜める場合、“公共の用に供する”プールなら水道局から特例の安い料金で使用することができるのだが、このプールはプライベートプールなので特例が受けられない。個人の家のお風呂と同様の扱いである。つまり川から取水できないと、このプールは水代がかなり高くつくところであった。
 

ヤマハの人たちが11月4日(月)までにプールを設置してくれたので、播磨工務店の人たちは5-6日(火水)に、プールの上に天井を作り(仮設の宿舎などを建てているムーラン建設の人が「階段を付け忘れるなよ」という恐ろしい声を聞いたらしい)、その上に必要な配管などを通した上で鉄製の基盤、土、そしてアスファルト舗装してラインまで引き、駐車場を作ってしまった。
 
ここの駐車場は最終的には関係者(ライブの時は出演者とスタッフ、プロの試合などがある時はそのチーム関係者。また来ないとは思うがVIPなど)用の駐車場になるらしい。駐車場の入口には警備人小屋っぽいものが建っていたが、実は池のそばにあった小屋を移設したものである。中にある取水・放水などの操作卓なども、そのまま移している。ここから遊水池に降りる階段が分岐させて、片方をプールに降りる階段にした。ただし方向音痴の友人が誤って遊水池の方に降りて行くと危険なので、分岐点にはドアを設置し、各々“別のサイズの”電子鍵を開けないと先に進めないようにした。
 
なお、警備員小屋にも太陽光パネルを乗せ、照明程度はこのパネルで取れるようにした。浄水設備は池の周りに暫定的に置いた太陽光パネルの電気で動作する。
 
ここまでが11月6日(水)に出来上がり、その週の内に検査にも合格したらしい。物凄いスピードである。播磨工務店からの引き渡しは青葉が合宿中なので、神谷内さんと幸花が代行してくれた。
 
以上の作業の工賃については千里姉が「5000万円でいい」と言ったので、その通りの額を姉の口座に振り込んだものの(ヤマハへの支払いは別途青葉が直接振り込んだ)、本当に5000万円でできるの?と大いに疑問を感じた。だいたい浄水施設だけで2-3億円しそうである。あるいは差額は千里姉が出してくれるのかも知れない、と青葉は思った。
 

本格的な工事を始める前に“彼岸花の移植”をすることにした。テレビ局で募集したボランティアの人たちにも入ってもらい、植栽の専門家にも来てもらって、旧バッティングセンター近くにあった“黄色い彼岸花”の株を丁寧に掘り返して、いったんプランターに移植した。これは工事の邪魔にならない、敷地南西の外周付近に並べた。
 
ボランティアの一部はその後X町のZZ集会所にも行き、“白い彼岸花”の株を少し分けてもらった。これもプランターに植えてデファイユ津幡の工事の邪魔にならない一帯に置いた。最終的には別の場所から“赤い彼岸花”も分けてもらって、3色の彼岸花が楽しめるようにする予定である。
 
なお、敷地の境界付近には既に防音と境界表示を兼ねた仮設フェンスが建てられている。そのフェンスの傍にプランターを並べた。このフェンスは外周部分の土地購入の契約ができたら10m西へ移動される予定である。それで直植えせずにプランターを使用することにしたのである。
 
むろん今日の作業は全てテレビ局のカメラで撮しており、幸花や明恵に真珠も出て指示をしたり、参加者に飲み物を配ったりしていた。
 
なお、この作業が終わった後、荒廃した旧バッティングセンターは一夜で撤去された!
 

青葉は10月末の短水路日本選手権の後2週間、長野の高原プールで高地合宿をした後、その参加メンバーの大半と一緒に津幡町にできた(作った)ばかりのプライベートプールで夜間練習を重ねつつ、日中は卒論の仕上げに時間を使った。だいたい11月いっぱいで形になったので指導教官と話し合って調整していく。それで12月上旬には完成と言ってもらえたので、印刷・製本して提出した。これで青葉はこの3月で大学を卒業できることがだいたい確定した。
 
しかし本人としてはどうも悔いの残る学生生活だった。霊能者の仕事はほぼ全部断って、学業に専念したかったのだが、冬子からうまく乗せられて楽曲を提供したアクアが売れに売れたので、結果的にその関係で結構な時間を取られた。また、すぐに辞めるつもりだった水泳部をなかなか辞めさせてもらえず、更に3年生になってからは不本意にも(?)日本代表になってしまい、大会や合宿が相次いだ。それでそもそも大学自体に行けない日々が続いた。実際青葉は昨年の春以来、授業には半分くらいしか出席していない。ひたすら日本代表の活動をしていた、ちー姉とかも大学にはほとんど出てないのではという気がした。正直青葉としては何のために学生をしているのか分からない気分だった。
 

2019年1月に小浜に巨大アリーナを建築しようという話が出て来た時、千里2はこれは普通に建設したのでは夏までにとても間に合わない。3年くらい掛かると考え、若葉に話して播磨工務店を投入した。彼らは2月から7月に掛けて全力で仕事をしてくれて、わずか半年で7万人を収容できるシアター・アリーナが完成した。彼らの手助けをして“人間の”工務店や作業者との仲介をしてくれる存在として若葉はムーラン建設を作った。播磨工務店のメンバーの異常な身体能力をムーラン建設のメンバーがうまくオブラートに包んでくれた。
 
9月1日若葉は唐突にシアターを逆向きにすると言い出した。そのためには盛り土をする必要がある。最初は必要な土は買うつもりだった。ところが9月下旬に津幡で大規模な開発をすることになった。ここでは地面を掘って地下にスパを作り込む。それで大量の土砂が出ることになった。
 
それで播磨工務店のメンバーは津幡で出た土砂(というより正確には地面をそのまま崩さずに切り取ったもの)を小浜に運んで盛り土として利用したのである。地面を切り崩さず、そのまま切り取って固まったまま運んだので、小浜側でも物凄くしっかりした盛り土となった。「こんな硬い盛り土って初めて見た」と地元のゼネコン、中山開発(ムーラン建設の株主にも名を連ねる)の技師さんが言っていた。
 
(通常掘った土は圧力から解放されて数倍に膨れる。結果的に密度も数分の1に疎になる)
 
余った土は千里が自己所有する山林に取り敢えず“置いた”のだが、これは本当は違法である。こういう土は土砂災害などを起こしやすいので厳しく規制されている。もっとも彼らの“わざ”なので雨で崩れるようなヘマはやらないとは思う(実際にはすぐ使い道が見つかることになる)。
 
「あの土、最終的にはどうするの?」
と千里(千里2)は南田兄に訊いた。
 
「どこかに小島でも作ろうか?」
「騒ぎになるからやめなさい」
 

《こうちゃん》はその海の上に立ち
「この付近でいいかなあ。噴火させて小島を作るのは」
と呟いた。
 
鱒渕の命を助ける時に虚空にその代償としてどこかに新しい大陸を作ってと言われていた。さすがに冗談だろうと思って放置していたら、取り敢えず島でもいいから作ってと言われたので海底火山を噴火させて作ろうかと、やって来たのである。
 
それで海に潜ろうとしたら、目の前に《りくちゃん》に乗った千里がいるのでギョッとする。
 
「お前は誰の眷属なのか言いなさい」
と千里は言った。
 
「俺は千里の眷属だ」
「だったら噴火は中止」
「ちょっと島でも作ろうと思っただけだよ。ここは航路から離れているから被害が出るとは思えない。日本の領土が増えて排他的経済水域も広がるよ」
「私が生きている限りは私の指示に従ってもらう。私が死んだら早紀ちゃんに従っていいよ」
と千里は言う。
「千里、いつ死ぬの?」
「さあそれは天の思し召し次第だからね。それとも今すぐ私を殺す?」
と千里が言うと《りくちゃん》も戦闘態勢を取る。
 
《こうちゃん》は千里と《りくちゃん》を数秒間見ていたが、やがて言った。
 
「絶対無理。返り討ちに遭う」
「じゃ一緒に帰ろう」
「ああ、そうする」
「それで南田さんたちを手伝って」
「何するの?」
「土運び」
「工事の手伝いか!」
「肝心な時にいちばん力のありそうな人が居ないんだもん」
「それで探しに来たの?」
「あんたの居場所はすぐ分かるからね、8人とも」
「参った参った」
と言って、《こうちゃん》は千里を乗せた《りくちゃん》と一緒に津幡へ帰還した。千里は帰りは《こうちゃん》の方に乗った。
 
「ところで、こうちゃん。私は何番だと思う?」
「え?2番だろ?オーラが凄まじい。六合無しで、千里だけと戦っても負けると思った」
 
千里が瞬嶽の術を繰り出してきたら負けるかも知れない気がした。
 
「ブー。不正解。私は3番だよ」
「馬鹿な。3番がこんなにオーラがある訳ない。かついでないか?」
「なんだ。オーラの量なら・・・ほらこのくらい小さくすれば1番並み」
「ほんとに1番かと思うオーラ量だ」
「今度は大きくしてみせようか?」
と千里は言ったが《こうちゃん》は一瞬考えてから
「いや、やめてくれ」
と言った。
 

青葉の最近の霊能者活動のほとんどを占めているのが“金沢ドイル”としての活動である、9月の番組では、裏磐梯から浄土平、浄土松公園を探訪してその風景を伝えたのと、X町集会所の幽霊の件、津幡町のスポーツセンター計画地での幽霊の件の処理を伝えたのだが、ここで成り行きで青葉はこの土地を買ってしまい“究極の自爆営業”と言われてこの放送内容がyoutubeに(無断)転載されて全国に知れ渡り、そして呆れられた。ここは“エグゼルシス・デ・ファイユ津幡(略してデファイユ津幡)”という名前で体育館、レジャープールとスパ、テニスコート、グラウンド・ゴルフ場などが建設されることになってしまった。ここで体育館の建設費は千里姉と冬子、レジャープールとスパの建設費は山吹若葉が出して、運営も各々でやってくれるのである。青葉はただの地主である。計画があっという間に勝手に進んでしまい、青葉は正直な所、唖然としている。
 
さて12月の放送ネタであるが、番組アシスタントの明恵や友人の真珠が高校時代に所属していたというH高校ミステリー・ハンティング同好会に取材することになった。しかし取材に行って、青葉も幸花も驚いた。
 
「えっと、君たち男の子?女の子?」
と幸花が郷ひろみの曲のタイトルのようなことを尋ねると
「ボクたち男の娘!」
という開き直ったお返事が返ってきた。放課後に取材に行ったので全員体操服を着ていたのだが、体操服姿だと性別の判断に悩むような子ばかりだったのである。正確にはどうもMTFさんが4人とFTMさんが2人の6人による同好会のようである。さすがに放送の時はカットしたものの幸花は
「ミステリー・ハンティング同好会というよりミステリアス・ジェンダー同好会だったりして」
などと発言して、彼ら(彼女ら)も笑っていた。
 
それで彼ら(彼女ら)と一緒に幽霊屋敷を4ヶ所巡ることにしたのである。この手の処理には多分必要になると思い、ちょうど高岡に滞在中だった千里姉(千里1)に打診するとOKということだったので、10月22日(祝)に一緒に幽霊屋敷探訪をすることになった。
 
取材陣は神谷内ディレクター、森下カメラマン、城山ドライバー、金沢ドイル(青葉)、金沢コイル(千里)、皆山幸花レポーター、霊界アシスタント・沢口明恵、霊界サポーター伊勢真珠、それにH高校ミステリーハンティング同好会(以下MH同好会)のメンバー6人と合計13人にも及び、城山さんが運転するマイクロバスでの探訪となった。今回も真珠が参加することになったのはH高校MH同好会のOGだからである(多分OBではなくOGでよい)。ちなみに千里に“金沢コイル”と命名したのは神谷内さんである。千里は『電脳コイルみたい』と面白がっていた。
 
最初に行ったのは金沢市郊外にある家であった。道路沿いに建っているのだが、この家の周辺には他の家が無い。ぽつりと一軒だけ建っている。しかし見た感じ誰も人が住まなくなってから10年以上放置されている感じだ。
 
「確認したんですが、ここ一帯は地目が山林で本来家を建ててはいけない場所なんです。確信犯だったのか、欺されたのかは分かりませんが、取り敢えず違法建築なんですよね」
 
そんなことを言いながら青葉たちがその家に近づいて行くと・・・・目の前でその家が崩壊した。凄い音を立てて崩れて、土埃も物凄い。何人か咳をしている。
 
「建築も手抜き工事だったんじゃない?」
「きっと悪質な業者に欺されて、大枚巻き上げられて、酷い家を売りつけられたんですよ」
「違法建築だから崩す以外の道は無かったですよね」
「というか壊れちゃいましたね」
「結果的には幽霊も退去せざるを得ないのでは?」
「ここはこれでゴーストスポットではなくなるでしょうね」
 
しかし千里姉も大胆なことをする! でもここはこれ以外の処理方法が無かった気がするよ。祓っても祓っても新たなのが寄ってくるもん。
 
目の前で家が崩れたのを見て放置という訳にもいかないので、神谷内さんは警察にも連絡した。やってきた警察もきっと手抜き工事か何かで、先日の大雨で耐久限度を超えたのかも知れないですね、などと言っていた。放置していたら火災とかの原因にもなりかねないので、市役所に連絡してがれき撤去することになると思うと警察の人は言っていた。
 

ここで1時間余分に取ってしまったが、次に行く。次は内灘町の農道沿いにある幽霊屋敷というより廃業したスーパーだった。ここも10年以上放置されている感じだった。
 
「これはなんでこんな所にスーパーを建てたんだろう」
「住宅地からも遠いね」
「ここ車の通行は?」
「この道は知る人ぞ知る抜け道だから、あまり通りませんよ。私はたまに走ることあったけど、めったに対向車を見なかったです」
とドライバーの城山さんが言う。
 
「私たちが前回訪ねた時も、保護者の車2台に分乗してきたんですけど、探訪中1台も車が通りませんでした」
と真珠が言っている。
 
「ここは幽霊というより、夜中になったら、キツネさん、タヌキさんのお祭り会場だろうな」
と千里が言う。
 
「うん。そういう系統。ここは幽霊スポットではなく妖怪スポットですよ」
と青葉も千里の言葉を追認した。
 
「まあ妖怪さんたちも娯楽が必要だろうし放置かな」
「実害は無いでしょうね。夜中ドライブしていたカップルがここの駐車場に駐めて、よからぬことをしようとしていたら妖怪さんたちに覗かれてびっくりするくらいかな」
「そういうカップルくらいしか、こんな所に来る人はないかもね」
「では次行きましょう」
 

ということで、次に来たのは県境を越えて高岡市内の住宅街にある家だった。狭い路地の先にあるので、近くのスーパーでお店に頼んで駐めさせてもらい(後で神谷内さんが飲み物、青葉と千里がアイスを買ってみんなに配った)、そこから撮影機材を手分けして運んでいった。
 
「ここは火事になったら消防車が入れないなあ」
「昔は建てられたんだろうけど、今では再建築不可物件ですね」
 
かなり荒れ果てた家である。近所の主婦っぽい40代の女性が通り掛かったので取材する。
 
「ここ、ネズミとかの住処になってるんじゃないかって近所じゃ噂してるんですけどね。衛生上も良くないし、漏電とかで火事でも起きたら嫌だし、崩して更地とかにして欲しいけど、所有者がよく分からないんですよね。大阪の方に住んで居るとかいう話を聞いたこともあるけど、今更こんな田舎の家には関わり合いになりたくないのかもね」
 
「住んで居るのはネズミだけですか?」
と幸花が訊く。
 
「いやたまに、夜中に2階に灯りが灯っていることあるんですよ。持ち主が来ているとも思えないし、浮浪者でも入り込んでいるんだろうか、なんて話をしていたんですけどね」
 
「それ人間なんでしょうかね?それとも」
と幸花が言ったら
 
「人間じゃなかったらパンダ?」
と主婦は言った。この発言は放送時、大いにウケていた。なぜ唐突にパンダ?
 
「いや、幽霊とかは?」
「ああ、幽霊くらい出てもおかしくないかもね」
 
「お姉さんの見立ては?」
と青葉は千里に訊く。
 
「パンダの幽霊は居ないよ」
「人間の幽霊は?」
「浮遊霊だろうね。地縛霊は感じないもん。ドイルもそう思ったでしょ?」
「まあそんなものだろうね。恨みとかその手の感情は感じられないし。無害だよね?」
「うん、無害。でも確かに衛生上良くないよね」
 
「ここまで荒れてなくても田舎にはこの手の放置物件が多いよね」
「そうそう。都会に出て行った子供たちは、実家の親が死んでも、そこに戻る気は無い。田舎だし売りに出しても誰も買わない。結果的に放置される」
 

そういう訳で、無害なので放置ということで最後の物件に行く。今度は南砺市の住宅街にある物件だった。
 
右隣に空き地があり、その更に右に火事で半焼したままの家があった。
 
「あれ?これはこないだセイタカアワダチソウの焼却から延焼した所では?」
「だね。空き地の黒い燃えた草はたぶんセイタカアワダチソウだよ」
「火もそちらの民家じゃなくて、こちらの幽霊屋敷に延焼すれば良かったのに」
「それなら一石二鳥だったのにね」
 
「でもセイタカアワダチソウは花粉症とは関係無いんだけどね」
と千里は言った。
 
「そうなの?」
と青葉が驚いたように言う。
 
「花粉症を引き起こす植物は、風に乗せて花粉をばらまくタイプの植物で、風媒花と言うんだよ。ところがセイタカアワダチソウは蝶とか蜂とかに花粉を運んでもらう虫媒花だから花粉は飛ばさない」
 
「そうなんだ?」
「花粉を飛ばすのは、セイタカアワダチソウに似ているブタクサだよ。同じような背の高い黄色い花だから勘違いされたのではとも言われる」
 
「それは雑草殲滅隊の人たちに教えてあげたいね」
と神谷内さん。
 
「ええ。可能ならテレビ局で植物学とかの専門家でも呼んで特集でもしてあげてくださいよ」
と千里は言う。
 
「それに今、外来植物で、最も駆除に力を入れたほうがいいのはナガミヒナゲシですよ」
「何それ?」
 
「漢字では長い実の雛の芥子(けし)。細長い実が成って、中にはケシ粒のような種が何万個も入っている。セイタカアワダチソウと同様、周囲の植物の成長を阻害する性質、アレロパシーを持つから農地に入り込むとやっかいな雑草になる。車のタイヤに付着して広まっていると言われる。草刈り機で刈っても、実を付けた後なら、草刈り機の震動で種が飛び散って、翌年はもっとたくさんのナガミヒナゲシが生えてくる」
 
「やっかいだね」
 
「花が咲く前のロゼット状態、つまり葉だけが地面に沿って放射状に広がっている状態の所を駆除する必要がある。花が咲いていたら手で摘み取るのがお勧め。ロゼット状態の物は草刈り機では刈り漏れしやすいから駆除は結構難しい」
と千里は説明する。
 
「ほんとにやっかいそうだ」
 
「そのあたりテレビでぜひ広報してくださいよ」
「それ石崎さんに相談してみるよ」
と神谷内さんは言っていた。
 
青葉は風向きが気になった。
 
「火事があったのって夜中ですよね?」
「そうだけど何か?」
 
「風向きがおかしいです」
と青葉は言った。
 
「現在風は左から右へ吹いています。これは谷風だと思うんです。実際私たち、左手側からここへ上ってきましたよね」
「あ、うん」
「こういう内陸地では、昼間は太陽の光で温められた空気が山の斜面に沿って上昇して谷風となり、夜間は山上で冷えた空気が斜面に沿って下降するので山風になるんです」
と青葉は説明する。
 
「それ海陸風と同じようなものですか?」
と明恵が質問する。昨年やったH高校七不思議の特集では海陸風が謎に絡んでいた。
 
「そうそう。似た原理で起きる。海の近くでは、昼間は海風、夜は陸風になるけど、山間(やまあい)では、昼は谷風で夜は山風なんだよ」
と青葉。
 
「あっ」
と幸花も声を挙げた。
 
「夜間は今とは逆に右手から左手へ風が吹いていると思うんです。だから空き地で焚き火をしたのが、この幽霊屋敷に延焼するなら分かりますけど、向こうの民家へ延焼したというのはおかしいと思います」
 
「それは警察に連絡した方がいい」
と神谷内が言う。
 
青葉は話が通じやすい人として管轄外ではあったが、高岡警察署の旧知の春脇警部補に連絡した。色々な事件でさんざん青葉に手伝ってもらっている春脇はすぐ来てくれた。それで現在の風向きを確認した上で
 
「確かにこれはおかしい。南砺警察署の知り合いに連絡を取るよ」
と言ってくれた。
 
それでこれは再捜査になりそうな雰囲気であった。
 
ちなみに幽霊屋敷自体については
「まあ幽霊は出るでしょうけど無害でしょう」
ということで、取材を終了した。
 

12月16日(月)、デファイユ津幡体育館が竣工。工事を担当した播磨工務店から、工事発注者であり運営者であるサマーフェニックス株式会社(Summer Phoenix Coporation 略称SPC)に引き渡された。この会社は千里と冬子が半々出資した会社で、会長が冬子、社長が千里で2人とも代表取締役であり、同等の権限を持っている。引き渡し式には、冬子が忙しいので、代理の玄子絵菜マネージャーと千里(どの千里かはよく分からない)が来ていた。ここを練習場所として使用する社会人バスケットチーム・女形ズの福石侑香監督以下選手たちも来ていたが、むろん青葉も立ち会った。
 
「物凄い短期間でできあがっちゃったね」
「まあ播磨工務店はいつもこんな感じだね」
 
玄子さんは冬子に報告するのにたくさん写真を撮っていた。この体育館は早速2月のローズ+リリーのツアーで使用することになっているらしい。
 
他には、津幡町の助役さん、地元の報道各社、地下にお店を出すムーランから企画部長(東京和食店店長)前山さん、地下のスポーツクラブ施設に入ってくれることになった大手のアムセル・スポーツクラブの店長予定者さん、なども来ていた。
 
ムーランは別途羽咋市内と高岡市内にも土地を確保して三店循環方式で運営する。つまりどの場所でも和食・中華・洋食の3つが日替わりで楽しめることになる。若葉によれば“加越能三国への出店”ということらしい。
 

12月20日(金)深夜『金沢ドイルの北陸霊界探訪』が放送された。今回の番組構成は前回放送枠に入りきれなかった、立山の浄土沢の景色、浄土山の姿、また福井県の浄土寺川ダムに行った時の様子の放送、H高校ミステリー・ハンティング同好会の子たち(多くの視聴者は女子高生の集団と思ったよう)と一緒に回った幽霊屋敷4軒の探訪の様子、そして最後に着々と建設が進むデファイユ津幡の様子で、池の底さらい、起工式、彼岸花の移植、暫定プールの様子、そして体育館の引き渡しと早速営業開始したムーラン津幡店の様子やムーランのシステムの説明なども放送した。今回も1時間枠での放送である。
 
「ムーランは“トレーラーレストラン”なので毎日違う場所に行きますが、ムーランが出ている所にいけば、どれかのトレーラーが来ています。つまり同じ場所で毎日違うお店が楽しめる訳です」
と言ってムーランの“巡回予定表”を見せる。
 
__ 日月火水木金土
津幡 軽洋和中洋和中
羽咋 洋和中洋和中軽
高岡 和中洋和中軽洋
 
軽食トレーラーは金土日のみの運行で一週間7日が3で割り切れないための穴埋め用である(調理スタッフの休みのため−個々のスタッフはどれかの曜日も休んでいいので週休2日になる)。軽食カーは調理スタッフがおらずレンチン(ノーパン?)・メニュー中心である。
 
「ちなみにスタッフさんは、主として調理系の人はトレーラーと一緒に各地を巡回しますが、フロアスタッフの大半は毎日同じ場所に出勤します。でも日によって着る服が和風・洋風・漢風・カジュアルと4種類変わります」
と言って各々の制服を着た女性スタッフ4人を映す。視聴者からは
「漢服可愛い」
という声が出ていた。中国の服というとチャイナドレスを想像する人が多いが、あれは清国(満州民族)の服であり、本来の中国伝統の服はむしろ日本の振袖などに似ている(多分振袖の元になった服が当時の中国の服の影響を受けている)。
 
暫定プールは青葉をはじめとする水泳日本代表候補のメンツを映したので、トップスイマー用の専用プールなのだろうととった視聴者が多かったようである。春にアクアリゾートが完成すると一般の人が泳げるプールやスパもできるという説明がなされている。
 

最後の5分間を使っていくつか補足説明が行われた。
 
デファイユ津幡の完成予想図なども示して、屋内テニスコート、屋内グラウンド・ゴルフ場などもできること、周回ジョギングコースも作られることが説明される。
 
「ドイルさん、石川ミリオンスターズのためにドーム球場を作る予定は?」
「さすがにそこまではお金が無いです」
「ドーム球場っていくらくらい掛かるんですかね?」
「500億円くらいじゃない?」
「何か大きすぎてピンと来ません」
「アクアのCDが1200円で100万枚売れても12億円です。その売上額の40倍ですね」
「じゃアクアが500回くらいミリオンセラー出したら作れますかね?」
「その5倍でしょうね」
「なんかとてつもない金額だというのが少しだけ分かりました」
 
南砺市の火事現場については、警察の捜査が進み、別途報道されていたのだが、番組でも少し触れた。
 
結局あの火事は雑草殲滅隊が来たのに気づいたあの家の主人が今家が燃えたら延焼と思ってもらえると考え、保険金狙いで自分で火をつけたものと判明。雑草殲滅隊は濡れ衣であったことが分かった。火災保険を払っていた保険会社は当然返還を要求。一方、雑草殲滅隊のツイッター・アカウントは返済は無用だから適当な団体への寄付を求めるという声明を出した。それで本人も火災保険の分は借金返済で消えてしまっていたので、雑草殲滅隊からもらったお金の一部を原資に保険会社に返還、残り4000万円ほどを赤十字に寄付した。なお、本人は現住建築物放火罪(最高刑は死刑)と詐欺罪で逮捕され起訴されて現在は拘置所に入っている。
 
千里が指摘した“セイタカアワダチソウは濡れ衣”という件は、東京の中央局の情報番組で取り上げることを予告。その番組は翌週放送されたが、植物学の専門家・花粉症の専門家を呼んで話を聞くと、ふたりとも「花粉症を起こしているのはセイタカアワダチソウではなく似た植物であるブタクサである」と言明、またナガミヒナゲシの危険性もまさにその通りであるとして注意を促した。
 
この放送の後、また雑草殲滅隊はツイッターで声明を出し、このように述べた。
 
・セイタカアワダチソウは濡れ衣だったとのこと、大変申し訳ない。これまで焼いてきたセイタカアワダチソウの諸君に謝りたい。
 
・我々は今後はブタクサとナガミヒナゲシの殲滅に尽力する。
 
確かに焼いてしまうという手段は、刈り取るのと違って種子を飛散させないし、ロゼットになっている草にも効果的だから、ナガミヒナゲシ対策としては最も強力かも知れない。彼らの手段自体は無茶苦茶だが!
 
そういう訳で雑草殲滅隊のターゲットは変更されたのであった。
 
前頁次頁目次

【春草】(1)