【春練】(1)

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8月23日(木)に盛岡まで行き、文月・彪志と和解した青葉はその日はお食事会(出席者:文月・彪志・千里3・青葉)をしたホテルに彪志と2人で泊まり、翌24日のお昼は彪志の実家に行って一緒にお昼ごはん(ふたりで“上等な”お弁当やお総菜を買って帰った)を食べて、午後は文月と一緒にショッピングなどを楽しみ(この間彪志は放置)、夕方の新幹線で高岡に帰還した。
 
盛岡19:13(はやぶさ38)21:00大宮21:30(かがやき519)23:15富山23:33-23:50高岡
 
むろん大宮までは彪志が同行している。
 
翌日8月25日は、自宅近くの県高岡総合プールで富山県水泳選手権大会が開かれたが、青葉は女子800m,400mメドレーでぶっち切りの優勝、400m自由形でも竹下リルと結構競ったものの、最終的には2秒差を付けて優勝した。200mと200mメドレーは竹下に敗れて2位であった。
 
「青葉ちゃん、ほんと進化した。パンパシフィックで金メダル取った訳だよ」
といづれの競技でも3位に入った宮内さんが言っていた。
 
「友香ちゃんも次はリルちゃんに勝とう」
「なんか才能の差を見せつけられている」
「あの子も来年くらいには日本代表を争うようになるだろうね」
「結局、青葉ちゃん国体には出ないのね?」
「国体選考会の日は代表合宿やってたから」
「そうだったのか!」
 

8月23日の緩菜の出産を機に気力を回復した千里1は毎日常総ラボに出かけて南野鈴子と基礎的な練習を重ねていた。出産の傷も1ヶ月ほどで痛みが少なくなってきた。千里1は毎日搾乳をして、それを《いんちゃん》や《たいちゃん》が緩菜の所に届けていた。美映は初期の段階で何度か搾乳あるいは直接授乳を試みたものの全くお乳が出ないので諦め、冷蔵庫の中にいつの間にか入っている搾乳したお乳を、何の疑問もなく緩菜に飲ませていた。
 
彼女は細かいことは気にしない性格である。
 
《きーちゃん》は千里1が寝ている間に緩菜の所に転送して(あるいは緩菜を千里1の所に転送して)直接授乳をさせていた。それで緩菜は時々母から直接おっぱいをもらっている感覚があるものの、千里1はそのことには気付かなかった。また《きーちゃん》は美映が寝ている間に緩菜を京平の所に転送して兄妹のふれあいを体験させておいた。京平が
「かわいい!」
と言って嬉しそうにしていた。
 
なお、緩菜のお股はその後明確に陰裂が形成されてしまい、実際問題として女の子にしか見えないので、美映はこの子を男児として出生届けを出したことは取り敢えず忘れて!?女の子用のベビー服を買ってきて着せていた。
 

ところで・・・。
 
桃香は2016年11月に、妊娠直後に失職して以来、光熱費は千里が支払い、桃香の生活費は朋子からの仕送りに依存していた。但し実際にこの仕送りの原資は千里が提供していた。千里が直接、生活費を桃香に渡さないようにしたのは、桃香が千里に過度に依存しないようにするためである。
 
しかし千里が2018年3月に結婚したので、光熱費の支払いは桃香が直接するようにし、その分朋子は仕送りを増額した。実際には今まで千里が出していた生活費と光熱費は青葉が肩代わりした。
 
7月4日に信次が亡くなって以来、桃香は千里のことが心配なので週に2度は千葉の川島家に寄っていたのだが、8月24日、千里が突然元気になったのに驚く。
 
「千里どうしたの?」
「私も子供の母親になったから、頑張らなくちゃと思って」
「そうか!」
 
むろん桃香は現在仙台で代理母さんのお腹の中で育っている子供のことだと思っている。
 
「だったら私も少し頑張ろうかな」
 
それで桃香は世田谷区内のケーキ製造会社にパートで勤め始めた。その間、早月(1歳3ヶ月)は託児所に預けておく。
 
もっともパートの給料が手取り10万円くらいなのに託児料は7万円くらいなので差し引き3万という感じで、実際問題として食費にも足りない(3万でやりくりできる人はいるが桃香には無理)。それで結局朋子(実は青葉)に依存する
 
それでも朋子は
「あんたが頑張ろうと思ったのは評価してあげる」
と言っていた。
 

ところで・・・。
 
40 minutesのオーナーは千里なのだが、その千里は“7月に夫が急死して傷心状態”にある、あるいは異説では!?ワールドカップのためずっと合宿したり海外に出たりしている(友人たちの間でも意見が別れる)。どっちみちオーナーの仕事はできない。
 
Rocutesのオーナーは冬子なのだが、彼女は春先から夏場に掛けて、上島先生の代替で大量の曲を書き、激しい疲労で歌唱力まで落ちている状態。とても今バスケットどころではない。
 
江戸娘のオーナーは政子なのだが、本人にそもそも事務能力が無く、これまでも実際には冬子が大半の仕事を代行していた。しかしその冬子が今年は無茶苦茶忙しくてとても手が回らない。
 
ということで実はこの3つのチームのオーナーの業務を6〜7月以降、§§プロのタレントさんたちが代行してくれていた。
 
青葉が空いていれば青葉が代行できたのだが、青葉も超多忙だった。
 

今年もまたお正月の全日本バスケットボール選手権に向けて予選が始まっていたのだが、千葉県予選は早い時期の6月23日〜7月1日に行われ、ローキューツが圧倒的な強さで千葉県代表に選ばれた。この予選は国体選手選考会も兼ねているので、ローキューツのメンバーから6人も国体選手に選ばれた。
 
この時は青葉は合宿中で動けなかったので、結局、品川ありさがオーナーを代行してくれた。彼女は元サッカー選手なので、スポーツチームの統率というので張り切っていた。彼女は身長176cmなので背の高いバスケガールたちの中にいても「背の高いセンターさんですね」と言われる。
 
なお、国体の関東ブロック予選は8月18-19日にひたちなか市で行われ、千葉県代表は初戦で栃木代表に敗れ、本戦出場はならなかった。
 
なお今年、全県代表になるのは少年男子である。
 
さて全日本の東京予選は8月25-26日に行われた。ここで江戸娘のオーナー代行は高崎ひろか、40 minutesのオーナー代行は姫路スピカがやってくれた。両者は決勝戦で激突し、40 minutesが勝ったが、負けた江戸娘の高崎ひろかは泣き出してしまい、選手たちが慰めるなどという一幕もあった。
 
打ち上げは例によって両チーム合同で行われたが、オーナーが未成年なので、アルコール無しということで実施した。
 

8月28日(火).
 
青葉は東京で◇◇テレビの2020年春入社希望者向け、上級セミナーがあるので出かけて行った。半月前のセミナーでは20名参加者がいたのが今回は10名である。半分は振り落とされたようだ。前回青葉に執拗に精神攻撃を掛けていた女性は落ちていた!彼女は他にも数人に同様のことをしていて目に余るので性格的に問題ありとみなされて落とされたのかも知れないという気がした。
 
会社は競争ではなく協同で成り立つので協調性に欠ける人は排除される。
 
セミナーの内容はメニュー的には似ているものの、より高度な思考を要求されるものが多く、青葉にしても他の参加者にしても「あ、そうか」と思う場面が多かったようである。
 
翌日8月29日(水)には今度は大阪のЭЭテレビ(東京の◇◇テレビと同系列)でやはり2020年春入社希望者向けのセミナーが行われた。こちらはニュースの原稿読みより、トークに時間が取られたが、青葉は「みんなすげー」と思った。さすが大阪の局を受けようという人たちだけあり、ユーモアセンスの豊かな人が多かった。東京の◇◇テレビのセミナーに来ていた人も結構いた。
 
私、お笑いセンスが欠如してるとよく言われるからなあと思いながらも頑張ってトークに参加していた。
 

松本花子システムは、7月中に演歌を書くシステム、8月中旬にケイ風の曲を書くシステム、8月末にアイドル歌謡を書くシステムがだいたいできあがり(日々の調整はずっと続けて行く)、9月に入ると自動編曲システムに取りかかった。
 
これは最初に、夏休みの間にイリヤさん、イリヤのお父さんの2A17さんと、鮎川ゆまの3人で話し合いながら試作品を書き、途中から、青葉の親友でプログラミングが得意な奥村春貴(K大学の情報数学コースに在籍中)が加わって、8月中にだいたい形を整える。そして9月に作曲システムの方が一段落して余力の出来た《せいちゃん》と矢島さんが入って、9月中旬にはアイドル歌謡の編曲システムがだいたいできあがった。
 
最初にアイドル歌謡をやったのは《せいちゃん》がアイドル歌謡の作曲システムをやっていたので、脳を切り替えずにそのまま入ることができたからである。
 
なおこの手のシステムには「完成」というものは存在しない。日々改良を続けていくのが宿命である。「だいたいできあがり」というのは、取り敢えず制作者の監視下のもとで運用を始めても差し支えない状態になったことを意味する。
 
そのあたりが、銀行勘定系システムや、販売管理システムのような、古典的なシステムとの大きな違いである。
 

ところで・・・。
 
編曲システムを開発しているイリヤ、2A17、鮎川ゆま、奥村春貴のグループは、東京の大田区に確保した3LDKの賃貸マンション(家賃11万円)で作業を進めていたのだが、作曲システムとの整合性確保のため、北海道の小樽市で作業をしている矢島さんが度々こちらに来訪した。
 
(羽田から近いことから大田区を選んだ)
 
矢島さんが最初にこのグループを見た時言ったのが
 
「性別が分からん」
ということだった。
 
「あら、私は女の子よ」
「私、だいたい男と思われること多いです。男子トイレ入っても何も言われないです」
「私、一応女のつもりですが」
「すみません。女の子の一種と思って下さると助かります」
 
「うーん・・・・男1人、女3人?」
「数え方によっては、男3人、女1人かも」
「戸籍上は男2人・女2人かな」
 
「ブラジャーつけてる人は?」
「多分3人」(イリヤ・2A17・春貴)
「女湯に入れる人は?」
「たぶん2人」(イリヤ・ゆま)
「ホテルのレディスルームに泊まれそうな人は?」
「たぶん3人」(イリヤ・ゆま・春貴)
「女子トイレで悲鳴をあげられない人は?」
「確実に2人」(イリヤ・春貴)
 
「ちなみに、そちらは女性ですか?MTFさんですか?」
と性別がいちばん怪しい50歳くらいの人(2A17)から尋ねられる。
 
「自分でも自信が無い。私、スカートとか1枚も持ってないのよね〜」
と矢島彰子は答えた。
 

なお、情報交換はだいたい週に1回、矢島がこちらに来る週と、2A17さんが小樽に行く週を設定していたが、2A17さんが小樽に行くと、間枝星恵が異様に喜んでいた。
 
「インスタグラムにあげたらダメ?」
「それやると学校首になるから勘弁して」
 
彼女(彼?)は一応学校の教師である。
 
なお2A17(ひまわり女子高2年A組17番)は堂々と性別Fの航空券を使っているし、マイレージカードも女性名義のものを使っているようであるが(女性名義のクレカも持っている)、だいたい搭乗口の所でGHさんが一瞬悩むような顔をするらしい。本当は女子高制服で出歩きたいらしいが
 
「さすがにそれだけはやめろ。警察に通報するぞ」
 
と娘(イリヤ)から言われ禁止されているので、出張の時は普通の女性用ビジネススーツのことが多い。
 
彼(彼女?)は女子トイレを使おうとすると高確率で悲鳴をあげられるので(*1)本人は不本意のようだが、だいたい多目的トイレを使っている。男子トイレに行くと「混んでるからって男便所に来るなよ」と言われるので、多目的トイレの無い所ではトイレに入れずに困るらしい。むろん彼は立っておしっこをすることはできない状態である。本人も「20年以上立ってしたことはない」と言っている。
 
「イリヤ・パパさん、まずは女の声を出せるようになりましょうよ」
「だいぶ練習しているけど、なかなか難しくて」
 

(*1)通報されたこともあるが、自分は性同一性障害であると主張し、ヌードになってみせたら
「ああ、性転換手術なさっているんですね。それならいいです。失礼しました」
といって解放されたらしい。
 
でも手術はしていない!女体偽装しているだけである。
 
ただ、彼は日頃の努力でウェストはくびれているし、体毛もヒゲもレーザー脱毛しているので、肩が張っていることを除けば、充分女らしい体型はキープしている。彼は63cmのスカートが穿ける。むしろヒップが94cmあるので実は男性用のズボンが穿けない。学校で教壇に立つ時のスーツはオーダーである。
 

「しかしまあ、このプロジェクトはそもそも性別の怪しい参加者が多い」
「むしろ全く怪しくない人が居ない気もする」
 
「え〜?私は〜?」
と間枝星恵が言ったが
 
「いや、あんたも充分男らしい」
と2A17から言われていた。
 
「むしろ男の娘だと誤解されるでしょ?」
「それはありますね。あなたなら女子トイレ使ってもいいわよ、とか言われたことあるし」
と星恵。
 
「でも学校で、あの先生ちょっと変じゃない?とか言われたりしないんですか?」
と矢島から訊かれる。
 
「猫かぶってるからね。学校ではいつも男装してるし。眉毛も偽装してるし。でも女先生のお友だちは多いよ」
「やはりね〜」
 
「女生徒からの恋愛相談とかよく受ける」
「信頼されてるんですね〜」
 
「まあ私は男心も女心も理解はするからね。あと若い女先生から化粧品のお勧めを訊かれることもある」
「だいたい性的な指向はバレてるわけだ?」
 
「学校の行事で水着になることはないんですか?」
「あら、私はちゃんと男の水着が着れるわよ」
「女の水着も着れますよね?」
「もちろん。ビキニも5つ持っているし」
「ああ」
 
「でも以前海浜学校をした時は『君は水着にならなくていいから』と教頭から言われて、結局リゾートウェアのままだった。せっかく私の泳ぐところ、生徒に見せてやりたかったのに」
 
「いやそれは教頭先生の判断が正しい」
 
「なぜか女子生徒の宿舎の入口の番をすることになった」
「それは最も適切な人選という気がします」
 

松本花子システムの編曲システムはロジックのバリエーションや使用楽器により、固有名を付けた。
 
Lovely (Yamada-11) 美川月花(責:五島節也)
Cute__ (Yamada-12) 愛野礼奈(責:鮎川ゆま)
HotPop (Yamada-13) 南海妃呂(責:奥村春貴)
PopRock(Yamada-14) 北沢晶菜(責:清原空帆)
Ballade(Yamada-15) 上杉光世(責:イリヤ)
House__(Yamada-16) 下松香澄(責:2A17)
 
Kei電子(Yamada-17) 岡原加奈(責:鮎川ゆま)
Keiアコ(Yamada-18) 岡原世奈(責:イリヤ)
 
演歌旅情(Yamada-19) 立山陽菜(責:五島節也)
演歌都会(Yamada-20) 中島朱美(責:2A17)
 
これを編曲者名としてクレジットする。
 
各パソコンで動いているソフト(Perl)は基本のプログラム(責:矢島彰子)から各々の責任者の感覚と好みによって自由に改造していいことにしている。但し変更内容については必ず矢島さんに報告し、可能な限り共通ルーチンや管理データの変更で対応する。また、バグフィックスの時に各々のブランチに修正漏れが出ないようにするためバージョン管理ソフトを使ってしっかりと管理している。
 

9月5日(水).
 
K大学水泳部のメンバーはインカレ(日本学生選手権水泳競技大会)に出るため、東京に出てきた。今回の会場は横浜国際プールである。今回の遠征メンバーはこのようになっている。
 
女子9名 布恋(4.部長&マネージャー) 青葉(3.部長代行) 杏梨(3) 蒼生恵(3) 希美(2) 百合花(2) 夏鈴(1) 美虹(1) 萌香(1)
男子9名 佐原(4.部長&マネージャー) 中原(3.部長代行) 春貴(3) 邦生(3) 皆橋(2) 裕夢(2) 高岩(1) 蓮沼(1) 小阪(1)
 
これに引率の角光先生と、もうひとりマネージャーとして4年生の幸花の合計20名である。男女とも部長が選手としての参加資格を持っていないので、選手しか入れない場での話し合いなどには各々選手として登録されている青葉と中原さんが部長代行として出て行く。
 
女子はシード権を持っているので団体出場、男子も中部予選で2位になって団体出場の権利を取り、やはり団体で出てくることができた。ちなみにこのメンバー表は女子部長の布恋が書いたものだが、男子の中で苗字ではなく名前になっているのは“女子扱い”の部員で布恋は「女子更衣室使っていいよ」と言っていたが、各々の反応。
 
まずは奥山春貴。
「女子更衣室使わせてもらう。去年は男子更衣室でだいぶトラブった」
「今年はずっと女子更衣室使っているね」
「でもプールに入る時はおっぱい曝さないといけないって可哀相」
「開き直っているから」
 
彼女は男子選手扱いなので、FINAの規定により、公式大会では上半身を覆う水着を着けることができない(市の大会や北陸国立大学の大会などでは特に許可を得てふつうの女子水着を着けて男子の部に出ている)。しかし公式大会では男子水着にならないといけないので、結構発達したバストを曝すことになるし、そもそも女子更衣室でトラブルの元になる(男子更衣室ではもっとトラブる)。
 
それで青葉−千里の仲介で、水着メーカーと相談の上、FINAマークの入った男子用水着と、それと共布で、彼女の身体サイズにピタリ合う上半身パーツを作ってもらったのである。女子更衣室ではこの上下を着た状態に着換える。両者はマジックテープで接続されるので、一体として着脱できる。そしてプールに入る直前に上半身パーツを取り外し、離水したらすぐにそれを着る。
 
そうすることで、彼女のバストはほとんど衆目に曝されずに済むのである。そのような運用をすることで、各々の大会の主宰者の承認を得ており、今回もインカレの運営に文書で承認をもらっている。もっとも男子種目で女子水着を着たままプールサイドまで行くと、知らない選手や観客には結構不審に思われる。(バストもあるし)
 

次いで吉田邦生。
「なんで俺が女子扱いなんですか?俺が女子更衣室に入ったら逮捕されますよ!」
「じゃ男子更衣室でもいいや」
 
そして桜池裕夢は本人が発言する前に百合花が言った。
「裕夢が女子更衣室に入ってきたら、即切り落とすから」
と言って、いきなりペティナイフを取り出す。
 
「ちゃんと男子更衣室に行くよ。姉貴、なんで僕が女子扱いなのさ?」
「そういう発言をスカート穿いて言っても説得力が無い。ついでにユリちゃん、そのナイフ没収」
と言って布恋は百合花のナイフを取り上げた。
 
そういう訳で3人の内、春貴と裕夢は女装である。トイレも裕夢は堂々と女子トイレを使っている。しかも百合花とおししゃべりしながら並んでいる!
 
「あと裕夢と百合花は大会中セックス禁止ね」
「さすがにこんな時にしませんよ!」
と2人は言った。
 

その日は東京江東区のホテルに宿泊する。部屋はだいたいツインでこのようにしている。
 
角光先生・佐原部長/中原・皆橋/春貴・裕夢/邦生・小阪/高岩・蓮沼
布恋・百合花/青葉・杏里/幸花・蒼生恵/希美・夏鈴/美虹・萌香
 
春貴と裕夢を一緒にしているのは女装者同士だからである。実際には春貴はMTFだが裕夢はただの女装趣味であって、女の子になりたい訳では無い。しかし着換える時にお互いに気兼ねが無い。布恋と百合花を同室にしたのは百合花が裕夢と会ったりしないよう監視するためである。女性は8階のレディスフロアなのだが、女装している裕夢はそこに進入しても不審には思われない問題がある。
 

6日は次の連絡で会場まで行く。
 
住吉9:22(半蔵門線)9:50渋谷9:59(東急東横線)10:18日吉10:26(地下鉄グリーンライン)10:35北山田
 
例によって春貴は入場でトラブるが布恋が事情を説明し、ADカードの写真と見比べて通してもらう。春貴は女子更衣室を使ったが、特に問題は無かった。この日は公式練習だけなので、春貴は大会で使用する特殊な水着ではなく、普通の女子用競泳水着を使っていた。
 
一方、裕夢は自粛して中性的な服装をしていたので問題なく入口は通れた。裕夢は男子更衣室を使ったが「へ?」という感じで目をやる人たちが結構いた。一応自粛して男子下着をつけているのだが、それでも体型や髪型、それに雰囲気でけっこう女の子に見えるのである。
 
夏鈴は丸刈りで異彩を放っていたが、入場でも女子更衣室でも特に問題は起きなかった。スポーツ女子にはたまに丸刈りの子がいるので、女子更衣室でもチラ見される程度である。
 
「でも夏鈴ちゃん、日常では結構トラブるでしょ?」
「私ロッカーですーとか言っておくと納得されますよ」
「なるほどー。でも楽器やるの?」
「ベース弾きますよ〜。ドラムスも打てますよ。高校時代はほんとにバンドしてたんですけどね」
「おっ凄い」
「ガールズバンドの大会に出ていった時は、男子メンバーがいる場合、ガールズバンドとは認められないんですけどとか言われました」
「お約束、お約束」
「つまり高校時代も丸刈りだったの〜?」
「水泳部のトップ選手だったから、丸刈りにしてても何も言われなかったです」
「まあ普通は校則違反だな」
 
「大学では水泳少女だけでいきます」
「それもいいよね」
 

この日は練習だけなので、このプールに慣れることを目的として軽く泳ぎ、監督者会議に出る角光先生以外は、すぐに引き上げた。そして江東区に戻ってからは深川アリーナに行き、ここのプールでたっぷり練習させてもらう。
 
ここには以前25m×4コースの小型プールがあったのだが、意外に利用者があるので、25m×8コースのプールに置換し、4コースのプールはサブ体育館の地下に移設した(FRP製なので掘り起こして搬出し、サブ体育館側に埋めた。工事も一週間で済んでいる)。それでこの8コースの方を時々近隣の中学や高校の授業や大会に貸している。実はその貸し賃がかなり美味しく深川アリーナの採算に大きく寄与している。
 
夏の間は8コース、4コース、ともに運用し、9-11,4-6月はメインプールのみ、12-3月はサブプールのみの運用としている。いづれにしても24時間どちらかのプールは使えるようにしているのは“地球を股に掛けて活動している”千里の個人的な都合なのだが、玲央美やローザ、ソフィア、純子など、夜間の常連利用者もいる。
 
今回は9月2日(日)でいったん運用休止する予定だったサブプールを9月9日まで延長運用した上で、メインプールをまるごと5日午後から9日朝までK大に貸すのである。
 
それで昨日も実はホテルに到着した後、ここで練習していた。バスケ関係の利用者はこの期間サブプールを使うので、メインプールはK大で独占して使用できる。こういうのは公共のプールでは考えられないことである。希美や夏鈴などが喜んでたくさん泳いでいた。
 
「24時間使えるって凄いですね」
「まあ私設の体育館ならではだね。基本的には一般に開放していないみたいだし」
「料金とかはどうしたんですか?」
「青葉が個人的に払ったから問題無い」
「へー」
「ここのオーナーがお姉さんだからね」
「あ、そうだったのか」
「実際には47%の株を所有しているらしい」
「すごー!」
「牛丼もおいしかった」
「体育館に牛丼屋さんがあるって面白いね」
「24時間営業だしね」
「牛丼屋さんにケーキが置いてあるのも面白い」
「そのケーキがかなり売れているようだ」
「ピザ頼んでいる子もいたね」
 
ケーキやピザは同じ資本系列の近隣のファミレスから持って来ている。ピザは注文してから配送を頼むので焼きたてが届く。
 
この牛丼屋さんは最初は11-14時、16-21時の営業だったが、練習に来る選手が24時間いるし、近くにマンションやホテルも多く、夜間の利用者が結構いるので24時間営業にしたのである。しかし実は牛丼屋さんのスタッフの中に40 minutesやローキューツのメンバーがおり、夜間はこの子たちが中心に運用していて、お客さんがきたらスタッフ、いない時は練習していたりする。
 
「やりとりしてるの聞いたけど、お姉さんが『じゃ使用料金20億円ね』と言ったら青葉が『じゃ20円振り込んでおくね』と言っていた」
「昔の八百屋さんの大根100万円みたいな話だ」
「本当にいくら払ったのかはよく分からない」
 
なお会場が横浜なのにわざわざ東京都の、しかも東部に宿泊したのは、このプールを使うためである。
 

9月7日(金).
 
競技が開幕する。この日は青葉の出番は無かった!青葉が出場する400mメドレーも800m自由形も明日以降である。今回青葉は400mリレーのメンバーにも入っていない。短距離に強い選手で構成したからである。うちの部も随分層が厚くなったなと青葉は思った。この日の結果は下記である。
 
女子400mレリーのメンバー:杏里(3)→美虹(1)→希美(2)→夏鈴(1)
 
自400 杏里(6) 百合花(11) / 春貴(3) 皆橋(8) 邦生(14)
背200 萌香(7) / 裕夢(7)
平100 美虹(10) / 蓮沼(12)
女子R400 (1) 男子R400 (15)
 
まずは女子400mリレーで金メダル1枚獲得である。春貴も銅メダルを獲得した。彼女は表彰台に昇る時は、上半身パーツも着けた状態で登っていたので、男子の表彰式に1人女子が混じっている感じであった。彼女は実際に競技をする時以外はこの格好で良いことになっている。実際この上半身パーツを着けていなかったらBカップの胸を公衆の前に曝すことになり、風紀上(?)の問題が生じる。
 

2日目。
 
この日青葉は女子800m予選とメドレーリレーに出場した。メドレーリレーのメンバーは萌香(背)→美虹(平)→青葉(B)→希美(F)となっている。
 
女子800mには青葉と百合花が出た。青葉はA決勝に進んだが、百合花は決勝進出ならず。しかし予選成績により12位認定された。女子800m,男子1500mはB決勝を行わず予選タイムで9-16位を認定する。
 
メドレーリレーで男子は予選落ちであった。
 
「17位かぁ。あと少しだったな」
「裕夢がおちんちんとタマタマ取れば体重が軽くなってスピードアップしたかもね」
などと布恋は言っている。
 
「タマタマ取れば筋力落ちるよ〜」
と裕夢。
 
その会話に春貴がドキドキしているような顔をしていた。春貴は去勢手術を受けたのかどうかは聞いていないが、実質去勢状態にはあるようで毎月の男性ホルモン濃度を測定してもらっていると言っていた。
 
IOCの基準では12ヶ月にわたって男性ホルモン濃度が女性並み(*1)であった場合、女子選手として少なくともオリンピックには参加することができる。青葉は、春貴は来年は女子選手としてインカレに参加することになるのではという気がしていた。
 
(*1)正確には血清中の総テストステロンの量が10 nmol/L未満であることが必要。女性の通常値は0.2-3.0 nmol/L, 男性の場合は 7-26 nmol/L 程度なので、この基準はわりと緩い。物理的に去勢しているなら充分クリアするはずである。なおペニスの有無は性判定には関係無い。ペニスが付いているかどうかは些細なことである。実際ペニスが存在することでスピードが速くなるとは考えられない。むしろ水の抵抗を増やすかも!?
 

夕方から決勝が行われ、このような結果になった。
 
自200 希美(2) 夏鈴(3) 杏里(10) / 春貴(7)
女子MR (1)
 
400m自由形で銅メダルを取った春貴は200mでは7位に終わった。やはり短い距離は小さい頃から鍛えていた天才が多いので競争が厳しい。しかも春貴はやはり女性化を進めたことで筋力自体はかなり落ちているようで、その分短い距離で不利になっているようである。
 
女子メドレーリレーは今日も優勝。2つ目の金メダルである。
 
なおこの日の青葉から希美への引き継ぎ時間は、予選で0.12秒、決勝では0.01秒であった。予選で結構な時間の余裕があったので、決勝では心持ち早く飛び込んだと希美は言っていたが、決勝の2位との時間差が0.02秒だったので、希美が予選と同様の感覚で飛び込んでいたら負けていたかも知れない。
 

3日目。
 
400m個人メドレーから始まる。青葉と皆橋君がA決勝へ、蒼生恵と高岩君がB決勝に進出する。その後、100m自由形、100m背泳、200m平泳ぎと予選が行われて、このような結果になる。
 
自100 希美(A) 夏鈴(A) / 小阪(-)
背100 萌香(A) / 裕夢(B)
平200 美虹(A) / 中原(B) 蓮沼(-)
 
その後、男女の800mリレー予選が行われる。この日はこういうオーダーで出て行った。
 
女子R800 青葉→杏里→夏鈴→希美
男子R800 邦生→春貴→高岩→小阪
 
女子はA決勝に進出したが、男子は18位でB決勝にも進出できなかった。
 
「あと少しなんだけどなぁ」
「よし、春貴がちんちんとタマタマ取らないなら、ここは邦生(くにお)ちゃんがちんちんとタマタマを取るということで」
「なんで俺の所に来るんだよ!?」
と吉田邦生(ほうせい)は言う。彼は布恋にすっかり「くにお」ちゃんにされている。
 
なお、これで春貴は出番が終わったので(女子更衣室で)普通の女子水着に着換えた上で、その後は女子の控えエリアに来ていた。
 
K大は男女とも団体出場してはいるが、女子はシード校なのでわりと良い場所。男子は中部予選を勝ち上がってきたので、端の方である。もっともお昼の時は裕夢と邦生も男子の方から女子の方に来て、一緒にお弁当を食べていた。
 

14:30から決勝が始まるが先頭は青葉が出る女子800m自由形である。あちこちの大会で顔を合わせている南野さんと永井さんもいる。永井さんは今年日本代表としてパンパシフィックとアジア大会に出ているが、パンパシフィックでは800m,1500mどちらでも青葉の方が上を行っている。当然彼女はリベンジに燃えていた。その彼女がスタートしてすぐに飛び出す。かなりのハイペースで泳いでいくが青葉は放置した。南野さんと呼吸を伺うようにしてほぼ並んで、マイペースで泳いでいく。
 
案の定、600mまで行った所で永井さんは突然ペースが落ち、700mの所で南野さんと青葉が追い抜いた。
 
結局青葉と南野さんの勝負になる。ふたりはラストスパートを掛けてかなりのハイペースで泳ぐ。ふたりともここまで充分にエネルギーを貯めていたのである。
 
そしてほとんど並んだままゴールにタッチ。時計を見る。
 
1.Kawakami 8.12.67 TR
2.Minamino 8.12.69
3.Nagai___ 8:28.99
 
大会記録を更新したが、この種目、日本記録は先日のパンパシフィックでジャネが出した8:09.37である。それには全く及ばないものの好記録だ。青葉は南野さんと握手をした。
 
「青葉ちゃん、だいぶタッチが巧くなったね!」
「うん。去年のタッチ技術なら、負けてた」
 

男子1500m決勝をやっている間、青葉は束の間の仮眠をしていた。10分くらい寝てから表彰式に臨み、表彰台の一番高い所で金メダルを掛けてもらった。その後、すぐ400mメドレーの集合場所に向かう。昨年は800m決勝の後ドーピング検査されたために400mメドレーのエントリーに遅れたのだが、今年はメドレーが終わってから検査お願いしますと言われている。なお800mの金メダルはマネージャーの幸花に預かってもらった。
 
女子400mメドレーB決勝では蒼生恵は10位になった。青葉たちA決勝の出場者がひとりずつ呼ばれてプールに入場し、飛び込み台に立つ。ブザーが鳴ると同時に飛び込む。
 
最初はバタフライ。ここではそんなに差が出ない。1往復してきてから背泳になる。ここでかなりばらけ始める。青葉はまだ体力をセーブしていた。次は平泳ぎになるが、青葉は元々「抜き手」の泳ぎ手だったので、平泳ぎも実はかなり速い。ここでもう青葉はトップに立ってしまった。
 
そして最後は自由形であるが、ここで青葉は疲れが出てきている他の泳者をぐいぐい引き離す。そしてぶっち切りでゴールにタッチした。やがて他の泳者もゴールして、タイムが出る。
 
1.Kawakami_ 4:30.89 TR
2.Makihara_ 4:42.23
3.Ishibashi 4:43.18
 
青葉は軽くガッツポーズをする。これで個人種目2つとも金メダルである。
 

表彰式を終えてから金メダルをまた幸花に預かってもらい、ドーピング検査に行く。例によって、ほぼ裸になり、検査官が見ている前でおしっこをする。
 
「でもこれ毎日何人も検査している検査官の方にも同情します」
「いや、最初の頃は、かなり心理的な抵抗ありましたよ」
と係の人も言っていた。
 
この後の競技の結果はこのようになった。
 
男子400mメドレー 皆橋(5) 高岩(13)
100m自由形 夏鈴(3) 希美(4) /
100m背泳ぎ 萌香(3) / 裕夢(10)
200m平泳ぎ 美虹(6) / 中原(10)
 
夏鈴は200mも100mも銅メダルである。希美は200mでは銀メダルだったが100mではメダルを逃した。実際、夏鈴は短距離に強く、希美は中距離に強いのである。それで400mリレーでは夏鈴がアンカーを務め、800mリレーでは希美がアンカーを務めることになった。
 
17:26. 女子800mリレーの決勝である。この後は男子800mリレーがあって大会は終了する。
 
ブザーが鳴って第1泳者の青葉が飛び込む。青葉は本来は長距離の泳者だが、ここはこの200mに全力を投入する。各校一番速い人は最後に置いている関係もあり、ここで青葉はいきなりトップに立った。2位にかなりの差を付けてタッチ。杏里が飛び込む。
 
杏里は中距離が得意な泳者である。今回個人種目では400mで6位、200mで10位だった。しかしもっと速い人たちは後ろの方で出てくる。それで杏里は2位との差をもっと広げて独走態勢である。
 
夏鈴が飛び込む。夏鈴は100m,200mで銅メダルを取っているが、結局彼女より速い2人はどちらも最終泳者である。ということで、ここでも他の学校にどんどん差を付けていく。それで結局10mくらい差を付けてタッチ。
 
アンカーの希美が飛び込む。彼女は200mで銀メダルを取っている。つまり彼女より速い人は1人しか居ない。その人が所属する学校が2位だが、こちらが遅いといっても、ここまでに付いていた差があまりにも大きすぎた。必死で向こうが追いすがり、距離はどんどん縮まっていったものの、最後は逃げ切りで希美がトップでゴールした。
 
結果的には圧勝で金メダルを獲得した。
 

男子のリレーが終わった後表彰式となり、青葉たちは4人で並んで表彰台のいちばん高い所に登り、みんな金メダルを掛けてもらう。肩を組んで記念写真を撮ってもらった。
 
各校の得点が発表される。K大は男子は108点で12位。女子は250点で6位。女子は昨年と同じ順位でシード権再獲得。男子はシード権取れず。しかし初の団体出場で大健闘であった。(団体出場しているのは男子21校・女子22校)
 

大会が終わったのが18:45である。すぐにも移動しないと今日中に金沢に辿り着けないので打ち上げは列車内で“あまり騒がずに”ということにする。
 
北山田18:57(グリーンライン)19:07日吉19:13(東急)19:35目黒
 
ここで目黒駅の駅ビル(アトレ目黒)で食糧とジュース・お茶などを買う(学生なのでアルコール類は自粛)。それから東京駅に移動して新幹線に乗った。
 
目黒20:23(山手線)20:49東京21:04(かがやき519)23:35金沢
 
青葉は自分のMarch NISMO S を時計台駐車場に駐めていたので、それで帰宅するが、ついでに数人の女子を自宅まで送り届けてから高岡に帰った。
 

9月12日、月山淳が国内の病院で性転換手術を受けて女性に生まれ変わった。これで“クロスロード”の初期メンバーでまだ女性の身体になっていないのは浜田あきらだけとなったが、あきらも今年末には手術を受ける予定である。それで初期メンバーから「おちんちんが消滅」することになる。
 
淳は1981年6月17日今治市生まれで東京の大学を出た後、2004年に都内のソフトハウスに務め、2011年東日本大震災の直前に工藤和実と出会った。ふたりは震災のボランティア活動を通して親密な関係になって行き、双方の親にも認められて、2012年春頃からは事実上の夫婦関係になった。その年の夏には和実が性転換手術を受けて戸籍を女性に変更。また淳も実質女性社員扱いになってしまい女装で勤務するようになる。2015年6月、ふたりは結婚式を挙げ、戸籍上も夫婦となった。そして今回淳も性転換手術を受けたことで、知り合った時は男同士だったのが、女同士になってしまった。
 

今回は9月11日(火)に新幹線で富山県に来て入院。検査を受けた後、翌9月12日(水)に性転換手術を受けた。青葉がうまい具合に高岡にいたので手術後たっぷりとヒーリングをしてあげた。それで、随分痛みも少なくて済んだようである。
 
彼女は最後までヴァギナを造る本格性転換手術をするか、造らない簡易性転換でいいか悩んだ。
 
和実との結婚生活を続ける限り、お互いにペニスが無いのでヴァギナを使うことはない。だから不要という気もしたのだが、和実が「ヴァギナはあって困ることはないけど、無くて困ることはある」と言ったのできちんと造ることにした。
 
しかしこのヴァギナを造る部分がいちばん痛いのである。何しろ身体に直径5cm,長さ12cmくらいの穴を開けるのだから大変である。
 
そして手術の後、あまりの痛さに本格式を選んだことを少し後悔したのだが、「痛みは一時的なもので、歓びの方がずっと大きい」と言われて、前向きの気持ちになった。
 

「淳さん、いつ性別変更の申請するの?」
「いや、私は変更しない」
「なんで?」
「戸籍上男女でないと、和実との婚姻を維持できないから」
「あ、そうか!」
「でもそれだと色々揉めない?」
「我慢する」
「でもそもそも女同士で夫婦関係を維持できるんだっけ?」
「私たちレスビアンだし」
「それどちらが男役なの?」
「私たちは男役とか女役というのは無い。***使ってヴァギナに入れたりはしないよ」
「うん。私たちは基本的にトリバディズム」
「へー!」
 
「私たち初期の頃からレスビアンだったしね」
とふたりは言っていた。
 
和実は“タック”の達人で、いつも女性股間を偽装していたので、実際問題として淳は和実の男性器を見たことが無い。和実に教えられて淳もいつもタックしておくようになったので、ふたりはどちらも女性のような形の股間になっており、結果的にずっとレスビアンセックスしていたのである。
 
「男女型のセックスって何度かしかしてないよね」
「でも淳の性転換手術の前日には男女型でやったんだよ」
「淳さん立ったの?」
「立った。びっくりした」
「4年ぶりとか言ってたね」
「うん。立たないようになってから久しかった」
「きっと明日は切られてしまうというので、立ったんだよ」
 
「ああ、それは分かる」
 
男性時代、自分の男性器が切られることを想像すると性的に興奮していたという経験のある子はわりと多い。ただそこで、性的に興奮するのが目的になる子と本当に切って欲しいと思う子で、人生の歩み方は全く異なることになる。
 

ちょうどクロスロードのメンツがお見舞いに来て淳をからかっていた時に、淳の元同僚の女性・掛尾芹奈(旧姓光岡)さんがお見舞いに来た。そして実は淳が入社当時は“女性社員”だったことを暴露してしまう。
 
「ほら、当時の名刺」
と言って掛尾さんが見せた名刺には
 
《システム部第1システム課システムエンジニア・月山淳子》
 
と書かれている。
 
「おぉぉぉ!!」
 
「そうか。淳って2012年に女性社員扱いになったと言ってたけど、実は最初から女性社員だったのね」
 
「ちがーう。入社当時のは誤解されていただけで、その後はずっと男性社員だったんだよ」
 
「誤解ではなく正しく理解されているのではないかと」
「だいたい淳ちゃん、最初から女子更衣室使っていたし」
「え〜〜〜!?」
「もしそれで自分は男だというのなら、痴漢の重罪犯だ」
 
そんなことを言って淳をからかっていたら、淳が和実に反撃する。
 
「和実もそろそろ正直に告白すべきだよね」
「告白って?」
「和実って、男の娘だったなんてのは嘘で、きっと最初から女の子だったに違い無い」
 
「そんなことないよー」
 
「だって私、和実のおちんちん一度も見たことないもん」
と淳は言う。
 
「ああ、それは怪しいと思っていた」
 
「きっと和実は妊娠可能だね」
「あり得るあり得る」
 
と、この時はみんなジョークで言っていたのであった。
 

淳は結局、1週間入院して、9月19日(水)に退院した。そして仙台の和実の家でしばらく療養することにした。一応会社の方は、年内は休職させてもらえることになっている。
 
仙台に移動してからも、青葉がずっとリモートでヒーリングしてくれるので少しずつ楽になっていった。あらためて、おちんちんが無くなり、かわりに縦のスリットができている自分のお股を見ると、半分は「やっちまったな」という気分、半分は「これが自分のものだなんて信じられない」という気分である。そしてずっと身体に付いているのが嫌だったペニスが無くなったことで何だかホッとするような気持ちであった。和実は自分が性転換手術を受けたあと淳に
 
「ほら、ボクのお股こうなったんだよ。いいでしょ?淳も早く手術しちゃいなよ」
「要らないおちんちんはさっさと取っちゃって、すっきりとしたお股になろうよ」
「お股の形はこうあるべきなんだよ。淳のお股、変なのが付いてておかしいよ」
「おちんちんの付いたOLなんて変。OLなら、おちんちんがあってはいけないんだよ」
 
などと、散々言葉責めしていたのである。
 
また和実はしばしば淳のお股を剃毛し、おちんちんの根本をアルコールで消毒して、手術用のメスを突きつけては「切り落としてあげようか?」と言って、淳の(切って欲しいという)懇願するような表情を楽しんでいたし、時々本当に少し切っちゃうこともあったので、実は傷跡が残っていて、松井先生から
 
「あんたこれ、自分で切り落とそうとした時のためらい傷?」
などと言われていた。
 

2018年9月15日(土).
 
全国3箇所で全日本バスケットボール選手権の一次ラウンドがおこなわれた。
 
東京代表の40 minutes, 千葉代表のRocutesはいづれも1回戦・2回戦を勝ってブロック優勝。2次ラウンドに進出した。40 minutesオーナー代行の姫路スピカ、Rocutesオーナー代行の品川ありさ、ともに大喜びであった。2次ラウンドは12月に行われる。
 
なお、東京都予選で敗れた江戸娘のメンバーたちもオーナー代行の高崎ひろかに率いられて?観戦に来て、声援を送っていた。
 
なお、§§プロの歌手たちは、実は春以降、歌うべき曲がなかなかもらえずに困っていたのだが、松本花子システムがアイドル歌謡の生産を始めると、優先的に(実は実地テストを兼ねている:不具合があった時、身内に近い彼女たちの制作でなら調整がしやすい)曲をもらうことができて、秋に一斉にCDを発売した。
 

9月18日(火).
 
青葉は東京の◇◇テレビで面接に臨んだ。今週面接をするという話は聞いていたのだが、日時は直前に電話があって予定を確認され、それでこの日を指定された。何人か来ているのかなと思ったが、そうではないようである。恐らく全員別の日時が指定されているのだろう。テレビ局の重役さんたちがずらっと並ぶ中で1人椅子に座らされ、いろいろ質問された。顔見知りの響原取締役もいたが、彼は質問しなかった。
 
これどうかした子ならこんなお偉いさんが並んでいるだけでビビるかも知れないなあなどとも思ったが、面接は和気藹々と進んだ。
 
翌19日は大阪でЭЭテレビの上級セミナーに出席した。前回のセミナーの時から来ている人が半分くらいになっている。正直前回は他の人たちのユーモアセンスや機転などに驚嘆していたので、自分は落ちるだろうと思っていた。それで上級セミナーに入れられたこと自体に驚いた。
 
今回はなんと大喜利をやらされたが、青葉は面白かろうと面白くなかろうと、とにかく即答!というので積極的に解答した。
 
更に翌9月20日(木)は名古屋のЧЧテレビのセミナーに参加した。ここにもやはり東京や大阪で見た人が来ている。おそらくは自分も含めてこの人たちは◇◇テレビ系列に的を絞った人たちだろうと思った。その中で東京局に落ちた人で大阪を争い、大阪に落ちた人で名古屋を争いという形になっていくのだろう。
 

9月29日(土).
 
今年の大阪実業団バスケットボールリーグが開幕した。貴司たちのチームは昨年1部で最下位になり、2部に転落したのだが、この日は2部で昨年6位になったチームとの試合であった。
 
絶対に落としてはいけない試合だったのだが、選手たちにやる気が感じられず無気力なプレイが続出する。それでまさかのダブルスコアで負けてしまった。
 
選手兼監督の貴司はどうやったらこのチームを立て直せるのか、答えが見い出せなかった。
 

2018年10月7日。
 
信次の百箇日法要が行われた。この日出席したのは、康子、太一夫妻と翔和、千里と桃香、青葉と彪志、小林成政(康子の実兄)夫妻の10人である。
 
そしてこの後、桃香は千里をしばらく自分のアパートに置きたいと言い、最近かなり千里が元気になっていることもあって、康子はそれを承認した。
 
実際問題として太一の所に孫が生まれたこともあり、康子の関心の大半が翔和に移っている面もあった。最近はすっかり“おばあちゃん”である。
 
それで千里は身の回りの荷物だけ持って桃香のアパートに転がり込んだ。そして千里がアパートに居てくれると、桃香は早月を託児所に預けずに千里に託して働きに出ることができるので助かった。
 
しかし実際には千里は早月を連れて常総ラボに行き、ここに持ち込んだベビーバリアの中で早月を遊ばせておいて、自分はひたすらシュート練習や南野鈴子とのパス練習やマッチング練習をしていたのである。ベビーバリアはボール避けにもなるが、早月はけっこう千里の練習を楽しそうに見ていた。自分でも何かしたがっていたので、小さなオモチャのバスケットボールを渡し、オモチャのゴールを置いてあげたら、楽しそうにボールを放り込んで遊んでいた。また千里がシュート練習をしている間は、南野鈴子が早月と遊んだりしてくれていた。
 

10月中旬、千里が常総ラボで練習をしていたら電話が掛かってくる。Jソフトの山口龍晴社長であった。
 
「川島君、東京に戻ってきたんだって?」
「あ、はい。今、友人の家に居候しているのですが」
「こちらに戻ってきているのなら、ちょっとうちの仕事してくれない?設計をする人の頭数が足りなくて」
 
あの会社は人の入れ替わりが激しいからなあと思う。
 
「すみませーん。ちょっと時間が取れないです。それに私、たくさん退職金頂いたのに、今更出戻りなんてできません」
「もちろん退職金返せなんて言わないよ。パートでもいいからさあ」
 
こういう話に千里2や千里3ならきれいに断るのだが、千里1は受け身で押しに弱い。それで曖昧な返事をしてしまう。そして
 
「私、どうしよう?」
と悩むように呟いた。
 
「うーん・・・」
と《すーちゃん》は悩んだ。
 

「どうも千里1はそのあたりが気弱すぎる」
と話を聞いた《せいちゃん》は言う。
 
「青龍が千里に変装して断りに行ってくる?」
と《きーちゃん》が言う。
 
「あ、いや。ひとり俺の知り合いで、プログラムは組めるけど、システムの設計はあまり経験が無い奴がいて、少し勉強したいと言っていたんだよ。そいつに行かせたらどうだろう?」
 
「そういう子がいるのなら、させるのも手だね」
「少々設計が下手でも、まだ精神的に回復していないせいだろうと思ってもらえる」
「確かに確かに。じゃ、その子に千里の振りをして行かせようよ」
 
「ただひとつ問題があるんだけどね」
「なに?」
「そいつ男なんだよね」
 
「そのくらい女装させればいい」
と《きーちゃん》と《すーちゃん》は同時に言った。
 
「性転換させてもいいが」
「さすがにあいつはまだ男辞めたくないと思う」
 

それでその日《せいちゃん》と《きーちゃん》にうまくノセられた《じゃくちゃん》は女性用ビジネススーツ(でもズボンにしてもらった)を身につけ、お化粧をしてJソフトに出社した。
 
「すみません。送別会までして頂いたのに、戻ってきました。お世話になります」
と言って、彼はぺこりと頭を下げる。
 
彼は昨夜足や脇の毛を剃られ、今朝は女物の下着を着けさせられたが、パンティを穿いた所で立ってしまいどうにもならない。「ちょっと抜いてこい」と言われて処理してきた所でやっとパンティを穿かされガードルで押さえさせたが、「痛いよぉ」と言っていた。
 
「性転換手術を受ければ痛くなくなると思うが」
「それは勘弁してください」
「女性ホルモンを摂ると立たなくなるが」
「まだ男を廃業したくないです」
 
それでこれから年末まで彼が千里に代わってJソフトに務めたのである。
 
しかし彼は女装も初体験だし、ましてやそれで人前に出るなど全く未経験のことで、日に3回くらい自分の興奮を鎮める作業が必要だったらしい。
 
「やはり睾丸を抜いた方がいいな」
「助けて〜〜!」
 

2018年10月13日、フランスでLFBが始まり、キュー(千里2)は元気にフランスのコートの上を走り回った。
 
10月19日、日本ではWリーグが始まり、千里3はレッドインパルスの一員として今年も活発なプレイをした。
 
そして千里1(川島十里)は《すーちゃん》に励まされて、久しぶりにレッドインパルス2軍の練習場に姿を見せた。
 
「すみません。こちらで午前中練習させてください」
「OKOK。ここに出てくるまで気力が回復したんだね?」
と2軍の山笠コーチは言った。
 
この日の練習で“川島十里”は2軍の選手たちを圧倒した。
 
「今すぐ1軍に行ってもいい感じだ」
とみんなから言われていた。
 
この後、千里1は午前中は横浜の2軍練習場に行き、午後から常総ラボで練習するようになる。そして夜間は編曲作業に従事したが、実はこれは松本花子が生み出した曲の編曲の仕事であった。それで千里1は3ヶ月ぶりに音楽活動に復帰したのである。
 
なお、千里が横浜の2軍練習場に行っている間、早月は《すーちゃん》が見ていてくれた。
 
 
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【春練】(1)